説明

液体金属ターゲット用旋回流型マイクロバブル発生装置および流体装置

【課題】液体金属ターゲットの液体金属が流される容器内の液体金属中に所望の大きさのマイクロバブルを所望の濃度でしかも効率的に発生させることができ、パルス陽子ビームの入射により容器内の液体金属中に発生する圧力波の大幅な低減を図ることができる液体金属ターゲット用旋回流型マイクロバブル発生装置を提供する。
【解決手段】液体金属ターゲット用旋回流型マイクロバブル発生装置33は、液体金属が流される管路にこの管路を閉塞するように設けられる閉塞部材31と、この閉塞部材31の複数箇所にこの閉塞部材31を貫通して設けられた複数の旋回流型マイクロバブル発生器32とを有する。旋回流型マイクロバブル発生器32としては、旋回流発生用翼型ノズルと、この旋回流発生用翼型ノズルと同軸に結合された、縮流部と渦崩壊部とを有する渦崩壊用ノズルとを有するものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体金属ターゲット用旋回流型マイクロバブル発生装置および流体装置に関し、特に、液体金属ターゲットの管路に流される液体水銀などの液体金属中にマイクロバブルを発生させる場合に用いて好適な液体金属ターゲット用旋回流型マイクロバブル発生装置および管路に流される各種の液体中にマイクロバブルを発生させる場合に用いて好適な流体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中性子線利用研究の重要性が急速に増加しつつあり、数MW級の陽子ビームを用いた次世代核破砕中性子源の建設が日本、米国、EUでそれぞれ進められ、日本、米国では運転が開始された。日本では、日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構との共同組織であるJ−PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)センターによりこの次世代核破砕中性子源がすでに茨城県の東海村に建設され、低出力での運転が開始された。
【0003】
この次世代核破砕中性子源では、大強度の中性子束を得るために、数MW級の陽子ビームをターゲットに入射させる予定で、そのときの陽子ビームのエネルギーは1〜3GeVである。一般に数MW級の陽子ビームをターゲットに入射させると、ターゲット内の発熱量のピークが数百MW/m3 に達するため、この次世代核破砕中性子源では、固体金属を水冷する従来の方式の代わりに、冷却材としての機能を併用することができる液体水銀をターゲットに用いる方式が採用されている。
【0004】
図15に液体水銀ターゲットが陽子ビームに曝される状況を模式的に示す。図15に示すように、この液体水銀ターゲットにおいては、水銀容器101内を循環するように液体水銀102が流され、水銀容器101の先端部にMW級で周波数が25Hzのパルス陽子ビーム103が照射され、水銀容器101の壁を通って液体水銀102に入射する。こうして、陽子が水銀原子の原子核と衝突して原子核を破砕し、原子核を構成していた中性子が高速で水銀容器101の外部に放出される。こうして放出された中性子はベリリウムや鉄などからなる反射体で反射され、超臨界水素からなるモデレーターに集められる。中性子はこのモデレーター内の水素と衝突を繰り返して次第に減速され、最終的に所望の中性子ビームが取り出される。
【0005】
しかしながら、この液体水銀ターゲットにおいては、水銀容器101にパルス陽子ビーム103が照射されると、液体水銀102の水銀原子の原子核の破砕に伴う急激な発熱が生じ、これに伴い液体水銀102が急激に熱膨張する。この急激な熱膨張により液体水銀102内に圧力波104が発生する。この圧力波104は液体水銀102中を音速で伝播し、水銀容器101の内壁面に到達して衝撃を加える結果、水銀容器101が損傷を受ける。
【0006】
以上のような理由により、液体水銀ターゲットにおいては、パルス陽子ビーム103の入射により液体水銀102内に発生する圧力波104の低減を図ることが重要であり、種々の方策が考えられてきた。その中で、1990年台より、液体水銀102中にマイクロバブルを発生させ、このマイクロバブルにより圧力波104を吸収することで圧力波104の低減を図ることができることが予見され(非特許文献1参照。)、水中において、その有効性が確認されている。
【0007】
