説明

液体用フィルタおよび濾過濃縮装置

【課題】固液分離に用いる液体用フィルタおよび濾過濃縮装置であって安価に製造されてなるものを提供する。
【解決手段】液体用フィルタを、並設された複数の繊維体をもち隣接する繊維体同士が相互に組紐状に交叉してなる略筒状に形成され、筒内外で液体を濾過するものとする。また、濾過濃縮装置の液体用フィルタとして、並設された複数の繊維体をもち隣接する繊維体同士が相互に組紐状に斜め交叉してなる略筒状に形成され、筒内外で液体を濾過するものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水処理等に用いるための液体用フィルタおよび濾過濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体用フィルタを用いて固液分離をおこない、廃水を処理するための技術としては、従来より種々の方法が知られている。このような用途に用いられる液体用フィルタとしては、一般に、限外濾過膜(所謂UF膜)または精密濾過膜(所謂MF膜)が用いられている。
【0003】
限外濾過膜は一般に孔径10-5〜10-4mm程度の細孔を持ち、精密濾過膜は一般に孔径10-4〜10-3mm程度の細孔を持つ。限外濾過膜は精密濾過膜に比べて孔径が小さいために小径の固形物を濾別できる利点があるが、一方、濾過圧が200〜300kPaと高いために濾過処理効率(単位時間あたりの処理量、透過流束で表される)に劣る。したがって、廃水処理には濾過圧が3〜30kPaと比較的低い精密濾過膜を用いるのが一般的である。(例えば、特許文献1〜2)。
【0004】
特許文献1に開示されている精密濾過膜は中空糸膜からなり、膜密度を所定の範囲内に設定することで、一定の濾過処理効率を保ちつつ小径の固形物を濾別するものである。
【0005】
特許文献2に開示されている精密濾過膜は、組紐状の基体の内面または外面にセルロースからなる半透膜を被覆してなるものであり、この半透膜によって固液分離をおこなうとともに基体によって半透膜を補強するものである。
【0006】
ところで上述した各種の液体用フィルタは、何れも一定孔径以下の細孔を形成するために高価な材料を用い複雑な工程で製造されている。このために、製造に要するコストが非常に高くなり安価に提供できない問題があった。また、これら液体用フィルタでは、固液分離の際に固形物により細孔が閉塞するために、一定期間使用した後に洗浄して固形物を取り除くのが一般的であるが、固形物を完全に取り除くことはできないために、さらに一定期間使用した後には交換する必要があった。上述した液体用フィルタは価格が非常に高いために、濾過装置のランニングコストが高くなる問題があった。
【0007】
近年では、液体用フィルタの取り替え頻度を低減させて濾過装置のランニングコストを低減させるために、液体用フィルタの周囲に気体を供給して、気体を液体用フィルタに当接させたり、気体により未濾過液を対流させ濾過濃縮槽内で循環させることで、液体用フィルタに堆積する固形物の量を低減させる方法も開発されている(例えば、特許文献3)。しかしこの方法によると、例えば液体用フィルタとして中空糸膜を用いる場合等には、未濾過液の接触対流や気体等に当接することで液体用フィルタが揺動する。中空糸膜は、一般に外径2mm程度と細径に形成されているために、この揺動によって互いに絡み合い、破損する場合がある。液体用フィルタが破損すると交換する必要があるために、依然ランニングコストが下がらない問題があった。
【特許文献1】特開平11−99321号公報
【特許文献2】特開2003−311134号公報
【特許文献3】特開2002−320828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は固液分離に用いる液体用フィルタおよび濾過濃縮装置であって安価に製造されてなるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決する本発明の液体用フィルタは、並設された複数の繊維体をもち隣接する繊維体同士が相互に組紐状に斜め交叉してなる略筒状に形成され、筒内外で液体を濾過濃縮することを特徴とする。
【0010】
本発明の液体用フィルタは、径方向の肉厚が0.4mm以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の液体用フィルタにおいて、上記繊維体は4以上が並設され、各々の上記繊維体は500デニール以下の繊維が4以上束ねられてなることが好ましい。
