説明

液晶表示装置

【課題】高速駆動が可能な液晶表示装置を提供する。
【解決手段】ベンド配向に転移可能な液晶層と、ベンド配向された該液晶層を透過する光によって画像を表示する複数の画素4からなる表示画面と、画素電圧印加手段とを備え、該画素電圧の印加により上記光の透過率を変化させることによって上記画像情報に対応した画像を上記表示画面に表示する液晶表示装置であって、上記画素4の液晶層が、画素電極6と上記走査方向における前段側のゲート電極2との間に形成されてなる容量結合を通じて該画素4の液晶層に印加される電圧を利用してベンド配向に転移する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置に関し、特に高速駆動が可能なものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示素子はTN型液晶表示素子が一般的に用いられてきた。しかし、TN型液晶表示装置は応答速度が遅いことから、高速応答が可能な液晶表示装置として、OCB型表示装置が検討されている。このOCB型液晶表示装置の詳細については、非特許文献1を参考にされたい。
【0003】
このOCB型液晶表示装置は、基板間に液晶が挟持されており、この基板内面には透明電極が形成されている。電源を入れる前の状態ではこの液晶の配向状態はスプレイ配向と呼ばれる状態をなしている。そして、この液晶表示装置の電源を入れる時などに、この透明電極に比較的大きな電圧を短時間に印加して、液晶の配向をベンド配向状態に転移させる。このベンド配向状態を用いて表示を行うことがOCB型液晶表示モードの特徴であり、それによって高速応答が可能となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】社団法人電気通信学会 信学技報 EDI98−144 199頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、HOLD型表示装置の問題が「情報科学用有機材料第142委員会、A部会(液晶材料)第71回研究会、B部会(インテリジェント有機材料)第62回研究会 合同研究会資料 平成10年11月20日 日本学術振興会 1〜5頁」において指摘され、液晶ディスプレイにおいてもCRT並みの動画対応を実現する技術が示唆された。このような技術のうち、もっとも簡便なものは画面を高速に書き込み、周期的に黒画面を挿入するというものである。このように画面の書き込み時間を短時間で行う手法を総称して「高速駆動」と本明細書では述べることとする。
【0006】
しかしながら、OCB型液晶表示装置では、高速応答が可能なものの、上記高速駆動に十分対応できるまでには至っていないという課題があった。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、高速駆動が可能な液晶表示装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る液晶表示装置は、ベンド配向に転移可能な液晶層と、ベンド配向された該液晶層を透過する光によって画像を表示する複数の画素からなる表示画面と、画素電圧印加手段とを備え、該画素電圧の印加により上記光の透過率を変化させることによって上記画像情報に対応した画像を上記表示画面に表示する液晶表示装置であって、上記画素の液晶層が、画素電極と上記走査方向における前段側のゲート電極との間に形成されてなる容量結合を通じて該画素の液晶層に印加される電圧を利用してベンド配向に転移するものとしてもよい(請求項1)。
【0009】
かかる構成とすると、通常の画素電圧印加手段によって印加される電圧に加えて、容量結合を通じて印加される電圧を転移電圧として利用することができるので、より短時間で液晶を転移させることができる。また、かかる構成とすると、ゲート電極を利用して積み上げ電圧を印加することができるので、積み上げ電圧印加手段の構成が簡素化される。
【0010】
また上記課題を解決するために、本発明に係る液晶表示装置は、ベンド配向に転移可能な液晶層と、ベンド配向された該液晶層を透過する光によって画像を表示する複数の画素からなる表示画面と、画素電圧印加手段とを備え、該画素電圧の印加により上記光の透過率を変化させることによって上記画像情報に対応した画像を上記表示画面に表示する液晶表示装置であって、上記画素の液晶層が、画素電極と専用の容量線との間に形成されてなる容量結合を通じて該画素の液晶層に印加される電圧を利用してベンド配向に転移するものとしてもよい(請求項2)。
【0011】
かかる構成とすると、通常の画素電圧印加手段によって印加される電圧に加えて、容量結合を通じて印加される電圧を転移電圧として利用することができるので、より短時間で液晶を転移させることができる。
【0012】
これらの場合、上記転移動作に先立って上記画素の液晶層に電圧を印加しない休止期間を有するものとしてもよい(請求項3)。
【0013】
かかる構成とすると、転移動作前に液晶層に電圧が印加されないので、転移を良好に行うことができる。
【0014】
この場合、上記複数の画素をゲート電極を通じて順次走査するゲート駆動手段を有し、上記画素電圧印加手段が、上記走査される画素の液晶層に上記画像情報の画素の輝度情報に基づいた基電圧をソース電極を通じて印加するソース駆動手段、及び上記走査後に上記画素に上記容量結合を通じて上記基電圧とともに上記画素電圧を形成するように積み上げ電圧を印加する積み上げ電圧印加手段を有し、上記積み上げ電圧を上記画素の液晶層のベンド配向への転移に利用してなるものとしてもよい(請求項4)。
【0015】
かかる構成とすると、画素電圧の大きさが過渡的に変化するよう構成することにより、CC駆動による積み上げ電圧を転移電圧の一部として利用することができるため、格段に高速化が可能でかつ転移時間の短縮が可能な液晶表示装置を得ることができる。
【0016】
また、上記の場合、上記積み上げ電圧印加手段としての上記ゲート駆動手段が、上記転移時に全ての画素を順次走査しながら上記積み上げ電圧を各画素に印加するものであるとしてもよい(請求項5)。
【0017】
かかる構成とすると、ゲート駆動手段を転移時にも表示時と同じモードで動作させることができる。
【0018】
この場合、上記ソース駆動手段が交流の転移用の電圧値を有する上記基電圧を出力するものであり、上記ゲート駆動手段が、上記休止期間中には、上記画素毎に設けられたスイッチング素子が上記走査時及びそれ以外の時にそれぞれ導通及び遮断となる2つの電圧レベルを有するゲート信号を出力し、上記転移時には、上記2つの電圧レベルに加えて、上記走査の直後に上記基電圧の極性に対応する極性の上記積み上げ電圧を印加可能な2つの電圧レベルを有するゲート信号を出力するものであるとしてもよい(請求項6)。
【0019】
かかる構成とすると、転移時には積み上げ電圧を画素の液晶に印加することができる一方、休止期間中は積み上げ電圧が発生しないようにすることができ、それにより、良好にかつ短時間で転移を行うことができる。
