説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置

【課題】圧電素子を補強部材の穴部に挿入する際に、穴間の隔壁が圧電素子と接触してしまうことを防止できる液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置を提供することにある。
【解決手段】圧電素子群の複数の圧電素子が1つの挿通口40を挿通するようにした。これにより、例えば、補強部材に複数の挿通口を形成し、各圧電素子が別々の挿通口を設けた場合に比べると、アクチュエータユニットを挿通口40に挿入する際に、圧電素子の先端が挿通口間の隔壁に接触し、不良となることを防止できる。また、隔壁が無いことにより、圧電素子群45を高密度に配置しても、挿入を容易に行える。従って、アクチュエータユニット46を挿入する際の不良を防止でき、さらに圧電素子を高密度に配置しても挿入を容易に行える。その結果、記録ヘッド14の組立を容易に行うことができ、さらに、プリンター1の解像度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子などの圧力発生手段により、圧力発生室の容積を変化させ、ノズル開口から液体を吐出させる液体噴射ヘッドが知られている(例えば、特許文献1参照)。
液体の流路は一枚以上の薄板を接合して形成する。例えば、ノズル開口を有するノズルプレート、圧力発生室が形成されたチャンバプレートおよび共通液体通路と圧力発生室とを連結して圧力発生室への液体流入を制御するリストリクタを形成したリストリクタプレートを位置決めして接合する。
次に、圧電素子の圧力を圧力発生室に伝えるための振動板と、振動板の振動領域を規定する穴部を有するサポート部としてのサポートプレートとを位置決めして接合する。これらの薄板を貼り合わせることで流路形成基板が形成される。流路形成基板に、共通液体通路を形成したケースを同じように位置決めして接合する。
最後に、複数の圧電素子とそれを固定する固定板からなるアクチュエータユニットを位置決めして接合する。アクチュエータユニットは複数の圧電素子からなり、各々の圧電素子は圧力発生室の一つずつに対応するようになっている。各圧電素子は個別電極及び裏側に共通電極が接続されており、個別電極に選択的な電気信号を加えることで、圧電素子を変形させる。圧電素子の変形が振動板を介し圧力発生室に伝わり、液体はノズル開口から液滴として吐出される。
また、サポート部より高剛性の補強部材を、サポート部とケースとの間に少なくとも1枚以上配置し、圧電素子間の接着剤を介したクロストークを抑制させたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4396349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の液体噴射ヘッドでは、圧電素子が挿入される穴部を素子毎に設けているため、穴部間の隔壁が圧電素子と接触してしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例に係る液体噴射ヘッドは、圧電素子の圧力を圧力発生室に伝えるための振動板と、共通液体室から前記圧力発生室を通ってノズル開口に連通する液体流路を有するキャビティユニットと、複数の前記圧電素子を含む圧電素子群及び該圧電素子群を支持する固定板を有するアクチュエータユニットと、該アクチュエータユニットが収納される収納空部を有するケースとを備えた液体噴射ヘッドであって、前記圧力発生室に対向する部分に一つの穴部が形成され、前記ケースよりも高い剛性により前記キャビティユニットと前記ケースとを補強する補強部材を備え、前記アクチュエータユニットの前記圧電素子群に含まれる各圧電素子の一端が、前記補強部材の前記穴部に挿通され、前記振動板に固定されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【0007】
本適用例によれば、圧電素子群すべてを挿入できる一つの穴部を設けたことにより、アクチュエータユニットを挿入する際に、隔壁に接触し、不良となることを防止できる。また、隔壁が無いことにより、圧電素子群を高密度に配置しても、挿入を容易に行える。従って、アクチュエータユニットを挿入する際の不良を防止でき、さらに圧電素子を高密度に配置しても挿入を容易に行える液体噴射ヘッドを提供できる。
【0008】
[適用例2]上記に記載の液体噴射ヘッドを備えていることを特徴とする液体噴射装置。
【0009】
