説明

液体噴射装置、及び液体噴射装置のメンテナンス方法

【課題】性能の低下を抑制できる液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体噴射装置は、液体を噴射するノズルと凹部とが形成された噴射面を有する噴射ヘッドと、噴射ヘッド側に開口を有し、噴射ヘッドから排出された液体を受ける液体受け部と、噴射面と接触する先端部とを有するキャップ部材と、キャップ部材を移動させる駆動装置と、先端部と噴射面とを接触させた状態で噴射面とキャップ部材との間に形成された空間の流体を吸引する吸引装置とを備える。駆動装置は、吸引装置による吸引の後、先端部と噴射面とを接触させた状態でキャップ部材を移動させ、凹部と先端部とを対向させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置、及び液体噴射装置のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置として、記録ヘッド(噴射ヘッド)のノズル(噴射口)より記録媒体にインク(液体)を噴射するインクジェット式のプリンタ(液体噴射装置)が知られている。プリンタにおいては、インクの増粘によりインクの噴射速度や噴射量が低下してしまい、噴射不良が生じる場合がある。そのため、インクの噴射特性を維持するために、従来から、記録ヘッドのメンテナンス処理が行われている。下記特許文献1には、メンテナンス処理として、キャップ部材を用いる吸引動作によってノズルからインクを強制的に排出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−052381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キャップ部材を用いる吸引動作においては、ノズルが形成されている記録ヘッドのノズル形成面(噴射面)にキャップ部材を接触させた状態で、ノズル形成面とキャップ部材との間の流体を吸引して、その空間を負圧にする。吸引動作が終了すると、ノズル形成面からキャップ部材を離す動作が実行される。その場合において、ノズル形成面からキャップ部材を急激に離すと、空間において急激な圧力変動が生じる。すなわち、負圧状態の空間の圧力が、急激に大気圧に変化する。その場合、キャップ内に残留するインクが飛び散ってノズル形成面に付着したり、ノズルに入り込んだりする可能性がある。その結果、噴射不良が生じたりする等、プリンタの性能が低下する可能性がある。
【0005】
本発明の態様は、性能の低下を抑制できる液体噴射装置、及び液体噴射装置のメンテナンス方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に従えば、液体を噴射するノズルと凹部とが形成された噴射面を有する噴射ヘッドと、前記噴射ヘッド側に開口を有し、前記噴射ヘッドから排出された液体を受ける液体受け部と、前記噴射面と接触する先端部とを有するキャップ部材と、前記キャップ部材を移動させる駆動装置と、前記先端部と前記噴射面とを接触させた状態で前記噴射面と前記キャップ部材との間に形成された空間の流体を吸引する吸引装置と、を備え、前記駆動装置は、前記吸引装置による前記吸引の後、前記先端部と前記噴射面とを接触させた状態で前記キャップ部材を移動させ、前記凹部と前記先端部とを対向させる液体噴射装置が提供される。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、キャップ部材の先端部と噴射面とを接触させた状態で噴射面とキャップ部材との間に形成された空間の流体を吸引することによって、ノズルから液体を吸引して、ノズルを良好にクリーニングできる。吸引の後、先端部と噴射面とを接触させた状態でキャップ部材を移動させ、噴射面に形成された凹部と先端部とを対向させることによって、空間が大気開放される。これにより、空間の圧力が急激に変化することを抑制できる。すなわち、負圧状態の空間の圧力が、急激に大気圧に変化することを抑制できる。そのため、液体が噴射面に付着したり、ノズルに入り込んだりする不具合の発生を抑制できる。したがって、噴射不良の発生を抑制でき、液体噴射装置の性能の低下を抑制できる。
【0008】
前記キャップ部材の移動方向における前記先端部の幅が、前記キャップ部材の移動方向における前記凹部内の対向する内壁間の距離よりも短い構成でもよい。これにより、空間の大気開放が円滑に実行される。
【0009】
