説明

液晶表示装置

【課題】 高コントラスト比で視角特性および温度特性が良好な液晶表示装置を提供する。
【解決手段】
液晶表示装置は、単色光を出射するバックライトと、一対の対向する基板と、基板間に挟持されたネマチック液晶層と、基板の各々においてネマチック液晶層側に形成された電極パターンと、基板の外側に配置された偏光板とを含む液晶表示素子と、バックライトの発光と、液晶表示素子に印加する電圧を制御する制御装置とを有し、制御装置は、周囲温度が上昇すると、液晶表示素子に印加する非選択電圧を低下させ、周囲温度が低下すると、非選択電圧を上昇させることにより、液晶表示素子のリタデーションの変化を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶を用いた装置に関し、特に液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置のモードとして、TN(捩れネマチック)型やSTN(超捩れネマチック)型がある。
【0003】
高デューティーの液晶表示装置として、STN液晶表示装置が用いられてきた。STN液晶表示装置の一形態として、青色表示モードを説明する。液晶セルの上下に配置された偏光板のうち、検光子の偏光軸が出射側の液晶分子長軸方向に対して右回りに30度になるように配置し、偏光子の偏光軸が入射側の液晶分子長軸方向に対して左回りに30度になるように配置することにより、電圧無印加時に青色に呈色し、ON電圧印加時に白色になる、いわゆる青色モード表示が可能である。
【0004】
ON電圧とは、ここでは液晶層に入射した光がほぼ全波長領域で透過するように液晶分子の配向状態を制御する電圧のことである。
【0005】
特開2004−62021号公報に、青色モードのSTN液晶表示装置の液晶組成物に二色性色素を含有させ、遮断状態での遮光性を高める提案がなされている。また、遮光性を高める他の手段として、補償板を用いる方法もある。
【0006】
青色モードは、通常バックライトとして白色バックライトを用いているが、発光ダイオード(LED)のような単色光源を用いることがある。この場合、バックライトの発光波長における電圧無印加時の透過率を下げて遮光性を高め、ON電圧印加時に透過率を上げて透光性を高めることにより、ノーマリブラックでコントラスト比が高く、表示色がバックライト色となるモードを得ることが出来る。
【0007】
【特許文献1】特開2004−62021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
STN液晶表示装置は、ある波長に極小値を持つ透過率スペクトルを持つ。ノーマリブラックで単色表示を行うモードの場合、電圧無印加時とON電圧印加時とのコントラスト比を大きくすることが求められる。
【0009】
また、特に車載用の液晶表示装置の場合、視角特性や温度特性の向上も望まれる。
【0010】
本発明の目的は、ノーマリブラックモードにおけるコントラスト比、視角特性および温度特性を向上させた液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一観点によれば、単色光を出射するバックライトと、一対の対向する基板と、該基板間に挟持されたネマチック液晶層と、該基板の各々において該ネマチック液晶層側に形成された電極パターンと、該基板の外側に配置された偏光板とを含む液晶表示素子と、 前記バックライトの発光と、前記液晶表示素子に印加する電圧を制御する制御装置とを有する液晶表示装置であって、前記制御装置は、周囲温度が上昇すると、前記液晶表示素子に印加する非選択電圧を低下させ、周囲温度が低下すると、該非選択電圧を上昇させることにより、前記液晶表示素子のリタデーションの変化を制御する液晶表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
