説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】ノズル7から液体が吐出する吐出速度のばらつきを低減させ、吐出した液滴の位置及び量を高精度で制御するとともに、信頼性を向上させた液体噴射ヘッド1を提供する。
【解決手段】基板表面に細長い溝8を複数配列し、この溝8に連通するノズル7から液体を吐出するアクチュエータ2と、このアクチュエータ2の溝8に液体を供給する流路部材3と、このアクチュエータ2と流路部材3の間に緩衝部材4を介在させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を吐出して被記録媒体に画像や文字、あるいは薄膜材料を形成する液体噴射ヘッド及びこれを用いた液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出し、文字、図形を描画する、あるいは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜のパターンを形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。この方式は、インクや液体材料を液体タンクから供給管を介して液体噴射ヘッドに供給し、液体噴射ヘッドに形成した微小空間にこのインクを充填し、駆動信号に応じて微小空間の容積を瞬間的に縮小し溝に連通するノズルから液滴を吐出させる。
【0003】
図7は、特許文献1に記載されたこの種のインクジェットヘッド100の断面図である。インクジェットヘッド100は、表面に形成されたインク室103のインクを吐出する圧電性材料からなる基板101と、基板101の表面にインク室103の一部が露出するように設置された蓋部材102と、蓋部材102及び基板101の表面に設置され、インターチューブ106から流入したインクをインク室103に供給するマニホールド105、これらの部材を収納するカバー108などから構成されている。
【0004】
FPC(フレキシブル回路基板)107から基板101の図示しない電極に駆動電力を与え、圧電効果によりインク室103の容積を変化させる。すると、ノズルプレート104のノズルから液滴Dを噴射して、被記録媒体にインクを記録する。液滴の噴射に同期してインクジェットヘッド100や被記録媒体を移動させることにより文字や図形を印字することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−306022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蓋部材102は基板101の表面に面接合する。基板101は圧電体材料、例えばPZTセラミック等が使用される。温度変化により基板101に反りが生じないようにするために、蓋部材102と基板101とは同一の材料を使用する。マニホールド105と基板101及び蓋部材102とは接合部A1、A2において接合する。マニホールド105としては、低重量化、低コスト化の観点から、通常アクリル、ポリイミド、ポリカーボネート等の合成樹脂、あるいは金属材料が使用される。従って、接合部A1、A2は異種材料間の接合となる。基板101に反りを発生させないために、また、マニホールド105が基板101や蓋部材102から剥がれないようにするために、マニホールド105と基板101の熱膨張係数差を小さくするような材料を選定する必要がある。従って、マニホールド105は使用できる材料が限定される。
【0007】
また、接合部A1、A2はインク室103を流れるインクに直接接触する。通常、固化した後の硬度の低い柔らかい接着剤は有機系のインクに対して溶解しやすい。そのため、インク耐性が要求される接着剤は高硬度で接着強度も強い。一方、このインクジェット方式は、インク室103の容積を圧電効果により瞬間的に収縮させてインクを吐出させる。しかし、インクの吐出速度は基板101が持つ固有振動の影響を受ける。インクヘッドは移動しながらインクを吐出するので、インクの吐出速度が変化すると着弾地点の位置がずれる。
【0008】
特に、接合部A1、A2に塗布する接着剤の硬度が大きい場合には、基板101及び蓋部材102のインク吐出に伴う振動が接着剤を介してマニホールド105や、マニホールド105を固定する他の部材にも伝達する。すると、基板101のインク吐出に伴う振動が他の部材に影響され、吐出する液滴の吐出速度が変化する。そのため、駆動周波数や液滴の吐出条件によって吐出速度がばらついて目的の地点に目的の量の液滴を着弾させることができなくなる、という課題があった。
【0009】