本発明の第2の態様に従えば、液体を噴射するノズルが形成された噴射面を有する噴射ヘッドと、前記噴射ヘッド側に開口を有し、前記噴射ヘッドから排出された液体を受ける液体受け部と、前記噴射面と接触する先端部とを有するキャップ部材と、前記キャップ部材を移動させる駆動装置と、前記先端部と前記噴射面とを接触させた状態で前記噴射面と前記キャップ部材との間に形成された空間の流体を吸引する吸引装置と、を備え、前記駆動装置は、前記吸引装置による前記吸引の後、前記先端部と前記噴射面とを接触させた状態で前記キャップ部材を前記噴射面の法線とほぼ平行な軸まわりに回転させ、前記開口の少なくとも一部を前記噴射面の外側に配置する液体噴射装置が提供される。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、キャップ部材の先端部と噴射面とを接触させた状態で噴射面とキャップ部材との間に形成された空間の流体を吸引することによって、ノズルから液体を吸引して、ノズルを良好にクリーニングできる。吸引の後、先端部と噴射面とを接触させた状態でキャップ部材を噴射面の法線とほぼ平行な軸まわりに回転させ、開口の少なくとも一部を噴射面の外側に配置することによって、空間が大気開放される。これにより、空間の圧力が急激に変化することを抑制できる。すなわち、負圧状態の空間の圧力が、急激に大気圧に変化することを抑制できる。そのため、液体が噴射面に付着したり、ノズルに入り込んだりする不具合の発生を抑制できる。したがって、噴射不良の発生を抑制でき、液体噴射装置の性能の低下を抑制できる。
【0011】
本発明の第3の態様に従えば、液体を噴射するノズルが形成された噴射面を有する噴射ヘッドを備える液体噴射装置のメンテナンス方法であって、キャップ部材の開口の先端部と前記噴射面とを接触させた状態で、前記噴射面と前記キャップ部材との間に形成された空間の流体を吸引する吸引工程と、前記吸引工程の後、前記先端部と前記噴射面とを接触させた状態で前記キャップ部材を移動させ、前記噴射面に形成された凹部と前記先端部とを対向させる移動工程と、を含むメンテナンス方法が提供される。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、キャップ部材の先端部と噴射面とを接触させた状態で噴射面とキャップ部材との間に形成された空間の流体を吸引することによって、ノズルから液体を吸引して、ノズルを良好にクリーニングできる。吸引工程の後、先端部と噴射面とを接触させた状態でキャップ部材を移動させ、噴射面に形成された凹部と先端部とを対向させることによって、空間が大気開放される。これにより、空間の圧力が急激に変化することを抑制できる。すなわち、負圧状態の空間の圧力が、急激に大気圧に変化することを抑制できる。そのため、液体が噴射面に付着したり、ノズルに入り込んだりする不具合の発生を抑制できる。したがって、噴射不良の発生を抑制でき、液体噴射装置の性能の低下を抑制できる。
【0013】
前記移動工程の後、前記先端部と前記噴射面とを離間させる離間工程を含む構成でもよい。これにより、大気開放後に、キャップ部材と噴射ヘッドとを円滑に離間させることができる。
【0014】
本発明の第4の態様に従えば、液体を噴射するノズルが形成された噴射面を有する噴射ヘッドを備える液体噴射装置のメンテナンス方法であって、キャップ部材の開口の先端部と前記噴射面とを接触させた状態で、前記噴射面と前記キャップ部材との間に形成された空間の流体を吸引する吸引工程と、前記吸引工程の後、前記先端部と前記噴射面とを接触させた状態で前記キャップ部材を前記噴射面の法線とほぼ平行な軸まわりに回転させ、前記開口の少なくとも一部を前記噴射面の外側に配置する回転工程と、を含むメンテナンス方法が提供される。
【0015】
本発明の第4の態様によれば、キャップ部材の先端部と噴射面とを接触させた状態で噴射面とキャップ部材との間に形成された空間の流体を吸引することによって、ノズルから液体を吸引して、ノズルを良好にクリーニングできる。吸引工程の後、先端部と噴射面とを接触させた状態でキャップ部材を噴射面の法線とほぼ平行な軸まわりに回転させ、開口の少なくとも一部を噴射面の外側に配置することによって、空間が大気開放される。これにより、空間の圧力が急激に変化することを抑制できる。すなわち、負圧状態の空間の圧力が、急激に大気圧に変化することを抑制できる。そのため、液体が噴射面に付着したり、ノズルに入り込んだりする不具合の発生を抑制できる。したがって、噴射不良の発生を抑制でき、液体噴射装置の性能の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係る液体噴射装置の一例を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る噴射ヘッドの一例を示す平面図である。
【図3】第1実施形態に係る噴射ヘッドの一例を示す模式図である。
