説明

液体誘電体傾斜コイルシステム及び方法

【課題】磁気共鳴撮像システム向けの2つ以上の傾斜コイルに対する冷却及び電気的分離を提供すること。
【解決手段】液体誘電媒質を利用した傾斜コイルアセンブリを有する磁気共鳴撮像システムを提供する。一実施形態の磁気共鳴撮像システム(10)は、複数の傾斜コイル(26、28、30)を有する傾斜コイルアセンブリ(58、60)を含む。この傾斜コイルアセンブリ(58、60)では、傾斜コイル(26、28、30)のうちの少なくとも2つが流体媒質によって互いから電気的に分離されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示した主題は全般的には磁気共鳴撮像システムに関し、またさらに詳細には、磁気共鳴撮像システム向けの2つ以上の傾斜コイルに対する冷却及び電気的分離に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴撮像(MRI)システムは、水分子内の水素原子核など対象内の特異的な原子核成分と相互作用する主磁場、無線周波数(RF)パルス、時間変動する傾斜磁場に基づいた撮像が可能である。こうした原子核成分の磁気モーメントは主磁場と整列しようとするが、引き続いてラーモア周波数と呼ぶ特性周波数で歳差運動することになる。こうした原子核成分のラーモア周波数にあるまたはその近傍の周波数にあるRFパルスは磁気モーメントを回転させることができる。RFパルスが終了したときに、磁気モーメントは主磁場と再び整列しようとして、検出可能な信号を放出することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
少なくとも3つの離散的な傾斜コイル(x、y及びz)によって、対象の指定したスライスからの信号を検出できるように計算された時間変動する傾斜磁場(G、G及びG)を発生させることができる。この傾斜コイルは互いに近づけて配置されることがあるため、時にこれら傾斜コイルのうちの2つのコイル間で電圧の部分放電が発生することがあり、これによりこうして収集した画像のいずれかに1つまたは複数のアーチファクトを表示させることがある。部分放電を防ぐために、概して円筒状をした傾斜コイルの各々をガラス充填のエポキシベースの樹脂によってその他のコイルから電気的に分離させることがある。こうしたエポキシベースの材料は、部分放電開始電圧(PDIV)特性が低いこと、傾斜コイル冷却の効率がよくないこと、エポキシベースの傾斜コイルの製造に一般に利用される真空圧力含浸手順のために製造サイクルが長いこと、を含む多くの欠点を有することがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書に開示した主題の実施形態は全般的には、液体誘電媒質を利用する傾斜コイルアセンブリを有する磁気共鳴撮像システムに関する。一実施形態の磁気共鳴撮像システムは、複数の傾斜コイルを有する傾斜コイルアセンブリを含む。この傾斜コイルアセンブリでは、傾斜コイルのうちの少なくとも2つが流体媒質によって互いから電気的に分離されている。
【0005】
別の実施形態の磁気共鳴撮像システムは、第1の傾斜コイル及び第2の傾斜コイルを有する傾斜コイルアセンブリを含む。この第1の傾斜コイル及び第2の傾斜コイルは該第1の傾斜コイル及び第2の傾斜コイルの外部にある液体媒質によって冷却される。
【0006】
さらに別の実施形態の磁気共鳴撮像システムは、少なくとも2つの中実な傾斜コイルを有する傾斜コイルアセンブリを含む。この少なくとも2つの中実な傾斜コイルは液体誘電媒質によって冷却される。
【0007】
これらの特徴、態様及び利点、並びにその他の特徴、態様及び利点については、同じ参照符号が図面全体を通じて同じ部分を表している添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読むことによってより理解が深まるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の態様による傾斜コイルアセンブリ内で流体媒質を利用するMRIシステムを表した概要図である。
【図2】本発明の態様による図1のMRIシステムのスキャナの一実施形態の断面概要図である。