【0020】
また、上記ソース駆動手段が直流の転移用の電圧値を有する上記基電圧を出力するものであり、上記ゲート駆動手段が、上記休止期間中には、上記画素毎に設けられたスイッチング素子が上記走査時及びそれ以外の時にそれぞれ導通及び遮断となる2つの電圧レベルを有するゲート信号を出力し、上記転移期間中には、上記2つの電圧レベルに加えて、上記走査の直後に上記基電圧の極性と同じ極性の上記積み上げ電圧を印加可能な1つの電圧レベルを有するゲート信号を出力するものであるとしてもよい(請求項7)。
【0021】
かかる構成とすると、1つの極性の積み上げ電圧が発生するので効率良く積み上げ電圧を発生させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高速駆動に対応可能な液晶表示装置を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1に係る液晶表示装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の液晶表示の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】図1の液晶表示素子の画素の構成を模式的に示す平面図である。
【図4】補助容量電極の構成を示す断面図である。
【図5】画素の等価回路を示す回路図である。
【図6】ゲート信号、ソース信号及び対向電圧を示すグラフである。
【図7】ゲート信号の変化と画素電圧の変化との関係を示すグラフであって、(a)は奇数フィールドにおける変化を示す図、(b)は偶数フィールドにおける変化を示す図である。
【図8】通常駆動における画素の等価回路を示す回路図である。
【図9】通常駆動による画素の透過率の変化を説明するためのグラフであって、(a)はゲート信号を示す図、(b)は画素電圧の変化を示すグラフ、(c)は書き込み期間から保持期間への移行時における画素電圧の変化を示すグラフ、(d)は画素における液晶の誘電率の変化を示すグラフ、(e)画素における透過率の変化を示すグラフである。
【図10】本発明の実施の形態1による画素の透過率の変化を説明するためのグラフであって、(a)はゲート信号を示す図、(b)は画素電圧の変化を示すグラフ、(c)は書き込み期間から保持期間への移行時における画素電圧の変化を示すグラフ、(d)は画素における液晶の誘電率の変化を示すグラフ、(e)画素における透過率の変化を示すグラフである。
【図11】液晶表示装置の階調間における応答速度を示すグラフである。
【図12】階調間におけるRise time 及びDecay timeを示す表であって、(a)は通常駆動のOCB液晶モードの場合を示す表、(b)はCC駆動のOCB液晶モードの場合を示す表、(c)はCC駆動のTN液晶モードの場合を示す表である。
【図13】各階調間におけるRise time 及びDecay timeを視覚的に示す立体グラフであって、(a)はCC駆動のOCB液晶モードの場合を示す表、(b)は通常駆動のOCB液晶モードの場合を示す表である。
【図14】本発明の実施の形態1の変形例1による容量線の構成を示す平面図である。
【図15】図14のXV−XV断面図である。
【図16】本発明の実施の形態1の変形例2による補償電圧印加装置の構成を示すブロック図である。
【図17】本発明の実施の形態2に係る液晶表示装置におけるオフセット電圧の設定を示す画素電圧−透過率グラフである。
【図18】本発明の実施の形態3に係る液晶表示装置の起動時における対向電圧の波形を示すグラフである。
【図19】本発明の実施の形態3に係る液晶表示装置の起動時における対向電圧、ゲート信号、及びソース信号の波形を示すグラフであって、(a)は休止期間における波形を示すグラフ、(b)は転移電圧印加期間における波形を示すグラフである。
【図20】本発明の実施の形態3の変形例による対向電圧、ゲート信号、ソース信号、及び画素電極の電圧の波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0025】
実施の形態1
図1は本発明の実施の形態1に係る液晶表示装置の構成を示すブロック図、図2は図1の液晶表示素子の構成を模式的に示す断面図、図3は図1の液晶表示素子の画素の構成を模式的に示す平面図、図4は補助容量電極の構成を示す断面図、図5は画素の等価回路を示す回路図である。
【0026】
図1に示すように、液晶表示装置1は、液晶表示素子(液晶パネル)106と、バックライト18と、表示制御回路19とを有し、バックライト18から液晶表示素子106に表示用の光が供給され、表示制御回路19が映像信号14に応じて表示用の光を透過するよう液晶表示素子106を駆動することにより、該液晶表示素子106に映像信号14に応じた画像が表示されるように構成されている。
【0027】
バックライト18は、点灯回路16によって駆動される光源15から導光板(図示せず)を介して液晶表示素子106に表示用の光を供給する。
【0028】
表示制御回路19は、表示用コントローラ13、ゲートドライバ11、ソースドライバ12、及び照明用コントローラ17を有している。表示用コントローラ13は、映像信号14に応じてゲートドライバ11、ソースドライバ12、及び照明用コントローラ17に制御信号をそれぞれ出力する。ゲートドライバ11は、その制御信号に応じて、ゲート電極2を通じてゲート信号を出力することにより、液晶表示素子106の画素をゲート電極2毎に順次走査(選択)する。ソースドライバ12は、上記制御信号に応じて、上記ゲート信号にタイミングを合わせてソース信号を出力することにより、上記走査された画素にソース電極3を通じて該ソース信号を順次書き込む。これにより、表示用の光に対する各画素の透過率がソース信号に応じて変化し、それにより、液晶表示素子106に映像信号14に応じた画像が表示される。なお、照明用コントローラ17は、表示用コントローラ13からの制御信号に応じて、点灯回路16による光源15の駆動を制御する。
【0029】
図2に示すように、液晶表示素子106は、ここではアクティブマトリクスタイプのもので構成され、互いに対向するように配置された対向基板101とTFT基板102との間に液晶103が挟持され、両基板101,102の外側に位相差板104及び偏光板105がこの順にそれぞれ配置されて構成されている。対向基板101の内面には対向電極8(図4参照)が形成され、該対向電極8の表面には配向膜(図示せず)が形成されている。図3をも併せて参照して、TFT基板102の内面にはゲート電極2、ソース電極3、及び画素電極6等が形成され、これらを覆うように配向膜(図示せず)が形成されている。両基板101、102の配向膜には、互い平行な方向にラビング処理が施されている。図2はこのラビング方向に平行な断面を示している。そして、液晶としてネマティック液晶が用いられている。すなわち、液晶表示素子106では、OCB液晶モードが採用されている。このOCB液晶モードにおいては、電圧を印加しない初期状態では液晶は分子がほぼ平行に並んだスプレイ配向をなしているが、これに比較的大きな電圧、例えば25v程度の電圧を印加すると表示状態であるベンド配向に転移する。図2はこのベンド配向状態を示している。
