説明

液滴吐出ヘッド及び画像形成装置

【課題】仮接合を行った接着剤の劣化を防ぎ、かつノズル板表面の撥水膜損傷及び吐出不良を防ぐ。
【解決手段】ノズル板1及び振動板3で流路板2を挟持して各部材を当接させたときに流路板2のノズル板1と接合する面に設けられた仮接合用の凹部204の開口部全体がノズル板1によって覆われる。そして、凹部204は流路板2に設けられた貫通孔206及び振動板3の貫通孔205と連通している。これは凹部204に予め塗布された仮固定用の紫外線硬化型接着剤に紫外線を照射する通路である。流路板2にノズル板1及び振動板3を接合して構成した液滴吐出ヘッドにおいてノズル板1から貫通孔205の開口部までの距離は流路板2の厚みと流路板2の端部から貫通孔205の設置位置までの距離の合計の距離であり、仮固定接着剤塗布部を流路板2の平面と側面との稜線に設けられた構成に比して非常に遠い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、プリンタ、ファックス、複写機、プロッタ、或いはこれらの内の複数の機能を複合した画像形成装置としては、例えばインクの液滴を吐出する液滴吐出ヘッドを備え、媒体を搬送しながらインク滴を用紙に付着させて画像形成を行うインクジェット記録装置がある。ここでの媒体は「用紙」ともいうが材質を限定するものではなく、被記録媒体、記録媒体、転写材、記録紙なども同義で使用する。また、画像形成装置は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液体を吐出して画像形成を行う装置を意味する。そして、画像形成とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与する(単に液滴を吐出する)ことをも意味する。また、インクとは、所謂インクに限るものではなく、吐出されるときに液体となるものであれば特に限定されるものではなく、例えばDNA試料、レジスト、パターン材料なども含まれる液体の総称として用いる。
【0003】
このような画像形成装置における液滴吐出ヘッドは、主に、ノズル板、流路板、振動板及び圧力発生手段を含んで構成されている。ノズル板には少なくとも1つのノズルが設けられている。流路板はノズルに対応して設けられノズルに連通する個別液室、及び該個別液室に連通して液体を個別液室に供給する共通液室を構成する板状の部材である。振動板は後述する圧力発生手段による形状変位に伴う振動を個別液室内に伝達する部材であって個別液室の一部を構成している。圧力発生手段はパソコン等の上位装置からの液滴吐出信号に基づいて形状が変化することで振動板を介して個別液室内の液体に圧力振動を付与するものであり、例えば圧電アクチュエータが用いられる。そして、この液滴吐出ヘッドでは、上位装置からの液滴吐出信号に基づき圧力発生手段による圧力振動が振動板に付与され、付与された振動板の形状が変化し個別液室内の液体に圧力が加わる。加えられた圧力に伴い個別液室内の液体がノズル板のノズルから吐出され媒体上に着弾する。
【0004】
このような液滴吐出ヘッドでは画質品質に対する信頼性を確保するために、各部材を高精度に組み立てる必要がある。高密度高集積化が進むにつれ、ノズル板のノズルの位置、流路板の個別液室の位置及び振動板を高精度にそれぞれ位置決めし、位置決めされた位置を維持しながら確実に接合して組み立てをしなければならない。
【0005】
この各部材の位置決めされた位置を維持しつつ各部材を確実に接合する方法として、例えば熱硬化型接着剤等の本固定用の接着剤を用いて本固定を行う前に、例えば紫外線硬化型接着剤等の仮固定用の接着剤を用いて仮固定を行う方法が一般に採用されている。つまり、各部材間に上記本固定用の接着剤を本接着剤塗布箇所に塗布しておき、仮固定用の接着剤を仮接着剤塗布箇所に塗布した後に各部材間のアライメントを行う。仮固定用の接着剤の上記紫外線硬化型接着剤に紫外線を照射して硬化させて仮固定する。その後、各部材間を加圧し、かつ加熱することで本固定用の接着剤の上記熱硬化型接着剤を硬化させ、各部材間の本固定を行う。この仮固定方法によれば、各部材の位置が仮固定用の接着剤により仮固定されているため、本固定を行ったとしても各部材の位置がずれない。この仮固定を行う接合方法として、特許文献1に記載のものが知られている。この特許文献1には、流路板の一方の面にノズル板を仮固定し、かつ流路板の他方の面に振動板を仮固定する方法が開示されている。この特許文献1に開示されている仮固定方法の概略を図面を用いて以下に説明する。
【0006】
