説明

液体噴射装置

【課題】廃液通路内に液膜(メニスカス)が形成されることを抑制することで、廃液通路
内の液体の流通を確保する。
【解決手段】噴射ヘッドから排出された液体が流れる廃液通路の内部に、通路の軸方向に
向かって螺旋構造を設けておく。こうすれば、螺旋構造があることによって廃液通路内の
液膜の形成が抑制されるので、廃液通路内に多数の液膜が形成されて閉塞した状態となる
ことはなく、廃液通路内の液体の流通を確保しておくことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルからインクなどの液体を噴射する技術に
関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるインクジェットプリンターでは、噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルから、正
確な分量のインクを紙などの噴射対象の正確な位置に噴射することによって、高画質の画
像を印刷することが可能である。また、この技術を利用して、インクに代えて、各種の機
能材料を含んだ液体を基板に向けて噴射すれば、電極や、センサー、バイオチップなどを
製造することも可能である。
【0003】
こうした液体噴射装置では、噴射ヘッド内に供給されたインクなどの液体は、噴射ノズ
ルから時間とともに水分が蒸発、あるいは成分が揮発する。すると、液体の粘度が増加し
て正確な分量の液体を噴射することができなくなってしまう。そこで、液体の増粘が進ん
だ場合には、噴射ノズルから液体を吸引して、噴射ヘッド内の増粘した液体を排出する動
作(いわゆるクリーニング)を実行する液体噴射装置が提案されている(例えば、特許文
献1)。この液体噴射装置では、廃液チューブや廃液タンクを備えており、クリーニング
によって噴射ノズルから吸い出された液体は、廃液チューブを通って下流の廃液タンクに
流入し蓄積される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−250069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、提案されている液体噴射装置では、クリーニングによって噴射ノズルから吸い
出された液体が、液体タンクに流れていかなくなることがあるという問題があった。これ
は、次のような理由によるものである。先ず、廃液チューブには、液体が常に満たされて
いるわけではなく、クリーニングが実行されることで液体が断続的に流れる。そして、液
体の流れが途絶えて廃液チューブに空気が入るようになると、チューブ内に残留する液滴
がチューブの内周に亘って膜(メニスカス)を形成することがある。このような液膜は、
1つの強度(耐圧)は小さいものであるが、チューブの軸方向に多数の液膜が間に空気層
を挟んで縞状に形成されると、全体として大きな圧力にも耐え得るようになるので、次に
液体が流れる際に大きな抵抗となる。その結果、廃液タンクに液体が流れていかなくなっ
てしまうことがある。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、
廃液チューブ内に液膜(メニスカス)が形成されることを抑制することで、廃液チューブ
内の液体の流通を確保することが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の液体噴射装置は次の構成を
採用した。すなわち、噴射ヘッドから被噴射媒体に向けて液体を噴射する液体噴射装置で
あって、前記被噴射媒体に向けて液体を噴射することなく、前記噴射ヘッド内の液体を排
出する液体排出手段と、前記液体排出手段によって前記噴射ヘッドから排出された液体が
通過する通路であり、該通路の軸方向に向かって螺旋形状に形成された螺旋構造が内部に
設けられている廃液通路とを備えることを要旨とする。
【0008】
このような本発明の液体噴射装置においては、液体排出手段が設けられており、被噴射
媒体に液体を噴射することなく、噴射ヘッド内の液体を排出することが可能となっている
。こうして排出された液体は、廃液通路を流れるようになっており、この廃液通路の内部
には、通路の軸方向に向かって螺旋構造が設けられている。
【0009】
前述したように、廃液通路では、液体の流れが途絶える際に、通路内に残る液滴が通路
の内周に液膜(メニスカス)を形成する傾向があり、多数の液膜が形成されると、通路が
