説明

液体表面粘弾性質測定ヘッド及びそれを用いた液体表面粘弾性質測定装置

【課題】加熱光の干渉により液体表面に誘起された表面波の減衰過程を観察することで液体の粘性率、表面張力等の表面粘弾性質を測定するための小型で高性能の測定ヘッド。
【解決手段】液体試料表面に干渉縞を形成することで表面波を誘起させると共に、観察光を入射させ、その誘起表面波で回折された回折光強度の時間変化を示す信号波形を取得し、その信号波形を解析することで、液体試料の表面粘弾性質を測定する測定ヘッドであり、干渉縞を形成する2光束それぞれを相互に角度をなして液体試料表面に入射させる2本の干渉縞形成用光ファイバー1、2の先端部と、観察光を液体試料表面の誘起表面波に入射させる1本の観察光用光ファイバー3の先端部と、誘起表面波で回折された回折光を取得する1本の回折光用光ファイバー4の先端部とが同一基板10に相互に角度をなして取り付けられてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体表面粘弾性質測定ヘッド及びそれを用いた液体表面粘弾性質測定装置に関し、特に、液体表面をレーザーの2光束干渉により加熱することで強制的に表面波を発生させ、その動的挙動を観察することで粘性率等の表面粘弾性質の測定に用いる測定ヘッドとそれを用いた測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体の粘性率は、細管法や振動法、落体法に代表されるように、接触式の測定法が主流であり、現在も広く用いられている。また、表面張力に関しても、毛細管法等接触式である。測定精度は非常に高く、様々な分野において適用されている。
【0003】
上記に示した測定法では、原理的に以下の制約がある。
○接触式測定法であり、多数検体への適用ができない。測定毎に機器の交換が必要。
○測定時間が長い(数秒〜数分)。
○必要サンプル量が多い(数ml〜数l)。生体試料や貴重なサンプルの測定が困難。
○測定可能な粘性率範囲が狭い。
○粘性率・表面張力を同時に測定することはできない。
【0004】
このような中、液体表面をレーザーの2光束干渉により加熱することで強制的に表面波を発生させ、その動的挙動を観察することで粘性率、表面張力、表面張力の温度依存性等の表面粘弾性質を測定する方法が、非特許文献1〜3等において提案されている。
【0005】
この方法は、測定原理の概略を図11に示すように、等強度の2光束に分割した加熱光を液体試料表面で交差させて干渉させることにより、液体試料表面に干渉縞に対応した空間的に周期的な温度分布を形成させる。この温度分布に伴う熱膨張によって瞬間的にレーザー誘起表面波が発生する。加熱終了後表面波は1ms以下で減衰する。そのレーザー誘起表面波に観察光を入射させ、そのレーザー誘起表面波で回折された回折光を利用してレーザー誘起表面波の減衰過程を観察することで、液体の粘性率、表面張力を測定するものである。
【0006】
図12は、観察される回折光強度の時間変化を示す信号波形の1例であり、その波形の減衰時定数は粘性率に感度を有し、振動数は表面張力に感度を有しているために、フィッティング解析を行うことで、試料の粘性率と表面張力を同時に求めることが可能である。
【非特許文献1】T. Oba, Y. Kido, and Y. Nagasaka, “Development of Laser-Induced Capillary Wave Method for Viscosity Measurement Using Pulsed Carbon Dioxide Laser”, Int. J. Thermophys., 25-5 (2004), pp.1461-1474.
【非特許文献2】鎌田奈緒子, 長坂雄次, レーザー誘起表面波法による血液粘性率センシングに関する研究(第1報、YAGレーザーを用いた装置の開発), 第27回日本伝熱シンポジウム講演論文集, 京都(2006), pp.252-254.
