説明

液体水素タンク残量検知システム

【課題】この発明は、水素貯蔵装置の貯蔵した液体水素の残量を検知する残量検知システムに関し、従前のタンク内部の状態に影響されず、液体水素残量を精度よく算出する残量検知システムを提供することを目的とする。
【解決手段】タンク内部の圧力Pを検出する(ステップ100)。一定の熱量Eを液体水素に投入する(ステップ102)。熱量投入後のタンク内部の圧力P’を検出する(ステップ104)。タンク内部に投入された熱量Eに基づいて相転移した水素ガス容積Veを算出する(ステップ106)。圧力P、および圧力P’に基づいて、熱量投入前後におけるタンク内部の圧力変化量ΔPを算出する(ステップ108)。水素ガス容積Ve、および圧力変化量ΔPに基づいて、タンク内の液体水素残量Vを算出する(ステップ110)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素を燃料とする車両、飛行機、および船舶等(以下、「水素燃料車両等」という。)に好適な水素貯蔵装置にかかり、特に貯蔵した液体水素の残量を検知する残量検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特開平5−223612号公報には、液体ガスボンベの残量をガスの積算流量から算出する液化ガスの残量管理装置が開示されている。この装置では、ガス供給ラインに取り付けられたマスフロメータにより流量が常時測定される。測定された流量は積算計で加算され、積算使用量が算出されることにより、ガスの残量を管理することとしている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−223612号公報
【特許文献2】特開平7−49254号公報
【特許文献3】特開2001−272266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、液体水素の大気圧飽和温度は大気温度と比べて非常に低い(約−253℃)ため、液体水素貯蔵タンクは断熱性の高い構造を有している。しかし、外部大気からの熱量の遺漏は微量ながら存在するため、かかる熱量の影響によりタンク内の液体水素が気体に相転移する現象(ボイルオフ)が発生する。その結果、タンク内圧力が上昇するため、適宜タンク内のガス(以下、「ボイルオフガス」という)を排出し、タンク内部を減圧する処理がなされる。このため、例えば、前述した積算使用量から残量を算出する装置に液体水素を貯蔵した場合、ボイルオフガス分の誤差が生じるため、精度よく液体水素残量を検出することができない。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、従前のタンク内部の状態に影響されず、タンク内部に新たに投入された熱量と、その前後におけるタンク内圧力の変化に基づいて、液体水素残量を精度よく算出する残量検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記目的を達成するため、液体水素を貯蔵するタンクを有する液体水素残量を検知するためのシステムであって、
前記タンクの内部に侵入したタンク内熱量を取得するタンク内熱量取得手段と、
前記タンクの内部圧力を取得する内部圧力取得手段と、
前記タンク内熱量と、前記内部圧力とに基づいて、タンク内液体水素量を算出する液体水素量算出手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
水素ガスを前記タンクの外部に供給する水素ガス供給手段と、
前記水素ガス供給手段により供給される水素ガス供給量を推定、あるいは測定する水素ガス供給量取得手段と、を更に備え、
前記液体水素量算出手段は、
前記タンク内熱量と、前記内部圧力と、前記水素ガス供給量とに基づいて、タンク内液体水素量を算出することを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
液体水素の気化を行う加熱手段を更に備え、
前記タンク内熱量は、前記加熱手段により前記タンクの内部に侵入した熱量であることを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明において、
前記タンク内熱量は、前記タンクの外部から侵入する遺漏熱量を包含し、
前記タンク内熱量取得手段は、前記遺漏熱量を推定する遺漏熱量推定手段を備えることを特徴とする。
【0010】
また、第5の発明は、第4の発明において、
前記タンクの内部に液体水素が満充填されたことを検知する満充填検知手段と、
前記タンクの満充填時の内部圧力を取得する満充填時内部圧力取得手段と、
前記タンクの満充填時の空き容量と、前記タンクの満充填時の内部圧力とに基づいて、基準遺漏熱量を算出する基準遺漏熱量算出手段と、
