液滴を破断することによるエマルジョンの弾性ガラス化
【課題】 液滴を破断することによってエマルジョンを弾性ガラス化する。
【解決手段】 初期材料組成を持つ粘性材料であって、第2の成分の連続流体相内に分散させられた第1の成分の複数の離散要素を含む多相分散である粘性材料を提供する段階と、第1の成分の複数の離散要素に対して応力を印加して、複数の離散要素を、離散要素の数が第1の複数の離散要素よりも多い第2の複数の離散要素に分割する段階とを備える、弾性材料生成方法を提供する。第2の複数の離散要素の離散要素は、組成および表面層のうち少なくとも一方が、隣接する離散要素との間において少なくとも斥力を与えて、離散要素が不可逆的に合体または不可逆的に再結合しないようにしているので、粘性材料は不可逆的に、初期材料組成と同一の材料組成を持つ弾性材料になる。
【解決手段】 初期材料組成を持つ粘性材料であって、第2の成分の連続流体相内に分散させられた第1の成分の複数の離散要素を含む多相分散である粘性材料を提供する段階と、第1の成分の複数の離散要素に対して応力を印加して、複数の離散要素を、離散要素の数が第1の複数の離散要素よりも多い第2の複数の離散要素に分割する段階とを備える、弾性材料生成方法を提供する。第2の複数の離散要素の離散要素は、組成および表面層のうち少なくとも一方が、隣接する離散要素との間において少なくとも斥力を与えて、離散要素が不可逆的に合体または不可逆的に再結合しないようにしているので、粘性材料は不可逆的に、初期材料組成と同一の材料組成を持つ弾性材料になる。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、米国仮特許出願第60/881,161号(出願日:2007年1月19日)に基づき優先権を主張する。当該仮出願の内容は全て、参照により本願に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、粘性材料から弾性材料を生成する方法および当該方法によって製造される材料に関する。
【背景技術】
【0003】
コロイド系は、熱平衡から構造が変化してしまうような大きなせん断応力を受けると、興味深いと共に珍しい挙動を示し得る(ダブリュー・ビー・ラッセル(W.B.Russel)、ディー・エー・サビーユ(D.A.Saville)、および、ダブリュー・アール・ショルター(W.R.Schowalter)、「コロイド系(Colloidal Dispersions)」、ケンブリッジ・ユニバーシティ・プレス、ケンブリッジ、1989)。例えば、ポリマーエンタングルメント溶液をせん断すると、ポリマーは伸張してエンタングルメントが解ける場合もあり、非ニュートン系のずり減粘挙動を示し、当該溶液の粘度ηは、ずり速度γが高くなるにつれて小さくなり得る(アール・ジー・ラーソン(R.G.Larson)、「複合流体の構造およびレオロジー(The Structure and Rheology of Complex Fluids)」、オックスフォード・ユニバーシティ・プレス、ニューヨーク、1999)。単純な液体内の濃縮剛体球等、ほかの分散系には、粘度がずり増粘挙動を示し得るものもあり(ジェイ・ベンダー(J.Bender)およびエヌ・ジェイ・ワグナー(N.J.Wagner)、ジェイ・レオル(J.Rheol)、40、899(1996))、該分散系はせん断力が大きくなるとより大きな抵抗を示すようになり、つまり、γが大きくなるとηが大きくなる。剛体球同士の間での誘引し合うような流体力学的な相互作用によって、球体のクラスタが形成されて、詰まったり(jam)スムーズに動いたりして、ηが分散し得る(ビー・ジェイ・マランザノ(B.J.Maranzano)およびエヌ・ジェイ・ワグナー(N.J.Wagner)、ジェイ・チェム(J.Chem)、「Phys.117」、10291(2002))。このようなηの増加は、元に戻すことが可能である。熱的力によって剛体球が再度分散されて平衡時の粒子構造に戻る。クレイ(粘土)−ポリマーの「シェイクゲル」は、γが大きくなった後に相互作用し合う成分の構造が変化することによって、一時的に弾性になり得る(ビー・キャバン(B.Cabane)、ケイ・ウォン(K.Wong)、ピー・リンドナー(P.Lindner)、およびエフ・ラフマ(F.Lafuma)、ジェイ・レオル(J.Rheol)、41、531(1997);ジェイ・ゼブロースキ(J.Zebrowski)、ブイ・プラサド(V.Prasad)、ダブリュー・チャン(W.Zhang)、エル・エム・ウォーカー(L.M.Walker)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、「コロイド表面(Colloidal Surfaces)」A213,189(2003);およびディー・シー・ポッゾ(D.C.Pozzo)およびエル・エム・ウォーカー(L.M.Walker)、「コロイド表面(Colloidal Surfaces)」A240、187(2004))。このような、流動によって引き起こされるレオロジー的変化はすべて、流動が止まった後は、長時間にわたって持続するものではない。
【0004】
粘性の液体に含まれるさまざまな複合的な分散系について、組成を変えることによって、永遠に弾性を与えることは比較的容易であるが、一般的に、当初は単純な液体のように挙動する斥力性物体の分散系を、組成を変えることなく極端なせん断力を与えることによって、不可逆的に、弾性固体に変化させることは非常に難しい。マヨネーズを作る場合、水溶液に油の液滴を加えてエマルジョンを準備し、卵黄のたんぱく質および両親媒性脂質による合体に対して安定化させておき、しっかりと撹拌しながらゆっくりと油の量を追加していくことによって通常、弾性を与える。撹拌することによって、油は肉眼で見える大きさからマイクロスケールの液滴へと、毛管不安定性によって、せん断破断される(ジェイ・エム・ラリソン(J.M.Rallison)、年次報告(Ann.Rev.)Fluid Mech.16、45(1984))。これは、表面張力σによって引き起こされる。液滴の体積率φが大きくなり油の液滴が互いに詰まり始めて変形し始めると、マヨネーズはせん断弾性係数G´を形成し、せん断弾性係数G´は重力を克服するのに十分な強力で、エマルジョンは「固まる」。そして、固体になったように見える。弾性は、不規則な発泡状の構造に詰め込まれた液滴をさらに変形させるために、表面張力に対して実施しなければならない作業によって生じる(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、ジェイ・ビベット(J.Bibette)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、Phys. Rev. Lett. 75, 2051 (1995))。この簡単な例によって分かるように、せん断しつつφを大きくすることによって、液状の分散系を弾性の分散系に変化させることが可能である。濃縮されたエマルジョンは、正弦波振幅変動流量計によって導入される中程度のせん断によって、幾分かより大きな弾性を有するようになる(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)およびピー・ケイ・ライ(P.K.Rai)、ジェイ・レオル(J.Rheol)47,513 (2003))。このような方法は、液滴体積率がおよそφ>0.5以上となる場合に、エマルジョンの粘弾性を穏やかに変化させるためにのみ用いられてきた。この制限があるために、特に液滴体積率がおよそφ<0.5以下のように低い場合に、せん断または流動によって応力を加えることによって、エマルジョンの組成を変えることなく、単純な粘性液体と同様のエマルジョンを弾性固体と同様のエマルジョンに不可逆的に変化させるための一般的な方法がまだ発見されていないことが明らかである。
【0005】
均一な斥力性液滴のガラス状のマイクロスケールのエマルジョンの場合、弾性は、詰まって不規則な液滴の変形によって生じる(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、ジェイ・ビベット(J.Bibette)、およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、Phys.Rev.Lett.75,2051(1995);およびティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、エム・ディー・ラカス(M.−D.Lacasse)、ジー・エス・グレスト(G.S.Grest)、ディー・レバイン(D.Levine)、ジェイ・ビベット(J.Bibette)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)Phys.Rev.E56、3150(1997))。φがφ<φMRJと低くて、液滴が詰まっていない場合、エマルジョンは単純な粘性液体と同様である。一方、φがφ>φMRJと大きくて、液滴が斥力で反発しつつ詰まって変形する場合、エマルジョンは固体と同様である。ここで、およそ0.64のφMRJが、球体の最大ランダム詰まり(Maximal Random Jamming:MRJ)に対応付けられる(エス・トルクアト(S.Torquato)、ティー・エム・トラスケット(T.M.Truskett)およびピー・ジー・デュベネデッティ(P.G.Debenedetti)、Phys.Rev.Lett.84、2064(2000))。これは、以前は、ランダム最密充填(Random Close Packing:RCP)と呼ばれていた(ジェイ・ジー・ベリーマン(J.G.Berryman)、Phys.Rev.A27、1053(1983)およびジェイ・ディー・バーナル(J.D.Bernal)、およびジェイ・メイソン(J.Mason)、ネイチャー(Nature)188,910(1960))。濃縮エマルジョンの線形弾性は、摂動せん断力を印加して、詰まった液滴をさらに変形させることによって生じ、未変形の液滴のラプラス圧力値は、せん断弾性貯蔵率の値、G´をおよそφ/aとし、aは液滴の半径である。このように、不規則で変形可能な物体の弾性がφの関数として変化することを基本的に理解すると、気泡の発泡体のG´も分かる(エー・セント−ジェームス(A.Saint−Jalmes)およびディー・ジェイ・デュリアン(D.J.Durian)、ジェイ・レオル(J.Rheol)43,1411(1999))。
【0006】
現時点において、液滴の変形、エントロピー、および液滴界面間での斥力による相互作用の安定化によるエネルギーを自己無撞着的に含むことによって、エマルジョンの線形せん断係数を正確に予測している理論はない。不規則で均一な球状の液滴のシミュレーションによると、斥力性詰まりポイントはφがおよそ0.64である場合と分かった(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、エム・ディー・ラカス(M.−D.Lacasse)、ジー・エス・グレスト(G.S.Grest)、ディー・レバイン(D.Levine)、ジェイ・ビベット(J.Bibette)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、Phys.Rev.E56,3150(1997);エム・ディー・ラカス(M.−D.Lacasse)、ジー・エス・グレスト(G.S.Grest)およびディー・レバイン(D.Levine)、Phys.Rev.E54,5436(1996);エム・ディー・ラカス(M.−D.Lacasse)、ジー・エス・グレスト(G.S.Grest)、ディー・レバイン(D.Levine)、ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、Phys.Rev.Lett.76,3448(1996);およびシー・エス・オハーン(C.S.O'Hern)、エス・エー・ランガー(S.A.Langer)、エー・ジェイ・リュー(A.J.Liu)およびエス・アール・ナゲル(S.R.Nagel)、Phys.Rev.Lett.88,075507(2002))。これは、単分散のマイクロスケールのエマルジョンに対する実験の結果と良好に一致している。このようなシミュレーションでは、サーフィス・エボルバー(Surface Evolver)を用いて、平均ローカル調整数の効果を含め、2つの液滴間での変形のエネルギーをモデル化した(ケイ・ブラッケ(K.Brakke)、Exp.Math.1,141(1992))。ランダム単分散発泡体に関する最近のシミュレーションによると、構造をはるかにより正確に描くことができている(エー・エム・クレイニク(A.M.Kraynik)、ディー・エー・ライネルト(D.A.Reinelt)およびエフ・ヴァン・スウォル(F.vanSwol)、Phys.Rev.Lett.93, 208302 (2004);およびエー・エム・クレイニク(A.M.Kraynik)、ディー・エー・ライネルト(D.A.Reinelt)およびエフ・ヴァン・スウォル(F.vanSwol)、Phys.Rev.E67,031403(2003))。しかし、すべてのシミュレーションで、エントロピーおよび静電斥力が無視されて、代わりに、変形可能な表面間での相互作用を「固い(ハード)」ものとして扱っている。これは、イオン界面活性剤は、対の相互作用ポテンシャル「U」における、デバイ・スクリーニングされた(Debye−Screened)斥力によって、液滴の合体を厳しく抑制しており、「a」に比べて距離が非常に短いので、多くの肉眼視可能なエマルジョンおよびマイクロスケールのエマルジョンならびにさらに大きい発泡体の気泡についてはもっともな仮定である。この場合、実質体積率はφeff=φ(1+h/(2a))3となり、式中のhは液滴表面間の分離度であり、短距離斥力によって生じるわずかな修正を説明している(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、エム・ディー・ラカス(M.−D.Lacasse)、ジー・エス・グレスト(G.S.Grest)、ディー・レバイン(D.Levine)、ジェイ・ビベット(J.Bibette)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、Phys.Rev.E56,3150(1997))。
【0007】
均一で不規則なエマルジョンの弾性についての今までの説明における明白な弱点は、G´(φeff)のユニバーサルスケーリング曲線を作成するべく選択された膜厚「h(φ)」のモデルについて、アドホックに仮定していたことにある。φMRJにおける17.5nmからφ=1における5nmまで線形に減少することを含むh(φ)のモデルが、選択された安定剤の測定値と一致していても(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、Phys.Rev.Lett.75,2770(1995)))、このようなh(φ)のアドホックモデルが、液滴の半径がナノスケールに近づいても適切であるとは考えにくい。このため、粘性材料から弾性材料を生成する方法を改良し、そのように改良された方法で製造された材料を提供することが求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る弾性材料生成方法は、初期材料組成を持つ粘性材料であって、第2の成分の連続流体相内に分散させられた第1の成分の複数の離散要素を含む多相分散である粘性材料を提供する段階と、第1の成分の複数の離散要素に対して応力を印加して、複数の離散要素を、離散要素の数が第1の複数の離散要素よりも多い第2の複数の離散要素に分割する段階とを備える。第2の複数の離散要素の離散要素は、組成および表面層のうち少なくとも一方が、隣接する離散要素との間において少なくとも安定化を実現するような斥力を与えて、応力の印加が完了した後に、離散要素が不可逆的に合体または不可逆的に再結合しないようにしているので、粘性材料は、初期材料組成と同一の材料組成を持つ弾性材料になる。弾性材料は、本発明の実施形態にかかる生成方法に従って製造される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
以下に記載する本発明のさまざまな実施形態の詳細な説明では、図面を参照しつつ、本発明のさらなる特徴を記載する。また、上述およびその他の付随の本発明の利点は、詳細な説明と添付図面とを組み合わせて参照することによって、より明らかとなる。添付図面は以下の通りである。
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に応じて、φ=0.40且つSDS界面活性剤濃度CSDS=116mMである、シリコーンPDMA水中油エマルジョンの線形せん断弾性貯蔵係数「G´(ω)」(実線で示す)および損失係数「G´´(ω)」(破線で示す)の周波数依存性を示す図である。該エマルジョンに対して、入力大気圧をp=3.4atm(デバイスの機械的増幅後は、約820atmのマイクロチャネルを介して、流圧が材料の流動を生じさせていることに相当する)に設定して、マイクロ流体をN=2回(三角)、3回(四角)、および6回(丸)通過させる。Nが大きくなると、ナノエマルジョンは、G´>G´´となると、ωの値の広範囲にわたって、非常に高い弾性を持つガラスになる。これは、ωの値が小さくなる方に延伸している弾性プラトー領域に対応する。
【0011】
