説明

液晶パネル基板の除電装置

【課題】液晶パネル基板の製造工程において、液晶パネル基板の帯電を効率よく除去する装置を提供する。
【解決手段】イオナイザにより液晶パネル基板に対し交流コロナ放電を行い、帯電した液晶パネル基板の除電が可能となるようにした液晶パネル基板の除電装置において、平板状の搬送キャリアを備え、前記イオナイザを、前記液晶パネル基板の前記イオナイザに対向している面に対して平行である搬送方向に対し直交或いは斜めに配置すると共に、交流放電電流を供給すると共に、前記搬送方向へ前記液晶パネル基板を搬送することにより、前記液晶パネル基板が除電されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネル基板の製造工程において、この液晶パネル基板の表面に帯電した電荷を除去する除電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル基板の様々な製造工程において、この液晶パネルの加工処理に伴う帯電が大きな問題となっている。例えば、液晶パネル基板の表面に配向膜を形成するためのラビング処理工程は、絶縁膜を毛ブラシで擦って溝を形成するようにしているため、摩擦による非常に大きな帯電が生じる。そして、このように帯電した電荷は、液晶パネル基板の回路を破壊したり、配向異常が生じたり、様々な不具合を招くとされている。
【0003】
このような問題の対策として、回路設計の工夫などがなされているが、完全なものとはならず、帯電した電荷自体を除去する必要がある。そのための従来の除電対策として、二つの方式が一般に使用されている。第1の方式はフォトイオナイザと呼ばれるもので、このフォトイオナイザが発生する軟X線によって空気をイオン化して正負のイオンを発生させ、そのイオンにより液晶パネル基板の表面に帯電している電荷を除去しようとするものである(特許文献1参照)。この方式は確実に正負のイオンが均衡していることと、イオナイザから円錐状にイオンが発生し、ある程度の広い範囲を除電できるのが特徴である。
【0004】
第2の方式は針電極によるイオナイザであり、このイオナイザは、針電極とその周囲に設けた電極との間で交流コロナ放電を行う方式であり、ある程度のイオンは周囲の電極に吸収されてしまうため、広い範囲にイオンを拡散することが難しく、複数の電極を横に並べて交流コロナ放電を行う。或いは、正負コロナ放電を交互に発生させたり、正コロナ発生針電極と負コロナ発生針電極とを交互に配置して正負のイオンを発生させ、さらに送風して液晶パネル基板の表面に帯電した電荷を除去するようにしている(特許文献2参照)。この方式の場合、正負イオン量を別々にコントロールして正負イオンの均衡をとるのが一般的である。
【0005】
通常の交流コロナ放電は正負イオン量が均衡しないこともあるが、上述のような方式によらずに正負イオンを均衡させ、0V付近まで除電させる工夫も提案されている(特許文献3参照)。これは、液晶パネル基板とイオナイザとの間にグリッド電極を配設し、液晶パネル基板の帯電量が大きい場合は、液晶パネル基板とグリッド電極との間の電界が強くなり、多くのイオンが液晶パネル基板に到達し、逆に液晶パネル基板の帯電量が小さい場合は、電界が弱くなり、多くのイオンはグリッド電極からアースへ流れ、グリッド電極を通過するイオンの量を減少するようにし、液晶パネル基板の帯電量に応じてイオンの量を調整するようにしたもので、一定間隔に並べられた針電極が放電電極として用いられている。
【0006】
なお、交流コロナ放電を利用した除電装置には、電子複写装置の感光ドラムに応用したもの(例えば、特許文献4)、あるいは、交流コロナ放電により空気をイオン化するイオン生成装置(例えば、特許文献5)に応用したもの等が一般に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−294928号公報
【特許文献2】特開平6−208898号公報
【特許文献3】特許第3522586号公報
【特許文献4】特開昭51−67139号公報
【特許文献5】特表2004−109875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
液晶パネル基板の製造工程には、カラーフィルターを塗布した後、ポリイミド膜を施し配向処理をするものと、ガラス基板上にアモルファスシリコン、電極等を施した後、ポリイミド膜を施し配向処理をするものがある。それら液晶パネル基板はラビング等の配向処理中は吸着盤に吸着して搬送し、処理終了後に吸着盤に備えられたピンによって100mm近く上昇させる。そして吸着盤とピンアップされた液晶パネル基板の間に搬送爪が差し込まれ、ピンが下がると、その搬送爪の上に載って次の工程に運ばれる。
【0009】
液晶パネル基板はこのようにして吸着搬送され、ラビングされる時点で摩擦帯電が生じ、その後のピンアップにより数十倍にも大きくなる。その理由は、液晶パネル基板上の帯電電荷(Q)が一定であっても、キャパシタンス(C)の変化によって現れる電圧(V)が変化するからである。この電圧(V)は物理法則から、V=Q/Cで表され、キャパシタンス(C)は帯電体と接地電位との距離(D)で決まる値であることから、キャパシタンス(C)の大きさは距離(D)の大きさに逆比例する。
【0010】
即ち、ピンアップするということは、距離(D)が大きくなることであり、これによりキャパシタンス(C)が小さくなることを意味する。そして、その変化をV=Q/Cの式に当てはめると、現れる電圧(V)が大きくなることになる。つまり、帯電体と接地電位との距離が大きくなると、帯電電荷(Q)は変化しなくても現れる電圧(V)は大きくなることが分かる。
【0011】
電圧の変化がどの程度になるかを試みに計算してみる。キャパシタンスは材料の厚みと比誘電率で決まるが、異なる材料を組み合わせる場合は、比誘電率が1である空気の厚みに換算して計算すると理解し易い。液晶パネル基板のキャパシタンス値がいくらであるかは、ガラス基材の上の材料や厚み等によって異なるが、概略ガラス基材のキャパシタンスで決定されると考えられる。
