説明

液滴吐出ヘッドおよび画像形成装置

【課題】専用の駆動回路および駆動配線を必要としないクロストーク補正用圧力発生手段を備えた液滴吐出ヘッドおよび画像形成装置を提供する。
【解決手段】吐出要素104に対応して、駆動配線204上には補正用アクチュエータ300が設けられている。補正用アクチュエータ300は接続端子208から吐出要素104に至る駆動配線204が供給流路210の壁面外側に接する箇所において形成される。補正用アクチュエータ300は圧電体302上にドーナツ状の個別電極304が設けられ、変位部306を形成している。個別電極304は駆動配線204上に設けられており、補正用アクチュエータ300が設けられた駆動配線204に接続される吐出要素104が駆動電圧を印加されれば、同時に補正用アクチュエータ300にも駆動電圧が印加され、吐出要素104と同時に補正用アクチュエータ300もまた駆動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴吐出ヘッドおよび画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧力室に圧力を発生させて液を加圧し、吐出口より液滴として吐出させる構成において、各圧力室に液を供給する液流路に圧力が逆流し、他の圧力室における吐出性能に影響を与える所謂クロストークの問題が存在した。
【0003】
これに対して例えばインクジェット記録装置においては、吐出用に圧力を発生させる圧電部材とは別個に、クロストーク低減のための圧電部材を独立して設けた構成が提案されている。
【0004】
例として、インクを吐出させるために各圧力室に発生させた圧力が、共通液室を通じて他の圧力室に伝わり吐出体積変動を生じさせるクロストーク問題に対して、共通液室にメニスカス(液面)の制御を行う補正用圧電部材を取り付け、クロストークを低減するインクジェットプリンタの構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、吐出を行う第1のアクチュエータによるクロストークを打消すために、共通液室部に第2のアクチュエータを設け、特に個々の圧力室それぞれに対応した第2のアクチュエータを設けたインクジェットプリンタの構成が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−119260号公報
【特許文献2】特開2004−106217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし上記特許文献1に記載の方法は補正用圧電部材に専用の駆動回路、配線を必要とするものであるため、構造が複雑であり歩留まり低下やコスト増大の虞がある。また、同時に駆動させる圧力室の数によってクロストークの量が異なるため、同時に駆動させる圧力室の数をカウンタで計数し、これに比例した変位を補正用圧電部材に加えることが必要となり、更に複雑な制御を必要とする。
【0008】
加えて補正用圧電部材のために専用の駆動回路、配線を設ける必要上、吐出用圧電部材の高密度な実装を妨げる虞があり、ノズル配置密度を高める上で望ましくない。
【0009】
さらに上記特許文献2に記載の構成もまた、第2のアクチュエータを駆動するために専用の駆動回路、配線が必要であり、構造の複雑化、コスト増大を免れ得ない。またノズル配置の高密度化を妨げる虞がある点は特許文献1と同様である。
【0010】
本発明は上記事実を考慮し、専用の駆動回路および駆動配線を必要としないクロストーク補正用圧力発生手段を備えた液滴吐出ヘッドおよび画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、液が供給される液供給流路と、前記液供給流路に連通し液を加圧する複数の圧力室と、前記圧力室に連通し液滴を吐出するノズルと、前記圧力室ごとに設けられ、前記圧力室を加圧する第1の圧力発生手段と、前記液供給流路の1つの面の壁を構成する部材の液が流れる供給路側の面の裏面に前記第1の圧力発生手段ごとに設けられ、前記第1の圧力発生手段にそれぞれ電気信号を伝達する駆動配線と、前記液供給流路の天井面において前記駆動配線上に設けられ、前記第1の圧力発生手段とは逆位相に前記液供給流路の前記1つの面を変位させる第2の圧力発生手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
