説明

液晶配向膜形成用組成物及び液晶表示装置の製造方法

【課題】液滴吐出ヘッドのノズル内やその近傍において固形分が析出してしまうのを防止し、これによって膜厚ムラのない均質で平坦な液晶配向膜を形成することができる、液晶配向膜形成用組成物、及びこの組成物を用いた液晶表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】液滴吐出ヘッドから吐出され、液晶配向膜を形成する液晶配向膜形成用組成物である。表面張力が37mN/m以上の第1有機溶剤Aと、表面張力が32mN/m未満の第2有機溶剤Bとを含む混合溶剤と、液晶配向膜形成用材料とを含有してなる。第1有機溶剤Aは、第1有機溶剤Aを構成する有機溶剤として、沸点が240℃以上であり、かつ、表面張力が40mN/m以上である高沸点有機溶剤A1を含む。液晶配向膜形成用材料の濃度が1重量%以上10重量%以下であり、液滴吐出ヘッドのノズルプレートに対する静的接触角が75°以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出法で液晶配向膜を形成する際に用いられる液晶配向膜形成用組成物と、これを用いた液晶表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置における液晶配向膜の形成方法としては、フレキソ印刷法やスピンコート法による方法が一般的であった。しかし、フレキソ印刷法では版のメンテナンスが煩雑であり、また、版にインクを行き渡らせるために必要以上のインクを使用することから、インクの無駄が多いといった欠点があった。一方、スピンコート法にあっても、大量のインクを必要とするものの、実際に膜形成に供される材料は投入材料の10%程度であり、残りの90%程度は廃棄されてしまうことから、やはりインクの無駄が多いといった欠点があった。
【0003】
このような背景のもとに、近年では、液晶配向膜の形成方法として、インクジェット法に代表される液滴吐出法を用いることが提案されている。液滴吐出法は、液滴吐出ヘッドによって必要な箇所に必要な量のインクを配することができることから、材料(インク)の無駄が少なく、したがって材料コストの点などで有利であり、近年特に注目されている。
この液滴吐出法を用いて液晶配向膜を形成するには、ポリイミドやポリアミック酸等の液晶配向膜形成用材料(固形分)を適当な溶媒に溶解した液状材料(液晶配向膜形成用組成物)を用い、これを液滴吐出ヘッドの吐出ノズルから基板(液晶配向膜形成面)上に吐出し、さらに、乾燥して塗膜とした後、この塗膜に液晶配向能を付与して液晶配向膜とする。
【0004】
ここで、液滴吐出法(インクジェット法)で液晶配向膜を形成するための液晶配向膜形成用組成物としては、特にその溶媒組成については、フレキソ印刷で主に用いられている、γ−ブチロラクトン(GBL)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ブチルセロソルブ(BC[エチレングリコールモノブチルエーテル])を混合して用いるのが普通である(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−295195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した溶媒は、その沸点がγ−ブチロラクトン(GBL)では203℃、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)では202℃、ブチルセロソルブ(BC)では170℃と比較的低いことから、液滴吐出ヘッドの吐出ノズル内やその近傍で溶媒が蒸発し易くなっている。そのため、この吐出ノズル内やその近傍において、液状材料(インク)中の溶媒が蒸発することにより、これに溶解していたポリイミド等の固形分が析出してしまうことがある。すると、析出し付着している固形分(固形物)によって吐出する液滴に飛行曲がりが生じたり、ノズル詰まりを生じて吐出不能な状態になるなど、吐出不良が発生してしまい、得られる液晶配向膜に膜厚ムラ(スジムラ)等が生じてしまうことがある。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、液滴吐出ヘッドのノズル内やその近傍において固形分が析出してしまうのを防止し、これによって膜厚ムラのない均質で平坦な液晶配向膜を形成することができる、液晶配向膜形成用組成物、及びこの組成物を用いた液晶表示装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液晶配向膜形成用組成物は、液滴吐出ヘッドから吐出され、液晶配向膜を形成する液晶配向膜形成用組成物であって、表面張力が37mN/m以上の第1有機溶剤Aと、表面張力が32mN/m未満の第2有機溶剤Bとを含む混合溶剤と、該混合溶剤に溶解されてなる液晶配向膜形成用材料と、を含有してなり、前記第1有機溶剤Aおよび前記第2有機溶剤Bは、それぞれ単一種あるいは複数種の有機溶剤によって構成され、前記第1有機溶剤Aは、該第1有機溶剤Aを構成する有機溶剤として、沸点が240℃以上であり、かつ、表面張力が40mN/m以上である高沸点有機溶剤A1を含み、前記液晶配向膜形成用材料の濃度が1重量%以上10重量%以下であり、前記液滴吐出ヘッドのノズルプレートに対する静的接触角が75°以上であることを特徴としている。
【0008】
この液晶配向膜形成用組成物によれば、第1有機溶剤Aを構成する有機溶剤として、沸点が240℃以上である高沸点有機溶剤A1を含んでいるので、この組成物における溶剤の沸点が高くなり、したがって液滴吐出ヘッドの吐出ノズル内やその近傍において、組成物(液状材料)中の溶媒が蒸発しにくくなる。よって、これに溶解していた液晶配向膜形成用材料(固形分)が析出してしまうことが防止され、液晶配向膜形成用材料の析出に起因する吐出不良が防止されることで、膜厚ムラのない均質で平坦な液晶配向膜の形成が可能になる。
【0009】
また、前記高沸点有機溶剤A1の表面張力が40mN/m以上であるので、この高沸点有機溶剤A1を含む液晶配向膜形成用組成物の表面張力も大きくなる。したがって、この液晶配向膜形成用組成物では、液晶配向膜形成用材料の濃度が1重量%以上10重量%以下の範囲において、液滴吐出ヘッドのノズルプレートに対する静的接触角を75°以上にすることが可能になる。そして、このように静的接触角を75°以上にすることにより、ノズルプレートに液晶配向膜形成用組成物が付着し残留しにくくなり、したがって、付着し残留した液晶配向膜形成用組成物中の固形分が析出し、これに起因して吐出不良が発生するのが防止される。よって、膜厚ムラのない均質で平坦な液晶配向膜の形成が可能になる。
【0010】
また、液晶配向膜形成用材料の濃度を1重量%以上10重量%以下としたのは、1重量%未満であると、得られる配向膜の膜厚が薄くなりすぎ、良好な液晶配向膜とならなくなるおそれがあるからであり、10重量%を超えると、得られる配向膜の膜厚が厚くなりすぎ、やはり良好な液晶配向膜とならなくなるおそれがあるとともに、液晶配向膜形成用組成物の粘性が増大し、液滴吐出ヘッドによる吐出性が低下するからである。
【0011】
また、前記液晶配向膜形成用組成物においては、前記第2有機溶剤Bの、前記混合溶剤全体に占める混合割合が、3重量%以上50重量%以下であるのが好ましい。
濡れ性が大きい第2有機溶剤Bを3重量%以上配合することで、液晶配向膜形成用組成物の基板(液晶配向膜形成面)に対する良好な濡れ性が確保される。また、50重量%以下とすることで、貧溶媒である第2有機溶剤Bが混合溶剤中の過半を占めることがなく、これにより液晶配向膜形成材料に対する混合溶剤の良好な溶解性が確保される。
【0012】
また、前記液晶配向膜形成用組成物においては、前記高沸点有機溶剤A1は、炭酸エチレン、炭酸プロピレンのうちの少なくとも一種を含んでいるが好ましい。
前記の各溶剤は、沸点が240℃以上であり、かつ、表面張力が40mN/m以上であるため、該溶剤を含む組成物はその溶媒(溶剤)が液滴吐出ヘッドの吐出ノズル内やその近傍において蒸発しにくくなり、また、ノズルプレートに付着し残留しにくくなる。
【0013】
また、前記液晶配向膜形成用組成物においては、前記第1有機溶剤Aは、前記高沸点有機溶剤A1以外の低沸点有機溶剤A2として、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトンのうちの少なくとも一種を含んでいるのが好ましい。
前記の各溶剤は、液晶配向膜形成材料に対してより良好な溶解性を有する良溶媒であり、したがってこれらのうちの少なくとも一種を用いることにより、液晶配向膜形成材料に対する混合溶剤のより良好な溶解性が確保される。また、これら各溶剤も、表面張力が40mN/m以上であるので、これらを含む液晶配向膜形成用組成物は、ノズルプレートに対する静的接触角が大きくなり、ノズルプレートに付着し残留しにくくなる。
