説明

液体噴射ヘッドの液体吸引装置および液体噴射装置

【課題】液体の排出性と液体の保湿性を両立して、ノズル面の液体を吸引する際の吸引力の低下を防ぎ、長時間放置した時にノズル面の保湿性を確保する液体噴射ヘッドの液体吸引装置および液体噴射装置を提供すること。
【解決手段】ノズル面61のノズル開口55A〜55Dに対面する開口部210,211を有し、開口部210,211をノズル開口55A〜55Dに対面させてノズル面61を封止可能な本体80と、本体80内でノズル面61の液体を吸収する第1吸収材300,301と、本体80内に配置されて第1吸収材300,301が液体を保湿する保湿性に比べてより高い液体の保湿性を有する第2吸収材303を有し、第1吸収材300,301と第2吸収材303は、ノズル面61に対面する平面方向に配置され、第1吸収材300,301は開口部210,211を通してノズル開口55A〜55Dに対応した位置にあり、第2吸収材303は本体80により覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッドのノズル面に当ててノズル面からの液体を吸引したりノズル面に当ててノズル面を保湿する液体噴射ヘッドの液体吸引装置および液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ等の発達によりグラフィック処理が比較的簡単に実行できるようになったため、ディスプレイに表示されるたとえばカラー画像のハードコピーを高品質で出力できる記録装置が求められている。
ターゲットに対して液体を噴射させる液体噴射装置として、記録ヘッドから記録媒体に対してインク滴を噴射させて印刷を行うインクジェット式記録装置が知られていた。そして、このようなインクジェット式記録装置は、記録ヘッドのノズルから記録媒体に対して微小なインク滴を吐出させて、所望の文字や図形等の画像を記録する。
このインクジェット式記録装置は、印刷時の騒音が比較的小さく、しかも小さなドットを高い密度で形成できるため、昨今においてはカラー印刷を含めた多くの印刷に使用されている。
【0003】
インクジェット式記録装置は、インクカートリッジからのインクの供給を受けるインクジェット式記録ヘッドと、記録用紙を記録ヘッドに対して相対的に移動させる紙送り手段を備え、記録ヘッドをキャリッジ上で記録用紙の幅方向に移動させながら記録用紙に対してインク滴を吐出させることで記録が行われる。
そして共通のキャリッジ上に、たとえばブラックインクを吐出するブラック用記録ヘッドと、イエロー、シアン、マゼンタの各インクの吐出が可能なカラー用記録ヘッドを搭載し、ブラックインクによるテキスト印刷ばかりでなく、各インクの吐出割合を変えることにより、フルカラー印刷を可能としている。
【0004】
インクジェット式記録ヘッドは、圧力発生室で加圧したインクをノズル開口からインク滴として記録用紙に吐出させて印刷を行う関係上、ノズル開口からの溶媒の蒸発に起因するインク粘度の上昇や、インクの固化、塵埃の付着、さらには気泡の混入等によりノズル開口に目詰まりを発生し、印刷不良を起こすという問題を抱えている。
【0005】
このために、インクジェット式記録装置には、非印刷時に記録ヘッドのノズル開口を封止するためのキャッピング手段と、必要に応じてノズルプレートを清掃するクリーニング装置を備えている。
このキャッピング手段は、印刷の休止時にノズル開口のインクの乾燥を防止する保湿機能を発揮するだけでなく、ノズル開口に目詰まりが生じた場合には、キャップ部材によりノズルプレート面を封止し、吸引ポンプからの負圧により、ノズル開口からインク滴を吸引してノズル開口の目詰まりを解消する機能をも備えている。
この種の記録ヘッドのノズルプレート面からインクを吸引するように構成したインクジェット式記録装置が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−268299号公報(第6頁、図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているキャップ部材の中には、複数のインク吸収材が配置されている。一方のインク吸収材と他方のインク吸収材は異なるインクの濡れ性を有していて、一方のインク吸収材と他方のインク吸収材はノズルプレート面に対して上下方向に重ねて配置されている。
上側の一方のインク吸収材はノズルプレート面に対面する側に配置され、下側の他方のインク吸収材はノズルプレート面から離れている側に配置されている。上側の一方のインク吸収材のインクの濡れ性は下側の他方のインク吸収材のインクの濡れ性に比べて小さい。
【0008】
このような構造のキャップ部材を使用すると、一方のインク吸収材と他方のインク吸収材がノズルプレート面に対して上下方向に位置するように上下2段に設けられていることから、インクの吸引時における吸引力の低下をおこし、キャップ部材内のインク吸収材に要求されるインクの所謂ハケ性(インクの排出性)とインクの保湿性の両立が難しいという問題がある。
これはインクの濡れ性の小さい一方のインク吸収材とインクの濡れ性の大きい他方のインク吸収材が同じ面積を有する状態で、ノズルプレート面に対して上下方向2段に配置されているからである。
【0009】
そこで本発明は上記課題を解消し、液体の排出性と液体の保湿性を両立して、ノズル面からの液体を吸引する際の吸引力の低下を防ぎ、長時間放置した時にノズル面の保湿性を確保することができる液体噴射ヘッドの液体吸引装置および液体噴射装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、第1の発明にあっては、液体を噴射する液体噴射ヘッドのノズル面に当てて前記ノズル面からの前記液体を吸引して外部に排出したり前記ノズル面に当てて前記ノズル面を保湿する液体噴射ヘッドの液体吸引装置であって、前記ノズル面に形成されているノズル開口に対面する位置に開口部を有し、前記開口部を前記ノズル開口に対面させた状態で前記ノズル面を封止可能な本体と、前記本体内に配置されて前記ノズル面の前記液体を吸収するための第1吸収材と、前記本体内に配置されて前記第1吸収材が前記液体を保湿する保湿性に比べてより高い液体の保湿性を有する第2吸収材と、を有しており、前記第1吸収材と前記第2吸収材は、前記ノズル面に対面する平面方向に配置されていて、前記第1吸収材は前記本体の前記開口部を通して前記ノズル開口に対応した位置にあり、前記第2吸収材は前記本体により覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッドの液体吸引装置により、達成される。
