説明

液循環装置

【課題】ポンプを使用せずに、液体を循環させる循環装置の開発を課題とする。
【解決手段】第一液溜部形成部材2と、第二液溜部形成部材3と、往き側連通路形成部材5及び戻り側連通路形成部材6によって構成されている。第一液溜部形成部材2を昇温すると液溜室8内の気圧が上昇し、循環液35は、往き側連通路30を昇り、第二液溜部形成部材3内に溜まる。循環液35が運ばれ、往き側連通路形成部材5の下端が、第一液溜部形成部材側2内の液面から離れると、第一液溜部形成部材側2内の気化ガスが、往き側連通路形成部材5を経て漏れ、第一液溜部形成部材側2内の気圧が低下し、循環液35は、重力によって第一液溜部形成部材側2内に落下する。第一液溜部形成部材側2に入った循環液35は、低温のため第一液溜部形成部材2内の温度が低下して負圧傾向となり、第二液溜部形成部材3内の循環液35が、吸引されて第一液溜部形成部材側2内に戻る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ等の動力を使用することなく、内部の液を循環させる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体を利用する技術分野においては、閉じられた環状回路または一部が開放された環状回路に液体を循環させる構造を有する装置が多用されている。
例えば離れた位置に熱を移動させる熱交換回路においては、二つの熱交換器を設置し、両者を含む循環回路を形成し、その回路に熱媒体を循環させる。
【0003】
図24は、その代表的な例を示すものであり、温泉水の熱を利用した暖房装置の回路である。
図24に示す暖房回路100は、吸熱用の熱交換器101と、排熱用の熱交換器102を持ち、両者の間を循環回路103で環状に接続している。また循環回路103にはポンプ105が設けられている。
吸熱用の熱交換器101は、いわゆる液・液熱交換器であり、一次側流路に温泉水が通過される。吸熱用の熱交換器101の二次側流路は、前記した循環回路103の一部を構成している。
【0004】
排熱用の熱交換器102は、気・液熱交換器であり、一次側が前記した循環回路103の一部を構成している。
気・液熱交換器102、具体的にはファンコンベクタであり、二次側に通風路を有し、当該通風路にファン106の送風を通過させる。
【0005】
図24に示す暖房回路100では、ポンプ105を起動して循環回路103内の熱媒体を循環させる。そして前記した様に吸熱用の熱交換器101の一次側流路に温泉水を通過させ、熱交換器102の二次側の通風路に送風する。
【0006】
その結果、吸熱用の熱交換器101内においては、温泉水と熱媒体との間で熱交換され、熱媒体が昇温する。昇温した熱媒体は、循環回路103を流れて排熱用の熱交換器102に至り、送風路を昇温する。その結果、送風路を通過する送風の温度が上昇し、温かい風がファンコンベクタから排出されて室内を暖房する。
【0007】
また図25は、クーリングタワー110を利用した水冷式の冷房装置の冷房回路111である。
冷房回路111は、圧縮機112、水冷式凝縮器113、膨張弁115及び蒸発器116によって構成される冷凍回路120と、凝縮器113を冷却するクーリングタワー回路121とを備えている。
クーリングタワー回路121は、凝縮器113内の冷却水流路123とクーリングタワー110内の管路(熱交換器)126を環状に結ぶものであり、回路中にポンプ125が設けられている。
【0008】
クーリングタワー回路121では、ポンプ125を起動してクーリングタワー回路121内の冷却水を循環させる。その結果、凝縮器113から熱を受けて昇温した冷却水が、クーリングタワー110内の管路(熱交換器)126に入る。一方、クーリングタワー110内においては、冷却水が流れる管路(熱交換器)126に散水して、内部を流れる冷却水を冷却する。そして冷却された冷却水は、再度凝縮器113内の冷却水流路123に戻って凝縮器113で発生した熱を奪い、冷媒の凝縮に寄与する。
【0009】