ノーマリブラック表示の液晶表示装置において、コントラスト比が大きく、視角特性および温度特性が良好な表示を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1Aは、液晶表示装置の概略断面図を示す。液晶表示装置は、主な構成要素として液晶表示素子101、バックライト102および制御装置103を有する。液晶表示素子101が、バックライト102からの光を透過したり、遮光したりして電極2a、2bのパターンが画定する表示パターンの表示を行う。制御装置103が、液晶表示素子101に印加する電圧と、バックライトの発光を制御する。
【0014】
液晶表示素子101の作成方法について説明する。2つのガラス基板1a、1bの各々の上に透明であるITO膜をCVD、蒸着、スパッタなどにより形成し、フォトリソグラフィーにて所望のITO電極パターン2a、2bおよび外部取出し配線2lを形成する。ITO電極パターン2a、2bが付いたガラス基板上にフレキソ印刷にて絶縁膜4を形成する。この絶縁膜4は必須では無いが、上下基板間の短絡防止のため形成することが望ましい。絶縁膜形成は、フレキソ印刷の他に、メタルマスクを用い、蒸着やスパッタなどで行っても良い。
【0015】
絶縁膜4の上に絶縁膜4とほぼ同じパターンの配向膜5をフレキソ印刷等で形成する。
【0016】
配向膜5にラビング処理を施す。ラビングは布を巻いた円筒状のロールを高速に回転させ、配向膜5上を擦る工程である。
【0017】
所定のパターンのシール材6をスクリーン印刷する。シール材6はスクリーン印刷の代わりにディスペンサを用いて形成しても良い。シール材として熱硬化性のES−7500(三井化学製)を用いる。他の材料として、光硬化性のものや、光・熱併用型シール材でも良い。このシール材6は径6μmのグラスファイバーを数%含んでいる。
【0018】
シール材ES−7500に6.5μmのAuボールを数%含んだものを導通材7としてスクリーン印刷する。
【0019】
シール材パターン6及び導通材パターン7は基板1bにのみ形成し、基板1aにはギャップコントロール材を乾式散布法にて散布する。ギャップコントロール材として6μmのプラスチックボールを用いる。
【0020】
2つの基板1a、1bを、配向膜5が内側になるよう所定の位置で重ね合わせてセル化し、プレスした状態で熱処理によりシール材6を硬化する。
【0021】
スクライバー装置によりガラス基板に傷をつけ、ブレイキングにより所定の大きさ、形に分割して空セルを作成する。
【0022】
上記の空セルに真空注入法でカイラル剤を含んだ液晶3を注入し、その後エンドシール材で注入口を封止する。その後ガラス基板の面取りと洗浄を行い、液晶セルを作成する。液晶セルは、注入する液晶3とラビングの方向により、図1Aに示すような液晶3のツイスト角が90°より大きなSTN型であったり、図1Bに示すような液晶3のツイスト角が90°のTN型であったりする。
【0023】
液晶セルの上下に偏光板8を貼り付け液晶表示素子101を完成する。
【0024】
参考例として、青色モードのSTN液晶表示装置について説明する。
【0025】
図2Aは、青色モードSTN液晶表示装置における、上下基板各々の側の液晶分子配向方向と偏光板軸方向を示す図である。図示のように、液晶のツイスト角は270°である。上基板(前面基板)に最も近い位置の液晶分子配向方向と、上側偏光板軸方向との為す小さい方の角度(角度aとする)は30°であり、下基板(背面基板)に最も近い位置の液晶分子配向方向と、下側偏光板軸方向との為す小さい方の角度(角度bとする)も30°である。
【0026】
上記の構成の青色モードSTN液晶表示装置の持つ透過率特性について説明する。
【0027】
図2Bに、液晶表示装置のほぼ可視領域の透過率スペクトルを示す。なお、明細書中で説明する透過率スペクトルは、自作のシミュレーションソフトにより算出した。図示のように、参考例における液晶表示装置の透過率スペクトルは、電圧無印加時に極大値と極小値を持つ。極大値は青色の波長領域内にあり、電圧無印加時において約50%の透過率である。このような液晶表示装置は背景色が青色を示す。ON電圧印加時には、青色領域の透過率が若干他の可視領域に比べて低いものの、可視領域全体にわたり約50%の透過率を有しており、白色バックライトの光を透過して白色表示を行う。
【0028】
