説明

液体噴射ユニット、及び、液体噴射装置

【課題】ダンパー流路部材のフィルムに皺が生じることを防止することが可能な液体噴射ユニット、及び、液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ダンパー流路部材のうちフィルムに覆われた一面には、連通路69と、第1のフィルター52を内部に配置した第1のフィルター室66と、圧力室と連通路との間に配置された空室70と、が設けられ、フィルムは、空室を間に挟んだ状態で第1の流路から第2の流路に亘って、圧力室、空室及び連通路それぞれの一面に貼付されると共に、フィルムのうち空室に対向する領域には、フィルムの伸張を許容する脆弱部87が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドなどの液体噴射ヘッドを備えた液体噴射ユニット、及び、液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることでノズルから液滴として噴射(噴射)させる液体噴射ヘッドとしては、例えば、インクジェット式記録装置(以下、単にプリンターという)等の画像記録装置に用いられるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等がある。
【0003】
例えば、上記の記録ヘッドでは、液体状のインクを封入したインクカートリッジ(液体供給源の一種。以下、単にカートリッジという)内のインクを、記録ヘッドのリザーバー(共通液室)を介して圧力室に導入し、圧電振動子や発熱素子等の圧力発生手段を駆動して圧力室内のインクに圧力変動を付与し、この圧力変動を利用して、圧力室に連通するノズルからインクを噴射するように構成されている。この構成の記録ヘッドでは、カートリッジから記録ヘッドにインクを供給する流路の途中に設けられた流路形成部材(自己封止ユニット或いはダンパー流路部材とも言う)と組み合わせてインク噴射ヘッドユニットを構成したものもある(例えば、特許文献1参照)。この流路形成部材は、その内部の流路の途中に開閉弁(自己封止弁とも言う。)が設けられ、当該流路の一部が薄手のフィルムで封止されている。そして、記録ヘッドのノズルからインク滴が噴射されることによりリザーバーの内部が負圧になるに連れてフィルムが開閉弁を押圧して開く方向に撓み、これにより開閉弁が開かれてインクカートリッジからのインクが記録ヘッドのリザーバー側に供給されるように構成されている。
【0004】
また、流路形成部材では、流路内の異物や気泡が記録ヘッド側に流入することを防止するため、流路の途中にフィルターが配置されている。そして、記録ヘッドのノズルからインクや気泡を強制的に排出するクリーニング動作時において、フィルターよりも上流側のフィルター室内が減圧すると、フィルムが内側に変形することでインク流路を縮小させて、これにより気泡を排出させ易くしている記録ヘッドが提案されている。このように構成された記録ヘッドは、流路形成部材内に滞留した気泡によりフィルター室が塞がれることを防止できるように構成されている。そして、クリーニング時に負圧が作用したときにフィルムがフィルター側に変形し易いように、フィルターに対応するフィルムの部分を積極的に撓ませた状態で当該フィルムを流路形成部材に超音波溶着や熱溶着などによって溶着することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−184202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記流路形成部材の一面にフィルムを溶着する際に、フィルター側にフィルムを撓ませた状態で接合する場合には、フィルター室以外の領域ではフィルムがフィルター室側に引き込まれることによりフィルムに皺が発生することがあった。流路上のフィルムに皺が寄ると、この皺が形成された部分に気泡が溜まってしまう虞がある。なお、近年の記録ヘッドの小型化によって、フィルムに発生する皺によって捕捉される気泡の問題は顕著になる傾向があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ダンパー流路部材のフィルムに皺が生じることを防止することが可能な液体噴射ユニット、及び、液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の液体噴射ユニットは、ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドの上流側に配置され、液体供給源からの液体を受けて前記液体噴射ヘッド側に供給するダンパー流路部材と、を備えた液体噴射ユニットであって、
