説明

液晶性樹脂組成物、その製造方法および成形品

【課題】絶縁性、耐熱性、機械特性に優れる液晶性樹脂組成物、およびそれからなる成形品を提供する。
【解決手段】液晶性樹脂(A)を100重量部、一次粒子径10〜50nmのカーボンブラック(B)を1〜10重量部、メディアン径1〜20μmのタルク(C)を0.1〜10重量部配合してなる液晶性樹脂組成物であり、液晶性樹脂(A)中にカーボンブラック(B)が平均粒子径50μm以下で分散していることを特徴とする液晶性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラックを含む液晶性樹脂組成物に関するものである。更に詳しくは、黒色を要求される用途において、絶縁性、耐熱性、機械的特性に優れたカーボンブラックを含む液晶性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックの高性能化に対する要求がますます高まり、種々の新規性能を有するポリマが数多く開発され、市場に供されているが、中でも分子鎖の平行な配列を特徴とする光学異方性の液晶性樹脂は、優れた流動性、耐熱性、低ガス性および機械的性質を有する点で注目されている。
【0003】
液晶性樹脂は、前述の特徴を生かして、薄肉部あるいは複雑な形状の電気・電子部品に好適な材料として、例えばコネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビンなどに使用されている。しかしながら、近年の軽薄短小化の流れの中で、製品形状はますます薄肉化の要望が強く、前述の電気・電子部品に関しても更なる機械的強度、流動性の向上が求められており、数種類の部品を組み立ててなる前述の部品などは部品の見分けを簡素化するために黒着色された液晶性樹脂が求められている。一方、製品形状の薄肉化に伴い、特にコネクタなどの金属端子間の成形品肉厚はますます薄肉化が進行しており、これらの成形品を黒着色された液晶性樹脂組成物を用いて成形した場合、コネクタの金属端子間でカーボンブラック粒子の凝集による絶縁不良問題が頻発している。カーボンブラックは一次粒子径の大きさにより凝集のし易さが異なり、一次粒子径が小さいもの程、少量の添加で黒着色しやすい反面、凝集し易く絶縁不良を引き起こし易い。また、凝集しにくくするために一次粒子径が大きなカーボンブラックを添加した場合、所望の黒色に着色するために多量の添加が必要となり、絶縁不良の悪化、機械的強度の低下が引き起こされる。また、絶縁不良は製品を組立後に判明する問題であることから、絶縁不良が発生した場合は製品全体への影響が大きく、改善を求められていた。
【0004】
特許文献1にはpH5〜8のカーボンブラックを用い液晶性樹脂を黒着色することで機械特性、成形安定性に優れる方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、本方法ではカーボンブラックの微分散化が不十分であり、薄肉化した金属端子間で絶縁性を維持することは非常に困難である。
【特許文献1】特許第3362489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0007】
したがって、本発明の目的は、、カーボンブラックを含み、絶縁性、耐熱性、機械的特性に優れた液晶性樹脂組成物に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、液晶性樹脂、カーボンブラック、タルクが配合された液晶性樹脂組成物であって、カーボンブラックが液晶性樹脂の相に平均粒子径50μm以下で分散していることを特徴とする液晶性樹脂組成物が上記課題を解決することを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、液晶性樹脂(A)を100重量部、一次粒子径10〜50nmのカーボンブラック(B)を1〜10重量部、メディアン径1〜20μmのタルク(C)を0.1〜10重量部配合してなる液晶性樹脂組成物であり、液晶性樹脂(A)中にカーボンブラック(B)が平均粒子径50μm以下で分散していることを特徴とする液晶性樹脂組成物である。
【0010】
カーボンブラック(C)の2次凝集を微細なタルクの添加により有効に防止することができ、液晶性樹脂中に安定して微分散状態を保持させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、絶縁性、耐熱性、機械特性に優れたカーボンブラックを含む液晶性樹脂組成物を提供することができる。この液晶性樹脂組成物は、黒色で、絶縁性が要求され、薄肉部を有する成形品、特にコネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビンなどの用途に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いる液晶性樹脂(A)としては、異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルおよび液晶性ポリエステルアミドなどが挙げられ、その具体例としては、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、エチレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル、および上記構造単位と芳香族イミノカルボニル単位、芳香族ジイミノ単位、芳香族イミノオキシ単位などから選ばれた構造単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルアミドが挙げられる。