【図1A】高圧マイクロ流体デバイス(チャネル幅は75ミクロン)を介してN=7回通過させた後の弾性ナノエマルジョンの構造を小角中性子散乱(SANS)で測定した結果を示す図である。散乱後の中性子強度「I」を波数「q」の関数として、実線の丸で、図示している。エマルジョンの組成は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の界面活性剤水溶液中のPDMSシリコーン油(粘度は10cSt)で、液滴体積率φ=0.40で、SDS濃度CSDS=116mMで、マイクロ流体デバイスへの入力大気圧はp=50psiである。実線は、I(q)=I0/[I+(qd)4]に対する適合であり、液滴の構造が不規則なガラス状エマルジョンに対応する。この式へと良好に適合しており、液滴の構造が不規則なガラス状であることが確認される。適合パラメータはI0=215±2cm−1およびd=12±1nmである。これとは対照的に、厳格に規則的なエマルジョンまたはその他の規則的なコロイド分散系、例えば、コロイド結晶のI(q)は、qの値が小さい時の強度のプラトー領域を超えるような、比較的大きなqの値に対応して、非常に明瞭にブラッグ(Bragg)ピークを示す。このようなブラッグピークは我々のデータには現れていないので、上述したように応力を加えた後に測定した、弾性ナノエマルジョンにおける液滴の位置構造は不規則であることを我々は直接検証した。
【0012】
【図2A−C】図1に示したエマルジョンの、流動によるガラス化を、液滴の分割と対応付けて示す図である。図2Aは、平均液滴半径<a>が小さくなって飽和状態になる様子を示す図である。棒は、標準偏差「δa」を示すのであって、平均における誤差を示すものではない。指数関数的に減少して一定値で飽和状態となることは、データ(ライン)に適合する。図2Bは、周波数ω=10rad/sにおける貯蔵係数G´が非常に大きくなって飽和状態となることを示す図である。これは、指数関数的に増加して飽和状態となること(ライン)に適合する。図2Cは、低周波側クロスオーバー周波数「ωlc」が、N≧4において、非常に小さくなることを示し、ガラス化を知らせる。
【0013】
【図3】本発明の一実施形態に係る、CSDS=10mMであり、平均半径<a>が28nm(三角)、47nm(丸)、73nm(四角)である単分散ナノエマルジョンについて、液滴体積率「φ」の関数としてプラトー弾性せん断貯蔵係数「G´P」を示す図である。ナノエマルジョンが弾性を有し始めるのは、φがおよそ0.64であるφMRJを十分下回る時である。参考のために、<a>=0.74μmで、CSDSは同じに設定されている、はるかに大きいマイクロスケールのエマルジョンについてのG´Pも図示している。
【0014】
【図4】液滴表面間の分離度の関数として、スケーリングされた相互作用ポテンシャル「U(h)/a4」を示す図である。ここで「a」は、図3に示したすべてのナノエマルジョンデータ(同種シンボル)から決定された平均液滴半径を表す。ラインは、デバイ・スクリーニングされた表面斥力への適合を示し、デバイ・スクリーニング長はλD=3.8±0.5nmとなる。内部の小図は、hを決定するべく、図3のG´Pをσ/aでスケーリングして、φにおいてマスター曲線へとシフトさせた(G´P(φeff)/(σ/a))。
【0015】
【図5】粘性のエマルジョンについて、高圧マイクロ流体デバイス(チャネル幅が75ミクロン)をN=1回(丸)、2回(四角)、3回(三角)、および6回(ひし形)通過させた後に、周波数ω=10rad/sの場合に、課された振動せん断ひずみ「γ」のピーク振幅の関数としてせん断応力「τ」のピーク振幅の測定値を示す図である。エマルジョンの組成は、PDMSシリコーン油(粘度は10cSt)が、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の界面活性剤水溶液に含まれており、液滴体積率φ=0.45で、SDS濃度はCSDS=100mMで、マイクロ流体デバイスへの入力大気圧はp=90psiである。エマルジョンの組成は、このままであって、Nの関数として変化するものではない。ひずみが小さい場合、応力−ひずみ応答は線形であり、対数でプロットした場合の傾斜が1であることに対応する。傾斜が線形挙動でなくなるのは、応力が降伏応力「τy」を超えた時である。τyを超える応力を発生させるひずみが加えられると、ピーク応力は、傾きが1未満のべき乗則の挙動を示す。N=0の場合の応力−ひずみ曲線を測定しようと試みたが、トルクがレオメータの測定限界点を下回っている。線は見易さのために書き込まれている。
【0016】
【図6】粘性エマルジョンが高圧マイクロ流体デバイス(チャネル幅が75ミクロン)をN回通過した後で測定された、図5のせん断応力−ひずみデータに基づいて決定される、降伏応力「τy」の測定値を示す図である。当該エマルジョンは、PDMSシリコーン油(粘度は10cSt)が、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の界面活性剤水溶液に含まれており、液滴体積率φ=0.45で、SDS濃度はCSDS=100mMで、(マイクロ流体デバイスへの)入力大気圧はp=90psiである。エマルジョンの組成は、このままであって、Nの関数として変化するものではない。一回通過した後であっても、降伏応力は測定可能な値となり、何度か通過した後では、当該材料を含む導管が側方に傾斜されても当該材料を流れさせ得る通常の重力応力に、当該材料が耐えるために必要な値より大きくなる。
【0017】
【図7】粘性エマルジョンが高圧マイクロ流体デバイス(チャネルサイズが75ミクロン)をN=4回通過した後で、蒸発を抑制する密閉容器内で摂氏23度の温度において熟成時間tageにわたって熟成させた後、動的光散乱(Dynamic Light Scattering:DLS)によって測定された、平均液滴半径<a>を示す図である。当該エマルジョンは、PDMSシリコーン油(粘度は10cSt)が、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の界面活性剤水溶液に含まれており、液滴体積率φ=0.40で、SDS濃度はCSDS=100mMで、(マイクロ流体デバイスへの)入力大気圧はp=120psiである。棒は、サイズ分布の実質幅を表し、1つの標準偏差に対する半径サイズ分布の多分散性に対応する。この実験においてDLS機器分解能のために半径サイズ分布の平均が不明であるが、およそ±4nmであり、平均液滴半径は、機器の分解能内では、3年半以上経っても進化していない。
【0018】
【図8】CSDS=10mMであり、NaClを溶解させている(CNaCl=0mM(赤色の丸)、10mM(青色の上下逆の三角)、40mM(ひし形)および90mM(正三角形))界面活性剤水溶液によって希釈した後の単分散ナノエマルジョン(<a>=47nm、CSDS=10mM)について、体積率φの関数として、プラトー線形弾性せん断係数「G´P」(ω=10rad/s)を示す。
【0019】
【図9】本発明の一実施形態に従って、粘性のマイクロスケールのエマルジョン(φ=0.40、CSDS=116mM)に対して、マイクロ流体ホモジナイザー内の流動を利用して(入力大気圧をp=3.4atm、チャネル幅=75ミクロン)、ホモジナイザーをN=2回、4回および8回(左から右に)通過させて応力を印加した場合に生じ得る弾性ガラス化の効果を表すための写真画像を示す図である。Nの値を8回と大きくすると、バイアル内のエマルジョン(グレーに見える部分)と空気(黒く見える部分)との間の界面は垂直なままで、エマルジョンの粘性が大きくなって(紙面では、上から下への方向で作用する)重力を克服していることが分かる。粘性が大きくならなければ、粘性材料は界面が水平になるまで流れる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一部の実施形態によると、組成を変えることなく、せん断または流動によって、液状の粘性材料を固体状の弾性材料に変化させることができる。このように、材料内において構造を不可逆的に分割させる物理的な処理を用いて、材料のレオロジー挙動を、液体の挙動から固体の挙動へと劇的に変化させることができる。このような変化は、多くの物質は実際にはこのように大きなせん断力が加えられると、壊れるか、または、緩くなって、不可逆的に弱くなるので、非常にまれなことである。
【0021】
エマルジョンとは、ある液状材料の液滴を別のこれとは混合しない液状材料に分散させたもので、大きな液滴を流動によって小さな液滴に分断することによって形成され得る。これら2種類の液体の界面に吸着することを好む界面活性剤が通常追加されて、液滴が合体(つまり融合)しないようにして、液滴のサイズ分布が時間が経過しても変化しないようにする。エマルジョンは一般的に、水中油エマルジョン(通常型)および油中水エマルジョン(逆型)に分類され、このように互いに異なる構成は、適切な安定性を実現する適切な界面活性剤を用いると共にせん断中に成分を追加する順序を制御することによって、可能となる。
【0022】
マイクロスケールの液滴を含む水中油エマルジョンは、一般的な製品であって、何世紀にもわたって生産されている。簡単な例を挙げると、通常卵黄およびオリーブオイルから生産されるマヨネーズがある。卵黄は、安定性を実現する両親媒性の脂質およびたんぱく質の分子を共に含み、オリーブオイルは、少しずつ流して加えられ、その間に泡だて器またはスプーンで卵黄とオリーブオイルの混合材料をかき混ぜる。機械的なせん断エネルギーの一部は、液滴がより小さいサイズに分断されて形成される液滴の界面領域に貯蔵される。通常の機械的デバイスは、通常は約300ナノメートル程度の液滴直径まで、液滴を分断することができるようなせん断速度を実現し得るが、この限界値よりも小さい値まで、サイズ分布におけるピークを低減することは非常に難しい。歴史的には、サブミクロンエマルジョンは「ミニエマルジョン」として知られており、過去20年間の間はマイクロ流体手段および超音波手段を用いて生成されてきた。このような方法によれば、非常に小さい液滴でさえも伸張および分断できるような非常に高いせん断速度または流速が得られる。実際、平均液滴サイズが100nm未満となる、ナノスケール領域にまで液滴を細かくする超音波分散機またはマイクロ流体ホモジナイザーの利用を報告する文献もある。「サイズ」という用語が半径を示すのか直径を示すのか、幾分あいまいではあるが、このように2つの意味があるという点は、2nmから3nm程度のミセル単位から肉眼で見える寸法の液滴まで、液滴のサイズ範囲は広いことを考えれば、非常に些細な事柄である。
【0023】
マイクロスケールの弾性のエマルジョンが通常有する液滴体積率よりもはるかに低い、液滴体積率「φ」のある範囲にわたって弾性を有するナノエマルジョンは、本発明の一部の実施形態にしたがって製造され得る。大半のマイクロスケールのエマルジョンは液滴体積率(液滴の総体積を液滴の総体積と連続相の総体積との合計で除算した商として定義される)が約60%から70%であるときに弾性を持つが、本発明の実施形態によって我々はこれよりもはるかに低い液滴体積率、最も極端な例では、20%から30%の範囲内で、増粘剤またはその他のレオロジー調整剤を追加する必要がなくても、高い弾性を持つナノエマルジョンを生成することができるようになった。技術的には、不規則な単分散球の詰まりに対応付けられる体積率があり、「最大ランダム詰まり(Maximally Random Jammed)体積率」と呼ばれ、φMRJは約0.64である。マイクロスケールの液滴またはそれより大きい液滴を含むエマルジョンは、液滴体積率がφMRJを超えた場合にのみ、弾性が測定可能となる。このようなマイクロスケールの液滴およびそれより大きい液滴の場合に弾性を生じさせるには、さらに、液滴の界面を変形させる。尚、液滴の界面は既に、密に隣接する液滴に押し付けられることによって変形されている。これをさらに変形するには、伸張応力またはせん断応力を印加する。これとは対照的に、ナノエマルジョンの場合、液滴の界面同士の斥力ポテンシャルと液滴の変形とを組み合わせることによって、弾性を生じさせる。ナノエマルジョンに伸張応力またはせん断応力が加えられると、液滴は変形せずにそのままであることが比較的多いが、単位体積あたりの液滴間斥力エネルギーは、液滴サイズが小さい場合には弾性応答において斥力ポテンシャルの役割がはるかに重要であるので、非常に大きくなり得る。
【0024】
以下に記載する例によって、ナノエマルジョンの弾性は、生じさせるに当たって界面活性剤が与える液滴相互作用の斥力ポテンシャルが相対的により大きな重要性を持ち、大半のマイクロスケールのエマルジョンでは通常そうであるように、互いに押し付け合う詰め込まれた液滴の界面が変形する結果によってのみ発生するのではない、という解釈をサポートする。液滴のサイズに関係なく、安定化のための膜厚は通常、数ナノメートルであるので、マイクロスケールの液滴の場合、表面層の体積は、液滴の体積と比較すると、非常に小さくなる。しかし、ナノスケールの液滴の場合、表面層の体積は液滴の体積と比較して非常に大きくなり、その結果、エマルジョンは、液滴が隣接する液滴に対して「押し付けられる」ので、相互作用ポテンシャルの斥力部分によって、はるかに低い液滴体積率でも、弾性を持つ。これを、以下に例として記載するプロセスに基づいて明確に説明する。SDSによって安定化され、液滴体積率が、硬球の詰まり点であるφMRJ=0.64よりも十分に低い、φ=0.35で粘性の液体として挙動する、水とシリコーン油とから成るマイクロスケールの「事前に混合しておいた」エマルジョンを考える。当該エマルジョンを、一般的に入手可能な高圧ホモジナイザーにおいて流して、材料の組成を変化させることなく、液滴が不規則なガラス構造を持つ弾性のナノエマルジョンを得る。このように、組成を変化させることなく不可逆的に弾性を持つようガラス化する効果は非常に珍しく、類似のほかの材料としては、「シェイクゲル」と呼ばれるクレイ−ポリマー混合体が挙げられるのみで、該クレイーポリマー混合体は、せん断されると構造が変化して一時的に弾性を有するが、この弾性力は時間が経過するとすぐに消えてしまう。弾性ガラス化処理によって我々が生成するナノエマルジョンは、最も初期のサンプルを観察した結果によると、永久的に、少なくとも数年間、おそらくそれよりも長期間にわたって、弾性を維持できる。対照実験によると、弾性ガラス化現象は溶液内の界面活性剤の構造が変化することによって生じるのではないことが分かっている。弾性ガラス化現象は通常、分散成分(例えば、液滴)の数の増加と、その結果の各分散成分の平均体積または平均サイズの減少とに起因して発生する。さらに、エマルジョンの弾性を制御することができ、溶液内で高いイオン強度において電荷斥力相互作用をスクリーニングすることによって、弾性を消すことができる。このように、塩水は、固体状の不規則なナノエマルジョンを液状材料へと「融解」するべく利用することができる。我々は、イオン交換樹脂は同様に、イオン強度を低減させて、デバイ・スクリーニングを低減して、ナノエマルジョンに再度弾性を与えるべく利用され得ると推測している。
【0025】
我々は、本発明の一部の実施形態によると、弾性ガラス化が最も顕著になるのは、破断後の最小液滴サイズと、最小イオン強度とについてであることを発見した。これは、このような条件下で、液滴界面同士の斥力相互作用の相対的な重要さが、材料の弾性応答について、より重要になるという説と一致している。原理はカチオン系界面活性剤と同様であるので、我々の推測では、カチオン系界面活性剤も同様の物理メカニズムによってφの値が小さくても弾性を持つと思われる。実際、カチオン系界面活性剤である臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)を用いて、φがφMRJをはるかに下回っている場合に、強力なマイクロ流体ホモジナイザーにおける流動によって、水中油エマルジョンにおいて弾性ガラス化を発生させ得ることを我々は証明した。非イオン系界面活性剤によって安定化されているエマルジョンについては、界面活性剤の分子が、液滴界面に接触すると、少なくとも数ナノメートルにわたって連続相に広がる場合、応力を印加して液滴を分割するという同一の処理によって低いφでも弾性ガラス化を実現できる。特定のプルロニック(Pluronic:登録商標)界面活性剤は、液滴を安定化させて、連続に大きく広がる非イオン系ジブロック界面活性剤の例である。
【0026】
液滴をナノスケールに分割することによってエマルジョンを弾性ガラス化する技術は、化粧品、洗面用品、および食品等の分野において利用可能である。この理由としては、材料のレオロジーによって当該材料を皮膚に塗布した場合の気持ち良さが決まり、水っぽくて緩い液体は一般的に好まれない傾向があることが挙げられる。なめらかでざらざらしていない、よりしっとりとした材料が一般的により好ましいとされ、こぼすことも少なく塗布も簡単である。しかし、水性でない原料は、油も含めて、製品の成分のうち最もコストが高いことが多いので、コストが高い成分の利用を少なくして、同じ使用感を達成することは、消費者の要望を満たしつつ製品の総コストを削減する、利益の多い代替案であり得る。食品についても利用可能性があり、興味深い。例えば、本発明の実施形態によって、油分よりも水分が多い、ナノスケールの液滴から成る低脂肪マヨネーズを生産することができる。このような弾性ガラス性材料を「ナノネーズ」と呼んでいる。この弾性ガラス化処理は、消費者がマヨネーズに期待する弾性特性は留めている、低脂肪エマルジョンを生産する自然な方法である。また、ナノスケールエマルジョンの光学特性は、透明に見えるように調整することができるので、脂肪を少なくしたことを消費者にアピールし得る。光学特性は、白く見せるほうが消費者へより魅力をアピールできるような事情があれば、φが小さい場合の弾性特性を大きく変化させることなく多重光散乱を生じさせる比較的大きい液滴を少数加えることによって、白く見えるようにも制御し得る。
【0027】
マイクロスケールのエマルジョンと同様の弾性を有しているが液滴体積率が大幅に低いナノエマルジョンについて、薬剤、洗面用品、化粧品、食品、さらには、塗料およびコーティング剤のような分野の企業の製品の主成分となり得るのではないかと考えている。
【0028】
<例>
