説明

液体噴射装置及び医療機器

【課題】切断の深さを制御することが容易になる液体噴射装置及び医療機器を提供する。
【解決手段】液体噴射装置は、容積が変更可能な液体室30と、液体室30に連通する入口流路30A及び出口流路30Bと、液体室30の容積を変更する容積変更部42と、液体噴射開口部28を備え、液体を噴射する液体噴射管16と、気体を冷却する冷却部90と、液体噴射管16の外周に配設され、気体噴射開口部36を備え、冷却部90によって冷却された冷却気体を噴射する気体噴射管18と、を有し、液体噴射管16は、気体噴射管18から噴射される冷却気体の噴射方向を誘導する誘導面が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置及び医療機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、手術の際に水や生理食塩水などの液体を加圧して患部組織部位に噴きつけることにより、液体の圧力によって患部組織部位を切除する手術手法が開発されている。こうした手術に用いる液体噴射装置では、ノズルの先端に設けられた噴射口から液体が噴射されるようになっており、操作者はノズルの噴射口を患部組織部位に向けて液体を噴射させることで、患部組織部位を切除することが可能である。
【0003】
また、加圧水を噴射することによって患部組織部位を切除するウォータージェット手術装置において、加圧水とともに噴射される加圧気体は、患部組織部位に当たった加圧水を除去し、加圧水が発砲状態で患部組織部位に溜まることを防止し、その結果、加圧水を有効に患部組織部位に作用させることが可能なウォータージェット手術装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、加圧気体は加圧水の周囲を取り巻く状態で噴射されるので、加圧水の水圧が低い場合には、加圧水の噴射方向が、加圧気体に影響され易くなり、切除箇所にズレが生じる虞があった。また、加圧水がパルス状に噴射される場合には、とりわけ大きな影響を受け易く、切除箇所にズレが生じる虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]容積が変更可能な液体室と、前記液体室に連通する入口流路及び出口流路と、前記液体室の容積を変更する容積変更部と、液体噴射開口部を備え、液体を噴射する液体噴射管と、気体を冷却する冷却部と、前記液体噴射管の外周に配設され、気体噴射開口部を備え、前記冷却部によって冷却された冷却気体を噴射する気体噴射管と、を有し、前記液体噴射管は、前記気体噴射管から噴射される前記冷却気体の噴射方向を誘導する誘導面が形成されていることを特徴とする液体噴射装置。
【0008】
これにより、患部組織部位が冷却された冷却気体で冷却されることで、部位ごとに異なる強度差を均一に近づけることができるので、切除可能な応力(切断力)が、ほぼ均一になり、切断の深さを制御するのが容易になる。また、患部組織部位が冷却されることで、切断に伴う血などの体液の発生が極めて少なくなり、患部組織部位を見易くできる。さらに、患部組織部位が冷却されることで、患部組織部位の弾力性が弱まり切除箇所を深く切ることができるため、切断に使用する液体を少なくすることができる。
【0009】
[適用例2]上記液体噴射装置であって、前記液体噴射開口部と、該液体噴射開口部から液体が噴射される噴射対象との距離に応じて、前記冷却気体の噴射方向を調整する気体噴射調整部を有することを特徴とする液体噴射装置。
【0010】
これによれば、冷却された冷却気体の広がりを調節することができるので、冷却された冷却気体が切除箇所に当たる位置の領域に合わせることができる。さらに、気体噴射開口部と切除箇所との間の距離が長くなることで冷却された冷却気体の風圧の減衰が大きくなっても、冷却された冷却気体の噴射量を増やすことで、切除箇所に到達する風圧の低下を抑えることができる。
【0011】
[適用例3]上記液体噴射装置であって、前記液体噴射管の外径は、先端に向かって広がる形状であり、前記冷却気体は、前記液体噴射開口部の外壁に沿って誘導されることを特徴とする液体噴射装置。
【0012】
これによれば、冷却された冷却気体を液体噴射開口部の外壁に沿って切除箇所へ導き、切除能力を向上させることを可能とする。
