説明

液体噴射式記録ヘッド及び液体噴射式記録装置

【課題】温度環境変化が大きな場所で使用しても機能が低下する虞がない液体噴射式記録ヘッド及び液体噴射式記録装置とする。
【解決手段】液体噴射式記録ヘッドが使用される使用温度域よりも環境温度が高くなった際に、開口部51の開口57が閉じられる状態に形状記憶合金ばね63によりシール体61が開口ばね62の付勢力に抗して移動してキャリッジ3の内部を断熱し、環境温度が低くなると、開口部51の開口57が開かれる状態に形状記憶合金ばね63が変形し、シール体61が開口ばね62の付勢力により移動してキャリッジ3の内部が外気と連通状態にされ、温度変化が大きな場所で使用してもキャリッジ3の内部の温度変化が緩やかになって記録ヘッド本体は、温度が上がり過ぎない環境に維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度環境変化による機能低下を抑制した液体噴射式記録ヘッド及び液体噴射式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液体噴射式記録ヘッドであるインクジェット式記録ヘッドでは、インクが充填されたインクカートリッジから、このインクカートリッジに挿入されるインク供給針及び流路を介してインクが供給され、供給されたインクは圧電素子等を駆動させることによりノズルから吐出される。通常、インクジェット式記録ヘッドがキャリッジに搭載されたインクジェット式記録装置は、常温域での使用を前提として構成部品や機構、インクの種類等が決められている。
【0003】
近年の生活様式の多様化等により、様々な場所で各種機器が使用されるようになってきており、インクジェット式記録装置も自動車等の車両内で使用されることが想定されるようになってきている。自動車等の車両は、炎天下に駐車していると、季節によっては車内がかなりの高温状態となることが知られている。一般的なインクジェット式記録装置は、常温域での使用が前提となっているので、車両内で使用されて放置されると、常温を大きく超えたり、急激な温度変化に晒される温度環境下に置かれることになる。
【0004】
通常のインクジェット式記録装置は、常温域での使用を前提として構成部品や機構、インクの種類等が決められているので、常温を大きく超える温度環境下である車両内に放置されると、インク中の水分蒸発によるインクの粘度の増加や、乾燥、固着等によるインク流路の詰まりが生じる虞が考えられる。インク粘度が増加したり、インク流路に詰まりが生じると、印字ドット抜け等の印刷不良が生じてしまう。また、車内は、高温環境からエアコンの使用等により常温付近まで急激な温度変化が生じることも想定される。通常のインクジェット式記録装置が急激な温度変化に晒される温度環境下に置かれると、各部品の熱膨張・収縮率の差から接着部品に剥離や脱落等が生じることが考えられる。
【0005】
従来から、周囲の温度環境からヘッドの環境を遮断するため、断熱材によりインクジェットヘッドを収容する技術や(特許文献1参照)、インク送出チューブに満たされたインクの蒸発を防ぐために保湿装置構造を設けた技術(特許文献2参照)が提案されている。しかし、特許文献1に開示された技術は、ホットメルトタイプのインクの保温を行うものであり、特許文献2に開示された技術は、インク送出チューブ内のインクの蒸発を防ぐものであるので、断熱材や保湿装置構造は、厳しい温度環境変化に対しては何ら寄与していない。
【0006】
【特許文献1】特開平9−164701号公報
【特許文献2】特開平10−44458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、温度環境変化が大きな場所で使用しても機能が低下する虞がない液体噴射式記録ヘッド及び液体噴射式記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の第1の態様は、液体カートリッジからの液体が供給され液滴を吐出する複数のノズル開口を有する記録ヘッド本体を有し、記録ヘッド本体がキャリッジに搭載される液体噴射式記録ヘッドにおいて、キャリッジが記録ヘッド本体を断熱状態で密封する筐体で形成され、筐体に開口部を設け、開口部を開閉する開閉部材を備えたことを特徴とする液体噴射式記録ヘッドにある。
