説明

液体燃料を製造するための触媒およびその製造方法

【課題】合成ガスから1段で、メタン選択性とCO選択性をより低くし、かつイソパラフィン収率をより高くした液体燃料を製造することができる触媒およびその製造方法を提供する。
【解決手段】(A)粒子状固体をベータゼオライトの水熱合成反応時に用いるテンプレートを含んだ水溶液で還流処理を行う工程、(B)還流処理された粒子状固体を、ベータゼオライトの前駆溶液と共にリアクターに入れ、水熱合成反応を行う工程、及び(C)水熱合成反応後に、洗浄、乾燥および焼成処理を行う工程、を包含する粒子状固体の表面をベータゼオライトからなる膜でコーティングしてなる触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素と水素を主成分とする合成ガスを原料として液体燃料を製造するための触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の必要性が求められ、硫黄分および芳香族炭化水素の含有量が低いクリーンな液体燃料への要求が急速に高まってきている。また、埋蔵量に限りのある原油資源を有効に使う必要性より、石油に代替しうるエネルギー源の開発が望まれてきている。以上のような要望に応える技術として、天然ガスを原料に用い、硫黄分および芳香族炭化水素をほとんど含まない液体燃料を製造するGTL(Gas to Liquid)がますます注目されるようになってきている。
GTLによる液体燃料の製造法としては、天然ガスから水素と一酸化炭素を製造する改質工程を経た後、水素と一酸化炭素からなる合成ガスを原料として高級パラフィンを製造するフィッシャー・トロプシュ合成(以下、FT合成という。)を行う工程と、高級パラフィンに富むFT合成生成物を低級パラフィンに富む生成物に転換する水素化分解および異性化を行う工程の、2段階で処理する方法が一般に知られている。
【0003】
FT合成は、鉄やコバルト等の活性金属をシリカやアルミナ等の担体上に担持して得られる触媒(以下、FT合成触媒という。)を用いて実施する方法が一般に知られている。また、水素化分解・異性化反応は、ゼオライトやアモルファスの固体酸触媒を用いて実施する方法が一般に知られている。
一方、非特許文献1には、FT合成触媒とゼオライト等の固体酸触媒を物理的に混合した触媒を用いることで、合成ガスから1段で低級パラフィンを製造することが示されている。
また、非特許文献2には、粒子状のFT合成触媒の外表面にZSM−5の膜をコーティングしたカプセル触媒が調製され、該カプセル触媒を用いて合成ガスから1段で液体燃料を製造する反応が示されている。
【非特許文献1】Fujimoto 外,「ケミストリー・レターズ(Chemistry Letters)」, 1985年,p783
【非特許文献2】「石油学会第54回研究発表会講演要旨」,石油学会,平成17年5月16日,102
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
FT合成と水素化分解・異性化反応を一段で行うプロセスは、別々に反応を行う場合と比較して装置の建設コストが低く、経済性の高いプロセスであるといえる。更に経済性を向上させる為には、触媒の開発は必要不可欠である。しかしながら、例えば、上記のようにFT合成触媒にZSM−5膜を有するカプセル触媒の製造例はあるものの、それ以上の高性能を有する触媒、すなわち副生するメタンおよびCO選択性が低く、イソパラフィン収率が高い触媒の報告例は未だ無いに等しい。経済性のあるプロセスによるクリーン燃料製造の為には、メタン選択率およびCO選択率をより低減し、かつイソパラフィン収率をより高める触媒が求められている。
【0005】
本発明者らはかかる課題を解決するため鋭意研究したところ、優れた水素化分解および異性化が期待できるベータゼオライト膜を有するカプセル触媒を調製することにより、この問題を解決できることが分かった。しかしながら、従来公知の方法を用いてカプセル化触媒の調製を行っても粒子状固体の表面にベータゼオライトの膜を生成させることはできなかった。その理由は明らかではないが、ある特殊な合成条件下においてのみベータゼオライトが粒子状固体触媒の表面上で膜を形成することが可能となるためと考えられる。また、ベータゼオライト膜形成時にFT合成触媒上に担持された金属が流出してしまうという問題もあり、このこともベータゼオライト膜を有するカプセル触媒の製造を困難にしている要因といえる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らはさらに検討を行った結果、粒子状固体に特定の前処理を施し、かつ、水熱合成反応時に特殊な条件で攪拌処理することによって、FT合成触媒上に担持された金属の流出を抑制したベータゼオライト膜を有する粒子状固体触媒を調製できることを見出し、上記の課題を解決するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、粒子状固体の表面をベータゼオライトからなる膜でコーティングしてなる触媒に関する。
また、本発明は、(A)水熱合成反応を行う前に、粒子状固体をベータゼオライトの水熱合成反応時に用いるテンプレートを含んだ水溶液で還流処理を行う工程、(B)還流処理された粒子状固体を、ベータゼオライトの前駆溶液と共にリアクターに入れ、水熱合成反応を行う工程、及び(C)水熱合成反応後に、洗浄、乾燥および焼成処理を行う工程、を包含することを特徴とする粒子状固体の表面をベータゼオライトからなる膜でコーティングしてなる触媒の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の触媒を用いることにより、合成ガスから1段で、メタン選択性とCO選択性をより低くし、かつイソパラフィン収率をより高くした液体燃料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳述する。
