説明

液晶ポリエステル樹脂組成物及びそれを用いてなる成形体

【課題】高熱伝導率フィラーを高充填したとしても、引張強度、曲げ強度等の機械的強度に優れた成形体を得ることができる液晶ポリエステル樹脂組成物、及び該液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形体を提供する。
【解決手段】2価の芳香族基の合計を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基を40モル%以上含み、流動開始温度が280℃以上である液晶ポリエステル(A)100重量部に対し、非導電性であり、かつ300Kにおける熱伝導率が10W/mK以上の高熱伝導率フィラー(B)150〜450重量部含有してなる液晶ポリエステル樹脂組成物及び該液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱伝導性であり、機械的強度に優れた成形体、及び該成形体を得るための液晶ポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器や電子機器は小型化・高性能化が加速度的に進行しており、使用される電気・電子部品の発熱が大きな問題となっている。かかる発熱に対して放熱対策が不十分であると、熱の蓄積による電気・電子部品の性能低下が生じる。このような性能低下を抑制することに加え、これら機器を使用する使用者の安全を確保する観点からも放熱対策は重要視されている。そのため、該電気・電子部品を構成する材料には、高熱伝導性を有することが強く求められている。
【0003】
ところで、該電気・電子部品を構成する材料には、軽量性や成形加工性の面で、従来使用されていた金属材料から、樹脂材料への代替が検討されている。そして、該樹脂材料としては、成形加工性に優れることから、比較的複雑な形状の成形体(部品)を製造することができ、耐熱性や機械的強度にも優れるという点で液晶ポリエステルが注目されている。そして、該電気・電子部品の製造用として、前記液晶ポリエステルと高熱伝導率フィラーとを用いてなる樹脂組成物が検討されている。例えば、特許文献1には液晶ポリエステルに高熱伝導率フィラーを充填せしめた熱伝導性組成物が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−100577号公報(特許請求の範囲、2頁右上欄11行目〜左下欄14行目)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記液晶ポリエステルに前記高熱伝導率フィラーを高充填させた樹脂組成物を用いて成形体を製造する場合、該液晶ポリエステル自身が高い機械的強度を有するものであったとしても、溶融成形して得られる成形体は、その機械的強度が低下する場合があった。特に、この機械的強度の低下は、溶融成形における溶融樹脂の流れ方向(MD)で顕著になることがあった。
そこで本発明の目的は、高熱伝導率フィラーを高充填したとしても、引張強度、曲げ強度等の機械的強度に優れた成形体を得ることができる液晶ポリエステル樹脂組成物、及び該液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の<1>を提供するものである。
<1>以下の成分(A)100重量部に対して、以下の成分(B)を150〜450重量部含有してなる液晶ポリエステル樹脂組成物
(A)以下の(i)、(ii)及び(iii)で表される構造単位からなり、Ar1、Ar2及びAr3で表される2価の芳香族基の合計を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基を40モル%以上含み、流動開始温度が280℃以上である液晶ポリエステルを含む液晶ポリエステル
(B)非導電性であり、かつ300Kにおける熱伝導率が10W/mK以上の高熱伝導率フィラー


(式中、Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる2価の芳香族基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる2価の芳香族基を表す。またAr1、Ar2、Ar3で示される芳香族基は、その芳香環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基に置換されていてもよい。)
【0007】
さらに、本発明は前記<1>に係る好適な実施態様として、以下の<2>を、またこれらの液晶ポリエステル樹脂組成物からなる、以下の<3>〜<5>を提供する。
<2>成分(B)が、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムからなる群より選ばれる1つ以上の材質からなる高熱伝導率フィラーである、<1>の液晶ポリエステル樹脂組成物
<3><1>又は<2>の液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる成形体
<4>300Kでの熱伝導率が1.0W/mK以上である、<3>の成形体
<5><3>又は<4>の成形体から得られる電気・電子部品
【発明の効果】
【0008】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物によれば、電気・電子用部品として好適な熱伝導性を有しつつ、且つ機械的強度に優れた成形体を得ることができる。そして、このような成形体は電気・電子部品、特に電気絶縁性を必要とする電気・電子部品に好適であることから、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態に関して詳細に説明する。
