説明

液晶素子の製造方法

【課題】配向処理において静電気や汚損が発生させず、また、配向処理後の洗浄や液晶注入の必要がない液晶素子の製造方法を提供する。
【解決手段】電極構造32を表面に有する転写ドラム31の上に液晶を傾斜配向させ、高分子液晶と重合開始剤が添加されたネマチック液晶を前記転写ドラム表面に塗布し、配向膜42が形成された基板40の上に液晶を転写する間に電界を印加すると同時に紫外線を照射することにより塗工された液晶が基板40上にて配向状態を固定することで、配向処理と液晶注入を同時に行う手法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子の製造方法に関し、配向処理と液晶層形成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、液晶の持っている光の偏光特性を利用した表示素子である。液晶素子では、一対の基板間に液晶を介在させ、基板上で発生させた電界を液晶層に印加することによって透過光および反射光を制御している。基板上には、液晶層の初期配列を決定させるための配向膜が形成され、また上記基板と上記配向膜の間には透明電極が形成されている。場合によっては保護膜も形成されることがある。液晶層の初期配列状態において、配向膜の近傍における液晶分子が基板となす角度をプレチルト角という。所望のプレチルト角に液晶分子を配列させるために、配向膜の表面には配向処理を行うのが普通である。
【0003】
従来より、配向処理法についてはさまざまな提案がなされてきた(非特許文献1及び2を参照)。工業的に最もよく用いられている方法は、配向膜を布で擦る方法、いわゆるラビング法である。
【0004】
ラビング法に用いられる装置は図1に示すような構成である。綿布のようなラビング布1を表面に巻いたラビングローラ2を基板3上の配向膜4に接触させつつラビングローラ2を回転させながら基板面上を矢印方向に移動させると、配向膜面全体に均一な配向処理ができる。図2に示すように、配向処理をさせた基板3を、2枚を以って1対とし、配向膜4が互いに内側になるように所定ギャップdだけ隔てて対向配置し、基板の間に液晶5を注入することにより液晶素子は作製される。液晶5の分子の平均的な配向方向をダイレクタ7といい、特に配向膜4の近傍のダイレクタ7と基板3とのなす角をプレチルト角という。プレチルト角は、ラビングローラ2の移動方向に対して図2にθpとして示される方向に発生する。液晶素子の駆動方式および駆動条件によって最適なθpは異なるため、所望のθpが得られるようにラビング強度も異なってくる。ラビング強度とは、ラビング布を基板に押し付ける圧力のことである。
【0005】
【非特許文献1】T.Uchida,M.Hirano and H.Sakai,Liq.Cryst.,5,(1989) 1127
【非特許文献2】「液晶ディスプレイ技術」松元正一著 産業図書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来法の問題点は、ラビングにより静電気および塵や汚損が発生することである。配向膜表面をラビング布で擦った際に発生する摩擦静電気は、液晶素子を駆動するための半導体素子や配線を破壊してしまうことが従前から問題となっていた。また、ラビングによって配向膜から削り取られる物質やラビング布から抜け落ちる繊維が配向膜表面に付着し配向膜を汚損してしまうことも問題となっている。
【0007】
こうした問題を克服するためには、静電気の発生を低減することを目的にイオンを照射するなどして除電するなどの対策が採られている。また、ラビング後に基板を洗浄する対策が採られている。しかし、ラビングは物理的見地からみれば摩擦現象そのものであり、摩擦帯電を完全に無くすことは困難である。また、静電気による欠損の有無を検査する必要が生じるため、除電対策や洗浄処理だけでなく、検査工程の導入が必要となり、工程を導入する分だけ生産コストが高くなってしまう。
【0008】
検査を通過した基板は、2枚を1対として接着剤6で貼り合わせ、液晶パネル8とした後、液晶5が注入される。液晶5の注入は、図3に示すように、真空環境に液晶パネル8を置き、液晶パネル8の一端を液晶バス9内に置いた後、常圧に戻すことによって、気圧差で液晶5をパネル内に注入していく。液晶5が液晶パネル8から漏れ出さないよう封止され、適宜検査がされると完成品となる。この液晶注入工程は、液晶の粘性のために、かなりの時間を要してしまうことが問題となっている。
