説明

液晶樹脂シートの製造方法及び液晶樹脂シート

【課題】専用の装置を必要とせず、シートの厚みを容易に調整することができ、しかも、量産化が容易な液晶樹脂シートの製造方法及び液晶樹脂シートを提供する。
【解決手段】熱変形温度が80〜150℃異なる2種類の液晶樹脂をそれぞれ粉砕して各液晶樹脂の粒径を15〜300meshの範囲とし、2種類の液晶樹脂を混合して成形材料を調製し、その後、成形材料を熱変形温度が最も高い液晶樹脂の熱変形温度よりも−1〜−40℃低い範囲でプレス成形して液晶樹脂シートを製造する。2種類の液晶樹脂における固化のタイミングをずらしてその分子を絡め、折れにくい液晶樹脂シートを製造するので、専用の延伸装置等を省略することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性や耐熱膨張性等に優れ、電気、電子、半導体の分野で使用される液晶樹脂シートの製造方法及び液晶樹脂シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶樹脂(LCP)は、溶融エネルギが少なく、成形冷却時に流動方向に強い配向性(方向性)を示し、簡単に折れてしまうという特徴を有しているので、一般的にシートの成形には不向きとされている。しかしながら、液晶樹脂は、熱膨張性、耐熱性、低誘電性に優れ、各種の電子機器やコンピュータ等で昨今問題視されている電気ノイズの発生を有効に防止することができるので、シートを成形することができれば、実に便利である(特許文献1参照)。
【0003】
そこで、従来においては、(1)液晶樹脂を押出機により押し出してTダイ通過の直後に3方向同時に延伸し、液晶樹脂シートの配向性を打ち消す技術、(2)溶液上に溶けた液晶樹脂シートを流してシートを製造するキャスティング法と呼ばれる技術が提案されている。
【特許文献1】特開平5−305643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来における液晶樹脂シートは、以上のように製造されているが、(1)の技術を用いる場合には、専用の延伸装置等を必要とし、しかも、液晶樹脂シートの延伸の微妙な調整がきわめて困難であるという問題がある。また、(2)の技術の場合には、シートの厚みの調整が難しく、量産化にも適さないおそれが少なくない。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたもので、専用の装置を必要とせず、シートの厚みを容易に調整することができ、しかも、量産化が容易な液晶樹脂シートの製造方法及び液晶樹脂シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては上記課題を解決するため、熱変形温度が異なる複数種の液晶樹脂をそれぞれ粉砕し、この複数種の液晶樹脂を混合して成形材料を調製し、この成形材料を、熱変形温度が最も高い液晶樹脂の溶融(加熱して溶かす)時に他の液晶樹脂の溶融が始まる温度範囲で成形して液晶樹脂シートを製造することを特徴としている。
なお、熱変形温度が最も高い液晶樹脂の混合割合を成形材料全体の70〜95%とすることができる。
【0007】
また、複数種の液晶樹脂をそれぞれ粉砕して各液晶樹脂の粒径を15〜300meshの範囲とすることができる。
また、調製した成形材料を粉砕してその粒径を15〜100meshの範囲とし、その後にプレス成形して液晶樹脂シートを製造することができる。
【0008】
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1、2、又は3記載の液晶樹脂シートの製造方法により液晶樹脂シートを製造することを特徴としている。
【0009】
なお、熱変形温度が80〜150℃異なる複数種の液晶樹脂をそれぞれ粉砕して各液晶樹脂の粒径を15〜300meshの範囲とし、この複数種の液晶樹脂を混合して成形材料を調製し、この成形材料を熱変形温度が最も高い液晶樹脂の熱変形温度よりも−1〜−40℃低い範囲で加熱加圧して液晶樹脂シートを製造する液晶樹脂シートの製造方法であって、
熱変形温度が最も高い液晶樹脂の混合割合を成形材料全体の70〜95%とすることを特徴としても良い。
【0010】
ここで、特許請求の範囲における複数種の液晶樹脂は、熱変形温度が異なれば、2種類でも良いし、3種類、4種類、それ以上でも良い。本発明に係る液晶樹脂シートは、少なくとも電子機器、コンピュータのピンジャックのコネクタ部、送受信機器、プリント配線板等に利用することができ、可撓性の有無を特に問うものではない。
【0011】
本発明によれば、成形材料を用いた液晶樹脂シートの成形の際、流動開始点である熱変形温度が最も高い液晶樹脂の溶融時に熱変形温度が低い他の液晶樹脂が溶け始めて絡み合い、成形材料である液晶樹脂が流動方向に分子配向したまま固化するのが抑制される。この結果、液晶樹脂シートの機械的性質の異方性が抑制されたり、解消される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、専用の装置を必要とせず、シートの厚みを容易に調整することができ、しかも、量産化が容易な液晶樹脂シートの製造方法及び液晶樹脂シートを提供することができるという効果がある。