【0014】
また、前記液晶配向膜形成用組成物においては、前記液晶配向膜形成用材料が、以下の式(I)
【化1】

(式中、Pは4価の有機基であり、Qは2価の有機基を表す。)で示される繰り返し単位、および以下の式(II)
【化2】

(式中、Pは4価の有機基であり、Qは2価の有機基を表す。)で示される繰り返し単位から選ばれる、少なくとも一種を有する重合体であるのが好ましい。
【0015】
本発明の液晶表示装置の製造方法は、前記の液晶配向膜形成用組成物を、液滴吐出ヘッドから基板表面に吐出し、液晶配向膜を形成する工程を有することを特徴としている。
この製造方法によれば、膜厚ムラのない均質で平坦な液晶配向膜を形成できるので、高品質の液晶表示装置を低コストで効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳しく説明する。
まず、本発明の液晶配向膜形成用組成物について説明する。
本発明の液晶配向膜形成用組成物(以下、「本発明組成物」ということがある。)は、液滴吐出ヘッドを有する液滴吐出装置を用いた液滴吐出法によって液晶配向膜を形成する際に用いられる液状材料(インク)であって、表面張力が37mN/m以上の第1有機溶剤Aと、表面張力が32mN/m未満の第2有機溶剤Bとを含む混合溶剤と、該混合溶剤に溶解されてなる液晶配向膜形成用材料と、を含有してなるものである。
【0017】
前記第1有機溶剤Aおよび前記第2有機溶剤Bは、それぞれ単一種あるいは複数種の有機溶剤によって構成されたものである。そして、前記第1有機溶剤Aを構成する有機溶剤は、沸点が240℃以上であり、かつ、表面張力が40mN/m以上である高沸点有機溶剤A1を含んでいる。
【0018】
まず、前記混合溶剤の具体例について説明する。
(混合溶剤)
本発明組成物においては、液晶配向膜形成用材料を溶解する溶媒として、表面張力が37mN/m以上の第1有機溶剤Aと、表面張力が32mN/m未満の第2有機溶剤Bとが用いられ、これらが混合されたことにより、混合溶剤が形成される。
【0019】
第1有機溶剤Aとしては、非プロトン性極性溶剤又はフェノール系溶剤であり、表面張力が37mN/m以上の溶剤の少なくとも一種が選択され、用いられる。非プロトン性極性溶剤としては、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、エーテル系溶媒、ニトリル系溶媒等が挙げられる。中でも、膜厚ムラ(スジムラ)がなく、平滑性に優れる高品質な液晶配向膜を効率よく形成できる観点から、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒の使用が好ましい。
【0020】
アミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素等が挙げられる。
スルホキシド系溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等が挙げられる。
【0021】
また、フェノール系溶媒としては、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール;o−キシレノール、m−キシレノール、p−キシレノール等のキシレノール;フェノール;o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、o−ブロモフェノール、m−ブロモフェノール等のハロゲン化フェノール;等が挙げられる。
【0022】
ただし、本発明においては、このような有機溶剤のうち、特に沸点が240℃以上であり、かつ、表面張力が40mN/m以上である高沸点有機溶剤A1を必須としている。このような高沸点有機溶剤A1として具体的には、炭酸エチレン(エチレンカーボネート)、炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート)のうちの少なくとも一種が用いられる。これら各溶剤の、沸点と20℃での表面張力は以下の通りである。
・炭酸エチレン(エチレンカーボネート)
沸点;248℃ 表面張力;44.0[mN/m]
・炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート;PC)
沸点;242℃ 表面張力;40.9[mN/m]
【0023】
このような高沸点有機溶剤A1を用いることにより、後述するように本発明組成物は、その溶媒(溶剤)が液滴吐出ヘッドの吐出ノズル内やその近傍において蒸発しにくくなり、また、ノズルプレートに付着しにくく、したがってここに残留しにくくなる。
また、このような高沸点有機溶剤A1の、前記混合溶剤全体に占める混合割合については、特に限定されないものの、後述する実験結果より、5重量%以上となるように配合するのが好ましい。5重量%未満になると、組成物全体の蒸気圧が高くなることなどにより、液滴吐出ヘッドから吐出した際の吐出安定性が低下する傾向にあるからである。
【0024】
また、本発明では、このような高沸点有機溶剤A1とは別に、第1有機溶剤Aとして、特に沸点が240℃未満である低沸点有機溶剤A2を含んでいてもよい。具体的には、低沸点有機溶剤A2として、N−メチル−2−ピロリドン(沸点;202℃、表面張力;41[mN/m])、γ−ブチロラクトン(沸点;203℃、表面張力;43.9[mN/m])のうちの少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0025】
これらの溶剤は、液晶配向膜形成材料に対してより良好な溶解性を有する良溶媒であり、したがってこれらのうちの少なくとも一種を用いることにより、液晶配向膜形成材料に対する混合溶剤のより良好な溶解性を確保することができる。
ここで、前記したように表面張力が37mN/m以上であって表面張力が比較的大きい第1有機溶剤Aは、液晶配向膜の形成面となる基板表面に対して濡れ性が小さいものとなる。したがって、この第1有機溶剤Aだけしか配合しないと、これのみを配合した組成物は基板表面に対して濡れ性が悪く、十分な成膜ができなくなってしまう。
【0026】
そこで、本発明の組成物においては、前記混合溶剤として、表面張力が32mN/m未満と比較的小さく、したがって濡れ性の良い第2有機溶剤Bを含有したものが用いられている。第2有機溶剤Bとしては、前記したように表面張力が32mN/m未満の溶剤の少なくとも一種が選択され、用いられる。
具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン(ジアセトンアルコール)、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−アセトキシプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリエチレングリコール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネート、エチルエトキシプロピオネート、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル等のエステル系溶媒;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;等が挙げられる。これらの溶媒は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
これらの溶剤は、後述する液晶配向膜形成材料に対しては良好な溶解性を示さず、したがって貧溶媒となるものの、前記したように基板表面に対しての濡れ性が大きいことから、液晶配向膜形成用組成物の濡れ拡がり不足に起因するスジムラや、エッジ部分における隆起(しみ上がり)などの膜厚ムラを防止することに寄与するものとなる。
【0028】
このような第2有機溶剤Bの、前記混合溶剤全体に占める混合割合としては、3重量%以上50重量%以下であるのが好ましい。濡れ性が大きい第2有機溶剤Bを3重量%以上配合することで、液晶配向膜形成用組成物の基板(液晶配向膜形成面)に対する良好な濡れ性を確保することができ、これによりスジムラがなく、均質で平坦な液晶配向膜を形成することが可能となる。また、50重量%以下とすることで、貧溶媒である第2有機溶剤Bが混合溶剤中の過半を占めることがなく、これにより液晶配向膜形成材料に対する混合溶剤の良好な溶解性を確保し、良好な成膜性を得ることができる。
【0029】
なお、このような第1有機溶剤Aと第2有機溶剤Bとを含む混合溶剤は、該混合溶剤に液晶配向膜形成用材を溶解することで得られる本発明組成物(液晶配向膜形成用組成物)の使用形態によって、第1有機溶剤Aと第2有機溶剤Bとの好ましい混合割合が異なる。すなわち、この組成物が用いられる液晶表示装置の表示方式がVA方式である場合には、混合溶剤全体に占める第1有機溶剤A(良溶媒)の混合割合が、50重量%以上70重量%以下とされ、第2有機溶剤B(貧溶媒)の混合割合が、30重量%以上50重量%以下とされる。また、液晶表示装置の表示方式がIPS方式である場合には、混合溶剤全体に占める第1有機溶剤A(良溶媒)の混合割合が、60重量%以上95重量%以下とされ、第2有機溶剤B(貧溶媒)の混合割合が、5重量%以上40重量%以下とされる。