【0011】
第1の発明の構成によれば、本体は、ノズル面に形成されたノズル開口に対面する位置に開口部を有し、開口部をノズル開口に対面させた状態でノズル面を封止可能である。第1吸収材は、本体内に配置されてノズル面の液体を吸収する。第2吸収材は、本体内に配置されて、第1吸収材が液体を保湿する保湿性に比べてより高い液体の保湿性を有する。
第1吸収材と第2吸収材は、ノズル面に対面する平面方向に配置されている。第1吸収材は本体の開口部を通してノズル開口に対応した位置にあるが、第2吸収材は本体により覆われている。
【0012】
これにより、本体をノズル面に当てて、ノズル面からの液体を吸引する場合には、第2吸収材に比べて保湿性の低い第1吸収材がノズル面からの液体を吸収して、第2吸収材を通さずに外部に排出することができる。
これにより、保湿性の低い第1吸収材がノズル面からの液体を吸引して排出することができるので、吸引時の液体の排出性を確保して、第1吸収材における液体の目詰まりを抑制して吸引力の低下を防ぐことができる。
また、本体をノズル面に当ててノズル面を保湿する際には、第1吸収材に比べて保湿性の高い第2吸収材が保持している液体が、第1吸収材を通じてノズル面を保湿することができる。これによって、長時間放置した時等にノズル面が乾燥するのを防ぎノズル面の保湿性を確保することができる。
このように液体を吸引する際の液体の排出性と、ノズル面を保湿する際の保湿性の両方を確保することができる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明の構成において、前記第1吸収材と前記本体の前記開口部は、前記ノズル面における複数の前記ノズル開口からなるノズル開口列に沿って形成されており、前記本体の前記開口部は前記ノズル面に密着される壁部により囲まれていることを特徴とする。
第2の発明の構成によれば、第1吸収材と本体の開口部は、ノズル面における複数のノズル開口からなるノズル開口列に沿って形成されている。本体の開口部はノズル面に密着される壁部により囲まれている。
これにより、本体の壁部がノズル面に密着されることにより、ノズル面のノズル開口列を確実に封止することができ、液体を吸引する際の液体排出性とノズル面を保湿する際の保湿性の両方を確保できる。
【0014】
第3の発明は、第2の発明の構成において、前記ノズル面は複数の前記ノズル開口列を有しており、前記本体における前記ノズル開口列間に対応する位置には、前記第2吸収材が配置されていることを特徴とする。
第3の発明の構成によれば、ノズル面は複数のノズル開口列を有している。本体におけるノズル開口列間に対応する位置には、第2吸収材が配置されている。これにより、液体を保湿するための第2吸収材は、ノズル開口列の間に対応する位置にあることから、第2吸収材はより多くの保湿用の液体を保持することができる。
【0015】
第4の発明は、第3の発明の構成において、前記本体の前記壁部と前記本体の前記開口部は、前記ノズル開口列ごとに対応するように前記本体に設けられていることを特徴とする。
第4の発明の構成によれば、本体の壁部と本体の開口部は、ノズル開口列ごとに対応するように本体に設けられている。
これにより、各ノズル開口列は、壁部により確実に封止することができる。
【0016】
第5の発明は、第3の発明の構成において、前記本体の前記壁部と前記本体の前記開口部は、複数の前記ノズル開口列ごとに対応するように前記本体に設けられていることを特徴とする。
第5の発明の構成によれば、本体の壁部と本体の開口部は、複数のノズル開口列ごとに対応するように本体に設けられている。これにより、複数のノズル開口列は、壁部により確実に封止することができる。
【0017】
第6の発明は、第2の発明ないし第5の発明のいずれかの構成において、前記本体内に吸引された前記液体を前記本体内から排出するための排出部が、前記本体の前記開口部とは反対側の前記本体の位置に形成されていることを特徴とする。
第6の発明の構成によれば、排出部は、本体内に吸引された液体を本体内から排出するようになっている。この排出部は、本体の開口部とは反対側の本体の位置に形成されている。
これにより、第1吸収材に吸収されたノズル面からの液体は、排出部を通じて外部に確実に排出することができる。排出部が開口部とは反対側に位置しているので、ノズル面から吸引された液体は第1吸収材を通って外部に排出でき、液体の排出性をより高めることができる。
【0018】
上記目的は、第7の発明にあっては、液体を噴射する液体噴射ヘッドのノズル面に当てて前記ノズル面からの前記液体を吸引して外部に排出したり前記ノズル面に当てて前記ノズル面を保湿する液体噴射ヘッドの液体吸引装置を備える液体噴射装置であって、前記液体吸引装置は、前記ノズル面に形成されているノズル開口に対面する位置に開口部を有し、前記開口部を前記ノズル開口に対面させた状態で前記ノズル面を封止可能な本体と、前記本体内に配置されて前記ノズル面の前記液体を吸収するための第1吸収材と、前記本体内に配置されて前記第1吸収材が前記液体を保湿する保湿性に比べてより高い液体の保湿性を有する第2吸収材と、を有しており、前記第1吸収材と前記第2吸収材は、前記ノズル面に対面する平面方向に配置されていて、前記第1吸収材は前記本体の前記開口部を通して前記ノズル開口に対応した位置にあり、前記第2吸収材は前記本体により覆われていることを特徴とする液体噴射装置により、達成される。
【0019】
これにより、本体をノズル面に当てて、ノズル面からの液体を吸引する場合には、第2吸収材に比べて保湿性の低い第1吸収材がノズル面からの液体を吸収して、第2吸収材を通さずに外部に排出することができる。
これにより、保湿性の低い第1吸収材がノズル面からの液体を吸引して排出することができるので、吸引時の液体の排出性を確保して、第1吸収材における液体の目詰まりを抑制して吸引力の低下を防ぐことができる。