【0030】
図3に示すように、TFT基板102の内面には、複数の線状のゲート電極2と複数の線状のソース電極3とが直交するように形成され、その直交する両電極2,3によりマトリクス状に区画された領域が画素4を構成している。そして、全ての画素4の集合からなる領域が表示画面(図示せず)を構成している。各画素4にはそれぞれ画素電極6が形成され、各画素4毎にTFT(Thin film transistor)からなるスイッチング素子5が形成されている。スイッチング素子5は、そのソース及びドレインがソース電極3及び画素電極6にそれぞれ接続され、そのゲートがゲート電極2に接続されている。ゲート電極2には、図3の上方から下方に向かって順次ゲート信号が出力され、それにより、各ゲート電極2に接続された画素が該ゲート電極2毎に、順次走査される。以下、この走査の順序における前後を前段及び後段という。そして、各画素4において前段側のゲート電極2に容量結合するように補助容量電極7が配設され、画素電極6に接続されている。つまり、液晶表示素子106はいわゆる容量結合駆動法(以下、CC駆動という)が採用されている。このCC駆動の詳細については、特開平2−157815号公報又はAM−LCD95 Digest of Technical papers 59頁を参照されたい。具体的には、図4に示すように、TFT基板102上にゲート電極2が形成され、そのゲート電極2が形成されたTFT基板102の表面を覆うように絶縁層9が形成されている。そして、その絶縁層9の画素内に位置する部分を覆うように画素電極6が形成され、さらに該絶縁層9のゲート電極2上に位置する部分及びこれに隣接する画素電極6の縁部を覆うように絶縁層10が形成されている。そして、この絶縁層10上に補助容量電極7が形成され、コンタクトホール41によって後段側の画素電極6に接続されている。このような構造とすることにより、画素4の等価回路は、図5に示すように、ソース電極3にスイッチング素子5が接続され、該スイッチング素子5と対向電極8との間に液晶容量Clcが接続され、スッチング素子5と前段側のゲート電極2との間に補助容量Cstが接続されたものとなっている。なお、Cgdは、画素電極6とゲート電極2との間の浮遊容量を示している。
【0031】
次に、以上のように構成された液晶表示装置1の動作を説明する。
図6はゲート信号、ソース信号及び対向電極の電位を示すグラフ、図7はゲート信号の変化と画素電圧の変化との関係を示すグラフであって、(a)は奇数フィールドにおける変化を示す図、(b)は偶数フィールドにおける変化を示す図である。
【0032】
図1及び図6に示すように、対向電極の電位(以下、対向電圧という)Vcomは一定に設定されている。一方、液晶表示素子106は交流駆動されている。つまり、ソースドライバ12は、対向電圧Vcomに対し、同一ソース電極3に接続された各画素毎に交互に正及び負の値を取るようなソース信号Ssを出力する。また、このソース信号Ssは、1画面、すなわち1フィールド毎に対向電圧Vcomに対する極性が反転する。本実施の形態では、対向電圧Vcomは3vに設定されている。また、ソース信号Ssの振幅(基電圧)Vsは3vに設定され、従って、ソース信号Ssは交互に6v及び0vの値を取る。
【0033】
一方、ゲートドライバ11は、以下のようなゲート信号Sgを出力する。すなわち、このゲート信号Sgは、書き込み期間TaにおいてVgonとなり、該書き込み期間Taに続く積み上げ期間Tpに、奇数フィールドにおいてはVge1、偶数フィールドにおいてはVge2となり、かつ該書き込み期間Ta及び積み上げ期間Tpを除いた残りの期間TrにVg0ffとなる。ここで、Vge1はVg0ffよりVge(+)だけ高い電圧に、Vge2はVg0ffよりVge(-)だけ低い電圧に設定されている。そして、Vg2はもちろんVge1もスイッチング素子5が遮断状態(高抵抗状態)となるような電圧に設定されている。また、積み上げ期間Tpは、書き込み期間の2倍強の期間に設定されている。本実施の形態では、ゲート信号SgのVgonは正の所定値、Vgoffは−10v、Vge1は−3v、Vge(+)は7v、Vge2は−18v、Vge(-)は−8vにそれぞれ設定されている。
【0034】
これにより、任意の画素においては、図3及び図7に示すように、書き込み期間Taにおいて、スイッチング素子5が導通状態(低抵抗状態)となり、画素電極6がソース信号Ssの電圧Vsに充電される。それにより、画素4にソース信号Ssが書き込まれる。ここで、奇数フィールドの場合、ここでは画素電圧Vp'が正から負に変化するが、この場合には、図7(a)に示すように、画素4にソース信号Ssが書き込まれた時、前段側のゲート電極2にはVge1の電圧が印加されている。また、画素電極6には、液晶に本来印加される電圧(後述する設定画素電圧Vp)よりも小さい電圧が印加されている。次いで、積み上げ期間Tpに移行すると、当該段のゲート電極3の電圧がVge2に下がり、それにより、スイッチング素子5が遮断状態となる。一方、前段側のゲート電極3の電圧はVgoffに下がる。つまり、Vge(+)だけ下がる。すると、スイッチング素子5が遮断状態にあり、かつ画素電極6が補助容量Cstによって前段側のゲート電極3に結合されているため、このゲート電極3の電圧に連動して画素電極6の電位も下がる。この電圧変化量(以下、補償電圧又は積み上げ電圧という)Vccは、後述する式に示すような値となる。
【0035】
また、偶数フィールドの場合、ここでは画素電圧Vp'が負から正に変化するが、この場合には、図7(b)に示すように、画素4にソース信号Ssが書き込まれた時、前段側のゲート電極2にはVge2の電圧が印加されている。次いで、積み上げ期間Tpに移行すると、当該段のゲート電極3の電圧がVge1に下がり、それにより、スイッチング素子5が遮断状態となる。一方、前段側のゲート電極3の電圧がVgoffに上がる。つまり、Vge(-)だけ上がる。すると、ゲート電極3の電圧に連動して画素電極6の電位が補償電圧Vccだけ上がる。この場合及び上記の場合における補償電圧Vccは、以下の式に示すものとなる。
【0036】
Vcc=Cst/(Cst+Cgd+Clc)×(Vge(+) or Vge(-))
そして、通常、画素電極6には、この補償電圧Vccを見越した電圧、すなわち、
Vp'=Vs+Vcc
が印加される設計になっている。
【0037】
このような液晶表示素子の駆動法がCC駆動である。このCC駆動を用いるとTN液晶では応答速度がある程度速くなることが知られている。これは、誘電率異方性に起因するものである。
