説明

液体噴射ヘッドの製造方法、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】ダミー溝6の底面に堆積した電極材料8の電気的分離を、電極分離手段の高精度の位置合わせを行う必要が無く、チャンネルの狭ピッチ化、狭幅化に対応できる液体噴射ヘッド1の製造方法を提供する。
【解決手段】第一ベース基板2の上に圧電体基板3を接合する積層基板形成工程S1と、圧電体基板3を貫通し第一ベース基板2に達する吐出溝5とダミー溝6とを交互に並列に形成する溝形成工程S2と、吐出溝5とダミー溝6の内表面に電極材料8を堆積する電極材料堆積工程S3と、カバープレート9を接合するカバープレート接合工程S4と、第一ベース基板2の一部を除去し、電極材料8を除去する第一ベース基板除去工程S5と、第一ベース基板2に第二ベース基板10を接合してダミー溝6の開口を閉塞する第二ベース基板接合工程S6と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出して被記録媒体に記録する液体噴射ヘッドの製造方法に関し、特に、吐出チャンネルとダミーチャンネルが交互に並列に配列する液体噴射ヘッドの製造方法、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出して文字、図形を描画する、或いは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜を形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。この方式は、インクや液体材料を液体タンクから供給管を介して液体噴射ヘッドに供給し、チャンネルに充填したインクや液体材料をチャンネルに連通するノズルから吐出させる。インクの吐出の際には、液体噴射ヘッドや噴射した液体を記録する被記録媒体を移動させて、文字や図形を記録する、或いは所定形状の機能性薄膜を形成する。この種の液体噴射ヘッドとしてシェアーモードタイプが知られている。シェアーモードタイプは、圧電体基板の表面に吐出チャンネルとダミーチャンネルを交互に形成し、吐出チャンネルとダミーチャンネルの間の隔壁を瞬間的に変形させて吐出チャンネルから液滴を吐出する
【0003】
図8は、特許文献1に記載されるインクジェットヘッドの断面構造を表す。インクジェットヘッド100は吐出チャンネル112とダミーチャンネル111が交互に形成された底壁124と、この底壁124の上面に設置された天壁110を備えている。吐出チャンネル112とダミーチャンネル111の間に圧電側壁103が形成されている。圧電側壁103は上半分の上壁部125と下半分の下壁部126からなり、上壁部125は上方向に分極され、下壁部126は下方向に分極されている。各圧電側壁103の壁面には電極105が形成され、吐出チャンネル112を構成する圧電側壁103の各側面には互いに電気的に接続される電極105Bが形成され、ダミーチャンネル111を構成する圧電側壁103の各側面には互いに電気的に分離する電極105Aが形成されている。インクジェットヘッド100の前面には図示しないノズルプレートが設置され、ノズルプレートには吐出チャンネル112に連通するノズル116が形成されている。
【0004】
インクジェットヘッド100は次のように駆動される。吐出チャンネル112に設置した電極105Bと、吐出チャンネル112の両側に位置する2つのダミーチャンネル111の当該吐出チャンネル112側の側面に形成した電極105Aの間に電圧を印加する。すると、圧電側壁103は吐出チャンネル112の容積を増加する方向に圧電厚み滑り変形する。そして所定時間経過後に電圧の印加が停止され、吐出チャンネル112の容積が増加状態から自然状態となって吐出チャンネル112内のインクに圧力が加えられ、インク滴がノズル116から吐出される。
【0005】
このインクジェットヘッド100は次のように製造される。まず、下方向に分極された圧電セラミックス層に、上方向に分極処理された圧電セラミックス層を接着してアクチュエータ基板102を形成する。次に、アクチュエータ基板102に平行な溝をダイヤモンドカッター等により切削形成して、上壁部125及び下壁部126からなる圧電側壁103を形成する。このように形成した圧電側壁103の側面に、真空蒸着等によって電極105A、105Bを形成する。しかし、ダミーチャンネル111を構成する両圧電側壁103の電極105Aは電気的に分離する必要がある。隣接する吐出チャンネル112を独立して駆動することができるようにするためである。