また環状回路に液体を循環させる構造は、水処理回路にも利用されている。例えば図26の水処理回路130の様に、貯留槽131と、濾過・殺菌槽132を備え、両者の間を開放形の環状流路133で結合し、回路中にポンプ135が設けられている。
水処理回路130では、貯留槽131内の水を抜き出してポンプ135で濾過・殺菌槽132に圧送し、濾過、殺菌して貯留槽131に戻す。
【0010】
環状回路に液体を循環させる他の構造として、図27の様な反応装置140もある。
図27の反応装置140は、貯留槽141と、反応槽142を備え、両者の間を環状流路145で結合し、回路中にポンプ146が設けられている。
反応装置140では、貯留槽141内の液を抜き出してポンプ146で反応槽142に圧送し、液内の物質に化学反応を起こさせて貯留槽141に戻す。
反応装置140では、貯留槽141と反応槽142との間で液を循環させて、反応を徐々に進めてゆく。
反応槽142に代わって、他の化学物質等を液中に溶解させたり、特定の物質を除去する槽を採用してもよい。
【0011】
また図28の様に、貯留槽150に循環回路151を設け、循環回路151にポンプ152を設けた回路もある。この回路は、貯留槽150を攪拌し、貯留槽150内の液が分離したり、成分が沈降することを防ぐ場合に採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−2528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記した様に、液体を循環させる機能を備えた装置は、いずれもポンプを備えている。そのためいろいろな弊害が起こる場合がある。
第一の弊害として、ポンプを動作させるための動力が必要である。そのためポンプを動作させるためのモータやエンジンが必要であり、さらにこれらを動作させる電気や燃料を要する。そのため省エネルギーを追求する装置では、省エネルギーによって得られるエネルギーと、ポンプを動作させるのに要するエネルギーの損得を考慮する必要が生じ、得られるエネルギーに比べてポンプを動作するのに要するエネルギーが大きい場合は、省エネルギーの目的に反する結果となる。
【0014】
またポンプは、多くの場合、液体を激しく攪拌するので、攪拌を嫌う反応物質を扱う場合には、液体を循環させる回路を採用することができない。
なお攪拌を嫌う液としては、他に、細胞の培養液がある。例えば細胞を培養液中で培養させる場合、培養液に流れや動きがある方が培養成績が優れるものの、液が攪拌されると、細胞が死滅してしまうことがある。
【0015】
またポンプは、回転部分を有するので、液漏れを起こす場合がある。そのため液漏れが厳に禁じられる液を循環させる場合には、特殊な構造のポンプを採用する必要がある。例えば、毒物や核反応物質を含む水を循環させる場合には、特殊構造のポンプを使用しなければならず、コストが嵩む。
【0016】
そこで本発明は、従来技術の上記した問題点に注目し、ポンプを使用せずに、液体を循環させる循環装置の開発を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、第一液溜部と、第二液溜部と、前記両液溜部を連結する往き側連通路及び戻り側連通路を有し、
循環液の全てが第一液溜部内にあるときの液面の地上高と、循環液の全てが第二液溜部内にあるときの液面の地上高を比較すると、循環液の全てが第二液溜部内にあるときの液面の地上高の方が循環液の全てが第一液溜部内にあるときの液面の地上高よりも高く、
第一液溜部は気密性を有し、
前記往き側連通路の第一液溜部側の開口位置は、循環液の全てが第一液溜部内にあるときに循環液中に浸る位置であり、
前記戻り側連通路の第二液溜部側の開口位置は、循環液の全てが第二液溜部内にあるときに循環液中に浸る位置であり、
第一液溜部側から第二液溜部に流体を送る際の抵抗は、往き側連通路の方が戻り側連通路よりも小さいことを特徴とする液循環装置である。
【0018】
なお、循環液の一部又は全部が第二液溜部内にあるときには、開口の一部又は全部が循環液から離れる位置であることが望ましい。