【図3】本発明の態様による図1のMRIシステムのスキャナの代替的実施形態の断面概要図である。
【図4】本発明の態様による図1のスキャナ向けの傾斜コイルアセンブリの断面概要図である。
【図5】図4の傾斜コイルアセンブリの斜視図である。
【図6】図4の傾斜コイルアセンブリの横断面図である。
【図7】本発明の態様による図4の傾斜コイルアセンブリ内部に流体媒質を循環させることができるマニホールドの斜視図である。
【図8】図7のマニホールドの側面図である。
【図9】球−球幾何学構成に関する破壊電圧と鉱油のパークロロエチレン(CCl)濃度の間の関係を表したグラフである。
【図10】点−球幾何学構成に関する破壊電圧と鉱油のパークロロエチレン(CCl)濃度の間の関係を表したグラフである。
【図11】傾斜コイル巻き線の温度上昇と鉱油のパークロロエチレン(CCl)濃度の間の関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで図面に移り先ず図1を参照すると、磁気共鳴撮像(MRI)システム10をスキャナ12、スキャナ制御回路14及びシステム制御回路16を含むように概要図で表している。MRIシステム10は適当な任意のMRIスキャナまたは検出器を含むことができるが、図示した実施形態のシステムは、スキャンのために患者22を所望の位置に配置するようにテーブル20をその内部に位置決めできる撮像ボリューム18を備えた全身用スキャナを含む。スキャナ12は、追加としてまたは別法として、頭部や頚部などのある種の解剖構造を目標とするように構成されることがある。
【0010】
スキャナ12は、制御された磁場を発生させるため、無線周波数(RF)励起パルスを発生させるため、並びにこうしたパルスに応答した患者内部の磁気回転材料からの放出を検出するために、一連の関連するコイルを含むことがある。図1の概要図では、撮像ボリューム18と全体的に整列した主磁場を発生させるような主マグネット24が設けられている。一連の傾斜コイル26、28及び30は、検査シーケンスの間に制御された傾斜磁場を発生させるために1つまたは複数の傾斜コイルアセンブリ内でグループ分けされている(これについては以下でより完全に説明することにする)。磁気回転材料を励起するためのRFパルスを発生させるためにRFコイル32が設けられている。スキャナ12に対しては適当な任意の方式でパワー(その全体を参照番号34で示す)を提供することがある。図1に図示した実施形態ではそのRFコイル32はさらに受信器コイルの役割をすることがある。したがってRFコイル32は、磁気回転材料からの放出を受け取るため及びRF励起パルスを付与するためにそれぞれ受動モードと能動モードで駆動及び受信回路に結合させることがある。別法として、RFコイル32から独立させた受信器コイルの様々な構成を提供することがある。こうしたコイルは、頭部コイルアセンブリやその他など目標の解剖構造に特に適応させた構造を含むことがある。さらに受信器コイルは、フェーズドアレイコイルその他を含む適当な任意の物理的構成で設けられることがある。
【0011】
本構成の1つではその傾斜コイル26、28及び30は、制御パルスが付与されたときに傾斜磁場を発生させるコイル構造を形成するように巻き付けまたは切断された導電性のワイヤ、バーまたはプレートで形成させることがある。傾斜コイルアセンブリ内部におけるこれらのコイルの配置は、数種類の順序及び様々な構成で実施されることがあり、またスキャナ12はさらに、傾斜コイル26、28及び30を遮蔽するための補助傾斜コイルを(以下に記載する方式で)含むことがある。z傾斜コイル26は一般に最外側位置に位置決めされることがあり、また一般にRF磁場に対する影響が比較的小さいソレノイド様の構造で形成させることがある。傾斜コイル28及び30はそれぞれx軸コイルとy軸コイルとすることがある。
【0012】