【0012】
液晶パネル基板に採用されるガラス基材は数種あるが、最も多く採用されている0.7mmの厚みで比誘電率5.5を代表として空気の厚みに換算すると、0.7mm/5.5=0.127mmとなる。吸着盤面が接地電位になっているとして、100mmピンアップすると空気の厚みとして0.127mmから100.127mmに変化することになる。この変化の度合いは100.127/0.127=788となり、電圧は100mmのピンアップによって約800倍にも達することになる。したがって、もし液晶パネル基板が吸着状態で100Vに帯電していたら、ピンアップによって80kVにも達することになる。
【0013】
液晶パネル基板の回路異常などの障害が生じる過程やメカニズムは解明されていないが、ピンアップ時の電圧上昇は大きな問題とされる所以である。ピンアップ時に何ボルト以内であれば問題ないかは判然としているわけではないが、実際の工程管理上では1kV以内とされている場合が多い。ピンアップ時に1kV以内とするためには、吸着状態では先の計算から逆算すると、1.3V以内ということになる。つまりラビング後、ピンアップまでに100Vから1.3V以下に除電する必要があるということになる。
【0014】
ところで、液晶パネル基板の除電を行う場合は、帯電している表面に触れることができないため、外部からイオンを供給して電荷を消失させる必要がある。つまり、どれだけの電圧であるかよりも、どれだけの電荷が存在するかが問題であり、それをどれだけの時間で消失させられるかが除電能力となる。
【0015】
この除電能力は、一般的にはJIS(日本工業規格)で決められた方法で評価されている。それは接地電極に対し10mm離れた位置にある150mm×150mmの金属製の帯電プレート(20pF)に目的の電圧を与え、フロート状態で除電装置を動作させ、経過時間に対して電圧が下がる状況を記録して評価するものである。市販されている除電器はこの除電評価器の評価法によるデータを出しているところが多い。
【0016】
代表例としてある針電極方式除電器メーカーの除電特性計測データを図10に示す。除電器は上述の除電評価器の帯電プレートから50cmの位置に配置し、帯電プレートに3kVの帯電を与えて除電器を動作させ、経過時間による帯電プレートの電圧変化、つまり除電の状態を計測したものである。この除電器の特徴は3kVから100Vまで除電するのに0.5secであるのに、100Vから数Vに除電するには1sec近く要していることである。
【0017】
これは、除電器は帯電体から遠く離れており、除電器で発生したイオンは強制的な風を流してはいるが、ほとんど帯電体自体の電界で引き寄せる力により移動していることを示している。そのため、帯電体の帯電電位が低ければ低いほど、また発生したイオンが少なければ少ないほど、帯電体までイオンが到達するのに時間がかかることを示している。また、除電評価器のプレートのキャパシタンスは20pFであり、前述のガラス基材のキャパシタンスを除電評価器のプレートと同じ大きさの150mm×150mmで計算すると、1600pFになることから、同じ帯電電圧時に80倍もの電荷量の違いがあることになる。
【0018】
市販の軟X線方式のフォトイオナイザも、図10とほとんど同じ特性を示している。フォトイオナイザは軟X線により空気を電離させて正負イオンを発生させる方式なので、イオンは帯電体が引き寄せる力だけで移動することになり、図10の特性とほとんど同じになると考えられる。
【0019】
ところで、フラットディスプレイの需要は年々増加する傾向にあり、液晶パネル基板の製造におけるタクトタイムも短くなってきており、そのため、短時間で高い効率の除電が可能となる除電装置が求められている。液晶パネル基板の除電処理において、短時間で高い効率の除電を行うには、多量のイオンを発生させ、液晶パネル基板に供給させる必要がある。
【0020】
そこで、上記特許文献1に開示された技術では、フォトイオナイザの軟X線のエネルギーにより正負のイオンを得る方式であることから、イオンを多く発生させるために、軟X線のエネルギーを大きくする必要がある。ところが、この軟X線のエネルギーを大きくすると人体への影響が大きくなることから、外部との遮蔽あるいは取り扱い管理などに大きなコストが発生してしまうことになる。
【0021】
また、上記特許文献2に開示された針電極によるイオナイザによる場合は、供給電力を大きくすることによってイオンの発生量を増大するに限界がある。このイオナイザの場合、針電極が一列に適当な間隔で配置され、一対で組み合わされた対向する針電極間で交流コロナ放電が生じる仕組みになっている。針電極の電圧を上げてゆくと、針の先端周囲の空気だけに電離していたコロナが次第に広がり、対向する電極まで達すると針電極と対向電極が導通状態、つまり雷状のスパークになってしまう。このため、イオン量を多く供給するためには針電極を被除電物に近づける以外にない。しかし、その場合には針電極のイオン分布が不均一になるため、電極の数を増やさなければならないが、形状を工夫しなければ増加できる数は数倍に止まらざるを得ない。
【0022】
このような問題に対する工夫が上記特許文献3に開示されている。その技術ではイオン分布を平均化するため、針電極と被除電物の間に接地された細かい金属メッシュのグリッド電極を設け、放電をグリッド側にさせると共に、除電に必要なイオンだけを液晶パネル基板に到達させるようにしている。しかし、多量に発生したイオンもグリッドを通り抜ける量はグリッドと帯電体との電位差に影響されるため、やはり、この方式も帯電体の帯電電圧が低いほど除電するのに時間を要することになり、除電スキャンを定められた速度以上にすることができず、除電処理の能率を向上することができない問題があった。
【0023】
また、針電極のイオナイザでは、二つの直流高圧電源から正イオンと負イオンを別々の電極から発生させる方法や、一つの交流電源によって同一の電極から交互に発生させる方法があるが、単純な交流電圧による放電には問題がある。図9に示すように交流コロナ放電の特性は、放電電極に単なる交流電圧を印加した場合、正イオンと負イオンが交互に発生することになるが、負イオンの発生の方が優勢となり、マイナスの直流成分がバイアスされた放電電流が流れる。