閉塞した状態になってしまうことがある。その一方で、通路内に軸方向に向かって螺旋構
造があると、通路内の液滴は螺旋構造に沿って流れることから、通路の内周に液膜が形成
され難いことが実験的に分かっている。そのため、廃液通路の内部に螺旋構造を設けてお
けば、廃液通路内に多数の液膜が形成されて廃液通路が閉塞した状態になることはなく、
廃液通路内の液体の流通を確保しておくことが可能となる。
【0010】
上述した本発明の液体噴射装置では、螺旋形状に巻回して廃液通路内に挿入した線材に
よって、螺旋構造を形成してもよい。
【0011】
このような構成によれば、螺旋形状に巻回した線材(例えば、コイルバネ)を廃液通路
内に挿入するだけなので、廃液通路の内部に螺旋構造を簡単に形成することができ、かつ
、廃液通路を有する既存の液体噴射装置にも容易に適用することが可能である。
【0012】
また、前述した本発明の液体噴射装置では、螺旋形状に捻って廃液通路内に挿入した板
材によって、螺旋構造を形成してもよい。
【0013】
このような構成によれば、螺旋形状に捻った板材を形成して、その板材を廃液通路内に
挿入するだけなので、廃液通路の内部に螺旋構造を簡単に形成することができ、かつ、廃
液通路を有する既存の液体噴射装置にも容易に適用することが可能である。
【0014】
こうした本発明の液体噴射装置では、複数の廃液通路を設けることとして、所定数ずつ
の廃液通路が接続された廃液タンクを複数備えることとしてもよい。
【0015】
このように複数の廃液タンクを備えて、各廃液タンクに接続された廃液通路によって、
排出された液体を複数の廃液タンクに分配する場合には、何れかの廃液通路に多数の液膜
が形成されて閉塞してしまうと、残りの廃液通路に液体が集中して流れて、その流れの集
中した廃液タンクで液体が溢れてしまうことがある。そこで、内部に螺旋構造を設けた廃
液通路によって各廃液タンクを接続しておけば、廃液通路内の液膜の形成が抑制されるの
で、それぞれの廃液通路で液体の流通を確保して液体の流れの片寄りを抑制することがで
きる。その結果、排出された液体を複数の廃液タンクに均等に分配して収容することが可
能となる。
【0016】
また、前述した本発明の液体噴射装置では、次のようにしてもよい。先ず、複数の廃液
通路を設けることとして、これら複数の廃液通路を、内部に吸収材が設けられた廃液タン
クに接続する。そして、廃液タンクには、廃液通路毎に流入箇所を設定して、その流入箇
所に廃液通路を接続してもよい。
【0017】
短時間に大量の液体が排出されて廃液タンクに流入すると、吸収材への液体の拡散が間
に合わず、廃液タンクから液体が漏れてしまうことがある。そこで、複数の廃液通路を用
いて廃液タンクに複数箇所から液体を流入させるようにすれば、1箇所から流入させる場
合に比べて、吸収材への液体の拡散速度を全体として増加させることができるので、廃液
タンクから液体が漏れることを抑制することが可能となる。そして、この場合も、各廃液
通路の内部に螺旋構造を設けておくことによって、それぞれの廃液通路で液体の流通が確
保されるので、何れかの廃液通路に液体の流れが片寄ることを抑制でき、廃液タンクに複
数の廃液通路から均等に液体を流入させることができる。その結果、吸収材への液体の拡
散速度を確実に増加させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】インクジェットプリンターを例に用いて本実施例の液体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。
【図2】本実施例のインクジェットプリンターに搭載されたメンテナンス機構の構成を示した説明図である。
【図3】分岐室の断面を取ることによって、噴射ノズルから吸い出されたインクが分岐室内で振り分けられる様子を示した説明図である。
【図4】廃液チューブ内にインク膜が形成されることよって、インクの分配が不均一になる例を示した説明図である。
【図5】本実施例のインクジェットプリンターに搭載される廃液チューブの内部に設けられている螺旋構造を示した説明図である。
【図6】螺旋構造を設けた廃液チューブにおけるインク膜の形成の有無を確認する実験の概要およびその結果を示した説明図である。
【図7】第1変形例の廃液チューブの内部に設けられている螺旋構造を示した説明図である。
【図8】第2変形例のインクジェットプリンターにおいて、2本の廃液チューブを用いて、廃液タンクに2箇所からインクを流入させる様子を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.液体噴射装置の構成:
B.メンテナンス機構の構成:
C.廃液チューブの構成:
D.変形例:
D−1.第1変形例:
D−2.第2変形例:
【0020】
A.液体噴射装置の構成 :
図1は、いわゆるインクジェットプリンターを例に用いて本実施例の液体噴射装置の大
まかな構成を示した説明図である。尚、本明細書において、図面を用いた説明で「上下方
向」、「左右方向」、「前後方向」を表現する場合には、各図中に矢印で示した上下方向
、左右方向、前後方向にそれぞれ従うものとする。図1に示されているように、インクジ
ェットプリンター10は、主走査方向(左右方向)に往復動しながら被噴射媒体としての
印刷用紙2上にインクドットを形成するキャリッジ20と、キャリッジ20を往復動させ
る駆動機構30と、印刷用紙2の紙送りを行うためのプラテンローラー40と、正常に印
刷可能なようにメンテナンスを行うメンテナンス機構100などから構成されている。キ
ャリッジ20には、インクを収容したインクカートリッジ26や、インクカートリッジ2
6が装着されるキャリッジケース22、キャリッジケース22の下面側(印刷用紙2に向
いた側)に搭載された噴射ヘッド24などが設けられている。この噴射ヘッド24にはイ
ンクを噴射する複数の噴射ノズルが形成されており、インクカートリッジ26内のインク
を噴射ヘッド24に供給して、噴射ノズルから印刷用紙2に正確な分量だけインクを噴射
することによって、画像等が印刷される。
【0021】
キャリッジ20を往復動させる駆動機構30は、主走査方向(左右方向)に延設された
ガイドレール38と、内側に複数の歯形が形成されたタイミングベルト32と、タイミン
グベルト32の歯形と噛み合う駆動プーリ34と、駆動プーリ34を駆動するためのステ
ップモーター36などから構成されている。タイミングベルト32の一部はキャリッジケ
ース22に固定されており、タイミングベルト32を駆動することによって、ガイドレー
ル38に沿ってキャリッジケース22を移動させる。
【0022】
印刷用紙2の紙送りを行うプラテンローラー40は、図示しない駆動モーターやギア機
構によって駆動されて、印刷用紙2を副走査方向(前方向)に所定量ずつ紙送りする。
【0023】
また、メンテナンス機構100は、印刷領域外のホームポジションと呼ばれる領域に設
けられており、噴射ヘッド24の下面側で噴射ノズルが形成されている面(ノズル面)に
押しつけられて噴射ノズルの周囲に閉空間を形成するキャップ110や、キャップ110
の下方の位置に設けられた吸引ポンプ120や、更に吸引ポンプ120の下方の位置に設
けられた廃液タンク130などから構成されている。以下では、メンテナンス機構100
の詳細な構成について説明する。
【0024】
B.メンテナンス機構の構成 :
図2は、本実施例のインクジェットプリンター10に搭載されたメンテナンス機構10
0の構成を示した説明図である。先ず、図示されているように、メンテナンス機構100
には、ゴムなどの弾性材料を用いて凹状に形成されたキャップ110が設けられており、
このキャップ110は、図示しない昇降機構によって上下方向に移動する。インクジェッ
トプリンター10が画像等を印刷していない間は、キャリッジ20をホームポジションに
移動させて、キャップ110を上昇させる。すると、キャップ110が噴射ヘッド24の
下面側のノズル面に押し付けられて噴射ノズルを覆うように閉空間が形成されるので、噴
射ヘッド24内のインクが乾燥すること(インクの水分が蒸発、あるいは成分が揮発する
こと)を抑制する。
【0025】
また、凹状に形成されたキャップ110の底面には、図示しない吸引口が設けられてい
る。この吸引口は、キャップ110の下方の位置に設けられた吸引ポンプ120と吸引チ
ューブ122を介して接続されている。尚、本実施例のインクジェットプリンター10で
は、吸引ポンプ120として、いわゆるチューブポンプを用いているが、負圧を発生させ
ることが可能なポンプであれば、これに限られるわけではない。
【0026】
前述したように、インクジェットプリンター10が印刷を行っていない間は、キャップ
110を噴射ヘッド24のノズル面に押し付けているものの、噴射ヘッド24内では少し
ずつインクの水分や揮発成分が減少して増粘が進んでいくので、印刷を行わないまま長期
間が経過すると、正確な分量のインクを噴射することができなくなってしまう。そこで、