【0013】
[適用例4]上記液体噴射装置であって、前記液体噴射開口部から液体が噴射される噴射対象の温度を測定する温度測定機構を、さらに備えることを特徴とする液体噴射装置。
【0014】
これによれば、切除箇所の切断力(切断応力)は切除箇所の温度と相関があるため、液体が接触する箇所の表面温度を把握し、切除することができるかを、液体噴射前に確認することができ、かつ、切除箇所の温度に応じて液体噴射の強弱や冷却部の冷却温度をコントロールすることができる。
【0015】
また、切除箇所の温度に応じた噴射の強弱を自動的に制御することにより、液体噴射装置の操作者が、切除箇所の温度に基づいた切断力を算出して液体噴射の強弱をコントロールしたり、切除箇所が切除される最適な温度範囲になるように冷却したりするため、液体噴射装置の操作が容易になり、かつ、意図しない深さまで切断することを防止するため、安全性が高い医療機器を提供することができる。
【0016】
[適用例5]上記液体噴射装置であって、前記気体噴射開口部に前記冷却部を備えることを特徴とする液体噴射装置。
【0017】
これによれば、液体噴射開口部から噴射される液体が気体噴射開口部から噴射される冷却気体の影響を受け難いため、切除箇所に対するズレが生じる虞が少なく、切除能力を維持できる。
【0018】
[適用例6]上記液体噴射装置であって、さらに、前記気体噴射管の外周に吸引管を備えることを特徴とする液体噴射装置。
【0019】
これにより、切除に伴う切除組織片が外側へ飛び散ることを抑えることができる。
【0020】
[適用例7]上記液体噴射装置であって、前記液体噴射管の前記冷却気体と接触する箇所は、熱伝導性が1W/mKより低い素材で形成されていることを特徴とする液体噴射装置。
【0021】
これにより、液体噴射管の冷却気体が接する箇所は冷却されにくいため、液体が冷却されにくく、液体の粘度も冷却気体の影響を受けないため、所望の液体噴射ができ、かつ、液体噴射開口部の少なくとも先端は、生体適合性を有する素材で形成されているため、液体噴射開口部が生体に触れても、生体のアレルギー反応を引き起こさないため、生体の安全性が高い。
【0022】
[適用例8]上記液体噴射装置であって、前記吸引管は、熱伝導性が1W/mKより低い素材で形成されていることを特徴とする液体噴射装置。
【0023】
これにより、吸引管が冷却気体により冷却されることを低減するため、冷却気体の温度が吸引管と熱交換されにくくなり、冷却気体の温度上昇を防止し、さらに、吸引管が生体や液体噴射装置の取扱い者が意図しない接触をしたときの冷却に起因する事故を防止できる。
【0024】
[適用例9]上記液体噴射装置を用いたことを特徴とする医療機器。
【0025】
これにより、切除可能な応力(切断力)が、ほぼ均一になり、切断の深さを制御するのが容易となり、患部組織部位が冷却されることで、切断に伴う血などの体液の発生が極めて少なくなり、安全性が高い医療機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1の実施形態に係る液体噴射装置を示す概略図。
【図2】第1の実施形態に係る液体噴射装置の噴射部位と患部組織部位とを示す断面図。
【図3】第1の実施形態に係る液体噴射装置による患部組織部位の切除過程を解説した断面図。
【図4】第1の実施形態に係る液体噴射装置による冷却気体が切除箇所に当たる領域を解説した断面図。
【図5】第2の実施形態に係る液体噴射装置を示す概略図。
【図6】第2の実施形態に係る液体噴射装置を示す断面図。
【図7】第3の実施形態に係る医療用の液体噴射装置を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明で参照する図は、図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。
