説明

液晶装置

【課題】フリーラジカルに起因する液晶材料の劣化を防止し、耐光性寿命の向上を図った液晶装置を提供する。
【解決手段】対向配置された一対の基板2、3間に誘電率異方性が負の液晶層4を挟持し、一対の基板2、3の対向面にそれぞれ電極5、7を有し、電極5、7上にそれぞれ無機配向膜6、8を有した垂直配向モードの液晶装置1である。液晶層4中には、液晶層4中の液晶材料に対してラジカルトラップ材料が、0.01mol%以上1mol%以下の割合で含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶プロジェクターの高精細化や高輝度化に伴い、液晶プロジェクターに用いられる液晶パネル(液晶装置)に入射する光の強度が高くなってきている。そのため、液晶パネルを構成する液晶層中のフリーラジカルが液晶材料と反応して液晶分子の化学結合を切断し、液晶材料を劣化させることにより、液晶パネルの表示特性が低下する懸念が生じている。フリーラジカルは、液晶層を封止するシール材や封止材中の化学種が液晶中に不純物として溶け込み、これらが光反応を起こすことによって発生すると考えられる。
【0003】
このような背景のもとに、近年では、発生したラジカル化合物を捕捉して液晶層を安定化させるためにラジカルトラップ剤を液晶組成物に混合し、パネル表示品位の低下を抑制する技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−137986号公報
【特許文献2】特開2005−173439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、液晶パネル内部に反射電極を有する反射型液晶パネルにおいては、一方が反射電極であり他方が透明電極であるという電極構造の非対称性に起因して、基板間(電極間)の電圧が設定電位に対してずれてしまい、LCCOMずれが起きてしまう。そこで、このようなLCCOMずれを緩和するとともに、基板対向面の凹凸を緩和して平坦化するため、電極上に誘電体膜を形成する必要がある。この誘電体膜としては、p−TEOS雰囲気で形成されるSiOが一般的である。
【0006】
しかし、このように特にプラズマCVD法で形成された誘電体膜には活性なシラノール基が表面に残存しているため、このシラノール基が反応サイトとなって液晶層中の液晶材料がこれに含まれる添加物、不純物等と光化学反応を起こし、フリーラジカルを生成してしまう。すると、フリーラジカルが液晶材料と反応することにより、前述したように液晶パネルの表示特性が低下してしまう。したがって、誘電体膜を有するライトバルブ等の液晶パネルでは、誘電体膜が無い場合に比べて耐光性寿命が低下するという課題がある。
【0007】
なお、高い耐光性寿命が要求される液晶プロジェクター用のライトバルブでは、斜方蒸着法で形成された無機配向膜が液晶配向膜として用いられる。しかし、このような無機配向膜は、十分な配向規制力を発揮する必要上、配向膜密度を一定以上に高めることができず、さらにその厚さが非常に薄い膜となっている。よって、その下地層、例えば前記誘電体膜を十分に覆い、液晶層から完全に隔離するのが難しく、下地層と液晶材料との接触を完全になくすのは困難であった。したがって、前述したように誘電体膜表面のシラノール基に起因して液晶材料の劣化が引き起こされ、液晶パネルの表示特性が低下することにより、液晶パネル(液晶装置)の耐光性寿命が低下してしまう。
【0008】
また、斜方蒸着法による無機配向膜自体にもその表面にシラノール基が残存するため、このシラノール基によっても液晶材料の劣化が引き起こされ、液晶パネルの表示特性が低下することで液晶パネル(液晶装置)の耐光性寿命が低下してしまう
【0009】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、フリーラジカルに起因する液晶材料の劣化を防止し、耐光性寿命の向上を図った液晶装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液晶装置は、対向配置された一対の基板間に誘電率異方性が負の液晶層を挟持し、前記一対の基板の対向面にそれぞれ電極を有し、該電極上にそれぞれ無機配向膜を有した垂直配向モードの液晶装置であって、
前記液晶層中には、該液晶層中の液晶材料に対してラジカルトラップ材料が、0.01mol%以上1mol%以下の割合で含まれていることを特徴としている。
【0011】