このような場合には、キャップ110を噴射ヘッド24のノズル面に押し付けた状態で吸
引ポンプ120を作動させて、キャップ110の内側(噴射ノズルを覆う閉空間)を負圧
にすることにより、噴射ヘッド24内の増粘したインクを噴射ノズルから吸い出す動作(
いわゆるクリーニング)を実行するようになっている。尚、本実施例の吸引ポンプ120
は、本発明の「液体排出手段」に相当している。
【0027】
クリーニングによって噴射ノズルからキャップ110内に吸い出されたインクは、吸引
チューブ122および吸引ポンプ120を介して、吸引ポンプ120の下方の位置に設け
られた廃液タンク130に蓄積される。図2に示されているように、本実施例の廃液タン
ク130は、第1廃液タンク130aおよび第2廃液タンク130bから構成されており
、これら2つの廃液タンク130a,130bは、容積などの規格が同じになっている。
そして、各廃液タンク130a,130bは、内部に所定量のインクが蓄積されたら、新
たな廃液タンク130a,130bと交換するようになっている。
【0028】
このように廃液タンク130が第1廃液タンク130aおよび第2廃液タンク130b
から構成されていることと対応して、吸引ポンプ120と廃液タンク130との間には、
吸引ポンプ120によって噴射ノズルから吸い出されたインクを2つの廃液タンク130
a,130bに振り分けるための分岐室134が設けられている。この分岐室134には
、吸引ポンプ120の下流側に連通する接続チューブ132や、第1廃液タンク130a
に連通する第1廃液チューブ140aや、第2廃液タンク130bに連通する第2廃液チ
ューブ140bが接続されている。
【0029】
図3は、分岐室134の断面を取ることによって、噴射ノズルから吸い出されたインク
が分岐室134内で振り分けられる様子を示した説明図である。先ず、図3(a)に示さ
れているように、分岐室134は、上面に接続チューブ132が接続されており、吸引ポ
ンプ120の下流側と連通している。また、分岐室134の底部は、分岐室134の底面
から立設された仕切壁138によって中央で二分されており、その一方に第1廃液チュー
ブ140aが接続され、他方に第2廃液チューブ140bが接続されている。更に、分岐
室134内には、筒状の誘導部136が設けられている。この誘導部136は、上端側が
接続チューブ132に接続され、下端側が封止されている。また、誘導部136の側面に
は、複数の細孔136hが第1廃液チューブ140a側と第2廃液チューブ140b側と
に等しく設けられている。吸引ポンプ120から接続チューブ132を通って分岐室13
4に流入したインクは、誘導部136の細孔136hから噴出して第1廃液チューブ14
0a側と第2廃液チューブ140b側とに均等に振り分けられる。尚、ここでの「均等」
とは、重量割合が完全に一致する場合(50%)に限られず、多少の違いがある場合も含
むものとし、本明細書中では、重量割合の差が10%の範囲内にある場合(45〜55%
)も「均等」に含むものとする。
【0030】
こうして分岐室134内で振り分けられたインクは、第1廃液チューブ140aまたは
第2廃液チューブ140bを通って、それぞれに対応する第1廃液タンク130aまたは
第2廃液タンク130bに流入し蓄積される。尚、本実施例の第1廃液チューブ140a
および第2廃液チューブ140bは、本発明の「廃液通路」に相当している。
【0031】
ここで、上述したように、吸引ポンプ120から流下するインクは、分岐室134内で
第1廃液チューブ140a側と第2廃液チューブ140b側とに均等に振り分けられるに
もかかわらず、実際に廃液タンク130に蓄積されるインク量は、第1廃液タンク130
aと第2廃液タンク130bとで不均一になることがある。これは、次のような理由によ
るものである。
【0032】
先ず、廃液チューブ140a,140bには、図3(a)のようにインクが常に満たさ
れているわけではなく、クリーニングが実行されることでインクが断続的に流れる。図3
(b)には、インクの流れが途絶えた状態が示されている。このように分岐室134内の
インクが一旦捌けて廃液チューブ140a,140bに空気が入るようになると、チュー
ブ内に残るインク滴がチューブの内周に亘って膜(メニスカス)を形成する傾向にある。
こうしたインク膜は、1つの強度(耐圧)としては決して大きくはないが、チューブの軸
方向に多数のインク膜が間に空気の層を挟んで縞状に形成されると、全体として大きな圧
