説明

液滴の衝突範囲を清浄する液滴洗浄装置を有して使用するシステム

流体液滴の洗浄システムは、所定の速度において作られる空気の源(10)、及び、高速の流体液滴の前の着地によって作られる液体フィルム(19)を上方に有する歯上の範囲に対して空気流を方向付ける気体流配向部材(15)を有する。空気流の速度は、液体膜の厚さを大幅に低減するよう十分に高く、従って歯上の清浄された範囲における流体液滴の効率性を高める。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には口腔洗浄用途に対する高速液滴システム(high−speed droplet systems)にかかり、より具体的には液滴システムからの流体の蓄積により歯上に存在する液体膜の一部を除去する(clearing)システムに係る。
【背景技術】
【0002】
流体液滴口腔洗浄システムにおいて、小さな流体液滴は、生成され、その後高速で加速され、口腔洗浄用途における歯等である塗布対象に向けて方向付けられる。かかるシステムは、一般的に口腔洗浄効果において利点を有することが示されてきている。流体液滴を使用して口腔を洗浄するシステムは、例えば、本発明の譲受人によって有される米国特許第60/537,690号明細書「Droplet Jet System For Cleaning」(特許文献1)において示されている。該特許文献の内容は、本願中に参照として組み込まれる。
【0003】
しかしながら、かかる流体液滴口腔洗浄装置の作動中において、個別の流体液滴は典型的に、ユーザの口内に集まり、歯上において液体(流体)の膜を形成する、ことが判明している。このことは、下顎における歯に対して最も顕著である。後続の液滴が歯の表面に達するよう液体膜を通過しなければならないため、薄い、即ち10ミクロンのオーダである液体膜でさえ洗浄工程を妨げる。このことは、液体膜が歯の表面上の液滴の衝突速度を低減させるため、歯上の歯垢を取り除く効率性に深刻な影響を及す。この不利点は基本的に、「高速の」(秒速30メートルより早い)液滴を使用するものをも含む全ての流体液滴システムに影響を及す。
【特許文献1】米国特許第60/537,690号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
故に、流体液滴システムによって効果的な洗浄を保証するよう、対象上における液体膜の存在の不利点を克服することは、望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本発明は、歯の口腔洗浄に対して使用される流体液滴システムに対する衝突の範囲を洗浄するシステム(a system for clearing the area of impact for a fluid droplet system)である。当該システムは、気体流の源と、流体液滴によって作られる液体膜を上方に有する歯上の範囲に対して気体流を方向付ける気体流配向部材と、を有する。気体流は、液体膜の厚さを大幅に低減するよう十分に高い速度を有し、洗浄作用に対して歯に方向付けられる後続の流体液滴の効率性を高めるようにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
簡略的に前述された通り、口腔ケア用途における使用に対する流体液滴洗浄システムの作動において、液体膜は、歯に衝突する流体液滴の残留物から歯上で展開する。このことは、液滴速度とは無関係に発生する。下顎の歯においてより顕著ではあるが上顎及び下顎の両方の歯上に存在するこの液体膜は、連続的あるいはパルス状であり得る流体液滴の流れにおける後続の流体液滴の衝突の効果を妨害及び低減し、液滴の通常の洗浄効果に悪影響を及す。
【0007】
この悪影響は、膜の厚さ及び歯に対して方向付けられる流体液滴の速度に依存にしてある程度変化するが、膜の厚さ及び液滴の速度とは無関係になんらかの洗浄効果はある。比較的小さな薄膜でさえも、歯上に存在する歯垢に対して流体液滴によってかけられる最大剪断応力に対して強い影響を有する、ことは判明している。例えば、流体液滴の半径のたった0.015倍の厚さの液体膜でも、歯垢に対する流体液滴によって作られる最大剪断応力は、因数4分が低減される。剪断応力における更なる低減は、より厚い液体膜に対して発生する。故に、歯からの歯垢等である物質の除去は、液体膜によって深刻に影響される。
【0008】
本発明では、十分に高い速度を有する気体噴流(gas jet)は、歯上における液体の薄膜に向かって方向付けられ、薄膜を除去するか、あるいはその厚さを大幅に低減する。気体は、空気であり得るが他の種類の気体でもあり得、液体の一部を吹き飛ばし、歯の表面に対して液体膜におけるホールを作るか、あるいは、後続の流体液滴が着地する所望される範囲における液体膜の厚さを大幅に低減する。
【0009】
図1中に示される第1の実施例では、空気噴流源10は、従来の高速な流体液滴生成システム12を有して使用され、該源と該流体液滴生成システムとは離される。流体液滴は、歯の表面14等である対象、あるいはより具体的に歯上の歯垢にむかって、方向付けられる。流体液滴は、前出の特許文献1において示される通り、多種の既知の配置によって生成され得る。
【0010】
1.5バール−150バール、望ましくは20−100バールである圧力において加圧される気体のリザーバであり得る、圧力調整器を有する気体噴流源10は、参照符号15によって全体的に示される気体が通って出るノズルを有する。空気ポンプも使用され得る。気体噴流源は、液滴生成システム12の周囲に配置される単一のノズル又は複数のノズルを有し得る。ノズルは、歯の表面14に対して角度17において配置され得る。該角度は、歯の表面から60−70°の範囲にあり、歯の表面に対して直角である90°を含む角度までが望ましい場合もある。図1の配置において、源10及び気体の方向は、流体液滴システム12から離される。液体層は、参照符号19で図示される。
【0011】
図3において示される他の実施例において、液滴生成システム20は、液滴を所望される高速まで加速させる気体補助液滴生成システムを有し、気体は、流体膜22における開口を洗浄するようにも使用され得る。この配置において、流体液滴25及び/又は気体流29は、パルスモードにおいて作動し得、流体膜線上機能は、流体液滴の衝突と交互に起こる。
【0012】
この配置における代替案として、別個の空気流ノズル及び/又は空気源は、空気補助液滴システムに並んで、即ち該システムに対して近接して、使用され得る。
【0013】
故に気体流は、後続の流体液滴に対する衝突範囲を効果的に清浄するよう、多種の配置において、並びに、多種の流体液滴システムと組み合わせて、使用され得る。
【0014】
図2は、流体膜34上の気体源(図示せず)からの空気噴流19の衝突を示す。射出気体噴流ノズルは、参照符号30で図示され、空気噴流は、歯等である洗浄されるべき表面36上に特定の高さhを有する液体膜34に対して直角に方向付けられる。液体膜に対する気体噴流の効果を説明するにあたり、システムは、厚さhを有する液体の膜上において、速度Vを有して液体に衝突する、直径dを有する空気噴流を有する。膜における液体は、濃度ρ、動的粘度μ、及び表面張力sを有する。
【0015】
図2及び4において示される通り、空気噴流19は、液体層34を湾曲パターンに変形する。衝突する空気噴流は、液体膜上に圧力を加える。液体/空気接触面は、空気が膜に衝突する際にその形状、即ちその曲率を変える。平衡状態において、形状は、次の式:
【数1】