本適用例によれば、前述の効果を達成できる液体噴射装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】プリンターの斜視図。
【図2】記録ヘッドユニットの分解斜視図。
【図3】記録ヘッドユニットの平面図。
【図4】(a)は記録ヘッドユニットの正面図、(b)は記録ヘッドユニットの底面図、(c)は記録ヘッドユニットの側面図。
【図5】図3におけるA−A線の断面図。
【図6】図4におけるB−B線の断面図。
【図7】図4におけるC−C線の断面図。
【図8】図5における領域Dの拡大図。
【図9】図7における領域Eの拡大図。
【図10】記録ヘッドの構成をより簡略化して要部を拡大した断面図。
【図11】記録ヘッドの製造方法を説明する図であり、(a)は正面図、(b)はF−F線から見た図、(c)はG−G線から見た図。
【図12】キャビティユニットを固定した補強部材にアクチュエータユニットを装着した状態図であり、(a)は平面図、(b)はH−H線の断面図。
【図13】キャビティユニットおよびアクチュエータユニットを固定した補強部材にケースを装着した状態図であり、(a)は平面図、(b)はI−I線の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳しく説明する。なお、以下の各図においては、各層や各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各層や各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。また、以下においては、液体噴射装置として、図1に示すインクジェット式記録装置(以下、単にプリンター1という)を例示する。
【0012】
図1において、プリンター1は、液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッドユニット(以下、単に記録ヘッドユニット2という)が取り付けられると共に、記録ヘッドユニット2とインクカートリッジ3とから構成されるキャリッジ4、記録ヘッドユニット2の下方に配設されたプラテン5、キャリッジ4を記録紙6(ノズル開口37から噴射された液体が着弾する着弾対象の一種)の紙幅方向に移動させるキャリッジ移動機構7、紙幅方向に直交する方向である紙送り方向に記録紙6を搬送する紙送り機構8等を備えて概略構成されている。
ここで、紙幅方向とは、主走査方向(記録ヘッドユニット2の往復移動方向)であり、紙送り方向とは、副走査方向(即ち、記録ヘッドユニット2の走査方向に直交する方向)である。
【0013】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出され、検出信号が位置情報として制御部(図示せず)に送信される。これにより、制御部はこのリニアエンコーダー10からの位置情報に基づいてキャリッジ4(記録ヘッドユニット2)の走査位置を認識しながら、記録ヘッドユニット2による記録動作(噴射動作)等を制御することができる。
【0014】
次に記録ヘッドユニット2について説明する。図2は、記録ヘッドユニット2の分解斜視図、図3は、記録ヘッドユニット2の平面図、図4(a)は、記録ヘッドユニット2の正面図、図4(b)は、記録ヘッドユニット2の底面図、図4(c)は、記録ヘッドユニット2の側面図である。また、図5は、図3におけるA−A線の断面図、図6は、図4におけるB−B線の断面図、図7は、図4におけるC−C線の断面図である。
図1において、記録ヘッドユニット2は、キャリッジ4の下側(記録動作時の記録紙6側)の部分を構成しており、上部にはインク(液体の一種)を貯留したインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられている。
また、記録ヘッドユニット2は、図2に示すように、図1に示したインクカートリッジ3が取り付けられる架台12と、架台12の下部に備えられた回路基板13と、回路基板13を挟んで架台12の下方(インクカートリッジ3とは反対側)に取り付けられる記録ヘッド14と、記録ヘッド14を保護するヘッドカバー15とから構成されている。
【0015】
架台12は、記録ヘッドユニット2の上部を構成する部材である。実施形態の架台12は、インクカートリッジ3からインクを導入するインク導入部材17と、インク導入部材17の下部に装着される環状のシール部材18と、シール部材18の内側に配置される接続流路部材19と、接続流路部材19の下部に装着される複数のフィルター20と、これらのフィルター20を挟んで接続流路部材19の下方に取り付けられる上流基礎部材21とから構成されている。