力にも耐え得るようになることから、再びインクが流れる際に大きな抵抗となることがあ
る。また、第1廃液チューブ140aおよび第2廃液チューブ140bには、同じチュー
ブを用いていても、インク膜が同じように形成されるとは限らず、一方に他方よりも多く
のインク膜が形成されることがある。尚、2本の廃液チューブ140a,140bのうち
、インク膜が多く形成される側は常に同じ側であるとは限らず、入れ代わることがある。
【0033】
図3(b)に示した例では、第2廃液チューブ140bに第1廃液チューブ140aよ
りも多くのインク膜が形成されている。この状態で、再び分岐室134内にインクが流れ
込むと、第2廃液チューブ140bに比べてインク膜が少ない第1廃液チューブ140a
では、インクの圧力によってインク膜が容易に破壊されるので、インクが流れるようにな
る。これに対して、第2廃液チューブ140bでは、多数のインク膜が全体としてインク
の圧力に抗して閉塞した状態となることがある。すると、第1廃液チューブ140aの側
にインクの流れが集中し、その結果、第1廃液タンク130aと第2廃液タンク130b
とでインクの分配が不均一となる。
【0034】
図4は、廃液チューブ140a,140b内にインク膜が形成されることよって、イン
クの分配が不均一になる例を示した説明図である。図4には、図3(b)に示したように
第1廃液チューブ140aよりも第2廃液チューブ140bに多くのインク膜が形成され
た状態で、分岐室134にインクを流したときの第1廃液タンク130a側および第2廃
液タンク130b側への排出割合が示されている。尚、分岐室134に流したインクの流
量は、0.1g/s,0.5g/s,1.0g/sの3段階であり、各流量でインクを1
分間流した後の排出割合を求めた。図示されているように何れの流量においても、第2廃
液チューブ140bに比べてインク膜の形成が少ない第1廃液チューブ140aの側(第
1廃液タンク130a側)にインクが流れ易く、排出割合に15%以上の差がある。特に
、インクの流量が0.5g/sの場合には、この傾向が顕著であり、第2廃液チューブ1
40b側は閉塞した状態になり、第1廃液チューブ140a側にインクの流れが集中する

【0035】
このように第1廃液タンク130aと第2廃液タンク130bとでインクの分配が不均
一では、各廃液タンク130a,130b内のインク量を個々に管理して、タンクの交換
時期(内部のインク量が所定量に達したこと)を検出しなければならない。すると、流入
量を調節するための弁や、内部のインク量を検出するためのセンサーが廃液タンク130
a,130b毎に必要となるため、インクジェットプリンター10の装置構成が複雑にな
ったり、弁やセンサーの制御が煩雑になったりすることは避けられない。そこで、本実施
例のインクジェットプリンター10では、廃液チューブ140a,140b内にインク膜
(メニスカス)が形成されることを抑制するために、以下に詳述するように螺旋構造が内
部に設けられた廃液チューブ140a,140bを採用している。尚、以下の説明では、
第1廃液チューブ140aと第2廃液チューブ140bとを特に区別する必要がない場合
には、単に廃液チューブ140と呼ぶことにする。
【0036】
C.廃液チューブの構成 :
図5は、本実施例のインクジェットプリンター10に搭載される廃液チューブ140の
内部に設けられている螺旋構造を示した説明図である。図示されているように、本実施例
の廃液チューブ140の内部には、円筒形に巻かれた金属製のコイルバネ142が挿入さ
れており、このコイルバネ142によって廃液チューブ140の軸方向に向かって螺旋構
造が形成されている。尚、本実施例のコイルバネ142の外径は、廃液チューブ140の
内径と同じ大きさに設定されており、コイルバネ142を廃液チューブ140に挿入する
と、コイルバネ142の外周が廃液チューブ140の内周面に接するようになっているが
、必ずしも接している必要はない。
【0037】
このような構成によれば、廃液チューブ140にコイルバネ142を挿入するだけなの
で、廃液チューブ140の内部に螺旋構造を簡単に形成することができる。また、廃液チ
ューブ140内に挿入されたコイルバネ142は、廃液チューブ140の変形に対して容
易に追従することが可能となっている。従って、廃液チューブ140を取り回す(曲げる
)際にも、チューブの軸方向に向かって螺旋構造を維持することができる。
【0038】
こうして螺旋構造を設けた廃液チューブ140の内部にインク膜(メニスカス)が形成