本発明の触媒は、粒子状固体の表面をベータゼオライトからなる膜でコーティングしてなる触媒である。
【0010】
粒子状固体は主として無機酸化物から構成される。粒子状固体を構成する無機酸化物としては、シリカ、アルミナ、チタニア、シリカアルミナ等を好ましい例として挙げることができる。この中ではアルミナが特に好ましい。
使用する無機酸化物の平均粒子径については特に制限はないが、通常10μm〜10mm、好ましくは50μm〜5mmのものをプロセスに応じ適宜選択して使用する。また、使用する無機酸化物の比表面積についても特に制限はないが、通常100〜400m/g、好ましくは200〜300m/gのものが用いられる。
【0011】
粒子状固体としては前記無機酸化物に金属を担持したものが好ましく用いられる。担持する金属としてはCo金属が特に好ましい。担持量には特に制限はないが、無機酸化物担体に対して金属あたり1〜50質量%が好ましく、さらに好ましくは5〜30質量%である。
【0012】
また本発明においては、必要であれば、さらに、Ru、Zr、ReおよびOsから選択される1種または2種以上の金属をプロモーターとして担持することができる。これらのプロモーターの担持量は特に制限はないが、通常、粒子状固体あたりの金属量として1〜20質量%の範囲で使用することができる。
【0013】
粒子状固体の表面をベータゼオライトからなる膜でコーティングする方法としては、下記の工程(A)〜(C)を包含する。
(A)水熱合成反応を行う前に、粒子状固体をベータゼオライトの水熱合成反応時に用いるテンプレートを含んだ水溶液で還流処理を行う工程
(B)還流処理された粒子状固体を、ベータゼオライトの前駆溶液と共にリアクターに入れ、水熱合成反応を行う工程
(C)水熱合成反応後に、洗浄、乾燥および焼成処理を行う工程
【0014】
すなわち、まず前処理として、粒子状固体をベータゼオライトの水熱合成反応時に用いるテンプレートを含んだ水溶液中で還流処理を行う。テンプレートとしては、通常、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウムなどを用いることができる。テンプレート水溶液の濃度は、通常1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%の範囲で行う。この還流処理時間は特に制限はないが、好ましくは2〜5時間行う。さらに必要に応じて、還流後の粒子状固体を水および/またはアルコールで洗浄する。
【0015】
次に、上記の還流処理による前処理後の粒子状固体を、ベータゼオライトの前駆溶液と共にリアクターに入れ、水熱合成反応を行わせる。前駆溶液としては、SiO、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH:Tetraethyl annmonium Hydroxide)、((CHCHO)Al(Aluminium triisopropoxide)を含む水溶液が好ましく用いられる。
水熱合成反応の条件は、特に制限はなく、通常の条件にて行うことができる。例えば、反応温度は100〜200℃、好ましくは130〜180℃、反応時間は1〜10日、好ましくは1〜5日の範囲で行うことができる。
【0016】
また、本発明においては、水熱合成反応は攪拌下で行われるが、一定の速度で攪拌を継続して行うのではなく、攪拌と停止を繰り返して行う。攪拌速度は、1〜20rpmが好ましく、より好ましくは1〜10rpmである。この場合、攪拌と停止の回数は少なくとも2回以上繰り返して行うことが好ましく、より好ましくは5回以上であり、さらに好ましくは10回以上であり、効果および経済性等を考慮して適宜決定する。具体的には、まず1〜20時間、好ましくは1〜5時間攪拌下に反応を行わせ、次に反応を停止する。停止時間は好ましくは30分〜10時間、より好ましくは30分〜5時間である。次に再び攪拌を行う。2回目以降の攪拌時間は1〜30分、好ましくは1〜10分である。
【0017】
水熱合成反応終了後、ベータゼオライトからなる膜で表面をコーティングされた粒子状固体は、水で充分洗浄した後、乾燥および焼成処理を行う。乾燥条件については、特に制限はないが、通常、100〜200℃、好ましくは110〜150℃で、0.5〜48時間、好ましくは5〜24時間行う。焼成条件についても、特に制限はないが、通常、空気雰囲気下において、300〜600℃、好ましくは350〜580℃において、0.5〜10時間、好ましくは3〜8時間の範囲で行う。
【0018】
以上の方法により、粒子状固体の表面をベータゼオライトからなる膜でコーティングした触媒が得られる。粒子状固体の表面にコーティングされるベータゼオライトの量には特に制限はないが、粒子状固体に対して好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは10〜30質量%の範囲である。
本発明の触媒は、合成ガスから1段で、メタン選択性とCO選択性をより低くし、かつイソパラフィン収率をより高くした液体燃料を製造するのにきわめて好適である。
【実施例】
【0019】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
