説明

液晶波長フィルタ

【課題】 温度変化による透過波長の変動を従来のものよりも小さくすることができる液晶波長フィルタを提供すること。
【解決手段】 液晶波長フィルタ10は、透明基板11と、透明基板11の面上に順次形成された透明電極12、ミラー13及び配向膜14と、透明基板11に挟持された液晶層15と、液晶層15の周縁部に設けられたシール材16とを備え、素子中央部における液晶層15の温度変化による厚さの変化によって、透過する光の波長が変動するのを防ぐように、透明基板11の厚さ及び液晶層15の体積膨張率の大きさの少なくとも一方に応じて、シール材16の線膨張係数の大きさを限定させる構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば光通信分野において所望の波長の光信号を取り出す液晶波長フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の液晶波長フィルタとしては、特許文献1及び2に示されたものが知られている。
【0003】
まず、特許文献1に示されたものは、液晶層を挟持する一対のガラス基板と、液晶層の周囲のガラス基板間に設けられたシール材及びコーティング層とを備えている。シール材の熱膨張係数は液晶層の熱膨張係数よりも大きく、シール材の厚さはコーティング層が設けられた分だけ一般のものよりも薄い構成となっている。この構成により、温度変化に対する透過波長の変動を小さく抑えることができると特許文献1には記載されている。
【0004】
次に、特許文献2に示されたものは、気泡を含む液晶層と、この液晶層を挟持する一対の透明基板とを備え、周囲温度が変化した場合でも、液晶層の体積変化分を吸収するよう気泡の体積が温度変化に応じて変化するので透明基板間の寸法の変動を抑えることができ、温度変化に対する透過波長の変動を小さく抑えることができるようになっている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−29793号公報
【特許文献2】特開2003−45065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されたものは、温度が上昇するにつれて液晶層の中央部が端面部よりも大きく膨張してガラス基板が変形するという現実の現象を考慮したものではないので、温度変化による透過波長の変動を小さくすることができない場合があった。
【0007】
また、特許文献2に示されたものは、液晶層の気泡が、振動や衝撃等により光束の透過領域内に移動する場合があり、そのような場合には透過波長は所定の値にならないという課題があった。
【0008】
本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、温度変化による透過波長の変動を従来のものよりも小さくすることができる液晶波長フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液晶波長フィルタは、入射される光の進行方向に沿って透明電極及びミラーが設けられた少なくとも2枚の透明基板と、前記透明電極が対向するように配置された前記透明基板間に挟持された液晶層と、この液晶層の周縁に設けられ前記液晶層を挟持する前記透明基板を接合するシール材とを備える液晶波長フィルタにおいて、前記液晶波長フィルタの中央部における前記液晶層の温度変化による厚さの変化によって、透過する光の波長が変動するのを防ぐように、前記透明基板の厚さ及び液晶層の体積膨張率の大きさの少なくとも一方に応じて、前記シール材の線膨張係数の大きさを限定させる構成を有している。
【0010】
この構成により、本発明の液晶波長フィルタは、液晶波長フィルタの中央部における液晶層の温度変化による厚さの変化によって、透過する光の波長が変動するのを防ぐように、透明基板の厚さ及び液晶層の体積膨張率の大きさの少なくとも一方に応じて、シール材の線膨張係数の大きさを限定させるので、温度変化による透過波長の変動を従来のものよりも小さくすることができる。
【0011】
また、本発明の液晶波長フィルタは、前記シール材の線膨張係数の大きさが、前記透明基板の厚さが増加するにつれて減少する構成を有している。
【0012】
この構成により、本発明の液晶波長フィルタは、透明基板の厚さに応じてシール材の線膨張係数の大きさを限定させるので、温度変化による透過波長の変動を従来のものよりも小さくすることができる。
