液体噴射装置
【課題】消費電力を抑制でき、安全性の向上および被記録物の搬送不良の低減した液体噴射装置を提供すること。
【解決手段】液体収集動作制御部264によって電圧源270の電圧印加を制御することにより、必要に応じて液体の収集機能を有効にでき、消費電力を抑制できると共に、高電圧を印加する期間も制御できるので、記録部110の安全性の向上にも寄与できる。また、必要に応じてインクの収集機能が有効にできるので、インクによる汚染や記録媒体の搬送不良を最小限に抑えた記録部110を得ることができる。
【解決手段】液体収集動作制御部264によって電圧源270の電圧印加を制御することにより、必要に応じて液体の収集機能を有効にでき、消費電力を抑制できると共に、高電圧を印加する期間も制御できるので、記録部110の安全性の向上にも寄与できる。また、必要に応じてインクの収集機能が有効にできるので、インクによる汚染や記録媒体の搬送不良を最小限に抑えた記録部110を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体噴射装置に関する。より詳細には、液体噴射ヘッドに装着されたノズルプレートの開口から噴射した液体を被記録物に付着させる液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置において、被記録物の周縁部に余白を残すことなく液体を付着させる場合、被記録物および液体噴射ヘッドの間の不可避な位置ずれを見込んで、被記録物の寸法よりも僅かに広い領域に対して液体を噴射させる。このため、被記録物の両側縁部および前後縁部の近傍では、被記録物の存在しない領域に対しても液体が噴射される。そこで、被記録物よりも遠方において液体噴射ヘッドに対向する位置に吸収部材を配置して、噴射されながら被記録物に付着しなかった液体を吸収させる。これにより、被記録物に付着しなかった液体による周囲の汚染が防止される。
【0003】
ところで、被記録物に液体が付着すると、その部分が伸びて被記録物に皺を生じる場合がある。この皺が吸収部材に接触すると、吸収部材にすでに吸収されていた液体が被記録物を汚染する。そこで、多くの液体噴射装置では、被記録物の皺の高さを見込んで、被記録物および吸収部材の間に2〜4mm程度の間隙が設けられる。また、同様に接触による汚染を防止する目的で、ノズルプレートおよび被記録物の間にも1mm程度の間隔がとられている。したがって、ノズルプレートから吸収部材までの間には3〜5mm程度の間隔がある。
【0004】
一方、被記録物上で液体により形成される画像の解像度を向上させる目的で、ノズルプレートの開口から噴射される液滴は一層微細化される傾向にあり、単一の液滴に着目すると、その大きさは数pl程度までになっている。このような微細な液滴は自身の質量が非常に小さいので、ノズルプレートからいったん噴射されると、雰囲気の粘性抵抗等により運動エネルギーを急速に失う。例えば、8pl未満の液滴は、大気中で3mm程度の行程を飛翔すると速度が略ゼロになることが判っている。このように運動エネルギーを失った微細な液滴は、重力加速度による落下運動と雰囲気の粘性抵抗力とが殆どつり合い、落下し切るまでに長い時間を要する。落下するまでの間の液滴は空中に浮遊することになり、これはエアロゾルと呼ばれる。
【0005】
このようにして発生したエアロゾルは、一部は液体噴射装置の外部にまで浮遊して、周辺に付着する。また、エアロゾルの多くは液体噴射装置内の各部に付着する。プラテン等の被記録物の搬送経路にエアロゾルが付着した場合、再付着により次に搬送される被記録物が汚染される。また、液体噴射装置に搭載された電気回路、リニアスケール、ロータリエンコーダ、光学センサ等にエアロゾルが付着した場合は、装置自体の誤動作を招く場合もある。さらに、エアロゾルが付着したものにユーザが触れると、ユーザの手が汚される。
【0006】
特許文献1には、電界によりエアロゾルを能動的に収集する機能を備えた液体噴射装置が開示されている。ここに開示された液体噴射装置では、被記録物に付着しなかった液滴を付着、吸収させる目的で、ノズルプレートに対向する位置に吸収部材が配置される。また、吸収部材に隣接して一方の電極となる金属部材が配置され、液体を噴射する開口を有する金属製ノズルプレートが他方の電極とされる。
【0007】
これら電極およびノズルプレートに互いに異なる電圧が印加されると、両者の間に電界が形成される。一方、ノズルプレートから噴射される液滴は、ノズルプレートから噴射された瞬間に、いわゆる避雷針効果によりノズルプレートと同極に帯電する。したがって、エアロゾルとなり得るような微小な液滴も、電界から受けるクーロン力の作用により、減速されることなく電極に向かって飛翔し続け、自身の電荷と逆極性の電位にある電極に吸着される。さらに、電極に吸着された液滴は、電極に隣接して配置された吸収部材に毛細管現象により吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−202867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、エアロゾルが帯電していることを利用して、電界により浮遊するエアロゾルの発生を抑制できることが判っている。しかしながら、このような機能を有する液体噴射装置では、常に電圧を印加しているので、そのための技術的課題が新たに生じている。
【0010】
そのひとつとして、液体噴射装置が起動している全期間にわたって電界を発生させた場合、消費電力が徒に増加する。また、電界を画成する電極等の部材には高い電圧が印加されるので、これに触れた場合には感電する場合があり得る。さらに、高圧な電圧源は稼働時間に制限があるので、不要な電界形成は装置寿命の短縮に結びつく。
また、エアロゾル収集に利用する電界の中で記録動作をすることになるので、電界による作用が被記録物にも及び、被記録物の搬送不良を生じる場合があることが挙げられる。特に、被記録物が薄く柔軟である場合、表面処理、塗工層の形成等により被記録物の比誘電率が高い場合あるいは被記録物自体が樹脂フィルム等のように柔軟で帯電しやすい材料で形成される場合は、電界により被記録物自体が帯電して、液体噴射装置の構造物に引き寄せられる。このため、被記録物が搬送経路からずれて、いわゆる紙詰まり等の搬送不良を生じる場合がある。
さらに、他の課題として、被記録物に付着せずに浮遊していたエアロゾルは、電界により運動エネルギーを保持し続けているので、被記録物の意図しなかった領域に付着する場合がある。このような汚染は、本来は全く液体が付着しない被記録物の裏面において非常に目立つ。また、被記録物の裏面にも記録が行われる場合には、裏面の汚染も単なる美観の劣化では済まされない。このように、エアロゾルによる汚染を防止する目的で電界を形成した場合に予期せぬ別の汚染が生じる場合もある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0012】
[適用例1]
開口を有する導電性のノズルプレートを有し、前記開口から被記録物に向かって液体を噴射する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドからの液体噴射方向について前記被記録物よりも遠方に、前記ノズルプレートに対向して配置され、前記液体噴射ヘッドから噴射されながら前記被記録物に付着しなかった液体を吸収する吸収部材と、前記吸収部材に隣接して配置された電極と、前記電極に電圧を印加して前記ノズルプレートおよび前記電極の間に電位差を発生させて電界を形成して、前記液体噴射ヘッドから噴射された液体を前記電極に向かって電気的に引き付けさせる電位差発生手段と、前記電位差発生手段の電圧印加の期間を制御する液体収集制御部とを備えた液体噴射装置。
【0013】
この適用例によれば、液体収集制御部によって電位差発生手段の電圧印加を制御することにより、必要に応じて液体の収集機能が有効になり、消費電力を抑制できると共に、高電圧を印加する期間も制御されるので、液体噴射装置の安全性の向上にも寄与する。また、必要に応じて液体の収集機能が有効になるので、液体による汚染や被記録物の搬送不良を最小限に抑えられる。
【0014】
[適用例2]
上記液体噴射装置であって、前記液体収集制御部は、前記被記録物に関する情報により、少なくとも第1の制御モードまたは第2の制御モードのいずれか1つを含む制御モードから制御モードを選択し、選択された前記制御モードに従って、前記電圧印加を開始または停止する液体噴射装置。
この適用例では、被記録物に関する情報により、電圧印加の開始および停止に係る制御モードが選択されるので、被記録物に応じてより適切に前述の効果が達成される。
【0015】
[適用例3]
上記液体噴射装置であって、前記液体収集制御部は、前記被記録物が給紙ローラに接触した後、前記開口から前記液体が前記被記録物に噴射される位置に達する前に前記電圧印加を開始する液体噴射装置。
この適用例では、液体が噴射されるまでに電圧印加を行うので、確実に液体の収集機能が有効になり、液体による汚染を抑えられる。
【0016】
[適用例4]
上記液体噴射装置であって、前記液体収集制御部は、前記被記録物が排紙ローラに接触した後、前記電圧印加を開始する液体噴射装置。
この適用例では、排紙ローラによって被記録物が挟まれ、その位置が安定した後に電圧が印加されるので、被記録物が帯電しやすい特性を有する場合であっても、電界により被記録物が吸収部材に引き付けられて汚染され、あるいは、搬送経路からはずれて搬送不良を生じることが低減される。
【0017】
[適用例5]
上記液体噴射装置であって、前記液体収集制御部は、前記被記録物が前記開口から前記液体が前記被記録物に噴射される位置から外れた後に前記電圧印加を停止する液体噴射装置。
液体が噴射されない期間は電圧印加を停止するので、消費電力を抑制できると共に、高電圧を印加する期間が限定的なので、液体噴射装置の安全性の向上にも寄与する。また、液体が噴射される前に有効な電界が形成されるので、効果的に液体を収集できる。
【0018】
[適用例6]
上記液体噴射装置であって、前記液体収集制御部は、前記液体噴射装置の筐体が開かれた場合に、前記電圧印加を停止させる液体噴射装置。
この適用例では、電圧が印加されたまま電極等が露出することが防止され、液体噴射装置の安全性が向上される。
【0019】
[適用例7]
上記液体噴射装置であって、前記液体収集制御部は、前記液体噴射装置の筐体内に前記被記録物ではないものが侵入したことが検知された場合に、前記電圧印加を停止させる液体噴射装置。
この適用例では、侵入物による短絡あるいは侵入物を取り除こうとした場合に発生し得る感電を防止でき、液体噴射装置の安全性が向上される。
【0020】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。したがって、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】記録読取複合機の全体を概観する斜視図。
【図2】記録部の内部機構を抜き出して示す斜視図。
【図3】内部機構を上方から見た様子を示す平面図。
【図4】プラテンの構造を示す分解斜視図。
【図5】エアロゾル収集機構の動作を説明する模式図。
【図6】記録読取複合機を含むシステムの構造を模式的に示す図。
【図7】システムにおける制御系の構造を模式的に示す図。
【図8】システムにおける記録部の制御手順を示す流れ図。
【図9】記録部の各部における動作期間の開始および終了のタイミングを示す図。
【図10】液体噴射ヘッドおよびプラテン付近の概略断面図。
【図11】液体噴射ヘッドおよびプラテン付近の概略断面図。
【図12】記録動作継続中の制御部による付加的な制御の手順を示す流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0023】
図1は、本発明の実施形態のひとつであるインクジェット式の液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置としての記録部110を含む記録読取複合機100の外観を示す斜視図である。記録読取複合機100は、液体噴射ヘッドから液体であるインクを噴射し、被記録物としての記録媒体150に画像を記録する。
【0024】
図1において、記録読取複合機100は、記録部110と、その上に重ねられた上ケース122とを備えている。また、上ケース122は筐体になっており、その中に読取部120を備えている。
【0025】