また、本体をノズル面に当ててノズル面を保湿する際には、第1吸収材に比べて保湿性の高い第2吸収材が保持している液体が、第1吸収材を通じてノズル面を保湿することができる。これによって、長時間放置した時等にノズル面が乾燥するのを防ぎノズル面の保湿性を確保することができる。
このように液体を吸引する際の液体の排出性と、ノズル面を保湿する際の保湿性の両方を確保することができる。
【0020】
第8の発明は、第7の発明の構成において、前記第1吸収材と前記本体の前記開口部は、前記ノズル面における複数の前記ノズル開口からなるノズル開口列に沿って形成されており、前記本体の前記開口部は前記ノズル面に密着される壁部により囲まれていることを特徴とする。
これにより、本体の壁部がノズル面に密着されることにより、ノズル面のノズル開口列を確実に封止することができ、液体を吸引する際の液体排出性とノズル面を保湿する際の保湿性の両方を確保できる。
【0021】
第9の発明は、第8の発明の構成において、前記ノズル面は複数の前記ノズル開口列を有しており、前記本体における前記ノズル開口の列間に対応する位置には、前記第2吸収材が配置されていることを特徴とする。
これにより、液体を保湿するための第2吸収材は、ノズル開口列の間に対応する位置にあることから、第2吸収材はより多くの保湿用の液体を保持することができる。
【0022】
第10の発明は、第9の発明の構成において、前記本体の前記壁部と前記本体の前記開口部は、前記ノズル開口列ごとに対応するように前記本体に設けられていることを特徴とする。これにより、各ノズル開口列は、壁部により確実に封止することができる。
【0023】
第11の発明は、第9の発明の構成において、前記本体の前記壁部と前記本体の前記開口部は、複数の前記ノズル開口列ごとに対応するように前記本体に設けられていることを特徴とする。これにより、複数のノズル開口列は、壁部により確実に封止することができる。
【0024】
第12の発明は、第8の発明ないし第11の発明のいずれかにおいて、前記本体内に吸引された前記液体を前記本体内から排出するための排出部が、前記本体の前記開口部とは反対側の前記本体の位置に形成されていることを特徴とする。
これにより、第1吸収材に吸収されたノズル面からの液体は、排出部を通じて外部に確実に排出することができる。排出部が開口部とは反対側に位置しているので、ノズル面から吸引された液体は第1吸収材を通って外部に排出でき、液体の排出性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置を示す斜視図。
【図2】図1のインクジェット式記録装置の電気的接続例を示す図。
【図3】インクジェット式記録装置の記録ヘッドの構造例を示す断面図。
【図4】記録ヘッドのノズルプレート面の形状例を示す図。
【図5】記録ヘッドの圧電振動子の付近を示す図。
【図6】インク吸引装置と記録ヘッドを示しており、本体がノズルプレート面から離れた待機状態を示す図。
【図7】本体がノズルプレート面を封止している状態を示す図。
【図8】インク吸引装置の本体等を示す斜視図。
【図9】インク吸引装置の本体を示す平面図。
【図10】インク吸引装置の吸収材アセンブリを示す斜視図。
【図11】本発明の液体吸引装置におけるインク吸引方法の一例を示す図。
【図12】本発明の液体吸引装置の別の実施形態を示す図。
【図13】図12の実施形態における本体を示す図。
【図14】本発明の液体吸引装置のさらに別の実施形態を示す図。
【図15】本発明の液体吸引装置のさらに別の実施形態を示す図。
【図16】本発明の液体吸引装置のさらに別の実施形態を示す図。
【図17】図16に示す実施形態における本体および吸収材アセンブリの形状例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の液体噴射装置の実施形態であるインクジェット式記録装置10を示している。
図1に示すインクジェット式記録装置10は、インクジェットプリンタとも呼んでいる。インクジェット式記録装置10は、本体部1を有している。この本体部1は、ガイドレール17、プラテン12、キャリッジ14、インク吸引装置20、記録ヘッド30を備えている。記録ヘッド30は、印刷ヘッドとも言う。
【0027】
キャリッジ14の上部には、複数のインクカートリッジ2,3,4,5が着脱可能に装着できる。キャリッジ14の下部には、記録ヘッド30が設けられている。キャリッジ14は、ベルト15を介してモータ16に接続されている。モータ16が作動することによって、キャリッジ14はガイドレール17に沿ってプラテン12の軸方向である主走査方向Tに往復走行する。
本体部1のホームポジション18は、ガイドレール17の一方の端部に位置している。このホームポジション18は、キャリッジ14の走行経路の末端にある非印刷領域である。このホームポジション18には、本体部1の上にインク吸引装置20が配置されている。このインク吸引装置20は、液体吸引装置の一例であり、キャッピングシステムもしくはキャッピング手段とも呼んでいる。
【0028】
インク吸引装置20は、以下の2つの機能を有する。すなわち、インク吸引装置20は、長時間放置された時に記録ヘッド30のノズル開口のインクの乾燥を防止する保湿機能と、吸引ポンプ19からの負圧をノズル開口に作用させてノズル開口からインクを強制的に吸引して排出させる吸引機能を備える。この吸引ポンプ19は、インク吸引装置20を構成する一構成要素である。各インクカートリッジ2,3,4,5の各インクは液体の1種類である。
【0029】
図2は、図1に示すインクジェット式記録装置10の電気的な接続例を示している。インクジェット式記録装置10の制御装置7は、ローカルプリンタケーブルまたは通信ネットワークを介してホストコンピュータ40のプリンタドライバ41に接続されている。プリンタドライバ41は、インクジェット式記録装置10の各構成要素に対して印刷やクリーニング動作あるいはインク吸引動作を実行させるためのコマンドを送るソフトウェアを搭載している。
【0030】
図2に示すインクジェット式記録装置10は、制御装置7の他に、センサー8、インク吸引装置20、インクカートリッジ2,3,4,5、記録ヘッド30、キャリッジ14、用紙搬送機構15Aを含んでいる。
図1の実施形態では、複数のインクカートリッジ2ないし5が、キャリッジ14の上に直接搭載されているが、これに限らずインクカートリッジ2ないし5はキャリッジとは別の位置に搭載しても勿論構わない。