【0030】
次に、前記混合溶剤に溶解される、固形分となる液晶配向膜形成用材料について説明する。
(液晶配向膜形成用材料)
本発明組成物に用いられる液晶配向膜形成用材料としては、特に制限されず、従来公知の液晶配向膜形成用材料が使用できる。例えば、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
これらの中でも、優れた液晶配向能を有する配向膜を形成できる等の理由から、前記式(I)で示される繰り返し単位、及び前記式(II)で示される繰り返し単位から選ばれる少なくとも一種を有する重合体であるのが好ましい。
【0032】
このような重合体としては、(i)前記式(I)で示される繰り返し単位を有するポリアミック酸、(ii)前記式(II)で示される繰り返し単位を有するイミド化重合体、(iii)前記式(I)で示される繰り返し単位を有するアミック酸プレポリマーと、前記式(II)で示される繰り返し単位を有するイミドプレポリマーとを有してなるブロック共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。二種以上を組み合わせて用いる場合には、ポリアミック酸とイミド化重合体とを混合して用いるのが好ましい。
【0033】
(i)ポリアミック酸
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得ることができる。
ポリアミック酸の合成に用いるテトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジクロロ−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、シス−3,7−ジブチルシクロオクタ−1,5−ジエン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6−トリカルボニル−2−カルボキシノルボルナン−2:3,5:6−ジ無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−メチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−エチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−7−メチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−7−エチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−エチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5,8−ジメチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−オキサビシクロ[3,2,1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3'−(テトラヒドロフラン−2',5'−ジオン)、下記式(1)及び(2)で示される化合物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物;
【0034】
【化3】

(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又はアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立して芳香環を有する2価の有機基を表す。)
【0035】
ブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物;
ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3',4,4'−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4'−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4'−ジフェニルメタン二無水物、エチレングリコール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、プロピレングリコール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,4−ブタンジオール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,6−ヘキサンジオール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,8−オクタンジオール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン−ビス(アンヒドロトリメリテート)、下記式(3)〜(6)で表されるステロイド骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらは1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
【化4】

【0037】
ポリアミック酸の合成に用いるジアミンとしては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルエタン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、2,2'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、4,4'−ジアミノベンズアニリド、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、3,3−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、5−アミノ−1−(4'−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、6−アミノ−1−(4'−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、3,4'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−10−ヒドロアントラセン、2,7−ジアミノフルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4'−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、2,2',5,5'−テトラクロロ−4,4'−ジアミノビフェニル、2,2'−ジクロロ−4,4'−ジアミノ−5,5'−ジメトキシビフェニル、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ジアミノビフェニル、1,4,4'−(p−フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4'−(m−フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2'−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4'−ジアミノ−2,2'−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、4,4'−ビス[(4−アミノ−2−トリフルオロメチル)フェノキシ]−オクタフルオロビフェニル等の芳香族ジアミン;
【0038】
1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4−ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6.2.1.02,7]−ウンデシレンジメチルジアミン、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族及び脂環式ジアミン;
【0039】