記録部110は、下ケース112と給送部210とを備えている。下ケース112は筐体になっており、その下部にケース底部111を備えている。
給送部210は、ペーパサポート212を備え、下ケース112の後側に設けられている。また、下ケース112の前面には、前カバー114が設けられている。
【0026】
一方、上ケース122の上面には、読み取るべき原稿を載せる図示しない読取テーブルが配置され、読取テーブル上の原稿を押さえる原稿押さえを兼ねた上カバー124が設けられている。
また、上カバー124の前側に、操作パネル130を備えている。操作パネル130には、表示パネル132の他、複数の操作ボタン134、パイロットランプ136等が設けられ、記録読取複合機100をスタンドアローンで動作させる場合に、各種の指示を入力し、動作状態等を表示することができる。
【0027】
記録読取複合機100においては、上カバー124を開いて読み取りテーブルの上に載せた原稿上の画像が、その下面から読み取られる。また、ペーパサポート212に装入された記録媒体150は、記録部110の内部を前方に向かって搬送され、その途中で画像が記録される。
【0028】
図2は、図1に示した記録読取複合機100の記録部110の内部機構200を抜き出して示す斜視図である。また、図3は、同じ内部機構200を、上から見下ろした様子を示す平面図である。
図2および図3において、内部機構200は、ケース底部111と、その上に略直立するフレーム202と、フレーム202の後側に配置された給送部210と、フレーム202の前側に順次配置された搬送部220、プラテン230および排出部240とを備えている。
【0029】
給送部210は、縦に装入された記録媒体150の背面を支持するペーパサポート212と、記録媒体150の右側の側端部を位置決めするサイドサポート214と、記録媒体150の左側の側端部に当接して記録媒体150の傾きを防止するスライドサポート216とを備えている。スライドサポート216は、ペーパサポート212の表面で水平に移動させることができ、幅が異なる記録媒体150が装入された場合も、記録媒体150の側端部に当接させることができる。給送部210はさらに、フレーム202に隠れた給送ローラ等を備え、記録部110が記録動作する場合に、ペーパサポート212に装入された複数の記録媒体150を1枚ずつ内部機構200に取り込む。
【0030】
なお、内部機構200は、前面に開口した水平なペーパサポート211も備えている。このペーパサポート211は、内部機構200の前から水平に装入された記録媒体150を下方から支持する。また、ペーパサポート211に装入された記録媒体150も、給送部210を利用して搬送部220に記録媒体150を送り込むことができる。ペーパサポート211は延長部213を備え、それ自体の奥行きよりも長い記録媒体150も支持できる。
【0031】
搬送部220は、フレーム202の前側に配置され、取り込まれた記録媒体150の上面に当接して連れ回される給紙ローラとしての搬送従動ローラ224を備えている。搬送従動ローラ224の直下には、図示されていない搬送モータにより回転駆動される搬送駆動ローラが配置される。したがって、内部機構200に取り込まれた記録媒体150は、搬送従動ローラ224により搬送駆動ローラに押し付けられ、搬送駆動ローラの回転にしたがってプラテン230の上に送り込まれる。
【0032】
プラテン230は、上方に向かって突出した複数のリブ234を備えている。リブ234は、送り込まれた記録媒体150の下面にその先端を当接させ、記録媒体150の高さ方向の位置決めをする。プラテン230の上方を通り過ぎた記録媒体150は、やがて排出部240に到達する。
【0033】
排出部240は、プラテン230の前側に配置され、プラテン230上を通過して送り込まれた記録媒体150に対して、その上面に当接して連れ回される排出従動ローラ244を備えている。排紙ローラとしての排出従動ローラ244の直下には、図示されていない回転伝達機構を介して搬送モータにより回転駆動された排出駆動ローラが配置される。記録媒体150は、排出従動ローラ244により搬送駆動ローラに押し付けられ、排出駆動ローラの回転に従って記録媒体150を記録部110の前に送り出す。排出部240の前側には、排出トレイ248が配置され、排出された記録媒体150は排出トレイ248の上に蓄積される。
【0034】
さらに、この内部機構200は、プラテン230の上方で往復移動するキャリッジ250を備えている。キャリッジ250は、フレーム202の前側に設けられた主走査方向に延びる図示しない案内部材に沿って、主走査方向に水平に移動できるように装着されている。また、フレーム202の前側には、一対のプーリ251の間に張り渡されたタイミングベルト253が配置されている。さらに、キャリッジ250は、その背面においてタイミングベルト253に連結されている。
【0035】
一方、プーリ251の一方はキャリッジモータ255により回転駆動されるので、キャリッジ250は、タイミングベルト253の変位にしたがって移動する。したがって、キャリッジモータ255の動作と回転方向を制御することにより、キャリッジ250を、プラテン230上で任意の領域の上方に移動させることができる。また、キャリッジ250は、その下面に、図示しない液体噴射ヘッドを備えている。
【0036】
以上のような構造を有する内部機構200を備えた記録読取複合機100においては、前側のペーパサポート211または後方のペーパサポート212に装入された記録媒体150が、給送部210により1枚ずつ搬送部220に取り込まれる。搬送部220に取り込まれた記録媒体150は、プラテン230の上方を通過して排出部240に到達し、排出部240により内部機構200の外部に送り出される。
【0037】
また、記録媒体150がプラテン230の上に存在しているとき、キャリッジ250はプラテン230上を往復移動しつつ、下に向かって液体噴射ヘッドからインクを噴射する。したがって、記録媒体150表面の任意の領域に対してインクを噴射して付着させることができる。さらに、記録媒体150を1行分ずつ間欠的に搬送する一方、搬送が中断している期間にキャリッジ250を往復移動させることにより、記録媒体150の表面全体の所望の領域に画像を記録できる。
【0038】
なお、フレーム202の後側には、上記のような一連の記録動作を制御する制御部260が搭載される。制御部260は、この記録読取複合機100に接続された情報処理装置等を介して入力された指示、あるいは、操作パネル130から入力された指示に基づき、記録部110が適切な動作をするように制御する。また、制御部260は、この記録部110が記録する画像情報を受け取るインターフェースでもある。制御部260が受け取る画像情報は、当該画像を表す情報の他に、記録画像の解像度、色数等の記録品質、寸法、材質等の被記録物に関する情報も含む場合がある。
【0039】
図4は、内部機構200におけるプラテン230の詳細な構造を示す分解斜視図である。図中には、液体噴射ヘッド256、制御部260および制御部260によって制御される電位差発生手段としての電圧源270を合わせて簡略化して示している。ここで、液体噴射ヘッド256は、開口254を有するノズルプレート252を備えている。開口254からインクが噴射される。
図4において、プラテン230は、プラテン本体232と、プラテン本体232に収容された電極310および吸収部材236,238とを備えている。
【0040】
プラテン本体232は樹脂材料により一体成形され、その上面から上に向かって突出した複数のリブ234と、上面から陥没して、底部231および側壁部233を含んで形成された幅の広い収容部235と、リブ234の形成された領域の側に形成された幅の狭い収容部237とを備えている。プラテン230の上を図1および図2に示した記録媒体150が通過する場合は、リブ234の上端が記録媒体150の下面に当接して、記録媒体150の高さ方向の位置決めがされる。
【0041】
吸収部材236,238は、収容部235,237内を充填する寸法と形状を有している。吸収部材236,238は、その表面における液体の吸収速度を重視して材料が選択されている。ここで、吸収部材236,238が保持できるインクの量には限りがあるため、これらの吸収部材236,238よりもインク吸収容量が大きな図示しない廃液吸収部材が、プラテン230の下方に別途配置されている。
【0042】
さらに、このプラテン230は、幅の広い収容部235の内部において、吸収部材236の下に配置される電極310を備えている。電極310は、収容部235の底部231を概ね覆うように配置されている。また、電極310の一端には、収容部235の側壁部233を乗り越えて外部に延在する連結部312と、プラテン230の外側に露出する端子部314とが一体に形成されている。この端子部314を介して、制御部260の制御の下に動作する電圧源270の一端に接続することにより、電極310に電圧を印加することができる。電圧源270の他端は、液体噴射ヘッド256に装備されたノズルプレート252に接続されている。これにより、ノズルプレート252および電極310の間に電位差を生じさせ、電界を形成させることができる。
【0043】
なお、上記の吸収部材236,238の材料としては、ポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂材料を発泡させたものを好ましく例示できる。また、吸収部材236を電極310と同電位とすることを目的として、表面抵抗が108Ω以下となるような導電性の材料により形成することも好ましい。このような材料としては、ポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂に金属、炭素等の導電性材料を混入した上で発泡させたもの、ポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂発泡材に金属、炭素等の導電性材料を付着させたもの、または、メッキしたもの等を例示できる。また、ポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂発泡材に電解質溶液を含浸させたものを用いることもできる。
【0044】
一方、電極310の材料としては、インクに対して耐食性のある金属、例えば金、ステンレスまたはニッケルの線材、板材または箔材、あるいは、これらの金属でメッキした線材、板材または箔材、若しくは、これらの材料を組み合わせた網状または格子状の部材で形成できる。また、他の態様として、プラテン230の収容部235の底部231に直接形成した導電性の塗膜層、メッキ層、厚膜層、薄膜層等を電極310として使用することもできる。
【0045】
図5は、プラテン230、ノズルプレート252、制御部260および電圧源270によって構成されるエアロゾル収集機構300の構造と動作を説明する模式図である。
図5において、ノズルプレート252は例えば金属製で、導電性を有する。ノズルプレート252は、電圧源270の負極に接続されている。一方、電圧源270の正極は、プラテン230に収容された電極310に接続されている。電極310に重ねてプラテン230に収容された吸収部材236は導電性を有し、吸収部材236全体が電極310と同じ電位になる。したがって、電圧源270の発生した電位差による電界Eが、ノズルプレート252の下面と吸収部材236の表面との間に形成される。なお、全ての極性を反転させて接続しても同様の機能が実現できる。
【0046】
ノズルプレート252は液体噴射ヘッド256の下面に装着されている。記録動作においては、開口254を通じてインク311を下に噴射する。ここで、開口254の直下にプラテン230に支持された記録媒体150が存在している場合は、噴射されたインク311が記録媒体150の上面に付着して画像319を形成する。一方、記録媒体150の縁部に余白を設けずにインク311を付着させようとした場合、記録媒体150の側縁部並びに先端および後端において、一部の開口254の直下に記録媒体150が存在しない場合がある。このような場合、インク311はノズルプレート252から噴射されながら、記録媒体150に付着することなく飛翔する。
【0047】
開口254から噴射されながら記録媒体150に付着しなかったインク滴317の運動エネルギーは、雰囲気の粘性抵抗により急速に失われる。このため、一部のインク滴317は、吸収部材236に到達する遥か前にその運動エネルギーを失う。ここで、インク滴317の質量は非常に小さいので、運動エネルギーを失うと、重力加速度による落下運動と雰囲気による粘性抵抗力とが殆どつり合い、以降の落下速度が極めて遅くなる。このようにして、ノズルプレート252の下方に浮遊するエアロゾルが発生する。また、インク滴317の一部がちぎれて一段と微細なインク滴であるサテライトインク315が生じる場合があり、これもエアロゾルとなる。