また、複数種の液晶樹脂をそれぞれ粉砕して各液晶樹脂の粒径を15〜300meshの範囲とすれば、液晶樹脂シートの引っ張り強度や曲げ強度等が低下するのを防ぐことができる。
【0013】
さらに、調製した成形材料を粉砕してその粒径を15〜100meshの範囲とし、その後にプレス成形して液晶樹脂シートを製造すれば、成形材料の粉砕漏れを抑制して材料の均質化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における液晶樹脂シートの製造方法は、熱変形温度が異なる2種類の液晶樹脂をそれぞれ粉砕して各液晶樹脂の粒径を所定の範囲とし、この2種類の液晶樹脂を混合して成形材料を調製し、その後、この成形材料を熱変形温度が最も高い液晶樹脂の熱変形温度よりも低い温度範囲で成形して高い熱伝導性の液晶樹脂シートを製造するようにしている。
【0015】
2種類の液晶樹脂は、その急峻に溶解する熱変形温度(=液晶化点でもある)が80〜150℃、好ましくは90〜140℃、より好ましくは100〜130℃異なる液晶樹脂が選択される。これは、使用する2種類の液晶樹脂の熱変形温度が80〜150℃異なれば、2種類の液晶樹脂が共に溶解することがなく、液晶樹脂の成形冷却時に流動方向に強い配向性が生じて液晶樹脂シートが折れるおそれを有効に排除することができるからである。
【0016】
換言すれば、2種類の液晶樹脂の熱変形温度が80〜150℃異なれば、一の液晶樹脂の完全な溶融時に他の液晶樹脂の溶融が始まって分子が相互に絡み合うので、液晶樹脂に高度な配向性の生じることがなく、可撓性、強度に優れる液晶樹脂シートを得ることができるからである。液晶樹脂の熱変形温度は、ATSM−D648に準じて測定される。
【0017】
上記において、液晶樹脂シートを製造する場合には、先ず、熱変形温度が異なるペレットの液晶樹脂を2種類用意してジェットミルにより別々に粉砕し、2種類の液晶樹脂の粒径をそれぞれ15〜300mesh、好ましく100〜280mesh、より好ましくは150〜250meshの範囲に調整する。
【0018】
この際、液晶樹脂の粒径を15〜300meshの範囲とするのは、この範囲から外れると、液晶樹脂シートの引っ張り強度や曲げ強度が低下したり、液晶樹脂の粉砕が困難になるからである。
【0019】
各液晶樹脂の粒度を調整したら、2種類の液晶樹脂双方をミキサにより混合攪拌し、この2種類の液晶樹脂を温度調整されたバッチ式の加圧ニーダにより混練して成形材料を調製する。成形材料は、2種類の液晶樹脂中、熱変形温度が最も高い液晶樹脂の混合割合が全体の70〜95%、好ましくは80〜93%、より好ましくは85〜90%となるよう調製する。
【0020】
熱変形温度が最も高い液晶樹脂の混合割合が全体の70〜95%なのは、この範囲から外れると、配向性が生じて液晶樹脂シートの強度や剛性の低下を招き、衝撃により損傷しやすくなるからである。
【0021】
次いで、調製した成形材料を熱変形温度が最も高い液晶樹脂の熱変形温度よりも−1〜−40℃、好ましくは−10〜−35℃、より好ましくは−15〜−30℃低い温度範囲で加熱プレス成形機によりプレス成形し、その後、所定の大きさ・長さにシーティングすれば、絶縁性や耐熱膨張性に優れる厚さ300μm程度の薄い液晶樹脂シートを製造することができる。
【0022】
この際、調製した成形材料を直ちにプレス成形しても良いが、ジェットミルにより再び粉砕してその粒径を15〜100mesh、好ましくは30〜80mesh、より好ましくは40〜60meshの範囲とした後、プレス成形してシーティングすることにより、絶縁性の液晶樹脂シートを製造しても良い。
【0023】
こうして製造された液晶樹脂シートは、成形性、熱膨張性、耐熱性、低誘電率等に優れ、配向性を示すことなく均質で折れにくいので、各種の電子機器やコンピュータで問題視されている電気ノイズの発生を有効に抑制防止することができる。
【0024】
上記によれば、熱変形温度が異なる2種類の液晶樹脂における固化のタイミングをずらしてその分子を絡めれば、機械的性質に優れ、折れにくい液晶樹脂シートを製造することができるので、専用の延伸装置等を省略することができ、しかも、液晶樹脂シートを延伸する際の微妙な調整を何ら必要としない。また、液晶樹脂シートの厚みを容易に調整することができるので、量産化の著しい向上を図ることができる。
【0025】
また、液晶樹脂シートを射出成形するのではなく、プレス成形するので、配向性の発現をより有効に抑制防止することができ、簡単に折れることがない。また、調製した成形材料を再度粉砕して均質化を図るようにすれば、液晶樹脂シートに配向性が生じるのをより確実に防止することができる。さらに、二軸式の混練機ではなく、バッチ式の加圧ニーダにより混練するので、成形材料の容易な調製が期待できる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明に係る液晶樹脂シートの製造方法及び液晶樹脂シートの実施例を比較例と共に説明する。
実施例1
先ず、変形温度が異なる市販のペレットの液晶樹脂を2種類用意してジェットミルにより別々に粉砕し、2種類の液晶樹脂の粒径をそれぞれ15〜150meshの範囲に調整した。2種類の液晶樹脂としては、液晶ポリマー〔上野製薬製:商品名A8100〕5%wtと液晶ポリマー〔上野製薬製:商品名A2000〕95%wtとを使用した。
【0027】
