説明

液晶性樹脂繊維およびその製造方法

【課題】固相重合をしなくても高強度であり、製造工程の簡略化と製造コストの削減が可能な液晶性樹脂繊維および、その溶融紡糸による製造方法に関するものである。
【解決手段】 示差熱量測定において、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm1)における融解熱量(ΔHm1)が、Tm1の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm2)における融解熱量(ΔHm2)に対して、3倍未満であり、かつ繊維強度が14cN/dtex以上である溶融液晶性樹脂繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相重合または熱処理をしなくても高強度であり、製造工程の簡略化と製造コストの削減が可能な液晶性樹脂繊維および、その溶融紡糸による製造方法およびその製造に用いるノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融液晶性樹脂繊維は、分子鎖が繊維軸方向に高度に配向しているために、高強力高弾性率を有することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
液晶性を示さないエンジニアリングプラスチックは、一般的に巻き取り速度と紡出速度の比からなるドラフト比を大きくすると延伸されて高強度化するが、溶融液晶性樹脂はドラフト比を大きくしても余り強度が向上しなかった。
【0004】
そこで、溶融液晶性樹脂は溶融紡糸によって溶融液晶性樹脂繊維を製造した後、繊維の熱処理または固相重合処理を行い、高強度化するのが一般的である。
【0005】
しかし、この熱処理または固重処理は工程の増加やコストの増加のために好ましくなく、品質的にも巻き取りロールの内側と外側で品質ムラが生じたり、糸の太さ方向でも処理ムラが生じ、品質的に安定したものが得られず、特に長繊維形態で用いるロープなどの産業資材用途では信頼性が十分でなかった。
【0006】
そこで、熱処理または固相重合を行う必要がない程に高強度であるような未固相重合糸(以下未固重糸と称する場合もある)が検討されている。しかし、未固重糸では、強度が十分でない上に、通常の直孔ノズルを用いた紡糸においては、液晶性樹脂は直孔に入る際に配列するために、直孔部までの導入部において均一に可塑化されていないと、繊度にムラが生じ、結果として繊維強度にもムラが生じてしまい。弱い部分で切断されてしまうために、用いることができなかった。
【0007】
このような繊度のムラを改良するために、テーパー部をノズルの導入部に設けたものが検討されており、テーパー角度が広くなると糸切れなどが起こることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、光学異方性のピッチを用いたピッチ系炭素繊維を製造するのに際して、ノズルの一部に60〜180℃のテーパー部を持たせる方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
一方ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルの溶融紡糸においては、口金の交換周期を延ばすために、紡糸ノズルに導入孔から紡糸孔に向けて大孔径化していくテーパーを設ける方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0010】
また、液晶性樹脂についても、特殊なテーパーをノズルの一部に設けて紡糸することで、糸切れが減ったり、固相重合糸(以下、固重糸と称する場合もある)として高強度な繊維が得られる方法が知られている(例えば、特許文献5〜7参照)。
【0011】
しかしこれらの特殊ノズルを用いた紡糸では、主に紡糸性を改良することを目的としたものであるが十分でなく、特許文献5〜7では、液晶性樹脂の特性を利用し、ノズル内部でのテーパーを利用して高強度化をしようとしているが、通常の液晶性樹脂は、分子が非常に高密度に並びやすく、テーパーを設けたノズルを用いて紡糸しても、それほど特異的に高強度なものは得られていず、実用レベルにするためには、依然として熱処理または固相重合によって高強度化する必要があった。
【特許文献1】特開昭61−174408号公報(第1〜2頁)
【特許文献2】特開平02−74618号公報(第1〜2頁)
【特許文献3】特開2002−54024号公報(第1〜2頁)
【特許文献4】特開昭63−120109号公報(第1〜2頁)
【特許文献5】特開昭61−138719号公報(第1〜2頁)
【特許文献6】特開昭60−24844号公報(第1〜2頁)
【特許文献7】特開昭59−30909号公報(第1〜2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、溶融紡糸後に特に熱処理または固相重合工程を行なわずとも、高強度な液晶性樹脂繊維を製造する方法および、高強度な液晶性樹脂繊維を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記したような問題を解決するために、これまでに知られている特殊ノズルとは全く異なる視点から液晶性樹脂の特性について検討した結果、液晶性樹脂を紡糸する際に均質性が高くかつ分子結晶がルーズな特定の液晶性樹脂を用いること、および特定の態様のテーパーを有するノズルを用いることで、溶融紡糸後に熱処理または固相重合という工程を経なくても信頼性の高い高強度繊維を製造できることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は
(1)示差熱量測定において、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm1)における融解熱量(ΔHm1)が、Tm1の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm2)における融解熱量(ΔHm2)に対して、3倍未満であり、かつ繊維強度が14cN/dtex以上である溶融液晶性樹脂繊維、
(2)式1で定義されるΔS(融解エントロピー)が0.9×10−3J/g・K以下である液晶性樹脂を、紡糸孔に向かって連続的に細径化するテーパー部をノズル孔の全長に対して少なくとも80%有し、ノズル孔の全長が10〜20mmであるノズルを用いて溶融紡糸してなる液晶性樹脂繊維、
ΔS=ΔHm(J/g)/[Tm(℃)+273](K) −[1]
(Tmは示差熱量測定において、重合を完了したポリマを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2(℃))を指し、ΔHmは該吸熱ピークにおける融解熱量(ΔHm2(J/g))である。)
(3)上記液晶性樹脂が、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなるものである上記(1)または(2)記載の液晶性樹脂繊維、
【0015】
【化1】

【0016】
(4)液晶性樹脂繊維の繊維表面の配向度(Is)と繊維中心部の配向度(Ic)の比(Is/Ic)が1.2未満であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の液晶性樹脂繊維。
(5)式1で定義されるΔS(融解エントロピー)が0.9×10−3J/g・K以下である液晶性樹脂を、紡糸孔に向かって連続的に細径化するテーパー部をノズル孔の全長に対して少なくとも80%有し、ノズル孔の全長が10〜20mmであるノズルを用いて溶融紡糸することを特徴とする液晶性樹脂繊維の製造方法、
ΔS=ΔHm(J/g)/[Tm(℃)+273](K) −[1]
(Tmは示差熱量測定において、重合を完了したポリマを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を指し、ΔHmは該吸熱ピーク面積から算出される融解熱量(ΔHm2)である。)