かかる第1の態様では、液体噴射式記録ヘッドが使用される使用温度域から環境温度が外れた際に開閉部材により開口部を閉じて環境温度とキャリッジの内部を断熱し、環境温度が使用温度域の範囲になった際に開閉部材により開口部を開いて環境温度とキャリッジの内部とを連通状態にすることで、温度環境変化が大きな場所で使用してもキャリッジの内部の温度環境変化が小さくなる。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の液体噴射式記録ヘッドにおいて、開閉部材は、環境温度の変化に応じて開口部を開閉する弁部材であることを特徴とする液体噴射式記録ヘッドにある。
かかる第2の態様では、環境温度の温度変化に応じて弁部材を動作させることができ、温度環境変化が大きな場所で使用してもキャリッジの内部の温度環境変化が小さくなる。
【0010】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の液体噴射式記録ヘッドにおいて、弁部材は、環境温度の温度が所定温度以上になった際に開口部を閉じる状態に動作することを特徴とする液体噴射式記録ヘッドにある。
かかる第3の態様では、環境温度が高くなった際にキャリッジ内の温度を使用温度域の範囲に維持することができ、高温度状態に環境変化が大きくなる場所で使用してもキャリッジの内部の温度上昇の変化が小さくなる。
【0011】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載の液体噴射式記録ヘッドにおいて、弁部材を備えた開口部は、キャリッジの上下の2箇所に少なくとも備えられていることを特徴とする液体噴射式記録ヘッドにある。
かかる第4の態様では、環境温度が高くなった際にキャリッジ内の温度が使用温度域の範囲に維持されている時に環境温度が低下した場合、下側の開口部から外気を導入して上側の開口部から内部の流体を排出することで、効率的にキャリッジ内の雰囲気を環境温度の温度域にすることができる。
【0012】
本発明の第5の態様は、第3または第4の態様に記載の液体噴射式記録ヘッドにおいて、電源投入時に温度を検出して液体の吸引を行わせる機能を有し、弁部材が閉じる状態に動作する所定温度は、液体の吸引を行なわせる機能が動作する温度であることを特徴とする液体噴射式記録ヘッドにある。
かかる第5の態様では、液体の吸引を行なわせる動作に合わせてキャリッジ内の雰囲気を使用温度域に調節することができる。
【0013】
本発明の第6の態様は、第2から第5の態様のいずれかに記載の液体噴射式記録ヘッドにおいて、温度変化により変形する形状記憶合金により弁部材を動作させることを特徴とする液体噴射式記録ヘッドにある。
かかる第6の態様では、温度変化により変形する形状記憶合金を用いることにより、組成を調整することで動力を用いずに所望の温度で弁部材を動作させることができる。
【0014】
上記目的を達成するための本発明の第7の態様は、液体カートリッジからの液体が供給され液滴を吐出する複数のノズル開口を有する記録ヘッド本体を有し、記録ヘッド本体がキャリッジに搭載される液体噴射式記録ヘッドにおいて、キャリッジが記録ヘッド本体を断熱状態で密封する筐体で形成され、筐体の内部と外部を連通する開口部をキャリッジの上下の2箇所に設け、環境温度が所定温度以上になった際に開口部を閉じる状態に動作する弁部材を備え、開口部は、開口を有するバルブ本体で構成され、弁部材は、バルブ本体に往復移動自在に支持されるシール体と、開口を開く状態にシール体を付勢する開口ばねと、環境温度が所定温度以上になった際に開口ばねの付勢力に抗して開口を閉じる状態にシール体を移動させるように変形する形状記憶合金ばねとを有することを特徴とする液体噴射式記録ヘッドにある。
かかる第7の態様では、液体噴射式記録ヘッドが使用される使用温度域よりも環境温度が高くなった際に、開口部の開口が閉じられる状態に形状記憶合金ばねによりシール体が開口ばねの付勢力に抗して移動してキャリッジの内部を断熱し、環境温度が低くなると、開口部の開口が開かれる状態に形状記憶合金ばねが変形し、シール体が開口ばねの付勢力により移動してキャリッジの内部が外気と連通状態にされ、温度変化が大きな場所で使用してもキャリッジの内部の温度変化が緩やかになって温度が上がり過ぎない環境が維持される。
【0015】
上記目的を達成するための本発明の第8の態様は、第1から第7のいずれかの態様に記載の液体噴射式記録ヘッドのキャリッジが往復移動手段に連結されていることを特徴とする液体噴射式記録装置にある。
かかる第8の態様では、環境温度変化が大きな場所で使用してもキャリッジの内部の温度変化が小さくなる液体噴射式記録ヘッドを備えた液体噴射式記録装置となる。
【0016】
