説明

液体噴射装置およびその制御方法

【課題】動作環境に応じた液体の噴射量の変化を有効に抑制する。
【解決手段】記録ヘッド24は、インクカートリッジ22から供給されるインクの液滴を噴射する。環境検知部66は、記録ヘッド24の動作環境Eを検知する。動作環境Eは、記録ヘッド24またはその周囲の温度(環境温度)である。圧力制御部74は、インクカートリッジ22の鉛直方向の位置を調整することで、記録ヘッド24に対するインクの供給圧力Pを動作環境Eに応じて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクカートリッジから供給されるインクを記録ヘッドが噴射する液体噴射装置では、インクの噴射量の誤差が問題となる。特許文献1や特許文献2には、インクカートリッジをバネで弾性的に支持した構成が開示されている。インクが消費されてインクカートリッジの重量が減少するほどインクカートリッジがバネの作用で上昇するから、記録ヘッドに対するインクの供給圧力が一定に維持される。したがって、インクの噴射量の誤差を抑制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−119969号公報
【特許文献2】特開2004−174815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、記録ヘッドからのインクの噴射量は、環境温度や環境湿度等の動作環境にも影響される。特許文献1や特許文献2の技術では、記録ヘッドに対するインクの供給圧力をインクの重量(消費量)に応じて制御するに過ぎないから、動作環境の変化に起因したインクの噴射量の誤差を適切に補償できないという問題がある。以上の事情を考慮して、本発明は、動作環境の変化に起因した液体の噴射量の変化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の液体噴射装置は、液体容器から供給される液体(例えばインク)を噴射する液体噴射部と、液体噴射部の動作環境を検知する環境検知手段と、液体噴射部に対する液体の供給圧力を動作環境に応じて制御する圧力制御手段とを具備する。以上の構成では、液体噴射部の動作環境に応じて液体噴射部に対する液体の供給圧力が制御されるから、液体噴射部の動作環境の変化に起因した液体の噴射量の変化を抑制することが可能である。
【0006】
なお、環境検知手段が検知する動作環境の典型例は、環境温度や環境湿度である。環境温度は、液体噴射部が設置された環境の温度(例えば液体噴射部自体の温度やその周囲の温度)を意味し、環境湿度は、液体噴射部が設置された環境の湿度を意味する。
【0007】
液体噴射部に対する液体の供給圧力を圧力制御手段が制御する方法は任意である。例えば、液体噴射部に対する液体容器の鉛直方向の位置を圧力制御手段が動作環境に応じて制御する構成が採用され得る。また、液体噴射部に対する液体の供給経路に圧力調整弁が配置された構成では、動作環境に応じて圧力調整弁を制御することが可能である。
【0008】
本発明の好適な態様において、液体噴射部は、相異なる液体容器から供給される液体を噴射する複数のノズル列を含み、動作環境と供給圧力の調整値とを対応付けるテーブルをノズル列毎に記憶する記憶手段を具備し、圧力制御手段は、複数のノズル列の各々について、環境検知手段が検知する動作環境に対応する調整値を当該ノズル列のテーブルから特定して当該調整値に応じて液体の供給圧力を制御する。以上の態様では、例えば動作環境に応じた液体の噴射量の変化がノズル列毎に相違する場合でも、各ノズル列による液体の噴射量の変化を適切に制御することが可能である。また、動作環境と供給圧力の調整値とが対応付けて記憶されるから、例えば動作環境に応じた調整値を所定の演算で算定する構成と比較して、圧力制御手段の負荷が軽減されるという利点がある。
【0009】
本発明の好適な態様に係る液体噴射装置は、液体噴射部から噴射された液体の着弾対象の種類を指定する対象指定手段を具備し、圧力制御手段は、液体噴射部に対する液体の供給圧力を、動作環境と着弾対象の種類とに応じて制御する。以上の態様では、液体噴射部に対する液体の供給圧力が着弾対象の種類(表面の特性)に応じて制御されるから、液体噴射部から噴射された液体で着弾対象の表面に形成されるドットの直径を、着弾対象の種類に関わらず均一化することが可能である。