(6)ノズルが、テーパー部のテーパー角度が1〜20°、導入孔径が0.5〜3mmφ、紡糸孔径が0.1〜0.5mmφであるノズルである上記(5)記載の液晶性樹脂繊維の製造方法、
(7)溶融紡糸を液晶性樹脂の融点+15℃超融点+40℃未満の温度で行うことを特徴とする上記(5)または(6)に記載の液晶性樹脂繊維の製造方法
(8)溶融紡糸を液晶性樹脂の融点+20℃以上とし、かつ口金直下30cmまでの雰囲気温度を液晶性樹脂の融点−50℃〜融点−10℃の温度範囲に保った状態で紡糸した後、液晶性樹脂のガラス転移温度以上融点−100℃以下の温度において1.01倍未満の延伸を行うことを特徴とする上記(5)〜(7)のいずれか記載の液晶性樹脂繊維の製造方法、
(9)紡糸孔に向かって連続的に細径化するテーパー部をノズル孔の全長に対して少なくとも80%有するし、ノズル孔の全長が10〜20mmである紡糸用ノズル
を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の液晶性樹脂繊維は、溶融紡糸後に熱処理または固相重合をしなくても高強度であるため、低コストでかつ、繊維断面方向への寸法安定性に優れるために、これらの特性が要求されるテンションメンバーなどの電気材料用途などに最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳述する。なお本発明において「重量」とは、「質量」を意味する。
【0019】
本発明は、紡糸孔に向かって連続的に細径化するテーパー部をノズル孔の全長に対して少なくとも80%有し、ノズル孔の全長が10〜20mmのノズルを用いて、液晶性樹脂を溶融紡糸することを必須とする。
【0020】
テーパー部をノズル孔の全長(10〜20mm)の80%以上に有していることが、これまでに知られているノズルとは異なる点である。ここで、ノズルは、一つの部品として構成されていても、複数の部品からなるもの、ノズルと他の部材を一体化したものであっても良いが、ノズルとして扱う部分は、テーパー部の上流側の導入孔と、テーパー部の下流側の紡糸孔を合わせた部分を言い、導入孔および/または紡糸孔に直孔部を有する場合には、ノズルとして扱う部分は、この導入孔および/または紡糸孔の直孔部にさらにテーパー部の合計をノズル全長とし、それ以外の部分は当発明のノズルとしては扱わないこととする。
【0021】
本発明の液晶性樹脂繊維において、本発明の効果を得るためには、例えば紡糸の際に、ノズル孔の全長が10〜20mmであり、そのノズル孔の全長に対し80%以上がテーパー部であるノズルが用いられるが、より好ましくはテーパー部はノズル孔の全長に対して85%以上であり、更に好ましくは90%以上である。導入孔から紡糸孔までの全てが連続したテーパーで構成されたノズルが最も好ましい。
【0022】
通常のノズル孔径は、例えば0.1〜2mmφ程度であるので、ノズル孔の全長10〜20mmに対し、80%以上の領域でテーパー部を設けるということは、非常に緩やかなテーパー部を設けることを意味し、このような緩やかなテーパーを設けること、特に1〜15°程度の非常に緩やかなテーパーを設けることである。
【0023】
このように、長く緩やかなテーパーを用いることで、これまでの部分テーパーノズルとは異なり、非常に均一な繊維断面方向の圧縮が連続的に与えられることにより溶融紡糸される液晶性樹脂の分子鎖の乱れがきれいに配列し(液晶性樹脂がパッキングし)、その結果、均質で繊度、繊維強度のムラが少なく、高強度である繊維が得られる。
【0024】
また、テーパー部はノズル全長の少なくとも80%を占めるが、ノズル孔の全長は10〜20mmであり、10〜15mmであることが好ましく、10〜12mmであることがさらに好ましい。
【0025】
本発明で紡糸に用いられる(A)液晶性樹脂とは、溶融時に異方性溶融相を形成し得る樹脂であり、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミドなどが好ましく挙げられる。本発明においてはなかでも通常、式1で定義されるΔS(融解エントロピー)が0.9×10−3J/g・K以下であるものが用いられる。このような液晶性樹脂は、上記特定長のテーパーノズルを用いて紡糸した際に特異的に高い強度を発現することを見いだした。
ΔS=ΔHm(J/g)/[Tm(℃)+273](K) −[1]
ここで、Tmは示差熱量測定において、重合を完了したポリマを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1 +20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2(℃))を指し、ΔHmは該吸熱ピークにおける融解熱量(ΔHm2(J/g))である。
【0026】
本発明で用いる液晶性樹脂のΔSは0.9×10−3J/g・K以下であることが、好ましくは、0.7×10−3J/g・K以下であり、より好ましくは0.5×10−3J/g・K以下である。
【0027】
ただし、ΔSは0であることはなく、マイナスの値にもならないため、0より大きい実数範囲をとる。
【0028】
ΔHmおよびTmの測定において、ピークが得られない場合には、ΔSを算出することができず、このようなピークの観測されない液晶性ポリエステルは、熱変形温度が非常に低くなり、上記式[1]を満たす液晶性樹脂の範疇には含めないものとする。
【0029】
ΔSがこのような範囲にある場合には、液晶ポリエステルの分子鎖が溶融状態および固体状態において、非常に秩序だった状態で存在しており、紡糸時にテーパーダイにより分子鎖の断面方向に圧縮応力を受けた際に、分子鎖の乱れが小さくきれいに配列するために、機械的強度および繊維の太さ方向に寸法安定性の優れた繊維が得られる。
【0030】
上記範囲のΔSを有する液晶性樹脂を得るには、液晶性樹脂の分子の結晶性を左右する単位と、分子鎖の直線性を左右する非直線分子単位のバランスが重要である。
【0031】
ここでいう結晶性を左右する単位とは、一般的にメソゲンとなる液晶性樹脂の主構造単位であり、p−ヒドロキシ安息香酸や、p−アミノ安息香酸などのパラ位に置換した芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族アミノカルボン酸から生成した構造単位が挙げられ、p−ヒドロキシ安息香酸が好ましい。
【0032】
また、ここでいう非直線分子単位とは、一般的にベントモノマーやクランクモノマーから生成する構造単位、柔軟鎖と言われる単位であり、ベントモノマーではメタ位またはオルト位置換のヒドロキシ安息香酸または、メタ位またはオルト位置換のアミノ安息香酸、メタ位またはオルト位置換のジヒドロキシベンゼン、フタル酸、3,4’位置換のジヒドロキシビフェニル、3,4’位置換ビフェニルジカルボン酸などが挙げられ、クランクモノマーでは2,6位置換または2,7位置換のヒドロキシナフトエ酸、2,6位置換または2,7位置換のナフタレンジカルボン酸、2,6位置換または2,7位置換のナフタレンジオールが挙げられ、柔軟鎖としては、脂肪族ジオールと芳香族ジカルボン酸からなる構造単位が挙げられ、ここでは、脂肪族ジオールを非直線分子単位とする。
【0033】
上記非直線分子単位における芳香族ヒドロキシカルボン酸または芳香族アミノカルボン酸から生成した構造単位では、例えばm−ヒドロキシ安息香酸、m−アミノ安息香酸や2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸から生成した構造単位、またジオールまたはアミノフェノールから生成した構造単位では、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、m−アミノフェノール等から生成した構造単位、また、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族から生成する脂肪族ジオール単位、また芳香族ジカルボン酸では、例えば、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などから生成した構造単位などが挙げられる。なかでも芳香族ヒドロキシカルボン酸または芳香族アミノカルボン酸ではm−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、芳香族ジオールまたはアミノフェノールでは、3,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、芳香族ジカルボン酸ではイソフタル酸から生成した構造単位が好ましい。