【0016】
インク導入部材17は、上面に複数のインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるインクカートリッジ装着部22を備えている。このインクカートリッジ装着部22の底部上面には、装着される各インクカートリッジ3に対応して複数のインク導入針23が形成されている。実施形態では、4色のインク(例えば、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインク)に対応して、4本のインク導入針23が列設されている(図2等参照)。
インク導入針23の内部には流路が形成されており、当該流路はインク導入流路24の一部として機能する(図5等参照)。そして、インク導入針23をインクカートリッジ3に挿入することで、インク導入流路24とインクカートリッジ3内部とを連通することができる。これにより、記録ヘッドユニット2内にインクを導入することができる。また、インク導入流路24の下端部は、インク導入部材17の下側に接合される接続流路部材19に形成された中間流路27(後述)に連通可能に形成されている。
【0017】
シール部材18は、内面が接続流路部材19の外周に沿うように環状に形成された、樹脂等から成る弾性部材である。このシール部材18は、インク導入部材17と上流基礎部材21の間に挟まれ、同様にインク導入部材17と上流基礎部材21の間に挟まれる接続流路部材19の周囲を密封する。
【0018】
接続流路部材19は、4本のインク導入針23にそれぞれ対応して形成された中間流路27を4つ有する平板状の部材である。この中間流路27は、一端がインク導入部材17のインク導入流路24に連通し、他端が上流基礎部材21のインク供給路29(後述)にそれぞれフィルター20を介して連通している。
ここで、フィルター20は、接続流路部材19の中間流路27と上流基礎部材21のインク供給路29の間に装着され、流路内のインクに混入した気泡や異物がインクと共にインク供給路29に供給されないようにするための部材であり、4本の流路に対応して4つ備えられている。
なお、フィルター20は、通過するインクの流路抵抗を減らすためにインク導入流路24や記録ヘッド14内の流路に比べて大きめに形成されており、これに合わせて中間流路27の下端部をフィルター20に向けて拡径させ、下側の開口径をフィルター20と略同じ大きさに揃えている。
【0019】
上流基礎部材21は、架台12の下端部分を構成する部材であり、下面には、回路基板13を挟んで記録ヘッド14が接合されている。また、この上流基礎部材21の上面には、接続流路部材装着部28が形成されており、接続流路部材19が装着される。
また、接続流路部材装着部28の中央には、インク供給路29が板厚方向に貫通して形成されている。このインク供給路29は、上側でフィルター20を介して接続流路部材19の中間流路27と連通し、下側で記録ヘッド14のケース48に形成されたケース流路70(後述)と連通する。
なお、インク供給路29における上側の開口径は、フィルター20と略同じ大きさに揃えられており、下側に向けて縮径している。また、インク供給路29の下端は、上流基礎部材21の下面より下側(記録ヘッド14側)に延出しており、後述する回路基板13の流路挿通孔34に挿通されている。これにより、インク供給路29の下端は、回路基板13を挟んでケース流路70と液密に接合することができる。そして、上流基礎部材21が、間にシール部材18、接続流路部材19およびフィルター20を挟んでインク導入部材17と接合されることで、架台12を形成している。このとき、インク導入流路24、中間流路27およびインク供給路29がそれぞれ連通し、一連の上流側インク流路が形成される。この上流側インク流路によってインクカートリッジ3内のインクが記録ヘッド14に送られることになる。
【0020】
回路基板13は、表面にIC、抵抗等の電装部品が実装されると共に一側の端部にコネクター32が形成されており、上記した架台12と記録ヘッド14の間に装着されている。この回路基板13は、後述する記録ヘッド14のアクチュエータユニット46を構成するフレキシブルケーブル33が接合されている。また、コネクター32には、一端をプリンター1の制御部に接続した信号ケーブル(図示せず)の他端が接続される。そのため、信号ケーブルを通じてプリンター1の制御部から送られてくる駆動信号等を、回路基板13およびフレキシブルケーブル33を介してアクチュエータユニット46に供給することができる。これにより、記録ヘッド14のインクの噴射動作を制御している。また、インク供給路29に対応する箇所には、板厚方向に貫通した流路挿通孔34が形成されている。この流路挿通孔34にインク供給路29の下端を挿通して、回路基板13より下方でインク供給路29とケース48のケース流路70を接続している。