【0013】
異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルの例としては、好ましくは下記の(I)、(II)および(III)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、および、(I)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルなどが挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
(ただし式中のR1は、
【0016】
【化2】

【0017】
から選ばれた一種以上の基を示し、R2は、
【0018】
【化3】

【0019】
から選ばれた一種以上の基を示す。また、式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位(II)および(III)の合計と構造単位(IV)は実質的に等モルである。)
上記構造単位(I)は、p−ヒドロキシ安息香酸から生成したポリエステルの構造単位であり、構造単位(II)は、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルから選ばれた一種以上の芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位を、構造単位(III)は、エチレングリコールから生成した構造単位を、構造単位(IV)は、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および1,2−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸から選ばれた一種以上の芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位を各々示す。これらのうちR1が
【0020】
【化4】

【0021】
であり、R2が
【0022】
【化5】

【0023】
であるものが特に好ましい。
【0024】
また、液晶性ポリエステルアミドの例としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、p−アミノフェノールとテレフタル酸から生成した液晶性ポリエステルアミド、p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸、p−アミノ安息香酸およびポリエチレンテレフタレートから生成した液晶性ポリエステルアミド(特開昭64−33123号公報)などが挙げられる。
【0025】
本発明に好ましく使用できる液晶性ポリエステルは、上記構造単位(I)、(II)および(IV)からなる共重合体、または、(I)、(II)、(III)および(IV)からなる共重合体であり、上記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)の共重合量は任意である。しかし、流動性の点から次の共重合量であることが好ましい。
【0026】
すなわち、上記構造単位(III)を含む場合は、耐熱性、難燃性および機械的特性の点から、上記構造単位(I)および(II)の合計は、構造単位(I),(II)および(III)の合計に対して60〜95モル%が好ましく、75〜93モル%がより好ましい。また、構造単位(III)は、構造単位(I),(II)および(III)の合計に対して40〜5モル%が好ましく、25〜7モル%がより好ましい。また、構造単位(I)の構造単位(II)に対するモル比[(I)/(II)]は、耐熱性と流動性のバランスの点から好ましくは75/25〜95/5であり、より好ましくは78/22〜93/7である。また、構造単位(IV)は構造単位(II)および(III)の合計と実質的に等モルである。
【0027】
一方、上記構造単位(III)を含まない場合は、流動性の点から上記構造単位(I)は構造単位(I)および(II)の合計に対して40〜90モル%であることが好ましく、60〜88モル%であることが特に好ましい。構造単位(IV)は構造単位(II)と実質的に等モルである。
【0028】
なお、上記において「実質的に等モル」とは、末端を除くポリマ主鎖を構成するユニットとしてはジオキシ単位とジカルボニル単位が等モルであるが、末端を構成するユニットとしては必ずしも等モルとは限らないことを意味する。
【0029】
なお、本発明で好ましく使用できる上記液晶性ポリエステルを重縮合する際には、上記構造単位(I)〜(IV)を構成する成分以外に、3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンなどの芳香族ジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族、脂環式ジオール、m−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸などを、本発明の目的を損なわない程度の少割合の範囲でさらに共重合せしめることができる。 また、液晶性ポリエステルアミドとしては、上記好ましい液晶性ポリエステルに、さらにp−アミノフェノールおよび/またはp−アミノ安息香酸を共重合したものも好ましく挙げることができる。
【0030】
本発明における液晶性ポリエステルの製造方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。
【0031】
