説明

液晶ポリエステルの製造方法および液晶ポリエステル

【課題】テレフタル酸類、2,6−ナフタレンジカルボン酸類を用いた溶融重縮合において、低温且つ短時間で反応を進行させることができる液晶ポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】テレフタル酸、テレフタル酸誘導体、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むモノマー混合物100質量部に対し、下記式(I)で示される複素芳香族化合物を0.001質量部以上1質量部以下添加し、240℃以上300℃以下で溶融重縮合し、重合体を得る、溶融重縮合工程を有する液晶ポリエステルの製造方法。


(X,Xは、低級アルキル基を表し、複素芳香環上の水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルの製造方法および液晶ポリエステルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融時に液晶性を発現する液晶ポリエステル樹脂は、耐熱性及び加工性に優れることから、各種用途分野で使用されている。液晶ポリエステルは、例えば、対応するモノマーである芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル化合物等の誘導体を重縮合させることで得られる。
【0003】
重縮合反応においては、モノマーが、ヒドロキシカルボン酸や、芳香族ジオールのように、反応基がフェノール性水酸基である化合物の場合、反応性が低く、反応転化率が上がりにくいことがある。そのため、このような化合物を出発物質(原料)とする場合には、反応性を上げるために、重縮合に先だって、これらの化合物のフェノール性水酸基と脂肪酸無水物とを反応させ、当該フェノール性水酸基をアシル化し、アシル化物を重縮合する製造方法が知られている。また、反応時間を短縮するために、触媒存在下で反応を行う検討がなされている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
また、液晶ポリエステルの高分子量化のため、重合体を長時間にわたって高温環境下に曝すと、熱劣化が進行しやすい。この課題に対し、特許文献3に記載された方法では、まず、短時間のうちに反応容器内で重縮合を行い、反応容器からの取り出しを容易に行うことが可能なうちに重合体を溶融状態で回収して固化させ破砕した後、固相反応で所望の分子量にまで重合させて高分子量化している。これにより、熱履歴を小さくしつつ、液晶ポリエステルの高分子量化と生産性の向上とを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−183373号公報
【特許文献2】特開2002−146003号公報
【特許文献3】特開2001−72750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、製造する液晶ポリエステルの耐熱性を向上するため、上記重縮合反応のモノマーとして、テレフタル酸やテレフタル酸誘導体(以下、「テレフタル酸類」と称することがある)、2,6−ナフタレンジカルボン酸や2,6−ナフタレンジカルボン酸誘導体(以下、「2,6−ナフタレンジカルボン酸類」と称することがある)など、重合後のポリマー骨格が略直線状になり硬直な構造を形成するジカルボン酸が使用されることがある。これらのモノマーは、得られるポリマーの高耐熱化が可能である一方で、重合時の反応性が低いため、重合時に高温の反応温度が必要となることがあった。
【0007】
一方、色調の低下が抑制された高品質な液晶ポリエステルを製造するためには、熱劣化の進行を抑制するために熱履歴を小さくする必要がある。熱履歴を小さくするためには、できるだけ低温且つ短時間で重合を行う必要があるが、テレフタル酸類や、2,6−ナフタレンジカルボン酸類など反応性が低いモノマーを用いる場合には、上述した触媒を用いた方法であっても、300℃を超える温度で溶融重縮合の検討がなされてきており、色調の低下が問題となることがあった。
【0008】
さらに、上述のように固相重合を併用する重合方法を採用した場合には、低温且つ短時間で重合を行うと、固相重合時に重合体同士が溶着し、取り扱いが困難になりやすいという課題がある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、テレフタル酸類、2,6−ナフタレンジカルボン酸類を用いた溶融重縮合において、低温且つ短時間で反応を進行させることができる液晶ポリエステルの製造方法を提供することを目的とする。また、このような製造方法を用いて得られる液晶ポリエステルを提供することをあわせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は、以下の態様を有する。
【0011】
本発明の第一の態様は、液晶ポリエステルの製造方法であり、テレフタル酸、テレフタル酸誘導体、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むモノマー混合物100質量部に対し、下記式(I)で示される複素芳香族化合物を0.001質量部以上1質量部以下添加し、240℃以上300℃以下で溶融重縮合し、重合体を得る、溶融重縮合工程を有する。
【化1】

(X,Xは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はペンチル基を表す。複素芳香環上の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0012】
本発明においては、前記溶融重縮合工程で得られる重合体を溶融状態で反応容器から取り出し、冷却する冷却工程と、冷却することで固化した前記重合体を粉砕する粉砕工程と、粉砕した前記重合体を加熱し、固相重合によって前記重合体よりも重合度を高める固相重合工程と、を有することが望ましい。
【0013】
本発明においては、前記モノマー混合物は、下記一般式(1’)、(2’)及び(3’)で表される化合物を含むことが望ましい。
(1’)G−O−Ar−CO−G
(2’)G−CO−Ar−CO−G
(3’)G−X−Ar−Y−G
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;Gはそれぞれ独立に水素原子又はアルキルカルボニル基であり;Gはそれぞれ独立にヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基又はハロゲン原子であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【0014】