【図4】第1実施形態に係る噴射ヘッドの一例を示す模式図である。
【図5】第1実施形態に係るキャッピング装置の一例を示す模式図である。
【図6】第1実施形態に係る先端部と凹部との関係の一例を示す図である。
【図7】第1実施形態に係るメンテナンス方法の一例を示す模式図である。
【図8】第1実施形態に係るメンテナンス方法の一例を示す模式図である。
【図9】第1実施形態に係るメンテナンス方法の一例を示す模式図である。
【図10】第1実施形態に係るメンテナンス方法の一例を示す模式図である。
【図11】第1実施形態に係る駆動装置の一例を示す模式図である。
【図12】第1実施形態に係る噴射ヘッドの一例を示す模式図である。
【図13】第1実施形態に係る凹部の一例を示す図である。
【図14】第1実施形態に係る凹部の一例を示す図である。
【図15】第2実施形態に係るキャッピング装置の一例を示す模式図である。
【図16】第2実施形態に係るメンテナンス方法の一例を示す模式図である。
【図17】第2実施形態に係るメンテナンス方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部の位置関係について説明する。水平面内の所定方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。また、X軸、Y軸、及びZ軸まわりの回転(傾斜)方向をそれぞれ、θX、θY、及びθZ方向とする。
【0018】
図1は、本実施形態に係る液体噴射装置の一例を示す図である。本実施形態においては、液体噴射装置がインクジェット式プリンタ(以下、プリンタと称す)である場合を例にして説明する。
【0019】
図1に示すように、プリンタ1は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド(噴射ヘッド)2を搭載すると共に液体貯留部材の一種であるインクカートリッジ3を着脱可能に装着するキャリッジ4と、記録ヘッド2の下方に配設され記録紙6が搬送されるプラテン5と、キャリッジ4を記録紙6の紙幅方向に移動させるキャリッジ移動機構7と、記録紙6を紙送り方向に搬送する紙送り機構8と、プリンタ1の動作を制御する制御装置58とを備える。上記紙幅方向とは、主走査方向(ヘッド走査方向;同図中X方向)である。上記紙送り方向とは、副走査方向(主走査方向に直交する方向;同図中Y方向)である。
【0020】
本実施形態においては、インクは、インクカートリッジ3から記録ヘッド2へ供給される。なお、インクカートリッジ3としては、本実施形態のようにキャリッジ4に装着するものには限らず、プリンタ1の筐体側に装着してインク供給チューブを介して記録ヘッド2に供給するタイプのものを採用してもよい。
【0021】
ガイドロッド9は、主走査方向に架設された支持部材である。キャリッジ4は、このガイドロッド9に支持された状態で取り付けられている。このキャリッジ4は、キャリッジ移動機構7によりガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するようになっている。リニアエンコーダ10は、キャリッジ4の主走査方向上の位置を検出する。この検出信号は、位置情報として制御部(図示せず)に送信されるようになっている。制御装置58は、このリニアエンコーダ10からの位置情報に基づいて記録ヘッド2の走査位置を認識し、記録ヘッド2による記録動作(噴射動作、吐出動作)等を制御する。
【0022】
記録ヘッド2の移動範囲のうちプラテン5の外側の領域には、記録ヘッド2の走査起点となるホームポジションが設定されている。このホームポジションには、キャッピング装置11が設けられている。キャッピング装置11は、キャップ部材100によって記録ヘッド2のノズル形成面23を封止し、インク溶媒の蒸発を抑制する。このキャッピング装置11は、封止状態のノズル形成面23に負圧を与えてインクを強制的に吸引排出するクリーニング動作等にも用いられる。
【0023】
また、ホームポジションには、記録ヘッド2のノズル形成面23を払拭するワイピング装置12が設けられている。このワイピング装置12は、上述のクリーニング動作によって記録ヘッド2のノズル形成面23に付着したインクをワイピング部材200によって払拭する、所謂ワイピング動作を行うためのものである。
【0024】
ワイピング部材200は、長さ、材質、及び厚さの少なくともいずれかがノズル形成面23に応じて設定されている。これにより、ワイピング部材200は、後述するように記録ヘッド2の払拭面(ノズル形成面23)に対し、追従性(腰の柔らかい)を有したものとなっている。
【0025】