本発明の一実施形態に係る、イオン的に安定化したモデルのエマルジョン系を利用して、流体によって発生させる「弾性ガラス化」を実証する。具体的には、非常に大きな伸張力を持つ最高約108s−1の流量(つまり、「ひずみ速度」)を、本例においてφ<φMRJに固定してマイクロスケールのシリコーン油と水とを「事前に混合した」エマルジョンに、与える。しかし、本発明の一般的な思想は、このような具体的な材料のみに限定されるのではなく、このように高い流量に限定されるわけではない。このように強力な流動またはその他の励起手段が生成する大きな応力は、液滴をナノスケールサイズにまで破断する効果を奏し、その結果得られる、不規則な「ガラス状」のナノエマルジョンは(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、ジェイ・エヌ・ウィルキング(J.N.Wilking)、ケイ・メルソン(K.Meleson)、シー・ビー・チャン(C.B.Chang)、およびエス・エム・グレーブス(S.M.Graves)、J.Phys.:Condens.Matter18、R635(2006))、φ自体が変化していなくても、非常に大きな弾性を有し得る。通常マイクロスケールの液滴から成る弾性エマルジョンを意味する「マヨネーズ」に倣って、弾性ナノエマルジョンを「ナノネーズ」と呼ぶことにする。イオン的に安定したエマルジョンについて、破断が発生すると、hがデバイ・スクリーニング長λDに向かって減少し、液滴は反発しつつ集合して、「デバイ・ガラス」と呼ぶ状態になる。φの値が小さいにもかかわらず、ナノエマルジョンの弾性が高いのは、デバイ・スクリーニングされた斥力の影響が大きくなることと、変形されていないナノサイズの液滴のラプラス圧、ΠL=2σ/aが全体的に大きくなることとに原因があると考えられる。斥力を持つ成分から成る不規則なネットワークについて簡単なモデルを用いて、G´(φ)から、平均相互作用ポテンシャル「U(h)」を液滴の界面間の分離の関数として抽出し、このポテンシャルはデバイ・スクリーニング法則と満足する程度に一致する。このように、比較的変形されていないナノサイズの液滴間でスクリーニングされた静電斥力は、イオン的に安定したナノエマルジョンの弾性について、重要な役割を果たす。
【0029】
本発明の本実施形態に係る、事前に混合されたエマルジョンを生成するべく、「シリコーン油」の一種であるポリジメチルシロキサン(PDMS)をマイクロスケールの液滴で、φが所望の値になるまで、通常は臨界ミセル濃度(CMC)である8mMより高い濃度の「CSDS」のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液に、機械的ミキサーを用いて分散させる。この結果得られる、事前に混合されたマイクロスケールのエマルジョンは、<a>がおよそ5μmを中心としてサイズ分布が広い多分散系である。このように事前に混合されたエマルジョンは、ステンレススチール/セラミックの高圧「ハード」マイクロ流動体デバイス(Microfluidics Inc.社のMicrofluidizers(登録商標)モデル110S)に与えられ、当該デバイス内では、毎秒約3mLのエマルジョンが、75μmのマイクロ流動体チャネルを通して、主に伸張力を持つ流動形状で、送り出される。当該マイクロ流動体デバイスは、約240倍に入力大気圧「p」を機械的に増幅させて、最高約2400atmの液体圧を形成する。このように大きい液体圧とマイクロチャネルの厚みの薄さとが組み合わさると、
【数1】
となる大きなピーク伸張ひずみ速度が生じ得る。このように流量が高いと、表面張力を克服して個々のマイクロスケールの液滴を多数のより小さいナノスケールの液滴に分割するようなローカル応力が、液滴の周囲に、発生し得る。粘性消散による発熱を緩和するべく、出力されるエマルジョンの温度は熱交換器を用いて制御され得る。φ=0の場合は、流体を流しても、界面活性剤溶液の粘度が変化せず、または、界面活性剤溶液そのものが弾性を有するようにはならないことを示したので、弾性ガラス化を実行するには、少なくともある程度は液滴の分散成分が必要であることが分かる。
【0030】
上述した例で言及した具体的なモデルも含め、多くのマイクロ流動体デバイスでの流動は通常不均一なので、全ての液滴が当該デバイスが生成し得るピーク応力を確実に受けるように、エマルジョンを再循環させるか、または、マイクロ流動体デバイスを複数回「通過」するようにエマルジョンを制御してよい。通過させる度に(N回)、エマルジョンを少量だけ回収して、円錐−板および小型のクエット形状を用いて、標準的な小ひずみ線形振動せん断粘弾性レオロジー測定法を実行して、周波数依存性の貯蔵係数G´(ω)および損失係数G´´(ω)を決定する。高度に希釈されたエマルジョンの動的光散乱(DLS)に基づいて、平均半径<a>および標準偏差δaを求める。測定はすべて、室温、つまりT=摂氏23度で行われる。
【0031】
流体を流すことによって生じさせる弾性ガラス化は、製造者が特定したおよそp=10atmの最高入力大気圧において1回通過させるのみで実行し得るが、これよりも小さくおよそp=3.4atmと設定して、より広い範囲のNの値に対して(図1)、ガラス化という特徴を示す。CSDS=116mMおよびφ=0.4と固定すると、Nが大きくなると、N=2では粘性応答(G´´>G´)となっているが、急速且つ系統的に、弾性応答に変化する(N≧6ではG´>G´´)。弾性プラトー「G´P」が主になるのは、せん断を繰り返した場合である(N>6)。G´が急速に大きくなると、低周波側クロスオーバー周波数「ωlc」(G´=G´´の箇所)は急速に小さくなって、ガラス化の開始を示唆する。そして、半径サイズの多分散性は通常、DLSによるとN≧6で、δa/<a>はおよそ0.25となる。
【0032】
中性子散乱に基づいて、得られたガラス化された液滴の構造因子において、最も近接した互いに隣接する幅広のピークを発見した。これらのピークは、ガラス状固体の特徴であり、結晶性固体または多結晶性固体の特徴であるブラッグピークではない。応力を印加する処理から直接得られたものであって、その後にいかなるサイズ分別処理および再濃縮化処理も行っていない弾性ナノエマルジョンに対する中性子散乱実験によって、液滴構造は、不規則でガラスに類似していることが分かっている(図1A参照)。ガラス状構造を確認するためのこの実験は基本的に、ナノエマルジョンに対して行われる先行技術に係る中性子散乱測定のうちどれとも異なっている。これは、先行技術に係る実験は、遠心分離および浸透圧の利用に基づいて、希釈された液状ナノエマルジョンを、濃縮化固体状ナノエマルジョンに濃縮していたからである(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、エス・エム・グレーブス(S.M.Graves)、ジェイ・エヌ・ウィルキング(J.N.Wilking)およびエム・ワイ・リン(M.Y.Lin)、J.Phys.Chem.110,22097(2006))。このような超遠心分離法を用いて液滴を濃縮する処理は、液滴体積率の組成変化を生じさせるので、基本的に本明細書で記載する処理とは異なる。中性子散乱に基づいて得られた、強力な流動によって直接生成されるナノエマルジョンはガラス状構造を持つという新たな証拠は、流動によって粒子および液滴を整理する方法は公知であるが、このような処理は液滴が密になる実質体積率を変化させて弾性に影響を与え得るので、自明ではない。
【0033】
φの値を固定して流動によって発生させる弾性ガラス化は通常、強力な液滴の破断と相互に関連し、流動によって発生する合体は、流動の実質的な影響によって分散成分の表面積対体積の比率が大きくなる限り、限定的に許容可能である。G´P(N)の値が大きくなって飽和状態になることは、<a(N)>が減少して飽和状態になることに対応する(図2Aから図2B参照)。実験において、
【数2】
の適合を実現する。式中で、下付きで示す「sat」はN>>1における飽和状態を意味し、<asat>=60±1nm、β=2.3±0.1、およびNa=1.25±0.09となる。ここで、Naは、指数関数的な減少の1/eの値を意味するので、NがNaの数倍になると飽和状態となる。同様に、飽和までの指数関数的な増加に注目すると、
【数3】
の適合を実現する。ここで、G´p−sat=4.2±0.5×104dyn/cm2、Nsat=4.0±0.5、およびNG´=0.32±06となる。G´P(N)および<a(N)>での飽和状態が
【数4】
と対応していることと、ωlcが減少すること(図2C)は、弾性ガラス化が、液滴がナノスケールになるまで分割されると、生じていることを示す。
【0034】
<a>に応じてG´Pがどのように変化するのかを検討するべく、超遠心分離法を用いてナノエマルジョンをサイズについて分別して、CSDS=10mMに固定したまま多分散性δa/<a>がおよそ0.15となるまで低くした(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、ジェイ・エヌ・ウィルキング(J.N.Wilking)、ケイ・メルソン(K.Meleson)、シー・ビー・チャン(C.B.Chang)、エス・エム・グレーブス(S.M.Graves)、J.Phys.: Condens.Matter18,R635(2006))。<a>のそれぞれの値について、20,000RPMで超遠心分離法を実行してφの値を最大値に設定して、界面活性剤溶液でそれぞれストックされたナノエマルジョンを希釈する。非常に興味深いことに、φがφMRJよりもはるかに小さくておよそ0.23と小さい値であっても、ナノエマルジョンのG´P(φ)が増加し得る(図3参照)。G´P(φ)はまず急激に増加して、φの値が大きくなるにつれて、上昇がより緩やかになる。このような挙動はマイクロスケールのエマルジョンのG´P(φ)でも同様であるが、「ナノネーズ」は、斥力エマルジョンについて以前に観測されているφの値よりもはるかに小さいφの値で、強力な弾性を有する。
【0035】
近距離において少なくとも安定的な斥力を持つ不規則に分散された球状成分の簡単なモデルを用いて、G´P(φ)から液滴相互作用ポテンシャルU(h)を得る。液滴1つについてz=6の最も近接した隣接する液滴を仮定して、浸透圧が
【数5】
で、単位セル体積が
【数6】
で、Vdは液滴の体積である。浸透圧下の不規則な斥力ネットワークについて、実験およびシミュレーションによると、
【数7】
という推測が支持される(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、ジェイ・ビベット(J.Bibette)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、Phys.Rev.Lett.75,2051(1995))。このため、液滴−液滴の「接触」毎の相互作用エネルギーとして、
【数8】
を得る。hの値を決定するべく、測定されたG´P/(σ/a)をφに対して上方向にシフトさせて、「ハード」な相互作用の変形可能な液滴についての予測と重複させる(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、エム・ディー・ラカス(M.−D.Lacasse)、ジー・エス・グレスト(G.S.Grest)、ディー・レバイン(D.Levine)、ジェイ・ビベット(J.Bibette)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)Phys. Rev. E 56, 3150 (1997))。G´P(φeff)=1.74(σ/a)φeff(φeff−φMRJ)(図4の挿入図参照)とする。このようにシフトさせてφeffを得て、液滴が球状であると仮定して、h=2a[(φeff/φ)1/3−1]を算出する。デバイ・スクリーニングされた斥力ポテンシャルは電荷の二乗に比例するので、<a>の全ての値について表面電荷密度ρSが一定であると仮定して、a4によってU(h)を正規化する。このように再スケーリングすると、ポテンシャルは全て、1つのマスター曲線に落ち着く(図4参照)。当該マスター曲線は、B2ρS2exp(−h/λD)/(hεr)に適合させる。式中、Bは一定の値で、εr=80は水の相対的な誘電率である。ρS=3.2×103esu/cm2およびCSDS=10mMの場合(エフ・リール・カルデロン(F.Leal−Calderon)、ティー・ストーラ(T.Stora)、オー・モンデイン−モンバル(O.Mondain−Monval)、ピー・ポラン(P.Poulin)、およびジェイ・ビベット(J.Bibette)、Phys.Rev.Lett.72,2959(1994))、適合させるとB=5.9±0.4およびλD=3.8±0.5nmとなり、報告されているλD=3.5nmに良好に一致する(ジェイ・マラ(J.Marra)およびエム・エル・ヘア(M.L.Hair)J.コロイド界面(Colloid Interface)Sci.128,511(1988))。図4に示すように良好に落ち着いていることは、φの値が小さい場合のナノエマルジョンのG´Pを正確に予測するには、Uに対して現実的なモデルを用いなければならないことを明瞭に示している。
【0036】
ナノエマルジョンのレオロジーに関する我々の解釈によれば、h(φ)についてアドホックな表現に依存することなくG´P(φ)を十分に説明できることに加えて、ソフトでガラス状の斥力球体コロイド懸濁液についてU(h)を測定する巨視的方法が提供される。z=6と仮定して斥力接触不規則性(Repulsive Contact−Disorder:RCD)の解釈に基づくと、φMRJおよび
【数9】
において詰まりが発生し、微視的なU(h)を得る。斥力コロイド結晶に関する以前の研究によると、G´P(φ)は、
【数10】
を本質的に仮定して、微視的なU(h)に関連していた。式中で、KΠ(φ)は浸透圧縮係数であり(アール・バスコール(R. Buscall)、J. Chem. Soc. Faraday Trans. 87, 1365 (1991);およびエル・レイノード(L. Raynau)、ビー・アーンスト(B. Ernst)、シー・バージ(C. Verge)およびジェイ・ムイス(J. Mewis)、J. Colloid Interface Sci. 181, 11 (1996))、密集が発生するのはφがおよそ0.74でz=12の場合である。結晶に対するこの方法をガラス状コロイド系に応用すると、正確なスケーリングが得られず、λDおよびρSが現実的な値にならない。これとは対照的に、RCDモデルを用いて得られたU(h)は、CSDSが同じである磁気的に操作された磁性流体エマルジョンに対するブラッグ散乱実験と一致する(エフ・リール−カルデロン(F. Leal−Calderon)、ティー・ストーラ(T. Stora)、オー・モンデイン−モンバル(O. Mondain−Monval)、ピー・ポラン(P. Poulin)、およびジェイ・ビベット(J. Bibette)、Phys. Rev. Lett. 72, 2959 (1994))。シミュレーションによって、
【数9】
という仮定は確認されているが(エム・ディー・ラカス(M.−D.Lacasse)、ジー・エス・グレスト(G.S.Grest)、ディー・レバイン(D.Levine)、ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)Phys. Rev. Lett. 76, 3448 (1996))、理論的にはほとんど注目されていない(エス・アレキサンダー(S. Alexander)J. Phys. (France) 45, 1939 (1984))。原則的に、濃縮されて、ソフトで、ガラス状の、任意の球体斥力コロイド系に対してG´P(φ)が既知である場合、RCDアプローチはU(h)を得るべく応用され得る。これとは対照的に、光トラップ(ディー・ジー・グリエ(D.G. Grier)、Curr. Opin. Colloid Interface Sci. 2, 264 (1997))、表面力装置(ジェイ・エヌ・イスラエラクビリ(J.N. Israelachvili)、分子間力および表面力(Intermolecular and Surface Forces) (Academic Press, London, 1992))、および磁性流体エマルジョン(エフ・リール・カルデロン(F.Leal−Calderon)、ティー・ストーラ(T.Stora)、オー・モンデイン−モンバル(O.Mondain−Monval)、ピー・ポラン(P.Poulin)、およびジェイ・ビベット(J.Bibette)、Phys. Rev. Lett. 72, 2959 (1994))等のほかの方法は通常、φ→0で実行される。カチオン系、アニオン系、荷電ポリマー系、または両性イオン系の界面活性剤によって電荷が安定化されたナノエマルジョンは、アニオン系SDS界面活性剤について我々が示してきたものと同様のG´P(φ)を持つが、非イオン系および非荷電ポリマー系の界面活性剤で安定化されたナノエマルジョンは、分子圧縮率に関連する斥力のためにG´P(φ)が異なる。
【0037】
強力な流動を用いてマイクロスケールの液滴をナノスケールの液滴に分割することによる弾性ガラス化の効果を証明してきたが、弾性ガラス化は、マイクロ流動体デバイスにおける強力な流動をエマルジョンに与えることについて、比較的一般的に発生する。マイクロスケール分散成分およびそれより大きい分散成分を、通常は最大線形寸法が100nm未満となる、より多数のより小サイズの成分に分割して、分散成分の総表面積を多相分散における分散成分の総体積で除算して得る比率を大きくするためには、多相分散における分散成分に対して大きな応力を加えることができるその他の種類のデバイスを用いるとしてよい。分散成分を分割することができるような応力を加えることができるその他の種類のデバイスには、集束音波生成器、超音波デバイス、集束超音波デバイス、ホモジナイザー、ミキサー、コロイドミル、エクストルーダー等がある。また、約1ナノメートルから100ナノメートルの範囲内の、分散成分の表面同士の相互作用ポテンシャルに少なくとも近距離斥力があれば、分散成分を分割することによる弾性ガラス化の効果を生じさせることができる。結果として得られる弾性ガラス状多相分散の構造が不規則な構造となるのは、詰まりに対応する実質体積率が、結果として得られる多相分散の構造が規則的または結晶性を有する構造となる場合よりも低いので、利点である。
【0038】