【非特許文献3】大場孝浩, 藪井 謙, 長坂雄次, レーザー誘起表面波を用いた粘性率測定法(広い粘性率範囲に適用可能な測定原理および装置の開発), 日本機械学会論文集(B編)72巻 714号(2006-2), 論文No.05-0703, pp.212-217.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来技術のこのような状況に基づいてなされたものであり、その目的は、加熱光の干渉により液体表面に誘起された表面波の減衰過程を観察することで液体の粘性率、表面張力等の表面粘弾性質を測定するための小型で高性能の測定ヘッドとそれを用いた測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の液体表面粘弾性質測定ヘッドは、液体試料表面に可干渉の2光束を入射させて干渉縞を形成することで液体試料表面に表面波を誘起させると共に、前記干渉縞に観察光を入射させ、その誘起表面波で回折された回折光の強度の時間変化を示す信号波形を取得し、前記干渉縞消失後の前記信号波形を解析することで、液体試料の表面粘弾性質を測定する液体表面粘弾性質測定に用いる測定ヘッドであって、
前記干渉縞を形成する2光束それぞれを相互に角度をなして液体試料表面に入射させる2本の干渉縞形成用光ファイバーの先端部と、前記観察光を液体試料表面の前記誘起表面波に入射させる1本の観察光用光ファイバーの先端部と、前記誘起表面波で回折された前記回折光を取得する1本の回折光用光ファイバーの先端部とが同一基板に相互に角度をなして取り付けられてなることを特徴とするものである。
【0009】
この場合に、前記2本の干渉縞形成用光ファイバーの先端部が相互になす角の2等分線に対して各干渉縞形成用光ファイバーの先端部のなす角度をφ、前記干渉縞形成用光ファイバーのクラッッドの径をR、前記干渉縞形成用光ファイバー中のモードフィールド径をω、前記干渉縞形成用光ファイバーの開口数をNA、前記干渉縞を形成する光の波長をλ、液体試料表面での干渉縞を形成する光のビーム半径をr、前記2本の干渉縞形成用光ファイバーの先端間の最短距離をx2 として、次の式(1)の条件を満たすことが望ましい。
【0010】
【数1】

また、前記基板の1面に形成された別々の溝に、前記2本の干渉縞形成用光ファイバー、前記観察光用光ファイバー、前記回折光用光ファイバーがそれぞれ挿入固定されてなることが望ましい。
【0011】
また、前記溝各々に挿入された光ファイバーを固定するためのバネ部材が溝に沿って配置されていることが望ましい。
【0012】
また、さらに液体試料表面で正反射した前記観察光を取得する1本の正反射光用光ファイバーの先端部が前記基板に取り付けられていることが望ましい。
【0013】
本発明の液体表面粘弾性質測定装置は、液体試料表面に可干渉の2光束を入射させて干渉縞を形成することで液体試料表面に表面波を誘起させると共に、前記干渉縞に観察光を入射させ、その誘起表面波で回折された回折光の強度の時間変化を示す信号波形を取得し、前記干渉縞消失後の前記信号波形を解析することで、液体試料の表面粘弾性質を測定する液体表面粘弾性質測定装置において、
液体試料表面に面して以上の何れかの液体表面粘弾性質測定ヘッドが配置され、前記2本の干渉縞形成用光ファイバーの後端それぞれに同一光源から出て2分された光が入射され、前記観察光用光ファイバーの後端には別の光源からの光が入射され、前記回折光用光ファイバーの後端には回折光の強度の時間変化を示す信号波形を取得する光電変換手段が接続され、前記光電変換手段からの信号波形は解析装置に入力されることを特徴とするものである。
【0014】
本発明のもう1つの液体表面粘弾性質測定装置は、液体試料表面に可干渉の2光束を入射させて干渉縞を形成することで液体試料表面に表面波を誘起させると共に、前記干渉縞に観察光を入射させ、その誘起表面波で回折された回折光の強度の時間変化を示す信号波形を取得し、前記干渉縞消失後の前記信号波形を解析することで、液体試料の表面粘弾性質を測定する液体表面粘弾性質測定装置において、