前記基準遺漏熱量に基づいて、前記遺漏熱量を補正する遺漏熱量補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、前記タンク内液体水素量は、前記タンクの内部に侵入した熱量、および前記タンクの内部圧力変化量に基づいて算出することができる。前記タンクの内部に侵入した熱量は、タンク内部の液体水素が気体に相転移するためのエネルギとして使用される。そして、気体へと相転移した水素ガスは大容積となるため、タンクの内部圧力は相転移前と比較して大きな値となる。このため、本発明によれば、かかる熱量、および相転移前後の圧力に基づいて、常にタンク内液体水素量を正しく算出することができる。
【0012】
第2の発明によれば、前記タンク内液体水素量は、前記水素ガス供給量、前記タンクの内部に侵入した熱量、および前記タンクの内部圧力変化量に基づいて算出することができる。タンク内部の液体水素は水素ガスとしてタンク外部に供給され、その水素ガス供給量は、推定、あるいは測定することができる。このため、本発明によれば、前記タンクの外部に水素ガスを供給中であっても、常にタンク内液体水素量を正しく算出することができる。
【0013】
第3の発明によれば、前記タンク内液体水素量は、前記タンクの内部に侵入した熱量、および前記タンクの内部圧力変化量に基づいて算出することができる。そして、加熱手段によりタンク内部に意図的に熱量を投入することで、前記タンクの内部に侵入した熱量を特定する。このため、本発明によれば、タンクの内部に侵入した熱量を正確に特定し、常にタンク内液体水素量を正しく算出することができる。
【0014】
第4の発明によれば、前記タンク内液体水素量は、前記タンクの内部に侵入した熱量、および前記タンクの内部圧力変化量に基づいて算出することができる。そして、本発明によれば、前記タンクの内部に侵入した遺漏熱量を推定することができる。このため、本発明によれば、この遺漏熱量に基づいて、常にタンク内液体水素量を正しく算出することができる。
【0015】
第5の発明によれば、基準遺漏熱量は、前記タンクの満充填時の空き容量と、前記タンクの満充填時の内部圧力に基づいて算出することができる。満充填時はタンク内部の空き容量が少ない。このため、タンクの内部圧力は、タンク内部への熱量の侵入に応じて感度よく反応する。本発明によれば、この満充填時を精度よく検知し、かかる状態での空き容量、および内部圧力変化量を算出する。このため、本発明によれば、前記基準遺漏熱量を精度よく算出し、補正を行うことにより、前記遺漏熱量を精度よく推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1.
[実施の形態1のハードウェア構成]
図1は、本発明の実施の形態1において用いられる液体水素タンク残量検知システムの構成を示す。図1に示すように、本実施の形態のシステムは、水素タンク10を備えている。水素タンク10は、液体水素を主貯蔵する水素供給タンクであり、断熱構造を有し、熱量の遺漏によるボイルオフガス発生を抑制することができる。
【0017】
水素タンク10には圧力センサ12が設置されており、タンク内の圧力を検出することができる。また、水素タンク10の内部には、熱量を投入するためのヒータ14が設置されている。
【0018】
本実施の形態のシステムは、図1に示すとおり、ECU(Electronic Control Unit)16を備えている。上述した圧力センサ12の出力はECU16に供給されており、ECU16は、これらの出力に基づいて所定時間における圧力変化量を算出する。また、ECU16にはヒータ14が接続されており、ヒータ駆動、およびタンク内部に供給した熱量の算出を行う。そして、ECU16はこれらの情報に基づいて、液体ガスの残量の算出処理を行う。
【0019】
水素タンク10の内部の水素ガスは、FC(燃料電池)システム18に供給される。FCシステム18はECU16に接続されており、システムの運転状況等をECU16に供給する。ECU16は、かかる信号に基づいて水素ガス供給量の算出処理を行う。
【0020】
[実施の形態1の動作]
次に、図2を参照して、本実施形態の動作原理を説明する。本実施の形態のシステムは、ヒータ14にてタンク内部に供給される熱量、およびその前後のタンク内の圧力変化量に基づいて、液体水素残量を精度よく算出することができる。
【0021】
図2(a)は水素タンク内部に熱量を投入する前における、タンク内部の状態を示す図である。この図によれば、タンク内部には、液体水素、および水素ガスが存在し、内圧P、温度Tにて平衡状態が保たれている。ここでタンク内部は、液体水素が気化することを防止するために、公知の手法により、常に沸点以下の温度を保つように制御されている。タンク容積をVt、液体水素容積をVとすると、タンク内部の水素ガスの容積は、Vt−Vで表すことができる。
【0022】