従来、液体水銀102中にマイクロバブルを発生させるために、焼結によって拡散または揮発する、焼結金属の融点未満の融点の中空用素材を焼結金属粉体中でプレスし、その中空用素材を焼結によって除去し、2個以上の中空穴をプレス、焼結の過程で形成することにより得られる中空金属焼結体をバブラーとして、水銀容器101中の所定位置に設置することが提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−209437号公報
【特許文献2】国際公開第06/075452号パンフレット
【特許文献3】特許第4019154号明細書
【特許文献4】特開2009−247950号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】K.Skala and G. Bauer, "ON THE PRESSURE WAVE PROBLEM IN LIQUID METAL TARGETS FOR PULSED SPALLATION NEUTRON SOURCES", PSI Proceedings 95-02, Vol.II, pp.559-571(1995cc)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1で提案されたバブラーでは、水銀容器101内の液体水銀102中にバブル径が十分に小さいマイクロバブルを発生させることは困難であり、圧力波104の低減の効果は不十分であった。
【0011】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、液体金属ターゲットの液体水銀などの液体金属が流される容器内の液体金属中に所望の大きさのマイクロバブルを所望の濃度でしかも効率的に発生させることができ、パルス陽子ビームの入射により容器内の液体金属中に発生する圧力波の大幅な低減を図ることができる液体金属ターゲット用旋回流型マイクロバブル発生装置を提供することである。
【0012】
この発明が解決しようとする課題は、より一般的には、液体が流される管路内の液体中にバブル径が十分に小さいマイクロバブルを効率的に発生させることができる流体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく理論的研究および実験的研究を鋭意行った結果、液体金属ターゲットに液体金属を供給するための管路に複数の旋回流型マイクロバブル発生器を並列に設けることにより、液体金属中に所望の大きさのマイクロバブルを所望の濃度で効率的に発生させることができることを見出し、この発明を案出するに至った。また、管路に複数の旋回流型マイクロバブル発生器を並列に設ける技術は、液体金属ターゲットに限られることではなく、より一般的には液体が流される管路に所望の大きさのマイクロバブルを所望の濃度で効率的に発生させる場合全般に有効である。
【0014】
すなわち、上記課題を解決するために、この発明は、
液体金属が流される管路に上記管路を閉塞するように設けられる閉塞部材と、
上記閉塞部材の複数箇所に上記閉塞部材を貫通して設けられた複数の旋回流型マイクロバブル発生器とを有する液体金属ターゲット用旋回流型マイクロバブル発生装置である。
【0015】
この発明においては、複数の旋回流型マイクロバブル発生器により発生される旋回流の旋回方向は互いに逆であっても互いに同じであってもよく、管路の断面形状などを考慮して必要に応じて選ばれる。複数の旋回流型マイクロバブル発生器により発生される旋回流の旋回方向を互いに逆にすることにより、管路内全体で見た場合に渦の消失が可能となるので、各旋回流型マイクロバブル発生器から噴出される液体金属中のマイクロバブル同士が合体してマイクロバブルの径が増大してしまうのを防止することができ、ひいてはバブル径が極めて小さいマイクロバブルを発生させることができる。また、複数の旋回流型マイクロバブル発生器により発生される旋回流の旋回方向を互いに同じにすることにより、これらの旋回流型マイクロバブル発生器のうちの互いに隣接する旋回流型マイクロバブル発生器同士でこれらの旋回流型マイクロバブル発生器から噴出される旋回流による流れを互いに打ち消すことができ、それによってマイクロバブルの合体を防止することができ、バブル径が極めて小さいマイクロバブルを発生させることができる。典型的には、これらの旋回流型マイクロバブル発生器は互いに大きさが同一の一種類の旋回流型マイクロバブル発生器からなるが、これに限定されるものではなく、必要に応じて、これらの旋回流型マイクロバブル発生器が互いに大きさが異なる二種類以上の旋回流型マイクロバブル発生器からなるようにしてもよい。
【0016】
