説明

液体試料成分の分析装置および分析方法

【課題】液体試料成分を分析する際の測定値の補正を精度良く行い、ヒト全血などの液体試料由来の個体差の影響を受けない、より高精度な定量演算を行えるようにする。
【解決手段】反応試薬を保持したバイオセンサに液体試料を点着させて展開させ、その展開流路上の反応部における反応度合を測定することで、液体試料中の分析対象物濃度を測定するための液体試料成分の分析装置である。反応度合由来のシグナルを測定するシグナル測定部13と、バイオセンサにおける展開流路上の情報および、または展開流路以外の情報にもとづく測定値の補正パラメータを収集する補正パラメータ収集部11と、補正パラメータ収集部11で収集された補正パラメータを用いて、シグナル測定部13で測定されたシグナル値を補正し、補正された補正シグナル値を用いて液体試料成分の定量演算を行う演算処理部18とを少なくとも有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体試料成分の分析装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、在宅医療、および医院や診療所などの地域医療の充実、さらには早期診断、および緊急性の高い臨床検査の増加などに伴い、臨床検査の専門家でなくとも、それを用いて、簡易かつ迅速に、高精度の測定を実施可能である分析装置が要望されるようになってきている。このため、煩雑な操作を伴わず、短時間で信頼性の高い測定を行うことのできる、POCT(Point of Care Testing)向けの小型分析装置が、脚光をあびている。
【0003】
POCTとは、一般的に、開業医、専門医の診察室、病棟および外来患者向け診療所などの「患者の近いところ」で行われる検査の総称であり、検査結果を即座に医師が判断し、迅速な処置を施し、治療の過程や、予後のモニタリングまでを行うという診療の質の向上に大きく役立つものとして注目されている方法である。このような小型分析装置による検査は、中央検査室での検査に比べて、検体の運搬や、設備にかかるコストや、不要な検査にかかる費用を抑えることができ、トータルの検査費用の削減が可能になるといわれており、POCT市場は、病院経営合理化の進む米国では、急速に拡大してきており、日本をはじめ世界的にみても成長市場となっていくことが予想されている。
【0004】
免疫クロマトセンサに代表されるような乾式の分析素子としての試験片は、試薬の調整を必要とせず、測定対象となる血液や尿などの液体試料を、試験片上に滴下するなどの簡単な操作のみにより、該液体試料に含まれた分析対象物を分析することが可能なものであり、液体試料中の分析対象物を簡便かつ迅速に分析するのに非常に有用なため、POCTの代表として今日、各種診療所および一般外来、病棟、救急外来、救急現場などで多数実用化されている。
【0005】
その中でも、抗原抗体反応を用いる免疫クロマトグラフィー試験片(以下、「クロマト試験片」あるいは「バイオセンサ」と略して表記)は、感知反応が高度の特異性と強い結合力で行われるので、極めて低い濃度で存在する生理活性物質の分析において、他の試験片より優れた特性を示す。今日では、この原理を用いて、妊娠診断薬や癌マーカー診断薬、心筋マーカー診断薬などの数多くの診断薬が市販され、医療現場にて用いられている。
【0006】
しかし、液体試料によって、粘度、各成分量、夾雑物などの性状に個体差があり、前述した乾式分析素子による分析方法では、それらの影響を受けやすく、これらの要因を排除可能な大型の分析装置に比べ、高精度な測定結果を得ることが困難であった。そこで、従来より、前記のような測定の信頼性を低下させる要因を排除する分析装置が、多くのメーカーによって開発されている。
【0007】
免疫クロマトセンサは、一般に、液体試料の展開が可能な展開流路と、反応の為の試薬とで構成されており、液体試料の浸透により移動可能な標識試薬と分析対象物と展開流路における反応部との間での特異的反応が行われる。この特異的反応によって生じた反応度合を目視による定性判断にて、あるいは専用の測定機を用いる等の任意の方法により定性あるいは定量測定することで、測定結果を判断している。
【0008】