【0010】
本発明は、以上の各形態に係る液体噴射装置を制御する方法としても特定される。本発明に係る液体噴射装置の制御方法は、液体容器から供給される液体を噴射する液体噴射部を具備する液体噴射装置の制御方法であって、液体噴射部の動作環境を検知し、液体噴射部に対する液体の供給圧力を動作環境に応じて制御する。以上の制御方法でも、本発明の液体噴射装置と同様の作用および効果が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る印刷装置の模式図である。
【図2】記録ヘッドの吐出面の平面図である。
【図3】印刷装置の電気的な構成のブロック図である。
【図4】記録ヘッドの動作環境(環境温度)とインクの噴射量との関係を示すグラフである。
【図5】記録ヘッドに対するインクの供給圧力とインクの噴射量との関係を示すグラフである。
【図6】記録ヘッドの動作環境と所定の噴射量を得るための供給圧力との関係を示すグラフである。
【図7】相関テーブルの模式図である。
【図8】第2実施形態における印刷装置のブロック図である。
【図9】第3実施形態における印刷装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット方式の印刷装置100の部分的な模式図である。印刷装置100は、微細なインクの液滴を記録紙200に噴射する液体噴射装置であり、容器保持部(カートリッジホルダー)10とキャリッジ12と移動機構14と搬送機構16とを具備する。
【0013】
容器保持部10は、相異なる色(ブラック(K),イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C))のインクが充填された複数のインクカートリッジ22(22K,22Y,22M,22C)を着脱可能に保持する。各インクカートリッジ22は、本発明における液体容器の例示である。容器保持部10は、印刷装置100の筐体(図示略)に固定される。すなわち、第1実施形態の印刷装置100は、インクカートリッジ22をキャリッジ12に搭載しないオフキャリッジ方式を採用する。各インクカートリッジ22は、鉛直方向に個別に変位し得るように容器保持部10に支持される。
【0014】
キャリッジ12には記録ヘッド24が搭載される。複数のインクカートリッジ22の各々から記録ヘッド24に至る供給経路26(チューブ)を介して、各インクカートリッジ22内のインクが記録ヘッド24に並列に供給される。記録ヘッド24は、各インクカートリッジ22から供給されるインクを記録紙200に噴射する液体噴射部として機能する。
【0015】
図2は、記録ヘッド24のうち記録紙200に対向する吐出面32の平面図である。図2に示すように、記録ヘッド24の吐出面32には、相異なる色(ブラック(K),イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C))に対応する複数のノズル列34(34K,34Y,34M,34C)がX方向に間隔をあけて形成される。各ノズル列34は、X方向に垂直なY方向に相互に間隔をあけて直線状に配列された複数のノズル(吐出口)Nの集合である。インクカートリッジ22Kから供給されるブラック(K)のインクはノズル列34Kの各ノズルNから噴射される。同様に、インクカートリッジ22Yのイエロー(Y)のインクはノズル列34Yの各ノズルNから噴射され、インクカートリッジ22Mのマゼンタ(M)のインクはノズル列34Mの各ノズルNから噴射され、インクカートリッジ22Cのシアン(C)のインクはノズル列34Cの各ノズルNから噴射される。なお、各ノズル列34の複数のノズルNを千鳥状に配列することも可能である。
【0016】
