説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】流路形成基板の取り数を増やして液体噴射ヘッドのコストの低減を図ることができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】液体噴射ヘッドは、複数のノズル21のそれぞれに連通する圧力発生室12が形成された流路形成基板と、ノズル21を有し、流路形成基板に固定されるノズルプレート20と、流路形成基板を収容するケース部材30と、を具備し、ケース部材30には、流路形成基板が収納される第1凹部31と、流路形成基板の圧力発生室12に対向し、ノズルプレート20により封止されて各圧力発生室12に共通する液体貯留部を構成する第2凹部32とが形成されると共に、収納された流路形成基板と第1凹部31の側面との間隙に連通する接着剤導入孔35が形成され、間隙の第2凹部32との接続部は、接着剤導入孔35から導入された接着剤により埋設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を噴射する液体噴射ヘッドの代表例であるインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、長手方向に沿い多数の圧力発生室が形成された流路形成基板と、流路形成基板の一方面側に前記各圧力発生室に対応させて設けられた圧電アクチュエーターとを具備し、各圧電アクチュエーターの変位によって圧力発生室内に圧力を付与することで、各ノズルからインク滴を噴射させるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−212478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この流路形成基板は、シリコン単結晶基板である流路形成基板用ウェハーに多数個を一度に形成した後、それぞれを切り出すことにより形成している。このため、流路形成基板の小型化が望まれている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、各圧力発生室に共通するインク貯留部であるマニホールドを流路形成基板の一部として形成しているため、流路形成基板が圧力発生室の並設方向とは直交する方向において大きくなってしまい、小型化が難しいという問題がある。
【0006】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドに限定されず、他のデバイスに用いられる液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、流路形成基板の取り数を増やして液体噴射ヘッドのコストの低減を図ることができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体噴射ヘッドは、複数のノズルのそれぞれに連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、前記ノズルを有し、前記流路形成基板に固定されるノズルプレートと、前記流路形成基板を収容するケース部材と、を具備し、前記ケース部材には、前記流路形成基板が収納される第1凹部と、前記流路形成基板の前記圧力発生室に対向し、前記ノズルプレートにより封止されて各圧力発生室に共通する液体貯留部を構成する第2凹部とが形成されると共に、収納された前記流路形成基板と前記第1凹部の側面との間隙に連通する接着剤導入孔が形成され、前記間隙の前記第2凹部との接続部は、前記接着剤導入孔から導入された接着剤により埋設されていることを特徴とする。
本発明では、液体貯留部をケース部材及びノズルプレートで封止し、流路形成基板の取り数を増やして液体噴射ヘッドのコストの低減を図ることができるようにし、かつ、液体貯留部に気泡が溜まりにくいように、液体貯留部が圧力発生室に対向している。この場合に、第1凹部と流路形成基板との間隙にインクが侵入してしまうのを防止すべく、接着剤を接着剤導入孔から吸引し、これにより接着剤で液体貯留部を封止している。
【0009】
前記ノズルプレートに形成されたノズルのうち、ノズルが並設されてなるノズル列の最端部に位置するノズルが前記接着剤で埋設されており、該ノズルが連通する圧力発生室には、圧力発生室に圧力を発生させる圧力発生手段が形成されていないことが好ましい。このように、本発明では高精度に形成されたダミーノズルを用いて接着剤の吸引を行うことができる。
【0010】
本発明の液体噴射装置は、前記した液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする。本発明では、流路形成基板の取り数を増やして液体噴射ヘッドのコストの低減を図ることができる液体噴射ヘッドを用いていることで、コストの低減を図ることができる。
【0011】
