説明

液晶性ポリエステル

【課題】 耐熱性、難燃性および溶融成形性に優れた液晶性ポリエステルを提供する。
【解決手段】 1,4−シクロオクチルホスホニル−1,4−ベンゼンジオールと1,5−シクロオクチルホスホニル−1,4−ベンゼンジオールの混合体に代表される成分(1)と下記(2)のモル比が実質的に等しく、(1)と下記(3)のモル比が5/95〜95/5の範囲である液晶性ポリエステル。
−OC−Ar1−CO− (2)
−O−Ar2−CO− (3)
(Ar、Arは2価の芳香族基であり、同じ基でも異なる基でもよく、芳香環は置換基を有していてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、難燃性および溶融成形性に優れた液晶性コポリエステルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐熱性高分子として芳香族ポリエステルが知られている。しかしながら、芳香族ポリエステルの大部分な加工困難な物質であり、用途が限られている。
【0003】
また、一般に、芳香族ポリエステルは、難燃性に優れているとされているが、後述する限界酸素指数では高々40程度であって、十分な難燃性とはいい難く、さらに、非常に融点が高く、同時に溶融粘度が高いため、高温高圧で加工しなければならないという極めて不都合なものである。そして、高温に長時間暴露することは、ポリエステルの分解の面から見ても得策ではなく、経済的にも不利である。
【0004】
そこで、耐熱性、難燃性および溶融加工性に優れた液晶性の芳香族ポリエステルの開発に関心が注がれ、多くの提案がなされてきた。
【0005】
例えば、特許文献1や特許文献2で特定の含リン芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸および芳香族ヒドロキシカルボン酸からのコポリエステルが優れた耐熱性および難燃性を有するとともに、溶融加工性も良好であることを見出されている。しかしながら、これらのコポリエステルでも、まだ耐熱性が不十分であるため、より耐熱性が高く、難燃性、溶融加工性に優れたコポリエステルが求められていた。
【0006】
【特許文献1】特開昭62―174228号公報
【特許文献2】特公平8―13880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下、本発明の課題は難燃性および溶融成形性に優れ、より耐熱性が高い液晶性ポリエステルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決するため鋭意研究した結果、下記構造式(1)であらわされる構成単位を特定量含有すれば耐熱性、難燃性および溶融成形性に優れた液晶性コポリエステルとなることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は前記の目的を達成するもので、その要旨は、次のとおりである。
【0010】
下記構造式(1)〜(3)で表される構成単位から主としてなり、(1)と(2)のモル比が実質的に等しく、(1)と(3)のモル比が5/95〜95/5の範囲である液晶性ポリエステル。
【0011】
【化1】