スキャナ12の傾斜コイル26、28及び30は所望の場及びパルスを発生させるため、並びに磁気回転材料からの信号を制御された方式で読み取るために外部の回路によって制御されることがある。材料(典型的には、患者の組織内に束縛されている)を主磁場に置くと、組織内の常磁性原子核の個々の磁気モーメントは該場と部分的に整列する。正味の磁気モーメントが偏向場の方向で生成されている間は、直交する面内における該モーメントのランダムな方向を向いた成分は全体として互いに相殺されている。検査シーケンスの間に、RFコイル32は関心対象材料のラーモア周波数にあるまたはこれに近い周波数のRFパルスを発生させ、これにより正味の整列モーメントに回転を生じさせて正味の横方向磁気モーメントを生成することがある。この横方向磁気モーメントは主磁場方向の周りで歳差運動し、これによってスキャナ12により検出されて所望の画像を再構成するように処理を受けるRF信号を放出させる。
【0013】
傾斜コイル26、28及び30は、その強度が事前定義の視野域全体にわたって変動する(典型的には、正極性と負極性を有する)ような精細に制御された磁場を発生させる役割をすることがある。各傾斜コイル26、28または30が既知の電流によって付勢されると、得られた磁場傾斜は主磁場の上に重ね合わされると共に、視野域全体にわたる磁場強度のアキシャル成分に望ましい直線的な変動を生成させる。この場はある1つの方向で直線的に変動するが、残りの2つの方向では均一とすることがある。この3つの傾斜コイル26、28及び30はその変動方向に関して相互に直交する軸を有しており、このためこの3つの傾斜コイル26、28及び30を適当に組み合わせた任意の方向に直線的な磁場傾斜を課することが可能となる。
【0014】
パルス状の傾斜磁場は撮像処理にとって不可欠な様々な機能を実行することがある。これらの機能のうちの幾つかは、スライス選択、周波数エンコード及び位相エンコードである。これらの機能は元の座標系のx、y及びz軸に沿って適用すること、あるいは個々の磁場コイルに与えるパルス状電流を組み合わせることにより決定される別の軸に沿って適用することが可能である。
【0015】
スライス選択傾斜磁場は、患者内の撮像しようとする組織または解剖構造のスラブを決定することがあり、また同じ周波数で歳差運動させる既知のスピンボリュームを励起するために周波数選択RFパルスと同時に付与されることがある。スライス厚は、RFパルスのバンド幅及び視野域全体にわたる傾斜強度によって決定されることがある。
【0016】
周波数エンコード傾斜(読み出し傾斜と呼ぶこともある)は通常、スライス選択傾斜と直交する方向で付与される。この周波数エンコード傾斜は一般に、RF励起に由来するMRエコー信号の形成前及び形成中に付与される。この傾斜の影響を受けた磁気回転材料のスピンは傾斜磁場に沿ったその空間的位置に従った周波数エンコードを受ける。収集した信号はフーリエ変換によって解析し、選択したスライス内のその箇所を周波数エンコードによって特定することがある。
【0017】
最終的に、読み出し傾斜の前かつスライス選択傾斜の後に位相エンコード傾斜が付与されるのが一般である。位相エンコード方向での磁気回転材料のスピンの位置特定は、データ収集シーケンス中に順次付与される若干異なる傾斜振幅を用いて材料の歳差運動する陽子の位相に順次変動を誘導することによって実現される。この位相エンコード傾斜によって、位相エンコード方向におけるその位置に従って材料のスピンの間に位相差を生成することが可能となる。
【0018】
上述した例示的な傾斜パルス機能、並びに上では明示的に記載していない別の傾斜パルス機能を利用してパルスシーケンスに関する非常に多くの変動形態を考案することができる。さらに、パルスシーケンスの適応は、所望の材料を励起し、得られたMR信号を収集して処理するために、選択されるスライスと周波数及び位相エンコードとが適当に方向付されるように実施されることがある。
【0019】
スキャナ12のコイルは、所望の磁場及び無線周波数パルスを発生させるようにスキャナ制御回路14によって制御される。図1の概要図では制御回路14はしたがって、検査中に利用されるパルスシーケンスを指令するため並びに受信した信号を処理するための制御回路36を含む。制御回路36は、汎用または特殊用途のコンピュータのCPUまたはディジタル信号プロセッサなどの適当な任意のプログラム可能論理デバイスを含むことがある。さらに制御回路36は、スキャナ12によって実現される検査シーケンス中に使用される物理的及び論理的な軸構成パラメータ、検査パルスシーケンス記述、収集画像データ、プログラミングルーチンその他を保存するための揮発性及び/または不揮発性のメモリデバイスなどのメモリ回路38を含むことがある。
