説明

液晶表示装置の製造方法

【課題】高速応答性を有する液晶表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】液晶3と、光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性化合物4とを含む液晶組成物中の重合性化合物を重合させる際に、所定の条件下、一画素内の特定箇所の液晶分子のみがスプレー配向(またはベンド配向)を示し、重合が、所定電圧印加により、電圧無印加時の液晶分子のベンド配向(またはスプレー配向)がスプレー配向(またはベンド配向)に転移した段階で、一画素内の特定箇所のみについて行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置のTV用途が増大する今日、動画対応として高速応答する液晶表示装置の必要性は益々大きくなっている。高速応答液晶表示装置としては、強誘電液晶を使用するものがある。しかし強誘電液晶は、層構造を安定に保つことが困難である等問題点が多い。
【0003】
次にネマティック液晶を用いて高速応答を実現する方式として、OCB方式(Optically Compensated Bend)や、OCS方式(Optically Compensated Splay)がある。これは両基板のラビング方向が互いに同方向であり、液晶分子の配向としては、水平配向ではスプレーが、垂直配向ではベンドがエネルギー的に低い状態となる配向を形成し、一定電圧Vcr以上の電圧を印加することにより、それぞれ逆の配向状態に転移する方式である。すなわち、電圧無印加時に液晶分子が水平配向の場合には電圧印加でベンド(OCB)を、電圧無印加時に液晶分子が垂直配向の場合には電圧印加でスプレー(OCS)を実現する。この方式では、液晶分子をOCBまたはOCSに保ってあれば、その後の液晶分子の配向の変化速度が大きく、従って、表示の応答時間を極めて小さくできる。
【0004】
このように、OCB、OCSは全階調間の変化において、応答時間が極めて小さい特長を持ち、TV用途が有望視されている。しかしながら、これらの配向状態は、Vcrより小さい電圧では、液晶分子がエネルギー的に安定な元の配向に戻ってしまう。このような元の配向からでは液晶分子の配向の変化速度が小さくなってしまい、表示の応答時間を小さくすることができなくなる。
【0005】
従って、液晶表示装置を使用中は、元の配向に戻さないようにするために、常に所定の電圧Vα以上の電圧を印加し続ける必要がある。あるいは、表示装置をONにする時に速やかに必要とする配向に転移させることが必要である。
【0006】
この問題を解決するために、液晶中に光重合性モノマーを添加し、Vcr以上の電圧を印加して液晶分子の配向状態を変えた(以下、配向状態を変えることを配向転移ともいう)後、紫外線を照射してその配向状態を固定化させようとする方法がある(たとえば特許文献1参照。)。
【0007】
この方法を図1−A,B,Cを使用して説明する。図1−Aは、一対の基板1上に一対の垂直配向制御膜2を設け、ラビング方向が互いに平行になるようにラビングした後、その間隙に、負の誘電率異方性を有する液晶3と光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性化合物4とを含む液晶組成物を充填した場合における、液晶表示パネルを横方向から見た断面図である。図1−A中、矢印はラビングの方向を表す。この場合には基板1間に電圧は印加されていない。この状態では液晶分子3は図に示すようにベンド状態にある。
【0008】
この状態でVcr以上の電圧を印加すると、図1−Bのように、液晶分子3はスプレー状態に変わる。そこで、この状態を維持したまま(すなわち電圧を印加したまま)、図1−Cのように、たとえば紫外線を照射すると、ポリマーよりなる樹脂膜5が形成され、液晶分子3の配向状態を固定化するのである。
【0009】
正の誘電率異方性を有する液晶の場合には、図2−A,B,Cのようになる。すなわち、図2−Aは、一対の基板1上に一対の水平配向制御膜2を設け、ラビング方向が互いに平行になるようにラビングした後、その間隙に、正の誘電率異方性を有する液晶3と光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性化合物4とを含む液晶組成物を充填した場合における、液晶表示パネルを横方向から見た断面図である。図2−A中、矢印はラビングの方向を表す。この場合には基板1間に電圧は印加されていない。この状態では液晶分子3は図2−Aに示すようにスプレー状態にある。
【0010】