上記の発明によれば、第1の圧力発生手段が圧力室に加えた圧力を、液供給流路の内部でこれと逆位相の圧力を発生させることにより打ち消してクロストークを改善する一方、逆位相の圧力を発生させる第2の圧力発生手段を、第1の圧力発生手段を駆動する駆動配線に設けたことで専用の回路・配線を不要とした単純な構成とすることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記第1の圧力発生手段と前記第2の圧力発生手段は圧電体であることを特徴とする。
【0014】
上記の発明によれば、圧電体を圧力発生手段とすることで、製造工程の単純化、製造コスト低減を図ることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記液供給流路の前記1つの面において前記駆動配線の一部が圧電体に接触し前記第2の圧力発生手段を形成したことを特徴とする。
【0016】
上記の発明によれば、液供給流路の壁面に設けられた駆動配線の一部に接触する圧電体を設け、第2の圧力発生手段とすることで、単純な構成とすることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の構成において、前記第1の圧力発生手段と前記第2の圧力発生手段の一方は前記駆動配線とベタ電極で接続され、他方は変位する範囲を閉曲線で囲ったドーナツ状電極で接続されたことを特徴とする。
【0018】
上記の発明によれば、電極の形状のみで第1の圧力発生手段と第2の圧力発生手段の駆動方向を互いに逆に設定できるため、製造工程等の単純化を図ることができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、前記第1の圧力発生手段と前記第2の圧力発生手段は両者ともベタ電極か、または変位する範囲を閉曲線で囲ったドーナツ状電極で前記駆動配線に接続され、前記第1の圧力発生手段と前記第2の圧力発生手段は互いに分極方向が逆であることを特徴とする。
【0020】
上記の発明によれば、第1の圧力発生手段と第2の圧力発生手段が同じ形状の電極でも両者の駆動方向を互いに逆に設定できるため、実装密度の限界を高めることができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の構成において、前記第1の圧力発生手段により前記液供給流路へ押し出される液量が多くなれば、前記第2の圧力発生手段による変位量を増大させる制御手段が設けられたことを特徴とする。
【0022】
上記の発明によれば、制御手段によりクロストーク量に応じた補正を行うことで、補正の不足や補正過多による弊害の発生を防ぐことができる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の構成において、前記駆動配線に前記第2の圧力発生手段が設けられる割合は、前記液供給流路の長手方向中央に近い箇所で、前記液供給流路の長手方向端部に近い箇所よりも高いことを特徴とする。
【0024】
上記の発明によれば、クロストークの影響を最も受けやすい、近接する圧力室の数が多い長手方向中央部近傍において、端部よりも多くの第2の圧力発生手段を設けたことで効率よくクロストークの影響を抑えることができる。
【0025】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の構成において、前記第2の圧力発生手段を振動検知器として動作させることにより前記液供給流路内の液における固有振動を検知し、前記第2の圧力発生手段が設けられていない前記駆動配線に接続された前記第1の圧力発生手段が前記固有振動を打ち消す方向に変位することを特徴とする。
【0026】
上記の発明によれば、クロストークにより発生する液供給路内の固有振動を、第2の圧力発生手段をセンサとして検出し、この固有振動を打ち消すタイミングで他の第1の圧力発生手段を駆動することで、効率よくクロストークの影響を抑えることができる。
【0027】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の構成において、前記駆動配線ごとに前記第2の圧力発生手段が設けられたことを特徴とする。
【0028】
上記の発明によれば、駆動された第1の圧力発生手段ごとに発生するクロストークを、その都度それぞれに第2の圧力発生手段で打ち消すので、より強力にクロストークの影響を抑えることができる。
【0029】
請求項10に記載の発明は、請求項2〜請求項9の何れか1項に記載の構成において、前記第1の圧力発生手段と前記第2の圧力発生手段は一枚の圧電体を分離して形成されたことを特徴とする