図14は流路板のノズル板との接合面側の平面図である。同図に示すように、流路板2のノズル板(図示せず)との接合面には、複数の個別液室パターン201、ノズル板のノズル(図示せず)に連通する複数の個別液室貫通孔202、及び仮固定用の接着剤としての紫外線硬化型接着剤209を塗布する切欠き部208がそれぞれ設けられている。そして、図15の(a)に示すように、流路板2の振動板3と接合する面を上方にして流路板2の上面に本固定用の接着剤としての熱硬化型接着剤(図示せず)を予め塗布しておく。次に、振動板3の仮接合用の各切欠き部208に紫外線硬化型接着剤209をそれぞれ塗布しておく。そして、図15の(b)に示すように、流路板2に振動板3を当接して各切欠き部208を振動板3で上方から覆う。その後、流路板2と振動板3とのアライメントを行い、各切欠き部208に塗布された紫外線硬化型接着剤209に、切欠き部208の流路板2の側面側に開いている開口部から紫外線を照射して硬化させて流路板2に振動板3を仮接合する。次に、図15の(c)に示すように、流路板2のノズル板1と接合する面を上方にして流路板2の上面に熱硬化型接着剤(図示せず)を予め塗布しておく。そして、ノズル板1の仮接合用の各切欠き部208に紫外線硬化型接着剤209をそれぞれ塗布しておく。そして、図15の(d)に示すように、流路板2にノズル板1を当接して各切欠き部208をノズル板1で上方から覆う。その後、ノズル板1と流路板2とのアライメントを行い、各切欠き部208に塗布された紫外線硬化型接着剤209に、切欠き部208の流路板2の側面側に開いている開口部から紫外線を照射して硬化させて流路板2にノズル板1を仮接合する。その後、他方の加圧治具210をノズル板側に当接した上で、対の加圧治具210を用いて加圧することで本接合を行う。上記紫外線硬化型接着剤に代えて瞬間接着剤を用いる場合は、流路板2にノズル板1を当接してノズル板1と流路板2とのアライメントを行った後切欠き部208の流路板の側面側に開いている開口部から切欠き部208に上記瞬間接着剤を塗布し仮接合を行う。
【0007】
このように、流路板における、ノズル板との接合面及び振動板との接合面に、平面及び側面で形成される各稜線の一部又は全体に、当該稜線を含む平面及び側面を欠いた切欠き部を少なくとも1つそれぞれ設けている。そして、流路板の一方の面にノズル板を位置決めして当接したとき、上記切欠き部のノズル板との当接面側に開いている開口部はノズル板で覆われ、上記切欠き部の流路板の側面側に開いている開口部は開いた状態である。また、流路板の他方の面に振動板を位置決めして当接したとき、上記切欠き部の振動板との当接面側に開いている開口部は振動板で覆われ、上記切欠き部の流路板の側面側に開いている開口部も開いた状態である。上述したように、各切欠き部に、仮接合用の接着剤としての紫外線硬化型接着剤を塗布した場合は流路板の各面にノズル板及び振動板を当接させた後各切欠き部内の紫外線硬化型接着剤に、上記切欠き部の流路板の側面側に開いた状態の開口部から紫外線を照射して硬化させる。これにより、流路板にノズル板及び振動板をそれぞれ仮固定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1の製造方法で製造された液滴吐出ヘッドを搭載した画像形成装置では、液滴吐出のノズル孔の吐出状態を回復させるためにノズル板のワイピング動作が行われる。このワイピング動作では、図16に示すように、ワイパーブレード211でノズル板1のノズル面をワイピングしてノズル孔11の周辺に付着したインク212を除去する。この除去されたインク212がワイパーブレード211から飛び出し空中に浮遊する。上記特許文献1の製造方法では、上述したように流路板にノズル板及び振動板を当接したとき上記切欠き部には流路板の側面側に開いている開口部を有している。仮固定用の接着剤が各部材のアライメントを行う前に上記切欠き部に予め塗布する紫外線硬化型接着剤などの後処理によって接着する接着剤である場合、上記切欠き部の開口部は、例えば紫外線を照射するなどの当該接着剤の接着効果を発生させる後処理を行うための開口部である。仮固定用の接着剤が瞬間接着剤などのような経時的な接着剤である場合、上記切欠き部の開口部は各部材のアライメントを行った後に当該接着剤を塗布するための開口部である。仮固定用の接着剤がどのような接着剤にしても、上記切欠き部に塗布される仮固定用の接着剤は露出している。上記切欠き部はノズル板と当接する流路板の当接面と側面の稜線に設けられており、ノズル板1のノズル孔11の近傍に配置されている。このため、ワイパーブレード211から飛び出し空中に浮遊しているインクが上記切欠き部の流路板の側面側に開いている開口部から侵入して上記切欠き部に塗布された仮固定用の接着剤に付着し、仮固定用の接着剤が腐食する。腐食して劣化した接着剤片213が外部を通ってノズル板1の表面に付着し、付着した接着剤片213がワイピング動作時にワイパーブレード211に付着する。これにより、接着剤片213が付着したワイパーブレード211によってノズル板1の表面加工用の撥水膜に損傷を与えることにつながる。あるいは、接着剤片213がノズル孔11に詰り、吐出不良となる等の不具合の要因となる。