【0012】
本発明の液体用フィルタにおいて、上記繊維体同士は、軸方向に2cmあたり7回以上交叉していることが好ましい。
【0013】
本発明の液体用フィルタにおいて、上記繊維体はレーヨンからなることが好ましい。
【0014】
本発明の液体用フィルタにおいて、上記複数の繊維体は軸方向の両端部で固定されていることが好ましい。
【0015】
本発明の液体用フィルタは、透過流束が0.4m/日以下の範囲であることが好ましい。
【0016】
本発明の液体用フィルタは、さらに、軸方向の両端部に筒状の剛性体が挿入されていることが好ましい。
【0017】
また、上記課題を解決する本発明の濾過濃縮装置は、
並設された複数の繊維体をもち隣接する繊維体同士が相互に組紐状に斜め交叉してなる略筒状に形成されている液体用フィルタと、
未濾過液を収容する濃縮収容容器と、
液体用フィルタの筒内部を陰圧にする吸引手段と、
液体用フィルタの周囲に気体を供給する曝気手段と、
からなり、収容容器に収容されている未濾過液を筒内外で通過させ濾過濃縮することを特徴とする。
【0018】
本発明の濾過濃縮装置において、上記曝気手段は、並設された複数の繊維体をもち隣接する繊維体同士が相互に組紐状に交叉してなる略筒状に形成されている筒状部材と筒状部材の筒内部に気体を供給する気体供給部材とからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の液体用フィルタは、並設された複数の繊維体をもち隣接する繊維体同士が相互に組紐状に斜め交叉してなる略筒状に形成されており、非常に単純な構造を持つ。このため、本発明の液体用フィルタは非常に簡単な工程で製造することができ、安価に提供することが可能である。
【0020】
また、本発明の液体用フィルタでは、筒内外で液体を濾過する。すなわち、筒外部または内部に当接した未濾過液が、繊維体同士の間隙を通って筒内部あるいは筒外部に排出されることで液体が濾過される。ここで、本発明の液体用フィルタでは、隣接する繊維体同士が相互に組紐状に斜め交叉してなるために、繊維体同士が交叉する方向は軸方向に対してバイアス方向となる。このため、繊維体同士が交叉する部分(以下、交叉部と呼ぶ)同士の間隙が、略均等に拡大あるいは縮小し易くなっている。
【0021】
例えば、液体用フィルタを未濾過液内に浸漬し、液体用フィルタの筒内部を陰圧にして筒内部にて濾過液を回収する場合には、液体用フィルタの筒内部が陰圧となるために交叉部同士の間隙が略均等に収縮する。交叉部同士の間隙は、通常の液体用フィルタにおける細孔に相当するために、交叉部同士の間隙が小さくなると、より小径の物質を濾別できるようになる。このため、本発明の液体用フィルタでは、簡単な構造からなり低コストで提供できるとともに小径の物質まで濾別できる利点がある。
【0022】
なお、例えば、液体用フィルタの筒内部に未濾過液内を通して筒外部で濾過液を回収する場合には、液体用フィルタの筒内部が陽圧となるために交叉部同士の間隙が略均等に拡大する。この場合には、濾別可能な物質は上述した筒内部で濾過液を回収する場合よりも大径となるが、交叉部同士の間隙が拡大することから濾過圧が低くなり透過流速が大きくなるために、時間あたりに濾過可能な液量が大きくなる利点がある。
【0023】
ここで、本発明の液体用フィルタでは、交叉部同士の間隙が略均等に拡大あるいは収縮することで、フィルタの部分毎に濾過可能な固形物の径が異なる等の不具合が生じることはなく、フィルタ全体で径の偏りなく固形物を濾過することが可能となる。
【0024】
また、以下の(1)〜(5)の何れかの場合には、本発明の液体用フィルタによってより小径の物質を高い精度で濾別することが可能となる。
(1)径方向の肉厚を0.4mm以上にする場合。
(2)繊維体を4以上並設し、各々の繊維体を500デニール以下の繊維が4以上束ねられてなるものとする場合。
(3)繊維体同士を、軸方向に2cmあたり7回以上交叉させる場合。
(4)繊維体をレーヨンから構成する場合。
(5)透過流束が0.4m/日以下の範囲となる場合。
【0025】