図2の用紙搬送機構15Aは、図1の用紙29をプラテン12上を搬送するようになっている。用紙29は記録媒体の一種である。
【0031】
図3は、図1に示す記録ヘッド30の構造例を示す断面図である。
インクジェット式記録装置10は、特にカラープリンタとして用いられる場合には、この記録ヘッド30は、互いに種類の異なる複数種類のインクを吐出するために、インクの種類ごとに独立したインク経路50を有している。
各インクカートリッジ2ないし5からのインクは、インク供給針50Aを介してインク経路50に流入する。インクの種類ごとに独立したインク経路50は、それぞれ複数の圧力室51に接続されている。各圧力室51には、各ノズル開口列54A,54B,54C,54Dが接続されている。
ノズルプレート62はノズルプレート面61を有していて、このノズルプレート面61には複数のノズル開口列54が設けられている。圧力室51から押し出されたインク滴が、ノズル開口列54A〜54Dのノズル開口55A〜55Dから吐出される。
【0032】
図4は、ノズルプレート面61におけるノズル開口列54A〜54Dの配列例を示している。異なるインクの種類とは、見かけ上の色の違いにとどまらず、インクの構成成分の種類や比率が異なることを意味する。各ノズル開口列54A〜54Dは、例えば数10から数1000のノズル開口55A〜55Dから構成されている。
図5は、本発明のインクジェット式記録装置の記録ヘッド30の内部構造例を示している。上述したインクカートリッジから供給されるインクは、インク経路50を通って圧力室51へ供給される。印刷の際には、圧力発生素子としての圧電振動子39が伸縮動作することによって、圧力室51の容積を変化させて、圧力室51内のインクに圧力変動を生じさせる。これによって、ノズル開口55A〜55Dからインク滴が吐出できる。
記録ヘッド30内のインク中に気泡が混入したり、インク経路50や圧力室51内に増粘したインクが存在すると、インクの正常な流れが阻害されて、正常なインクの吐出が行えないことがある。この場合には、図2に示すインク吸引装置20が用いられ、このインク吸引装置20によるインクの強制排出が必要となる。
【0033】
また、インクジェット式記録装置10を最初に使用する際の開始時や、インクカートリッジを別の種類のインクカートリッジに交換した場合では、図3の記録ヘッド30内のインク経路50の中にインクを充填する必要がある。このような初期のインクの充填に際しても、インク吸引装置20が使用され、このインク吸引装置20を用いることで、図3の記録ヘッド30のノズル開口55A〜55Dから空気およびインクが、強制的に吸引されてノズル開口55A〜55Dから排出される。
【0034】
図6と図7は、インクジェット式記録装置のインク吸引装置20、記録ヘッド30およびインクカートリッジ2ないし5を示している。図6では、インク吸引装置20はノズルプレート面61から離れた状態である。図7では、インク吸引装置20はノズルプレート面61に密着もしくは圧着されて、ノズルプレート面61を封止している状態を示している。
図6と図7においては、記録ヘッド30とインクカートリッジ2ないし5が、ホームポジション18に位置決めされており、この記録ヘッド30は、インク吸引装置20の上方に位置決めされている。
【0035】
図1に示すキャリッジ14は、記録ヘッド30とともに、ガイドレール17に沿って主走査方向Tに沿って往復移動可能である。キャリッジ14とともに記録ヘッド30は、ヘッド移動方向T1に移動することにより、記録ヘッド30は図1および図6に示すホームポジション18に位置決めすることができる。
記録ヘッド30は、液体噴射ヘッドの一種であるが、この記録ヘッド30はキャリッジ14の下面側に設けられている。記録ヘッド30の下面は、ノズルプレート面61である。このノズルプレート面61は、ノズル面の一例であり、図3と図4にノズルプレート面61の形状例を示している。ノズルプレート面61は、ノズルプレート62の下面である。
ノズルプレート62は、上述したような複数のノズル開口列、図3と図4の図示例では4列のノズル開口列54A〜54Dを有している。各ノズル開口列54A〜54Dは、図4に示すT方向とは直交するU方向に沿っており、同じ間隔で平行に形成されている。
【0036】
図6では、上述したように記録ヘッド30はホームポジション18に位置決めされているが、インク吸引装置20とノズルプレート面61とは離れている待機状態を示している。
図7では、インク吸引装置20がノズルプレート面61を封止して、ノズルプレート面61からのインクの吸引状態またはノズルプレート面61の保湿状態の例を示している。この場合にはインク吸引装置20は、昇降手段250の動作により、図6の待機状態から図7に示すようにZ2方向に押し上げられた状態になっている。
【0037】
次に、図6〜図10を参照して、インク吸引装置20の構造について詳しく説明する。
インク吸引装置20は、ホームポジション18に配置されていて、このインク吸引装置20は、本体80、吸収材アセンブリ90、および吸引ポンプ19を有している。
図8は本体80と吸収材アセンブリの一部分を示す斜視図であり、図9は図8の本体80のE方向から見た平面図である。図10は図8の本体80内に収容されている吸収材アセンブリ(吸収材組立体ともいう)90の形状例を示す斜視図である。
【0038】
図8と図9に示す本体80は、キャップ本体とも呼んでおり、本体80は、図6と図8に示すように上部91、底部92、そして4つの側面部93,94,95,96を有している箱形状の部材である。図6では、本体80の上部91と底部92および2つの側面部93,95を図示している。本体80は、例えばプラスチックや金属により作られている。
図8の上部91、底部92および4つの側面部93ないし96は、図10に示す吸収材アセンブリ90を収容する容器である。上部91と底部92は対面して平行であり、この実施形態では上部91と底部92は、図6に示すようにノズルプレート面61と平行な面になっている。4つの側面部93ないし96は、上部91と底部92の四隅を連続して形成している部分であり、ノズルプレート面61の平面に対して垂直方向に向いている。
【0039】