上記の発明によれば、一枚の圧電体を分割して第1の圧力発生手段と第2の圧力発生手段とすることで、製造工程の単純化、製造コスト低減を図ることができる。
【0030】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜請求項10の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする。
【0031】
上記の発明によれば、専用の駆動回路および駆動配線を必要としないクロストーク補正用圧力発生手段を備えた画像形成装置とすることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明は上記構成としたので、専用の駆動回路および駆動配線を必要としないクロストーク補正用圧力発生手段を備えた液滴吐出ヘッドおよび画像形成装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係る画像形成装置の主要部を示す概念図である。
【図2】本発明の実施形態に係るインクジェットラインヘッドに用いられるヘッドプレートの構造を拡大して示す側面図である。
【図3】図2に示す吐出用圧電体の構造を拡大して示す図である。
【図4】図2に示す補正用圧電体の構造を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態の一例について説明する。
【0035】
<全体構成>
図1に示すように、本実施形態に係る画像形成装置10には、記録媒体としての用紙Pの搬送方向上流側に、用紙Pを給紙搬送する給紙搬送部12が設けられている。この給紙搬送部12の搬送方向下流側には、用紙Pの搬送方向に沿って、用紙Pの記録面に処理液を塗布する処理液塗布部14、用紙Pの記録面に画像を形成する画像形成部16、乾燥した画像を用紙Pに定着させる画像定着部20、画像が定着した用紙Pを排出する排出部21が順次設けられている。以下、各処理部について説明する。
【0036】
<給紙搬送部>
給紙搬送部12には、用紙Pが積載される積載部22が設けられており、積載部22の用紙搬送方向下流側には、積載部22に積載された用紙Pを一枚ずつ給紙する給紙部24が設けられている。給紙部24によって給紙された用紙Pは、複数のローラ対26で構成された搬送部28を経て、処理液塗布部14へ搬送される。
【0037】
<処理液塗布部>
処理液塗布部14では、処理液塗布ドラム30が回転可能に配設されている。この処理液塗布ドラム30には、用紙Pの先端部を挟持して用紙Pを保持する保持部材32が設けられており、保持部材32を介して、処理液塗布ドラム30の表面に用紙Pを保持した状態で、処理液塗布ドラム30の回転によって用紙Pを下流側へ搬送する。
【0038】
なお、後述する中間搬送ドラム34、画像形成ドラム36及び画像定着ドラム40についても、処理液塗布ドラム30と同様に保持部材32が設けられている。そして、この保持部材32によって、上流側のドラムから下流側のドラムへの用紙Pの受け渡しが行われる。
【0039】
処理液塗布ドラム30の上部には、処理液塗布ドラム30の周方向に沿って、処理液塗布装置42及び処理液乾燥装置44が配設されており、処理液塗布装置42によって、用紙Pの記録面に処理液が塗布され、処理液乾燥装置44によって、処理液が乾燥される。
【0040】
ここで、処理液はインクと反応して色材(顔料)を凝集し、色材(顔料)と溶媒を分離促進する効果を有している。処理液塗布装置42には、処理液が貯留された貯留部46が設けられており、グラビアローラ48の一部が処理液に浸されている。
【0041】
このグラビアローラ48にはゴムローラ50が圧接して配置されており、ゴムローラ50が用紙Pの記録面(表面)側に接触して処理液が塗布される。また、グラビアローラ48にはスキージ(図示せず)が接触しており、用紙Pの記録面に塗布する処理液塗布量を制御する。処理液乾燥装置44には、熱風ノズル54及びヒーター56が処理液塗布ドラム30の表面に近接して配設されている。処理液塗布部14で記録面に処理液が塗布、乾燥された用紙Pは、処理液塗布部14と画像形成部16の間に設けられた中間搬送部58へ搬送される。
【0042】
<中間搬送部>
中間搬送部58には、中間搬送ドラム34が回転可能に設けられており、中間搬送ドラム34に設けられた保持部材32を介して、中間搬送ドラム34の表面に用紙Pの先端を保持し、中間搬送ドラム34の回転によって用紙Pを下流側へ搬送する。
【0043】
<画像形成部>