図1の移動機構14は、キャリッジ12をX方向(主走査方向)に往復させる。キャリッジ12の位置は、リニアエンコーダー等の検出器(図示略)で検出されて移動機構14の制御に利用される。搬送機構16は、キャリッジ12の往復に並行して記録紙200をY方向(副走査方向)に搬送する。キャリッジ12の往復時に記録ヘッド24が記録紙200にインクを噴射することで所望の画像が記録紙200に記録(印刷)される。
【0017】
図3は、印刷装置100の電気的な構成を含むブロック図である。なお、図3では便宜的に1個のインクカートリッジ22のみが代表的に図示されている。図3に示すように、印刷装置100は、制御装置102と印刷処理部(プリントエンジン)104と環境検知部66とを具備する。環境検知部66は、記録ヘッド24の動作環境Eを検知する。以下に例示する動作環境Eは、記録ヘッド24の環境温度である。すなわち、記録ヘッド24やその周囲の温度を検出する温度センサーが環境検知部66として採用される。印刷処理部104は、記録紙200に画像を記録する要素であり、前述の移動機構14と搬送機構16と記録ヘッド24とを含む。
【0018】
記録ヘッド24は、各ノズル列34の相異なるノズルNに対応する複数の単位噴射部Uと、駆動信号の供給で各単位噴射部Uを駆動する駆動回路42とを具備する。複数の単位噴射部Uの各々は、圧力室52とノズルNと圧電素子54とを有する。圧力室52は、ノズルNに連通する空間であり、インクカートリッジ22から供給されるインクが充填される。圧電素子54は、駆動回路42から供給される駆動信号に応じて振動する。圧電素子54が圧力室52内の圧力を変動させることで圧力室52内のインクがノズルNから噴射される。
【0019】
図3の制御装置102は、印刷装置100の全体を制御する要素であり、制御部62と記憶部64とを具備する。記憶部64は、例えばROMやRAM等の記憶回路で構成され、制御プログラムや各種の情報(相関テーブルT)を記憶する。制御部62は、記憶部64に記憶された制御プログラムの実行で噴射制御部72および圧力制御部74として機能する。噴射制御部72は、外部装置から供給される印刷データに応じて各単位噴射部Uの動作(噴射の有無および噴射量)を駆動回路42に指示する。駆動回路42は、噴射制御部72からの指示に応じた駆動信号を各単位噴射部Uに供給する。圧力制御部74は、各インクカートリッジ22から記録ヘッド24に供給されるインクの圧力(以下「供給圧力」という)Pを制御する。記録ヘッド24のインクの供給口(供給経路26のうち記録ヘッド24側の端部)での圧力が供給圧力Pに相当する。
【0020】
図3に示すように、第1実施形態の印刷装置100は、調整部44Aを具備する。調整部44Aは、圧力制御部74から指示される調整値Aに応じて各インクカートリッジ22を記録ヘッド24に対して鉛直方向に変位させる。調整部44Aの構成は任意であるが、例えば、各インクカートリッジ22や容器保持部10の底面を押圧するモーター等で構成される。
【0021】
記録ヘッド24に対するインクカートリッジ22の鉛直方向の位置(記録ヘッド24の吐出面32とインクカートリッジ22内のインクの液面との水頭差)に応じて供給圧力Pは変化する。具体的には、調整部44Aがインクカートリッジ22を上昇させるほど記録ヘッド24に対する供給圧力Pは増加する。圧力制御部74は、調整部44Aに調整値Aを指示して各インクカートリッジ22の鉛直方向の位置を個別に調整させることで、供給圧力Pをインクカートリッジ22毎に制御する。ただし、各ノズルNからのインク漏れを防止するために、インクカートリッジ22内のインクに付与される圧力が負圧となる範囲内(例えばインクカートリッジ22内のインクの液面が記録ヘッド24の吐出面32を下回る範囲内)で供給圧力Pは調整される。
【0022】
図4は、記録ヘッド24の環境温度(横軸)とインクの噴射量(縦軸)との関係を示すグラフである。図4におけるインクの噴射量は、圧電素子54に所定の電圧を印加したときに圧力室52から噴射されるインクの重量に相当し、単位噴射部Uによるインクの噴射能力と同視され得る。図4から把握されるように、各単位噴射部Uによるインクの噴射量は環境温度に応じて変化する。図4では、環境温度が高いほどインクの粘度が低下して噴射量が増加する場合が例示されている。また、図5は、記録ヘッド24に対する供給圧力P(横軸)とインクの噴射量(縦軸)との関係を示すグラフである。図5から理解されるように、インクカートリッジ22から記録ヘッド24(圧力室52)に対する供給圧力Pが大きいほど単位噴射部Uからのインクの噴射量は略線形に増加する。