本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、複数のノズルのそれぞれに連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、前記ノズルを有し、前記アクチュエーター基板に固定されるノズルプレートと、前記流路形成基板を収容するケース部材と、を具備し、前記ケース部材には、前記流路形成基板が収納される第1凹部と、前記流路形成基板の前記圧力発生室に対向し、前記ノズルプレートにより封止されて各圧力発生室に共通する液体貯留部を構成する第2凹部とが形成されると共に、収納された前記流路形成基板と前記第1凹部の側面との間隙に連通する接着剤導入孔が形成された液体噴射ヘッドの製造方法であって、該接着剤導入孔から導入された接着剤を接着剤吸引孔を介して吸引することで、収納された前記流路形成基板と前記第1凹部の側面との間隙の前記第2凹部との接続部を接着剤により埋設することを特徴とする。このように、本発明では、接着剤により前記第1凹部の側面との間隙の前記第2凹部との接続部を接着剤により埋設することで、液体貯留部をケース部材及びノズルプレートで封止し、流路形成基板の取り数を増やして液体噴射ヘッドのコストの低減を図ることができるようにし、かつ、液体貯留部に気泡が溜まりにくいように、液体貯留部が圧力発生室に対向している液体噴射ヘッドで、簡易に、かつ正確に封止を行うことができる。
【0012】
前記接着剤を吸引する際に、前記液体貯留部の圧力と、前記接着剤吸引孔の圧力との圧力差を検出し、検出された圧力差が所定値以上となった場合には、前記間隙の前記第2凹部との接続部が接着剤により埋設されたと判断して前記接着剤の吸引を停止することが好ましい。このように接着剤の吸引を行うことで、簡易に、かつ、より正確に封止を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドを示す分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドを示す断面図及びその一部拡大図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの一部を下方から示す分解斜視図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの一部拡大下面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの一部拡大斜視図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの一部拡大下面図である。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す一部拡大下面図である。
【図8】実施形態1に係る記録ヘッドにおける吸引装置を示すブロック図である。
【図9】一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1に示すように、液体噴射ヘッドであるインクジェット式記録ヘッド1は、アクチュエーター基板11と、連通板15と、ノズルプレート20と、ケース部材30とで構成されている。
【0015】
アクチュエーター基板11は、図2(a)に示すように、流路形成基板10及び接続基板40からなる。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設された列が2列形成されている。また流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向の一端側にはインク供給路14が設けられている。図2(b)に示すように、流路形成基板10の一方の面には弾性膜50が形成されており、圧力発生室12及びインク供給路14の一方面はこの弾性膜50によって構成されている。なお、本発明における流路形成基板には、アクチュエーター基板も含まれる。
【0016】
流路形成基板10の開口面側(弾性膜50とは反対側)には、連通板15が接合されている。連通板15には、各圧力発生室12に連通する複数のノズル21が穿設されたノズルプレート20が接合されている。連通板15には、圧力発生室12とノズル21とを繋ぐ連通路16が設けられている。連通板15は、流路形成基板10よりも大きな面積を有し、ノズルプレート20は流路形成基板10よりも小さい面積を有する。このようにノズルプレート20の面積を比較的小さくすることでコストの削減を図ることができる。特に、ノズルプレート20の表面に撥水性を有する撥水膜が設けられている場合には、高価な撥水膜の面積を低減させることができるので、顕著なコスト低減効果が得られる。
【0017】
また、図3に示すように、ノズルプレート20には、ノズル21が列設されてなる列とは離間して複数の接着剤吸引孔22(詳しくは後述する)が設けられている。さらに、連通板15には、接着剤吸引孔22に連通する接着剤吸引路17が連通路16が列設されてなる列とは離間して設けられている。この接着剤吸引孔22及び接着剤吸引路17は、列設された圧力発生室12からなる圧力発生室列の最端部に位置する圧力発生室12aに連通している。なお、本実施形態では、ノズルプレート20には連通板15が含まれていても良い。
【0018】
流路形成基板10に形成された弾性膜50上には、さらに絶縁体膜55が形成されている。この絶縁体膜55上には、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とからなる圧電アクチュエーター(圧力発生手段)300が設けられている。本実施形態では、第1電極60が複数の圧電アクチュエーター300に共通する共通電極として機能し、第2電極80が各圧電アクチュエーター300で独立する個別電極として機能する。各圧電アクチュエーター300は、各圧力発生室12に対応して形成されており、この圧電アクチュエーター300により圧力発生室12に圧力が発生する。また、この圧電アクチュエーター300は、列設された圧力発生室12からなる圧力発生室列の端部に位置する圧力発生室12aには対応して形成されていない。即ち、圧力発生室12aはダミーであり、この圧力発生室12aに連通するノズルもダミーノズルであり、このノズルが後述する接着剤吸引孔22として機能する。