そこで、圧電側壁103の開口側からレーザー装置又はダイヤモンドカッターを用いてダミーチャンネル111の底面に形成された電極に分割溝118を形成し、左右の側壁の電極105Aを電気的に分離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−168094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、分割溝118を形成する際にダミーチャンネル111の一本毎にレーザービームを照射する、或いはダミーチャンネル111の幅よりも薄いダイヤモンドカッターをダミーチャンネル111に挿入して電極を切断するのは多大な時間を要する。また、吐出チャンネル112の狭ピッチ化、ダミーチャンネル111の狭チャンネル化に伴い、レーザービームやダイヤモンドカッターの位置合わせがきわめて難しい。更に、レーザービームがダミーチャンネル111の底面に達しない、或いはレーザービームが圧電側壁103の上面にも照射されてしまう、或いはダイヤモンドカッターの厚さが薄すぎて製造できないという課題が顕在化している。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、レーザービームやダイヤモンドカッターを用いないでダミーチャンネル111の底面に形成された電極を一括して除去する液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、第一ベース基板の上に圧電体基板を接合して積層基板を形成する積層基板形成工程と、前記圧電体基板を貫通し前記第一ベース基板に達する深さを有する吐出チャンネル用の吐出溝とダミーチャンネル用のダミー溝とを交互に並列に形成する溝形成工程と、前記吐出溝及び前記ダミー溝の内表面に電極材料を堆積する電極材料堆積工程と、
前記圧電体基板に前記吐出溝及び前記ダミー溝を覆うようにカバープレートを接合するカバープレート接合工程と、前記カバープレートとは反対側の前記第一ベース基板の一部を除去し、前記ダミー溝の底面に堆積した前記電極材料を除去する第一ベース基板除去工程と、前記第一ベース基板に第二ベース基板を接合する第二ベース基板接合工程と、を備えることとした。
【0010】
また、前記溝形成工程は、前記吐出溝の少なくとも一方の端部を前記圧電体基板の外周よりも内側に形成し、前記ダミー溝を前記圧電体基板の外周まで形成することとした。
【0011】
また、前記積層基板形成工程の後に、前記圧電体基板の表面に樹脂膜から成るパターンを形成する樹脂膜パターン形成工程と、前記電極材料堆積工程の後に、前記樹脂膜を除去し、前記吐出溝と前記ダミー溝の側面に駆動電極を、前記圧電体基板の表面に引出電極をそれぞれ形成する樹脂膜剥離工程と、を備えることとした。
【0012】
また、前記溝形成工程は、前記ダミー溝を前記吐出溝よりも深く形成し、前記第一ベース基板除去工程は、前記吐出溝の下部に前記第一ベース基板の一部を残すこととした。
【0013】
また、前記第一ベース基板は圧電体材料から成り、前記第二ベース基板は前記圧電体材料よりも誘電率の小さい低誘電率材料からなることとした。
【0014】
本発明の液体噴射ヘッドは、第一ベース基板とその上部に接着材を介して接合される圧電体基板を備え、前記圧電体基板を貫通し前記第一ベース基板に達する深さを有する吐出チャンネル用の吐出溝と、前記圧電体基板と前記第一ベース基板を貫通するダミーチャンネル用のダミー溝とが交互に並列に形成される積層基板と、前記積層基板の下部に接合され、前記ダミー溝を閉塞する第二ベース基板と、前記圧電体基板の上部に、前記吐出溝と前記ダミー溝を覆うように接合されるカバープレートと、前記吐出溝の両側面に形成され、互いに電気的に接続される第一駆動電極と、前記ダミー溝の両側面に形成され、前記第一ベース基板の一部を除去することにより互いに電気的に分離された第二駆動電極と、を備えることとした。
【0015】
また、前記第一ベース基板は圧電体材料から成り、前記圧電体基板はその基板面の垂直方向に分極されており、前記第一ベース基板は前記分極方向とは反対方向に分極されていることとした。
【0016】
また、前記第一ベース基板は圧電体材料から成り、前記第二ベース基板は前記圧電体材料よりも誘電率の小さい低誘電率材料から成ることとした。
【0017】
また、前記吐出溝は、前記積層基板の一方の端部から他方の端部の手前まで形成され、前記ダミー溝は、前記一方の端部から前記他方の端部に亘って形成されていることとした。
【0018】