されるか否かを確認するために以下のような実験を行った。
【0039】
図6は、螺旋構造を設けた廃液チューブ140におけるインク膜の形成の有無を確認す
る実験の概要およびその結果を示した説明図である。先ず、図6(a)に示すように、内
部が視認可能な透明材料で形成された通常のチューブ(螺旋なしチューブ)と、同じチュ
ーブに上述のようにコイルバネを挿入して内部に螺旋構造を設けたチューブ(螺旋ありチ
ューブ)とを用意して、それぞれのチューブに対して同様にインクを上方から断続的に流
下させた。そして、インクの流れが途絶えた際に各チューブの内部にインク膜が形成され
るか否かを目視で確認した。その結果を図6(b)に示す。
【0040】
先ず、螺旋なしチューブでは、チューブの内壁を伝って流下するインク滴がチューブの
内周全体に亘ることでインク膜が形成される。これに対して、螺旋ありチューブでは、チ
ューブ内のインク滴は螺旋構造に沿って流下することから、チューブの内周全体に亘って
膜を張ることができず、インク膜の形成は認められなかった。この実験結果から明らかな
ように、チューブの内部に螺旋構造を設けておくことによって、チューブ内にインク膜が
形成されることを抑制できる。
【0041】
また、図6(c)には、螺旋ありチューブで第1廃液チューブ140aおよび第2廃液
チューブ140bを構成したときの第1廃液タンク130a側および第2廃液タンク13
0b側へのインクの排出割合が例示されている。図6(c)においても、前述した図4の
場合と同様に、分岐室134に流したインクの流量は、0.1g/s,0.5g/s,1
.0g/sの3段階であり、各流量でインクを1分間流した後の排出割合を求めている。
図4と比較すると明らかなように、第1廃液チューブ140aおよび第2廃液チューブ1
40bを螺旋ありチューブで構成することによって、第1廃液タンク130a側と第2廃
液タンク130b側とでインクの排出割合に大きな差が生じることはなく、何れの流量に
おいても排出割合の差は2%以下である。
【0042】
以上に説明したように、本実施例のインクジェットプリンター10では、コイルバネ1
42を廃液チューブ140内に挿入することによって、廃液チューブ140の内部に螺旋
構造が設けられている。このような螺旋構造があると、インクの流れが途絶える際には、
廃液チューブ140内に残るインク滴は螺旋構造に沿って流下するので、廃液チューブ1
40の内周にインク膜(メニスカス)が形成され難いことが実験的に分かっている。その
ため、多数のインク膜で全体としてインクの圧力に抗して廃液チューブ140が閉塞した
状態になることはなく、廃液チューブ140内のインクの流通を確保することが可能とな
る。
【0043】
また、第1廃液タンク130aに連通する第1廃液チューブ140a、および第2廃液
タンク130bに連通する第2廃液チューブ140bの何れにも内部に螺旋構造が設けら
れており、インク膜の形成が同様に抑制される。そのため、何れか一方の廃液チューブ1
40が多数のインク膜によって閉塞してしまい他方の廃液チューブ140にインクの流れ
が集中するようなことはなく、第1廃液タンク130aと第2廃液タンク130bとにイ
ンクを均等(重量割合の差が10%以内)に分配することができる。結果として、各廃液
タンク130a,130bでのインク量の個々の管理が不要となるので、インクジェット
プリンター10の装置構成や制御の簡略化が可能となる。すなわち、吸引ポンプ120か
ら排出されるインク量を積算しておくことによって、均等に分配される各廃液タンク13
0a,130b内のインク量も把握することができる。そのため、インクの流入量を調節
する弁や、蓄積されたインク量を検出するセンサーを廃液タンク130a,130b毎に
設ける必要がなく、その分だけインクジェットプリンター10の装置構成や制御の簡略化
を図ることができる。
【0044】
D.変形例 :
以上に説明した本実施例のインクジェットプリンター10には、幾つかの変形例が存在
している。以下では、これら変形例について説明する。尚、変形例の説明にあたっては、
前述した実施例と同様の構成部分については、先に説明した実施例と同様の符号を付し、
その詳細な説明を省略する。
【0045】
D−1.第1変形例 :
前述した実施例では、廃液チューブ140内にコイルバネ142を挿入することによっ
て、廃液チューブ140の内部に螺旋構造を形成していた。しかし、螺旋構造を形成する