旋回流型マイクロバブル発生器としては、渦崩壊を利用してマイクロバブルを発生させる旋回流型マイクロバブル発生器が用いられる。この旋回流型マイクロバブル発生器の構成および動作の詳細は特許文献2、3に開示されている。この旋回流型マイクロバブル発生器の概要を説明すると、この旋回流型マイクロバブル発生器は、旋回流発生用翼体を管の内部に収容した旋回流発生用翼型ノズルと、この旋回流発生用翼型ノズルと同軸に結合された、縮流部と渦崩壊部とを有する渦崩壊用ノズルとを有し、上記の縮流部に中心に気体が導入された液体の旋回流を供給することにより上記の渦崩壊部からマイクロバブルを発生させるものである。旋回流の中心に供給する気体は、基本的にはどのようなものであってもよいが、具体的には、例えば、ヘリウム、アルゴンなどである。
【0017】
液体金属ターゲットは、典型的には、外部から液体金属が供給される第1の管路および液体金属を外部に排出する第2の管路を有し、内部に液体金属が流される容器と、上記第1の管路に上記第1の管路を閉塞するように設けられる閉塞部材と、上記閉塞部材の複数箇所に上記閉塞部材を貫通して設けられた複数の旋回流型マイクロバブル発生器とを有する。第1の管路および第2の管路の断面形状は特に限定されるものではなく、必要に応じて選ばれるが、典型的には、第1の管路の断面形状は矩形に選ばれ、このときこの第1の管路を閉塞する閉塞部材の形状も矩形である。液体金属としては各種のものを用いることができ、必要に応じて選ばれるが、例えば、液体水銀や液体鉛−ビスマスなどを用いることができる。
【0018】
また、この発明は、
液体が流される管路と、
上記管路に上記管路を閉塞するように設けられる閉塞部材と、
上記閉塞部材の複数箇所に上記閉塞部材を貫通して設けられた複数の旋回流型マイクロバブル発生器とを有する流体装置である。
【0019】
この流体装置においては、管路に流され、マイクロバブルを発生させる液体は、基本的にはどのようなものであってもよく、具体的には、例えば、水(温水を含む)、各種の有機溶剤(アルコール、アセトン、トルエンなど)、石油、ガソリンなどの液体燃料などである。旋回流の中心に供給する気体は、基本的にはどのようなものであってもよいが、具体的には、例えば、空気、酸素、オゾン、水素、ヘリウム、アルゴンなどである。
【0020】
この流体装置は、マイクロバブルを利用する装置であれば基本的にはどのようなものであってもよく、液体金属ターゲットも含む。
この流体装置の発明においては、その性質に反しない限り、上記の液体金属ターゲット用旋回流型マイクロバブル発生装置の発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、液体金属あるいは液体が流される管路を閉塞する閉塞部材の複数箇所に複数の旋回流型マイクロバブル発生器を設けることにより、単一の旋回流型マイクロバブル発生器を設ける場合に比べて、この管路内における液体金属あるいは液体の流路断面積を大きくすることができ、液体金属あるいは液体の流量を大きくすることができる。また、バブル径が極めて小さいマイクロバブルを発生させることができる。また、複数の旋回流型マイクロバブル発生器を設けることにより、単一の旋回流型マイクロバブル発生器を設ける場合に比べて、各旋回流型マイクロバブル発生器の長さを小さくすることができ、旋回流型マイクロバブル発生器での圧力損失を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の第1の実施の形態によるJ−PARC次世代核破砕中性子源の液体水銀ターゲットを示す斜視図である。
【図2】この発明の第1の実施の形態によるJ−PARC次世代核破砕中性子源の液体水銀ターゲットを示す平面図である。
【図3】図2のX−X線に沿っての断面図である。
【図4】この発明の第1の実施の形態によるJ−PARC次世代核破砕中性子源の液体水銀ターゲットにおいて用いられる複数並列配置の旋回流型マイクロバブル発生器の一例および比較例としての単一の旋回流型マイクロバブル発生器を用いた例を示す略線図である。
【図5】この発明の第1の実施の形態によるJ−PARC次世代核破砕中性子源の液体水銀ターゲットにおいて用いられる複数並列配置の旋回流型マイクロバブル発生器の一例を示す断面図である。
【図6】液体水銀ターゲットの液体水銀中にバブルを注入する場合のバブル半径およびボイド率αと液体水銀ターゲットへのパルス陽子ビームの入射により液体水銀中に発生する圧力波との関係を数値解析により求めた結果を示す略線図である。
【図7】この発明の第1の実施の形態によるJ−PARC次世代核破砕中性子源の液体水銀ターゲットの評価のために作製された容器を示す平面図である。