本発明においては、前記モノマー混合物が、分子内にフェノール性水酸基を有する化合物を含み、前記溶融重縮合工程に先だって、前記フェノール性水酸基をアシル化するアシル化工程を有することが望ましい。
【0015】
本発明においては、前記アシル化工程では、前記フェノール性水酸基に対して1.00当量以上1.15当量以下の酸無水物を反応させて、前記フェノール性水酸基をアシル化することが望ましい。
【0016】
本発明においては、前記酸無水物として無水酢酸を用いることが望ましい。
【0017】
本発明の第二の態様における液晶ポリエステルは、上述の第一の態様における液晶ポリエステルの製造方法により得られるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、テレフタル酸類や、2,6−ナフタレンジカルボン酸類を用いて液晶ポリエステルを重合する場合であっても、低温且つ短時間で反応を進行させることができる。また、このような製造方法を用いることで、着色が小さい液晶ポリエステルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<液晶ポリエステルの製造方法>
本発明の第一の態様における液晶ポリエステルの製造方法は、テレフタル酸、テレフタル酸誘導体、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むモノマー混合物100質量部に対し、下記式(I)で示される複素芳香族化合物を0.001質量部以上1質量部以下添加し、240℃以上300℃以下で溶融重縮合し、重合体を得る、溶融重縮合工程を有する。
【化2】

(X,Xは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はペンチル基を表す。複素芳香環上の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0020】
また、本発明の液晶ポリエステルは、上記本発明の第一の態様における製造方法で得られたことを特徴とする。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明の第一の態様における製造方法で製造される液晶ポリエステル(以下、重合体ということがある)の典型的な例としては、テレフタル酸、テレフタル酸誘導体、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを用い、これらのモノマーと、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させてなるもの、が挙げられる。また、必要に応じて、テレフタル酸類および2,6−ナフタレンジカルボン酸類以外の芳香族ジカルボン酸を重縮合させてもよい。
【0022】
ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸;テレフタル酸類および2,6−ナフタレンジカルボン酸類以外の芳香族ジカルボン酸;並びに芳香族ジオールは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、重合可能なそれらの誘導体が用いられてもよい。
【0023】
テレフタル酸誘導体、2,6−ナフタレンジカルボン酸誘導体、テレフタル酸類および2,6−ナフタレンジカルボン酸類以外の芳香族ジカルボン酸の誘導体は、例として、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
【0024】
ここでアルコキシカルボニル基とは、アルコキシ基がカルボニル基に結合した一価の基である。前記アルコキシ基としては、後述のGにおけるアルコキシ基として挙げたものと同様のものが使用できる。具体的には、メトキシカルボニル基及びエトキシカルボニル基等が挙げられる。
アリールオキシカルボニル基とは、アリールオキシ基がカルボニル基に結合した一価の基である。前記アリールオキシ基としては、後述のGにおけるアリールオキシ基として挙げたものと同様のものが使用できる。具体的には、フェノキシカルボニル基等が挙げられる。
ハロホルミル基とは、ハロゲン原子がカルボニル基に結合した一価の基である。前記ハロゲン原子としては、後述のGにおけるハロゲン原子として挙げたものと同様のものが使用できる。具体的にはクロロホルミル基、ブロモホルミル基及びヨードホルミル基が挙げられる。
アシルオキシカルボニル基とは、アシル基がオキシカルボニル基(−O−(C=O)−)の酸素原子に結合した一価の基である。アシル基とは、アルキル基又はアリール基がカルボニル基に結合した一価の基である。具体的には、アセチル基及びベンゾイル基等が挙げられる。アシルオキシカルボニル基の具体例としては、アセチルオキシカルボニル基及びベンゾイルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0025】
テレフタル酸誘導体としては、上記一般式(2’)で表される化合物が挙げられる。具体的には、テレフタロイルジクロライド、テレフタロイルジブロマイド、テレフタル酸−酢酸混合酸無水物等が挙げられる。
【0026】
2,6−ナフタレンジカルボン酸誘導体としては、上記一般式(2’)で表される化合物が挙げられる。の具体例としては、2,6−ナフタレンジカルボニルジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボニルジブロマイド、2,6−ナフタレンジカルボン酸−酢酸混合酸無水物等が挙げられる。
【0027】
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオールのようなヒドロキシル基(フェノール性水酸基)を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、フェノール性水酸基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
アシルオキシ基とは、前記アシル基が酸素原子に結合した一価の基である。具体的には、アセチルオキシ基及びベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0028】
[溶融重縮合工程]
本実施形態において、溶融重縮合工程では、以下のモノマーを含む混合物(モノマー混合物)を加熱攪拌し、溶融状態で重縮合(溶融重縮合)させる。
【0029】
(モノマー)
溶融重縮合の反応においては、下記一般式(1’)で表されるモノマー(以下、「モノマー(1’)」ということがある。)を重合させて、前記液晶ポリエステルを調製することが好ましく、モノマー(1’)と、下記一般式(2’)で表されるモノマー(以下、「モノマー(2’)」ということがある。)と、下記一般式(3’)で表されるモノマー(以下、「モノマー(3’)」ということがある。)と、を重合させて、前記液晶ポリエステルを調製することがより好ましい。