また、基板101や蓋部材102の接合面は通常フラットではない。そのために、これらの接合面に介在する接着剤は、場所によって厚さが異なる。接合部A1、A2に介在する接着剤の厚みのばらつきは、駆動性能に影響を及ぼす原因となる。また、接合部A1、A2に使用する接着剤はインク、特に有機系インクに対して膨潤する性質を持っている。接着剤がインクに触れて膨潤すると、接着剤の厚さや硬さが変化し、基板101に反りを発生させたり基板101が破壊したりする、などの課題があった。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、圧電体基板に接続する周囲の部材に液体吐出速度が影響を受け難い液体噴射ヘッド及びこれを用いた液体記録装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による液体噴射ヘッドは、基板の表面に細長い溝を複数配列し、前記細長い溝に連通するノズルから液体を吐出するアクチュエータと、前記アクチュエータの複数の溝に液体を供給する流路部材と、前記アクチュエータと前記流路部材の間に介在し、前記アクチュエータと前記流路部材を連結する第一の緩衝部材と、を備えるようにした。
【0012】
また、前記緩衝部材としてゴム部材又はエラストマー部材を使用した。
【0013】
また、前記アクチュエータを支持するベース部材と、前記ベース部材と前記アクチュエータの間に介在し、前記ベース部材と前記アクチュエータを連結する第二の緩衝部材と、を更に備えるようにした。
【0014】
また、前記アクチュエータは、第一のアクチュエータと第二のアクチュエータが積層する構造を有し、前記第一と第二のアクチュエータの間に介在し、前記第一と第二のアクチュエータを連結する第三の緩衝部材を備えるようにした。
【0015】
また、前記第三の緩衝部材は、前記第一と第二のアクチュエータを構成する各基板の裏面の間に介在するようにした。
【0016】
また、前記アクチュエータは、前記各溝の一部を除いてその開口部を閉塞するように前記基板の表面に積層するカバープレートを含み、前記第三の緩衝部材は、前記第一のアクチュエータの基板の裏面と前記第二のアクチュエータのカバープレートとの間に介在するようにした。
【0017】
また、前記緩衝部材の平均厚さが、0.2mm〜2.0mmであることとした。
【0018】
また、前記緩衝部材が、耐溶剤性を有するようにした。
【0019】
また、前記緩衝部材が、耐油性を有するようにした。
【0020】
本発明による液体噴射装置は、上記いずれかの液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備えるようにした。
【発明の効果】
【0021】
本発明の液体噴射ヘッドは、基板の表面に細長い溝を複数配列し、細長い溝に連通するノズルから液体を吐出するアクチュエータと、このアクチュエータの複数の溝に液体を供給する流路部材との間に緩衝部材を介在させた。これにより、液体を吐出させる際に生じるアクチュエータの振動は流路部材やこの流路部材を支持する他の部材の影響を受けず、液体の吐出速度のばらつきが低減するとともに、アクチュエータと流路部材間の熱膨張係数差や接合面の凹凸に起因する応力による歪みが減少し、吐出特性の変動の少ない高信頼性を有する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの説明図である。
【図2】本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッドの説明図である。
【図3】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの模式的な縦断面図である。
【図4】本発明の液体噴射ヘッドの液体噴射速度のばらつきを表すグラフである。
【図5】本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッドの模式的な縦断面図である。
【図6】本発明の第五実施形態に係る液体噴射装置の模式的な斜視図である。
【図7】従来公知のインクジェットヘッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の液体噴射ヘッドは、表面に細長い溝を複数配列し、この細長い溝に連通するノズルから液体を吐出するアクチュエータと、このアクチュエータの複数の溝に液体を供給する流路部材との間に緩衝部材を介在させ、この緩衝部材によりアクチュエータと流路部材とを連結している。
【0024】