液体試料表面に面して上記の正反射光用光ファイバーの先端部が基板に取り付けられてなる液体表面粘弾性質測定ヘッドが制御信号に基づいて液体試料表面に対する高さが制御可能に配置されており、前記2本の干渉縞形成用光ファイバーの後端それぞれに同一光源から出て2分された光が入射され、前記観察光用光ファイバーの後端には別の光源からの光が入射され、前記回折光用光ファイバーの後端には回折光の強度の時間変化を示す信号波形を取得する光電変換手段が接続され、前記光電変換手段からの信号波形は解析装置に入力され、前記正反射光用光ファイバーの後端には正反射光強度を検出する第2光電変換手段が接続され、前記第2光電変換手段からの光強度信号が最大になるように前記液体表面粘弾性質測定ヘッドの液体試料表面に対する高さを制御する制御装置を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
以上の本発明によると、小型で高性能で非接触で短時間で種々の液体の粘性率、表面張力等の表面粘弾性質を測定できる測定ヘッド及び装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照にして本発明の液体表面粘弾性質測定ヘッドとそれを用いた測定装置の実施例を説明する。
【0017】
本発明は、液体表面をレーザーの2光束干渉により加熱することで強制的に表面波を発生させ、その動的挙動を観察する装置の測定ヘッドにおいて、加熱光の光路、観察光の光路、回折光の光路の液体試料に対向する部分に光ファイバーを用い、それら光ファイバーを一体化して測定ヘッド(分析チップ)とし、装置の小型化、高性能化を図るものである。
【0018】
図1は、測定ヘッドの側面図(a)と側面図(a)の線A−A’に沿う断面図(b)である。この測定ヘッドHは、下辺に切り込み凹部15を設けた基板10の表面に、切り込み凹部15に通じる加熱光用光ファイバー挿入用溝11が相互に所定角度なすように2本設けられ、また、その切り込み凹部15に通じる観察光用光ファイバー挿入用溝12と回折光用光ファイバー挿入用溝12’とが加熱光用光ファイバー挿入用溝11とは別に設けられており、図2に示すように、各溝11、12、12’の中心軸が切り込み凹部15の開口(入口)近傍の1点Pに集中するような位置関係で各溝11、12、12’が設けられている。
【0019】
そして、2本の加熱光用光ファイバー挿入用溝11には加熱用(干渉縞形成用)光ファイバー1、2が挿入固定され、観察光用光ファイバー挿入用溝12には観察光用光ファイバー3が、回折光用光ファイバー挿入用溝12’には回折光用光ファイバー4がそれぞれ挿入固定されている。加熱用光ファイバー1、2の先端、観察光用光ファイバー3の先端、及び、回折光用光ファイバー4の先端は何れも切り込み凹部15の底面近傍で終端するように各溝11、12、12’に固定され、それぞれの光ファイバー1、2、3、4の後端は基板10の外へ所定長さ伸びている。
【0020】
そのため、点Pが液体試料表面に位置しその液体試料表面が基板10の下辺に平行になるように測定ヘッドHを位置させ、加熱用光ファイバー1と2の後端に等強度の2光束に分割した加熱光を入射させると、加熱用光ファイバー1と2の先端から射出した加熱光は液体試料表面で交差して干渉し、図11を用いて説明したように、液体試料表面にレーザー誘起表面波が発生する。その状態で、観察光用光ファイバー3の後端に観察光を入射させその先端からレーザー誘起表面波に向けて観察光を射出するようにしておくことで、図12に示すような信号波形の1次回折光がレーザー誘起表面波から回折され、回折光用光ファイバー4の先端にその回折光が入射されて回折光用光ファイバー4内に導入され、回折光用光ファイバー4の後端から出る光強度を電気信号に変換することで、図12に示すような信号波形が得られ、その信号波形を基に粘性率、表面張力、表面張力の温度依存性等の表面粘弾性質を測定することができる。
【0021】
図1の例では、加熱用光ファイバー1、2として赤外線用の単一モード光ファイバーを用い、観察光用光ファイバー3と回折光用光ファイバー4には可視光用の光ファイバーを用いており、観察光用光ファイバー3と回折光用光ファイバー4に同一直径のものを用いており、加熱用光ファイバー1、2は観察光用光ファイバー3及び回折光用光ファイバー4より直径が大きくなっており、それに対応して加熱光用光ファイバー挿入用溝11の幅及び深さは観察光用光ファイバー挿入用溝12、回折光用光ファイバー挿入用溝12’の幅及び深さより大きくなっている。加熱用光ファイバー1、2としては可視光用の光ファイバーを用いてもよく、その場合は何れも同程度の太さになるので、溝11は溝12、12’と同程度の幅及び深さでよい。