【0024】
その理由は、同図に示すプラスおよびマイナスの印加電圧に対する放電電流特性から判断できる。即ち、放電開始以後どの電圧値においてもプラスとマイナス同等の電圧値では、マイナス放電電流の方がプラス放電電流よりも大きいため、交流高電圧においてプラスもマイナスも同等に電圧変化をするにも関わらず、流れる電流はマイナスの直流電流成分が含まれる状況となる。この特性から、単に通常の交流高電圧で放電を行い除電しようとしても、負イオンが多くマイナス帯電となる可能性があり、帯電体に強制的にイオンを供給すると、状況によって−300V程度にまで帯電してしまう場合がある。
【0025】
針電極に交流高電圧を印加する方式では、帯電体から離れた位置にイオナイザが置かれ、主体的には帯電体が必要な極性のイオンを引き寄せる力で除電されるため、正イオン量と負イオン量の違いは問題になっていない。また、グリッド方式でも針電極に交流高電圧を印加する手法であるが、接地されたグリッドを抜けるイオンは帯電体とグリッドの電界に依存するため、正イオン量と負イオン量の違いは問題にならない。しかし、いずれの方式でも帯電体の帯電電圧に依存するため、除電速度の遅いことが大きな問題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
そこで本発明は、液晶パネル基板のサイズが大きくなっても対応可能で、安全かつ確実な除電をするために、以下に述べる各手段により上記課題を解決するようにした。
即ち、請求項1記載の発明では、金属細線からなる放電電極と、この放電電極を覆う導電ケースからなり、該導電ケースの被除電物である液晶パネル基板に面する側が開放している複数のイオナイザユニットで構成されるイオナイザにより液晶パネル基板に対し交流コロナ放電を行い、帯電した液晶パネル基板の除電が可能となるようにした液晶パネル基板の除電装置において、前記液晶パネル基板の除電装置は、前記液晶パネル基板を載置すると共に前記液晶パネル基板の前記イオナイザに対向している面に対して平行である搬送方向へ前記液晶パネル基板を搬送するための平板状の搬送キャリアを備え、前記イオナイザを、前記液晶パネル基板の前記イオナイザに対向している面に対して平行である前記搬送方向に対して直交或いは斜めに配置すると共に、前記イオナイザユニットの導電ケースの開放している面であって、液晶パネル基板に面する側の開放している部分に前記金属細線からなる放電電極が切断することによって落下することを防止するための電気絶縁性落下防止部材を装着してなり、前記イオナイザユニットの放電電極に接続された交流高圧電源から直流電流成分を除去した交流放電電流を供給すると共に、前記平板状の搬送キャリアが前記液晶パネル基板の前記イオナイザユニットに対向している面に対して平行である前記搬送方向へ前記液晶パネル基板を搬送することにより、前記液晶パネル基板が除電されるようにする。
【0027】
請求項2記載の発明では、金属細線からなる放電電極と、この放電電極を覆う導電ケースからなり、該導電ケースの被除電物である液晶パネル基板に面する側が開放している複数のイオナイザユニットで構成されるイオナイザにより液晶パネル基板に対し交流コロナ放電を行い、帯電した液晶パネル基板の除電が可能となるようにした液晶パネル基板の除電装置において、前記液晶パネル基板の除電装置は、前記液晶パネル基板を載置する静止した装置を備えると共に前記液晶パネル基板に対して前記イオナイザユニットを平行に搬送するための搬送キャリアを備え、前記液晶パネル基板を、前記イオナイザに対向している面に対して平行である前記搬送方向に対し直行或いは斜めに配置すると共に、前記イオナイザユニットの導電ケースの開放している面であって、液晶パネル基板に面する側が開放している部分に前記金属細線からなる放電電極が切断することによって落下することを防止するための電気絶縁性落下防止部材を備えてなり、前記イオナイザユニットの放電電極に接続された交流高圧電源から直流電流成分を除去した交流放電電流を供給することにより、前記液晶パネル基板が除電されるようにする。
【0028】
請求項3記載の発明では、上記請求項1記載の液晶パネル基板の除電装置において、電気絶縁性落下防止部材が線状或いはリボン状であって、ポリエチレン、ポリエステル、アクリル、塩化ビニル、ナイロン、レーヨン、アセテート、フッ素、綿、等の電気絶縁性素材、又は該電気絶縁性素材による被覆物であり、しかも、前記のごとく形成された電気絶縁性落下防止部材の張設方向が前記イオナイザユニットに対向している面に対して平行に搬送される前記液晶パネル基板の搬送方向とは異なるようにする。
【0029】
請求項4記載の発明では、上記請求項1記載の液晶パネル基板の除電装置において、電気絶縁性落下防止部材がポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボ樹脂、ポム、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、等及び該樹脂を複合して形成した電気絶縁性素材であり、しかも、前記イオナイザユニットの導電ケースの液晶パネル基板に面する側の開放している部分を遮蔽する非開口部の方向が、前記イオナイザユニットに対向している面に対して平行に搬送される前記液晶パネル基板の搬送方向とは異なるようにする。
【0030】
請求項5記載の発明では、上記請求項1記載の発明において、イオナイザユニットの放電電極に直流電流成分を除去した交流放電電流を供給する前記交流高圧電源の数が前記イオナイザユニットの数に対応し、個々の前記イオナイザユニットの放電電極に対して個々の前記交流高圧電源を接続する。
【0031】