【0023】
図4および図5から理解されるように、供給圧力Pを環境温度に応じて変化させれば、各単位噴射部Uによるインクの噴射量の環境温度に応じた変化を補償して目標値に維持することが可能である。そこで、第1実施形態の圧力制御部74は、環境検知部66が検知した動作環境Eに応じて供給圧力Pを制御する。具体的には、図6に示すように、圧力制御部74は、動作環境Eが示す環境温度が上昇するほど供給圧力Pが減少するように、記録ヘッド24の動作環境Eに応じて調整部44A(記録ヘッド24に対する各インクカートリッジ22の鉛直方向の位置)を制御する。
【0024】
図3の記憶部64は、相関テーブルTをノズル列34毎に記憶する。図7は、1個のノズル列34に対応する相関テーブルTの模式図である。図7に示すように、相関テーブルTは、動作環境Eの各数値(E1,E2,……)と調整値Aの各数値(A1,A2,……)とを対応付けたルックアップテーブルである。動作環境Eと供給圧力Pとの関係が、図6の関係(すなわち動作環境Eが示す環境温度が上昇するほど供給圧力Pが増加する関係)となるように、相関テーブルTにおける動作環境Eと調整値Aとの相関は統計的または実験的に事前に決定される。具体的には、圧電素子54に所定の電圧を印加したときのインクの噴射量が動作環境Eに関わらず目標値に近似する(理想的には合致する)ように、相関テーブルT内の動作環境Eと調整値Aとの相関が選定される。なお、動作環境Eとインクの噴射量との関係(図4)や供給圧力Pとインクの噴射量との関係(図5)は、例えば各色のインクの特性(例えば粘度等)の差異に起因して色毎に相違する。したがって、相関テーブルTで規定される動作環境Eと調整値Aとの相関は、ノズル列34毎(すなわちインクの色毎)に相違し得る。
【0025】
圧力制御部74は、複数のノズル列34の各々に対するインクの供給圧力Pが、そのノズル列34の動作環境Eと相関テーブルTとから特定される圧力となるように、調整部44A(そのノズル列34に対応するインクカートリッジ22の鉛直方向の位置)を制御する。具体的には、圧力制御部74は、各ノズル列34の現在の動作環境Eを環境検知部66から取得し、そのノズル列34の相関テーブルTから動作環境Eに対応する調整値Aを検索して調整部44Aに指示する。以上のように調整値Aはノズル列34毎に設定されるから、各インクカートリッジ22の鉛直方向の位置はインクカートリッジ22毎(ノズル列34毎またはインクの色毎)に相違し得る。
【0026】
以上に説明した第1実施形態では、記録ヘッド24の動作環境Eに応じてインクの供給圧力Pが制御されるから、動作環境Eに起因したインクの噴射量の変化を抑制する(噴射量を目標値に維持する)ことが可能である。また、第1実施形態ではノズル列34毎(インクの色毎)に供給圧力Pが制御されるから、各インクの特性が相違する場合でも、各ノズル列34によるインクの噴射量を適切に補償できるという利点がある。
【0027】
なお、動作環境Eに起因したインクの噴射量の変化を抑制する構成としては、例えば、各圧電素子54に供給される駆動信号の電圧を動作環境Eに応じて変化させる構成も想定され得る。しかし、駆動信号の電圧を上昇させた場合には、消費電力が増加するという問題がある。第1実施形態によれば、供給圧力Pの制御でインクの噴射量の変化が補償されるから、駆動信号の電圧を上昇させる構成と比較して消費電力を低減することが可能である。また、駆動信号の加工を必要とせずに簡便にインクの噴射用の変化を補償できるという利点もある。
【0028】
<B:第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各構成において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0029】