【0028】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る液体噴射装置を示す概略図である。本実施形態では、液体を噴射することにより生体組織を切除又は切開する医療用のウォータージェットメスとしての液体噴射装置について説明する。本実施形態に係る液体噴射装置2は、図1に示すように、生理食塩水や薬液などの液体が収容される液体容器10と、液体容器10から液体を吸い上げる液体供給ポンプ12と、液体供給ポンプ12から供給される液体を脈流(以降、パルス流と表すことがある)に変換させる脈流発生部14と、脈流発生部14に連通する液体噴射管16と、脈流発生部14に突設される気体噴射管18と、気体噴射ポンプ20と、液体噴射装置2の動作を制御する駆動回路ユニット22と、から構成されている。なお、本実施形態では、液体容器10から液体を吸い上げる液体供給ポンプ12を記載したが、液体容器10が加圧した容器や液体容器10の自然流下により供給する場合は、液体供給ポンプ12は省略することができる。
【0029】
脈流発生部14と液体供給ポンプ12と液体容器10とは第1接続チューブ24A及び第2接続チューブ24Bによって接続されている。また、気体噴射管18と気体噴射ポンプ20とは気体搬送チューブ26によって接続されている。
【0030】
なお、脈流発生部14としては、圧電素子を用いたピエゾ方式や、バブルジェット(登録商標)方式等、液体を脈流に変換してパルス状に噴射させることが可能な方式であれば適合可能であるが、以下に説明する脈流発生部14はピエゾ方式を例示して説明する。
【0031】
脈流発生部14は、容積が変更可能な液体室30と、液体室30に連通する入口流路30A及び出口流路30Bと、駆動信号の供給に応じて液体室30の容積を変更する容積変更部としての圧電素子42とダイアフラム44と、を備えている。
【0032】
液体噴射管16は、脈流発生部14の内部に形成される液体室30に連通する液体噴射流路32を有し、先端部には流路が縮小された(図示せず)液体噴射開口部28が開口されている。液体噴射管16は、出口流路の液体室30に連通する端部とは異なる端部に連通する液体噴射開口部28を備える。液体噴射管16は、気体噴射管18に内挿されている。そして、液体噴射管16は、液体噴射開口部28と気体噴射管18とは同心となるように配設されているが、同心に限定されるものではない。
【0033】
気体噴射管18は、液体噴射管16の外周に配設されて二重管構造となるように配設されている。気体噴射管18の内周面と液体噴射管16の外周面との間に形成される隙間が気体噴射流路34であり、気体噴射流路34の液体噴射開口部28側の端部に気体噴射開口部36が配設されている。
【0034】
気体噴射開口部36から噴射される冷却気体Cは、液体噴射開口部28の外壁に沿って噴射されている。気体噴射開口部36は、液体噴射開口部28から噴射される液体と、気体噴射開口部36から噴射される円錐面形状の冷却気体Cとは、噴射時にぶつかり合わないように先端に向かって広がる形状で形成されている。これにより、液体噴射開口部28から噴射される液体が気体噴射開口部36から噴射される冷却気体Cの影響を受け難いため、切除箇所P(図2参照)に対するズレが生じる虞が少なく、切除能力を維持できる。なお、液体噴射管16は、液体噴射時において変形又は振動しない程度の剛性を有し、気体噴射管18は気体噴射時に変形又は振動しない程度の剛性を有することが望ましい。
【0035】
液体噴射装置2が液体を噴射する動作、あるいは冷却気体Cを噴射する動作は、駆動回路ユニット22によって制御されている。本実施形態の駆動回路ユニット22には、液体を噴射する動作を制御する液体噴射制御部38と、噴射する冷却気体Cの温度及び動作を制御する噴射温度制御部40と、が設けられており、液体噴射制御部38は、液体供給ポンプ12と脈流発生部14とに接続され、噴射温度制御部40は、気体噴射ポンプ20及び冷却部90に接続されている。液体噴射制御部38は、液体供給ポンプ12を制御して脈流発生部14に供給する液体の量を変化させ、かつ、脈流発生部14を制御して脈流発生部14が液体を噴射する条件を変化させている。液体噴射制御部38は、液体室30の容積を縮小するように圧電素子42を駆動する駆動信号を圧電素子42に供給し、供給後に液体室30の容積を拡大するように圧電素子42を駆動する駆動信号を圧電素子42に供給する。液体噴射制御部38は、液体供給ポンプ12の駆動の開始及び停止を制御する。また、液体噴射制御部38は、液体供給ポンプ12が脈流発生部14に供給する液体の圧力を制御する。液体噴射制御部38は、脈流発生部14による液体の噴射を制御する。具体的には、液体噴射制御部38は、脈流発生部14の圧電素子42に印加する電圧を制御する。