具体的に本実施形態では、ワイピング部材200は、弾性材料から構成されている。そして、ワイピング部材200は、ゴム硬度が40〜55°程度、払拭時の干渉量が1〜1.5mm程度となっている。
【0026】
このように、ワイピング部材200が追従性を有することで、インクの尾引き及びメニスカスの破壊を防止した状態で良好にワイピング動作を行うことができ、且つワイパ荷重が低減することで、ワイピング部材200自体の耐久性を向上させることができる。
【0027】
また、本実施形態に係るワイピング部材200は、親水性材料から構成されている。具体的なワイピング部材200の材質としては、ウレタン系、ナイロン系、EVOH系、EVA系の材料を用いるのが好ましい。また、ワイピング部材200は、少なくとも表面がインクに対して親水性とされるものであればよい。例えば、ワイピング部材200を、親水性処理を施した親水性シリコンや親水性ポリオレフィンから構成するようにしてもよい。これにより、ワイピング部材200がインク中の水分を引き寄せることができる。
【0028】
図2は、記録ヘッド2の断面図である。図2に示すように、記録ヘッド2は、ヘッド本体48と、振動板19、流路基板20、及びノズル基板21を含む流路形成ユニット42とを備えている。ノズル24は、ノズル基板21に形成されている。
【0029】
流路形成ユニット42は、振動板19、流路基板20、及びノズル基板21を積層し、接着剤等で接合して一体にしたものである。また、本実施形態に係る記録ヘッド2は、プリンタ1が対象とする最大サイズの印刷紙の幅員(最大記録紙幅)以上の長さに亘ってノズル24が多数配列された、所謂ラインヘッドとして使用しても良い。
【0030】
記録ヘッド2は、ヘッド本体48の内部に形成された収容空間63と、収容空間63に配置された駆動ユニット44とを備えている。駆動ユニット44は、複数の圧電素子65と、圧電素子65の上端を支持する固定部材と、駆動信号を圧電素子65に供給する柔軟なケーブルとを備えている。圧電素子65は、複数のノズル24のそれぞれに対応するように設けられている。
【0031】
また、記録ヘッド2は、ヘッド本体48の内部に形成され、インクカートリッジからインク供給チューブを介して供給されたインクが流れる内部流路68と、振動板19、流路基板20、及びノズル基板21を含む流路形成ユニット42によって形成され、内部流路68と接続された共通インク室29と、流路形成ユニット42によって形成され、共通インク室29と接続されたインク供給口40と、流路形成ユニット42によって形成され、インク供給口40と接続された圧力室とを備えている。圧力室は、複数のノズル24に対応するように複数設けられている。複数のノズル24のそれぞれは、複数の圧力室のそれぞれに接続されている。
【0032】
ヘッド本体48は、合成樹脂で形成されている。振動板19は、ステンレス鋼等の金属製の支持板上に弾性フィルムをラミネート加工したものである。振動板19の圧力室に対応する部分には、圧電素子65の下端と接合される島部が形成されている。振動板19の少なくとも一部は、圧電素子65の駆動に応じて弾性変形する。振動板19と内部流路68の下端近傍との間にはコンプライアンス部43が形成されている。
【0033】
流路基板20は、内部流路68の下端とノズル24とを接続する共通インク室29、インク供給口40、及び圧力室それぞれの空間を形成するための凹部を有する。本実施形態においては、流路基板20は、シリコンを異方性エッチングすることで形成されている。
【0034】
ノズル基板21は、所定方向に所定間隔(ピッチ)で形成された複数のノズル24を有する。本実施形態のノズル基板21は、ステンレス鋼等の金属で形成された板状の部材である。ノズル基板21の下面は、後述するように複数のノズル24によって形成されるノズル形成面(噴射面)23を構成している。
【0035】
このように構成されたプリンタ1は、インクを貯留するインク貯留部(液体貯留部)として、不図示のインクカートリッジを有し、このインクカートリッジからインク供給チューブを介して供給されたインクが図2に示した内部流路68の上端に流入するように構成されている。内部流路68の下端は、共通インク室29に接続されており、インクカートリッジからインク供給チューブ(不図示)を介して内部流路68の上端に流入したインクは、内部流路68を流れた後、共通インク室29に供給される。共通インク室29に供給されたインクは、インク供給口40を介して、複数の圧力室のそれぞれに分配されるように供給される。
【0036】
ケーブルを介して圧電素子65に駆動信号が入力されると、圧電素子65が伸縮する。これにより、振動板19が圧力室に接近する方向及び離れる方向に変形(移動)する。これにより、圧力室の容積が変化し、インクを収容した圧力室の圧力が変動する。この圧力の変動によって、ノズル24から、インクが噴射(吐出)される。