この状態でVcr以上の電圧を印加すると、図2−Bのように、液晶分子3はベンド状態に変わる。そこで、この状態に維持したまま(すなわち電圧を印加したまま)、図2−Cのように、たとえば紫外線を照射すると、ポリマーよりなる樹脂膜5が形成され、液晶分子3の配向状態を固定化するのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−43474号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、配向転移後の配向を固定化させるには大量のモノマー添加が必要であり、液晶にモノマーが溶け切らない問題や、重合時に凝集等が発生し、表示品位を低下させずに転移後配向を固定化することが困難であるという問題が生じる。さらに、この方法ではレタデーションを変えることのできる範囲が小さく、印加電圧の変化に対する透過率の変化が小さくなる問題も生じる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記問題を解決し、高速応答性を有する液晶表示装置を提供することを目的としている。本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【0014】
本発明の一態様によれば、一対の電極の形成された2枚の平行基板の間隙に、二枚の配向制御膜および、液晶と、光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性化合物とを含む液晶組成物を配置し、その後重合性化合物を重合させてなる液晶表示装置の製造方法において、
液晶が、誘電率異方性が負の液晶であり、
配向制御膜が、ラビング方向が互いに平行となるようにラビング処理された垂直配向制御膜であり、
電圧無印加時に、
画像非表示部上にある箇所、および
画像表示部上にあって点状または線状である箇所、
の少なくともいずれか一つである、一画素内の特定箇所の液晶分子のみがスプレー配向を示し、重合が、所定電圧印加により、電圧無印加時の液晶分子のベンド配向がスプレー配向に転移した段階で、一画素内の特定箇所のみについて行われたものであって、紫外線を吸収する層のない基板側から紫外線を照射することによって行われることを特徴とする液晶表示装置の製造方法が提供される。
【0015】
本発明の他の一態様によれば、一対の電極の形成された2枚の平行基板の間隙に、二枚の配向制御膜および、液晶と、光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性化合物とを含む液晶組成物を配置し、その後重合性化合物を重合させてなる液晶表示装置の製造方法において、
液晶が、誘電率異方性が正の液晶であり、
配向制御膜が、ラビング方向が互いに平行となるようにラビング処理された水平配向制御膜であり、
電圧無印加時に、
画像非表示部上にある箇所、および
画像表示部上にあって点状または線状である箇所、
の少なくともいずれか一つである、一画素内の特定箇所の液晶分子のみがベンド配向を示し、重合が、所定電圧印加により、電圧無印加時の液晶分子のスプレー配向がベンド配向に転移した段階で、一画素内の特定箇所のみについて行われたものであって、紫外線を吸収する層のない基板側から紫外線を照射することによって行われることを特徴とする液晶表示装置の製造方法が提供される。
【0016】
上記発明態様により、高速応答性を有する液晶表示装置を製造することができる。
【0017】
特定箇所がブラックマトリックス上にあること、重合の前、後あるいは前後に、特定箇所以外の箇所について、光、熱またはそれらの組み合わせによる重合を行ってなること、所定電圧印加で配向転移した状態での重合を一画素全域について行う全面重合を、特定箇所のみの重合と併用してなること、全面重合を、特定箇所重合の前または後あるいは前後に行うこと、液晶の配向性を制御するための突起または電極のスリットを有さないこと、重合性化合物が2官能以上の多官能性重合性化合物を含むこと、重合性化合物がメタクリレート系モノマーを含むこと、とりわけ、重合性化合物がトリメチロールプロパントリメタクリレートを含むこと等が好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、高速応答性を有する液晶表示装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1−A】図1−Aは、ベンド状態の液晶分子を示す、液晶表示パネルの模式的横断面図である。
【図1−B】図1−Bは、スプレー状態の液晶分子を示す、液晶表示パネルの模式的横断面図である。
【図1−C】図1−Cは、スプレー状態の液晶分子を固定するために紫外線を照射し、樹脂膜が形成された様子を示す、液晶表示パネルの模式的横断面図である。
【図2−A】図2−Aは、スプレー状態の液晶分子を示す、液晶表示パネルの模式的横断面図である。