によって定められる。該式中、R1及びR2は、液体/空気接触面における曲率の主半径(principal radii)であり、Pgは、気体噴流による液体膜上への圧力であり、P1は、液体膜における圧力である。
【0016】
図2は、気体噴流圧力が噴流開口の直径にわたって一定であり、該直径の外側における過剰気体はゼロである状況を示す。気体圧力の規模は、次のベルヌーイの方程式、
【数2】

からわかり得る。
【0017】
この配置において、空気噴流の速度は、実際に発生する気体噴流直径の外方であるy方向における成分を有する。作動において、ある場合は液体層の厚さが気体噴流の直径と同等であるかあるいはそれより小さく、他の場合は液体層が気体噴流の直径より更に厚い、という相違がある。第1の状況において、膜にホールを作るよう必要である最小気体圧力は、液体膜が気体噴流の直径より更に厚い場合よりも小さい。
【0018】
膜の厚さが小さい場合における最小速度は、次の式:
【数3】

によって与えられる。かかる場合、h=20μm、d=0.5mm、σ=0.07N/m、及びρ=1.18kg/mという典型的な値を有して、最小気体速度は、約12m/sであり、大変低い。
【0019】
液体膜が噴流の直径より実質的に厚い他の極端な場合においては:
【数4】

である。
【0020】
上述された通りの典型的な値を有し、速度は、約31m/sである。故に、通常の厚さの範囲に対して、気体速度は、典型的には12−31m/sの範囲にあり、液体膜においてホールを作るという所望される結果を達成する。
【0021】
上述された式によって示される通り、液体膜においてホールを作るよう必要である気体気圧の値は、液体膜の厚さが増大すると共に増大する。例えば、従来の気体噴流の直径のオーダである厚さ1.5mmの液体に対して、液体においてホールを作るよう必要である気体速度は、約16m/sである。しかしながら、開口は、気体圧力及び速度を増大することによって、気体噴流直径より更に大きくされ得る。
【0022】
液体膜上において衝突する気体噴流は、液体/空気接触面において更なる曲率をもたらす圧力差異を生成する。ホールの半径が増大する際、気体の速度は、低減する。
【0023】
水平気体速度は、V1(r)であり、次の式:
【数5】