【0019】
また第2電極80には、リード電極90の一端がそれぞれ接続されている。リード電極90の他端には、駆動回路120が設けられた配線基板121が接続されている。
【0020】
流路形成基板10の圧電アクチュエーター300側の面には、流路形成基板10と略同一の大きさを有する接続基板40が接合されている。接続基板40は、圧電アクチュエーター300を保護するための空間である保持部41を有する。また接続基板40には貫通孔42が設けられている。リード電極90の他端側は、この貫通孔42内に露出するように延設され、リード電極90と配線基板121とが貫通孔42内で電気的に接続されている。
【0021】
また、このような構成のアクチュエーター基板11には、複数の圧力発生室12に連通するマニホールドをアクチュエーター基板11と共に画成するケース部材30が固定されている。ケース部材30は、平面視において上述した連通板15と略同一形状を有し、接続基板40に接着剤によって固定されると共に、上述した連通板15にも接着剤によって固定されている。具体的には、図3に示すように、ケース部材30は、接続基板40側にアクチュエーター基板11が収容される深さの第1凹部31を有する。この第1凹部31の幅は、アクチュエーター基板11の幅と略同一である。また、ケース部材30には、第1凹部31に連続して第1凹部31よりも深い第2凹部32が形成されている。第2凹部32は、第1凹部31の圧力発生室12の並設方向(以下第1方向とする)に長い長辺にそれぞれ設けられている。
【0022】
ケース部材30の第1凹部31にアクチュエーター基板11が収容された状態で第2凹部32の開口面が連通板15によって封止されている。これにより、流路形成基板10の外周部には、ケース部材30と連通板15とによってマニホールド100が画成されている。このようにマニホールド100がケース部材30と連通板15とによって画成されることで、流路形成基板10を第1方向とは直交する方向において流路形成基板10がマニホールドを形成する場合に比べて短く形成することができる。これにより、流路形成基板10の取り数を増やしてインクジェット式記録ヘッドのコストの低減を図ることができる。
【0023】
マニホールド100は、圧力発生室列の圧力発生室12のうち、アクチュエーター300が絶縁体膜55を介して形成された各圧力発生室12に共通するように形成されている。即ち、各第2凹部32は、第1凹部31にアクチュエーター基板11が収容された状態で、圧力発生室12が形成された領域に対向して形成されており、第1凹部31よりも第1方向において短く、第1凹部31の第1方向における端部には第2凹部が形成されていない。このように形成されることで、マニホールド100の第1方向における端部に気泡が溜まりにくい。
【0024】
即ち、インクの流動はインクのノズルからの吐出により行われるものであるから、圧力発生室へのインクの第1凹部の端部はアクチュエーター基板とケースヘッドの接合に用いられている領域であるので、マニホールドが第1凹部の端部に臨む領域まで設けられていると、この領域ではインクの流動がないために気泡が溜まりやすい。この気泡が成長してインクの流動を妨げるという問題が考えられる。そこで、本実施形態では、第2凹部32をアクチュエーター300が絶縁体膜55を介して形成された圧力発生室12に臨むように形成し、マニホールド100内でインクの流動がない領域を形成しないように構成している。
【0025】
また、このマニホールド100にインクを導入するためのインク導入孔33が、ケース部材30の第2凹部32が形成された面とは逆側からマニホールド100に連通するように設けられている。
【0026】
なおケース部材30の第2凹部32には、凹形状を有する空間部45がマニホールド100に対向して形成されている。またケース部材30の第2凹部32の底面には、封止膜46が設けられており、この封止膜46でマニホールド100から隔離された空間部45が形成されている。これにより、マニホールド100のケース部材30側の一部は、封止膜46のみで封止された撓み変形可能な可撓部47となっている。なお、この封止膜46については、説明のため図1及び図3では省略しており、また、図2では図示しなかった固定部材によりケース部材30で封止されている。
【0027】
ここで、本実施形態におけるケース部材30には、第1凹部31とアクチュエーター基板11との間隙に連続する接着剤導入孔35が形成されている。接着剤導入孔35は、アクチュエーター基板11側の開口が連通板15で封止され、アクチュエーター基板11とは逆側のインク導入開口36(図5参照)は開放されている。
【0028】
このような接着剤導入孔35を有することで、本実施形態では、アクチュエーター基板11と第1凹部31と間隙に接着剤が埋設される。即ち、単にアクチュエーター基板11の接続基板40のケース部材30側に接着剤を塗布してアクチュエーター基板11をケース部材30に接合すると、第1凹部31はアクチュエーター基板11を収納するためにアクチュエーター基板11よりも若干大きく形成されているので、第1凹部31とアクチュエーター基板11との間には間隙が生じる。この間隙にインクが第2凹部32の第1方向における端部から流入してしまい、この場所に滞留してしまうことが考えられる。このような間隙への流入は、本実施形態のように気泡のマニホールドでの滞留を抑制すべく、マニホールドを構成する第2凹部32を第1凹部31よりも短く形成することから生じる。