【図8】図7に示す容器を用いて行った実験により得られた結果を示す略線図である。
【図9】図7に示す容器を用いて行った実験により得られた結果を示す図面代用写真である。
【図10】図7に示す容器を用いて行った実験により得られた結果を示す略線図である。
【図11】図7に示す容器を用いて行った実験により得られた結果を示す略線図である。
【図12】図7に示す容器を用いて行った実験により得られた結果を示す略線図である。
【図13】図7に示す容器を用いて行った実験により得られた結果を示す略線図である。
【図14】この発明の第2の実施の形態による旋回流型マイクロバブル発生装置を示す縦断面図および横断面図である。
【図15】次世代核破砕中性子源にパルス陽子ビームが照射される場合の問題点を説明するための略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」という。)について説明する。
図1〜図3はこの発明の第1の実施の形態によるJ−PARC次世代核破砕中性子源の液体水銀ターゲットを示し、図1は斜視図、図2は平面図、図3は図2のX−X線に沿っての断面図である。
【0024】
図1〜図3に示すように、液体水銀ターゲットは前半部10と後半部20とからなる。前半部10は平たく、前端に向かって先すぼまりの平面形状を有する中空容器からなる。前半部10の中心軸に対して垂直な断面形状は矩形である。前半部10の後端には前半部10の中心軸に対して対称な位置に往路の管路12および復路の管路13が設けられている。管路12は後半部20の管路22と接続され、管路13は後半部20の管路23と接続されている。そして、外部から後半部20の管路22を通って前半部10の管路12に液体水銀が供給され、前半部10の内部を通った後、前半部10の管路13および後半部20の管路23を通って外部に液体水銀が排出されるようになっている。前半部10の管路12の下流部には前半部10の側壁にほぼ平行に三枚の整流板14〜16が設けられている。また、前半部10の管路13には前半部10の側壁にほぼ平行に三枚の整流板17〜19が設けられている。整流板14〜16と整流板17〜19とは前半部10の中心軸に対して対称に設けられている。整流板14〜19は液体水銀の流れを整流し、管路12から前半部10に供給され、管路13から外部に排出される液体水銀の流れを安定的に生成するためのものである。
【0025】
前半部10の管路12に、この管路12を閉塞する閉塞部材31に、複数の旋回流型マイクロバブル発生器32をこの閉塞部材31を貫通して並列配置で設けた旋回流型マイクロバブル発生装置33が設けられている。閉塞部材31に設けられる旋回流型マイクロバブル発生器32の数および配置は必要に応じて選ばれるが、図3においては、一例として、閉塞部材31に旋回流型マイクロバブル発生器32が上下二段かつ左右に三列、計6個設けられている例が示されている。これらの旋回流型マイクロバブル発生器32は、これらの旋回流型マイクロバブル発生器32により発生される旋回流の旋回方向が互いに同じ、あるいは互いに逆になるように設計される。これらの旋回流型マイクロバブル発生器32により発生される旋回流の旋回方向を互いに同じにすることで、これらの旋回流型マイクロバブル発生器32のうちの互いに隣接する一対の旋回流型マイクロバブル発生器32の間の領域では旋回流による流れが互いに打ち消し合うため、マイクロバブルの合体を抑制することができ、マイクロバブルの径を小さくすることができる。図4Aに、閉塞部材31に6個の旋回流型マイクロバブル発生器32が上下二段、左右に三列、上下方向および左右方向に等間隔に設けられた例が示されている。図4Bに比較例として、閉塞部材31の中心に単一の旋回流型マイクロバブル発生器32が設けられた例が示されている。
【0026】
閉塞部材31に複数の旋回流型マイクロバブル発生器32を設けた場合には、閉塞部材31に単一の旋回流型マイクロバブル発生器32を設けた場合に比べて種々の利点を得ることができる。例えば、液体水銀が通る流路の断面積を効率的に確保することができる。具体的には、例えば、外径が76mmの単一の旋回流型マイクロバブル発生器32を設けた場合の流路の断面積(タービン翼型ノズルのリング状の流路の断面積。翼の断面積は無視。以下同様。)は3402mm2 であるのに対し、外径が32mmの旋回流型マイクロバブル発生器32を6個設けた場合の流路の合計の断面積は3619mm2 と大きくなる。また、1個の旋回流型マイクロバブル発生器32を小口径化することができるとともに、長さを短くすることができる。