【0021】
次に記録ヘッド14の構成について詳しく説明する。図8〜図10は記録ヘッド14の断面図であり、図8は、図5における領域Dの拡大図、図9は、図7における領域Eの拡大図、図10は、記録ヘッド14の構成をより簡略化して要部を拡大した断面図である。
実施形態における記録ヘッド14は、ノズル形成面36に開口した複数のノズル開口37にそれぞれ連通する複数の圧力発生室38(本発明の圧力発生室に相当)を有するキャビティユニット39と、このキャビティユニット39のノズル形成面36とは反対側の面に接合され、少なくとも圧力発生室38と対向する部分が板厚方向に貫通した穴部としての挿通口40を有する補強部材41と、この補強部材41のキャビティユニット39とは反対側の面における挿通口40の縁部に一端面が固定される固定板42、および、固定板42から先端部を突出させた状態で基端部がこの固定板42に支持されると共にキャビティユニット39の圧力発生室38に対向する部分に先端部が固定される複数の圧電素子44(圧電素子群45)を有するアクチュエータユニット46と、このアクチュエータユニット46の一部を内部に収容する収容空部47を有するケース48と、を備えて構成される。
【0022】
まず、キャビティユニット39について説明する。キャビティユニット39は、ノズルプレート49、流路形成基板50、及び振動板51から構成され、ノズルプレート49を流路形成基板50の一方の表面に、振動板51をノズルプレート49とは反対側となる流路形成基板50の他方の表面にそれぞれ配置して積層し、接着等により一体化することで形成される。
【0023】
ノズルプレート49は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル開口37を列状に開設したステンレス鋼製の薄いプレートである。実施形態では、例えば、180個のノズル開口37を列状に開設し、これらのノズル開口37によってノズル列を構成している。したがって、ノズルプレート49の下面(流路形成基板50とは反対側の面)が本発明のノズル形成面36となる。また、実施形態のノズルプレート49は、ノズル列を左右対称に2列、主走査方向に横並びに設けている。
【0024】
流路形成基板50は、リザーバー52、インク供給口53、及び圧力発生室38からなる一連のインク流路を形成する板状部材である。実施形態の流路形成基板50は、シリコンウェハーをエッチング処理することで作製されている。
圧力発生室38は、ノズル開口37の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室であり、隔壁で区画された状態で各ノズル開口37に対応して複数列状に形成されている。そして、この圧力発生室38の列が、流路形成基板50においてノズル列に直交する方向(記録動作時の主走査方向)に並べて2列形成されている。
インク供給口53は、圧力発生室38とリザーバー52との間を連通する流路幅の狭い狭窄部として形成されている。また、リザーバー52は、複数の圧力発生室38に共通なインクが導入される空部である。このリザーバー52の一部は、中央(ノズル開口37の列設方向と直交する方向において2列のノズル列の間)に向けて延在しており、振動板51の中央部に開設された後述するインク導入口と連通している。このため、リザーバー52は、振動板51のインク導入口、補強部材41の貫通流路61、ケース48のケース流路70、および、上記した架台12の上流側インク流路を介してインクカートリッジ3と連通すると共に、インク供給口53を介して対応する各圧力発生室38に連通する。その結果、リザーバー52はインクカートリッジ3に貯留されたインクを各圧力発生室38に供給することができる。なお、実施形態では、4色のインクカートリッジ3に対応して、2列のリザーバー52のうちの一方のリザーバー52を隔壁で区画して3つに分割することで、合計4つのリザーバー52を形成し、分割していないリザーバー52を使用頻度の高い色(例えば、ブラックインク)に割り当てている。
【0025】