【0009】
また、液滴吐出ヘッドを構成する流路板を製造する方法としては、図17に示すように、流路板用のチップには、ウェハ上に個別液室や共通液室に相当する各パターンが形成され、かつ両面に上記切欠き部となる凹部208が予め設けられている。この流路板用のチップのいずれか一面、例えばノズル面に当接する面にダイシンテープ300を貼る。仮想線であるダイシングライン301に沿って図18に示すダイシングブレード302によってダイシングし、個々の流路板を製造する。このような製造工程において、ダイシングライン301に沿ってダイシングブレード302でダイシングした際にダイシング屑303が発生する。図17に示すようにダイシングライン301はノズル面側の上記切欠き部を通っている。このため、ダイシングング時に発生するダイシング屑303がノズル面側の切欠き部内に存在する。通常、ダイシングテープ300が貼付されていない流路板2の振動板との接合面側の切欠き部208に侵入したダイシング屑303は洗浄液で除去される。しかし、流路板2のノズル板との接合面側の切欠き部208に残存しているダイシング屑303は、当該切欠き部208がダイシングテープ300で閉塞空間状態であるため、洗浄液では除去できず、切欠き部208内に残ることになる。上記特許文献1の仮固定方法によれば、切欠き部内にダイシング屑が残留し、この残留したダイシング屑が異物源となる。つまり、仮接着剤塗布部となる切欠き部にダイシング屑が残留している流路板にノズル板を仮接合すると、ダイシング屑が残存している切欠き部に塗布した仮固定用の接着剤にダイシング屑が付着することになる。このため、仮固定用の接着剤は劣化してしまう。そして、上述したように、仮接着剤塗布部はノズル板の端部から近い位置に設けられ、かつ流路板の側面側に開いている開口部を有し外部に露出している。このため、劣化した仮固定用の接着剤片が外部を通ってノズル板の表面に付着し、上述したように、劣化した接着剤片によるノズル板表面の撥水膜損傷や吐出不良を引き起こす。
【0010】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、異物の付着によって劣化する仮固定用の接着剤をなくし、かつノズル板表面の撥水膜損傷及び吐出不良を防止することができる液滴吐出ヘッド及び画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、ノズルが設けられたノズル板と、前記ノズルに対応して設けられ前記ノズルに連通する個別液室を少なくとも構成し、かつ一方の面に前記ノズル板を接合する面に切欠き部を有する流路板と、前記流路板の他方の面に接合されて前記個別液室の一部を構成する振動板と、上位装置からの液滴吐出信号に基づいて前記振動板に圧力振動を付与し前記個室液室内に圧力を発生する圧力発生手段と、を備え、前記流路板の一方の面に前記ノズル板を当接し、前記流路板の他方の面に前記振動板を当接し、接着剤塗布手段によって前記切欠き部に塗布する仮固定用の接着剤で前記ノズル板及び前記振動板を前記流路板にそれぞれ仮接合した後に本接合した液滴吐出ヘッドにおいて、前記切欠き部は、前記流路板に前記ノズル板との接合面側に開いている開口部のみを有し、かつ前記流路板に前記ノズル板を当接したときに前記開口部の全体が前記ノズル板に覆われる位置に設け、前記ノズル板に覆われる位置に設けられた前記切欠き部に前記接着剤塗布手段によって仮固定用の接着剤を塗布し、前記流路板の一方の面に前記ノズル板を当接して前記切欠き部を前記ノズル板で覆い、前記切欠き部内の仮固定用の前記接着剤によって前記流路板に前記ノズル板を仮接合した後に本接合したことを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、請求項1記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記接着剤は紫外線硬化型接着剤であり、前記ノズル板に覆われる位置に設けられた前記切欠き部が前記流路板の他方の面に貫通する貫通孔を、前記流路板に設け、前記流路板の一方の面に前記ノズル板を当接し前記ノズル板に覆われる位置に設けられた前記切欠き部を前記ノズル板で覆い、前記切欠き部に前記接着剤塗布手段によって塗布された前記紫外線硬化型接着剤に、前記貫通孔を通して紫外線を照射し、前記紫外線硬化型接着剤を硬化させ、前記ノズル板を前記流路板に仮接合した後に本接合したことを特徴とするものである。