【0013】
さらに、本発明の液晶波長フィルタは、前記シール材の線膨張係数の大きさが、前記液晶層の体積膨張率が増加するにつれて増加する構成を有している。
【0014】
この構成により、本発明の液晶波長フィルタは、液晶層の体積膨張率の大きさに応じてシール材の線膨張係数の大きさを限定させるので、温度変化による透過波長の変動を従来のものよりも小さくすることができる。
【0015】
さらに、本発明の液晶波長フィルタは、前記透明基板が石英ガラス基板であり、前記シール材がエポキシ系及びアクリル系の少なくとも一方の接着材からなる構成を有している。
【0016】
この構成により、本発明の液晶波長フィルタは、一般に用いられる石英ガラス基板と、エポキシ系及びアクリル系の少なくとも一方の接着材からなるシール材とを備えるので、透明基板及びシール材を形成する従来の製造工程を適用することができ、新たな設備投資を必要としないので、製造コストを増大させることなく、温度変化による透過波長の変動を従来のものよりも小さくすることができる。
【0017】
さらに、本発明の液晶波長フィルタは、前記石英ガラス基板の厚さが0.4mmから2.0mmまで変化するとき、前記シール材の線膨張係数の値が、前記石英ガラス基板の厚さに応じて3.2×10−5/℃〜4.9×10−4/℃の間で変化する構成を有している。
【0018】
この構成により、本発明の液晶波長フィルタは、石英ガラス基板の厚さが0.4mmから2.0mmまでのいずれかの場合、その厚さに対応した線膨張係数を有するシール材を選定することにより、温度変化による透過波長の変動を従来のものよりも小さくすることができる。
【0019】
さらに、本発明の液晶波長フィルタは、所定の電圧が前記透明電極に印加された電圧印加状態及び前記電圧が前記透明電極に印加されていない電圧無印加状態を有し、前記電圧無印加状態において、透過する光の波長の温度変化率が10℃から60℃までの温度範囲において、波長の温度による変動値が0nm/℃〜0.1nm/℃の値を有する構成を有している。
【0020】
この構成により、本発明の液晶波長フィルタは、透過波長の温度特性が最大となる電圧無印加状態において波長の温度による変動値を0nm/℃〜0.1nm/℃の範囲内に収めることができるので、電圧印加状態においても透過波長の温度特性を±0.1nm/℃の範囲内に抑えることができ、温度変化による透過波長の変動を従来のものよりも小さくすることができる。
【0021】
さらに、本発明の液晶波長フィルタは、前記液晶層の体積膨張率の値が5.2×10−5/℃から2.6×10−4/℃まで変化するとき、前記シール材の線膨張係数の値が、前記液晶層の体積膨張率の値に応じて1.7×10−6/℃から3.9×10−4/℃まで変化する構成を有している。
【0022】
この構成により、本発明の液晶波長フィルタは、液晶層の体積膨張率の値が5.2×10−5/℃から2.6×10−4/℃までのいずれかの場合、その体積膨張率に対応した線膨張係数を有するシール材を選定することにより、温度変化による透過波長の変動を従来のものよりも小さくすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、温度変化による透過波長の変動を従来のものよりも小さくすることができるという効果を有する液晶波長フィルタを提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0025】
まず、本実施の形態に係る液晶波長フィルタの構成について図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係る液晶波長フィルタの模式的な構成図である。
【0026】
図1に示すように、本実施の形態に係る液晶波長フィルタ10は、透明基板11と、透明基板11の面上に順次形成された透明電極12、ミラー13及び配向膜14と、透明基板11に挟持された液晶層15と、液晶層15の周縁部に設けられたシール材16とを備えている。
【0027】
透明基板11は、例えば石英ガラス基板によって構成される。透明電極12は、例えばITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウム錫)で構成され、例えばスパッタ法によって透明基板11上に形成される。一対の透明電極12には、所定の周波数の電圧が印加されるようになっており、この電圧によって液晶層15の実質的な屈折率が変化するようになっている。