本発明の第9の態様は、第8の態様に記載の液体噴射式記録装置において、キャリッジの所定位置でノズル開口の密閉を行うキャップを備え、キャップにはキャリッジとの間を封止する封止部が備えられていることを特徴とする液体噴射式記録装置にある。
かかる第9の態様では、既存の部品を用いて液体噴射式記録ヘッドのキャリッジの密閉を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1には本発明の一実施形態例に係るインク噴射ヘッド(液体噴射式記録ヘッド)を備えたインクジェット式記録装置(液体噴射式記録装置)の概略構成、図2にはインク噴射ヘッドの内部構造を表す断面、図3にはインク噴射ヘッドの全体を表す断面、図4には開閉部材の詳細状況、図5、図6には開閉部材の動作状況、図7には開閉部材と温度の経時変化を示してある。
【0018】
図1に示すように、インクジェット式記録装置1は、インクカートリッジ2が搭載されるキャリッジ3及びキャリッジ3に取り付けられた記録ヘッド4等が一体化された記録ヘッド本体としてのインク噴射ヘッド5を有している。キャリッジ3は、詳細は後述するが、インク噴射ヘッド5を断熱状態で密封する筐体で形成されている(図1には筐体の部分は省略してある)。キャリッジ3はタイミングベルト6を介してステッピングモータ7に接続され、ガイドバー8に案内されて記録紙9の紙幅方向(主走査方向)に往復移動するようになっている。キャリッジ3は記録紙9と対面する面(下面)に記録ヘッド4のノズル面が露呈するノズル面開口(詳細は後述する)が形成され、キャリッジ3にはインクカートリッジ2が収容される。
【0019】
記録ヘッド4にはインクカートリッジ2からインクが供給され、キャリッジ3を移動させながら記録紙9の上面にインク滴を吐出させて記録紙9に画像や文字をドットマトリックスにより印刷するようになっている。図1中の符号10は、印刷休止中に記録ヘッド4のノズル面が露呈するノズル面開口を封止することにより筐体で形成されたキャリッジ3を密封するキャップである。キャップ10がノズル面開口を封止することで、ノズルの乾燥が防止され、また、記録ヘッド4のノズル面に負圧を作用させてクリーニング動作が可能になる。また、図1の符号11は、記録ヘッド4のノズル面をワイピングするワイパーブレードであり、符号12は、クリーニング動作で吸引した廃インクを貯留する廃インク貯留部であり、符号13は、インクジェット式記録装置1の動作を制御する制御装置である。
【0020】
図2に基づいてインク噴射ヘッド5の構造を説明する。
図に示すように、記録ヘッド4の先端部には流路ユニット17が配置され、流路ユニット17にはノズル開口20が列設されたノズルプレート19が設けられている。また、ノズル開口20に連通し圧電振動子16によりインクを加圧する圧力発生室21が設けられ、圧力発生室21にはインク貯留室からインクが供給される。即ち、流路ユニット17は、ノズル開口20が穿設されたノズルプレート19と、圧力発生室21との共通の液体貯留室であるインク貯留室並びにこれらを連通させるインク供給路とに対応する空間が形成された圧力発生室形成板24と、圧力発生室21やインク貯留室の開口を封止する封止板、即ち、振動板25とが積層されている。流路ユニット17は接着剤を用いてヘッドケース18に接合されている。
【0021】
インク噴射ヘッド5には制御基板15が設けられ、制御基板15を介して制御装置13(図1参照)からの動作信号を圧電振動子16に入力する。制御基板15は流路ユニット17とは反対側のヘッドケース18の部位、即ち、ヘッドケース18の上面に沿った状態で配置されている。
【0022】
圧電振動子16は駆動信号の入力により充電状態で長手方向に収縮し、充電状態から放電する過程で長手方向に伸張する、所謂、縦振動モードの振動子である。圧電振動子16は、先端が圧力発生室21の一部を形成する振動板25に固着され、他端が基台26に固定されている。尚、縦振動モードの圧電振動子16をたわみ振動モードの圧電振動子に変更することも可能である。ヘッドケース18にはインク貯留室に対応する部分にヘッド流路27が形成され、ヘッド流路27を介してインクカートリッジ2(図1参照)のインクがインク貯留室に導入される。記録ヘッド4では、圧電振動子16の収縮・伸張を受けて圧力発生室21が拡張・伸張し、圧力発生室21の圧力変動によりインクの吸引とインク滴の吐出とが行われる。
【0023】