緩衝部材として、アクチュエータを構成する基板やアクチュエータと連結する流路部材よりも硬度の低い材料を使用することができ、例えばゴム部材やエラストマー部材を使用することができる。より具体的には、ポリエチレン・ポリピレン系のゴム材料を使用することができる。緩衝部材は、好ましくは耐溶剤性又は耐油性を有し、例えば有機溶剤系インクに対する耐性を備えている。有機溶剤系インクに対する膨潤率は20%以下とし、好ましく5%〜10%の材料を使用する。流路部材と緩衝部材との間、及び緩衝部材とアクチュエータとの間は、接着剤を用いて連結することができる。接着剤としてインク耐性を備えた高硬度の接着剤を使用することができる。
【0025】
このように、アクチュエータと流路部材との間に緩衝部材を介在させたので、アクチュエータが液滴を吐出した時の衝撃波は流路部材や流路部材に接続する他の部材に伝達し難い。そのため、アクチュエータを駆動する際に流路部材や流路部材に接続する他の部材の影響を受けないので、駆動信号の周波数変化に対する液滴噴射速度のばらつきが減少し、液滴記録位置や液滴量を高精度で制御することができる。緩衝部材の平均的な厚さを好ましくは0.2mm〜2.0mmとする。このサイズにすれば、緩衝能力を維持し、かつ、液体噴射ヘッドが大型化することもない。
【0026】
更に、アクチュエータの基板と流路部材との間に温度係数差が存在し、温度が変化したとき基板と流路部材の伸縮量が異なる場合でも、緩衝部材によりその伸縮量の差が緩和されるので、アクチュエータに加わる応力を低減させることができる。また、アクチュエータと流路部材の接合面が平坦でない場合でも、その間に緩衝部材が介在するので接着剤の厚みのばらつきが低減し、厚みのばらつきに起因する接着強度の低下や不均一な応力が発生することを低減させることができる。
【0027】
また、アクチュエータを支持するベース部材とアクチュエータとの間に第二の緩衝部材を介在させることができる。これにより、アクチュエータは緩衝部材を介して支持されるので、アクチュエータから他の部材に振動が伝達され難く、その結果、液滴を吐出する際の衝撃波が外部から影響され難くなり、液滴の噴射特性を安定させることができる。
【0028】
また、第一のアクチュエータと第二のアクチュエータが積層する構造を有する場合に、この第一と第二のアクチュエータの間に第三の緩衝部材を介在させることができる。そして、第一または第二のアクチュエータに接続する流路部材又はベース部材との間にも第一の緩衝部材又は第二の緩衝部材を介在させることができる。
【0029】
この構成により、第一及び第二のアクチュエータの夫々を、他の部材や他のアクチュエータの振動の影響を受けることなく駆動することができる。その結果、第一及び第二のアクチュエータから噴射する液滴の噴射速度や液滴量を揃えることができる。以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。
【0030】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッド1の説明図である。図1(a)は液体噴射ヘッド1の斜視図であり、(b)はその上面図であり、(c)は部分AAの模式的な縦断面図である。
【0031】
図1に示すように、液体噴射ヘッド1は、アクチュエータ2と、流路部材3と、緩衝部材4を備えている。緩衝部材4は、アクチュエータ2と流路部材3の間に介在し、緩衝部材4とアクチュエータ2を連結している。アクチュエータ2と緩衝部材4、及び、緩衝部材4と流路部材3は接着剤を用いて接合している。緩衝部材4として例えばゴム部材やエラストマー部材などのゴム系部材を使用し、接着材としてエポキシ系の接着剤を使用した。
【0032】
アクチュエータ2は、圧電体からなる基板2aとその上に接着したカバープレート2bを備えている。基板2aは、その表面hの紙面垂直方向に並列するように形成した複数の溝8を備えている。各溝8を圧電体からなる側壁により区画し、この側壁に図示しない電極を形成した。カバープレート2bは、細長い溝8の開口端部を露出させ、その他の開口部を塞ぐように基板2aの表面hを覆っている。図1(c)に示すように、基板2aの左端部はカバープレート2bの左端部よりも突出している。この突出部の表面hに、各溝8の側壁に形成した電極に電気的に接続する図示しない端子電極を形成した。基板2aとカバープレート2bは右端部において面一の端面を構成した。溝8は、右端面に開口し(ノズル用開口13)、図示しないノズルプレートのノズルに連通する。基板2aの表面hに形成した端子電極に駆動信号を与えると側壁が変形し、溝8の容積が変化する。この容積変化を利用して溝8に充填した液体を右端面のノズル用開口13から吐出させる。
【0033】
流路部材3は、第一の流路部材3aとこの第一の流路部材3aに接続する第二の流路部材3bを有している。流路部材3は、その両端部に取付部14を、その上面につまみTを備えている。取付部14をビス止めすることにより液体噴射ヘッド1を固定する。つまみTはメンテナンス用に設けている。