【0010】
<成分(A)>
液晶ポリエステルとは、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成するポリエステルである。本発明の成分(A)に用いられる液晶ポリエステルとは、前記の(i)、(ii)及び(iii)で表される構造単位からなり、Ar1、Ar2及びAr3で表される2価の芳香族基の合計(以下、「全芳香族基合計」という。)を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基を40モル%以上含むものである。
【0011】
このような液晶ポリエステルは、当該液晶ポリエステルを製造する段階で、2,6−ナフタレンジイル基を含むモノマーと、それ以外の芳香環を有するモノマーとを、得られる液晶ポリエステル中の、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位が40モル%以上になるようにして、原料モノマーを選択し、該原料モノマーを重合させることで得ることができる。液晶ポリエステルにおいて、さらに好ましいものは、全芳香族基合計を100モル%としたとき、2,6−ナフタレンジイル基が、50モル%以上である液晶ポリエステルであり、さらに好ましくは2,6−ナフタレンジイル基が65モル%以上の液晶ポリエステルであり、特に好ましくは2,6−ナフタレンジイル基が70モル%以上の液晶ポリエステルである。このように、芳香族基として、2,6−ナフタレンジイル基をより多く含む液晶ポリエステルを用いると、得られる成形体の機械的強度がより向上する傾向がある。
【0012】
また、本発明の成分(A)に用いられる液晶ポリエステルを構成する構造単位である(i)、(ii)及び(iii)で表される構造単位の合計(以下、「全構造単位合計」ということがある。)を100モル%としたとき、(i)で示される芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位(以下、「(i)構造単位」という。)の合計が30〜80モル%、(ii)で示される芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位(以下、「(ii)構造単位」という。)の合計が10〜35モル%、(iii)で示される芳香族ジオールに由来する構造単位(以下、「(iii)構造単位」という。)の合計が10〜35モル%であることが好ましい。(i)構造単位、(ii)構造単位及び(iii)構造単位の、全構造単位合計に対するモル比率(共重合比率)が前記の範囲である液晶ポリエステルは、高度の液晶性を発現することに加え、実用的な温度で溶融し得るものとなり、溶融成形が容易となるため好ましい。
【0013】
前記液晶ポリエステルは、より高度の耐熱性が得られる点で、全芳香族液晶ポリエステルであると好ましく、前記の(i)構造単位、(ii)構造単位及び(iii)構造単位以外の構造単位を実質的に有さないものであると好ましい。したがって、全構造単位合計に対する(ii)構造単位の合計の共重合比率と、(iii)構造単位の合計の共重合比率とは実質的に等しくなる。
【0014】
全構造単位合計に対する、(i)構造単位の合計のモル比率は40〜70モル%であるとより好ましく、45〜65モル%であると、とりわけ好ましい。該モル比率がこの範囲であると、液晶ポリエステルが、より高度の液晶性を発現し得るものとなり、より実用的な温度で溶融できるため、溶融成形が容易となる利点がある。
【0015】
一方、全構造単位合計に対する(ii)構造単位の合計のモル比率及び(iii)構造単位の合計のモル比率は、それぞれ15〜30モル%であるとより好ましく、それぞれ17.5〜27.5モル%であると、とりわけ好ましい。該モル比率がこのような範囲であると、液晶ポリエステルが、より高度の液晶性を発現し得るものとなり、より実用的な温度で溶融できるため、溶融成形が容易となる利点がある。
【0016】
(i)構造単位を形成するモノマー(芳香族ヒドロキシカルボン酸)としては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、p−ヒドロキシ安息香酸又は4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸が挙げられる。さらに、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸のベンゼン環又はナフタレン環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されてなるものも、モノマーとして用いることができる。この中で、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーは、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸である。
【0017】
(ii)構造単位を形成するモノマー(芳香族ジカルボン酸)としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸又はビフェニル−4,4’−ジカルボン酸が挙げられる。さらに、これらの芳香族ジカルボン酸のベンゼン環又はナフタレン環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されてなるものも、モノマーとして用いることができる。この中で、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーは、2,6−ナフタレンジカルボン酸である。
【0018】