【0036】
噴射温度制御部40は、冷却部90を制御して、気体噴射ポンプ20により噴射される冷却気体Cの温度の調整を行い、冷却部90で冷却される冷却気体Cの供給量を増減あるいは供給を停止する。
【0037】
また、噴射温度制御部40が制御する冷却気体Cの温度は、患部組織部位を凍結する温度でもよい。患部組織部位を凍結させれば、患部組織部位はより非弾性の性質となり、患部組織部位によって、液体噴射制御を変更することが少なくすることができるため、液体噴射装置2の使用者の負担を低減する。
【0038】
なお、冷却部90で冷却される冷却気体Cは、例えば、窒素ガス(窒素)、炭酸ガス(二酸化炭素)を用いることにより、患部組織部位や液体噴射装置2の使用者には無害であり、また、冷却気体Cにより患部組織部位を冷却させることにより、患部組織部位を不活性化することができる。
【0039】
気体噴射流路34は、脈流発生部14に配管される冷却配管部92を備えている。これにより、脈流発生部14を冷却部90で冷却される冷却気体Cにより冷却することができる。また、脈流発生部14を冷却することにより、噴射される液体の温度上昇を抑制できる。
【0040】
次に、このように構成された液体噴射装置2における液体の流動を簡単に説明する。液体容器10に収容された液体は、液体供給ポンプ12によって吸引され、一定の圧力で第2接続チューブ24Bを介して脈流発生部14に供給される。脈流発生部14は、圧電素子42を駆動して液体室30内において脈流を発生させ、液体噴射流路32を通って液体噴射開口部28から液体をパルス状に高速噴射する。
【0041】
なお、脈流発生部14が駆動を停止している場合、つまり、液体室30の容積を変更させないときには、液体供給ポンプ12から一定の圧力で供給された液体は液体室30を通って、液体噴射開口部28から連続流噴射される。
【0042】
ここで脈流とは、液体の流れる方向が一定で、液体の流量又は流速が周期的又は不定期な変動を伴った液体の流動を意味する。脈流には、液体の流動と停止とを繰り返す間欠流も含むが、液体の流量又は流速が周期的又は不定期な変動をしていればよいため、必ずしも間欠流である必要はない。
【0043】
同様に、液体をパルス状に噴射するとは、噴射する液体の流量又は移動速度が周期的又は不定期に変動した液体の噴射を意味する。パルス状の噴射の一例として、液体の噴射と非噴射とを繰り返す間欠噴射が挙げられるが、噴射する液体の流量又は移動速度が周期的又は不定期に変動していればよいため、必ずしも間欠噴射である必要はない。
【0044】
また、液体噴射装置2は温度測定機構8を備えていてもよい。温度測定機構8は、例えば非接触型の温度測定機構であり、液体の噴射対象の温度を測定する。温度測定機構8は、図示しない配線が駆動回路ユニット22と連結されている。また、温度測定機構8は、図示しない配線が液体噴射制御部38と連結されている。
【0045】
温度測定機構8は、例えば非接触型の温度測定機構を備えることにより、温度測定機構が液体の噴射対象や液体に触れることがないため、噴射される液体の噴射の障害にならず、液体の噴射対象を衛生的に保つことができる。
【0046】
図2は、本実施形態に係る液体噴射装置2の噴射部位と患部組織部位とを示す断面図である。液体噴射装置2の噴射部位を二重管で構成し、その外管を気体噴射管18、内管を液体噴射管16としている。液体噴射管16の先端には液体噴射開口部28が備えられている。液体噴射装置2は、液体噴射開口部28から切除箇所Pに向けて液体を噴射することで、切除箇所Pの切除を行う。液体噴射開口部28は、例えば、液体噴射管16の先端に向かって台形状に広がる形状を有していてもよい。これにより、気体噴射開口部36から噴射される冷却気体Cはこの液体噴射開口部28の外壁に沿って流れるので、液体噴射開口部28から噴射されるパルス液体の噴射に対して影響を与えることなく、切除箇所Pに溜まった排液や切除組織片を除去することができる。
【0047】
温度測定機構8は、切除箇所Pから放射されている赤外線Dを受光して表面温度を非接触で測定する。測定結果は、駆動回路ユニット22及び液体噴射制御部38に送られる。