【0037】
このように、本実施形態の圧電素子65は、ノズル24よりインクを噴射するために、入力される駆動信号に基づいて、ノズル24に接続された圧力室の圧力を変動させる。
【0038】
図3は、本実施形態に係る記録ヘッド2の一例を示す模式図、図4は、記録ヘッド2をノズル形成面23側(−Z側)から見た図、図5は、本実施形態に係るキャッピング装置11の一例を示す図である。
【0039】
本実施形態において、記録ヘッド2は、ノズル形成面23とXY平面とが実質的に平行となるように配置される。ここで、平行とは、ノズル形成面23とXY平面とが、どこまで延長しても交わらないことをいう。ここでいう実質的に平行とは、ノズル形成面23とXY平面とがなす角度が0〜5度である場合も含む。本実施形態において、ノズル形成面23は、インクを噴射する複数のノズル24が形成されているノズル形成領域23Aと、ノズル形成領域23Aの外側であって、ノズル24が形成されていない周縁領域23Bとを含む。周縁領域23Bの少なくとも一部には、凹部25が形成されている。
【0040】
本実施形態において、キャップ部材100は、記録ヘッド2側に開口101を有し、記録ヘッド2から排出されたインクを受ける液体受け部120と、ノズル形成面23と接触する先端部102とを有する。先端部102は、開口101を規定する。本実施形態において、開口101は、+Z側を向く。XY平面内において、先端部102は、環状である。先端部102は、開口101の周囲に配置される。開口101は、ノズル形成面23全体よりも小さく、ノズル形成領域23Aよりも大きい。
【0041】
キャッピング装置11は、キャップ部材100に接続され、流体を吸引可能なポンプ等を含む吸引装置104と、キャップ部材100を移動させる駆動装置103とを有する。
【0042】
吸引装置104は、先端部102とノズル形成面23とを接触させた状態でノズル形成面23とキャップ部材100との間に形成された空間の流体を吸引する。
【0043】
駆動装置103は、キャップ部材100をZ軸方向に移動可能である。また、駆動装置103は、キャップ部材100をX軸方向に移動可能である。なお、駆動装置103が、キャップ部材100をY軸方向に移動可能でもよい。また、駆動装置103が、キャップ部材100をθX、θY、及びθZ方向に移動可能でもよい。
【0044】
図6は、凹部25と先端部102との関係を示す図である。図6に示すように、本実施形態において、X軸方向における先端部25の幅Waが、凹部25内の対向する内壁間の距離Wbよりも短い。後述するように、X軸方向は、メンテナンスにおけるキャップ部材100の移動方向である。
【0045】
本実施形態において、凹部25内の対向する内壁間の距離Wbとは、X軸方向に関する凹部25の開口25Kの寸法を含む。X軸方向に関する開口25Kの寸法とは、開口25Kのうち、+X側の開口端25Kaと−X側の開口端25Kbとの距離を含む。開口端25Kaと開口端25Kbとは対向する。すなわち、凹部25の内壁間の距離Wbとは、対向する内壁のうち凹部25の最も開口25K側に位置する領域間の距離をいう。
【0046】
幅Waが距離Wbよりも小さいため、凹部25と先端部102とが対向した状態において、凹部25の内壁と先端部102との間に間隙Gaが形成される。すなわち、先端部102が開口25Kの内側に配置された状態において、開口25Kと先端部102との間に間隙Gaが形成される。
【0047】
次に、本実施形態に係るプリンタ1のメンテナンス方法の一例について、図7〜図10を参照して説明する。
【0048】
本実施形態のメンテナンス方法は、キャップ部材100を用いて記録ヘッド2をキャッピングするキャッピング工程と、キャップ部材100を用いてインクを吸引する吸引工程とを含む。
【0049】
図7は、吸引工程を示す図である。図7に示すように、制御装置58は、キャップ部材100の開口25Kの先端部102とノズル形成面23とを接触させた状態で、ノズル形成面23とキャップ部材100との間に形成された空間S1の流体を、吸引装置104を使って吸引する。これにより、ノズル24からインクが吸引される。以上により、吸引工程が終了する。
【0050】
吸引工程の後、制御装置58は、先端部102とノズル形成面23とを接触させた状態で、駆動装置103を使ってキャップ部材100を移動させ、ノズル形成面23に形成された凹部25と先端部102とを対向させる。本実施形態において、制御装置58は、図7に示す状態から図6に示す状態に変化するように、先端部102とノズル形成面23とを接触させた状態で、キャップ部材100をX軸方向(−X方向)に移動する。これにより、図6に示したように、凹部25と先端部102とが対向する。