図8は、第2実施形態の印刷装置100の電気的な構成を含むブロック図である。図8に示すように、第2実施形態の印刷装置100は、第1実施形態における調整部44Aを調整部44Bに置換するとともにインクカートリッジ22毎に圧力調整弁46を追加した構成である。各インクカートリッジ22の鉛直方向の位置は固定される。
【0030】
各圧力調整弁46は、各インクカートリッジ22から記録ヘッド24に対するインクの供給経路26に配置されて記録ヘッド24に対するインクの供給圧力Pを決定する。調整部44Bは、圧力制御部74から指示される調整値Aに応じて各圧力調整弁46を調整する。圧力制御部74は、各ノズル列34の調整値Aを調整部44Bに指示して圧力調整弁46を調整させることで、記録ヘッド24に対する供給圧力Pをインクカートリッジ22毎(ノズル列34毎)に制御する。第1実施形態と同様に、動作環境E(環境温度)と供給圧力Pとの関係が図6の関係となるように、環境検知部66が検知した動作環境Eに応じた調整値Aが相関テーブルTを利用して決定される。したがって、第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0031】
<C:第3実施形態>
図9は、第3実施形態の印刷装置100の電気的な構成を含むブロック図である。図9に示すように、第3実施形態の印刷装置100の制御部62は、噴射制御部72および圧力制御部74に加えて対象指定部76として機能する。対象指定部76は、記録紙200の種類を特定する。具体的には、対象指定部76は、入力装置(図示略)に対する利用者からの指示(例えば記録紙200の種類を選択する指示)に応じて記録紙200の種類を特定し、その種類に応じた補正値αを生成する。
【0032】
記録ヘッド24から噴射した液滴を記録紙200に着弾させることで形成されるドットの直径は、記録紙200の種類(吸収率等の特性)に応じて相違する。したがって、目標の直径のドットを形成するには、ドットの直径が小さくなり易い特性の記録紙200ほど、記録ヘッド24からのインクの噴射量を増加させる必要がある。以上の傾向を考慮して、第3実施形態の圧力制御部74は、環境検知部66が検知した動作環境Eと対象指定部76が特定した記録紙200の種類とに応じて、記録ヘッド24に対するインクの供給圧力Pを制御する。具体的には、圧力制御部74は、動作環境Eに応じてノズル列34毎に相関テーブルTから検索した調整値A(暫定値)を、対象指定部76が記録紙200の種類に応じて設定した補正値αを利用して補正することで、ノズル列34毎に確定的な調整値Aを算定する。例えば、ドットの直径が小さくなり易い種類の記録紙200にインクを噴射する場合ほど供給圧力Pが増加するように、圧力制御部74は動作環境Eと記録紙200の種類(補正値α)とに応じた調整値Aを設定する。なお、補正値αをノズル列34毎に個別に設定することも可能である。
【0033】
第3実施形態でも第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第3実施形態では、動作環境Eに加えて記録紙200の種類(特性)も供給圧力Pに反映されるから、記録紙200の種類を供給圧力Pに反映させない構成と比較すると、記録紙200が変更された場合でもインクの噴射量の変化を適切に低減する(噴射量を目標値に維持する)ことが可能である。なお、以上の説明では第1実施形態を基礎とした構成を例示したが、記録紙200の種類を供給圧力Pに反映させる第3実施形態の構成は、第2実施形態にも同様に採用される。
【0034】
<D:変形例>
以上の各形態は多様に変形される。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0035】
(1)変形例1
前述の各形態では、環境温度を動作環境Eとして例示したが、動作環境Eの内容は適宜に変更される。例えば、記録ヘッド24やその周辺の環境湿度を動作環境Eとして環境検知部66が検知する構成も好適である。例えば、環境湿度が低いほど各単位噴射部Uによるインクの噴射量が減少するという傾向を前提とすれば、動作環境Eが示す環境湿度が低いほど供給圧力Pが増加するように、圧力制御部74は動作環境Eに応じた調整値Aを設定する。
【0036】