【0034】
この結晶性を左右する単位と非直線分子単位以外に、主に、融点調節の目的で直線分子単位を共重合することが可能である。直線性分子単位としては、例えば、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、3,3´,5,5´−テトラメチル−4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどの芳香族ジオールから生成した構造単位、テレフタル酸、4,4´−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4´−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4´−ジカルボン酸および4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸から選ばれた芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位が挙げられる。なかでも芳香族ジオールから生成した構造単位では4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノンから選択される芳香族ジオールから生成した構造単位が好ましく、より好ましくは、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンから生成した構造単位である。また、芳香族ジカルボン酸ではテレフタル酸、4,4´−ジフェニルジカルボン酸から生成した構造単位が好ましく、テレフタル酸から生成した構造単位が最も好ましい。
【0035】
本発明で用いる液晶性樹脂は、上記結晶性を左右する単位と非直線分子単位をバランスよく共重合することにより、ΔSを所望の範囲に調整して製造される。その好ましい共重合範囲は共重合成分によって異なり一概にはいえないが、結晶性を左右する単位を少なくとも2成分以上用いて、それぞれをバランス良く増加させることにより、ΔSを低減せしめることが可能であり、非直線分子単位を低減させることによりΔSを低減せしめることが可能である。また、非直線分子単位は、ヒドロキシカルボン酸単位、ジカルボン酸単位、ジオール単位のいずれかにおいて、1成分以上を共重合することが好ましいが、例えば、ヒドロキシカルボン酸、ジカルボン酸、ジオールのいずれか2つ以上の中で、それぞれ1成分以上を共重合してもよい。
【0036】
本発明においては、ΔSが本発明の範囲であれば、各成分単位の共重合量に制限はないが、例として、結晶性を左右する単位としてp−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、非直線分子単位としてジカルボン酸成分にイソフタル酸から生成した構造単位、それ以外の共重合成分としてハイドロキノンから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性樹脂について好ましい範囲を示すと、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位は、上記p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、ハイドロキノンから生成した構造単位および4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位の合計に対して65〜80モル%であり、より好ましくは68〜75モル%である。
【0037】
また非直線単位であるイソフタル酸由来の構造単位は、ジカルボン酸単位であるので、共重合する非直線分子単位以外の構造単位であるテレフタル酸由来の構造単位との合計に対して、30〜40モル%であることが好ましく、より好ましくは32〜38モル%である。
【0038】
この液晶性ポリエステルにおいては、ハイドロキノンと4,4’−ジヒドロキシビフェニルの共重合量は任意であるが、融点調節の点から所望の共重合比を選択することができる。ハイドロキノン由来の構造単位は4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位との合計に対して、25〜40モル%が好ましく、より好ましくは27〜35モル%である。
【0039】
ハイドロキノンと4,4’−ジヒドロキシビフェニルを合わせたモル量がテレフタル酸とイソフタル酸を合わせたモル量と実質的に等モルである。ここで実質的に等モルとは、末端を除くポリマー主鎖を構成するユニットが等モルであるが、末端を構成するユニットとしては必ずしも等モルとは限らないことを意味する。
【0040】
共重合成分としては、結晶性を左右する単位と非直線分子単位の2つは必要である。
【0041】
非直線分子単位をジオールもしくはジカルボン酸単位に有する場合には、結晶性を左右する単位、非直線分子単位およびそれに対応するジオールもしくはジカルボン酸の共重合成分が必要であるため、4成分で成り立つ液晶性ポリエステル、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、ハイドロキノンから生成した構造単位、イソフタル酸から生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶ポリエステルが挙げられる。
【0042】
成分数としては、2成分以上が必要であるが、4成分以上が好ましく、より好ましくは5成分以上である。成分数が多い程、分子鎖のランダム性が高くなるため好ましいが、余りに多くなりすぎると分子鎖間距離が開きすぎてパッキング性が低下するため、好ましくは最大でも7成分である。
【0043】
好ましい液晶性樹脂の例としては、結晶性を左右する単位としてp−ヒドロキシ安息香酸からなる構造単位、非直線分子単位としてイソフタル酸、その他の共重合単位としてテレフタル酸を含有し、ジオール単位としては4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびまたはハイドロキノンを共重合した液晶性樹脂、すなわち下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなる液晶性樹脂である(その好ましい構成比率は前述のとおりである)。
【0044】
【化2】

【0045】
本発明で好ましく用いられる液晶性樹脂は上記構造単位以外に3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロロハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオールおよびp−アミノフェノールなどを本発明のΔSおよび液晶性を損なわない程度の範囲でさらに共重合せしめることができる。
【0046】
本発明において使用する上記液晶性樹脂の製造方法は、本発明で規定する範囲のものが得られる限り特に制限がなく、公知の製造方法に準じて製造できる。
【0047】
例えば、液晶性ポリエステルの製造においては、基本的な製造方法として次の製造方法が好ましく挙げられる。
【0048】
(1)p−アセトキシ安息香酸などのアセトキシカルボン酸および4,4’−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアセチル化物とテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から脱酢酸縮重合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0049】
