説明

液晶分散シリカナノ粒子

【課題】明るく、高コントラストで駆動電圧の低い、優れた表示性能を有する液晶表示素子を製造することが可能な液晶シリカナノ粒子を提供する。
【解決手段】平均粒子径が400nm以下のシリカナノ粒子の内部に液晶性物質を分散してなる液晶含有シリカナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶含有シリカナノ粒子およびそれを用いた液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、薄型、軽量、低電力駆動であり、消費電力も低いなどの利点を有する。現在の液晶表示装置は、TFT駆動が主力である。液晶の配向は、ポリイミドを薄く塗布し、乾燥し、硬化させた後、ラビング処理を施すことにより規制されている。液晶を電圧無印加のときに垂直に配向させるためには、通常、ポリイミドからなる塗布膜に垂直に立つアルキル鎖を導入することで行っている。
【0003】
また、液晶パネルを作製するためには、配向処理を施した2枚の基板の間に液晶を注入する必要があり、注入に時間がかかる、大きな面積の素子を作製する場合には、基板間の隙間が小さく、注入が困難であるなどの問題がある。更に、偏光子を用いることにより光のスイッチングを行っているため、光利用効率が低く、特に、外光を利用した反射型液晶パネルの場合には、白の反射率が低くなるという問題がある。
【0004】
シリカナノ粒子の調製は、Stoberらによるゾル‐ゲル法が一般的であり、水とエタノール(4:1)の混合溶媒中にテトラエチルオルソシリケート(TEOS)とその重縮合のために濃アンモニア水を加えて室温で攪拌して調製する方法で行われている。その際に、使用するアルコール、TEOSやアンモニア水の濃度や反応時間により粒子サイズを調整することができる。しかしながら、本方法を用いて液晶をナノサイズのシリカ粒子に固定したのは初めてである。
【0005】
このような問題を解決するために、様々な方法が採られている。例えば、特許文献1〜3は、液晶シリカナノ粒子を用いた液晶表示素子を開示している。しかしながら、これらの液晶シリカナノ粒子は、透明性、着色性、コントラストなどの点で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-142822号公報
【特許文献2】特開平10-081882号公報
【特許文献3】特開2002-275471
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、明るく、高コントラストで駆動電圧の低い、優れた表示性能を有する液晶表示素子を製造することが可能な液晶シリカナノ粒子を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、明るく、高コントラストで駆動電圧の低い、優れた表示性能を有する液晶表示素子を製造することが可能な液晶シリカナノ粒子を提供することにある。
【0009】
さらに本発明は、現行の液晶ディスプレーの省エネルギー代替部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、シリカナノ粒子にネマチック液晶等の液晶性物質を分散させた新たな機能性ナノ粒子の作製に成功した。得られたナノ粒子は光学的異方性を有し、
本発明は、以下の液晶含有シリカナノ粒子およびそれを用いた液晶表示素子を提供するものである。
項1. 平均粒子径(長径或は半径)が400nm以下のシリカナノ粒子の内部に液晶性物質を分散してなる液晶含有シリカナノ粒子。
項2. 液晶性物質がシリカ内部に分散して存在する微小空間に存在することにより生成する光学的異方性を持つことを特徴とする項1に記載の液晶含有シリカナノ粒子。
項3. 内包される液晶性物質がネマチック相を持つ液晶であることを特徴とする項1に記載の液晶含有シリカナノ粒子。
項4. 内包される液晶性物質が温度により結晶固体、液体との可逆的相転移を示す項1に記載の液晶含有シリカナノ粒子。
項5. 内包される液晶性物質が外部より印加される電場によりその配向を変えることが可能な項1に記載の液晶含有シリカナノ粒子。
項6. 電場の印加により複屈折が変化する項1に記載の液晶含有シリカナノ粒子。
項7. 単結晶である項1に記載の液晶含有シリカナノ粒子。
項8. 項1〜7のいずれか1項に記載の液晶含有シリカナノ粒子を含む液晶表示素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液晶含有シリカナノ粒子は、液晶性材料をその性質を有するように内包することができ、明るく、高コントラストで優れた表示品位の液晶表示装置を提供できる。