【0048】
切除箇所Pの切断力(切断応力)は切除箇所Pの特定の温度と相関があり、液体が接触する切除箇所Pの表面温度を把握し、切除することができるかを、液体噴射前に確認することができ、かつ、切除箇所Pの温度に応じて液体噴射の強弱や冷却部90の冷却温度をコントロールすることができる。
【0049】
また、切除箇所Pの温度に基づいた切断力を算出して液体噴射の強弱をコントロールするため、液体噴射装置2の操作が容易になり、かつ、切除箇所Pが意図しない深さまで切断することを防止するため、安全性が高い医療機器を提供することができる。
【0050】
また、液体噴射の切断能力から冷却部90の冷却温度をコントロールすることもできるため、切除箇所Pに噴射される液体を向けるだけの操作となり、液体噴射装置2の操作は容易になる。
【0051】
図3は、本実施形態に係る液体噴射装置2による患部組織部位の切除過程を解説した断面図である。既に説明したように、液体噴射開口部28の外壁に沿って流れる気体噴射開口部36から噴射された冷却気体Cは、液体噴射開口部28から噴射されるパルス流の噴射に対して影響を与えることがないため、パルス流は飛行曲がりなどすることなく、患部組織部位の切除箇所Pにより確実に到達させることができる。また、切除箇所Pの周囲に飛び散った、あるいは溜まった排液や切除組織片を除去することもできる。
【0052】
さらに、液体噴射開口部28の外壁に沿って円錐側面(ハの字状)に広がって流れる冷却気体Cは、患部組織部位表面を冷却させる。患部組織部位表面を冷却させることで、柔軟性を有する患部組織部位を実質的に硬くすることができるので、パルス流が有するエネルギーが患部組織部位の弾性によって吸収減衰することを軽減できる。また、患部組織部位表面を冷却させることで、図3(A)及び(B)に示すように、患部組織部位を切除、破砕するせん断応力を増大させることができる。以上の両作用によって、切除能力を相乗的に向上させることができる。
【0053】
ここで、冷却気体Cが切除箇所Pに当たる領域を説明する。
図4は、本実施形態に係る液体噴射装置2による冷却気体Cが切除箇所Pに当たる領域を解説した断面図である。液体噴射装置2は、液体噴射開口部28に誘導面としての気体噴射調整部46を備えていてもよい。気体噴射調整部46は、液体噴射開口部28と切除箇所Pとの距離に応じて、液体噴射開口部28の外壁の円錐側面の広がり角度により気体噴射開口部36から噴射される冷却気体Cの噴射方向を調整する。冷却気体Cが切除箇所Pに当たる位置の間隔を所定の値(L)になるように、液体噴射開口部28と切除箇所Pとの間の距離(D)に応じて、液体噴射開口部28の開き角(θ)が調整される。
【0054】
ここで、液体噴射開口部28と切除箇所Pとの間の距離(D)の計測には、超音波センサーや赤外線センサーを用いてもよい。液体噴射開口部28と切除箇所Pとの間の距離が比較的近い距離D1の場合、図4(A)に示すように、冷却気体Cの切除箇所Pに当たる位置の間隔L1とするために、液体噴射開口部28の外壁の円錐側面の開き角θ1に設定される。
【0055】
一方、液体噴射開口部28と切除箇所Pとの間の距離(D)が上記距離D1より遠い距離D2となった場合、図4(B)に示すように、冷却気体Cの切除箇所Pに当たる位置の間隔L2を上記間隔L1と等しくするために、液体噴射開口部28の外壁の円錐側面の開き角θ2が、θ2<θ1の関係となるように変更される。
【0056】
なお、液体噴射開口部28の外壁の円錐側面の開き角(θ)を変更する機構としては、予めバネ材を用いて、液体噴射開口部28の外壁の円錐側面が所定の開き角(θ)を有する状態とし、冷却気体Cの量を調整して、液体噴射開口部28の外壁の円錐側面の開き角(θ)を調整する。すなわち、冷却気体Cの量が多いほど液体噴射開口部28の外壁の円錐側面の開き角(θ)が小さくなる方向に動作する。よって、液体噴射開口部28と切除箇所Pとの間の距離(D)が長くなる(距離D2)にしたがって、冷却気体Cの量を増やすことで、液体噴射開口部28の外壁の円錐側面の開き角(θ)が小さく(角θ2)なる。
【0057】