さらに、上記(1)の場合には、径方向の肉厚が0.9mm以上であることがより好ましく、径方向の肉厚が1.7mm以上であることが望ましい。(2)の場合には繊維体を14以上並設し、各々の繊維体を500デニール以下の繊維が14以上束ねられてなるものとすることが望ましい。(3)の場合には、繊維体同士を軸方向に2cmあたり7〜11回交叉させることが好ましく、繊維体同士を軸方向に2cmあたり7〜8回交叉させることが望ましい。(5)の場合には、透過流束が0.25〜0.4m/日の範囲であることが好ましく、0.3〜0.4m/日の範囲であることが望ましい。なお、繊維体は(4)に示したレーヨン以外にも、例えば、ナイロン、ポリエステル、アクリル等の既知の繊維から構成しても良い。
【0026】
本発明の液体用フィルタにおいては、隣接する繊維体同士は相互に組紐状に斜め交叉しているのみであり、互いに固定されているものではない。このため、使用条件や使用期間等によっては、軸方向の端部における繊維体同士の交叉が解けて、軸方向の中央部のみに交叉部が残り端部には交叉部がなくなる場合がある。また、繊維体の材料によっては、未濾過液に浸漬した際に繊維体が縮んで各々の交叉部が変位し、液体用フィルタの軸方向の中央部にのみ交叉部が集中し端部には交叉部がなくなる場合もある。これらの場合には、交叉部同士が密に存在する部分と粗に存在する部分や交叉部がない部分とでは濾過可能な物質の径が変わってくる。すなわち、交叉部が密に存在する部分では交叉部同士の間隙が小さくなるために、小径の固形物を濾別できるが、交叉部が粗に存在する部分や交叉部がない部分では交叉部同士の間隙が大きくなるために小径の固形物を濾別できなくなる。このため、このような場合には液体用フィルタによる濾別精度が低下する恐れがある。複数の繊維体を軸方向の両端部で固定する場合には、繊維体同士の交叉が解けたり、交叉部同士が密に存在する部分と交叉部同士が粗に存在する部分とが生じることが低減され、液体用フィルタの濾別精度が高く保たれる利点がある。
【0027】
本発明の液体用フィルタは、さらに、軸方向の両端部に筒状の剛性体が挿入されていることが好ましい。筒状の剛性体により液体用フィルタの軸方向の両端部を強制的に拡径して、使用条件や使用期間にかかわらず、筒内部の中空形状を保ち、濾過液の流路を確保するためである。
【0028】
また、前記課題を解決する本発明の濾過装置は、上述した液体用フィルタを備えた濾過濃縮装置であり、上述した液体用フィルタに由来して安価に提供できる利点がある。また、液体用フィルタを安価で取り替えでき、ランニングコストが安くなる利点もある。
【0029】
本発明の濾過濃縮装置において、上記曝気手段は、並設された複数の繊維体をもち隣接する繊維体同士が相互に組紐状に斜め交叉してなる略筒状に形成されている筒状部材と筒状部材の筒内部に気体を供給する気体供給部材とからなることが好ましい。
【0030】
並設された複数の繊維体をもち隣接する繊維体同士が相互に組紐状に斜め交叉してなる略筒状に形成されている筒状部材は、本発明の液体用フィルタと同様の構成のものであり、この筒状部材は簡単な構造であり安価に提供されるものであるために、濾過濃縮装置をより安価に提供できる利点がある。さらに、この筒状部材はその形状に由来して変形自在であるために、液体用フィルタと曝気手段との配置位置を種々に設定できる利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の液体用フィルタにおいて、互いに隣接する繊維体同士は相互に組紐状に斜め交叉している。本発明の液体用フィルタの一例を模式的に表す図を図1〜3に示し、本発明の液体用フィルタの構造を説明する。
【0032】
本発明の液体用フィルタ1は、図1に例示するように、並設された複数の繊維体2をもつ。そして、隣接する繊維体2同士は相互に組紐状に斜め交叉する。ここで、組紐状に斜め交叉するとは、各々の繊維体2が軸方向aに対して螺旋状に延び、繊維体2同士が軸方向aに対してバイアス方向に交叉する筒形状を指す。各々の繊維体2は、円柱状の空隙として形成される筒内部10の側面を構成する。本発明の液体用フィルタは、例えば、丸組紐や丸打紐、江戸打紐、唐打紐等と呼ばれる通常の組紐と同様の形状に形成されてなるものである。
【0033】
繊維体同士は、例えば図2に正面図を示すように、一の繊維体2が他の繊維体2と交叉して表面側に配置される部分(山部3)と、一の繊維体が他の繊維体と交叉して筒内部側に配置される部分(谷部4)とが、交互に連続する様式で交叉しても良い。また、図3に正面図を示すように、山部3と谷部4とが複数回ずつ連続する様式で交叉しても良い。さらに、これに限らず種々の様式で交叉しても良い。何れの場合にも、繊維体同士が相互に組紐状に斜め交叉することで、本発明の液体用フィルタには上述した略均等に伸縮し易い特性が付与されて、優れた濾過性能を発揮する。
