説明

液晶パネル用透明基板

【課題】 液晶プロジェクター等に用いる、液晶パネルの保護用透明基板を、光透過性がよく、熱伝導性がよく、かつ作業性の良いものとする。
【解決手段】 高熱伝導性透明立方晶多結晶体基板を用いる。該高熱伝導性透明立方晶多結晶体基板はその表面にコーティング層が形成されたものを用いると良く、さらに、該コーティング層は複層とするのが好ましい。コーティングの材料は、金属弗化物と金属酸化物から選択される2種以上とするのが良く、該コーティングにより、光透過性が向上し、かつ環境安定性も向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルを保護する透明基板、特に液晶プロジェクター等に用いる液晶保護用透明基板に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の液晶は、表面を汚れや外気から保護する目的で、使用する際に何らかの保護層を有する。CRT等に用いる場合は、透明プラスチックでもその効果は十分にある。また、携帯電話等の画面保護の場合は、強度を要求されるため、ガラス等を用いる場合がある。
最近では、このような液晶画面の表裏を透明化し、液晶パネルとして一方から光を当て、レンズ等で透過光を調整した液晶プロジェクターが市販されている。このような液晶プロジェクターにおける、液晶画面を保護する透明基板には、単に液晶画面の汚れや外気からの保護だけでなく、近接する光源からの熱保護と、該光源からの光により、液晶画面に発生する吸熱現象に伴う昇温とを放熱する目的が加わってくる。そして、透明基板自身も昇温するため、耐熱性を必要とする。
【0003】
前記使用用途における透明基板には、通常ガラスを用いることが考えられるが、ガラスの熱伝導性を20〜30倍向上させる単結晶サファイアを使用する開示がある(引用文献1参照)。さらに、単結晶サファイアは強度が大きく、石英ガラスに比べ非常に硬いので、透明基板を薄くすることができるとの記載もある。但し単結晶サファイアは高価であるため、ガラスとの組み合わせで用いても良いとの記載もある。
【特許文献1】特開2000−284700号公報、(0014,0016,0043−0048)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液晶パネルに用いる保護用の透明基板として、特に液晶プロジェクターに用いられる場合等の耐熱性と光透過性、および液晶の温度上昇を抑える等の要求に耐えるものとする。既に、前記特許文献1に単結晶サファイアが開示されているが、単結晶サファイアには複屈折なる特性があるため、組み立て時に結晶軸の方位を合わせる等の、複雑な作業を有し、かつ高価である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、液晶パネルの保護に用いる、高熱伝導性透明立方晶多結晶体の板からなる液晶パネル用透明基板である。ここで用いる高熱伝導性透明立方晶多結晶体は、可視光線や赤外線を良く通す性質を有するものであり、具体的には波長0.4〜0.8μmの光線透過率が50%以上のものである。また、熱伝導性にも優れており、具体的には熱伝導率が10W/m・K以上のものである。
【0006】
前記高熱伝導性透明立方晶多結晶体の板には、表面にコーティング層が形成されていると良く、特に該高熱伝導性透明立方晶多結晶体より屈折率の低い材料でコーティングされていると、光の透過性が良くなる。
前記コーティング層は複層とし、金属弗化物と金属酸化物から選ばれる層を2種以上組合わせた複層とすると、高熱伝導性透明立方晶多結晶体の板との密着性も良く、かつ環境安定性に優れる。
【0007】
高熱伝導性透明立方晶多結晶体は、特にZnS、スピネル(MgO・nAl;n=1〜3)、YAG(3Y・5Al)、MgO、ALON(5AlN・9Al)、Y及びダイヤモンドからなる群から選ぶと良い。これらに共通して必須である要件は、立方晶であり、多結晶体である。そして前記したように、波長0.4〜0.8μmの光透過率が、50%以上あり、熱伝導率が10W/m・K以上のものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明になる高熱伝導性透明立方晶多結晶体の板は、多結晶なので、液晶パネルに組み立てる際に結晶軸の方位を気にせず組み立てることができる。また、光透過性がよいため、光源からの光による熱吸収も少ないので、液晶の昇温を熱放散できる。この特性により、液晶プロジェクター用透明基板として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に、本発明になる高熱伝導性透明立方晶多結晶体基板の1つであるZnSの光透過性グラフを示す。比較用にサファイア単結晶基板と、石英基板も合わせて示す。横軸は光の波長で、縦軸がその波長における光透過率(%)である。該グラフによれば、高熱伝導性透明立方晶多結晶体基板の1つであるZnSは波長1μm以下の可視光線領域で光透過性が90%以上と優れており、また波長1μm以上の広い領域で70%程度の光透過性を示す。これに比べ、サファイア単結晶基板では、可視光線の透過性が85%程度であり、近赤外域ではZnSより光透過性がよいが、波長6μm付近から長波長領域で光を透過しなくなる。また、石英基板は、可視光線領域では90%程度の光透過性を示すが、赤外線領域では光透過性が良くない。
