説明

液圧緩衝器

【課題】シリンダ内からの作動液の漏れを防止する液圧緩衝器を提供する。
【解決手段】本油圧緩衝器では、オイルシールの第2シールリップ21またはダストシールリップに、断面三角形状で非対称に形成される環状突起30を複数設けているので、ピストンロッドの縮み行程及び伸び行程時において、各環状突起30は常時大気側に倒伏するため、ピストンロッドの縮み行程及び伸び行程時における各環状突起30、30間の体積変化を抑制することができ、体積変化による作動油の漏れを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧緩衝器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の液圧緩衝器は、シリンダの一端でピストンロッドとの間に環状のオイルシールが備えられる。このオイルシールの内周面には、シリンダ側つまり高圧側に配置される第1シールリップと、大気側に配置されるダストシールリップと、第1シールリップとダストシールリップとの間に配置される第2シールリップとが備えられている。各シールリップのピストンロッドの外周面との圧接面には、環状突起が軸方向に沿って複数設けられ、ピストンロッドの摺動抵抗を小さくするようにしている。
【0003】
例えば、特許文献1には、密封装置と取り付け面との間の摩擦抵抗の減少を防止して、優れた保持特性を有する密閉装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−26231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した前者の従来の液圧緩衝器では、ピストンロッドの縮み行程及び伸び行程時、特に、第2シールリップ及びダストシールリップに設けた環状突起がピストンロッドの往復動作によってシリンダ側及び大気側の両方向に倒伏する現象が発生し、環状突起間の隙間の体積が変化することにより作動液がシリンダ内から外部に漏れる虞があった。
また、後者の特許文献1の密封装置は、上述したように、密封装置と取り付け面との間の摩擦抵抗の減少を防止して、優れた保持特性を有するものであるが、該密封装置では上述した問題を解決することはできない。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、シリンダ内から外部への作動液の漏れを防止する液圧緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、本発明のうち請求項1に記載した発明は、作動液が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に挿入されて該シリンダ内を2室に区画するピストンと、該ピストンと一体的に移動し、一端部がシリンダから突出するピストンロッドと、前記シリンダの一端内部に配置され前記ピストンロッドの外周面に圧接する往復動用の環状オイルシールと、前記ピストンの摺動によって生じる作動液の流れを制御して減衰力を発生させる減衰力発生機構とを備えた液圧緩衝器であって、前記オイルシールは、シリンダ側に配置される第1シールリップと、大気側に配置されるダストシールリップと、前記第1シールリップと前記ダストシールリップとの間に配置される第2シールリップとからなり、前記第2シールリップ及び/または前記ダストシールリップのピストンロッドの外周面との圧接面に環状突起が設けられ、該環状突起は、その断面形状が非対称に形成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液圧緩衝器によれば、シリンダ内から外部への作動液の漏れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る液圧緩衝器を示す図である。
【図2】図2は、図1のA部の拡大図である。
【図3】図3は、図2のB部の拡大図である。
【図4】図4は、図3のC部の拡大図であり、第1実施形態に係る環状突起を示した図である。
【図5】図5は、図3のC部の拡大図であり、第2実施形態に係る環状突起を示した図である。
【図6】図6は、図3のC部の拡大図であり、第3実施形態に係る環状突起を示した図である。
【図7】図7は、図3のC部の拡大図であり、第4実施形態に係る環状突起を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1〜図7に基いて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る液圧緩衝器は、作動液として作動油が採用される油圧緩衝器1として提供される。