例えば、外径が76mmの単一の旋回流型マイクロバブル発生器32を設けた場合の旋回流型マイクロバブル発生器32の長さは240mmであるのに対し、外径が32mmの旋回流型マイクロバブル発生器32を6個設けた場合の各旋回流型マイクロバブル発生器32の長さは60mmと小さくすることができる。また、このように旋回流型マイクロバブル発生器32を小口径化することができることにより、この旋回流型マイクロバブル発生器32において旋回流の中心に入れる気柱の半径を小さくすることができるため、この旋回流型マイクロバブル発生器32により発生されるマイクロバブルの径を小さくすることができる。また、旋回流型マイクロバブル発生器32の長さを短くすることができるため、液体水銀が通る流路における旋回流型マイクロバブル発生器32での圧力損失の低減を図ることができる。また、流路の断面における旋回流型マイクロバブル発生器32の設置位置の自由度を高くすることができる。
【0027】
図5は閉塞部材31に設けられた複数の旋回流型マイクロバブル発生器32の断面形状を示す。図5に示すように、旋回流型マイクロバブル発生器32は、タービン翼型ノズル34および渦崩壊用ノズル35からなる。タービン翼型ノズル34は、円柱状の本体の前方(上流側)を半球状に成形し、この本体の外周面の長手方向に複数の、例えば3枚の翼34bをそれらの後方(下流側)が彎曲するように設け、背面に気体の噴射孔34bを設けたものである。渦崩壊用ノズル35は、テーパー状に成形した縮流部35aに管状の渦崩壊部35bを連接したものである。この旋回流型マイクロバブル発生器32においては、上流から流れてくる液体水銀をタービン翼型ノズル34により円周方向に向けて旋回流を形成するとともに旋回流の中心に気柱を噴出させ、この旋回流を渦崩壊用ノズル35で縮流して渦崩壊させる。より詳細には、上流から流れてくる液体水銀は、タービン翼型ノズル34によって中心部が閉塞されるため、流速の増した液体水銀流となる。この液体水銀流は、タービン翼型ノズル34の外周面に存在する溝に沿って流れ、タービン翼型ノズル34の円周方向に向きを変えられることにより旋回流となって渦流部35cを進む。渦流部35cでは、タービン翼型ノズル34の噴射孔34bから放出された気柱が旋回流とともに螺旋状に流れる。渦崩壊用ノズル35に入ると、旋回流は縮流され、循環に比べて流れが卓越することで渦崩壊が起きる。この渦崩壊により大きな気泡が細かく潰され、マイクロバブルとなって渦崩壊用ノズル35の出口から放出される。噴射孔34bはタービン翼型ノズル34の本体、翼34bおよび前半部10の上部の壁に設けられた通路36を通って給気孔37と連通している。旋回流型マイクロバブル発生器32の下流に旋回流抑止ノズル38が設置されることもある。旋回流抑止ノズル38としては、特許文献4に開示された圧力遮断用ノズル(例えば、同文献の図47に示すもの。)を用いることができる。
【0028】
液体水銀ターゲットの液体水銀中にバブルを注入する場合のバブル半径およびボイド率αと液体水銀ターゲットへのパルス陽子ビームの入射により液体水銀中に発生する圧力波との関係を数値解析により求めた結果を図6に示す。図6中、ボイド率αは液体水銀の体積に占めるバブルの全体積の割合(%)、単相は液体水銀にバブルが含まれない場合を示す。図6の横軸はバブル半径、縦軸は規格化ピーク圧力(液体水銀にマイクロバブルが含まれる場合の圧力波のピーク値PV を液体水銀にマイクロバブルが含まれない場合の圧力波のピーク値PS で除した値(PV /PS ))である。図6より明らかなように、バブルの直径Db <100μm、ボイド率α>0.1%とすることにより、圧力波を1/10以下に低減することができる。
【0029】
図1〜図3に示す液体水銀ターゲットの前半部10とほぼ同様な形状を有し、上面が透明アクリル板により構成された実験用の容器(液体水銀ターゲットの実機と同サイズの水銀容器(Target Test Facility, TTF))を作製した。図7にこの容器40を示す。この容器40の全長は約1000mm、幅は約500mm、内部の空間の高さは80mmである。容器40の内部には図1に示す液体水銀ターゲットの前半部10の整流板14〜19と同様な整流板41〜46が設けられている。この容器40の入口には導入管47が設けられ、出口には排出管48が設けられている。導入管47の途中に、閉塞部材に複数の旋回流型マイクロバブル発生器が設けられた旋回流型マイクロバブル発生装置49が設置されている。旋回流型マイクロバブル発生装置49としては、6個の旋回流型マイクロバブル発生器を有するものを用意した。旋回流型マイクロバブル発生装置49とは別に、閉塞部材に単一の旋回流型マイクロバブル発生器を設けたものも用意した。また、旋回流型マイクロバブル発生装置49の各旋回流型マイクロバブル発生器の前面に旋回流抑止ノズルを設けたものと設けないものとの二種類を用意した。同様に、閉塞部材に単一の旋回流型マイクロバブル発生器を設けたものの前面に旋回流抑止ノズルを設けたものと設けないものとの二種類を用意した。