【0048】
しかしながら、このエアロゾル収集機構300では、吸収部材236の表面とノズルプレート252の下面との間に電界Eが形成されている。したがって、電荷qを有するインク滴317は、電界Eから受けるクーロン力Fe(qE)により運動エネルギーを得、減速されることなく下に移動して吸収部材236に到達する。
【0049】
なお、開口254から押し出されるインク311は、ノズルプレート252から離脱してインク滴317となる直前の瞬間に、ノズルプレート252から下垂するインク柱313を形成する。このとき、インク柱313の先端Aとノズルプレート252の下面におけるインク柱313付近の領域Bとの間に、いわゆる避雷針効果により電荷が蓄積される。この避雷針効果により、インク滴317は、インク柱313の水平断面積に対応する電荷よりも大きな電荷qで帯電する。なお、避雷針効果は、インク柱313の先端Aを頂点とする頂角50°から60°の円錐形で包囲されるノズルプレート252表面の領域Bがインク滴317の帯電に寄与する現象をいう。これにより、インク滴317はより大きなクーロン力を受け、電界E内を吸収部材236まで飛翔する。
【0050】
図6は、上記のような手順で動作を制御する図5に示した制御部260を備えた記録部110を含む記録読取複合機100を稼働させる場合のシステムの構造を模式的に示す図である。
図6において、このシステム500において、記録読取複合機100の図5に示した制御部260は、ホスト装置としての情報処理装置510に接続されている。情報処理装置510は、ユーザからの入力手段であるキーボード512およびマウス514と、ユーザに対して画像を表示する表示装置520とを備えている。
【0051】
また、情報処理装置510は、記録媒体150に対して情報を読み書きするディスクドライブ516、外部と通信することにより情報をやりとりできる図示しない通信回線も備えている。したがって、情報処理装置510は、自身の内部で作成された画像情報の他、ディスクドライブ516に装入した記録媒体、通信回線等を介して、記録部110に記録させるべき画像情報を調製することができる。また、記録読取複合機100を制御するプログラムを外部から獲得してインストールすることもできる。
【0052】
図7は、図6に示したシステム500における制御系600の構造を模式的に示す図である。
図7において、記録部110に実装された制御部260は、記録部110における記録動作を制御する記録動作制御部262と、エアロゾル収集機構300における電圧源270の動作を制御する液体収集制御部としての液体収集動作制御部264とを含む。
【0053】
したがって、記録部110における記録動作は、制御部260が、ホスト装置である情報処理装置510から受けた指示に従って、記録動作制御部262の制御の下に記録部110において実行される。また、電圧源270は、液体収集動作制御部264の制御の下に記録動作制御部262と協働して、電圧源270による電圧印加の開始または停止を制御する。
【0054】
図8は、制御部260がエアロゾル収集機構300の動作を制御する場合の手順を示す流れ図である。
図7および図8において、動作を開始した制御部260は、外部に接続された情報処理装置510等のホスト装置からの印刷指示を待つ(ステップS101)。
印刷指示を受けた場合、まず、記録媒体150に印刷すべき記録情報を獲得する(ステップS102)。なお、記録情報には、印刷する画像情報の他、印刷解像度、記録媒体150の寸法、記録媒体150に関する媒体種等の情報が含まれる。
【0055】
次に、記録部110に、記録動作の対象となる記録媒体150が装入されているかどうかが検査される(ステップS103)。記録媒体150が装入されていない場合(ステップS103:NO)は、記録媒体150を補充すべき旨のメッセージ「記録媒体補充」を表示して(ステップS104)記録媒体150の補充を待つ。一方、記録媒体150がすでに装入されている場合(ステップS103:YES)は、次のステップへ進む。
【0056】
なお、媒体種に関する情報は、記録部110に、装入された記録媒体150の媒体種を判定する判定手段から獲得してもよい。媒体種は、記録媒体150の比誘電率、曲げ剛性、光学的に表面の光沢や光の反射率等を測定することによって判定できる。この場合、判定は、記録媒体150が装入された後であるステップS103の後に行う。
【0057】
次に、ステップS105において、獲得した媒体種の情報に応じた制御モードを選択する。実施形態では、制御モードとして、第1の制御モードであるモードA、第2の制御モードであるモードB、その他の制御モードであるモードCを備えている。表1に媒体種と対応するモードとの関係を示した。
モードAおよびモードBは、電圧印加を行い、その期間を制御するモードであり、モードCは電圧印加を行わないモードである。
【0058】
【表1】
【0059】
普通紙とは、表面加工が施されていない、または塗工層の設けられていない紙、専用紙とは、紙の表面にコーティングを施した紙、光沢紙とは、紙の表面にコーティングを施したものであって光沢のある紙、マット紙とは、紙の表面にコーティングを施したものであって艶消しされた紙をいう。
光沢フィルムとは、合成樹脂のフィルムからなり、表面に光沢があるが不透明なフィルム、OHPシートとは、合成樹脂のフィルムからなり、表面に光沢があって透明なフィルム、シール用紙とは、紙と合成樹脂とが貼り合わされたものをいう。
【0060】
ここで、記録媒体150の比誘電率が高い場合、例えば合成樹脂のフィルムを含むような場合は、記録媒体150が大きな電荷を蓄積するので、電界の作用により記録部110の構造物に引き付けられやすくなる。また、記録媒体150の曲げ剛性が低い場合は、記録媒体150に対する電界の作用が小さくても容易に曲がる。
このように、搬送中に記録媒体150が大きく曲げられるケースでは、記録媒体150の先端を排出駆動ローラ245/排出従動ローラ244間にうまく導くことが困難となり、搬送不良(ジャム)を生じやすくなる。本実施形態に係るエアロゾル収集機構300の制御モード選択は、上述のような、記録媒体の種類と電界による搬送不良との関係に鑑みて設定されたものである。
【0061】
具体的には、合成樹脂を含む光沢フィルム、OHPシートおよびシール用紙については、その電荷の蓄積のしやすさ、曲げ剛性によって、モードBまたはモードCを選択する。より具体的には、電荷が蓄積し易く、曲げ剛性が低い場合には、モードCを選択するのが好ましい。
【0062】
モードAの場合、記録部110の図1に示した給送部210を動作させて、記録媒体150の取り込みを開始する(ステップS106)。
以下に、図7および図8を参照してモードAの説明をする。モードAは、ステップS106,S107,S108,S109,S110,S111,S112を含む。
記録媒体150の取り込みが開始されると、液体収集動作制御部264を介して、電圧源270による電圧印加が開始される(ステップS107)。ここで、エアロゾルが発生する記録動作に先立って電圧印加が開始されるのは、電界形成のために印加する高電圧が安定するまでに時間が係る場合があるからである。また、上記の説明では、ステップS107における動作を「電圧印加を開始」と記載したが、既に電圧印加が開始されていた場合は、電圧印加を継続することを意味する。
【0063】
さらに、電圧印加の開始に引き続いて、印加を開始された電圧が安定して、電界の作用によるエアロゾル収集が有効になると、記録部110における記録媒体150に対するインク噴射が開始される(ステップS108)。
インク噴射を伴う記録動作は、記録すべき画像の情報が残っている間は継続される(ステップS109)。一方、記録すべき画像の情報がなくなると、制御部260は記録動作制御部262を介してインク噴射が終了される(ステップS110)。
【0064】
ただし、インク噴射が終了して新規なエアロゾルが発生しなくなった後も、電圧印加は所定期間Tが経過するまで継続される(ステップS111)。これは、記録動作において図5で示したノズルプレート252の近傍で発生したエアロゾルが吸収部材236に到達するまでに一定の時間がかかるからである。こうして、エアロゾルが吸収部材236まで到達し得る所定期間Tが経過すると、電圧源270による電圧印加も停止される(ステップS112)。こうして、記録部110の記録動作および液体収集動作制御に係る制御部260の一連の制御が完了する。ここで、所定期間Tは0秒であってもよい。
【0065】
以下に、図9および図10を用いてモードAにおける電圧印加の開始および停止の制御をさらに詳しく説明する。
図9は、図7に示した記録部110の各部における動作期間の開始および終了のタイミングを示す図である。
図10は液体噴射ヘッド256およびプラテン230付近の概略断面図である。図10(a)は、電圧印加開始のタイミングを示す図である。図10(b)は、電圧印加停止のタイミングを示す図である。二点鎖線Uは最上流にある開口254の位置を示し、二点鎖線Lは最下流にある開口254の位置を示している。
図10において、記録媒体150は搬送従動ローラ224と搬送駆動ローラ225によってプラテン230へと送り込まれる。送り込まれた記録媒体150は、排出従動ローラ244と排出駆動ローラ245とによって排出される。
【0066】
図9において、当初は印刷指示を待って待機状態にあった記録部110は、印刷指示を受けて(ステップS101)、記録情報の獲得を開始する(ステップS102に対応)。続いて、一定量の記録動作を実行できる記録情報が獲得されると、獲得した媒体種の情報に応じた制御モードを選択する(ステップS105に対応)。
【0067】
記録情報の獲得と並行して記録媒体150の取り込みおよび搬送が開始される(ステップS106)。さらに、取り込まれた記録媒体150に対するインク噴射が開始される時点で印加電圧が安定するように、インク噴射に先立って電圧の印加が開始される(ステップS107)。
図10(a)において、電圧印加は、記録媒体150の取り込みおよび搬送が開始されてから行うことができるが、搬送従動ローラ224に接触した後、記録媒体150の先端が最上流ノズル位置である二点鎖線Uの位置に到達するまでに行うのが好ましい(ステップS107)。記録媒体150の先端が最上流にある開口254の位置である二点鎖線Uの位置に到達した後、インク噴射が開始される(ステップS108)。
二点鎖線Uの位置は、開口254からインク滴317が記録媒体150に噴射される位置であって最上流の位置である。
【0068】
また、記録媒体150に対するインクの噴射が終了した後も電圧印加は継続され、所定期間Tが経過すると電圧印加が停止される(ステップS111)。
図10(b)において、電圧の印加の停止は、記録媒体150の後端が最下流ノズル位置である二点鎖線Lの位置を通過した後行う(ステップS112)。
二点鎖線Lの位置は、開口254からインク滴317が記録媒体150に噴射される位置であって、最下流の位置である。
【0069】
なお、インクの噴射が終了して画像の記録された記録媒体150が記録部110から排出されると、記録動作が完了したものと看做されて、上記所定期間Tが経過していないにもかかわらず記録読取複合機100の電源スイッチが遮断される場合がある。しかしながら、インク噴射が終了してから、最後に噴射されたインクから発生したエアロゾルが吸収部材236に到達して吸収されるまでには時間がかかる。したがって、電源スイッチが遮断されても、所定期間Tが経過するまでは、電圧印加を維持することが好ましい。
【0070】
図8において、ステップS105でモードA以外のときは、ステップS120に進む。
ステップS120では、液体収集を実行ステップへ移行すべきか否かを判断して、判断結果をフラグに示す(ステップS121またはステップS122)。
ここで獲得されている記録媒体150の情報は、記録媒体150の比誘電率あるいは曲げ剛性等の特性値に基づくものではなく、情報処理装置510から提供された記録媒体150の種類を直接に表示する情報である。したがって、記録部110は、獲得した記録媒体150の種類情報から直接に、液体収集を実行ステップへ移行すべきか否かを判断して(ステップS120)、判断結果をフラグに示す(モードBではステップS121、モードCではステップS122)。