ここで、専用の測定機を用いた場合の測定方法の1例について、図6を用いて説明する。図6において、1は免疫クロマト試験片であり、展開流路8上に少なくとも反応部2を有する構成がとられている。3は光源で、LEDなどによって構成されており、試験片1に光を照射することが可能である。4は受光部であり、光源3から試験片1に照射した光のうち反射された反射光を受光する事が可能である。5は演算処理部である。6は測定機を示し、この測定機6は、少なくとも光源3、受光部4、演算処理部5から構成されている。そして測定機6は、試験片1における反応度合を受光部4からのシグナルである反射光を読み取り、その内部に記憶されている検量線を用いて、検体中の分析対象物の濃度を定量し、その結果が表示される仕組みとなっている。なお、これはほんの一例であり、その他の方法を用いている場合もある。
【0009】
POCT検査において分析対象物を測定する場合の検体としては、主に尿や血液があげられる。これらの検体を用いて評価する場合、個体間差が当然のように存在する。特に、ヒトの血液の性状における個体差は、非常に大きい。たとえばHct(ヘマトクリット:血液中の赤血球の割合)が低い場合や高い場合、また血液粘度が低い場合や高い場合があり、多くのバイオセンサにおいて、この影響は大きく、測定結果を上下に変動させてしまう要因の1つである。その為、免疫クロマトセンサにおいては、これらの影響を回避するために予め遠心分離などの前処理を行うことで、血球成分を除去した血清あるいは血漿を液体試料として用いたり、試験片上に血球フィルタを備え、血球が概ね除去された液体試料のみが反応領域を展開するよう構成された方法がとられている。しかし、例え血漿あるいは血清を液体試料として用いても、その粘度の影響は少なからず残ってしまうため、これら個体間差の影響を回避する方法が必要とされていた。
【0010】
例えば、その個人差の影響として、免疫クロマトセンサにおいては、Hctが低い場合や血液粘度が低い場合は、Hctや血液粘度が標準である場合に比べて、図7(a)に示すように、その検体は試験片1上の展開が速くなる。そのため、一定時間に反応領域を通過する分析対象物の量が多くなり、シグナルレベル(標準検体を用いた場合の反応度合からの変化の度合)が高くなる傾向がある。反対にHctが高い場合や血液粘度が高い場合は、Hctや血液粘度が標準である場合に比べて、Hctや粘度の影響をうけるため、図7(b)に示すようにその検体は、試験片1上の展開が遅くなる。その為、一定時間内に反応部を通過する分析対象物の量が少なくなり、反応度合であるシグナルが低くなる傾向がある。
【0011】
図8は上記の状況を表したものである。横軸は試験片1上における一定時間後の液体試料の反応部上を通過した通過量、縦軸はシグナルレベルである。上述のように、Hctや血液粘度が標準である場合に比べて、Hctが低い場合や血液粘度が低い場合は、通過量は多く、シグナルレベルが上昇している。反対に標準よりもHctが高い場合や血液粘度が高い場合は、通過量は少なく、シグナルレベルが低下している。したがって、分析対象物濃度が同じでも、Hctや血液粘度などの血液の性状が相違すると、試験片1上における反応部上の通過量が相違し、試験片1に含まれる試薬と分析対象物との反応度合も異なってくる。
【0012】
分析対象物の濃度の定量には、図9に示すような検量線が一般に用いられる。しかし、図9に示すように、上記のような異なった反応度合すなわちシグナル値をそのまま検量線に代入すると、分析対象物濃度が同じであるにもかかわらず、通過量は少なく、シグナルが低くなる場合は定量値が実際よりも低く表れることになり、反対に通過量が多く、シグナルが高くなる場合は定量値が実際よりも高く表れることになる。いずれも、標準の検体と比べて、異なる値を示してしまう。
【0013】
図10は、実際の測定値の例を示す。横軸はHct値、縦軸は反応度合であるシグナル値を表す。ここでは、分析対象物の濃度が等しい2種類の検体Aと検体Bとについての反応度合の測定結果がプロットされている。A及びBは、異なる検体であり、それぞれHctを20・40・60%に調整した検体を用いた測定結果である。図示のように、同じ濃度の検体を測定した結果であるにもかかわらず、Hctが低いと反応度合すなわちシグナル値が高値を示し、Hctが高いと反応度合すなわちシグナル値は低値を示してしまっている。また、同じHctであっても、検体が異なるとシグナル値も異なっており、個体差の影響を受けていることがわかる。このため、定量演算すると算出される分析対象物濃度には大きな相違が生じてしまい、定量精度が悪くなる。
【0014】