【0030】
導入管47から旋回流型マイクロバブル発生装置49を通して容器40内に水を流し、容器40の先端付近の位置Aの水中に発生するバブルの半径Rb (Db /2)を容器40の内部の底面からの高さzの関数として測定した。その結果を図8に示す。水の流量QH2O =5L/sである。図8中、●、■はバブル半径Rb の測定値の平均値を示す。図8より、単一の旋回流型マイクロバブル発生器を用いた場合には旋回流抑止ノズルを用いないとマイクロバブルの径を小さくすることができないのに対し、複数の旋回流型マイクロバブル発生器を有する旋回流型マイクロバブル発生装置49では、旋回流抑止ノズルを用いないでもバブルの径を小さくすることができることが分かる。これは、旋回流によるバブルの合体を防止することができるためである。
【0031】
複数の旋回流型マイクロバブル発生器を有する旋回流型マイクロバブル発生装置49で旋回流抑止ノズルを用いない場合に、図7の位置Bにおいて水中に発生するバブルの様子を観察した。その結果を図9Aに示す。図9Aに示すように、旋回流抑止ノズルを用いた場合と同様な径および濃度のマイクロバブルが発生していることが分かる。比較のために、単一の旋回流型マイクロバブル発生器において旋回流抑止ノズルを用いない場合に、図7の位置Bにおいて水中に発生するバブルの様子を観察した結果を図9Bに示す。図9Bに示すように、旋回流によりバブルが合体することにより、バブルの径が大きく、かつ濃度が小さいことが分かる。
【0032】
次に、旋回流型マイクロバブル発生装置49を設置した場合の水中の圧力損失を測定した結果について説明する。図10は、単一の旋回流型マイクロバブル発生器を設置した場合に、旋回流抑止ノズルを用いた場合と用いない場合とについて旋回流型マイクロバブル発生器の入口における等価速度Vinに対して水中の圧力損失ΔPH20 を測定した結果を示す(図10の左の縦軸)。図10中、QLは流量を示す。図10には、水の代わりに液体水銀を用いた場合の液体水銀中の圧力損失ΔPHgも併せて示す(図10の右の縦軸)。ΔPHgは液体水銀の比重13.5をΔPH20 に掛けることで得られるものである。図10に示すように、旋回流抑止ノズルを用いた場合に比べて旋回流抑止ノズルを用いない場合の方がΔPH20 およびΔPHgは小さい。旋回流抑止ノズルを用いた場合の抵抗係数Cd =47.774、旋回流抑止ノズルを用いない場合の抵抗係数Cd =34.307である。図11は、複数の旋回流型マイクロバブル発生器を有する旋回流型マイクロバブル発生装置49を設置した場合に、旋回流抑止ノズルを用いた場合と用いない場合とについて旋回流型マイクロバブル発生装置49の入口における等価速度Vinに対して水中の圧力損失ΔPH20 を測定した結果を示す(図11の左の縦軸)。図11中、QLは流量を示す。図11には、水の代わりに液体水銀を用いた場合の液体水銀中の圧力損失ΔPHgも併せて示す(図11の右の縦軸)。ΔPHgは液体水銀の比重13.5をΔPH20 に掛けることで得られるものである。図11に示すように、旋回流抑止ノズルを用いた場合に比べて旋回流抑止ノズルを用いない場合の方がΔPH20 およびΔPHgは小さいが、ΔPH20 およびΔPHgとも、単一の旋回流型マイクロバブル発生器を用いた場合に比べて小さくなっている。旋回流抑止ノズルを用いた場合の抵抗係数Cd =33.06、旋回流抑止ノズルを用いない場合の抵抗係数Cd =16.956である。図10および図11の結果より、複数の旋回流型マイクロバブル発生器を有する旋回流型マイクロバブル発生装置49を用いた場合には、旋回流抑止ノズルを用いないでも、ΔPH20 およびΔPHgを十分に小さくすることができることが分かる。また、旋回流抑止ノズルを用いないでもよいので、旋回流抑止ノズルの設置位置の検討が不要である。
【0033】