【0034】
第一の流路部材3aは緩衝部材4を介してアクチュエータ2と連結する。第一の流路部材3aと第二の流路部材3bは内部に連通する流路6を有している。第一の流路部材3aはアクチュエータ2の複数溝8に液体を供給するための液体供給室12を備えている。第二の流路部材3bは液体を流入するための接続部5を備えている。接続部5に流入した液体は、第二及び第一流路部材3b、3aの流路6、及び液体供給室12を経由して複数の溝8に流入する。第一と第二の流路部材3a、3bの流路は90°屈曲している。図1(a)に示すように、流路部材3の上部に接続部5を設置し、流路を90°屈曲させることにより、基板2aの表面hに対して垂直方向の厚さを薄くした。
【0035】
基板2aとカバープレート2bはPZTなどの圧電体を使用することができる。基板2aとカバープレート2bを同一の材料を使用することにより、熱膨張差により反りが発生することを防止することができる。流路部材3として例えばポリイミド、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレン・サルファイド(PPS)等の合成樹脂を使用することができる。
【0036】
以上のように構成したことにより、アクチュエータ2と第一の流路部材3aとの間に緩衝部材4を介在させたので、アクチュエータ2が液滴を吐出した時の衝撃波は第一の流路部材3aや第二の流路部材3bに伝達し難い。即ち、アクチュエータ2を駆動する際に第一及び第二の流路部材3a、3bの影響を受けないので液滴の吐出速度のばらつきが減少し、液滴記録位置や液滴量を高精度で制御することができる。また、アクチュエータ2と流路部材3間の熱膨張係数差や接合面の凹凸に起因する応力による歪みを低減し、アクチュエータ2の吐出特性の変動を縮小し、信頼性を向上させることができる。
【0037】
(第二実施形態)
図2は、本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッド1の説明図である。図2(a)は液体噴射ヘッド1の斜視図であり、(b)はその上面図であり、(c)は部分BBの模式的な縦断面図である。第一実施形態と異なる部分は、液体噴射ヘッド1を、第二の緩衝部材4bを介してベース部材10に固定している点である。従って、以下、主に第一実施形態と異なる部分について説明し、同一の部分については説明を省略する。また、同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0038】
図2に示すように、液体噴射ヘッド1は、アクチュエータ2と流路部材3の間に第一の緩衝部材4aを介在させて連結した積層体と、ベース部材10と、上記積層体の基板2aの裏面rとベース部材10の間に介在させた第二の緩衝部材4bとを備えている。基板2aと第二の緩衝部材4bとの間、及び、ベース部材10と第二の緩衝部材4bとは接着剤を用いて接合している。アクチュエータ2をベース部材10に接合して直接固定することによりアクチュエータ2を高精度に位置決めすることができる。なお、第一の緩衝部材4aと第二の緩衝部材4bとは同じ材料を使用している。また、ベース部材10として合成樹脂や金属などを使用することができる。その他の構成は第一実施形態と同様である。
【0039】
このように、アクチュエータ2を、第二の緩衝部材4bを介してベース部材10に直接固定したのでアクチュエータ2を確実にかつ高精度に位置決めすることができる。更に、液体を吐出させる際に発生するアクチュエータ2の振動が、流路部材3やベース部材10に伝達し難い。そのため、流路部材3やベース部材10が持つ特有の固有振動の影響を受けず、液滴の吐出速度のばらつきを低減することができる。また、アクチュエータとベース部材10間の熱膨張係数差や、接合面の凹凸に起因する応力による歪みも、第一及び第二緩衝部材4a、4bを介在させることによって低減し、その結果、アクチュエータの吐出特性の変動が縮小し、信頼性を向上させることができる。
【0040】
(第三実施形態)
図3は、本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッド1の模式的な縦断面図である。本実施形態においては、第一のアクチュエータA2と第二のアクチュエータB2の2つのアクチュエータが貼り合わされた構造を有している。
【0041】
図3に示すように、第一のアクチュエータA2は、表面に細長い溝A8が形成された基板A2aと、この溝A8の一端部を除いて覆うよう基板A2aに張り合わされたカバープレートA2bを備えている。第二のアクチュエータB2は、第一のアクチュエータA2と同様に、細長い溝B8が形成された基板B2aと、この溝B8の一端部を除いて覆うように基板B2aに貼り合わされたカバープレートB2bを備えている。第一及び第二のアクチュエータA2、B2は、基板A2aと基板B2aの夫々のカバープレート側とは反対側の裏面r同志を対面し、その間に第二の緩衝部材4bを介在して連結する。基板A2aと基板B2aのそれぞれの裏面rと第二の緩衝部材4bの表面とは接着剤により接合している。