【0022】
図1の実施例では、図3(a)に示すように、基板10の各溝11、12、12’の側面には溝の中心軸方向へバネ力を作用させるバネ部材16が溝に沿って複数一体に配置されているため、溝11、12、12’に挿入された光ファイバー1、2、3、4は反対側の溝側面に押し付けて固定される。そのため、高精度で光ファイバー1、2、3、4が位置決めされる。なお、基板10の各溝11、12、12’は、図3(b)に示すように、バネ部材を設けないでその中に光ファイバー1、2、3、4を挿入固定するものであってもよい。
【0023】
ここで、図1のような配置の測定ヘッドHの構成上の条件について説明する。図4は、測定ヘッドHの加熱光照射部の概略図である。加熱用光ファイバー1の中心軸と加熱用光ファイバー2の中心軸とがなす角の2等分線に対して光ファイバー1、2のなす角度をφ、光ファイバー1、2のクラッッドの径をR、光ファイバー1、2中のモードフィールド径をω、光ファイバー1、2の開口数をNA、加熱光の波長をλ、試料表面での加熱光のビーム半径をr、光ファイバー1、2の先端間の最短距離をx2 とすると、加熱光同士が試料表面で重なりあい、かつ、光ファイバー1、2先端同士がぶつからないようにするためには、簡単な幾何学から、
【0024】
【数1】

上記式(1)の条件を満たさなければならない。ここで、加熱光のビーム半径rは、強度が1/e2 の位置でとったビーム半径である。
【0025】
また、光ファイバー1、2の2等分線に対してそれぞれの光ファイバー1、2のなす角度(入射角)φと干渉縞間隔Λの間には以下の式(2)ような関係式が成り立つ。
【0026】
【数2】

さらに、観察光用光ファイバー3からの観察光の入射角θinと回折光用光ファイバー4に入射する1次回折光の回折角θ1 (図2)の間には次の式(3)の関係にある。
【0027】
【数3】

次に、図1のような測定ヘッドHを用いた全体の測定装置を説明する。この測定装置全体のシステム構成図を図5に示す。図1のような測定ヘッドHは、その切り込み凹部15側の下辺を垂直方向の下方に向けてステージ21に取り付けられ、その測定ヘッドHの下方には液体試料Sが配置され、その液面に対してステージ21を上下させることで測定ヘッドHの点Pが液体試料Sの表面に一致するように調整される。
【0028】
パルス動作の加熱光光源のレーザー22からのレーザー光は、レンズ23、24を介してビーム径が縮小され、ミラー25を介してビームスプリッター26により2等分される。ビームスプリッター26で分けられた一方のレーザー光はミラー27で反射され、1/2波長板29で偏光面が調整され、カプラー31を介して一方の加熱用光ファイバー1にその後端から加熱光として導入される。ビームスプリッター26で分けられた他方のレーザー光はミラー28で反射され、1/2波長板30で偏光面が調整され、カプラー32を介して他方の加熱用光ファイバー2にその後端から加熱光として導入される。1/2波長板29と30は液体試料Sの表面での2つの加熱光の偏光方向を揃えるためのものである。
【0029】
加熱用光ファイバー1と2の測定ヘッドHの切り込み凹部15に面した先端から射出したレーザー光は、液体試料Sの表面で交差して2光束干渉を起こし、液体試料Sの表面に正弦波状の温度分布が生じる。この温度分布に伴う熱膨張によって瞬間的にレーザー誘起表面波が発生する。
【0030】
一方、観察光源のレーザー40からのレーザー光は、ミラー41で反射され、カプラー42を介して測定ヘッドHの観察光用光ファイバー3にその後端から観察光として導入され、その先端から射出された観察光は、液体試料Sの表面のレーザー誘起表面波によって回折されて回折光となり、同じく測定ヘッドHの切り込み凹部15に面している回折光用光ファイバー4の先端に入射してその回折光用光ファイバー4内を導光され、回折光用光ファイバー4の後端に接続された光電子増倍管43に入力して電気信号に変換される。加熱終了後の信号波形は増幅器44で増幅した後PCに入力され、PCでその信号波形を解析することで、粘性率、表面張力、表面張力の温度依存性等の表面粘弾性質が測定される。
【0031】