従来、血液中の特定成分を測定するための測定用具におけるHctの補正方法としては、予めHct値を測定する方法、あるいは同一評価内でHctを測定する方法などが採用されていた。例えば特許文献1では、血液が供給される毛細管室内の測定部以外の領域にて光学変化を測定することで、Hct値を予め測定し、このHct値を用いて測定部における測定結果を補正する方法が用いられていた。
【特許文献1】特許第3586743号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1の方法を用いた場合、予め同一評価内でHct値を測定することが出来るため、個体間差の1つであるHct値の影響に関する補正を行うことは可能となる。しかしながら、尿や血液、血漿あるいは血清といった任意の液体試料を用いる場合、測定結果に与える影響は、上にも示すようにHctに及ばず、液体試料の粘度であったりする一方、試験片内で評価を行う免疫クロマトセンサでの評価では、センサ上の性状であったり、測定環境と様々な要因が測定結果の誤差を生じる大きな原因とされている。このため、Hct測定に限定され、これらの影響を確認できるような手法がとられていない特許文献1では、免疫クロマトセンサにおける上記課題を解決することは到底困難であった。
【0016】
そこで本発明は、液体試料成分を分析する際の測定値の補正を精度良く行い、ヒト全血などの液体試料由来の個体差の影響を受けない、加えて測定環境、試験片の状態など様々な要因がセンサ性能へ及ぼす影響を改善することができる、より高精度な定量演算を行うことが可能な液体試料成分の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的を達成するため本発明の液体試料成分の分析装置は、反応試薬を保持したバイオセンサに液体試料を展開させ、その展開流路上の反応部における反応度合を測定することで、液体試料中の分析対象物濃度を測定するための液体試料成分の分析装置であって、反応度合由来のシグナルを測定するシグナル測定部と、バイオセンサにおける展開流路上の情報および、または展開流路以外の情報にもとづく測定値の補正パラメータを収集する補正パラメータ収集部と、補正パラメータ収集部で収集された補正パラメータを用いて、シグナル測定部で測定されたシグナル値を補正するシグナル補正部と、シグナル補正部で補正された補正シグナル値を用いて液体試料中の分析対象物の定量演算を行う定量演算部とを有することを特徴とする。
【0018】
本発明の液体試料成分の分析方法は、反応試薬を保持したバイオセンサに液体試料を展開させ、その展開流路上の反応部における反応度合を測定することで、液体試料中の分析対象物濃度を測定するための液体試料成分の分析方法であって、反応度合由来のシグナルを測定し、バイオセンサにおける展開流路上の情報および、または展開流路以外の情報にもとづく測定値の補正パラメータを収集し、収集された補正パラメータを用いて、測定されたシグナル値を補正し、補正された補正シグナル値を用いて液体試料中の分析対象物の定量演算を行うことを特徴とする。
【0019】
したがって本発明によれば、補正パラメータを用いて測定データを補正したうえで、その補正データを用いて液体試料成分の定量演算を行うものであるため、バイオセンサを用いた分析対象物の測定精度に対して、バイオセンサの展開流路上の情報などの各パラメータが及ぼす影響を改善し、より正確な分析対象物濃度を提供することができる。このパラメータを用いた補正方法を用いることで、個体間差や測定環境、センサの保存期間など、センサ性能を悪化させる様々な要因に対して、補正を行うことが可能となり、より正確な定量演算を可能とする高精度な測定方法を提供することができる。
【0020】
本発明の液体試料成分の分析装置によれば、予測濃度決定部を有し、この予測濃度決定部は、液体試料がバイオセンサに点着されてからの所定のタイミングにおける反応度合の変化データを用いて、点着後の所定タイミングで取得されたシグナル値がどの濃度についての反応度合に該当するのかを定量演算してその濃度を予測濃度として決定するものであることが好適である。
【0021】
なお、ここにおける反応度合の変化データとは、各タイミングにおける分析対象物濃度と反応度合との関係を示す検量線や、各分析対象物濃度におけるタイミング間での反応度合の上昇度を示す変化線などの任意の変化データがあげられる。
【0022】
また、本発明の液体試料成分の分析方法によれば、液体試料がバイオセンサに点着されてからの所定のタイミングにおける反応度合の変化データを用いて、点着後の所定タイミングで取得されたシグナル値がどの濃度についての反応度合に該当するのかを演算処理または判定し、その濃度を予測濃度として決定することが好適である。