液晶表示装置のバックライトとして、例えば発光ダイオード(LED)のような単色光を発する発光装置を用いることがある。発明者らは、バックライトの発光ピーク波長(波長B)に電圧無印加時の透過率が極小値をとる波長(波長A)を合わせてノーマリブラックの単色表示を行うことを検討した。
【0029】
はじめに、上記の青色STNモードの液晶表示素子を用いてノーマリブラックの単色表示が可能か否かを検討した。波長Aは540nmである。波長540nmにおける電圧無印加時の液晶表示素子の透過率は約6%であり、同波長におけるON電圧印加時の液晶表示素子の透過率は約48%である。この液晶表示素子に発光波長領域540nm付近のバックライトを用いて単色表示のSTN液晶表示装置を作製した場合、少なくとも約6%の光り抜けが生じるため、ノーマリブラックが実現できず、単色の濃淡表示となってしまう。また、コントラスト比は最大でも約8程度しかない。そのため、電圧無印加時の透過率の極小値を0%に近づけて、遮光性やコントラスト比を高めることが望まれる。
【0030】
発明者らは、様々な偏光板配置を検討した結果、電圧無印加時の透過率スペクトルにおいて透過率がほぼ0%となる波長が存在する偏光板配置を発見した。上下基板にそれぞれ接する液晶分子の配向方向と、上下それぞれの基板側の偏光板軸方向とのなす角度(小さい方)の、上基板側角度(角度a)と下基板側角度(角度b)との和(角度a+bとする)を所定の角度に設定することにより、電圧無印加時の透過率の極小値をほぼ0%とすることができる。とりあえず、発光ピーク波長630nmの赤色発光ダイオードをバックライトとする場合を検討する。
【0031】
図3は、角度a+bに対する、波長630nmにおける液晶表示素子の電圧無印加時の透過率のグラフを示す。偏光板角度の異なる様々なサンプルを作製し表示を観察したところ、電圧無印加時の透過率の極小値が0.3%以下のサンプルが液晶表示素子として好ましいことが分かった。図3が示すように、角度a+bが90°±7°となる配置において、透過率の極小値が0.3%以下となる(条件1)。
【0032】
液晶表示素子における液晶セル作成のポイントは、透過率が0%もしくはそれに近い(ノーマリブラックを実現できる程度に低い透過率で、ここでは0.3%以下の)極小値をとる波長を、バックライトの発光波長に合わせるようにセルのリタデーション(セル中の液晶の常温時における複屈折率Δnとセル厚dとの積)を制御することである。セルのリタデーションはセル厚dを変えるか、液晶の長軸方向の屈折率と短軸方向の屈折率の差である複屈折率Δnを変える(具体的には液晶材料を変える。通常液晶表示装置として用いられる範囲であれば、特性の違う液晶材料同士を混合することによりリタデーションを調整可能である)ことにより制御できる。
【0033】
図4は、条件1を満たす液晶表示素子の、基板ラビング方向と偏光板軸角度との関係を示したダイアグラムである。図4では、上側基板のラビング方向と、上側偏光板の軸方向とがなす角度aが45°、下側基板のラビング方向と、下側偏光板の軸方向とがなす角度bが45°である。液晶層のツイスト角度は240°である。
【0034】
図5は、図4に示したSTN型液晶表示素子のほぼ可視領域における透過率スペクトルを示す。使用温度は25℃、液晶セルのリタデーションは952nmである。図中実線は電圧無印加時の透過率スペクトルである。破線はON電圧印加時の透過率スペクトルである。実施例において、非選択電圧は、液晶分子の配向状態が電圧無印加時と同様の状態を維持できる電圧であることが好ましく、非選択電圧印加時の透過率スペクトルは電圧無印加時とほぼ同等として説明する。
【0035】
図示のように、25℃、角度a+b=90°、液晶セルのリタデーション952nm、240°ツイストの液晶表示素子において、電圧無印加時の透過率は、波長630nmでほぼ0%の極小値を持つ。この液晶表示素子と波長630nmの赤色光バックライトを組み合わせた場合、電圧無印加時にはバックライトの光を遮光することができるので、ノーマリブラックを実現できる。ON電圧印加時には、波長630nmでの透過率が約47%であるので、高コントラスト比の赤色表示を実現できる。