画像形成部16には、画像形成ドラム36が回転可能に設けられており、画像形成ドラム36に設けられた保持部材32を介して、画像形成ドラム36の表面に用紙Pを保持し、画像形成ドラム36の回転によって用紙Pを下流側へ搬送する。
【0044】
画像形成ドラム36の上部には、画像形成ドラム36の外周面に近接して、シングルパス方式のインクジェットラインヘッド64で構成されたヘッドユニット66が配設されている。このヘッドユニット66では、例えば基本色であるYMCKのインクジェットラインヘッド64が画像形成ドラム36の周方向に沿って配列され、用紙P上に各色の液滴で画像を形成する。
【0045】
インクジェットラインヘッド64は、画像形成ドラム36に配置された回転速度を検出するエンコーダ(図示せず)に同期して液滴吐出を行うことで、高精度に着弾位置を決定すると共に、画像形成ドラム36の振れ、回転軸68の精度、ドラム表面速度に依存せず、液滴吐出ムラを低減することが可能となる。
【0046】
なお、ヘッドユニット66は画像形成ドラム36の上部から退避可能とされており、インクジェットラインヘッド64のノズル面清掃や増粘インク排出などのメンテナンス動作は、このヘッドユニット66を画像形成ドラム36の上部から退避させることで実施される構成とされていてもよい。
【0047】
記録面に画像が形成された用紙Pは、画像形成ドラム36の回転によって、画像形成部16とインク乾燥部18の間に設けられた中間搬送部70へ搬送されるが、中間搬送部70については、中間搬送部58と構成が略同一であるため説明を省略する。
【0048】
<インク乾燥部>
インク乾燥部18には、乾燥ドラム38が回転可能に設けられており、乾燥ドラム38の上部には、インク乾燥部18の表面に近接して、熱風ノズル72及びIRヒーター74が複数配設されている。
【0049】
ここでは、一例として、上流側と下流側に熱風ノズル72が配置されるようにして、熱風ノズル72と平行配列された一対のIRヒーター74を交互に配置している。これ以外にも、上流側にIRヒーター74を多く配置して上流側で熱エネルギーを多く照射し水分の温度を上昇させ、下流側に熱風ノズル72を多く配置して飽和水蒸気を吹き飛ばすようにしても良い。
【0050】
ここで、熱風ノズル72は、熱風の吹きつけ角度を用紙の後端側に傾けて配置するようにしている。これにより、熱風ノズル72による熱風の流れを一方向に集めることができ、また、乾燥ドラム38側へ用紙を押し付け、該乾燥ドラム38の表面に用紙を保持させた状態を維持することができる。
【0051】
これらの熱風ノズル72及びIRヒーター74による温風によって、用紙の画像形成部では、色材凝集作用により分離された溶媒が乾燥され、薄膜の画像層が形成される。
【0052】
温風は用紙の搬送速度によっても異なるが、通常は50℃〜70℃に設定され、IRヒーター74の温度を200℃〜600℃に設定する事で、インク表面温度が50℃〜60℃になるよう設定されている。蒸発した溶媒はエアーと共に画像形成装置10の外部へ排出されるが、エアーは回収される。このエアーは、冷却器/ラジエータ等で冷却して液体として回収しても良い。
【0053】
記録面の画像が乾燥した用紙は、乾燥ドラム38の回転によって、インク乾燥部18と画像定着部20の間に設けられた中間搬送部76へ搬送されるが、中間搬送部76については、中間搬送部58と構成が略同一であるため説明を省略する。
【0054】
<画像定着部>
画像定着部20には、画像定着ドラム40が回転可能に設けられており、画像定着部20では、用紙P上に形成された薄層の画像層内のラテックス粒子が加熱/加圧されて溶融し、用紙P上に固着定着する機能を有する。
【0055】
画像定着ドラム40の上部には、画像定着ドラム40の表面に近接して、加熱ローラ78が配設されている。この加熱ローラ78は熱伝導率の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプが組み込まれており、加熱ローラ78によって、ラテックスのTg温度以上の熱エネルギーが付与される。これにより、ラテックス粒子を溶融し、用紙P上の凹凸に押し込み定着を行うと共に画像表面の凹凸を平滑化し光沢性を得ることを可能とする。
【0056】
加熱ローラ78の下流側には、定着ローラ80が設けられている、この定着ローラ80は画像定着ドラム40の表面に圧接した状態で配置され、画像定着ドラム40との間でニップ力を得るようにしている。このため、定着ローラ80又は画像定着ドラム40のうち、少なくとも一方は表面に弾性層を持ち、用紙Pに対して均一なニップ幅を持つ構成とする。
【0057】