次に、図2(b)は、ECU16によりヒータ14が駆動され、熱量がタンク内部に投入された場合における、タンク内部の状態を示す図である。この図によれば、投入熱量E(エネルギ)、水素の蒸発潜熱をEgとすると、E/Eg(質量)分に相当する液体水素が気体に相転移する。ここで蒸発潜熱とは、単位量の物質が気体へ相転移する際に必要な熱量(エネルギ)である。気体に相転移した容積をVeとすると、Veは液体時容積の数百倍となるため、タンク内圧力P’は圧力Pよりも大きくなる。タンク内温度Tは変化の前後で一定とし、理想気体の状態式を近似的に適用すると、以下の式が成立する。
P×(Vt−V+Ve)=P’×(Vt−V) ・・・(1)
圧力変化量(P’−P)をΔPとして、上記(1)式を変形すると、以下の式が成立する。
=Vt−(Ve×P/ΔP) ・・・(2)
【0023】
また、同様に理想気体の状態式を近似的に適用すると気体に相転移した水素ガス容積Veは、以下の式で表される。
Ve=E/Eg×(RT/P) ・・・(3)
ここで、Tはタンク内部温度、Rはガス定数である。
【0024】
以上より、本実施の形態では、タンク容積Vt、新たに発生した水素ガス容積Ve、および熱量投入前におけるタンク内圧P、圧力差ΔPを算出することができる。そしてこれらの値を上記(2)式に代入することにより、タンク内の液体ガス容積Vを精度よく算出することができる。
【0025】
[実施の形態1における具体的処理]
図3は、ECU16が、タンク内部の液体水素残量を算出するために実行するルーチンのフローチャートである。図3に示すルーチンでは、先ず、タンク10に設置された圧力センサ12により、タンク内圧力Pが検出される(ステップ100)。そして検出された出力信号はECU16に供給される。
【0026】
次に、図3に示すルーチンでは、ECU16により、タンク10内部に設置されたヒータ14が駆動され、一定の熱量Eが液体水素に投入される(ステップ102)。熱量が投入されると、一部の液体水素が気体に相転移するためタンク内圧力は大きくなる。圧力センサ12はこの圧力P’を検出する(ステップ104)。そして検出された出力信号はECU16に供給される。
【0027】
次に、ECU16により、タンク内に投入された熱量Eに基づいて相転移した水素ガス容積Veが算出される(ステップ106)。ここでは、具体的には、先ず、水素の蒸発潜熱Egが特定される。蒸発潜熱Egは圧力によって変化する値である。ECU16は蒸発潜熱Egと圧力の関係を定めたマップを記憶している。ここでは、そのマップに従って、圧力センサ12により供給されたタンク内圧力に対応する蒸発潜熱Egが特定される。次いで、投入熱量Eと上記蒸発潜熱Egに基づいて、気体に相転移する水素質量(E/Eg)が算出される。そして、上記(3)式に基づいて、この水素質量に対応する水素ガス容積Veが特定される。
【0028】
次に、ECU16により、熱量投入前後におけるタンク内部の圧力変化量ΔPが算出される(ステップ108)。ここでは、具体的には、前ステップ100にて検出された熱量投入前における圧力信号、および、前ステップ104にて検出された熱量投入後における圧力信号に基づいてΔPが算出される。
【0029】
上記ステップにおける処理が終了すると、次いで、タンク内の液体水素残量Vが算出される(ステップ110)。ここでは、具体的には、前ステップ100にて検出されたP、前ステップ106にて算出されたVe、および、前ステップ108にて算出されたΔPとが、上記(2)式に代入され、タンク内の液体水素残量Vが算出される。
【0030】
以上説明したとおり、本実施形態のシステムによれば、タンク内へ投入する熱量、およびその前後のタンク内圧力変化量に基づいてタンク内の液体水素残量Vが算出される。このため、従前のタンク内部の状態に影響されず、常に精度よく液体水素残量を算出することができる。
【0031】
ところで、上述した実施の形態1においては、圧力センサ12をタンク10に直接設置することとしているが、設置場所はこれに限られない。すなわち、タンク内部への熱の侵入を極力防止するために、タンク10から管を延長し、別途離れた場所に圧力センサ12を設置し、タンクの断熱効果を高める構成としてもよい。
【0032】
尚、上述した実施の形態1においては、ECU16が、上記ステップ102において、タンク10の内部に熱量Eを投入することにより、前記第1の発明における「タンク内熱量取得手段」が、ECU16が、上記ステップ100、または104において、圧力センサ12により検出されたタンク内圧力を取り込むことにより、前記第1の発明における「内部圧力取得手段」が、ECU16が、上記ステップ110の処理を実行することにより、前記第1の発明における「液体水素量算出手段」が、それぞれ実現されている。
【0033】
また、上述した実施の形態1においては、ECU16が、上記ステップ102において、ヒータ14を駆動することにより、前記第3の発明における「加熱手段」が、実現されている。
【0034】
実施の形態2.