【0034】
本発明の液体用フィルタにおいて、繊維体は1の繊維からなるものであっても良いし、複数の繊維が束ねられてなるものであっても良い。繊維体を、複数の繊維が束ねられてなるものとする場合には、各々の繊維は互いに撚り合わされて繊維体を構成しても良いし、撚り合わされず単に束ねられた状態で繊維体を構成しても良い。各々の繊維が互いに撚り合わされて繊維体を構成する場合には、各々の繊維は繊維体の全長よりも短い短繊維を用いても良い。この場合には、交叉部同士の間隙以外に短繊維同士の継ぎ目でも固形物を濾過できるために、液体用フィルタの濾過処理効率が向上する利点がある。
【0035】
繊維体を構成する繊維としては、既知の種々の繊維が使用できるが、液体用フィルタを未濾過液内に浸漬し、液体用フィルタの筒内部を陰圧にして筒内部にて濾過液を回収する場合には、濾過すべき液体に浸漬した場合に収縮する繊維を用いることが好ましい。この場合には、液体用フィルタの筒内部が陰圧となって交叉部同士の間隙が略均等に収縮するだけでなく、繊維体の収縮によっても交叉部同士の間隙が略均等に収縮するために、より小径の物質を濾別できるためである。例えば本発明の液体用フィルタを廃水処理に供する場合には、水により収縮するレーヨン等により繊維体を構成することが望ましい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の液体用フィルタを例を挙げて説明する。
【0037】
(実施例1)
本実施例の液体用フィルタは、内径1.6mm、外径5mm、肉厚1.7mmの筒状に形成されてなるものである。各々の繊維体は、レーヨンからなる500デニールの繊維18本が撚られて形成されている。また、本実施例の液体用フィルタは18本の繊維体からなり、繊維体同士は上述した図1および図2と同様の様式で交叉している。さらに、繊維体同士は軸方向2cmあたりに図2に示す山部が8回出現する割合で交叉している。
【0038】
本実施例の液体用フィルタには、軸方向の両端部にステンレスからなる筒状の剛性体(外径1.6mm)が挿入されている。また、液体用フィルタのうち剛性体が挿入されている部分の外側は針金で括られており、この針金により繊維体が固定されている。
【0039】
(実施例2)
本実施例の液体用フィルタは、内径1.6mm、外径5mm、肉厚1.7mmの筒状に形成されてなるものである。各々の繊維体は、レーヨンからなる500デニールの繊維14本が撚られて形成されている。また、本実施例の液体用フィルタは14本の繊維体からなり、繊維体同士は実施例1のものと同様の様式で交叉している。さらに、繊維体同士は軸方向2cmあたりに図2に示す山部が7回出現する割合で交叉している。
【0040】
本実施例の液体用フィルタには、軸方向の両端部に実施例1のものと同じ剛性体が挿入されている。また、液体用フィルタのうち剛性体が挿入されている部分の外側は実施例1と同様に針金により固定されている。
【0041】
(実施例3)
本実施例の液体用フィルタは、内径1.6mm、外径4mm、肉厚1.2mmの筒状に形成されてなるものである。各々の繊維体は、レーヨンからなる500デニールの繊維10本が撚られて形成されている。また、本実施例の液体用フィルタは10本の繊維体からなり、繊維体同士は実施例1のものと同様の様式で交叉している。さらに、繊維体同士は軸方向2cmあたりに図2に示す山部が9回出現する割合で交叉している。
【0042】
本実施例の液体用フィルタには、軸方向の両端部に実施例1のものと同じ剛性体が挿入されている。また、液体用フィルタのうち剛性体が挿入されている部分の外側は実施例1と同様に針金により固定されている。
【0043】
(実施例4)
本実施例の液体用フィルタは、内径1.2mm、外径3mm、肉厚0.9mmの筒状に形成されてなるものである。各々の繊維体は、レーヨンからなる500デニールの繊維4本が撚られて形成されている。また、本実施例の液体用フィルタは4本の繊維体からなり、繊維体同士は実施例1のものと同様の様式で交叉している。さらに、繊維体同士は軸方向2cmあたりに図2に示す山部が11回出現する割合で交叉している。
【0044】
本実施例の液体用フィルタには、軸方向の両端部に実施例1のものと同じ剛性体が挿入されている。また、液体用フィルタのうち剛性体が挿入されている部分の外側は実施例1と同様に針金により固定されている。