(iii)構造単位を形成するモノマー(芳香族ジオール)としては、2,6−ナフタレンジオール、ハイドロキノン、レゾルシン又は4,4’−ジヒドロキシビフェニルが挙げられる。また、これらの芳香族ジオールのベンゼン環又はナフタレン環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されてなるものも、モノマーとして用いることができる。この中で、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーとは、2,6−ナフタレンジオールである。
【0019】
前記のように、(i)構造単位、(ii)構造単位又は(iii)構造単位は、いずれも芳香環(ベンゼン環又はナフタレン環)に前記のような置換基を有していてもよい。これらの置換基を簡単に例示すると、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、これらは直鎖でも分岐していてもよく、脂環基でもよい。アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0020】
前記の、(i)構造単位、(ii)構造単位又は(iii)構造単位を形成するモノマーは、ポリエステルを製造する過程で、重合を容易にするために、エステル形成性誘導体に転換して用いることが好ましい。該エステル形成性誘導体とは、エステル生成反応を促進するような基を有する化合物を意味する。具体的に例示すると、カルボキシル基を有するモノマーでは、該カルボキシル基を、酸ハロゲン基、酸無水物基に転換したようなエステル形成性誘導体が挙げられ、水酸基を有するモノマーでは、その水酸基を低級カルボン酸エステル基にしたようなエステル形成性誘導体を挙げることができる。
【0021】
前記液晶ポリエステルの製造方法としては、公知の方法を採用できるが、好ましくは、前記エステル形成性誘導体として、モノマー分子内の水酸基を、低級カルボン酸エステル基に転換したエステル形成性誘導体を用いる液晶ポリエステル製造方法が挙げられる。中でも、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールの水酸基をアシル基に転換(アシル化)してなるエステル形成性誘導体(アシル化物)を用いる製造方法が好ましい。アシル化は、通常、水酸基を有するモノマー(芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオール)を、無水酢酸と反応させることで実施できる。このようにして得られたエステル形成性誘導体は、芳香族ジカルボン酸と脱酢酸させながら重合することにより、容易に液晶ポリエステルを製造することができる。
【0022】
前記エステル形成性誘導体を用いた液晶ポリエステル製造方法としては、例えば、特開2002−146003号公報に記載された製造方法が例示できる。この公報に記載された製造方法を簡単に説明する。前記の、(i)構造単位、(ii)構造単位及び(iii)構造単位を形成するモノマーを、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成できるモノマーが、全モノマーの合計に対して、40モル%以上になるように選択し、(i)構造単位を形成する芳香族ヒドロキシカルボン酸及び(iii)構造単位を形成する芳香族ジオールを、アシル化してエステル形成性誘導体に転換する。さらに、該アシル化物と、(ii)構造単位を形成する芳香族ジカルボン酸とが、アシル基とカルボキシル基とが脱酢酸を生じるようにして重合(溶融重合)させる。かかる溶融重合においては、比較的低分子量の液晶ポリエステル(以下、「プレポリマー」と略記することがある。)を得ることができる。次いで、このプレポリマーを粉砕して粉末とし、該粉末を加熱することにより固相重合させる。このように固相重合を用いると、重合がより進行しやすく、液晶ポリエステルの高分子量化を図ることができるため、得られる液晶ポリエステルの流動開始温度をより高温化できるというこのように固相重合は液晶ポリエステルの流動開始温度を高温化できるという利点に加え、後述する液晶ポリエステルのメルトテンションを調整するためにも有効である。
【0023】
溶融重合により得られたプレポリマーを粉末とするには、例えばプレポリマーを冷却固化した後に粉砕することが好ましい。粉砕して得られる粉末の平均粒径は、0.05mm〜3mm程度の範囲が好ましく、0.05mm〜1.5mm程度の範囲が、液晶ポリエステルの高重合度化がより促進されることからより好ましい。また、この平均粒径は0.1mm〜1.0mm程度の範囲であれば、粒子間のシンタリングを生じることがないため、固相重合の操作性が良好になりやすく、効率的に液晶ポリエステルの高重合度化が促進されるため、さらに好ましい。なお、プレポリマーの平均粒径は、外観観察等により求められる。
【0024】
固相重合における加熱条件について好適なものを例示する。まず、室温からプレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度まで昇温する。このときの昇温時間は、特に限定されるものではないが、反応時間の短縮といった観点から1時間以内で行うことが好ましい。
次いで、プレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度から280℃以上の温度まで昇温させる。昇温は、0.3℃/分以下の昇温速度で行うことが好ましく、0.1〜0.15℃/分の昇温速度がより好ましい。該昇温速度が0.3℃/分以下であれば、前記粉末の粒子間のシンタリングがより生じ難くなり、より高重合度の液晶ポリエステルの製造が可能となる。