【0029】
そこで、本実施形態では、ケース部材30に、第1凹部31に連通する接着剤導入孔35を設けて図5に示すようにインク導入開口36から接着剤導入孔35に接着剤を導入して、この接着剤を接着剤吸引孔22から詳しくは後述するように吸引する。吸引により、図6に示すように接着剤37が接着剤導入孔35から流動して第1凹部31の先端における第1凹部31とアクチュエーター基板11との間隙に移動し固化することで、この間隙を接着剤37で埋めることができる。このように間隙を接着剤37で埋めることで、この間隙にインクが入り込むことを防止することが可能である。特に、このような第1凹部31とアクチュエーター基板11との間隙は部品寸法の交差だけでなく組み立て公差もあるため、インクジェット式記録ヘッド1毎に間隙幅が異なるから、接着剤のような流動性の高い部材で埋めることが好ましい。
【0030】
さらに接着剤吸引孔22から接着剤37を吸引することで、第1凹部31とアクチュエーター基板11との間隙と第2凹部32との接続部にも接着剤37は流入し埋設される。このように構成することで、マニホールド100の端部を接着剤37により封止することができ、マニホールド100からのインクが第1凹部31の先端側に流れ込むことを防止することが可能である。なお、図5及び図6では説明のため連通板15及びノズルプレート20は省略した。さらに、このように接着剤37をインクジェット式記録ヘッド1の端部まで移動させることができるので、ケース部材30とアクチュエーター基板11の端部まで接着剤37でしっかりと固定することができる。
【0031】
特に、各マニホールド100に異なる発色のインクを導入した場合に、このようにインクが第1凹部31の先端側に流れ込むことを防止すれば、インクが他方のマニホールド100に混ざり込むことがなく、印刷性能の低下を抑制することが可能である。
【0032】
具体的には、接着剤導入孔35は、第1凹部31の長辺の第1方向における端部、即ちケース部材30の第2凹部32が形成されていない領域である第1凹部31とアクチュエーター基板11との間隙にそれぞれ設けられている。接着剤導入孔35の数は、第1凹部31の各端部に少なくとも一つ設けられていれば後述する接着剤の吸引時に吸引できるので特に限定されないが、本実施形態では第1凹部31の長辺の各端部に設けられている。
【0033】
また、ノズルプレート20における接着剤吸引孔22は、圧電アクチュエーター300が形成されていない圧力発生室12aに連通しており、この圧力発生室12aに接着剤が引き込まれて固定されたとしても液体噴射ヘッドの噴射特性に影響はなく、同様に接着剤吸引孔22も接着剤で満たされたとしても液体噴射ヘッドの噴射特性に影響はない。ノズルプレート20におけるノズル21は、シリコン単結晶基板であるノズルプレート20をウェットエッチングして形成していることから、ダミーノズルとして形成された接着剤吸引孔22も高精度に形成されたものである。従って、このような接着剤吸引孔22は圧力発生室12aに対して高精度で形成することができ、これにより接着剤吸引孔22により吸引されて流動する接着剤の位置も高精度に制御することが可能である。
【0034】
また、ケース部材30には、マニホールド100に連通してマニホールド100にインクを供給するための導入路43が設けられている。またケース部材30には、接続基板40の貫通孔42に連通して配線基板121が挿通される接続口48が設けられている。
【0035】
このような構成のインクジェット式記録ヘッド1では、インクを噴射する際に、まずインクカートリッジ等から導入路43を介してインクを取り込み、マニホールド100からノズル21に至るまで流路内部をインクで満たす。その後、駆動回路120からの信号に従い、圧力発生室12に対応する各圧電アクチュエーター300に電圧を印加することにより、圧電アクチュエーター300と共に弾性膜50及び絶縁体膜55をたわみ変形させる。これにより、圧力発生室12内の圧力が高まり所定のノズル21からインク滴が噴射される。
【0036】
このように、本実施形態では、マニホールド100を連通板15とケース部材30とで封止し、流路形成基板10の取り数を増やして液体噴射ヘッドのコストの低減を図ることができるようにし、かつ、マニホールド100に気泡が溜まりにくいように、第1凹部31よりも第2凹部32を第1方向において短くなるように形成している。この場合に、第1凹部31とアクチュエーター基板11との間隙にインクが侵入してしまうのを防止すべく、接着剤を接着剤導入孔35から吸引し、これにより接着剤でマニホールド100を封止しているのである。
【0037】
本実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法について説明する。
本発明の液体噴射ヘッドの製造方法としては、初めにアクチュエーター基板11と連通板15及びノズルプレート20とを接着剤転写により接着剤を介して接合し、その後、接合されたアクチュエーター基板11及びノズルプレート20とケース部材30とを接着剤転写により接着剤を介して接合する。
【0038】
次に、図7に示すように、ノズルプレート20を覆うノズル側キャップC1をノズルプレート20の吐出面側に設ける。このノズル側キャップC1には図示しないポンプが接続されている。ノズル側キャップC1は、各ノズル21を覆う部分と、接着剤吸引孔22を覆う部分からなり、各ノズル21からは吸引できないが、4つの接着剤吸引孔22のうちの一つからはこのポンプにより吸引することができるように構成されている。また、このノズル側キャップC1には、接着剤吸引孔22における圧力を測定できるように構成されている。