次に、本発明の測定ヘッドの変形例を説明する。図6はこの変形例の測定ヘッドHの側面図であり、図1の測定ヘッドとの違いは、2本の加熱光用光ファイバー1、2と観察光用光ファイバー3と回折光用光ファイバー4に加えて、正反射光用光ファイバー5が正反射光用光ファイバー挿入用溝13に挿入固定され、この正反射光用光ファイバー5の先端も切り込み凹部15の底面近傍で終端するように固定され、その光ファイバー5の後端も基板10の外へ所定長さ伸びている点であり、その溝13の中心軸も点Pに集中するような位置関係で設けられている。そして、光ファイバー1、2の2等分線(液体試料Sの表面の法線)に対して正反射光用光ファイバー5は観察光用光ファイバー3と対称になる位置関係に配置されている。
【0032】
このように構成すると、点Pが液体試料表面に位置しその液体試料表面の表面の法線が光ファイバー1、2の2等分線に一致するように測定ヘッドHを位置させると、観察光用光ファイバー3の先端から射出する観察光の一部は液体試料表面で正反射され、その正反射光は正反射光用光ファイバー5の先端に入射して正反射光用光ファイバー5に導入されることになる。そして、測定ヘッドHがその位置より上下にずれると正反射光用光ファイバー5に導入される光量は急激に減少する。そのため、正反射光用光ファイバー5の後端から出る光強度が最大になる位置に測定ヘッドHを位置決めすることで、測定ヘッドHの作動距離を一定に保つことができる。
【0033】
そのような測定ヘッドHを用いた測定装置のシステム構成図を図7に示す。ただし、図7では加熱光の光路、回折光の光路は省いてある。正反射光用光ファイバー5の後端に光電検出器45が接続されており、その光電検出器45で変換された光強度信号はPIDコントローラー46に入力され、PIDコントローラー46で得られたフィードバック制御信号はステージコントローラー47に入力され、ステージコントローラー47はその制御信号に基づいて測定ヘッドHを先端に取り付けているステージ21を上下にフィードバック制御し、正反射光用光ファイバー5の後端から出る光強度信号が最大になる位置に測定ヘッドHを位置決めする。
【0034】
さて、以上のような本発明の測定ヘッドHを構成するために光ファイバー1、2、3、4を挿入固定するためにバネ部材16を配置した溝11、12、12’が設けられた図3(a)に示すような基板10の作製方法の1例を図8と図9の工程図を参照にして説明する。
【0035】
この実施例は、半導体からなる積層基板上に、直径のより大きな加熱用光ファイバー1、2のための加熱光用光ファイバー挿入用溝11と、直径の相対的に小さな観察光用光ファイバー3及び回折光用光ファイバー4のための観察光用光ファイバー挿入用溝12及び回折光用光ファイバー挿入用溝12’と、切り込み凹部15とを微細加工プロセスを利用して作製する方法である。
【0036】
まず、図8(a)に示すように、支持基板をなすSi層53上にSiO2 層52を介して溝を形成するためのSi層51を形成してなるSOI基板の両面を酸化して、Si層51表面のSiO2 層54とSi層53裏面のSiO2 層55とを形成する。そして、表面側のSiO2 層54の上にAl層56を形成する。
【0037】
次いで、図8(b)に示すように、Al層56の上にフォトレジスト層57を塗布し、そのフォトレジスト層57にマスクを介して露光、現像することで、幅の狭い溝12、12’用の開口パターン58と、幅の広い溝11用の開口パターン59と、大きな開口になる切り込み凹部15用の開口パターン60を形成する。開口パターン58と59の中には、バネ部材16を一体に形成するための微細な不透明パターンが開口側部に面して配置されていると共に、幅の広い溝11用の開口パターン59は、幅が広く正確な寸法の溝をエッチング加工するために、溝に沿って微細な不透明パターンが複数配置されてなる開口パターンで構成されている。幅の広い溝11用の開口パターン59を幅の広い単一の開口で構成すると、マイクロローディング効果により底の幅が開口幅より広く深さがより深い溝がエッチングされてしまう。
【0038】
次に、図8(c)に示すように、フォトレジスト層57の開口パターン58、59、60を介してウエットエッチング61によりまずその下のAl層56をエッチング除去し、さらにその後、開口パターン58、59、60下のSiO2 層54をドライエッチング62する。
【0039】
次に、図8(d)に示すように、フォトレジスト層57を除去すると共に、別のフォトレジスト層63を塗布し、そのフォトレジスト層63に別のマスクを介して露光、現像することで、開口パターン58のバネ部材16用の不透明パターン部を除いた開口下のSi層51上にフォトレジスト層63を残す。