【0012】
−OC−Ar1−CO− (2)
−O−Ar2−CO− (3)
〔上記構造式(1)〜(3)において、A、Aは、アルキル基またはアルコキシ基であり、同じ基でも異なる基でもよい。Ar、Arは2価の芳香族基であり、同じ基でも異なる基でもよく、芳香環は置換基を有していてもよい。〕
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐熱性、難燃性高分子として優れた物性を有する新規な液晶性ポリエステルが提供され、このポリエステルは、高度の耐熱性、難燃性を要求される用途に使用されるフィルム、繊維、成形用素材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明におけるポリエステルを構成する第一の構成単位は、前記構造式(1)で表される含リン芳香族ジオール残基である。
【0016】
含リン芳香族ジオール残基の具体例としては、1,4−シクロヘキシルホスホニル−1,4−ベンゼンジオール、1,4−シクロペプチル−ホスホニル−1,4−ベンゼンジオール、1,4−シクロオクチルホスホニル−1,4−ベンゼンジオール、1,4−シクロノニルホスホニル−1,4−ベンゼンジオール、1,3−シクロヘキシルホスホニル−1,4−ベンゼンジオール、1,3−シクロペプチル−ホスホニル−1,4−ベンゼンジオール、1,5−シクロオクチルホスホニル−1,4−ベンゼンジオール、1,5−シクロノニルホスホニル−1,4−ベンゼンジオールおよびそれらの混合体が挙げられるが、特に1,4−シクロオクチルホスホニル−1,4−ベンゼンジオールと1,5−シクロオクチルホスホニル−1,4−ベンゼンジオールの約50:50の混合体が日本化学工業社から商品名「CPHO−HQ」として販売されており、工業的に入手しやすく好適である。
【0017】
ポリエステルを構成する第二の構成単位は前記構造式(2)で表される芳香族ジカルボン酸残基である。
【0018】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸(TPA)、イソフタル酸(IPA)、4,4′−ジカルボキシジフェニル、2,6−ナフタレンジカルボン酸等が挙げられるが、特にTPAおよびIPAが好適であり、 TPAとIPAとをモル比で100/0〜0/100、好ましくは100/0〜50/50、最適には100/0〜70/30の割合で用いるのが適当である。
【0019】
ポリエステルを構成する第三の構成単位は前記構造式(3)で示される芳香族ヒドロキシカルボン酸残基である。
【0020】
芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、3−フェニル−4−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸等が挙げられるが、特に4−ヒドロキシ安息香酸が好ましい。
【0021】
構成単位(1)と(2)とは実質的に等モルであることが必要であり、この要件が満足されないと高重合度のポリエステルが得られない。また、構成単位(1)と(3)とのモル比は、5/95〜95/5、好ましくは10/90〜80/20、最適には15/85〜50/50である。構成単位(1)と(3)とのモル比が5/95よりも小さいと難燃性が向上しないので好ましくない。また、95/5よりも大きいと液晶性が得られないので好ましくない。
【0022】
本発明のポリエステルは、液晶性を示す。ここで液晶性とは、固体状態のポリマーを偏光顕微鏡下で加熱したとき、ポリマーが溶融する際に透過光量が変化する性質である。
【0023】
本発明のポリエステルは、流動開始温度が通常330℃以下で、成形し易いポリエステルである。
【0024】
本発明のポリエステルは、耐熱性や各種の物理的、化学的特性の面から、極限粘度〔η〕が0.5以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.6〜5.0、最適には0.7〜3.0である。なお、〔η〕が5.0より大きいと溶融粘度が高くなりすぎて成形性、流動性等が損なわれたりして好ましくないときがある。
【0025】
本発明のポリエステルには、その効果を損なわない範囲で、必要に応じて硬化剤、各種添加剤、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料、染料、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、セルロース誘導体等を配合することができる。また、本発明のポリエステルには、必要に応じて、顔料分散剤、紫外線吸収剤、離型剤、顔料分散剤、滑剤等の添加剤を配合することができる。
【0026】
次に、本発明のポリエステルの製造法について説明する。
【0027】
本発明のポリエステルは、常法に従って製造することができる。例えば、全モノマー成分と無水酢酸を不活性雰囲気下で120〜150℃でアセチル化をおこない、続いて、200〜300℃でエステル化反応をおこない、さらに、常圧もしくは減圧下、好ましくは1.3ヘクトパスカル以下の高減圧下に、280℃以上の温度で、10〜120分間程度反応させ、所望の分子量に達するまで重縮合反応を進めてポリエステル樹脂を得る方法等を挙げることができる。
【0028】
なお、ポリエステルを製造する際には、通常、重縮合触媒が用いられるが、重縮合触媒としては、各種金属化合物あるいは有機スルホン酸化合物の中から選ばれた1種以上の化合物を用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。
【0030】
なお、例中の特性値等の測定法は、次のとおりである。
【0031】
(1)元素分析
H−NMR分析(バリアン社製,300MHz)より求めた。
【0032】
(2)極限粘度〔η〕
フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン=6/4(質量比)の混合溶媒中、20℃で測定した溶液粘度から求めた。
【0033】
(3)ガラス転移点
ポリエステル10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、得られた昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値を求め、これをガラス転移温度(Tg)とした。Tgは160℃以上であれば好ましい。
【0034】
(4)流動開始温度
フローテスター(島津製作所製CFT−500型)を用い、直径0.5mm、長さ2.0mmのダイで、荷重を9.8MPa(100kgf/cm)とし、初期温度200℃より昇温速度10℃/分で昇温して行き、ポリマーがダイから流出し始める温度(Tf)として求めた。Tfが300℃以上の場合、耐熱性があると判断した。
(5)難燃性
JIS K7201規格に準拠し、1/16インチの厚みの試料についてLOI(限界酸素指数)を測定した。LOIが50以上の場合、難燃性があると判断した。
(6)液晶性
ホットステージ付Leitz偏光顕微鏡で確認した。固体状態のポリマーを偏光顕微鏡下で温度をかけたとき、ポリマーが溶融する際に透過光量が変化するものを液晶性がある場合として○、変化しない場合を×とした。
【0035】
実施例1
反応装置に、日本化学工業社製CPHO−HQ、TPA、4−ヒドロキシ安息香酸(POB)および無水酢酸(AcO)をモル比で30:30:70:156となるように仕込み、触媒としてオクチル酸スズを生成ポリエステル(理論量)のエステル結合1モルに対して4×10-4モル加え、窒素雰囲気下、常圧、140℃で2時間混合しながら反応させた。この反応物をさらに常圧下、200℃で2時間、さらに、280℃で2時間反応させた。その後減圧、昇温して反応を行い、最終的に320℃、1.3ヘクトパスカル以下の減圧下で2時間反応させて、〔η〕1.5のポリエステルを得た。
【0036】
得られたポリエステルは、Tgが175℃、Tfが312℃であり、耐熱性が高い液晶性ポリエステルであった。
【0037】
この液晶性ポリエステルの赤外線吸収スペクトルを図1に示す。
【0038】
また、このポリエステルのNMR測定による元素分析の結果は、C=68.0%(理論値68.0%)、H=4.5%(理論値4.5%)、O=22.9%(理論値22.9%)、P=4.6%(理論値4.6%)であった。
【0039】
実施例2〜5、比較例1、2
実施例1において、CPHO−HQ、TPA(IPA)、POBの割合を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行ってポリエステルを得た。
【0040】
【表1】