更に、請求項3の発明は、請求項2記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記貫通孔を複数設け、前記貫通孔の開口以外の前記切欠き部の底面に前記ノズル板との接着部分を形成し、前記接着部分に前記接着剤塗布手段によって前記紫外線硬化型接着剤を塗布し、当該紫外線硬化型接着剤に前記貫通孔を通して紫外線を照射し、前記紫外線硬化型接着剤を硬化させ、前記ノズル板を前記流路板に仮接合した後に本接合したことを特徴とするものである。
また、請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記流路板の前記貫通孔と連通する貫通孔を前記振動板に設け、前記流路板に前記振動板を当接したときに前記流路板の前記貫通孔に前記振動板の前記貫通孔を連通させて、前記紫外線硬化型接着剤に前記各貫通孔を通して紫外線を照射し、前記紫外線硬化型接着剤を硬化させ、前記ノズル板を前記流路板に仮接合した後に本接合したことを特徴とするものである。
更に、請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッドから液体を媒体に吐出して画像形成を行うことを特徴とするものである。
【0012】
本発明においては、ノズル板を流路板の一方の面に当接させたとき、ノズル板との接合面である流路板の一方の面に設けられ、かつノズル板との接合面側に開いている開口部全体がノズル板で覆われる位置に、上記切欠き部を設けている。上記切欠き部には接着剤塗布手段によって仮固定用の接着剤が予め塗布されている。上記切欠き部の開口部全体がノズル板で覆われるため、上記切欠き部内に予め塗布された仮固定用の接着剤は露出しない。これにより、インクが付着しているノズル板のノズル面をワイパーブレードによってワイピングした時のワイパーブレードに付着したインクが浮遊しても上記切欠き部内の仮固定用の接着剤には付着しない。よって、仮固定用の接着剤が劣化することはない。
また、チップから個々の流路板をダイシングする時、流路板のノズル板との接合面全面にダイシングテープを貼付してダイシングを行う。ノズル板との接合面である流路板の一方の面に設けられ、かつ開口部全体がノズル板で覆われる上記切欠き部の位置は、チップから個々の流路板の外形端部に沿った仮想線のダイシングラインから離れている。このため、開口部全体がノズル板で覆われる上記切欠き部はダイシングされない。よって、ダイシング時に発生するダイシング屑は上記切欠き部には存在しない。このように製造された流路板にノズル板を仮接合する際上記切欠き部に塗布した仮固定用の接着剤に、ダイシング屑が付着することはない。よって、劣化した接着剤片によってノズル板表面に加工された撥水膜を損傷したりすることがなくなり、劣化した接着剤がノズルの孔に詰まることもなくノズルの吐出不良もなくなる。
【発明の効果】
【0013】
以上本発明によれば、異物の付着によって劣化する仮固定用の接着剤をなくし、かつノズル板表面の撥水膜損傷及び吐出不良を防止することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態のインクジェット記録装置を前方から見た斜視図である。
【図2】インクジェット記録装置の機構部の概要を示す側面図である。
【図3】機構部の要部平面図である。
【図4】液滴吐出ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図5】液滴吐出ヘッドの液室長手方向に沿う断面図である。
【図6】圧電アクチュエータの斜視図である。
【図7】圧電アクチュエータの断面図である。
【図8】流路板をノズル板側から見た平面図である。
【図9】流路板にノズル板及び振動板を仮接合する工程を示す工程断面図である。
【図10】流路板にノズル板と振動板を仮接合した時の仮接合部構造を示す断面図である。
【図11】ダイシング前の流路板を振動板側から見た平面図である。
【図12】ダイシング中の流路板の部分断面図である。
【図13】Si基板で流路板を形成する製造工程を示す工程断面図である。
【図14】従来の流路板をノズル板側から見た平面図である。
【図15】従来の流路板にノズル板及び振動板を仮接合する工程を示す工程断面図である。
【図16】従来の液滴吐出ヘッドにおけるワイピング動作時のノズル板のインクと接着剤片の付着の様子を示す断面図である。