【0019】
本発明の液循環装置は、第一液溜部を加熱傾向とし、第二液溜部を冷却傾向とすることによって、循環液が循環する。
本発明の液循環装置は、循環液の全部または大部分が第一液溜部内にある状態から循環が開始される。
即ち第一液溜部は気密性を有するから、循環液の全部または大部内が第一液溜部内にある状態において第一液溜部が加熱傾向となると、第一液溜部内の圧力が上昇する。より望ましくは循環液の一部を気化させ、その蒸気圧によって第一液溜部内を昇圧する。ここで往き側連通路の第一液溜部側の開口位置は、循環液の全てが第一液溜部内にあるときに循環液中に浸る位置であるから、第一液溜部内が昇圧すると、第一液溜部内の気体が循環液の液面を押圧し、循環液が加圧されて往き側連通路内に入る。
ここで第一液溜部には、往き側連通路だけでなく、戻り側連通路についても連通しているが、第一液溜部側から第二液溜部に流体を送る際の抵抗は、往き側連通路の方が戻り側連通路よりも小さいので、循環液は、往き側連通路に優先的に入って第二液溜部側に移動する。
第二液溜部は、冷却傾向にあるから、第二液溜部に流れ込んだ循環液は冷却され、温度が低下する。そして循環液の多くが第二液溜部内に流れ込むと、往き側連通路の液位が下がり、第一液溜部側の開口の一部又は全部が循環液から離れる。
その結果、第一液溜部内の気体が往き側連通路を通って第二液溜部側に排気され、第一液溜部側の圧力が低下する。
一方、循環液の全てが第一液溜部内にあるときの液面の地上高と、循環液の全てが第二液溜部内にあるときの液面の地上高を比較すると、循環液の全てが第二液溜部内にあるときの液面高さ(いずれも地上高)の方が循環液の全てが第一液溜部内にあるときの液面高さに比べて高いから、循環液の多くが第二液溜部内にある場合の液面の地上高は、第二液溜部の方が高い。また戻り側連通路の第二液溜部側の開口位置は、循環液の全てが第二液溜部内にあるときに循環液中に浸る位置であるから、第二液溜部内の液は、戻り側連通路に入り、重力によって第一液溜部側に落下して流れる。
その結果、循環液が第一液溜部内に入り、第一液溜部内の液位が上昇して往き側連通路の第一液溜部側の開口を封鎖する。
また第一液溜部内に戻った循環液は、冷却されていて温度が低下しているから、第一液溜部内の気温が低下し、内部の気体が収縮して第一液溜部内が負圧傾向となる。その結果、第二液溜部側に残っていた循環液が、第一液溜部側の負圧に吸引され、戻り側連通路を経て第一液溜部に戻る。
そして循環液は、第一液溜部内で再度昇温し、第一液溜部内の圧力を上昇させて循環液を第二液溜部側に押し上げ、前記した循環を繰り返す。
【0020】
請求項2に記載の発明は、戻り側連通路には、循環液の一部が残留して液封する液封部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液循環装置である。
【0021】
本発明では、戻り側連通路に液封部が設けられているので、第一液溜部が加熱傾向となって第一液溜部内の圧力が上昇したとき、第一液溜部内の圧力が戻り側連通路を通って逃げることを阻止する。
【0022】
請求項3に記載の発明は、第一液溜部が第二液溜部よりも高温の環境に置かれることを特徴とする請求項1又は2に記載の液循環装置である。
【0023】
第一液溜部を第二液溜部よりも高温の環境に置くための方策としては、なんらかの熱源を用意して当該熱源で第一液溜部を加熱する方策や、なんらかの冷却装置や低温度の物質を用意して第二液溜部側を冷却する方策が考えられる。
雰囲気温度の異なる場所に第一液溜部と第二液溜部を設置して両者の間に温度差を形成させてもよい。
太陽熱や電熱等の輻射熱によって第一液溜部を加熱してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の液循環装置は、ポンプを使用することなく液体を循環させることができるので、ポンプを使用することによる弊害がない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態の液循環装置の正面図である。