図6と図8に示すように、上部91には、2つの同じ大きさの開口部210,211が平行に形成されている。開口部210は、図6と図9に示すように隣接するノズル開口列54A,54Bを含む領域に対応して開口している。同様にして、開口部211は、ノズル開口列54C,54Dを含む領域に対応して開口している。開口部210,211は、それぞれ2列のノズル開口列を含む領域に対面して開口しているのである。
【0040】
開口部210は、壁部220により囲まれるようにして形成されている。同様にして開口部211は、別の壁部221により囲まれるようにして形成されている。壁部220,221は、ノズルプレート面61側に向う方向に沿って上部91から例えば垂直に立てて形成されている。
壁部220は、4つの辺部220A,220B,220C,220Dを有している。同様にして壁部221は、4つの辺部221A,221B,221C,221Dを有している。これらの辺部220Aないし220Dは、開口部210の四隅を囲うようにして形成されている。同様にして壁部221の4つの辺部221Aないし221Dは、開口部211の四隅を囲うようにして形成されている。
【0041】
図6に示すように、本体80の底部92は、例えば2つの排出部240,241を有している。排出部240は、開口部210に対応する位置に形成されており、もう1つの排出部241は、開口部211に対応する位置に配置されている。つまり開口部210と排出部240は、図10の吸収材アセンブリ90の第1吸収材300を介して反対側に形成されており、開口部211と排出部241は、図10の吸収材アセンブリ90の第1吸収材301を介して反対側に形成されている。排出部240,241は、例えば円筒状の形状を採用することができるが、そうではなく、楕円形状或いは長方形状その他各種の形状を採用することができる。
排出部240,241は、吸引ポンプ19のチューブ19Aに対してそれぞれ着脱可能に接続されている。吸引ポンプ19は、廃インクタンク100に接続されている。この廃インクタンク100は、インク吸引装置20から吸引されてくるインクを廃棄するためのタンクである。
【0042】
上述した壁部220,221の各上端部は、図7に示すようにノズルプレート面61に対して密着もしくは圧着されることにより、ノズルプレート面61を封止することができる。一方の壁部220は、2列のノズル開口列54A,54Bを含むノズルプレート面61の領域を封止することができる。同様にしてもう1つの壁部221は、もう1組のノズル開口列54C,54Dを含むノズルプレート面61の領域を封止することができる。
従って、壁部220,221は、ノズルプレート面61に対して密着もしくは圧着される時に、多少の柔軟性をもって弾性変形をすることにより、よりノズルプレート面61に対して確実に密着できるように、柔軟性のある材質により作られているのが望ましい。
【0043】
図9では、壁部220とその開口部210が、隣接する2つのノズル開口列54A,54Bを含むノズルプレート面61の領域R1に対応していることを示している。同様にして、壁部221と開口部211は、隣接する2つのノズル開口列54C,54Dを含むノズルプレート面61の領域R2に対応していることを示している。
【0044】
次に、図6と図10を参照しながら、吸収材アセンブリ90の構造例について説明する。
吸収材アセンブリ90は、2つの第1吸収材300,301と第2吸収材303から構成されている平板状の組み立て吸収材である。
第1吸収材300,301は、それぞれ例えば直方体形状を有している。第1吸収材300は表面300Aと裏面300Bを有している。第1吸収材301は表面301Aと裏面301Bを有している。第1吸収材300の表面300Aは、図8と図6に示すように、開口部210に露出している。この表面300Aの面積は、開口部210の開口面積と略同じである。同様にして図10に示す第1吸収材301の表面301Aは、図8と図6に示すように開口部211に露出している。この表面301Aの面積は開口部211の面積と略同じである。
第2吸収材303は本体80の上部91、底部92および側面部93〜96により覆われていて、本体80の外部へは露出していない。
【0045】
図6に示すように、裏面300Bの少なくとも一部分は、本体80の排出部240に露出している。同様にして裏面301Bの少なくとも一部分は、本体80の排出部241に露出している。
第2吸収材303は、第1吸収材300,301に対して図10のX方向とY方向が形成する平面に沿って配置されている。つまり第2吸収材303と第1吸収材300,301は、X,Y方向で形成される横方向(平面方向)に関して並べて配置されている。このX方向とY方向は直交する方向であるが、X方向とY方向で形成される平面は、図6に示すノズルプレート面61と平行な面である。
第2吸収材303の孔部303Pの中には第1吸収材300がはめ込まれて設けられている。第2吸収材303のもう1つの孔部303Rには、もう1つの第1吸収材301がはめ込まれて配置されている。
【0046】
図10において、第2吸収材303のZ方向の厚みは、第1吸収材300,301のZ方向における厚みと好ましくは同じに設定されている。
これによって、図6に示すようにノズルプレート面61から見ると、第1吸収材300,301と第2吸収材303は、横方向、すなわちX方向とY方向で形成される平面に沿って並べて配置されているのが特徴的である。
しかも、第1吸収材300,301のインクに対する保湿性は、第2吸収材303のインクに対する保湿性に比べて小さく設定されている。つまり第2吸収材303の保湿性は、第1吸収材300,301の保湿性に比べて高くなっていることから、第2吸収材303はインクを保持する能力が高く、第1吸収材300,301はインクを保持する能力が第2吸収材303に比べると低く設定されている。言い換えれば、第1吸収材303は、インクハケ(インク排出性ともいう)の良好な吸収材であり、第2吸収材303は、インクの保湿性のよい吸収材である。
【0047】
第1吸収材300,301の材質としては、例えばインク排出性の良好な不織布のような合成樹脂製のものが採用できる。この不織布は、例えばポリエステルにより作られている。第2吸収材303は、保湿性の良好な例えばPVA(ポリビニルアルコール)により作られている。
