説明

液体用タンク

【課題】無重力または微小重力環境において液体トラップから気体を排出可能とする。
【解決手段】無重力または微小重力環境に配置され、球面状の底部に排出部50が形成されたタンク本体20と、このタンク本体20内の底部に設置され、かつタンク本体20内と排出部50とを接続する箱状の液体トラップ30と、液体トラップ30の無重力または微小重力環境にて気体が集められる位置に設けられ、無重力または微小重力環境にて液体トラップ内30から気体をタンク本体20内へ排出する通気口35とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無重力または微小重力環境下において液体を収容する液体用タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静止衛星などの、無重力または微小重力環境下に配置される液体用タンクでは、重力による気液分離を行うことができないため、毛細管現象を利用したチャンネルメッシュ式の液体捕捉機構が採用されている。チャンネルメッシュ式は、タンク内に金属メッシュを備えたチャンネル(流路)を設け、この金属メッシュの毛細管現象を利用して液体を捕捉し、チャンネル内へ導入する機構であって、チャンネルを4本から8本配置することにより、タンクに対してどの方向の加速度が加えられた場合にも、液体を捕捉することができるように構成されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、チャンネルメッシュ式の液体捕捉機構では、金属メッシュをチャンネルに固定する溶接作業に手間がかかるため、製造コストの増大を招いてしまうだけでなく、金属メッシュの重量が大きいため、タンク全体の重量が増大されてしまうという問題があった。
【0004】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、無重力または微小重力下で使用でき、軽量で製造コストが小さい液体捕捉機構を備えた液体用タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、第1の液体用タンクは、無重力または微小重力環境に配置され、底部に排出部が形成されたタンク本体と、このタンク本体内の底部に設置され、かつタンク本体内と排出部とを接続する箱状の液体トラップと、この液体トラップからタンク本体内の内面に沿って設けられ、タンク本体内の液体を液体トラップへ案内する液体捕捉用薄板とを備えることを特徴としている。
この発明によれば、液体捕捉用薄板に接触する液体の自由界面曲率半径差による表面張力差によって、タンク本体内の液体が液体トラップ内に案内され、液体トラップに液体を収容することができるので、無重力下または微小重力下であってもタンク本体内の液体をタンク外へ排出させることができる。さらに、液体捕捉機構は、軽量で製造コストが小さい液体捕捉用薄板を用いているので、軽量で安価な液体用タンクの実現が可能となる。
【0006】
第2の液体用タンクは、第1の液体用タンクにおいて、さらに、液体トラップの底部がタンク本体の底部よりも小さい曲率半径の球面状に形成されていることを特徴としている。
この発明によれば、曲率半径の大きいタンク本体の底部の内面と、曲率半径の小さい液体トラップの底部の外面との間に、タンク本体と液体トラップとの接続部分に近づくほど小さくなる隙間が形成される。したがって、タンク本体内の液体は、表面張力によって隙間の小さい方すなわちタンク本体と液体トラップとの接続部分へと案内されるので、効率よくタンク本体内の液体を液体トラップ内へ収容することができる。
【0007】
第3の液体用タンクは、第1または2の液体用タンクにおいて、さらに、液体トラップ内の中央部に上下方向に設けられた、液体トラップ内と排出部とを連通する液体排出孔を有する管状部材と、この管状部材から放射状に複数枚立てられた板状部材とを備えていることを特徴としている。
この発明によれば、放射状に並べられた板状部材同士の間に、中央の管状部材に近づくほど小さくなる隙間が形成されるので、液体トラップ内の液体は、管状部材の液体排出孔を塞ぐように管状部材の周囲に捕集される。したがって、タンク本体内を加圧して液体トラップ内が加圧されれば、管状部材の周囲に捕集された液体が液体排出孔からタンク外へ圧出されるので、容易に液体トラップ内の液体をタンク外へ排出することができる。
【0008】
第4の液体用タンクは、液体トラップの上面が球面状に形成され、この液体トラップ上面の内壁面と板状部材との隙間が、上辺では管状部材に近づくほど大きく、側辺では下方ほど小さく、下辺では管状部材に近づくほど小さくなるように形成されていることを特徴としている。