前記ダンパー流路部材の少なくとも一面には、液体を濾過する第1のフィルターが配設された第1の流路と、第2のフィルターが途中に配設された第2の流路とが、両者の間に空室が設けられた状態で形成されると共に、フィルムが貼着されて当該フィルムにより前記第1の流路、前記第2の流路、及び前記空室がそれぞれ互いに独立した状態で封止され、
前記フィルムにおける前記空室に対向する領域には、フィルムの伸張を許容する脆弱部が形成されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、第1の流路に対応する部分を内側に撓ませた状態でダンパー流路部材にフィルムを貼着する場合や第1の流路に対応するフィルムが負圧を受けて内側に撓んだ場合に、脆弱部がフィルムの伸張を許容するので、第2の流路にテンションが及ぶことを抑制することができる。これにより、フィルムのうち第2の流路に対向する領域に、皺が発生することを抑制することができる。この結果、皺によって気泡が補足されることを防止することが可能となる。
【0010】
上記構成において、脆弱部は、前記第1の流路と前記第2の流路と前記空室との並び方向に対して交差する方向に沿って設けられることが望ましい。
【0011】
上記構成によれば、脆弱部が、第1の流路と第2の流路と空室との並び方向に対して交差する方向に沿って設けられるので、第1の流路と第2の流路と空室との並び方向の張力を吸収し易くすることができる。これにより、フィルムのうち第1の流路及び第2の流路に対向する領域に、皺が発生することをさらに抑制することができる。
【0012】
上記構成において、前記脆弱部は、前記並び方向に対して交差する方向に沿って形成されたスリットによって構成される構成を採用することができる。
【0013】
上記構成によれば、脆弱部は、並び方向に対して交差する方向に沿って形成されたスリットによって構成されているので、フィルムに脆弱部を容易に形成することができる。また、フィルムに張力が生じたときに変形し易く、また、変形した場合においても皺が生じ難い。
【0014】
上記構成において、前記脆弱部は、前記並び方向に対して交差する方向に沿って列設された複数の貫通孔によって構成することもできる。
【0015】
上記構成において、フィルムは、前記第1の流路に対向する領域が当該第1の流路内の圧力変化に応じて撓むことが可能な状態で前記ダンパー流路部材に貼着され、
前記脆弱部は、前記空室において前記第2の流路よりも前記第1の流路側に偏った位置に形成されていることが望ましい。
【0016】
上記構成によれば、脆弱部が、空室において第2の流路よりも第1の流路側に偏った位置に形成されているので、第2の流路に対向する領域に皺が発生することをより確実に抑制することができる。
【0017】
そして、本発明の液体噴射装置は、上記各構成の液体噴射ユニットと、
前記ダンパー流路部へ供給する液体を貯留する液体供給源と、
を備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】プリンターの構成を説明する平面図である。
【図2】インク噴射ユニットの構成を説明する斜視図である。
【図3】記録ヘッドの要部断面図である。
【図4】ダンパー流路部材の斜視図である。
【図5】ダンパー流路部材の平面図である。
【図6】図4中のX−X線断面図である。
【図7】図4中のY−Y線断面図である。
【図8】脆弱部の構成を説明する拡大図である。
【図9】溶着工程を説明する概略断面図である。
【図10】他の実施形態における脆弱部の構成を説明する拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面等を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、本実施形態では、液体噴射ヘッドの一例として液体噴射装置の一種であるインクジェット式記録装置に搭載されるインクジェット式記録ヘッド(以下、「記録ヘッド」という)を例に挙げて説明する。
【0020】
図1はインク噴射ユニット10(図2)を搭載するインクジェット式記録装置(以下、プリンターという)の構成を示す平面図である。例示したプリンター1は、記録紙等の記録媒体(着弾対象:図示せず)の表面に対して液体状のインク(本発明に液体に相当)を噴射して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、フレーム2と、このフレーム2内に配設されたプラテン3とを備えており、紙送りモーターの駆動により回転する紙送りローラー(何れも図示せず)によってプラテン3上に記録紙が搬送されるようになっている。また、フレーム2内には、プラテン3と平行にガイドロッド4が架設されており、このガイドロッド4には、記録ヘッド20を備えたインク噴射ユニット10を収容したキャリッジ5が摺動可能に支持されている。このキャリッジ5は、パルスモーター6の駆動によって回転する駆動プーリー7と、この駆動プーリー7とはフレーム2における反対側に設けられた遊転プーリー8との間に架設されたタイミングベルト9に接続されている。そして、キャリッジ5は、パルスモーター6を駆動することで、ガイドロッド4に沿って紙送り方向と直交する主走査方向に往復移動するように構成されている。