要約すると、流動によって、多相分散の分散成分の構造を不可逆的に分割して、弾性ガラス化を生じさせることで、φの値が驚くほど低くても高い弾性を持つナノエマルジョンの画期的な製造方法が提供される。アニオン系材料を用いて安定化されたナノネーズのこのような特性は、珍しいと共に利用可能性が高いが、aがλDに近づくと、ナノスケールの液滴間での電荷スクリーニングされた斥力が、相対的により重要となることに基づいて得られている。ナノネーズに関して我々が理解しているところによると、エマルジョンに限らずより広い範囲の多相分散が、流体中の斥力成分を分割して、流体中にとどまるより多数のより小サイズの斥力成分を生成するべく強力な応力を加えると、不可逆的な弾性ガラス化特性を示し得ることは明らかである。我々の研究は、斥力相互作用、液滴変形、およびエントロピーを含め、ナノエマルジョンのG´P(φ)およびΠ(φ)を正確に予測する、自己無撞着的理論の必要性を強調している。最後に、我々の予測では、不規則なガラス状ナノエマルジョンを慎重に巨視的レオロジーで研究すれば、界面活性剤および液滴表面に存在するその他の分子が形成する微視的相互作用ポテンシャルを定量的に測定することができる。
【0039】
高圧マイクロ流動体デバイスの通過回数Nと共に、結果として得られるエマルジョンのプラトー線形弾力せん断係数G´Pが大きくなることを示すことに加えて、与えられるせん断力に対する降伏応力τyの応答がNの関数として増加することをも証明した(図5および図6参照)。
【0040】
図7は、応力が与えられたことによる液滴のサイズの減少は、非常に長期間にわたって不可逆的であることを示している。つまり、長時間が経過することによって弾性材料が劣化しても、液滴のサイズを計測するのに用いた動的光散乱(DLS)機器の測定不確実性の範囲内において、長年にわたってサイズ分布は変化しない。エマルジョンの弾性は平均液滴サイズと相関関係にあるので、このデータは、弾性材料の弾性せん断係数は、例え年単位で時間が経過しても大きく変化しないことを示唆している。この点は、製品の陳列寿命に関して重要である。
【0041】
図8は、NaClがさらに溶解された(CNaCl=0mM(赤色の丸)、10mM(青色の上下逆にした三角)、40mM(緑色のひし形)および90mM(黒色の正三角形))界面活性剤水溶液によって希釈された単分散ナノエマルジョン(<a>=47nm、CSDS=10mM)の体積率φの関数として、プラトー線形弾性せん断係数G´P(ω=10rad/s)を示す。同図から分かるように、連続相における塩の濃度によって、液滴間の斥力相互作用の範囲が変化し、結果として得られるエマルジョンの弾性を制御し得る。
【0042】
図9は、マイクロ流動体ホモジナイザー(入力大気圧はρ=3.4atm)内で強力な機械的な流動を加えた後のマイクロスケールの粘性エマルジョン(φ=0.40、CSDS=116mM)を示す図である。当該エマルジョンは、マイクロ流動体ホモジナイザーをN回通過させられ、通過させられる度にサブサンプルを直立ガラスバイアルに入れて、サンプルが入ったバイアルを側方に倒してから数分後に画像を撮影している。地球の重力は(紙面の上方から下方へ)下向きにかかっている。バイアルは、直径が約1cmで、エマルジョンはぼんやりと見える。黒い部分は空気である。地球の重力場によっても空気とエマルジョンとの境界が傾斜しないことから分かるように、エマルジョンの弾性はエマルジョンに強力な流動が与えられるとより強くなっていく。通過回数が少ない場合(N=2)、エマルジョン材料は粘性を有しており、流れて、表面に対する法線が重力の方向に沿っている。一方、通過回数が多くなると(N=8)、多相材料は弾性を有し、流れず、長期間(つまり、数日、数週間、および数ヶ月)が経過しても、表面に対する法線が重力に対して直交したままとなる。
【0043】
液滴サイズ分布が大きく変化しないことを示すのみでなく、線形粘弾性レオロジー特性測定によっても、弾性ガラス化が不可逆的であることを証明した。この実験を説明すると、エマルジョンの組成は、PDMSシリコーン油(粘度は10cSt)をドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の界面活性剤水溶液に含んでいる。液滴体積率はφ=0.4で、SDS濃度はCSDS=116mMで、マイクロ流動体デバイスに対する入力大気圧はp=50psiで、マイクロ流動体デバイス(チャネル幅は75ミクロン)をN=6回通過させた。プラトー弾性せん断係数G´Pについて、処理が完了した直後はG´P=(3±1)×104dyn/cm2という値が最初に測定される。461日間という経時劣化期間の後で、温度を摂氏23度に設定してテフロンコーティングが施されたスクリューキャップを持つガラス瓶に保持された同じサンプルのG´Pを再測定すると、G´P=(5±1)×104dyn/cm2であった。これらの値は、機械的なレオロジー特性測定器の負荷条件に起因する実験の不確実性を考慮すると、実質的に同一であるので、エマルジョンの弾性ガラス化処理は不可逆的で、当該処理によって達成された大きな弾性せん断係数は1年以上が経過しても変化しないと結論づけられる。
【0044】
アニオン系界面活性剤に分散されているシリコーン油の液滴の弾性ガラス化を証明することに加えて、同じ弾性ガラス化の効果が、カチオン系界面活性剤の水溶液に分散させられているシリコーン油の液滴についても得られることを示してきた。特に、カチオン系界面活性剤である臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)の界面活性剤水溶液に含まれるPDMSシリコーン油(粘度は10cSt)の弾性ガラス化処理を用いた。ここで、液滴体積率はφ=0.4で、CTAB濃度はCCTAB=200mMで、マイクロ流動体デバイスに対する入力大気圧はp=90psiで、マイクロ流動体デバイスをN=6回通過させた(チャネル幅は75ミクロン)。この結果、弾性ガラス化プロセスは、SDS等のアニオン系界面活性剤によって安定化されたシリコーン油と水とを含むエマルジョン以外の材料について比較的一般的に生じることを確認した。
【0045】
さまざまな実施形態に基づいて本発明を詳細に説明した。以上の記載より、本発明から逸脱することなく本発明のより広い側面において変更および修正を実施し得ることが、当業者には明らかであろう。このため、そのような変更および修正はすべて、本発明の真の精神の範囲内に収まるものとして扱い、請求項において定義されている本発明に含まれるものとする。
【関連出願】
【0001】
本願は、米国仮特許出願第60/881,161号(出願日:2007年1月19日)に基づき優先権を主張する。当該仮出願の内容は全て、参照により本願に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、粘性材料から弾性材料を生成する方法および当該方法によって製造される材料に関する。
【背景技術】
【0003】
コロイド系は、熱平衡から構造が変化してしまうような大きなせん断応力を受けると、興味深いと共に珍しい挙動を示し得る(ダブリュー・ビー・ラッセル(W.B.Russel)、ディー・エー・サビーユ(D.A.Saville)、および、ダブリュー・アール・ショルター(W.R.Schowalter)、「コロイド系(Colloidal Dispersions)」、ケンブリッジ・ユニバーシティ・プレス、ケンブリッジ、1989)。例えば、ポリマーエンタングルメント溶液をせん断すると、ポリマーは伸張してエンタングルメントが解ける場合もあり、非ニュートン系のずり減粘挙動を示し、当該溶液の粘度ηは、ずり速度γが高くなるにつれて小さくなり得る(アール・ジー・ラーソン(R.G.Larson)、「複合流体の構造およびレオロジー(The Structure and Rheology of Complex Fluids)」、オックスフォード・ユニバーシティ・プレス、ニューヨーク、1999)。単純な液体内の濃縮剛体球等、ほかの分散系には、粘度がずり増粘挙動を示し得るものもあり(ジェイ・ベンダー(J.Bender)およびエヌ・ジェイ・ワグナー(N.J.Wagner)、ジェイ・レオル(J.Rheol)、40、899(1996))、該分散系はせん断力が大きくなるとより大きな抵抗を示すようになり、つまり、γが大きくなるとηが大きくなる。剛体球同士の間での誘引し合うような流体力学的な相互作用によって、球体のクラスタが形成されて、詰まったり(jam)スムーズに動いたりして、ηが分散し得る(ビー・ジェイ・マランザノ(B.J.Maranzano)およびエヌ・ジェイ・ワグナー(N.J.Wagner)、ジェイ・チェム(J.Chem)、「Phys.117」、10291(2002))。このようなηの増加は、元に戻すことが可能である。熱的力によって剛体球が再度分散されて平衡時の粒子構造に戻る。クレイ(粘土)−ポリマーの「シェイクゲル」は、γが大きくなった後に相互作用し合う成分の構造が変化することによって、一時的に弾性になり得る(ビー・キャバン(B.Cabane)、ケイ・ウォン(K.Wong)、ピー・リンドナー(P.Lindner)、およびエフ・ラフマ(F.Lafuma)、ジェイ・レオル(J.Rheol)、41、531(1997);ジェイ・ゼブロースキ(J.Zebrowski)、ブイ・プラサド(V.Prasad)、ダブリュー・チャン(W.Zhang)、エル・エム・ウォーカー(L.M.Walker)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、「コロイド表面(Colloidal Surfaces)」A213,189(2003);およびディー・シー・ポッゾ(D.C.Pozzo)およびエル・エム・ウォーカー(L.M.Walker)、「コロイド表面(Colloidal Surfaces)」A240、187(2004))。このような、流動によって引き起こされるレオロジー的変化はすべて、流動が止まった後は、長時間にわたって持続するものではない。
【0004】
粘性の液体に含まれるさまざまな複合的な分散系について、組成を変えることによって、永遠に弾性を与えることは比較的容易であるが、一般的に、当初は単純な液体のように挙動する斥力性物体の分散系を、組成を変えることなく極端なせん断力を与えることによって、不可逆的に、弾性固体に変化させることは非常に難しい。マヨネーズを作る場合、水溶液に油の液滴を加えてエマルジョンを準備し、卵黄のたんぱく質および両親媒性脂質による合体に対して安定化させておき、しっかりと撹拌しながらゆっくりと油の量を追加していくことによって通常、弾性を与える。撹拌することによって、油は肉眼で見える大きさからマイクロスケールの液滴へと、毛管不安定性によって、せん断破断される(ジェイ・エム・ラリソン(J.M.Rallison)、年次報告(Ann.Rev.)Fluid Mech.16、45(1984))。これは、表面張力σによって引き起こされる。液滴の体積率φが大きくなり油の液滴が互いに詰まり始めて変形し始めると、マヨネーズはせん断弾性係数G´を形成し、せん断弾性係数G´は重力を克服するのに十分な強力で、エマルジョンは「固まる」。そして、固体になったように見える。弾性は、不規則な発泡状の構造に詰め込まれた液滴をさらに変形させるために、表面張力に対して実施しなければならない作業によって生じる(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、ジェイ・ビベット(J.Bibette)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、Phys. Rev. Lett. 75, 2051 (1995))。この簡単な例によって分かるように、せん断しつつφを大きくすることによって、液状の分散系を弾性の分散系に変化させることが可能である。濃縮されたエマルジョンは、正弦波振幅変動流量計によって導入される中程度のせん断によって、幾分かより大きな弾性を有するようになる(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)およびピー・ケイ・ライ(P.K.Rai)、ジェイ・レオル(J.Rheol)47,513 (2003))。このような方法は、液滴体積率がおよそφ>0.5以上となる場合に、エマルジョンの粘弾性を穏やかに変化させるためにのみ用いられてきた。この制限があるために、特に液滴体積率がおよそφ<0.5以下のように低い場合に、せん断または流動によって応力を加えることによって、エマルジョンの組成を変えることなく、単純な粘性液体と同様のエマルジョンを弾性固体と同様のエマルジョンに不可逆的に変化させるための一般的な方法がまだ発見されていないことが明らかである。
【0005】
均一な斥力性液滴のガラス状のマイクロスケールのエマルジョンの場合、弾性は、詰まって不規則な液滴の変形によって生じる(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、ジェイ・ビベット(J.Bibette)、およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、Phys.Rev.Lett.75,2051(1995);およびティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、エム・ディー・ラカス(M.−D.Lacasse)、ジー・エス・グレスト(G.S.Grest)、ディー・レバイン(D.Levine)、ジェイ・ビベット(J.Bibette)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)Phys.Rev.E56、3150(1997))。φがφ<φMRJと低くて、液滴が詰まっていない場合、エマルジョンは単純な粘性液体と同様である。一方、φがφ>φMRJと大きくて、液滴が斥力で反発しつつ詰まって変形する場合、エマルジョンは固体と同様である。ここで、およそ0.64のφMRJが、球体の最大ランダム詰まり(Maximal Random Jamming:MRJ)に対応付けられる(エス・トルクアト(S.Torquato)、ティー・エム・トラスケット(T.M.Truskett)およびピー・ジー・デュベネデッティ(P.G.Debenedetti)、Phys.Rev.Lett.84、2064(2000))。これは、以前は、ランダム最密充填(Random Close Packing:RCP)と呼ばれていた(ジェイ・ジー・ベリーマン(J.G.Berryman)、Phys.Rev.A27、1053(1983)およびジェイ・ディー・バーナル(J.D.Bernal)、およびジェイ・メイソン(J.Mason)、ネイチャー(Nature)188,910(1960))。濃縮エマルジョンの線形弾性は、摂動せん断力を印加して、詰まった液滴をさらに変形させることによって生じ、未変形の液滴のラプラス圧力値は、せん断弾性貯蔵率の値、G´をおよそφ/aとし、aは液滴の半径である。このように、不規則で変形可能な物体の弾性がφの関数として変化することを基本的に理解すると、気泡の発泡体のG´も分かる(エー・セント−ジェームス(A.Saint−Jalmes)およびディー・ジェイ・デュリアン(D.J.Durian)、ジェイ・レオル(J.Rheol)43,1411(1999))。
【0006】
現時点において、液滴の変形、エントロピー、および液滴界面間での斥力による相互作用の安定化によるエネルギーを自己無撞着的に含むことによって、エマルジョンの線形せん断係数を正確に予測している理論はない。不規則で均一な球状の液滴のシミュレーションによると、斥力性詰まりポイントはφがおよそ0.64である場合と分かった(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、エム・ディー・ラカス(M.−D.Lacasse)、ジー・エス・グレスト(G.S.Grest)、ディー・レバイン(D.Levine)、ジェイ・ビベット(J.Bibette)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、Phys.Rev.E56,3150(1997);エム・ディー・ラカス(M.−D.Lacasse)、ジー・エス・グレスト(G.S.Grest)およびディー・レバイン(D.Levine)、Phys.Rev.E54,5436(1996);エム・ディー・ラカス(M.−D.Lacasse)、ジー・エス・グレスト(G.S.Grest)、ディー・レバイン(D.Levine)、ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、Phys.Rev.Lett.76,3448(1996);およびシー・エス・オハーン(C.S.O'Hern)、エス・エー・ランガー(S.A.Langer)、エー・ジェイ・リュー(A.J.Liu)およびエス・アール・ナゲル(S.R.Nagel)、Phys.Rev.Lett.88,075507(2002))。これは、単分散のマイクロスケールのエマルジョンに対する実験の結果と良好に一致している。このようなシミュレーションでは、サーフィス・エボルバー(Surface Evolver)を用いて、平均ローカル調整数の効果を含め、2つの液滴間での変形のエネルギーをモデル化した(ケイ・ブラッケ(K.Brakke)、Exp.Math.1,141(1992))。ランダム単分散発泡体に関する最近のシミュレーションによると、構造をはるかにより正確に描くことができている(エー・エム・クレイニク(A.M.Kraynik)、ディー・エー・ライネルト(D.A.Reinelt)およびエフ・ヴァン・スウォル(F.vanSwol)、Phys.Rev.Lett.93, 208302 (2004);およびエー・エム・クレイニク(A.M.Kraynik)、ディー・エー・ライネルト(D.A.Reinelt)およびエフ・ヴァン・スウォル(F.vanSwol)、Phys.Rev.E67,031403(2003))。しかし、すべてのシミュレーションで、エントロピーおよび静電斥力が無視されて、代わりに、変形可能な表面間での相互作用を「固い(ハード)」ものとして扱っている。これは、イオン界面活性剤は、対の相互作用ポテンシャル「U」における、デバイ・スクリーニングされた(Debye−Screened)斥力によって、液滴の合体を厳しく抑制しており、「a」に比べて距離が非常に短いので、多くの肉眼視可能なエマルジョンおよびマイクロスケールのエマルジョンならびにさらに大きい発泡体の気泡についてはもっともな仮定である。この場合、実質体積率はφeff=φ(1+h/(2a))3となり、式中のhは液滴表面間の分離度であり、短距離斥力によって生じるわずかな修正を説明している(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、エム・ディー・ラカス(M.−D.Lacasse)、ジー・エス・グレスト(G.S.Grest)、ディー・レバイン(D.Levine)、ジェイ・ビベット(J.Bibette)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、Phys.Rev.E56,3150(1997))。