によって与えられる。3.3×103Paの圧力差異、及び1.1mmである気体噴流半径を有して、約5m/sである視線速度(radial velocity)がもたらされる。生成される圧力差異は、典型的には15Paである。接触面の曲率は、半径R1及びR2(図4)によって定義付けられる。R1は、空気中により大きな圧力を与え、R2は、液体中により大きな圧力を与える。しかしながら、典型的にはR2よりR1の曲率がより小さいため、全曲率は、15Paである計算された圧力に近い、より大きな圧力を空気中に与える。
【0024】
上述されたことは、気体補助流体液滴システムにおいて比較的低い15−30m/sという範囲にある気体速度を有して、殆ど全ての液体厚さにおいて液体膜にホールを作ることは、比較的容易である、ことを示す。液体層におけるホールの直径は、気体の速度及び圧力に依存して、噴流開口の直径より更に大きくされ得る。
【0025】
気体の速度に加えて他の重要な問題は、液体においてホールを形成するよう、即ち効果的である後続の流体液滴が適切な時間で特定の範囲を清浄するよう、気体が必要とする時間である。図4において示される配置に関し、空気噴流は、液体膜40にむかって方向付けられ、気体噴流42の中心においては、液体における速度はゼロ(対称性による)であり且つ圧力は0.5ρと同等である一方、気体噴流(r=0.5d)のエッジ部においては、圧力は大気圧である。液体膜における速度U1は:
【数6】

である。取り除かれ得る液体Qの流速は、液体速度掛ける液体の面積であり:
【数7】

である。取り除かれる必要がある体積は、Vol=0.25d2hであり、液体厚さhに対する微分方程式、
【数8】

をもたらし、
【数9】

である。式中、hoは、液体膜の初期厚さと同等である。このことは、実際には取り除くよう長い時間がかかることを示すが、液体膜の厚さは、20nmオーダまで低減される際に急速に開く。したがって、初期に10μmの厚さである液体膜は、気体速度150m/s及び噴流直径0.5mmを有して、時間3×10−4sにおいて20nmまで薄くなる。厚さ1.5mmの膜に対して、約2倍の長さがかかる。故に、気体噴流が後続の液滴に対して十分に効果的であるよう早く薄くなる液体を作る時間は、非常に可能である。
【0026】
故に、開示されてきたシステムは、流体液滴及び洗浄システムの作動において作られた歯等である表面上の液体膜の除去を容易且つ迅速にもたらす。本願の装置は、液滴による洗浄の有効性を保持する。
【0027】
本発明の望ましい実施例が例証を目的として開示されてきたが、多種の変更、修正、及び代替案は、添付の請求項によって定義される本発明の趣旨から逸脱することなく該実施例において組み込まれ得る、ことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例を概略的に図示する。
【図2】液体膜に対する本システムの効果を図示する。
【図3】流体液滴を加速させ且つ歯上の液体膜を洗浄する、単一のシステムの使用を概略的に図示する。
【図4】液体膜上の気体噴流の作用を図示する。
【図5】液体膜上の気体噴流の作用を図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯の口腔内洗浄に使用される流体液滴システムに対する衝突範囲を清浄するシステムであって:
気体流の源と、
流体液滴によって作られる液体膜を上方に有する前記歯における範囲まで前記気体流を方向付ける気体流配向部材と、
を有し、
前記気体流は、前記歯に対して方向付けられる後続の流体液滴の洗浄作用に対する効率を高めるよう、前記液体膜の厚さを大幅に低減するよう十分に高い速度を有する、
システム。
【請求項2】
前記気体流は、下方にある歯の表面に対して前記液体膜を貫通するホールを洗浄するよう十分な速度を有する、
請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記気体流は、12m/sである最低速度を有する、
請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記気体流は、空気である、
請求項1記載のシステム。
【請求項5】
前記気体流は、前記歯の前記表面に対して少なくとも60°の角度において、前記歯における前記液体流に向かって方向付けられる、
請求項1記載のシステム。
【請求項6】
前記気体流は、前記歯の前記液体膜に対して実質的に垂直方向に方向付けられる、
請求項1記載のシステム。
【請求項7】
前記気体流は、前記液体膜に向かって方向付けられる空気のパルスの形状であり、前記流体液滴もパルスの形状である、
請求項1記載のシステム。
【請求項8】
前記気体流は、前記液体膜に向かって方向付けられる連続的な流れの形状である、
請求項1記載のシステム。
【請求項9】
前記気体流の源は、当該流体液滴システムから離される、
請求項1記載のシステム。
【請求項10】
前記流体液滴は、気体の高速流によって加速され、
該高速気体流は、前記流体液滴を加速させることに加えて、前記液体膜を除去するよう使用される、
請求項1記載のシステム。
【請求項11】
前記気体流によって作られる低減された厚さの面積は、源からの前記気体流の寸法より大きい、
請求項1記載のシステム。
【請求項12】
前記低減された厚さの面積は、実質的には円形であり、そのエッジ部において外方向に湾曲する、
請求項1記載のシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2009−520554(P2009−520554A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546802(P2008−546802)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【国際出願番号】PCT/IB2006/054956
【国際公開番号】WO2007/072429
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】