その結果、冷却気体Cの広がりが小さくなるので、冷却気体Cが切除箇所Pに当たる位置の間隔L2を間隔L1に合わせることができる。さらに、液体噴射開口部28と切除箇所Pとの間の距離(D)が長くなった分、冷却気体Cの風圧の減衰が大きくなっても、冷却気体Cの量を増やしているので、切除箇所Pに到達する風圧は低下を抑えることができる。
【0058】
ここで、液体噴射開口部28の少なくとも先端部は、生体適合性のある素材で形成されてもよく、液体噴射開口部28の先端部が生体と接触し生体がアレルギー反応を引き起こすことを防止できる。
【0059】
また、液体噴射管16は、少なくとも冷却された冷却気体Cと接触する表面を多孔質構造や熱伝導性が1W/mKより低い素材により形成してもよい。このようにすることにより、液体噴射管16が断熱材の役割を有し、液体噴射管16と気体噴射管18とが冷却された冷却気体Cにより冷却されることを低減することができる。したがって、冷却された冷却気体Cの温度が液体噴射管16及び気体噴射管18と熱交換されにくくなり、冷却された冷却気体Cの温度上昇を防止し、さらに、気体噴射管18が生体や液体噴射装置2の取扱者が意図しない接触をしたときの冷却に起因する事故を防止できる。
【0060】
本実施形態によれば、患部組織部位が冷却された冷却気体Cで冷却されることで、部位ごとに異なる強度差を均一に近づけることができるので、切除可能な応力(切断力)が、ほぼ均一になり、切断の深さを制御するのが容易になる。また、患部組織部位が冷却されることで、血などの体液の発生が少なくなり、患部組織部位を見易くできる。さらに、患部組織部位が冷却されることで、患部組織部位の弾力性が弱まり切除箇所を深く切ることができる。
【0061】
また、液体噴射管16を手術に用いたとき、冷却された冷却気体Cにより患部組織部位を凍結するまで冷却すれば、切断に伴う患部組織部位の出血は、さらに低減することができ、止血作業を少なくすることができるため、手術時間も短縮することができるため、生体の安全性を高める。
【0062】
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態について説明する。本実施形態の説明においては第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
図5は、本実施形態に係る液体噴射装置を示す概略図である。本実施形態に係る液体噴射装置4は、図5に示すように、脈流発生部14に突設される吸引管48と、吸引手段としての吸引ポンプ50と、吸引された排液や切除組織片を収容する回収容器52と、をさらに有するように構成されている。吸引管48と吸引ポンプ50と回収容器52とは第3接続チューブ54によって接続されている。
【0063】
吸引管48は、気体噴射管18の外周に配設され、液体噴射管16も含めて三重管構造となるように配設されている。吸引管48の内周面と気体噴射管18の外周面との間に形成される隙間が吸引流路56であり、吸引流路56の液体噴射開口部28側の端部に吸引開口部58が配設されている。気体噴射管18は、吸引管48に内挿されている。そして、気体噴射管18は、気体噴射開口部36と吸引管48とは同心となるように配設されているが、同心に限定されるものではない。
【0064】
吸引管48及び気体噴射管18は、少なくとも冷却された冷却気体と接触する表面を多孔質構造や熱伝導性が1W/mKより低い素材により形成してもよい。熱伝導性が1W/mKより低い素材としては、例えばシリコンが該当する。このようにすることで、吸引管48及び気体噴射管18が断熱材の役割を有し、吸引管48及び気体噴射管18が冷却された冷却気体Cにより冷却されることを低減することができる。したがって、冷却された冷却気体Cの温度が吸引管48及び気体噴射管18と熱交換されにくくなり、冷却された冷却気体Cの温度上昇を防止し、さらに、吸引管48が生体や液体噴射装置4の取扱い者が意図しない接触をしたときの冷却に起因する事故を防止できる。
【0065】
液体噴射装置4が液体を吸引する動作は、駆動回路ユニット22によって制御されている。本実施形態の駆動回路ユニット22には、図5に示すように、液体を吸引する動作を制御する吸引制御部60が設けられており、吸引制御部60は吸引ポンプ50に接続されている。吸引制御部60は、吸引ポンプ50の駆動の開始及び停止を制御する。