【0010】
なお、図2に本発明になる高熱伝導性透明立方晶多結晶体基板であるZnS基板及びスピネル基板の可視光領域における光透過率のグラフを示す。可視光と呼ばれる0.4μm〜1μmの領域において、非常に光透過性が良いことを示している。特にスピネル基板の場合には、短波長領域(0.4μ以下)でも光透過性が良い。
【0011】
また、プロジェクターの光源は、可視光線を発すると同時に、赤外線領域の波長を有する目に見えない光をも合わせて発している。これらの赤外線は熱線とも呼ばれ、物質に吸収されやすい。この領域で本発明になる高熱伝導性透明立方晶多結晶体の基板は、光透過性に優れているため、プロジェクターの光源から発する熱線が透明基板内をほとんど通り抜け、内部に吸収される熱線量が少ないので、昇温しにくい。透明基板の温度上昇が少なければ、液晶パネルに構成される、2つの透明基板によって挟まれる液晶部分(透明導電体からなる画素電極、配線、配向膜などが形成された透明の素子基板とその対向基板、および両基板に挟まれた液晶)の温度上昇による熱を吸熱することができる。
そして、高熱伝導性透明立方晶多結晶体の一例であるZnSの熱伝導率は約21W/mKであり、石英ガラスよりもずっと大きく、前記吸熱を素早く外部に放熱できる。
【0012】
特に、液晶は画像を形成することにより、光源からの光を画像により一部遮断することになるため、該液晶内に吸熱される量が大きく、温度上昇しやすい。温度上昇により、該液晶は配向特性を阻害されることになるため、冷却は必須である。従って、透明基板は放熱体としての特性を必要とし、熱伝導性が良くかつ光源からの光吸収による温度上昇が少ないものが選ばれる。
こうした用途に本発明の高熱伝導性透明立方晶多結晶体基板は好適な基板である。
【0013】
本発明に用いる高熱伝導性透明立方晶多結晶体は、以下の手段により得られる。
高純度の原料を成形体とする。スピネル、YAG、MgO、ALON等は粉末焼結法により得ることが出来る。ダイヤモンドは公知の高圧合成法又は、CVD(化学気相堆積法)を利用すればよい。またZnSは、Zn粉末とHSを原料として、CVD(化学気相堆積法)を用いるとよい。得られた焼結体は、HIP(熱間等方圧プレス)により、透明な多結晶体とする。
【0014】
前記高熱伝導性透明立方晶多結晶体は、そのままの状態でも使用できるが、光透過性の向上と、表面安定性を向上させるため、表面にコーティング処理を施すとよい。コーティングの材料としては、高熱伝導性透明立方晶多結晶体となじみの良い材料であり、かつ透明性、硬さ、熱伝導において素材となる高熱伝導性透明立方晶多結晶体の特性を生かすもので有れば特定しない。そして、コーティング層は、単層でも使用できるが、好ましくは複層のコーティング層を形成するのがよい。
【0015】
コーティング層を複層にする場合、金属酸化物、例えばSiO、TiO、Al、Y、Ta、ZrO、金属弗化物、例えば、MgF、YF、LaF、CeF、BaF等が好ましく使用できる。
また、これらの層は2層乃至20層程度重ねたものでも使用できる。そして、前記コーティング層は、複層構成としても最大5μmまでの厚みとするのがよい。
前記コーティング層の形成は、物理蒸着法(PVD法)を用いるのが良く、公知のスパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等で実施できる。特に、イオンアシスト、プラズマアシストを併用すると膜性能が向上する。
以下実施例を記載するが、本発明は実施例により限定されるものでもない。
【実施例1】
【0016】
純度99.9%以上のZnとHSを、CVD装置を用いて高純度のZnSバルクとした。CVDにおける反応条件は、基板温度700℃、坩堝温度700℃、炉内圧力10Torrとし、アルゴンガス雰囲気中で反応させた。得られたZnSバルクは、半透明の黄色を呈する。このバルクを熱間等方圧プレス(HIP)を用いて、温度1000℃、圧力2000kg/cm及びアルゴンガス雰囲気の条件で多結晶化した。得られたZnS多結晶体は、無色透明になった。このZnS多結晶体を厚み1mmの板に加工し、分光透過率を測定したところ、波長0.4〜0.8μmの平均透過率は73%であった。
【0017】
前記板状のZnS多結晶体の光透過率を向上させるために、低屈折率材にMgF、高屈折率材にAlを用いた反射防止コーティングを総厚0.3μm行い、分光透過率を測定したところ、波長0.4〜0.8μmの平均透過率は90%となった。この板を窓材として液晶パネルに組み込み、画像評価をしたところ、映し出される映像は、照度のムラが無く、石英ガラスと同等であり、良好と判断した。
【実施例2】
【0018】