この液晶装置によれば、液晶層中に、液晶材料に対してラジカルトラップ材料が、0.01mol%以上1mol%以下の割合で含まれているので、液晶層中に生成したフリーラジカルをラジカルトラップ材料で良好に捕捉し、非ラジカル化することでフリーラジカルに起因する液晶材料の劣化を防止することができる。したがって、耐光性寿命の向上を図ることができる。また、ラジカルトラップ材料の含有量を0.01mol%以上としたので、十分なラジカル捕捉機能が発揮されるようになる。なお、ラジカルトラップ材料は、液晶材料から見れば不純物となるため、その量が多いと液晶層の機能が低下するおそれがある。そこで、ラジカルトラップ材料の含有量を1mol%以下としたので、このような液晶層の機能低下が抑制される。
【0012】
また、前記液晶装置において、前記ラジカルトラップ材料は、フラーレン、カーボンナノチューブ、フェノール性水酸基を有するメトキシフェノール、カテコール(1,2−ベンゼンジオール)、ハイドロキノン(1,4−ベンゼンジオール)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)より選択された少なくとも一種からなるのが好ましい。
このような材料を用いることにより、液晶層中のフリーラジカルを良好に捕捉することができる。
【0013】
また、前記液晶装置においては、前記電極と前記無機配向膜との間に、誘電体膜が形成されていてもよい。
誘電体膜として例えばp−TEOS雰囲気で形成されるSiOが用いられている場合、前述したようにフリーラジカルに起因する耐光性寿命の低下が顕著になる。しかし、前述したように液晶層中にラジカルトラップ材料を前記割合で含有させているので、該ラジカルトラップ材料で液晶層中に生成したフリーラジカルを良好に捕捉し、非ラジカル化することができる。したがって、フリーラジカルに起因する液晶材料の劣化を防止し、耐光性寿命の向上を図ることができる。
【0014】
また、前記液晶装置においては、前記一対の基板のうちの一方の基板に、反射膜が設けられていてもよい。
一方の基板に反射膜を設けて反射型の液晶装置とすると、この反射型の液晶装置では、前述したようにLCCOMずれの緩和や凹凸の緩和のため電極上に誘電体膜を形成することにより、誘電体膜が無い場合に比べて耐光性寿命の低下が顕著になる。しかし、前述したように液晶層中にラジカルトラップ材料を前記割合で含有させているので、該ラジカルトラップ材料で液晶層中に生成したフリーラジカルを良好に捕捉し、非ラジカル化することができる。したがって、フリーラジカルに起因する液晶材料の劣化を防止し、耐光性寿命の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る液晶装置の一実施形態を示す側断面図である。
【図2】本発明に係る液晶装置を用いたプロジェクターの一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明に係る液晶装置の他の実施形態を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせている。
図1は、本発明に係る液晶装置の一実施形態を示す側断面図であり、図1中符号1は透過型の液晶パネル(液晶装置)である。この液晶パネル1は、素子基板2と、素子基板2に対向して配置された対向基板3と、素子基板2と対向基板3との間に配置された液晶層4とを備えて構成されたものである。
【0017】
素子基板2は、透明基板(ガラス基板)を基体としたアクティブマトリクス型のものである。この素子基板2の内面側(液晶層4側)には、薄膜トランジスター(TFT)等のスイッチング素子や、データ線、走査線等の各種配線等を有してなる素子形成層(図示せず)が設けられている。TFTは、データ線を介して画像信号の供給源と電気的に接続されており、走査線を介して制御信号の供給源と電気的に接続されている。
【0018】
また、前記の素子形成層上には、ITO(インジウム錫オキサイド)からなる島状の画素電極5が多数形成されており、これら画素電極5は、前記TFTと電気的に接続されている。
画素電極5上には、これらを覆って第1配向膜6が設けられている。この第1配向膜6は、珪素酸化物が斜方蒸着法で成膜されて形成された、SiOからなる無機配向膜である。
なお、素子基板2の外面側には、図示しないものの、位相差フィルムや偏光板が設けられている。
【0019】
対向基板3は、透明基板(ガラス基板)を基体としたもので、その内面側(液晶層4側)に保護膜等を形成したものである。また、さらにその内面側には、ITOからなる共通電極7が形成されており、共通電極7上には第2配向膜7が設けられている。この第2配向膜6も、前記第1配向膜6と同様に、珪素酸化物が斜方蒸着法で成膜されて形成された、SiOからなる無機配向膜である。