【図2−B】図2−Bは、ベンド状態の液晶分子を示す、液晶表示パネルの模式的横断面図である。
【図2−C】図2−Cは、ベンド状態の液晶分子を固定するために紫外線を照射し、樹脂膜が形成された様子を示す、液晶表示パネルの模式的横断面図である。
【図3】図3は、特定箇所についてのみベンド状態の液晶分子を固定するために、マスクを使用して紫外線を照射し、樹脂膜を形成する様子を示す、液晶表示パネルの模式的横断面図である。
【図4−A】図4−Aは、画素を四つ(A,B,C,D)に区切り、その一つ(D)を特定箇所として、紫外線照射を行ったものについて、電圧無印加の状態から10Vの電圧を印加した後1秒後の画素の様子を示す模式図である。
【図4−B】図4−Bは、画素を四つ(A,B,C,D)に区切り、その一つ(D)を特定箇所として、紫外線照射を行ったものについて、電圧無印加の状態から10Vの電圧を印加した後10秒後の画素の様子を示す模式図である。
【図5】図5は、特定箇所についてのみベンド状態の液晶分子を固定するために、マスクを使用して紫外線を照射し、樹脂膜を形成する様子を示す、液晶表示パネルの模式的横断面図である。
【図6】図6は、画素を示す模式的平面図である。
【図7】図7は、本発明に係る特定箇所を例示する画素の模式的平面図である。
【図8】図8は、本発明に係る特定箇所を例示する画素の模式的平面図である。
【図9】図9は、本発明に係る特定箇所を例示する画素の模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態を図、実施例等を使用して説明する。これらの図、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。図中、同一の符号は同一の要素を示す。なお、垂直配向制御膜と水平配向制御膜については同じ符号を使用してある。同様に、負の誘電率異方性を有する液晶(または液晶分子)と正の誘電率異方性を有する液晶(または液晶分子)についても同じ符号を使用してある。
【0021】
本発明に係る液晶表示装置は、一対の電極の形成された2枚の平行基板の間隙に、二枚の配向制御膜および、液晶と、光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性化合物とを含む液晶組成物を配置し、その後重合性化合物を重合させて得られる。
【0022】
このとき、液晶として誘電率異方性が正の液晶を使用する場合には、配向制御膜が、ラビング方向が互いに平行となるようにラビング処理された水平配向制御膜であり、電圧無印加時に、一画素内の特定箇所の液晶分子のみがベンド配向を示すようになっている。
【0023】
このような構造を実現するには、たとえば、配向制御膜として、ラビング方向が互いに平行となるようにラビング処理された水平配向制御膜を使用し、所定電圧印加により、電圧無印加時の液晶分子のスプレー配向がベンド配向に転移した段階で、一画素内の特定箇所のみについて上記重合を行う方法がある。この所定電圧は、電圧無印加時の液晶分子のスプレー配向がベンド配向に転移する電圧の中から実情に応じて任意に選択することができる。
【0024】
配向制御膜の材料としては、公知のどのようなものを採用してもよいが、ラビング方向は互いに平行であることが必要である。互いに直交する等の非平行の場合や逆平行(ラビングの進行方向が逆である平行)の場合には、所望の初期液晶配向が得られない。
【0025】
上記重合は、光、熱またはそれらの組み合わせにより行うが、光を使用することが好ましく、光の中でも紫外線がより好ましい。以下、主に紫外線照射について説明する。
【0026】
電圧無印加時の液晶分子のスプレー配向がベンド配向に転移した段階にあるかどうかは、予め実験等で容易に定めることができる。どの程度まで重合させるかについては特に制限はなく、実情に応じて任意に定めればよい。紫外線照射による場合には、紫外線の波長、照射エネルギー、照射時間等の因子により、好ましい照射条件を容易に選択することができるので有利である。
【0027】
紫外線照射は、たとえば、マスク31を使用して図3のようにして行う。図3は電圧印加により、液晶分子をベンド状態にして紫外線照射を行う様子を示している。紫外線を使用する場合には、図3のように、カラーフィルター(CF)34やブラックマトリックス(BM)32等紫外線を吸収する層のない基板面側から照射を行う。なお、図3中符号33は薄膜トランジスタ(TFT)を表す。配向制御膜は符号2で表されている。
【0028】
このようにして、一画素内の特定箇所のみについて重合を行うことにより、その部分については、Vcr以下の電圧(たとえば電圧無印加状態)になっても液晶分子がベンド配向を保つことができる。このようにすると、他の部分の液晶分子がスプレー配向であっても、電圧を印加する際、この部分を核としてベンド配向への転移が進行するため、高速応答性を有する液晶表示装置を実現することができる。
