説明

液圧成形用重ね合わせ板材の製造方法

【課題】生産性に優れた重ね合わせ板材の製造方法を提供する。
【解決手段】内部にX字状もしくは十字状の補強材を有する閉断面構造の中空成形品を製造するのに好適な重ね合わせ板材1を、次の(a)〜(c)の三工程をもって製造する。(a)二枚の補強板7,8を重ね合わせ、X字状もしくは十字状の交点に相当する位置に溶接部9をもって溶接を施して予備成形補強材4を製造する工程。(b)予備成形補強材4の上下に板材5,6を重ね合わせた上で、補強板7,8同士の間に導電性を有する溶接防止板13を挿入して、上側の補強板7と板材5、下側の補強板8と板材6を、それぞれ溶接部10,11をもって重ね抵抗溶接にて同時に溶接する工程。(c)板材5,6の周縁部同士を溶接部12をもって連続溶接して、袋構造の重ね合わせ板材1として仕上げる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧成形用重ね合わせ板材の製造方法に関し、特に断面X字状もしくは十字状をなす補強材を内部に有する中空成形品を液圧にて膨出成形する際に予備成形品として使用されるいわゆる偏平袋構造の重ね合わせ板材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空成形品として例えば自動車の車体のサイドシル、センターピラー、サイドルーフレール等の中空状の骨格部材をいわゆる液圧成形法(ハイドロフォーム工法もしくは液圧バルジ成形法とも称される)により成形することが特許文献1等で提案されている。
【0003】
この場合、中空状の骨格部材の内部に断面X字状もしくは十字状をなす補強材を配置することが強度上有利であり、それに適した予備成形体たる液圧成形用重ね合わせ板材として、特許文献1には断面X字状もしくは十字状をなす補強材を折り畳んだ状態で上下二枚の板材間に予め挟み込んでおくようにしたいわゆる4枚重ね構造の重ね合わせ板材が提案されている。なお、補強材を折り畳んだ状態とは、重ね合わせた上下二枚の補強板同士を断面X字状もしくは十字状の交点に相当する位置で予め連続溶接を施し、同時に各補強板の両端部を外側の板材に同様に連続溶接を施して固定したものにほかならない。
【0004】
上下二枚の板材はその全周が連続溶接されており、したがって、重ね合わせ板材の周縁部を金型で加圧拘束し、その重ね合わせ板材を形成している板材間に液圧を導入しつつ膨出させて金型内面に密着させることにより、所定断面形状の中空状の骨格部材が成形され、同時に板材間に折り畳み状態で挟み込まれていた補強材は断面X字状もしくは十字状に展開されて補強材本来の機能を発揮することになる。
【特許文献1】特開2003−320960号公報(図16)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来の重ね合わせ板材の製造方法では、板材同士の最外周の連続溶接部を除き、補強板同士および補強板と板材との溶接として合計5箇所にレーザ溶接あるいはアーク溶接等による連続溶接を施す必要があることから、溶接範囲および溶接時間が長く、生産性が極端に低下し、コストアップが余儀なくされることとなって好ましくない。
【0006】
そこで、本発明は、溶接工法を工夫して特に生産性に優れた重ね合わせ板材の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、断面X字状もしくは十字状をなす補強材を内部に有する中空成形品を液圧にて膨出成形する際に予備成形品として使用される偏平袋構造の重ね合わせ板材を製造する方法として、二枚の平板状の補強板を重ね合わせた上でX字状もしくは十字状の交点に相当する位置に溶接を施して予備成形補強材を製造する工程と、予備成形補強材の上下にそれよりも大きな平板状の板材を重ね合わせた上で、予備成形補強材を形成している補強板同士の間に導電性を有する溶接防止板を挿入して、上側の補強板の周縁部と上側の板材同士、下側の補強板の周縁部と下側の板材同士をそれぞれ重ね抵抗溶接にて同時に溶接する工程と、板材の周縁部同士を連続溶接にて溶接して袋構造の重ね合わせ板材として仕上げる工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
被溶接材である板材や補強板は、鋼板のほか軟鋼板やアルミニウム合金板さらにはマグネシウム合金板等でもよく、それらの板厚や引張強度等についても任意の大きさのものを適宜選定することが可能である。
【0009】
上記の断面X字状もしくは十字状の補強材には、そのX字形状もしくは十字形状が不完全な形状のものも含むものとする。
【0010】
また、上記重ね抵抗溶接用の電極の被溶接材に対する接触面の形状は、請求項2に記載のように楕円形もしくは偏平矩形状のものとし、さらに上記溶接防止板は、請求項3に記載のように銅板もしくは銅合金板であることが望ましい。
【0011】
したがって、請求項1に記載の発明では、先ず二枚の平板状の補強板を重ね合わせた上でX字状もしくは十字状の交点に相当する位置に溶接を施して、補強材を折り畳んだ形状の予備成形補強材を製造する。
【0012】