なお、対向基板3の外面側にも、位相差フィルム(図示せず)や偏光板(図示せず)が設けられている。
【0020】
液晶層4は、誘電率異方性が負の液晶材料を主成分とする液晶組成物によって形成されている。したがって液晶装置1は、VA(Vertical Alignment)モードとなり、一対の基板2、3間に液晶分子を略垂直に配向させるようになっている。このような液晶層4は、前記一対の基板2、3間に前記液晶組成物が配置されとともに、シール材(図示せず)及び封止材(図示せず)で封止されて形成されたものである。すなわち、基板2、3間に略環状に配置されたシール材内にその注入口から液晶組成物が注入・充填され、その後注入口が封止材で封止されたことにより、形成されたものである。
【0021】
このような構成からなる液晶パネル1は、例えば図2に示すプロジェクター100のライトバルブとして用いられる。このプロジェクター100は、光源101と、ダイクロイックミラー102、103と、本実施形態の液晶パネル1からなる赤色光用光変調手段104、緑色光用光変調手段105及び青色光用光変調手段106と、導光手段107と、反射ミラー110〜112と、クロスダイクロイックプリズム113と、投射レンズ114と、を備えて構成されている。また、プロジェクター100から出射したカラー画像光は、スクリーン115上に投影されるようになっている。
【0022】
光源101は、メタルハライドなどのランプ101aと、ランプ101aの光を反射するリフレクタ101bとを備えている。
ダイクロイックミラー102は、光源101からの白色光に含まれる赤色光を透過させると共に、緑色光と青色光とを反射する構成となっている。また、ダイクロイックミラー103は、ダイクロイックミラー102で反射された緑色光及び青色光のうち青色光を透過させると共に緑色光を反射する構成となっている。
【0023】
赤色光用光変調手段104は、ダイクロイックミラー102を透過した赤色光が入射され、入射した赤色光を所定の画像信号に基づいて変調する構成となっている。また、緑色光用光変調手段105は、ダイクロイックミラー103で反射された緑色光が入射され、入射した緑色光を所定の画像信号に基づいて変調する構成となっている。そして、青色光用光変調手段106は、ダイクロイックミラー103を透過した青色光が入射され、入射した青色光を所定の画像信号に基づいて変調する構成となっている。
【0024】
導光手段107は、入射レンズ107aとリレーレンズ107bと出射レンズ107cとによって構成されており、青色光の光路が長いことによる光損失を防止するために設けられている。
反射ミラー110は、ダイクロイックミラー102を透過した赤色光を赤色光用光変調手段104に向けて反射する構成となっている。また、反射ミラー111は、ダイクロイックミラー103及び入射レンズ107aを透過した青色光をリレーレンズ107bに向けて反射する構成となっている。また、反射ミラー112は、リレーレンズ107bを出射した青色光を出射レンズ107cに向けて反射する構成となっている。
【0025】
クロスダイクロイックプリズム113は、4つの直角プリズムが貼り合わされて形成されたもので、その界面には赤色光を反射する誘電体多層膜と青色光を反射する誘電体多層膜とがX字状に形成されている。これら誘電体多層膜により3つの色の光が合成されて、カラー画像を表す光が形成される。
投射レンズ114は、クロスダイクロイックプリズム113によって合成されたカラー画像を拡大してスクリーン115上に投影する構成となっている。
【0026】
ところで、図1に示した液晶パネル1にあっては、シール材や封止材で液晶層4を封止しているため、液晶層4を構成する液晶組成物にシール材や封止材が直接接している。しかし、シール材や封止材には硬化剤等の種々の添加剤が配合されているため、これら添加剤(化学種)の一部が遊離して液晶層4中に不純物として溶け込み、フリーラジカル化する。すると、この液晶パネル1が図2に示したプロジェクター100のライトバルブ(光変調手段104〜106)として用いられた場合、液晶パネル1に高い強度の光が入射するため、フリーラジカルの反応性が高められ、前述したようにフリーラジカルが液晶材料と反応して液晶分子を切断し、液晶材料を劣化させてしまう。
【0027】