(1’)G−O−Ar−CO−G
(2’)G−CO−Ar−CO−G
(3’)G−X−Ar−Y−G
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;Gはそれぞれ独立に水素原子又はアルキルカルボニル基であり;Gはそれぞれ独立にヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基又はハロゲン原子であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【0030】
Ar、Ar及びAr中のフェニレン基としては、o−フェニレン基、m−フェニレン基及びp−フェニレン基が挙げられる。
Ar、Ar及びAr中のナフチレン基としては、1,8−ナフチレン基、1,4−ナフチレン基及び2,6−ナフチレン基等が挙げられる。
またAr、Ar及びAr中のビフェニレン基としては、2,2’−ビフェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基等が挙げられる。
【0031】
Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子が置換される前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0032】
Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子が置換される前記アルキル基において、炭素数は、1〜10であることが好ましい。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられる。
【0033】
Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子が置換される前記アリール基において、炭素数は、6〜20であることが好ましい。具体例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられる。
【0034】
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。置換基が複数の場合、置換基はそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。
【0035】
前記一般式(4)に含まれるZがアルキリデン基において、炭素数は、1〜10であることが好ましい。具体例としては、メチレン基、エチリデン基、n−プロピリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基、n−ペンチリデン基、n−ヘキシリデン基、n−ヘプチリデン基、n−オクチリデン基、2−エチルヘキシリデン基、n−ノニリデン基、n−デシリデン基が挙げられる。
【0036】
はそれぞれ独立に水素原子又はアルキルカルボニル基であり、前記アルキルカルボニル基とは、アルキル基がカルボニル基(−C(=O)−)に結合した一価の基である。前記アルキル基としては、水素原子が置換される前記アルキル基と同様のものが挙げられる。具体的には、メチルカルボニル基(アセチル基)、エチルカルボニル基等が挙げられる。
【0037】
前記一般式(3’)中の二つのGは互いに同じでも異なっていてもよい。そして、前記一般式(1’)中のGと一般式(3’)のGとは互いに同じでも異なっていてもよい。
【0038】
はそれぞれ独立にヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基又はハロゲン原子である。
【0039】
における前記アルコキシ基とは、アルキル基が酸素原子(−O−)に結合した一価の基である。前記アルキル基としては、水素原子が置換される前記アルキル基と同様のものが挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
【0040】
における前記アリールオキシ基とは、アリール基が酸素原子(−O−)に結合した一価の基である。前記アリール基としては、水素原子が置換される前記アリール基と同様のものが挙げられる。具体的には、フェノキシ基等が挙げられる。
【0041】
における前記アルキルカルボニルオキシ基とは、アルキル基がカルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)の炭素原子に結合した一価の基である。前記アルキル基としては、水素原子が置換される前記アルキル基と同様のものが挙げられる。具体的には、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0042】
における前記ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が例示できる。
【0043】
前記一般式(2’)中の二つのGは互いに同じでも異なっていてもよい。そして、前記一般式(1’)中のGと一般式(2’)のGとは互いに同じでも異なっていてもよい。
【0044】
溶融重縮合の反応における、モノマー(1’)、(2’)及び(3’)の総使用量に占めるモノマー(1’)の使用量は、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは40モル%以上70モル%以下、特に好ましくは45モル%以上65モル%以下である。
【0045】
溶融重縮合の反応における、モノマー(1’)、(2’)及び(3’)の総使用量に占めるモノマー(2’)の使用量は、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは15モル%以上30モル%以下、特に好ましくは17.5モル%以上27.5モル%以下である。
【0046】
溶融重縮合の反応における、モノマー(1’)、(2’)及び(3’)の総使用量に占めるモノマー(3’)の使用量は、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは15モル%以上30モル%以下、特に好ましくは17.5モル%以上27.5モル%以下である。
【0047】
モノマー(2’)とモノマー(3’)との使用量は、実質的に等しいことが好ましい。
すなわち、 モノマー(2’)とモノマー(3’)との割合は、[モノマー(2’)の使用量]/[モノマー(3’)の使用量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0048】