【0040】
次いで、図8(e)に示すように、フォトレジスト層63とAl層56で覆われた部分以外のSi層51を途中の深さまでドライエッチング64する。
【0041】
次いで、図8(f)に示すように、フォトレジスト層63を除去し、Al層56の開口部を介してSi層51が中間のSiO2 層52までドライエッチング65する。ただし、図8(e)の工程でフォトレジスト層63の遮蔽によりドライエッチング64がされなかった部分のエッチングはSiO2 層52まで達せず浅い溝となっている。
【0042】
次いで、図9(g)に示すように、開口パターン58、59、60下のSi層51をエッチングした側の表面全面にフォトレジスト層66を形成すると共に、裏面のSiO2 層55上にAl層67を形成し、その上にフォトレジスト層68を塗布し、そのフォトレジスト層60にさらに別のマスクを介して露光、現像することで、切り込み凹部15用の開口パターン69を形成する。開口パターン60と69は相互に対応する位置形状の開口である。
【0043】
次に、図9(h)に示すように、フォトレジスト層68の開口パターン69を介してウエットエッチング70によりまずその下のAl層67をエッチング除去し、フォトレジスト層68を除去してAl層67の下のSiO2 層55をドライエッチング71で除去し、さらに、露出したSi層53をドライエッチング72する。
【0044】
次に、図9(i)に示すように、表面のフォトレジスト層66を除去する。
【0045】
次いで、図9(j)に示すように、両面のAl層56、67をウエットエッチングで除去し、さらに全体をフッ酸溶液で処理することで、両面のSiO2 層54、55と、開口パターン60、69間のSiO2 層52と、開口パターン58内のバネ部材16用の不透明パターン下のSiO2 層52と、開口パターン59内のバネ部材16用の不透明パターンを含む全ての不透明パターン下のSiO2 層52とがエッチング除去される。
【0046】
その結果、図9(k)に示すように、溝に沿ってバネ部材16が一体に配置されてなる観察光用光ファイバー挿入用溝12と回折光用光ファイバー挿入用溝12’とが、その底が下のSiO2 層52に達しない深さでSi層51内に形成され、また、溝に沿ってバネ部材16が一体に配置されてなる加熱光用光ファイバー挿入用溝11が、その底が下のSiO2 層52に達するようにSi層51内に形成され、さらに、Si層51、SiO2 層52、Si層53を貫通して切り込み凹部15が形成される。
【0047】
なお、本発明の以上の測定ヘッド用の基板の作製方法は1つの例示を示すものであり、他の機械加工方法、リソグラフィックな加工方法を用いて同様のものが作製可能であることは明らかである。
【0048】
次に、本発明による測定ヘッドHを用いて特定の試料について粘性率と表面張力を測定した結果を示す。
【0049】
液体試料は、純水に微少量の顔料を添加したものである。
【0050】
そのときの測定ヘッドHに関するパラメータは以下の通りである。
【0051】
加熱光:
加熱光の波長λ:1064nm
加熱光のビーム半径r:45μm
入射角φ:7.64°
光ファイバー開口数NA:0.04
光ファイバーのクラッッド径R:273μm
光ファイバーモードフィールド径ω:19.8μm
光ファイバー先端間の最短距離x2 :11.3μm
光ファイバー先端と液面間の距離y:1050μm
干渉縞間隔Λ:4μm
観察光、回折光:
観察光の波長λ:658nm
観察光のビーム半径:7.5μm
光ファイバーのクラッッド径:126.5μm
光ファイバーの接続距離:3.0mm
観察光の入射角θin:60.00°
1次回折光の回折角θ1 :45.05°
このような測定ヘッドHを用いて得られた信号波形は、図10の通りであり、この信号波形から解析された粘性率は1.04mPa・s、表面張力は206mN/mである。
【0052】
以上の本発明の液体表面粘弾性質測定ヘッド及びそれを用いた測定装置により、以下に示すような特性のものを得ることができる。
【0053】
○非常にコンパクトな分析チップ(5mm×10mm)であり、光学的な非接触測定法であるために、アレイ化が容易であり、多数検体の同時分析が可能。また、測定毎の機器の交換が不要