また、第1配向膜6、第2配向膜8を斜方蒸着法によるSiO膜で形成しているので、これら第1配向膜6、第2配向膜8の表面にはシラノール基が残存している。したがって、前述したようにこのシラノール基が反応サイトとなることでフリーラジカルが生成し、液晶材料が劣化してしまう。
【0028】
そこで、本実施形態では、液晶層4を形成する液晶組成物として、主成分となる液晶材料に添加剤としてラジカルトラップ材料を加えた混合物を用いている。ラジカルトラップ材料の添加量としては、液晶材料に対して0.01mol%以上1mol%以下の割合とする。すなわち、液晶材料1molに対してラジカルトラップ材料を、0.0001mol以上0.01mol以下の割合で配合する。ラジカルトラップ材料の添加量(含有量)を0.01mol%以上とすることにより、十分なラジカル捕捉機能を発揮させることができる。また、添加量(含有量)を1mol%以下とすることにより、液晶材料に対して不純物となるラジカルトラップ材料の添加に起因して、液晶層4がその機能を低下させるのを抑制することができる。
【0029】
また、ラジカルトラップ材料としては、特に限定されることなく種々のものが使用可能である。具体的には、フラーレン、カーボンナノチューブ、フェノール性水酸基を有するメトキシフェノール、カテコール(1,2−ベンゼンジオール)、ハイドロキノン(1,4−ベンゼンジオール)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)より選択された少なくとも一種が好適に用いられる。また、フェノール系や芳香族アミン系の酸化防止剤を使用することもできる。フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤であるIrganox1076やIrganox1010、さらにはIrganox1141等が使用可能である。
【0030】
前記材料において例えばフラーレンは、液晶材料に良好に分散し、ラジカルの捕捉作用も強いため、液晶材料の安定化効果を十分に発揮するものとなる。また、フラーレンは自身が安定な状態のままで捕捉作用をなすため、該フラーレンが液晶材料の配向性等に影響することもほとんどない。なお、フラーレンの中でも液晶材料に対する分散性が特に高いC60を用いるのが好ましい。
本実施形態では、ラジカルトラップ材料としてジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を用い、これを液晶材料に対して0.05mol%配合している。
【0031】
このような構成の液晶パネル1にあっては、液晶層4中にラジカルトラップ材料を含有させているので、液晶層4中に生成したシール材や封止材由来のフリーラジカル、さらには配向膜6、8由来のフリーラジカルをラジカルトラップ材料で良好に捕捉し、非ラジカル化することでフリーラジカルに起因する液晶材料の劣化を防止することができる。したがって、耐光性寿命の向上を図ることができる。
また、ラジカルトラップ材料の含有量を0.01mol%以上としたので、十分なラジカル捕捉機能を発揮させることができる。さらに、ラジカルトラップ材料の含有量を1mol%以下としたので、液晶材料に対して不純物となるラジカルトラップ材料の添加に起因して、液晶層がその機能を低下させるのを抑制することができる。
【0032】
図3は、本発明に係る液晶装置の他の実施形態を示す側断面図であり、図3中符号10は反射型の液晶パネル(液晶装置)である。この液晶パネル10は、素子基板11と、素子基板11に対向して配置された対向基板12と、素子基板11と対向基板12との間に配置された液晶層13とを備えて構成されたものである。
【0033】
素子基板11は、先の実施形態における前記素子基板2と同様の構成からなる、アクティブマトリクス型のものである。この素子基板11上には、反射膜を兼ねてアルミニウム(Al)で形成された島状の画素電極(反射電極)14が多数形成されている。なお、この画素電極14については、例えばAlに代えて銀(Ag)等の他の反射性の金属又は合金で形成してもよい。また、ITO上にAlやAg等の反射膜を積層した積層構造で、画素電極14を構成してもよい。
【0034】
これら画素電極14上には、該画素電極14を覆って第1誘電体膜15が形成されている。この第1誘電体膜15は、前述したようにLCCOMずれを緩和するとともに、素子基板11の対向面(内面)の凹凸を緩和して平坦化するためのもので、プラズマ中にテトラエトキシシラン(TEOS)が供給されてp−TEOS雰囲気とされ、この雰囲気中にてCVD法で成膜されて形成された、SiOからなる膜である。このようにして形成された第1誘電体膜15には、前述したようにその表面に活性なシラノール基が多く残存している。