【0028】
ミラー13は、例えばSiO膜とTa膜とが交互に積層された多層膜で構成され、例えば蒸着法によって透明電極12上に形成されるようになっている。互いに対向する一対のミラー13は、光共振器を構成しており、一対のミラー13の間隔に応じた共振波長の光が生成されるようになっている。
【0029】
配向膜14は、例えばポリイミドで構成され、液晶層15に含まれる液晶分子の配向を定める配向処理剤がミラー13上に塗布されて形成される。
【0030】
液晶層15は、例えばネマチック液晶で構成され、配向膜14及びシール材16に囲まれた領域に封入されている。シール材16は、例えばエポキシ系及びアクリル系の少なくとも一方の接着材等で構成される。
【0031】
本実施の形態に係る液晶波長フィルタ10は、素子中央部(図1において矢印が描かれた部分)における液晶層15の温度変化による厚さの変化によって、透過する光の波長が変動するのを防ぐように、透明基板11の厚さ及び液晶層15の体積膨張率の大きさの少なくとも一方に応じて、シール材16の線膨張係数の大きさが限定される構成となっている。
【0032】
具体的には、例えば、透明基板11は、基板厚が0.8mmの石英ガラス基板で構成され、液晶層15は、体積膨張係数が1.7×10−4/℃のネマチック液晶で構成され、シール材16は、線膨張係数が1.9×10−4/℃から2.6×10−4/℃までの材料で構成されている。
【0033】
本実施の形態に係る液晶波長フィルタ10は、前述のように構成されているので、図1に示された矢印の方向に光が進行するとき、一対の透明電極12の間に所定の周波数の電圧を印加することにより、一対のミラー13の間隔に応じた共振波長の光を出力することができるようになっている。
【0034】
ところで、前述のように構成された液晶波長フィルタ10は、周囲温度に応じて、各構成の寸法が変化し、図1に示された矢印の方向に透過した光の波長(以下「透過波長」という。)が変動することが知られている。
【0035】
そこで、本発明の発明者は、液晶波長フィルタ10の使用温度範囲内における透過波長の変動量を抑えるためには、液晶波長フィルタ10の中央部の厚さ変動を抑えることが必要であることに着眼し、透明基板11及び液晶層15の構成に応じたシール材16の線膨張係数を算出することにより、液晶波長フィルタ10の温度特性を従来のものよりも大幅に改善することができた。以下、詳細に説明する。
【0036】
最初に、前述のように構成された液晶波長フィルタ10の温度特性について説明する。
【0037】
まず、基準温度(例えば20℃)における液晶波長フィルタ10の形状を図2(a)に示すように簡略化して表し、光が透過する方向の液晶層15の厚さを以下「セルギャップ」という。この基準温度においては2枚の透明基板11は平行になっており、図2(b)に示すように液晶波長フィルタ10の透過波長を波長λとする。
【0038】
液晶波長フィルタ10の周囲温度が上昇すると、液晶波長フィルタ10の形状は、図2(a)に示された形状から図2(c)又は図2(e)に示された形状に変化する。温度上昇が同じ場合、図2(c)及び図2(e)に示された形状における液晶層15の膨張後の体積は同一である。
【0039】
図2(c)は、シール材16の膨張が液晶層15の膨張よりも小さい場合における液晶波長フィルタ10の形状変化を示したものである。この場合、液晶波長フィルタ10の中央部が最も膨張し、この中央部におけるセルギャップが最大となる。ここで、セルギャップの大きさは、透明基板11の基板厚にも左右され、基板厚が薄いほどセルギャップが変化しやすい。図2(c)に示された形状における液晶波長フィルタ10の透過波長は、図2(d)に示すように波長λよりも大きい側にシフトした波長λとなる。
【0040】
一方、図2(e)は、シール材16の膨張が液晶層15の膨張よりも大きい場合における液晶波長フィルタ10の形状変化を示したものである。この場合、シール材16が液晶層15よりも膨張するので、液晶波長フィルタ10の中央部におけるセルギャップの変化は、図2(c)に示された場合よりも小さくなる。ここで、セルギャップの大きさは、透明基板11の基板厚にも左右される。図2(e)に示された形状における液晶波長フィルタ10の透過波長は、図2(f)に示すように波長λとほぼ同等な波長λとなる。