【図2】図1の液循環装置の動作を示す説明図である。
【図3】図1の液循環装置の図2に次ぐ動作を示す説明図である。
【図4】図1の液循環装置の図3に次ぐ動作を示す説明図である。
【図5】図1の液循環装置の図4に次ぐ動作を示す説明図である。
【図6】図1の液循環装置の図5に次ぐ動作を示す説明図である。
【図7】図1の液循環装置の図6に次ぐ動作を示す説明図である。
【図8】図1の液循環装置の図7に次ぐ動作を示す説明図である。
【図9】図1の液循環装置の図8に次ぐ動作を示す説明図である。
【図10】図1の液循環装置の図9に次ぐ動作を示す説明図である。
【図11】図1の液循環装置の図10に次ぐ動作を示す説明図である。
【図12】本発明の第2実施形態の液循環装置の正面図である。
【図13】本発明の第3実施形態の液循環装置の正面図である。
【図14】本発明の第4実施形態の液循環装置の正面図である。
【図15】本発明の第5実施形態の液循環装置の正面図である。
【図16】本発明の第6実施形態の液循環装置の正面図である。
【図17】本発明の液循環装置の第1の用途を説明する液循環装置の正面図である。
【図18】本発明の液循環装置の第2の用途を説明する液循環装置の正面図である。
【図19】本発明の液循環装置の第3の用途を説明する液循環装置の正面図である。
【図20】本発明の液循環装置の第4の用途を説明する液循環装置の正面図である。
【図21】本発明の第7実施形態の液循環装置の正面図である。
【図22】本発明の第8実施形態の液循環装置の正面図である。
【図23】本発明の第9実施形態の液循環装置の正面図である。
【図24】環状回路に液体を循環させる構造を有する装置の第1例を示す回路図である。
【図25】環状回路に液体を循環させる構造を有する装置の第2例を示す回路図である。
【図26】環状回路に液体を循環させる構造を有する装置の第3例を示す回路図である。
【図27】環状回路に液体を循環させる構造を有する装置の第4例を示す回路図である。
【図28】環状回路に液体を循環させる構造を有する装置の第5例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下さらに本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態の液循環装置1は、図1の様に、第一液溜部形成部材2と、第二液溜部形成部材3と、往き側連通路形成部材5及び戻り側連通路形成部材6によって構成されている。
【0027】
第一液溜部形成部材2は、フラスコ状をした容器であり、球形の液溜室8に細長い円筒部7が連続するものである。円筒部7の軸芯は、液溜室8の中心を通る。
第一液溜部形成部材2は、ガラス、樹脂、金属等の気密性を保持することができる素材によって製作されており、内部に循環液を溜めることができる。
第一液溜部形成部材2には、液戻り口10が設けられている。
液戻り口10は短管状であり、第一液溜部形成部材2の液溜室8に一体的に設けられており、液溜室8の内外を連通している。
【0028】
液戻り口10は、図1の姿勢を基準として液溜室8の上半球側に設けられている。即ち液戻り口10は、液溜室8と円筒部7の接続部近傍に設けられており、図1の様に円筒部7を垂直姿勢に保持した姿勢を基準とすると、液戻り口10は、高さ方向の中心線Aよりも上にあり、液溜室8の内部に斜め下方向に向かって開口する。
【0029】
第二液溜部形成部材3は、上端が開放された円筒形の容器であり、底面が球面形状をしている。第二液溜部形成部材3についてもガラス、樹脂、金属等によって作られている。
第二液溜部形成部材3には、液排出口11が設けられている。液排出口11は、谷間部32と、山状部22を有した複雑な形状をした管である。即ち液排出口11は、図1の様に第二液溜部形成部材3を垂直姿勢に保持した状態を基準として、底面近傍にその端部が一体的に接続されている。
液排出口11は、前記した端部から外側斜め下方向に延びる下傾斜部21と、下傾斜部21の末端部がさらに垂直方向上方に立ち上がった立ち上げ部23、上凸ターン部25及び立ち下げ部26を有している。