(2)p−ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物とテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0050】
(3)p−ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸のフェニルエステルおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族字ヒドロキシ化合物とテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸のジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0051】
(4)p−ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸およびテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0052】
なかでもp−ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法が好ましい。さらに、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物の合計使用量とテレフタル酸およびイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸の合計使用量は、実質的に等モルである。無水酢酸の使用量は、p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノンのフェノール性水酸基の合計の1.12当量以下であることが好ましく、1.10当量以下であることがより好ましく、下限については1.0当量以上であることが好ましい。
【0053】
本発明で用いる液晶性樹脂を脱酢酸重縮合反応により製造する際に、液晶性樹脂が溶融する温度で減圧下反応させ、重縮合反応を完了させる溶融重合法が好ましい。例えば、所定量のp−ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、無水酢酸を攪拌翼、留出管を備え、下部に吐出口を備えた反応容器中に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら加熱し水酸基をアセチル化させた後、液晶性樹脂の溶融温度まで昇温し、減圧により重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。アセチル化させる条件は、通常130〜300℃の範囲、好ましくは135〜200℃の範囲で通常1〜6時間、好ましくは140〜180℃の範囲で2〜4時間反応させる。重縮合させる温度は、液晶性樹脂の溶融温度、例えば、250〜350℃の範囲であり、好ましくは液晶性樹脂の融点+10℃以上の温度である。重縮合させるときの減圧度は通常0.1mmHg(13.3Pa)〜20mmHg(2660Pa)であり、好ましくは10mmHg(1330Pa)以下、より好ましくは5mmHg(665Pa)以下である。なお、アセチル化と重縮合は同一の反応容器で連続して行っても良いが、アセチル化と重縮合を異なる反応容器で行っても良い。
【0054】
得られたポリマーは、それが溶融する温度で反応容器内を例えば、およそ1.0±0.5kg/cm(0.1±0.05MPa)に加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口よりストランド状に吐出することができる。溶融重合法は均一なポリマーを製造するために有利な方法であり、ガス発生量がより少ない優れたポリマーを得ることができ、好ましい。
【0055】
本発明においては上記液晶性樹脂を製造する際に、固相重合法により重縮合反応を完了させることも可能である。例えば、本発明の液晶性樹脂のポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕し、窒素気流下、または、減圧下、液晶性ポリエステルの融点−5℃〜融点−50℃(例えば、200〜300℃)の範囲で1〜50時間加熱し、所望の重合度まで重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。固相重合法は高重合度のポリマーを製造するための有利な方法である。
【0056】
ただし、紡糸においては、固相重合法により製造した液晶性樹脂をそのまま用いると、固相重合によって生じた高結晶化部分が未溶融で残り、紡糸パック圧の上昇や糸中の異物の原因となる可能性があるため、一度二軸押出機などで混練して(リペレタイズ)、高結晶化部分を完全に溶融することが好ましい。
【0057】
固相重合を行うと、本来その組成の液晶性樹脂が持つべき融解熱量が高結晶化にともない増大するが、リペレタイズを行うことで完全に高結晶化部分が解放されれば、融解熱量も固相重合前の値にほぼ戻るため、固相重合を行った場合には、紡糸前にリペレタイズは完全に行うことが本発明においては好ましい。
【0058】
上記液晶性樹脂の重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
【0059】
また、本発明における液晶性樹脂の溶融粘度は、0.5〜200Pa・sが好ましく、特に1〜100Pa・sが好ましく、紡糸性の点から10〜3Pa・sがより好ましい。
【0060】
なお、この溶融粘度は、融点(Tm)+10℃の条件で、ずり速度1,000(1/秒)の条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0061】
ここで、融点(Tm)とは示差熱量測定において、重合を完了したポリマを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を意味する。
【0062】
本発明の液晶性樹脂の融点は、特に限定されるものではないが、加工性の点から200〜350℃が好ましく、より好ましくは250〜340℃であり、更に好ましくは290〜330℃である。
【0063】
本発明では、上記したΔSを有する液晶性樹脂を溶融紡糸するものであり、溶融紡糸とは、熱可塑性の液晶性樹脂の融点(Tm2)より高い温度において溶融させ、ノズルを通して糸状に加工する方法を言う。
【0064】
溶融紡糸は、液晶性樹脂を溶媒に解かして溶液としてノズルを通して糸状に加工し、溶媒を乾燥して除く溶液紡糸とは異なり、溶媒などの2次物質を用いないために、工程が非常に簡便であり、得られた繊維は乾燥を要さないので、内部に溶媒の揮発に伴うボイドなどの欠陥が生じることがなく、品質の良い繊維が得られるために好ましい。
【0065】
溶融紡糸では、非液晶性の熱可塑性樹脂では、紡糸孔からの吐出速度と巻き取り速度の比で表されるドラフト比(=巻き取り速度/吐出速度)を大きくすることによって、延伸を加えて繊維強度を高くすることができるが、熱可塑性の液晶性樹脂の溶融紡糸においては、液晶性樹脂がノズルの導入孔に入った時点で既に延伸するまでもなく配列しているために、ドラフト比を大きくしてもさほど強度が向上しない。
【0066】
一方、本発明においては、前述したような液晶性樹脂を用い、前記特定のノズルを用いて紡糸された液晶性樹脂繊維は、ドラフト比によらず、また熱処理または固相重合を経ずとも非常に高強度である。また、既に高度に液晶がパッキングしているために、熱処理または固相重合を行っても大きな強度の向上は見られないため、所望によりあえて熱処理または固相重合することも可能であるが、実用強度の観点からは通常熱処理または固相重合を必要としない。
【0067】