構成は、これに限られるわけではない。以下では、前述した実施例とは異なる構成で廃液
チューブ140の内部に螺旋構造を形成した第1変形例について説明する。
【0046】
図7は、第1変形例の廃液チューブ140の内部に設けられている螺旋構造を示した説
明図である。図示されているように、第1変形例の廃液チューブ140の内部には、螺旋
形状に捻られた板部材144が挿入されており、この板部材144によってチューブの軸
方向に向かって螺旋構造が形成されている。尚、図7では、板部材144の片面にのみハ
ッチングを付して捻られた状態を表している。この第1変形例の構成でも、捻りを加えた
板部材144を樹脂材料やゴムなどで形成して、それを廃液チューブ140内に挿入する
だけなので、廃液チューブ140の内部に螺旋構造を簡単に形成することができる。
【0047】
そして、このように捻りを加えた板部材144によって螺旋構造が形成された第1廃液
チューブ140aおよび第2廃液チューブ140bにおいても、前述した実施例と同様に
インク膜の形成を抑制する効果が得られ、インクの流通を確保することができる。そのた
め、何れか一方の廃液チューブ140が多数のインク膜によって閉塞してしまい他方の廃
液チューブ140にインクの流れが集中することはなく、第1廃液チューブ140aおよ
び第2廃液チューブ140bにインクを均等に流して、それぞれに対応する第1廃液タン
ク130aと第2廃液タンク130bとにインクを均等分配することが可能となる。
【0048】
D−2.第2変形例 :
前述した実施例では、内部に螺旋構造が設けられた2本の廃液チューブ140a,14
0bを用いて、第1廃液タンク130aと第2廃液タンク130bとにインクを分配して
いた。しかし、本発明は、1つの廃液タンク130に対して2箇所からインクを流入させ
る場合にも好適に適用することができる。
【0049】
図8は、第2変形例のインクジェットプリンター10において、2本の廃液チューブ1
40a,140bを用いて、1つの廃液タンク130に2箇所からインクを流入させる様
子を示した説明図である。図示されているように、第2変形例のインクジェットプリンタ
ー10では、吸引ポンプ120の下流側に連通する接続チューブ132が、Y字型のフィ
ッティング152を介して、第1廃液チューブ140aおよび第2廃液チューブ140b
と接続されている。吸引ポンプ120から排出されたインクは、フィッティング152に
よって第1廃液チューブ140a側と第2廃液チューブ140b側とに振り分けられて、
1つの廃液タンク130に2箇所から流入する。この廃液タンク130の内部には、不織
布など形成された吸収材150が敷設されており、廃液タンク130に流入したインクを
吸収材150に吸収して保持することによって、廃液タンク130からインクが漏れ出る
ことを抑制できる。
【0050】
このように吸収材150が敷設された廃液タンク130では、短時間に大量のインクが
流入すると、吸収材150へのインクの拡散が間に合わず、廃液タンク130からインク
が漏れてしまうおそれがある。そこで、吸引ポンプ120から排出されるインクを、第1
廃液チューブ140aと第2廃液チューブ140bとに振り分けて、廃液タンク130に
2箇所から流入させるようにすれば、1箇所から流入させる場合に比べて、吸収材150
へのインクの拡散速度を全体として増加させることができるので、廃液タンク130から
インクが漏れることを抑制できる。
【0051】
ここで、2本の廃液チューブ140a,140bを用いて、廃液タンク130に2箇所
からインクを流入させる場合でも、何れか一方の廃液チューブ140に多数のインク膜が
形成されて閉塞してしまい他方の廃液チューブ140にインクの流れが集中したのでは、
結局、流入箇所は1箇所となって吸収材150へのインクの拡散速度を増加させることが
できない。しかし、本発明を適用して、第1廃液チューブ140aおよび第2廃液チュー
ブ140bの内側に螺旋構造を設けておけば、前述した実施例と同様に、チューブ内のイ
ンク膜の形成が抑制されるので、第1廃液チューブ140aおよび第2廃液チューブ14
0bのインクの流通を確保することができる。その結果、第1廃液チューブ140aと第
2廃液チューブ140bとから均等にインクが流入するので、吸収材150へのインクの
拡散速度を増加させることができる。
【0052】
また、2本の廃液チューブ140a,140bを用いて、廃液タンク130に2箇所か
らインクを流入させることによって、以下のような効果も得ることができる。すなわち、