請求項6記載の発明では、上記請求項1記載の発明においてイオナイザユニットの放電電極を覆う導電ケースの開口側と反対側に開口部を設け、前記イオナイザユニットの放電電極から発生するオゾンが前記イオナイザユニットに対向している面に対して平行に搬送される前記液晶パネル基板側とは異なる方向に排気できるようにする。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、放電電極として金属細線を使用し、その金属細線を覆う導電ケースとの間で放電させ、多量のイオンを発生すると共に、液晶パネル基板に面してイオンを供給する部分にグリッド等の制御要素を設けず、開放状態で被除電物である液晶パネル基板に近接したイオナイザであるため、液晶パネル基板の帯電量の多少に関わらず液晶パネル基板と金属細線との間で強い電界を形成することができ、液晶パネル基板側にイオンを降り注ぐことができる。そして、そのイオンは、金属細線に直流電流成分を除去した交流放電電流を供給して正負が均衡して発生したイオンであるため、多量の電荷が帯電した液晶パネル基板であっても短時間で除電を達成することができる。
【0033】
本発明においては、イオナイザに流れる交流放電電流は交流高圧電源から供給するが、直列にコンデンサ素子を挿入するだけの安価で簡単な構成により直流電流成分を除去した交流放電電流の供給を達成することができる。また、プラスの直流高圧電源に交流高圧電源を直列に接続し、さらに交流高圧電源をイオナイザに接続し、前記プラスの直流高圧電源の電圧値を適正に調整して交流高圧電源に重畳させることにより、イオナイザで発生する正負イオンの量を同等に均衡させることができ、直流電流成分を除去した交流放電電流の供給が可能となる。
【0034】
また、本発明によるイオナイザは、金属細線を覆う導電ケースの開放している面であって、液晶パネル基板に面する側の開放している部分に電気絶縁性落下防止部材を装着しているため、不測の事態で前記金属細線からなる放電電極が切断することがあっても、液晶パネル基板まで落下することを防止でき、液晶パネル基板に損傷を与えないようにすることができる。
【0035】
さらに、本発明におけるイオナイザは適宜の短尺の長さにした複数のイオナイザユニットで構成するため、これによりイオナイザユニットに張設した金属細線の振動やローリングを抑制することができることから、安定した交流コロナ放電を実現することができる。また、前記イオナイザを千鳥状に配設することにより、複数による構成であっても液晶パネル基板に除電されない部分が生じることがない。
【0036】
しかも、複数のイオナイザユニットを配設する構成において、隣り合うイオナイザユニットの有効放電領域が重なり二重に除電する領域が生じたとしても、一つのイオナイザユニットの一回の除電で十分に除電できる能力を備えているので、除電が繰り返されても不均一な除電とはならない。したがって、除電能力限界以下の処理速度であれば確実に除電が達成されるため、高い組立精度や調整を要求されず、簡易で安価な装置とすることができる。また、本発明が対象としている液晶パネル基板は平板であるため、イオナイザを液晶パネル基板の進行方向に対して直交にも斜めにも配置することができ、ラビング工程だけでなく、液晶パネル基板の製造工程の種々の工程における除電装置として有効に利用することが可能である。
【0037】
なお、本発明の構成において、個々のイオナイザユニットに対し交流高圧電源を個々に対応させるようにしてあるので、交流高圧電源をイオナイザユニットの近くに設置すれば、交流高圧コードの配線を短くすることができ、この交流高圧コードから発生するノイズやリーク電流を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の除電装置の構成の概要を示す図である。
【図2】本発明の除電装置の他の例を示す図である。
【図3】本発明の除電装置の導電ケースの例を示す図である。
【図4】本発明の複数列イオナイザの例を示す図である。
【図5】本発明の複数列イオナイザの他の例を示す図である。
【図6】本発明の除電装置のイオナイザユニットの構成を説明する図である。
【図7】本発明の除電装置の各種実験装置の構成を示す図である。
【図8】図7の各種実験装置の実験結果を示す図である。
【図9】交流コロナ放電の特性を説明する図である。
【図10】従来の針電極方式による除電特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳細に説明する。
【0040】
図1は、本発明の基本的構成の一例を示す図であり、同図においてイオナイザ1は金属細線からなる放電電極2およびこの放電電極2を覆い接地された導電ケース3により構成されている。搬送キャリアC或いは導電層Dは接地されており、前記搬送キャリアCの上に液晶パネル基板Wが載置され、この液晶パネル基板Wの上方に液晶パネル基板Wの搬送方向Eと直交するように、或いは斜めにイオナイザ1が配置されている。
【0041】
前記イオナイザ1の放電電極2にはコンデンサ素子5を介して交流高圧電源4の交流高電圧が印加され、このコンデンサ素子5により直流電流成分が除去された放電電流が供給される。そして、導電ケース3の開口下を搬送キャリアCに載置された液晶パネル基板Wがイオナイザ1と直交するように、或いは斜めに搬送され、イオナイザ1による除電スキャンが行われる。
【0042】
図2は、本発明の別構成の一例を示すもので、イオナイザ1の放電電極2には、直流高圧電源6によって直流高電圧がバイアスされた交流高電圧が印加され、直流電流成分が除去された放電電流が供給されることのみが、図1に示した構成と異なっている。そして、導電ケース3の開口下を搬送キャリアCに載置された液晶パネル基板Wが搬送され、イオナイザ1による除電スキャンが行われる。
【0043】
本発明は、上記の基本的構成をさらに発展させたもので、液晶パネル基板のサイズが大きくなっても対応できるようにし、安全かつ確実な除電が可能となるようにしたもので、以下に述べる手段の組み合わせにより実現できるようにした。
【0044】
即ち、第一は、前述の計算で明らかにしたように、液晶パネル基板に帯電した多量の電荷を除電するため、金属細線からなる放電電極とそれを覆う導電ケースとの間で放電させ、多量のイオンを発生すると共に、液晶パネル基板に面してイオンを供給する部分にグリッド等の制御要素を設けず開放状態にしたイオナイザで、放電電極を液晶パネル基板の近くまで接近させて多量のイオンを供給する。それでいて、液晶パネル基板に近づけても大きなサイズの液晶パネル基板の全範囲に亘って除電の均一性が保たれるようにする。