【0020】
制御回路36とスキャナ12のコイルの間のインタフェースは増幅及び制御回路40並びに送信及び受信インタフェース回路42によって管理されることがある。増幅及び制御回路40は、制御回路36からの制御信号に応答して駆動電流を供給するために各傾斜磁場コイル26、28及び30ごとの増幅器を含む。受信インタフェース回路42は、RFコイル32を駆動するために追加的な増幅回路を含む。さらに、RFコイル32がRF励起パルスの送出とMR信号の受信の両方の役割をする場合、その受信インタフェース回路42は、能動すなわち送信モードと受動すなわち受信モードの間でRFコイルをトグル切り替えするための切替デバイスを含むことがある。主マグネット24を付勢するために、図1でその全体を参照番号34で表した電源が設けられている。最後にスキャナ制御回路14は、システム制御回路16とで構成及び画像データを交換するためのインタフェース構成要素44を含む。
【0021】
システム制御回路16は、オペレータや放射線医とスキャナ12の間のスキャナ制御回路14を介したインタフェースを容易にするために広範なデバイスを含むことがある。図示した実施形態では例えば、汎用または特殊用途のコンピュータを利用するコンピュータワークステーションの形態をしたオペレータワークステーション46が設けられている。オペレータワークステーション46もまた典型的には、検査パルスシーケンス記述、検査プロトコル、ユーザ及び患者データ、画像データ(生データと処理済みデータの両方)その他を保存するためのメモリ回路を含む。オペレータワークステーション46はさらに、データの受信並びにローカル及びリモートのデバイスとのデータ交換のために様々なインタフェース及び周辺駆動装置を含むことがある。図示した実施形態ではこうしたデバイスには、モニタ48、従来のコンピュータキーボード50及びマウス52などの代替的な入力デバイスが含まれる。ドキュメントや収集データから再構成した画像に関するハードコピー出力を作成するためにはプリンタ54が設けられている。さらにシステム10は、図1でその全体を参照番号56で表したようなローカル及びリモートの様々な画像アクセス及び検査制御デバイスを含むことがある。こうしたデバイスには、PACS(picture archiving and communication system)、遠隔放射線学システム、その他を含むことがある。
【0022】
図2は、スキャナ12の一実施形態の上半分の簡略断面概要図を表している。図2の簡略図は必ずしもスキャナ12のすべての構成要素を図示していないことを理解されたい。図2に示すように、内側傾斜コイルアセンブリ58、外側傾斜コイルアセンブリ60及び主マグネット24は撮像ボリューム18を円筒状に取り囲んで配置されることがある。内側傾斜コイルアセンブリ58及び外側傾斜コイルアセンブリ60はそれぞれ、z傾斜コイル26、x傾斜コイル28及びy傾斜コイル30を含むことがある。内側傾斜コイルアセンブリ58及び外側傾斜コイルアセンブリ60の内部に見出される傾斜コイル26、28及び30の各々は、内側傾斜コイルアセンブリ58及び/または外側傾斜コイルアセンブリ60内部の空間を満たす液体誘電媒質によって電気的に分離されることがある(これについては以下でさらに検討することにする)。液体誘電媒質は、誘電体の機能に加えてさらに、内側及び外側傾斜コイルアセンブリ58及び60のx、y及びz傾斜コイル26、28及び30に対する冷却剤の役割もすることがある。したがって、内側及び外側傾斜コイルアセンブリ58及び60のx、y及びz傾斜コイル26、28及び30は中空の導体材料で形成されるのではなく中実な導体材料で形成させることがある。図9〜11を参照しながら以下で検討することにするが、液体誘電媒質は、鉱油及び/またはパークロロエチレン(CCl)などの電気的陰性の液体を含む幾つかの成分を含むことがある。
【0023】