今、任意の画素において、液晶表示素子の透過率(以下、単に透過率という)が100%から0%まで変化する場合を考える。表示モードは、ノーマリーホワイトモードであると仮定する。そうすると、透過率が100%である場合、液晶に印加される電圧は低く、液晶の誘電率は小さい。逆に、透過率が0%である場合、液晶に印加される電圧は高く、誘電率は大きい。
【0038】
液晶分子の応答は、画素電極の充電よりも時間を要するため、該画素電極の充電(ソース信号の書き込み)に対し時間遅れが発生する。
【0039】
充電当初(正確には書き込み期間の終了直後)に画素電極に印加される電圧(以下、画素電圧という)Vp'は、
Vp'(当初値)=Vs+Cst/(Cst+Cgd+Clc(100))×Vge(+)
となるが、これが液晶の応答によって、
Vp'(飽和値)=Vs+Cst/(Cst+Cgd+Clc(0))×Vge(+)
に変化する。
【0040】
ここで、Clc(100)は透過率が100%である場合の液晶容量、Clc(0)は透過率が0%である場合の液晶容量である。この液晶容量においては、
Clc(100)<Clc(0)
の関係があるため、
Vp'(当初値)>Vp'(飽和値)
の関係になる。
【0041】
この場合、Vp'(飽和値)が、本来、画素電極6に印加されるべき電圧、すなわち、設定画素電圧Vpである。そして、この設定画素電圧Vpが、映像信号の画素毎の輝度情報(階調)に対応する電圧である。
【0042】
そして、ここでは透過率が100%から0%まで変化するので、液晶に印加される電圧は低い状態から大きい状態に変化する。その際、充電当初に、過渡的にではあるが、液晶に対してVp'(当初値)のような高電圧が印加されるので、この過渡的な高電圧によって液晶の応答速度が高速化される。
【0043】
また、上記とは逆に、透過率が低くて暗い状態から透過率が比較的高くて比較的明るい中間階調状態に変化する場合には、液晶に印加される電圧は高い状態から比較的低い状態に変化する。しかし、この場合には、Vp'(当初値)<Vp'(飽和値)の関係になるので、充電当初に、液晶に対してVp'(当初値)という低い電圧が過渡的に印加される。従って、この場合にも、液晶の応答速度が高速化される。
【0044】
次に、本発明の特徴をより明確にするために、本発明を通常駆動法(以下、単に通常駆動という)と対比して説明する。
【0045】
図8は通常駆動における画素の等価回路を示す回路図、図9は、通常駆動による画素の透過率の変化を説明するためのグラフであって、(a)はゲート信号を示す図、(b)は画素電圧の変化を示すグラフ、(c)は書き込み期間から保持期間への移行時における画素電圧の変化を示すグラフ、(d)は画素における液晶の誘電率の変化を示すグラフ、(e)画素における透過率の変化を示すグラフ、図10は本実施の形態による画素の透過率の変化を説明するためのグラフであって、(a)はゲート信号を示す図、(b)は画素電圧の変化を示すグラフ、(c)は書き込み期間から保持期間への移行時における画素電圧の変化を示すグラフ、(d)は画素における液晶の誘電率の変化を示すグラフ、(e)画素における透過率の変化を示すグラフである。
【0046】
まず、通常駆動では、図8に示すように、補助容量電極が容量線(図示せず)と容量結合するように配設され、その容量線が対向電極8に接続されている。その結果、画素の等価回路は、補助容量Cstが液晶容量Clcと並列に接続されたものとなっている。
【0047】
この通常駆動の動作を説明する。ここでは、液晶に印加される電圧(画素電圧vp')が高い状態から低い状態に急激に変化した場合について説明する。図9(a),(c)に示すように、ゲート信号が画素に出力されると、その電圧が高い値を示す書き込み期間Taにおいてスイッチング素子が導通状態となり、画素電極がソース信号の電圧に充電される。この書きこみ期間Taは、例えば20μsといった値であり、極めて短い。しかし、液晶分子の応答時間はたとえOCBモードの液晶であっても数msのオーダの値であり、充電時間に比べて長い。上述のように液晶の誘電率は液晶分子の応答に従って変化するため、これも応答は遅い。よって、充電初期では、液晶に印加される電圧、すなわち画素電圧Vp'は、図9(b)に示すように変化するが、このときの液晶の誘電率は、図9(d)に示すように、高電圧時の高い状態のままである。次いで、スイッチング素子が遮断状態となって保持期間に移行すると、液晶の分子が応答し、それにより誘電率が変化する。この誘電率の変化によって電荷の再分配が発生し、図9(b),(c)に示すように画素電圧Vp'が変化する。これにより、画素電圧Vp'が、設定画素電圧Vpよりもずれた値となる。その結果、図9(e)に示すように、透過率が1フィールド期間Tfを超え多フィールドに渡って徐々に変化する。つまり、液晶の応答が遅いものとなる。ここで、画素電圧Vp'は下式で示すものとなる。
【0048】
Vp'=(Cst+Clc(0))/(Cst+Clc(100))×Vp
つまり、通常駆動では、液晶の誘電率の変化が液晶の応答を損なうように画素電圧Vp'を変化させるような構成となっていたのである。
【0049】
そこで、本実施の形態は、液晶の誘電率の変化が液晶の応答速度を速めるように画素電圧Vp'を変化させるようにしたものである。つまり、図10(a)に示すように、ゲート信号がパルス状である点は通常駆動と同様であるが、図10(b)に示すように、書き込み期間Ta終了直後の保持期間Thの初期に、上述の補償電圧Vccが補助容量Cstを介してゲート電極から画素電極に印加される。このとき、液晶の誘電率は、図10(d)に示すように、やはり緩やかに変化し、それによって、図10(b)に示すように、補償電圧Vccが変化するのであるが、この誘電率の変化に伴う補償電圧Vccの変化が液晶の応答を早めるように作用する。そのため、図10(e)に示すように、透過率は、応答が遅くなるようなことはなく、むしろ一時的にオーバーシュートするくらいの速さで変化する。これには透過率の変化を強調する効果もある。これにより、液晶は、1画面、すなわち1フィールド期間Tf内で応答を終えることができる。
【0050】
このように、補償電圧を、応答を早める方向に印加することが本発明の特徴なのであり、さらにこの補償電圧の印加を液晶容量の変化を用いて自動的に行ったのがCC駆動なのである。
【0051】
次に、本実施の形態に係る液晶表示装置の効果を説明する。OCB液晶モードは高速であることが特徴であるが、通常駆動ではOCB液晶モードをもってしても1フィールド以内での応答は困難であった。これは、上述のように誘電率の変化による阻害作用が存在したからである。そこで、本発明ではOCB液晶モードとCC駆動とを組み合わせることで、確実に1フィールド期間以内となる応答を実現することができた。
【0052】
図11は液晶表示装置の階調間における応答速度を示すグラフ、図12は階調間におけるRise time 及びDecay timeを示す表であって、(a)は通常駆動のOCB液晶モードの場合を示す表、(b)はCC駆動のOCB液晶モードの場合を示す表、(c)はCC駆動のTN液晶モードの場合を示す表である。