廃液タンク130に2箇所からインクを流入させれば、1箇所から流入させる場合に比べ
て、インクの拡散速度を増加させるだけでなく、吸収材150のより広い範囲にインクを
分散させることが可能となる。これにより、インクの水分の蒸発や、成分の揮発が促進さ
れるので、廃液タンク130内に蓄積されるインクの総量を減少させることができる。結
果として、廃液タンク130の交換頻度を低減することが可能となる。
【0053】
以上、各種の実施形態を説明したが、本発明は上記すべての実施形態に限られるもので
はなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0054】
例えば、上述した実施例では、廃液タンク130に連通する廃液チューブ140に螺旋
構造を設けるものとして説明したが、インクが断続的に流れるチューブであれば同様の問
題(多数のインク膜の形成によるチューブの閉塞)が起こり得ることから、本発明を好適
に適用することができる。例えば、吸引ポンプ120の下流側と分岐室134とを接続す
る接続チューブ132の内部にも螺旋構造を設けておいてもよい。
【0055】
また、前述した実施例および変形例では、チューブの内部に螺旋構造を設けるものとし
て説明したが、インクが通過する通路であればチューブに限られるわけではなく、例えば
、ケース内に作り付けられた通路の内部に螺旋構造を設けてもよい。
【0056】
また、前述した実施例および変形例では、コイルバネ142あるいは捻りを加えた板部
材144を廃液チューブ140内に挿入することによって、螺旋構造を形成していた。し
かし、これに限られるわけではなく、廃液チューブ140の内壁に螺旋構造を突設するこ
とによって廃液チューブ140と一体に形成してもよい。
【符号の説明】
【0057】
10…インクジェットプリンター、 20…キャリッジ、
22…キャリッジケース、 24…噴射ヘッド、 26…インクカートリッジ、
30…駆動機構、 40…プラテンローラー、 100…メンテナンス機構、
110…キャップ、 120…吸引ポンプ、 122…吸引チューブ、
130…廃液タンク、 132…接続チューブ、 134…分岐室、
140…廃液チューブ、 142…コイルバネ、 144…板部材、
150…吸収材、 152…フィッティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ヘッドから被噴射媒体に向けて液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記被噴射媒体に向けて液体を噴射することなく、前記噴射ヘッド内の液体を排出する
液体排出手段と、
前記液体排出手段によって前記噴射ヘッドから排出された液体が通過する通路であり、
該通路の軸方向に向かって螺旋形状に形成された螺旋構造が内部に設けられている廃液通
路と
を備える液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
前記廃液通路は、螺旋形状に巻回して該廃液通路内に挿入された線材によって、前記螺
旋構造が形成されている通路である液体噴射装置。
【請求項3】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
前記廃液通路は、螺旋形状に捻られて該廃液通路内に挿入された板材によって、前記螺
旋構造が形成されている通路である液体噴射装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の液体噴射装置であって、
複数の前記廃液通路と、
所定数ずつの前記廃液通路が接続され、前記噴射ヘッド内から排出された液体が貯めら
れる複数の廃液タンクと
を備える液体噴射装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の液体噴射装置であって、
複数の前記廃液通路と、
前記複数の廃液通路が接続され、前記噴射ヘッド内から排出された液体が貯められる廃
液タンクと、
前記廃液タンク内に設けられて、該廃液タンクに流入した前記液体を吸収する吸収材と
を備え、
前記廃液通路は、該廃液通路毎に前記廃液タンクに設定された流入箇所に接続されてい
る通路である液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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