振動板51は、ステンレス鋼等の金属製の支持板54上にPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂フィルム55をラミネート加工した二重構造の複合板材であり、補強部材41の貫通流路61(後述)と対応するリザーバー52とを繋げるインク導入口を上下方向に貫通させている。実施形態では、4つのリザーバー52に対応して4つのインク導入口を中央(ノズル開口37の列設方向と直交する方向において2列のノズル列の間)に列設させている。
また、振動板51は、圧力発生室38の一方の開口面(ノズルプレート49とは反対側の面)を封止して、この圧力発生室38の容積を変動させるためのダイヤフラム部58を形成すると共に、リザーバー52の一方の開口面(ノズルプレート49とは反対側の面)を封止するコンプライアンス部59を形成している。詳しくは、ダイヤフラム部58は、圧力発生室38に対応した部分の支持板54にエッチング加工を施し、当該部分を環状に除去して圧電素子44の自由端部の先端を接合するための島部60を複数形成することで構成されている。この島部60は、圧力発生室38の平面形状と同様に、ノズル開口37の列設方向と直交する方向に細長いブロック状であり、この島部60の周りの樹脂フィルム55が弾性体膜として機能する。また、コンプライアンス部59として機能する部分、すなわちリザーバー52に対応する部分は、このリザーバー52の開口形状に倣って支持板54がエッチング加工で除去されて樹脂フィルム55のみとなっている。
【0026】
そして、ケース48は、例えば、エポキシ系樹脂などの樹脂により作製され、中空箱体状のケース本体48aと、該ケース本体48aの上端において当該ケース本体48aから側方に延出した板状部48bとから構成されている。このケース本体48aの下面(架台12とは反対側の面)には、補強部材41が接着固定されている。
また、ケース本体48aの内部には、補強部材41の挿通口40と連通される収容空部47が形成され、この収容空部47内にアクチュエータユニット46の一部が収容されている。実施形態では、2列の挿通口40に対応して収容空部47が2列形成されており、各収容空部47は、固定板42、圧電素子群45の上部、および、フレキシブルケーブル33の下部を収容している。
また、収容空部47は、内壁がアクチュエータユニット46に当接しないように、平面視におけるアクチュエータユニット46の面積或いは挿通口40の開口面積よりも十分に大きい開口面積で開口している。特に、固定板42が収容空部47の内壁に接合しないように、固定板42と対向する側の内壁は、挿通口40の縁に対応する位置から固定板42とは反対側に向けて後退した位置に形成されている。これにより、図10に示すように、固定板42の背面(圧電素子群45が接合されている面とは反対側の面)と収容空部47の内壁との間には、間隙Sが設けられている。
【0027】
また、ケース48と補強部材41とを接合した状態で、挿通口40の内壁と収容空部47の内壁との間には段差が生じ、これにより、挿通口40の縁部には、後述する固定板42の端面が接合される面が形成されている。さらに、2列の収容空部47の間には、ケース48の高さ方向に貫通したケース流路70が4本並べて形成されている。このケース流路70は、上端が架台12の上流側インク流路(上流基礎部材21のインク供給路29)に連通し、下端が補強部材41の貫通流路61に連通している。これにより、インクカートリッジ3からのインクを上流側インク流路、ケース流路70、貫通流路61、インク導入口を介してリザーバー52に供給することができる。
また、列設した各ケース流路70を結んだ仮想直線上には、下端が補強部材側大気開放通路66に連通し、上端が記録ヘッド14と架台12の部材間に大気開放したケース側大気開放通路71が、ケース48の高さ方向に貫通して形成されている。なお、ケース本体48aの下面において、ケース流路70の周囲、ケース側大気開放通路71の周囲、および当該ケース本体48aの周囲には、補強部材41とは反対側に窪んだシール材接着部73が形成されており、ここにシール材74が導入されてケース48と補強部材41が接着固定されている(図10参照)。これにより、ケース48と補強部材41の間で連通するケース流路70と貫通流路61、ケース側大気開放通路71と補強部材側大気開放通路66、および収容空部47と挿通口40のそれぞれの接合箇所の周囲が密封されている。