2,3−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、5,6−ジアミノ−2,3−ジシアノピラジン、5,6−ジアミノ−2,4−ジヒドロキシピリミジン、2,4−ジアミノ−6−ジメチルアミノ−1,3,5−トリアジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、2,4−ジアミノ−6−イソプロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−フェニル−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−1,3,5−トリアジン、4,6−ジアミノ−2−ビニル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−5−フェニルチアゾール、2,6−ジアミノプリン、5,6−ジアミノ−1,3−ジメチルウラシル、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール、6,9−ジアミノ−2−エトキシアクリジンラクテート、3,8−ジアミノ−6−フェニルフェナントリジン、1,4−ジアミノピペラジン、3,6−ジアミノアクリジン、ビス(4−アミノフェニル)フェニルアミン等の、分子内に2つの1級アミノ基及び該1級アミノ基以外の窒素原子を有するジアミン;式(7)
【0040】
【化5】

(式中、R10〜R13は、それぞれ独立して炭素数1〜12の炭化水素基を表し、p、rはそれぞれ独立して1〜3の整数であり、qは1〜20の整数である。)で示されるジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。これらのジアミンは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
また、本発明組成物にプレチルト角発現性を付与したい場合には、前記式(I)におけるQ及び/又は前記式(II)におけるQの一部又は全部が、下記式(8)及び(9)で表される少なくとも一種の基であることが好ましい。
【0042】
【化6】

(式中、Xは、単結合、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−NHCO−、−CONH−、−S−又はアリーレン基であり、R14は、炭素数10〜20のアルキル基、炭素数4〜40の脂環式骨格を有する1価の有機基又は炭素数6〜20のフッ素原子を有する1価の有機基である。)
【0043】
【化7】

(式中、X、Xはそれぞれ独立して、単結合、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−NHCO−、−CONH−、−S−又はアリーレン基であり、R15は、炭素数4〜40の脂環式骨格を有する2価の有機基である。)
【0044】
前記式(8)において、R14で表される炭素数10〜20のアルキル基としては、例えば、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基、n−エイコシル基等が挙げられる。
【0045】
また、前記式(8)におけるR14、及び前記式(9)におけるR15で表される炭素数4〜40の脂環式骨格を有する有機基としては、例えば、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロデカン等のシクロアルカン由来の脂環式骨格を有する基;コレステロール、コレスタノール等のステロイド骨格を有する基;ノルボルネン、アダマン
タン等の有橋脂環式骨格を有する基等が挙げられる。なお、前記脂環式骨格を有する有機基は、ハロゲン原子、好ましくはフッ素原子や、フルオロアルキル基、好ましくはトリフルオロメチル基で置換された基であってもよい。
【0046】
さらに、前記式(8)におけるR14で表される炭素数6〜20のフッ素原子を有する有機基としては、例えば、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基等の炭素数6以上の直鎖状アルキル基;シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の炭素数6以上の脂環式炭化水素基;フェニル基、ビフェニル基等の炭素数6以上の芳香族炭化水素基等の有機基における水素原子の一部又は全部を、フッ素原子又はトリフルオロメチル基等のフルオロアルキル基で置換した基が挙げられる。
【0047】
また、前記式(8)及び(9)におけるX〜Xのアリーレン基としては、フェニレン基、トリレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
【0048】
前記式(8)で表される基を有するジアミンの具体例としては、ドデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、下記式(10)〜(15)で表される化合物を好ましいものとして挙げることができる。
【0049】
【化8】

【0050】
また、前記式(9)で表される基を有するジアミンの具体例としては、下記式(16)〜(18)で表されるジアミンを好ましいものとして挙げることができる。
【0051】
【化9】

【0052】
特定ジアミンの全ジアミン量に対する使用割合は、発現させたいプレチルト角の大きさによっても異なるが、TN型、STN型液晶表示素子の場合には0〜5モル%、垂直配向型液晶表示素子の場合には5〜100モル%が好ましい。
【0053】
ポリアミック酸は、前述したテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを、適当な有機溶媒中、通常−20℃〜+150℃、好ましくは0〜100℃で反応させることにより、製造することができる。
【0054】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2〜2当量となる割合が好ましく、より好ましくは0.3〜1.2当量となる割合である。
【0055】
ポリアミック酸の合成反応に用いる有機溶媒としては、ポリアミック酸を溶解できるものであれば特に制限はない。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド等の非プロトン系極性溶媒;m−クレゾール、キシレノール、フェノール、ハロゲン化フェノール等のフェノール系溶媒;等が挙げられる。
【0056】
有機溶媒の使用量(α)は、通常、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の総量(β)が、反応溶液の全量(α+β)に対して0.1〜30重量%になるような量であることが好ましい。
【0057】
なお、前記有機溶媒には、ポリアミック酸の貧溶媒を、生成するポリアミック酸が析出しない範囲で併用することができる。
【0058】
ポリアミック酸の貧溶媒としては、前記、液晶配向膜形成用材料の貧溶媒として例示したものと同様のものが挙げられる。これらの溶媒は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
ポリアミック酸を含む反応液を大量の貧溶媒中に注いで析出物を得、この析出物を減圧下乾燥することにより、ポリアミック酸を単離することができる。
また、得られたポリアミック酸を再び有機溶媒に溶解させ、次いで貧溶媒で析出させる工程を1回又は数回行うことにより、ポリアミック酸を精製することができる。
【0060】
(ii)イミド化重合体
イミド化重合体は、前記ポリアミック酸を、公知の方法、例えば特開2003−295195号公報に記載された方法により、脱水閉環させることで得ることができる。なお、イミド化重合体は、繰り返し単位の100%が脱水閉環していなくてもよく、全繰り返し単位におけるイミド環を有する繰り返し単位の割合(以下、「イミド化率」ともいう。)が100%未満のものであってもよい。
【0061】
イミド化重合体のイミド化率は特に制限されないが、好ましくは40モル%以上、より好ましくは70モル%以上である。イミド化率が40モル%以上の重合体を用いることにより、残像消去時間の短い液晶配向膜が形成可能な液晶配向膜形成用組成物を得ることができる。
【0062】
本発明で用いる重合体は、分子量が調節された末端修飾型のものであってもよい。この末端修飾型の重合体を用いることにより、本発明の効果が損われることなく液晶配向膜形成用組成物の物性等を改善することができる。
【0063】
このような末端修飾型の重合体は、ポリアミック酸を合成する際に、酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物等を反応系に添加することにより合成することができる。ここで、酸一無水物としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、n−デシルサクシニック酸無水物、n−ドデシルサクシニック酸無水物、n−テトラデシルサクシニック酸無水物、n−ヘキサデシルサクシニック酸無水物等が挙げられる。また、モノアミン化合物としては、例えばアニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、n−ノニルアミン、n−デシルアミン、n−ウンデシルアミン、n−ドデシルアミン、n−トリデシルアミン、n−テトラデシルアミン、n−ペンタデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、n−ヘプタデシルアミン、n−オクタデシルアミン、n−エイコシルアミン等が挙げられる。また、モノイソシアネート化合物としては、例えばフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等が挙げられる。