【0045】
(実施例5)
本実施例の液体用フィルタは、内径1.2mm、外径2mm、肉厚0.4mmの筒状に形成されてなるものである。各々の繊維体は、レーヨンからなる300デニールの繊維4本が撚られて形成されている。また、本実施例の液体用フィルタは4本の繊維体からなり、繊維体同士は実施例1のものと同様の様式で交叉している。さらに、繊維体同士は軸方向2cmあたりに図2に示す山部が13回出現する割合で交叉している。
【0046】
本実施例の液体用フィルタには、軸方向の両端部に実施例1のものと同じ剛性体が挿入されている。また、液体用フィルタのうち剛性体が挿入されている部分の外側は実施例1と同様に針金により固定されている。
【0047】
(実施例6)
本実施例の液体用フィルタは、内径1.6mm、外径3mm、肉厚0.7mmの筒状に形成されてなるものである。各々の繊維体は、アクリルからなる295デニールの繊維4本が撚られて形成されている。また、本実施例の液体用フィルタは8本の繊維体からなり、繊維体同士は実施例1のものと同様の様式で交叉している。さらに、繊維体同士は軸方向2cmあたりに図2に示す山部が8回出現する割合で交叉している。
【0048】
本実施例の液体用フィルタには、軸方向の両端部に実施例1のものと同じ剛性体が挿入されている。また、液体用フィルタのうち剛性体が挿入されている部分の外側は実施例1と同様に針金により固定されている。
【0049】
(実施例7)
本実施例の液体用フィルタは、内径1.6mm、外径5mm、肉厚1.7mmの筒状に形成されてなるものである。各々の繊維体は、ナイロンからなる500デニールの繊維14本が撚られて形成されている。また、本実施例の液体用フィルタは14本の繊維体からなり、繊維体同士は実施例1のものと同様の様式で交叉している。さらに、繊維体同士は軸方向2cmあたりに図2に示す山部が8回出現する割合で交叉している。
【0050】
本実施例の液体用フィルタには、軸方向の両端部に実施例1のものと同じ剛性体が挿入されている。また、液体用フィルタのうち剛性体が挿入されている部分の外側は実施例1と同様に針金により固定されている。
【0051】
(液体用フィルタの評価試験)
(1.透過流束測定試験)
実施例1〜7の液体用フィルタについて、透過流束を測定した。30cmの長さにした各実施例の液体用フィルタを各々14本ずつ束ねたものを被試験用の液体用フィルタユニットとした。なお、この液体用フィルタユニットは、一方の端部が目詰めされ、他方の端部に吸引ポンプが接続されている。
【0052】
吸引ポンプとしては、電磁ポンプ(タクミナ(株)製、ZA−11型、ソノレイドポンプ)を用いた。この吸引ポンプは吐出量が15ml/min×10kg/cm2、ストロークが0〜120%であった。また、未濾過液としては活性汚泥を5000mg/mlの割合で含む活性汚泥水溶液を用いた。
【0053】
透過流束は、以下の方法で測定した。先ず、収容容器内に活性汚泥水溶液を満たし、さらに、この活性汚泥水溶液中に各実施例の液体用フィルタからなる各液体用フィルタユニットを浸漬した。そして吸引ポンプにより各液体用フィルタユニットの筒内部を陰圧にして、収容容器内の活性汚泥水溶液を、各液体用フィルタの筒外部から内部に通過させて濾過した。なお収容容器には曝気手段が配設されており、濾過中は、各々の液体用フィルタの周囲には曝気手段からの気体が供給された。筒内部で回収された濾過液の液量(1日あたりの量)をメスシリンダにて測定し、各液体用フィルタユニットを構成する各液体用フィルタの透過流束を算出した。
【0054】
各々の液体用フィルタの透過流束は、実施例1の液体用フィルタが0.4m/日であり、実施例2の液体用フィルタが0.3m/日であり、実施例3の液体用フィルタが0.25m/日であり、実施例4の液体用フィルタが0.25m/日であり、実施例5の液体用フィルタが0.25m/日であり、実施例6の液体用フィルタが0.25m/日であり、実施例7の液体用フィルタが0.25m/日であった。
【0055】
一般に、廃水処理用の液体用フィルタとしては、0.2〜0.5m/日程度の透過流束が要求されるが、本実施例の各液体用フィルタは、何れも透過流束がこの範囲内である。このため、各実施例の液体用フィルタは、例えば廃水処理用の液体用フィルタとして好ましく使用できることがわかる。
【0056】