また、ケース本体48aの下面において、補強部材41の基準穴63と対向する箇所には、当該基準穴63に挿入する位置決め突起部75が下方に向けて突設されている(図2参照)。上述のように、この位置決め突起部75が補強部材41の基準穴63に挿通されることにより、各部材の相対位置が規定されるようになっている。さらに、板状部48bの下面には、ケース48のケース本体48aを挟んで両側に2個ずつヘッドカバー位置決め部76が突設されている(図4等参照)。このヘッドカバー位置決め部76が後述するヘッドカバー基準穴81に挿入されることで、ケース48に対してヘッドカバー15が位置決めされる。
【0028】
次に、アクチュエータユニット46について説明する。実施形態のアクチュエータユニット46は、フレキシブルケーブル33、圧電素子群45および固定板42から構成されている。圧電素子群45を構成する圧電素子44(圧力発生素子の一種)は、基材である圧電振動板を数十μm程度の極めて細い幅に切り分けることで、縦方向に細長い櫛歯状に形成されている。この圧電素子44は縦方向に伸縮可能な縦振動型の圧電素子44として構成されている。また、各圧電素子44は、固定端部を固定板42上に接合することにより、自由端部を固定板42の先端縁(端面)よりも外側に突出させて所謂片持ち梁の状態で固定されている。そして、各圧電素子44における自由端部の先端は、補強部材41の挿通口40に挿通されて、それぞれキャビティユニット39におけるダイヤフラム部58を構成する島部60に接合される。一方、各圧電素子44の固定端部側には、固定板42とは反対側にフレキシブルケーブル33が電気的に接続されている。このフレキシブルケーブル33の表面には、各圧電素子44の駆動等を制御するための制御用IC等が実装されている。フレキシブルケーブル33の圧電素子44とは反対側の端部は、回路基板13に電気的に接続されている。また、各圧電素子44を支持する固定板42は、圧電素子44からの反力を受け止め得る剛性を備えた金属製の板材によって構成されており、実施形態では、厚さが1mm程度のステンレス鋼板によって作製されている。この固定板42の補強部材41側の端面の一部は、補強部材41の挿通口40の縁部に接着固定されている。実施形態では、固定板42の補強部材41と対向する端面において、圧電素子44とは反対側の角部が面取りされた面取り部77が形成されており、この面取り部77に接合材の一種であるUV硬化樹脂78を塗布して補強部材41と接続した後、UV照射によりUV硬化樹脂78を硬化させることで、固定板42を補強部材41に固定している。
【0029】
このように構成された記録ヘッド14では、島部60に圧電素子44の先端面が接合されているので、この圧電素子44の自由端部を伸縮させることで圧力発生室38の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力発生室38内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド14は、この圧力変動を利用してノズル開口37からインク滴を噴射(吐出)させる。
【0030】
ヘッドカバー15は、ケース48に接続され、キャビティユニット39やケース48を保護する金属製の部材である。このヘッドカバー15は、薄板部材によって作製され、ケース48の側面を囲繞すると共に、下端がノズルプレート49側に略90度屈曲してノズル形成面36に当接している。このヘッドカバー15のノズル形成面36に当接する面は、ノズル開口37を露出するように枠状に形成されている。また、ヘッドカバー15の上端は、側方に向けてフランジ部80が突設され、このフランジ部80にヘッドカバー基準穴81が開設されている。このヘッドカバー基準穴81はケース48のヘッドカバー位置決め部76に挿通して、ヘッドカバー15を位置決めしている。実施形態では、ケース48のケース本体48aを挟んで両側に2個ずつヘッドカバー基準穴81を設けている(図4参照)。
【0031】
次に上記のような記録ヘッド14の製造方法について説明する。この記録ヘッド14の製造方法は、キャビティユニット39に補強部材41を重ね合わせて接合する補強部材接合工程と、アクチュエータユニット46の位置決め基準とキャビティユニット39の位置決め基準とをそれぞれカメラ83により撮影し、アクチュエータユニット46及びキャビティユニット39の相対位置を認識する位置認識工程と、アクチュエータユニット46を動かして、アクチュエータユニット46の位置決め基準とキャビティユニット39の位置決め基準とが水平面(ノズル形成面36に平行な面)内において重なるように当該アクチュエータユニット46とキャビティユニット39の相対的な位置を調整する位置調整工程と、位置調整工程で位置決めした状態で、アクチュエータユニット46をノズル形成面36に垂直な方向に移動させて、補強部材41の挿通口40に各圧電素子44の先端部を挿通してキャビティユニット39の圧力発生室38に対応する部分にそれぞれ接合すると共に固定板42を補強部材41の挿通口40の縁部に固定するアクチュエータユニット固定工程と、を経る。