【0007】
均一で不規則なエマルジョンの弾性についての今までの説明における明白な弱点は、G´(φeff)のユニバーサルスケーリング曲線を作成するべく選択された膜厚「h(φ)」のモデルについて、アドホックに仮定していたことにある。φMRJにおける17.5nmからφ=1における5nmまで線形に減少することを含むh(φ)のモデルが、選択された安定剤の測定値と一致していても(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、Phys.Rev.Lett.75,2770(1995)))、このようなh(φ)のアドホックモデルが、液滴の半径がナノスケールに近づいても適切であるとは考えにくい。このため、粘性材料から弾性材料を生成する方法を改良し、そのように改良された方法で製造された材料を提供することが求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る弾性材料生成方法は、初期材料組成を持つ粘性材料であって、第2の成分の連続流体相内に分散させられた第1の成分の複数の離散要素を含む多相分散である粘性材料を提供する段階と、第1の成分の複数の離散要素に対して応力を印加して、複数の離散要素を、離散要素の数が第1の複数の離散要素よりも多い第2の複数の離散要素に分割する段階とを備える。第2の複数の離散要素の離散要素は、組成および表面層のうち少なくとも一方が、隣接する離散要素との間において少なくとも安定化を実現するような斥力を与えて、応力の印加が完了した後に、離散要素が不可逆的に合体または不可逆的に再結合しないようにしているので、粘性材料は、初期材料組成と同一の材料組成を持つ弾性材料になる。弾性材料は、本発明の実施形態にかかる生成方法に従って製造される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
以下に記載する本発明のさまざまな実施形態の詳細な説明では、図面を参照しつつ、本発明のさらなる特徴を記載する。また、上述およびその他の付随の本発明の利点は、詳細な説明と添付図面とを組み合わせて参照することによって、より明らかとなる。添付図面は以下の通りである。
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に応じて、φ=0.40且つSDS界面活性剤濃度CSDS=116mMである、シリコーンPDMA水中油エマルジョンの線形せん断弾性貯蔵係数「G´(ω)」(実線で示す)および損失係数「G´´(ω)」(破線で示す)の周波数依存性を示す図である。該エマルジョンに対して、入力大気圧をp=3.4atm(デバイスの機械的増幅後は、約820atmのマイクロチャネルを介して、流圧が材料の流動を生じさせていることに相当する)に設定して、マイクロ流体をN=2回(三角)、3回(四角)、および6回(丸)通過させる。Nが大きくなると、ナノエマルジョンは、G´>G´´となると、ωの値の広範囲にわたって、非常に高い弾性を持つガラスになる。これは、ωの値が小さくなる方に延伸している弾性プラトー領域に対応する。
【0011】
【図1A】高圧マイクロ流体デバイス(チャネル幅は75ミクロン)を介してN=7回通過させた後の弾性ナノエマルジョンの構造を小角中性子散乱(SANS)で測定した結果を示す図である。散乱後の中性子強度「I」を波数「q」の関数として、実線の丸で、図示している。エマルジョンの組成は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の界面活性剤水溶液中のPDMSシリコーン油(粘度は10cSt)で、液滴体積率φ=0.40で、SDS濃度CSDS=116mMで、マイクロ流体デバイスへの入力大気圧はp=50psiである。実線は、I(q)=I0/[I+(qd)4]に対する適合であり、液滴の構造が不規則なガラス状エマルジョンに対応する。この式へと良好に適合しており、液滴の構造が不規則なガラス状であることが確認される。適合パラメータはI0=215±2cm−1およびd=12±1nmである。これとは対照的に、厳格に規則的なエマルジョンまたはその他の規則的なコロイド分散系、例えば、コロイド結晶のI(q)は、qの値が小さい時の強度のプラトー領域を超えるような、比較的大きなqの値に対応して、非常に明瞭にブラッグ(Bragg)ピークを示す。このようなブラッグピークは我々のデータには現れていないので、上述したように応力を加えた後に測定した、弾性ナノエマルジョンにおける液滴の位置構造は不規則であることを我々は直接検証した。
【0012】
【図2A−C】図1に示したエマルジョンの、流動によるガラス化を、液滴の分割と対応付けて示す図である。図2Aは、平均液滴半径<a>が小さくなって飽和状態になる様子を示す図である。棒は、標準偏差「δa」を示すのであって、平均における誤差を示すものではない。指数関数的に減少して一定値で飽和状態となることは、データ(ライン)に適合する。図2Bは、周波数ω=10rad/sにおける貯蔵係数G´が非常に大きくなって飽和状態となることを示す図である。これは、指数関数的に増加して飽和状態となること(ライン)に適合する。図2Cは、低周波側クロスオーバー周波数「ωlc」が、N≧4において、非常に小さくなることを示し、ガラス化を知らせる。
【0013】
【図3】本発明の一実施形態に係る、CSDS=10mMであり、平均半径<a>が28nm(三角)、47nm(丸)、73nm(四角)である単分散ナノエマルジョンについて、液滴体積率「φ」の関数としてプラトー弾性せん断貯蔵係数「G´P」を示す図である。ナノエマルジョンが弾性を有し始めるのは、φがおよそ0.64であるφMRJを十分下回る時である。参考のために、<a>=0.74μmで、CSDSは同じに設定されている、はるかに大きいマイクロスケールのエマルジョンについてのG´Pも図示している。
【0014】
【図4】液滴表面間の分離度の関数として、スケーリングされた相互作用ポテンシャル「U(h)/a4」を示す図である。ここで「a」は、図3に示したすべてのナノエマルジョンデータ(同種シンボル)から決定された平均液滴半径を表す。ラインは、デバイ・スクリーニングされた表面斥力への適合を示し、デバイ・スクリーニング長はλD=3.8±0.5nmとなる。内部の小図は、hを決定するべく、図3のG´Pをσ/aでスケーリングして、φにおいてマスター曲線へとシフトさせた(G´P(φeff)/(σ/a))。
【0015】
【図5】粘性のエマルジョンについて、高圧マイクロ流体デバイス(チャネル幅が75ミクロン)をN=1回(丸)、2回(四角)、3回(三角)、および6回(ひし形)通過させた後に、周波数ω=10rad/sの場合に、課された振動せん断ひずみ「γ」のピーク振幅の関数としてせん断応力「τ」のピーク振幅の測定値を示す図である。エマルジョンの組成は、PDMSシリコーン油(粘度は10cSt)が、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の界面活性剤水溶液に含まれており、液滴体積率φ=0.45で、SDS濃度はCSDS=100mMで、マイクロ流体デバイスへの入力大気圧はp=90psiである。エマルジョンの組成は、このままであって、Nの関数として変化するものではない。ひずみが小さい場合、応力−ひずみ応答は線形であり、対数でプロットした場合の傾斜が1であることに対応する。傾斜が線形挙動でなくなるのは、応力が降伏応力「τy」を超えた時である。τyを超える応力を発生させるひずみが加えられると、ピーク応力は、傾きが1未満のべき乗則の挙動を示す。N=0の場合の応力−ひずみ曲線を測定しようと試みたが、トルクがレオメータの測定限界点を下回っている。線は見易さのために書き込まれている。
【0016】
【図6】粘性エマルジョンが高圧マイクロ流体デバイス(チャネル幅が75ミクロン)をN回通過した後で測定された、図5のせん断応力−ひずみデータに基づいて決定される、降伏応力「τy」の測定値を示す図である。当該エマルジョンは、PDMSシリコーン油(粘度は10cSt)が、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の界面活性剤水溶液に含まれており、液滴体積率φ=0.45で、SDS濃度はCSDS=100mMで、(マイクロ流体デバイスへの)入力大気圧はp=90psiである。エマルジョンの組成は、このままであって、Nの関数として変化するものではない。一回通過した後であっても、降伏応力は測定可能な値となり、何度か通過した後では、当該材料を含む導管が側方に傾斜されても当該材料を流れさせ得る通常の重力応力に、当該材料が耐えるために必要な値より大きくなる。
【0017】
【図7】粘性エマルジョンが高圧マイクロ流体デバイス(チャネルサイズが75ミクロン)をN=4回通過した後で、蒸発を抑制する密閉容器内で摂氏23度の温度において熟成時間tageにわたって熟成させた後、動的光散乱(Dynamic Light Scattering:DLS)によって測定された、平均液滴半径<a>を示す図である。当該エマルジョンは、PDMSシリコーン油(粘度は10cSt)が、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の界面活性剤水溶液に含まれており、液滴体積率φ=0.40で、SDS濃度はCSDS=100mMで、(マイクロ流体デバイスへの)入力大気圧はp=120psiである。棒は、サイズ分布の実質幅を表し、1つの標準偏差に対する半径サイズ分布の多分散性に対応する。この実験においてDLS機器分解能のために半径サイズ分布の平均が不明であるが、およそ±4nmであり、平均液滴半径は、機器の分解能内では、3年半以上経っても進化していない。
【0018】
【図8】CSDS=10mMであり、NaClを溶解させている(CNaCl=0mM(赤色の丸)、10mM(青色の上下逆の三角)、40mM(ひし形)および90mM(正三角形))界面活性剤水溶液によって希釈した後の単分散ナノエマルジョン(<a>=47nm、CSDS=10mM)について、体積率φの関数として、プラトー線形弾性せん断係数「G´P」(ω=10rad/s)を示す。
【0019】
【図9】本発明の一実施形態に従って、粘性のマイクロスケールのエマルジョン(φ=0.40、CSDS=116mM)に対して、マイクロ流体ホモジナイザー内の流動を利用して(入力大気圧をp=3.4atm、チャネル幅=75ミクロン)、ホモジナイザーをN=2回、4回および8回(左から右に)通過させて応力を印加した場合に生じ得る弾性ガラス化の効果を表すための写真画像を示す図である。Nの値を8回と大きくすると、バイアル内のエマルジョン(グレーに見える部分)と空気(黒く見える部分)との間の界面は垂直なままで、エマルジョンの粘性が大きくなって(紙面では、上から下への方向で作用する)重力を克服していることが分かる。粘性が大きくならなければ、粘性材料は界面が水平になるまで流れる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一部の実施形態によると、組成を変えることなく、せん断または流動によって、液状の粘性材料を固体状の弾性材料に変化させることができる。このように、材料内において構造を不可逆的に分割させる物理的な処理を用いて、材料のレオロジー挙動を、液体の挙動から固体の挙動へと劇的に変化させることができる。このような変化は、多くの物質は実際にはこのように大きなせん断力が加えられると、壊れるか、または、緩くなって、不可逆的に弱くなるので、非常にまれなことである。
【0021】
エマルジョンとは、ある液状材料の液滴を別のこれとは混合しない液状材料に分散させたもので、大きな液滴を流動によって小さな液滴に分断することによって形成され得る。これら2種類の液体の界面に吸着することを好む界面活性剤が通常追加されて、液滴が合体(つまり融合)しないようにして、液滴のサイズ分布が時間が経過しても変化しないようにする。エマルジョンは一般的に、水中油エマルジョン(通常型)および油中水エマルジョン(逆型)に分類され、このように互いに異なる構成は、適切な安定性を実現する適切な界面活性剤を用いると共にせん断中に成分を追加する順序を制御することによって、可能となる。
【0022】
マイクロスケールの液滴を含む水中油エマルジョンは、一般的な製品であって、何世紀にもわたって生産されている。簡単な例を挙げると、通常卵黄およびオリーブオイルから生産されるマヨネーズがある。卵黄は、安定性を実現する両親媒性の脂質およびたんぱく質の分子を共に含み、オリーブオイルは、少しずつ流して加えられ、その間に泡だて器またはスプーンで卵黄とオリーブオイルの混合材料をかき混ぜる。機械的なせん断エネルギーの一部は、液滴がより小さいサイズに分断されて形成される液滴の界面領域に貯蔵される。通常の機械的デバイスは、通常は約300ナノメートル程度の液滴直径まで、液滴を分断することができるようなせん断速度を実現し得るが、この限界値よりも小さい値まで、サイズ分布におけるピークを低減することは非常に難しい。歴史的には、サブミクロンエマルジョンは「ミニエマルジョン」として知られており、過去20年間の間はマイクロ流体手段および超音波手段を用いて生成されてきた。このような方法によれば、非常に小さい液滴でさえも伸張および分断できるような非常に高いせん断速度または流速が得られる。実際、平均液滴サイズが100nm未満となる、ナノスケール領域にまで液滴を細かくする超音波分散機またはマイクロ流体ホモジナイザーの利用を報告する文献もある。「サイズ」という用語が半径を示すのか直径を示すのか、幾分あいまいではあるが、このように2つの意味があるという点は、2nmから3nm程度のミセル単位から肉眼で見える寸法の液滴まで、液滴のサイズ範囲は広いことを考えれば、非常に些細な事柄である。
【0023】
マイクロスケールの弾性のエマルジョンが通常有する液滴体積率よりもはるかに低い、液滴体積率「φ」のある範囲にわたって弾性を有するナノエマルジョンは、本発明の一部の実施形態にしたがって製造され得る。大半のマイクロスケールのエマルジョンは液滴体積率(液滴の総体積を液滴の総体積と連続相の総体積との合計で除算した商として定義される)が約60%から70%であるときに弾性を持つが、本発明の実施形態によって我々はこれよりもはるかに低い液滴体積率、最も極端な例では、20%から30%の範囲内で、増粘剤またはその他のレオロジー調整剤を追加する必要がなくても、高い弾性を持つナノエマルジョンを生成することができるようになった。技術的には、不規則な単分散球の詰まりに対応付けられる体積率があり、「最大ランダム詰まり(Maximally Random Jammed)体積率」と呼ばれ、φMRJは約0.64である。マイクロスケールの液滴またはそれより大きい液滴を含むエマルジョンは、液滴体積率がφMRJを超えた場合にのみ、弾性が測定可能となる。このようなマイクロスケールの液滴およびそれより大きい液滴の場合に弾性を生じさせるには、さらに、液滴の界面を変形させる。尚、液滴の界面は既に、密に隣接する液滴に押し付けられることによって変形されている。これをさらに変形するには、伸張応力またはせん断応力を印加する。これとは対照的に、ナノエマルジョンの場合、液滴の界面同士の斥力ポテンシャルと液滴の変形とを組み合わせることによって、弾性を生じさせる。ナノエマルジョンに伸張応力またはせん断応力が加えられると、液滴は変形せずにそのままであることが比較的多いが、単位体積あたりの液滴間斥力エネルギーは、液滴サイズが小さい場合には弾性応答において斥力ポテンシャルの役割がはるかに重要であるので、非常に大きくなり得る。
【0024】
以下に記載する例によって、ナノエマルジョンの弾性は、生じさせるに当たって界面活性剤が与える液滴相互作用の斥力ポテンシャルが相対的により大きな重要性を持ち、大半のマイクロスケールのエマルジョンでは通常そうであるように、互いに押し付け合う詰め込まれた液滴の界面が変形する結果によってのみ発生するのではない、という解釈をサポートする。液滴のサイズに関係なく、安定化のための膜厚は通常、数ナノメートルであるので、マイクロスケールの液滴の場合、表面層の体積は、液滴の体積と比較すると、非常に小さくなる。しかし、ナノスケールの液滴の場合、表面層の体積は液滴の体積と比較して非常に大きくなり、その結果、エマルジョンは、液滴が隣接する液滴に対して「押し付けられる」ので、相互作用ポテンシャルの斥力部分によって、はるかに低い液滴体積率でも、弾性を持つ。これを、以下に例として記載するプロセスに基づいて明確に説明する。SDSによって安定化され、液滴体積率が、硬球の詰まり点であるφMRJ=0.64よりも十分に低い、φ=0.35で粘性の液体として挙動する、水とシリコーン油とから成るマイクロスケールの「事前に混合しておいた」エマルジョンを考える。当該エマルジョンを、一般的に入手可能な高圧ホモジナイザーにおいて流して、材料の組成を変化させることなく、液滴が不規則なガラス構造を持つ弾性のナノエマルジョンを得る。このように、組成を変化させることなく不可逆的に弾性を持つようガラス化する効果は非常に珍しく、類似のほかの材料としては、「シェイクゲル」と呼ばれるクレイ−ポリマー混合体が挙げられるのみで、該クレイーポリマー混合体は、せん断されると構造が変化して一時的に弾性を有するが、この弾性力は時間が経過するとすぐに消えてしまう。弾性ガラス化処理によって我々が生成するナノエマルジョンは、最も初期のサンプルを観察した結果によると、永久的に、少なくとも数年間、おそらくそれよりも長期間にわたって、弾性を維持できる。対照実験によると、弾性ガラス化現象は溶液内の界面活性剤の構造が変化することによって生じるのではないことが分かっている。弾性ガラス化現象は通常、分散成分(例えば、液滴)の数の増加と、その結果の各分散成分の平均体積または平均サイズの減少とに起因して発生する。さらに、エマルジョンの弾性を制御することができ、溶液内で高いイオン強度において電荷斥力相互作用をスクリーニングすることによって、弾性を消すことができる。このように、塩水は、固体状の不規則なナノエマルジョンを液状材料へと「融解」するべく利用することができる。我々は、イオン交換樹脂は同様に、イオン強度を低減させて、デバイ・スクリーニングを低減して、ナノエマルジョンに再度弾性を与えるべく利用され得ると推測している。