次いで、その予備成形補強材の上下にそれよりも大きな平板状の板材を重ね合わせた上で、予備成形補強材を形成している補強板同士の間に導電性を有する溶接防止板を挿入して、上側の補強板の周縁部と上側の板材とを、下側の補強板の周縁部と下側の板材とをそれぞれ重ね抵抗溶接にて同時に溶接する。重ね抵抗溶接の形態は、点溶接(スポット溶接)または回転型もしくはローラ型の電極を用いた連続溶接とする。
【0013】
この場合、上下二箇所の溶接を同時に行ったとしても、補強材を形成している補強板同士の間に溶接防止板が介在している故に、折り畳み状態で互いに重なり合っている補強板同士が溶接されてしまうことがない。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、補強材を形成している補強板と上下の板材との溶接を上下同時に行うことにより、同溶接部位の溶接工数を従来の半分にすることができ、生産性の向上とコストダウンが図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1〜4は本発明のより具体的な実施の形態を示す図であり、特に図1の(A)は重ね合わせ板材の製造時の断面図を、同図(B)は製造後の重ね合わせ板材の断面図をそれぞれ示している。
【0016】
図1に示す重ね合わせ板材1は、中空成形品として例えば図5のような閉断面構造の長尺な車両用骨格部材2を液圧成形する際の予備成形品としての使用を前提として製造される。すなわち、内部に断面X字状もしくは十字状をなす補強材3を有していて、その補強材3をもって内部空間が複数の領域に隔離された車両用骨格部材2を液圧成形することを前提として製造される。
【0017】
図1の(B)に示す重ね合わせ板材1は、図5の補強材3を折り畳んだ形状の予備成形補強材4と、その予備成形補強材4よりも形状が一回り大きく、予備成形補強材4を囲繞するようにしてこれらに重ね合わせた上下二枚の板材5,6とをもって実質的に4枚重ね構造のものとして形成されている。予備成形補強材4は、上下二枚の補強板7,8を要素とするものであり、図5の展開形状の補強材3の交点(交差部)に相当する部位が点溶接であるスポット溶接、またはレーザ溶接やシーム溶接等の連続溶接による溶接部9をもって予め溶接されている。そして、予備成形補強材4を形成している上側の補強板7の両端が上側の板材5に、同様に予備成形補強材4を形成している下側の補強板8の両端が下側の板材8に、それぞれ点溶接であるところのスポット溶接による溶接部10,11をもって溶接されている。
【0018】
さらに、折り畳み状態の予備成形補強材4を内包している上下の板材5,6は、その周縁部がレーザ溶接等の連続溶接による溶接部12をもって溶接されており、これにより重ね合わせ板材1は内部空間が密閉もしくは封止されたいわゆる偏平袋構造のものとなっている。
【0019】
このような重ね合わせ板材1を製造するには、図1の(A)に示すように、図5に示した補強材3を折り畳んだ形状の予備成形補強材4、すなわち溶接部9をもって溶接を施した予備成形補強材4を予め製造しておき、その予備成形補強材4の上下に板材5,6を重ね合わせて相対位置決めを行う。そして、予備成形補強材4を形成している補強板7,8同士の間に導電性を有する溶接防止板として例えば銅もしくは銅合金製の溶接防止板13を挿入して、いわゆる4枚重ね合わせ状態で重ね抵抗溶接の一形態であるスポット溶接にて溶接を施す。
【0020】
すなわち、図1の(A),(B)に示すように、上下二枚の補強板7,8と上下二枚の板材5,6の間に溶接防止板13を挟み込んだ状態でそれらの補強板7,8および板材5,6をスポット溶接用の上下の電極チップ14,15にて加圧挟持し、それら電極チップ14,15間に通電することで、上側の板材5と上側の補強板7とを同図(B)の溶接部10をもって溶接を施し、同時に下側の板材6と下側の補強板8とを同じく同図(B)の溶接部11をもって溶接を施す。そして、このようなスポット溶接を図1の(A)に示した位置とは反対側の位置にも同様に施すとともに、図2に示すように重ね合わせ板材1そのものの長手方向に沿って多数の打点位置P,P‥に同様のスポット溶接を施す。
【0021】
この場合、銅板製の溶接防止板13は導電性に優れていて、しかも電極チップ14,15とほぼ同材質のものであるため、電極チップ14,15間の通電には関与するものの、補強板7,8同士を溶接してしまうことはない。
【0022】
ここで、溶接防止板13は、図1の(A)に示すように、補強板7,8同士の隙間への挿入性を考慮して、先端を先細り形状としたいわゆるナイフエッジ状のものを使用することが望ましい。この溶接防止板13を挿入した予備成形補強材4を上下の板材5,6間に挿入することにより、上下の板材5,6間に挟み込んだ予備成形補強材4の板材5,6に対する位置決めも容易に行うことができる。加えて、図3に示すように、溶接防止板13の先端部のうち打点位置P,P‥に相当する部分以外を切り欠いていわゆる櫛形状のものとすると(切欠部を符号13aで示す)、次の打点位置での溶接防止板13の温度上昇を抑制することができる。
【0023】