【0066】
次に、吸引について説明する。液体噴射開口部28から噴射された液体は、切除箇所Pにおいて排液として滞留する。また、患部には切除組織片が存在する。これら排液や切除組織片は、吸引ポンプ50によって吸引開口部58から吸引され、吸引流路56及び第3接続チューブ54を通って回収容器52に収容される。吸引ポンプ50の駆動は、脈流発生部14の駆動に連動させてもよく、定期的に間欠駆動させても、必要性が生じたときに駆動してもよい。
【0067】
図6は、本実施形態に係る液体噴射装置4を示す断面図である。液体噴射装置4は、噴射部位を三重管で構成し、その外管を吸引管48、中管を気体噴射管18、及び内管を液体噴射管16とすることにより、液体によって飛ばされる排液や切除組織片を、吸引管48によって回収することができるので、外側へ飛び散ることを抑えることが可能となる。
【0068】
また、気体噴射管18からの単位時間当たりの噴射体積を、単位時間当たりの吸引体積よりも大きく設定することにより、吸引開口部58に切除箇所Pが強く吸い付けられて、切除箇所Pを傷つけることを回避することができる。
【0069】
さらに、吸引している期間中、気体噴射管18から冷却気体Cを送らない状態であっても、大気と連通させることによって、吸引による切除箇所Pの吸い付けを防止することができる。
【0070】
また、本実施形態では、図1では気体噴射ポンプ20と脈流発生部14との間に備えていた冷却部90を、気体噴射開口部36に冷却部90を備え、図示しない配線が駆動回路ユニット22と連結されている。
【0071】
冷却部90はメッシュ状であって、気体と接触することで気体を冷却するが、気体噴射開口部36に備えているため、冷却された冷却気体Cの液体噴射管16及び気体噴射管18と接触する箇所が少ないため、熱効率が高く冷却に伴う消費電力の低減を図ることができる。
【0072】
また、液体噴射管16を、その外周に配した気体噴射管18よりも前方に突き出すことにより、冷却気体Cを液体噴射管16に沿って患部へ導き、切除能力を向上させることを可能とする。
【0073】
本実施形態によれば、液体によって飛ばされる排液や切除組織片が外側へ飛び散ることを抑え、かつ、気体噴射開口部36から噴射される冷却気体Cの単位時間当たりの気体噴射体積を、吸引開口部58で吸引される気体の単位時間当たりの吸引体積よりも大きくすることで、吸引開口部58の患部組織部位への吸い付きを防止することができる。
【0074】
(第3の実施形態)
次に第3の実施形態について説明する。本実施形態の説明においては第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
図7は、本実施形態に係る医療用の液体噴射装置を模式的に示す断面図である。本実施形態に係る液体噴射装置6は、図7(A)に示すように、血栓破砕用として用いられるものであり、水若しくは生理的食塩水からなる液体が充填される空間Aを有する空間形成体としてのカテーテル82と、空間A内から外部に向かって延びる石英系の光ファイバー84と、この光ファイバー84にパルス光としてのホルミウムヤグレーザー(波長2.1μm)(以下、単に、「パルスレーザー」と称する)を供給する脈流発生部としての公知のレーザー発振器86とを備えている。
【0075】
カテーテル82は、塩化ビニルやPCB(ポリクロロビフェニル)等の公知のカテーテル材料によってチューブ状に形成されており、その図中左端側に位置する先端側は、空間Aを外側に向かって開放する液体噴射開口部28となっている。
【0076】
光ファイバー84の先端側(図中左端側)は、パルスレーザーの照射部84Aとなっており、この照射部84Aは、液体噴射開口部28よりも内側となる空間A内に位置している。したがって、パルスレーザーが照射されると、図7(B)に模式的に示すように、照射部84A近傍の液体の部分88が、パルスレーザーのエネルギーによって膨張されることになり、これによって、空間Aの内圧が上昇し、当該内圧の上昇により液体が液体ジェット(噴流)Jとなって液体噴射開口部28から外部に噴射されるようになっている。この際、カテーテル82の空間A内には、液体供給ポンプ12から液体が略連続的若しくはパルスレーザーの照射に同期して供給され、パルスレーザーの照射直前には、常に液体が空間Aに満たされるようになっている。