【0023】
上記の本発明によれば、バイオセンサの反応度合が落ち着くまでの本来の測定終了時間を待つことなしに、その本来の測定時間までの間の任意のタイミングでシグナルを測定して予測濃度を算出する。そして、幾度目かのタイミングで、本来の測定終了時間を待たずに予測濃度を算出濃度として早期に表示することができ、より短時間で、より正確かつ高精度な測定方法を提供することが可能となる。
【0024】
なお、ここで示す所定のタイミングとは、液体試料がバイオセンサに点着されてからの時間や、液体試料が展開した展開流路上の到達位置であるなど、任意のタイミングがあげられる。
【0025】
本発明の液体試料成分の分析装置によれば、予測濃度決定部で決定された予測濃度と反応度合の変化データのどちらか一方あるいは両方を、定量演算部における液体試料中の分析対象物の定量演算のためにこの定量演算部に供給する補正情報供給部を有することが好適である。
【0026】
また本発明の液体試料成分の分析方法によれば、決定された予測濃度と反応度合の変化データのどちらか一方あるいは両方を、液体試料中の分析対象物の定量演算のために用いることが好適である。
【0027】
上記の本発明によれば、測定データをいっそう精度良く補正したうえで、液体試料成分の定量演算を行うことができる。その為、分析対象物濃度は、より正確な数値を算出することが可能となり、個体間差などの影響を受けない高精度な液体試料成分分析装置及び方法を実現することができる。
【0028】
なお、ここにいう液体試料とは、尿・血液・血漿・血清などの任意の液体試料があげられる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、補正パラメータを用いて測定データ(反応度合)を補正したうえで、その補正データを用いて液体試料中の分析対象物濃度の定量演算を行うものであることにより、バイオセンサを用いた分析対象物の測定精度に対して、バイオセンサの展開流路上の情報などの各パラメータを用いることで、検体の個体間差や、測定環境、試験片の状態など様々な要因がセンサ性能へ及ぼす影響を改善することができる。また、点着する検体量が不足する場合や、長期間保存しておいたバイオセンサを用いて測定する場合においても、精度良く測定を行うことができ、正確性の高い定量測定を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は、本発明の液体試料成分の分析装置の構成を示す。ここで、10はデータ収集及び演算処理部であり、図6に示したものと同様に、クロマト試験片における反応度合を受光部からの任意のシグナルとして読み取り、その内部に記憶されている検量線を用いて、検体中の分析対象物の濃度を定量するものである。さらに、この図1のデータ収集及び演算処理部10は、補正パラメータ収集部11と、シグナル測定部13と、シグナル補正部14と、定量演算部15と、表示部16とを少なくとも備える。シグナル補正部14と定量演算部15とによって、演算処理部19が構成されている。なお、シグナルを読み取るための方法や測定機能は、この方法に限らない任意の方法で何ら問題ない。
【0031】
本発明においては、測定値の補正に際して、まず、データ収集及び演算処理部10の補正パラメータ収集部11によって、補正パラメータすなわち補正式に用いるためのパラメータを収集する。補正パラメータとして収集すべきパラメータの定義は、次のようなものである。たとえば、バイオセンサ1における展開流路上の情報として、展開速度、到達位置、液体試料の移動距離、移動時間などを挙げることができる。この補正パラメータは、適宜の試験片などを用い、補正パラメータ収集部11によって、リアルタイムに収集する。収集した補正パラメータは、任意の補正に利用される。更に、液体試料の特性データや、その他の任意のパラメータを人為的に設定したり、人為的に入力したりするなどの方法によって、補正パラメータとして利用してもよい。
【0032】
補正パラメータとして収集すべきパラメータの、展開流路以外の情報として、たとえば、シグナル変化度合、測定環境の温度、試験片保存期間、Hct(ヘマトクリット)値、バックグランドなど、反応度合に影響を及ぼすファクターを挙げることができる。これらについても同様に、補正パラメータ収集部11によって補正パラメータとして収集する。
【0033】