【0041】
前述のように、セルギャップの大きさは温度変化に応じて変化するので、液晶波長フィルタ10の透過波長も温度変化に応じて変動する。液晶波長フィルタ10が例えば光通信分野において用いられる場合、使用温度範囲は10℃〜60℃であり、この使用温度範囲において温度変化による透過波長の変動値は、±0.1nm/℃の範囲内であれば十分であると考えられている。なお、温度変化による透過波長の変動値のことを以下「透過波長の温度特性」という。
【0042】
また、透明電極12に所定の周波数の電圧が印加された電圧印加状態において、周波数を選択することによって、透過波長の温度特性の最大値と最小値との差を0.1nm/℃以下に抑えることができることが知られている。さらに、透明電極12に印加される印加電圧が0Vの状態(以下「電圧無印加状態」という。)において、透過波長の温度特性は最大となることが知られている。したがって、電圧無印加状態において、透過波長の温度特性が0nm/℃〜0.1nm/℃を満足すれば、電圧印加状態においても透過波長の温度特性を±0.1nm/℃の範囲内に抑えることができる。なお、以下の記載における透過波長の温度特性は、電圧無印加状態での温度特性を指すものとする。
【0043】
以上のように、液晶波長フィルタ10における透過波長の温度特性は、透明基板11として用いる石英ガラス基板の基板厚、液晶層15として用いる液晶材料の体積膨張係数、シール材16の線膨張係数によって決定される。そこで、石英ガラス基板の基板厚及び液晶材料の体積膨張係数をパラメータとしてシール材16の線膨張係数を算出することにより、以下に示すように、透過波長の温度特性を±0.1nm/℃の範囲内に抑えることができる。
【0044】
まず、図3(a)に示すように、セルギャップzaが温度上昇後にセルギャップzbに変化するとき、形状変化分z1は次式で表される。
【0045】
z1=zb−za (1)
【0046】
ここで、図3(a)右側に示すように液晶層15が熱膨張する際の応力によって透明基板11が形状変化する場合、透明基板11の変形後の形状は二次関数で近似できること、また、透明基板11に加わる応力が強くなるにつれて透明基板11は二次関数の相似形で変形することが実験的に証明されている。
【0047】
そこで、図3(b)に示すように、温度上昇によるセルギャップの形状変化分をモデル化して近似的に表すものとする。すなわち、図3(b)に示されたモデル化されたもの(以下「モデル1」という。)の座標を図示のように定めると、セルギャップの形状変化分z1は次式で表される。
【0048】
z1=Ax+By+C+D (2)
【0049】
ここで、Ax+By+Cは透明基板11の変形分を示し、Dはシール材16の膨張分を示している。例えば、液晶波長フィルタ10の中央部においては、セルギャップ差分はC+Dであり、シール材16の近傍においては、セルギャップ差分はDである。なお、液晶波長フィルタ10の中央部とは、(x、y)=(0、0)を通るz軸に沿った部分をいい、セルギャップ差分とは、温度上昇前のセルギャップの寸法と温度上昇後のセルギャップの寸法との差分をいう。
【0050】
また、セルギャップの寸法をd、温度をT、透過波長をλ、液晶及び基板の材料特性やセルギャップ等から決まる係数をhとするとき、次式に示すような関係がある。
【0051】
∂d/∂T(nm/℃)=h×∂λ/∂T(nm/℃) (3)
【0052】
式(3)より、透過波長λの温度特性が0nm/℃〜0.1nm/℃を満足するためには、セルギャップの温度変化分を0nm/℃〜h×0.1nm/℃の寸法範囲内に収めればよいことが示されている。したがって、モデル1における温度変化分C+Dを0nm/℃〜h×0.1nm/℃の寸法範囲内に収めることを目標値とする。
【0053】
次に、実際の製品に使用する材料を用意し、これらの材料で透明基板11、液晶層15及びシール材16をそれぞれ構成した場合、シール材16の線膨張係数を式(2)より算出して検討した結果を述べる。ここで用意した透明基板11の材料は、基板厚が0.8mmの石英ガラス基板である。また、液晶層15の材料として用意した材料を液晶材料Lと呼び、シール材16として用意した2種類の材料をシール材料S1又はS2と呼ぶ。また、検討した構成において式(3)の係数h=10なので、モデル1における温度変化分C+Dを0nm/℃〜1nm/℃の寸法範囲内に収めることを目標値とする。