インクカートリッジ(図1参照)から送られてきたインクは、ヘッド流路27からインク貯留室に流入し、その後、圧力発生室21において圧電振動子16の動作で加圧され、ノズル開口20から記録紙9(図1参照)に向かってインク滴の状態で吐出され印刷が進行する。尚、記録ヘッド4の構成としては、図示例の構成に限定されず、圧力発生室が形成された流路形成基板に弾性膜を設け、圧電素子の駆動により弾性膜を変形させてインク滴をノズルから吐出させる構成を適用することも可能である。
【0024】
キャリッジ3(図1参照)に相当するヘッドホルダ41に記録ヘッド4が結合された状態でインク噴射ヘッド5が構成されている。ヘッドホルダ41の上部にはインクカートリッジ2(図1参照)に進入するインク供給針31が取り付けられている。インク供給針31の根元部は導入流路33に連通し、導入流路33の先端はヘッド流路27に連通している。インクカートリッジ(図1参照)からのインクは、インク供給針31、導入流路33及びヘッド流路27を介して圧力発生室21に送られる。
【0025】
図3に基づいてインク噴射ヘッド5の全体の構造を説明する。
図に示すように、インク噴射ヘッド5のヘッドホルダ41には複数(図示例では6個)のインクカートリッジ2が搭載され、インクカートリッジ2が搭載されたインク噴射ヘッド5の全体がキャリッジ3に搭載されている。キャリッジ3は、記録ヘッド4、インク噴射ヘッド5及びインクカートリッジ2を含む記録ヘッド本体を断熱状態で密封する筐体で形成されている。
【0026】
即ち、キャリッジ3は、記録ヘッド4のノズル面が露呈するノズル面開口42を有し上部が開放された本体43を備え、本体43の開放面にはシール44を介して天井板45が固定されている。本体43及び天井板45は二重構造とされ、二重構造の中空部には断熱材46が充填されている。尚、記録ヘッドを断熱状態にする構成としては、断熱材46を充填する構成に代えて、キャリッジそのものを低熱伝導率材料で構成したり、表面に熱を反射する素材を貼付する構成にすることも可能である。また、断熱材46が充填される空間を真空状態にする構成とすることも可能である。
【0027】
また、キャップ10には本体43のノズル面開口42を封止するリップ部48が設けられ、電源がオフにされた時等に、図中点線の位置からキャップ10が記録ヘッド4のノズル面に被せられると共にリップ部48が本体43のノズル面開口42に嵌合する。つまり、記録ヘッド本体が断熱状態でキャリッジ3に密封された状態になる。キャップ10をキャリッジ3の密閉部品とすることで、既存の部品を用いてキャリッジ3の密閉を行うことができる。
【0028】
キャリッジ3を構成する天井板45及び本体43の底部近傍には、開口部51が設けられ、開口部51は開閉部材としての弁部材52により開閉自在とされている。つまり、キャリッジ3の上下2箇所に弁部材52を備えた開口部51が備えられている。具体的には、環境温度が常温域の時には開口部51が開かれた状態にされてキャリッジ3の内部と環境温度が一致する状態にされている。環境温度が高くなると、開口部51が閉じられた状態にされてキャリッジ3が密閉され、環境温度に対して記録ヘッド本体が断熱される。尚、弁部材52を備えた開口部51を設ける数は、大きさや形状等により適宜選択することができ、1箇所または3箇所以上に設けることも可能である。また、設ける場所も図示例に限定されず、任意の場所に設けることが可能である。
【0029】
図4に基づいて開口部51及び弁部材52の詳細構造を説明する。
図に示すように、キャリッジ3の天井板45(本体43)には連通孔55が設けられ、連通孔55を覆う状態にバルブ本体56が設けられている。バルブ本体56の下端壁面には開口57が形成され、バルブ本体56の内部には支持軸部58が取り付けられている。支持軸部58は連通孔55に遊嵌され、連通孔55と支持軸部58との隙間及び開口57によりキャリッジ3の内部と外部とが連通状態とされる。
【0030】
支持軸部58にはシール体61が摺動自在に備えられ、シール体61が図4中下側に摺動することにより開口57が塞がれてキャリッジ3の内部と外部とが遮断される。開口57を開く方向(図4中上側)にシール体61を付勢する開口ばね62が備えられ、シール体61を挟んで開口ばね62の反対側には形状記憶合金ばね63が設けられている。形状記憶合金ばね63は、所定温度T℃以上、例えば、32℃以上となった際に、開口ばね62の付勢力に抗して開口57を閉じる方向(図4中下側)にシール体61を移動させるように変形、即ち、伸張する。形状記憶合金ばね63は、所定温度を下回る際には、図4に示すように変形していない状態、即ち、縮んだ状態とされる。