この発明によれば、液体トラップ内壁面と板状部材端部との間に、上面中央部から側面を経て下面中央部に向かって徐々に小さくなる隙間が形成されるので、液体トラップ内で壁面に付着した液体が、この隙間に沿って下部中央に案内される。したがって、液体トラップ内では液体が下部中央に集まる一方、気体が上部外側に移動されるので、液体トラップ内での気液分離が可能となる。
【0009】
第5の液体用タンクは、液体捕捉用薄板が、タンク本体内面との間に隙間を設けた状態で液体トラップに固定されていることを特徴としている。
この発明によれば、液体捕捉用薄板がタンク本体に対して固定されずに備えられるので、タンク本体の圧力や温度差による膨張収縮の影響を受けない。したがって、応力による破損を防止する強度を確保する必要がなく、薄く軽量な液体捕捉用薄板を用いることができるので、軽量かつ安価な液体用タンクの実現が可能となる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、第1の液体用タンクによれば、液体捕捉用薄板に接触する液体の自由界面曲率半径差による表面張力差によって、タンク本体内の液体が液体トラップ内に案内され、液体トラップに液体を収容することができるので、無重力下または微小重力下であってもタンク本体内の液体をタンク外へ排出させることができる。さらに、液体捕捉機構は、重量が大きく製造に手間がかかるチャンネルメッシュ式ではなく、軽量で製造コストが小さい液体捕捉用薄板を用いているので、軽量で安価な液体用タンクの実現が可能となる。
【0011】
第2の液体用タンクによれば、曲率半径の大きいタンク本体の底部の内面と、曲率半径の小さい液体トラップの底部の外面との間に、タンク本体と液体トラップとの接続部分に近づくほど小さくなる隙間が形成される。したがって、タンク本体内の液体は、表面張力によって隙間の小さい方すなわちタンク本体と液体トラップとの接続部分へと案内されるので、容易にかつ効率よくタンク本体内の液体を液体トラップ内へ収容することができる。
【0012】
第3の液体用タンクによれば、放射状に並べられた板状部材同士の間に、中央の管状部材に近づくほど小さくなる隙間が形成されているので、液体トラップ内の液体は、管状部材の液体排出孔を塞ぐように管状部材の周囲に捕集される。したがって、タンク本体内を加圧して液体トラップ内が加圧されれば、管状部材の周囲に捕集された液体が液体排出孔からタンク外へ圧出されるので、気体を排出させにくく、容易にかつ効率よく液体トラップ内の液体をタンク外へ排出することができる。
【0013】
第4の液体用タンクによれば、液体トラップ内壁面と板状部材端部との間に、上面中央部から側面を経て下面中央部に向かって徐々に小さくなる隙間が形成されるので、液体トラップ内で壁面に付着した液体が、この隙間に沿って下部中央に案内される。したがって、液体トラップ内では液体が下部中央に集まる一方、気体が上部外側に移動されるので、液体トラップ内での気液分離が容易となり、効率のよい液体用タンクの実現が可能となる。
【0014】
第5の液体用タンクによれば、液体捕捉用薄板がタンク本体に対して固定されずに備えられるので、タンク本体の圧力や温度差による膨張収縮の影響を受けない。したがって、応力による破損を防止する強度を確保する必要がなく、薄く軽量な液体捕捉用薄板を用いることができるので、軽量かつ安価な液体用タンクの実現が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態による液体用タンク10の断面図、図2はこの液体用タンク10から排出するために液体が一旦収容される液体トラップ30の断面図、図3はこの液体トラップ30の横断面図である。液体用タンク10は静止衛星のスラスタ推薬用であって、球形のタンク本体20と、それぞれ球面状に形成された上面31および下面32と円筒状の側面33とからなる箱状の液体トラップ30と、タンク本体20の内面に沿って設けられた液体捕捉用薄板40とを備えている。
【0016】
この液体用タンク10は、静止衛星の姿勢制御を行うためのスラスタの駆動によって、図の前後左右方向に加速される。図1では、液体をハッチングで表していて、液体用タンク10が右方向に加速されたときの液体の状態を左半分に示し、液体用タンク10が静止した無重力状態の液体の状態を右半分に示している。
つまり、液体用タンク10内が加速されることにより、液体はタンク本体20の図の横方向に沿う球体の中央部を横切る外周線付近に移動するので、この赤道付近と液体トラップ30とを繋ぐように液体捕捉用薄板40を配置している。
【0017】