例えば、上記の好ましく用いられる液晶性ポリエステルの製造において、上記構造単位(III)を含まない場合は下記(1)および(2)の製造方法が、構造単位(III)を含む場合は下記(3)の製造方法が好ましく挙げられる。
【0032】
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4’−ジアセトキシビフェニル、4,4’−ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物とテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0033】
(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0034】
(3)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマ、オリゴマまたはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートなど芳香族ジカルボン酸のビス(β−ヒドロキシエチル)エステルの存在下で、(1)または(2)の方法により液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0035】
これらの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を添加した方が好ましいときもある。
【0036】
本発明で用いるカーボンブラック(B)としては一般に市販されている黒着色用カーボンブラックを使用することができ、ファーネスブラック系、ランプブラック系、チャンネルブラック系などが挙げられるが、特に、ファーネスブラック系のものが好ましく使用できる。
【0037】
本発明で用いるカーボンブラック(B)の一次粒子径は10〜50nmである必要があり、20〜40nmのものであることが特に好ましい。カーボンブラックの一次粒子径が50nmを超える場合には、所望の黒色を得るために、液晶性樹脂に対し多量添加が必要となり、絶縁性が悪化する。また、10nm未満のものはカーボンブラック粒子がより凝集し易くなり、絶縁性が悪化するため好ましくない。
【0038】
本発明において、カーボンブラック(B)の添加量は、液晶性樹脂100重量部に対して、1〜10重量部であり、好ましくは、1〜5重量部である。カーボンブラック(B)の添加量が1重量部未満の場合には、所望の黒色度を得ることが難しく、10重量部を超える場合には、絶縁性の悪化に加え、機械特性が著しく低下するため好ましくない。
【0039】
本発明で用いるタルク(C)は一般に市販されているタルクを使用することができるが、メディアン径が1〜20μmである必要があり、1〜10μmのものであることが特に好ましい。1〜20μmの範囲を外れるタルクを使用した場合はカーボンブラックの分散性向上に効果が低く好ましくない。
【0040】
本発明において、タルク(C)の添加量は、液晶性樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜10重量部であり、好ましくは、0.5〜5重量部である。タルク(C)の添加量が0.1重量部未満の場合にはカーボンブラックの分散性向上に効果が低く、10重量部を超える場合には、機械的特性が低下するため好ましくない。
【0041】
[カーボンブラックの分布]
本発明のカーボンブラック(B)は、液晶性樹脂(C)の相に平均粒子径50μm以下で分散していることが必要である。ここでいう分散とは液晶性樹脂(C)層において、添加したカーボンブラック(B)が細かく散在している状態を指している。これは、液晶性樹脂の相中で、カーボンブラックが微分散化していることを意味し、この液晶性樹脂組成物を成形して得られる成形品において良好な絶縁性付与することが可能となる。前記散在しているカーボンブラックが50μmを越えると絶縁不良が発生しやすくなるため、50μm以下が好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
【0042】
本発明で用いられるタルクを除く無機充填材とは主なものとして、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ワラステナイト、石英粉末、ケイ酸アルミニウム、カオリン、ガラスビース、ガラスバルーン、ガラスフレーク、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、マイカなどが挙げられる。
【0043】
タルクを除く無機充填材の添加量は、液晶性樹脂100重量部に対して、10〜200重量部であり、これらのタルクを除く無機充填材は単独でも、また2種以上の無機充填材を併用しても良い。
【0044】
[カーボンブラックを含む液晶性樹脂組成物の製造方法]
カーボンブラックは一次粒子径が小さいものほど凝集力が強く、液晶性樹脂中での分散性が悪化することから、事前に凝集を防止することが重要である。本発明のカーボンブラックを含む液晶性樹脂組成物の製造方法は、カーボンブラック、タルクを予めドライブレンドし、カーボンブラックの凝集を防止した上で、その混合物を液晶性樹脂と溶融混練することを特徴としており、ドライブレンドの際には一般的に使用されている機械を用いることができる。具体的には、円筒型、V型、ダブルコーン型などの容器回転混合機、横型リボン型、縦型リボン型、水平スクリュー型、縦型スクリュー型、パドル型、マラー型、遊星運動型などの機械攪拌型混合機、エレメントなどを用いて混合する無攪拌型、重力型などの機械的攪拌を行わない混合機、単軸ローター型、ヘンシェルミキサー、回転円盤型などの高速攪拌型混合機が挙げられ、中でもカーボンブラック分散性向上の点からヘンシェルミキサーが好ましい。