【0054】
まず、基板厚が0.8mmの石英ガラス基板と、液晶材料Lと、シール材16としてシール材料S1とを用いた場合に、透過波長の温度特性の面内分布からセルギャップ差分の面内分布を求め、式(2)で近似した。この場合、液晶波長フィルタ10の中央部において透過波長の温度特性は0.27nm/℃であり、シール材料S1の線膨張係数は、5.1×10−5/℃であった。
【0055】
また、同様に、基板厚が0.8mmの石英ガラス基板と、液晶材料Lと、シール材16としてシール材料S2とを用いた場合、液晶波長フィルタ10の中央部において透過波長の温度特性は0.15nm/℃であり、シール材料S2の線膨張係数は、1.5×10−4/℃であった。
【0056】
したがって、シール材16としてシール材料S1又はS2を用いた場合は、共に温度特性0nm/℃〜0.1nm/℃を満足できないことがわかった。
【0057】
そこで、温度特性0nm/℃〜0.1nm/℃を満足させることができるシール材16の線膨張係数を図4に示された新たなモデルで算出することとした。
【0058】
図4(a)は、式(2)を導出したモデル1を示しており、図4(b)は、膨張後の全体の体積がモデル1と同じで、透明基板11の変形分及びシール材16の膨張分が異なるモデル(以下「モデル2」という。)を示している。すなわち、モデル2における液晶波長フィルタ10の形状変化分z2は、式(2)に対して係数s及びtを導入することにより、次の近似式で表される。
【0059】
z2=s(Ax+By+C)+tD (5)
【0060】
ここで、s(Ax+By+C)は透明基板11の変形分を示し、tDはシール材16の膨張分を示している。例えば、液晶波長フィルタ10の中央部においては、セルギャップ差分はsC+tDであり、シール材16の近傍においては、セルギャップ差分はtDである。また、モデル1と同様に、モデル2における温度変化分sC+tDを0nm/℃〜1nm/℃の寸法範囲内に収めることを目標値とする。
【0061】
前述の液晶材料L、基板厚0.8mmの石英を用いた場合、液晶波長フィルタ10の中央部におけるセルギャップの寸法が目標値に入っているという条件のもとで、式(5)の係数s及びtを求め、シール材16の膨張分tDを計算し、シール材16の線膨張係数範囲を算出した結果、1.9×10−4/℃〜2.6×10−4/℃であれば、温度特性0nm/℃〜0.1nm/℃を満足させることができることが判明した。この結果は、シール材料S1及びS2よりも大きな線膨張係数を有するシール材料を用いることにより、液晶波長フィルタ10の中央部における温度特性目標を満足することができることを示している。
【0062】
次に、液晶層15の材料として液晶材料Lとは異なる材料を用いる場合に、液晶材料Lでの体積膨張に基づいて、シール材16の線膨張係数を算出する。
【0063】
温度変化による液晶体積膨張分を液晶材料Lの液晶体積膨張分×体積膨張係数kとして算出する。体積膨張係数k=1のときが液晶材料Lのときである。具体的には、式(5)を用いて、温度変化による液晶体積膨張分の体積が、図3(b)に示されたモデル1の体積×体積膨張係数kとなる条件で、係数s及びtを導き出し、シール材16の線膨張係数を算出する。その結果を図5に示す。なお、図3(b)に示されたモデル1の体積V1は、寸法p及びqを用いて次式で表される。
【0064】
V1=r(4pqA/3+4pqB/3+4pqC)+4pqD (6)
【0065】
ここで、係数rは後述する基板の反りの係数であり、石英ガラス基板の基板厚が0.8mmのときは係数r=1である。また、右辺第1項は透明基板11の変形分の体積を示し、右辺第2項はシール材16の膨張分の体積を示している。
【0066】
図5は、体積膨張係数kを0.1から1.5まで0.1のステップで変化させた場合に対する、温度が10℃変化した場合の液晶層15の体積膨張(μm/10℃)、体積増加分(%)、体積膨張係数(/℃)及びシール材16の線膨張係数範囲(/℃)を示している。図5において、各体積膨張係数kにおける体積膨張は、体積膨張係数k=1(液晶材料Lのとき)での体積膨張「16840.224μm/10℃」を基準として算出している。例えば、体積膨張係数k=0.5における液晶層15の体積膨張は、体積膨張係数k=1のときの半分となっている。
【0067】