本発明の液体噴射装置は、上記いずれかに記載の液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備えることとした。
【発明の効果】
【0019】
本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、第一ベース基板の上に圧電体基板を接合して積層基板を形成する積層基板形成工程と、圧電体基板を貫通し第一ベース基板に達する深さを有する吐出チャンネル用の吐出溝とダミーチャンネル用のダミー溝とを交互に並列に形成する溝形成工程と、吐出溝及び前記ダミー溝の内表面に電極材料を堆積する電極材料堆積工程と、圧電体基板に吐出溝及びダミー溝を覆うようにカバープレートを接合するカバープレート接合工程と、カバーレートとは反対側の第一ベース基板の一部を除去し、ダミー溝の底面に堆積した電極材料を除去する第一ベース基板除去工程と、第一ベース基板に第二ベース基板を接合する第二ベース基板接合工程と、を備える。
【0020】
これにより、ダミー溝の底面に堆積した電極材料を電気的に分離するために、レーザービームやダイヤモンドカッターの高精度の位置合わせを行う必要がない。また、吐出チャンネルやダミーチャンネルが狭ピッチ化、狭幅化した場合でも電極分離が可能である。更に、多数のダミーチャンネルの電極を一括して分離することができるので製造時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る液体噴射ヘッドの基本的な製造方法を表す工程図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を表す工程図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を説明するための説明図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を説明するための説明図である。
【図5】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を説明するための説明図である。
【図6】本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を説明するための説明図である。
【図7】本発明の第三実施形態に係る液体噴射装置の模式的な分解斜視図である。
【図8】従来公知の液体噴射ヘッドの断面構造を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明に係る液体噴射ヘッドの基本的な製造方法を表す工程図である。まず、積層基板形成工程S1において、第一ベース基板の上に圧電体基板を接合する。圧電体基板としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)やBaTiO3からなるセラミックス基板を使用することができる。第一ベース基板としてPZTセラミックスなどの圧電体材料を使用することができる。また、第一ベース基板として非圧電体材料を使用することができる。圧電体基板と第一ベース基板とは接着剤を介して接合する。圧電体基板は、基板面の法線方向に分極処理を施しておく。第一ベース基板に圧電材料を使用する場合は、圧電体基板の分極方向と反対方向に分極処理を施しておく。
【0023】
次に、溝形成工程S2において、液体を吐出するためのチャンネル構成用の吐出溝と、液体を吐出しないダミーチャンネル構成用のダミー溝を交互に並列に形成する。この場合に、吐出溝とダミー溝を、圧電体基板を貫通し第一ベース基板に達する深さに形成する。分極方向が互いに反対向きの圧電体材料を積層したシェブロンタイプの吐出チャンネルを構成する場合は、第一ベース基板としてPZTセラミックスなどの圧電体材料を使用し、吐出チャンネルの略1/2の深さが圧電体基板と第一ベース基板の境界となるように吐出溝を形成する。なお、第一ベース基板として非圧電体材料を使用した場合も、吐出チャンネルの略1/2の深さが圧電体基板と第一ベース基板の境界となるように吐出溝を形成する。ダミー溝は吐出溝の深さと同程度かそれよりも深く形成する。吐出溝は少なくとも一方の端部が圧電体基板の外周よりも内側まで形成し、ダミー溝は圧電体基板の一方の端部から他方の端部まで、つまり積層基板の外周までストレートに形成することができる。各溝はダイシングブレードを使用して形成することができる。
【0024】