以上の工程を経たのち、記録面の画像が定着した用紙Pは画像定着ドラム40の回転によって、画像定着部20の下流側に設けられた排出部21側へ搬送される。
【0058】
なお本実施形態では画像定着部20について説明したが、乾燥ドラム38で記録面に形成された画像を乾燥・定着させる構成とされていてもよく、画像定着部20は必ずしも必須ではない。
【0059】
<液滴吐出ヘッドの構造>
本発明の実施形態に係るインクジェットラインヘッドは図2、図3に示す液滴吐出ヘッドを備えている。
【0060】
図2にはインクジェットラインヘッド64の動作原理が示され、また図3にはインクジェットラインヘッド64の構造例が示されている。
【0061】
図2(B)に示すように、ヘッドプレート100には複数の供給流路210が用紙Pの搬送方向に配列され、それぞれ図示しないインクタンクよりインクSが供給される。インクSは図示しないフィルタで濾過され、液循環口216より供給流路210へ供給される。供給流路210には、1ドットのインク滴を吐出する複数の吐出要素104が設けられ、供給流路210より供給されたインクSをインク滴として吐出する。
【0062】
図2(A)に示すように、ヘッドプレート100に複数設けられた吐出要素104は供給流路210よりインクSが供給される圧力室212、圧力室212で加圧されたインクSを液滴として吐出するノズル214、圧力室212を加圧してインクSを押圧する振動板200、振動板200を駆動する圧電体202、個々の圧電体に電気信号を印加する駆動配線204、ノズル214ごとに設けられ駆動配線より電圧を印加される個別電極206、駆動配線204をヘッドプレート100の外部と電気的に接続する接続端子208(図示せず)、振動板200と圧電体202の間に設けられ接地(0V)された共通電極220(図示せず)、共通電極と駆動配線204の間に設けられ両者を電気的に絶縁する絶縁層222(図示せず)などが設けられている。接続端子208と共通電極220は図示しない電気基板上の圧電体駆動回路に接続されており、個々の吐出要素104を個別に駆動することが出来る。
【0063】
また、駆動する際に吐出要素104の圧電体202に印加される駆動波形は、例えば圧力室内のインクが共振するパルス幅の方形波である。インクの共振周波数f(Hz)に対して、パルス幅は1/(2×f)(秒)にすると効率よくインクを吐出する事が出来る。
【0064】
さらに、方形波の電圧は、使用するインクジェットヘッドの設計、圧電体の変位特性やインクの粘度によって大きく変わるが、本願の例では、14(V)程度の振幅で、吐出インク滴速度が9(m/秒)程度になり、適切である。このパルスを複数印加すれば、複数の滴を吐出する事が出来る。
【0065】
また図2(C)に示すように、吐出要素104に対応して、駆動配線204上には補正用アクチュエータ300が設けられている。補正用アクチュエータ300はすべての吐出要素104に通電する駆動配線204に設けられていても、あるいは供給流路210の長手方向中央付近に重点的に設けられ、両端部近傍には設けないかまたは数を少なくするなどの配置とされていてもよい。
【0066】
補正用アクチュエータ300は例えば図2(C)に示すように、接続端子208から吐出要素104に至る駆動配線204が供給流路210の壁面外側に接する箇所において形成される。補正用アクチュエータ300は圧電体302上にドーナツ状の個別電極304が設けられ、変位部306を形成している。
【0067】
個別電極304は駆動配線204上に設けられており、補正用アクチュエータ300が設けられた駆動配線204に接続される吐出要素104が図示しない制御手段により駆動電圧を印加されれば、同時に補正用アクチュエータ300にも駆動電圧が印加され、吐出要素104と同時に補正用アクチュエータ300もまた駆動される。
【0068】
吐出要素104と補正用アクチュエータ300の詳細な構造を図3、図4に示す。図3には、本発明の第1実施形態に係る吐出要素の構造が示されている。
【0069】
図3(A)、(B)に示すように、共通電極220を挟んで圧電体202上に形成された個別電極206に電圧が印加されると、図3(C)に示されるように圧電体202は矢印203のように、個別電極206と接している中心付近箇所は収縮しようとする。同時に個別電極206と接していない圧電体202の周縁部は膨張しようとする結果、圧電体202は矢印201のように圧力室212を加圧する方向に変位する。
【0070】