【0042】
第一及び第二のアクチュエータA2、A3の液体吐出側は面一の端面を備えており、ノズルプレート9と接合している。ノズルプレート9は夫々の溝A8、B8の対応する位置にノズルA7、B7を備えている。
【0043】
第一のアクチュエータA2と流路部材A3は、第一の緩衝部材4aを介在して連結している。流路部材A3は、第一実施形態と同様に、第一の流路部材A3aと、これに接続する第二の流路部材A3bを備えている。第二の流路部材A3bは液体を流入するための接続部5を有し、接続部5から流入した液体を、流路部材A3内部に形成した流路6を通して第一のアクチュエータA2の溝A8に供給することができる。また、第一の流路部材A3aは、カバープレートA2bの開口部に連通する液体供給室A12を有している。流路部材A3とノズルプレート9との間にベース部材A10を設置した。ベース部材A10と第一の流路部材A3aの間、及び、ベース部材A10とノズルプレート9の間は接着剤を用いて接合している。
【0044】
第二のアクチュエータB2と流路部材B3は、第三の緩衝部材4cを介在して連結している。カバープレートB2b及び流路部材B3と第三の緩衝部材4cとの間は接着剤により接合した。流路部材B3はカバープレートB2bの開口部に対応する液体供給室B12を備えている。そして、流路部材A3の液体供給室A12と流路部材B3の液体供給室B12とは、第一及び第二のアクチュエータA2、B2を貫通する貫通孔11を介して連通する。即ち、接続部5に供給した液体は流路部材A3の流路6を介して液体供給室A12に流入し、一部が第一のアクチュエータA2の溝8に、他の一部が貫通孔11を介して液体供給室B12に流入し、第二のアクチュエータB2の溝B8に流入する。
【0045】
流路部材B3は、ベース部材B10に図示しない接着剤を介して固定した。ベース部材B10は、流路部材B3とノズルプレート9の間にも設置した。ノズルプレート9とベース部材B10とは接着剤により固定した。なお、ノズルプレート9は、例えば薄いポリイミド樹脂を使用することができる。この場合、ノズルプレート9自体が可撓性を有している。そのために、第一のアクチュエータA2の振動はノズルプレート9を介して第二のアクチュエータB2やベース部材A10には伝達しない。また、第二のアクチュエータB2の振動はノズルプレート9を介して第一のアクチュエータA2やベース部材B10には伝達しない。
【0046】
なお、上記構成は本発明の一実施態様であって、本発明はこの構成に限定されない。例えば、第二の流路部材B3を、基板A2a、B2aに形成した細長い溝A8、B8に直交する方向の端部側に設置することができる。各流路部材A3、B3の各液体供給室A12、B12に、その端部側から分割して供給するように構成すれば、液体噴射ヘッド1の厚さをより薄く構成することができる。
【0047】
以上のように構成したことにより、第一または第二のアクチュエータA2、B2の振動は、隣接する他の部材に伝達し難い。そのため、流路部材A3、B3やベース部材A10、B10が持つ特有の固有振動によってアクチュエータA2、B2の振動が影響を受けず、液滴の吐出速度のばらつきが低減する。また、アクチュエータA2、B2とベース部材A10、B10間の熱膨張係数差や、接合面の凹凸に起因する応力による歪みも、第二及び第三緩衝部材4b、4cを介在させることによって低減し、その結果、アクチュエータの吐出特性の変動が縮小し、信頼性を向上させることができる。
【0048】
(液滴吐出速度の比較結果)
図4は、駆動信号の周波数とノズル7から吐出する液滴の吐出速度の関係を表すグラフである。図4(a)が、第三実施形態の液体噴射ヘッド1を使用して測定した結果である。図4(b)は、第一、第二及び第三の緩衝部材4a、4b、4cを省き、硬化剛性が比較的低い接着剤を用いて部材間を接着した比較用液体噴射ヘッドを使用して測定した結果であり、比較例である。各図の横軸がアクチュエータ2に印加する駆動信号の周波数とし、矢印の方向に周波数が高くなる。各図の縦軸がアクチュエータ2のノズルから吐出する液滴の吐出速度とし、矢印の方向に速度が上昇する。図4(a)と(b)の縦軸及び横軸のスケールは同一である。
【0049】