【0053】
図12に示すように、本実施の形態に係る液晶表示装置の効果を確認するために、通常駆動のOCB液晶モード、CC駆動のOCB液晶モード(本実施の形態)、及びCC駆動のTN液晶モードについて、各階調間におけるRise time 及びDecay timeを測定した。この測定は、通常駆動のOCB液晶モードの場合は室温、CC駆動のOCB液晶モード及びCC駆動のTN液晶モードの場合は32℃において行った。図12(a),(b),(c)の各表において、右上半分はDecay time(τd)を、左下半分はRise time(τr)をそれぞれ示している。また、各階調のレベルを表す数値は、画面の輝度における黒表示レベルを0、同じく白表示レベルを100としたときのパーセンテージを表している。この測定結果を判りやすくするために、対象階調に対する応答速度のグラフに表したものが図11である。ここで、対象階調は、応答速度の算出対象である2つの階調を意味している。また、応答速度は、その2つの階調のうちの一方から他方へのRise timeと他方から一方へのDecay timeとの和を意味している。液晶表示装置においては、その応答速度をこのようにRise timeとDecay timeとの和で表すのが通例である。具体例を示すと、通常駆動のOCB液晶モードにおいて(図12(a))、対象階調が0レベルのものと25レベルのものである場合(図11において0−25のように表す)、応答速度は、0.92(τr)+3.2(τd)=4.12[ms]となる。
【0054】
図11において、通常駆動のOCB液晶モードの特性は、曲線Bで示される。この曲線Bから明らかなように、この通常駆動のOCB液晶モードの応答速度は、中間階調では実用上未だ遅いと言わざるを得ない。つまり、CRT並みの動画の切れを出すためには黒画面を挿入する必要があるが、そのためには、通常のフィールド周波数の60Hzよりも速い周波数で映像信号を書き込み、余った時間に黒画面を挿入する必要がある。できれば、必要とされる動画の切れを出すために、黒画面の挿入時間を1フィールド期間の少なくとも半分以上とすることが望ましく、これを実現するためには、120Hzの周波数で映像信号を書き込む必要がある。このためには、8ms以下の応答速度を実現する必要がある。また、液晶表示素子をバックライトと連動させたり、あるいは低温でも高速応答を実現させたりしようとすると、さらなる高速化が要求される。本明細書では、この120Hzの周波数で映像信号を書き込むことを、特に「倍速駆動」と呼ぶ。
【0055】
これに対し、通常駆動のOCB液晶モードでは、階調間の応答速度は、最大12.8msであった。従って、通常の60Hzのフィールド周波数での映像信号の書き込みのみならず「高速駆動」にも部分的には対応することができるが、切れのよい動画表示が可能な120Hzでの映像信号書き込み、すなわち、「倍速駆動」には全く対応することができず、テレビ、モニタ等の用途において、実用に供することはできない。
【0056】
これに対し、CC駆動のOCB液晶モードの特性は、図11において曲線Aで示されるが、この曲線Aから明らかなように、階調間の応答速度は最大6ms以下(正確には5.4ms以下)であった。この応答速度は、通常駆動のOCB液晶モードに比べて半分以下であり、しかも、切れのよい動画表示が可能な120Hzの周波数の映像信号書き込み期間(以下、画像情報書き込み期間という)に相当する8msを十分下回るものであった。従って、本実施の形態による液晶表示装置は、「高速駆動」のみならず「倍速駆動」が可能であり、その結果、応答速度に関して、テレビ、モニタ等の用途において、十分実用に供することが可能となっている。つまり、本実施の形態の液晶表示装置によって初めて、応答速度において実用的な動画表示が可能となったのである。
【0057】
なお、現在広く用いられている通常駆動のTN液晶モードの特性は、図11において曲線Cで示されるが、この液晶モードでは、通常の60Hzの周波数のフィールド期間以下の時間で応答可能な階調範囲が極めて少なく、「倍速駆動」はもとより、「高速駆動」にも十分対応することができない。従って、その応答速度は動画を表示するには不十分である。
【0058】
図13は各階調間におけるRise time 及びDecay timeを視覚的に示す立体グラフであって、(a)はCC駆動のOCB液晶モードの場合を示す表、(b)は通常駆動のOCB液晶モードの場合を示す表である。
【0059】
図13は、図12の測定に比べて段階の刻みをより細かくした階調の相互間におけるRise time 及びDecay timeを測定したものである。各階調のレベルは、黒表示を0、白表示を255とした場合の画面の輝度における段階で表されている。
【0060】
図13から明らかなように、CC駆動のOCB液晶モードは、通常駆動のOCB液晶モードに比べて、特に、Decay time、すなわち液晶が緩和される方向における応答時間において高い効果を奏する。また、CC駆動のOCB液晶モードでは、応答時間がいずれの階調間でも3ms程度以下になっている。これを応答速度(τr+τd)で見ると、6ms以下となっている。さらに、階調間格差も、通常駆動のOCB液晶モードに比べて格段に少なくなっている。これは、最も応答が遅くなる、黒表示レベルから白表示レベルへの変化の際に、最も大きな補償電圧が自動的に画素電極に印加されるためである。このように、階調の段階の刻みを細かくした場合でも、本実施の形態による液晶表示装置は、テレビ、モニタ等の用途に実用可能な応答速度を有している。
【0061】
次に、本実施の形態による液晶表示装置の温度特性について説明する。CC駆動のOCB液晶モードでは、「倍速駆動」が可能な低温限界は10℃であった。但し、この10℃という温度は、バックライト等で暖められた液晶表示素子の温度を指しており、この場合の環境温度は0℃であった。よって、本実施の形態による液晶表示装置では、室温以下でも十分良好な「倍速駆動」を実現することができた。なお、通常駆動のOCB液晶モードでは、60Hzのフィールド周波数の駆動が可能な低温限界は25℃であり、それ以下の温度ではその60Hzのフィールド周波数の駆動すら困難であった。
【0062】
次に、本実施の形態の好ましい条件について説明する。CC駆動による高速化は、上述したように補償電圧Vccの重畳と誘電異方性による画素電圧Vp'の変化によってもたらされる。そのため、誘電率の異方性が大きい方が好ましい。本実施の形態では、誘電率が、全電圧下で11、無電圧下で5、黒表示電圧下で10、白表示電圧下で7となるような液晶材料を用いた。この液晶材料の選択に際しての重要なパラメータは、黒表示電圧下における誘電率と白表示電圧下における誘電率との比(以下、誘電比という)であり、これが大きいほど効果的である。本実施の形態では、この誘電比が1.4である液晶材料を用いた。この誘電比は1.2以上であれば高速化の効果が現れ、1.4以上であれば、画像情報書き込み期間の周波数が120Hzの「倍速駆動」に適用することができた。TN型の液晶では、通常、誘電比が2以上であるが、OCB型の液晶は、白表示時においても分子がかなり立った状態で用いるため、誘電比は小さ目になる。これは、液晶材料の選択上の大きな制約となる。しかし、本実施の形態では、誘電率異方性が大きい液晶材料を選ぶことで誘電比の向上を実現した。本実施の形態で用いた液晶材料の誘電率は、ε垂直=3.7、ε平行=11.5であった。従って、誘電率異方性Δε=ε平行−ε垂直=7.8であった。この液晶材料の選択については、Δε>6.5以上であれば誘電比が1.2以上となって高速化の効果が現れ、Δε>7.7以上であれば誘電比が1.4以上となって「倍速駆動」に適用可能であった。