【0029】
あるいは、一画素内の特定箇所のみについては、プレチルトを付けた状態またはプレチルトが他に比べて大きい状態の領域(このような領域を高プレチルト域と呼ぶ場合がある)とすることができる。この場合でも配向の変化速度を大きくでき、高速応答性を有する液晶表示装置を実現することができる。以下においては、一画素内の特定箇所のみについて重合を行うことについて、その効果を「ベンド配向(またはスプレー配向)の維持」とのみ説明する場合が多いが、高プレチルト域としての性質のみを有するようになる場合や両者の性質を有するようになる場合も本発明に係る効果と考えることができる。なお、初期(電圧無印加時)でスプレー配向の場合、液晶分子が基板面に対して小さい角度をなすほど高プレチルトであり、初期(電圧無印加時)でベント配向の場合、液晶分子が基板面に垂直な方向に対して小さい角度をなすほど(言い換えれば、基板面とのなす角度が大きいほど)高プレチルトである。
【0030】
液晶として誘電率異方性が負の液晶を使用する場合には、配向制御膜が、ラビング方向が互いに平行となるようにラビング処理された垂直配向制御膜であり、電圧無印加時に、一画素内の特定箇所の液晶分子のみがスプレー配向を示すようになっていることが必要である。
【0031】
このような構造は、配向制御膜として、ラビング方向が互いに平行となるようにラビング処理された垂直配向制御膜を使用し、所定電圧印加により、電圧無印加時の液晶分子のベンド配向がスプレー配向に転移した段階で、上記重合を、一画素内の特定箇所のみについて行うことで得られる。
【0032】
配向制御膜のラビング方向、重合条件、紫外線照射条件等については、液晶として誘電率異方性が正の液晶を使用する場合と同様である。配向制御膜の材料については、垂直配向制御膜であれば公知の材料の中から任意に選択することができる。
【0033】
一画素内の特定箇所のみについて重合を行うことにより、その部分については、Vcr以下(たとえば電圧無印加状態)の電圧になっても液晶分子がスプレー配向を保つことができる。あるいは高プレチルト域を造ることができる。このようにすると、他の部分の液晶分子がベンド配向であっても、電圧を印加する際、この部分を核としてスプレー配向への転移が進行するため、高速応答性を有する液晶表示装置を実現することができる。
【0034】
上記において、一画素内の特定箇所は、本発明の趣旨に反しない限り任意に定めることができる。ここで、「一画素内」には、図6に示すように、ゲートバスライン61、データバスライン62、TFT33、補助容量電極63等の非表示部の上の部分も含まれる。
【0035】
上記重合を行った部分は、液晶分子が他の部分とは異なる配向挙動を示し、色彩等が異なって見える場合があるので、できるだけ目立たない場所に設けることが好ましい。従って上記特定箇所が非表示部上の部分であることが好ましい。たとえば、COT(Color filter On thin film Transistor)のような場合には、CFがTFTと同じ側に設けられ、BMがTFT上に設けられることが多いので、このBM上に上記特定箇所を設け、CFのない基板側から紫外線照射を行えば、画素の開口率を下げることなく、容易に本発明の構造を実現することができる。この場合の特定箇所の形状には特に制限はなく、線状であっても、点状等任意の形状であってもよい。
【0036】
上記特定箇所が画像表示部上にある場合、または画像表示部上を含む場合には、上記重合を行った部分の色彩等が他とは異なって見える場合があるので、できるだけ目立たないように、点状または線状に設けることが好ましい。点の大きさ、線の太さ、点や線の数は、液晶表示装置の画質に与える影響を考慮して任意に定めることができる。
【0037】
図7〜9にその例を示す。図中、黒塗りの部分が特定箇所である。
【0038】
本発明の構成には、MVA(multidomain Vertical Alignment)方式で使用されるような液晶の配向性を制御するための突起や電極のスリットを設けることは不要である。敢えて設ける必要がある場合には設けてもよいが、特定箇所を突起や電極のスリットの近傍を避けて設けることが好ましい。色彩の差異等が目立ちやすいからである。
【0039】
上記点や線が許容可能なものであるかどうかや、突起や電極のスリットの近傍に上記箇所がないことは、実際に液晶表示パネルを組み立て、画質をチェックすることにより確認することができる。
【0040】
上記重合を行った後には、上記特定箇所以外の箇所に存在する重合性化合物を、液晶分子の配向挙動に対し影響の少ない状態で重合し、液晶層の組成を安定化しておくことが好ましい。上記特定箇所以外の箇所に存在する重合性化合物について重合を行わせないまま放置すると自然状態で重合が進み、表示パネルの画質に影響を与える可能性が考えられる。