【図17】従来のダイシング前の流路板を振動板側から見た平面図である。
【図18】従来のダイシング中の流路板の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した画像形成装置の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は実施形態のインクジェット記録装置を前方から見た斜視図である。同図に示す本実施形態のインクジェット記録装置100は、装置本体101と、装置本体101に装着された用紙を装填するための給紙トレイ102と、装置本体101に着脱自在に装着されて画像が記録(形成)された用紙をストックするための排紙トレイ103とを備えている。また、装置本体101の前面の一端部側(給排紙トレイ部の側方)には、前面から装置本体101の前方側に突き出し、上面よりも低くなったインクカートリッジを装填するためのカートリッジ装填部104を有し、このカートリッジ装填部104の上面には操作ボタンや表示器などの操作/表示部105が設けられている。
【0016】
このカートリッジ装填部104には、色の異なる色材である記録液(インク)、例えばブラック(K)インク、シアン(C)インク、マゼンタ(M)インク、イエロー(Y)インクをそれぞれ収容した複数の記録液収容手段としての記録液カートリッジであるインクカートリッジ110k、110c、110m、110y(色を区別しないときは「インクカートリッジ110」という。)を、装置本体101の前面側から後方側に向って挿入して装填可能とし、このカートリッジ装填部104の前面側には、インクカートリッジ110を着脱するときに開く前カバー(カートリッジカバー)106が開閉可能に設けられている。また、インクカートリッジ110k、110c、110m、110yは縦置き状態で横方向に並べて装填する構成となっている。
【0017】
また、操作/表示部105には、各色のインクカートリッジ110k、110c、110m、110yの装着位置(配置位置)に対応する配置位置で、各色のインクカートリッジ110k、110c、110m、110yの残量がニアーエンド及びエンドになったことを表示するための各色の残量表示部111k、111c、111m、111yを配置している。更に、この操作/表示部105には、電源ボタン112、用紙送り/印刷再開ボタン113、キャンセルボタン114も配置されている。
【0018】
次に、このインクジェット記録装置の機構部について図2及び図3を参照して説明する。なお、図2は同機構部の概要を示す側面図、図3は同じく要部平面図である。
【0019】
インクジェット記録装置の機構部において、フレーム121を構成する左右の側板121A、121Bに横架したガイド部材であるガイドロッド131とステー132とでキャリッジ133を主走査方向に摺動自在に保持し、図示しない主走査モータによってタイミングベルトを介して図3で矢示方向である双方向のキャリッジ主走査方向に移動走査する。
【0020】
キャリッジ133には、前述したように、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出する4個の液滴吐出ヘッド134a〜134dとからなる液滴吐出ヘッド134が、主走査方向と交叉する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着されている。なお、各色のインク液滴を吐出するノズル列を有する1又は複数のヘッド構成などを採用することもできる。
【0021】
ここで、液滴吐出ヘッド134を構成するインクジェットヘッドとしては、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどを、液滴を吐出するための圧力を発生する圧力発生手段として備えたものなどを使用できる。
【0022】
また、キャリッジ133には、各液滴吐出ヘッド134a〜134dに各色のインクを供給するためのヘッドタンク135a〜135dを搭載している。各ヘッドタンク135a〜135dには各色のインクを送液する可撓性のインク供給チューブ136を介してカートリッジ装填部104に装着された各色のインクカートリッジ110y,110m,110c,110kから各色のインクが充填供給される。なお、このカートリッジ装填104にはインクカートリッジ110内のインクを送液するための供給ポンプユニット124が設けられ、またインク供給チューブ136は這い回しの途中でフレーム121を構成する後板121Cに係止部材125にて保持されている。供給ポンプユニット124は逆方向に送液(逆転送液)することもできる。