【0021】
フレーム2の一側には、インクカートリッジ13(液体供給源の一種)を着脱可能に搭載するカートリッジホルダー14が設けられている。インクカートリッジ13は、エアチューブ15を介してエアポンプ16と接続されており、このエアポンプ16からの空気が各インクカートリッジ13内に供給される。そして、この空気によるインクカートリッジ13内の加圧により、インク供給チューブ17を通じてインク噴射ユニット10側にインクが供給(圧送)されるように構成されている。
【0022】
インク供給チューブ17は、例えば、シリコーン等の合成樹脂で作製された可撓性を有する中空部材であり、このインク供給チューブ17の内部には、各インクカートリッジ13に対応するインク流路が形成されている。また、プリンター1本体側とインク噴射ユニット10側との間には、プリンター1本体側の制御部(図示せず)からインク噴射ユニット10側に駆動信号等を伝送するためのFFC(フレキシブルフラットケーブル)18が配線されている。
【0023】
次に、インク噴射ユニット10の構成について説明する。ここで、図2はキャリッジ5に取り付けられるインク噴射ユニット10の斜視図、図3はインク噴射ユニット10の記録ヘッド20の要部断面図である。例示したインク噴射ユニット10は、ノズル43が形成されたノズル形成基板36を有する記録ヘッド20(本発明における液体噴射ヘッドに相当)と、記録ヘッド20の上部、即ち、記録ヘッド20の上流側に配置されたダンパー流路部材21と、を備えている。
【0024】
記録ヘッド20は、ヘッドケース25、振動子ユニット26、流路ユニット27、及び駆動基板28から構成されている。ヘッドケース25は、中空箱体状部材であり、その先端面(下面)には流路ユニット27を固定し、ケース内部に形成された収容空部12内には、振動子ユニット26を収容し、先端面とは反対側の上面側には、駆動基板28と液体導入流路部材21が配置される。このヘッドケース25の上面は、即ち記録ヘッド20の基端面である。またヘッドケース25の内部には、その高さ方向を貫通してケース流路34が形成されている。このケース流路34は、液体導入流路部材21側からのインクを共通インク室40に供給するための流路であり、1つの共通インク室40に対して2本ずつ設けられている。本実施形態における記録ヘッド10は2条のノズル列(ノズル群)に対応して2つの共通インク室40を有しており、合計4本のケース流路34がヘッドケース25内部に形成されている。そして、ヘッドケース25の上面には、各ケース流路34の上流端として流入開口部35が突設されている。この流入開口部35には、ダンパー流路部材21のインク導入路51が接続孔59を介して接続される。
【0025】
振動子ユニット26は、櫛歯状に列設された複数の圧電振動子31と、この圧電振動子31に駆動基板28からの駆動信号を供給するためのフレキシブルケーブル32(配線部材)と、圧電振動子31を固定する固定板33から構成される。圧電振動子31は、圧力室42の一部を区画する可撓面(振動板38)に接合されている。そして、この圧電振動子31は、駆動信号の印加により伸縮して圧力室42の容積を膨張又は収縮することで、圧力室42内のインクに圧力変動を生じさせ、この圧力変動の制御によりノズル43からインクを噴射させることができる。
【0026】
流路ユニット27は、ノズル43が開設されたノズル形成基板36、インク流路を形成する流路形成基板37、流路形成基板37の開口面を封止する振動板38を積層した状態で接合して一体化することにより作製されており、共通インク室40からインク供給口41及び圧力室42を通りノズル43に至るまでの一連のインク流路(液体流路)を形成するユニット部材である。共通インク室40から分岐する圧力室42は、ノズル43毎に形成されており、ダンパー流路部材21側からケース流路34及び共通インク室40を介してインクが供給されるように構成されている。この流路ユニット27は、ノズル形成基板36を下側(プリンタ本体のプラテン3側)に向けた姿勢でヘッドケース25の先端面に接合される。
【0027】
駆動基板28は、一端にフレキシブルケーブル32が半田付け等によって電気的に接続され、他端にプリンター本体側からのFFC18が接続されており、このFFCを通じて制御部側から駆動信号を受け、この駆動信号を、フレキシブルケーブル32を通じて圧電振動子31側へ供給するように構成されている。この駆動基板28は、ダンパー流路部材21に設けられた基板保持部56内によって姿勢を保持され、ヘッドケース25の上面の中央部に、当該上面に対して起立すると共に基板の面がノズル列方向に平行となる状態で配置されている。