【0041】
上記特定箇所以外の箇所に存在する重合性化合物についての重合は、液晶分子の配向挙動に対し影響の少ない方法であれば、どのような方法を採用してもよい。液晶分子の配向挙動に対し影響の少ない方法かどうかは液晶表示パネルとしての画質に悪影響が出ないかどうかで確認することができる。
【0042】
具体的には、電圧を印加しない状態または前の印加電圧より低い電圧を印加して、光、熱またはそれらの組み合わせによる重合を行う方法がある。この場合、紫外線の照射強度を小さくし、照射時間を短くする等の条件を選択することができる。
【0043】
上記特定箇所以外の箇所において重合を行うには、マスクを使用してもよいが、マスクを使用せず、表示パネルの全面に対し重合を行ってもよい。従って、この場合には光照射ではなく、熱を使用する重合も容易に行うことができる。光照射を行う場合にも、事前に加熱処理して、未反応の重合性化合物を既反応領域(すなわち上記特定箇所)にも分散させておくことが有用な場合もある。
【0044】
全面重合は、特定箇所の重合に先立って行ってもよく、後に行ってもよく、特定箇所の重合の前後に行ってもよいが、特定箇所の重合の効果等を考慮すると、後に行うことが最も有効である。また、これらの全面重合については、特定箇所の重合に先立って行う場合についても、特定箇所の重合の後に行う場合についても、液晶層に電圧を印加せずに行ってもよいが、所定電圧を印加した状態で行うと、さらに配向の変化速度を大きくでき、高速応答性を有する液晶表示装置を実現することができる場合がある。
【0045】
本発明に係る液晶組成物は、上記液晶と重合性化合物とを含有する。重合開始剤、増感剤等を含んでいてもよい。
【0046】
本発明に係る液晶組成物に使用する液晶については、特に制限はなく、本発明の趣旨に反しない限り、公知のどのような液晶を使用することも可能である。好ましい液晶としては、ネマティック液晶を例示することができる。
【0047】
本発明に係る液晶組成物に使用する重合性化合物としては、光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性官能基を有するものであれば特に制限はなく、液晶パネルにおいて液晶とともに使用される公知のどのような重合性の化合物を使用することもできる。モノマーやオリゴマーを使用できる。
【0048】
重合性官能基としては、アクリレート基、メタクリレート基、エポキシ基、ビニル基、アリル基、不飽和二重結合等の光官能性を有する基を挙げることができる。
【0049】
なお、電圧印加時における液晶分子の配向状態をより得やすくするには、この重合性化合物が、液晶分子のダイレクタ方向を規制することが可能な分子構造を有することが好ましい。このような分子構造としてはアルキル鎖を使用することができる。
【0050】
従って、本発明に係る重合性化合物としては、たとえば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のアクリレート基、メタクリレート基やエポキシ基、ビニル基、アリル基などの重合性官能基を持つ化合物を例示することができる。
【0051】
一般的には、本発明に係る液晶組成物が2官能以上の多官能重合性化合物を含むことが好ましい。架橋構造を生じ、電圧印加時の液晶分子の配向状態を強固に保持できるようになるからである。
【0052】
本発明に係る重合性化合物として、より具体的には、液晶に対する溶解度の大きいメタクリレート系モノマーが好ましい。ジメタクリレートモノマーやトリメチロールプロパントリメタクリレートを例示することができる。液晶に対する溶解度が数重量%にもなるトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)がより好ましい。
【0053】
このような重合性化合物を重合させると液晶層に接して、ポリマーよりなる樹脂膜が形成され、この樹脂膜が液晶分子の配向状態を規制する役割を担うものと考えられる。
【0054】
このようにして、液晶中での重合性化合物の析出や重合時の凝集を起こさず、転移後の液晶分子の配向を均一に固定化できるようになる。
【実施例】
【0055】
次に本発明の実施例を詳述する。
【0056】
[実施例1]
実施例1は、TFT方式の液晶表示装置への応用である。液晶は正の誘電率異方性を有するネマティック液晶を用いる。配向制御膜は水平配向制御膜である。液晶組成物中にはTMPTが1.5重量%添加されている。交流電圧20Vをパネル全面に印加した状態で、一定時間経過させて、液晶分子の配向を、スプレー状態からベンド状態ヘ転移する。この状態で、紫外線を、図3に示すように、TFT33側から、マスク31を介して照射する。対向基板側はCF34があるため本目的の照射には不適当である。