なお、液体用フィルタの外径が大きいほど透過流束が大きくなっているが、これは、外径が大きい液体用フィルタ程表面積が大きくなり、繊維体や繊維体を構成する繊維の数も多くなるために、処理可能(回収可能)な濾過液の量が多くなるためと考えられる。
【0057】
(2.濾液の透明度測定試験)
上述した、透過流束測定試験により得られた濾過液を深さ50cmの容器に満たし、透明度を測定した。透明度は目視にて判断し、透明感があり白濁していない場合を◎、透明感があるがほんの少し白濁がある場合を○、透明感がなく少し白濁がある場合を△と判断した。濾液の透明度が高い液体用フィルタ程、より小径の固形物を濾別できる。その結果、実施例1および実施例2の液体用フィルタでは◎、実施例3および実施例4の液体用フィルタでは○、実施例5,実施例6および実施例7の液体用フィルタでは△であった。
【0058】
さらに、実施例1〜7のフィルタについて、JIS K0101 9.2に規定される透過光濁度を測定した。その結果、実施例1の液体用フィルタでは5度、実施例2の液体用フィルタでは5.5度、実施例3の液体用フィルタでは6.5度、実施例4の液体用フィルタでは6度、実施例5〜7の液体用フィルタでは7度以上であった。
【0059】
液体用フィルタにより濾過された濾液の透明度により、液体用フィルタの濾過性能を判断できる。すなわち、濾液の透明度が高い程、液体用フィルタがより小径の固形物まで濾別していると判断できる。
【0060】
濾液の透明度測定試験の結果から、液体用フィルタの肉厚、液体用フィルタを構成する繊維体の数、繊維の数、および、軸方向の長さあたりの交叉部の数が、液体用フィルタが濾別可能な固形物の径と関係していると考えれられる。
【0061】
すなわち、液体用フィルタの肉厚が厚い程、フィルタ厚が大きくなり、固形物をより確実に濾別できる。そして、繊維体の数が多い場合や、一の繊維体を構成する繊維の数が多い場合には、液体用フィルタの肉厚を大きくできる。また、軸方向の長さあたりの交叉部の数が多い場合には、交叉部同士の間隙が小さくなり、より小径の固形物が濾別できるようになる。なおこのとき、繊維体の数が多い場合や、一の繊維体を構成する繊維の数が多い場合には、液体用フィルタには繊維が高密度で存在するために、交叉部同士の間隙が小さくなり、さらに小径の固形物が濾別できるようになる。またこのとき、繊維体を構成する繊維同士も高密度で配置されるために、交叉部同士の間隙以外の部分を大径の固形物が通過することもなくなり、小径の固形物が高精度で濾別できるようになる。
【0062】
なお、各々の繊維体を構成する繊維の太さ(デニール数)が小さい程、同じ肉厚の液体用フィルタにおける繊維体の密度がより高くなり、かつ、軸方向の長さあたりの交叉部の数をより多くできる。
【0063】
実施例1〜4の液体用フィルタで得られた濾液は、何れも濁度が低く透明度が高いため小径の固形物まで濾過できることがわかり、小径の固形物を濾過する液体用フィルタとして好ましく用いられることがわかる。また、このうち実施例1および実施例2の液体用フィルタで得られた濾液はより濁度が低く透明度が高いため、より小径の固形物まで濾過できることがわかる。このため、これらの液体用フィルタは、より小径の固形物を濾過する液体用フィルタとして好ましく用いられることがわかる。なお、例えば実施例5〜7等の、本発明の液体用フィルタのうち比較的濾液の濁度が高く透明度が低いものについても、非常に安価であり、かつ、透過流束が大きい。したがって、例えば廃水処理の下処理用フィルタとして、従来の液体用フィルタの前段に配設すれば、濾過濃縮装置に要するランニングコストを大きく低減できる利点がある。
【0064】
(3.浮遊物質量測定試験)
実施例1、3および4の液体用フィルタについて、環告59号付表8に該当する濾過法で濾液の浮遊物質量を測定した。その結果、実施例1の液体用フィルタでは4mg/l、実施例3の液体用フィルタは3mg/l、実施例4の液体用フィルタは5mg/lであった。
【0065】
実施例1、3および4の液体用フィルタは、何れも浮遊物質量が小さく、固形物を高精度で濾過できることがわかる。
【0066】
(4.伸縮度測定試験)