また、液晶ポリエステルの重合度をより高めるためには、前記固相重合の最終過程において、280℃以上の温度で、好ましくは280℃〜400℃の温度範囲で30分以上反応させることが好ましい。とりわけ、液晶ポリエステルの熱安定性をより良好にする点からは、反応温度280〜350℃で30分〜30時間反応させることが好ましく、反応温度285〜340℃で30分〜20時間反応させることがさらに好ましい。かかる加熱条件は、当該液晶ポリエステルの製造に用いた、モノマーの種類により、適宜最適化することが好ましい。
【0025】
このように固相重合を用いれば、液晶ポリエステルの流動開始温度を280℃以上にすることが比較的短時間で実施可能である。このような流動開始温度を有する液晶ポリエステルは、得られる成形体が機械的強度に優れるだけでなく、高度の耐熱性を有するものとなる。なお、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を意味し、該流動開始温度は当技術分野で周知の液晶ポリエステルの分子量を表す指標である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照、本発明においては、流動開始温度を測定する装置として、株式会社島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500D」を用いる。)。
かかる流動開始温度の測定において、被測定サンプルとなる液晶ポリエステルの形状は、パウダー状のものはもちろん、該液晶ポリエステルを公知の手段によりペレット状にしてもよい。また、この流動開始温度の測定は、前記プレポリマーの流動開始温度を測定する方法としても使用される。
【0026】
前述の流動開始温度測定に供する被測定サンプルとして、前記液晶ポリエステルをペレット状にしてもよいことを記したが、かかるペレット状にした液晶ポリエステルは、後述のメルトテンション測定にも使用できるため、簡単にその作製手段を説明する。
該ペレットの作製に使用する押出機としては、例えば単軸又は多軸押出機が挙げられ、二軸押出機、バンバリー式混錬機、ロール式混練機がより好ましい。メルトテンション測定用として被測定サンプルをペレット化する場合には、該液晶ポリエステルを、その流動開始温度Tp[℃]を基点として、Tp−10[℃]〜Tp+100[℃]の温度範囲で溶融させて、ペレットを得る。液晶ポリエステルの熱劣化を十分に防止するといった観点から、Tp−10[℃]〜Tp+70[℃]の温度範囲で溶融させることが好ましく、Tp−10[℃]〜Tp+50[℃]の温度範囲で溶融させることがさらに好ましい。
【0027】
また、成分(A)に用いる液晶ポリエステルは、その流動開始温度Tp[℃]より高い温度で測定されるメルトテンションが1.0g以上であると好ましい。より好ましくはメルトテンションは1.5g以上であり、より一層好ましくは2.0g以上である。さらには、流動開始温度より25℃高い温度(Tp+25[℃])で測定されるメルトテンションが、1.0g以上である液晶ポリエステルは、後述する高熱伝導率フィラーを高充填してなる液晶ポリエステル樹脂組成物の製造において、安定的に組成物ペレットが製造できる傾向がある。なお、ここでいうメルトテンションとは、キャピログラフに液晶ポリエステルを充填し、シリンダーバレル径1mmφ、ピストンの押出し速度は5.0mm/分、速度可変巻取機で自動昇速しながら試料を糸状に引き取り、破断したときの張力(g)を意味する。
【0028】
ここで、流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンションが1.0g以上の液晶ポリエステルを製造する方法について簡単に説明する。
メルトテンションが高い液晶ポリエステルを得るには、該液晶ポリエステルの分子量を高くすることと、より分子容が小さい構造単位の導入が効果的である。前者では、既述のとおり、より高耐熱性の成形体が得られる観点からも、固相重合による液晶ポリエステル製造を行って、その流動開始温度を前記の範囲とすればよい。
また、後者である分子容の小さい構造単位を導入するためには、単環芳香族基の導入が挙げられる。この観点からは、(i)構造単位として、p−ヒドロキシ安息香酸から形成される構造単位、(ii)構造単位として、テレフタル酸から形成される構造単位及び/又はイソフタル酸から形成される構造単位、(iii)構造単位として、ハイドロキノンから形成される構造単位及び/又はレゾルシンから形成される構造単位の導入量を向上させる方法が挙げられる。また、より高温の流動開始温度の液晶ポリエステルを得るという観点からは、屈曲性の低い構造単位の導入量を高くすることが好ましいので、(ii)構造単位としては、テレフタル酸から形成される構造単位、(iii)構造単位としては、ハイドロキノンから形成される構造単位が好ましい。反面、本発明に適用する液晶ポリエステルには、2,6−ナフタレンジイル基を全芳香族基合計に対して40モル%以上含有させることが必要であり、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位と、テレフタル酸から誘導される構造単位及びハイドロキノンから誘導される構造単位を制御する必要がある。
【0029】
<成分(B)>
成分(B)に用いられる高熱伝導率フィラーとは、非導電性であり、かつ300Kにおける熱伝導率が10W/mK以上のフィラーである。ここで、非導電性とは当該高熱伝導率フィラーが電気絶縁性を有する材質からなることを意味する。熱伝導率の測定には、レーザーフラッシュ法熱定数測定により熱拡散率を求め、さらに示差走査熱量(DSC)測定により比熱を求める。また、比重測定で比重を求めておく。このようにして求められた熱伝導率、比熱及び比重から熱伝導率は算出される。