【0036】
電圧無印加時の透過率スペクトルについて検討を続ける。電圧無印加時における透過率が極小値を取る波長(波長A)は、液晶セルのリタデーションを増減させることにより、大小に変化する。
【0037】
図6は、リタデーションをパラメータとして、888nm、952nm、1016nm、1080nm、1139nmに変化させたときの、電圧無印加時における透過率スペクトルを示す。図示のように、液晶セルのリタデーションが大きくなると、波長Aは長波長方向(右)にシフトすると共に、透過率スペクトル全体が右にシフトすることが判る。
【0038】
発明者らは、リタデーション変化により透過率スペクトルが短波長側もしくは長波長側にシフトする現象の対策を検討した。リタデーションが変化する要素として温度と印加電圧に注目した。一般的な液晶は温度が低くなると複屈折率が大きくなる。従って液晶セルのリタデーションΔndも温度が低くなると大きくなる。リタデーションが大きくなると、透過率スペクトルおよび透過率の極小値を取る波長は長波長側にシフトする。
【0039】
まず、温度のリタデーションに対する影響を述べる。最高温度と最低温度とで画定される使用可能温度範囲を想定する。最高温度において、波長Aと単色光バックライトの波長B(ここでは630nm)を合わせる。最高温度は、液晶が相転移して等方相になる温度閾値よりも10℃〜40℃低い範囲の温度から選ぶ。
【0040】
液晶セルに注入する液晶として、メルク社製のSTN液晶を用いる。常温での複屈折率0.15、液晶相−等方相転移温度TNIは100℃である。ここでは、相転移温度TNI=100℃より20℃低い、80℃における電圧無印加時の透過率スペクトルの極小値を取る波長(波長A)を、単色光バックライトの発光波長(波長B)630nmに合わせる事とした。
【0041】
80℃において、波長Aと波長Bとが一致する(630nmになる)ように、セル厚を様々に変えたところ、セル厚が7.2μmにおいて、波長Aが630nmとなることが分かった。
【0042】
図7は、25℃における、セル厚7.2μmの液晶表示素子の電圧無印加時の透過率スペクトルである。図示のように、80℃において波長Aが630nmである液晶セルは、25℃において波長Aが700nm強にシフトする。このときの液晶セルのリタデーションは1080nmである。
【0043】
最高温度下において、波長Aと波長Bを合わせることによりノーマリブラックモードを実現したとする。その場合、使用環境が常温25℃に変化したとき、温度低下によるリタデーション増加によって透過率曲線がずれて、波長630nmにおける透過率が増加する。これはノーマリブラックモードにおいて、電圧無印加時にバックライトから発せられる光の透過量を増やすことになり、コントラスト比が低下する。周囲温度低下によって液晶セルのリタデーションが増加し、それによってコントラスト比が低下したり表示品質が劣化したりするのを防ぐ。
【0044】
図8は、液晶セルへの非選択電圧(実効値)をパラメータとした、透過率スペクトルである。同図を参照して、電圧のリタデーションに対する影響を述べる。図示のように、透過率スペクトルは、印加電圧(非選択電圧)が2.36Vの場合、電圧無印加時とほとんど変わらないが、印加する非選択電圧を増加させると、短波長(左)方向にシフトする。印加電圧を減少させると、透過率スペクトルは長波長(右)方向にシフトする。非選択電圧の増加により、リタデーションは低下すると考えられる。
【0045】
透過率スペクトルの電圧依存性を利用して、常温時(25℃)における非選択電圧を増大させて、液晶セルのリタデーションを減少させることで、波長Aを短波長側にシフトさせて630nmに合わせる。温度が低下するとリタデーションは増加するので、出発(基準)状態をリタデーションが低い最高温度としておけば、温度の低下に伴うリタデーション増加の抑制は電圧を増加させることで行えば良い。
【0046】