次に、電極材料堆積工程S3において、圧電体基板の第一ベース基板とは反対側の表面(以下、圧電体基板の上面という。)と吐出溝及びダミー溝の内表面に電極材料を堆積する。金属材料をスパッタリング法や蒸着法により堆積することができる。また、メッキ法により金属材料を堆積してもよい。次に、カバープレート接合工程S4において、圧電体基板の上面に吐出溝やダミー溝を覆うようにカバープレートを接合する。カバープレートとして、圧電体材料と同じ材料を使用することができる。下部の圧電体基板と同じ材料を使用すれば熱膨張率が同じなので温度変化に対して反りや割れの発生を抑えることができる。また、カバープレートとして、後に説明する第二ベース基板と同じ材料を使用することができる。これにより、圧電体材料を両側から同じ材料の基板により挟むので、この場合も熱膨張差による基板の反りを防止することができる。
【0025】
次に、第一ベース基板除去工程S5において、カバープレートが接合された側とは反対側の第一ベース基板の一部を除去し、ダミー溝の底面に堆積した電極材料を除去する。これにより、ダミー溝の両側面に堆積した電極材料を電気的に分割することができる。第一ベース基板の一部を、カバープレートとは反対側の第一ベース基板の下面側からグラインダーや平面研削盤を用いて研削し又は/及び砥粒を用いて研磨して除去することができる。その結果、電極材料の電気的分割は複数のダミー溝に亘って一括して行うことができる。即ち、この電極材料を除去するのに高精度の位置合わせと必要としない。また、吐出チャンネルやダミーチャンネルの狭ピッチ化、狭チャンネル化に伴いダミーチャンネルの溝幅を狭く形成する場合でも、ダミー溝の底面に堆積した電極材料を容易に除去することができる。更に、圧電体基板の上面にカバープレートを接合したので、ダミー溝の底面が開口しても隣接するダミー溝の間の隔壁や吐出溝が脱落することがない。なお、ダミー溝と吐出溝の両方の底面を開口させるように予め吐出溝を深く形成することができる。しかし、吐出溝の底面下部を除去しないで残したほうが第一ベース基板の一部除去の際に溝と溝との間の隔壁が破壊され難く、作業性に優れている。
【0026】
次に、第二ベース基板接合工程S6において、第一ベース基板に第二ベース基板を接合してダミー溝の開口を閉塞する。第二ベース基板として第一ベース基板と同じ材料を使用することができる。例えば、第一ベース基板としてPZTセラミックスを使用した場合は第二ベース基板も同じPZTセラミックスを使用することができる。同じ材料を使用すれば熱膨張率が同じなので温度変化に対して反りや割れの発生を抑えることができる。また、第二ベース基板として圧電材料よりも誘電率の小さい低誘電率材料を使用することができる。これにより、隣接するチャンネル間の容量カップリングにより駆動信号が隣接する隔壁に漏洩して吐出特性を変化させることを低減することができる。
【0027】
これにより、ダミー溝の底面に堆積した電極材料を除去するための高精度の位置合わせが不要であり、吐出チャンネルやダミーチャンネルの狭ピッチ化、狭幅化に対応することができ、かつ製造時間を短縮することができる。以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。
【0028】
(第一実施形態)
図2は、本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を表す工程図である。本実施形態は、シェブロンタイプの液体噴射ヘッドの製造方法である。図1と異なる部分は、溝形成工程S2の前に樹脂膜パターン形成工程S7が挿入され、電極材料堆積工程S3の後に樹脂膜剥離工程S8が挿入されている。これは、リフトオフ法により電極を形成するためである。更に、第二ベース基板接合工程S6の後にノズルプレート接合工程S9及びフレキシブル基板接合工程S10を備えている。以下、図3、図4及び図5を用いて具体的に説明する。
【0029】
図3(a)〜図5(p)は、本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を説明するための説明図である。図3(a)は、積層基板形成工程S1の後の積層基板4の断面模式図である。圧電体基板3を第一ベース基板2の上に接着剤を介して接合する。圧電体基板3としてPZTセラミックス基板を使用する。第一ベース基板2として圧電体基板3と同じPZTセラミックス基板を使用する。圧電体基板3と第一ベース基板2は基板面の垂直方向で互いに反対方向に分極処理が施されている。
【0030】