タンク本体20は、底部の中央に排出部50が形成され、上部にベント60が形成されている。排出部50は、タンク本体20内の液体をタンク外へ排出し、スラスタエンジン(図示せず)に供給するための液体通路の一端であって、タンク本体20の内外は、この排出部50に接続されている液体トラップ30を介して連通されている。ベント60は、タンク本体20内に気体を送り込んだり、タンク本体20内の気体をタンク外へ排出するための気体通路の一端である。なお、タンク本体20を回転対称体とすることにより、液体用タンク10が加速されたときの慣性力により液体が集まりやすいので、液体が捕集されやすい。液体を捕集しやすい回転対称体として、本実施形態では球状に形成しているが、円錐状などでもよい。また、タンク本体20の液体が集まる位置に、液体の排出部21が設けられている。この排出部21を設けることにより、液体用タンク10が加速されているときにここから液体をタンク外に排出してスラスタに供給することができる。
【0018】
液体捕捉用薄板40は、タンク本体20内の内面に沿う円弧状の薄板で形成されていて、タンク本体20内面との間に隙間を設けた状態で、その一端が液体トラップ30の下面32に連なるように固定されている。この液体捕捉用薄板40は、接触する液体の自由界面曲率半径差による表面張力差によって液体を案内するものである。液体を効率よく捕捉するために、液体捕捉用薄板40は液体が慣性力により移動して集まる位置すなわち液体用タンク10の受ける加速方向とは反対側に設けられることが好ましい。本実施形態では、液体用タンク10が図1に示す左右方向に加速されると想定しているので、この反対側である左右の2箇所に設けられているが、液体用タンク10の加速方向に応じて適宜設けることが望ましい。また、本実施形態では、液体捕捉用薄板40を液体が集まる位置近傍から液体トラップ30に連なるまでの約90°の円弧形状にすることにより、装置全体の重量の軽減を図っている。
【0019】
また、液体捕捉用薄板40は、タンク本体20内面との間に隙間を設けるように構成されていることにより、タンク本体20が内圧や温度変化によって膨張収縮してもその変形を伝えられることがないので、強度保持を図るために板厚を大きくする必要がなく、装置全体の軽量化を可能としている。
【0020】
液体トラップ30は、図2に示すように、タンク本体20の上下方向の軸と一致する軸を回転中心とする回転対称体であり、それぞれ球面状に形成された上面31および下面32と円筒状の側面33とからなり、タンク本体20内と排出部50とを接続している。下面32は、タンク本体20の底部よりも小さい曲率半径の球面形状で形成されていて、中央(排出部50近傍)から外周に離れるほど、下面32の外壁面とタンク本体20底部の内壁面との間隔が大きくなっている。タンク本体20底部の内壁面との間の液体は、隙間の小さい方すなわち液体トラップ30の中央へ捕集され、液体導入孔34から液体トラップ30内へ導かれる。
【0021】
さらに下面32には、タンク本体20内から液体トラップ30内に液体を導入するための液体導入孔34が設けられていて、この液体導入孔34に連なるように、液体捕捉用薄板40の一端が固定されている。また上面31には、液体トラップ30内から気体をタンク本体20内へ排出する通気口35が設けられている。この通気口35は、液体トラップ30内で気体が集められる位置に設けられることが望ましく、本実施形態では液体トラップ30の外周側上方に設けられている。
【0022】
液体トラップ30内には、中央部に管状部材36が上下方向に設けられ、この管状部材36から放射状に板状部材37が複数枚(本実施形態では16枚)立てられている。図3に示すように、この放射状に並べられた板状部材37同士の間には、図3に示すように中央の管状部材36に近づくほど小さくなる隙間が形成されるので、液体トラップ30内の液体は管状部材36の周囲に捕集される。なお、板状部材37の枚数は、多くなるほど液体捕集効果が高くなり好ましい反面、重量が増すというデメリットがあるので、液体の捕集効果と重量とを考慮して適宜決定される。
【0023】
また、板状部材37は、上辺37aおよび下辺37bが円弧状、側辺37cが直線状に形成された、液体トラップ30の内壁面に対して隙間をあけて沿う形状であり、液体トラップ30上面の内壁面との隙間が、板状部材37の上辺37aでは管状部材36に近づくほど大きく、側辺37cでは下方ほど小さく、下辺37bでは管状部材36に近づくほど小さくなるように形成されている。すなわち、液体トラップ30の内壁面との隙間が、上側中央部から側面を経て下側中央部に向かって徐々に小さくなる。したがって、表面張力により、液体トラップ30の内壁面に付着した液体が、内壁面に沿って隙間の小さい方すなわち液体トラップ30内の下部中央に案内される。液体が集められることにより、液体トラップ30内の気体は上部外周側に移動されるので、液体トラップ30の通気口35はこのあたりに設けられている。
【0024】
管状部材36には、液体トラップ30内と排出部50とを連通する液体排出孔36aが設けられている。さらに、管状部材36の下端には、排出部50と液体トラップ30内とを隔てる底板38が設けられている。この底板38は、管状部材36の開口を妨げないフランジ状に形成されていて、複数設けられた液体排出孔38aによって液体トラップ30内と排出部50とを連通している。板状部材37によって中央下方寄りすなわち管状部材36および底板38の周囲に捕集された液体は、管状部材36の液体排出孔36aおよび底板38の液体排出孔38aを塞ぐので、液体排出孔36a、38aが液体で塞がれた状態で液体トラップ30内を加圧することにより、捕集された液体は液体排出孔36a、38aからタンク外へ圧出される。