【0035】
第1誘電体膜15上には、これを覆って第1配向膜16が設けられている。この第1配向膜16は、先の実施形態における第1配向膜6と同様のもので、斜方蒸着法で形成されたSiOからなる無機配向膜である。ここで、このように斜方蒸着法で形成されたSiOからなる第1配向膜16は、前述したようにその配向膜密度を一定以上に高めることができず、またその厚さが非常に薄い膜となっている。
【0036】
したがって、これの下地層となる前記第1誘電体膜15を十分に覆うことができず、該第1誘電体膜15はその一部が第1配向膜16の表面上に露出している。よって、液晶層13の液晶組成物は、第1配向膜16を通って第1誘電体膜15に接した状態となっている。
なお、素子基板2の外面側には、位相差フィルム(図示せず)や偏光板(図示せず)が設けられている。
【0037】
対向基板12は、先の実施形態における前記対向基板3と同様の構成からなるもので、その対向面(内面)に、ITOからなる共通電極17が形成されている。
また、共通電極17上には、第2誘電体膜18が形成されている。この第2誘電体膜18は、主に、前記第1誘電体膜15とともにLCCOMずれを緩和するためのもので、
第1誘電体膜15と同様にp−TEOS雰囲気で形成されたSiOからなる膜である。したがって、この第2誘電体膜15にも、その表面に活性なシラノール基が多く残存している。
【0038】
第2誘電体膜18上には、これを覆って第2配向膜19が設けられている。この第2配向膜19は、先の実施形態における第1配向膜6と同様のもので、斜方蒸着法で形成されたSiOからなる無機配向膜である。
この第2配向膜19も、第1配向膜16と同様に非常に薄い膜となっており、したがってこれの下地層となる前記第2誘電体膜18は、その一部が第2配向膜19の表面上に露出している。よって、液晶層13の液晶組成物は、第2配向膜19を通って第2誘電体膜19にも接した状態となっている。
なお、対向基板12の外面側にも、位相差フィルム(図示せず)や偏光板(図示せず)が設けられている。
【0039】
液晶層13は、先の実施形態における液晶層4と同様に、誘電率異方性が負の液晶材料を主成分とする液晶組成物で形成されたもので、基板11、12間に配置され、シール材(図示せず)及び封止材(図示せず)で封止されたものである。また、この液晶層13も、先の実施形態における液晶層4と同様に、液晶層13を形成する液晶組成物として、主成分となる液晶材料に添加剤としてラジカルトラップ材料を加えた混合物を用いている。
【0040】
ラジカルトラップ材料の添加量としては、先の実施形態と同様に、液晶材料に対して0.01mol%以上1mol%以下の割合とする。0.01mol%以上とすることにより、十分なラジカル捕捉機能を発揮させることができ、1mol%以下とすることにより、液晶材料に対して不純物となるラジカルトラップ材料の添加に起因して、液晶層14がその機能を低下させるのを抑制することができる。
【0041】
本実施形態では、ラジカルトラップ材料としてジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を用い、これを液晶材料に対して0.1mol%配合した。そして、この液晶パネル10を後述するプロジェクターのライトバルブとして用い、耐久性の試験を行った。その結果、十分な耐光性寿命の向上が確認された。したがって、ラジカルトラップ材料の添加量としては、0.1mol%は十分に有効な量であることが確認された。よって、これの1/10倍である0.01mol%から、10倍である1mol%までの範囲でも、十分な耐光性寿命の向上が可能となる。
【0042】
このような構成からなる液晶パネル10も、図2に示したようなプロジェクターのライトバルブとして用いられる。ただし、本実施形態の液晶パネル10は反射型であり、先の実施形態の液晶パネル1が透過型であったのと異なる。したがって、プロジェクターの構成についても、図2に示した構成とは一部異なっている。具体的には、ダイクロイックミラーや反射ミラー等の光学系の構成を変え、光源からの光を液晶パネル10で透過させることなく反射させ、クロスダイクロイックプリズムに入射させるようになっている。
【0043】
このような構成の液晶パネル10にあっても、液晶層13中にラジカルトラップ材料を含有させているので、液晶層13中に生成したシール材や封止材由来のフリーラジカル、さらには配向膜16、19由来のフリーラジカルをラジカルトラップ材料で良好に捕捉し、非ラジカル化することでフリーラジカルに起因する液晶材料の劣化を防止することができる。したがって、耐光性寿命の向上を図ることができる。