【0028】
次に、インクカートリッジ7内のインクを記録ヘッド20に導入するダンパー流路部材21の構成について説明する。図4はダンパー流路部材21の斜視図、図5はダンパー部材21の平面図、図6は図4中のX−X線断面図である。
ダンパー流路部材21は、合成樹脂等によってノズル列方向に長い直方体状に成型された導入流路部材本体50と、当該導入流路部材本体50の内部、第1の面、及び第2の面に形成され、記録ヘッド20にインクを供給するインク導入路51(本発明における流路に相当)と、インク導入路51の途中に配置されるフィルター52,53と、により概略構成されている。このダンパー流路部材21は、ヘッドケース25の上面(記録ヘッド20の基端面)にノズル面に対して起立した姿勢で重ねられた状態で配置され、長手方向の両端に形成された止着孔57に記録ヘッド20側から挿入したネジ54にナット55を螺合させて固定される。
【0029】
導入部材本体50には、上面の長手方向の両側に、パッキン(図示せず)を介してインク供給チューブ17と接続されるインク導入孔58がそれぞれ形成され、下面の長手方向の両側に、記録ヘッド20の流入開口部35と接続される接続孔59が、1つのインク導入孔58に対して一対ずつ合計4つ形成され、インク導入路51を含む一連の流路がそれぞれのインク導入孔58及び接続孔59の間に形成されている。即ち、本実施形態における導入部材本体50には、2つのインク導入孔58に対応して、2つのインク導入路51が、互いに別個独立した状態で形成されている。また、導入流路部材本体50の中央部には、上下に貫通した基板保持部56が設けられ、基板保持部56に挿通された駆動基板28を保持するように構成されている。
【0030】
一方(図5,6において左側)のインク導入孔58に供給されたインクは、まず、図5中矢印Aで示すように、内部流路51aを通って、図5において上側に向かい、図4,6に示す連通口63を通じて、第1の面50aに形成された第1のフィルター室66に流入する。第1のフィルター室66に流入したインクは、この第1のフィルター室66に配設された第1のフィルター52を通過して濾過された後、内部流路51aを図5において下側に向かい、後述する自己封止弁65が開弁されている場合に、第2の面50bに形成された圧力調整室67に流入する。第2の圧力調整室67に流入したインクは、上下一対の連通路64a,64bを通って縦流路69に向かい、この縦流路69を流下して第2のフィルター室68に流入する。第2のフィルター室68に流入したインクは、この第2のフィルター室68に設けられた第2のフィルター53を通って濾過された後、この第2のフィルター室68に連通する2つの接続孔59にそれぞれ向かい、これらの接続孔59から記録ヘッド20の流入開口部35を通じて、ケース流路34に供給されるようになっている。
【0031】
同様に、他方(図5,6において右側)のインク導入孔58に供給されたインクは、図5中矢印Bで示すように、内部流路51bを通って、図5において下側に向かい、連通口63を通じて第2の面50bに形成された第1のフィルター室66に流入して第1のフィルター52を通過した後、内部流路51bを図5において上側に向かい、自己封止弁65が開弁されている場合に、第1の面50aに形成された圧力調整室67に流入する。第2の圧力調整室67に流入したインクは、上下一対の連通路64a,64bを通って縦流路69に向かい、この縦流路69を流下して第2のフィルター室68に流入する。第2のフィルター室68に流入したインクは、この第2のフィルター室68に設けられた第2のフィルター53を通って濾過された後、この第2のフィルター室68に連通する2つの接続孔59にそれぞれ向かい、これらの接続孔59から記録ヘッド20の流入開口部35を通じて、ケース流路34に供給されるようになっている。
【0032】
導入部材本体50の両側面、即ち、第1の面50a及び第2の面50bには、各面から突出した区画壁や区画リブなどの区画部62によって、インク導入路51の一部を構成する面流路がそれぞれ形成されている。各面50a,50bに形成された面流路は、導入部材本体50の基板保持部56の中心を通り上下面に垂直な仮想中心軸で回転対称の関係にある。面流路は、第1のフィルター室66と、圧力調整室67と、導入部材本体50の高さ方向に沿って形成された縦流路69と、圧力調整室67と縦流路69との間を連通する上下対の連通路64a,64bと、縦流路69の下流側に設けられた第2のフィルター室68と、から成る。この面流路において、第1のフィルター室66は、2つのインク導入路51のうちの一方の流路の一部であり、本発明における第1の流路に相当する。また、面流路において、圧力調整室67、連通路64a,64b、縦流路69、及び第2のフィルター室68は、2つのインク導入路51のうちの他方の流路の一部であり、縦流路69は、本発明における第2の流路に相当する。また、第1のフィルター室66と縦流路69との間には、空室70が設けられている。この空室70は、第1のフィルター室66、縦流路69、第1のフィルター室66をそれぞれ区画する区画部62で囲まれた領域であり、いずれのインク導入路51にも連通せず、これらの流路からは独立した空間となっている。即ち、この空室70にはインクが流入しない。