純度99.9%以上のスピネル(MgO・Al)粉末を、圧力1500kg/cmで予備成形し、出来た成形体をグラファイト製の容器に入れ、真空中で温度1500℃、圧力350kg/cmにし、加圧焼結した。得られたスピネル焼結体を、HIPを用いて、温度1650℃、圧力2000kg/cm及びアルゴンガス雰囲気の条件で多結晶化した。得られたスピネル多結晶体は、無色透明であった。このスピネル多結晶体を厚み1mmの板に加工し、分光透過率を測定したところ、波長0.4〜0.8μmの平均透過率は84%であった。
【0019】
前記板状のスピネル多結晶体の光透過率を向上させるために、低屈折率材にMgF、高屈折率材にAlを用いた反射防止コーティングを総厚0.3μm行い、分光透過率を測定したところ、波長0.4〜0.8μmの平均透過率は93%となった。この板を窓材として液晶パネルに組み込み、画像評価をしたところ、映し出される映像は、照度のムラが無く、石英ガラスと同等であり、良好と判断した。
【実施例3】
【0020】
純度99.9%以上のYAG(3Y・5Al)粉末を、圧力1500kg/cmで予備成形し、出来た成形体をアルミナ製の容器に入れ、真空中で温度1500℃にし、焼結した。得られたYAG多結晶体は、無色透明であった。このYAG多結晶体を厚み1mmの板に加工し、分光透過率を測定したところ、波長0.4〜0.8μmの平均透過率は83%であった。
【0021】
前記板状のYAG多結晶体の光透過率を向上させるために、低屈折率材にMgF、高屈折率材にAlを用いた反射防止コーティングを総厚0.3μm行い、分光透過率を測定したところ、波長0.4〜0.8μmの平均透過率は92%となった。この板を窓材として液晶パネルに組み込み、画像評価をしたところ、映し出される映像は、照度のムラが無く、石英ガラスと同等であり、良好と判断した。
【実施例4】
【0022】
純度99.9%以上のMgO粉末を、圧力1500kg/cmで予備成形し、出来た成形体をグラファイト製の容器に入れ、真空中で温度1500℃、圧力350kg/cmにし、加圧焼結した。得られたMgO焼結体を、HIPを用いて、温度1650℃、圧力2000kg/cm及びアルゴンガス雰囲気の条件で多結晶化した。得られたMgO多結晶体は、無色透明であった。このMgO多結晶体を厚み1mmの板に加工し、分光透過率を測定したところ、波長0.4〜0.8μmの平均透過率は84%であった。
【0023】
前記板状のMgO多結晶体の光透過率を向上させるために、低屈折率材にMgF、高屈折率材にAlを用いた反射防止コーティングを総厚0.3μm行い、分光透過率を測定したところ、波長0.4〜0.8μmの平均透過率は93%となった。この板を窓材として液晶パネルに組み込み、画像評価をしたところ、映し出される映像は、照度のムラが無く、石英ガラスと同等であり、良好と判断した。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明になる、液晶パネル用透明基板の光透過性のグラフである。
【図2】本発明になる、液晶パネル用透明基板の可視光領域における光透過性のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶パネルの保護に用いる、高熱伝導性透明立方晶多結晶体の板からなる液晶パネル用透明基板。
【請求項2】
前記高熱伝導性透明立方晶多結晶体の板には、表面にコーティング層が形成されている請求項1に記載の液晶パネル用透明基板。
【請求項3】
前記コーティング層は、複層であり、金属弗化物と金属酸化物から選ばれる層を2種以上組合わせたものである、請求項2に記載の液晶パネル用透明基板。
【請求項4】
高熱伝導性透明立方晶多結晶体が、ZnS、スピネル(MgO・nAl;n=1〜3)、YAG(3Y・5Al)、MgO、ALON(5AlN・9Al)、Y及びダイヤモンドからなる群から選ばれる請求項1又は2に記載の液晶パネル用透明基板。
【請求項5】
高熱伝導性透明立方晶多結晶体が、スピネル(MgO・nAl;n=1〜3)である請求項1又は2に記載の液晶パネル用透明基板。
【請求項6】
高熱伝導性透明立方晶多結晶体が、YAG(3Y・5Al)である請求項1又は2に記載の液晶パネル用透明基板。
【請求項7】
高熱伝導性透明立方晶多結晶体が、MgOである請求項1又は2に記載の液晶パネル用透明基板。
【請求項8】
高熱伝導性透明立方晶多結晶体が、ZnSである請求項1又は2に記載の液晶パネル用透明基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−97014(P2008−97014A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271889(P2007−271889)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【分割の表示】特願2004−24953(P2004−24953)の分割
【原出願日】平成16年2月2日(2004.2.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】