本油圧緩衝器1は、図1に示すように、有底筒状のシリンダ2内にピストン3が摺動可能に挿入されている。該ピストン3によってシリンダ2内が一端の開口部側に位置するシリンダ室2aと、他端の底部側に位置するシリンダ室2bとの2室に区画されている。ピストン3には、ピストンロッド4の他端側が貫通されナット5によって連結されており、ピストンロッド4の一端側は、シリンダ2の一端側開口部に取り付けられたロッドガイド6及びオイルシール7に挿通されてシリンダ2の外部まで延出される。また、シリンダ2内の底部側には、フリーピストン8が摺動可能に挿入されており、シリンダ2の底部とフリーピストン8の間にリザーバ室9が形成される。そして、シリンダ室2a及び2b内には作動油が封入されており、リザーバ室9内には高圧ガスが封入されている。
【0011】
ピストン3には、シリンダ室2aとシリンダ室2bとを連通させる伸び側作動油通路10および縮み側作動油通路11が設けられる。また、ピストン3のシリンダ室2b側の端面には、伸び側作動油通路11の作動油の流動を制御して減衰力を発生させるオリフィスおよびディスクバルブからなる減衰力発生機構14が設けられる。一方、ピストン3のシリンダ室2a側の端面には縮み側作動油通路11の作動油の流動を制御して減衰力を発生させるオリフィスおよびディスクバルブからなる減衰力発生機構15が設けられる。
【0012】
そして、ピストンロッド4の伸縮に伴いシリンダ2内のピストン3が摺動し、ピストンロッド4の伸び行程時にはシリンダ室2a側の作動油が伸び側作動油通路10を通ってシリンダ室2b側へ流れて減衰力発生機構14によって減衰力が発生する。一方、ピストンロッド4の縮み行程時にはシリンダ室2b側の作動油が縮み側作動油通路11を通ってシリンダ室2a側へ流れて減衰力発生機構15によって減衰力が発生する。このとき、ピストンロッド4の侵入、退出によるシリンダ室2aおよび2bの容積変化は、リザーバ室9内の高圧ガスの圧縮、膨張によりフリーピストン8が移動することによって補償される。
【0013】
また、上述した構成からなる油圧緩衝器1において、図2及び図3に示すように、シリンダ2の一端には、環状の座金17と、該座金17の内周面に取り付けられたオイルシール7とが配置されている。なお、オイルシール7よりも軸方向においてシリンダ2側にはロッドガイド6が配置される。
該オイルシール7は、合成樹脂製からなる環状に形成される。オイルシール7の内周面には、軸方向においてシリンダ2側に配置された第1シールリップ20と、大気側に配置されたダストシールリップ22と、第1シールリップ20とダストシールリップ22との間に配置された第2シールリップ21とが形成される。
【0014】
オイルシール7の外周面は、ダストシールリップ22が配置される部位及び第1シールリップ20が形成される部位が共に小径に形成され、その間の部位が座金17の外径と略同じ大径に形成される。その大径の部位に、座金17を嵌め込む環状凹部23が外周面から内方に向かって形成される。環状凹部23に臨む大気側の薄壁部24は小径に形成される。また、環状凹部23に臨むシリンダ2側の壁部25には、軸方向に凹む環状凹部26が形成され、該環状凹部26にロッドガイド6の一端部が配置される。
ダストシールリップ22は、薄壁部24の径方向途中部位から大気側に次第に膨出するように延びる。なお、ダストシールリップ22が位置する部位の外周には、第1バックアップリング28が備えられる。
第1及び第2シールリップ20、21は、それぞれの頂部付近がピストンロッド4の外周面に圧接される断面く字状に形成される。そして、ダストシールリップ22と第2シールリップ21との間には断面台形状の空間が形成される。なお、第1シールリップ20が位置する部位の外周には、第2バックアップリング27が備えられる。
また、第1シールリップ20、第2シールリップ21及びダストシールリップ22のピストンロッド4の外周面との圧接面には、次に説明する第1〜第4実施形態に係る環状突起30〜33が適宜採用される。
【0015】
次に、第1〜第4実施形態に係る環状突起30〜33を図4〜図7に基いて説明する。なお、第1〜第4実施形態の説明では、第2シールリップ21に形成された環状突起30〜33を例示して説明する。
図4に示すように、第1実施形態に係る環状突起30は、第2シールリップ21のピストンロッド4と最も圧接する頂部から大気側に向けて延びる基準面29と接続され、シリンダ2側の一辺を長辺とした断面三角形状で2辺の勾配を異ならせた非対称に形成され、軸方向に沿って間隔を置いて複数形成される。ここで、基準面29とは、第1シールリップ20、第2シールリップ21、ダストシールリップ22の各環状突起30〜33間の面を指す。各環状突起30の断面三角形状は合同形状を呈している。また、各環状突起30の断面三角形状は、軸方向においてシリンダ2側の一辺の、第2シールリップ21の基準面29に対する角度αが、大気側の一辺の、第2シールリップ21の基準面29に対する角度βよりも大きく設定されて構成される。