【0045】
このため、まず、一次元的に均一な放電をさせるために、イオン発生用の放電電極として金属細線を用いて交流コロナ放電を行う。図3に断面で示すように液晶パネル基板に面する部分は開放し、放電電極2との間に適正な均等距離を保ち、電気的に接地された導電ケース3で放電電極2の周囲を囲む。導電ケース3が図3(A)に示すように円筒状の場合は、その円筒の中心に放電電極を配置し、図3(B)、図3(C)に示すように導電ケース3がコ字筒状で平板部分を有する場合は、それぞれの平板部分間の中心位置に放電電極2を配置する。
【0046】
放電電極2と液晶パネル基板Wとの距離は、放電電極2と導電ケースとの距離の1.1倍から2倍が良く、より好ましくは1.2倍から1.5倍の距離が良好である。そして、可能な限り放電電極2と液晶パネル基板Wとの間で直接放電し難い位置関係とするのが良く、これによって限定された一次元的範囲、つまり放電電極2に沿った範囲での放電が均一となり、液晶パネル基板Wに対し多量のイオンを供給できる構成となる。
【0047】
しかし、イオナイザの加工精度や組立精度を数十μmオーダーにすることは難しいため、高電圧を印加する放電電極2とその放電電極2を囲む導電ケース3との間の電気的な引き合いのバランスがとれず、放電電極2は金属細線であることから振動、或いはローリングを起こす可能性がある。この振動やローリングの大きさは、放電電極2の伸びや張力に関係し、この放電電極2が長いと中間付近における振動幅やローリング幅が大きくなり、放電電極2を囲む導電ケース3に近くなってスパーク放電を生じ、悪くすれば放電電極2が断線する恐れがある。
【0048】
放電電極2とする金属細線は、交流コロナ放電をし易く安定にするため、直径60μmから100μm程度のタングステン線やステンレス線を使用するため張力にも限界があり、1.5m以上の1本の金属細線で安定に放電させることは難しい。ところが、近年使用されている液晶パネル基板の幅は1mを超えるものが主体となり、前述した問題が大きく顕在化している。
【0049】
かかる問題に対応するためには、イオナイザを1.5m以下の長さのイオナイザユニットとし、これを複数本配列する構成で対応することができる。この時、イオナイザユニットの両端には金属細線の保持、および接続端子を設けるための絶縁部分があり、そこは放電しない部分となるため、図4に例示するように複数のイオナイザユニット1A〜1Eを液晶パネル基板Wの進行方向に対して千鳥状に重ねて配置し、液晶パネル基板Wの幅方向でイオンが供給されない部分が無いようにする。なお、複数のイオナイザユニット1A〜1Eによる構成は詳しく後述する。
【0050】
また、金属細線の放電電極に高電圧を印加して交流コロナ放電させる方式では、ゴミ付着等の予期せぬ事態でスパーク放電することがあり得る。本発明では放電電極に金属細線を用いているため、このスパーク放電によって断線する可能性がある。そして、イオナイザユニット1A〜1Eの液晶パネル基板Wに面する部分には制御要素等を備えない開放状態であり、液晶パネル基板Wに近接しているため、断線した金属細線が落下して液晶パネル基板Wに接触し、損傷を与える可能性がある。
【0051】
このような問題の対策のため、本発明ではイオナイザユニット1A〜1Eの液晶パネル基板Wに面する部分に電気絶縁性落下防止部材Sを配設するようにした。前記電気絶縁性落下防止部材は、例えばポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボ樹脂、ポム、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、レーヨン、アセテート、綿等の電気絶縁性素材であるか、該電気絶縁性素材による被覆物を線状、リボン状にしたもの、或いは成型されたものでも良い。
【0052】
本発明におけるイオナイザユニット1A〜1Eは後述するように交流コロナ放電を利用するため、電気絶縁性のものが存在しても放電特性に大きく影響することは無いが、イオンの移動には遮蔽となるため、電気絶縁性落下防止部材Sの存在(遮蔽率)は可能な限り小さくすることと、液晶パネル基板Wの進行方向に対して僅かな幅であっても液晶パネル基板Wの搬送方向に対するイオナイザユニット1A〜1Eの幅の全体に亘って遮蔽にならないように構成する。
【0053】
具体的には、図6に示すように線状またはリボン状の電気絶縁性落下防止部材Sを張設する場合は、その張設方向を斜めにし、前記イオナイザユニット1A〜1Eに対向している面に対して平行に搬送される液晶パネル基板Wの搬送方向とは一致しないように配設する。なお、電気絶縁性落下防止部材Sが成型による場合は、種々のパターンの形状が可能であるが、非開口部分の方向が、前記イオナイザユニット1A〜1Eに対向している面に対して平行に搬送される液晶パネル基板Wの搬送方向と一致しないように構成し、配設する。
【0054】
第二は、上述のイオナイザユニット1A〜1Eにて交流コロナ放電を行い、多量の正負イオンを発生させた場合においてもこの正負イオンの量が均衡しており、最終的に液晶パネル基板Wを限りなく0Vに近く除電できる放電電流供給手段を提供する。
【0055】
通常の交流電圧は、正電圧側と負電圧側の波形は位相と極性が異なるだけで時間変化に対する電圧値の絶対値は同じである。この様な交流電圧を抵抗負荷に印加すれば、電流波形も相似的波形となる。しかし、交流コロナ放電における供給電圧と放電電流の関係は図9に示すように、放電開始以後どの電圧値においてもプラスとマイナス同等の電圧値でマイナス放電電流の方がプラス放電電流よりも大きい。そのため、交流高電圧においてプラスもマイナスも同等に電圧変化するにも関わらず、流れる電流はマイナスの直流電流成分が含まれた状況となる。
【0056】