【0033】
導入部材本体50の第1の面50a及び第2の面50bには、可撓性を有する薄手のフィルム22がそれぞれ貼着されている。このフィルム22は、後述するように、区画部62の端面に熱溶着或いは超音波溶着によって接合される。このフィルム22により、第1のフィルター室66、圧力調整室67、連通路64a,64b、縦流路69、第2のフィルター室68、及び空室70の各開口面が封止される。換言すると、フィルム22により第1の流路、第2の流路、及び空室70がそれぞれ互いに独立した状態で封止される。
【0034】
図7は、図4中のY−Y線断面図である。第1のフィルター室66は、反対側の面に設けられた圧力調整室67と連通空部71を通じて連通する平面視略矩形状の空部である。この第1のフィルター室66は、インク導入路51において第2のフィルター室68よりも上流側に配置されている。第1のフィルター室66の底部には、連通空部71を塞ぐ状態でバネ座73が取り付けられるバネ座取り付け段部74と、このバネ座取り付け段部74の面方向外側に一段浅いフィルター取り付け段部75が形成されている。フィルター取り付け段部75には、フィルター取り付けリブ76が、第1のフィルター室66の平面形状に沿って枠状に形成されている。そして、第1のフィルター52は、導入部材本体50の両側面に平行な姿勢で、フィルター取り付けリブ76の先端面に溶着されて固定されている。圧力調整室67は、後述する受圧板77を収容する空部である。この圧力調整室67の底部には、自己封止弁65の軸部78が挿通される挿通孔79が開設されている。
【0035】
ここで、自己封止弁65について説明する。自己封止弁65は、記録ヘッド20がノズル43からインクを噴射することで共通インク室40の圧力が低下するのに伴って、ダンパー流路部材21内の圧力が、外気圧に対して相対的に低下した際に、自己封止弁65が開弁して第1のフィルター室66側から圧力調整室67側へのインクの流通を許容するように作動する。即ち、所定の圧力でインクがインク導入孔58から供給される状態にある場合に、記録ヘッド20の共通インク室40にインクが十分に貯留されているとき、自己封止弁65は閉状態にされる。そして、ノズル43からインクが噴射されることにより自己封止弁65よりも下流側の圧力が低下すると、これに伴い発生する負圧力により自己封止弁65が開状態にされてインクが供給される。
【0036】
図7に示すように、本実施形態における自己封止弁65は、軸部78と、軸部78の一端側に軸部78と一体となって形成された円板部80とを有している。軸部78は、圧力調整室67に形成された挿通孔79に挿通されている。また、円板部80は、後述するバネ81と共に連通空部71内に収容されている。円板部80の挿通孔79側には、挿通孔79の周囲に亘って凸部83が挿通孔79側に向かって凸となるように設けられている。円板部80の背面(第1のフィルター52側の面)には、バネ81(付勢部材の一種)の一端が接続されており、バネ81の他端は、バネ座73に接続されている。上述したように、バネ座73は、第1のフィルター室66の底面部に固定されており、バネ座73には、インクが流通可能な流通孔82が形成されている。バネ81は、自己封止弁65をフィルム22側に付勢する。圧力調整室67内の圧力が外気圧よりも著しく低下していない場合、当該バネ81の付勢により、円板部80の凸部83が連通孔79の周縁部に当接し、自己封止弁65の閉状態を維持するようになっている。また、圧力調整室67には、受圧板77が設けられており、受圧板77は、軸部78と当接するように設けられている。受圧板77は、本実施形態では、フィルム22には固着されていない。即ち、本実施形態では、受圧板77は、圧力の低下に伴ってフィルム22が第1のフィルター52側に変位した場合にフィルム22が受圧板77に当接することにより、フィルム22と同時に第1のフィルター52側に変位するものであり、受圧板77が変位することで自己封止弁65に当接して自己封止弁65を移動させる。
【0037】
本実施形態では、受圧板77はフィルム22に固着されていないことから、受圧板77を安定して変位させるために、圧力調整室67には、受圧板77の変位を規制する規制部材84aが、挿通孔79の周囲に壁面状に設けられている。そして、規制部材84aと嵌合する規制部材84bが受圧板77の規制部材84a側に、規制部材84aを囲むように、規制部材84aの周囲に亘って設けられている。即ち、受圧板77が作動した場合に、規制部材84bが規制部材84aに嵌合して、受圧板77は安定して作動することができ、これにより、自己封止弁65を安定して作動させることができる。なお、この場合に、規制部材84a、84bにはそれぞれスリット状開口(図示せず)が設けられており、自己封止弁65が開状態となった場合にはインクがこのスリット状開口を介して規制部材84a、84bを流通できるように構成されている。