図3(b)は、樹脂膜パターン形成工程S7の後の積層基板4の断面模式図である。積層基板形成工程S1の後にドライフィルムから感光性樹脂膜を積層基板4の上面に形成する。次に、露光及び現像工程を通して感光性樹脂膜を選択的に除去し、樹脂膜12のパターンを形成する。樹脂膜12のパターンは、圧電体基板3の上面に引出電極等の電極パターンをリフトオフ法により形成するために設けており、電極を形成する領域からは樹脂膜12を除去し、電極を形成しない領域には樹脂膜12を残す。
【0031】
図3(c)及び(d)は、溝形成工程S2の後の積層基板4の断面模式図である。図3(c)が溝に直交する方向の断面模式図であり、図3(d)が吐出溝5の溝方向の断面模式図である。図3(c)に示すように、吐出チャンネル構成用の吐出溝5とダミーチャンネル構成用のダミー溝6とを交互に並列に形成する。吐出溝5は、圧電体基板3を貫通し、第一ベース基板2の深さが圧電体基板3の厚さと同程度となるように形成する。ダミー溝6は、吐出溝5よりも深く形成する。ここで、吐出溝5及びダミー溝6の溝幅は20μm〜50μmであり、圧電体基板3の厚さは100μm〜200μmであり、第一ベース基板2の厚さは500μm〜800μmである。
【0032】
図3(d)に示すように、吐出溝5は積層基板4の前方端FEから後方端REの手前まで形成する。ダミー溝6は積層基板4の前方端FEから後方端REまでストレートに形成する。吐出溝5の後端部は溝を切削するダイシングブレードの外形形状となる。
【0033】
図3(e)及び(f)は、電極材料堆積工程S3の後の積層基板4の断面模式図である。図3(e)が溝に直交する方向の断面模式図であり、図3(f)が吐出溝5の溝方向の断面模式図である。積層基板4の上方から例えばスパッタリング法により電極材料8を堆積する。電極材料8として、アルミニウム、クロム、ニッケル、チタン等の金属材料や半導体材料を用いることができる。電極材料8は、スパッタリング法の他に蒸着法やめっき法により堆積することができる。図3(e)に示すように、電極材料8は吐出溝5やダミー溝6の側面や底面に堆積している。
【0034】
図4(g)及び(h)は、樹脂膜剥離工程S8の後の積層基板4の断面模式図である。図4(g)が溝に直交する方向の断面模式図であり、図4(h)が吐出溝5の溝方向の断面模式図である。樹脂膜12を積層基板4の上面から剥離することにより、その上に堆積した電極材料8も剥離する。これにより、吐出溝5及びダミー溝6の側面に駆動電極13が形成され、後方端RE側の積層基板4の表面に引出電極14a、14bが形成される。引出電極14aは吐出溝5の端部から後方端REの手前まで延在し、吐出溝5の側面に形成された駆動電極13に電気的に接続する。引出電極14bは後方端REと引出電極14aの間の積層基板4の表面に設置され、吐出溝5を挟むダミー溝6の、吐出溝5側の側面に形成された2つの駆動電極13を電気的に接続する。
【0035】
図4(i)及び(j)は、カバープレート接合工程S4の後の積層基板4の断面模式図である。図4(i)が溝に直交する方向の断面模式図であり、図4(j)が吐出溝5の溝方向の断面模式図である。吐出溝5及びダミー溝6を覆うようにカバープレート9を積層基板4の上面に接着剤を介して接合する。カバープレート9は液体供給室16とこれに連通するスリット17を備えている。吐出溝5はスリット17を介して液体供給室16に連通している。ダミー溝6は液体供給室16に連通しない。そのため、液体供給室16に供給される液体は吐出溝5に供給される。
【0036】
図4(k)及び(l)は、第一ベース基板除去工程S5の後の積層基板4の断面模式図である。図4(k)が溝に直交する方向の断面模式図である、図4(l)が吐出溝5の溝方向の断面模式図である。カバープレート9が接合された側とは反対側の第一ベース基板2の一部を除去し、複数のダミー溝6の底面を開口(開口11)させてダミー溝6の底面に堆積した電極材料8(又は底面に堆積した駆動電極13b)を一括して除去する。この場合に、吐出溝5の底面は開口させないでその下部に第一ベース基板2を残す(吐出溝5の両側面の駆動電極13aは電気的に接続されている。)。これにより、ダミー溝6の両側面に形成した駆動電極13bを同時に電気的に分離することができる。また、吐出溝5とダミー溝6の間の隔壁18はカバープレート9の底面に接合するので、第一ベース基板2の一部を除去してダミー溝6の底面を開口したときに、隔壁18が脱落することがない。また、吐出溝5の底面の下部に第一ベース基板2を残したので、第一ベース基板2の除去時に吐出溝5が破損することを防止することができる。なお、第一ベース基板2をグラインダーや平面研削盤を用いて研削し又は/及び砥粒を用いて研磨してその一部を除去することができる。
【0037】