【0009】
さらに、所望のプレチルト角が得られたかどうかは、液晶素子に液晶を注入した後でしか確認できない。このため、所望のプレチルト角が得られるラビング強度を得るための条件が見出されるまでラビング強度の調節をするには、多数の試作をしなければならないばかりか、ラビング処理中のラビング布の磨耗によって最適ラビング条件から逸脱してしまうことも問題となっている。
【0010】
本発明は前記課題に鑑みなされたものであり、ラビング法に代わる液晶の配向法を提供するだけでなく、液晶注入工程に代わる液晶層の転写手法を提供することによって、配向処理と液晶層の形成を同時に行い、大幅な工程短縮の手法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明にかかる液晶素子の製造方法は、電極構造を表面に有する転写ドラムの上に液晶分子が傾斜配向するよう処理を施す工程と、高分子液晶と重合開始剤が添加されたネマチック液晶を前記転写ドラム表面に塗布する工程と、液晶分子を垂直配向させる性質を有する配向膜が形成された基板の上に前記転写ドラムによって液晶を塗工する工程と、前記転写ドラムによって液晶を塗工する間に前記転写ドラムと前記基板との間に電界を印加することによって液晶分子配列を整えると同時に紫外線を基板に対し斜め方向から照射することにより塗工された液晶が基板上にて配向状態を固定する工程と、を含むことを特徴とする液晶素子の製造方法である。
【0012】
また、電極構造を表面に有する転写ドラムの上に液晶分子が傾斜配向するよう処理を施す工程と、高分子液晶と重合開始剤が添加されたネマチック液晶を前記転写ドラム表面に塗布する工程と、液晶分子を水平配向させる性質を有する配向膜が形成された基板の上に前記転写ドラムによって液晶を塗工する工程と、前記転写ドラムによって液晶を塗工する間に前記転写ドラムと前記基板との間に電界を印加することによって液晶分子配列を整えると同時に紫外線を基板に対し斜め方向から照射することにより塗工された液晶が基板上にて配向状態を固定する工程と、を含むことを特徴とする液晶素子の製造方法である。
【0013】
また、櫛歯電極構造を表面に有する転写ドラムの上に液晶分子が傾斜配向するよう処理を施す工程と、高分子液晶と重合開始剤が添加されたネマチック液晶を前記転写ドラム表面に塗布する工程と、液晶分子を水平配向させる性質を有する配向膜が形成された基板の上に前記転写ドラムによって液晶を塗工する工程と、前記転写ドラムによって液晶を塗工する間に前記転写ドラム表面において転写ドラムの接線方向に電界を印加することによって液晶分子配列を整えると同時に紫外線を基板に対し斜め方向から照射することにより塗工された液晶が基板上にて配向状態を固定する工程と、を含むことを特徴とする液晶素子の製造方法である。
【0014】
また、櫛歯電極構造を表面に有する転写ドラムの上に液晶分子が傾斜配向するよう処理を施す工程と、高分子液晶と重合開始剤が添加されたネマチック液晶を前記転写ドラム表面に塗布する工程と、液晶分子を垂直配向させる性質を有する配向膜が形成された基板の上に前記転写ドラムによって液晶を塗工する工程と、前記転写ドラムによって液晶を塗工する間に前記転写ドラム表面において転写ドラムの接線方向に電界を印加することによって液晶分子配列を整えると同時に紫外線を基板に対し斜め方向から照射することにより塗工された液晶が基板上にて配向状態を固定する工程と、を含むことを特徴とする液晶素子の製造方法である。
【0015】
また、前記配向状態を固定する工程は、液晶のプレチルト角を測定する工程をさらに含んでもよい。加えて、前記ネマチック液晶は負のものであってもよい。
【0016】
また、本発明の好適な態様によれば、一対の基板であって、少なくとも一方が本発明の前記液晶表示素子の製造方法によって作製されている基板を対向配置し、それぞれの基板上もの液晶層同士が内側で貼付されるようセルを作製する工程を含むことを特徴とする液晶素子の製造方法である。
【0017】