○誘起表面波の減衰時間が短い(ナノ秒オーダー)ために、測定時間が極端に短い
○空間分解能が数十μmオーダーと高く、必要サンプル量も数μlと少量であるために、生体試料や貴重サンプルの測定が可能。患者の負担軽減
○原理的に測定可能な粘性率範囲は従来の測定技術の100倍〜1000倍と広範囲
○粘性率と表面張力の同時測定が可能。
【0054】
また、本発明の液体表面粘弾性質測定ヘッド及びそれを用いた測定装置は、例えば次のような分野に適用できる。
【0055】
○体液(血液・胆汁・気管粘膜液・骨髄液等)の粘性率計測による病理診断チップアレイ
○人工透析時の血液粘度モニタリング
○石油等の試掘現場での粘性率in situ モニタリング
○化学工業現場における液体材料の表面粘弾性質のin situ 分析
○食品プラントにおけるプロセスコントロール。
【0056】
本発明の液体表面粘弾性質測定ヘッド及びそれを用いた測定装置は、上記の具体的な例に限らず多分野において適用可能である。
【0057】
以上のように、本発明の液体表面粘弾性質測定ヘッドは、レーザーの2光束干渉によって励起された表面波の減衰過程を光学的に観察することで、非接触で試料の表面粘弾性質を短時間で計測できる分析チップである。この測定ヘッドは、例えばマイクロマシニング技術により数mm角のシリコン基板上に形成でき、アレイ化が容易であり、in situ 、in vivo 測定への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の測定ヘッドの側面図(a)と断面図(b)である。
【図2】図1の測定ヘッドの基板を示す側面図である。
【図3】図1の測定ヘッドの基板(a)と変形例(b)の側面図である。
【図4】測定ヘッドの加熱光照射部の概略図である。
【図5】測定ヘッドを用いた測定装置全体のシステム構成図である。
【図6】本発明の測定ヘッドの変形例の側面図である。
【図7】図6の測定ヘッドを用いた測定装置のシステム構成図である。
【図8】図3(a)に示す基板の作製方法の1例の前半の工程図である。
【図9】図3(a)に示す基板の作製方法の1例の後半の工程図である。
【図10】本発明による測定ヘッドを用いて特定の試料について得られた信号波形である。
【図11】本発明の測定原理の概略を示す図である。
【図12】本発明の測定原理に従って観察される回折光強度の時間変化を示す信号波形の1例を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
H…測定ヘッド
P…点
S…液体試料
1、2…加熱用(干渉縞形成用)光ファイバー
3…観察光用光ファイバー
4…回折光用光ファイバー
5…正反射光用光ファイバー
10…基板
11…加熱光用光ファイバー挿入用溝
12…観察光用光ファイバー挿入用溝
12’…回折光用光ファイバー挿入用溝
13…正反射光用光ファイバー挿入用溝
15…切り込み凹部
16…バネ部材
21…ステージ
22…レーザー(加熱光光源)
23、24…レンズ
25…ミラー
26…ビームスプリッター
27、28…ミラー
29、30…1/2波長板
31、32…カプラー
40…レーザー(観察光源)
41…ミラー
42…カプラー
43…光電子増倍管
44…増幅器
45…光電検出器
46…PIDコントローラー
47…ステージコントローラー
51…Si層(溝形成層)
52…SiO2
53…Si層(支持基板)
54、55…SiO2
56…Al層
57…フォトレジスト層
58…幅の狭い溝用の開口パターン
59…幅の広い溝用の開口パターン
60…切り込み凹部用の開口パターン
61…ウエットエッチング
62…ドライエッチング
63…別のフォトレジスト層
64…ドライエッチング
65…ドライエッチング
66…フォトレジスト層
67…Al層
68…フォトレジスト層
69…切り込み凹部用の開口パターン
70…ウエットエッチング
71…ドライエッチング
72…ドライエッチング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料表面に可干渉の2光束を入射させて干渉縞を形成することで液体試料表面に表面波を誘起させると共に、前記干渉縞に観察光を入射させ、その誘起表面波で回折された回折光の強度の時間変化を示す信号波形を取得し、前記干渉縞消失後の前記信号波形を解析することで、液体試料の表面粘弾性質を測定する液体表面粘弾性質測定に用いる測定ヘッドであって、