【0012】
本発明のシリカナノ粒子は、基板に塗布して液晶シリカナノ粒子膜を形成したときに良好な配向を有する液晶表示素子を得ることができる。
【0013】
本発明は、現行の液晶ディスプレーの省エネルギー代替部材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ZLI1132を含んだシリカナノ粒子水分散液。
【図2】ZLI1132を含んだシリカナノ粒子水分散液の吸収スペクトル。
【図3】結晶様の固体片の偏光顕微鏡写真。直交ニコル下で観察すると左写真のように見えるが、試料を45°回転させると右図のような消光が一様に生じる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
液晶性材料を含むシリカナノ粒子は、既存のシリカナノ粒子の合成法に従い合成することができる。具体的には、シリカナノ粒子の合成は、シリカナノ粒子の原料となるシランアルコキシドと液晶性材料を低級アルコール或いは低級アルコールと水の混合溶媒に溶解ないし分散し、濃アンモニア水などの塩基性物質で重合させるなどの常法に従い得ることができる。好ましい合成法は、ストーバー法である。
【0016】
液晶性材料を含むシリカナノ粒子は、光学的に異方性を有する結晶を包含する。本発明のシリカナノ粒子は、光学的に異方性を有する結晶のみからなっていてもよく、光学的に異方性を有する粒子(結晶)と光学的に等方性の粒子(結晶)の混合物であってもよい。
【0017】
液晶性材料としては、任意の材料が使用でき、例えばZLI1132 (Merk, aeutectic mixture of alkylcyclohexylcyanobenzenes and alkyl-cyclohexylcyanobiphenyls)、5CB (Aldrich, 4’-Pentyl-4-biphenyl-carbonitrile)などが挙げられる。
【0018】
本発明のシリカナノ粒子は、平均粒子径が400nm以下、好ましくは15〜400nm、より好ましくは15〜100nmである。また、多分散度は、1.5以下、好ましくは1.4以下、より好ましくは1.3以下、さらに好ましくは1.2以下、特に好ましくは1.1以下、特に1.05以下である。本発明のシリカナノ粒子は、粒径が揃っており、平均粒子径付近の粒子径を有する粒子が多く、多分散度が小さい特徴を有する。多分散度が小さいため、粒子径のバラツキが無く、透明性が高い利点がある。
【0019】
電子顕微鏡でシリカナノ粒子の直径(長径)を測定して、その直径の相加平均を平均粒子径とすることができる。
【0020】
本発明の液晶含有シリカナノ粒子は、シリカナノ粒子99.9Wt%〜99wt%重量部、好ましくは99.9wt%〜99.2wt%重量部、より好ましくは99.85wt%〜99.4wt%重量部と液晶性材料0.1wt%〜1wt%重量部、好ましくは0.1wt%〜0.8wt%重量部、より好ましくは0.15wt%〜0.6wt%重量部を含むものである。
【0021】
液晶シリカナノ粒子に用いる液晶性材料は、特に限定されないが、ネマティック液晶、スメクティック液晶、コレステリック液晶等を用いることができ、単一もしくは2種類以上の液晶性化合物や液晶性化合物以外の物質も含んだ混合物であってもよい。
【0022】
液晶性材料に二色性色素を添加したGH液晶材料を用いることで、偏光板が不要になるため、良好な表示特性が得られる。用いる二色性色素は、できるだけ二色比の高いものがよく、望ましくは二色比10以上がよい。
【0023】
本発明の液晶表示素子は、モノクロ表示、カラー表示のいずれも可能である。モノクロ表示の場合は、液晶材料に黒の二色性色素を添加する。カラー表示の場合は、カラーフィルタを用いるか、イエロー、シアン、マゼンタの各二色性色素を添加した液晶を用いて、3色の液晶シリカナノ粒子を作成し、それぞれを積層した3層GHホスト型液晶表示素子を構成することにより実現される。また、赤、青、緑の各二色性色素を添加した液晶材料を用いて粒子を作成した場合は、これらをカラーフィルタと同様に基板上に印刷し、並置混色により表示させることも可能である。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の液晶シリカナノ粒子および表示装置について、実施例を参照して、より詳細に説明する。
【0025】
実施例1