実施例1〜7の液体用フィルタについて、軸方向の両端部に剛性体を挿入せず、かつ、針金により固定しない状態での伸長度と収縮度とを測定した。伸長度は各液体用フィルタの両端を手で引っ張り、伸長しきったときの軸方向の長さと引っ張る前の状態(負荷を加えない状態で机上に載置した状態)での軸方向の長さとの差を、引っ張る前の状態での軸方向の長さで除して算出した。また、収縮度は、負荷を加えない状態で机上に載置した液体用フィルタの軸方向の長さと、水に5分間浸漬した後の液体用フィルタのうち交叉部が存在する部分の軸方向の長さとの差を、負荷を加えない状態で机上に載置した液体用フィルタの軸方向の長さで除して算出した。上述したように、繊維体の材料によっては、未濾過液に浸漬した際に繊維体が縮んで各々の交叉部が変位し、液体用フィルタの軸方向の中央部にのみ交叉部が集中し端部には交叉部がなくなるために、水に浸漬した後の液体用フィルタのうち交叉部が存在する部分の軸方向の長さにを基に液体用フィルタの収縮度を算出することができる。
【0067】
実施例1の液体用フィルタは、伸長度が0.1(10%の伸び)であり、収縮度が0.2(20%の縮み)であった。実施例2の液体用フィルタは、伸長度が0.1(10%の伸び)であり、収縮度が0.25(25%の縮み)であった。実施例3の液体用フィルタは、伸長度が0.1(10%の伸び)であり、収縮度が0.15(15%の縮み)であった。実施例4の液体用フィルタは、伸長度が0.1(10%の伸び)であり、収縮度が0.15(15%の縮み)であった。実施例5の液体用フィルタは、伸長度が0.1(10%の伸び)であり、収縮度が0.15(15%の縮み)であった。実施例6の液体用フィルタは、伸長度が0.15(15%の伸び)であり、収縮度が0.15(15%の縮み)であった。実施例7の液体用フィルタは、伸長度が0.2(20%の伸び)であり、収縮度が0.2(20%の縮み)であった。
【0068】
各実施例の液体用フィルタのうち、繊維体がレーヨンからなるものは、伸長度に対する収縮度が大きい。このため、濾過時における交叉部同士の間隙が小さくなって、より小径の固形物を濾別できるようになると考えられる。
【0069】
なお、本発明の液体用フィルタは、2種以上のものを組み合わせて用いることもできる。例えば、大径の液体用フィルタの筒内部に小径の液体用フィルタを挿通して用いることもできる。この場合、大径の液体用フィルタの径方向の肉厚と、小径の液体用フィルタの径方向の肉厚との和が、液体用フィルタの径方向の肉厚になるために、より小径の物質まで濾別できる液体用フィルタを容易に得ることが可能である。
【0070】
(実施例8)
本実施例の濾過濃縮装置は、実施例1の液体用フィルタを用いた濾過濃縮装置である。本実施例の濾過濃縮装置を模式的に表す図を図4に示す。
【0071】
本実施例の濾過濃縮装置20は、液体用フィルタ1と、未濾過液21を収容する収容容器22と、液体用フィルタ1に接続されている吸引手段23と、液体用フィルタ1の周囲に気体を供給する曝気手段24と、からなる。
【0072】
液体用フィルタ1は、実施例1のものと同じものであり、16本の液体用フィルタ1が並列に束ねられ、両端がエポキシ樹脂で固着されて液体用フィルタモジュール25を形成している。この液体用フィルタモジュール25は、一端に中空の第1の連結キャップ27が装着されている。第1の連結キャップ27のうち液体用フィルタモジュール25に装着されていない側の端部は第1の連結チューブ28を介して吸引ポンプからなる吸引手段23に連結されている。また、液体用フィルタモジュール25の他端には中空の第2の連結キャップ26が装着され、第2の連結キャップ26のうち液体用フィルタモジュール25に装着されていない側の端部は第2の連結チューブ29に接続されている。
【0073】
本実施例の濾過濃縮装置20では、連結チューブ28および連結キャップ27を介して吸引手段23により吸引することで、液体用フィルタモジュール25を構成する各々の液体用フィルタ1の筒内部を陰圧にする。そして、収容容器22に収容されている未濾過液21を液体用フィルタ1の筒外部から内部に通過させて濾過する。液体用フィルタモジュール25は、目詰めキャップ26側および連結キャップ27側を側方に向けて収容容器22内に略水平に浸漬されている。
【0074】
曝気手段24は、実施例1の液体用フィルタ1と同じ構造からなる筒状部材30と、エアポンプからなる気体供給部材31とから構成されている。本実施例の濾過濃縮装置20では、筒状部材30が収容容器22内の液体用フィルタモジュール25よりも下方の位置に浸漬され、筒状部材30の筒内部にエアポンプ31より空気が供給されて液体用フィルタ1の周囲に気体を供給する。
【0075】