【0051】
以下の説明において、吸引工程の後、キャップ部材100をX軸方向(−X方向)に移動させる工程を適宜、移動工程、と称する。
【0052】
凹部25と先端部102とが対向するように先端部102とノズル形成面23とが接触された状態でキャップ部材100が移動することによって、先端部102は、ノズル形成面23と接触する状態から、凹部25と対向する状態(開口25Kの内側に配置される状態)に変化する。これにより、先端部102とノズル形成面23とが接触する状態から、先端部102と凹部25との間に間隙Gaが形成される状態に変化する。空間S1は、間隙Gaを介して大気開放される。
【0053】
制御装置58は、図6に示した状態から図8に示す状態に変化するように、さらにキャップ部材100を−X方向に移動する。制御装置58は、先端部102とノズル形成面23とを接触させた状態で、図6に示す状態から図8に示す状態に変化するようにキャップ部材100を−X方向に移動する。これにより、図8に示すように、大気開放用の凹部25がキャップ部材100の開口101の内側に配置される。
【0054】
移動工程が実行され、凹部25によって空間S1が大気開放された後、制御装置58は、先端部102とノズル形成面23とを離間させる。以下の説明において、移動工程の後、先端部102とノズル形成面23とを離間させる工程を適宜、離間工程、と称する。
【0055】
離間工程において、制御装置58は、先端部102とノズル形成面23とが接触している状態(図8に示す状態)から、先端部102とノズル形成面23とが離間するように、キャップ部材100を−Z方向に移動させる。本実施形態においては、図9に示すように、制御装置58は、キャップ部材100(先端部102)を傾斜させた状態で、キャップ部材100を−Z方向に移動(下降)させる。離間工程が実行されることによって、図10に示すように、先端部102とノズル形成面23とが離れる。
【0056】
なお、本実施形態において、駆動装置103は、キャップ部材100の移動をガイドするガイド機構105を有する。図11は、ガイド機構105の一例を示す模式図である。図11に示すように、ガイド機構105は、キャップ部材100に配置されたカム部材106と、カム部材106が移動可能なガイド溝107とを含む。本実施形態においては、図7に示す吸引工程において、カム部材106は、図11中、第1位置PJ1に配置される。図8に示す移動工程において、カム部材106は、図11中、第2位置PJ2に配置される。なお、カム部材106が、図11中、第3位置PJ3に配置されるとき、図9に示す状態となる。カム部材106が、図11中、第4位置PJ4に配置されるとき、図10に示す状態となる。
【0057】
第1位置PJ1は、第2位置PJ2よりも+Z側である。カム部材106が第1位置PJ1に位置するとき、キャップ部材100(先端部102)は、ノズル形成面23に対して第1の力(第1の押圧力)で押し付けられる。これにより、吸引工程において、空間S1が十分に密閉されるため、吸引動作が良好に実行される。
【0058】
第2位置PJ2は、第1位置PJ1よりも−Z側である。カム部材106が第2位置PJ2に位置するとき、キャップ部材100(先端部102)は、ノズル形成面23に対して第2の力(第2の押圧力)で押し付けられる。第2の力(第2の押圧力)は、第1の力(第1の押圧力)よりも小さい。本実施形態においては、駆動装置103は、移動工程における噴射面23に対するキャップ部材100の押圧力を、吸引工程における噴射面23に対するキャップ部材100の押圧力よりも低減する。これにより、移動工程において、キャップ部材100は、ノズル形成面23と接触しつつ、円滑に移動可能である。
【0059】
以上説明したように、本実施形態によれば、キャップ部材100の開口101の先端部102とノズル形成面23とを接触させた状態で、ノズル形成面23とキャップ部材100との間に形成された空間S1の流体を吸引することによって、ノズル24からインクを吸引して、ノズル24を良好にメンテナンスできる。また、吸引工程の後、先端部102とノズル形成面23とを接触させた状態でキャップ部材100を移動させ、凹部25と先端部102とを対向させることによって、空間S1が凹部25によって大気開放されるため、空間S1の圧力が急激に変化することを抑制できる。すなわち、吸引工程において負圧状態になった空間S1の圧力が、急激に大気圧に変化することを抑制できる。そのため、インクが飛び散ってノズル形成面23に付着したり、ノズル24に入り込んだりする不具合の発生を抑制できる。したがって、噴射不良の発生を抑制でき、プリンタ1の性能の低下を抑制できる。