各液晶樹脂の粒径を調整したら、2種類の液晶樹脂双方をスーパーミキサ〔カワタ製〕により混合攪拌し、この2種類の液晶樹脂を260℃に温度調整された加圧ニーダにより混練して成形材料を調製した。
次いで、成形材料をジェットミルにより粉砕してその粒径を15〜100meshの範囲とし、この成形材料を加熱プレス成形機によりプレス成形し、その後、所定の大きさ・長さにシーティングすることにより、厚さ2.0mmの液晶樹脂シートを製造した。プレス成形は、260℃で加熱し、10kgf/cm2の条件で加圧した。
【0028】
実施例2
基本的には実施例1と同様だが、2種類の液晶樹脂として、液晶ポリマー〔上野製薬製:商品名A8100〕10%wtと液晶ポリマー〔上野製薬製:商品名A2000〕90%wtとを使用した。
【0029】
実施例3
変形温度が異なるペレットの液晶樹脂を2種類用意してジェットミルにより別々に粉砕し、2種類の液晶樹脂の粒径をそれぞれ100〜250meshの範囲に調整した。2種類の液晶樹脂としては、液晶ポリマー〔上野製薬製:商品名A8100〕20%wtと液晶ポリマー〔上野製薬製:商品名A2000〕80%wtとを使用した。その他の部分については、実施例1と同様とした。
【0030】
実施例4
変形温度が異なるペレットの液晶樹脂を2種類用意してジェットミルにより別々に粉砕し、2種類の液晶樹脂の粒径をそれぞれ100〜250meshの範囲に調整した。2種類の液晶樹脂としては、液晶ポリマー〔上野製薬製:商品名A8100〕30%wtと液晶ポリマー〔上野製薬製:商品名A2000〕70%wtとを使用した。その他の部分については、実施例1と同様とした。
【0031】
比較例1
先ず、ペレットの液晶樹脂を用意してジェットミルにより粉砕し、液晶樹脂の粒径を50〜100meshの範囲に調整した。液晶樹脂としては、液晶ポリマー〔上野製薬製:商品名A2000〕100%wtを使用した。
【0032】
液晶樹脂の粒径を調整したら、この液晶樹脂をスーパーミキサ〔カワタ製〕により攪拌し、この液晶樹脂を260℃に温度調整された加圧ニーダにより混練して成形材料を調製した。
そして、成形材料を加熱プレス成形機によりプレス成形した後、所定の大きさ・長さにシーティングすることにより、厚さ2.0mmの液晶樹脂シートを製造した。プレス成形は、260℃で加熱し、10kgf/cm2の条件で加圧した。
【0033】
比較例2
基本的には比較例1と同様だが、2種類の液晶樹脂の粒径をそれぞれ15〜40meshの範囲に調整した。2種類の液晶樹脂としては、液晶ポリマー〔上野製薬製:商品名A8100〕40%wtと液晶ポリマー〔上野製薬製:商品名A2000〕60%wtとを用いた。その他の部分については、比較例と同様とした。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
液晶樹脂シートを製造したら、各液晶樹脂シートを使用してJIS K 7161−1991に準じた1号ダンベルを作成し、引っ張り試験を実施してその測定結果から液晶樹脂シートの引っ張り強度を検討した。また、JIS K 7171−1994に準じた曲げ試験を実施してその測定結果から液晶樹脂シートの曲げ強度を検討した。
【0039】
実施例1、2、3、4の場合には、縦方向、横方向共、引っ張り曲げ強度で大きな差が見られず、方向性が消失したきわめて良好な液晶樹脂シートを製造することができた。また、強度的にもきわめて良好な液晶樹脂シートであることを確認した。
これに対し、比較例1、2の場合には、縦横方向共、引っ張り曲げ強度で大きな差異が見られ、液晶樹脂シートに特有の方向性が強く発現したのを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱変形温度が異なる複数種の液晶樹脂をそれぞれ粉砕し、この複数種の液晶樹脂を混合して成形材料を調製し、この成形材料を、熱変形温度が最も高い液晶樹脂の溶融時に他の液晶樹脂の溶融が始まる温度範囲で成形して液晶樹脂シートを製造することを特徴とする液晶樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
熱変形温度が最も高い液晶樹脂の混合割合を成形材料全体の70〜95%とする請求項1記載の液晶樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
複数種の液晶樹脂をそれぞれ粉砕して各液晶樹脂の粒径を15〜300meshの範囲とする請求項1又は2記載の液晶樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
調製した成形材料を粉砕してその粒径を15〜100meshの範囲とし、その後にプレス成形して液晶樹脂シートを製造する請求項1、2、又は3記載の液晶樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれかに記載の液晶樹脂シートの製造方法により製造されたことを特徴とする液晶樹脂シート。

【公開番号】特開2008−30397(P2008−30397A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208465(P2006−208465)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】