【0077】
本実施形態によれば、レーザー発振器86からのパルスレーザーの照射により、高い温度の液体が噴射されるが、噴射対象となる箇所を冷却するため、噴射対象となる箇所が噴射液体の熱影響を受けにくい。よって、例えば生体手術の場合では、噴射液体による噴射対象となる箇所の火傷を防止することができる。
【0078】
(変形例1)
液体噴射装置に気体を冷却する冷却部を有することなく、冷却効果を有するガスが充填されたガス容器を気体噴射管と連通してもよい。
【0079】
これによれば、液体噴射装置に冷却部を有することがないため、液体噴射装置の消費電力量を図ることができる。
【符号の説明】
【0080】
2,4,6…液体噴射装置 8…温度測定機構 10…液体容器 12…液体供給ポンプ 14…脈流発生部 16…液体噴射管 18…気体噴射管 20…気体噴射ポンプ 22…駆動回路ユニット 24A…第1接続チューブ 24B…第2接続チューブ 26…気体搬送チューブ 28…液体噴射開口部 30…液体室 30A…入口流路 30B…出口流路 32…液体噴射流路 34…気体噴射流路 36…気体噴射開口部 38…液体噴射制御部 40…噴射温度制御部 42…圧電素子(容積変更部) 44…ダイアフラム 46…気体噴射調整部(誘導面) 48…吸引管 50…吸引ポンプ 52…回収容器 54…第3接続チューブ 56…吸引流路 58…吸引開口部 60…吸引制御部 82…カテーテル 84…光ファイバー 84A…照射部 86…レーザー発振器(脈流発生部) 88…部分 90…冷却部 92…冷却配管部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容積が変更可能な液体室と、
前記液体室に連通する入口流路及び出口流路と、
前記液体室の容積を変更する容積変更部と、
液体噴射開口部を備え、液体を噴射する液体噴射管と、
気体を冷却する冷却部と、
前記液体噴射管の外周に配設され、気体噴射開口部を備え、前記冷却部によって冷却された冷却気体を噴射する気体噴射管と、
を有し、
前記液体噴射管は、前記気体噴射管から噴射される前記冷却気体の噴射方向を誘導する誘導面が形成されていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置において、
前記液体噴射開口部と、該液体噴射開口部から液体が噴射される噴射対象との距離に応じて、前記冷却気体の噴射方向を調整する気体噴射調整部を有することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体噴射装置において、
前記液体噴射管の外径は、先端に向かって広がる形状であり、
前記冷却気体は、前記液体噴射開口部の外壁に沿って誘導されることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記液体噴射開口部から液体が噴射される噴射対象の温度を測定する温度測定機構を、さらに備えることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記気体噴射開口部に前記冷却部を備えることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
さらに、前記気体噴射管の外周に吸引管を備えることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記液体噴射管の前記冷却気体と接触する箇所は、熱伝導性が1W/mKより低い素材で形成されていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の液体噴射装置において、
前記吸引管は、熱伝導性が1W/mKより低い素材で形成されていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の液体噴射装置を用いたことを特徴とする医療機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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