体積膨張係数k=1における体積膨張の値は、温度変化前の元の体積に対して膨張した体積を示している。元の体積は、図4(b)に示された寸法p及びqを用いると、p=600μm、q=600μm、z=6.8μmの場合の体積9792000μmであり、この元の体積に対し、10℃の温度上昇があったときの体積膨張は16840.224μm/10℃であり、体積増加分は約0.172%である。
【0068】
図5に示された結果によれば、液晶体積膨張(係数)が大きくなるにつれ、シール材16の線膨張係数も大きくしなければならないことを示している。これは、液晶体積膨張によるセルギャップが、液晶波長フィルタ10の中央部のみで集中的に大きくならないよう素子全体で平均化される、又は、シール材16近傍でセルギャップが大きくなることを意味している。
【0069】
また、図5において、液晶層15の体積膨張率の値が、5.2×10−5/℃から2.6×10−4/℃まで変化するとき、シール材16の線膨張係数の値が、液晶層15の体積膨張率の値に応じて1.7×10−6/℃から3.9×10−4/℃まで変化することが示されている。
【0070】
次に、透明基板11の材料として基板厚0.8mmとは異なる基板厚の石英ガラス基板を用いる場合についてシール材16の線膨張係数を算出する。
【0071】
基板厚が厚くなるにつれて基板変形が抑えられるので、液晶層15の体積膨張分が小さくなると考えることができる。このとき、式(5)に対して基板の反りの係数rを導入することにより、液晶波長フィルタ10の形状変化分z3は、次の近似式で表される。なお、石英ガラス基板の基板厚が0.8mmのとき基板の反りの係数rを1とする。
【0072】
z3=rs(Ax+By+C)+tD (7)
【0073】
式(7)により、s=1、t=1のとき液晶体積膨張分を求め、この液晶体積膨張分は変えないで、液晶波長フィルタ10の中央部におけるセルギャップの寸法が目標値に入るようs及びtを変化させることによって、シール材16の線膨張係数範囲を求める。その結果を図6に示す。
【0074】
図6に示すように、基板厚が0.4mmから2.0mmまで変化するとき、シール材16の線膨張係数の値が、基板厚に応じて4.9×10−4/℃から3.2×10−5/℃までの間で変化している。
【0075】
つまり、基板厚が厚くなるにつれて応力に対する基板変形が小さくなることから、液晶体積膨張は小さく抑えられるため、基板厚が厚くなるにつれてシール材16を膨張させる必要はなくなり、シール材16の線膨張係数を小さくできることが示されている。逆にシール材16の線膨張係数が図6に示されたものよりも大きいものを用いるときは、液晶波長フィルタ10の中央部におけるセルギャップの変化を基板変形により小さく抑える必要が生じ、より薄い基板で透明基板11を構成する必要がある。
【0076】
次に、透明基板11としての材料が基板厚0.8mmの石英ガラス基板とは異なり、かつ、液晶層15としての材料が液晶材料Lとは異なる場合について、前述と同様に算出した結果を図7〜図9に示す。
【0077】
図7は、基板厚を0.4mmから2.0mmまで変化させ、液晶層15の体積膨張係数kを0.5、1、1.5と変化させた場合に対する、温度が10℃変化した場合の液晶層15の体積膨張(μm/10℃)、体積増加分(%)、体積膨張係数(/℃)及びシール材16の線膨張係数範囲(/℃)を示している。図7において、基板厚0.8mmにおける体積膨張係数k=1のものを基準とし、各基板厚でのシール材16の線膨張係数を算出したものである。
【0078】
また、図8及び図9は、図7に示された結果をグラフ化したものである。すなわち、図8は、石英ガラス基板の厚さ(t)をパラメータとして、液晶層15の体積膨張係数kに対するシール材16の線膨張係数範囲を示し、図9は、体積膨張係数kをパラメータとして、石英ガラス基板の基板厚に対するシール材16の線膨張係数範囲を示している。
【0079】
図8に示すように、液晶層15の体積膨張率が増加するにつれて、シール材16の線膨張係数の大きさは増加している。また、図9に示すように、石英ガラス基板の厚さが増加するにつれて、シール材16の線膨張係数の大きさが減少している。図8及び図9に示されたグラフによって、図7に示された算出点以外でのシール材16の線膨張係数範囲を知ることができる。例えば図8に示されたグラフによって、体積膨張係数kが例えば0.7や1.3の液晶材料を用いる場合のシール材16の線膨張係数範囲を石英ガラス基板の厚さ毎に知ることができる。