また、前記セル作製工程において、対向配置された前記一対の基板間に挟持されるよう2次液晶材料を注入する工程をさらに含んでもよく、この2次液晶材料には高分子液晶又は重合開始剤が添加されていないものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる液晶素子の製造方法によれば、配向膜表面に力学的な摩擦を加える工程ではないために、静電気や汚損を引き起こすことなしに、配向膜表面に液晶配向を固定することが可能である。また、従来はラビング法などの配向処理を行った後に基板洗浄を行った後に基板を2枚貼り合わせてから液晶を基板間に注入しなければならないものが、本発明にかかる液晶素子の製造方法によれば、配向した液晶層を基板に直接的に形成してしまうため、注入工程を省略することが可能であり、大幅な工程短縮をすることが出来る。本発明によれば、配向膜に対する配向処理および液晶注入工程のそれぞれの専用の製造装置が必要であったが、本発明では一台の印刷機械によって実施することが可能となる。
【0019】
単純な印刷法では液晶の配向が転写されない理由は、ドラム上の液晶の空気に触れる面については、表面張力の影響で液晶の配向は一般に乱れている。このため、液晶の配向を制御する電界を掛けずに液晶層をドラムから基板に転写しても配向は転写されないのである。よって、従来法では、配向処理をおこなった配向膜の表面でなければ、印刷による液晶層の形成に使用できなかった。本発明による製造方法では、配向膜へ予め配向処理を行う必要が無いことが画期的である。所望のプレチルト角が得られる電界を印加し、液晶を配列した状態で、紫外線を照射することによって液晶を重合して配向を固定化してしまえば、転写ドラムから基板が離れることによって電界が無くなった後でも配向が消失してしまうことは無い。紫外線を基板に対して照射する角度を最適値とすることによって、重合される液晶の厚さを任意に制御することが可能である。この重合された液晶層が、従来法でいうところの配向処理された配向膜と同じ作用を行うのであり、液晶素子のプレチルト角を決定する。
【0020】
また、液晶の配向を整列するための電界は、転写ドラムから転写される基板に向けた電界に限る必要はなく、転写ドラムに櫛歯電極を形成して、横電界と呼ばれる転写ドラム近傍にのみ形成される電界によって整列させても良い。
【0021】
更に、従来法では、ほぼ最終工程である液晶素子への液晶注入工程の後でなければ、所望のプレチルト角を得られたかどうか確認できなかったが、本発明にかかる液晶素子の製造方法によれば、配向した液晶層を基板に直接的に形成している最中にプレチルトを測定する装置を更に組み合わせることも可能であるため、本発明による配向処理中にリアルタイムでプレチルト角を最適条件で形成することが可能である。プレチルト角を決定するのは、転写ドラムと基板の間に形成される電界もしくは転写ドラム近傍の横電界であるため制御が容易である。
【0022】
また、液晶素子を構成する2枚の基板のうち、一方を本発明による製造方法によって作成した基板とすることによって、もう1枚の基板を貼り合わせることによって液晶素子を作成できるが、この際には液晶を再度注入する必要が無いことも大きな利点である。逆に、貼り合わせた後に、転写ドラム上の液晶とは異なる2次液晶を注入することも可能である。2次液晶には、高分子液晶と重合開始剤が含まれていないものを用いることが出来ることから、液晶素子内部の重合開始剤の比率を大幅に減らすことも出来ることから、重合開始剤が原因となる性能劣化を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、実際の測定に即して、本発明を詳しく説明する。
【0024】
本発明にかかる液晶素子の製造装置を図4に示す。転写ドラム31は、円筒形であり、図4の矢印Aの方向に回転している。転写ドラム31の表面には電極32が形成されている。電極の表面には、配向膜33が形成されている。配向膜33の表面には、配向処理を行っておく。配向膜33への配向処理は、ラビング布で擦る公知なラビング処理でよい。高分子液晶と重合開始剤を添加した液晶は、タンク34に入れられ、送液パイプ35を通って、転写ドラム31の上に滴下される。転写ドラム31の上に制御された所望の厚さに液晶が拡がるように、ドクターブレード36によって液晶を延伸させる。こうして転写ドラム31の上に、液晶層37が形成される。基板送りテーブル38の上には、基板40が載せられている。なお、基板送りテーブル38は、後述する紫外光照射の為の溝39が切ってある。基板40は液晶素子に用いる一般的な基板と同様の構造でよく、基板40の上に電極41が形成されており、電極41の上には配向膜42が形成されている。しかし、配向膜42の表面には、何も配向処理を行う必要はない。転写ドラム31の下を基板40がくぐるように基板送りテーブル38は図4の矢印Bの方向に水平移動する。転写ドラム32の回転速度は基板送りテーブル38と調歩させておく。