これに対して図4(A)、(B)に示すように補正用アクチュエータ300は圧電体302上に設けられたドーナツ状の個別電極304で変位部306を囲う構成とされており、個別電極304に電圧が印加されると図4(C)に示すように個別電極304と接している圧電体302の周縁部は収縮しようとし、且つ個別電極304と接していない中心付近箇所は矢印303のように膨張しようとする結果、圧電体302は矢印301のように供給流路210を減圧する方向に変位する。
【0071】
圧電体202、302はヘッドプレート100と略同じ大きさの1枚の圧電体の両面に電極層を形成してから振動板200に接着によって貼り付けられ、圧電体202、302及び個別電極206、304をエッチングによって必要な部分のみ残し形成される。その後、絶縁層222を形成し、個別電極206と補正用アクチュエータ300とを結ぶ駆動配線204と接続端子208をメッキやスパッタなどによって形成する。この絶縁層222部分には圧電体202が残っていてもよいが、圧電体202があまり薄い状態であると絶縁破壊を起こす虞があるので絶縁層222を設けることが望ましい。
【0072】
<第1実施形態の効果>
以下、本発明の第1実施形態に係るインクジェットラインヘッドの動作について説明する。
【0073】
図2(A)に示すような個々の吐出要素104の駆動配線204に電気信号を印加すると圧電体202が変位し、加圧された圧力室212からノズル214を通過してインクSが液滴として吐出される。
【0074】
この吐出圧力は、ノズル214からインクSを吐出するだけでなく、インクSを供給するための絞り部213に対してもインクSを押し出す流れと圧力を発生させる。
この絞り部213に向かう流れと圧力は、インクSの供給流路210を通じて複数連通された各圧力室212に伝達され、他の圧力室212におけるインクSの吐出力に影響を与え、吐出されるインク滴の速度や体積の変動を生じる(流体クロストーク)。
【0075】
本実施形態では、吐出用のアクチュエータである吐出要素104、あるいは補正用アクチュエータ300の、個別電極206または個別電極304の形状を工夫することで、これらを同じ駆動配線204に接続して駆動した際にも、両者が互いに逆方向に変位する構成とした。
【0076】
これによって、同じ駆動配線204上で同じ駆動信号を印加していながら、吐出要素104と補正用アクチュエータ300とは逆方向に変位し、流体クロストークを低減することができる。
【0077】
すなわち、このような電極形状とすることによって吐出用の圧電体202と補正用の圧電体302とは同じ駆動電圧を掛けていながら互いに逆方向に変位し、それぞれの変位体積量を適切に設定すれば、吐出要素104で発生した供給流路210に対する正圧を、補正用アクチュエータ300で生じる負圧で打ち消すことができ、流体クロストークを効果的に低減することができる。
【0078】
かつ、補正用アクチュエータ300は吐出要素104の駆動配線204の途中に設けられているため、専用の配線を必要とせず、加えて吐出要素104を駆動すれば同時に同じ駆動配線204上の補正用アクチュエータ300もまた駆動されるので、専用の制御手段を必要としない構成とすることができる。
【0079】
吐出要素104の変位体積量は必要な吐出性能を得られるように決定される。この条件で吐出を行った際、絞り部213から供給流路210に押し出されるインクSの量はシミュレーションによって容易に求められるが、補正用アクチュエータ300の変位体積は供給流路210に押し出されるインクSの量と略等しくすれば良い。
【0080】
本実施形態では吐出要素104、補正用アクチュエータ300ともにそれぞれ独立した圧電体を使用しているが、これに限定せず一続きになった圧電体でもよく、さらに1つのヘッドプレート100の各圧電体がすべて一続き(一体)であってもよい。また、本実施形態では、補正用アクチュエータ300にドーナツ状の個別電極304を用いているが、これと逆に吐出要素104の個別電極206がドーナツ状、補正用の個別電極304が中央部に穴のない所謂ベタ電極とされていてもよい。
<第2実施形態>
第1実施形態においては、吐出要素104の個別電極206と、補正用アクチュエータ300の個別電極304の形状は、一方をベタ電極、他方をドーナツ状電極とすることで、同一の駆動信号に対して一方を供給流路210に対して正圧、他方で負圧を発生させている。
【0081】
本実施形態では個別電極206と個別電極306の形状を両者ともベタ電極、あるいは両者ともドーナツ状電極とし、両者の圧電体を互いに逆方向に分極させた構成とされている。
【0082】