【0057】
その後、マスクを使用せず、電圧無印加で、液晶表示パネルの全面に紫外線を照射する。このようにして、画素中の特定箇所にのみ、液晶分子のベンド状態が保持された構造を実現することができる。
【0058】
[実施例2]
液晶として負の誘電率異方性を有するネマティック液晶を用い、実施例1と同様の実験を行ったところ、TMPTを1.5重量%添加すれば、紫外線を照射した箇所では2週間後でも液晶分子のOCS状態が維持されていることが確認された。
【0059】
[実施例3]
画素を四つ(A,B,C,D)に区切り、その一つ(D)を特定箇所として、実施例2と同様の処理を行った。この結果、電圧無印加の状態に対し10Vの電圧を印加したところ、色調の変化から、図4−Aの斜線で示すように、1秒後にD部分のみが所定の色調を示し、図4−Bの斜線で示すように、10秒後に他の部分も所定の色調を示すようになった。
【0060】
[実施例4]
この例は、図5に示すように、OCB方式を採用し、CF34がTFT33と同じ側に設けられ、BM32がTFT33に重ね合わせるようにして設けられている、所謂COT構造である。この場合、遮光部材が無いため対向基板側から紫外線を照射することができる。
【0061】
マスク31が表示部を隠蔽し、所定の電圧を印加した状態でBM32上のTMPTに紫外線を照射した。その後、マスクを使用せず、電圧無印加で、液晶表示パネルの全面に紫外線を照射した。このようにして、画素中の特定箇所にのみ、液晶分子のベンド状態が保持された構造を実現することができる。
【0062】
このようにすると、液晶パネルの始動時に、非表示部の液晶分子のベンド状態が核となって、他のスプレー状態の液晶分子部分が素早く変化し、高速応答性を実現できると共に、非表示部では、液晶分子の動きが重合で生成したポリマーに規制されることによりレタデーション変化が小さくなるが、非表示部であるため、実際の表示に対する影響はなく、表示部分では、充分に大きなレタデーション変化を実現することができるようになる。
【0063】
[実施例5]
スプレー配向について検討した。マスクを用いた特定箇所重合(一画素内の特定箇所のみで行われた重合)により、配向転移の核となり得る高プレチルト域を画素部の特定位置に設けた後、マスクを除去し、電圧を印加した状態で液晶表示パネルの全面に紫外線を照射して全面重合を行った。
【0064】
これにより、パネル内の残存モノマーを低減できると共に、表示部の全域のプレチルトを少し高める効果が得られた。その結果、ベンド配向の成長速度が上がり、核で発生したベンド配向を速やかに画素全域に広げることが可能となった。具体的には、ベンド転移時間が、室温で3秒、−30℃で15秒となった。なお、ベンド転移時間は、1cm角の端画素が6V印加時に全域配向転移を終える時間である。通常のOCBでは、室温で60秒、−30℃で200秒を要していた。
【0065】
[実施例6]
スプレー配向について検討した。マスクを用いた特定箇所重合により、配向転移の核となり得る高プレチルト域を画素部の特定位置に設ける前に、マスクを用いない状態でかつ電圧を印加した状態で全面重合を行った。
【0066】
これにより、パネル内の残存モノマーを予め減らしておけると共に、表示部の全域のプレチルトを少し高める効果が得られた。これにより、ベンド配向の成長速度が上がり、核で発生したベンド配向を速やかに画素全域に広げることが可能となった。
【0067】
なお、ベント配向についても実施例5,6と同様の効果を得ることができた。
【符号の説明】
【0068】
1 基板
2 配向制御膜
3 液晶
4 重合性化合物
5 樹脂膜
31 マスク
32 BM
33 TFT
34 CF
61 ゲートバスライン
62 データバスライン
63 補助容量電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極の形成された2枚の平行基板の間隙に、二枚の配向制御膜および、液晶と、光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性化合物とを含む液晶組成物を配置し、その後当該重合性化合物を重合させてなる液晶表示装置の製造方法において、
当該液晶が、誘電率異方性が負の液晶であり、
当該配向制御膜が、ラビング方向が互いに平行となるようにラビング処理された垂直配向制御膜であり、
電圧無印加時に、
画像非表示部上にある箇所、および
画像表示部上にあって点状または線状である箇所、
の少なくともいずれか一つである、一画素内の特定箇所の液晶分子のみがスプレー配向を示し、前記重合が、所定電圧印加により、電圧無印加時の液晶分子のベンド配向がスプレー配向に転移した段階で、一画素内の特定箇所のみについて行われたものであって、紫外線を吸収する層のない基板側から紫外線を照射することによって行われることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項2】