[実施の形態2の特徴]
次に、図4、および5を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、ECU16に、後述する図5に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0035】
上述した実施の形態1では、ヒータを駆動させることによりタンク内部に意図的に熱量を投入し、その前後のタンク内部の圧力変化量に基づいて、液体水素残量Vの算出を行うこととしている。ところで、タンク10は、前述のとおり、断熱性の高い構造を有しているが、微量の熱量が常にタンク内部に遺漏する。このため、この遺漏熱量を推定することができれば、ヒータによる投入熱量に代えて、液体水素残量Vを算出するために使用することが可能となる。
【0036】
ここで、タンクの断熱性能はタンク形状に影響する。また、図4に示すとおり、タンク形状が同じであっても、タンク内部温度と外気温度の温度差が大きいほど、遺漏熱量は大きな値となる。したがって、タンク形状により特定された遺漏熱量に、上記温度差を反映させることで、精度よく遺漏熱量を推定することが可能となる。本実施の形態では、上記遺漏熱量に基づいて液体水素残量Vを算出する。このため、意図的にヒータ駆動を行わなくても、精度よく液体水素残量Vを算出することができる。
【0037】
以下、本実施の形態のシステムが、上記手法に基づいて液体水素残量Vを算出する手順を、具体的に説明する。
【0038】
図5は、ECU16が、タンク内部の液体水素残量を算出するために実行するルーチンのフローチャートである。図5に示すルーチンでは、先ず、タンク10に設置された圧力センサ12により、タンク内圧力Pが検出される(ステップ200)。そして検出された出力信号はECU16に供給される。
【0039】
次に、図5に示すルーチンでは、ECU16により、タンク10内部に遺漏した遺漏熱量Eが推定される(ステップ202)。ここでは、具体的には、先ず、基準遺漏熱量が読み込まれる。この基準遺漏熱量はタンク形状に基づいて規定された値である。次に、タンク内部と外気温との温度差ΔTが算出される。この温度差は、ECU16に供給されるFCシステム18の外気温信号に基づいて算出可能である。ここで、実際の遺漏熱量は温度差ΔTの大小により変化する値である。ECU16は、温度差ΔTと遺漏熱量の関係を定めたマップを記憶している。ここでは、そのマップに従って、ΔTに対応する遺漏熱量が特定される。そして、ECU16により、所定時間の積算遺漏熱量Eが算出される。
【0040】
次に、遺漏熱量がタンク内部に侵入すると、一部の液体水素が気体に相転移するため、タンク内圧力は大きくなる。圧力センサ12はこの圧力P’を検出する(ステップ204)。そして検出された出力信号はECU16に供給される。
【0041】
上記ステップにおける処理が終了すると、次いで、ECU16により、遺漏熱量Eに基づいて、新たに気化した水素容積Veが算出される(ステップ206)。次に、熱量投入前後におけるタンク内部の圧力変化量ΔPが算出される(ステップ208)。そして、タンク内の液体水素残量Vが算出される(ステップ210)。ステップ206から210では、具体的には、図3に示すステップ106から110と同様の処理が実行される。
【0042】
以上説明したとおり、本実施形態のシステムによれば、タンク内部へ自然に遺漏する遺漏熱量、およびその前後のタンク内圧力変化量に基づいてタンク内の液体水素残量Vが算出される。このため、ヒータ等の外部熱源からの熱量の投入を必要とせず、また、従前のタンク内部の状態に影響されず、常に精度よく液体水素残量を算出することができる。
【0043】