テーパー角度については、あまりに急角度であると、液晶性樹脂繊維の液晶パッキングが進行せず、テーパー部の中心部に紡糸の主流ができ、テーパー外壁には滞留部が生じてしまう傾向があり、好ましいテーパー角度としては1〜20°であり、より好ましくは2〜15°、更に好ましくは2.5〜10°である。
【0068】
また、テーパーの角度は、紡糸ノズルの樹脂の導入孔と、樹脂の吐出される紡糸孔の径およびノズル長方向のテーパー部長さによって決定されるものであり、導入孔径については、好ましくは0.5〜3mmφであり、より好ましくは0.8〜2.5mmφ、更に好ましくは1.0〜2.0mmφである。
【0069】
紡糸孔径については、0.1〜0.5mmφが好ましく、より好ましくは、0.12〜0.3mmφであり、更に好ましくは0.13〜0.25mmφである。 ノズルの構成としては、単糸用の単孔を有するノズルでも、マルチ糸用の複数の孔を有するノズルでも良く、一つのノズルに複数の孔を有する場合には、その孔の形状、寸法は全ての孔が同じであっても良いが、吐出バランスを調整するためなどに、孔のいくつかもしくは全てが異なるものであってもよい。
【0070】
好ましいノズルの構成について、例えば図1を例にとり説明するが、これに限定されるものではない。すなわち、図1は、本発明において好ましく用いられるノズルの一態様の断面図であり、ノズル1中にテーパー部3を有するノズル孔2が設けられ、その片端に導入孔3とそれに続く導入孔側の直孔部6、紡糸孔側の直孔部7とそれに続く紡糸孔4が設けられている。La、Lt、Lbは、それぞれ導入孔側の直孔部の長さ、テーパー部の長さ、紡糸孔側の直孔部の長さを示し、Da、Dbは、それぞれ導入孔径、紡糸孔径を示し、θはテーパー角度を示す。図1において(La+Lb+Lt)がノズル孔の全長を表し、Ltがテーパー部の長さを表す。たとえば(La+Lb+Lt)が10mmであって、テーパー部が9.9mmの場合、テーパー部の長さがノズル全長に対して99%(Lt/(La+Lb+Lt)×100)であり、さらに導入孔Daの径が1.5mmφ、紡糸孔の径Dbが0.15mmφ、導入孔側に0.09mm長、径1.5mmΦの直孔部、吐出孔側に径015mmΦ、0.01mm長の直孔部がある場合には、テーパー角は、7.7°であるノズルとなる。
【0071】
ここで、Laは導入孔の直孔部の長さであるが、これは0であっても良く、Lbは紡糸孔の直孔部の長さであるが、これも0であっても良い。
【0072】
この直孔部は、加工限界のために生じるものであって、できる限りない方が好ましいが、設ける場合には、導入孔側の直孔部の長さはノズル長さ方向に2mm以下であることが好ましく、より好ましくは1mm以下であり、更に好ましくは0.5mm以下であり、紡糸孔側の直孔部の長さはノズル長さ方向に0.06mm以下の長さであることが好ましく、更に好ましくは0.03mm以下である。
【0073】
本発明のノズルは、テーパー部が1つ以上設けられていることが必須であり、そのテーパー部は連続してノズル全長の80%を占めていることが好ましいが、加工の精度を上げる観点から、テーパー部は完全に連続でなくとも、テーパー部の間に極短い直孔部を有していても良い。
【0074】
この直孔部は2つ以下であることが好ましく、より好ましくは1つ以下、ないことが最も好ましい。
【0075】
このテーパー中の直孔部の長さは、1ヶ所につき0.05mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01mm以下である。
【0076】
本発明においては、テーパー中の直孔部は、テーパー長として合わせて扱うものである。
【0077】
本発明で用いる液晶性樹脂としては2種類以上の熱可塑性液晶性樹脂のブレンドであってもよいし、液晶性樹脂にその他の熱可塑性樹脂をブレンドして用いることができる。
【0078】
その他の熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリアルキレンテレフタレートやポリアリレート、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、シリコーン樹脂などが挙げられ、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイドが好ましい。
【0079】
配合比は特に限定されるものではないが、液晶性樹脂100重量部に対して、もう1種以上の液晶性樹脂またはその他の熱可塑性樹脂を全て合わせた量が0〜100重量部であることが好ましい。
【0080】
さらに、本発明の液晶性樹脂には、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料および顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤などの通常の添加剤、熱可塑性樹脂以外の重合体を配合して、所定の特性をさらに付与することができる。
【0081】
これらの添加剤を配合する方法は、溶融混練によることが好ましく、溶融混練には公知の方法を用いることができる。たとえば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用い、180〜350℃、より好ましくは250〜320℃の温度で溶融混練して液晶性ポリエステル組成物とすることができる。その際には、一括混練法、逐次添加法、マスターペレット法のいずれの添加法を用いてもかまわない。
【0082】
本発明の液晶性樹脂を紡糸するに際し、少なくとも液晶性樹脂の融点+15℃超融点+40℃未満で行うことが好ましく、融点+20℃以上35℃未満がより好ましい。
【0083】
ここでいう温度とは、紡糸の際に可塑化に用いる押出機や圧縮溶融機、フィルターやサンドパックなどを経てノズルに至るまでの全ての機器やそれをつなぐ配管、ノズルまでの各部分での温度全てを指す。
【0084】
このような温度範囲で加工することにより、液晶性樹脂は、可塑化が十分に行われ、均一性が高くなり、かつ溶融状態で良好な液晶性を発現するために、本発明のテーパーノズルによる液晶パッキング効果が高くなり好ましい。
【0085】
本発明の液晶性樹脂繊維は紡糸する際に、ドラフト比を高くせずとも高強度であるが、ノズルの紡糸径には加工限界があるため、細径繊維を得るためには、ドラフト比を1〜50とすることが好ましく、より好ましくは2〜35であり、更に好ましくは3〜15である。
【0086】
細繊維を得るためにドラフト比を大きくする場合には、ノズル先端でのネッキングを防止するために、該液晶性樹脂を溶融紡糸する際に、樹脂温度を液晶性樹脂の融点+15℃以上40℃以下とし、さらに口金直下30cmまでの雰囲気温度を融点−50〜融点−10℃の温度範囲に保った状態で紡糸することにより、溶融紡糸においてはスキン層のみの高度配向を抑制することができる。
【0087】
樹脂温度としては、より好ましくは液晶性樹脂の融点+20℃以上であり、更に好ましくは融点+25℃である。
【0088】
雰囲気温度としては、より好ましくは融点−35℃〜融点−15℃である。
【0089】
紡糸速度は500〜6000m/分で行えるが、1000〜6000m/分の高速紡糸が好ましい。
【0090】
こうして溶融紡糸した液晶性樹脂繊維は、太さ方向の配向度の偏在が小さく、緻密にパッキングしつつ、かつ固化までの雰囲気温度を高温に保つことで、スキン層にもコア層と同等の分子配向の緩い部分(非配列部)が同等の割合でわずかに残在する。
【0091】
こうして得た液晶性樹脂繊維に更にガラス転移温度以上融点−100℃以下の温度において1.01倍未満の延伸を行うことでこの非配列部も配列させることができ好ましい。
【0092】
液晶性樹脂のガラス転移温度は動的粘弾性測定装置(DMS)により、tanδのピーク温度として検出され、50〜250℃程度に観測され、本発明では好ましくは100℃以上であり、より好ましくは110℃以上である。
【0093】
延伸温度は、より好ましくは液晶性樹脂のガラス転移温度以上液晶性樹脂のガラス転移温度+50℃以下である。延伸温度が高すぎると、配向が緩和してしまい、低すぎると張力にもよるが物理的な欠点を生じるため、好ましくない。