一対の電極の形成された2枚の平行基板の間隙に、二枚の配向制御膜および、液晶と、光、熱またはそれらの組み合わせにより重合し得る重合性化合物とを含む液晶組成物を配置し、その後当該重合性化合物を重合させてなる液晶表示装置の製造方法において、
当該液晶が、誘電率異方性が正の液晶であり、
当該配向制御膜が、ラビング方向が互いに平行となるようにラビング処理された水平配向制御膜であり、
電圧無印加時に、
画像非表示部上にある箇所、および
画像表示部上にあって点状または線状である箇所、
の少なくともいずれか一つである、一画素内の特定箇所の液晶分子のみがベンド配向を示し、前記重合が、所定電圧印加により、電圧無印加時の液晶分子のスプレー配向がベンド配向に転移した段階で、一画素内の特定箇所のみについて行われたものであって、紫外線を吸収する層のない基板側から紫外線を照射することによって行われることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項3】
前記特定箇所がブラックマトリックス上にある、請求項1または2に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記重合の前、後あるいは前後に、前記特定箇所以外の箇所について、光、熱またはそれらの組み合わせによる重合を行ってなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項5】
所定電圧印加で配向転移した状態での重合を一画素全域について行う全面重合を、前記特定箇所のみの重合と併用してなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項6】
前記全面重合を、前記特定箇所重合の前または後あるいは前後に行う、請求項5に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項7】
液晶の配向性を制御するための突起または電極のスリットを有さない、請求項1〜6のいずれか1項に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項8】
前記重合性化合物が2官能以上の多官能性重合性化合物を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項9】
前記重合性化合物がメタクリレート系モノマーを含む、請求項8に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項10】
前記重合性化合物がトリメチロールプロパントリメタクリレートを含む、請求項9に記載の液晶表示装置の製造方法。

【図1−A】
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【図1−B】
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【図2−A】
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【図2−B】
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【図3】
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【図4−A】
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【図4−B】
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【図5】
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【図1−C】
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【図2−C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−170377(P2011−170377A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95596(P2011−95596)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【分割の表示】特願2006−547822(P2006−547822)の分割
【原出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】