【0030】
具体的には、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素からなる群より選ばれる1つ以上の材質からなるフィラーが適用可能である。これらの材質からなるフィラーは電気絶縁性であり、300Kにおける熱伝導率が10W/mK以上を示すものである。
【0031】
前記に例示した高熱伝導率フィラーの中でも、より高熱伝導率の成形体が得られる点と、経済性も合わせて考慮すると、酸化マグネシウム又は酸化アルミニウムを材質とするフィラーが好ましい。
また、これらの高熱伝導率フィラーは、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、シラン系カップリング剤などの表面処理剤で表面処理が施されていてもよい。
【0032】
ここで、好適な高熱伝導率フィラーに詳述する。
高熱伝導率フィラーの形状としては、特に限定されるものではなく、粒子状、繊維状、板状のいずれであってもよいが、後述する液晶ポリエステル樹脂組成物の調製において、液晶ポリエステルの加熱溶融体と良好に分散できるような形状のフィラーが好ましい。このように加熱溶融体に良好に分散できるようなフィラーを用いた液晶ポリエステル樹脂組成物は、該液晶ポリエステル樹脂組成物を成形して成形体を得たときに、成形体中に高熱伝導率フィラーが略均一に存在して、該高熱伝導率フィラーに係る特性が良好となる傾向がある。
【0033】
繊維状の高熱伝導率フィラー(繊維状高熱伝導率フィラー)を用いる場合は、繊維状高熱伝導率フィラーを造粒した粒状物としてから使用することもできる。このような粒状物を使用すると、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の成形加工性がより良好となるという利点があり、得られる成形体の熱伝導性がより向上することからも好ましい。
具体的に市場から入手できる繊維状高熱伝導率フィラーの一つとして、酸化アルミニウム繊維がある。この市販酸化アルミニウム繊維を例示すると、例えばアルテックス(住友化学(株)製)、デンカアルセン(電気化学工業(株)製)、マフテックバルクファイバー(三菱化学産資(株)製)、もしくはサフィルアルミナファイバー((株)サフィルジャパン)等が挙げられる。
【0034】
また、前記高熱伝導率フィラーとして粒子状のものも使用可能であり、好適には微粒子状酸化アルミニウムを挙げることができる。
微粒子状の酸化アルミニウム(アルミナ微粒子)としては、αアルミナからなる微粒子が好ましく、酸化アルミニウム(Al23)の含量が95重量%以上であり、数平均粒径が0.1〜100μmであるものが好ましい。該アルミナ微粒子は、酸化アルミニウムの含量が高い方が熱伝導性の面から有利であり、99重量%以上であると好ましく、99.5重量%以上であるとさらに好ましい。また、該数平均粒径が0.1μm以上であると、作業性、とりわけ後述の液晶ポリエステル樹脂組成物を得る際に作業性が良好であり、100μm以下であると、該液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融して成形体を得るうえで、溶融樹脂中の粒状物の分散性が良好となり、いずれも成形加工性が良好となるため好ましい。かかる平均粒径は、0.1〜70μmであるとより好ましく、0.1〜50μmであると、さらに好ましく、0.1〜20μmであると特に好ましい。ここで、数平均粒径とは、走査型電子顕微鏡を使用して粉末微粒子の写真を撮影し、その写真から50〜100個の粒子を選択して画像解析を行って得られた平均値である。
【0035】
このようなアルミナ微粒子としては、市場から容易に入手できるものを用いることができる。このような市販アルミナ微粒子としては、例えば、住友化学(株)製のスミコランダムが挙げられる。また、昭和電工(株)のアルミナ微粒子もしくは日本軽金属(株)製のアルミナ微粒子等も挙げることができる。
【0036】
また、前記高熱伝導率フィラーとしては、酸化マグネシウムからなるもの(酸化マグネシウムフィラー)も好適に使用することができる。
該酸化マグネシウムフィラーは、表面の少なくとも一部に複酸化物よりなる被覆層を有し、その表面の少なくとも一部にリン酸マグネシウム系化合物よりなる被覆層を有する被覆酸化マグネシウムからなるフィラーを用いることが好ましい。このように被覆層を有するフィラー(リン含有被覆酸化マグネシウムからなるフィラー)は比較的耐水性に優れるという利点がある。
このようなリン含有被覆酸化マグネシウムからなるフィラーの平均粒径は、10〜100μmであるものが好ましく、平均粒径20〜50μmのものがより好ましい。平均粒径がこの範囲であれば、成形加工性に優れる傾向がある。
かかるフィラーとして、市場から容易に入手できるものは、クールフィラーCF2−100−A(タテホ化学工業(株))が挙げられる。
なお、酸化マグネシウムフィラーの平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置から求められる累積粒度分布曲線を基にして、累積重量が50%となる平均粒径(メディアン径)で求められる。
【0037】
<その他の成分>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲であれば、必要な特性に応じて補強剤等の添加剤が含有されていてもよい。