図8に示すように、上記セル条件の液晶セルに、25℃において、2.85Vの非選択電圧を印加することにより、波長Aは630nmとなる。他の温度においても同様に、当該温度に併せて印加する電圧を調整することにより、波長Aを630nmに合わせることが出来るであろう。温度に応じて電圧を調整する機能は、図1A、図1Bに示した制御装置103中に装置周囲の温度を感知できる温度センサを組み込み、周囲温度と印加電圧を連動できるようにすれば良い。
【0047】
図9に、実施例における液晶表示素子と、比較例による液晶表示素子のコントラスト比−温度特性を示す。比較例においては、室温時に波長Aと波長Bが一致するようにリタデーションを調整し、高温になるに従って、しきい値電圧の変動分を補償するために電圧を低くする点が実施例と異なる。図中実線が実施例、破線が比較例である。図示のように、比較例では温度上昇と共に、コントラスト比が著しく低下するが、実施例では温度が上がってもコントラスト比は数%程度しか低下しない。
【0048】
上記のように、印加電圧を調整することにより、温度変化による透過率の変化を抑制したSTN液晶表示装置は、表示の温度特性が良好である。加えて条件1を満たせば、正面観察時に高コントラスト比を得ることができる。
【0049】
波長Aと、波長Bを合わせる際の温度について検討する。上記の例では、使用可能温度範囲における最高温度において波長Aと波長Bを合わせたが、波長Aと波長Bを合わせる温度(基準温度)は必ずしも最高温度と一致する必要はない。但し、常温に近い温度を基準温度とすると、その基準温度より高温で使用した場合に、印加電圧を調整するだけでは対応しきれなくなる場合がある。特性値が低下し始めるのは60℃以上であり、特に70℃以上で顕著である。高温側の使用限界温度は一般に85℃とされ、特に高温を要求される場合は90℃である。それ以上の温度では、液晶の特性値の低下が著しく、液晶表示装置として使用できない。従って、出発(基準)状態である基準温度T(℃)をTNI−40≦T≦TNI−10、さらには70℃〜90℃とすることが好ましい。
【0050】
発明者らは、視角を上下左右方向に振った場合においても良好な表示を得られる条件を調べた。視角特性、特に左右方向の視角特性は車載などの用途では重要である。電圧無印加時の視角特性と液晶層のツイスト角には相関関係がある。そこで、STN液晶表示装置において好ましいツイスト角度を調べた。
【0051】
図10に、波長630nmにおける、視角をパラメータとしたSTN液晶表示装置の透過率−ツイスト角特性を示す。ここでのセル条件は、25℃、リタデーション847nmである。図中では下、右方向しか表示しないが、下方向と上方向、右方向と左方向はそれぞれ同様の特性を持つとする。
【0052】
視角特性が広いと感じられるディスプレイを実現するためには上下、左右方向それぞれ40°以内の視角において電圧無印加時の透過率の低さを実現することが好ましい。作製した様々な条件のディスプレイを観察したところ、40°視角範囲内において電圧無印加時の透過率の最小値が1%以下であれば、表示が良好であることが分かった。図10によれば、下(上)、右(左)方向の視角40°における透過率が1%以下である液晶層のツイスト角度は155°〜210°である(条件2)。
【0053】
より好ましい液晶層のツイスト角度について述べる。車載ディスプレイにおいては、より左右方向の視角特性が重視されるため、左右方向40°視角範囲内において、電圧無印加時の透過率が可能な限り低いことが望ましい。この観点から作製した様々な条件のディスプレイを観察したところ、40°視角範囲内において透過率0.3%以下が実現できれば車載用ディスプレイの視角特性として更に良好であることが判った。図10において、左右方向(図では右方向。既述のように、左右方向の視角特性はほぼ対応するであろう)40°の視角における透過率が0.3%以下であるツイスト角度は170°〜200°である。
【0054】
図11Aに、条件1、2を満たすSTN液晶表示装置のダイアグラムを示す。図11Aは、上下基板各々の側の液晶分子配向方向と偏光板軸方向を示す図である。図示のように、液晶のツイスト角は180°である。上基板に最も近い位置の液晶分子配向方向と、上側偏光板軸方向との為す小さい方の角度(角度a)は45°であり、下基板に最も近い位置の液晶分子配向方向と、下側偏光板軸方向との為す小さい方の角度(角度b)は45°である。液晶セルのセル条件は25℃、リタデーション713nmである。