本発明の構成では、イオナイザユニット1A〜1Eを液晶パネル基板Wに接近させているため、放電により発生したイオンは液晶パネル基板Wの帯電電荷の有無に関わらず電界により液晶パネル基板Wに降り注ぐため、直流電流成分を除去した交流放電電流を供給することが必須となる。上述の直流電流成分を除去した交流放電電流を供給する具体的手段はいくつか考えられるが、最も簡単でコストのかからないコンデンサ素子を高圧交流電源の出力に直列に挿入することによって直流電流成分を除去する方法と、高圧交流電源の低圧側に直列にプラスの直列高圧電源を挿入する方法について説明する。
【0057】
上述した図1に示す構成は高圧交流電源4の出力側に、直列にコンデンサ素子5を挿入したもので、図2は高圧交流電源4の低圧側に、直列にプラスの直流高圧電源6を挿入したものである。図1において交流高圧電源4の低圧側は接地し、高圧出力はコンデンサ素子5を通してイオナイザ1の放電電極2に接続する。イオナイザ1の導電ケース3は接地されており、また、液晶パネル基板Wを吸着搬送する搬送キャリアCが導電体の場合は任意の場所で接地し、半導電体あるいは絶縁体の場合には搬送キャリアCの裏面全面に導電層Dを設け接地する。なお、コンデンサ素子5はフィルムコンデンサ、ペーパーコンデンサ、オイルコンデンサ等が使用される。このように構成することにより、放電電流はコンデンサ素子によって直流電流成分が阻止され、正負同等の放電電流を得ることができる。
【0058】
図2における構成では、交流高圧電源5の低圧側にプラスの直流高圧電源6の高圧出力を接続し、該直流高圧電源6の低圧側は接地すると共に、前記交流高圧電源4の高圧出力はイオナイザ1の放電電極2に接続する。液晶パネル基板Wを吸着搬送する搬送キャリアCが導電体の場合は任意の場所で設置し、半導電体あるいは絶縁体の場合には搬送キャリアCの裏面全面に導電層Dを設け接地する。このように構成することにより、放電電流のマイナス電流と同等のプラス電流が流れるようプラス電圧が重畳され、正負同等の放電電流を得ることができる。
【0059】
第三として、本発明において必要とする構成、および良好とする構成について以下に説明する。周知のようにコロナ放電を利用するイオナイザは多少に関わらずオゾンを発生する。本発明では多量のイオン発生を目的としているため従来の装置に比べて発生するオゾンの量が多くなる。これの解決のため、図3(C)に示すように導電ケース3の液晶パネル基板側とは反対側の上面に開口部3aを設け、その開口部3aからオゾンを引くことは有効である。特にラビング工程ではラビング時に発生する粉塵を引くための機構が存在するので、その機構を利用すれば特別な装置を付加する必要は無い。
【0060】
前述したように、本発明では、イオナイザ1を液晶パネル基板に接近させ、コロナ放電により発生させた多量のイオンは、液晶パネル基板の帯電電荷の有無に関わらず電界により液晶パネル基板Wに降り注ぐ構成であるため、イオンが液晶パネル基板Wに降り注ぐ部分はイオナイザ1の放電電極2を覆う導電ケース3の液晶パネル基板側に開口する幅で、その放電電極2に沿う範囲に限定される。そのため、本発明におけるイオナイザ1は、液晶パネル基板Wの搬送される方向に対して直交、或いは角度をもって平板である液晶パネル基板Wの表面から適正に接近して平行に設置され、液晶パネル基板Wが搬送されて一定の速度で除電スキャンされることにより、液晶パネル基板Wの先端から後端まで均等にイオンに晒す必要がある。したがって、イオナイザ1の有効長は搬送方向に対して直交する方向に相当する液晶パネル基板Wの幅の長さが必要となる。
【0061】
一般的には、イオナイザ1は液晶パネル基板Wの搬送方向に対して直交するように配置すればよいが、ラビング装置に装備する場合、液晶パネル基板Wの搬送方向に対してラビングする方向が直交とは限らず、ラビングローラが斜めに配置される場合がある。ラビングで発生する帯電はラビング直後に除電したいという要求があり、ラビングローラに沿わした構成で本発明のイオナイザ1を配置する必要が生じる。
【0062】
なお、以上の構成では、イオナイザを固定して液晶パネル基板を平行に搬送移動させる方法で説明したが、液晶パネル基板を静止させてイオナイザを平行に搬送移動させる方法であっても本発明における除電効果は全く変わらず成立する。
【0063】
図7は、本発明のイオナイザ1の性能を検証するための各種実験装置の構成を示すもので、その実験結果を図8に示す。なお、図7(A)に示す実験装置の実験結果は図8の実験装置の欄のAに対応し、図7(B)に示す実験装置の実験結果は図8の実験装置の欄のBに対応し、図7(C)に示す実験装置の実験結果は図8の実験装置の欄のCに対応し、図7(D)に示す実験装置の実験結果は図8の実験装置のDに対応する。
【0064】
実験装置(A)は液晶パネル基板Wとイオナイザ1との間にグリッド電極を配設せず、放電電極2に交流高電圧を直接印加する構成であり、実験装置(B)は液晶パネル基板Wとイオナイザ1との間に接地したグリッド電極7を配設し、放電電極2に交流高電圧を直接印加する構成である。また、実験装置(C)は本発明の図1に示す構成に相当するもので、液晶パネル基板Wとイオナイザ1との間にグリッド電極を配設せず、コンデンサ素子5を介して交流高圧電源4の交流高電圧を印加するようにしたものである。さらに、実験装置(D)は図2に示す構成に相当するもので、液晶パネル基板Wとイオナイザ1との間にグリッド電極を配置せず、直流電源6によりバイアスされた交流高電圧を印加するようにしたものである。
【0065】
なお、この実験において全てのイオナイザ1の有効放電長は100mm、導電ケース3の断面の開口幅は18mm、有効放電面積は18cm2となる。また、この実験における実験装置(A)〜(D)の放電電極2に印加する交流高圧電源4からの交流高電圧の電圧値は全て同一で、実効値5kV、500Hzの正弦波である。
【0066】
なお、各プレート交流電流は、イオナイザ1の下の液晶パネル基板Wの相当位置にイオナイザ1の有効放電長より長く、導電ケース3の開口幅より広い接地したプレートPを配置し、これに流れる交流電流と直流電流成分を電流計Fにより測定したものである。また、交流総合放電電流は、放電電極2から導電ケース3およびプレートPに流れる電流を加算した総合交流電流を測定したものである。これらの電流を測定することにより、実験装置(A)〜(D)の基本的な特性を知ることができる。