【0038】
フィルム22は、圧力調整室67内に負圧が作用すると、即ち、インクの噴射により圧力調整室67内の圧力が外気圧よりも低い圧力になると、第1のフィルター52側に変位し、バネ81の付勢力に抗しつつ受圧板77を介して自己封止弁65を第1のフィルター52側に移動させることにより開状態とする。これにより、第1のフィルター室66側から圧力調整室67側へのインクの流入が許容される。
【0039】
また、フィルム22は、第1のフィルター52が設置された第1のフィルター室66を封止しており、この第1のフィルター室66上のフィルム22もまた負圧が作用しない(又は小さい。以下、同様。)状態で、第1のフィルター52側に撓んだ状態で設けられている。言い換えれば、第1のフィルター室66上のフィルム22は負圧が作用しない状態で曲面状である。このように第1のフィルター室66上のフィルム22も撓んで設けられていることで、記録ヘッド20のノズル43に対して負圧を与えて当該ノズル43からインクや気泡を強制的に排出するクリーニング動作後に、第1のフィルター室66に残留する気泡を抑制することができる。
【0040】
このフィルム22において、空室70に対向する領域には、図8(a)に示すように、縦方向、即ち、第1の流路としての第1のフィルター室66と、第2の流路としての縦流路69と、空室70との並び方向(横方向)に対して交差する方向に沿ってフィルム22の伸張を許容する脆弱部88が形成されている。本実施形態における脆弱部88は、縦方向に並んだ複数の貫通孔87によりミシン目状に構成されている。また、この貫通孔87の列設位置は、空室70に対応する領域において、縦流路69よりも第1のフィルター室66側に偏った位置となっている。そして、フィルム22において、隣り合う貫通孔87同士の間の部分が、他の部分よりも脆弱になる。このような脆弱部88が設けられていることにより、後述するように、フィルム22を導入部材本体50の両面に溶着する際や、第1のフィルター室66に対応する領域のフィルム22が第1のフィルター52側に撓んだ際に、図8(b)に示すように、隣り合う貫通孔87同士の間の脆弱な部分が変形することで、フィルム22の伸張が許容されるようになっている。なお、図4ではフィルム22は図示されていないが、脆弱部88を構成する貫通孔87は図示されている。
【0041】
ここで、第1のフィルター52に気泡がトラップされ、このトラップされた気泡が集まって第1のフィルター室66の第1のフィルター52を塞ぐと、第1のフィルター52の有効面積が減少するので、プリンター1は、上述したように気泡排出のためのクリーニングを定期的に行う。このクリーニングは、記録ヘッド20のノズル形成基板36の噴射側の面をキャップ部材11などで封止し、ポンプを作動してキャップ部材11内に負圧を発生させてノズル43に負圧を作用させて、当該ノズル43からインクを吸引し、気泡を除去する。この場合に、クリーニング後に生じる気泡の量を減らすには、クリーニング時における第1のフィルター室66の容積を小さくすることが有効である。なぜなら、クリーニング時において第1のフィルター室66からインクを吸引した際に第1のフィルター室66内に存在する空気がクリーニング終了後に気泡となるからである。このため、本実施形態においては、第1のフィルター室66を封止するフィルム22を負圧が作用しない状態で撓ませておくことで、第1のフィルター室を封止するフィルムが、テンション(張力)がかかった状態である従来のダンパー流路部材に比べて、クリーニング時に第1のフィルター室66の容積(第1のフィルター室66とフィルム22とから区画形成される空間の容積)を小さくすることができる。即ち、従来のダンパー流路部材においては、第1のフィルター室を封止するフィルムに対してテンションがかかった状態であるので、クリーニング時に負圧が作用したとしても、フィルムがあまり下流側に落ち込みにくく、第1のフィルター室の容積はクリーニング時と通常時とではほとんど変わらなかった。これに対し、本実施形態では、負圧を作用する前の状態で第1のフィルター室66を封止するフィルム22が撓んでいるため、クリーニング時に下流側(第1のフィルター52側)に落ち込みやすい。また、フィルム22が撓んだ状態であることから、フィルムにテンションがかかった状態である場合に比べて反力を受けにくく、フィルム22がより下流側に落ち込みやすい。