【0064】
(iii)ブロック共重合体
ブロック共重合体は、末端にアミノ基又は酸無水物基を有するアミック酸プレポリマーと、末端に酸無水物基又はアミノ基を有するイミドプレポリマーとをそれぞれ合成し、各プレポリマーの末端のアミノ基と酸無水物基とを結合させることにより、得ることができる。
【0065】
アミック酸プレポリマーは、前述したポリアミック酸の合成方法と同様の方法により合成することができる。また、イミドプレポリマーは、前述したイミド化重合体の合成方法と同様にして合成することができる。なお、末端に有する官能基の選択は、ポリアミック酸合成時のテトラカルボン酸二無水物とジアミンの量を調整することにより行うことができる。
【0066】
本発明組成物には、基板表面に対する接着性を向上させる目的で、前記混合溶剤及び液晶配向膜形成用材料の他に、官能性シラン含有化合物又はエポキシ基含有化合物を含有させてもよい。
【0067】
用いる官能性シラン含有化合物、エポキシ基含有化合物としては、特に制限なく、従来公知のものを使用することができる。これら官能性シラン含有化合物やエポキシ基含有化合物の配合割合は、液晶配向膜形成用材料100重量部に対して、通常、40重量部以下、好ましくは30重量部以下である。
【0068】
本発明に係る液晶配向膜形成用組成物は、前記液晶配向膜形成用材料及び所望により官能性シラン含有化合物等を、前記混合溶媒に溶解又は分散、好ましくは溶解させることによって製造することができる。
【0069】
そして、本発明の液晶配向膜形成用組成物は、前記液晶配向膜形成用材料からなる固形分の濃度が、1重量%以上10重量%以下の範囲となるように調製されている。固形分濃度が1重量%未満であると、得られる配向膜の膜厚が薄くなりすぎ、良好な液晶配向膜とならなくなるおそれがあるからである。また、固形分濃度が10重量%を超えると、得られる配向膜の膜厚が厚くなりすぎ、やはり良好な液晶配向膜とならなくなるおそれがあるとともに、液晶配向膜形成用組成物の粘性が増大し、液滴吐出ヘッドによる吐出性が低下するからである。
【0070】
また、本発明の液晶配向膜形成用組成物は、液滴吐出ヘッドのノズルプレートに対する静的接触角が、75°以上となるように調製されている。
ここで、本発明組成物を液状材料(インク)として用い、基板上に吐出するための液滴吐出装置について説明する。
【0071】
図1は、インクジェット式の液滴吐出装置3aの構成の概略を示す図である。液滴吐出装置3aとしては、いわゆるインクジェット方式の液滴吐出ヘッドを用いる装置であれば、特に制限されない。例えば、ピエゾ素子を利用する圧縮により、液滴の吐出を行うピエゾ方式の液滴吐出ヘッドや、加熱発泡により気泡を発生し、液滴の吐出を行うサーマル方式の液滴吐出ヘッド等を用いる装置が用いられる。本実施形態では、ピエゾ方式の液滴吐出ヘッドを用いたものについて説明する。
【0072】
この液滴吐出装置3aは、基板上に液状材料(本発明組成物)を吐出するマルチヘッド22を備えている。このマルチヘッド22は、本実施形態では、ヘッド本体24及びノズルプレート26を備えた液滴吐出ヘッドが、複数連結した状態に構成されたものである。マルチヘッド22の各液滴吐出ヘッドのノズルプレート26には、多数のノズル(吐出ノズル)27が形成されており、これらノズル27から、基板上に前記した本発明組成物が吐出されるようになっている。
【0073】
すなわち、図2(a)、(b)に示すように液滴吐出ヘッド20は、ヘッド本体24と、これに貼設されたステンレス製のノズルプレート26とを備えて構成されたものである。ヘッド本体24は、振動板23とリザーバプレート25とを有し、リザーバプレート25側にノズルプレート26に接合したものである。ノズルプレート26と振動板23との間には、リザーバプレート25によって複数の空間21と液溜まり29とが形成されている。各空間21と液溜まり29の内部は液状材料で満たされており、各空間21と液溜まり29とは供給口21aを介して連通している。
【0074】
また、ノズルプレート26には、空間21から液状体を噴射するためのノズル(吐出ノズル)27が縦横に整列させられた状態で複数形成されている。
ここで、ノズルプレート26には、図2(b)に示すようにその外面に撥液膜26aが形成されている。この撥液膜26aは、例えばフッ素系樹脂をプラズマ重合させてなる膜であり、撥液性を発揮することにより、吐出する液状材料がノズルプレート26上に付着してここに残留しないようにしたものである。
【0075】
ただし、撥液膜26aの撥液性には限界があり、どんな液状材料に対しても十分な撥液性を発揮することができない。すなわち、液状材料の濡れ性が高い場合には、撥液膜26a上(ノズルプレート26上)に液状材料が付着してここに比較的多く残留してしまうようになる。
そこで、本発明組成物では、前述したように、ノズルプレート26に対する静的接触角、つまり撥液膜26aに対する静的接触角を、75°以上になるように調製している。静的接触角を75°以上にしているので、ノズルプレート26の撥液膜26a上に液状材料(液晶配向膜形成用組成物)が付着しにくくなり、ここに残留しにくくなる。したがって、付着し残留した液状材料中の溶媒が蒸発することにより、ノズル27内やその近傍において、液状材料中の固形分が析出してしまうのが防止されている。
【0076】
また、本発明組成物(液晶配向膜形成用組成物)は、特に表面張力が40mN/m以上である高沸点有機溶剤A1を含んでいるので、本発明組成物自体の表面張力が大きくなっている。したがって、前記したように液晶配向膜形成用材料の濃度が1重量%以上10重量%以下の範囲において、ノズルプレート26の撥液膜26aに対する静的接触角が75°以上になるように、容易に調製できるようになっている。
【0077】
図2(a)、(b)に示した液滴吐出ヘッド20の説明に戻ると、振動板23には、液溜まり29に液状体を供給するための孔23aが形成されている。
また、図2(b)に示すように、振動板23の空間21に対向する面と反対側の面上には、圧電素子(ピエゾ素子)10が接合されている。この圧電素子10は、一対の電極11、11と、これら電極11、11間に挟持された圧電体膜12とからなり、電極11、11に通電されると、圧電体膜12が外側に突出するようにして撓曲するよう構成されたものである。
【0078】
このような構成のもとに圧電素子10が接合されている振動板23は、圧電素子10と一体になって同時に外側へ撓曲するようになっており、これによって空間21の容積を増大するようになっている。したがって、空間21内に増大した容積分に相当する液状体が、液溜まり29から供給口21aを介して流入する。また、このような状態から圧電素子10への通電を解除すると、圧電体膜12と振動板23はともに元の形状に戻る。したがって、空間21も元の容積に戻ることから、空間21内部の液状体の圧力が上昇し、ノズル27から基板に向けて液状材料の液滴Lが吐出される。
【0079】
なお、各ノズル27には、それぞれに独立して圧電素子40が設けられていることにより、その吐出動作がそれぞれ独立してなされるようになっている。すなわち、このような圧電素子40に送る電気信号としての吐出波形を制御することにより、各ノズル27からの液滴の吐出量を調整し、変化させることができるようになっている。
【0080】
また、図1に示した液滴吐出装置3aは、基板を載置するテーブル28を備えている。このテーブル28は、所定の方向、例えば、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動可能に設置されている。また、テーブル28は、図中矢印で示すようにX軸に沿った方向に移動することにより、ベルトコンベア等によって搬送される基板をテーブル28上に載置し、吐出装置3a内に取り込むようになっている。
また、マルチヘッド22には、ノズルプレート26に形成されているノズル27から吐出される液状材料(本発明組成物)を収容しているタンク30が接続されている。すなわち、タンク30とマルチヘッド22とは、液状材料を搬送する搬送管32によって接続されている。
【0081】