その結果、第1実施形態では、ピストンロッド4をオイルシール7に組み付けた際、各環状突起30は大気側に倒伏し、ピストンロッド4の縮み行程及び伸び行程時においても各環状突起30は同じ大気側に倒伏した状態であるため、ピストンロッド4の縮み行程及び伸び行程時における各環状突起30、30間の体積変化を抑制することができ、体積変化による作動油の漏れを防ぐことができる。なお、この第1実施形態は、特に、第2シールリップ21及びダストシールリップ22に有効である。
【0016】
図5に示すように、第2実施形態に係る環状突起31は、第2シールリップ21の基準面29と接続され、大気側の一辺を長辺とした断面三角形状で2辺の勾配を異ならせた非対称に形成され、軸方向に沿って間隔を置いて複数形成される。各環状突起31の断面三角形状は合同形状を呈している。また、各環状突起31の断面三角形状は、軸方向においてシリンダ2側の一辺の、第2シールリップ21の基準面29に対する角度αが、大気側の一辺の、第2シールリップ21の基準面29に対する角度βよりも小さく設定されて構成される。
その結果、第2実施形態では、ピストンロッド4をオイルシール7に組み付けた際、各環状突起30はシリンダ2側に倒伏し、ピストンロッド4の縮み行程及び伸び行程時においても各環状突起30は同じシリンダ2側に倒伏した状態であるため、ピストンロッド4の縮み行程及び伸び行程時における各環状突起30、30間の体積変化を抑制することができ、体積変化による作動油の漏れを防ぐことができる。また、この第2実施形態は、特に、第1シールリップ20に有効であり、すなわち、上述した角度α、βを往復動シールの油面角としてみた場合、油密封条件(α<β)を満足しており、第1シールリップ20上で直接油保持できるためピストンロッド4の摺動性とシール性を同時に向上させることができる。
【0017】
図6に示すように、第3実施形態に係る環状突起32は、第2シールリップ21の基準面29と接続され、シリンダ2側の一辺を長辺とした断面三角形状で2辺の勾配を異ならせた非対称に形成され、軸方向に沿って間隔を置いて複数形成される。各環状突起32の断面三角形状は合同形状を呈している。また、隣接する一対の環状突起32、32の断面三角形状は鏡面対称に形成される。なお、各環状突起32は、第2シールリップ21の基準面29に対する角度β(<α)で高勾配側の一辺が互いに近接して対向する配置で形成される。
その結果、第3実施形態では、第1及び第2実施形態と同様にシール性を確保しつつ、各環状突起32、32間の油保持量を増加することができ、ピストンロッド4の摺動性を向上させることができる。
【0018】
図7に示すように、第4実施形態に係る環状突起33は、第2シールリップ21の基準面29と接続され、シリンダ2側の一辺を長辺とした断面三角形状で2辺の勾配を異ならせた非対称に形成され、軸方向に沿って間隔を置いて複数形成される。各環状突起33の断面三角形状は相似形状を呈している。また、各環状突起33の断面三角形状は、軸方向においてシリンダ2側の一辺の、第2シールリップ21の基準面29に対する角度αが、大気側の一辺の、第2シールリップ21の基準面29に対する角度βよりも大きく設定されて構成される。しかも、各環状突起33の頂点を結ぶ線35(図7の1点鎖線)は、第2シールリップ21の基準面29に対して大気側に向って次第に離間する直線状に延びている。
その結果、第4実施形態では、ピストンロッド4との締め代に対応して各環状突起33の高さを調整することで摩擦力の均一化が図られ、各環状突起33、33間の体積変化がさらに減少されることでシール性をさらに向上させることができる。なお、この第4実施形態は、特に、大気側に向かってピストンロッド4との締め代量が減少するテーパ面(基準面)を有する第1シールリップ20及び第2シールリップ21に有効である。
【0019】
そこで、本発明の実施の形態に係る油圧緩衝器1のオイルシール7では、第1シールリップ20、第2シールリップ21及びダストシールリップ22の全てに第1〜第4実施形態に係る環状突起30〜33のいずれかを備えてもよく、第1シールリップ20、第2シールリップ21またはダストシールリップ22のいずれか1つまたは2つに、第1〜第4実施形態に係る環状突起30〜33のいずれかを備えてもよい。要するに、第1シールリップ20、第2シールリップ21及びダストシールリップ22の適宜箇所に、第1〜第4実施形態に係る環状突起30〜33の内の最も適したものを適宜選択して備えるようにしてもよいが、少なくとも、第2シールリップ21またはダストシールリップ22のいずれか一方に、第1〜第4実施形態に係る環状突起30〜33を適宜選択して備えた方がよい。