流体循環システム62によって、内側及び/または外側傾斜コイルアセンブリ58または60の全体にわたって液体誘電媒質を循環させることがある。流体循環システム62に入るように、液体誘電媒質は1つまたは複数の流出口64を介して内側傾斜コイルアセンブリ58及び外側傾斜コイルアセンブリ60を出ることがある。ポンプ66は、液体誘電媒質内に堆積することがある不純物を除去できるフィルタ68を通るように液体誘電媒質をポンピングすることがある。ポンプ66はさらに、内側傾斜コイルアセンブリ58及び/または外側傾斜コイルアセンブリ60の内部で液体誘電媒質を1気圧以上の圧力に維持させることがある。したがって、脱気用構成要素及び真空ポンプ構成要素を含むことがある脱気システム70によって、内側及び外側傾斜コイルアセンブリ58及び60内の液体誘電媒質内に形成されることがあるような気泡を除去することがある。液体誘電媒質からの熱は、液体誘電媒質が内側及び/または外側傾斜コイルアセンブリ58または60内に再循環される前に冷却機72によって除去することがある。フィルタ68及び脱気システム70によって、電気的応力が大きい領域内で起こることが一般的であるような液体誘電媒質内の不純物を除去できることに留意すべきである。不純物は部分放電現象を生じさせる可能性があるため、流体循環システム62を用いて液体誘電媒質を連続して循環することによって、放電のリスクが低減されると同時に、内側傾斜コイルアセンブリ58及び外側傾斜コイルアセンブリ60からの熱を除去することができる。
【0024】
図3は、スキャナ12の代替的実施形態の上半分の簡略断面概要図を表している。図3の簡略図は必ずしもスキャナ12のすべての構成要素を図示していないことを理解されたい。上の図2の場合と同様に、図3のスキャナ12は、撮像ボリューム18を円筒状に取り囲んで配置された内側傾斜コイルアセンブリ58、外側傾斜コイルアセンブリ60及び主マグネット24を含む。内側傾斜コイルアセンブリ58及び外側傾斜コイルアセンブリ60はそれぞれ、z傾斜コイル26、x傾斜コイル28及びy傾斜コイル30を含むことがある。内側及び外側傾斜コイルアセンブリ58及び60のx、y及びz傾斜コイル26、28及び30は中空の導体材料で形成されるのではなく中実な導体材料で形成させることがある。内側傾斜コイルアセンブリ58及び外側傾斜コイルアセンブリ60の内部に見出される傾斜コイル26、28及び30の各々は、内側傾斜コイルアセンブリ58及び/または外側傾斜コイルアセンブリ60内部の空間を満たす液体誘電媒質によって電気的に分離されることがある(これについては以下でさらに検討することにする)。図2の実施形態と異なり、内側傾斜コイル循環システム76が内側傾斜コイルアセンブリ58全体にわたり液体誘電媒質を循環させかつ冷却することがある一方、外側傾斜コイル循環システム78によって外側傾斜コイルアセンブリ60内の液体誘電媒質を循環させかつ冷却することがある。内側及び外側傾斜コイル循環システム76及び78の各々は、ポンプ66、フィルタ68、脱気システム70及び冷却機72を含むことがある。
【0025】
図4は、スキャナ12の一実施形態の内側傾斜コイルアセンブリ58の上半分に関するより詳細な断面概要図を表している。図4は内側傾斜コイルアセンブリ58を表しているが、この内側傾斜コイルアセンブリ58は例示的な内側または外側傾斜コイルアセンブリ58または60のいずれかに関する例示を意図したものであることを理解されたい。内側傾斜コイルアセンブリ58及び外側傾斜コイルアセンブリ60内で液体誘電媒質を使用すると力学的剛性に関する困難が生じ、これがさらに傾斜コイル26、28及び30に対する電磁気力の効果を制限することがあるため、図4の実施形態はこうした力を考慮している。内側傾斜コイルアセンブリ58の構造は例えば、その後ろ側に内側ドラム82が形成されている背部フランジ80を含むことがある。内側ドラム82はFR4シリンダから形成されることがある。内側ドラム82は外側ドラム84の内部に装着されており、この外側ドラム84もさらにFR4シリンダから形成されることがある。以下で図5を参照しながら記載することにするが、内側ドラム82は背部フランジ80に取り付けられることがあり、また外側ドラム84は前部フランジ86に取り付けられることがある。
【0026】