ところで、上述した実施の形態2においては、遺漏熱量のみの影響によるタンク内部の圧力変化量に基づいて、液体水素残量Vを算出することとしているが、使用する熱量は遺漏熱量のみに限られない。すなわち、実施の形態1にて示したヒータ駆動による熱量投入も同時に行い、タンク内部に投入された総熱量に対応する圧力変化量に基づいて、液体水素残量算出に使用してもよい。
【0044】
尚、上述した実施の形態2においては、ECU16が、上記ステップ200、または204において、圧力センサ12により検出されたタンク内圧力を取り込むことにより、前記第1の発明における「内部圧力取得手段」が、ECU16が、上記ステップ210の処理を実行することにより、前記第1の発明における「液体水素量算出手段」が、それぞれ実現されている。
【0045】
また、上述した実施の形態2においては、ECU16が、上記ステップ202において、タンク内部に遺漏した熱量を算出することにより、前記第4の発明における「遺漏熱量推定手段」が、実現されている。
【0046】
実施の形態3.
[実施の形態3の特徴]
次に、図6を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、ECU16に、後述する図6に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0047】
FCシステム18が運転中の状態においては、本システムからFCシステム18へ水素ガスが随時供給される。ECU16にはFCシステムの発電量等の情報が供給されており、かかる信号に基づいて供給すべき水素ガス容積Voutが算出される。そして、Voutの水素ガスを発生させるために必要な熱量Eoutが算出され、かかる値に基づいてヒータ制御が行われる。
【0048】
つまり、FCシステム運転中においては、ECU16により、供給される水素ガスの容量が常に把握されている。このため、FCシステム運転中において、実施の形態1に示す液体残量検出用熱量を、上記Eoutに加えて更にタンク内部に投入した場合においても、総熱量に基づいて気体に相転移した水素ガス容積から、Voutを差し引くことにより、かかる熱量に基づく水素ガス容積を算出することができる。したがって、FCシステム運転中であっても、常に精度よく液体水素残量を算出することができる。
【0049】
尚、上述した実施の形態1、および2においては、液体水素残量算出の際タンク外部に供給される水素ガス容量を考慮していない。このため、FCシステム運転中においては、この供給水素ガス容積Vout分の誤差が生じることとなる。したがって、上述した実施の形態1、および2に示す手法において、精度よく液体水素残量Vを算出するためには、FCシステム18が非運転中の場合が適している。
【0050】
以下、本実施の形態のシステムが、上記手法に基づいて液体水素残量Vを算出する手順を、具体的に説明する。
【0051】
図6は、ECU16が、タンク内部の液体水素残量を算出するために実行するルーチンのフローチャートである。図6に示すルーチンでは、先ず、タンク10に設置された圧力センサ12により、タンク内圧力Pが検出される(ステップ300)。そして検出された出力信号はECU16に供給される。
【0052】
次に、図6に示すルーチンでは、ECU16により、FCシステムに供給する水素ガスの容量Voutが算出される(ステップ302)。ここでは、具体的には、FCシステムの発電量情報がECU16に供給され、この信号等に基づいて必要な水素ガス容量が推定される。
【0053】
次に、供給水素ガスVoutを発生させるために必要な熱量Eoutが算出される(ステップ304)。ここでは、具体的には、先ず、水素の蒸発潜熱Egが特定される。蒸発潜熱Egは圧力によって変化する値である。ECU16は蒸発潜熱Egと圧力の関係を定めたマップを記憶している。ここでは、そのマップに従って、圧力センサ12により供給されたタンク内圧力に対応する蒸発潜熱Egが特定される。次いで、蒸発潜熱Eg、タンク内部の温度、および圧力に基づいてこの容積Voutの水素ガスを発生させるための熱量Eoutが算出される。