【0055】
図11Bに、波長630nmにおける液晶表示素子の電圧無印加時の透過率−視角特性を示す。図示のように、上下方向、左右方向共に、40°視角範囲内において透過率は1%以下を保っている。また、左右方向に関しては、60°視角範囲内において透過率が1%以下を保っており、より良好な視角特性を有することが分かる。
【0056】
図12に、図11Aに示した液晶表示装置のON電圧印加時および電圧無印加時における透過率スペクトルを示す。図中の波長630nmにおける電圧無印加時の透過率はほぼ0%であり、高コントラスト比が実現できる。一方、ON電圧印加時の透過率は約14%と低い値を示しており、この値を高くすることが出来れば液晶表示装置としてさらに良好なものを提供できる。
【0057】
発明者らは、条件1および条件2の他に、さらにON電圧印加時における透過率を向上させる条件(条件3)について検討した。
【0058】
図13に、発光ピーク波長に対する最適リタデーションの範囲を示す。図中3本の直線は、液晶のツイスト角が155°、180°、210°の場合において、それぞれのツイスト角でON電圧印加時に高い透過率を得られるような最適なリタデーションをプロットし、それらを直線で結んだものである。なお、ここでいう最適なリタデーションとは、発明者らが判断した、液晶セルの動作に支障の無い範囲内で極力ON電圧印加時の透過率が高くなるようなリタデーションを指す。
【0059】
同一波長に対しては、ツイスト角155°における最適リタデーションが最も大きく、ツイスト角210°における最適リタデーションが最も小さい。ツイスト角180°における最適リタデーションは両最適リタデーションの間にある。155°〜210°の範囲内のツイスト角における最適リタデーションも、両最適リタデーション直線の間にある。
【0060】
上記の結果から、条件3となるリタデーションRの範囲は、単色光光源の発光ピーク波長をλとすると、
1.95λ−200≦R≦2.13λ−185 (式1)
となる。これは、ON電圧印加時に単色光光源の発光ピーク波長付近で高透過率を得るための必要条件である。
【0061】
なお、図11Aに示した液晶表示装置のリタデーションは、図中×印で示されている。
【0062】
発明者らは、式1(1.95λ−200≦R≦2.13λ−185)について一般化した式を導出することを試みた。波長λの関数として表されたリタデーションの関数が、ツイスト角T(°)の一時関数
f(T)=aT+b
g(T)=cT+d
を用いて
R=f(T)λ+g(T)−(式2)と近似されるとする。
(式1)を、ツイスト角155°および210°におけるリタデーションの式
R=2.13λ−185 −(式3)
R=1.95λ−200 −(式4)
にそれぞれ当てはめて連立方程式を立てると
f(155)=155a+b=2.13 − (式5−1)
f(210)=210a+b=1.95 − (式5−2)
g(155)=155c+d=−185 − (式6−1)
g(210)=210c+d=−200 − (式6−2)
となる。これらを解くと
R=(−0.00327T+2.637)λ−0.2727T−142.7 (155≦T≦210)−(式7)
となる。
【0063】
この式はリタデーションの最適値を示す式であり、±10%程度であれば、ON電圧印加時の透過率を高くする必要条件(条件3)として認めることができるであろう。
【0064】
上記のように、印加電圧調整による温度対策を施した液晶表示装置は、透過率の温度特性が良く、温度変化に対して良好な表示品位を保つことができる。さらに条件1〜条件3を満たせば、電圧無印加時の遮光性およびコントラスト比が高く、視角特性も良好な液晶表示装置となるであろう。
【0065】
角度a+b=90°となる種々の角度の組み合わせを検討した結果、a=b=45°となる組み合わせの場合に最もON電圧印加時の透過率が高くなることが判った。
【0066】