この搬送管32は、その流路内の帯電を防止するための吐出物流路部アース継手32aとヘッド部気泡排除弁32bとを備えている。このヘッド部気泡排除弁32bは、後述する吸引キャップ40により、マルチヘッド22内の液状材料を吸引する場合に用いられる。すなわち、吸引キャップ40によりマルチヘッド22内の吐出物を吸引するときは、このヘッド部気泡排除弁32bを閉状態にし、タンク30側から吐出物が流入しない状態にする。そして、吸引キャップ40で吸引すると、吸引される吐出物の流速が上がり、マルチヘッド22内の気泡が速やかに排出されることになる。
【0082】
液滴吐出装置3aは、タンク30内に収容されている液状材料34の収容量、すなわち、タンク30内に収容されている液状材料34の液面34aの高さを制御するための液面制御センサ36を備えている。この液面制御センサ36は、マルチヘッド22が備えるノズルプレート26の底面とタンク30内の液面34aとの高さの差h(以下、水頭値という)を所定の範囲内に保つ制御を行う。液面34aの高さを制御することで、タンク30内の液状材料34が所定の範囲内の圧力でマルチヘッド22に送られることになる。そして、所定の範囲内の圧力で液状材料34を送ることで、マルチヘッド22から安定的に液状材料34を吐出できるようになっている。
【0083】
また、マルチヘッド22のノズルプレート26に対向して一定の距離を隔てて、マルチヘッド22のノズル27内の液状材料を吸引する吸引キャップ40が配置されている。この吸引キャップ40は、図1中に矢印で示すZ軸に沿った方向に移動可能に構成されており、ノズルプレート26に形成された複数のノズル27を囲むようにノズルプレート26に密着し、ノズルプレート26との間に密閉空間を形成してノズル27を外気から遮断できる構成となっている。
【0084】
なお、吸引キャップ40によるマルチヘッド22のノズル内の吐出物の吸引は、マルチヘッド22が液状材料34を吐出していない状態、例えば、マルチヘッド22が、退避位置等に退避しており、テーブル28が破線で示す位置に退避しているときに行われる。
【0085】
また、この吸引キャップ40の下方には、流路が設けられており、この流路には、吸引バルブ42、吸引異常を検出する吸引圧検出センサ44及びチューブポンプ等からなる吸引ポンプ46が配置されている。また、この吸引ポンプ46等で吸引され、流路を搬送されてきた吐出物34は、廃液タンク48内に収容される。
【0086】
次に、このような液滴吐出装置3aを用いて本発明の液晶配向膜形成用組成物(本発明組成物)を吐出することにより、液晶表示装置を製造するようにした、液晶表示装置の製造方法について説明する。
本発明に係る液晶表示装置の製造方法は、前記した本発明組成物を、液滴吐出ヘッド20から基板表面に吐出し、液晶配向膜を形成する工程を有している。
【0087】
本発明に係る液晶表示装置の製造方法は、例えば、図3に示す液晶表示装置の製造ラインを用いて実施することができる。
図3に示すように、液晶表示装置製造ラインIは、各工程においてそれぞれ用いられる洗浄装置1、親液化処理装置2、前記した液滴吐出装置3a、乾燥装置4、焼成装置5、ラビング装置6、液滴吐出装置3b、液滴吐出装置3c、貼り合せ装置7、各装置を接続するベルトコンベアA、ベルトコンベアAを駆動させる駆動装置8、及び液晶表示装置製造ラインI全体の制御を行う制御装置9により構成されている。なお、前記液滴吐出装置3b、3cについては、吐出する材料が異なる点を除き、前記の液滴吐出装置3aと同じ構成のものを使用している。また、液滴吐出装置3aについては、図1、図2に示した通りである。
【0088】
ここでは、図4に示す液晶表示装置を製造する場合を例にして、説明する。
図4は、前記液晶表示装置製造ラインIで製造される液晶表示装置の、概略構成を示す側断面図である。
図4に示す液晶表示装置は、パッシブマトリクス方式の半透過反射型カラー液晶表示装置である。この液晶表示装置50は、ガラス、プラスチック等からなる矩形平板形状の下基板52aと、上基板52bとがシール材及びスペーサ(図示せず)を介して対向配置され、この下基板52aと上基板52bとの間に液晶層56が挟持されている。
【0089】
下基板52aと液晶層56との間には、下基板52aの側から複数のセグメント電極58及び液晶配向膜60が形成されている。セグメント電極58は、図4に示すように、ストライプ状に形成されており、インジウム錫酸化物(ITO)等の透明導電膜により形成されている。また、液晶配向膜60は、液晶配向膜形成用材料により形成されている。
【0090】
また、上基板52bと液晶層56との間には、上基板52b側から順に、カラーフィルタ62、オーバーコート膜66、コモン電極68及び液晶配向膜70が形成されている。カラーフィルタ62は、赤(R)、緑(G)、青(B)の各色素層62r、62g、62bから構成されており、カラーフィルタ62を構成する各色素層62r、62g、62bの間(境界)には、樹脂ブラックや光の反射率が低いクロム(Cr)等の金属により構成されるブラックマトリクス64が形成されている。なお、カラーフィルタ62を構成する各色素層62r、62g、62bは下基板52aに形成されているセグメント電極58に対向して配置されている。
【0091】
オーバーコート膜66は、各色素層62r、62g、62b間の段差を平坦化すると共に各色素層の表面を保護するものであり、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコン酸化膜等の無機膜により形成されている。
コモン電極68は、ITO等の透明導電膜から形成されており、下基板52aに形成されているセグメント電極58と直交する位置にストライプ状に形成されている。
また、液晶配向膜70は、ポリイミド樹脂等により形成されている。
【0092】
図4に示す液晶表示装置は、図5に示すように、(S10)〜(S19)の各ステップを経て製造することができる。以下、各ステップを順に説明する。
【0093】
(S10)
まず、液晶配向膜を形成する基板を用意する。
基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラス等のガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなる膜、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜等を用いることができる。これらの透明導電膜のパターニングには、フォト・エッチング法や予めマスクを用いる方法が用いられる。本実施形態においては、セグメント電極58が形成された下基板52aを用いる。
【0094】
次に、この基板の配向膜を形成する表面を洗浄する(S10)。すなわち、セグメント電極58が形成された下基板52aが、ベルトコンベアAにより洗浄装置1まで搬送され、ベルトコンベアAにより搬送された下基板52aが洗浄装置1内に取り込まれ、アルカリ系洗剤、純水等を用いて下基板52aが洗浄された後、所定の温度及び時間、例えば、80〜90℃で5〜10分間、乾燥処理が行われる。
洗浄及び乾燥が行われた下基板52aは、ベルトコンベアAにより親液化処理装置2まで搬送される。
【0095】
(S11)
次に、洗浄及び乾燥が行われた基板表面が親液化処理される(S11)。すなわち、ベルトコンベアAにより親液化処理装置2まで搬送された基板、例えば、下基板52aが、親液化処理装置2内に取り込まれ、紫外線照射又はプラズマ処理により表面が親液化処理される。親液化処理を施すことにより、液晶配向膜形成用組成物(本発明組成物)の濡れ性が向上し、より均一、平坦でかつ密着性に優れる液晶配向膜を基板上に形成することができる。
【0096】
(S12)
次に、S11において親液化処理された基板上に本発明組成物が塗布される(S12)。すなわち、まず、ベルトコンベアAにより液滴吐出装置3aまで搬送された基板、例えば、下基板52aが、テーブル28に載置されて液滴吐出装置3a内に取り込まれる。液滴吐出装置3a内においては、タンク30内に収容されている本発明組成物がノズルプレート26のノズル27を通って吐出され、下基板52a上に本発明組成物が塗布される。これにより、本発明組成物からなる塗布層が形成される。
【0097】
その際、本発明組成物は、沸点が240℃以上である高沸点有機溶剤A1を含んでおり、したがって組成物自体の溶剤の沸点が高くなっているので、ノズル27内やその近傍に位置するノズルプレート26の面上において、組成物(液状材料)中の溶媒が蒸発しにくくなっている。また、ノズルプレート26に対する静的接触角が75°以上になっているので、組成物(液状材料)がノズル27の近傍に位置するノズルプレート26の面上に付着しにくくなり、残留しにくくなっている。よって、ノズル27の近傍において、ノズルプレート26の面上には組成物(液状材料)が残留しにくくなっており、また、僅かに残留した組成物もその溶媒が蒸発しにくくなっているので、組成物中の固形物が析出しにくくなっている。したがって、ノズルプレート26などに残留した組成物(液状材料)に起因して吐出不良が発生することがない。
【0098】
(S13)