【0080】
図7〜図9に示された結果により、石英ガラス基板の基板厚と液晶層15の体積膨張係数kとの組み合わせに応じた線膨張係数を有するシール材料を用いることにより、温度特性0nm/℃〜0.1nm/℃を満足する液晶波長フィルタ10が得られる。
【0081】
以上のように、本実施の形態の液晶波長フィルタ10によれば、透明基板11と、透明基板11の面上に順次形成された透明電極12、ミラー13及び配向膜14と、透明基板11に挟持された液晶層15と、液晶層15の周縁部に設けられたシール材16とを備え、素子中央部における液晶層15の温度変化による厚さの変化によって、透過する光の波長が変動するのを防ぐように、透明基板11の厚さ及び液晶層15の体積膨張率の大きさの少なくとも一方に応じて、シール材16の線膨張係数の大きさを限定させる構成としたので、温度変化による透過波長の変動を従来のものよりも小さくすることができる。
【0082】
具体的には、図7に示されたデータより、例えば、基板厚が1.6mmの石英ガラス基板で透明基板11を構成し、体積膨張係数が1.2×10−4/℃のネマチック液晶で液晶層15を構成し、線膨張係数が1.1×10−4/℃から1.9×10−4/℃までの材料でシール材16を構成することにより、本実施の形態の液晶波長フィルタ10は、10℃から60℃までの温度範囲において、温度変化による透過波長の変動値を0nm/℃〜0.1nm/℃の範囲内に収めることができる。
【0083】
また、本実施の形態の液晶波長フィルタ10によれば、透明基板11を石英ガラス基板で構成し、シール材16をエポキシ系及びアクリル系の少なくとも一方の接着材からなる構成としたので、透明基板11及びシール材16を形成する従来の製造工程を適用することができ、新たな設備投資を必要としないので、製造コストを増大させることなく、温度変化による透過波長の変動を従来のものよりも小さくすることができる。
【0084】
なお、前述の実施の形態において、光の入射側及び出射側に透明基板11を各1つ設ける構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、透明基板11を複数枚で構成しても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように、本発明に係る液晶波長フィルタ10は、温度変化による透過波長の変動を従来のものよりも小さくすることができるという効果を有し、光通信分野において所望の波長の光信号を取り出す液晶波長フィルタ等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本実施の形態に係る液晶波長フィルタの模式的な構成図
【図2】(a)本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、基準温度における液晶波長フィルタの構成を簡略化して表した図 (b)本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、基準温度における透過波長λを示す図 (c)本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、基準温度より温度が上昇した場合における液晶波長フィルタの構成を簡略化して表した図 (d)本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、基準温度より温度が上昇した場合における透過波長λを示す図 (e)本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、基準温度より温度が上昇した場合における液晶波長フィルタの構成を簡略化して表した図 (f)本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、基準温度より温度が上昇した場合における透過波長λを示す図
【図3】(a)本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、セルギャップzaが温度上昇後にセルギャップzbとなるときの形状変化を示す図 (b)本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、温度上昇によるセルギャップの形状変化分をモデル化して近似的に表したモデル1を示す図