【0071】
以下モードBについて詳しく説明する。モードBは、ステップS121,S123,S124,S125,S126,S127,S109,S110,S111,S112を含む。
図11は液体噴射ヘッド256およびプラテン230付近の概略断面図である。図11(a)は、電圧印加開始のタイミングを示す図である。図11(b)は、電圧印加停止のタイミングを示す図である。図面内の符号の内容は、図10と同様である。
【0072】
ステップS120の後、印刷媒体の取り込みを行い(ステップS123)、インク噴射を開始する(ステップS124)。
記録部110は、フラグの状態を維持したまま、液体収集のための電圧印加を開始すべきタイミングの到来を待ち(ステップS125)、当該タイミングが到来した場合はフラグを参照する(ステップS126)。電圧印加を開始すべきタイミングにフラグがONである場合は電圧印加を開始して(ステップS127)、液体収集を実行する。
【0073】
図11(a)において、電圧印加は、記録媒体150の先端が排出従動ローラ244の位置に到達した後に行う。この場合、記録媒体150は電界の影響により曲げの力を受けることになるが、記録媒体150の先端が排出駆動ローラ245と排出従動ローラ244とにニップされた後のことなので、ジャムを生じる危険性はない。
その後、記録動作を継続し(ステップS109)、図11(b)に示すように、インク噴射終了後(ステップS110)、電圧印加の停止は、記録媒体150の後端が最下流開口位置である二点鎖線Lの位置を通過した後行う(ステップS112)。
【0074】
ステップS126で、電圧印加を開始すべきタイミングにフラグがOFFである場合は電圧印加(ステップS127)を行わず、記録動作を継続する(ステップS109)。このモードがモードCになる。
モードCでは、電圧が印加されていないので、ステップS111およびステップS112の動作は事実上行われない。
【0075】
以下に、ステップS109の記録動作継続における付加的な制御を説明する。
図12は、制御部260による図8に示した手順のうち、ステップS109の記録動作継続における付加的な制御の手順を示す流れ図である。
図12に示すように、ステップS109において記録動作が継続している間も、制御部260は、図1で示した記録読取複合機100の上ケース122が閉じているかどうかを監視している(ステップS201)。
【0076】
ここで、何らかの理由で上ケース122が開かれた場合(ステップS201:NO)、制御部260は、記録動作を停止させると共に、電圧源270により電圧が印加されている場合はこれを停止する(ステップS203)。これにより、上ケース122が開いて記録ヘッドが露出した状態で記録動作が実行されることが防止される。また、電圧源270により電圧を印加された部材が露出されることも防止され、感電等を未然に防止できる。
【0077】
また、制御部260は、記録部110の内部における侵入物の存在も監視している(ステップS202)。記録部110内に侵入物があることが検出された場合(ステップS202:NO)、制御部260は、記録動作を停止させると共に、電圧源270により電圧が印加されている場合はこれを停止する(ステップS203)。
【0078】
上ケース122が閉じられ、侵入物が取り除かれると(ステップS204:YES、ステップS205:YES)、記録動作を再開する(ステップS206)。
ケースが閉じられず(ステップS204:NO)、侵入物が取り除かれない限り(ステップS205:NO)記録動作は再開されない。
【0079】
このような本実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)液体収集動作制御部264によって電圧源270の電圧印加を制御することにより、必要に応じて液体の収集機能を有効にでき、消費電力を抑制できると共に、高電圧を印加する期間も制御できるので、記録部110の安全性の向上にも寄与できる。また、必要に応じてサテライトインク315およびインク滴317の収集機能が有効にできるので、サテライトインク315およびインク滴317による汚染や記録媒体150の搬送不良を最小限に抑えた記録部110を得ることができる。
【0080】
(2)記録媒体150に関する情報により、電圧印加の開始および停止に係る制御モードが選択されるので、記録媒体150に応じてより適切に前述の効果を達成できる。
【0081】
(3)サテライトインク315およびインク滴317が噴射されない期間は電圧印加を停止するので、消費電力を抑制できると共に、高電圧を印加する期間が限定的なので、記録部110の安全性の向上にも寄与できる。また、サテライトインク315およびインク滴317が噴射される前に有効な電界が形成されるので、効果的にサテライトインク315およびインク滴317を収集できる。
【0082】
(4)排出従動ローラ244によって記録媒体150が挟まれ、その位置が安定した後に電圧が印加されるので、記録媒体150が帯電しやすい特性を有する場合であっても、電界により記録媒体150が吸収部材236に引き付けられて汚染され、あるいは、搬送経路からはずれて搬送不良を生じることを低減できる。
【0083】
(5)電圧が印加されたまま電極310等が露出することを防止でき、記録部110の安全性が向上される。
また、動作中の記録部110に侵入物があった場合、正常な記録動作を実行できないばかりではなく、記録動作を継続すると記録部110が損傷を受ける場合がある。また、電圧源270により電圧が印加されている場合は、侵入物によりノズルプレート252および電極310が短絡する場合もある。さらに、ユーザの手等が差し入れられた場合は、感電する場合もあり得る。したがって、侵入物を検出した場合に記録動作および電圧印加を停止することにより、これらの障害を未然に防止できる。
【0084】
(6)侵入物による短絡あるいは侵入物を取り除こうとした場合に発生し得る感電を防止でき、記録部110の安全性を向上できる。
【0085】
(7)この手順を実行できる記録部110では、記録読取複合機100の側に記録媒体150の特性値を検出する手段を設けなくてもよい。したがって、記録読取複合機100の構造を簡素化できる。
また、フラグの状態を保持して、電圧印加を何らかの理由で中断または断続させた場合に、フラグを参照するだけで適切な電圧印加を再開させることができる。
【0086】
(8)液体噴射ヘッドから噴射された後にエアロゾル化して浮遊する液滴まで収集できるので、エアロゾルによる汚染を最小限にとどめることができる。
また、記録動作の直後に液体噴射装置の電源が遮断された場合も、エアロゾル化して浮遊する液滴を収集するので、エアロゾルによる汚染を最小限にとどめることができる。
【0087】
なお、モードA、モードB、モードCのうち少なくとも2つのモードを含んでいればよく、モードの数は4つ以上でもよい。
また、ステップS103およびステップS104はなくてもよい。
【0088】
なお、上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。
例えば、上記の実施の形態では、記録媒体150の特性値として、記録媒体150の比誘電率または曲げ剛性を選択した場合について説明したが、他の特性値を指標にして電圧源270を制御することもできる。また、多くの種類の特性値を同時に勘案して電圧源270を制御することもできる。
【0089】
また、上記の実施形態では、制御部260は電圧印加を開始または停止するように制御したが、印加電圧を複数段階に切り替えるようにしてもよい。即ち、例えば記録媒体150の曲げ剛性を3種類に分類し、その種類に応じて高電圧印加、低電圧印加、停止を選択するようにしてもよい。また、記録媒体150の比誘電率、曲げ剛性等の特性値をその都度測定し、それに応じて適切な電圧を印加するようにしてもよい。
【0090】
さらに、上記のような一連の動作において、電極310に対して電圧が印加されている期間は、記録読取複合機100の操作パネル130において、表示パネル132またはパイロットランプ136により、エアロゾル収集機構300が動作して電極310に電圧を印加している旨を表示させることも好ましい。これにより、ユーザに対して電圧印加中の電極に対する注意を促すことができる。
このように、エアロゾルの収集に有効な期間を選択して電圧を印加することにより、液体収集に係る電力消費を低減することができる。また、稼働時間を短縮することにより、電圧源270の寿命を長くすることができる。さらに、電圧印加をする期間を低減することにより、感電等の発生機会を低減させることもできる。
【0091】
また、液体噴射装置の一例として、記録読取複合機100の記録部110として実装されたインクジェット式記録装置を例に挙げて説明したが、液体噴射装置としては、液体噴射ヘッドとして色材噴射ヘッドを備えた液晶ディスプレイのカラーフィルタ製造装置、液体噴射ヘッドとして電極材(電導ペースト)噴射ヘッドを備えた有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成装置、液体噴射ヘッドとして生体有機物噴射ヘッドおよび精密ピペットを備えたバイオチップ製造装置等を例示できる。また、被記録物とは、液体噴射ヘッドから噴射された液体を付着され得るものを一般に指し、記録媒体の他に、回路基板、円板形光記録媒体、プレパラート等も含まれる。
【0092】
さらに、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加え得ることは当業者に明らかである。また、その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0093】
110…液体噴射装置としての記録部、150…被記録物としての記録媒体、224…給紙ローラとしての搬送従動ローラ、236,238…吸収部材、244…排紙ローラとしての排出従動ローラ、252…ノズルプレート、254…開口、256…液体噴射ヘッド、264…液体収集制御部としての液体収集動作制御部、270…電位差発生手段としての電圧源、310…電極、311…液体としてのインク、315…液体としてのサテライトインク、317…液体としてのインク滴。
【技術分野】
【0001】
本発明は液体噴射装置に関する。より詳細には、液体噴射ヘッドに装着されたノズルプレートの開口から噴射した液体を被記録物に付着させる液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置において、被記録物の周縁部に余白を残すことなく液体を付着させる場合、被記録物および液体噴射ヘッドの間の不可避な位置ずれを見込んで、被記録物の寸法よりも僅かに広い領域に対して液体を噴射させる。このため、被記録物の両側縁部および前後縁部の近傍では、被記録物の存在しない領域に対しても液体が噴射される。そこで、被記録物よりも遠方において液体噴射ヘッドに対向する位置に吸収部材を配置して、噴射されながら被記録物に付着しなかった液体を吸収させる。これにより、被記録物に付着しなかった液体による周囲の汚染が防止される。
【0003】
ところで、被記録物に液体が付着すると、その部分が伸びて被記録物に皺を生じる場合がある。この皺が吸収部材に接触すると、吸収部材にすでに吸収されていた液体が被記録物を汚染する。そこで、多くの液体噴射装置では、被記録物の皺の高さを見込んで、被記録物および吸収部材の間に2〜4mm程度の間隙が設けられる。また、同様に接触による汚染を防止する目的で、ノズルプレートおよび被記録物の間にも1mm程度の間隔がとられている。したがって、ノズルプレートから吸収部材までの間には3〜5mm程度の間隔がある。
【0004】
一方、被記録物上で液体により形成される画像の解像度を向上させる目的で、ノズルプレートの開口から噴射される液滴は一層微細化される傾向にあり、単一の液滴に着目すると、その大きさは数pl程度までになっている。このような微細な液滴は自身の質量が非常に小さいので、ノズルプレートからいったん噴射されると、雰囲気の粘性抵抗等により運動エネルギーを急速に失う。例えば、8pl未満の液滴は、大気中で3mm程度の行程を飛翔すると速度が略ゼロになることが判っている。このように運動エネルギーを失った微細な液滴は、重力加速度による落下運動と雰囲気の粘性抵抗力とが殆どつり合い、落下し切るまでに長い時間を要する。落下するまでの間の液滴は空中に浮遊することになり、これはエアロゾルと呼ばれる。
【0005】