基板40が転写ドラム31の直下に差し掛かったときの、基板40と転写ドラム31の間隔は、液晶層37の厚さよりもやや狭くなるように予め調整する。基板送りテーブル38上の基板40が、移動によって液晶層37に接触したとき、電極32と電極41の間に交流電界を印加する。印加電界の強さによって、配向膜42の上の液晶層における液晶分子の配向方向が決定される。こうして電界によって液晶の配向を決定し保持しながら、基板40の下方から紫外線を照射する。紫外線と基板40のなす角は、紫外線が液晶層に浸透する深さを決定する。紫外線と基板40とが垂直である場合は、紫外線は液晶層37を透過してしまい、液晶層37に含まれている重合性高分子全体が重合してしまい不都合である。紫外線を斜め方向から入射することによって、液晶層37のうちの基板40側のごく薄い領域だけが重合され、この重合された領域の液晶分子は電界を切った後でも液晶分子配向の方向が高分子によって保持され、よってプレチルトを生じさせる。重合されたことから液晶層37は転写ドラム31から離れ、配向膜42上に固定される。
【0025】
こうして製作された基板40を2枚について、液晶層同士が内側になるように貼り合わせることによって、液晶素子とすることができる。
【0026】
従って、一度転写ドラム31を製作すれば、量産的に基板40を作り出すことが出来る。
【実施例1】
【0027】
前記の形態および手順で、従前行われてきた配向処理および液晶注入工程を行う代わりに、液晶配向層を形成することが出来る。
【0028】
図5は、前記の形態において、転写ドラム31上に塗布された配向膜33の上に液晶層を形成した結果を示す。図5(a)は断面の模式図であり、液晶膜37の内部における液晶配向の分布を模式的に示したものである。図5(a)において、配向膜33の形成は公知の方法で行える。例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコールなどを塗布すればよい。本実施例では、ポリイミドを塗布し、220℃で焼成後、コットン布でラビングしてある。液晶をドクターブレード36で延伸後の、図5(a)の液晶層におけるプレチルト角θは2.1度になるように、転写ドラム31に対するラビング処理は設定されている。転写ドラム31上に延伸される液晶は一般的なものでよい。本実施例では、メルク製ZLI−4792を用いている。このとき、ドラム上での液晶層37における液晶分子の配向方向の分布、すなわちダイレクタ分布は厚さ方向に変化があることは公知である。液晶層37において空気と接する界面におけるダイレクタが膜の接線となす角をθとしたとき、θは液晶層37の厚さに依存し、図5(b)のような変化を示す。よって、本発明による製造方法によって液晶層37を液晶基板40の上に形成する場合、製造されるべき液晶素子の駆動モードによって最適な値を見つけ出すことが必要である。例えば、OCB(Optically Compensated Birefringence)モードの場合には、プレチルト角は15度程度必要であるとされていることから、本発明による製造方法における、転写ドラム上での液晶層37の厚さは200nmが最適である。ここで、用いる液晶をZLI−4792から他の液晶に変えた場合は、最適な液晶層37の厚さは200nmから異なってくることは当業者にとっては自明であろう。基板送りテーブル38の移動速度は、速い方が生産性は高くなるものの、液晶の配向が乱れてしまう。よって液晶の粘性も考慮に入れ最適な速度に調整する必要がある。ZLI−4792の場合、好ましくは毎秒0.1mm〜2mm、最適には毎秒約1mmである。
【0029】
上述のようにして形成された液晶層37が基板40の上に転写された時、基板40上の配向膜42上に転写形成された液晶層37内部における、配向膜42との界面近傍のプレチルト角はほぼθと等しいことが期待される。ここで、転写ドラム31上の電極32と基板40上の電極41の間に交流電界を印加することによって、液晶分子の配列の乱れを抑圧し配列性を向上することが出来る。電極32と電極41の間の印加電圧を変えることによって、ダイレクタのチルト角を変化させることが出来ることは、液晶素子の本質でもあり、当業者にとっては自明であろう。
【0030】