【0039】
また、ケース部材30の接着剤導入孔35のうち、一つを除く全ての接着剤導入孔35を覆うケース側キャップC2をケース部材30に設ける。ケース側キャップC2には、インクの導入孔である導入路43を露出させる開口が設けられ、導入路43はケース側キャップC2から露出している。
【0040】
そして、各キャップが設けられた状態で、ケース部材30等の接着剤導入孔35に例えばディスペンサーにより接着剤を塗布し、その後、ケース部材30等を図8に示す吸引封止装置200に設置する。
【0041】
吸引封止装置200は、キャップに負圧を発生させるための圧力信号を生成する圧力信号生成部201と、圧力信号に基づいて負圧制御を行う圧力制御装置202とを備える。また、吸引封止装置200は、導入路に挿入されてマニホールド内の圧力を測定する測定部材203と、マニホールドの圧力とノズル側キャップC1の圧力との圧力差を検出する差圧計204と、この差圧計204からの圧力差が所定の閾値を越えたかどうかを判定する差圧判定部205と、差圧判定部205が所定の閾値を越えたと判定した場合に送出する判定信号に基づいて駆動される電磁弁206とを備える。
【0042】
吸引封止装置200に設置すると、初めに圧力信号生成部201で時間経過と共に負圧が大きくなるような圧力信号S1を生成し、この圧力信号S1を圧力制御装置202に入力する。圧力制御装置202は、圧力信号S1に応じてノズル側キャップC1の接着剤吸引孔22を覆う部分での圧力が負圧となるように圧力を制御する。これにより、接着剤吸引孔22からマニホールド100及び第1凹部31とアクチュエーター基板11との間隙の空気が吸引されていく。
【0043】
そして、ノズルからマニホールド及び第1凹部とアクチュエーター基板との間隙の空気が吸引されると、接着剤導入孔35に流入した接着剤は、図5に示すように接着剤導入孔35から第1凹部31とアクチュエーター基板11との間の間隙及びマニホールド100に移動する。そして、圧力発生室12aに接着剤が到達してマニホールド100が封止されると、ノズル側キャップC1から吸引されてもマニホールド100の圧力は維持される。他方で、マニホールド100と間隙との境界まで接着剤37が移動してマニホールド100が封止されたことから、ポンプからの吸引によりノズル側キャップC1側の圧力のみが低下する。これにより、マニホールド100内の圧力と、ノズル側キャップC1側の圧力との圧力差が生じるので、差圧計204は、この圧力差を検出して差圧判定部205へ送出する。
【0044】
圧力差が所定値を越えたと差圧判定部205が判定すると差圧判定部205は電磁弁206及び圧力信号生成部201に判定信号を送出する。
【0045】
電磁弁206及び圧力信号生成部201は、判定信号が入力されるとインク導入孔33を封止している封止部材及びノズル側キャップC1を外す。このようにして封止部材及びノズル側キャップC1が外されてケース部材30等が大気開放されると、接着剤37の移動が停止され、接着剤37が固まる。このような接着剤37の導入及び吸引を接着剤導入孔35及び接着剤吸引孔22毎に行って、4つの全ての接着剤導入孔35及び接着剤吸引孔22での接着剤37の導入及び吸引が行われると全ての間隙とマニホールド100の端部との封止が終了する。
【0046】
このように、本実施形態では、マニホールド100を連通板15とケース部材30とで封止し、流路形成基板10の取り数を増やして液体噴射ヘッドのコストの低減を図ることができるようにし、かつ、マニホールド100に気泡が溜まりにくいように、第1凹部31よりも第2凹部32を第1方向において短くなるように形成している。この場合に、第1凹部31とアクチュエーター基板11との間隙にインクが侵入してしまうのを防止すべく、接着剤を接着剤吸引孔22から吸引し、これにより接着剤でマニホールド100を封止しているのである。
【0047】
この場合に、本実施形態では、差圧を測定しながらマニホールドを封止することで、マニホールドの封止を簡易に、かつ正確に検出できる。即ち、例えば接着剤の吸引時間や接着剤の吸引量、導入量でマニホールドの封止を完了させることも考えられるが、この場合には封止が完全に行われないおそれや、接着剤を吸引しすぎてマニホールド内部に多量に接着剤が流入してしまうおそれも考えられる。これに対し、本実施形態では、差圧を測定しながらマニホールドを封止していることから、マニホールドが完全に封止されたかどうかを検出できる。
【0048】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、ダミーノズルを接着剤吸引孔22として用いたが、これに限定されない。例えば、接着剤吸引孔22を、ケース部材30の第1凹部31とアクチュエーター基板11との間隙の第2凹部32との接続部に設けても良い。このように構成しても接着剤37を吸引することができる。
【0049】