実施例1〜5は、いずれも、Tgが160℃以上、Tfが300℃以上で耐熱性があり、しかもLOIが50以上で難燃性があり、さらに溶融成形性に優れた液晶性ポリエステルであった。
【0041】
これに対して、各比較例では次のような不具合があった。
【0042】
比較例1では、POBが含まれていないので液晶性が示されず、急激にTfが下がり、耐熱性が低下した。
【0043】
比較例2では、CPHO−HQが全く含まれていないので、難燃性の向上が見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1で製造した液晶性ポリエステルの赤外線吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)〜(3)で表される構成単位から主としてなり、(1)と(2)のモル比が実質的に等しく、(1)と(3)のモル比が5/95〜95/5の範囲である液晶性ポリエステル。
【化1】

−OC−Ar1−CO− (2)
−O−Ar2−CO− (3)
〔上記構造式(1)〜(3)において、A、Aは、アルキル基またはアルコキシ基であり、同じ基でも異なる基でもよい。Ar、Arは2価の芳香族基であり、同じ基でも異なる基でもよく、芳香環は置換基を有していてもよい。〕
【請求項2】
極限粘度が0.5以上である請求項1記載の液晶性ポリエステル。
【請求項3】
溶融開始温度が300℃以上である請求項1記載の液晶性ポリエステル。
【請求項4】
ガラス転移点が160℃以上である請求項1記載の液晶性ポリエステル。
【請求項5】
限界酸素指数が50以上である請求項1記載の液晶性ポリエステル。


【図1】
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【公開番号】特開2007−23132(P2007−23132A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205894(P2005−205894)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】