【図4】(a)本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、温度上昇によるセルギャップの形状変化分をモデル化して近似的に表したモデル1を示す図 (b)本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、温度上昇によるセルギャップの形状変化分をモデル化して近似的に表したモデル2を示す図
【図5】本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、液晶材料の体積膨張係数kに対するシール材の線膨張係数範囲を示す図
【図6】本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、透明基板材料の基板厚に対するシール材の線膨張係数範囲を示す図
【図7】本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、透明基板材料の基板厚及び液晶材料の体積膨張係数kに対するシール材の線膨張係数範囲を示す図
【図8】本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、液晶材料の体積膨張係数kに対するシール材の線膨張係数範囲を示すグラフ
【図9】本実施の形態に係る液晶波長フィルタにおいて、透明基板材料の基板厚に対するシール材の線膨張係数範囲を示すグラフ
【符号の説明】
【0087】
10 液晶波長フィルタ
11 透明基板
12 透明電極
13 ミラー
14 配向膜
15 液晶層
16 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射される光の進行方向に沿って透明電極及びミラーが設けられた少なくとも2枚の透明基板と、前記透明電極が対向するように配置された前記透明基板間に挟持された液晶層と、この液晶層の周縁に設けられ前記液晶層を挟持する前記透明基板を接合するシール材とを備える液晶波長フィルタにおいて、前記液晶波長フィルタの中央部における前記液晶層の温度変化による厚さの変化によって、透過する光の波長が変動するのを防ぐように、前記透明基板の厚さ及び液晶層の体積膨張率の大きさの少なくとも一方に応じて、前記シール材の線膨張係数の大きさを限定させることを特徴とする液晶波長フィルタ。
【請求項2】
前記シール材の線膨張係数の大きさが、前記透明基板の厚さが増加するにつれて減少する請求項1に記載の液晶波長フィルタ。
【請求項3】
前記シール材の線膨張係数の大きさが、前記液晶層の体積膨張率が増加するにつれて増加する請求項1又は2に記載の液晶波長フィルタ。
【請求項4】
前記透明基板が石英ガラス基板であり、前記シール材がエポキシ系及びアクリル系の少なくとも一方の接着材からなる請求項1、2又は3に記載の液晶波長フィルタ。
【請求項5】
前記石英ガラス基板の厚さが0.4mmから2.0mmまで変化するとき、前記シール材の線膨張係数の値が、前記石英ガラス基板の厚さに応じて3.2×10−5/℃〜4.9×10−4/℃の間で変化する請求項4に記載の液晶波長フィルタ。
【請求項6】
所定の電圧が前記透明電極に印加された電圧印加状態及び前記電圧が前記透明電極に印加されていない電圧無印加状態を有し、前記電圧無印加状態において、透過する光の波長の温度変化率が10℃から60℃までの温度範囲において、波長の温度による変動値が0nm/℃〜0.1nm/℃の値を有する請求項1から5までのいずれか1項に記載の液晶波長フィルタ。
【請求項7】
前記液晶層の体積膨張率の値が5.2×10−5/℃から2.6×10−4/℃まで変化するとき、前記シール材の線膨張係数の値が、前記液晶層の体積膨張率の値に応じて1.7×10−6/℃から3.9×10−4/℃まで変化する請求項5又は6に記載の液晶波長フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−86454(P2007−86454A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275498(P2005−275498)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】