図5(m)及び(n)は、第二ベース基板接合工程S6の後の積層基板4の断面模式図である。図5(m)が溝に直交する方向の断面模式図であり、図5(n)が吐出溝5の溝方向の断面模式図である。第一ベース基板2に第二ベース基板10を接合してダミー溝6の開口11(図4(k)を参照。)を閉塞する。第二ベース基板10は圧電体材料や圧電体材料よりも誘電率の小さい酸化物や窒化物から成る低誘電率材料を使用することができる。低誘電率材料を使用すれば、隣接する吐出溝5間の容量結合を小さく抑えることができる。そのため、隣接する隔壁18aを駆動する駆動信号が第二ベース基板10を介して隔壁18bに漏洩することを防止することができ、漏洩信号により吐出特性が変動することを低減させることができる。
【0038】
図5(o)は、ノズルプレート接合工程S9の後の積層基板4の断面模式図であり、吐出溝5の溝方向の断面を表す。第二ベース基板10、積層基板4及びカバープレート9からなる積層構造の前方端FEの端面にノズルプレート19を接合する。ノズルプレート19にはノズル21が形成されている。ノズル21は吐出溝5に対応する位置に形成され、吐出溝5に連通する。
【0039】
図5(p)は、フレキシブル基板接合工程S10の後の積層基板4の断面模式図である。図示しない配線電極を形成したフレキシブル基板20を後方端RE近傍の表面に導電材を介して接合し、引出電極14と図示しない配線電極とを電気的に接続する。これにより、図示しない制御回路から配線電極及び引出電極14を介して吐出溝5及びダミー溝6の側面に形成した駆動電極13bに駆動信号を供給することができる。
【0040】
液体噴射ヘッド1をこのように製造したので、高精度の位置合わせを行う必要がなく、ダミー溝6の両側面の駆動電極を一括して電気的に分離することができる。そのため、チャンネルの狭ピッチ化、狭チャンネル化に対応することができる。なお、上記実施形態において、ダミー溝6を吐出溝5より深く形成し、ダミー溝6の底面の開口11のみ削除したが本発明はこれに限定されない。吐出溝5及びダミー溝6ともに深く形成し、吐出溝5の底面の電極材料とダミー溝6の底面の電極材料をともに削除しても良い。この場合に、吐出溝5の両側面に堆積した電極材料(又は駆動電極13)は引出電極14a又は吐出溝5の円弧状の傾斜底面に堆積した電極材料により電気的に接続される。
【0041】
(第二実施形態)
図6は、本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッド1の分解斜視図である。本発明の液体噴射ヘッド1の製造方法により形成した。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0042】
図6に示すように、液体噴射ヘッド1は、第一ベース基板2の上に接合した圧電体基板3からなる積層基板4と、積層基板4の下部に接合した第二ベース基板10と、積層基板4の上面に接合したカバープレート9と、積層基板4の前方端FEに接合したノズルプレート19と、積層基板4の後方端RE近傍の上面に接着したフレキシブル基板20を備えている。圧電体基板3は第一ベース基板2の上に接着剤を介して接合されている。積層基板4の表面には、圧電体基板3を貫通し、第一ベース基板2に達する吐出溝5とダミー溝6が交互に並列に形成されている。吐出溝5は積層基板4の前方端FEから後方端REの手前まで形成されている。ダミー溝6は積層基板4の前方端FEから後方端REに亘ってストレートに形成されている。吐出溝5の底面下部には第一ベース基板2の一部が残っている。ダミー溝6は吐出溝5よりも深く形成されている。
【0043】
カバープレート9は積層基板4の上面に吐出溝5とダミー溝6を覆うように接合されている。カバープレート9は、液体供給室16と、これに連通し各吐出溝5に液体を供給するためのスリット17を備えている。吐出溝5の両側面には駆動電極13aが形成され、互いに電気的に接続されている。ダミー溝6の両側面に形成した駆動電極13bは、第一ベース基板2の下部を除去することにより電気的に分離されている。第一ベース基板2の一部の除去により開口したダミー溝6の底部は第二ベース基板10により閉塞されている。
【0044】
液体噴射ヘッド1は、更に、積層基板4の前方端FEの端面に接合されたノズルプレート19と、積層基板4の後方端RE近傍の表面に接合されたフレキシブル基板20を備えている。ノズルプレート19は吐出溝5に連通するノズル21を備えている。フレキシブル基板20は積層基板4の後方端RE近傍の表面に形成される引出電極14と電気的に接続する図示しない配線電極を備えている。
【0045】