【0063】
また、CC駆動で重要な他のパラメータは、補助容量Cstと液晶容量Clcとの比であり、補助容量Cstが大きいほど効果的である。本実施の形態では、この容量比=Cst/Clcを1に設定した。高速化の効果を奏するためには、この容量比を0.7以上とすることが好ましく、さらに、「倍速駆動」に適用するためには、これを1以上とするのが望ましい。
【0064】
以上のように、本実施の形態によれば、液晶表示素子の応答時間を従来の駆動法の1/2以下に低減することができる。これはTN液晶モードの経験則から考えれば非常に大きな効果である。これは、液晶の誘電率の変化に対する透過光量の変動量がOCB液晶モードでは大きいことが影響しているためと考えられる。つまり、本実施の形態による効果は、単にCC駆動による高速化の効果とOCB液晶モードによる高速化の効果との和ではなく、CC駆動の構成とOCB液晶モードの上記のような特性とがマッチしたことによる両者の相乗効果によるものであると考えられる。また、誘電率の異方性を大きくすることで、この高速化の効果をさらに向上できることが確認された。
【0065】
次に、本実施の形態における変形例を説明する。
【0066】
[変形例1]
画素電極への補償電圧供給方式は、前段側ゲート方式には限られない。補償電圧は、基本的に、画素電極に容量的に結合された電極から供給されればよい。
【0067】
図14は本変形例による容量線の構成を示す平面図、図15は図14のXV−XV断面図である。図14に示すように、本変形例では、TFT基板102の内面に、ゲート電極2と平行に独立の容量線31が形成されている。この容量線31は各ゲート電極2に対応して形成されている。この容量線は、図15に示すように、絶縁層9で覆われるようにしてTFT基板102上に形成され、該絶縁層9上に画素電極6が形成されている。従って、容量線31の画素電極6の下方に位置する部分31aと該画素電極6との間に補助容量が形成されている。そして、一般の容量線は対向電極8に接続されるのが通例であるが、この容量線31は専用のドライバ(図示せず)に接続されている。これは、この容量線31にはゲート電極2の走査に同期して所定の電圧を印加しなければならないため、この容量線31を独立して駆動する必要があるからである。その結果、ゲート側のドライバ数が増加することになるが、これらのドライバをポリシリコンで形成することにより、このドラバ数の増加による負担は軽減される。この容量線31には、図6において前段側ゲート電極に印加されるVg(+)及びVg(-)に相当する電圧が、図6の場合と同じタイミングで上記専用ドライバによって印加される。それにより、図6の場合と同様の効果が得られる。
【0068】
[変形例2]
上記構成例では、容量結合されたゲート電極から補償電圧を供給することで該補償電圧を自動的に重畳するよう構成されているが、本発明の本質は、補償電圧を液晶表示素子の透過率の変化が加速されるような方向に印加することにあるので、上述した容量結合を用いずともこれを実現することは可能である。そこで、本変形例では、そのような補償電圧印加回路を構成したものである。
【0069】
図16に本変形例による補償電圧印加装置の構成を示す。図16において、補償電圧印加装置30は、例えば、複数(ここでは2つ)のフィールドメモリ32,33を備え、これに映像信号14の相前後する1画面(1フィールド)分の画像情報をそれぞれ蓄積し、差分演算回路34において各フィールドメモリ32,33に蓄積された画像情報の画素の階調(輝度情報)の差分を算出し、補償電圧生成回路35においてその階調の差分に対応する値の補償電圧を生成し、ソースドライバ12において映像信号14の上記後のフィールドの画素の階調に基づく基電圧(図6のソース信号の電圧Vs)に上記補償電圧を重畳した電圧(ソース信号)を液晶表示素子106に供給するように構成されている。現状では、フィールド間の各画素の階調の差分の演算には多大な計算量が必要であるため、演算速度の点でこれを実現することは困難である。しかし、近い将来にはコントローラチップ内で処理できる程度にまで半導体の小型化及び高速化が進むと思われるので、そうなれば、この構成を実現することが可能になると思われる。
【0070】
[変形例3]
本実施の形態によればCC駆動のOCB液晶モードとすることによりさらなる高速化が可能であるが、本変形例は、この構成に、フィールド期間内に黒画面を挿入する構成を組み合わせたものである。このような構成とすると、動画の切れ、すなわち視認性が向上する。ここで、本明細書では、フィールド期間とは、1画面分の画像情報(ここでは映像信号)を一定周期で書き込むその周期を意味する。また、フィールド期間内において、1画面分の画像情報を全画素に順次書き込む期間を画像情報書き込み期間という。また、フィールド期間内において、黒画面を書き込む期間を黒画面挿入期間という。本変形例では、画像情報書きこみ時間がフィールド期間の90%よりも小さいときに効果的であった。例えば、黒画面挿入期間をフィールド期間の10%以上に設定すると、液晶がスプレイ配向に戻り難くなる、すなわち逆転移防止の効果があった。また、画像情報書きこみ期間をフィールド期間の半分以下に設定すると、残りの期間を黒画面挿入期間とすることができるので、視認性をさらに向上することができる。なお、黒画面表示用の電圧は、黒レベル用又は略黒用の電圧、及び黒レベル用以上の電圧のいずれであってもよい。
【0071】
[変形例4]
本変形例は、フィールド期間内の黒画面挿入期間にバックライトを消灯させるようにしたものである。具体的には、図1の構成において、照明用コントローラ17が、黒画面挿入期間の全期間に渡って光源15をオフするよう点灯回路16を制御する。このような構成とすると、黒画面挿入による視認性の向上と消費電力の低減との双方を達成することができる。
【0072】
[変形例5]
本変形例は、CC駆動のTN液晶モードによる液晶表示装置において、セル厚を3μm以下にしたものである。このような構成とすると、セル厚が小さくなる分、液晶内に生じる電界強度が大きくなるので、それにより、高速応答が可能になる。そして、特にセル厚が3μm以下の場合には、上記CC駆動のOCB液晶モードの場合と同様に「倍速駆動」が可能であった。なお、この構成において、液晶材料を、誘電率異方性及び誘電比について上記と同様に選択することにより、さらに応答の高速化が可能であることは言うまでもない。