このようにして発生したエアロゾルは、一部は液体噴射装置の外部にまで浮遊して、周辺に付着する。また、エアロゾルの多くは液体噴射装置内の各部に付着する。プラテン等の被記録物の搬送経路にエアロゾルが付着した場合、再付着により次に搬送される被記録物が汚染される。また、液体噴射装置に搭載された電気回路、リニアスケール、ロータリエンコーダ、光学センサ等にエアロゾルが付着した場合は、装置自体の誤動作を招く場合もある。さらに、エアロゾルが付着したものにユーザが触れると、ユーザの手が汚される。
【0006】
特許文献1には、電界によりエアロゾルを能動的に収集する機能を備えた液体噴射装置が開示されている。ここに開示された液体噴射装置では、被記録物に付着しなかった液滴を付着、吸収させる目的で、ノズルプレートに対向する位置に吸収部材が配置される。また、吸収部材に隣接して一方の電極となる金属部材が配置され、液体を噴射する開口を有する金属製ノズルプレートが他方の電極とされる。
【0007】
これら電極およびノズルプレートに互いに異なる電圧が印加されると、両者の間に電界が形成される。一方、ノズルプレートから噴射される液滴は、ノズルプレートから噴射された瞬間に、いわゆる避雷針効果によりノズルプレートと同極に帯電する。したがって、エアロゾルとなり得るような微小な液滴も、電界から受けるクーロン力の作用により、減速されることなく電極に向かって飛翔し続け、自身の電荷と逆極性の電位にある電極に吸着される。さらに、電極に吸着された液滴は、電極に隣接して配置された吸収部材に毛細管現象により吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−202867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、エアロゾルが帯電していることを利用して、電界により浮遊するエアロゾルの発生を抑制できることが判っている。しかしながら、このような機能を有する液体噴射装置では、常に電圧を印加しているので、そのための技術的課題が新たに生じている。
【0010】
そのひとつとして、液体噴射装置が起動している全期間にわたって電界を発生させた場合、消費電力が徒に増加する。また、電界を画成する電極等の部材には高い電圧が印加されるので、これに触れた場合には感電する場合があり得る。さらに、高圧な電圧源は稼働時間に制限があるので、不要な電界形成は装置寿命の短縮に結びつく。
また、エアロゾル収集に利用する電界の中で記録動作をすることになるので、電界による作用が被記録物にも及び、被記録物の搬送不良を生じる場合があることが挙げられる。特に、被記録物が薄く柔軟である場合、表面処理、塗工層の形成等により被記録物の比誘電率が高い場合あるいは被記録物自体が樹脂フィルム等のように柔軟で帯電しやすい材料で形成される場合は、電界により被記録物自体が帯電して、液体噴射装置の構造物に引き寄せられる。このため、被記録物が搬送経路からずれて、いわゆる紙詰まり等の搬送不良を生じる場合がある。
さらに、他の課題として、被記録物に付着せずに浮遊していたエアロゾルは、電界により運動エネルギーを保持し続けているので、被記録物の意図しなかった領域に付着する場合がある。このような汚染は、本来は全く液体が付着しない被記録物の裏面において非常に目立つ。また、被記録物の裏面にも記録が行われる場合には、裏面の汚染も単なる美観の劣化では済まされない。このように、エアロゾルによる汚染を防止する目的で電界を形成した場合に予期せぬ別の汚染が生じる場合もある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0012】
[適用例1]
開口を有する導電性のノズルプレートを有し、前記開口から被記録物に向かって液体を噴射する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドからの液体噴射方向について前記被記録物よりも遠方に、前記ノズルプレートに対向して配置され、前記液体噴射ヘッドから噴射されながら前記被記録物に付着しなかった液体を吸収する吸収部材と、前記吸収部材に隣接して配置された電極と、前記電極に電圧を印加して前記ノズルプレートおよび前記電極の間に電位差を発生させて電界を形成して、前記液体噴射ヘッドから噴射された液体を前記電極に向かって電気的に引き付けさせる電位差発生手段と、前記電位差発生手段の電圧印加の期間を制御する液体収集制御部とを備えた液体噴射装置。
【0013】
この適用例によれば、液体収集制御部によって電位差発生手段の電圧印加を制御することにより、必要に応じて液体の収集機能が有効になり、消費電力を抑制できると共に、高電圧を印加する期間も制御されるので、液体噴射装置の安全性の向上にも寄与する。また、必要に応じて液体の収集機能が有効になるので、液体による汚染や被記録物の搬送不良を最小限に抑えられる。
【0014】
[適用例2]
上記液体噴射装置であって、前記液体収集制御部は、前記被記録物に関する情報により、少なくとも第1の制御モードまたは第2の制御モードのいずれか1つを含む制御モードから制御モードを選択し、選択された前記制御モードに従って、前記電圧印加を開始または停止する液体噴射装置。
この適用例では、被記録物に関する情報により、電圧印加の開始および停止に係る制御モードが選択されるので、被記録物に応じてより適切に前述の効果が達成される。
【0015】
[適用例3]
上記液体噴射装置であって、前記液体収集制御部は、前記被記録物が給紙ローラに接触した後、前記開口から前記液体が前記被記録物に噴射される位置に達する前に前記電圧印加を開始する液体噴射装置。
この適用例では、液体が噴射されるまでに電圧印加を行うので、確実に液体の収集機能が有効になり、液体による汚染を抑えられる。
【0016】
[適用例4]
上記液体噴射装置であって、前記液体収集制御部は、前記被記録物が排紙ローラに接触した後、前記電圧印加を開始する液体噴射装置。
この適用例では、排紙ローラによって被記録物が挟まれ、その位置が安定した後に電圧が印加されるので、被記録物が帯電しやすい特性を有する場合であっても、電界により被記録物が吸収部材に引き付けられて汚染され、あるいは、搬送経路からはずれて搬送不良を生じることが低減される。
【0017】
[適用例5]
上記液体噴射装置であって、前記液体収集制御部は、前記被記録物が前記開口から前記液体が前記被記録物に噴射される位置から外れた後に前記電圧印加を停止する液体噴射装置。
液体が噴射されない期間は電圧印加を停止するので、消費電力を抑制できると共に、高電圧を印加する期間が限定的なので、液体噴射装置の安全性の向上にも寄与する。また、液体が噴射される前に有効な電界が形成されるので、効果的に液体を収集できる。
【0018】
[適用例6]
上記液体噴射装置であって、前記液体収集制御部は、前記液体噴射装置の筐体が開かれた場合に、前記電圧印加を停止させる液体噴射装置。
この適用例では、電圧が印加されたまま電極等が露出することが防止され、液体噴射装置の安全性が向上される。
【0019】
[適用例7]
上記液体噴射装置であって、前記液体収集制御部は、前記液体噴射装置の筐体内に前記被記録物ではないものが侵入したことが検知された場合に、前記電圧印加を停止させる液体噴射装置。
この適用例では、侵入物による短絡あるいは侵入物を取り除こうとした場合に発生し得る感電を防止でき、液体噴射装置の安全性が向上される。
【0020】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。したがって、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】記録読取複合機の全体を概観する斜視図。
【図2】記録部の内部機構を抜き出して示す斜視図。
【図3】内部機構を上方から見た様子を示す平面図。
【図4】プラテンの構造を示す分解斜視図。
【図5】エアロゾル収集機構の動作を説明する模式図。
【図6】記録読取複合機を含むシステムの構造を模式的に示す図。
【図7】システムにおける制御系の構造を模式的に示す図。
【図8】システムにおける記録部の制御手順を示す流れ図。
【図9】記録部の各部における動作期間の開始および終了のタイミングを示す図。
【図10】液体噴射ヘッドおよびプラテン付近の概略断面図。
【図11】液体噴射ヘッドおよびプラテン付近の概略断面図。
【図12】記録動作継続中の制御部による付加的な制御の手順を示す流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0023】
図1は、本発明の実施形態のひとつであるインクジェット式の液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置としての記録部110を含む記録読取複合機100の外観を示す斜視図である。記録読取複合機100は、液体噴射ヘッドから液体であるインクを噴射し、被記録物としての記録媒体150に画像を記録する。
【0024】
図1において、記録読取複合機100は、記録部110と、その上に重ねられた上ケース122とを備えている。また、上ケース122は筐体になっており、その中に読取部120を備えている。
【0025】
記録部110は、下ケース112と給送部210とを備えている。下ケース112は筐体になっており、その下部にケース底部111を備えている。
給送部210は、ペーパサポート212を備え、下ケース112の後側に設けられている。また、下ケース112の前面には、前カバー114が設けられている。
【0026】
一方、上ケース122の上面には、読み取るべき原稿を載せる図示しない読取テーブルが配置され、読取テーブル上の原稿を押さえる原稿押さえを兼ねた上カバー124が設けられている。
また、上カバー124の前側に、操作パネル130を備えている。操作パネル130には、表示パネル132の他、複数の操作ボタン134、パイロットランプ136等が設けられ、記録読取複合機100をスタンドアローンで動作させる場合に、各種の指示を入力し、動作状態等を表示することができる。
【0027】
記録読取複合機100においては、上カバー124を開いて読み取りテーブルの上に載せた原稿上の画像が、その下面から読み取られる。また、ペーパサポート212に装入された記録媒体150は、記録部110の内部を前方に向かって搬送され、その途中で画像が記録される。
【0028】
図2は、図1に示した記録読取複合機100の記録部110の内部機構200を抜き出して示す斜視図である。また、図3は、同じ内部機構200を、上から見下ろした様子を示す平面図である。
図2および図3において、内部機構200は、ケース底部111と、その上に略直立するフレーム202と、フレーム202の後側に配置された給送部210と、フレーム202の前側に順次配置された搬送部220、プラテン230および排出部240とを備えている。
【0029】
給送部210は、縦に装入された記録媒体150の背面を支持するペーパサポート212と、記録媒体150の右側の側端部を位置決めするサイドサポート214と、記録媒体150の左側の側端部に当接して記録媒体150の傾きを防止するスライドサポート216とを備えている。スライドサポート216は、ペーパサポート212の表面で水平に移動させることができ、幅が異なる記録媒体150が装入された場合も、記録媒体150の側端部に当接させることができる。給送部210はさらに、フレーム202に隠れた給送ローラ等を備え、記録部110が記録動作する場合に、ペーパサポート212に装入された複数の記録媒体150を1枚ずつ内部機構200に取り込む。
【0030】
なお、内部機構200は、前面に開口した水平なペーパサポート211も備えている。このペーパサポート211は、内部機構200の前から水平に装入された記録媒体150を下方から支持する。また、ペーパサポート211に装入された記録媒体150も、給送部210を利用して搬送部220に記録媒体150を送り込むことができる。ペーパサポート211は延長部213を備え、それ自体の奥行きよりも長い記録媒体150も支持できる。
【0031】
搬送部220は、フレーム202の前側に配置され、取り込まれた記録媒体150の上面に当接して連れ回される給紙ローラとしての搬送従動ローラ224を備えている。搬送従動ローラ224の直下には、図示されていない搬送モータにより回転駆動される搬送駆動ローラが配置される。したがって、内部機構200に取り込まれた記録媒体150は、搬送従動ローラ224により搬送駆動ローラに押し付けられ、搬送駆動ローラの回転にしたがってプラテン230の上に送り込まれる。
【0032】