【0025】
以上のように構成された液体用タンク10内に収容された液体が、捕集されてタンク外へ排出される課程について説明する。
まず、ベント60からタンク本体20内に気体を送り込まれることにより、液体導入孔34または通気口35を介して液体用タンク10が加圧され、液体トラップ30内に収容された液体が排出部50からタンク外へ排出される。排出された液体を利用してスラスタが駆動され、液体用タンク10に図1の右方向の加速が加えられると、タンク本体20内の液体は、加速中は加速方向の反対方向、すなわち図1の左側に移動し、液体トラップ30内へは導入されないので、液体トラップ30はスラスタの1回の駆動を可能にするだけの容量を備えている。なお、液体トラップ30内の液体で不足する事態が生じた場合には、加速中は液体が図1の左半分に示すように偏在するので、タンク本体20に設けられた排出部21からも液体を排出することができる。
【0026】
スラスタの駆動が終了し、液体用タンク10が無重力状態となると、図1の右半分に示すように、液体は、液体捕捉用薄板40に接触していた部分から、自由界面曲率半径差による表面張力差によって液体トラップ30へと案内され、液体捕捉用薄板40に接触していなかった部分を粘性により引っ張りながら、液体導入孔34から液体トラップ30内へと導かれる。また、タンク本体20底部の内壁面と液体トラップ30の下面32との間に入った液体は、表面張力により両者の間隔が小さい中央部へと移動する。液体トラップ30内に導入された液体は、板状部材37によって管状部材36の周辺に集められ、上述したタンク外への排出が可能な待機状態となる。なお、液体トラップ30内に液体が導入される際、液体トラップ30内の気体は通気口35からタンク本体20へ排出される。
【0027】
なお、前記実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。図示のものでは、液体用タンク10の受ける加速方向に対応しかつ軽量化を図るために、液体捕捉用薄板40をタンク本体20の半周に設けているが、これを全周としてさらに高い液体捕捉効果を得ることができるような構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の液体用タンクの一実施形態を示す断面図であって、図の左半分は図の右方向へ液体用タンクが加速されるときの液体の状態を示し、図の右半分は無重力時の液体の状態を示す図である。
【図2】図1の液体トラップの詳細を示す要部拡大断面図である。
【図3】図2におけるIII-III線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 液体用タンク 20 タンク本体 21 排出部 30 液体トラップ 34 液体導入孔 36 管状部材 36a 液体排出孔 37 板状部材 40 液体捕捉用薄板 50 排出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無重力または微小重力環境に配置される液体用タンクであって、
底部に排出部が形成されたタンク本体と、
前記タンク本体内の底部に設置され、かつ前記タンク本体内と前記排出部とを接続する箱状の液体トラップと、
前記液体トラップの無重力または微小重力環境にて気体が集められる位置に設けられ、無重力または微小重力環境にて前記液体トラップ内から気体を前記タンク本体内へ排出する通気口と
を備えることを特徴とする液体用タンク。
【請求項2】
前記液体トラップ内の中央部に上下方向に設けられ、該液体トラップ内と前記排出部とを連通する液体排出孔を有する管状部材と、該管状部材から放射状に複数枚立てられた板状部材とを備え、前記通気口が前記液体トラップの外周側上方に設けられていることを特徴とする請求項1記載の液体用タンク。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−113805(P2009−113805A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311553(P2008−311553)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【分割の表示】特願2001−149482(P2001−149482)の分割
【原出願日】平成13年5月18日(2001.5.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】