そして下傾斜部21と立ち上げ部23との間で谷間部32が形成され、立ち上げ部23、上凸ターン部25及び立ち下げ部26で山状部22が形成されている。
【0030】
往き側連通路形成部材5は、ガラス、樹脂、金属等で作られた直線状の管であり、第一液溜部形成部材2と第二液溜部形成部材3とを連通している。
より詳細には、往き側連通路形成部材5の下部側は、第一液溜部形成部材2の円筒部7を通過し、その下端が液溜室8の中に至っている。より具体的には、往き側連通路形成部材5の下端は、液溜室8の高さ方向の中心線Aよりも下側の位置に開口18がある。
【0031】
一方、往き側連通路形成部材5の上部側は、第二液溜部形成部材3の中心を通って第二液溜部形成部材3の内部に入り込んでいる。そして第二液溜部形成部材3の中間部分に往き側連通路形成部材5の上端開口17があり、往き側連通路形成部材5は当該部分で開口している。
【0032】
往き側連通路形成部材5と、第一液溜部形成部材2の上端部12との間は、密閉されていて気密性が保持されている。
また往き側連通路形成部材5と、第二液溜部形成部材3の下端部13との間も、密閉されていて気密性が保持されている。
【0033】
戻り側連通路形成部材6は、可撓性を有するチューブで構成されている。戻り側連通路形成部材6の一端は、第二液溜部形成部材3の液排出口11の先端に、ジョイント15で接続されている。また戻り側連通路形成部材6の他端は、第一液溜部形成部材2の液戻り口10にジョイント16で接続されている。
【0034】
戻り側連通路形成部材6は、図1の様に、一部が下側に垂れ下がった状態で取り付けられている。即ち戻り側連通路形成部材6は、故意に一部が下側に垂れ下がった状態とされており、下凸ターン部20が設けられている。本実施形態では、下凸ターン部20の最も下の位置は、第二液溜部形成部材3の底よりもさらに下側にある。
【0035】
本実施形態では、第一液溜部形成部材2の内部が第一液溜部27として機能し、第二液溜部形成部材3の内部が第二液溜部28として機能する。
また往き側連通路形成部材5が往き側連通路30として機能する。さらに第二液溜部形成部材3の液排出口11と戻り側連通路形成部材6が戻り側連通路31として機能する。
【0036】
次に本実施形態の液循環装置1の機能について説明する。
準備段階として、図2の様に、液循環装置1内に、循環させるべき液体を入れる。液体の種類は、問わないが、気化しやすい液体であることが望ましい。例えば、アルコールや、エーテル等の沸点が低い液体は、循環させやすい。
本実施形態では、液としてエチルアルコールを採用している。
【0037】
循環液35は、図2の様に、第一液溜部形成部材2の中(第一液溜部27の中)に入れるが、少なくとも往き側連通路形成部材5の下部の開口18が浸る液位まで循環液35を入れることが必要である。
ただし第一液溜部形成部材2の中を循環液35で満たすことは望ましくなく、循環液35の液位は、液溜室8の高さ方向の中心線Aよりも上であって、液戻り口10の液溜室8側の開口部39よりも下であることが望ましい。
【0038】
また戻り側連通路31の一部たる第二液溜部形成部材3の谷間部32と、戻り側連通路形成部材6の下凸ターン部20にも、循環液35を入れる。谷間部32及び下凸ターン部20に入った循環液35は、図2の様に、循環液35を挟んで前後の部分を遮断する。即ち本実施形態では、戻り側連通路31の谷間部32と下凸ターン部20に液封部36,37が形成される。
【0039】
この状態から、第一液溜部形成部材2の液溜室8だけを昇温し、第二液溜部形成部材3側を冷却する。実験室的には、第一液溜部形成部材2の液溜室8を恒温水槽(ウォーターバス)に漬けて湯浴し、第一液溜部形成部材2の液溜室8を温める。第二液溜部形成部材3側は外気に晒す。その結果、第一液溜部形成部材2の温度が第二液溜部形成部材3側よりも高い状態となる。
より具体的には、第一液溜部形成部材2の液溜室8を、循環液35の沸点を越える温度に温める。