次に、基板に塗布された塗布層を仮乾燥する処理が行われる(S13)。すなわち、ベルトコンベアAにより乾燥装置4まで搬送された基板、例えば、下基板52aが乾燥装置4内に取り込まれ、60〜200℃程度で仮乾燥が行われる。
塗布された本発明組成物(塗布層)の仮乾燥が行われた下基板52aは、ベルトコンベアAへと移され、ベルトコンベアAにより焼成装置5へと搬送される。
【0099】
(S14)
次に、仮乾燥が行われた本発明組成物を焼成する処理が行われる(S14)。すなわち、ベルトコンベアAにより焼成装置5まで搬送された基板、例えば、下基板52aが焼成装置5内に取り込まれ、例えば、180〜250℃に焼成する処理がなされる。
【0100】
なお、ポリアミック酸を含有する液晶配向膜形成用組成物(本発明組成物)を使用する場合には、この焼成する処理によって脱水閉環が進行し、よりイミド化された塗膜となる場合がある。
形成される塗膜の膜厚は、通常0.001〜1μmであり、好ましくは0.005〜0.5μmである。
以上のようにして、図6に示すように、本発明組成物の塗膜60aが形成された下基板52aを得る。
この下基板52aは、ベルトコンベアAへと移され、ベルトコンベアAによりラビング装置6へと搬送される。
【0101】
(S15)
次に、基板上に形成された本発明組成物の塗膜60aのラビング処理が行われる(S15)。すなわち、ベルトコンベアAによりラビング装置6まで搬送された基板、例えば、下基板52aがラビング装置6内に取り込まれ、例えばナイロン、レーヨン、コットン等の繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理を行う。これにより、図7に示すように、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜60が形成される。
【0102】
また、本発明組成物により形成された液晶配向膜に、例えば特開平6−222366号公報や特開平6−281937号公報に示されているような、紫外線を部分的に照射することによってプレチルト角を変化させるような処理、あるいは特開平5−107544号公報に示されているような、ラビング処理を施した液晶配向膜表面にレジスト膜を部分的に形成し、先のラビング処理と異なる方向にラビング処理を行った後にレジスト膜を除去して、液晶配向膜の液晶配向能を変化させるような処理を行うことによって、液晶表示素子の視界特性を改善することもできる。
【0103】
(S16)
液晶配向膜60が形成された下基板52aは、ベルトコンベアAへと移され、ベルトコンベアAにより液滴吐出装置3bまで搬送され、液滴吐出装置3b内に取り込まれる。液滴吐出装置3bにおいては、図8(a)、(b)に示すように、ラビング処理された液晶配向膜60上の液晶表示領域Bを取り囲むように、シール層形成用溶液が塗布される(S16)。図8において、59aは、シール層形成用溶液の塗膜である。なお、図8(a)は工程上面図であり、図8(b)は水平方向から見た工程断面図である。
【0104】
ここで、シール層形成用溶液としては、下基板と上基板とを接合するための接着剤として従来公知のものを使用することができる。例えば、電離放射線硬化性樹脂等を含有する液滴(電離放射線硬化性樹脂組成物)、熱硬化性樹脂等を含有する液滴(熱硬化性樹脂組成物)が挙げられ、作業性に優れることから電離放射線硬化性樹脂組成物の使用が好ましい。熱硬化性樹脂組成物や電離放射線硬化性樹脂組成物としては、特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。
【0105】
(S17)
次に、シール層形成用溶液が塗布された基板は、ベルトコンベアAへと移され、ベルトコンベアAにより、液滴吐出装置3cまで搬送された基板が液滴吐出装置3c内に取り込まれる。液滴吐出装置3cにおいては、図9に示すように、前記シール層形成用溶液の塗膜59aで囲まれた液晶層形成領域Aに、液晶材料56が塗布される(S17)。
【0106】
ここで、液晶材料56としては、特に制限されず、従来公知のものが使用できる。
液晶モードとしては、TN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、HAN(Hybrid Alignment Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型、MVA(Multiple Vertical Alignment)型、IPS(In Plane Switching)型、OCB(Optical Compensated Bend)型等が挙げられる。
【0107】
また、液晶材料はスペーサーを含有するものであってもよい。スペーサーは液晶層の厚さ(セルギャップ)を一定に保持するための部材である。スペーサーの材料としては特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。
また、液晶材料とは別個に、液晶材料を塗布する前、あるいは塗布した後にスペーサーを含む機能液を塗布してもよい。
【0108】
(S18)
次に、液晶材料56が塗布された基板は、図10(a)に示すように、貼り合せ装置の真空チャンバー90a内に搬送され、チャンバー9a内を真空にした後、下定盤80a上に吸引固定される。一方、カラーフィルタ62、ブラックマトリクス64、オーバーコート膜66、コモン電極68及び液晶配向膜70(これらの図示は省略されている)が形成された基板(上基板)52bを上定盤80b上に吸引固定し、下基板52aと上基板52bとを貼り合せる(S18)。
【0109】
下基板52aと上基板52bとを貼り合せる際の位置合せは、具体的には、下基板52aと上基板52bに予め設けてあるアラインメントマークをカメラで認識させながら、行うことができる。このとき位置合せ精度を上げるため、下基板52aと上基板52bの間隔を0.2〜0.5mm程度にして位置合せを行うのが好ましい。
【0110】
(S19)
次に、下基板52aと上基板52bとを貼り合せた積層物の硬化処理が行われる。硬化処理は、硬化装置を使用して行われる(S19)。硬化装置としては、電離放射線の照射装置や加熱装置等が挙げられるが、本実施形態では紫外線照射装置82を使用する。すなわち、図10(b)に示すように、紫外線照射装置82により紫外線を照射して、シール層59aを硬化させる。
次いで、チャンバー9a内の減圧を大気圧に開放し、下基板52a及び上基板52bの吸着を開放する。
【0111】
その後は、液晶セルの外表面、すなわち、液晶セルを構成するそれぞれの基板の他面側に、偏光板を、その偏光方向が当該基板の一面に形成された液晶配向膜のラビング方向と一致又は直交するように貼り合せる。ここで、液晶セルの外表面に貼り合わされる偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながら、ヨウ素を吸収させたH膜と称される偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板を挙げることができる。
【0112】
以上のようにして、図4に示す液晶表示装置を製造することができる。
得られた液晶表示装置は、液滴吐出装置3aにより、本発明組成物が塗布されて形成された液晶配向膜を有しているので、高品質で低コストな液晶表示装置となる。
【0113】
なお、本実施形態においては、S15において、ラビング処理を施す方法により液晶配向膜を形成しているが、例えば、特開2004−163646号公報に開示されている、偏光された放射線を照射する方法等により液晶配向能を施すこともできる。
また、本実施形態においては、S17において、液晶材料を液滴吐出装置3cを使用して塗布することにより液晶層を形成しているが、液晶配向膜が形成された基板を2枚作製し、それぞれの液晶配向膜におけるラビング方向が直交又は逆平行となるように、2枚の基板を、間隙(セルギャップ)を介して対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填し、注入孔を封止して液晶層を形成するようにしてもよい。
【0114】
このような製造方法に用いられる本発明の液晶配向膜形成用組成物によれば、沸点が240℃以上である高沸点有機溶剤A1を含んでおり、したがって組成物自体の溶剤の沸点が高くなり、ノズル27内やその近傍に位置するノズルプレート26の面上において、組成物(液状材料)中の溶媒が蒸発しにくくなっているので、これに溶解していた液晶配向膜形成用材料(固形分)が析出してしまうのを防止することができる。よって、液晶配向膜形成用材料の析出に起因する吐出不良を防止することができ、これによって膜厚ムラのない均質で平坦な液晶配向膜を形成することができる。
また、ノズルプレート26に対する静的接触角が75°以上になっているので、組成物がノズル27の近傍に位置するノズルプレート26の面上に付着し残留しにくくなり、したがって付着し残留した組成物中の固形分が析出し、これに起因して吐出不良が発生するのを防止することができる。よって、膜厚ムラのない均質で平坦な液晶配向膜を形成することができる。