内側ドラム82の一部分に対してはx傾斜コイル28を保持しているFR4シリンダから形成されたx傾斜ボード87が接着剤及び/またはビスによって取り付けられることがある。内側ドラム82に対するx傾斜ボード87の機械的取り付けを支援するため並びに電磁気力に応じた剛性を提供するために、内側ドラム82を窪ませることがある。y傾斜コイル30を保持しているFR4シリンダから形成されたy傾斜ボード88が接着剤及び/またはビスによってスタンドオフ89に取り付けられることがある。スタンドオフ89は、x傾斜ボード87内のギャップを通しかつx傾斜コイル28のアイを通してy傾斜ボード88を内側ドラム82に取り付けることがある。傾斜コイル28及び30は銅の側を下にして配置し、これにより両者の間を概ね2〜3mm離間させることがある。z傾斜コイル26は、概ね5〜10mmの厚さを有することがあるy傾斜ボード88内に機械加工し得る溝を介して、y傾斜ボード88の外径に取り付けられることがある。
【0027】
背部フランジ80、内側ドラム82、外側ドラム84及び前部フランジ86を境界とする内側ボリューム90には液体誘電媒質を満たすことがある。内側ボリューム90は、その全体にわたって配置させた一連のスペーサ91を用いて維持されることがある。スペーサ91は例えば、z傾斜コイル26、x傾斜コイル28及びy傾斜コイル30にかかる電磁気力が生じさせる動きを最小化するためのスペース確保用ストラップを含むことがある。各スペーサ91は、追加的なギャップ間隔を提供しかつ力学的剛性を高めるためにx傾斜コイル28及びy傾斜コイル30の周りにうずまき状に張力をかけて巻き付け得るような非金属ストラップを含むことがある。このスペーサ91の非金属ストラップは、例えば液体誘電媒質を一杯まで含ませたプラスチックまたはコットンから製作されることがある。内側ボリューム90の全体にわたって冷却流体コンジット92によって液体誘電媒質を行き渡らせることがある(これについては以下でさらに説明する)。
【0028】
図5は、図4に示した内側傾斜コイルアセンブリ58の内側及び外側ドラム82及び84の部分分解図を提供している。図5に示すように、背部フランジ80は内側ドラム82に連結させることがある。内側ドラム82は外側ドラム84の内部に装着されることがあり、またこの外側ドラム84は前部フランジ86に取り付けられることがある。背部フランジ80は次いで、内側ドラム82と外側ドラム84の両方に取り付けられることがある。背部フランジ80及び前部フランジ86は、その中を通って液体誘電媒質が内側傾斜コイルアセンブリ58を出入りできるような流体接続94を有することがある。内側及び外側ドラム82及び84は図4に図示した方式で一体に装着されるように製作されることがあることを理解されたい。
【0029】
図6は、内側及び外側傾斜コイルアセンブリ58及び60を有するスキャナ12の一実施形態の端部の横断簡略図である。図6の簡略図では必ずしもスキャナ12のすべての構成要素を図示していないことを理解されたい。主マグネット24は、円筒状の外側傾斜コイルアセンブリ60及び内側傾斜コイルアセンブリ58を取り囲んでいる。内側傾斜コイルアセンブリ58と外側傾斜コイルアセンブリ60の両者に関する前部フランジ86は、その中を通って液体誘電媒質が傾斜コイルアセンブリ58及び60を出入りできるような流体接続94を含むことがある。
【0030】
図7は、内側または外側傾斜コイルアセンブリ58及び/または60全体にわたって液体誘電媒質を行き渡らせることができるマニホールド96を表している。図7に示すように、液体誘電媒質は図5または6の流体接続94に結合させ得る流入マニホールド98を通って流入させることがある。コンジット92は流入マニホールド98に沿って分布させることがある。液体誘電媒質は流入マニホールド98からコンジット92まで移動し、引き続きコンジット92内の複数のアパーチャ100を通ってマニホールド96を出ることがある。液体誘電媒質は、流体接続94の流出口を通して液体誘電媒質を引き出すための流出アパーチャを伴う補助コンジットを有することがある補助流出マニホールドを通して流出させることがある。別法として液体誘電媒質は、流体接続94にある単一の流出口を通って流出させることがある。
【0031】
図8は、スキャナ12のその他の構成要素と連係させ得るマニホールド96の構成を表している。図8に示すように、マニホールド96の流入マニホールド98は、内側傾斜コイルアセンブリ58の内側ドラム82の周りに巻き付け得るコンジット92を含むことがある。このためにコンジット92は、図4のスペーサ91の代表的な1つとなり得るように非金属ストラップ102同士の間に装着するように角度が付けられることがある。