溶融重縮合の反応においては、モノマー(1’)〜(3’)を、それぞれ独立に二種以上使用してもよい。また、モノマー(1’)〜(3’)以外のモノマーを使用してもよいが、その使用量は、溶融重縮合の反応におけるモノマーの総使用量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0049】
[アシル化工程]
ここで、反応に用いるモノマーが、フェノール性水酸基を有する化合物である場合、反応性が低く、重縮合での転化率が上がりにくいことがある。
【0050】
そのため、用いるモノマーがフェノール性水酸基を有する場合、すなわち上記一般式(1’)においてGが水素原子である場合や、上記一般式(3’)においてXが酸素原子であり、且つGが水素原子である場合には、反応性を上げるために、重縮合に先だって、これらの化合物のフェノール性水酸基と脂肪酸無水物とを反応させ、前記フェノール性水酸基をアシル化するとよい。
【0051】
脂肪酸無水物としては、本発明の効果を有する限り、特に限定されるものでない。例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2−エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸及び無水β−ブロモプロピオン酸等が挙げられる。
【0052】
これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格と取り扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸が好ましく使用される。なかでも、無水酢酸がより好ましく使用される。
【0053】
アシル化に用いる脂肪酸無水物の使用量は、モノマーが有するフェノール性水酸基の量に対して、1.0倍当量以上1.15倍当量以下が好ましく、1.03倍当量以上1.10倍当量以下がより好ましい。
【0054】
脂肪酸無水物の使用量が、前記フェノール性水酸基に対して1.0倍当量未満の場合には、未反応のフェノール性水酸基が残存することとなるため、重縮合での転化率が上がりにくくなる。また、液晶ポリエステルへの重合時に、未反応の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸が昇華し、反応容器内の配管などを閉塞させる傾向がある。
【0055】
また、脂肪酸無水物の使用量が、前記フェノール性水酸基に対して1.15倍当量を超える場合には、得られる液晶ポリエステルの着色が著しくなる傾向がある。
【0056】
アシル化工程におけるアシル化反応は、130℃以上180℃以下の温度条件下、30分間以上20時間以下反応させることが好ましく、140℃以上160℃以下の温度条件下で、1時間以上5時間以下反応させることがより好ましい。
【0057】
このような反応は、重縮合反応を行う反応容器と別の反応容器で行うこととしてもよいし、重縮合反応を行う反応容器と同一の反応容器で行い、引き続き重縮合反応を行うこととしてもよい。アシル化反応と重縮合とを同じ反応容器で行うこととすると、操作が簡便になるため好ましい。
【0058】
その際、アシル化反応を行う反応容器は、チタン、ハステロイB等の耐腐食性を有する材料の使用が可能である。また、目的とする液晶ポリエステルが高い色調(L値)を必要とする場合は、反応容器の内壁の材質がガラスであることが好ましい。反応混合物と接する反応容器の内壁がガラス製であるならば、反応容器全体がガラス製である必要はなく、例えば、グラスライニングされたSUS製等の反応槽等を使用することも可能である。例えば、大型の生産設備においては、グラスライニングされた反応槽を用いることが好ましい。
【0059】
[使用するモノマー種と重合触媒]
重合により得られる液晶ポリエステルは、重合に用いるモノマーの種類により物性が変化するため、必要に応じて適宜選択することができる。
【0060】
モノマー(2’)として、テレフタル酸、テレフタル酸誘導体、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを、用いるモノマー全体に対して例えば5モル%以上用いると、重合して得られる液晶ポリエステルの耐熱性を向上させることができる。
【0061】
すなわち、本実施形態の液晶ポリエステルの製造方法においては、モノマー(2’)として、下記の一般式(A’)で表されるモノマー(以下、「モノマー(A’)」ということがある。)を少なくとも1種含む。
(A’)G−CO−Ar−CO−G
(式中、Arはp−フェニレン基または2,6−ナフチレン基で表される基であり;Gはそれぞれ独立にヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基又はハロゲン原子であり;Ar中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0062】
なお、モノマー(A’)において、Arが無置換のp−フェニレン基であり、Gがいずれもヒドロキシル基であるものが、本発明における「テレフタル酸」であり、その他のモノマー(A’)が、本発明における「テレフタル酸誘導体」である。
【0063】
また、モノマー(A’)において、Arが無置換の2,6−ナフチレン基であり、Gがいずれもヒドロキシル基であるものが、本発明における「2,6−ナフタレンジカルボン酸」であり、その他のモノマー(A’)が、本発明における「2,6−ナフタレンジカルボン酸誘導体」である。
【0064】
すなわち、一般式(A’)で表される1種のモノマーは、本発明における「テレフタル酸、テレフタル酸誘導体、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマー」である。
【0065】
モノマー(A’)のArにおけるハロゲン基、アルキル基又はアリール基、およびGにおけるアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基又はハロゲン原子は、上記モノマー(2’)のArにおけるそれらの基と同様であり、モノマー(A’)におけるこれら置換基の数もモノマー(2’)におけるArの置換基の数と同様である。
【0066】
これらのモノマー(A’)は、重合して得られる液晶ポリエステルの耐熱性を向上させる一方で、反応性が低く、溶融重縮合が進行しにくい。反応性が低いモノマー(A’)を用いた場合であっても、溶融重縮合の重合温度を高くすると、反応は進行する。しかし、得られる液晶ポリエステルの熱履歴が大きくなることから、色調低下(着色)の原因となる。
【0067】
そこで、本実施形態の液晶ポリエステルの製造方法では、溶融重縮合時に下記式(I)で表される複素芳香族化合物(以下、化合物(I)ということがある)を触媒量添加し、反応を促進して重合を行う。
【化3】