発明者らは、上記の温度対策を施し、かつ条件1〜条件3を満たす液晶表示装置を作成した。ツイスト角180°、液晶セルの(25℃における)リタデーション1110nm、角度a=45°、角度b=45°、バックライト発光波長630nmの液晶表示装置を作成し、駆動させたところ、表示品質(コントラスト比、視角特性、温度特性)が非常に良好であった。
【0067】
実際の製品においては、製造の誤差により完全にa=b=45°とは必ずしもならない。両角度とも45°±3.5°程度であれば、高いコントラス比を得られるであろう。
【0068】
なお、図12に示した特性を持つ液晶表示装置において、発光ピーク波長450nm付近の青色光源をバックライトとして用いる場合は、偏光板をクロスニコルに配置することで、高コントラスト比を持つ液晶表示装置を実現可能である。
【0069】
図14は、ブラックマスクを配置した液晶表示装置の概略断面図である。実施例のように、液晶層への印加電圧を調整してリタデーションの変化を抑制する方法は、図14に示した電極2a、2bの重なり部分によって画定される表示パターンにおいては非常に有効である。表示パターン以外の背景部分には電位差が生じないため、温度変化によるリタデーション変化を抑制することが難しい。従って、背景部分と、非選択電圧が印加された表示パターン(例えば、オフセグメント)との間に透過率の差が生じ、背景部分において光抜けが生じることがある。そこで、背景部分に図示のようにブラックマスク9を配置して背景部分の光抜けを防止しても良い。ブラックマスク9は、面内で背景領域をカバーしていれば図示した位置に限定されず、例えば基板1aと電極2aの間でも良い。
【0070】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、単色光の光源としてLEDの他に、レーザを用いても良い。波長Aと波長Bは、実際の製品においては完全に一致しないことがある。15±nm程度の波長のズレであれば許容範囲であろう。
【0071】
また、複屈折を持つ液晶層を有し、温度変化に対して印加電圧を調整してリタデーションを一定に保つようにした液晶表示装置であれば、TN型やツイスト角155°〜210°の範囲から外れるSTN型の液晶表示装置であっても、温度特性が良好な表示が得られるであろう。
【0072】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1Aおよび図1Bは、液晶表示装置の概略断面図である。
【図2】図2Aは、青色モードSTN液晶表示装置のダイアグラムであり、図2Bは、液晶表示装置のほぼ可視領域の透過率スペクトルである。
【図3】図3は、角度a+bに対する、波長630nmにおける液晶表示素子の電圧無印加時の透過率のグラフである。
【図4】図4は、液晶表示素子101の、基板ラビング方向と偏光板軸角度との関係を示したダイアグラムである。
【図5】図5は、STN型液晶表示素子のほぼ可視領域における透過率スペクトルである。
【図6】図6は、リタデーションをパラメータとして888nm、952nm、1016nm、1080nm、1139nmに変化させたときの、電圧無印加時における透過率スペクトルである。
【図7】図7は、25℃における、セル厚7.2μmの液晶表示素子の透過率スペクトルである。
【図8】図8は、液晶セルへ印加する非選択電圧をパラメータとした、透過率スペクトルである。
【図9】図9は、実施例による液晶表示素子と、比較例による液晶表示素子のコントラスト比−温度特性である。
【図10】図10は、STN液晶表示装置の波長630nmにおける、視角をパラメータとした透過率−ツイスト角特性である。
【図11】図11Aは、STN液晶表示装置のダイアグラムであり、図11Bは、波長630nmにおける液晶表示素子の透過率−視角特性である。
【図12】図12は、ON電圧印加時および無印加時における透過率スペクトルである。
【図13】図13は、発光ピーク波長に対する最適リタデーションの範囲である。
【図14】図14は、ブラックマスクを配置した液晶表示装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1a、1b 基板
2 電極