【0031】
形状記憶合金ばね63が変形する所定温度は、例えば、電源が投入された際のクリーニング開始の設定温度と同じ温度に設定される。このため、インクの吸引を行なわせる動作に合わせてキャリッジ3内の雰囲気を使用温度域に調節することができる。形状記憶合金ばね63が変形する温度の設定は、組成を調整することにより任意の温度に設定することが可能である。
【0032】
尚、開口部51の開閉を行う弁部材52の構成は、温度変化に応じて開閉する構成に限らず、手動で開閉する構成とすることも可能である。また、温度に応じて駆動される駆動手段を設けて開閉させる構成とすることも可能である。更に、温度変化に応じて体積が変化する状態に変形する部材により開口部51の開閉を行う構成とすることも可能である。
【0033】
図5〜図7に基づいてキャリッジ3に密封されたヘッド本体における温度変化に応じた動作状態を説明する。例えば、インクジェット式記録装置1が自動車等の車両の内部に放置された場合を想定する。尚、図5、図6には、記録ヘッド4、インク噴射ヘッド5及びインクカートリッジ2を含む記録ヘッド本体の詳細は省略してある。
【0034】
図5、図7に示すように、放置された直後の温度が低い時刻t1までは環境温度である車内の温度は所定温度T℃(例えば、32℃)を下回り、形状記憶合金ばね63が縮んだ状態とされてシール体61は開口ばね62によって付勢される。開口ばね62の付勢によりシール体61が開口57を開く方向に移動し、開口57が開放状態とされる。開口57が開くことにより、本体43側の開口部51から車内の空気がキャリッジ3内に導入されると共に天井板45側の開口部51からキャリッジ3内の空気が外部に排出される。これにより、キャリッジ3内の温度が環境温度に近い温度に維持され、記録ヘッド本体が環境温度に近い環境に維持された状態にされる。
【0035】
図6、図7に示すように、車両内の温度が上昇するに従いキャリッジ3の内部の温度が上昇し、車内の温度が所定温度T℃以上になると(時刻t1)、形状記憶合金ばね63が変形して、開口ばね62の付勢力に抗して開口57を閉じる方向にシール体61を移動させるように変形し、開口57が閉じられる。開口57が閉じられることによりキャリッジ3が断熱状態に密封され、車両内の温度が上昇してもキャリッジ3内の温度上昇は緩やかな状態に維持される。これにより、記録ヘッド本体は温度上昇が緩やかな状態の環境に維持される。
【0036】
図5、図7に示すように、外気の温度が低下して車内の温度が低下すると、または、エアコンを使用する等で車内の温度が低下すると、車内の温度が所定温度T℃(例えば、32℃)を下回る(時刻t2)。車内の温度が所定温度T℃を下回ると、形状記憶合金ばね63が縮んだ状態とされ、開口ばね62の付勢によりシール体61が付勢されて開口57が再び開放状態とされる。開口57が開くことにより、温度が低下した車内の空気が断熱状態にされたキャリッジ3内に導入され、キャリッジ3内の温度が環境温度に近い温度に低下する。これにより、記録ヘッド本体は環境温度に近い温度に低下した温度の環境に維持される。
【0037】
上述した弁部材52は、形状記憶合金ばね63を用いているので、シール体61が徐々に動作することになり、空気の入れ替えが急激に行われることがなく、キャリッジ3内の温度変化が急激に生じることがない。また、弁部材52は、環境温度の変化に応じて動作するので、動作のための動力を必要としない。
【0038】
従って、炎天下に駐車している自動車等の車両内にインクジェット式記録装置1が車内に放置されても、キャリッジ3内の温度は常温域から大きく外れない温度に維持される。これにより、記録ヘッド本体は常温域から大きく外れない温度の環境に維持され、インク中の水分蒸発によるインクの粘度の増加や、乾燥、固着等によるインク流路の詰まりが生じることがなくなり、車内に放置されても、印字ドット抜け等の印刷不良が生じることがなくなる。また、キャリッジ3内の温度が常温域から大きく外れない温度に維持されているので、エアコン等を使用してもキャリッジ3内の温度が急激な温度変化の環境に晒されることがなく、各部品の熱膨張・収縮率の差から接着部品に剥離や脱落等が生じることがなくなる。
【0039】
上述した実施形態例によると、キャリッジ3内の温度変化を緩やかにして常温域から外れない温度域に維持することができるので、温度が上昇しすぎない環境が維持され、且つ、環境温度が低下した場合には外気を自動的に導入して内部温度を下げることができる。
【0040】