液体噴射ヘッド1は次のように動作する。液体タンクから液体供給室16に液体が供給されると、スリット17を介して各吐出溝5に液体が充填される。吐出溝5の両側面に形成された駆動電極13aは、引出電極14a及びフレキシブル基板20に形成した配線電極を介してGNDに接続される。制御回路から供給される駆動信号がフレキシブル基板20に形成した配線電極及び引出電極14bを介してダミー溝6の側面に形成した駆動電極13bに与えられると隔壁18は変形し、吐出溝5に充填された液体がノズル21から吐出される。これにより、被記録媒体に液体を記録する。
【0046】
液体噴射ヘッド1はこの構成により、レーザービームやダイヤモンドカッターを使用することなくダミー溝6の底面に堆積した電極材料を除去することができるので、吐出チャンネルやダミーチャンネルの狭ピッチ化、狭幅化が容易になり、高密度に配列したノズルの液体噴射ヘッド1を提供することができる。特に溝幅が20μm〜50μmの高密度液体噴射ヘッド1に好適である。なお、上記実施形態において、第一ベース基板2は圧電体基板3と同じ圧電体材料を使用することができる。この場合に、圧電体基板3はその表面に垂直方向に分極し、第一ベース基板2は圧電体基板3の分極方向と反対方向に分極する。これにより、シェブロンタイプの液体噴射ヘッド1を構成することができる。また、第二ベース基板10を圧電体材料よりも誘電率の小さい低誘電率材料を使用することができる。これにより、隣接する隔壁18の間の容量結合が低下し、駆動信号が漏洩することを低減させることができる。また、吐出溝5をダミー溝6と同程度に深く形成し、第二ベース基板10により吐出溝5とダミー溝6の底部を閉塞するように構成することができる。
【0047】
(第三実施形態)
図7は、本発明の第三実施形態に係る液体噴射装置50の模式的な斜視図である。本液体噴射装置50は、上記第一又は第二実施形態で説明した液体噴射ヘッド1を使用している。液体噴射装置50は、液体噴射ヘッド1、1’を往復移動させる移動機構63と、液体噴射ヘッド1、1’に液体を供給する液体供給管53、53’と、液体供給管53、53’に液体を供給する液体タンク51、51’を備えている。各液体噴射ヘッド1、1’は、液体を吐出させる吐出チャンネルと、この吐出チャンネルに液体を供給する液体供給室と、液体供給室に液体を供給する図示しない圧力緩衝器を備えている。
【0048】
具体的に説明する。液体噴射装置50は、紙等の被記録媒体54を主走査方向に搬送する一対の搬送手段61、62と、被記録媒体54に液体を吐出する液体噴射ヘッド1、1’と、液体タンク51、51’に貯留した液体を液体供給管53、53’に押圧して供給するポンプ52、52’と、液体噴射ヘッド1、1’を主走査方向と直交する副走査方向に走査する移動機構63等を備えている。
【0049】
一対の搬送手段61、62は副走査方向に延び、ローラ面を接触しながら回転するグリッドローラとピンチローラを備えている。図示しないモータによりグリッドローラとピンチローラを軸周りに移転させてローラ間に挟み込んだ被記録媒体54を主走査方向に搬送する。移動機構63は、副走査方向に延びた一対のガイドレール56、57と、一対のガイドレール56、57に沿って摺動可能なキャリッジユニット58と、キャリッジユニット58を連結し副走査方向に移動させる無端ベルト59と、この無端ベルト59を図示しないプーリを介して周回させるモータ60を備えている。
【0050】
キャリッジユニット58は、複数の液体噴射ヘッド1、1’を載置し、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類の液滴を吐出する。液体タンク51、51’は対応する色の液体を貯留し、ポンプ52、52’、液体供給管53、53’を介して液体噴射ヘッド1、1’に供給する。
【0051】
液体噴射装置50の制御部は、各液体噴射ヘッド1、1’に駆動信号を与えて各色の液滴を吐出させる。制御部は、液体噴射ヘッド1、1’から液体を吐出させるタイミング、キャリッジユニット58を駆動するモータ60の回転及び被記録媒体54の搬送速度を制御して、被記録媒体54上に文字や図形や任意のパターンを記録する。
【符号の説明】
【0052】
1 液体噴射ヘッド
2 第一ベース基板
3 圧電体基板
4 積層基板
5 吐出溝
6 ダミー溝
8 電極材料
9 カバープレート
10 第二ベース基板
11 開口
12 樹脂膜
13 駆動電極
14 引出電極
18 隔壁
19 ノズルプレート
20 フレキシブル基板