2l 配線
3 液晶
4 絶縁膜
5 配向膜
6 シール材
7 導通材
8 偏光板
9 ブラックマスク
101 液晶表示素子
102 バックライト
103 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単色光を出射するバックライトと、
一対の対向する基板と、該基板間に挟持されたネマチック液晶層と、該基板の各々において該ネマチック液晶層側に形成された電極パターンと、該基板の外側に配置された偏光板とを含む液晶表示素子と、
前記バックライトの発光と、前記液晶表示素子に印加する電圧を制御する制御装置と
を有する液晶表示装置であって、
前記制御装置は、周囲温度が上昇すると、前記液晶表示素子に印加する非選択電圧を低下させ、周囲温度が低下すると、該非選択電圧を上昇させることにより、前記液晶表示素子のリタデーションの変化を制御する液晶表示装置。
【請求項2】
周囲温度が液晶相−等方相転移温度TNIより10℃〜40℃低い温度である使用環境において、前記バックライトの発光ピーク波長に、前記液晶表示素子の電圧無印加状態の透過率が極小値をとる波長を合わせるように前記液晶表示素子のリタデーションを設定した請求項1記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記バックライトの発光ピーク波長に、前記液晶表示素子の電圧無印加状態の透過率が極小値をとる波長を合わせる際の周囲温度以外の温度環境においては、前記液晶表示素子に印加する非選択電圧を調整して該発光ピーク波長に該透過率が極小値を取る波長を合わせる請求項2記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記バックライトの発光ピーク波長に、前記液晶表示素子の電圧無印加状態の透過率が極小値をとる波長を合わせる際の周囲温度が、70℃〜90℃である請求項2または3記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記液晶表示素子がTN型である請求項1〜4のいずれか1項記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記液晶表示素子がSTN型である請求項1〜4のいずれか1項記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記一対の基板の、上基板と下基板の各々と接する位置において、前記ネマチック液晶層の液晶分子配向方向と偏光板の軸方向とが同じでなく、かつそれらの方向が為す小さい方の角度の、上基板側角度と下基板側角度の和が90°±7°である請求項6記載の液晶表示装置。
【請求項8】
前記液晶表示素子の前記ネマチック液晶層のツイスト角が155°〜210°であり、
前記単色光における発光ピーク波長をλ(nm)、前記ネマチック液晶層のツイスト角をT(°)すると、前記液晶表示素子のリタデーションR(nm)が式
R=(−0.00327T+2.637)λ−0.2727T−142.7 (155≦T≦210)
の±10%の範囲内である請求項7記載の液晶表示装置。
【請求項9】
前記液晶のツイスト角が170°〜200°である請求項8記載の液晶表示装置。
【請求項10】
前記一対の基板の、上基板と下基板の各々と接する位置において、前記液晶層の液晶分子配向方向と偏光板の軸方向とが為す小さい方の角度の、上基板側角度と下基板側角度が共に45°±3.5°である請求項7〜9のいずれか1項記載の液晶表示装置。
【請求項11】
さらに、
前記電極パターンが画定する表示パターン以外の面内領域に、ブラックマスクが配置された請求項1〜10のいずれか1項記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−8563(P2010−8563A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165862(P2008−165862)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】