(2)変形例2
供給圧力Pを制御する方法は、インクカートリッジ22の変位(第1実施形態)や圧力調整弁46の調整(第2実施形態)に限定されない。例えば、各インクカートリッジ22に外部から作用させる圧力を動作環境Eに応じて調整することで供給圧力Pを制御する構成や、各インクカートリッジ22に供給する空気量を動作環境Eに応じて調整することで供給圧力Pを制御する構成も採用され得る。また、以上の各形態ではノズル列34毎(インクカートリッジ22毎)に供給圧力Pを個別に制御したが、例えばインク毎の特性の相違が無視できる場合には、複数のノズル列34について供給圧力Pを共通に調整する構成も好適である。供給圧力Pを各ノズル列34で共通に調整する構成では、相関テーブルTを1種類だけ記憶部64に格納すれば足りるという利点がある。もっとも、1種類のインクカートリッジ22のみが装着される構成(1個のノズル列34のみが形成される構成)にも本発明を適用することは可能である。
【0037】
(3)変形例3
以上の各形態では、動作環境Eに応じた供給圧力Pの制御に相関テーブルTを利用したが、動作環境Eに応じた供給圧力P(調整値A)を決定する方法は適宜に変更される。例えば、動作環境Eと調整値Aとの関係を定義する演算式に、環境検知部66が検知した動作環境Eを代入することで、圧力制御部74が調整値Aを算定することも可能である。ただし、調整値Aを演算する構成では、制御部62(圧力制御部74)の負荷が過大となり得るから、制御部62の負荷を軽減するという観点からは、前述の各形態のように相関テーブルTを利用する構成が好適である。
【0038】
また、複数種のテーブルを利用して動作環境Eに応じた供給圧力P(調整値A)を決定することも可能である。例えば、動作環境Eとインクの噴射量との関係(図4)を規定する第1テーブルと、供給圧力Pとインクの噴射量との関係(図5)を規定する第2テーブルとが記憶部64に格納される。圧力制御部74は、第1テーブルにて現在の動作環境Eに対応する噴射量のインクを噴射するために必要な供給圧力Pを第2テーブルから特定し、その供給圧力Pに応じた調整値Aを調整部44Aまたは調整部44Bに指示する。以上の構成でも前述の各形態と同様の効果が実現される。
【0039】
(4)変形例4
動作環境Eと供給圧力Pとの関係は図6の例示に限定されない。例えば、前述の各形態では、環境温度が高いほどインクの粘度が低下して噴射量が増加する傾向を前提として図6の関係を決定したが、例えばインクの特性によっては、環境温度が高いほどノズルNを介した水分の蒸発が増加して噴射量が減少する可能性もある。環境温度が高いほど噴射量が減少する場合、圧力制御部74は、動作環境Eが示す環境温度が上昇するほど供給圧力Pが増加するように調整部44(44A,44B)を制御する。
【0040】
(5)変形例5
以上の各形態では、記録ヘッド24を搭載したキャリッジ12を往復させるシリアル型の印刷装置100を例示したが、記録紙200の幅方向の全域に対向するように複数の単位噴射部U(ノズルN)が配列されたライン型の印刷装置100にも本発明を適用することが可能である。ライン型の印刷装置100では記録ヘッド24が固定され、記録紙200を搬送させながら各ノズルNからインクの液滴を噴射することで記録紙200に画像が記録される。以上の説明から理解されるように、記録ヘッド24(各単位噴射部U)自体の可動/固定は本発明において不問である。
【0041】
(6)変形例6
圧力室52内の圧力を変化させる要素(圧力発生素子)は圧電素子54に限定されない。例えば、静電アクチュエーター等の振動体を利用することも可能である。また、圧力発生素子は、圧力室52に機械的な振動を付与する要素に限定されない。例えば、圧力室52の加熱で気泡を発生させて圧力室52内の圧力を変化させる発熱素子(ヒーター)を圧力発生素子として利用することも可能である。すなわち、圧力発生素子は、圧力室52内の圧力を変化させる要素として包括され、圧力を変化させる方法(ピエゾ方式/サーマル方式)や構成の如何は不問である。
【0042】
(7)変形例7