(X,Xは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はペンチル基を表す。複素芳香環上の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0068】
及びXとしては、メチル基、エチル基が好ましい。
【0069】
化合物(I)が有する複素芳香環上の一つ以上の水素原子が置換される前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0070】
化合物(I)が有する複素芳香環上の一つ以上の水素原子が置換される前記アルキル基において、炭素数は、1〜10であることが好ましい。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられる。なかでも、炭素数が、1〜4であることが好ましい。
【0071】
化合物(I)が有する複素芳香環上の一つ以上の水素原子が置換される前記アリール基において、炭素数は、6〜20であることが好ましい。具体例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられる。
【0072】
化合物(I)の使用量は、溶融重縮合で使用するモノマー混合物の量100質量部に対し、0.001質量部以上1質量部以下であることが好ましい。化合物(I)の使用量の下限は、0.002質量部以上がより好ましい。化合物(I)の使用量の上限は、0.8質量部以下がより好ましい。すなわち、0.002質量部以上0.8質量部以下がより好ましい。
【0073】
化合物(I)の使用量が0.001質量部未満であると、化合物(I)を添加することによる反応の促進の効果が小さく、また1質量部より多いと、得られる液晶ポリエステルに着色が見られたり、溶融重縮合の反応速度が速すぎて重合の制御が困難になったりする不具合が生じる。
【0074】
溶融重縮合は、化合物(I)の他に、他の触媒の存在下で行ってもよい。併用可能な触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられる。
他の触媒の使用量は、モノマー混合物の量100質量部に対し、0.1質量部以下であることが好ましい。
【0075】
本発明の第一の態様における重縮合反応の温度は、240℃以上300℃以下の範囲であることが好ましい。重合温度の下限は、250℃以上がより好ましい。重合温度の上限は290℃以下がより好ましい。重合温度が240℃未満となると、重縮合反応が進行しない。また、重合温度を300℃より高くすると、例えば320℃に達したときに、反応容器内で固化するほどに重合反応が進んでしまい、取り出しが困難となる。
【0076】
重縮合反応の時間は、反応を制御可能な温度条件、触媒量などの反応条件を選択した上で、生産性の低下を抑制する観点から適宜設定することができる。例えば、上述の反応温度において30分以上5時間以下が好ましい。
より具体的には、反応温度が250〜300℃であり、触媒量がモノマー混合物の量100質量部に対し、0.003質量部以上0.05質量部以下であり、反応時間が20分〜200分であることが好ましい。
【0077】
その他、モノマー(1’)の使用量が多いほど、得られる液晶ポリエステルの溶融流動性、耐熱性、強度、剛性が向上し易いが、あまり多いと、得られる液晶ポリエステルの溶融温度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0078】
本実施形態における重縮合反応は、不活性気体、例えば窒素雰囲気下で、常圧または減圧の条件下で行うことができるが、不活性気体雰囲気下に常圧で行うことが好ましい。プロセスは回分式、連続式、またはそれ等の組み合わせを採用できる。
【0079】
重縮合反応において、反応容器の形状は公知のものを用いることができる。用いる攪拌翼は、縦型の反応容器の場合、多段のパドル翼、タービン翼、モンテ翼、ダブルヘリカル翼が好ましく、中でも、多段のパドル翼、タービン翼がより好ましい。横型の反応容器では、1軸または2軸の攪拌軸に垂直に、種々の形状の翼、例えばレンズ翼、眼鏡翼、多円平板翼等が設置されているものが良い。また、翼にねじれを付けて、攪拌性能や送り機構を向上させたものも良い。
【0080】
反応容器の加熱は、熱媒、気体、電気ヒーターにより行うが、均一加熱という目的で、反応容器だけでなく、攪拌軸、翼、邪魔板等の反応容器内の反応物に浸漬する部材も加熱することが好ましい。
【0081】
[固相重合工程]
溶融重縮合で得られた液晶ポリエステルは、さらに高分子量化するため、必要に応じて加熱処理して重合させることとしてもよい。溶融重縮合後の重合体は、重合度により冷却すると固体となる。そのため、冷却工程において重合体を冷却して固形物とした後、粉砕工程において公知の粉砕装置を用いて粉砕し、得られる粉体を固相重合工程において加熱処理して固相重合を行うこととするとよい。
【0082】
溶融重縮合の工程で所望の分子量にまで高分子量化を進めると、重合後に反応容器からの重合体の取り出しが困難となりやすい。しかし、上述のように、溶融重縮合で取り出し可能な程度にまで高分子量化した後に、固相重合により所望の分子量にまで高分子量化することとすると、重合操作を行い易く、また所望の分子量の液晶ポリエステルを製造し易くなるため、耐熱性や強度、剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを容易に得ることができる。
【0083】
固相重合は、一定温度域を保持して樹脂を加熱することにより行うことが好ましい。固相重合の温度条件としては、220℃以上300℃以下が好ましく、230℃以上290℃以下がより好ましい。
【0084】
固相重合の重合時間は、3時間以上であることが好ましく、生産性の低下を抑制する観点から20時間以下であることが好ましい。
【0085】
液晶ポリエステルの流動開始温度は、液晶ポリエステルの重合度と相関があるため、溶融重縮合後の液晶ポリエステルの流動開始温度を測定し、所望の重合度に対応する流動開始温度となるまで、不活性ガス雰囲気下、固相重合するとよい。
【0086】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0087】
以上のようにして、目的とする液晶ポリエステルを得ることができる。
【0088】
<液晶ポリエステルの構造>
以上のようにして得られる本実施形態の液晶ポリエステルは、下記式(A)で表される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(A)」ということがある。)を含む。
(A)−CO−Ar−CO−
(式中、Arはp−フェニレン基または2,6−ナフチレン基で表される基であり、Ar中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0089】