【0032】
補強部材接合工程では、図示しないアライメント装置のワークセット台にキャビティユニット39をセットする。このとき、キャビティユニット39は、基準穴にワークセット台に突設した位置決めピン(図示せず)が挿通され位置が規定されている。次に、補強部材41をアライメント装置の図示しない把持機構により把持し、キャビティユニット39を補強部材41の上部に移動させる。この状態で、補強部材41またはキャビティユニット39に接着剤を塗布する。その後、把持機構を垂直方向(ノズル形成面36に垂直な方向)に移動させ、ワークセット台の位置決めピンに補強部材41の基準穴63を挿通させると共に、キャビティユニット39と補強部材41を接合する。なお、把持機構は、接着剤が硬化するまでの間に亘って補強部材41をキャビティユニット39に接続した状態で支持しており、その後、接着剤が硬化すれば、把持機構による補強部材41の把持を解除する。
【0033】
次に、位置認識工程では、把持機構によってアクチュエータユニット46(固定板42)を把持し、ワークセット台に載置されている補強部材41が接合されたキャビティユニット39の上部にアクチュエータユニット46を移動させる。実施形態では、2つの把持機構(図示せず)によって2つのアクチュエータユニット46を同時に把持している。この状態で、アライメント装置に備えたカメラ83を用いて、アクチュエータユニット46およびキャビティユニット39の位置決め基準を撮影する。
実施形態では、各部材のノズル列方向における両端部に、キャビティユニット39の位置決め基準を撮影する下方カメラ83bおよびアクチュエータユニット46の位置決め基準を撮影する上方カメラ83aをそれぞれ備えている(図11参照)。
【0034】
まず、アクチュエータユニット46の位置決め基準として、一方のアクチュエータユニット46の複数の圧電素子44のうち両端に位置する圧電素子44の自由端部の先端を、2つの上方カメラ83aで同時に撮影する。また、キャビティユニット39の位置決め基準として、アクチュエータユニット46の位置決め基準である各圧電素子44に対応するキャビティユニット39の島部60(2列に列設した複数の島部60のうち一方に列設した複数の島部60の両端に位置する島部60)を、補強部材41に開口した挿通口40の上部から2つの下方カメラ83bで同時に撮影する。
各部材に形成された位置決め基準は、カメラ83によって撮影されて、モニターなどに映し出される。映し出された画像には、基準マーク(例えば、十字マーク等の図記号。図示せず)が重畳する状態で表示されるようになっている。これにより、位置決め基準と基準マークとのズレ量が認識される。その結果、キャビティユニット39に対する一方のアクチュエータユニット46の相対位置を認識することができる。
【0035】
次に、位置調製工程では、カメラ83を並行に移動させて、同様に他方のアクチュエータユニット46についてもキャビティユニット39に対する相対位置を認識する。この位置認識工程で認識した相対位置に基づいて、ノズル形成面36に平行な面内において、アクチュエータユニット46の位置決め基準として用いた圧電素子44の位置と、これに対応するキャビティユニット39の位置決め基準として用いた島部60とが重なるように、各把持機構をX方向、Y方向、およびθ方向(補強部材41の中心を通るZ方向を軸とする回転方向)にそれぞれ移動させて、各アクチュエータユニット46の位置決めをする。
【0036】
そして、アクチュエータユニット固定工程では、上記位置決めをした状態で、各圧電素子44の先端部に接着剤を塗布すると共に、固定板42の面取り部77にUV硬化樹脂78を塗布する。その後、各把持機構によって各アクチュエータユニット46をノズル形成面に垂直な方向に移動させ、補強部材41の挿通口40に各圧電素子44の先端部を挿通して島部60に当接させると共に、固定板42を補強部材41の挿通口40の縁部に当接させる。この状態で、各固定板42に塗布したUV硬化樹脂78にUVを照射し、UV硬化樹脂78を硬化させて、固定板42を補強部材41に固定し、把持機構による固定板42の把持を解除する。そして、ある程度の時間が経つと島部60と圧電素子44の先端部との間の接着剤が硬化し、両者が固定される(図12参照)。