【0067】
また、帯電電位(V)の項は、除電されている膜厚50μmのポリエステルフィルムを接地したプレートPに張り付け、それぞれの装置で放電し、50mm/secの一定の速度で除電スキャンさせた時の帯電電位を計測したものである。これは実験装置(A)〜(D)で発生した放電電流が帯電していない除電対象物に対しどのような帯電状態を引き起こすかを測定するものである。
【0068】
図8に示す実験1および実験2の項も同様に膜厚50μmのポリエステルフィルムを接地したプレートPに張り付け、更にそれぞれ前もって−1000Vに帯電しておき、プレートPを実験1では50mm/secの遅い一定の速度で除電スキャンし、実験2では100mm/secの速い一定の速度で除電スキャンし、実験装置(A)〜(D)で除電した後の帯電電位を計測したものである。
【0069】
なお、液晶パネル基板はガラス基板の上に半導体層や配向膜、電極等が構成されたものであり、メーカーによって材質が異なるため、帯電体としてどのようなキャパシタンスを持つかは一義的に決められないが、液晶パネル基板に使用されるガラス基材に比較して少々キャパシタンスの大きい膜厚50μmのポリエステルフィルムで代用した。この計測により、実験装置(A)〜(D)の実質的な除電能力を測定することができる。
【0070】
実験装置(A)による結果では、プレート直流電流が−2.0μA流れており、交流電流のプラス成分よりもマイナス成分が多いことを示している。その結果、ポリエステルフィルムに−60〜−70Vの帯電電位を生じ、実験1および実験2では−250〜−300Vの帯電電位となり、放電電極に交流高電圧を直接印加した場合には除電の効果は得られず、マイナス帯電を引き起こすことが示されている。
【0071】
実験装置(B)による結果では、プレート直流電流が0.0μAであり、交流電流のプラス成分とマイナス成分が均衡していることを示している。しかし、交流総合放電電流は190μAであり、他の実験装置の結果と比較して大きいにも関わらず、プレート交流電流は5.0μAであり、他の実験装置の結果と比較して半分以下の電流しか流れていない。これはグリッド電極7に放電電流が流れ、交流総合放電電流は多くなるが、グリッド電極7が遮蔽となってプレート側に流れる電流が制限されるからである。その結果、実験1の遅い一定の速度の除電スキャンでの除電後の帯電電位は−20〜−40Vとなって除電効果はあるものの、実験2の速い一定の速度の除電スキャンでは−190〜−200Vとなって、除電が追い付かないことを示している。
【0072】
実験装置Cによる結果では、プレート直流電流が0.0μAであり、交流電流のプラス成分とマイナス成分が均衡しているにも関わらず、交流総合放電電流は160μA、プレート交流電流は19.0μAであって実験装置(A)とほぼ変わらない電流値となっている。その結果、帯電電位は、実験1の遅い一定の除電スキャン速度で+20V〜+30V、実験2の速い一定の速度の除電スキャンでも−30〜−40Vとなった。つまり、除電装置(C)では960〜970V分の除電量であるので、この実験装置(C)は96〜97%の除電能力を示していることになる。実験1の遅い一定の速度の除電スキャンでプラス側にシフトしている原因は、恐らく使用したコンデンサ素子の特性によるものと考えられるが、それによる影響は小さく、コンデンサ素子の種類、性能を限定する必要はない。
【0073】
実験装置(D)による結果でも、プレート直流電流が0.0μAであり、交流電流のプラス成分とマイナス成分の均衡がとれるように直流電源の電圧値を調整している。このように設定すると、交流総合放電電流およびプレート交流電流は共にほぼ実験装置(C)と同等の値を示すことになる。その結果、帯電電位は、実験1の遅い一定の速度の除電スキャンで−30〜−40V、実験2の速い一定の速度の除電スキャンでも−50〜−70Vとなった。つまり、実験装置(D)では930〜950V分の除電量であるので、実験装置(D)は93〜95%の除電能力を示していることになる。
【0074】
以上の実験結果から明らかなように、液晶パネル基板Wに面する側が開放されたイオナイザにおいて、実験装置(A)のような単なる交流高電圧による放電では、マイナスの高い帯電となってしまい、実験装置(B)のようにグリッド電極7によって制限を加えると、電力が大きくなる割に除電効果が低くなることを示している。一方、本発明が提案する実験装置(C)や実験装置(D)のように、液晶パネル基板Wに面する側が開放されたイオナイザで、コンデンサ素子や直流電圧バイアスによって交流放電電流の直流成分を除去することにより、除電能力が向上して高効率の除電が可能となることが示され、本発明の機能が有効に作用していることを示す結果となった。
【0075】
ところで、近年液晶パネル基板は大型化の傾向があり、除電装置を1本のイオナイザで成立させることは既述したように難しいため、本発明では図4に示すように適正な長さの複数のイオナイザユニットを千鳥状に配列する構成を提案する。図1、図2に示したイオナイザ1における場合と同様に機能する放電電極2A〜2Eを備えた5基のイオナイザユニット1A〜1Eを、液晶パネル基板Wの搬送方向Eと直交するように、或いは斜めにして横方向に配列し、互いに隣接する部分に非放電部分が生じないように配置している。
【0076】
前記放電電極2Aにはコンデンサ素子5Aを介して交流高圧電源4Aの交流高電圧が印加され、放電電極2Bにはコンデンサ素子5Bを介して、放電電極2Cにはコンデンサ5Cを介して交流高圧電源4Bの交流高電圧が印加される。また、放電電極2Dにはコンデンサ素子5Dを介して、放電電極2Eにはコンデンサ素子5Eを介して交流高圧電源4Cの交流高電圧が印加される。
【0077】