繰り返し単位(A)のArにおけるハロゲン基、アルキル基又はアリール基、およびGにおけるアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基又はハロゲン原子は、上記モノマー(A’)のArにおけるそれらの基と同様であり、繰り返し単位(A)におけるこれら置換基の数も上記モノマー(A’)におけるArの置換基の数と同様である。
【0090】
繰り返し単位(A)は、液晶ポリエステル中に5mol%以上含むこととすると、耐熱性向上の効果が得られる。
【0091】
また、本実施形態の液晶ポリエステルは、上記繰り返し単位(A)の他に、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)とを有することがより好ましい。
【0092】
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Arはフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;Arは、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【0093】
一般式(1)〜(3)における置換基としての前記ハロゲン原子、アルキル基、アリール基は、前記一般式(1’)〜(3’)における置換基としての前記ハロゲン原子、アルキル基、アリール基と同様であり、一般式(1)〜(3)におけるこれら置換基の数も前記一般式(1’)〜(3’)の場合と同様である。
【0094】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。すなわち、モノマー(1’)としては、Arがp−フェニレン基又は2,6−ナフチレン基であるものを使用することが好ましい。
【0095】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰り返し単位)または2,6−ナフチレン基(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰り返し単位)で表される基を含む。これらは、重合体を構成する全繰り返し単位の合計量に対して、5モル%以上含まれることとすると、樹脂の耐熱性が向上するため好ましい。
【0096】
その他に、繰返し単位(2)は、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、及びArがジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。すなわち、モノマー(2’)としては、Arがm−フェニレン基、又はジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるものを使用することが好ましい。
【0097】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。すなわち、モノマー(3’)としては、Arがp−フェニレン基、又は4,4’−ビフェニリレン基であるものを使用することが好ましい。
【0098】
繰り返し単位(3)を構成するモノマーのうち、アミノ基を有するモノマーを用いた場合、アミノ基はカルボキシル基に対する反応性が高いため、上記モノマー(A)との反応が進行しやすい。しかし、このようなモノマーを用いた場合であっても、上述の化合物(I)を触媒として用いることによる反応促進の効果は得られる。
【0099】
また、液晶ポリエステルの着色抑制の観点から、繰り返し単位(1)〜(3)において、ナフチレン骨格を有する繰り返し単位の合計量が、全繰り返し単位の合計量に対して、30モル%以下であることが好ましく、25モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましい。ナフチレン骨格が可視光領域に吸収帯を持ちやすいことから、液晶ポリエステルに含まれるナフチレン骨格が上記範囲であると、着色を抑制することができる。
液晶ポリエステルに含まれるナフチレン骨格は少ないほど好ましく、含まれていなくてもよい。
【0100】
なお、上述の方法で得られる液晶ポリエステルを、溶融して造粒することとしてもよい。造粒の形態は、ペレット状が好ましい。
【0101】
液晶ポリエステルの粒子を造粒してペレットを製造する方法としては、一般に使用されている一軸または二軸の押出機を用い溶融混練し、空冷または必要に応じて水冷した後、ペレタイザー(ストランドカッター)でペレットに賦形する方法が挙げられる。溶融均一化と賦形が目的のため、汎用の押出機が使用できるが、L/Dの大きい押出機を用いることが溶融均一化の観点からは好ましい。溶融混練に際しては、押出機のシリンダー設定温度(ダイヘッド温度)は200℃以上450℃以下が好ましい。
【0102】
なお、本実施形態の製造方法で製造される液晶ポリエステルには、必要に応じて無機充填剤を添加することができる。このような無機充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、モンモリロナイト、石膏、ガラスフレーク、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウム繊維等が例示される。これらの無機充填剤は、フィルムの透明性や機械強度を著しく損なわない範囲で用いることができる。
【0103】
また、本実施形態の製造方法で製造される液晶ポリエステルには、必要に応じて、さらに、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、無機もしくは有機系着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、またはフッ素樹脂などの離型改良剤など、各種の添加剤を製造工程中あるいはその後の加工工程において添加することができる。
【0104】
上述の液晶ポリエステルは着色が小さいものであるため、成形することにより、色調に優れる成形体を得ることができる。
【0105】
特に、白色顔料を含む液晶ポリエステルを成形することにより、反射率が高い反射板を得ることができる。この場合も、成形方法としては、射出成形法が好ましく、射出成形法によれば、薄肉部を有する反射板や、複雑な形状の反射板を容易に得ることができ、特に薄肉部の厚みが0.01mm以上3.0mm以下、好ましくは0.02mm以上2.0mm以下、より好ましくは0.05mm以上1.0mm以下である小型の反射板を得るには、射出成形法が適している。
【0106】
本発明の高白色度の樹脂は、電気、電子、自動車、機械等の分野で光反射、特に可視光反射のための反射部材の原料として好適に用いられる。例えば、ハロゲンランプ、HID等の光源装置のランプリフレクターや、LEDや有機EL等の発光素子を用いた発光装置や表示装置の反射板として好適に用いられる。特に、LEDを用いた発光装置の反射板用として好適に用いられる。