【0023】
一方、図2の給紙トレイ102の用紙積載部(圧板)141上に積載した用紙142を給紙するための給紙部として、用紙積載部141から用紙142を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ)143及び給紙コロ143に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド144を備え、この分離パッド144は給紙コロ143側に付勢されている。
【0024】
そして、この給紙部から給紙された用紙142を液滴吐出ヘッド134の下方側に送り込むために、用紙142を案内するガイド部材145と、カウンタローラ146と、搬送ガイド部材147と、先端加圧コロ149を有する押さえ部材148とを備えるとともに、給送された用紙142を静電吸着して液滴吐出ヘッド134に対向する位置で搬送するための搬送手段である搬送ベルト151を備えている。
【0025】
この搬送ベルト151は、無端状ベルトであり、搬送ローラ152とテンションローラ153との間に掛け渡されて、ベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成している。また、この搬送ベルト151の表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ156を備えている。この帯電ローラ156は、搬送ベルト151の表層に接触し、搬送ベルト151の回動に従動して回転するように配置されている。更に、搬送ベルト151の裏側には、液滴吐出ヘッド134による印写領域に対応してガイド部材157が配置されている。
【0026】
この搬送ベルト151は、図示しない副走査モータによってタイミングを介して搬送ローラ152が回転駆動されることによって図2のベルト搬送方向に周回移動する。
【0027】
更に、液滴吐出ヘッド134で記録された用紙142を排紙するための排紙部として、搬送ベルト151から用紙142を分離するための分離爪161と、排紙ローラ162及び排紙コロ163とを備え、排紙ローラ162の下方に排紙トレイ103を備えている。
【0028】
また、装置本体101の背面部には両面ユニット171が着脱自在に装着されている。この両面ユニット171は搬送ベルト151の逆方向回転で戻される用紙142を取り込んで反転させて再度カウンタローラ146と搬送ベルト151との間に給紙する。また、この両面ユニット171の上面は手差しトレイ172としている。
【0029】
更に、図3に示すように、キャリッジ133の走査方向一方側の非印字領域には、液滴吐出ヘッド134のノズルの状態を維持し、回復するための回復手段を含む維持回復機構181を配置している。
【0030】
この維持回復機構181には、液滴吐出ヘッド134の各ノズル面をキャピングするための各キャップ部材(以下「キャップ」という。)182a〜182d(区別しないときは「キャップ182」という。)と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード183と、増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け184などを備えている。ここでは、キャップ182aを吸引及び保湿用キャップとし、他のキャップ182b〜182dは保湿用キャップとしている。
【0031】
そして、この維持回復機構181による維持回復動作で生じる記録液の廃液、キャップ182に排出されたインク、あるいはワイパーブレード183に付着してワイパークリーナ185で除去されたインク、空吐出受け184に空吐出されたインクは図示しない廃液タンクに排出されて収容される。
【0032】
また、図3に示すように、キャリッジ133の走査方向他方側の非印字領域には、記録中などに増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け188を配置し、この空吐出受け188には液滴吐出ヘッド134のノズル列方向に沿った開口189などを備えている。
【0033】
このように構成した本実施形態のインクジェット記録装置においては、給紙トレイ102から用紙142が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙142はガイド145で案内され、搬送ベルト151とカウンタローラ146との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド137で案内されて先端加圧コロ149で搬送ベルト151に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