【0073】
実施の形態2
実施の形態1で用いたCC駆動は、高速化以外にも駆動電圧を最適化できるメリットがある。そこで、本発明の実施の形態2は、このCC駆動を利用してオフセット電圧を印加するようにしたものである。
【0074】
図17は本実施の形態に係る液晶表示装置におけるオフセット電圧の設定を示す画素電圧−透過率グラフである。
【0075】
本実施の形態による液晶表示装置の全体構成は、実施の形態1と同様である。但し、本実施の形態では、実施の形態1と異なり、図7の補償電圧(以降、これを積み上げ電圧という)Vccの値がオフセット電圧を見込んだ値に設定されている。ここで、オフセット電圧とは、図17に示すように、ベンド配向した液晶に、スプレイ配向への逆転移防止を目的として印加される電圧をいう。本実施の形態では、このオフセット電圧が2vに設定されている。なお、容量結合される電極はゲート電極でも独立の容量線でもよい。この点は実施の形態1と同様である。このような構成とすると、CC駆動を利用して液晶の逆転移を防止することができるので、逆転移を防止するための構成が簡素化される。
【0076】
つまり、OCB型液晶表示装置では、低電圧にしすぎるとスプレイ配向が発生するという課題が存在する。このため、一般には、画素電圧を一定値よりも下げない駆動法が用いられている。このような駆動法の好ましいものとして、例えば、対向電極の電位を交流の矩形波状に変化させてオフセット電圧を印加することが考えられる。
【0077】
しかし、この駆動法は、小型の液晶パネル(液晶表示素子)には適しているが、大型の液晶パネルには適していない。これは、液晶パネルの容量が大きくなり過ぎることから、充電時のCR時定数が大きくなり過ぎるためである。本件発明者の検討結果では10型以上の液晶パネルでは上記駆動法によるオフセット電圧の印加は事実上不可能であった。さらに、15型以上の液晶パネルでは、CC駆動以外の手法ではオフセット電圧の印加を実現できなかった。ここで、○型とは、液晶パネルの略矩形の表示画面の対角線の長さが○インチであることをいう。
【0078】
そこで、本実施の形態のようにCC駆動を利用してオフセット電圧を印加するようにしたものである。
【0079】
ところで、OCB型液晶表示装置では、スプレイ配向へ逆転移する電圧がプレチルト角に依存する。プレチルト角が15度の場合、この逆転移電圧は1vであった。本件発明者の検討によれば、一般的なOCB型液晶パネルでは、1v以上のオフセット電圧が必要であった。但し、1フィールド内に黒画面を挿入する場合には、もっと低いオフセット電圧もよかった。つまり、黒画面を挿入すると液晶に一時的に低い電圧が印加されてもベンド配向は保たれる。しかし、これはスプレイ配向に逆転移する臨界電圧が下がるだけであり、常にオフセット電圧を印加しておく必要があることに変わりはない。なお、この場合のオフセット電圧は1vよりも低くても構わない。
実施の形態3
本発明の実施の形態3は、液晶表示装置の起動時におけるスプレイ配向からベンド配向への転移にCC駆動を利用したものである。
【0080】
図18は本実施の形態に係る液晶表示装置の起動時における対向電圧の波形を示すグラフ、図19は同じく対向電圧、ゲート信号、及びソース信号の波形を示すグラフであって、(a)は休止期間における波形を示すグラフ、(b)は転移電圧印加期間における波形を示すグラフである。図18、図19において、図6と同一符号は同一又は相当する部分を示す。
【0081】
本実施の形態による液晶表示装置は、実施の形態1の構成において、起動時に対向電圧、ゲート信号、及びソース信号が以下に説明するような波形で出力される。また、対向電極を駆動するためのドライバを備えている。
【0082】
図18に示すように、液晶表示装置が起動されると、対向電極には、所定の転移期間T3に渡って0.5〜10Hzの低周波交流波形の対向電圧Vcomが印加される。この交流波形の対向電圧Vcomは、3vの値を取る休止期間T1と−25vの値を取る転移電圧印加期間T2とが交互に繰り返されような波形を有している。ここで、3vの値を取るのは、後述するように、液晶に電圧が印加されないようにするためである。
【0083】
図19をも併せて参照して、ゲート電極には、転移電圧印加期間中にもゲート信号Sgが出力される。このゲート信号Sgとして、休止期間T1中は図19(a)に示すようにVgon,Vgoffの2値を取る信号が出力され、転移電圧印加期間T2中は図19(b)に示すように転移後(図6参照)と同じ4値信号が出力される。このため、転移電圧印加期間T2においては、積み上げ電圧Vccが画素電極に印加され、通常の駆動法では+3−(−25)=28vの転移電圧しか液晶に印加することができないところが、実効的に30v以上の転移電圧を液晶に印加することができた。これは、積み上げ電圧Vccが2v以上発生したためである。また、ゲート信号SgがVge2の値を取る場合には、特に大きな積み上げ電圧Vccが発生し、その分、より大きな転移電圧を印加することができた。このことから、ゲート信号Sgとして、転移電圧印加期間T2中は、Vgon,Vgoff,Vge2の3値を取る信号を出力するのが望ましい。但し、この場合は、ゲート信号Sgの波形が転移後の波形とは異なるものとなるため、ゲートドライバに別ルーチンのワークを課すことになる。
【0084】
一方、休止期間T1においては上記2値信号が出力されるが、これは以下の理由によるものである。つまり、転移を良好に行うためには、休止期間T1には液晶に電圧を印加しないことが望ましい。ところが、転移電圧印加期間T1中と同様に4値信号を出力すると、CC駆動によって積み上げ電圧Vccが液晶に印加されてしまう。そこで、この積み上げ電圧Vccが発生しないよう、休止期間T1のゲート信号Sgを上記のような2値信号としたものである。
【0085】
また、ソース信号Ssは、少なくとも休止期間T1中は対向電圧Vcomと同じ電圧を有している。これは、休止期間T1中に液晶に電圧が印加されないようにするためである。本実施の形態では、ソース信号Ssは、転移期間T3中は休止期間T1も転位電圧印加期間T2も共に3vの一定値となっている。
【0086】
本実施の形態では、以上のように構成することにより、転移を高速化することができた。具体的には、従来3秒であった転移時間を2秒にまで短縮することができた。
【0087】
なお、先行技術として、特開平9−185037号公報に開示されたものがあるが、これはゲート電圧を常にHighレベルにして転移電圧を印加している。これに対し、本実施の形態では、ゲート電極の走査を表示状態(転移後)と同様に行うことで、積み上げ電圧Vccを転移時にも有効に利用し、転移を効率的に行うものである。
【0088】
次に、本実施の形態の変形例を説明する。図20は本変形例による対向電圧、ゲート信号、ソース信号、及び画素電極の電圧の波形を示すグラフである。
【0089】