【0060】
本実施形態においては、移動工程において、キャップ部材100の移動方向(X軸方向)における先端部102の幅Waが、キャップ部材100の移動方向(X軸方向)における凹部25内の対向する内壁間の距離Wbよりも短いので、先端部102とノズル形成面23とを接触させた状態でキャップ部材100をX軸方向に移動して、先端部102と凹部25とを対向させることによって、先端部102と凹部25との間に大気開放用の間隙Gaを形成することができる。これにより、移動工程において、空間S1の大気開放が円滑に実行される。
【0061】
そして、大気開放された後、離間工程が実行されるため、その離間工程も円滑に実行される。
【0062】
また、本実施形態においては、移動工程において、ノズル形成面23に対するキャップ部材100の押圧力を低減するようにしたので、先端部102とノズル形成面23とを接触させた状態でキャップ部材100を移動する場合においても、その移動を円滑に実行可能である。
【0063】
なお、本実施形態においては、XY平面内における凹部25の形状は、ほぼ円形であることとしたが、図12に示すように、Y軸方向に長い溝でもよい。
【0064】
なお、図13に示すように、凹部25の内壁(内壁面)が曲面でもよい。この場合においても、キャップ部材100の移動方向(X軸方向)における先端部102の幅Waが、キャップ部材100の移動方向(X軸方向)における凹部25内の対向する内壁(内壁面)間の距離Wbよりも短くすることによって、大気開放が円滑に実行される。
【0065】
なお、図13に示す凹部25においても、凹部25内の対向する内壁間の距離Wbとは、X軸方向に関する凹部25の開口25Kの寸法を含む。X軸方向に関する開口25Kの寸法とは、開口25Kのうち、+X側の開口端25Kaと−X側の開口端25Kbとの距離を含む。
【0066】
なお、図14に示すように、凹部25の対向する内壁(内壁面)が傾斜してもよい。この場合においても、キャップ部材100の移動方向(X軸方向)における先端部102の幅Waが、キャップ部材100の移動方向(X軸方向)における凹部25内の対向する内壁(内壁面)間の距離Wbよりも短くすることによって、大気開放が円滑に実行される。
【0067】
なお、図14に示す凹部25においても、凹部25内の対向する内壁間の距離Wbとは、X軸方向に関する凹部25の開口25Kの寸法を含む。X軸方向に関する開口25Kの寸法とは、開口25Kのうち、+X側の開口端25Kaと−X側の開口端25Kbとの距離を含む。
【0068】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述した実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0069】
図15〜図17は、第2実施形態に係るメンテナンス方法の一例を示す模式図である。図15〜図17の各図における(A)は、記録ヘッド2及びキャップ部材100を上方(+Z側)から見た模式図であり、(B)は、記録ヘッド2及びキャッピング装置11を側方(−Y側)から見た模式図である。なお、第2実施形態に係る記録ヘッド2は、第1実施形態で説明したような凹部25を有しないが、有していてもよい。
【0070】
図15は、吸引工程を示す図である。図15に示すように、制御装置58は、キャップ部材100の開口101の先端部102をノズル形成面23に接触させた状態で、ノズル形成面23とキャップ部材100との間に形成された空間S1の流体を、吸引装置104を使って吸引する。これにより、ノズル24からインクが吸引される。以上により、吸引工程が終了する。
【0071】
吸引工程の後、図16に示すように、制御装置58は、先端部102とノズル形成面23とを接触させた状態で、キャップ部材100をZ軸まわり(θZ方向)に回転させ、開口101の少なくとも一部を、ノズル形成面23の外側に配置する。本実施形態において、Z軸は、ノズル形成面23の法線と実質的に平行(ほぼ平行)である。なお、ここでいう実質的に平行とは、ノズル形成面23の法線に対して0〜5度傾いている場合も含む。
【0072】
先端部102とノズル形成面23とが接触された状態でキャップ部材100がθZ方向に移動(回転)し、開口101の一部がノズル形成面23の外側に配置されることによって、先端部102とノズル形成面23との間には微小な間隙Gbが形成される。これにより、空間S1が間隙Gbを介して大気開放される。
【0073】