曝気手段24の気体供給部材31は第2の連結チューブ29にも接続されている。そして、気体供給部材31には切替弁(40、41)が設けられ、気体の供給路を筒状部材30側と第2の連結チューブ29側とで切り替えできるようになっている。
【0076】
本実施例の濾過濃縮装置20では、収容容器22内の未濾過液21を液体用フィルタ1により濾過する。そして、気体供給部材31から筒状部材30を介して収容容器22内に空気を供給する。この空気を液体用フィルタ1に当接させ液体用フィルタ1を揺動させて、液体用フィルタ1の表面に堆積する固形物をふるい落としている。また、この空気により収容容器22内の未濾過液21を対流させて液体用フィルタ1を洗浄している。
【0077】
さらにこのとき、吸引手段23による吸引をするとともに、気体供給部材31から第2の連結チューブ29に空気を供給することで、液体用フィルタ1の筒内部から外部に向けて空気を流通させることで、液体用フィルタ1に詰まった固形物を洗浄する。
【0078】
本実施例の濾過濃縮装置20では、実施例1の液体用フィルタ1を用いることで、導入コストやランニングコストが著しく低減される。また、実施例1の液体用フィルタ1を用いることで、高い濾過効率で小径の固形物を濾別できるために、濾過濃縮装置20に優れた濾過性能が付与される。
【0079】
さらに、曝気手段24の筒状部材30として実施例1の液体用フィルタ1と同じものを用いることで、濾過濃縮装置20をより安価に提供できる。さらに、この筒状部材30はその形状に由来して変形自在であるために、液体用フィルタ1と曝気手段24との配置位置が種々に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の液体用フィルタの一例を模式的に表す図である。
【図2】本発明の液体用フィルタの一例を模式的に表す図である。
【図3】本発明の液体用フィルタの一例を模式的に表す図である。
【図4】実施例の濾過濃縮装置を模式的に表す図である。
【符号の説明】
【0081】
1:液体用フィルタ 2:繊維体 a:軸方向 10:筒内部
20:濾過濃縮装置 21:未濾過液 22:収容容器 23:吸引手段 24:曝気手段 25:液体用フィルタモジュール 30:筒状部材 31:気体供給部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並設された複数の繊維体をもち隣接する該繊維体同士が相互に組紐状に斜め交叉してなる略筒状に形成され、筒内外で液体を濾過濃縮することを特徴とする液体用フィルタ。
【請求項2】
径方向の肉厚が0.4mm以上である請求項1記載の液体用フィルタ。
【請求項3】
前記繊維体は4以上が並設され、各々の前記繊維体は500デニール以下の繊維が4以上束ねられてなる請求項1記載の液体用フィルタ。
【請求項4】
前記繊維体同士は、軸方向に2cmあたり7回以上交叉している請求項1記載の液体用フィルタ。
【請求項5】
前記繊維体はレーヨンからなる請求項1記載の液体用フィルタ。
【請求項6】
前記複数の繊維体は軸方向の両端部で固定されている請求項1記載の液体用フィルタ。
【請求項7】
透過流束が0.4m/日以下の範囲である請求項1記載の液体用フィルタ。
【請求項8】
さらに、軸方向の両端部に筒状の剛性体が挿入されている請求項1記載の液体用フィルタ。
【請求項9】
並設された複数の繊維体をもち隣接する該繊維体同士が相互に組紐状に斜め交叉してなる略筒状に形成されている液体用フィルタと、
未濾過液を収容する濃縮収容容器と、
該液体用フィルタの筒内部を陰圧にする吸引手段と、
該液体用フィルタの周囲に気体を供給する曝気手段と、
からなり、収容容器に収容されている未濾過液を筒内外で通過させ濾過濃縮することを特徴とする濾過濃縮装置。
【請求項10】
前記曝気手段は、並設された複数の繊維体をもち隣接する該繊維体同士が相互に組紐状に交叉してなる略筒状に形成されている筒状部材と該筒状部材の筒内部に気体を供給する気体供給部材とからなる請求項9に記載の濾過濃縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−35014(P2006−35014A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214522(P2004−214522)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(503148775)
【Fターム(参考)】