しかし、第1吸収材と第2吸収材の材質は、これらの材質に限定されるものではなく各種のものを採用することができる。
【0048】
次に、図11および図6と図7を参照しながら、上述したインクジェット式記録装置10におけるインク吸引装置20の動作例について説明する。
(インク吸引動作)
図11は、インク吸引装置20を用いて行うインク吸引方法の一例を示すフロー図である。
図1に示すインクジェット式記録装置10の最初の使用の開始時や、インクカートリッジを別のインクカートリッジに交換した場合には、記録ヘッド30のインク経路50の中にインクを充填する必要がある。この充填に際しては、インク吸引装置20によって、記録ヘッド30のノズル開口55A〜55Dから空気およびインクが強制的に吸引されて排出されることになる。
記録ヘッド30のインク中に気泡が混入したりあるいはインク経路50に増粘したインクが存在すると、インクの正常な流れが阻害される場合がある。このような場合にも、インク吸引装置20によりインクの強制排出が必要となる。
【0049】
図11のステップST1では、図1に示すように記録ヘッド30およびキャリッジ14は、印刷中にはインク吸引装置20からは離れた印刷領域に位置している。
しかし、上述したように記録ヘッド30のクリーニングを行う必要がある場合には、キャリッジ14および記録ヘッド30が、ヘッド移動方向T1へ移動して図1に示すホームポジション18に位置決めされる。記録ヘッド30がホームポジション18に移動されると、図6に示すように記録ヘッド30はインク吸引装置20の上部に位置決めされることになる。
図6に示すように本体80の壁部220,221の各上端部は、ノズルプレート面61の1組のノズル開口列54A,54Bともう1組のノズル開口列54C,54Dにそれぞれ対面した位置にある。
【0050】
次に、図11のステップST2では、図2の制御装置7がインク吸引装置20に対してインク吸引動作によるクリーニングの実行指令を行う。そして、吸収装置の密着ステップST3に移る。
このステップST3では、インク吸引装置20が図6の待機位置から図7のインク吸引状態に上昇する。
これによって、図7に示すように、インク吸引装置20の本体80の壁部220,221の上端部は、ノズルプレート面61に対して密着もしくは圧着される。
この状態では、一組のノズル開口列54A,54Bは、開口部210側の壁部220により第1吸収材300側へ封止されており、もう一組のノズル開口列54C,54Dは開口部211側の壁部221により第2吸収材301側へ封止されている。
【0051】
次に、図11の吸収ステップST4では、吸引ポンプ19を作動すると、各インク経路50に詰まっているインクなどがノズル開口55A〜55Dから第1吸収材300,301に吸収されるとともに、ノズルプレート面61に付着しているインクも第1吸収材300,301に吸収される。これによって、第1吸収材300,301に吸収されたインクは、図7に示す排出部240,241を通じて廃インクタンク100側に排出されることになる。
このようにノズルプレート面61の各ノズル開口列54Aないし54Dから吸引されたインクは、比較的インクの保湿性の低い第1吸収材300,301だけを通じて、排出部240,241から廃インクタンク100側に排出される。従って、インク排出時には、比較的に保湿性の高い第2吸収材303は関係しないので、インクの排出性、すなわちインクのハケ性を確保することができる。ノズルプレート面61のノズル開口列の付近にインク滴が残ってしまう現象が無くなり、各ノズル開口列の各色が混色してしまう現象も少なくなる。
その後、図11のステップST5のように図7のインク吸引装置20が図6の待機位置にもどる。
【0052】
(ノズルプレート面の保湿動作)
次に、図7を参照しながら、ノズルプレート面61の保湿動作について説明する。
図1に示すインクジェット式記録装置10の電源がオフにされた状態のような場合に、長時間ノズルプレート面61が放置される時には、次のようにしてノズルプレート面61の保湿を行う。
図7に示すように、本体80は昇降手段250により上昇されており、本体80の壁部220,221はノズルプレート面61に密着もしくは圧着されている。つまり図9に示すように、壁部220は、1組のノズル開口列54A,54Bを含むノズルプレート面61の領域R1を封止している。壁部221は、対応する2つのノズル開口列54C,54Dを含むノズルプレート面61の領域R2を封止している。
この状態では、吸引ポンプ19は作動していない。第2吸収材303は既にインクを保持していて、第2吸収材303に保持されているインクは第1吸収材300を通じて開口部210,211を通じてそれぞれノズル開口列54A,54Bのノズル開口55A,55Bおよびノズル開口列54C,54Dのノズル開口55C,55Dの保湿を行うことができる。この保湿を行うことにより、各ノズル開口におけるインクのメニスカスを良好に保持して、ノズル開口における乾燥を防ぐことができる。
【0053】
以上のように、図6と図7に示すインク吸引装置20は、インク吸引時におけるインクの排出性を確保することができるとともに、ノズルプレート面の保湿動作時には、ノズル開口の保湿性をも確保することができる。つまり、第1吸収材300,301は、第2吸収材303に比べて保湿性が低くインクハケのよい材料により作られているので、吸収材の目詰まり現象を抑制してインクの吸引力を保持することができる。
また、インクジェット式記録装置が長時間放置された時に、ノズルプレート面61およびノズル開口列の保湿性を確保できる。
【0054】
図10を用いて既に説明したように、吸収材アセンブリ90の第1吸収材300,301と第2吸収材303は、X方向とY方向で形成される平面に沿って横方向に配置されている。このために、従来の上下に積層した形式の吸収材に比べて、図8に示す本体80のZ方向に関する高さも低減することができる。このことから、インク吸引装置20の本体80の高さばかりでなく容積をも小さくできる。図10に示す吸収材アセンブリ90の高さを低減した場合であっても、吸収材アセンブリの90のX方向とY方向における平面での面積を確保することができる。
【0055】