【0107】
以上のような構成の液晶ポリエステルの製造方法によれば、テレフタル酸類や2,6−ナフタレンジカルボン酸類を用いて液晶ポリエステルを重合する場合であっても、低温且つ短時間で反応を進行させることができる。
【0108】
また、以上のような液晶ポリエステルは、着色が小さいものとなる。
【実施例】
【0109】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0110】
実施例、比較例中の各種物性は以下の方法により測定した。
【0111】
[流動開始温度]
液晶ポリエステルの流動開始温度は、フローテスター((株)島津製作所製、CFT−500型)を用いて測定した。液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を、流動開始温度として測定した。
【0112】
[粉体の色調]
溶融重縮合後の重合体(プレポリマー)を冷却し、固化させて粉砕することで得られるプレポリマーの粉体について、測色色差計(ZE−2000、日本電色工業株式会社製)を用い、色調を測定した。ここで、本明細書では色調の値として、CIE L*a*b*で表されるL*値を採用した。
【0113】
[粉体の溶着性]
直径5cmのアルミ容器にプレポリマーの粉体を高さ略3cmとなるまで入れた後、260℃で10時間加熱して固相重合を行い、直径5cm、高さ略3cmの円板状の試験片を作成した。
冷却後、試験片を手で曲げてみて割れるものを「溶着無し」、手で曲げても割れないものを「溶着有り」として判定した。「溶着無し」の試験片は容易に割れる一方で、「溶着有り」の試験片は、強固に粉体が固まって一体となり、曲げることも困難となる。
【0114】
(実施例1)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2mol)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4mol)、テレフタル酸239.2g(1.44mol)、イソフタル酸159.5g(0.96mol)、無水酢酸1298.6g(12.7mol)及び4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)0.146g(1.2mmol)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃で1時間還流させてアシル化を行った。
次いで、4−ジメチルアミノピリジンを加えた後、副生する酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から260℃まで1時間50分かけて昇温した(昇温速度:1℃/分)。260℃で160分間保温して溶融重縮合を行った時点で、トルクメータでトルクの上昇が認められたため、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。
冷却して得られた重合体の固形物を、粉砕機(竪型粉砕機、オリエント粉砕機株式会社製、2mmのスクリーンを使用)で粉砕することでプレポリマーの粉末を得た。
【0115】
得られたプレポリマーの粉末について、上述の方法により流動開始温度、色調、溶着性を確認した。
【0116】
(実施例2)
実施例1と同様にしてモノマーのアシル化を行った後、4−ジメチルアミノピリジン0.730g(6.0mmol)をさらに加え、重合時間を40分として溶融重縮合を行ったこと以外は、実施例1と同様にしてプレポリマーの粉末を得た。
【0117】
(実施例3)
実施例1と同様にしてモノマーのアシル化を行った後、4−ジメチルアミノピリジン1.022g(8.4mmol)をさらに加え、重合時間を20分として溶融重縮合を行ったこと以外は、実施例1と同様にしてプレポリマーの粉末を得た。
【0118】
(実施例4)
実施例1と同様にしてモノマーのアシル化を行った後、4−ジメチルアミノピリジン0.292g(2.4mmol)をさらに加え、270℃で110分間保温して溶融重縮合を行ったこと以外は、実施例1と同様にしてプレポリマーの粉末を得た。
【0119】
(実施例5)
実施例1と同様にしてモノマーのアシル化を行った後、4−ジメチルアミノピリジン1.022g(8.4mmol)をさらに加え、290℃で20分間保温して溶融重縮合を行ったこと以外は、実施例1と同様にしてプレポリマーの粉末を得た。
【0120】
(実施例6)
表1に示すモノマー比率にて実施例1と同様にしてモノマーのアシル化を行った後、4−ジメチルアミノピリジン0.730g(6.0mmol)をさらに加え、240℃で10分間保温して溶融重縮合を行ったこと以外は、実施例1と同様にしてプレポリマーの粉末を得た。
【0121】
(比較例1)
4−ジメチルアミノピリジンの代わりに、N−メチルイミダゾール(NMI)0.098g(1.2mmol)を用いてアシル化を行った後、N−メチルイミダゾール0.492g(6.0mmol)をさらに加え、重合時間を180分、重合温度を290℃として溶融重縮合を行ったこと以外は、実施例1と同様にしてプレポリマーの粉末を得た。
【0122】
(比較例2)
4−ジメチルアミノピリジンの代わりに、N−メチルイミダゾール0.098g(1.2mmol)を用いてアシル化を行った後、N−メチルイミダゾール0.492g(6.0mmol)をさらに加え、重合時間を180分として溶融重縮合を行ったこと以外は、実施例1と同様にしてプレポリマーの粉末を得た。
【0123】
(比較例3)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸828.6g(6.0mol)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル558.6g(3.0mol)、イソフタル酸498.4g(3.0mol)、無水酢酸1298.6g(12.7mol)及びN−メチルイミダゾール0.098g(1.2mmol)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃で1時間還流させ、アシル化を行った。
次いで、N−メチルイミダゾール0.492g(6.0mmol)をさらに加えた後、副生する酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から260℃まで1時間50分かけて昇温した(昇温速度:1℃/分)。260℃で180分間保温して溶融重縮合を行った時点で、トルクメータでトルクの上昇が認められたため、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。