次に演算処理方法について説明する。シグナル測定部13で測定されたシグナル値と、補正パラメータ収集部11で収集された補正パラメータとを用いて、シグナル補正分14でシグナル値の補正を行い、補正シグナル値を算出する。次に、この補正シグナル値と検量線とを用いて、定量演算部15にて分析対象物濃度を算出する。
【0034】
なお、ここで示す検量線や補正式は、予め演算処理部内に記憶されている方法や、測定毎に試験片上から各情報を取り出す方法、後述の例のように各情報が記憶されているメモリを測定機に設置し、そこから各情報を取り出す方法など、任意の方法を用いてよい。
【0035】
補正パラメータとシグナルを用いたシグナル補正について、補正の様子を、図2に示す。この図2は、補正パラメータとして一定時間内に液体試料が展開流路上を展開し到達した到達位置を採用したものであり、横軸はその到達位置、縦軸はシグナルレベルすなわちバイオセンサにおける反応度合を標準検体と比較した度合である。到達位置とシグナルレベルには相関性がみられ、標準検体を用いた場合を中心として、シグナルレベルの変動が見られる。標準の場合は実質的な補正は行わなくてよいが、到達位置が近い場合はシグナルレベルを上げる補正が、到達位置が遠い場合はシグナルレベルを下げる補正が必要である為、それぞれの到達位置と整合した補正を行う。これにより、図示のように、到達位置にかかわらず標準の場合と同じシグナルレベルへと補正される。つまり、到達位置の違いを利用してシグナルレベルの変動を補正することができる。
【0036】
定量演算部15では、このように補正されたシグナル値と、検量線とを用いて、分析対象物についての定量演算を行う。演算結果は、表示部16によって表示される。
【0037】
このような手法であると、定量演算のための検量線にシグナル値を代入する前にこのシグナル値を補正するため、補正後のシグナルを用いて、そのシグナルに適した検量線により、適切な定量演算を行うことができる。この為、展開流路上の反応部を複数設定、個々の反応部に対応した反応部と同数の検量線を設定して、定量演算処理する場合や、展開流路上にある1つあるいは複数の反応部の数よりも多く検量線を設定し、定量演算処理を行う場合には、特に効果的である。
【0038】
たとえば検体粘度が測定値に影響する場合は、試験片における展開速度と、試薬との反応度合とには、相関性が認められる。またHctについても、同様の傾向がある。ほかにも、たとえば測定環境に関しては、環境温度と展開速度および反応速度とに相関性が認められる。本発明では、これらの任意の補正パラメータとの関係を利用し、上記の展開速度や距離などの展開流路上の情報や、展開流路以外の情報をパラメータとして使用し、反応度合(シグナル)とパラメータとの関係からなる補正式を用いてシグナルを補正した後に定量演算することにより、測定値の補正を行う。これによって、バイオセンサを用いた分析対象物の測定精度に対して各パラメータが及ぼす影響を改善することができる。また、点着する検体量が不足する場合や、長期間保存しておいたバイオセンサを用いて測定する場合においても効果的である。
【0039】
図3は実測データの例を示す。横軸はバイオセンサに検体の液体試料を点着させてから30秒経過後の、バイオセンサの長さ方向に沿った検体の到達位置を表し、縦軸は、定量演算値について、真値(分析対象物濃度の正確な値)からの乖離度(%)を表す。同図(a)は本発明による補正を行わなかった場合の結果であり、同図(b)は本発明による補正を行った場合の結果である。補正を行わなかった場合は、同図(a)に示すように、±30%を超えて乖離したものが多数存在し、しかもデータ全体として真値よりも低めな値に乖離する偏りの傾向を生じていた。これに対し本発明に基づく補正を行った場合は、同図(b)に示すように、±30%を超えて乖離したものはごくわすがであり、しかもプラス方向やマイナス方向への偏りはなく、真値からの乖離がない状態である0%を中央としてプラス方向およびマイナス方向に均等にばらつきが見受けられた。
【0040】
次に本発明の他の実施の形態について説明する。ここでは、測定時間の短縮をも考慮した、予測定量演算による定量を行う。すなわち、バイオセンサにおける反応度合は、時間とともに変化して、所定の時間の経過後に最終的な度合に落ち着くが、反応度合が変化し始めてからの早い時期に最終的な度合を予測するものである。
【0041】
図4は、この場合に使用する装置の構成を示す。図1の装置に加えて、メモリ12と、予測濃度決定部17と、補正情報供給部18とが設けられている。メモリ12は、前述のように各情報が記憶されている。