これにより、第1のフィルター室66の容積を従来に比べて小さくすることができ、クリーニング後に残る気泡の量を減らすことができるので、第1のフィルター52を有効に用いることができる。また、本実施形態では、上記のように、フィルム22において空室70に対向する領域に脆弱部88が形成されているので、クリーニング時に負圧が作用して第1のフィルター室66に対向する領域のフィルム22が第1のフィルター52側に撓むことにより、フィルム22全体が第1のフィルター室66側に引っ張られたとしても、脆弱部88でフィルム22の変形が許容されるので、引っ張られたときのテンションが縦流路69側まで及びにくい。このため、縦流路69に対応する領域のフィルム22に引っ張り皺が生じ難くなる。その結果、縦流路69内の気泡が皺に引っ掛かり捕捉されることが防止され、クリーニング時に縦流路69内の気泡の排出性を向上させることができる。また、脆弱部88の貫通孔87は、第1の流路としての第1のフィルター室66と、第2の流路としての縦流路69と、空室70との並び方向(横方向)に対して交差する方向に沿って設けられたので、並び方向の張力を吸収し易くすることができる。これにより、皺が発生することをより確実に抑制することができる。
【0042】
ところで、フィルム22の第1のフィルター室66を封止する領域は、負圧が作用しない状態で撓ませておかなくては、上述したようにクリーニング時にフィルム22が第1のフィルター室66側に落ち込んで第1のフィルター室66の容積を小さくすることができない。そこでフィルム22を導入流路部材本体50に溶着する場合には、第1のフィルター室66上のフィルム22を撓ませた状態で、当該フィルム22が導入流路部材本体50に溶着される。以下、詳細に説明する。
【0043】
はじめに、図9に示すように導入流路部材本体50を図示しない治具に収容し、当該導入流路部材本体50に対して位置決めした状態でフィルム用基材22′を治具上に載置する(載置工程)。フィルム用基材22′には、導入流路部材本体50の側面と略同一の形状で図示しないミシン目が形成されている。また、フィルム用基材22′における空室70に対向する領域には、貫通孔87をパンチなどで形成して脆弱部88が予め形成されている。そして、上記ミシン目により囲まれた領域が導入流路部材本体50の側面に一致するように、図示しない位置決めピンによりフィルム用基材22′を治具上で位置決めする。その後、第1のフィルター室66に対応するフィルム用基材22′の部分を第1のフィルター53側に撓ませた状態とし(フィルム変形工程)、この状態でフィルム用基材22′を導入流路部材本体50の側面に溶着(固着)する(溶着工程)。即ち、図9に図示するように、押圧部材91により、フィルム用基材22′を押圧して第1のフィルター52側に撓ませると共に、加熱部材92により、溶着する領域を覆ってフィルム用基材22′を加熱して側面の区画部62に溶着させることにより、フィルム用基材22′を第1のフィルター室66上で撓んだ状態にして溶着する。このようにして、負圧が作用しない状態で第1のフィルター室66上のフィルム22を撓ませることができる。
【0044】
この場合に、第1のフィルター室66に対応する部分のフィルム用基材22′を撓ませた状態でフィルム全体を導入流路部材本体の側面に溶着すると、第1のフィルター室66以外の領域ではフィルム用基材22′が第1のフィルター室66側に引き込まれて皺が寄りやすく、流路上のフィルムに皺が寄ると、この皺が形成された部分に気泡が溜まってしまう。しかしながら、本実施形態においては、フィルム22において空室70に対向する領域に脆弱部88が形成されているので、溶着する際に、第1のフィルター室66に対向する領域のフィルム22が第1のフィルター52側に撓んでも、脆弱部88でフィルム22の変形が許容されるので、引っ張られたときのテンションが縦流路69側まで及びにくい。このため、特に、縦流路69に対応する領域のフィルム22に引っ張り皺が生じ難くなる。その結果、縦流路69内の気泡が皺に引っ掛かり捕捉されることが防止される。また、本実施形態では、脆弱部88を複数の貫通孔87より構成しており、第1のフィルター室66上のフィルム用基材22′を撓ませた状態でフィルム全体を導入流路部材本体50に溶着する際に、隣り合う貫通孔87の間の脆弱な部分が変形することにより、当該貫通孔87の近傍に皺が生じる可能性があるが、上述したように貫通孔87の開設位置を、空室70に対応する領域において、縦流路69よりも第1のフィルター室66側に偏らせているので、貫通孔87の近傍の皺が、縦流路69側に達することが抑制される。
【0045】
その後、押圧部材91、加熱部材92を除去し、フィルム用基材22′からミシン目で囲まれている領域以外の領域を除去して、治具から導入流路部材本体50にフィルム22が固着され、第1のフィルター室66に撓んだ状態でフィルム22が設けられたダンパー流路部材21を取り出す。そして、この製造されたダンパー流路部材21の液体供給路を、ヘッド流路と連通するように記録ヘッド20に設置する。