前記干渉縞を形成する2光束それぞれを相互に角度をなして液体試料表面に入射させる2本の干渉縞形成用光ファイバーの先端部と、前記観察光を液体試料表面の前記誘起表面波に入射させる1本の観察光用光ファイバーの先端部と、前記誘起表面波で回折された前記回折光を取得する1本の回折光用光ファイバーの先端部とが同一基板に相互に角度をなして取り付けられてなることを特徴とする液体表面粘弾性質測定ヘッド。
【請求項2】
前記2本の干渉縞形成用光ファイバーの先端部が相互になす角の2等分線に対して各干渉縞形成用光ファイバーの先端部のなす角度をφ、前記干渉縞形成用光ファイバーのクラッッドの径をR、前記干渉縞形成用光ファイバー中のモードフィールド径をω、前記干渉縞形成用光ファイバーの開口数をNA、前記干渉縞を形成する光の波長をλ、液体試料表面での干渉縞を形成する光のビーム半径をr、前記2本の干渉縞形成用光ファイバーの先端間の最短距離をx2 として、次の式(1)の条件を満たすことを特徴とする請求項1記載の液体表面粘弾性質測定ヘッド。
【数1】

【請求項3】
前記基板の1面に形成された別々の溝に、前記2本の干渉縞形成用光ファイバー、前記観察光用光ファイバー、前記回折光用光ファイバーがそれぞれ挿入固定されてなることを特徴とする請求項1又は2記載の液体表面粘弾性質測定ヘッド。
【請求項4】
前記溝各々に挿入された光ファイバーを固定するためのバネ部材が溝に沿って配置されていることを特徴とする請求項3記載の液体表面粘弾性質測定ヘッド。
【請求項5】
さらに液体試料表面で正反射した前記観察光を取得する1本の正反射光用光ファイバーの先端部が前記基板に取り付けられていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項記載の液体表面粘弾性質測定ヘッド。
【請求項6】
液体試料表面に可干渉の2光束を入射させて干渉縞を形成することで液体試料表面に表面波を誘起させると共に、前記干渉縞に観察光を入射させ、その誘起表面波で回折された回折光の強度の時間変化を示す信号波形を取得し、前記干渉縞消失後の前記信号波形を解析することで、液体試料の表面粘弾性質を測定する液体表面粘弾性質測定装置において、
液体試料表面に面して請求項1から4の何れか1項記載の液体表面粘弾性質測定ヘッドが配置され、前記2本の干渉縞形成用光ファイバーの後端それぞれに同一光源から出て2分された光が入射され、前記観察光用光ファイバーの後端には別の光源からの光が入射され、前記回折光用光ファイバーの後端には回折光の強度の時間変化を示す信号波形を取得する光電変換手段が接続され、前記光電変換手段からの信号波形は解析装置に入力されることを特徴とする液体表面粘弾性質測定装置。
【請求項7】
液体試料表面に可干渉の2光束を入射させて干渉縞を形成することで液体試料表面に表面波を誘起させると共に、前記干渉縞に観察光を入射させ、その誘起表面波で回折された回折光の強度の時間変化を示す信号波形を取得し、前記干渉縞消失後の前記信号波形を解析することで、液体試料の表面粘弾性質を測定する液体表面粘弾性質測定装置において、
液体試料表面に面して請求項5記載の液体表面粘弾性質測定ヘッドが制御信号に基づいて液体試料表面に対する高さが制御可能に配置されており、前記2本の干渉縞形成用光ファイバーの後端それぞれに同一光源から出て2分された光が入射され、前記観察光用光ファイバーの後端には別の光源からの光が入射され、前記回折光用光ファイバーの後端には回折光の強度の時間変化を示す信号波形を取得する光電変換手段が接続され、前記光電変換手段からの信号波形は解析装置に入力され、前記正反射光用光ファイバーの後端には正反射光強度を検出する第2光電変換手段が接続され、前記第2光電変換手段からの光強度信号が最大になるように前記液体表面粘弾性質測定ヘッドの液体試料表面に対する高さを制御する制御装置を備えていることを特徴とする液体表面粘弾性質測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−241323(P2008−241323A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79198(P2007−79198)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】