【0042】
図5(a)は、液体試料がバイオセンサに点着されてからの所定のタイミングにおける分析対象物濃度とシグナルとの関係を示す。ここで、横軸は分析対象物濃度を示し、縦軸は反応部におけるシグナルを示す。図中に引かれた線は、タイミング1、タイミング2、タイミング3の場合の分析対象物濃度とシグナルとの関係を示す検量線である。
【0043】
図5(b)は、液体試料がバイオセンサに点着されてからの時間の経過とシグナルとの関係を示す。ここで、横軸は時間を表し、縦軸は反応部におけるシグナルを示す。図5(b)に引かれた変化線は、分析対象物の濃度が既知検体の場合の、バイオセンサにおける反応度合の変化の様子、すなわち時間の経過に伴うシグナルの変化の様子を示す。この変化線は、分析対象物の濃度に応じて異なる線ができるが、図5(b)では、そのうちの一部、つまり分析対象物の濃度が10mg/デシリットルの場合のシグナル変化と、1mg/デシリットルの場合のシグナル変化と、0.1mg/デシリットルの場合のシグナル変化とが、代表例として表示されている。図5(b)において、タイミング1、タイミング2、・・・は、測定タイミングを示す。各タイミングに関して、図5(a)に示すように、それぞれのタイミングに応じた検量線が予め設定されている。各タイミングで測定されたシグナルは、それぞれのタイミング検量線を用いて演算処理がなされる。
【0044】
詳細には、たとえば図5(b)のタイミング1で第1回目の定量演算を行う。このとき、図4に示される補正パラメータ収集部11で収集された補正パラメータを用いて、シグナル補正部14および定量演算部15にて定量演算を行う。図4の予測濃度決定部17は、その演算結果を用いて、予め設定されている複数の検量線の中から、タイミング1に対応した検量線を選択し、この検量線にタイミング1のシグナル値を代入して、第1の予測濃度値を決定する。
【0045】
タイミング2でも同様の操作を行い、第2の予測濃度値を決定する。以降、予測濃度決定部17は、各タイミングにおいて同様の操作を行い、それにより得られた複数の予測濃度値から、たとえば出現頻度の最も高かった予測濃度値を選択して、それをその分析対象物の濃度であると決定する。なお、ここで示す方法はほんの一例であり、平均値を算出するなどの任意の方法を用いてよい。
【0046】
この場合は、図4の定量演算部15での演算結果を各タイミングごとに表示するのではなく、予測濃度決定部17で決定した予測濃度値の信号を表示部16に送って表示する。なお、念のために、濃度決定用のシグナルをシグナル測定部13において別途測定し、そのシグナル値に補正部14で補正をかけ、得られた補正シグナル値と所要の補正パラメータとを用いて定量演算部15にて定量演算を行い、予測濃度決定部17においてその演算結果と先ほどの予測決定結果とを対比照合することもできる。あるいは、予測濃度値を表示したうえで、バイオセンサの反応度合が落ち着くまでの本来の測定終了時間の経過後にシグナルを測定し、そのシグナルに補正部14で補正をかけ、得られた補正シグナルと所要の補正パラメータとを用いて定量演算部15にて定量演算を行った結果を改めて表示してもよい。
【0047】
このようにすれば、バイオセンサの反応度合が落ち着くまでの本来の測定終了時間を待つことなしに、その本来の測定時間までの間の任意のタイミングでシグナルを測定して予測濃度を算出し、幾度目かのタイミングで、本来の測定終了時間を待たずに予測濃度を算出濃度として早期に表示することができる。
【0048】
幾度かのタイミングで算出された予測濃度や、図5(a)に示されるそれぞれの検量線の情報は、シグナル補正部14による補正に加えた、さらなる補正を行うために利用することができる。たとえば、定量演算部15においては、図4に示される補正情報供給部18から、図5(a)に示されるタイミング検量線を用いて各タイミングごとに予測濃度決定部17で決定された予測濃度値の供給を受け、この予測濃度値の平均値を用いて定量演算を行うことができる。あるいは、定量演算部15においては、シグナル補正部14からの補正シグナルのほかに、図5(a)に示される濃度線の情報をも用いて、定量演算を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の液体試料成分分析装置および分析方法は、バイオセンサを用いた分析対象物の測定精度に対して、液体試料の個体間差や測定環境など様々な要因(パラメータ)によって影響されている測定値を改善し、高精度な定量演算をすることができるものであり、このため、バイオセンサを用いた液体試料成分の分析装置および分析方法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態の液体試料成分の分析装置の要部の構成を示す図