【0054】
次に、ECU16によりヒータ14が駆動され、上記算出されたEoutに、液体残量検出用の投入熱量αを加えた熱量Eout+αが液体水素に投入される(ステップ306)。熱量が投入されると、一部の液体水素が気体に相転移する一方、容積Voutの水素ガスはタンク外部に排出され、FCシステムに供給される。圧力センサ12はこの後の圧力P’を検出する(ステップ308)。
【0055】
次に、図6に示すルーチンでは、ECU16により、タンク内部に残る水素ガスの容量が算出される(ステップ310)。ここでは、具体的には、投入された熱量の影響により相転移した水素ガスの総容積から、FCシステムに供給された容積Voutを差し引いた値が、かかる値として算出される。
【0056】
上記ステップにおける処理が終了すると、次いで、ECU16により、熱量投入前後におけるタンク内部の圧力変化量ΔPが算出される(ステップ312)。そして、タンク内の液体水素残量Vが算出される(ステップ314)。ステップ310、および312では、具体的には、図3に示すステップ108、および110と同様の処理が実行される。
【0057】
以上説明したとおり、本実施形態のシステムによれば、FCシステム運転中においても、供給水素ガスを相転移させるために必要な熱量Eout、および液体残量検出用の投入熱量αを投入し、その前後のタンク内圧力変化量に基づいてタンク内の液体水素残量Vが算出される。このため、FCシステム運転中においても、常に精度よく液体水素残量を算出することができる。
【0058】
ところで、上述した実施の形態3においては、供給水素ガスを発生させるために必要な熱量Eout、および液体残量検出用の投入熱量αをタンク内部に投入し、その前後のタンク内圧力変化量に基づいてタンク内の液体水素残量Vを算出することとしているが、使用する熱量はこれに限られない。すなわち、上記ステップ306にて投入された熱量だけでなく、実施の形態2に示した遺漏熱量も加算し、これに対応する圧力変化量に基づいて、液体水素残量を算出することとしてもよい。
【0059】
また、上述した実施の形態3においては、水素燃料車両等のFCシステムについて、システム運転中、すなわち水素ガス供給中においても液体水素の残量を算出することができることとしているが、水素ガスの供給先は、当該システムに限定されるものではない。すなわち、水素ガス供給量を取得できるのであれば、他の機関等(水素エンジン等)に対して、本実施の形態を実行し、液体水素残量を算出することとしてもよい。
【0060】
尚、上述した実施の形態3においては、ECU16が、上記ステップ306において、タンク10の内部に熱量Eout+αを投入することにより、前記第1の発明における「タンク内熱量取得手段」が、ECU16が、上記ステップ300、または308において、圧力センサ12により検出されたタンク内圧力を取り込むことにより、前記第1の発明における「内部圧力取得手段」が、ECU16が、上記ステップ314の処理を実行することにより、前記第1の発明における「液体水素量算出手段」が、それぞれ実現されている。
【0061】
また、上述した実施の形態3においては、FCシステムに水素ガスを供給することにより、前記第2の発明における「水素ガス供給手段」が、ECU16が、上記ステップ302において、水素ガス供給量を推定することにより、前記第2の発明における「水素ガス供給量取得手段」が、実現されている。
【0062】
また、上述した実施の形態3においては、ECU16が、上記ステップ306において、ヒータ14を駆動することにより、前記第3の発明における「加熱手段」が、実現されている。
【0063】
実施の形態4.