プラテン230は、上方に向かって突出した複数のリブ234を備えている。リブ234は、送り込まれた記録媒体150の下面にその先端を当接させ、記録媒体150の高さ方向の位置決めをする。プラテン230の上方を通り過ぎた記録媒体150は、やがて排出部240に到達する。
【0033】
排出部240は、プラテン230の前側に配置され、プラテン230上を通過して送り込まれた記録媒体150に対して、その上面に当接して連れ回される排出従動ローラ244を備えている。排紙ローラとしての排出従動ローラ244の直下には、図示されていない回転伝達機構を介して搬送モータにより回転駆動された排出駆動ローラが配置される。記録媒体150は、排出従動ローラ244により搬送駆動ローラに押し付けられ、排出駆動ローラの回転に従って記録媒体150を記録部110の前に送り出す。排出部240の前側には、排出トレイ248が配置され、排出された記録媒体150は排出トレイ248の上に蓄積される。
【0034】
さらに、この内部機構200は、プラテン230の上方で往復移動するキャリッジ250を備えている。キャリッジ250は、フレーム202の前側に設けられた主走査方向に延びる図示しない案内部材に沿って、主走査方向に水平に移動できるように装着されている。また、フレーム202の前側には、一対のプーリ251の間に張り渡されたタイミングベルト253が配置されている。さらに、キャリッジ250は、その背面においてタイミングベルト253に連結されている。
【0035】
一方、プーリ251の一方はキャリッジモータ255により回転駆動されるので、キャリッジ250は、タイミングベルト253の変位にしたがって移動する。したがって、キャリッジモータ255の動作と回転方向を制御することにより、キャリッジ250を、プラテン230上で任意の領域の上方に移動させることができる。また、キャリッジ250は、その下面に、図示しない液体噴射ヘッドを備えている。
【0036】
以上のような構造を有する内部機構200を備えた記録読取複合機100においては、前側のペーパサポート211または後方のペーパサポート212に装入された記録媒体150が、給送部210により1枚ずつ搬送部220に取り込まれる。搬送部220に取り込まれた記録媒体150は、プラテン230の上方を通過して排出部240に到達し、排出部240により内部機構200の外部に送り出される。
【0037】
また、記録媒体150がプラテン230の上に存在しているとき、キャリッジ250はプラテン230上を往復移動しつつ、下に向かって液体噴射ヘッドからインクを噴射する。したがって、記録媒体150表面の任意の領域に対してインクを噴射して付着させることができる。さらに、記録媒体150を1行分ずつ間欠的に搬送する一方、搬送が中断している期間にキャリッジ250を往復移動させることにより、記録媒体150の表面全体の所望の領域に画像を記録できる。
【0038】
なお、フレーム202の後側には、上記のような一連の記録動作を制御する制御部260が搭載される。制御部260は、この記録読取複合機100に接続された情報処理装置等を介して入力された指示、あるいは、操作パネル130から入力された指示に基づき、記録部110が適切な動作をするように制御する。また、制御部260は、この記録部110が記録する画像情報を受け取るインターフェースでもある。制御部260が受け取る画像情報は、当該画像を表す情報の他に、記録画像の解像度、色数等の記録品質、寸法、材質等の被記録物に関する情報も含む場合がある。
【0039】
図4は、内部機構200におけるプラテン230の詳細な構造を示す分解斜視図である。図中には、液体噴射ヘッド256、制御部260および制御部260によって制御される電位差発生手段としての電圧源270を合わせて簡略化して示している。ここで、液体噴射ヘッド256は、開口254を有するノズルプレート252を備えている。開口254からインクが噴射される。
図4において、プラテン230は、プラテン本体232と、プラテン本体232に収容された電極310および吸収部材236,238とを備えている。
【0040】
プラテン本体232は樹脂材料により一体成形され、その上面から上に向かって突出した複数のリブ234と、上面から陥没して、底部231および側壁部233を含んで形成された幅の広い収容部235と、リブ234の形成された領域の側に形成された幅の狭い収容部237とを備えている。プラテン230の上を図1および図2に示した記録媒体150が通過する場合は、リブ234の上端が記録媒体150の下面に当接して、記録媒体150の高さ方向の位置決めがされる。
【0041】
吸収部材236,238は、収容部235,237内を充填する寸法と形状を有している。吸収部材236,238は、その表面における液体の吸収速度を重視して材料が選択されている。ここで、吸収部材236,238が保持できるインクの量には限りがあるため、これらの吸収部材236,238よりもインク吸収容量が大きな図示しない廃液吸収部材が、プラテン230の下方に別途配置されている。
【0042】
さらに、このプラテン230は、幅の広い収容部235の内部において、吸収部材236の下に配置される電極310を備えている。電極310は、収容部235の底部231を概ね覆うように配置されている。また、電極310の一端には、収容部235の側壁部233を乗り越えて外部に延在する連結部312と、プラテン230の外側に露出する端子部314とが一体に形成されている。この端子部314を介して、制御部260の制御の下に動作する電圧源270の一端に接続することにより、電極310に電圧を印加することができる。電圧源270の他端は、液体噴射ヘッド256に装備されたノズルプレート252に接続されている。これにより、ノズルプレート252および電極310の間に電位差を生じさせ、電界を形成させることができる。
【0043】
なお、上記の吸収部材236,238の材料としては、ポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂材料を発泡させたものを好ましく例示できる。また、吸収部材236を電極310と同電位とすることを目的として、表面抵抗が108Ω以下となるような導電性の材料により形成することも好ましい。このような材料としては、ポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂に金属、炭素等の導電性材料を混入した上で発泡させたもの、ポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂発泡材に金属、炭素等の導電性材料を付着させたもの、または、メッキしたもの等を例示できる。また、ポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂発泡材に電解質溶液を含浸させたものを用いることもできる。
【0044】
一方、電極310の材料としては、インクに対して耐食性のある金属、例えば金、ステンレスまたはニッケルの線材、板材または箔材、あるいは、これらの金属でメッキした線材、板材または箔材、若しくは、これらの材料を組み合わせた網状または格子状の部材で形成できる。また、他の態様として、プラテン230の収容部235の底部231に直接形成した導電性の塗膜層、メッキ層、厚膜層、薄膜層等を電極310として使用することもできる。
【0045】
図5は、プラテン230、ノズルプレート252、制御部260および電圧源270によって構成されるエアロゾル収集機構300の構造と動作を説明する模式図である。
図5において、ノズルプレート252は例えば金属製で、導電性を有する。ノズルプレート252は、電圧源270の負極に接続されている。一方、電圧源270の正極は、プラテン230に収容された電極310に接続されている。電極310に重ねてプラテン230に収容された吸収部材236は導電性を有し、吸収部材236全体が電極310と同じ電位になる。したがって、電圧源270の発生した電位差による電界Eが、ノズルプレート252の下面と吸収部材236の表面との間に形成される。なお、全ての極性を反転させて接続しても同様の機能が実現できる。
【0046】
ノズルプレート252は液体噴射ヘッド256の下面に装着されている。記録動作においては、開口254を通じてインク311を下に噴射する。ここで、開口254の直下にプラテン230に支持された記録媒体150が存在している場合は、噴射されたインク311が記録媒体150の上面に付着して画像319を形成する。一方、記録媒体150の縁部に余白を設けずにインク311を付着させようとした場合、記録媒体150の側縁部並びに先端および後端において、一部の開口254の直下に記録媒体150が存在しない場合がある。このような場合、インク311はノズルプレート252から噴射されながら、記録媒体150に付着することなく飛翔する。
【0047】
開口254から噴射されながら記録媒体150に付着しなかったインク滴317の運動エネルギーは、雰囲気の粘性抵抗により急速に失われる。このため、一部のインク滴317は、吸収部材236に到達する遥か前にその運動エネルギーを失う。ここで、インク滴317の質量は非常に小さいので、運動エネルギーを失うと、重力加速度による落下運動と雰囲気による粘性抵抗力とが殆どつり合い、以降の落下速度が極めて遅くなる。このようにして、ノズルプレート252の下方に浮遊するエアロゾルが発生する。また、インク滴317の一部がちぎれて一段と微細なインク滴であるサテライトインク315が生じる場合があり、これもエアロゾルとなる。
【0048】
しかしながら、このエアロゾル収集機構300では、吸収部材236の表面とノズルプレート252の下面との間に電界Eが形成されている。したがって、電荷qを有するインク滴317は、電界Eから受けるクーロン力Fe(qE)により運動エネルギーを得、減速されることなく下に移動して吸収部材236に到達する。
【0049】
なお、開口254から押し出されるインク311は、ノズルプレート252から離脱してインク滴317となる直前の瞬間に、ノズルプレート252から下垂するインク柱313を形成する。このとき、インク柱313の先端Aとノズルプレート252の下面におけるインク柱313付近の領域Bとの間に、いわゆる避雷針効果により電荷が蓄積される。この避雷針効果により、インク滴317は、インク柱313の水平断面積に対応する電荷よりも大きな電荷qで帯電する。なお、避雷針効果は、インク柱313の先端Aを頂点とする頂角50°から60°の円錐形で包囲されるノズルプレート252表面の領域Bがインク滴317の帯電に寄与する現象をいう。これにより、インク滴317はより大きなクーロン力を受け、電界E内を吸収部材236まで飛翔する。
【0050】
図6は、上記のような手順で動作を制御する図5に示した制御部260を備えた記録部110を含む記録読取複合機100を稼働させる場合のシステムの構造を模式的に示す図である。
図6において、このシステム500において、記録読取複合機100の図5に示した制御部260は、ホスト装置としての情報処理装置510に接続されている。情報処理装置510は、ユーザからの入力手段であるキーボード512およびマウス514と、ユーザに対して画像を表示する表示装置520とを備えている。
【0051】
また、情報処理装置510は、記録媒体150に対して情報を読み書きするディスクドライブ516、外部と通信することにより情報をやりとりできる図示しない通信回線も備えている。したがって、情報処理装置510は、自身の内部で作成された画像情報の他、ディスクドライブ516に装入した記録媒体、通信回線等を介して、記録部110に記録させるべき画像情報を調製することができる。また、記録読取複合機100を制御するプログラムを外部から獲得してインストールすることもできる。
【0052】
図7は、図6に示したシステム500における制御系600の構造を模式的に示す図である。
図7において、記録部110に実装された制御部260は、記録部110における記録動作を制御する記録動作制御部262と、エアロゾル収集機構300における電圧源270の動作を制御する液体収集制御部としての液体収集動作制御部264とを含む。
【0053】
したがって、記録部110における記録動作は、制御部260が、ホスト装置である情報処理装置510から受けた指示に従って、記録動作制御部262の制御の下に記録部110において実行される。また、電圧源270は、液体収集動作制御部264の制御の下に記録動作制御部262と協働して、電圧源270による電圧印加の開始または停止を制御する。
【0054】