【0025】
我々は、本発明の一部の実施形態によると、弾性ガラス化が最も顕著になるのは、破断後の最小液滴サイズと、最小イオン強度とについてであることを発見した。これは、このような条件下で、液滴界面同士の斥力相互作用の相対的な重要さが、材料の弾性応答について、より重要になるという説と一致している。原理はカチオン系界面活性剤と同様であるので、我々の推測では、カチオン系界面活性剤も同様の物理メカニズムによってφの値が小さくても弾性を持つと思われる。実際、カチオン系界面活性剤である臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)を用いて、φがφMRJをはるかに下回っている場合に、強力なマイクロ流体ホモジナイザーにおける流動によって、水中油エマルジョンにおいて弾性ガラス化を発生させ得ることを我々は証明した。非イオン系界面活性剤によって安定化されているエマルジョンについては、界面活性剤の分子が、液滴界面に接触すると、少なくとも数ナノメートルにわたって連続相に広がる場合、応力を印加して液滴を分割するという同一の処理によって低いφでも弾性ガラス化を実現できる。特定のプルロニック(Pluronic:登録商標)界面活性剤は、液滴を安定化させて、連続に大きく広がる非イオン系ジブロック界面活性剤の例である。
【0026】
液滴をナノスケールに分割することによってエマルジョンを弾性ガラス化する技術は、化粧品、洗面用品、および食品等の分野において利用可能である。この理由としては、材料のレオロジーによって当該材料を皮膚に塗布した場合の気持ち良さが決まり、水っぽくて緩い液体は一般的に好まれない傾向があることが挙げられる。なめらかでざらざらしていない、よりしっとりとした材料が一般的により好ましいとされ、こぼすことも少なく塗布も簡単である。しかし、水性でない原料は、油も含めて、製品の成分のうち最もコストが高いことが多いので、コストが高い成分の利用を少なくして、同じ使用感を達成することは、消費者の要望を満たしつつ製品の総コストを削減する、利益の多い代替案であり得る。食品についても利用可能性があり、興味深い。例えば、本発明の実施形態によって、油分よりも水分が多い、ナノスケールの液滴から成る低脂肪マヨネーズを生産することができる。このような弾性ガラス性材料を「ナノネーズ」と呼んでいる。この弾性ガラス化処理は、消費者がマヨネーズに期待する弾性特性は留めている、低脂肪エマルジョンを生産する自然な方法である。また、ナノスケールエマルジョンの光学特性は、透明に見えるように調整することができるので、脂肪を少なくしたことを消費者にアピールし得る。光学特性は、白く見せるほうが消費者へより魅力をアピールできるような事情があれば、φが小さい場合の弾性特性を大きく変化させることなく多重光散乱を生じさせる比較的大きい液滴を少数加えることによって、白く見えるようにも制御し得る。
【0027】
マイクロスケールのエマルジョンと同様の弾性を有しているが液滴体積率が大幅に低いナノエマルジョンについて、薬剤、洗面用品、化粧品、食品、さらには、塗料およびコーティング剤のような分野の企業の製品の主成分となり得るのではないかと考えている。
【0028】
<例>
本発明の一実施形態に係る、イオン的に安定化したモデルのエマルジョン系を利用して、流体によって発生させる「弾性ガラス化」を実証する。具体的には、非常に大きな伸張力を持つ最高約108s−1の流量(つまり、「ひずみ速度」)を、本例においてφ<φMRJに固定してマイクロスケールのシリコーン油と水とを「事前に混合した」エマルジョンに、与える。しかし、本発明の一般的な思想は、このような具体的な材料のみに限定されるのではなく、このように高い流量に限定されるわけではない。このように強力な流動またはその他の励起手段が生成する大きな応力は、液滴をナノスケールサイズにまで破断する効果を奏し、その結果得られる、不規則な「ガラス状」のナノエマルジョンは(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、ジェイ・エヌ・ウィルキング(J.N.Wilking)、ケイ・メルソン(K.Meleson)、シー・ビー・チャン(C.B.Chang)、およびエス・エム・グレーブス(S.M.Graves)、J.Phys.:Condens.Matter18、R635(2006))、φ自体が変化していなくても、非常に大きな弾性を有し得る。通常マイクロスケールの液滴から成る弾性エマルジョンを意味する「マヨネーズ」に倣って、弾性ナノエマルジョンを「ナノネーズ」と呼ぶことにする。イオン的に安定したエマルジョンについて、破断が発生すると、hがデバイ・スクリーニング長λDに向かって減少し、液滴は反発しつつ集合して、「デバイ・ガラス」と呼ぶ状態になる。φの値が小さいにもかかわらず、ナノエマルジョンの弾性が高いのは、デバイ・スクリーニングされた斥力の影響が大きくなることと、変形されていないナノサイズの液滴のラプラス圧、ΠL=2σ/aが全体的に大きくなることとに原因があると考えられる。斥力を持つ成分から成る不規則なネットワークについて簡単なモデルを用いて、G´(φ)から、平均相互作用ポテンシャル「U(h)」を液滴の界面間の分離の関数として抽出し、このポテンシャルはデバイ・スクリーニング法則と満足する程度に一致する。このように、比較的変形されていないナノサイズの液滴間でスクリーニングされた静電斥力は、イオン的に安定したナノエマルジョンの弾性について、重要な役割を果たす。
【0029】
本発明の本実施形態に係る、事前に混合されたエマルジョンを生成するべく、「シリコーン油」の一種であるポリジメチルシロキサン(PDMS)をマイクロスケールの液滴で、φが所望の値になるまで、通常は臨界ミセル濃度(CMC)である8mMより高い濃度の「CSDS」のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液に、機械的ミキサーを用いて分散させる。この結果得られる、事前に混合されたマイクロスケールのエマルジョンは、<a>がおよそ5μmを中心としてサイズ分布が広い多分散系である。このように事前に混合されたエマルジョンは、ステンレススチール/セラミックの高圧「ハード」マイクロ流動体デバイス(Microfluidics Inc.社のMicrofluidizers(登録商標)モデル110S)に与えられ、当該デバイス内では、毎秒約3mLのエマルジョンが、75μmのマイクロ流動体チャネルを通して、主に伸張力を持つ流動形状で、送り出される。当該マイクロ流動体デバイスは、約240倍に入力大気圧「p」を機械的に増幅させて、最高約2400atmの液体圧を形成する。このように大きい液体圧とマイクロチャネルの厚みの薄さとが組み合わさると、
【数1】
となる大きなピーク伸張ひずみ速度が生じ得る。このように流量が高いと、表面張力を克服して個々のマイクロスケールの液滴を多数のより小さいナノスケールの液滴に分割するようなローカル応力が、液滴の周囲に、発生し得る。粘性消散による発熱を緩和するべく、出力されるエマルジョンの温度は熱交換器を用いて制御され得る。φ=0の場合は、流体を流しても、界面活性剤溶液の粘度が変化せず、または、界面活性剤溶液そのものが弾性を有するようにはならないことを示したので、弾性ガラス化を実行するには、少なくともある程度は液滴の分散成分が必要であることが分かる。
【0030】
上述した例で言及した具体的なモデルも含め、多くのマイクロ流動体デバイスでの流動は通常不均一なので、全ての液滴が当該デバイスが生成し得るピーク応力を確実に受けるように、エマルジョンを再循環させるか、または、マイクロ流動体デバイスを複数回「通過」するようにエマルジョンを制御してよい。通過させる度に(N回)、エマルジョンを少量だけ回収して、円錐−板および小型のクエット形状を用いて、標準的な小ひずみ線形振動せん断粘弾性レオロジー測定法を実行して、周波数依存性の貯蔵係数G´(ω)および損失係数G´´(ω)を決定する。高度に希釈されたエマルジョンの動的光散乱(DLS)に基づいて、平均半径<a>および標準偏差δaを求める。測定はすべて、室温、つまりT=摂氏23度で行われる。
【0031】
流体を流すことによって生じさせる弾性ガラス化は、製造者が特定したおよそp=10atmの最高入力大気圧において1回通過させるのみで実行し得るが、これよりも小さくおよそp=3.4atmと設定して、より広い範囲のNの値に対して(図1)、ガラス化という特徴を示す。CSDS=116mMおよびφ=0.4と固定すると、Nが大きくなると、N=2では粘性応答(G´´>G´)となっているが、急速且つ系統的に、弾性応答に変化する(N≧6ではG´>G´´)。弾性プラトー「G´P」が主になるのは、せん断を繰り返した場合である(N>6)。G´が急速に大きくなると、低周波側クロスオーバー周波数「ωlc」(G´=G´´の箇所)は急速に小さくなって、ガラス化の開始を示唆する。そして、半径サイズの多分散性は通常、DLSによるとN≧6で、δa/<a>はおよそ0.25となる。
【0032】
中性子散乱に基づいて、得られたガラス化された液滴の構造因子において、最も近接した互いに隣接する幅広のピークを発見した。これらのピークは、ガラス状固体の特徴であり、結晶性固体または多結晶性固体の特徴であるブラッグピークではない。応力を印加する処理から直接得られたものであって、その後にいかなるサイズ分別処理および再濃縮化処理も行っていない弾性ナノエマルジョンに対する中性子散乱実験によって、液滴構造は、不規則でガラスに類似していることが分かっている(図1A参照)。ガラス状構造を確認するためのこの実験は基本的に、ナノエマルジョンに対して行われる先行技術に係る中性子散乱測定のうちどれとも異なっている。これは、先行技術に係る実験は、遠心分離および浸透圧の利用に基づいて、希釈された液状ナノエマルジョンを、濃縮化固体状ナノエマルジョンに濃縮していたからである(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、エス・エム・グレーブス(S.M.Graves)、ジェイ・エヌ・ウィルキング(J.N.Wilking)およびエム・ワイ・リン(M.Y.Lin)、J.Phys.Chem.110,22097(2006))。このような超遠心分離法を用いて液滴を濃縮する処理は、液滴体積率の組成変化を生じさせるので、基本的に本明細書で記載する処理とは異なる。中性子散乱に基づいて得られた、強力な流動によって直接生成されるナノエマルジョンはガラス状構造を持つという新たな証拠は、流動によって粒子および液滴を整理する方法は公知であるが、このような処理は液滴が密になる実質体積率を変化させて弾性に影響を与え得るので、自明ではない。
【0033】
φの値を固定して流動によって発生させる弾性ガラス化は通常、強力な液滴の破断と相互に関連し、流動によって発生する合体は、流動の実質的な影響によって分散成分の表面積対体積の比率が大きくなる限り、限定的に許容可能である。G´P(N)の値が大きくなって飽和状態になることは、<a(N)>が減少して飽和状態になることに対応する(図2Aから図2B参照)。実験において、
【数2】
の適合を実現する。式中で、下付きで示す「sat」はN>>1における飽和状態を意味し、<asat>=60±1nm、β=2.3±0.1、およびNa=1.25±0.09となる。ここで、Naは、指数関数的な減少の1/eの値を意味するので、NがNaの数倍になると飽和状態となる。同様に、飽和までの指数関数的な増加に注目すると、
【数3】
の適合を実現する。ここで、G´p−sat=4.2±0.5×104dyn/cm2、Nsat=4.0±0.5、およびNG´=0.32±06となる。G´P(N)および<a(N)>での飽和状態が
【数4】
と対応していることと、ωlcが減少すること(図2C)は、弾性ガラス化が、液滴がナノスケールになるまで分割されると、生じていることを示す。
【0034】
<a>に応じてG´Pがどのように変化するのかを検討するべく、超遠心分離法を用いてナノエマルジョンをサイズについて分別して、CSDS=10mMに固定したまま多分散性δa/<a>がおよそ0.15となるまで低くした(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、ジェイ・エヌ・ウィルキング(J.N.Wilking)、ケイ・メルソン(K.Meleson)、シー・ビー・チャン(C.B.Chang)、エス・エム・グレーブス(S.M.Graves)、J.Phys.: Condens.Matter18,R635(2006))。<a>のそれぞれの値について、20,000RPMで超遠心分離法を実行してφの値を最大値に設定して、界面活性剤溶液でそれぞれストックされたナノエマルジョンを希釈する。非常に興味深いことに、φがφMRJよりもはるかに小さくておよそ0.23と小さい値であっても、ナノエマルジョンのG´P(φ)が増加し得る(図3参照)。G´P(φ)はまず急激に増加して、φの値が大きくなるにつれて、上昇がより緩やかになる。このような挙動はマイクロスケールのエマルジョンのG´P(φ)でも同様であるが、「ナノネーズ」は、斥力エマルジョンについて以前に観測されているφの値よりもはるかに小さいφの値で、強力な弾性を有する。
【0035】
近距離において少なくとも安定的な斥力を持つ不規則に分散された球状成分の簡単なモデルを用いて、G´P(φ)から液滴相互作用ポテンシャルU(h)を得る。液滴1つについてz=6の最も近接した隣接する液滴を仮定して、浸透圧が
【数5】
で、単位セル体積が
【数6】
で、Vdは液滴の体積である。浸透圧下の不規則な斥力ネットワークについて、実験およびシミュレーションによると、
【数7】
という推測が支持される(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、ジェイ・ビベット(J.Bibette)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)、Phys.Rev.Lett.75,2051(1995))。このため、液滴−液滴の「接触」毎の相互作用エネルギーとして、
【数8】
を得る。hの値を決定するべく、測定されたG´P/(σ/a)をφに対して上方向にシフトさせて、「ハード」な相互作用の変形可能な液滴についての予測と重複させる(ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、エム・ディー・ラカス(M.−D.Lacasse)、ジー・エス・グレスト(G.S.Grest)、ディー・レバイン(D.Levine)、ジェイ・ビベット(J.Bibette)およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)Phys. Rev. E 56, 3150 (1997))。G´P(φeff)=1.74(σ/a)φeff(φeff−φMRJ)(図4の挿入図参照)とする。このようにシフトさせてφeffを得て、液滴が球状であると仮定して、h=2a[(φeff/φ)1/3−1]を算出する。デバイ・スクリーニングされた斥力ポテンシャルは電荷の二乗に比例するので、<a>の全ての値について表面電荷密度ρSが一定であると仮定して、a4によってU(h)を正規化する。このように再スケーリングすると、ポテンシャルは全て、1つのマスター曲線に落ち着く(図4参照)。当該マスター曲線は、B2ρS2exp(−h/λD)/(hεr)に適合させる。式中、Bは一定の値で、εr=80は水の相対的な誘電率である。ρS=3.2×103esu/cm2およびCSDS=10mMの場合(エフ・リール・カルデロン(F.Leal−Calderon)、ティー・ストーラ(T.Stora)、オー・モンデイン−モンバル(O.Mondain−Monval)、ピー・ポラン(P.Poulin)、およびジェイ・ビベット(J.Bibette)、Phys.Rev.Lett.72,2959(1994))、適合させるとB=5.9±0.4およびλD=3.8±0.5nmとなり、報告されているλD=3.5nmに良好に一致する(ジェイ・マラ(J.Marra)およびエム・エル・ヘア(M.L.Hair)J.コロイド界面(Colloid Interface)Sci.128,511(1988))。図4に示すように良好に落ち着いていることは、φの値が小さい場合のナノエマルジョンのG´Pを正確に予測するには、Uに対して現実的なモデルを用いなければならないことを明瞭に示している。
【0036】
ナノエマルジョンのレオロジーに関する我々の解釈によれば、h(φ)についてアドホックな表現に依存することなくG´P(φ)を十分に説明できることに加えて、ソフトでガラス状の斥力球体コロイド懸濁液についてU(h)を測定する巨視的方法が提供される。z=6と仮定して斥力接触不規則性(Repulsive Contact−Disorder:RCD)の解釈に基づくと、φMRJおよび
【数9】
において詰まりが発生し、微視的なU(h)を得る。斥力コロイド結晶に関する以前の研究によると、G´P(φ)は、
【数10】