[実施の形態4の特徴]
次に、図7、および8を参照して、本発明の実施の形態4について説明する。本実施の形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、ECU16に、後述する図8に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0064】
上述した実施の形態2では、タンク内へ自然に遺漏する遺漏熱量、およびその前後のタンク内部圧力変化量に基づいて、タンク内の液体水素残量Vの算出を行うこととしている。ところで、この遺漏熱量は、タンク形状、およびタンク内外の温度差に基づいて推定される。しかしながら、タンク形状のみでは、生産のばらつきに基づくタンク毎の個別特性を反映させることができず、推定された遺漏熱量には誤差が生じる。このため、この推定誤差を補正することができれば、更に精度よく液体水素残量を算出することができることとなる。
【0065】
ここで、図7は、同容量の水素ガスVeが発生した場合の、液体水素残量Vと相転移前後の圧力変化量ΔPの関係を示す図である。この図によれば、圧力変化量ΔPは、液体水素残量が多いほど、つまりタンク内部の水素ガス容量が少ないほど、大きな値となる傾向を示している。このため、タンク内部が満充填状態に近いほど、Ve発生前後の圧力変化量ΔPを、より高精度に検出することが可能となる。
【0066】
遺漏熱量Eは、上記(2)、(3)式に基づいて、以下のように表される。
=Eg(Vt−V)×ΔP/RT ・・・(4)
前述のとおり、水素ガス容積(Vt−V)が少ないほど、精度よくEを算出することができるため、満充填に近い液体水素容積Vが特定されるほど望ましい。そこで、例えば、オーバーフィリングセンサを使用し、満充填時のVを特定することができる。かかるセンサは、液面が所定の位置に達したか否かを精度よく検出することができる。タンク10の内部には本センサが設置されている。このため、満充填時における規定容量の液体水素を精度よく充填することができる。
【0067】
以上より、本実施の形態では、満充填時の水素ガス容積(Vt−V)、Eg、ΔP、Tが特定される。そして、これらの値を上記(4)式に代入することにより、タンク毎の個別特性が反映された、正確な遺漏熱量を算出することができる。
【0068】
以下、本実施の形態のシステムが、上記手法に基づいて液体水素残量Vを算出する手順を、具体的に説明する。
【0069】
図8は、ECU16が、タンク内部の液体水素残量を算出するために実行するルーチンのフローチャートである。図8に示すルーチンでは、先ず、タンク10に液体水素が満充填されているかが判断される(ステップ400)。ここでは、具体的には、タンクに設置されたオーバーフィリングセンサの検知信号に基づいて満充填か否かが判断される。これにより、タンク内部に規定の空き容量が形成されているか否かを判断することができる。そして、上記条件を満たす場合には次のステップに進み、満たさない場合には、本ルーチンは終了する。
【0070】
次に、図8に示すルーチンでは、タンク10に設置された圧力センサ12により、液体水素が満充填されている状態でのタンク内圧力Pが検出される(ステップ402)。次に、所定時間経過後のタンク内部の圧力P’が検出される(ステップ404)。そして、ECU16により、遺漏熱量侵入前後におけるタンク内部の圧力変化量ΔPが算出される(ステップ406)。これらの処理は、具体的には、図5に示すステップ200、204、208の処理と同様である。上述したとおり、満充填時はタンク内部圧力の変化量が大きい。したがって、上記ステップ406においては、少量の遺漏熱量であっても、精度よく圧力変化量を算出することができる。
【0071】
図8に示すルーチンでは、次に、ECU16により、タンク10内部に遺漏した遺漏熱量Eが算出される(ステップ408)。ここでは、具体的には、先ず、水素の蒸発潜熱Egが特定される。前述のとおり、蒸発潜熱Egは圧力によって変化する値である。ECU16は蒸発潜熱Egと圧力の関係を定めたマップを記憶している。ここでは、そのマップに従って、圧力センサ12により供給されたタンク内圧力に対応する蒸発潜熱Egが特定される。次いで、ステップ406にて算出されたΔP、タンク内部温度Tが特定される。
【0072】
上記ステップ408においては、次いで、水素ガス容積(Vt−V)が特定される。前述のとおり、満充填時の液体水素容積Vは正確に特定することができる。このため、タンク容積VtからVLを差し引くことにより、(Vt−V)が特定される。そして、ECU16により、これらの値が上式(4)に代入され、遺漏熱量Eが算出される。
【0073】
上記ステップが終了すると、次に、図5に示すステップ202にて遺漏熱量の推定に使用された基準遺漏熱量が、上記ステップ408において満充填時の実測値に基づいて算出されたEと差し替えられる(ステップ410)。そして、図8に示すルーチンは終了とされる。この後、別途図5に示すルーチンが実行されることにより、本ルーチンにて算出されたEが反映されたタンク内の液体水素残量Vを算出することができる。