本変形例では、休止期間T1ではソース信号Ss及び対向電圧Vcomが共に0vとなっており、液晶に電圧が印加されないようになっている。そして、転移電圧印加期間T2では、対向電圧Vcomが−20vと大きく負側に振られ、ソース信号Ssは逆に+7vと正側に振られている。また、ゲート信号Sgは、図20の点線内拡大図に示すような3値信号となっており、そのため、CC駆動による積み上げ電圧Vccが画素電極に印加されている。その結果、画素電極ではソース信号Ssの電圧7vに積み上げ電圧Vccが積み上げられ、その電位が+10vとなっている。これにより、画素電圧が30vもの高い電圧となり、これを液晶に印加することができた。また、転移電圧印加期間T2中のゲート信号Sgが3値信号であるので、片側極性のみの積み上げ電圧Vccが重畳され、積み上げ電圧Vccが3v程度と大きなものとなっている。なお、転移電圧印加期間T2は、ここでは1秒に設定されている。また、休止期間T1中にはゲート信号Sgが2値信号とされるのは上記構成例と同様である。また、休止期間T1中ではソース電極と対向電極とが同電位であれば、両者の電位が共に変化しても構わないが、それらを一定に保つのが最も安定であった。
【0090】
なお、上記実施の形態1〜3においては、電極部として基板内面に導電性材料からなる層状の電極を形成したが、本発明における電極部はこの電極には限定されない。例えば、この電極と液晶との間に、光を照射することによりその電気的性質が絶縁性と導電性との間で切り替る電気特性可変体を配置し、この電気特性可変体と上記電極とで電極部を構成するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係る液晶表示装置は、高速駆動を要する動画対応液晶ディスプレイ等の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0092】
1…液晶表示装置、2…ゲート電極、3…ソース電極、4…画素、5…スイッチング素子、6…画素電極、7…補助容量電極、8…対向電極、9…絶縁層、10…絶縁層、11…ゲートドライバ、12…ソースドライバ、13…表示用コントローラ、14…映像信号、15…光源、16…点灯回路、17…照明用コントローラ、18…バックライト、19…表示制御回路、30…積み上げ電圧印加回路、31…容量線、32,33…フィールドメモリ、34…差分演算回路、35…補償電圧生成回路、41…コンタクトホール、101…対向基板、102…TFT基板、103…液晶、104…位相差板、105…偏光板、106…液晶表示素子、Cgd…画素電極とゲート電極との間の浮遊容量、Clc…液晶容量、Cst…補助容量、Sg…ゲート信号、Ss…ソース信号、T1…転移電圧印加期間、T2…休止期間、T3…転移期間、Ta…書き込み期間、Tf…フィールド期間、Th…保持期間、Tp…積み上げ期間、Tr…残りの期間、Vcc…積み上げ電圧(積み上げ電圧)、Vcom…対向電圧、Vp…設定画素電圧、Vp′…画素電圧、Vs…ソース信号の振幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンド配向に転移可能な液晶層と、ベンド配向された該液晶層を透過する光によって画像を表示する複数の画素からなる表示画面と、画素電圧印加手段とを備え、該画素電圧の印加により上記光の透過率を変化させることによって上記画像情報に対応した画像を上記表示画面に表示する液晶表示装置であって、
上記画素の液晶層が、画素電極と上記走査方向における前段側のゲート電極との間に形成されてなる容量結合を通じて該画素の液晶層に印加される電圧を利用してベンド配向に転移することを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
ベンド配向に転移可能な液晶層と、ベンド配向された該液晶層を透過する光によって画像を表示する複数の画素からなる表示画面と、画素電圧印加手段とを備え、該画素電圧の印加により上記光の透過率を変化させることによって上記画像情報に対応した画像を上記表示画面に表示する液晶表示装置であって、
上記画素の液晶層が、画素電極と専用の容量線との間に形成されてなる容量結合を通じて該画素の液晶層に印加される電圧を利用してベンド配向に転移することを特徴とする液晶表示装置。
【請求項3】
上記転移動作に先立って上記画素の液晶層に電圧を印加しない休止期間を有する請求項1または請求項2記載の液晶表示装置。
【請求項4】
上記複数の画素をゲート電極を通じて順次走査するゲート駆動手段を有し、上記画素電圧印加手段が、上記走査される画素の液晶層に上記画像情報の画素の輝度情報に基づいた基電圧をソース電極を通じて印加するソース駆動手段、及び上記走査後に上記画素に上記容量結合を通じて上記基電圧とともに上記画素電圧を形成するように積み上げ電圧を印加する積み上げ電圧印加手段を有し、上記積み上げ電圧を上記画素の液晶層のベンド配向への転移に利用してなる請求項3記載の液晶表示装置。
【請求項5】
上記積み上げ電圧印加手段としての上記ゲート駆動手段が、上記転移時に全ての画素を順次走査しながら上記積み上げ電圧を各画素に印加するものである請求項1記載の液晶表示装置。
【請求項6】
上記ソース駆動手段が交流の転移用の電圧値を有する上記基電圧を出力するものであり、上記ゲート駆動手段が、上記休止期間中には、上記画素毎に設けられたスイッチング素子が上記走査時及びそれ以外の時にそれぞれ導通及び遮断となる2つの電圧レベルを有するゲート信号を出力し、上記転移期間中には、上記2つの電圧レベルに加えて、上記走査の直後に上記基電圧の極性に対応する極性の上記積み上げ電圧を印加可能な2つの電圧レベルを有するゲート信号を出力するものである請求項5記載の液晶表示装置。
【請求項7】
上記ソース駆動手段が直流の転移用の電圧値を有する上記基電圧を出力するものであり、上記ゲート駆動手段が、上記休止期間中には、上記画素毎に設けられたスイッチング素子が上記走査時及びそれ以外の時にそれぞれ導通及び遮断となる2つの電圧レベルを有するゲート信号を出力し、上記転移期間中には、上記2つの電圧レベルに加えて、上記走査の直後に上記基電圧の極性と同じ極性の上記積み上げ電圧を印加可能な1つの電圧レベルを有するゲート信号を出力するものである請求項5記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−154379(P2011−154379A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47618(P2011−47618)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【分割の表示】特願2004−15451(P2004−15451)の分割
【原出願日】平成13年7月2日(2001.7.2)
【出願人】(302020207)東芝モバイルディスプレイ株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】