また、上述した各実施形態では、圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として、薄膜型の圧電アクチュエーター及び縦振動型の圧電アクチュエーターを例示したが、圧力発生手段の構成は特に限定されるものではない。圧力発生手段は、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電アクチュエーターなどであってもよい。さらに圧力発生手段は、例えば、圧力発生室内に配された発熱素子の発熱で生じるバブルによってノズルから液滴を噴射させるものや、振動板と電極との間に発生させた静電気力によって振動板を変形させてノズルから液滴を噴射させるものなどであってもよい。
【0050】
また上述した液体噴射ヘッド1は、インクジェット式記録装置IIに搭載される。図9は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0051】
インクジェット式記録ヘッド1を有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動可能に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0052】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0053】
さらに上述の実施形態では、液体噴射ヘッドの一例として液体噴射ヘッドを挙げて本発明について説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド及びそれを具備する液体射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッド及びそれを具備する液体噴射装置にも勿論適用することができる。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0054】
1 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板、 11 アクチュエーター基板、 12 圧力発生室、 14 インク供給路、 15 連通板、 16 連通路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル、 22 接着剤吸引孔、 30 ケース部材、 31 第1凹部、 32 第2凹部、 35 接着剤導入孔、 40 接続基板、 43 導入路、 45 空間部、 46 封止膜、 47 可撓部、 48 接続口、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 マニホールド、 300 圧電アクチュエーター(圧力発生手段)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルのそれぞれに連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、
前記ノズルを有し、前記流路形成基板に固定されるノズルプレートと、
前記流路形成基板を収容するケース部材と、を具備し、
前記ケース部材には、前記流路形成基板が収納される第1凹部と、前記流路形成基板の前記圧力発生室に対向し、前記ノズルプレートにより封止されて各圧力発生室に共通する液体貯留部を構成する第2凹部とが形成されると共に、
収納された前記流路形成基板と前記第1凹部の側面との間隙に連通する接着剤導入孔が形成され、
前記間隙の前記第2凹部との接続部は、前記接着剤導入孔から導入された接着剤により埋設されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記ノズルプレートに形成されたノズルのうち、ノズルが並設されてなるノズル列の最端部に位置するノズルが前記接着剤で埋設されており、
該ノズルが連通する圧力発生室には、圧力発生室に圧力を発生させる圧力発生手段が形成されていないことを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
複数のノズルのそれぞれに連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、
前記ノズルを有し、前記流路形成基板に固定されるノズルプレートと、
前記流路形成基板を収容するケース部材と、を具備し、
前記ケース部材には、前記流路形成基板が収納される第1凹部と、前記流路形成基板の前記圧力発生室に対向し、前記ノズルプレートにより封止されて各圧力発生室に共通する液体貯留部を構成する第2凹部とが形成されると共に、
収納された前記流路形成基板と前記第1凹部の側面との間隙に連通する接着剤導入孔が形成された液体噴射ヘッドの製造方法であって、
該接着剤導入孔から導入された接着剤を接着剤吸引孔を介して吸引することで、収納された前記流路形成基板と前記第1凹部の側面との間隙の前記第2凹部との接続部を接着剤により埋設することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記接着剤を吸引する際に、
前記液体貯留部の圧力と、前記接着剤吸引孔の圧力との圧力差を検出し、検出された圧力差が所定値以上となった場合には、前記間隙の前記第2凹部との接続部が接着剤により埋設されたと判断して前記接着剤の吸引を停止することを特徴とする請求項4記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−218224(P2012−218224A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84096(P2011−84096)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】