このため、温度環境変化が大きな場所で使用しても機能が低下する虞がないインク噴射ヘッド5及びインクジェット式記録装置1とすることができる。
【0041】
尚、上述した実施形態例では、環境温度が上昇した場合に弁部材52を閉じてキャリッジ3を断熱するようにしたが、環境温度が低下した場合にキャリッジ3を密封して内部の温度を維持する構成とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態例に係るインクジェット式記録装置の概略構成図。
【図2】インク噴射ヘッドの内部構造を表す断面図である。
【図3】インク噴射ヘッドの全体を表す断面図である。
【図4】開閉部材の詳細断面図である。
【図5】開閉部材の動作状況説明図である。
【図6】開閉部材の動作状況説明図である。
【図7】開閉部材と温度の経時変化を表すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 インクジェット式記録装置、 4 記録ヘッド、 5 インク噴射ヘッド、 10 キャップ、 43 本体、 45 天井板、 46 断熱材、 51 開口部、 52 弁部材、 55 連通孔 56 バルブ本体、 62 開口ばね、 63 形状記憶合金ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体カートリッジからの液体が供給され液滴を吐出する複数のノズル開口を有する記録ヘッド本体を有し、記録ヘッド本体がキャリッジに搭載される液体噴射式記録ヘッドにおいて、キャリッジが記録ヘッド本体を断熱状態で密封する筐体で形成され、筐体に開口部を設け、開口部を開閉する開閉部材を備えたことを特徴とする液体噴射式記録ヘッド。
【請求項2】
開閉部材は、環境温度の変化に応じて開口部を開閉する弁部材である
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射式記録ヘッド。
【請求項3】
弁部材は、環境温度が所定温度以上になった際に開口部を閉じる状態に動作する
ことを特徴とする請求項2に記載の液体噴射式記録ヘッド。
【請求項4】
弁部材を備えた開口部は、キャリッジの上下の2箇所に少なくとも備えられている
ことを特徴とする請求項3に記載の液体噴射式記録ヘッド。
【請求項5】
電源投入時に温度を検出して液体の吸引を行わせる機能を有し、
弁部材が閉じる状態に動作する所定温度は、液体の吸引を行なわせる機能が動作する温度である
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の液体噴射式記録ヘッド。
【請求項6】
温度変化により変形する形状記憶合金により弁部材を動作させる
ことを特徴とする請求項2から請求項5のいずれかに記載の液体噴射式記録ヘッド。
【請求項7】
液体カートリッジからの液体が供給され液滴を吐出する複数のノズル開口を有する記録ヘッド本体を有し、記録ヘッド本体がキャリッジに搭載される液体噴射式記録ヘッドにおいて、キャリッジが記録ヘッド本体を断熱状態で密封する筐体で形成され、筐体の内部と外部を連通する開口部をキャリッジの上下の2箇所に設け、環境温度が所定温度以上になった際に開口部を閉じる状態に動作する弁部材を備え、
開口部は、開口を有するバルブ本体で構成され、弁部材は、バルブ本体に往復移動自在に支持されるシール体と、開口を開く状態にシール体を付勢する開口ばねと、環境温度が所定温度以上になった際に開口ばねの付勢力に抗して開口を閉じる状態にシール体を移動させるように変形する形状記憶合金ばねとを有する
ことを特徴とする液体噴射式記録ヘッド。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の液体噴射式記録ヘッドのキャリッジが往復移動手段に連結されていることを特徴とする液体噴射式記録装置。
【請求項9】
キャリッジの所定位置でノズル開口の密閉を行うキャップを備え、キャップにはキャリッジとの間を封止する封止部が備えられている
ことを特徴とする請求項8に記載の液体噴射式記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−276171(P2007−276171A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102354(P2006−102354)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】