液晶素子の内部に液晶を注入した後で、ダイレクタの配列が整えた状態で、紫外光を照射することによって液晶の配向を担持する手法は、多くの提案がある(例えば、特開2006−139046、特開2004−286984、論文:Sang Gyun Kim、Sung Min Kim,Youn Sik Kim、Hee Kyu Lee、Seung Hee Letters 90、261910(2007年))。これらはいずれも、何がしかの配向処理をした液晶基板を貼り合わせた上で液晶を注入後に、液晶層に対して紫外光を照射して液晶の配向を固定するものばかりである。本発明のように、紫外光によって液晶の配向を固定してから、液晶基板を貼り合わせるものではない。更に、これらの方法では、紫外光の照射角が基板に対して何度であるかの記述が無いものが殆どであるが、一般的には基板に垂直に照射している。この場合、紫外光による液晶の重合は液晶層内で均一に起こるものである。液晶層内で均一に重合が起こるからこそ高分子分散型液晶素子が実現できる。配向膜との界面でのみ液晶の重合を起こさせ、プレチルトを固定したい場合には、配向膜と液晶の界面にのみ紫外光が局在化するように、紫外光を基板40に照射すればよい。配向膜と液晶の界面にのみ紫外光を局在化させる手段は2通りある。液晶が紫外光に対して吸収がある場合には、光学関連の教科書等にも指摘されている通り、液晶層を紫外光が進行して行くに従って指数関数的に減衰していくため、紫外光は配向膜と液晶の界面において最も強いことは自明である。液晶層において、配向膜と液晶との界面からの距離をzとしたとき、位置zにおける光強度I(z)は次式で表される。
【0031】
I(z)=(1−R)Iexp(−αz) (数1)
ここでRは配向膜と液晶との界面での光の反射係数、αは液晶層における光の吸収係数である。液晶は異方性を持つため、前記式で正確に計算することは困難だが、定性的には説明することができる。もう一つの方法は、基板40に対して紫外光を臨界角付近の入射角で照射することによって、紫外光は配向膜と液晶の界面に局在化できる。図6(b)は、図6(a)に示すような屈折率が1.8の配向膜方向から平均屈折率が1.7の液晶に光が入射した場合の光の浸透深さを計算したものである。ここでいう浸透深さとは、光が1/eに減衰する深さをいう。eは自然対数である。実際には液晶に異方性があるものの、通常、図6(b)のように入射角が大きくなるほど浸透深さは浅くなり、紫外光が配向膜と液晶の界面に局在化する。本実施例のように、液晶層厚を200nm程度にするためには、好ましくは30〜75度、さらに好ましくは70〜72度の入射角で重合すればよいことが分かる。紫外光重合を行うためには、液晶に光重合性高分子液晶を添加する方法が広く行われている。本実施例の場合、PMMA(Polymethylmethacrylate)を液晶に5w%と共に重合開始剤としてチバ・スペシャルティ・ケミカルズ製イルガキュア369を0.1w%添加している。ここに約1J/cmの紫外光を照射することで重合を完了することが出来る。
【0032】
このようにして作成した2枚の液晶基板について、液晶層が互いに内側になるように貼り合わせることによって、液晶素子を完成させることが出来る。
【実施例2】
【0033】
実施例1においては、誘電率異方性が正であるZLI−4792を用いたが、誘電率異方性が負の液晶を用いても、本手法は実現できる。実施例1と同様に、転写ドラム31の上にメルク製MLC−2038を塗布し、基板40の上に転写しながら転写ドラム31上の電極32と基板40上の電極41の間に交流電界を印加することによって、液晶分子の配列は電界と垂直になろうとする。すなわち、θは10度前後に小さくすることが出来る。
【実施例3】
【0034】
実施例1では、基板40上に転写形成される液晶層の厚さは200nm程度とした。このまま2枚を貼り合わせても液晶素子とすることが出来るが、ねじれネマチック(TN)モードなどでは、液晶の複屈折率から最適な液晶層厚は決まってくるため、200nmでは液晶層としては不足である。このため、ドクターブレード36と転写ドラム31の間隔を広げ、液晶層厚をTNモードに最適な厚さとなるように調節するのも一つの方法である。しかし、液晶層内に残留する重合開始剤は、アクティブマトリクス方式による駆動の場合、電荷保持率を下げるラジカルを生じさせることが知られている。このため、光重合を利用して液晶素子を作成する場合には、重合開始剤の残留量をできるだけ減らすべきである。本発明による液晶素子の作成法では、プレチルトを形成するのに必要な厚さの液晶層37を形成し、こうして作成した液晶基板40同士を貼り合わせた後、高分子液晶及び重合開始剤を含まない2次液晶を改めて注入することによって液晶素子とすることも可能である。たとえば、5ミクロンの液晶層厚のTN液晶素子を本実施例3で作成する場合、200nmの転写液晶層が上下2枚の界面層にあるとしても、重合開始剤を含む層は液晶層全体の10%未満となるため、電荷保持率を減少させるラジカルの発生量も1/10以下に抑制することが可能である。