【0032】
図9〜11は、液体誘電媒質の様々な組成について達成され得る結果を表している。内側傾斜コイル組及び外側傾斜コイル組の様々な構成要素を電気的に分離させるために使用される液体誘電媒質は、多種多様な液体媒質を含むことがある。例えば液体誘電媒質は、変圧器オイルまたは鉱油を含むことがあり、あるいは鉱油と別の液体との混合物を含むことがある。部分放電現象はスキャナ12が取得した画像内に白画素を出現させることがあるため、液体誘電媒質はこうした部分放電現象により生じた白画素の数を減少させる役割をすることがある。さらに液体誘電媒質は、エポキシベースの誘電媒質において典型的であるような1マイクロ秒未満の放電ではなく、典型的には10マイクロ秒未満で放電することがある。放電時間が比較的長いため、MRI動作周波数においてその包含する周波数成分が少なくなり、発生することがあるこうした部分放電現象の悪影響を制限できるので有利である。
【0033】
液体誘電媒質は、電気的陰性の液体を含めることによって強化されることがある。この電気的陰性の液体は例えばパークロロエチレン(CCl)とすることがあり、これによりさらに部分放電形成を阻止することができる。図9及び10の両図は、様々な幾何学構成における破壊電圧と鉱油内の追加的な電気的陰性液体(パークロロエチレン(CCl))濃度との間の関係を表している。先ず図9を見ると、縦座標104は球−球幾何学構成(2.5mmギャップ、20℃)に関するkVrmsを単位とする平均破壊電圧を意味しており、また横座標106は液体誘電媒質内のパークロロエチレン濃度を意味している。図9に示すように、破壊電圧はパークロロエチレン濃度が概ね35%のときに極大値108に達している。次に図10をみると、縦座標110は点−球幾何学構成(25mmギャップ、20℃)に関するkVrmsを単位とする平均破壊電圧を意味しており、また横座標112は液体誘電媒質内のパークロロエチレン濃度を百分率で表している。図9の場合と同様に図10では、破壊電圧は概ね20%と50%の間の濃度、30%と40%の間の濃度、あるいは概ね35%の濃度で極大値114に達している。
【0034】
上で指摘したように、パークロロエチレンと鉱油の混合物は、所定の濃度における破壊電圧を高めることがある。パークロロエチレン−鉱油の混合物はさらに、部分放電開始電圧(PDIV)の上昇以外に別の恩恵も有することがある。例えば、概ね35%のパークロロエチレンを有する鉱油からなる液体誘電媒質はより低い粘性(例えば、100%鉱油の30センチポイズに対して4センチポイズ)を有することがある。こうしたより低い粘性は、傾斜コイル構成要素の表面を完全にコーティングする支援となることがある。さらに、パークロロエチレン−鉱油混合物は100%鉱油を超える熱容量を有することがある。図11に示すように、縦座標116は傾斜コイル巻き線の温度の全体的な上昇を表しており、一方横座標118は時間を単位とした持続期間を表している。曲線130は100%鉱油の場合の時間の経過に従った温度上昇を示しており、曲線122は35%パークロロエチレン−鉱油混合物の場合の時間の経過に従った温度上昇を示しており、また曲線124は50%パークロロエチレン−鉱油混合物の場合の時間の経過に従った温度上昇を示している。50%混合物により最も小さい温度上昇が得られるが、35%パークロロエチレン−鉱油混合物は純粋な鉱油と比べて温度上昇がより小さい。
【0035】
本発明の技術的効果は、磁気共鳴撮像(MRI)システムの傾斜コイルに関する電気的分離に関する部分放電開始電圧(PDIV)特性の上昇、並びに傾斜コイル冷却の効率の上昇(ただし、これに限らない)を含む。さらに、一般的にエポキシ含浸手順が回避できるために製造サイクルを短縮することができる。
【0036】
この記載では、本発明(最適の形態を含む)を開示するため、並びに当業者による任意のデバイスやシステムの製作と使用及び組み込んだ任意の方法の実行を含む本発明の実施を可能にするために例を使用している。本発明の特許性のある範囲は本特許請求の範囲によって規定していると共に、当業者により行われる別の例を含むことができる。こうした別の例は、本特許請求の範囲の文字表記と異ならない構造要素を有する場合や、本特許請求の範囲の文字表記と実質的に差がない等価的な構造要素を有する場合があるが、本特許請求の範囲の域内にあるように意図したものである。