次に、複数の旋回流型マイクロバブル発生器を有する旋回流型マイクロバブル発生装置49を用いた場合において、図7の位置P、Q、R、S、Tにおける液体水銀中のバブル分布を旋回流抑止ノズルを用いた場合と用いない場合とについて調べた結果について説明する。ただし、液体水銀の流量は7.5L/sとし、旋回流型マイクロバブル発生器における注入ガスとしてはヘリウム(He)を用い、ガス注入量を0.1vol.%とした。図7の位置P、Q、R、S、Tにおける液体水銀中のバブル分布の測定結果を図12A〜Eに示す。図12A〜Eより、旋回流抑止ノズルを用いた場合には、容器40の先端部よりも上流でバブルが多く浮上するのに対し、旋回流抑止ノズルを用いた場合には、容器40の先端部でバブルが多く浮上する傾向があることが分かる。また、複数の旋回流型マイクロバブル発生器を有する旋回流型マイクロバブル発生装置49を用い、しかも各旋回流型マイクロバブル発生器により発生させる旋回流の旋回方向を同じにすることにより、旋回流型マイクロバブル発生装置49から遠く離れた所までマイクロバブルを輸送することが可能であることが分かる。
【0034】
図13は旋回流型マイクロバブル発生装置49の入口における液体水銀の速度Vinに対する液体水銀中の圧力損失ΔPの変化を測定した結果を示す。図13より、複数の旋回流型マイクロバブル発生器を有する旋回流型マイクロバブル発生装置49を用い、しかも各旋回流型マイクロバブル発生器により発生させる旋回流の旋回方向を同じにすることにより、単一の旋回流型マイクロバブル発生器を用いる場合に比べて液体水銀中の圧力損失を小さくすることができることが分かる。また、旋回流抑止ノズルを用いた場合に比べて、旋回流抑止ノズルを用いない場合の方が液体水銀中の圧力損失を小さくすることができることも分かる。
【0035】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、液体水銀ターゲットの前半部10の管路12に複数の旋回流型マイクロバブル発生器32を有する旋回流型マイクロバブル発生装置33が設けられていることにより、液体水銀中に、取り分けパルス陽子ビームが入射する前半部10の先端部の液体水銀中に、十分に小さいマイクロバブルを所望の濃度でしかも効率的に発生させることができる。例えば、バブルの直径Db <100μm、ボイド率α>0.1%とすることができる。このため、この液体水銀ターゲットを用いた次世代核破砕中性子源においては、この液体水銀ターゲットへのパルス陽子ビームの入射により液体水銀中に発生する圧力波の大幅な低減を図ることができる。具体的には、例えば圧力波を1/10以下に低減することができる。これによって、液体水銀ターゲットの損傷を防止することができ、液体水銀ターゲットの寿命の大幅な向上を図ることができる。
【0036】
次に、この発明の第2の実施の形態による旋回流型マイクロバブル発生装置について説明する。この旋回流型マイクロバブル発生装置は水が流される管路に取り付けられる水栓品として用いられるものである。
図15AおよびBはこの旋回流型マイクロバブル発生装置を示し、図15Aは縦断面図、図15Bは図15AのB−B線に沿っての横断面図である。
【0037】
図15AおよびBに示すように、この旋回流型マイクロバブル発生装置においては、この旋回流型マイクロバブル発生装置が取り付けられる管路を閉塞する円柱状の閉塞部材51にこの閉塞部材51を貫通して4個の旋回流型マイクロバブル発生器52が設けられている。これらの旋回流型マイクロバブル発生器52は、閉塞部材51の中心軸の周りの一つの円周上に90度間隔で設けられている。
【0038】
各旋回流型マイクロバブル発生器52は、前半部53aと後半部53bとからなる旋回流発生用翼体53とこの旋回流発生用翼体53と同軸に設けられた渦崩壊用ノズル54とを有する。前半部53aは後半の半分が円筒状になっており、後半部53bおよび渦崩壊用ノズル54はこの円筒状の部分の内部に収容されている。渦崩壊用ノズル54は、縮流部54aと渦崩壊部54bとを有する。前半部53aの内部には、図14Bに示す断面において閉塞部材51の中心軸と各旋回流型マイクロバブル発生器52の中心軸とを結ぶ直線の両側に対称的にかつ各旋回流型マイクロバブル発生器52の中心軸の方向に延在して一対の水の通路55a、55bが設けられている。また、前半部53aの前端には通路55a、55bに水を案内するための凹部56が設けられている。後半部53bは180度間隔で設けられた2枚の翼56a、56bからなる。後半部53bの後端には噴射孔57が設けられている。この噴射孔57は後半部53bの中心軸に沿って設けられた通路58と繋がっている。通路58は前半部53aの中心軸およびこの中心軸に垂直な半径方向に沿って設けられたL字型の通路59と繋がっている。この通路59が前半部53aの外周面に抜けた所が給気孔60である。
【0039】