Stoberによるゾル‐ゲル法を用いて、シランアルコキシドの加水分解と重縮合反応によりシリカナノ粒子を調製する。すなわち、エタノールと蒸留水の体積比を4:1としてこれに、液晶ZLI1132 (Merk, aeutectic mixture of alkylcyclohexylcyanobenzenes and alkyl-cyclohexylcyanobiphenyls)を加えた後、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)を加えてこれを加水分解させ、濃アンモニア水を加えて重縮合させることによりZLI1132を含んだシリカナノ粒子を調製した。調製後は、溶液中に残るZLI1132を取り除くために、エタノールで限外ろ過4回洗浄した後、蒸留水に置換してZLI1132を含んだシリカナノ粒子水分散液を得た。
【0026】
実際には、80-100℃のホットプレート上でガラス製サンプル瓶中の4mlのエタノールにZLI1132 50μlを加えて磁気撹拌した。その後、TEOSを50μl加えて撹拌を続け、さらに、蒸留水1ml、濃アンモニア水を50μl加えて1日磁気撹拌放置した。その後、エタノールを使って限外ろ過(Amicon, YM-100メンブランフィルター、孔径約10nm使用)洗浄を4回行った後、さらに蒸留水で洗浄してZLI1132を含んだシリカナノ粒子水分散液を得た(図1)。その吸収スペクトルを図2に示す。その後、デシケータ中で乾燥して白色粉末約1.6mgを得た。
【0027】
実施例2
Stoberによるゾル‐ゲル法を用いて、シランアルコキシドの加水分解と重縮合反応によりシリカナノ粒子を調製する。すなわち、エタノールと蒸留水の体積比を4:1としてこれに、液晶5CB (Aldrich, 4’-Pentyl-4-biphenyl-carbonitrile, 98%)を加えた後、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)を加えてこれを加水分解させ、濃アンモニア水を加えて重縮合させることにより5CBを含んだシリカナノ粒子を調製した。調製後は、溶液中に残る5CBを取り除くために、エタノールで限外ろ過4回洗浄した後、遠心分離して沈殿を得た。その沈殿を乾燥することで5CBを含んだシリカナノ粒子の白色粉末を得た。
【0028】
実際には、室温でガラス製サンプル瓶中の20mlのエタノールに5CB 100μlを加えて磁気撹拌した。その後、TEOSを250μl加えて撹拌を続け、さらに、蒸留水5ml、濃アンモニア水を250μl加えて1日撹拌放置した。その後、エタノールを使って限外ろ過(Amicon, YM-100メンブランフィルター、孔径約10nm使用)洗浄を7回行った後、デシケータ中で室温で乾燥して5CBを含んだシリカナノ粒子白色粉末を約59.6mg得た。粉末固体中に結晶様の固体片が存在し、偏光顕微鏡により直交ニコル下観察すると図3のような光学的に異方性を持つ単結晶が得られたことが確認された。
【0029】
5CB溶液の紫外可視吸収スペクトルと調製した液晶分散シリカナノ粒子の分散溶液スペクトルの吸光度比較によりシリカナノ粒子中に分散している5CBの量は0.1〜1 wt%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径(長径或は半径)が400nm以下のシリカナノ粒子の内部に液晶性物質を分散してなる液晶含有シリカナノ粒子。
【請求項2】
液晶性物質がシリカ内部に分散して存在する微小空間に存在することにより生成する光学的異方性を持つことを特徴とする請求項1に記載の液晶含有シリカナノ粒子。
【請求項3】
内包される液晶性物質がネマチック相を持つ液晶であることを特徴とする請求項1に記載の液晶含有シリカナノ粒子。
【請求項4】
内包される液晶性物質が温度により結晶固体、液体との可逆的相転移を示す請求項1に記載の液晶含有シリカナノ粒子。
【請求項5】
内包される液晶性物質が外部より印加される電場によりその配向を変えることが可能な請求項1に記載の液晶含有シリカナノ粒子。
【請求項6】
電場の印加により複屈折が変化する請求項1に記載の液晶含有シリカナノ粒子。
【請求項7】
単結晶である請求項1に記載の液晶含有シリカナノ粒子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の液晶含有シリカナノ粒子を含む液晶表示素子。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−82082(P2012−82082A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227564(P2010−227564)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】