【0034】
このとき、後述する制御部のACバイアス供給部から帯電ローラ156に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、つまり交番する電圧が印加され、搬送ベルト151が交番する帯電電圧パターン、すなわち周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト151上に用紙142が給送されると、用紙142が搬送ベルト151に吸着され、搬送ベルト151の周回移動によって用紙142が副走査方向に搬送される。
【0035】
そこで、リニアエンコーダ137による主走査位置情報に基づいてキャリッジ133を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液滴吐出ヘッド134を駆動することにより、停止している用紙142にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙142を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙142の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙142を排紙トレイ103に排紙する。
【0036】
また、印字(記録)待機中にはキャリッジ133は維持回復機構181側に移動されて、キャップ182で液滴吐出ヘッド134がキャッピングされて、ノズルを湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、キャップ182で液滴吐出ヘッド134をキャッピングした状態で図示しない吸引ポンプによってノズルから記録液を吸引(「ノズル吸引」又は「ヘッド吸引」という。)し、増粘した記録液や気泡を排出する回復動作を行う。また、記録開始前、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出する空吐出動作を行う。これによって、液滴吐出ヘッド134の安定した吐出性能を維持する。
【0037】
図4は液滴吐出ヘッドの概略構成を示す分解斜視図、図5は液滴吐出ヘッドの液室長手方向に沿う断面図、図6は圧電アクチュエータの斜視図、図7は圧電アクチュエータの断面図である。
【0038】
この液滴吐出ヘッドは、ノズル板1と、流路板(流路部材)2と、振動板3と、圧電アクチュエータ4と、フレーム部材5とで構成され、ノズル板1、流路板2及び振動板3によって液室(流路)ユニット6が構成される。ノズル板1には、液滴を吐出する複数のノズル11が例えば600dpiピッチで形成されている。複数のノズル11の列(これを「ノズル列」という。)は4列配置している。また、ノズル板1の液滴吐出側の面には図示しないがフッ素系の撥水処理膜が形成されている。このノズル板1は、SUSなどの金属板(部材)で形成されている。なお、ノズル板1は1枚構成としないで複数枚を並べて配置した構成とすることもできる。
【0039】
流路板2には、ノズル11が連通する加圧液室22などが形成されている。加圧液室22は、各ノズル11に対応し、各ノズル列に対応して4列配置している。この流路板2は、SUSなどの金属板をプレス加工して形成している。
【0040】
振動板3には、各加圧液室22に対応し、かつ各加圧液室22の一面を形成するダイヤフラム状の振動領域(ダイヤフラム部)31が形成され、この振動領域31には凸部32が形成されている。この振動板3は、例えば複層構造のNi電鋳部材、あるいは樹脂部材と金属部材の積層部材などで形成されている。
【0041】
圧電アクチュエータ4は、1つのベース部材41上に、各加圧液室22に対応する複数の圧電素子柱42aを形成した4個の積層型圧電部材42A〜42D(以下、区別しないときは「圧電部材42)という。)を配置して、圧電素子柱42aの列を4列配置し、各圧電部材42の圧電素子柱42aの端面電極に圧電素子柱42aに対して駆動信号を伝達する信号伝達ケーブルとしてのFPCケーブル43A〜43D(以下、区別しないときは「FPCケーブル43」という)を半田接合している。
【0042】
ここで、圧電部材42は、圧電層と内部電極とを交互に積層して内部電極を交互に異なる端面に引き出して端面電極に接続した部材に対し、ハーフカットダイシングを施して溝を形成することで、複数の圧電素子柱42aを一体的に分割形成したものである。
【0043】