【符号の説明】
【0037】
10 磁気共鳴撮像(MRI)システム
12 スキャナ
14 スキャナ制御回路
16 システム制御回路
18 撮像ボリューム
20 テーブル
22 患者
24 主マグネット
26 z傾斜コイル
28 x傾斜コイル
30 y傾斜コイル
32 RFコイル
34 パワー
36 制御回路
38 メモリ回路
40 増幅及び制御回路
42 受信インタフェース回路
44 インタフェース構成要素
46 オペレータワークステーション
48 モニタ
50 キーボード
52 マウス
54 プリンタ
56 リモート画像アクセス及び検査制御デバイス
58 内側傾斜コイルアセンブリ
60 外側傾斜コイルアセンブリ
62 流体循環システム
64 流出口
66 ポンプ
68 フィルタ
70 脱気システム
72 冷却機
76 内側傾斜コイル循環システム
78 外側傾斜コイル循環システム
80 背部フランジ
82 内側ドラム
84 外側ドラム
86 前部フランジ
87 x傾斜ボード
88 y傾斜ボード
89 スタンドオフ
90 内側ボリューム
91 スペーサ
92 冷却流体コンジット
94 流体接続
96 マニホールド
98 流入マニホールド
100 アパーチャ
102 非金属ストラップ
104 縦座標
106 横座標
108 極大値
110 縦座標
112 横座標
114 極大値
116 縦座標
118 横座標
120 曲線
122 曲線
124 曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その少なくとも2つが流体媒質によって互いから電気的に分離されている複数の傾斜コイル(26、28、30)を備えた傾斜コイルアセンブリ(58、60)を備える磁気共鳴撮像システム(10)。
【請求項2】
前記流体媒質は誘電性液体である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記2つの傾斜コイル(26、28、30)の間のボリューム(90)から流体媒質を引き出すため並びに該ボリューム(90)を通して流体媒質を循環させるための流体循環システム(62)を備える請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記流体循環システム(62)は流体媒質から汚染物質を除去するためのフィルタ(68)を含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記流体循環システム(62)は流体媒質から気体を除去するための脱気用構成要素(70)を含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
前記流体循環システム(62)は流体媒質を冷却するための冷却機(72)を含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項7】
前記ボリューム(90)から流体媒質を引き出すためまたは該ボリューム(90)を通して流体媒質を循環させるためのマニホールド(96)を備える請求項3に記載のシステム。
【請求項8】
前記少なくとも2つの傾斜コイル(26、28、30)はx及びy傾斜コイル(28、30)である、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記少なくとも2つの傾斜コイル(26、28、30)はx及びz傾斜コイル(28、26)である、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記少なくとも2つの傾斜コイル(26、28、30)はz及びy傾斜コイル(26、30)である、請求項1に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−240398(P2010−240398A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69253(P2010−69253)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】