【0115】
また、本発明の液晶表示装置の製造方法によれば、前記の液晶配向膜形成用組成物を、液滴吐出ヘッド20から基板表面に吐出し、液晶配向膜を形成するので、膜厚ムラのない均質で平坦な液晶配向膜を形成でき、したがって高品質の液晶表示装置を低コストで効率よく製造することができる。
【0116】
[実験例]
以下、本発明に係る液晶配向膜形成用組成物についての実験例を示す。
本発明に係る液晶配向膜形成用組成物を、以下のようにして作製した。
混合溶剤として、以下の4種類の溶剤を混合したものを用いた。
第1有機溶媒Aにおける高沸点有機溶剤A1として、炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート;PC)を用い、第1有機溶媒Aにおける低沸点有機溶剤A2として、γ−ブチロラクトン(GBL)およびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用い、第2有機溶媒Bとして、ブチルセロソルブ(BC)を用いた。そして、各溶剤の配合比を、以下の通りにして調製した。なお、比較品1では、炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート;PC)を用いずに混合溶剤を調製した。
【0117】
そして、これら各混合溶剤のそれぞれに、ポリイミド(PI;JSR社製のAL−60601)を、固形分濃度が5重量%となるように溶解し、比較品1、2、本発明品1、2の液晶配向膜形成用組成物を作製した。
なお、以下に示す重量部は、混合溶剤全体を100重量部としたときの配合比であり、重量%は、組成物全体における各成分の重量比である。
・比較品1 混合溶剤(重量部) 液晶配向膜形成用組成物(重量%)
PI ; 5 重量%
PC ; 0重量部 0 重量%
GBL; 40重量部 38 重量%
NMP; 30重量部 28.5重量%
BC ; 30重量部 28.5重量%
・比較品2 混合溶剤(重量部) 液晶配向膜形成用組成物(重量%)
PI ; 5 重量%
PC ; 5重量部 4.75重量%
GBL; 38重量部 36.1重量%
NMP; 28.5重量部 27.075重量%
BC ; 28.5重量部 27.075重量%
・本発明品1 混合溶剤(重量部) 液晶配向膜形成用組成物(重量%)
PI ; 5 重量%
PC ; 10重量部 9.5重量%
GBL; 36重量部 32.2重量%
NMP; 27重量部 26.65重量%
BC ; 27重量部 26.65重量%
・本発明品2 混合溶剤(重量部) 液晶配向膜形成用組成物(重量%)
PI ; 5 重量%
PC ; 20重量部 19 重量%
GBL; 32重量部 30.4重量%
NMP; 24重量部 22.8重量%
BC ; 24重量部 22.8重量%
【0118】
このようにして得られた液晶配向膜形成用組成物の、前記した液滴吐出ヘッド20におけるノズルプレート26の撥液膜26a上での静的接触角を測定した。
また、これら液晶配向膜形成用組成物の、前記した液滴吐出ヘッド20による吐出安定性について、以下のようにして調べた。
液滴吐出ヘッド20としてノズル数が360のものを用い、この液滴吐出ヘッド20より、30秒吐出、30秒休止を1サイクルとして、観察用基板に対し吐出を15サイクル繰り返して行った(吐出は15kHz駆動で行った)。その後、観察用基板に残った吐出跡を観察し、正常に吐出されているノズルの数をカウントした。なお、正常でないノズルとは、例えば目詰まりで吐出されていないノズル、飛行曲がりしているノズル、飛行速度が極端に遅い、あるいは極端に速いノズルなどである。
静的接触角を測定結果、吐出安定性についての観察結果(全ノズルに対する正常なノズルの数)を以下に示す。
【0119】
静的接触角 吐出安定性
・比較品1 ;70° 340/360
・比較品2 ;72° 355/360
・本発明品1 ;78° 360/360
・本発明品2 ;77° 360/360
なお、比較品1、比較品2ではノズルの周辺に固形物が観察された。
【0120】
以上の結果より、高沸点有機溶剤A1として炭酸プロピレン(PC)を用い、さらにノズルプレート26(撥液膜26a)に対する静的接触角が75°以上である本発明品1、2は、いずれも吐出安定性に優れていることが確認された。
【0121】
なお、前記実施形態では、液滴吐出ヘッドとして撥液膜を形成したノズルプレートを用いており、したがって本発明におけるノズルプレートに対する静的接触角としては、ノズルプレートに形成された撥液膜に対する静的接触角を適用しているが、ノズルプレートとしては、撥液膜を形成しないものを用いてもよい。また、撥液膜についても、前記したフッ素系樹脂のプラズマ重合膜に限定されることなく、種々の撥液膜を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】液滴吐出装置の概略構成図である。
【図2】(a)は液滴吐出ヘッドの要部斜視図、(b)は要部側断面図である。
【図3】実施の形態に係る液晶表示装置製造ラインの一例を示す図である。
【図4】実施の形態に係る液晶表示装置の概略構成を示す側断面図である。
【図5】実施の形態に係る液晶表示装置の製造方法のフローチャートである。
【図6】実施の形態に係る液晶表示装置の製造工程説明図である。
【図7】実施の形態に係る液晶表示装置の製造工程説明図である。
【図8】実施の形態に係る液晶表示装置の製造工程説明図である。
【図9】実施の形態に係る液晶表示装置の製造工程説明図である。
【図10】実施の形態に係る液晶表示装置の製造工程説明図である。
【符号の説明】
【0123】
I…液晶表示装置製造ライン、3a、3b、3c…吐出装置、22…インクジェットヘッド、24…ヘッド本体、34…吐出物(液晶配向膜形成用組成物)、50…液晶表示装置、56…液晶層、60,70…液晶配向膜、A…液晶層形成領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴吐出ヘッドから吐出され、液晶配向膜を形成する液晶配向膜形成用組成物であって、
表面張力が37mN/m以上の第1有機溶剤Aと、表面張力が32mN/m未満の第2有機溶剤Bとを含む混合溶剤と、該混合溶剤に溶解されてなる液晶配向膜形成用材料と、を含有してなり、
前記第1有機溶剤Aおよび前記第2有機溶剤Bは、それぞれ単一種あるいは複数種の有機溶剤によって構成され、
前記第1有機溶剤Aは、該第1有機溶剤Aを構成する有機溶剤として、沸点が240℃以上であり、かつ、表面張力が40mN/m以上である高沸点有機溶剤A1を含み、
前記液晶配向膜形成用材料の濃度が1重量%以上10重量%以下であり、前記液滴吐出ヘッドのノズルプレートに対する静的接触角が75°以上であることを特徴とする液晶配向膜形成用組成物。
【請求項2】
前記第2有機溶剤Bの、前記混合溶剤全体に占める混合割合が、3重量%以上50重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の液晶配向膜形成用組成物。
【請求項3】
前記高沸点有機溶剤A1は、炭酸エチレン、炭酸プロピレンのうちの少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶配向膜形成用組成物。
【請求項4】
前記第1有機溶剤Aは、前記高沸点有機溶剤A1以外の低沸点有機溶剤A2として、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトンのうちの少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項3記載の液晶配向膜形成用組成物。
【請求項5】
前記液晶配向膜形成用材料が、以下の式(I)
【化1】

(式中、Pは4価の有機基であり、Qは2価の有機基を表す。)で示される繰り返し単位、および以下の式(II)
【化2】

(式中、Pは4価の有機基であり、Qは2価の有機基を表す。)で示される繰り返し単位から選ばれる、少なくとも一種を有する重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の液晶配向膜形成用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の液晶配向膜形成用組成物を、液滴吐出ヘッドから基板表面に吐出し、液晶配向膜を形成する工程を有することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−2456(P2010−2456A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158882(P2008−158882)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】