【図2】図1の装置を用いたシグナルレベルの補正方法を示す図
【図3】補正を行わなかった場合と、本発明の実施の形態1による補正方法を用いた場合の分析対象物濃度の実測データの例を示す図
【図4】本発明の他の実施の形態の液体試料成分の分析装置の要部の構成を示す図
【図5】図4の分析装置の動作原理を示す図
【図6】一般的な液体試料成分の分析装置の概略構成を示す図
【図7】異なる検体を用いた場合の、試験片上の展開状況を示す図
【図8】図7の試験片上の液体試料の通過量とシグナルレベルとの関係を示す図
【図9】図8のシグナルレベルの変動と測定値の変動との関係を示す図
【図10】図8のシグナルレベルの変動にもとづく測定値の変動の実測値を示す図
【符号の説明】
【0051】
1 試験片
2 反応部
11 測定パラメータ収集部
13 シグナル測定部
14 シグナル補正部
15 定量演算部
17 予測濃度決定部
18 補正情報供給部
19 演算処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応試薬を保持したバイオセンサに液体試料を点着させて展開させ、その展開流路上の反応部における反応度合を測定することで、液体試料中の分析対象物濃度を測定するための液体試料成分の分析装置であって、
反応度合由来のシグナルを測定するシグナル測定部と、
バイオセンサにおける展開流路上の情報および、または展開流路以外の情報にもとづく測定値の補正パラメータを収集する補正パラメータ収集部と、
補正パラメータ収集部で収集された補正パラメータを用いて、シグナル測定部で測定されたシグナル値を補正するシグナル補正部と、
シグナル補正部で補正された補正シグナル値を用いて液体試料中の分析対象物の定量演算を行う定量演算部とを有することを特徴とする液体試料成分の分析装置。
【請求項2】
予測濃度決定部を有し、この予測濃度決定部は、液体試料がバイオセンサに点着されてからの所定のタイミングにおける反応度合の変化データを用いて、点着後の所定タイミングで取得されたシグナル値がどの濃度についての反応度合に該当するのかを演算処理してその濃度を予測濃度として決定するものであることを特徴とする請求項1記載の液体試料成分の分析装置。
【請求項3】
予測濃度決定部で決定された予測濃度と反応度合の変化データのどちらか一方あるいは両方を、定量演算部における液体試料中の分析対象物の定量演算のためにこの定量演算部に供給する補正情報供給部を有することを特徴とする請求項2記載の液体試料成分の分析装置。
【請求項4】
反応試薬を保持したバイオセンサに液体試料を点着させて展開させ、その展開流路上の反応部における反応度合を測定することで、液体試料中の分析対象物濃度を測定するための液体試料成分の分析方法であって、
反応度合由来のシグナルを測定し、
バイオセンサにおける展開流路上の情報および、または展開流路以外の情報にもとづく測定値の補正パラメータを収集し、
収集された補正パラメータを用いて、測定されたシグナル値を補正し、
補正された補正シグナル値を用いて液体試料中の分析対象物の定量演算を行うことを特徴とする液体試料成分の分析方法。
【請求項5】
液体試料がバイオセンサに点着されてからの所定のタイミングにおける反応度合の変化データを用いて、点着後の所定タイミングで取得されたシグナル値がどの濃度についての反応度合に該当するのかを演算処理し、その濃度を予測濃度として決定することを特徴とする請求項4記載の液体試料成分の分析方法。
【請求項6】
決定された予測濃度および、または反応度合の変化データを、液体試料中の分析対象物の定量演算のために用いることを特徴とする請求項5記載の液体試料中の分析対象物の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−117290(P2010−117290A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291804(P2008−291804)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】