図8に示す開口部210,211と壁部220,221は、図6のノズルプレート面61のノズル開口列54Aと54Bの部分と、ノズル開口列54Cと54Dの部分を含む領域を別々に収容する構造であるので、インクを吸引する時に、ノズルプレート面61のノズル開口列54Aないし54Dのそれぞれの列間の部分にインクが付着しにくい。このために、ノズルプレート面61のクリーニング性の向上および周囲へのインクの汚染の低減が期待できる。
図8に示すように、本体80のE方向から見た平面における面積は、開口部210,211を合わせた開口面積に比べて大きく設定されている。図8と図9の例では、本体80の上部91の面積とZ方向の吸収材の厚さを掛けたものがほぼ図10に示す吸収材アセンブリ90の体積である。
これに対して従来の吸収材では、キャップ部材の開口面積と吸収材の厚さを掛けたものが吸収材の体積である。
【0056】
従来のキャップ部材は、ノズルプレート面のノズル開口列のみならずノズル開口列の間の部分も収容してキャッピングしているが、図6ないし図8に示す本発明の実施形態の本体80は、ノズル開口列54Aと54Bと、ノズル開口列54Cと54Dとの間のノズルプレート面の部分間は封止しない構造になっている。これを実現するために、隣接する2つのノズル開口列54A,54Bおよびノズル開口列54C,54Dに対応する部分に壁部(隔壁とも呼ぶ)220,221が本体80に設けられている。
【0057】
本発明の実施形態では開口部220,221に対応する部分には、第1吸収材300,301が配置されている。この第1吸収材300,301は、上述したように第2吸収材303に対してインクの保湿性が低くなっている。つまり第1吸収材300,301と第2吸収材303は、異なる種類の吸収材であり、材質が異なり、インクの保湿性が異なる。第1吸収材300,301はインクハケの良好な低保湿性のものであり、第2吸収材303はインクの保持性の高いインクハケの悪い高保湿性の材料である。
【0058】
そして第2吸収材303は、容器である本体80の各部分により覆われているのに対して、第1吸収材300,301の表面部は開口部220,221に露出している。そして排出部240,241は、この第1吸収材300,301の裏面部に対応する位置に設けられている。
開口部210と排出部240が対面した位置にあり、開口部211と排出部241が対面した位置にあるので、インク吸引時に、吸引したインクは第1吸収材300,301を通じて第2吸収材303を通さずにスムーズにかつ確実に排出することができるというメリットがある。
【0059】
(他の実施形態)
次に、本発明の別の実施形態について説明する。
図12と図13は、本発明の別の実施形態を示している。
図12と図13に示す実施形態が、図6に示す実施形態と異なるのは、2つのインクカートリッジ3,4が記録ヘッド30に設定されている。記録ヘッド30は、2つのインク経路50および2つのノズル開口列54A,54Bを有している。
【0060】
図12と図13に示すインク吸引装置20の本体680は、2つの隣接するノズル開口列54A,54Bに対応するような形態を有している。本体680は、吸収材アセンブリ690を有している。吸収材アセンブリ690は、第1吸収材300と第2吸収材303を有している。本体680は1つの開口部610を有していて、この開口部610は、壁部620により囲まれている。本体680は、開口部610と反対側の位置、すなわち本体680の底部92側には1つの排出部240を有している。
排出部240はチューブ19Aを通じて吸引ポンプ19に接続されている。本体680は、昇降手段250により上昇することにより、壁部620がノズルプレート面61に密着もしくは圧着できる。これによって、壁部620は隣接するノズル開口列54A,54Bを含むノズルプレート面61の領域を封止可能である。
図12と図13に示す実施形態においても、図6と同様に第1吸収材300の表面300Aは開口部610に露出していて、第1吸収材300の裏面の少なくとも一部分は排出部240に露出している。第2吸収材303は、本体680により覆われている。
【0061】
図14は、本発明のさらに別の実施形態を示している。
図14の実施形態では、記録ヘッド30は合計6つのインクカートリッジ2A,2,3,4,5,5Aを装着している。記録ヘッド30は6つのインク経路50を有していて、6つのノズル開口列54Aないし54Fを有している。各ノズル開口列54Aないし54Fは、ノズル開口55Aないし55Fにより構成されている。
インク吸引装置20は、本体780を有しており、この本体780の中には吸収材アセンブリ790が収容されている。本体780は3つの開口部710,711,712を有している。各開口部710,711,712に対応する位置には、第1吸収材300,301,302が配置されている。第2吸収材303は本体780により覆われた位置にある。第1吸収材300ないし302の表面300Aないし302Aは、それぞれ開口部710ないし712に対応した位置にある。裏面300Bないし302Bは、排出部240ないし242に対応した位置にある。
この実施形態の本体780を使用することにより、隣接するノズル開口列54A,54Bは壁部720により封止でき、隣接するノズル開口列54C,54Dは壁部721により封止でき、さらに隣接するノズル開口列54E,54Fは壁部722により封止することができる。
【0062】
図15は、本発明のさらに別の実施形態を示している。
図15では、記録ヘッド30は、8つのインクカートリッジ2A,2B,2,3,4,5,5A,5Bを有している。記録ヘッド30は、8つのインク経路50とノズル開口列54Aないし54Hを有している。ノズル開口列54Aないし54Hは、それぞれノズル開口55Aないし55Hにより構成されている。
図15の実施形態のインク吸引装置20は、本体880を有している。この本体880は、4つの開口部810ないし813を有している。これらの開口部810ないし813は、4つの壁部820ないし823により囲まれている。吸収材アセンブリ890の第1吸収材300,301,302,302Eは、開口部810ないし813にそれぞれ対応した位置にある。第1吸収材300ないし302Eの表面300Aないし303Aは、それぞれ開口部810ないし813に位置している。裏面300Bないし303Bの少なくとも一部分は、排出部240ないし243にそれぞれ露出している。第2吸収材303は、本体880により覆われている。