【0094】
延伸倍率は1.005未満がより好ましく、延伸倍率が1.01倍以上であると、残留ひずみが大きくなりすぎ、熱変形量が大きくなるため好ましくない。
【0095】
この残留ひずみの解消のために、固相重合などの熱処理を行うと、表面荒れなどの問題が起こり好ましくない。
【0096】
この極微量の延伸により、残留している非配列部に、スキン層、コア層等力で延伸が加えられ、全体として高度に配向し、かつ配向の偏在のない液晶性樹脂繊維が得られる。また、この繊維には残留ひずみが少なく、寸法安定性に優れている。
【0097】
延伸の方法としては、紡糸した液晶性樹脂繊維を巻き取ることなく、テンターロールに導き、繊維温度が冷却過程で該温度となった所でロール間で延伸を行う方法や、一度巻き取った後に延伸機にかけて昇温し延伸を行う方法などがあるが、再昇温をかけると結晶化が促進されるので、冷却工程での調温しながらの延伸が好ましい。
【0098】
配向の偏在については、繊維表面の配向度(Is)と繊維中心部の配向度(Ic)の比(Is/Ic)が1.2未満であることが好ましく、より好ましくは1.1未満、1.05未満が更に好ましい。
【0099】
繊維の配向度比(IS/Ic)は、理学製RINT2500微小部X線回折装置を用い、繊維中心を長さ方向にミクロトームで切削した断面について、表層から100nmを表層部として2θ=19〜20°に観測される液晶性樹脂の回折ピーク強度をIsとし、中心部の100nmの同様に観測される液晶性樹脂の回折ピーク強度をIcとして算出できる。
【0100】
このように、液晶性樹脂繊維の太さ方向の配向分布を制御することで、液晶性樹脂繊維の持つ理論的強度や液晶性樹脂の理論的線膨張係数に近い寸法安定性を発現する。
【0101】
該方法により、液晶性樹脂繊維がスキンコアの全部分において偏在することなく高配向しているために、スキン層だけがフィブリル化する従来のフィブリル化現象とそれに伴う強度発現部位であるスキン層の消失による単繊維強度の低下を引き起こしにくい。
【0102】
こうして得られる液晶性樹脂繊維は、示差走査熱量測定において、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm1)における融解熱量(ΔHm1)が、Tm1の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm2)における融解熱量(ΔHm2)に対して、3倍未満であり、かつ繊維強度が14cN/dtex以上である。
【0103】
液晶性樹脂繊維のΔHm1は、溶融紡糸後に熱処理または固相重合を行うと、著しく大きくなり、リサイクル性が低下する。
【0104】
本発明において、上記融解熱量を有する液晶性樹脂繊維は紡糸後にΔHm1が大きく変わるような熱処理を加えておらず、また熱処理または固相重合もしていないために、熱処理または固相重合の副反応である高結晶化や高融点化が起こらず、通常液晶性樹脂を加工する融点+20℃未満の温度でリサイクル加工することが可能である。
【0105】
繊維のΔHm2は紡糸前の液晶性樹脂のΔHm2とほぼ変わりない値であり、これは液晶性樹脂の組成に特有の値である。
【0106】
繊維のΔHm1がΔHm2に対して3倍未満であればΔHm1が大きく変わるような熱処理や固相重合を経ていないために、リサイクルが容易であり、より好ましくは2倍未満であり、更に好ましくは1.5倍未満である。下限としては0.1倍が好ましい。
【0107】
また、本発明の液晶性樹脂繊維は、14cN/dtex以上の繊維強度であるが、より好ましくは15cN/dtex以上であり、更に好ましくは16cN/dtex以上である。上限としては25cN/dtex以下で実用上好ましく用いることができる。上記において、これまで他の熱可塑性樹脂繊維などでは得られなかった領域の高強度繊維が得られ好ましい。
【0108】
繊維強度は例えば、JIS L1013に準じオリエンテック社製テンシロンUCT−100を用いて測定することができる。
【0109】
このように、本発明の液晶性樹脂繊維は、熱処理または固相重合などの後処理工程を経ずとも、熱処理または固相重合品に近い高強力の特徴を有しているため、一般産業用資材、土木・建築資材、スポーツ用途、防護衣、ゴム補強資材、電気材料(特に、テンションメンバーとして)、音響材料等の分野で広く用いられるが、特に織物の形態で使用する用途に適している。特に有効な用途としては、スクリーン紗、コンピュターリボン、プリント基盤用基布、エアーバッグ、飛行船、ドーム用等の基布、ライダースーツ、釣糸、各種ライン(ヨット、パラグライダー、気球、凧糸)、電線や電気コードの被覆材、絶縁被覆材、PET用鎖代替糸、ブラインドコード、網戸用支持コード、自動車や航空機内各種コード、電気製品やロボットの力伝達コード等がある。
【実施例】
【0110】
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明の骨子は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0111】
参考例
液晶性樹脂
A−1
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル327重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1433重量部(フェノール性水酸基合計の1.08当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、330℃まで4時間で昇温した。
【0112】
重合温度を330℃に保持し、1.5時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0113】
この液晶性樹脂(A−1)はp−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位が53.85モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位が16.15モル%、ヒドロキノン由来の構造単位が6.92モル%、テレフタル酸由来の構造単位が15.00モル%、イソフタル酸由来の構造単位が8.08モル%からなり、Tm(液晶性ポリエステルの融点)は318℃でΔSは0.65×10−3J/g・K、ガラス転移温度(Tg)120℃、高化式フローテスターを用い、温度328℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が16Pa・sであった。
【0114】
なお、融点(Tm)は示差熱量測定において、ポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)とした。
【0115】
ガラス転移温度は動的粘弾性測定装置(DMS)により、tanδのピーク温度を測定し、Tgとした。
【0116】
A−2
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレ−ト216重量部及び無水酢酸960重量部(フェノール性水酸基合計の1.045当量)を撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、撹拌しながら室温から145℃まで30分で昇温し、145℃で2時間加熱撹拌し、その後145℃から325℃まで4時間かけて昇温し、1.5時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に11分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0117】