[実施例1]
(1)粒子状固体の調製
2.7gのCo(NO・6HOをイオン交換水4.7gで溶かした水溶液を調製し、400℃で2時間乾燥したAl(粒子径10−20mesh、比表面積180m/g、細孔容積0.93ml/g)5.0gに、Incipient Wetness法により含浸させた。その後、デシケーター中に置き、水流ポンプで1時間減圧した後、120℃で12時間乾燥させた。その後、マッフル炉中で20℃から400℃まで3時間かけて昇温し、400℃で2時間保持し焼成した。粒子状固体中のCo含有量は10質量%となるようにした。
【0021】
(2)ベータゼオライト前駆溶液の調製
4.1gのSiO(fumed Silica、比表面積200m/g)を、10.3gのTEAOHに溶かし、1時間攪拌して均一なコロイド状にした。
((CHCHO)Al(Aluminium triisopropoxide)0.3gを、4.1gのTEAOHに溶解し、SiO/TEAOH溶液に15分かけて滴下した。その後、3.6gのイオン交換水を加え、室温で2時間攪拌し、前駆溶液を調製した。
【0022】
(3)粒子状固体の前処理
前記で調製した粒子状固体1gを25質量%TEAOH水溶液5g中に入れ、104℃で4時間還流した。
【0023】
(4)水熱合成反応
前処理を行った粒子状固体を、濾紙で表面のエタノールを吸い取った後、水熱合成反応リアクターに入れた。次に、調製したベータゼオライト前駆溶液をリアクター入れ、155℃で3日間水熱合成反応を行った。
回転は、最初は2rpmで5時間回転させ、その後は、1時間停止の後2rpmで2分間回転、という操作を60回繰り返した。水熱合成反応終了後、反応生成物をリアクターから取り出し、イオン交換水で洗液のpHが8以下になるまで洗浄した。洗浄後、120℃で12時間乾燥し、その後、マッフル炉で20℃から550℃まで8時間かけて昇温させ、550℃で5時間保持し焼成した。
以上の工程により、ベータゼオライト皮膜を有する粒子状固体触媒を調製した。
【0024】
[実施例2]
粒子状固体の前処理工程において、TEAOH水溶液の還流処理後に、イオン交換水での洗浄及びエタノールへの浸漬を行わずに、その他の工程は、実施例1と同様の操作で触媒を調製した。
【0025】
[比較例1]
粒子状固体の前処理工程を行わなず、その他は実施例1と同様の操作で触媒を調製した。
【0026】
[比較例2]
水熱合成反応の工程において、回転と停止の繰り返しを行わずに、2rpmで回転させ続けて水熱合成反応を行い、その他は実施例1と同様の操作で触媒を調製した。
【0027】
実施例1〜2及び比較例1〜2において得られた触媒について、表面のベータゼオライト膜の生成の有無をXRD及びSEMで確認した。また、粒子状固体中のCo含有量をEDXにより調べた。その結果を表1に示す。
表1に示されるとおり、粒子状固体の前処理工程がない場合(比較例1)はベータゼオライト膜が形成されず、かつCoの流出が大きい。また、水熱合成反応時において攪拌の回転と停止を繰り返さない場合(比較例2)には、Coの流出は抑制されるものの、ベータゼオライト膜が生成しなかった。実施例2のように、前処理後にイオン交換水での洗浄及びエタノールへの浸漬を行わない場合には、ベータゼオライト膜は形成するものの、Coの流出がやや見られた。
実施例1の操作に従って調製を行った場合は、ベータゼオライト膜が生成し、かつ粒子状固体中のCo量も低下しないことが分かった。
【0028】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状固体の表面をベータゼオライトからなる膜でコーティングしてなる触媒。
【請求項2】
粒子状固体がアルミナを主成分とする無機酸化物からなることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
粒子状固体がCoを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
粒子状固体が、さらにRu、Zr、Re、Os及びそれらの組合せから成る群より選択される金属を含むことを特徴とする請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
(A)水熱合成反応を行う前に、粒子状固体をベータゼオライトの水熱合成反応時に用いるテンプレートを含んだ水溶液で還流処理を行う工程、(B)還流処理された粒子状固体を、ベータゼオライトの前駆溶液と共にリアクターに入れ、水熱合成反応を行う工程、及び(C)水熱合成反応後に、洗浄、乾燥および焼成処理を行う工程、を包含することを特徴とする粒子状固体の表面をベータゼオライトからなる膜でコーティングしてなる触媒の製造方法。
【請求項6】
工程(A)において、ベータゼオライトのテンプレートとして、水酸化テトラエチルアンモニウムを用いることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
工程(B)において、水熱合成反応時に、撹拌と停止を繰り返すことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−196187(P2007−196187A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20469(P2006−20469)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】