ここで添加剤としては、例えばガラス繊維、シリカアルミナ繊維、炭素繊維などの繊維状補強材;ホウ酸アルミニウムウィスカー、チタン酸カリウムウィスカーなどの針状の補強材;ガラスビーズ、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイトなどの無機充填材;フッ素樹脂、金属石鹸類などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤等が挙げられる。これらの添加剤は二種以上を併用してもよい。
また、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有する添加剤を用いることも可能である。更に、少量の液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂、例えば、ポリアミド樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂又はその変性物、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等を含有させることもできる。また、溶融成形を著しく阻害しない程度に加熱溶融できる範囲であれば、少量の熱硬化性樹脂を含有させることもできる。このような熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0038】
<液晶ポリエステル樹脂組成物>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物における、成分(A)と成分(B)との含有比率は、用いる高熱伝導率フィラーの熱伝導性が十分に発現され、かつ溶融加工性が良好となる点で、成分(A)100重量部に対して、成分(B)が150〜450重量部である。好ましくは、成分(A)100重量部に対して成分(B)が150〜300重量部であり、成分(B)が150〜250重量部であるとさらに好ましい。
【0039】
該液晶ポリエステル樹脂組成物は、成分(A)、成分(B)、及び必要に応じて用いられる前記の添加剤等のその他の成分を混合することにより得られる。その調製方法においては、各原料成分を溶融混練できる範囲であれば、その配合手段は特に限定されない。具体的には、成分(A)及び成分(B)、必要に応じて添加されるその他の成分を、各々別々に溶融混合機に供給する方法、これらの原料成分を乳鉢、ヘンシェルミキサー、ボールミル、リボンブレンダー等を利用して予備混合してから溶融混合機に供給する方法等が挙げられる。このような溶融混合(熱溶融)により、液晶ポリエステル樹脂組成物は溶融体となる。
該熱溶融における温度条件は、使用する成分(A)の流動開始温度Tp[℃]を基点にして適宜最適化できる。好ましくは、Tp−10[℃]以上Tp+100[℃]以下の範囲であり、より好ましくは、Tp−10[℃]以上Tp+70[℃]以下の範囲であり、特に好ましくは、Tp−10[℃]以上Tp+50[℃]以下の範囲である。また、成分(A)として2種類以上の液晶ポリエステルの混合物を使用した場合は、該混合物に対して、既述した方法で流動開始温度を求め、その流動開始温度を基点にすればよい。
【0040】
溶融混合で得られた液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融体は、例えば単軸又は多軸押出機、好ましくは二軸押出機、バンバリー式混錬機、ロール式混練機等により紐状に押し出して紐状溶融物を得た後、この紐状に押出された紐状組成物(ストランド)を冷却固化し、固化されたストランドを切断するといった一連の操作により、組成物ペレットに加工できる。また、前記ストランドを冷却固化させることなく、押出機のダイスから吐出した直後、ダイスカッターにより切断して、組成物ペレットに加工するホットカット法も用いることができる。但し、生産性の観点からストランド法とホットカット法とを比較すると、該生産性がより良好となる点で、ストランド法が有利である。このように、単軸又は二軸押出機を用いた調製方法は、溶融混合からペレット化までを連続して行うことができるため、生産性の点で好ましい。成分(A)として、メルトテンション1.0g以上の液晶ポリエステルを用いた場合、押出機等から押出されるストランドが、極めて安定的に得られるという利点があり、かかるストランド法により、安定的に本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物をペレット状に加工することができる。
【0041】
<成形体>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は種々慣用の溶融成形により成形体を製造することを可能とするが、電気・電子部品に用いられるような比較的形状が複雑な成形体を得る点では、成形方法としては射出成形が好ましい。
該射出成形に係る溶融温度は、成分(A)の流動開始温度Tp[℃]を基点にして適宜最適化できる。好ましくは、Tp[℃]以上(Tp+50)[℃]以下の範囲であり、より好ましくは、(Tp+10)[℃]以上(Tp+30)[℃]以下の範囲である。
【0042】
このようにして得られる成形体は、300Kでの熱伝導率が1.0W/mK以上という極めて熱伝導性の高いものとなる。該熱伝導率は1.1W/mK以上であるとさらに好ましい。
また、該成形体は優れた機械的強度を有するものとなる。具体的には、ASTM D638の試験法に従い、求められる引張強度が80MPa以上の機械的強度を有すると好ましく、さらには、ASTM D790の試験法に従い、求められる曲げ強度が100MPa以上の機械的強度を有すると好ましい。
【0043】