閉塞部材51の側面には金属スペーサ61が取り付けられている。この場合、金属スペーサ61の外周面には雄ねじ61aが設けられているとともに、閉塞部材51の側面には雌ねじ51aが設けられており、雌ねじ51aが雄ねじ61aにねじ込まれることにより金属スペーサ61が閉塞部材51の側面に取り付けられている。また、金属スペーサ61の内周面には雌ねじ61bが設けられている。そして、この金属スペーサ61の内周面の雌ねじ61bに給気用ねじ62の雄ねじ62aがねじ込まれている。金属スペーサ61の内周面の雌ねじ61bと給気用ねじ62の雄ねじ62aとの間には隙間があり、この隙間および給気用ねじ62の先端部の下の空間を介して外部の空気と給気孔60とが連通し、さらに通路59、58を通って噴射孔57と連通している。閉塞部材51と旋回流発生用翼体53の前半部53aの外周面との間にはOリング63が挟み込まれており、このOリング63により、閉塞部材51と旋回流発生用翼体53の前半部53aの外周面との間の隙間から外部の空気が前半部53aの内部の通路59の内部に入るのを防止することができるようになっている。
【0040】
この旋回流型マイクロバブル発生装置は、例えば、図14Aにおいて一点鎖線で示すように、管71と管72との間に挿入されて使用される。そして、この旋回流型マイクロバブル発生装置により、これらの管71、72に流される水中にマイクロバブルを効率的に発生させることができる。
この第2の実施の形態によれば、管71、72に流される水中に十分に小さいマイクロバブルを所望の濃度でしかも効率的に発生させることができる。
【0041】
以上、この発明の実施の形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施の形態において挙げた数値、形状、構造、配置などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、形状、構造、配置などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0042】
10…前半部、12、13…管路、14〜19…整流板、20…後半部、22、23…管路、31…閉塞部材、32…旋回流型マイクロバブル発生器、33…旋回流型マイクロバブル発生装置、34…旋回流発生用翼型ノズル、35…渦崩壊用ノズル、35a…縮流部、35b…渦崩壊部、38…旋回流抑止ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体金属が流される管路に上記管路を閉塞するように設けられる閉塞部材と、
上記閉塞部材の複数箇所に上記閉塞部材を貫通して設けられた複数の旋回流型マイクロバブル発生器とを有する液体金属ターゲット用旋回流型マイクロバブル発生装置。
【請求項2】
上記複数の旋回流型マイクロバブル発生器により発生される旋回流の旋回方向が互いに逆である請求項1記載の液体金属ターゲット用旋回流型マイクロバブル発生装置。
【請求項3】
上記複数の旋回流型マイクロバブル発生器により発生される旋回流の旋回方向が互いに同じである請求項1記載の液体金属ターゲット用旋回流型マイクロバブル発生装置。
【請求項4】
上記複数の旋回流型マイクロバブル発生器が互いに大きさが同一の一種類の旋回流型マイクロバブル発生器からなる請求項1〜3のいずれか一項記載の液体金属ターゲット用旋回流型マイクロバブル発生装置。
【請求項5】
上記複数の旋回流型マイクロバブル発生器が互いに大きさが異なる二種類以上の旋回流型マイクロバブル発生器からなる請求項1〜3のいずれか一項記載の液体金属ターゲット用旋回流型マイクロバブル発生装置。
【請求項6】
上記管路の断面形状および上記閉塞部材の形状が矩形である請求項1〜5のいずれか一項記載の液体金属ターゲット用旋回流型マイクロバブル発生装置。
【請求項7】
液体が流される管路と、
上記管路に上記管路を閉塞するように設けられる閉塞部材と、
上記閉塞部材の複数箇所に上記閉塞部材を貫通して設けられた複数の旋回流型マイクロバブル発生器とを有する流体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−153894(P2011−153894A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15204(P2010−15204)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(507090764)株式会社 エール・オー (2)
【Fターム(参考)】