ここで、アクチュエータユニット46の固定板42が、UV硬化樹脂78にUVを照射することによって即座に固定されるため、島部60と圧電素子44が接着剤の硬化によって固定されるまでの間、把持機構を用いてアクチュエータユニット46を支持する必要が無く、製造時間を短縮することができる。
【0037】
その後、ケース固定工程では、把持機構(図示せず)によってケース48を把持し、補強部材41およびアクチュエータユニット46が接合されたキャビティユニット39の上部にケース48を移動させる。この状態で、補強部材41のケース48側の面における所定の位置にシール材74を塗布する。その後、ケース48を補強部材41に向けて垂直方向に移動させ、収容空部47内にアクチュエータユニット46の一部を収容すると共に、補強部材41の基準穴63にケース48の位置決め突起部75を挿通し、ケース48と補強部材41を接合する(図13参照)。そして、この補強部材41等が接続されたケース48をアライメント装置から取り外した後、ヘッドカバー15をキャビティユニット39側から近づけて、ケース48に位置決め固定する。このようにして、実施形態の記録ヘッド14を作成することができる。
【0038】
このように実施形態の記録ヘッド14は、圧電素子群の複数の圧電素子が1つの挿通口40を挿通するようにした。これにより、例えば、補強部材に複数の挿通口を形成し、各圧電素子が別々の挿通口を設けた場合に比べると、アクチュエータユニットを挿通口40に挿入する際に、圧電素子の先端が挿通口間の隔壁に接触し、不良となることを防止できる。また、隔壁が無いことにより、圧電素子群を高密度に配置しても、挿入を容易に行える。従って、アクチュエータユニットを挿入する際の不良を防止でき、さらに圧電素子を高密度に配置しても挿入を容易に行える。その結果、記録ヘッド14の組立を容易に行うことができ、さらに、プリンター1の解像度を向上させることができる。
【0039】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではない。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターを製造するディスプレイ製造装置、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極製造装置、バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置、ごく少量の試料溶液を正確な量供給するマイクロピペット等の製造方法にも適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…液体噴射装置としてのプリンター、2…記録ヘッドユニット、14…液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド、36…ノズル形成面、37…ノズル開口、38…圧力発生室、39…キャビティユニット、40…穴部としての挿通口、41…補強部材、42…固定板、44…圧電素子、45…圧電素子群、46…アクチュエータユニット、47…収容空部、48…ケース、51…振動板、52…共通液体室としてのリザーバー、53…液体流路としてのインク供給口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子の圧力を圧力発生室に伝えるための振動板と、共通液体室から前記圧力発生室を通ってノズル開口に連通する液体流路を有するキャビティユニットと、複数の前記圧電素子を含む圧電素子群及び該圧電素子群を支持する固定板を有するアクチュエータユニットと、該アクチュエータユニットが収納される収納空部を有するケースとを備えた液体噴射ヘッドであって、
前記圧力発生室に対向する部分に一つの穴部が形成され、前記ケースよりも高い剛性により前記キャビティユニットと前記ケースとを補強する補強部材を備え、
前記アクチュエータユニットの前記圧電素子群に含まれる各圧電素子の一端が、前記補強部材の前記穴部に挿通され、前記振動板に固定されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドを備えている
ことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−232501(P2012−232501A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102754(P2011−102754)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】