【0063】
このように、図12ないし図15の各実施形態においては、カートリッジの数に応じてノズル開口列の数が増えている。ノズル開口列の数に応じてインク吸引装置の形状を変更することができる。図12ないし図15の実施形態におけるインク吸引動作や保湿動作は、図6の実施形態と同様である。
【0064】
図16と図17は、本発明のさらに別の実施形態を示している。
図16は図6の実施形態に似てはいるが、図16に示すインク吸引装置20の本体80が4つの開口部210,210G,211,211Gを有している。各開口部210,210G,211,211Gは、ノズル開口列のそれぞれに対応して形成されている。
つまり、各開口部210ないし211Gは、ノズル開口列54Aないし54Dにそれぞれ対応して1つずつ形成されている。開口部210,210G,211,211Gは、それぞれ壁部220,220G,221,221Gにより囲まれて形成されている。開口部210,210G,211,211Gには、それぞれ第1吸収材300,300G,301,301Gの表面が露出している。第2吸収材303は本体80により覆われている。
【0065】
図17(A)は、本体80および開口部210,210G,211,211Gを示している。図17(B)は図17(A)の本体80をE方向から見た平面図である。図17(B)では、各開口部210,210G,211,211Gが、ノズル開口列54A,54B,54C,54Dに対応していることが示されている。このようにすることで、インク吸引時において、隣接するノズル開口列の異なる色の混色現象がノズルプレート面61において発生しないという大きなメリットがある。しかも、インク吸引時にはノズルプレート面61におけるノズル開口列間の部分でのインクの付着がしにくくなり、クリーニング性の向上や周囲へのインクの汚染の低減が期待できる。
このように図16と図17のような各ノズル開口列に対応して1つずつ開口部を形成する構造は、上述した図12ないし図15の各実施形態においても採用することができるのは勿論である。
【0066】
以上説明したように、本発明の各実施形態では、吸収材アセンブリ90の第1吸収材がキャップ本体とも呼んでいる本体80内におけるインクを排出するための部位であり、第2吸収材がインクの保湿性を確保する部位である。これらの第1吸収材と第2吸収材は、従来のように上下2段重ねにするのではなく、ノズルプレート面61と平行な横方向に配置しているのが特徴的である。
【0067】
図示した実施形態においては、例えばブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクの各インクを使用する4つのインクカートリッジが、キャリッジに装着できるようになっている。このインクカートリッジはこれに限らず、ブラックインク用のインクカートリッジだけを備えているものや、上述したように2つのインクカートリッジを備えていたり、ブラックインクを除いた3色のカラーインク用の3つのインクカートリッジを備えているものや、5つ以上の奇数個のインクカートリッジがキャリッジに装着できるようなものであっても良い。
本発明の本体と第1吸収材および第2吸収材の形状は、図示例に限らず色々な形状を採用することができる。
【0068】
本発明は、インクジェット式記録装置としての上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。さらに、上述の各実施形態は、相互に組み合わせて構成するようにしてもよい。また、本発明は、インクジェット式記録装置に限らず、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等の液体を吐出する液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置、精密ピペットとしての試料噴射装置等にも適用できる。
【符号の説明】
【0069】
2,3,4,5・・・インクカートリッジ、10・・・インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、19・・・吸引ポンプ、20・・・インク吸引装置(液体吸引装置の一例)、30・・・記録ヘッド(液体噴射ヘッドの一例)、54A,54B,54C,54D・・・ノズル開口列、55A,55B,55C,55D・・・ノズル開口、61・・・ノズルプレート面(ノズル面の一例)、80・・・本体、90・・・吸収材アセンブリ、210,211・・・開口部、220,221・・・壁部、240,241・・・排出部、300,301・・・第1吸収材、303・・・第2吸収材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドに密着して前記ノズルから前記液体を吸引して外部に排出したり、前記液体噴射ヘッドに密着して前記ノズルを保湿する液体吸引装置を備える液体噴射装置であって、
前記液体吸引装置は、上面に開口を有する箱形状であって、前記液体噴射ヘッドに密着する本体と、前記本体内に収容された吸収材と、を備え、
前記上面に対して垂直な方向から見たときの前記開口の面積は、前記上面に対して垂直な方向から見たときの吸収材の面積より小さいことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記吸収材は、前記上面と平行な面に沿って配置された第1吸収材と第2吸収材を有し、
前記第1吸収材の上面は前記開口部に対して露出しており、前記第2吸収材の上面は前記本体により覆われて前記開口部に対して露出していないことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−184504(P2010−184504A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128686(P2010−128686)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【分割の表示】特願2004−9173(P2004−9173)の分割
【原出願日】平成16年1月16日(2004.1.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】