【0020】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る油圧緩衝器1では、特に、オイルシール7の第2シールリップ21またはダストシールリップ22に、非対称の断面三角形状に形成される第1〜第4実施形態に係る環状突起30〜33が軸方向に沿って間隔を置いて複数形成されているので、ピストンロッド4の縮み行程及び伸び行程時において、各環状突起30〜33は常時シリンダ2側または大気側に倒伏するため、ピストンロッド4の縮み行程及び伸び行程時における各環状突起30、30間,31、31間,32、32間,33、33間の体積変化を抑制することができ、体積変化による作動油の漏れを防ぐことができる。
【0021】
なお、本発明の実施の形態に係る油圧緩衝器1では、各シールリップ20、21、22に対して環状突起30〜33が複数形成されているが1つでもよい。また、本実施の形態では、環状突起30〜33は非対称の断面三角形状に形成されているが、頂点を滑らか湾曲状に形成してもよく、全体的に湾曲形状で非対称に形成してもよい。
なお、作動液は作動油が最も好ましいが、それに限らず磁性流体や電気粘性流体など他の作動液であってもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 油圧緩衝器(液圧緩衝器),2 シリンダ,3 ピストン,4 ピストンロッド,7 オイルシール,14、15 減衰力発生機構,20 第1シールリップ,21 第2シールリップ,22 ダストシールリップ,29 基準面,30〜33 環状突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に挿入されて該シリンダ内を2室に区画するピストンと、該ピストンと一体的に移動し、一端部がシリンダから突出するピストンロッドと、前記シリンダの一端内部に配置され前記ピストンロッドの外周面に圧接する往復動用の環状オイルシールと、前記ピストンの摺動によって生じる作動液の流れを制御して減衰力を発生させる減衰力発生機構とを備えた液圧緩衝器であって、
前記オイルシールは、シリンダ側に配置される第1シールリップと、大気側に配置されるダストシールリップと、前記第1シールリップと前記ダストシールリップとの間に配置される第2シールリップとからなり、
前記第2シールリップ及び/または前記ダストシールリップのピストンロッドの外周面との圧接面に環状突起が設けられ、該環状突起は、その断面形状が非対称に形成されることを特徴とする液圧緩衝器。
【請求項2】
前記環状突起が軸方向に間隔を置いて複数設けられ、各環状突起の断面形状は相似形状を呈し、各環状突起の頂部を結ぶ線は、前記第2シールリップまたは前記ダストシールリップの基準面に対して軸方向に沿って次第に離間または近接する直線状であることを特徴とする請求項1に記載の液圧緩衝器。
【請求項3】
作動液が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に挿入されて該シリンダ内を2室に区画するピストンと、該ピストンと一体的に移動し、一端部がシリンダから突出するピストンロッドと、前記シリンダの一端内部に配置され前記ピストンロッドの外周面に圧接する往復動用の環状オイルシールと、前記ピストンの摺動によって生じる作動液の流れを制御して減衰力を発生させる減衰力発生機構とを備えた液圧緩衝器であって、
前記オイルシールは、シリンダ側に配置される第1シールリップと、大気側に配置されるダストシールリップと、前記第1シールリップと前記ダストシールリップとの間に配置される第2シールリップとからなり、
前記第1シールリップのピストンロッドの外周面との圧接面に断面三角形状の環状突起が設けられ、該環状突起は、前記第1シールリップの基準面に対する前記シリンダ側の一辺となす角度αと比して前記大気側の一辺となす角度βを大きくすることを特徴とする液圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−159857(P2010−159857A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3690(P2009−3690)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】