<成形体の用途>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物から得られる成形体は優れた熱伝導性を有し、且つ引張強度や曲げ強度等の機械的強度に優れたものとなるので、電気・電子部品に特に好適である。特に、電子素子の封止材、インシュレータ、電子素子収納用の筐体又は表面実装部品等の用途に好適に使用される。電気・電子部品においては、当該部品を備えた電気・電子機器の稼動によって発熱が生じ、且つ該部品の放熱が不十分であると、誤作動等が生じて機器の信頼性が低下し易い。本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物から得られる成形体は、上述のように、熱伝導率が高く放熱に有利な特性を有している。したがって、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物から得られる成形体は、前記のような電気・電子部品に使用したとき、高熱伝導率により当該部品が比較的複雑な形状であったとしても、発熱を効率よく放熱して、当該部品を備えた電気・電子機器の安定的な稼動を実現できる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によって、より詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0045】
なお、液晶ポリエステル樹脂組成物等に係る特性評価は以下に示す試験方法で行った。

(流動開始温度測定方法)
フローテスター〔島津製作所社製、「CFT−500型」〕を用いて試料量約2gを内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターに充填させる。9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶性ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を流動開始温度とした。
【0046】
(メルトテンション測定)
キャピログラフ1B型(東洋精機製作所製)を用いて、試料約10gを仕込み、シリンダーバレル径1mmφ、ピストンの押出し速度は5.0mm/分、速度可変巻取機で自動昇速しながら試料を糸状に引き取り、破断したときの張力(g)を測定した。
【0047】
(熱伝導率測定)
液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融混合して組成物ペレットとした後、得られた組成物ペレットを120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業(株)製、PS40E5ASE型)により、シリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出率30cm3/sで成形し、126mm×12mm×6mmの直方体の成形体を得た。
得られた成形体の長軸方向に沿って平行な方向(TD)に、厚み1mmの試験片を平板状に切り出し、試験用サンプル(熱伝導率評価用サンプル)とした。このサンプルを用いて、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(アルバック理工株式会社製 TC−7000)により熱拡散率を測定した。
比熱はDSC(PERKIN ELMER製DSC7)、比重は自動比重測定装置(関東メジャー株式会社 ASG−320K)により測定した。
熱伝導率は、熱拡散率と比熱と比重の積から求めた。
【0048】
(引張強度測定)
液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融混合して組成物ペレットとした後、得られた組成物ペレットを120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業(株)製、PS40E5ASE型)により、シリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出率30cm3/sで、ASTM4号引張ダンベルを成形した。
この試験用サンプル(ASTM4号引張ダンベル)の引張強度を、ASTM D638の試験法に従い、引張強度を測定した。
【0049】
(曲げ強度測定)
液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融混合して組成物ペレットとした後、得られた組成物ペレットを120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業(株)製、PS40E5ASE型)により、シリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出率30cm3/sで成形して、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの試験用サンプルを作製した。そして、ASTMD790の試験法に従い、この試験用サンプルの曲げ強度を測定した。
【0050】
合成例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温した。310℃で3時間保温してポリエステルを得た。得られたポリエステルを室温まで冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmのポリエステルの粉末(プレポリマー1)を得た。
このプレポリマー1の流動開始温度を測定したところ、267℃であった。
【0051】
得られたプレポリマー1を、窒素雰囲気下、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、さらに。250℃から310℃まで10時間かけて昇温し、次いで、310℃で5時間保温するといった固相重合を行った。その後冷却して、液晶ポリエステルを粉末状で得た。この液晶ポリエステルをLCP1とする。得られたLCP1の流動開始温度を測定したところ、333℃であった。