図8は、制御部260がエアロゾル収集機構300の動作を制御する場合の手順を示す流れ図である。
図7および図8において、動作を開始した制御部260は、外部に接続された情報処理装置510等のホスト装置からの印刷指示を待つ(ステップS101)。
印刷指示を受けた場合、まず、記録媒体150に印刷すべき記録情報を獲得する(ステップS102)。なお、記録情報には、印刷する画像情報の他、印刷解像度、記録媒体150の寸法、記録媒体150に関する媒体種等の情報が含まれる。
【0055】
次に、記録部110に、記録動作の対象となる記録媒体150が装入されているかどうかが検査される(ステップS103)。記録媒体150が装入されていない場合(ステップS103:NO)は、記録媒体150を補充すべき旨のメッセージ「記録媒体補充」を表示して(ステップS104)記録媒体150の補充を待つ。一方、記録媒体150がすでに装入されている場合(ステップS103:YES)は、次のステップへ進む。
【0056】
なお、媒体種に関する情報は、記録部110に、装入された記録媒体150の媒体種を判定する判定手段から獲得してもよい。媒体種は、記録媒体150の比誘電率、曲げ剛性、光学的に表面の光沢や光の反射率等を測定することによって判定できる。この場合、判定は、記録媒体150が装入された後であるステップS103の後に行う。
【0057】
次に、ステップS105において、獲得した媒体種の情報に応じた制御モードを選択する。実施形態では、制御モードとして、第1の制御モードであるモードA、第2の制御モードであるモードB、その他の制御モードであるモードCを備えている。表1に媒体種と対応するモードとの関係を示した。
モードAおよびモードBは、電圧印加を行い、その期間を制御するモードであり、モードCは電圧印加を行わないモードである。
【0058】
【表1】
【0059】
普通紙とは、表面加工が施されていない、または塗工層の設けられていない紙、専用紙とは、紙の表面にコーティングを施した紙、光沢紙とは、紙の表面にコーティングを施したものであって光沢のある紙、マット紙とは、紙の表面にコーティングを施したものであって艶消しされた紙をいう。
光沢フィルムとは、合成樹脂のフィルムからなり、表面に光沢があるが不透明なフィルム、OHPシートとは、合成樹脂のフィルムからなり、表面に光沢があって透明なフィルム、シール用紙とは、紙と合成樹脂とが貼り合わされたものをいう。
【0060】
ここで、記録媒体150の比誘電率が高い場合、例えば合成樹脂のフィルムを含むような場合は、記録媒体150が大きな電荷を蓄積するので、電界の作用により記録部110の構造物に引き付けられやすくなる。また、記録媒体150の曲げ剛性が低い場合は、記録媒体150に対する電界の作用が小さくても容易に曲がる。
このように、搬送中に記録媒体150が大きく曲げられるケースでは、記録媒体150の先端を排出駆動ローラ245/排出従動ローラ244間にうまく導くことが困難となり、搬送不良(ジャム)を生じやすくなる。本実施形態に係るエアロゾル収集機構300の制御モード選択は、上述のような、記録媒体の種類と電界による搬送不良との関係に鑑みて設定されたものである。
【0061】
具体的には、合成樹脂を含む光沢フィルム、OHPシートおよびシール用紙については、その電荷の蓄積のしやすさ、曲げ剛性によって、モードBまたはモードCを選択する。より具体的には、電荷が蓄積し易く、曲げ剛性が低い場合には、モードCを選択するのが好ましい。
【0062】
モードAの場合、記録部110の図1に示した給送部210を動作させて、記録媒体150の取り込みを開始する(ステップS106)。
以下に、図7および図8を参照してモードAの説明をする。モードAは、ステップS106,S107,S108,S109,S110,S111,S112を含む。
記録媒体150の取り込みが開始されると、液体収集動作制御部264を介して、電圧源270による電圧印加が開始される(ステップS107)。ここで、エアロゾルが発生する記録動作に先立って電圧印加が開始されるのは、電界形成のために印加する高電圧が安定するまでに時間が係る場合があるからである。また、上記の説明では、ステップS107における動作を「電圧印加を開始」と記載したが、既に電圧印加が開始されていた場合は、電圧印加を継続することを意味する。
【0063】
さらに、電圧印加の開始に引き続いて、印加を開始された電圧が安定して、電界の作用によるエアロゾル収集が有効になると、記録部110における記録媒体150に対するインク噴射が開始される(ステップS108)。
インク噴射を伴う記録動作は、記録すべき画像の情報が残っている間は継続される(ステップS109)。一方、記録すべき画像の情報がなくなると、制御部260は記録動作制御部262を介してインク噴射が終了される(ステップS110)。
【0064】
ただし、インク噴射が終了して新規なエアロゾルが発生しなくなった後も、電圧印加は所定期間Tが経過するまで継続される(ステップS111)。これは、記録動作において図5で示したノズルプレート252の近傍で発生したエアロゾルが吸収部材236に到達するまでに一定の時間がかかるからである。こうして、エアロゾルが吸収部材236まで到達し得る所定期間Tが経過すると、電圧源270による電圧印加も停止される(ステップS112)。こうして、記録部110の記録動作および液体収集動作制御に係る制御部260の一連の制御が完了する。ここで、所定期間Tは0秒であってもよい。
【0065】
以下に、図9および図10を用いてモードAにおける電圧印加の開始および停止の制御をさらに詳しく説明する。
図9は、図7に示した記録部110の各部における動作期間の開始および終了のタイミングを示す図である。
図10は液体噴射ヘッド256およびプラテン230付近の概略断面図である。図10(a)は、電圧印加開始のタイミングを示す図である。図10(b)は、電圧印加停止のタイミングを示す図である。二点鎖線Uは最上流にある開口254の位置を示し、二点鎖線Lは最下流にある開口254の位置を示している。
図10において、記録媒体150は搬送従動ローラ224と搬送駆動ローラ225によってプラテン230へと送り込まれる。送り込まれた記録媒体150は、排出従動ローラ244と排出駆動ローラ245とによって排出される。
【0066】
図9において、当初は印刷指示を待って待機状態にあった記録部110は、印刷指示を受けて(ステップS101)、記録情報の獲得を開始する(ステップS102に対応)。続いて、一定量の記録動作を実行できる記録情報が獲得されると、獲得した媒体種の情報に応じた制御モードを選択する(ステップS105に対応)。
【0067】
記録情報の獲得と並行して記録媒体150の取り込みおよび搬送が開始される(ステップS106)。さらに、取り込まれた記録媒体150に対するインク噴射が開始される時点で印加電圧が安定するように、インク噴射に先立って電圧の印加が開始される(ステップS107)。
図10(a)において、電圧印加は、記録媒体150の取り込みおよび搬送が開始されてから行うことができるが、搬送従動ローラ224に接触した後、記録媒体150の先端が最上流ノズル位置である二点鎖線Uの位置に到達するまでに行うのが好ましい(ステップS107)。記録媒体150の先端が最上流にある開口254の位置である二点鎖線Uの位置に到達した後、インク噴射が開始される(ステップS108)。
二点鎖線Uの位置は、開口254からインク滴317が記録媒体150に噴射される位置であって最上流の位置である。
【0068】
また、記録媒体150に対するインクの噴射が終了した後も電圧印加は継続され、所定期間Tが経過すると電圧印加が停止される(ステップS111)。
図10(b)において、電圧の印加の停止は、記録媒体150の後端が最下流ノズル位置である二点鎖線Lの位置を通過した後行う(ステップS112)。
二点鎖線Lの位置は、開口254からインク滴317が記録媒体150に噴射される位置であって、最下流の位置である。
【0069】
なお、インクの噴射が終了して画像の記録された記録媒体150が記録部110から排出されると、記録動作が完了したものと看做されて、上記所定期間Tが経過していないにもかかわらず記録読取複合機100の電源スイッチが遮断される場合がある。しかしながら、インク噴射が終了してから、最後に噴射されたインクから発生したエアロゾルが吸収部材236に到達して吸収されるまでには時間がかかる。したがって、電源スイッチが遮断されても、所定期間Tが経過するまでは、電圧印加を維持することが好ましい。
【0070】
図8において、ステップS105でモードA以外のときは、ステップS120に進む。
ステップS120では、液体収集を実行ステップへ移行すべきか否かを判断して、判断結果をフラグに示す(ステップS121またはステップS122)。
ここで獲得されている記録媒体150の情報は、記録媒体150の比誘電率あるいは曲げ剛性等の特性値に基づくものではなく、情報処理装置510から提供された記録媒体150の種類を直接に表示する情報である。したがって、記録部110は、獲得した記録媒体150の種類情報から直接に、液体収集を実行ステップへ移行すべきか否かを判断して(ステップS120)、判断結果をフラグに示す(モードBではステップS121、モードCではステップS122)。
【0071】
以下モードBについて詳しく説明する。モードBは、ステップS121,S123,S124,S125,S126,S127,S109,S110,S111,S112を含む。
図11は液体噴射ヘッド256およびプラテン230付近の概略断面図である。図11(a)は、電圧印加開始のタイミングを示す図である。図11(b)は、電圧印加停止のタイミングを示す図である。図面内の符号の内容は、図10と同様である。
【0072】
ステップS120の後、印刷媒体の取り込みを行い(ステップS123)、インク噴射を開始する(ステップS124)。
記録部110は、フラグの状態を維持したまま、液体収集のための電圧印加を開始すべきタイミングの到来を待ち(ステップS125)、当該タイミングが到来した場合はフラグを参照する(ステップS126)。電圧印加を開始すべきタイミングにフラグがONである場合は電圧印加を開始して(ステップS127)、液体収集を実行する。
【0073】
図11(a)において、電圧印加は、記録媒体150の先端が排出従動ローラ244の位置に到達した後に行う。この場合、記録媒体150は電界の影響により曲げの力を受けることになるが、記録媒体150の先端が排出駆動ローラ245と排出従動ローラ244とにニップされた後のことなので、ジャムを生じる危険性はない。
その後、記録動作を継続し(ステップS109)、図11(b)に示すように、インク噴射終了後(ステップS110)、電圧印加の停止は、記録媒体150の後端が最下流開口位置である二点鎖線Lの位置を通過した後行う(ステップS112)。
【0074】
ステップS126で、電圧印加を開始すべきタイミングにフラグがOFFである場合は電圧印加(ステップS127)を行わず、記録動作を継続する(ステップS109)。このモードがモードCになる。
モードCでは、電圧が印加されていないので、ステップS111およびステップS112の動作は事実上行われない。
【0075】
以下に、ステップS109の記録動作継続における付加的な制御を説明する。
図12は、制御部260による図8に示した手順のうち、ステップS109の記録動作継続における付加的な制御の手順を示す流れ図である。
図12に示すように、ステップS109において記録動作が継続している間も、制御部260は、図1で示した記録読取複合機100の上ケース122が閉じているかどうかを監視している(ステップS201)。
【0076】
ここで、何らかの理由で上ケース122が開かれた場合(ステップS201:NO)、制御部260は、記録動作を停止させると共に、電圧源270により電圧が印加されている場合はこれを停止する(ステップS203)。これにより、上ケース122が開いて記録ヘッドが露出した状態で記録動作が実行されることが防止される。また、電圧源270により電圧を印加された部材が露出されることも防止され、感電等を未然に防止できる。
【0077】
また、制御部260は、記録部110の内部における侵入物の存在も監視している(ステップS202)。記録部110内に侵入物があることが検出された場合(ステップS202:NO)、制御部260は、記録動作を停止させると共に、電圧源270により電圧が印加されている場合はこれを停止する(ステップS203)。
【0078】
上ケース122が閉じられ、侵入物が取り除かれると(ステップS204:YES、ステップS205:YES)、記録動作を再開する(ステップS206)。