すなわち、吐出要素104と、補正用アクチュエータ300の圧電体を逆方向に分極させることによって、同一の駆動信号を印加された場合には互いに逆方向に変位し、一方では供給流路210に対して正圧、他方は負圧を発生させる構成とすることができる。
【0083】
このとき、逆方向に分極した一方の圧電体は他方よりも変位量が小さくなるため、補正用アクチュエータ300の圧電体302とすることが望ましい。あるいは第1実施形態よりもアクチュエータ面積を大きくする構成とされていてもよい。
【0084】
また、逆方向に分極するのではなく、同じ方向に分極した圧電体を、圧電体202と圧電体302とを互いに逆向きになるように、1方を裏返しに取り付けても良い。この構成では、両方の圧電体とも、同等の変位が得られる。
【0085】
さらに個別電極をすべてベタ電極とする構成であれば、電極の面積を小さくすることができるため電極精度を得やすく、また実装密度を高めることができる。
【0086】
<第3実施形態>
上記第1実施形態のように補正用アクチュエータ300は各圧力室212に対して一対一に対応して設けてもよいが、2つの圧力室212つに対して補正用アクチュエータ300を1つ、または3つの圧力室212に対して補正用アクチュエータ300を1つというように補正用アクチュエータ300の数を減らしてもよい。この場合、液滴吐出時に隣接するドットを形成する吐出要素104のいずれか1つに補正用アクチュエータ300を設けるようにすることが望ましい。
【0087】
すなわち、クロストークによる濃度むらが目立つ中濃度から高濃度の描画においては、ざらつき感を低減するため隣接したドットを打たないようにしてインクSを吐出するため、吐出しない吐出要素104に接続された補正用アクチュエータ300を駆動させることができる。
【0088】
また、流体クロストークは振動の伝播なので近距離に設けられた圧力室212ほど影響を受けやすいため、他の圧力室212への影響が大きい、供給流路210の長さ方向中央に近い圧力室212のみに対応させて設けられていてもよい。たとえば、中央寄りの1/4〜3/4の圧力室212にのみ補正用アクチュエータ300が設けられていてもクロストーク低減に効果が得られる。
【0089】
この構成とすることで、全部の吐出要素104に補正用アクチュエータ300を設けることなくクロストークを低減でき、かつ低コストで簡易な構成とすることができる。
【0090】
<第4実施形態>
上記第3実施形態のように補正用アクチュエータ300を一部の吐出要素104にのみ設置した構成において、補正用アクチュエータ300の圧電体302を供給流路210の内部圧力を測定するセンサとして使用してもよい。圧電体302を内部圧力を測定するセンサとして使用するには、圧電体302と繋がった配線が駆動回路に繋がっているものを、図示しない電圧検出回路に繋げる。つまり、接続端子208と共通電極220が繋がっている、図示しない電気基板上のスイッチにより、圧電体駆動回路から圧力検出回路に切替えて検出される電圧から、内部の圧力値に換算して検出する。この圧力値の変化を図示しない制御回路によって演算処理し、その結果により、補正用アクチュエータ300が接続されていない吐出要素104の圧電体202を駆動する。
【0091】
すなわち、発生したクロストークにより供給流路210内部に励起される固有振動による圧力を検出し、この圧力を減衰させるように、補正用アクチュエータ300が接続されていない吐出要素104の圧電体202を駆動することで、供給流路の内部に生じた固有振動を低減させることができる。この場合、圧電体202はノズル214から液滴を吐出しない程度の変位で駆動すれば予期しない吐出による画像故障の発生などを防ぐことができる。
【0092】
<その他>
以上、本発明の実施例について記述したが、本発明は上記の実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【0093】
例えば上記実施形態ではドラムの表面に用紙Pを保持、搬送する構成を例に挙げたが、これに限定せず例えば無端ベルト状の搬送ベルトを用いる構成や、平板状のステージを用いて用紙を搬送する構成に本発明を適用することも可能である。
【0094】
また、上記実施形態では処理液塗布部14で用紙Pに処理液を塗布し、乾燥させる処理を施したのち用紙Pに対してヘッドユニット66にて液滴吐出を行う構成を例に挙げたが、勿論これに限定せず例えば通常紙(プレーンペーパー)を保持してそのまま搬送し、表面に液滴を直接吐出して画像を形成する通常のインクジェットプリンタに本発明を適用することも可能である。