冷却して得られた重合体の固形物を、粉砕機で粉砕することでプレポリマーの粉末を得た。
【0124】
(比較例4)
実施例1と同様にしてモノマーのアシル化を行った後、4−ジメチルアミノピリジンを加え、副生する酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温した(昇温速度:1℃/分)。
320℃に到達した時点で、反応容器内において重合体が固化するほどに重合度が上がり取り出しが困難となったため、重合を終了した。
【0125】
(比較例5)
実施例1と同様にしてモノマーのアシル化を行った後、4−ジメチルアミノピリジンを加え、副生する酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から230℃まで1時間20分かけて昇温した(昇温速度:1℃/分)。230℃で5時間保温して溶融重縮合を行ったが、反応容器に取り付けたトルクメータでトルクの上昇が認められず、重合反応の進行が確認できなかった。
【0126】
実施例および比較例の結果を、以下の表に示す。
【0127】
【表1】

【0128】
評価の結果、実施例1は、テレフタル酸を用いた溶融重縮合反応において重合が進行し、色調低下(着色)が抑制された良好なプレポリマー粉末が得られた。溶着性試験においても樹脂の溶着が見られなかった。
【0129】
実施例2、3は、アシル化工程後、溶融重縮合を行う前に、触媒量のDMAPを追加することで、短時間の溶融重縮合で良好なプレポリマー粉末が得られた。溶着性試験においても樹脂の溶着が見られなかった。
【0130】
実施例4、5は、アシル化工程後、溶融重縮合を行う前に、触媒量のDMAPを追加し、各溶融重縮合温度において良好なプレポリマー粉末が得られた。溶着性試験においても樹脂の溶着が見られなかった。
【0131】
実施例6は、テレフタル酸比率が高い場合においても良好なプレポリマー粉末が得られ、溶着性試験においても樹脂の溶着が見られなかった。
【0132】
対して、比較例1では、触媒にNMIを用いたところ、重合温度を実施例1よりも高くすると重合は進行するものの、色調の低下が確認された。
【0133】
また、比較例2では、触媒にNMIを用いたところ、実施例1と同様の重合温度では溶着性試験において樹脂の溶着が見られた。比較例2の反応条件では、固相重合があまり進行していないと判断することができる。
【0134】
比較例3では、確認のためテレフタル酸を用いない溶融重縮合反応を行ったところ、比較例2と同様の溶融重縮合条件(重合温度、重合時間)で重合が進行した。
【0135】
比較例4、5では、触媒量のDMAPを用いても重合温度が所定範囲から外れると、溶融重縮合が進行しない(比較例4)、または溶融重縮合により目的物を得ることが困難となる(比較例5)ことが確認された。
【0136】
これらの結果から、本発明の有用性が確かめられた。
【0137】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付のクレームの範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸、テレフタル酸誘導体、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むモノマー混合物100質量部に対し、下記式(I)で示される複素芳香族化合物を0.001質量部以上1質量部以下添加し、240℃以上300℃以下で溶融重縮合し、重合体を得る、溶融重縮合工程を有する液晶ポリエステルの製造方法。
【化1】

(X,Xは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又はペンチル基を表す。複素芳香環上の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記溶融重縮合工程で得られる重合体を溶融状態で反応容器から取り出し、冷却する冷却工程と、
冷却することで固化した前記重合体を粉砕する粉砕工程と、
粉砕した前記重合体を加熱し、固相重合によって前記重合体よりも重合度を高める固相重合工程と、を有する請求項1に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記モノマー混合物は、下記一般式(1’)、(2’)及び(3’)で表される化合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
(1’)G−O−Ar−CO−G
(2’)G−CO−Ar−CO−G
(3’)G−X−Ar−Y−G
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基であり;Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基であり;X及びYは、それぞれ独立に酸素原子又はイミノ基であり;Gはそれぞれ独立に水素原子又はアルキルカルボニル基であり;Gはそれぞれ独立にヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基又はハロゲン原子であり;前記Ar、Ar及びAr中の一つ以上の水素原子は、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(式中、Ar及びArは、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基であり;Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基である。)
【請求項4】
前記モノマー混合物が、分子内にフェノール性水酸基を有する化合物を含み、
前記溶融重縮合工程に先だって、前記フェノール性水酸基をアシル化するアシル化工程を有する請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記アシル化工程では、前記フェノール性水酸基に対して1.00当量以上1.15当量以下の酸無水物を反応させる請求項4に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項6】
前記酸無水物として無水酢酸を用いる請求項5に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の液晶ポリエステルの製造方法により得られる液晶ポリエステル。

【公開番号】特開2013−67779(P2013−67779A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−165755(P2012−165755)
【出願日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】