【0074】
以上説明したとおり、本実施形態のシステムによれば、タンク内へ自然に遺漏する遺漏熱量Eが満充填時の実測値に基づいて正確に算出される。このため、タンク形状等から遺漏熱量を推定する手法においては考慮することができなかった、タンク毎の個別特性を反映させることができ、常に精度よく液体水素残量を算出することができる。
【0075】
ところで、上述した実施の形態4においては、オーバーフィリングセンサを用いて特定された満充填時の水素ガス容積(Vt−V)に基づいて、遺漏熱量Eを算出することとしているが、タンクの充填状態、および特定方法はこれに限られない。すなわち、タンク内部の水素ガス容積を正確に特定できるのであれば、満充填時でなくてもよいし、また、他の特定方法を用いて特定してもよい。
【0076】
尚、上述した実施の形態4においては、ECU16が、上記ステップ400において、タンク内部に液体水素が満充填されたことを検知することにより、前記第5の発明における「満充填検知手段」が、上記ステップ402、または404において、圧力センサ12により検出されたタンク内圧力を取り込むことにより、前記第5の発明における「満充填時内部圧力取得手段」が、上記ステップ408において、遺漏熱量を算出することにより、前記第5の発明における「基準遺漏熱量算出手段」が、上記ステップ410において、遺漏熱量が、図5に示すステップ202の基準遺漏熱量として使用されることにより、前記第5の発明における「遺漏熱量補正手段」が、それぞれ実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1のタンク内部の液体水素残量検知システムの原理を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図4】遺漏熱量Eのタンク内外の温度差ΔTに対する依存性を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態2において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態3において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図7】圧力変化量ΔPのタンク内部の液体水素容積Vに対する依存性を説明するための図である。
【図8】本発明の実施の形態4において実行されるルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0078】
10 液体水素タンク
12 圧力センサ
14 ヒータ
16 ECU(Electronic Control Unit)
18 FCシステム
液体水素残量
Vt タンク容積
Ve 液体水素から相転移した水素ガス容積
E 投入熱量
遺漏熱量
Eg 蒸発潜熱
R ガス定数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体水素を貯蔵するタンクを有する液体水素残量を検知するためのシステムであって、
前記タンクの内部に侵入したタンク内熱量を取得するタンク内熱量取得手段と、
前記タンクの内部圧力を取得する内部圧力取得手段と、
前記タンク内熱量と、前記内部圧力とに基づいて、タンク内液体水素量を算出する液体水素量算出手段と、
を備えることを特徴とする液体水素残量検知システム。
【請求項2】
水素ガスを前記タンクの外部に供給する水素ガス供給手段と、
前記水素ガス供給手段により供給される水素ガス供給量を推定、あるいは測定する水素ガス供給量取得手段と、を更に備え、
前記液体水素量算出手段は、
前記タンク内熱量と、前記内部圧力と、前記水素ガス供給量とに基づいて、タンク内液体水素量を算出することを特徴とする請求項1記載の液体水素残量検知システム。
【請求項3】
液体水素の気化を行う加熱手段を更に備え、
前記タンク内熱量は、前記加熱手段により前記タンクの内部に侵入した熱量であることを特徴とする請求項1、および2記載の液体水素残量検知システム。
【請求項4】
前記タンク内熱量は、前記タンクの外部から侵入する遺漏熱量を包含し、
前記タンク内熱量取得手段は、前記遺漏熱量を推定する遺漏熱量推定手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3記載の液体水素残量検知システム。
【請求項5】
前記タンクの内部に液体水素が満充填されたことを検知する満充填検知手段と、
前記タンクの満充填時の内部圧力を取得する満充填時内部圧力取得手段と、
前記タンクの満充填時の空き容量と、前記タンクの満充填時の内部圧力とに基づいて、基準遺漏熱量を算出する基準遺漏熱量算出手段と、
前記基準遺漏熱量に基づいて、前記遺漏熱量を補正する遺漏熱量補正手段と、
を備えることを特徴とする請求項4記載の液体水素残量検知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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