【0040】
その結果、第一液溜部形成部材2内の循環液35が気化し、液溜室8内の気圧が上昇する。ここで往き側連通路形成部材5は、直線状の管であって内部には気体が入っているだけであるのに対し、戻り側連通路31は、曲線状であり、さらに下凸ターン部20に循環液35が溜まっていて液封部37が形成され、谷間部32にも液封部36が形成されている。そのため第一液溜部形成部材側2から第二液溜部形成部材3に流体を送る際の抵抗は、往き側連通路30の方が戻り側連通路31よりも小さい。
【0041】
また往き側連通路形成部材5の端部は、循環液35に浸っている。
そのため液溜室8内が昇圧することにより、循環液35の液面が押され、図3の様に、循環液35は、往き側連通路30を昇る。
そして遂には、循環液35は、図4の様に往き側連通路30の上端から溢れ、第二液溜部形成部材3内に溜まる。
第二液溜部形成部材3は湯浴されていないので、第二液溜部形成部材3内に入った循環液35は、周囲に熱を奪われて温度低下する。
【0042】
循環液35は、さらに第一液溜部形成部材側2から第二液溜部形成部材3に押し上げられ図5、図6の様に第二液溜部形成部材3の液位が次第に上昇し、戻り側連通路31の開口34を浸す。そしてさらに液位は上昇し、上凸ターン部25の高さを越える。
そして遂には、循環液35の大部分が、第一液溜部形成部材側2から第二液溜部形成部材3に運ばれ、往き側連通路形成部材5の下端が、第一液溜部形成部材側2内の液面から離れる。
【0043】
その結果、図7の様に、第一液溜部形成部材側2内の気化ガスが、往き側連通路形成部材5の下端から第二液溜部形成部材3側に洩れ、第一液溜部形成部材側2内の気圧が低下し、第一液溜部形成部材側2内の圧力と第二液溜部形成部材3の圧力の差が小さくなる。
一方、第二液溜部形成部材3の高さは、第一液溜部形成部材側2よりも高く、両者の液位は、第二液溜部形成部材3の方が高い。また第二液溜部形成部材3内の液位は、戻り側連通路31の上凸ターン部25の高さを越えている。且つ戻り側連通路31の開口34は循環液35に浸っている。そのため、第二液溜部形成部材3内の循環液35は、重力によって図8の様に第一液溜部形成部材側2内に落下する。
【0044】
また第二液溜部形成部材3内の循環液35は、第一液溜部形成部材側2内の循環液35に比べて温度が低いので、第二液溜部形成部材3内の循環液35が、第一液溜部形成部材側2内に落下すると、第一液溜部形成部材2内の温度が低下し、第二液溜部形成部材3内の気体が収縮して内部が負圧傾向となる。
その結果、図9に示すように、第二液溜部形成部材3内に残存する循環液35が、一気に吸引され、第一液溜部形成部材側2内に戻る。
【0045】
さらに、戻り側連通路31の谷間部32と、下凸ターン部20には、循環液35が残存し、図10の様に循環開始時(図2)と同様の状態となる。
即ち液循環装置1の第一液溜部形成部材2に、循環液35の大半が入り、往き側連通路形成部材5の下部の開口18が循環液35に浸っている。
また循環液35の液位は、液溜室8の高さ方向の中心線Aよりも上であって、液戻り口10の液溜室8側の開口39よりも下である。
戻り側連通路31の一部たる液排出口11の谷間部32と、戻り側連通路形成部材6の下凸ターン部20に、循環液35が残存し、液封部36,37が形成される。
【0046】
また第一液溜部形成部材2の液溜室8は、引き続き湯浴されているから、第一液溜部形成部材2内の循環液35が気化し、液溜室8内の気圧が上昇し、図11の様に、循環液35は、往き側連通路30を昇る。
後は前記した工程を繰り返し、循環液35は、液循環装置1内を無限に循環する。
【0047】
以上説明した第1実施形態では、図1の様に、往き側連通路形成部材5の上部側を第二液溜部形成部材3の中間部分にまで伸ばしたが、図12の様に往き側連通路形成部材5の上部側が、第二液溜部形成部材3の底に開くものであってもよい。