21 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一ベース基板の上に圧電体基板を接合して積層基板を形成する積層基板形成工程と、
前記圧電体基板を貫通し前記第一ベース基板に達する深さを有する吐出チャンネル用の吐出溝とダミーチャンネル用のダミー溝とを交互に並列に形成する溝形成工程と、
前記吐出溝及び前記ダミー溝の内表面に電極材料を堆積する電極材料堆積工程と、
前記圧電体基板に前記吐出溝及び前記ダミー溝を覆うようにカバープレートを接合するカバープレート接合工程と、
前記カバープレートとは反対側の前記第一ベース基板の一部を除去し、前記ダミー溝の底面に堆積した前記電極材料を除去する第一ベース基板除去工程と、
前記第一ベース基板に第二ベース基板を接合する第二ベース基板接合工程と、を備える液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記溝形成工程は、前記吐出溝の少なくとも一方の端部を前記圧電体基板の外周よりも内側に形成し、前記ダミー溝を前記圧電体基板の外周まで形成する請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記積層基板形成工程の後に、前記圧電体基板の表面に樹脂膜から成るパターンを形成する樹脂膜パターン形成工程と、
前記電極材料堆積工程の後に、前記樹脂膜を除去し、前記吐出溝と前記ダミー溝の側面に駆動電極を、前記圧電体基板の表面に引出電極をそれぞれ形成する樹脂膜剥離工程と、を備える請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記溝形成工程は、前記ダミー溝を前記吐出溝よりも深く形成し、
前記第一ベース基板除去工程は、前記吐出溝の下部に前記第一ベース基板の一部を残す請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記第一ベース基板は圧電体材料から成り、前記第二ベース基板は前記圧電体材料よりも誘電率の小さい低誘電率材料からなる請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
第一ベース基板とその上部に接着材を介して接合される圧電体基板を備え、前記圧電体基板を貫通し前記第一ベース基板に達する深さを有する吐出チャンネル用の吐出溝と、前記圧電体基板と前記第一ベース基板を貫通するダミーチャンネル用のダミー溝とが交互に並列に形成される積層基板と、
前記積層基板の下部に接合され、前記ダミー溝を閉塞する第二ベース基板と、
前記圧電体基板の上部に、前記吐出溝と前記ダミー溝を覆うように接合されるカバープレートと、
前記吐出溝の両側面に形成され、互いに電気的に接続される第一駆動電極と、
前記ダミー溝の両側面に形成され、前記第一ベース基板の一部を除去することにより互いに電気的に分離された第二駆動電極と、を備える液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記第一ベース基板は圧電体材料から成り、
前記圧電体基板はその基板面の垂直方向に分極されており、前記第一ベース基板は前記分極の方向とは反対方向に分極されている請求項6に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記第一ベース基板は圧電体材料から成り、
前記第二ベース基板は前記圧電体材料よりも誘電率の小さい低誘電率材料から成る請求項6又は7に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記吐出溝は、前記積層基板の一方の端部から他方の端部の手前まで形成され、
前記ダミー溝は、前記一方の端部から前記他方の端部に亘って形成されている請求項6〜8のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、
前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、
前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備える液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−171290(P2012−171290A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37346(P2011−37346)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】