LCP1は、使用したモノマーのモル比率から、共重合モル分率を求めると、(i)構造単位:(ii)構造単位:式(iii)構造単位で表して、55.0モル%:22.5モル%:22.5モル%となる。これを全芳香族基合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の含有比で表すと、72.5モル%となる。
【0052】
合成例2
合成例1と同様の反応器に、パラヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して1時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了として、ポリエステルを得た。
このポリエステルを室温まで冷却し、粉砕機で粉砕してポリエステルの粉末(プレポリマー2)を得た。このプレポリマー2を、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持するといった固相重合を行った。その後冷却して、液晶ポリエステルを粉末状で得た。このようにして得られた液晶ポリエステルをLCP2とする。得られたLCP2の流動開始温度を測定したところ、327℃であった。
LCP2は、2,6−ナフタレンジイル基を有するモノマーを使用していないので、全芳香族基合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の含有比で表すと、0モル%となる。
【0053】
液晶ポリエステル樹脂組成物の調製用に使用した成分(B)は下記のとおりである。

酸化マグネシウム1(CF2−100−A、タテホ化学工業(株)製)
熱伝導率(300K):48W/mK
平均粒径 :30μm
酸化アルミニウム1(低ソーダアルミナALM−41、住友化学(株)製)
熱伝導率(300K):36W/mK
平均粒径 :1.5μm
炭化ケイ素1(OY−3、屋久島電工(株)製)
熱伝導率(300K):270W/mK
平均粒径 :3.3μm
【0054】
実施例1〜4
合成例1で得られた液晶ポリエステルLCP1及び前記に示した成分(B)を表1に示す配合量で溶融混合して組成物ペレットとし、前記した各種試験方法に従って、射出成形を行い、評価用サンプルを得た。当該評価用サンプルを用い、熱伝導率、引張強度及び曲げ強度を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
比較例1〜4
合成例2で得られた液晶ポリエステルLCP2及び前記に示した成分(B)を表2に示す配合量で溶融混合して組成物ペレットとし、前記した各種試験方法に従って、射出成形を行い、評価用サンプルを得た。当該評価用サンプルを用い、熱伝導率、引張強度及び曲げ強度を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
実施例1〜4の液晶ポリエステル樹脂組成物は、高熱伝導フィラーを高充填しているにも関わらず、引張強度や曲げ強度等の機械的強度に極めて優れた成形体を与える。一方、2,6−ナフタレンジイル基を含まない液晶ポリエステルLCP2を用いた場合(比較例1〜4)、ほぼ同等の熱伝導率を発現する成形体では、引張強度、曲げ強度の何れか又は両方の機械的強度が悪化することが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)100重量部に対して、以下の成分(B)を150〜450重量部含有してなる液晶ポリエステル樹脂組成物。
(A)以下の(i)、(ii)及び(iii)で表される構造単位からなり、Ar1、Ar2及びAr3で表される2価の芳香族基の合計を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基を40モル%以上含み、流動開始温度が280℃以上である液晶ポリエステル
(B)非導電性であり、かつ300Kにおける熱伝導率が10W/mK以上の高熱伝導率フィラー


(式中、Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる2価の芳香族基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる2価の芳香族基を表す。またAr1、Ar2、Ar3で示される芳香族基は、その芳香環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基に置換されていてもよい。)
【請求項2】
成分(B)が、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムからなる群より選ばれる1つ以上の材質からなる高熱伝導率フィラーである請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融成形してなる成形体。
【請求項4】
300Kでの熱伝導率が1.0W/mK以上である請求項3記載の成形体。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の成形体から得られる電気・電子部品。

【公開番号】特開2010−65179(P2010−65179A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234470(P2008−234470)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】