を本質的に仮定して、微視的なU(h)に関連していた。式中で、KΠ(φ)は浸透圧縮係数であり(アール・バスコール(R. Buscall)、J. Chem. Soc. Faraday Trans. 87, 1365 (1991);およびエル・レイノード(L. Raynau)、ビー・アーンスト(B. Ernst)、シー・バージ(C. Verge)およびジェイ・ムイス(J. Mewis)、J. Colloid Interface Sci. 181, 11 (1996))、密集が発生するのはφがおよそ0.74でz=12の場合である。結晶に対するこの方法をガラス状コロイド系に応用すると、正確なスケーリングが得られず、λDおよびρSが現実的な値にならない。これとは対照的に、RCDモデルを用いて得られたU(h)は、CSDSが同じである磁気的に操作された磁性流体エマルジョンに対するブラッグ散乱実験と一致する(エフ・リール−カルデロン(F. Leal−Calderon)、ティー・ストーラ(T. Stora)、オー・モンデイン−モンバル(O. Mondain−Monval)、ピー・ポラン(P. Poulin)、およびジェイ・ビベット(J. Bibette)、Phys. Rev. Lett. 72, 2959 (1994))。シミュレーションによって、
【数9】
という仮定は確認されているが(エム・ディー・ラカス(M.−D.Lacasse)、ジー・エス・グレスト(G.S.Grest)、ディー・レバイン(D.Levine)、ティー・ジー・メイソン(T.G.Mason)、およびディー・エー・ウェイツ(D.A.Weitz)Phys. Rev. Lett. 76, 3448 (1996))、理論的にはほとんど注目されていない(エス・アレキサンダー(S. Alexander)J. Phys. (France) 45, 1939 (1984))。原則的に、濃縮されて、ソフトで、ガラス状の、任意の球体斥力コロイド系に対してG´P(φ)が既知である場合、RCDアプローチはU(h)を得るべく応用され得る。これとは対照的に、光トラップ(ディー・ジー・グリエ(D.G. Grier)、Curr. Opin. Colloid Interface Sci. 2, 264 (1997))、表面力装置(ジェイ・エヌ・イスラエラクビリ(J.N. Israelachvili)、分子間力および表面力(Intermolecular and Surface Forces) (Academic Press, London, 1992))、および磁性流体エマルジョン(エフ・リール・カルデロン(F.Leal−Calderon)、ティー・ストーラ(T.Stora)、オー・モンデイン−モンバル(O.Mondain−Monval)、ピー・ポラン(P.Poulin)、およびジェイ・ビベット(J.Bibette)、Phys. Rev. Lett. 72, 2959 (1994))等のほかの方法は通常、φ→0で実行される。カチオン系、アニオン系、荷電ポリマー系、または両性イオン系の界面活性剤によって電荷が安定化されたナノエマルジョンは、アニオン系SDS界面活性剤について我々が示してきたものと同様のG´P(φ)を持つが、非イオン系および非荷電ポリマー系の界面活性剤で安定化されたナノエマルジョンは、分子圧縮率に関連する斥力のためにG´P(φ)が異なる。
【0037】
強力な流動を用いてマイクロスケールの液滴をナノスケールの液滴に分割することによる弾性ガラス化の効果を証明してきたが、弾性ガラス化は、マイクロ流動体デバイスにおける強力な流動をエマルジョンに与えることについて、比較的一般的に発生する。マイクロスケール分散成分およびそれより大きい分散成分を、通常は最大線形寸法が100nm未満となる、より多数のより小サイズの成分に分割して、分散成分の総表面積を多相分散における分散成分の総体積で除算して得る比率を大きくするためには、多相分散における分散成分に対して大きな応力を加えることができるその他の種類のデバイスを用いるとしてよい。分散成分を分割することができるような応力を加えることができるその他の種類のデバイスには、集束音波生成器、超音波デバイス、集束超音波デバイス、ホモジナイザー、ミキサー、コロイドミル、エクストルーダー等がある。また、約1ナノメートルから100ナノメートルの範囲内の、分散成分の表面同士の相互作用ポテンシャルに少なくとも近距離斥力があれば、分散成分を分割することによる弾性ガラス化の効果を生じさせることができる。結果として得られる弾性ガラス状多相分散の構造が不規則な構造となるのは、詰まりに対応する実質体積率が、結果として得られる多相分散の構造が規則的または結晶性を有する構造となる場合よりも低いので、利点である。
【0038】
要約すると、流動によって、多相分散の分散成分の構造を不可逆的に分割して、弾性ガラス化を生じさせることで、φの値が驚くほど低くても高い弾性を持つナノエマルジョンの画期的な製造方法が提供される。アニオン系材料を用いて安定化されたナノネーズのこのような特性は、珍しいと共に利用可能性が高いが、aがλDに近づくと、ナノスケールの液滴間での電荷スクリーニングされた斥力が、相対的により重要となることに基づいて得られている。ナノネーズに関して我々が理解しているところによると、エマルジョンに限らずより広い範囲の多相分散が、流体中の斥力成分を分割して、流体中にとどまるより多数のより小サイズの斥力成分を生成するべく強力な応力を加えると、不可逆的な弾性ガラス化特性を示し得ることは明らかである。我々の研究は、斥力相互作用、液滴変形、およびエントロピーを含め、ナノエマルジョンのG´P(φ)およびΠ(φ)を正確に予測する、自己無撞着的理論の必要性を強調している。最後に、我々の予測では、不規則なガラス状ナノエマルジョンを慎重に巨視的レオロジーで研究すれば、界面活性剤および液滴表面に存在するその他の分子が形成する微視的相互作用ポテンシャルを定量的に測定することができる。
【0039】
高圧マイクロ流動体デバイスの通過回数Nと共に、結果として得られるエマルジョンのプラトー線形弾力せん断係数G´Pが大きくなることを示すことに加えて、与えられるせん断力に対する降伏応力τyの応答がNの関数として増加することをも証明した(図5および図6参照)。
【0040】
図7は、応力が与えられたことによる液滴のサイズの減少は、非常に長期間にわたって不可逆的であることを示している。つまり、長時間が経過することによって弾性材料が劣化しても、液滴のサイズを計測するのに用いた動的光散乱(DLS)機器の測定不確実性の範囲内において、長年にわたってサイズ分布は変化しない。エマルジョンの弾性は平均液滴サイズと相関関係にあるので、このデータは、弾性材料の弾性せん断係数は、例え年単位で時間が経過しても大きく変化しないことを示唆している。この点は、製品の陳列寿命に関して重要である。
【0041】
図8は、NaClがさらに溶解された(CNaCl=0mM(赤色の丸)、10mM(青色の上下逆にした三角)、40mM(緑色のひし形)および90mM(黒色の正三角形))界面活性剤水溶液によって希釈された単分散ナノエマルジョン(<a>=47nm、CSDS=10mM)の体積率φの関数として、プラトー線形弾性せん断係数G´P(ω=10rad/s)を示す。同図から分かるように、連続相における塩の濃度によって、液滴間の斥力相互作用の範囲が変化し、結果として得られるエマルジョンの弾性を制御し得る。
【0042】
図9は、マイクロ流動体ホモジナイザー(入力大気圧はρ=3.4atm)内で強力な機械的な流動を加えた後のマイクロスケールの粘性エマルジョン(φ=0.40、CSDS=116mM)を示す図である。当該エマルジョンは、マイクロ流動体ホモジナイザーをN回通過させられ、通過させられる度にサブサンプルを直立ガラスバイアルに入れて、サンプルが入ったバイアルを側方に倒してから数分後に画像を撮影している。地球の重力は(紙面の上方から下方へ)下向きにかかっている。バイアルは、直径が約1cmで、エマルジョンはぼんやりと見える。黒い部分は空気である。地球の重力場によっても空気とエマルジョンとの境界が傾斜しないことから分かるように、エマルジョンの弾性はエマルジョンに強力な流動が与えられるとより強くなっていく。通過回数が少ない場合(N=2)、エマルジョン材料は粘性を有しており、流れて、表面に対する法線が重力の方向に沿っている。一方、通過回数が多くなると(N=8)、多相材料は弾性を有し、流れず、長期間(つまり、数日、数週間、および数ヶ月)が経過しても、表面に対する法線が重力に対して直交したままとなる。
【0043】
液滴サイズ分布が大きく変化しないことを示すのみでなく、線形粘弾性レオロジー特性測定によっても、弾性ガラス化が不可逆的であることを証明した。この実験を説明すると、エマルジョンの組成は、PDMSシリコーン油(粘度は10cSt)をドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の界面活性剤水溶液に含んでいる。液滴体積率はφ=0.4で、SDS濃度はCSDS=116mMで、マイクロ流動体デバイスに対する入力大気圧はp=50psiで、マイクロ流動体デバイス(チャネル幅は75ミクロン)をN=6回通過させた。プラトー弾性せん断係数G´Pについて、処理が完了した直後はG´P=(3±1)×104dyn/cm2という値が最初に測定される。461日間という経時劣化期間の後で、温度を摂氏23度に設定してテフロンコーティングが施されたスクリューキャップを持つガラス瓶に保持された同じサンプルのG´Pを再測定すると、G´P=(5±1)×104dyn/cm2であった。これらの値は、機械的なレオロジー特性測定器の負荷条件に起因する実験の不確実性を考慮すると、実質的に同一であるので、エマルジョンの弾性ガラス化処理は不可逆的で、当該処理によって達成された大きな弾性せん断係数は1年以上が経過しても変化しないと結論づけられる。
【0044】
アニオン系界面活性剤に分散されているシリコーン油の液滴の弾性ガラス化を証明することに加えて、同じ弾性ガラス化の効果が、カチオン系界面活性剤の水溶液に分散させられているシリコーン油の液滴についても得られることを示してきた。特に、カチオン系界面活性剤である臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)の界面活性剤水溶液に含まれるPDMSシリコーン油(粘度は10cSt)の弾性ガラス化処理を用いた。ここで、液滴体積率はφ=0.4で、CTAB濃度はCCTAB=200mMで、マイクロ流動体デバイスに対する入力大気圧はp=90psiで、マイクロ流動体デバイスをN=6回通過させた(チャネル幅は75ミクロン)。この結果、弾性ガラス化プロセスは、SDS等のアニオン系界面活性剤によって安定化されたシリコーン油と水とを含むエマルジョン以外の材料について比較的一般的に生じることを確認した。
【0045】
さまざまな実施形態に基づいて本発明を詳細に説明した。以上の記載より、本発明から逸脱することなく本発明のより広い側面において変更および修正を実施し得ることが、当業者には明らかであろう。このため、そのような変更および修正はすべて、本発明の真の精神の範囲内に収まるものとして扱い、請求項において定義されている本発明に含まれるものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材料生成方法であって、
初期材料組成を持つ粘性材料であって、第2の成分の連続流体相内に分散させられた第1の成分の複数の離散要素を含む多相分散である粘性材料を提供する段階と、
前記第1の成分の前記複数の離散要素に対して応力を印加して、前記複数の離散要素を、離散要素の数が前記第1の複数の離散要素よりも多い第2の複数の離散要素に分割する応力印加段階と
を備え、
前記第2の複数の離散要素の前記離散要素は、各要素が有する組成および表面層のうち少なくとも一方が、隣接する離散要素との間において少なくとも斥力相互作用を与えて、前記応力がなくなった後に、前記離散要素が不可逆的に合体または不可逆的に再結合しないようにしているので、前記粘性材料は不可逆的に、前記初期材料組成と同一の材料組成を持つ弾性材料になる
方法。
【請求項2】
前記粘性材料の前記第2の成分は、液状材料、液状溶液、および液体ベースの分散のうち少なくとも1つである
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項3】
前記粘性材料の前記第1の成分は、液状材料、液状溶液、および液体ベースの分散のうち少なくとも1つであり、前記第1の成分と、前記第2の成分とは、互いに非混合性である
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項4】
前記粘性材料の前記第1の成分は、液状材料、液状溶液、および液体ベースの分散のうち少なくとも1つであり、前記第1の成分と、前記第2の成分とは、互いに非混合性である
請求項2に記載の弾性材料生成方法。
【請求項5】
前記粘性材料はさらに、安定剤を含み、前記安定剤は、前記第2の複数の離散要素のうち隣接する離散要素間での前記斥力相互作用の少なくとも一部を与えている
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項6】
前記安定剤は、界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、洗剤、乳化剤、両親媒性分子、脂質、ジブロックポリマー、コポリマー、グラフトコポリマー、両親媒性グラフトコポリマー、バイオポリマー、コポリペプチド、多糖類、たんぱく質、酸、ポリマー酸、塩基、ポリマー塩基、塩、ポリマー塩、核酸ポリマー、デオキシリボ核酸、リボ核酸、官能化分子、誘導体化分子、ナノ粒子、および表面官能化ナノ粒子のうち少なくとも1つから選択される
請求項5に記載の弾性材料生成方法。
【請求項7】
前記安定剤は、前記粘性材料に対して、質量パーセントで、少なくとも0.1%である
請求項5に記載の弾性材料生成方法。
【請求項8】
前記安定剤は、前記粘性材料に対して、質量パーセントで、少なくとも1%である
請求項5に記載の弾性材料生成方法。
【請求項9】
前記安定剤は、前記粘性材料に対して、質量パーセントで、少なくとも10%である
請求項5に記載の弾性材料生成方法。
【請求項10】
前記第1の成分の前記複数の離散要素に対して応力を印加する応力印加段階は、せん断流動、伸張流動、粘性流動、塑性流動、粘弾性流動、降伏流動、機械的押し出し、固体多孔質膜を介した押し出し、固体チャネルを介した押し出し、マイクロチャネルを介した押し出し、ナノチャネルを介した押し出し、機械的ミリング、機械的混合、マイクロ流動、高圧マイクロ流動、均一化流動、キャビテーション流動、乱流、過渡流動、パルス流動、音波、集束音波、超音波励起、集束超音波励起、電磁励起、電界、熱励起、ローカル熱励起、温度勾配、および化学反応から成るエネルギー励起の群から選択される少なくとも1つのエネルギー励起を有する
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項11】
前記第1の成分の前記複数の離散要素に対して応力を印加する応力印加段階は、前記第1の成分の前記複数の離散要素に対して、約104dyne/cm2よりも大きい、応力を加える
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項12】
前記第1の成分の前記複数の離散要素に対して応力を印加する応力印加段階は、少なくとも約106s−1というひずみ速度を生成する
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項13】
前記粘性材料の前記第1の成分は、油を含み、前記粘性材料の前記第2の成分は、界面活性剤水溶液を含む
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項14】
前記粘性材料の前記第2の成分は、油、および、油に融解した油溶性分子の溶液のうち少なくとも1つを含み、
前記粘性材料の前記第1の成分は、水、および、水に融解した水溶性分子の溶液のうち少なくとも1つを含む
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項15】
前記第1の成分の前記複数の離散要素に対して応力を印加する段階は、高圧マイクロ流動を加えることと、均一化流動を加えることとのうち少なくとも1つを有する
請求項13に記載の弾性材料生成方法。
【請求項16】
前記第2の複数の離散要素の集合体平均最大寸法は、約1nmよりも大きく、約200nmよりも小さい
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項17】
前記弾性材料は、線形弾性せん断貯蔵係数が、約10−5s−1より高く約105s−1よりも低い周波数範囲内の少なくとも1つの周波数について、少なくとも1dyne/cm2である
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項18】
前記弾性材料は、化粧品、洗面用品、薬剤、および食品のうち少なくとも1つである
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項19】
前記応力印加段階に続いて、前記弾性材料を希釈して、前記弾性材料の前記第2の複数の離散要素の濃度を減少させる希釈段階
をさらに備える、請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項20】
前記応力印加段階に続いて、前記弾性材料を濃縮化して、前記弾性材料の前記第2の複数の離散要素の濃度を増加させる濃縮化段階
をさらに備える、請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項21】
前記第2の複数の離散要素の前記離散要素は、組成および表面層のうち少なくとも1つが、隣接する離散要素間で長距離誘引力を与える
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項22】
前記粘性材料の前記第1の成分は、前記粘性材料の前記多相分散の総体積に対して、体積パーセントで、少なくとも約10%である
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項23】