ケースが閉じられず(ステップS204:NO)、侵入物が取り除かれない限り(ステップS205:NO)記録動作は再開されない。
【0079】
このような本実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)液体収集動作制御部264によって電圧源270の電圧印加を制御することにより、必要に応じて液体の収集機能を有効にでき、消費電力を抑制できると共に、高電圧を印加する期間も制御できるので、記録部110の安全性の向上にも寄与できる。また、必要に応じてサテライトインク315およびインク滴317の収集機能が有効にできるので、サテライトインク315およびインク滴317による汚染や記録媒体150の搬送不良を最小限に抑えた記録部110を得ることができる。
【0080】
(2)記録媒体150に関する情報により、電圧印加の開始および停止に係る制御モードが選択されるので、記録媒体150に応じてより適切に前述の効果を達成できる。
【0081】
(3)サテライトインク315およびインク滴317が噴射されない期間は電圧印加を停止するので、消費電力を抑制できると共に、高電圧を印加する期間が限定的なので、記録部110の安全性の向上にも寄与できる。また、サテライトインク315およびインク滴317が噴射される前に有効な電界が形成されるので、効果的にサテライトインク315およびインク滴317を収集できる。
【0082】
(4)排出従動ローラ244によって記録媒体150が挟まれ、その位置が安定した後に電圧が印加されるので、記録媒体150が帯電しやすい特性を有する場合であっても、電界により記録媒体150が吸収部材236に引き付けられて汚染され、あるいは、搬送経路からはずれて搬送不良を生じることを低減できる。
【0083】
(5)電圧が印加されたまま電極310等が露出することを防止でき、記録部110の安全性が向上される。
また、動作中の記録部110に侵入物があった場合、正常な記録動作を実行できないばかりではなく、記録動作を継続すると記録部110が損傷を受ける場合がある。また、電圧源270により電圧が印加されている場合は、侵入物によりノズルプレート252および電極310が短絡する場合もある。さらに、ユーザの手等が差し入れられた場合は、感電する場合もあり得る。したがって、侵入物を検出した場合に記録動作および電圧印加を停止することにより、これらの障害を未然に防止できる。
【0084】
(6)侵入物による短絡あるいは侵入物を取り除こうとした場合に発生し得る感電を防止でき、記録部110の安全性を向上できる。
【0085】
(7)この手順を実行できる記録部110では、記録読取複合機100の側に記録媒体150の特性値を検出する手段を設けなくてもよい。したがって、記録読取複合機100の構造を簡素化できる。
また、フラグの状態を保持して、電圧印加を何らかの理由で中断または断続させた場合に、フラグを参照するだけで適切な電圧印加を再開させることができる。
【0086】
(8)液体噴射ヘッドから噴射された後にエアロゾル化して浮遊する液滴まで収集できるので、エアロゾルによる汚染を最小限にとどめることができる。
また、記録動作の直後に液体噴射装置の電源が遮断された場合も、エアロゾル化して浮遊する液滴を収集するので、エアロゾルによる汚染を最小限にとどめることができる。
【0087】
なお、モードA、モードB、モードCのうち少なくとも2つのモードを含んでいればよく、モードの数は4つ以上でもよい。
また、ステップS103およびステップS104はなくてもよい。
【0088】
なお、上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。
例えば、上記の実施の形態では、記録媒体150の特性値として、記録媒体150の比誘電率または曲げ剛性を選択した場合について説明したが、他の特性値を指標にして電圧源270を制御することもできる。また、多くの種類の特性値を同時に勘案して電圧源270を制御することもできる。
【0089】
また、上記の実施形態では、制御部260は電圧印加を開始または停止するように制御したが、印加電圧を複数段階に切り替えるようにしてもよい。即ち、例えば記録媒体150の曲げ剛性を3種類に分類し、その種類に応じて高電圧印加、低電圧印加、停止を選択するようにしてもよい。また、記録媒体150の比誘電率、曲げ剛性等の特性値をその都度測定し、それに応じて適切な電圧を印加するようにしてもよい。
【0090】
さらに、上記のような一連の動作において、電極310に対して電圧が印加されている期間は、記録読取複合機100の操作パネル130において、表示パネル132またはパイロットランプ136により、エアロゾル収集機構300が動作して電極310に電圧を印加している旨を表示させることも好ましい。これにより、ユーザに対して電圧印加中の電極に対する注意を促すことができる。
このように、エアロゾルの収集に有効な期間を選択して電圧を印加することにより、液体収集に係る電力消費を低減することができる。また、稼働時間を短縮することにより、電圧源270の寿命を長くすることができる。さらに、電圧印加をする期間を低減することにより、感電等の発生機会を低減させることもできる。
【0091】
また、液体噴射装置の一例として、記録読取複合機100の記録部110として実装されたインクジェット式記録装置を例に挙げて説明したが、液体噴射装置としては、液体噴射ヘッドとして色材噴射ヘッドを備えた液晶ディスプレイのカラーフィルタ製造装置、液体噴射ヘッドとして電極材(電導ペースト)噴射ヘッドを備えた有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成装置、液体噴射ヘッドとして生体有機物噴射ヘッドおよび精密ピペットを備えたバイオチップ製造装置等を例示できる。また、被記録物とは、液体噴射ヘッドから噴射された液体を付着され得るものを一般に指し、記録媒体の他に、回路基板、円板形光記録媒体、プレパラート等も含まれる。
【0092】
さらに、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加え得ることは当業者に明らかである。また、その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0093】
110…液体噴射装置としての記録部、150…被記録物としての記録媒体、224…給紙ローラとしての搬送従動ローラ、236,238…吸収部材、244…排紙ローラとしての排出従動ローラ、252…ノズルプレート、254…開口、256…液体噴射ヘッド、264…液体収集制御部としての液体収集動作制御部、270…電位差発生手段としての電圧源、310…電極、311…液体としてのインク、315…液体としてのサテライトインク、317…液体としてのインク滴。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する導電性のノズルプレートを有し、前記開口から被記録物に向かって液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドからの液体噴射方向について前記被記録物よりも遠方に、前記ノズルプレートに対向して配置され、前記液体噴射ヘッドから噴射されながら前記被記録物に付着しなかった液体を吸収する吸収部材と、
前記吸収部材に隣接して配置された電極と、
前記電極に電圧を印加して前記ノズルプレートおよび前記電極の間に電位差を発生させて電界を形成して、前記液体噴射ヘッドから噴射された液体を前記電極に向かって電気的に引き付けさせる電位差発生手段と、
前記電位差発生手段の電圧印加の期間を制御する液体収集制御部とを備えた液体噴射装置。
【請求項2】
前記液体収集制御部は、前記被記録物に関する情報により、少なくとも第1の制御モードまたは第2の制御モードのいずれか1つを含む制御モードから制御モードを選択し、選択された前記制御モードに従って、前記電圧印加を開始または停止する請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記液体収集制御部は、前記被記録物が給紙ローラに接触した後、前記開口から前記液体が前記被記録物に噴射される位置に達する前に前記電圧印加を開始する請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記液体収集制御部は、前記被記録物が排紙ローラに接触した後、前記電圧印加を開始する請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記液体収集制御部は、前記被記録物が前記開口から前記液体が前記被記録物に噴射される位置から外れた後に前記電圧印加を停止する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記液体収集制御部は、前記液体噴射装置の筐体が開かれた場合に、前記電圧印加を停止させる請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記液体収集制御部は、前記液体噴射装置の筐体内に前記被記録物ではないものが侵入したことが検知された場合に、前記電圧印加を停止させる請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項1】
開口を有する導電性のノズルプレートを有し、前記開口から被記録物に向かって液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドからの液体噴射方向について前記被記録物よりも遠方に、前記ノズルプレートに対向して配置され、前記液体噴射ヘッドから噴射されながら前記被記録物に付着しなかった液体を吸収する吸収部材と、
前記吸収部材に隣接して配置された電極と、
前記電極に電圧を印加して前記ノズルプレートおよび前記電極の間に電位差を発生させて電界を形成して、前記液体噴射ヘッドから噴射された液体を前記電極に向かって電気的に引き付けさせる電位差発生手段と、
前記電位差発生手段の電圧印加の期間を制御する液体収集制御部とを備えた液体噴射装置。
【請求項2】
前記液体収集制御部は、前記被記録物に関する情報により、少なくとも第1の制御モードまたは第2の制御モードのいずれか1つを含む制御モードから制御モードを選択し、選択された前記制御モードに従って、前記電圧印加を開始または停止する請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記液体収集制御部は、前記被記録物が給紙ローラに接触した後、前記開口から前記液体が前記被記録物に噴射される位置に達する前に前記電圧印加を開始する請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記液体収集制御部は、前記被記録物が排紙ローラに接触した後、前記電圧印加を開始する請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記液体収集制御部は、前記被記録物が前記開口から前記液体が前記被記録物に噴射される位置から外れた後に前記電圧印加を停止する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記液体収集制御部は、前記液体噴射装置の筐体が開かれた場合に、前記電圧印加を停止させる請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記液体収集制御部は、前記液体噴射装置の筐体内に前記被記録物ではないものが侵入したことが検知された場合に、前記電圧印加を停止させる請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−106510(P2012−106510A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−41149(P2012−41149)
【出願日】平成24年2月28日(2012.2.28)
【分割の表示】特願2007−223539(P2007−223539)の分割
【原出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月28日(2012.2.28)
【分割の表示】特願2007−223539(P2007−223539)の分割
【原出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]