また、ラジカルトラップ材料の含有量を0.01mol%以上としたので、十分なラジカル捕捉機能を発揮させることができる。さらに、ラジカルトラップ材料の含有量を1mol%以下としたので、液晶材料に対して不純物となるラジカルトラップ材料の添加に起因して、液晶層がその機能を低下させるのを抑制することができる。
【0044】
また、液晶パネル10は反射型の液晶装置であり、したがってLCCOMずれの緩和や凹凸の緩和のため電極上に誘電体膜15、19を形成しているものの、液晶層13中にラジカルトラップ材料を含有させているので、これら誘電体膜15、19由来のフリーラジカルに起因する液晶材料の劣化も防止することができる。
【0045】
すなわち、第1誘電体膜15、第2誘電体膜19にはその表面に活性なシラノール基が残存しているため、前述したようにこのシラノール基が反応サイトとなって液晶層13中にフリーラジカルを生成する。すなわち、シール材や封止材、さらには配向膜16、19由来のフリーラジカルとは別に、誘電体膜15、19由来のフリーラジカルを生成する。しかし、前述したように液晶層13中にラジカルトラップ材料を前記割合で含有させているので、該ラジカルトラップ材料で液晶層13中に生成したフリーラジカルを良好に捕捉し、非ラジカル化することができる。したがって、このようなフリーラジカルに起因する液晶材料の劣化を防止し、耐光性寿命の向上を図ることができる。
【0046】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態では本発明の液晶パネル(液晶装置)を、主にプロジェクターのライトバルブに適用されるものとしたが、本発明はこれに限定されることなく、一般的な液晶表示パネル(液晶表示装置)にも適用することができる。その場合には、例えば対向基板に着色パターン(カラーフィルタ)やブラックマトリクスを形成し、カラー表示を可能に構成するのが好ましい。
【符号の説明】
【0047】
1…液晶パネル(液晶装置)、2…素子基板(基板)、3…対向基板(基板)、4…液晶層、5…画素電極(電極)、6…第1配向膜(無機配向膜)、7…共通電極(電極)、8…第2配向膜(無機配向膜)、10…液晶パネル(液晶装置)、11…素子基板(基板)、12…対向基板(基板)、13…液晶層、14…画素電極(電極)、15…第1誘電体膜、16…第1配向膜(無機配向膜)、17…共通電極(電極)、18…第2誘電体膜、19…第2配向膜(無機配向膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された一対の基板間に誘電率異方性が負の液晶層を挟持し、前記一対の基板の対向面にそれぞれ電極を有し、該電極上にそれぞれ無機配向膜を有した垂直配向モードの液晶装置であって、
前記液晶層中には、該液晶層中の液晶材料に対してラジカルトラップ材料が、0.01mol%以上1mol%以下の割合で含まれていることを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
前記ラジカルトラップ材料は、フラーレン、カーボンナノチューブ、フェノール性水酸基を有するメトキシフェノール、カテコール(1,2−ベンゼンジオール)、ハイドロキノン(1,4−ベンゼンジオール)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)より選択された少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1記載の液晶装置。
【請求項3】
前記電極と前記無機配向膜との間に、誘電体膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶装置。
【請求項4】
前記一対の基板のうちの一方の基板に、反射膜が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液晶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−113021(P2012−113021A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259836(P2010−259836)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】