【0095】
さらに吐出される液はインクに限定されず、例えばエッチング時の基板パターン形成などに応用してもよい。
【符号の説明】
【0096】
10 画像形成装置
12 給紙搬送部
14 処理液塗布部
16 画像形成部
18 インク乾燥部
20 画像定着部
64 インクジェットラインヘッド
66 ヘッドユニット
100 ヘッドプレート
104 吐出要素
200 振動板
202 圧電体
204 駆動配線
206 個別電極
208 接続端子
210 供給流路
212 圧力室
214 ノズル
300 補正用アクチュエータ
P 用紙
S インク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液が供給される液供給流路と、
前記液供給流路に連通し液を加圧する複数の圧力室と、
前記圧力室に連通し液滴を吐出するノズルと、
前記圧力室ごとに設けられ、前記圧力室を加圧する第1の圧力発生手段と、
前記液供給流路の1つの面の壁を構成する部材の液が流れる供給路側の面の裏面に前記第1の圧力発生手段ごとに設けられ、前記第1の圧力発生手段にそれぞれ電気信号を伝達する駆動配線と、
前記液供給流路の天井面において前記駆動配線上に設けられ、前記第1の圧力発生手段とは逆位相に前記液供給流路の前記1つの面を変位させる第2の圧力発生手段と、
を備えた液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1の圧力発生手段と前記第2の圧力発生手段は圧電体である請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記液供給流路の前記1つの面において前記駆動配線の一部が圧電体に接触し前記第2の圧力発生手段を形成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1の圧力発生手段と前記第2の圧力発生手段の一方は前記駆動配線とベタ電極で接続され、他方は変位する範囲を閉曲線で囲ったドーナツ状電極で接続されたことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1の圧力発生手段と前記第2の圧力発生手段は両者ともベタ電極か、または変位する範囲を閉曲線で囲ったドーナツ状電極で前記駆動配線に接続され、前記第1の圧力発生手段と前記第2の圧力発生手段は互いに分極方向が逆であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第1の圧力発生手段により前記液供給流路へ押し出される液量が多くなれば、前記第2の圧力発生手段による変位量を増大させる制御手段が設けられたことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記駆動配線に前記第2の圧力発生手段が設けられる割合は、前記液供給流路の長手方向中央に近い箇所で、前記液供給流路の長手方向端部に近い箇所よりも高いことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第2の圧力発生手段を振動検知器として動作させることにより前記液供給流路内の液における固有振動を検知し、前記第2の圧力発生手段が設けられていない前記駆動配線に接続された前記第1の圧力発生手段が前記固有振動を打ち消す方向に変位することを特徴とする請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
前記駆動配線ごとに前記第2の圧力発生手段が設けられたことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第1の圧力発生手段と前記第2の圧力発生手段は一枚の圧電体を分離して形成されたことを特徴とする請求項2〜請求項9の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項11】
請求項1〜請求項10の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッドを備えた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−228186(P2010−228186A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76329(P2009−76329)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】