【0045】
溶融混練機としては、ニーダー、ロールミル、単軸押出機、2軸押出機、多軸押出機などが挙げられ、2軸押出機での溶融混練がより好ましい。2軸押出機とは2本の回転軸を有したものであり、同方向回転式、異方向回転式があるが、本発明では共に使用可能である。
【0046】
本発明の液晶性樹脂組成物には、目的を損なわない範囲で、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、離型剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、可塑剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤などの通常の添加剤や他の熱可塑性樹脂(フッ素樹脂など)を添加して、所定の特性を付与することができる。
【0047】
かくして得られる本発明のカーボンブラックを含む液晶性樹脂組成物は絶縁性、耐熱性、機械特性に優れることから、公知の成形法により成形し各種成形品を得ることができる。具体的には黒着色品で絶縁性が要求され、薄肉部を有する成形品、特にコネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビンなどの用途に利用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳述する。実施例中、絶縁不良率および機械特性、黒色度の測定方法は次とおりである。
【0049】
[特性の測定法]
(1)絶縁不良率:FANUC ROBOSHOT α―30i(ファナック社製)に供し、射出速度300(mm/sec)、充填時間0.05(sec)、成形温度は液晶性樹脂の融点+20(℃)の条件で、図1に示す薄肉試験片(試験片厚み0.1mm、長さ50mm、幅5.0mm)を連続成形した。得られた薄肉試験片1000ショット分について試験片のゲート付近、中央、充填末端のヶ所それぞれに導電性ペースト(藤倉化成社製ドータイト)を図2に示した寸法で塗布し、厚み方向の電気抵抗を絶縁抵抗計を用い測定し、測定値が1000MΩ以上のものを「良好」(○)、それ以下のものを「劣る」(×)とした。
【0050】
(2)機械特性:引張強さASTM D638(試験片厚み3.2mm、測定温度23℃)にしたがい測定した。引張強さが150MPa以上のものを「良好」(○)、それ以下のものを「劣る」(×)とした。
【0051】
(3)黒色度:機械特性の評価で得られた試験片の黒色度について目し観察し、「良好」(○)、「劣る」(×)の判定を行った。
【0052】
(4)カーボンブラックの一次粒子径
カーボンブラックを日立製作所製透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、倍率を5万倍とし5視野観察を行う。その中に確認された粒子の数と径を計測して粒度分布を求め、これから平均をとることにより平均粒子径とした。
【0053】
(5)カーボンブラックの樹脂中で分散状態の平均粒子径
樹脂組成物から作製したASTM1号ダンベルから一部を切り出し、ミクロトームを用いて超薄切片を作製し、透過型実体顕微鏡を用い観察し、倍率100倍で写真を30枚撮影する。得られた写真中に含まれるカーボンブラックをランダムに20個選定し、長軸方向の最大径を計測し、単純平均値をもとめた。
【0054】
(6)タルクのメディアン径D50の測定
タルク微粉末は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製LA−920)を用いて測定し、メディアン径をもとめた。
【0055】
カーボンブラック、タルク、ガラス繊維としては、それぞれ下記のものを使用した。
B―1:カーボンブラック(三菱化学社製#45 平均粒子径24nm)
B―2:カーボンブラック(デグサジャパン社製”Printex35” 平均粒子径31nm)
C−1:タルク(富士タルク社製LMS−300 メディアン径4.6μm)
C−2:タルク(富士タルク社製NK64 メディアン径19μm)
C−3:タルク(富士タルク社製SP38 メディアン径48μm)
D−1:ガラス繊維(日本電気硝子社製ECS790DE 平均繊維径6μ)。
【0056】
[参考例1]
p−ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル327重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1367重量部(フェノール性水酸基合計の1.03当量)を、撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃で昇温しながら2時間反応させ、145℃から320℃まで4時間で昇温した。その後、重合温度を320℃、1.0時間で133Paに減圧し、さらに約1.5時間攪拌を続け重縮合を行った。p−オキシベンゾエート単位がp−オキシベンゾエート単位、4,4’−ジオキシビフェニル単位および1,4−ジオキシベンゼン単位の合計に対して70モル当量、4,4’−ジオキシビフェニル単位が4,4’−ジオキシビフェニル単位および1,4−ジオキシベンゼン単位の合計に対して70モル当量、テレフタレート単位がテレフタレート単位およびイソフタレート単位の合計に対して65モル当量からなる融点314℃、溶融粘度25Pa・s(324℃、オリフィス0.5mm直径×10mm、ズリ速度1,000/秒)の液晶性ポリエステル(A―1)を得た。
【0057】