この液晶性樹脂(A−2)はp−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位74.42モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位6.98モル%、テレフタル酸由来の構造単位6.98モル%、ポリエチレンテレフタレート由来の構造単位11.62モル%からなり、融点314℃でΔSは1.36×10−3J/g・K、高化式フローテスターを用い、温度324℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が15Pa・sであった。
【0118】
A−3
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器に p−ヒドロキシ安息香酸907重量部と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸457重量部及び無水酢酸946重量部(フェノール性水酸基合計の1.03モル当量)を攪拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、325℃まで4時間で昇温した。
【0119】
重合温度を325℃に保持し、1.5時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に20分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0120】
この液晶性樹脂(A−3)は、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位73モル%、6−ヒドロキシナフトエ酸由来の構造単位27モル%からなる融点283℃でΔSは1.43×10−3J/g・K、高化式フローテスターを用い、温度294℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が32Pa・sであった。
【0121】
A−4
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器に p−ヒドロキシ安息香酸829重量部と4,4’−ジヒドロキシビフェニル570重量部、テレフタル酸374重量部、イソフタル酸124重量部及び無水酢酸1337重量部(フェノール性水酸基合計の1.08モル当量)を攪拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、360℃まで4時間で昇温した。
【0122】
重合温度を360℃に保持し、1.5時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に5分間反応を続け、トルクが15kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0123】
この液晶性樹脂(A−4)は、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位49.9モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位25.2モル%、テレフタル酸由来の構造単位18.7%、イソフタル酸由来の構造単位6.2モル%からなる融点350℃でΔSは0.96×10−3J/g・K、高化式フローテスターを用い、温度360℃、剪断速度1000/sで測定した溶融粘度が14Pa・sであった。
【0124】
紡糸ノズル
図1に示される基本形状と下記サイズを有する紡糸ノズルを使用した。
B−1:ノズル長さ(La+Lb+Lt):10mm
上部導入孔Daの径:1.5mmφ
下部紡糸孔の径Db:0.15mmφ
[テーパー部の長さ/ノズル全長]×100(%)
([Lt/(La+Lb+Lt)]×100):99.9%
直孔部長さLa:0mm
直孔部長さLb:0.01mm
テーパー角度:7.7°
B−2:ノズル長さ(La+Lb+Lt):10mm
上部導入孔Daの径:1.5mmφ
下部紡糸孔の径Db:0.15mmφ
[テーパー部の長さ/ノズル全長]×100(%)
([Lt/(La+Lb+Lt)]×100):99.0%
直孔部長さLa:0.05mm
直孔部長さLb:0.05mm
テーパー角度:7.8°
B−3:ノズル長さ(La+Lb+Lt):10mm
上部導入孔Daの径:1.5mmφ
下部紡糸孔の径Db:0.15mmφ
[テーパー部の長さ/ノズル全長]×100(%)
([Lt/(La+Lb+Lt)]×100):89.5%
直孔部長さLa:1mm
直孔部長さLb:0.05mm
テーパー角度:8.6°
B−4:ノズル長さ(La+Lb+Lt):10mm
上部導入孔Daの径:1.5mmφ
下部紡糸孔の径Db:0.15mmφ
[テーパー部の長さ/ノズル全長]×100(%)
([Lt/(La+Lb+Lt)]×100):80.0%
直孔部長さLa:1.5mm
直孔部長さLb:0.5mm
テーパー角度:9.6°
B−5:ノズル長さ(La+Lb+Lt):10mm
上部導入孔Daの径:3.0mmφ
下部紡糸孔の径Db:0.15mmφ
[テーパー部の長さ/ノズル全長]×100(%)
([Lt/(La+Lb+Lt)]×100):99.0%
直孔部長さLa:0.05mm
直孔部長さLb:0.05mm
テーパー角度:16.4°
B−6:ノズル長さ(La+Lb+Lt):10mm
上部導入孔Daの径:5.0mmφ
下部紡糸孔の径Db:0.15mmφ
[テーパー部の長さ/ノズル全長]×100(%)
([Lt/(La+Lb+Lt)]×100):99.0%
直孔部長さLa:0.05mm
直孔部長さLb:0.05mm
テーパー角度:27.5°
B−7:ノズル長さ(La+Lb+Lt):10mm
上部導入孔Daの径:0.3mmφ
下部紡糸孔の径Db:0.15mmφ
[テーパー部の長さ/ノズル全長]×100(%)
([Lt/(La+Lb+Lt)]×100):99.0%
直孔部長さLa:0.05mm
直孔部長さLb:0.05mm
テーパー角度:0.87°
B−8:ノズル長さ(La+Lb+Lt):10mm
上部導入孔Daの径:0.15mmφ
下部紡糸孔の径Db:0.15mmφ
[テーパー部の長さ/ノズル全長]×100(%)
([Lt/(La+Lb+Lt)]×100):0%
テーパー角度:0°
B−9:ノズル長さ(La+Lb+Lt):10mm
上部導入孔Daの径:0.5mmφ
下部紡糸孔の径Db:0.5mmφ
[テーパー部の長さ/ノズル全長]×100(%)
([Lt/(La+Lb+Lt)]×100):0%
テーパー角度:0°
B−10:ノズル長さ(La+Lb+Lt):10mm
上部導入孔Daの径:1.5mmφ
下部紡糸孔の径Db:0.15mmφ
[テーパー部の長さ/ノズル全長]×100(%)
([Lt/(La+Lb+Lt)]×100):74.9%
直孔部長さLa:2.5mm
直孔部長さLb:0.01mm
テーパー角度:10.3°
実施例1〜8、比較例1〜8
表1に示す液晶性ポリエステル(A−1〜A−4)をそれぞれノズル(B−1〜B−10)で、二軸押出機にサンドパックと紡出装置を備えた紡糸器により、表1に示す温度、ドラフト比で紡糸を行った。比較例8については、比較例2で得た繊維をドラムに巻いた状態で250℃5時間窒素気流下で固相重合処理を行った。
下記(1)〜(4)について評価を行った。
【0125】
(1)繊度および繊度ムラ
巻き取り装置により10mを巻き取り、重量を測定して繊度を算出した。
【0126】
また、この操作を50回行い、繊度のばらつきを平均値からの最大もしくは最小値の差の絶対値のうち、いずれか大きい方の値を用いて繊度ムラを評価した((|最大値もしくは最小値−平均値|/平均値)×100(%))。
【0127】
繊度は平均値を表1に示した。
【0128】
(2)繊維強度および繊維強度ムラ(未固重糸)
繊維強度をJIS L1013に準じオリエンテック社製テンシロンUCT−100を用いて50本について測定した。
【0129】
繊維強度の平均値および繊維強度のばらつきを、平均値からの最大値もしくは最小値の差の絶対値のうち、いずれか大きい方の値を用いて繊維強度ムラを評価した(|最大値もしくは最小値−平均値|/平均値×100(%))。