このように、分割してイオナイザユニットを短くすることにより、放電電極とする金属細線の弛みを抑え、振動やローリングに対する耐性を向上することができ、大型の液晶パネル基板に対しても交流コロナ放電によるイオン分布を均一とすることができることから、安定した除電を行うことができる。なお、図4では一つの交流高圧電源で複数のイオナイザユニットに交流放電電流を供給する形態を示しているが、図5に示すように一つのイオナイザユニットに一つの交流高圧電源を対応させ、この交流高圧電源をイオナイザユニットの近くに設置することにより、交流高圧コードの配線を短くすることができ、この交流高圧コードから発生するノイズやリーク電流を抑制することができる。
【符号の説明】
【0078】
1・・・・・・・イオナイザ
1A〜1E・・・イオナイザユニット
2・・・・・・・放電電極
2A〜2E・・・放電電極
3・・・・・・・導電ケース
3a・・・・・・開口部
4・・・・・・・交流高圧電源
4A〜4C・・・交流高圧電源
5・・・・・・・コンデンサ素子
5A〜5E・・・コンデンサ素子
6・・・・・・・直流電源
7・・・・・・・グリッド電極
C・・・・・・・搬送キャリア
D・・・・・・・導電層
E・・・・・・・搬送方向
F・・・・・・・電流計
P・・・・・・・プレート
S・・・・・・・電気絶縁性落下防止部材
W・・・・・・・液晶パネル基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属細線からなる放電電極と、この放電電極を覆う導電ケースからなり、該導電ケースの被除電物である液晶パネル基板に面する側が開放している複数のイオナイザユニットで構成されるイオナイザにより液晶パネル基板に対し交流コロナ放電を行い、帯電した液晶パネル基板の除電が可能となるようにした液晶パネル基板の除電装置において、
前記液晶パネル基板の除電装置は、前記液晶パネル基板を載置すると共に前記液晶パネル基板の前記イオナイザに対向している面に対して平行である搬送方向へ前記液晶パネル基板を搬送するための平板状の搬送キャリアを備え、
前記イオナイザを、前記液晶パネル基板の前記イオナイザに対向している面に対して平行である前記搬送方向に対し直交或いは斜めに配置すると共に、
前記イオナイザユニットの導電ケースの開放している面であって、液晶パネル基板に面する側の開放している部分に前記金属細線からなる放電電極が切断することによって落下することを防止するための電気絶縁性落下防止部材を備えてなり、
前記イオナイザユニットの放電電極に接続された交流高圧電源から直流電流成分を除去した交流放電電流を供給すると共に、
前記平板状の搬送キャリアが前記液晶パネル基板の前記イオナイザユニットに対向している面に対して平行である前記搬送方向へ前記液晶パネル基板を搬送することにより、前記液晶パネル基板が除電されることを特徴とする液晶パネル基板の除電装置。
【請求項2】
金属細線からなる放電電極と、この放電電極を覆う導電ケースからなり、該導電ケースの被除電物である液晶パネル基板に面する側が開放している複数のイオナイザユニットで構成されるイオナイザにより液晶パネル基板に対し交流コロナ放電を行い、帯電した液晶パネル基板の除電が可能となるようにした液晶パネル基板の除電装置において、
前記液晶パネル基板の除電装置は、前記液晶パネル基板を載置する静止した装置を備えると共に前記液晶パネル基板に対して前記イオナイザユニットを平行に搬送するための搬送キャリアを備え、
前記液晶パネル基板を、前記イオナイザに対向している面に対して平行である前記搬送方向に対して直行或いは斜めに配置すると共に、
前記イオナイザユニットの導電ケースの開放している面であって、液晶パネル基板に面する側の開放している部分に前記金属細線からなる放電電極が切断することによって落下することを防止するための電気絶縁性落下防止部材を備えてなり、
前記イオナイザユニットの放電電極に接続された交流高圧電源から直流電流成分を除去した交流放電電流を供給することにより、前記液晶パネル基板が除電されることを特徴とする液晶パネル基板の除電装置。
【請求項3】
前記電気絶縁性落下防止部材が線状或いはリボン状であって、ポリエチレン、ポリエステル、アクリル、塩化ビニル、ナイロン、レーヨン、アセテート、フッ素系、綿、等の電気絶縁性素材、又は該電気絶縁性素材による被覆物であり、
しかも、前記のごとく形成された電気絶縁性落下防止部材の張設方向が前記イオナイザユニットに対向している面に対して平行に搬送される前記液晶パネル基板の搬送方向とは異なるようにしたことを特徴とする請求項1記載の液晶パネル基板の除電装置。
【請求項4】
前記電気絶縁性落下防止部材がポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボ樹脂、ポム、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、等及び該樹脂を複合して形成した電気絶縁性素材であり、
しかも、前記イオナイザユニットの導電ケースの液晶パネル基板に面する側の開放している部分を遮蔽する非開口部分の方向が、前記イオナイザユニットに対向している面に対して平行に搬送される前記液晶パネル基板の搬送方向とは異なるようにしたことを特徴とする請求項1記載の液晶パネル基板の除電装置。
【請求項5】
前記イオナイザユニットの放電電極に直流電流成分を除去した交流放電電流を供給する前記交流高圧電源の数が前記イオナイザユニットの数に対応し、個々の前記イオナイザユニットの放電電極に対して個々の前記交流高圧電源を接続するようにしたことを特徴とする請求項1記載の液晶パネル基板の除電装置。
【請求項6】
前記イオナイザユニットの放電電極を覆う導電ケースの開口側とは反対側に開口部を設け、前記イオナイザユニットの放電電極から発生するオゾンが前記イオナイザユニットに対向している面に対して平行に搬送される前記液晶パネル基板側とは異なる方向に排気できるようにしたことを特徴とする請求項1記載の液晶パネル基板の除電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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