[参考例2]
p−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル168重量部、テレフタル酸150重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート173重量部および無水酢酸1011重量部を、撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら室温から150℃まで昇温しながら3時間反応させ、150℃から250℃まで2時間で昇温し、250から335℃まで1.5時間で昇温させた後、335℃、1.5時間で6.5×10−3Paまで減圧し、さらに約0.25時間撹拌を続け重縮合を行った。芳香族オキシカルボニル単位80モル当量、芳香族ジオキシ単位10モル当量、エチレンジオキシ単位10モル当量、芳香族ジカルボン酸単位20モル当量からなる融点328℃、溶融粘度18Pa・s(338℃、オリフィス0.5mm直径×10mm、ズリ速度1,000/秒)の液晶性ポリエステル(A―2)を得た。
【0058】
[実施例1〜10,比較例1〜5]
ヘンシェルミキサー(三井三池製作所製FM500)を用い表1〜2に示す割合でカーボンブラック、タルクを予めドライブレンドし、シリンダー設定温度を液晶性樹脂の融点+10℃、スクリュウ回転数を250rpmに設定した、44mm直径の中間添加口を有する2軸押出機(日本製鋼所製TEX−44)を用いて、参考例1〜2で得た液晶性樹脂100重量部に対し、予めドライブレンドしたカーボンブラック、タルクおよびガラス繊維を表1〜2に示す割合で原料供給口から添加して、吐出量60kg/時間で溶融混練してペレットを得た。このペレットを用いて各特性を評価した。その結果を表1〜2に示す。
【0059】
透過型実体顕微鏡観察により、実施例1の組成物を観察したところ、図3に示したようにカーボンブラック(C−1)の粒子径が20μm程度で存在していた。
【0060】
[比較例6〜10]
シリンダー設定温度を液晶性樹脂の融点+10℃、スクリュウ回転数を250rpmに設定した、44mm直径の中間添加口を有する2軸押出機(日本製鋼所製TEX−44)を用いて、参考例1〜2で得た液晶性樹脂100重量部に対し、カーボンブラック、タルクおよびガラス繊維を表3に示す割合で原料供給口から添加して、吐出量60kg/時間で溶融混練してペレットを得た。このペレットを用いて下記の各特性を評価した。その結果を表3に示す。 透過型実体顕微鏡観察により、比較例6の組成物を観察したところ、図4に示したようにカーボンブラック(C−1)が100μmを超える粒子径で存在していることを確認した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
以上の結果から、本発明の液晶性樹脂組成物は、比較例の樹脂組成物と比較して、黒色を要求される用途において、絶縁性、耐熱性、機械的特性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のカーボンブラックを含む液晶性樹脂組成物およびそれからなる成形品は、絶縁性、耐熱性、機械特性に優れることから、黒色で、絶縁性が要求され、薄肉部を有する成形品、特にコネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビンなどの用途に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例で成形した絶縁不良率評価用薄肉試験片の平面図(a)および側面図(b)図である。
【図2】図1で示した絶縁不良率評価用薄肉試験片に導電性ペーストを塗布した試験片の平面表面図(a)および平面裏面図(b)である
【図3】実施例1で得られたASTM1号ダンベルの透過型実体顕微鏡観察写真である。
【図4】比較例6で得られたASTM1号ダンベルの透過型実体顕微鏡観察写真である。
【符号の説明】
【0067】
1:ゲート
2:導電性ペースト
3:カーボンブラックB−1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性樹脂(A)を100重量部、一次粒子径10〜50nmのカーボンブラック(B)を1〜10重量部、メディアン径1〜20μmのタルク(C)を0.1〜10重量部配合してなる液晶性樹脂組成物であり、液晶性樹脂(A)中にカーボンブラック(B)が平均粒子径50μm以下で分散していることを特徴とする液晶性樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、タルク(C)以外の無機充填材(D)を、液晶性樹脂(A)100重量部に対して10〜200重量部配合してなる請求項1記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項3】
カーボンブラック(B)、タルク(C)を予めドライブレンドした混合物を液晶性樹脂(A)と溶融混練することを特徴とする請求項1または2記載の液晶性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の液晶性樹脂組成物を成形してなる成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−179763(P2009−179763A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22172(P2008−22172)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】