【0046】
図10は、本発明の他の実施形態における脆弱部88′の構成を説明する図である。本実施形態では、脆弱部88′を縦方向、即ち、第1の流路としての第1のフィルター室66と、第2の流路としての縦流路69と、空室70との並び方向(横方向)に対して交差する方向に沿って長尺なスリット94により構成している点が、上記の第1実施形態と異なっている。その他の構成については、第1実施形態と同様であるため、その説明については省略する。このようにスリット94で構成することにより、貫通孔87よりも変形し易く、または、変形した場合においても皺が生じ難いというメリットがある。さらには、フィルム22にスリット94を形成する際に、複数の貫通孔87を形成する場合と比較して、フィルム22の抜きカスが発生することによる問題を防止することができる。
なお、脆弱部88′については、フィルム22の他の部分よりも脆弱で変形し易くなっていれば、上記各実施形態で例示したものには限られない。即ち、貫通孔87やスリット94のようにフィルム22を貫通したものには限られず、例えば、他の部分よりもフィルム22の厚みを薄くすることで脆弱部とする構成を採用することもできる。
【0047】
また、以上は、液体噴射装置の一種であるプリンター1を例に挙げて説明したが、本発明は他の液体噴射装置にも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターを製造するディスプレイ製造装置、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極製造装置、バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…プリンター,10…液体噴射ユニット,13…インクカートリッジ,20…記録ヘッド,21…ダンパー流路部材,22…フィルム,43…ノズル,50…導入路部材本体,52…第1のフィルター,53…第2のフィルター,62…区画部,65…自己封止弁,66…第1のフィルター室,67…圧力調整室,70…空室,87…貫通孔,88…脆弱部,94…スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドの上流側に配置され、液体供給源からの液体を受けて前記液体噴射ヘッド側に供給するダンパー流路部材と、を備えた液体噴射ユニットであって、
前記ダンパー流路部材の少なくとも一面には、液体を濾過する第1のフィルターが配設された第1の流路と、第2のフィルターが途中に配設された第2の流路とが、両者の間に空室が設けられた状態で形成されると共に、フィルムが貼着されて当該フィルムにより前記第1の流路、前記第2の流路、及び前記空室がそれぞれ互いに独立した状態で封止され、
前記フィルムにおける前記空室に対向する領域には、フィルムの伸張を許容する脆弱部が形成されていることを特徴とする液体噴射ユニット。
【請求項2】
前記脆弱部は、前記第1の流路と前記第2の流路と前記空室との並び方向に対して交差する方向に沿って設けられたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ユニット。
【請求項3】
前記脆弱部は、前記並び方向に対して交差する方向に沿って形成されたスリットによって構成されていることを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ユニット。
【請求項4】
前記脆弱部は、前記並び方向に対して交差する方向に沿って列設された複数の貫通孔によって構成されていることを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ユニット。
【請求項5】
前記フィルムは、前記第1の流路に対向する領域が当該第1の流路内の圧力変化に応じて撓むことが可能な状態で前記ダンパー流路部材に貼着され、
前記脆弱部は、前記空室において前記第2の流路よりも前記第1の流路側に偏った位置に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の液体噴射ユニット。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の液体噴射ユニットと、
前記ダンパー流路部材へ液体を供給する液体供給源と、
を備えたことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−235538(P2011−235538A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109038(P2010−109038)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】