図4(a)のグラフX1〜X3は第一のアクチュエータA2の吐出特性であり、グラフY1〜Y3は第二のアクチュエータB2の吐出特性である。グラフX1、Y1はノズル7から一滴の液滴を吐出した吐出特性である。グラフX2、Y2はノズル7から二滴連続吐出させ、被記録媒体に着弾する前に合体した液滴の吐出特性である。グラフX3、Y3はノズル7から三滴連続吐出させ、被記録媒体に着弾する前に合体した液滴の吐出特性である。
【0050】
比較用の図4(b)においては、グラフV1〜V3が第一のアクチュエータA2の吐出特性、グラフW1〜W3が第二のアクチュエータB2の吐出特性、グラフV1、W1がノズルから一滴の液滴を吐出した吐出特性、グラフV2、W2がノズルから二滴連続吐出させ、被記録媒体に着弾する前に合体した液滴の吐出特性、グラフV3、W3がノズルから三滴連続吐出させ、被記録媒体に着弾する前に合体した液滴の吐出特性である。
【0051】
まず、第一のアクチュエータA2について、緩衝部材4を使用した本発明の液体噴射ヘッド1のグラフX1〜X3と、緩衝部材4を使用しない比較用液体噴射ヘッドのグラフV1〜V3を比較する。すると、比較用液体噴射ヘッドのほうが本発明の液体噴射ヘッド1よりも、駆動周波数の変化に対する吐出速度の変動が大きく、また、液滴が1滴〜3滴の間で吐出速度の変化幅も大きい。液滴が1適〜3適の間における吐出速度の変化幅は、本発明のほうが比較例に対して約1/2と小さい。第二のアクチュエータB2についても、上記第一のアクチュエータA2と同様の傾向を示している。
【0052】
また、第一のアクチュエータA2と第二のアクチュエータB2の吐出速度差についてみると、比較用液体噴射ヘッドは第一と第二のアクチュエータA2、B2間の吐出速度差が特定の周波数で大きく開いてしまうが、本発明の液体噴射ヘッド1は第一と第二のアクチュエータA2、B2間の吐出速度差は広い周波数の範囲でほぼ同じ傾向を示している。
【0053】
また、本発明の液体噴射ヘッド1は、第一及び第二のアクチュエータA2、B2の1滴〜3適のすべての吐出条件において、吐出速度のばらつきが小さくなる周波数帯が存在するが、比較用液体噴射ヘッドは全体的にばらつきが大きく、吐出速度が収束しない。
【0054】
即ち、本発明の液体噴射ヘッド1は広い周波数帯で吐出速度のばらつきが小さいので、記録速度や吐出条件が異なる液体噴射装置に容易に適用することができる。1滴〜3敵のすべての吐出条件において吐出速度差が小さいので、被記録媒体に記録する液体の位置・濃度を高精度で制御することができる。また、アクチュエータ2を多層に構成しても、各アクチュエータ2の吐出速度差が小さいので、被記録媒体に高速で高密度・高精度で記録することができる。
【0055】
(第四実施形態)
図5は、本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッド1の模式的な縦断面図である。本第四実施形態は3つのアクチュエータを積層した例である。
【0056】
第一のアクチュエータA2は、表面hに細長い溝A8を有する基板A2aと、その表面hに接着したカバープレートA2bを備えている。カバープレートA2bの基板A2aとは反対側の表面に液体供給室A12を備えた流路部材A3を設置した。基板A2a、カバープレートA2b及び流路部材A3の液体吐出側は面一の端面に形成し、その端面にノズルA7を溝A8に連通させてノズルプレート9を設置した。
【0057】
第二のアクチュエータB2は、表面hに細長い溝B8を有する基板B2aと、その表面hに接着したカバープレートB2bを備えている。カバープレートB2bの基板B2aとは反対側の表面に液体供給室B12を備えた流路部材B3を設置した。流路部材B3の第二のアクチュエータB2とは反対側の表面に第一の緩衝部材4aを介して第一のアクチュエータA2を設置した。基板B2a、カバープレートB2b及び流路部材B3の液体吐出側は面一の端面に形成し、その端面にノズルB7を溝B8に連通させてノズルプレート9を接着している。流路部材B3と第一の緩衝部材4aとの間、及び、基板A2aと第一の緩衝部材4aとの間は接着剤により接合して連結した。
【0058】
第三のアクチュエータC2は、表面hに細長い溝C8を有する基板C2aと、その表面hに接着したカバープレートC2bを備えている。カバープレートC2bの基板C2aとは反対側の表面に液体供給室C12を備えた流路部材C3を設置した。流路部材C3の第三のアクチュエータC2とは反対側の表面に第二の緩衝部材4bを介して第二のアクチュエータB2を設置している。基板C2a、カバープレートC2b及び流路部材C3の液体吐出側は面一の端面に形成し、その端面にノズルC7を溝C8に連通させてノズルプレート9を接着している。流路部材C3と第二の緩衝部材4bとの間、及び、基板B2aと第二の緩衝部材4bとの間は接着材により接合して連結した。
【0059】