前記粘性材料の前記第1の成分は、前記粘性材料の前記多相分散の総体積に対して、体積パーセントで、少なくとも約20%で、且つ、約80%未満である
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項24】
前記第1の成分の前記複数の離散要素に対して応力を印加する前記応力印加段階の後、前記第2の成分の前記複数の離散要素に対して応力を印加して、前記複数の離散要素を、前記第2の複数の離散要素よりも多数の離散要素を含む第3の複数の離散要素に分割する第2の応力印加段階
をさらに備える、請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項25】
前記粘性材料の前記連続流体相内に分散させられている、前記粘性材料の前記第1の成分は、粘性液体、液体に溶解可能な分子を含む溶液、薬物分子を含む溶液、極性液体、非極性液体、脂肪族液体、蝋、脂質、脂肪、石油、植物抽出物、ナッツ抽出物、植物性製品、動物性製品、ジュース、濃縮物、皮膚軟化剤、粘着性付与剤、顔料、保湿剤、香料、油、ポリシロキサン、ポリマー、ポリマー溶液、ポリマーゲル、バイオポリマー溶液、ナノエマルジョン、液体中のナノ粒子の分散、磁性流体、液晶、サーモトロピック液晶、リオトロピック液晶、固体材料、弾性材料、粘弾性材料、粘塑性材料、ガラス状材料、ナノ粒子の集合体、分子の集合体、プレートレットの集合体、固体材料の集合体、ポリマー材料の集合体、アスファルテンの集合体、結晶集合体、超臨界流体、および複合流体から成る材料の群から選択される
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項26】
前記粘性材料の前記第2の成分は、粘性液体、液体に溶解可能な分子を含む溶液、薬物分子を含む溶液、極性液体、非極性液体、脂肪族液体、蝋、脂質、脂肪、石油、植物抽出物、ナッツ抽出物、植物性製品、動物性製品、ジュース、濃縮物、皮膚軟化剤、粘着性付与剤、顔料、保湿剤、香料、油、ポリシロキサン、ポリマー、ポリマー溶液、ポリマーゲル、バイオポリマー溶液、ナノエマルジョン、液体中のナノ粒子の分散、磁性流体、液晶、サーモトロピック液晶、リオトロピック液晶、固体材料、弾性材料、粘弾性材料、粘塑性材料、ガラス状材料、ナノ粒子の集合体、分子の集合体、プレートレットの集合体、固体材料の集合体、ポリマー材料の集合体、アスファルテンの集合体、結晶集合体、超臨界流体、および複合流体から成る材料の群から選択される
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項27】
前記粘性材料の前記第1の成分の体積を前記粘性材料の総体積で除算して得られる体積率は、最大ランダム詰まり体積率である約0.64未満である
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項28】
前記第2の複数の離散要素は、電荷が安定化しており、平均最大寸法が前記弾性材料のデバイ・スクリーニング長の約25倍未満である
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項29】
前記第2の複数の離散要素の前記離散要素は、ガラスに特有の不規則な位置構造を持つ
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項30】
前記第2の複数の離散要素の前記離散要素は、総表面積と体積との比率が、前記第1の複数の離散要素の前記離散要素よりも大きい
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項31】
前記応力印加段階で用いられたエネルギーの少なくとも一部が、生成される前記弾性材料に貯蔵されている
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項32】
前記第2の複数の離散要素の前記離散要素のサイズ分布は、前記応力印加段階の後、時間が経過しても略一定のままである
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項33】
前記弾性材料は、線形弾性せん断貯蔵係数が、前記応力印加段階の後、時間が経過しても略一定のままである
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項34】
前記弾性材料は、降伏せん断応力が、前記応力印加段階の後、10dyn/cm2より大きい
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項35】
請求項1から請求項34のうちいずれか一項に記載の方法によって生成された弾性材料。
【請求項1】
弾性材料生成方法であって、
初期材料組成を持つ粘性材料であって、第2の成分の連続流体相内に分散させられた第1の成分の複数の離散要素を含む多相分散である粘性材料を提供する段階と、
前記第1の成分の前記複数の離散要素に対して応力を印加して、前記複数の離散要素を、離散要素の数が前記第1の複数の離散要素よりも多い第2の複数の離散要素に分割する応力印加段階と
を備え、
前記第2の複数の離散要素の前記離散要素は、各要素が有する組成および表面層のうち少なくとも一方が、隣接する離散要素との間において少なくとも斥力相互作用を与えて、前記応力がなくなった後に、前記離散要素が不可逆的に合体または不可逆的に再結合しないようにしているので、前記粘性材料は不可逆的に、前記初期材料組成と同一の材料組成を持つ弾性材料になる
方法。
【請求項2】
前記粘性材料の前記第2の成分は、液状材料、液状溶液、および液体ベースの分散のうち少なくとも1つである
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項3】
前記粘性材料の前記第1の成分は、液状材料、液状溶液、および液体ベースの分散のうち少なくとも1つであり、前記第1の成分と、前記第2の成分とは、互いに非混合性である
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項4】
前記粘性材料の前記第1の成分は、液状材料、液状溶液、および液体ベースの分散のうち少なくとも1つであり、前記第1の成分と、前記第2の成分とは、互いに非混合性である
請求項2に記載の弾性材料生成方法。
【請求項5】
前記粘性材料はさらに、安定剤を含み、前記安定剤は、前記第2の複数の離散要素のうち隣接する離散要素間での前記斥力相互作用の少なくとも一部を与えている
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項6】
前記安定剤は、界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、洗剤、乳化剤、両親媒性分子、脂質、ジブロックポリマー、コポリマー、グラフトコポリマー、両親媒性グラフトコポリマー、バイオポリマー、コポリペプチド、多糖類、たんぱく質、酸、ポリマー酸、塩基、ポリマー塩基、塩、ポリマー塩、核酸ポリマー、デオキシリボ核酸、リボ核酸、官能化分子、誘導体化分子、ナノ粒子、および表面官能化ナノ粒子のうち少なくとも1つから選択される
請求項5に記載の弾性材料生成方法。
【請求項7】
前記安定剤は、前記粘性材料に対して、質量パーセントで、少なくとも0.1%である
請求項5に記載の弾性材料生成方法。
【請求項8】
前記安定剤は、前記粘性材料に対して、質量パーセントで、少なくとも1%である
請求項5に記載の弾性材料生成方法。
【請求項9】
前記安定剤は、前記粘性材料に対して、質量パーセントで、少なくとも10%である
請求項5に記載の弾性材料生成方法。
【請求項10】
前記第1の成分の前記複数の離散要素に対して応力を印加する応力印加段階は、せん断流動、伸張流動、粘性流動、塑性流動、粘弾性流動、降伏流動、機械的押し出し、固体多孔質膜を介した押し出し、固体チャネルを介した押し出し、マイクロチャネルを介した押し出し、ナノチャネルを介した押し出し、機械的ミリング、機械的混合、マイクロ流動、高圧マイクロ流動、均一化流動、キャビテーション流動、乱流、過渡流動、パルス流動、音波、集束音波、超音波励起、集束超音波励起、電磁励起、電界、熱励起、ローカル熱励起、温度勾配、および化学反応から成るエネルギー励起の群から選択される少なくとも1つのエネルギー励起を有する
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項11】
前記第1の成分の前記複数の離散要素に対して応力を印加する応力印加段階は、前記第1の成分の前記複数の離散要素に対して、約104dyne/cm2よりも大きい、応力を加える
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項12】
前記第1の成分の前記複数の離散要素に対して応力を印加する応力印加段階は、少なくとも約106s−1というひずみ速度を生成する
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項13】
前記粘性材料の前記第1の成分は、油を含み、前記粘性材料の前記第2の成分は、界面活性剤水溶液を含む
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項14】
前記粘性材料の前記第2の成分は、油、および、油に融解した油溶性分子の溶液のうち少なくとも1つを含み、
前記粘性材料の前記第1の成分は、水、および、水に融解した水溶性分子の溶液のうち少なくとも1つを含む
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項15】
前記第1の成分の前記複数の離散要素に対して応力を印加する段階は、高圧マイクロ流動を加えることと、均一化流動を加えることとのうち少なくとも1つを有する
請求項13に記載の弾性材料生成方法。
【請求項16】
前記第2の複数の離散要素の集合体平均最大寸法は、約1nmよりも大きく、約200nmよりも小さい
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項17】
前記弾性材料は、線形弾性せん断貯蔵係数が、約10−5s−1より高く約105s−1よりも低い周波数範囲内の少なくとも1つの周波数について、少なくとも1dyne/cm2である
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項18】
前記弾性材料は、化粧品、洗面用品、薬剤、および食品のうち少なくとも1つである
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項19】
前記応力印加段階に続いて、前記弾性材料を希釈して、前記弾性材料の前記第2の複数の離散要素の濃度を減少させる希釈段階
をさらに備える、請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項20】
前記応力印加段階に続いて、前記弾性材料を濃縮化して、前記弾性材料の前記第2の複数の離散要素の濃度を増加させる濃縮化段階
をさらに備える、請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項21】
前記第2の複数の離散要素の前記離散要素は、組成および表面層のうち少なくとも1つが、隣接する離散要素間で長距離誘引力を与える
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項22】
前記粘性材料の前記第1の成分は、前記粘性材料の前記多相分散の総体積に対して、体積パーセントで、少なくとも約10%である
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項23】
前記粘性材料の前記第1の成分は、前記粘性材料の前記多相分散の総体積に対して、体積パーセントで、少なくとも約20%で、且つ、約80%未満である
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項24】
前記第1の成分の前記複数の離散要素に対して応力を印加する前記応力印加段階の後、前記第2の成分の前記複数の離散要素に対して応力を印加して、前記複数の離散要素を、前記第2の複数の離散要素よりも多数の離散要素を含む第3の複数の離散要素に分割する第2の応力印加段階
をさらに備える、請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項25】
前記粘性材料の前記連続流体相内に分散させられている、前記粘性材料の前記第1の成分は、粘性液体、液体に溶解可能な分子を含む溶液、薬物分子を含む溶液、極性液体、非極性液体、脂肪族液体、蝋、脂質、脂肪、石油、植物抽出物、ナッツ抽出物、植物性製品、動物性製品、ジュース、濃縮物、皮膚軟化剤、粘着性付与剤、顔料、保湿剤、香料、油、ポリシロキサン、ポリマー、ポリマー溶液、ポリマーゲル、バイオポリマー溶液、ナノエマルジョン、液体中のナノ粒子の分散、磁性流体、液晶、サーモトロピック液晶、リオトロピック液晶、固体材料、弾性材料、粘弾性材料、粘塑性材料、ガラス状材料、ナノ粒子の集合体、分子の集合体、プレートレットの集合体、固体材料の集合体、ポリマー材料の集合体、アスファルテンの集合体、結晶集合体、超臨界流体、および複合流体から成る材料の群から選択される
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項26】
前記粘性材料の前記第2の成分は、粘性液体、液体に溶解可能な分子を含む溶液、薬物分子を含む溶液、極性液体、非極性液体、脂肪族液体、蝋、脂質、脂肪、石油、植物抽出物、ナッツ抽出物、植物性製品、動物性製品、ジュース、濃縮物、皮膚軟化剤、粘着性付与剤、顔料、保湿剤、香料、油、ポリシロキサン、ポリマー、ポリマー溶液、ポリマーゲル、バイオポリマー溶液、ナノエマルジョン、液体中のナノ粒子の分散、磁性流体、液晶、サーモトロピック液晶、リオトロピック液晶、固体材料、弾性材料、粘弾性材料、粘塑性材料、ガラス状材料、ナノ粒子の集合体、分子の集合体、プレートレットの集合体、固体材料の集合体、ポリマー材料の集合体、アスファルテンの集合体、結晶集合体、超臨界流体、および複合流体から成る材料の群から選択される
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項27】
前記粘性材料の前記第1の成分の体積を前記粘性材料の総体積で除算して得られる体積率は、最大ランダム詰まり体積率である約0.64未満である
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項28】
前記第2の複数の離散要素は、電荷が安定化しており、平均最大寸法が前記弾性材料のデバイ・スクリーニング長の約25倍未満である
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項29】
前記第2の複数の離散要素の前記離散要素は、ガラスに特有の不規則な位置構造を持つ
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項30】
前記第2の複数の離散要素の前記離散要素は、総表面積と体積との比率が、前記第1の複数の離散要素の前記離散要素よりも大きい
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項31】
前記応力印加段階で用いられたエネルギーの少なくとも一部が、生成される前記弾性材料に貯蔵されている
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項32】
前記第2の複数の離散要素の前記離散要素のサイズ分布は、前記応力印加段階の後、時間が経過しても略一定のままである
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項33】
前記弾性材料は、線形弾性せん断貯蔵係数が、前記応力印加段階の後、時間が経過しても略一定のままである
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項34】
前記弾性材料は、降伏せん断応力が、前記応力印加段階の後、10dyn/cm2より大きい
請求項1に記載の弾性材料生成方法。
【請求項35】
請求項1から請求項34のうちいずれか一項に記載の方法によって生成された弾性材料。
【図1】
【図1A】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1A】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2010−516838(P2010−516838A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546446(P2009−546446)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/000800
【国際公開番号】WO2008/088918
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(506064119)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ カリフォルニア (15)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/000800
【国際公開番号】WO2008/088918
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(506064119)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ カリフォルニア (15)
【Fターム(参考)】
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