【0130】
繊維強度は平均値を表1に示した。
【0131】
(3)太さ方向の熱膨張率
温度制御機構を備えた実態顕微鏡により、両端を0.01N/cmで拘束した繊維の外径を顕微マイクロメーターで測定しつつ、昇温を行い、30℃での外径に対する200℃での繊維外径の変化量を算出し、繊維の太さ方向の熱膨張率を評価した(熱膨張率=(200℃での外径−30℃での外径)/(200−30)(ppm/℃)。
【0132】
(4)融解熱量比(ΔHm1/ΔHm2)
繊維を示差熱量測定において、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm1 )における融解熱量(ΔHm1)(J/g)を測定した。 続いて、Tm1 の観測後、Tm1 +20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm2)における融解熱量(ΔHm2)(J/g)を測定した。
【0133】
融解熱量比を下式により算出した。
【0134】
融解熱量比=ΔHm1/ΔHm2 −[2]
【0135】
【表1】

【0136】
表1からも明らかなように本発明実施例では、繊度22dtex以下という細径の液晶性樹脂繊維が溶融紡糸により安定的に得られ、かつ得られた液晶性樹脂繊維は繊度のムラが極めて少ないことがわかる。また、未固重糸で溶融紡糸により製造された液晶性樹脂繊維としては、非常に高強度であり、強度のムラも少なく信頼性の高い高強度繊維が低コストで得られることがわかる。さらに本発明の液晶性樹脂繊維は、繊維断面方向の寸法変化が著しく改善されており、非常に有用であることがわかる。
【0137】
比較例からΔSが前記で説明した範囲外である液晶性樹脂を本発明で用いるノズルを用いて紡糸しても、強度も寸法安定性もそれほど優れたものは得られないことおよびΔSが前記で説明した範囲内である液晶性樹脂を使用しても、前記で説明した範囲外のノズルを用いて紡糸すればした場合には、繊度ムラが大きく、繊維強度も劣るものしか得られないことから、本発明の効果は、特定の液晶性樹脂を特殊ノズルで紡糸することによって始めて得られるものであることがわかる。
【0138】
また、固相重合糸(固重糸と称する場合もある)では、繊度ムラ、繊維強度ムラが増加し、確かに分子量の増加にともない強度は強くなるが、融解熱量が大きくなり、リサイクル性が低下するだけでなく、パッキングに関しては、テーパーノズルを使用した実施例に比べて低く、繊維の断面方向の熱膨張係数も実施例に比べて低かった。
【0139】
実施例9
実施例1と同様の条件で、口金直下30cmの範囲を実施例1〜8および比較例1〜8では室温で行ったのに対し、口金直下30cmの雰囲気温度を293℃として紡糸を行い、その後ローラーを介して150℃の恒温槽に導入し、ローラー間で1.0035倍の延伸を行った。評価は実施例1と同様に行った。
【0140】
実施例1で得た繊維は配向の偏在度の指標である繊維表面の配向強度と繊維中心の配向強度の比であるIs/Icが1.54と大きかったのに対して、実施例9で得た繊維はIs/Icが1.10と小さく、強度が優れていることがわかる。
【0141】
配向の偏在度の評価は理学製RINT2500微小部X線回折装置を用い、繊維中心を長さ方向にミクロトームで切削した断面について、表層から100nmを表層部として2θ=19〜20°に観測される液晶性樹脂の繊維長方向に平行な方向での回折ピーク強度をIsとし、中心部の100nmの同様に観測される液晶性樹脂の繊維長方向に平行な方向での回折ピーク強度をIcとして配向度比(IS/Ic)を算出した。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明において好ましく用いられるノズルの一態様の断面図である。
【符号の説明】
【0143】
1.ノズル
2.ノズル孔
3.テーパー部
4.導入孔
5.紡糸孔
6.導入孔側の直孔部
7.紡糸孔側の直孔部
La.導入孔側の直孔部の長さ
Lt.テーパー部の長さ
Lb.紡糸孔側の直孔部の長さ
Da.導入孔径
Db.紡糸孔径
θ.テーパー角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差熱量測定において、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm1)における融解熱量(ΔHm1)が、Tm1の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm2)における融解熱量(ΔHm2)に対して、3倍未満であり、かつ繊維強度が14cN/dtex以上である溶融液晶性樹脂繊維。
【請求項2】
式1で定義されるΔS(融解エントロピー)が0.9×10−3J/g・K以下である液晶性樹脂を、紡糸孔に向かって連続的に細径化するテーパー部をノズル孔の全長に対して少なくとも80%有し、ノズル孔の全長が10〜20mmであるノズルを用いて溶融紡糸してなる液晶性樹脂繊維。
ΔS=ΔHm(J/g)/[Tm(℃)+273](K) −[1]
(Tmは示差熱量測定において、重合を完了したポリマを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2(℃))を指し、ΔHmは該吸熱ピークにおける融解熱量(ΔHm2(J/g))である。)
【請求項3】
上記液晶性樹脂が、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなるものである請求項1または2記載の液晶性樹脂繊維。
【化1】

【請求項4】
液晶性樹脂繊維の繊維表面の配向度(Is)と繊維中心部の配向度(Ic)の比(Is/Ic)が1.2未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の液晶性樹脂繊維。
【請求項5】
式1で定義されるΔS(融解エントロピー)が0.9×10−3J/g・K以下である液晶性樹脂を、紡糸孔に向かって連続的に細径化するテーパー部をノズル孔の全長に対して少なくとも80%有し、ノズル孔の全長が10〜20mmであるノズルを用いて溶融紡糸することを特徴とする液晶性樹脂繊維の製造方法。
ΔS=ΔHm(J/g)/[Tm(℃)+273](K) −[1]
(Tmは示差熱量測定において、重合を完了したポリマを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を指し、ΔHmは該吸熱ピーク面積から算出される融解熱量(ΔHm2)である。)
【請求項6】
ノズルが、テーパー部のテーパー角度が1〜20°、導入孔径が0.5〜3mmφ、紡糸孔径が0.1〜0.5mmφであるノズルである請求項5記載の液晶性樹脂繊維の製造方法。
【請求項7】
溶融紡糸を液晶性樹脂の融点+15℃超融点+40℃未満の温度で行うことを特徴とする請求項5または6に記載の液晶性樹脂繊維の製造方法。
【請求項8】
溶融紡糸を液晶性樹脂の融点+20℃以上とし、かつ口金直下30cmまでの雰囲気温度を液晶性樹脂の融点−50℃〜融点−10℃の温度範囲に保った状態で紡糸した後、液晶性樹脂のガラス転移温度以上融点−100℃以下の温度において1.01倍未満の延伸を行うことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項記載の液晶性樹脂繊維の製造方法。
【請求項9】
紡糸孔に向かって連続的に細径化するテーパー部をノズル孔の全長に対して少なくとも80%有する、ノズル孔の全長が10〜20mmである紡糸用ノズル。

【図1】
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【公開番号】特開2006−89903(P2006−89903A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172170(P2005−172170)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】