間隙Gbによって空間S1が大気開放された後、制御装置58は、先端部102とノズル形成面23とが離間するように、キャップ部材100を−Z方向に移動する。これにより、図17に示すように、キャップ部材100とノズル形成面23とが離れる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態によれば、キャップ部材100の開口101の先端部102とノズル形成面23とを接触させた状態で、ノズル形成面23とキャップ部材100との間に形成された空間S1の流体を吸引することによって、ノズル24からインクを吸引して、ノズル24を良好にメンテナンスできる。また、吸引工程の後、先端部102とノズル形成面23とを接触させた状態でθZ方向にキャップ部材100を回転させ、開口101の少なくとも一部をノズル形成面23の外側に配置することによって、空間S1が大気開放されるため、空間S1の圧力が急激に変化することを抑制できる。すなわち、吸引工程によって負圧状態にされた空間S1の圧力が、急激に大気圧に変化することを抑制できる。そのため、インクが飛び散ってノズル形成面23に付着したり、ノズル24に入り込んだりする不具合の発生を抑制できる。したがって、噴射不良の発生を抑制でき、プリンタ1の性能の低下を抑制できる。
【符号の説明】
【0075】
1…プリンタ、2…記録ヘッド、23…ノズル形成面、23A…ノズル形成領域、23B…周縁領域、24…ノズル、58…制御装置、100…キャップ部材、101…開口、102…先端部、103…駆動装置、S1…空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルと凹部とが形成された噴射面を有する噴射ヘッドと、
前記噴射ヘッド側に開口を有し、前記噴射ヘッドから排出された液体を受ける液体受け部と、前記噴射面と接触する先端部とを有するキャップ部材と、
前記キャップ部材を移動させる駆動装置と、
前記先端部と前記噴射面とを接触させた状態で前記噴射面と前記キャップ部材との間に形成された空間の流体を吸引する吸引装置と、を備え、
前記駆動装置は、前記吸引装置による前記吸引の後、前記先端部と前記噴射面とを接触させた状態で前記キャップ部材を移動させ、前記凹部と前記先端部とを対向させる液体噴射装置。
【請求項2】
前記キャップ部材の移動方向における前記先端部の幅が、前記キャップ部材の移動方向における前記凹部内の対向する内壁間の距離よりも短い請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
液体を噴射するノズルが形成された噴射面を有する噴射ヘッドと、
前記噴射ヘッド側に開口を有し、前記噴射ヘッドから排出された液体を受ける液体受け部と、前記噴射面と接触する先端部とを有するキャップ部材と、
前記キャップ部材を移動させる駆動装置と、
前記先端部と前記噴射面とを接触させた状態で前記噴射面と前記キャップ部材との間に形成された空間の流体を吸引する吸引装置と、を備え、
前記駆動装置は、前記吸引装置による前記吸引の後、前記先端部と前記噴射面とを接触させた状態で前記キャップ部材を前記噴射面の法線とほぼ平行な軸まわりに回転させ、前記開口の少なくとも一部を前記噴射面の外側に配置する液体噴射装置。
【請求項4】
液体を噴射するノズルが形成された噴射面を有する噴射ヘッドを備える液体噴射装置のメンテナンス方法であって、
キャップ部材の開口の先端部と前記噴射面とを接触させた状態で、前記噴射面と前記キャップ部材との間に形成された空間の流体を吸引する吸引工程と、
前記吸引工程の後、前記先端部と前記噴射面とを接触させた状態で前記キャップ部材を移動させ、前記噴射面に形成された凹部と前記先端部とを対向させる移動工程と、を含むメンテナンス方法。
【請求項5】
前記移動工程の後、前記先端部と前記噴射面とを離間させる離間工程を含む請求項2に記載のメンテナンス方法。
【請求項6】
液体を噴射するノズルが形成された噴射面を有する噴射ヘッドを備える液体噴射装置のメンテナンス方法であって、
キャップ部材の開口の先端部と前記噴射面とを接触させた状態で、前記噴射面と前記キャップ部材との間に形成された空間の流体を吸引する吸引工程と、
前記吸引工程の後、前記先端部と前記噴射面とを接触させた状態で前記キャップ部材を前記噴射面の法線とほぼ平行な軸まわりに回転させ、前記開口の少なくとも一部を前記噴射面の外側に配置する回転工程と、を含むメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−218426(P2012−218426A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90205(P2011−90205)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】