また、各アクチュエータA2、B2、C2のノズル側とは反対側の端部(以下、他端部という。)は階段形状を有している。すなわち、第一のアクチュエータA2の基板A2aの他端部はカバープレートA2b及び流路部材A3の他端部より突出している。同様に、第二のアクチュエータB2の基板B2aの他端部は、カバープレートB2b、流路部材B3、及び基板A2aの他端部より突出している。更に、第三のアクチュエータC2の基板C2aの他端部は、カバープレートC2b、流路部材C3、及び基板B2aの他端部より突出している。
【0060】
このように階段状に形成し、各階段の上面に各基板A2a、B2a、C2aの各表面hが露出するように形成したので、各基板A2a、B2a、C2aにFPC基板を張り付けて外部回路と容易に接続することができる。また、各流路部材A3、B3、C3の各液体供給室A12、B12、C12は貫通孔を設けて互いに連通させてもよいし、紙面垂直方向の端部に共通液体供給部を設けて各液体供給室A12、B12、C12に液体を分流させてもよい。
【0061】
上記のように構成したことにより、第一、第二、第三のアクチュエータA2、B2、C2の各振動は、隣接する他のアクチュエータに伝達し難い。また、ノズルプレート9を可撓性部材により形成すれば、ノズルプレート9を介して振動が伝達しない。そのため、各アクチュエータA2、B2、C2から吐出させる液滴の吐出速度のばらつきを低減させ、被記録媒体に高精度、高密度で記録することが可能となる。
【0062】
なお、第四実施形態では3層構造のアクチュエータについて説明したが、本発明はこれに限定されない。更に多層構造のアクチュエータを構成することができ、その場合も、各アクチュエータ間に緩衝部材を介在させることができる。また、第一実施形態や第二実施形態のように、積層構造のアクチュエータを保持するベース部材や他の流路部材との間に緩衝部材を介在させることができる。
【0063】
更に、第四実施形態では3層構造のアクチュエータであって上述したように他端部が階段状に形成されているものとしたが、本発明はこれに限定されない。即ち、階段状に他端部を形成せず、第一、第二、第三のアクチュエータA2、B2、C2を同一の大きさで形成し、第四実施形態と同様に貼り合わせることで構成することができる。
【0064】
(第五実施形態)
図6は、本発明の第五実施形態に係る液体噴射装置20の模式的な斜視図である。
液体噴射装置20は、液体噴射ヘッド1、1’を往復移動させる移動機構33と、液体噴射ヘッド1、1’に液体を供給する液体供給管23、23’と、液体供給管23、23’に液体を供給する液体タンク21、21’を備えている。各液体噴射ヘッド1、1’は、基板表面に形成した細長い溝に連通するノズルに液体を吐出するアクチュエータと、このアクチュエータの溝に液体を供給する流路部材と、アクチュエータと流路部材の間に介在させてアクチュエータと流路部材を連結する緩衝部材とを備えている。
【0065】
具体的に説明する。液体噴射装置20は、紙等の被記録媒体24を主走査方向に搬送する一対の搬送手段31、32と、被記録媒体24に液体を吐出する液体噴射ヘッド1、1’と、液体タンク21、21’に貯留した液体を液体供給管23、23’に押圧して供給するポンプ22、22’と、液体噴射ヘッド1を主走査方向と直交する副走査方向に走査する移動機構33等を備えている。
【0066】
一対の搬送手段31、32は副走査方向に延び、ローラ面を接触しながら回転するグリッドローラとピンチローラを備えている。図示しないモータによりグリッドローラとピンチローラを軸周りに移転させてローラ間に挟み込んだ被記録媒体24を主走査方向に搬送する。移動機構33は、副走査方向に延びた一対のガイドレール26、27と、一対のガイドレール26、27に沿って摺動可能なキャリッジユニット28と、キャリッジユニット28を連結し副走査方向に移動させる無端ベルト29と、この無端ベルト29を図示しないプーリを介して周回させるモータ30を備えている。
【0067】
キャリッジユニット28は、複数の液体噴射ヘッド1、1’を載置し、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類の液滴を吐出する。液体タンク21、21’は対応する色の液体を貯留し、ポンプ22、22’、液体供給管23、23’を介して液体噴射ヘッド1、1’に供給する。各液体噴射ヘッド1、1’は駆動信号に応じて各色の液滴を吐出する。液体噴射ヘッド1、1’から液体を吐出させるタイミング、キャリッジユニット28を駆動するモータ30の回転及び被記録媒体24の搬送速度を制御することにより、被記録媒体24上に任意のパターンを記録することできる。
【0068】
この構成により、液体噴射ヘッド1が吐出する液体の吐出速度のばらつきを減少させ、被記録媒体に高精度、高密度で記録することができる液体噴射装置20を提供することができる。