第1実施形態では、図1の様に、戻り側連通路形成部材6を第一液溜部形成部材2の上部に接続し、第一液溜部形成部材2に循環液35の大半が戻った状態においても、戻り側連通路形成部材6の末端部が循環液35に浸らない位置としたが、図13の様に、戻り側連通路形成部材6を第一液溜部形成部材2の底近くに接続し、第一液溜部形成部材2に循環液35の大半が戻った状態においては、戻り側連通路31の末端部(液戻り口10の液溜室8側の開口部39)が循環液35に浸ってもよい。
【0048】
また上記した第1実施形態では、液封部36,37を2か所に設けたが、図14の様に一か所だけに液封部37を設けてもよい。
【0049】
上記した第1実施形態では、第二液溜部形成部材3として開放形のものを採用した。この理由は、第二液溜部形成部材3を大気開放して第二液溜部形成部材3内の圧力を常に大気圧と一致させ、第一液溜部形成部材2の液溜室8だけを昇温して液溜室8内の気圧が上昇させたとき、第二液溜部形成部材3内の気圧が第一液溜部形成部材2内の気圧よりも低くなる様にするためである。
【0050】
しかしながら、第一液溜部形成部材2の液溜室8だけを昇温して液溜室8内の気圧を上昇させたとき、第二液溜部形成部材3内の気圧が第一液溜部形成部材2内の気圧よりも低くなる様に工夫されておれば、第二液溜部形成部材3を密閉形とすることも可能である。
例えば図15の様に、第二液溜部形成部材3の容積を第一液溜部形成部材2よりも大きくし、循環液35が往き側連通路形成部材5から第二液溜部形成部材3内に入っても、第二液溜部形成部材3の容積変化が小さいものとすることにより、第二液溜部形成部材3内の気圧を第一液溜部形成部材2内の気圧よりも低い状態に維持することができる。
【0051】
さらに図16の様に、第二液溜部形成部材3が容積変化を許容するものであるならば、第二液溜部形成部材3が密閉形であっても第二液溜部形成部材3内の気圧を第一液溜部形成部材2内の気圧よりも低い状態に維持することができる。
【0052】
また先に説明した実施形態では、循環液35として単一組成のものを採用したが、例えばアルコールと水という様に比重や沸点の異なる液体の混合物を循環液35として使用してもよい。エーテルと水の混合物の様に、2層に分離してしまう様な循環液35を使用することも可能である(図17)。
沸点の異なる液体の混合物を循環液35として使用すると、循環液35を昇温することによって、沸点の低い液体が気化し、第二液溜部内の圧力を上昇させるので、沸点の低い液体であっても循環させることができる。
【0053】
本発明の液循環装置の用途は、背景技術の欄で例示した装置に適用することができるが、その他の用途として、液循環の運動から動力を取り出すこともできる。例えば、図18の様に一連の流路の中に、水車40を設け、液流によって水車40を回転させることができる。また水車40の回転力を利用して発電を行うことができる。
【0054】
循環液として、エチルメチルエーテル等の沸点が常温近傍の液体を使用し、温泉や地熱に第一液溜部をさらし、第二液溜部を河川や海水で冷却することによって循環液を循環させることができ、比較的温度の低い熱源(温泉水や地熱)を利用して発電を行うこともできる。
【0055】
また図19の様に、第二液溜部形成部材3内に、化学薬品45等を投入し、液循環装置1内の液を循環させることにより、化学薬品45を循環液35中にゆっくりと溶かしたり、ゆっくりと反応させることができる。化学薬品45に代わって、活性炭等の物理的作用(吸着作用等)を有する物質を第二液溜部形成部材3内に投入し、循環液35を処理することができる。
また化学薬品等に代わってコーヒ豆や、漢方薬を第二液溜部形成部材3内に投入し、有効成分をゆっくりと抽出することもできる。
【0056】
また図20の様に、一連の流路の中に、フィルター41を設け、循環液35から特定の物質や不純物を除去することも可能である。
また本発明の液循環装置1を玩具や、教育資料として活用することもできる。例えば、液循環装置1の各部材をガラスやアクリル等の透明な素材で製作し、内部の循環液35を着色すれば、循環液35が循環する様子を観察することができる。そのため本発明の液循環装置1は、玩具や、教育資料としての用途も考えられる。