【実施例4】
【0035】
実施例1では、基板40の上に液晶を転写しながら転写ドラム31上の電極32と基板40上の電極41の間に交流電界を印加していた。しかし、基板40上の電極41にアクティブマトリクス駆動用の半導体層が形成されている場合には、基板40全面と電極32の間に一様電界を発生させることが困難な場合もある。この場合は、図4の転写ドラム31表面上に、転写ドラム31表面の接線方向に平行な電場を発生させればよい。図7(b)は転写ドラム31表面に形成された櫛歯電極43を、転写ドラム31を正面に見た図である。櫛歯電極43によって発生する電界は図7(b)の矢印方向である。誘電率異方性が正の液晶を用いら場合は、電界によって液晶ダイレクタ7の方向は電界と平行となる。このような表面の接線方向に平行な電場を横電界といい、横電界によっても液晶の分子配列を制御できることは、当業者にとっては自明であろう。転写ドラム31を横から見た様子を図7(a)に示す。横電界によって液晶層37内部に配列した液晶ダイレクタ7は図7(a)のようになるため、実施例1と同様な手順で転写及び紫外光照射によって固定することが可能である。
【実施例5】
【0036】
本発明では、下記実施例のように、液晶配向処理と液晶層の形成が同時であるため、従来は液晶注入後に液晶層が形成されてからしか知ることが出来なかったプレチルト角を、配向処理と同時に知ることが可能であることも大きな特徴である。プレチルト角の測定法それ自体は、公知である方法を適用することが出来る(例えば「液晶科学実験入門」日本液晶学会編、シグマ出版)。本実施例では図8に示すように、実施例1で説明した図4のような製造装置に加え、反射偏光解析装置として公知の機器を加えている。基板送りテーブル38には、偏光解析用可視光線透過溝44が形成されている。直線偏光レーザ45から出射した直線偏光光線は、偏光解析用可視光線透過溝44を通過し、基板40と電極41と配向膜42を透過して液晶層37に照射され、液晶層37からの反射光は偏光子46を透過し受光器47に到達する。このような、直線偏光レーザ45から受光器47で構成されるようなシステムは、一般に反射偏光解析装置と呼ばれる公知な装置である(例えば、「分光エリプソメトリー」藤原裕之、丸善 に詳しく解説されている)。反射偏光解析装置によって液晶のプレチルトを知ることが出来ること自体は公知である。反射偏光解析装置でプレチルト角を監視しながら、所望のプレチルト角が得られるように電極32と電極41の間に印加する交流電界を調節することによって、最良の液晶層を形成することが可能である。
【0037】
以上説明したように、本願発明は、液晶素子を作成する上で欠かせなかった配向処理において、静電気や汚損が発生することがないといった特徴を備え、また、配向処理後の洗浄や液晶注入を行うことなく液晶素子を製造できるため、液晶素子の製造プロセスを格段に省力化できることになろう。また、電子ペーパーの製造にみられるロール ツー ロール型の製造にも適用してもよく、コスト抑制面で効果的となろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ラビング法の測定装置の構成概念図である。
【図2】液晶素子の構造概念図である。
【図3】液晶素子への液晶を注入する方法の概略図である。
【図4】本発明による液晶素子製造装置の概略図である。
【図5】転写ドラム上での液晶分子の配向の概略図である。
【図6】臨界角で光を液晶に照射した場合の光の浸透深さの関係図である。
【図7】転写ドラム上での液晶分子配向状態及び転写ドラム表面上に形成された櫛歯電極を示した概略図である。
【図8】反射偏光解析装置をさらに備えた、本発明による液晶素子製造装置の概略図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ラビング布
2 ラビングローラ
3 基板
4 配向膜
5 液晶
6 接着剤
7 ダイレクタ
8 液晶パネル
9 液晶バス
31 転写ドラム
32 電極
33 配向膜
34 タンク
35 送液パイプ
36 ドクターブレード
37 液晶層
38 基板送りテーブル
39 紫外線照射溝