また、スポット溶接を司る電極チップ14,15の被溶接材に対する接触面の形状すなわち電極チップ14,15の先端形状は、図4に示すように溶接方向に長い長楕円形状もしくは偏平矩形状ものを使用する。
【0024】
以上のようにして予備成形補強材4と上下の板材5,6との溶接が完了したならば、その上下の板材5,6同士の周縁部を、レーザ溶接あるいはシーム溶接等の連続溶接をもって縫い合わせるような形態で溶接部12をもって溶接を施す。その結果として、図1の(B)に示したような4枚重ね構造で且つ偏平袋構造の重ね合わせ板材1が得られることになる。
【0025】
ここで、図2に示したように、予備成形補強材4を形成している補強板7,8と上下の板材5,6との溶接に際して、図4に示したような溶接方向に長い先端形状を持つ電極チップ14,15をもって細長い溶接部10,11を形成することにより、連続溶接でないにもかかわらず液圧成形時に打点位置P,P‥にて溶接部10,11に加わる応力を低減して、その溶接部10,11での破壊を抑制することができる。
【0026】
図6は本発明の第2の実施の形態を示し、図1と共通する部分には同一符号を付してある。
【0027】
この実施の形態では、下側の板材6に比べて上側の板材25の周長を大きく確保するべく、その上側の板材25を予め凸形状に予備成形しておき、これら板材25,6と補強板7,8との溶接を上下同時に行うようにしたものである。
【0028】
また、図7は本発明の第3の実施の形態を示し、図1と共通する部分には同一符号を付してある。
【0029】
この実施の形態では、上側の板材5と同じく上側の補強板7との溶接および下側の板材6と同じく下側の補強板8との溶接に際し、図1に示した電極チップ14,15に代えて円盤状の電極ローラ34,35を用い、いわゆるラップシーム溶接の形態で溶接部20,21をもって連続的に溶接を行うようにしたものである。
【0030】
これらの第2,第3の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果が得られることになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のより具体的な第1の実施の形態を示す図で、(A)は重ね合わせ板材の溶接時の断面図、同図(B)は溶接後の重ね合わせ板材の断面図。
【図2】図1の(A)の平面説明図。
【図3】図1の(A)における溶接防止板の平面説明図。
【図4】図1の(A)におけるスポット溶接用の電極チップの要部拡大斜視図。
【図5】図1の(B)に示す重ね合わせ板材をもって液圧成形された車両用骨格部材の断面図。
【図6】本発明の第2の実施の形態を示す図で、重ね合わせ板材の溶接時の断面図。
【図7】本発明の第3の実施の形態を示す図で、(A)は重ね合わせ板材の溶接時の断面図、同図(B)は溶接後の重ね合わせ板材の断面図。
【符号の説明】
【0032】
1…重ね合わせ板材
2…車両用骨格部材(中空成形品)
3…補強材
4…予備成形補強材
5,6…板材
7,8…補強板
9,10,11,12…溶接部
13…溶接防止板
13a…切欠部
14,15…電極チップ
20,21…溶接部
25…板材
34,35…電極ローラ
P…打点位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面X字状もしくは十字状をなす補強材を内部に有する中空成形品を液圧にて膨出成形する際に予備成形品として使用される偏平袋構造の重ね合わせ板材を製造する方法であって、
二枚の平板状の補強板を重ね合わせた上でX字状もしくは十字状の交点に相当する位置に溶接を施して予備成形補強材を製造する工程と、
予備成形補強材の上下にそれよりも大きな平板状の板材を重ね合わせた上で、予備成形補強材を形成している補強板同士の間に導電性を有する溶接防止板を挿入して、上側の補強板の周縁部と上側の板材同士、下側の補強板の周縁部と下側の板材同士をそれぞれ重ね抵抗溶接にて同時に溶接する工程と、
板材の周縁部同士を連続溶接にて溶接して袋構造の重ね合わせ板材として仕上げる工程と、
を含むことを特徴とする液圧成形用重ね合わせ板材の製造方法。
【請求項2】
上記重ね抵抗溶接用の電極の被溶接材に対する接触面の形状が楕円形もしくは偏平矩形状のものであることを特徴とする請求項1に記載の液圧成形用重ね合わせ板材の製造方法。
【請求項3】
上記溶接防止板は銅板もしくは銅合金板であることを特徴とする請求項1または2に記載の液圧成形用重ね合わせ板材の製造方法。
【請求項4】
上記溶接防止板材の先端形状が先細りのナイフエッジ状のものとして形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液圧成形用重ね合わせ板材の製造方法。
【請求項5】
上記溶接防止板は、溶接打点位置相当部以外の部位を切り欠いた略櫛形状のものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液圧成形用重ね合わせ板材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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