【0057】
本発明の液循環装置1では、第一液溜部27の温度と第二液溜部28の温度を一定に保てば、一定の周期で循環液35が循環する。この性質を利用して液循環装置1を時計や時計玩具として利用することもできる。
【0058】
また本発明の液循環装置1は、熱を移動させる器具としての利用も考えられる。
【0059】
以上説明した実施形態は、本発明の原理の説明を容易にするために、実験室的な器具(フラスコやガラス管等)を利用した構成を説明したが、本発明を工業的に利用する場合には、当然素材や形状が異なるものとなる。
例えば図21に示すように、第一液溜部46や第二液溜部47が、細い管状となる場合もある。また、先の実施形態では、いずれも第一液溜部の真上の位置に第二液溜部を設けたが、図22の様に、第一液溜部50に対して水平方向にずれた位置に第二液溜部51が設けられる可能性もある。
【0060】
以上説明した実施形態では、戻り側連通路31の一部に液封部36,37を設け、当該液封部36,37の作用によって、戻り側連通路31に抵抗を付け、往き側連通路30に循環液35が流れやすい様に構成した。本構成は、機械的な可動部分が無いので故障が少ない。また循環液35を攪拌しにくいので、循環液の攪拌を嫌う装置に対して好適である。しかしながら本発明は、この構成に限定されるものではなく、液封部36,37に代わって機械的な逆止弁52を採用してもよい(図23)。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、液体を循環させる構造を備えた機械・器具、玩具、教育資材に広く利用することができ、産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0062】
1 液循環装置
2 第一液溜部形成部材
3 第二液溜部形成部材
5 往き側連通路形成部材
6 戻り側連通路形成部材
7 円筒部
8 液溜室
10 液戻り口
11 液排出口
20 下凸ターン部
22 山状部
23 立ち上げ部
25 上凸ターン部
26 立ち下げ部
27 第一液溜部
28 第二液溜部
30 往き側連通路
31 戻り側連通路
32 谷間部
35 循環液
40 水車
41フィルター
45 化学薬品
46 第一液溜部
47 第二液溜部
50 第一液溜部
51 第二液溜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一液溜部と、第二液溜部と、前記両液溜部を連結する往き側連通路及び戻り側連通路を有し、
循環液の全てが第一液溜部内にあるときの液面の地上高と、循環液の全てが第二液溜部内にあるときの液面の地上高を比較すると、循環液の全てが第二液溜部内にあるときの液面の地上高の方が循環液の全てが第一液溜部内にあるときの液面の地上高よりも高く、
第一液溜部は気密性を有し、
前記往き側連通路の第一液溜部側の開口位置は、循環液の全てが第一液溜部内にあるときに循環液中に浸る位置であり、
前記戻り側連通路の第二液溜部側の開口位置は、循環液の全てが第二液溜部内にあるときに循環液中に浸る位置であり、
第一液溜部側から第二液溜部に流体を送る際の抵抗は、往き側連通路の方が戻り側連通路よりも小さいことを特徴とする液循環装置。
【請求項2】
戻り側連通路には、循環液の一部が残留して液封する液封部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液循環装置。
【請求項3】
第一液溜部が第二液溜部よりも高温の環境に置かれることを特徴とする請求項1又は2に記載の液循環装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2011−21579(P2011−21579A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169440(P2009−169440)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】