40 基板
41 電極
42 配向膜
43 櫛歯電極
44 偏光解析用可視光線透過溝
45 直線偏光レーザ
46 偏光子
47 受光器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極構造を表面に有する転写ドラムの上に液晶分子が傾斜配向するよう処理を施す工程と、
高分子液晶と重合開始剤が添加されたネマチック液晶を前記転写ドラム表面に塗布する工程と、
液晶分子を垂直配向させる性質を有する配向膜が形成された基板の上に前記転写ドラムによって液晶を塗工する工程と、
前記転写ドラムによって液晶を塗工する間に前記転写ドラムと前記基板との間に電界を印加することによって液晶分子配列を整えると同時に紫外線を基板に対し斜め方向から照射することにより塗工された液晶が基板上にて配向状態を固定する工程と、を含むことを特徴とする液晶素子の製造方法。
【請求項2】
電極構造を表面に有する転写ドラムの上に液晶分子が傾斜配向するよう処理を施す工程と、
高分子液晶と重合開始剤が添加されたネマチック液晶を前記転写ドラム表面に塗布する工程と、
液晶分子を水平配向させる性質を有する配向膜が形成された基板の上に前記転写ドラムによって液晶を塗工する工程と、
前記転写ドラムによって液晶を塗工する間に前記転写ドラムと前記基板との間に電界を印加することによって液晶分子配列を整えると同時に紫外線を基板に対し斜め方向から照射することにより塗工された液晶が基板上にて配向状態を固定する工程と、を含むことを特徴とする液晶素子の製造方法。
【請求項3】
櫛歯電極構造を表面に有する転写ドラムの上に液晶分子が傾斜配向するよう処理を施す工程と、
高分子液晶と重合開始剤が添加されたネマチック液晶を前記転写ドラム表面に塗布する工程と、
液晶分子を水平配向させる性質を有する配向膜が形成された基板の上に前記転写ドラムによって液晶を塗工する工程と、
前記転写ドラムによって液晶を塗工する間に前記転写ドラム表面において転写ドラムの接線方向に電界を印加することによって液晶分子配列を整えると同時に紫外線を基板に対し斜め方向から照射することにより塗工された液晶が基板上にて配向状態を固定する工程と、を含むことを特徴とする液晶素子の製造方法。
【請求項4】
櫛歯電極構造を表面に有する転写ドラムの上に液晶分子が傾斜配向するよう処理を施す工程と、
高分子液晶と重合開始剤が添加されたネマチック液晶を前記転写ドラム表面に塗布する工程と、
液晶分子を垂直配向させる性質を有する配向膜が形成された基板の上に前記転写ドラムによって液晶を塗工する工程と、
前記転写ドラムによって液晶を塗工する間に前記転写ドラム表面において転写ドラムの接線方向に電界を印加することによって液晶分子配列を整えると同時に紫外線を基板に対し斜め方向から照射することにより塗工された液晶が基板上にて配向状態を固定する工程と、を含むことを特徴とする液晶素子の製造方法。
【請求項5】
前記配向状態を固定する工程は、液晶のプレチルト角を測定する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液晶素子の製造方法。
【請求項6】
前記ネマチック液晶が負の誘電率異方性を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液晶素子の製造方法。
【請求項7】
一対の基板であって、少なくとも一方が請求項1〜6のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法によって作製されている基板を対向配置し、それぞれの基板上の液晶層同士が内側で貼付されるようセルを作製する工程を含むことを特徴とする液晶素子の製造方法。
【請求項8】
前記セル作製工程において、対向配置された前記一対の基板間に挟持されるよう2次液晶材料を注入する工程をさらに含むことを特徴とする請求項7記載の液晶素子の製造方法。
【請求項9】
前記2次液晶材料には高分子液晶又は重合開始剤が添加されていないことを特徴とする請求項8記載の液晶素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−175247(P2009−175247A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11573(P2008−11573)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】