以上の各形態の印刷装置100は、プロッターやファクシミリ装置,コピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体噴射装置の用途は画像の印刷に限定されない。例えば、各色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、液体状の導電材料を噴射する液体噴射装置は、例えば有機EL(Electroluminescence)表示装置や電界放出表示装置(FED:Field Emission Display)等の表示装置の電極を形成する電極製造装置として利用される。また、生体有機物の溶液を噴射する液体噴射装置は、生物化学素子(バイオチップ)を製造するチップ製造装置として利用される。そして、液体の噴射の目標となる物体(着弾対象)は液体噴射装置の用途に応じて相違する。具体的には、前述の印刷装置100の着弾対象は記録紙200であるが、液体噴射装置を表示装置の製造に使用する場合には、例えば表示装置を構成する基板が着弾対象に相当する。
【符号の説明】
【0043】
100……印刷装置、102……制御装置、104……印刷処理部、12……キャリッジ、14……移動機構、16……搬送機構、22(22K,22Y,22M,22C)……インクカートリッジ、24……記録ヘッド、26……供給経路、32……吐出面、34(34K,34Y,34M,34C)……ノズル列、N……ノズル、42……駆動回路、44A,44B……調整部、46……圧力調整弁、52……圧力室、54……圧電素子、62……制御部、64……記憶部、66……環境検知部、72……噴射制御部、74……圧力制御部、76……対象指定部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体容器から供給される液体を噴射する液体噴射部と、
前記液体噴射部の動作環境を検知する環境検知手段と、
前記液体噴射部に対する前記液体の供給圧力を前記動作環境に応じて制御する圧力制御手段と
を具備する液体噴射装置。
【請求項2】
前記圧力制御手段は、前記液体噴射部に対する前記液体容器の鉛直方向の位置を前記動作環境に応じて制御する
請求項1の液体噴射装置。
【請求項3】
前記液体噴射部に対する前記液体の供給経路に配置された圧力調整弁を具備し、
前記圧力制御手段は、前記動作環境に応じて前記圧力調整弁を制御する
請求項1の液体噴射装置。
【請求項4】
前記液体噴射部は、相異なる液体容器から供給される液体を噴射する複数のノズル列を含み、
動作環境と供給圧力の調整値とを対応付けるテーブルをノズル列毎に記憶する記憶手段を具備し、
前記圧力制御手段は、前記複数のノズル列の各々について、前記環境検知手段が検知する動作環境に対応する調整値を当該ノズル列の前記テーブルから特定して当該調整値に応じて前記液体の供給圧力を制御する
請求項1から請求項3の何れかの液体噴射装置。
【請求項5】
前記環境検知手段は、前記液体噴射部の環境温度を前記動作環境として検知する
請求項1から請求項4の何れかの液体噴射装置。
【請求項6】
前記環境検知手段は、前記液体噴射部の環境湿度を前記動作環境として検知する
請求項1から請求項4の何れかの液体噴射装置。
【請求項7】
前記液体噴射部から噴射された液体の着弾対象の種類を指定する対象指定手段を具備し、
前記圧力制御手段は、前記液体噴射部に対する前記液体の供給圧力を、前記動作環境と前記着弾対象の種類とに応じて制御する
請求項1から請求項6の何れかの液体噴射装置。
【請求項8】
液体容器から供給される液体を噴射する液体噴射部を具備する液体噴射装置の制御方法であって、
前記液体噴射部の動作環境を検知し、
前記液体噴射部に対する前記液体の供給圧力を前記動作環境に応じて制御する
液体噴射装置の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−158132(P2012−158132A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20426(P2011−20426)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】