【0069】
以上、本発明において、アクチュエータと接合される部材に関し、緩衝部材を接合部に用いる構成について記載したが、より詳細に緩衝部材の特性について記載する。
【0070】
例えば、緩衝部材(前述した第一の緩衝部材、第二の緩衝部材または第三の緩衝部材のうち、少なくとも一つの緩衝部材)の平均的な厚さが0.2mm〜2.0mmであることが好ましい。この寸法サイズによれば、緩衝能力を維持し、かつ液体噴射ヘッドを大型化することなく本発明を実施することができる。
【0071】
さらに、緩衝部材(前述した第一の緩衝部材、第二の緩衝部材または第三の緩衝部材のうち、少なくとも一つの緩衝部材)は耐溶剤性または耐油性を有することが好ましい。この形態によれば、緩衝部材は液体に接触する位置に設けられるため、液体が溶剤性のものであった場合に、緩衝部材が耐溶剤性を有すると、緩衝部材が侵食することなく本発明を実施することができる。また同様に、液体が油性のもので有った場合に、緩衝部材が耐油性を有すると、緩衝部材が侵食することなく本発明を実施することができる
【符号の説明】
【0072】
1 液体噴射ヘッド
2 アクチュエータ
3 流路部材
4 緩衝部材
5 接続部
6 流路
7 ノズル
8 溝
9 ノズルプレート
10 ベース部材
11 連通孔
12 液体供給室
20 液体噴射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に細長い溝を複数配列し、前記細長い溝に連通するノズルから液体を吐出するアクチュエータと、
前記アクチュエータの複数の溝に液体を供給する流路部材と、
前記アクチュエータと前記流路部材の間に介在し、前記アクチュエータと前記流路部材を連結する第一の緩衝部材と、を備える液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記緩衝部材としてゴム部材を使用した請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記緩衝部材としてエラストマー部材を使用した請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記アクチュエータを支持するベース部材と、
前記ベース部材と前記アクチュエータの間に介在し、前記ベース部材と前記アクチュエータを連結する第二の緩衝部材と、を更に備える請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記アクチュエータは、第一のアクチュエータと第二のアクチュエータが積層する構造を有し、
前記第一と第二のアクチュエータの間に介在し、前記第一と第二のアクチュエータを連結する第三の緩衝部材を備える請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記第三の緩衝部材は、前記第一と第二のアクチュエータを構成する各基板の裏面の間に介在する請求項5に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記アクチュエータは、前記各溝の一部を除いてその開口部を閉塞するように前記基板の表面に積層するカバープレートを含み、
前記第三の緩衝部材は、前記第一のアクチュエータの基板の裏面と前記第二のアクチュエータのカバープレートとの間に介在する請求項5に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記緩衝部材の平均厚さが、0.2mm〜2.0mmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記緩衝部材が、耐溶剤性を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記緩衝部材が、耐油性を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、
前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、
前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備える液体噴射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−126254(P2011−126254A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289682(P2009−289682)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】