なお、圧電部材42の両端面の端面電極のうち共通電極となる側はカットされない内部電極を通じて個別電極側の端面電極と同じ端面に引き回されているので、圧電部材42の一方の端面側にFPCケーブル43を半田接合することができる。また、ここではハーフカットダイシングによって複数の圧電素子柱42aが一体的な圧電部材を用いているが、個々の圧電素子柱に完全に分割した構成とすることもできる。また、圧電素子柱42aは、1本おきに、駆動信号を印加する駆動圧電素子柱と、液室間隔壁を支持する支持部材となる非駆動圧電素子柱とするバイピッチ構成、各圧電素子柱42aをすべて駆動信号を印加する駆動圧電素子柱とするノーマルピッチ構成のいずれの構成とすることもできる。
【0044】
ベース部材41の圧電部材42を接合する側は、圧電素子柱42aの並び方向(圧電素子の列に沿う方向)と直交する方向の断面形状が凹凸形状になるように形成され、それぞれの凸部41aの最上面に圧電部材42が接合配置されている。ここでは、圧電素子柱42aの列が4つであり、各凸部41aに2列ずつ配置できるので、ベース部材41の断面形状は凹形状としている。なお、圧電素子柱の列数は4列に限るものではなく、1列以上であればよい。
【0045】
また、ベース部材41には圧電素子部材42Bと42Cとの間に貫通穴44を形成し、ベース部材41の端部に位置しない圧電部材42Bに接続したFPCケーブル43Bと圧電素子部材42Cに接続したFPCケーブル43Cとは、この貫通穴44を通じてベース部材41の背面側(圧電部材42を接合する側と反対側)に引き出している。なお、ベース部材41の端部に位置する圧電部材42Aに接続したFPCケーブル43Aと圧電部材42Dに接続したFPCケーブル43Dとは、そのまま、ベース部材41の側面に沿って引き出されている。
【0046】
ベース部材41は、例えば樹脂などでも可能であるが、金属材料であることが好ましい。剛性の高い金属材料を採用することで、圧電素子柱42aの振動が本体に伝達することを抑制することができる。また、金属材料でベース部材41を形成することで、ベース部材41の加工方法の選択範囲が広がり、例えばメタルインジェクションや引き抜き加工を採用することによってベース部材の材料、加工コストを低減することができるようになる。
【0047】
フレーム部材5は、振動板3の供給口33を介して各加圧液室22にインクを供給する共通液室51A、51B、51C、51Dを形成している。各共通液室51A、51B、51C、52Dには外部から図示しない供給路を介してインクが供給される。また、フレーム部材5にはベース部材41を収納する収納部52A、52Bを形成し、これらの収納部52A,52B間の共通液室51B、51Cを形成する中央部分53は、ベース部材41の貫通穴44を貫通している。このフレーム部材5は例えば樹脂部材で形成している。なお、フレーム部材5は複数の部材に分割することもできる。
【0048】
このように構成した液滴吐出ヘッドにおいては、例えば圧電素子柱42aに印加する電圧を基準電位から下げることによって圧電素子柱42aが収縮し、振動板3の振動領域31が下降して加圧液室22の容積が膨張することで、加圧液室22内にインクが流入する。その後、圧電素子柱42aに印加する電圧を上げて圧電素子柱42aを伸長させ、振動領域31をノズル11方向に変形させて加圧液室22の容積を収縮させることにより、加圧液室22内のインクが加圧され、ノズル11からインクの滴が吐出される。
【0049】
そして、圧電素子柱42aに印加する電圧を基準電位に戻すことによって振動領域31が初期位置に復元し、加圧液室22が膨張して負圧が発生するので、このとき、共通液室51から加圧液室22内にインクが充填される。そこで、ノズル11のメニスカス面の振動が減衰して安定した後、次の液滴吐出のための動作に移行する。
【0050】
なお、このヘッドの駆動方法については上記の例(引き−押し打ち)に限るものではなく、駆動波形の与えた方によって引き打ちや押し打ちなどを行うこともできる。
【0051】
次に、本実施形態に係るノズル板及び振動板の仮接合について図8及び図9を参照して説明する。なお、図8は流路板をノズル板側から見た平面図である。図9は流路板にノズル板及び振動板を仮接合する工程を示す断面図である。図10は流路板にノズル板と振動板を仮接合した時の仮接合部構造を示す断面図である。
図8及び図9に示すように、流路板2のノズル板と面する側には、複数の個別液室パターン201と、図示していないノズル11に連通する複数の個別液室貫通孔202と、仮接合部203としての凹部204とがそれぞれ設けられている。この凹部204の底部には後述する振動板3に設けられた貫通孔205につながる貫通孔206が設けられている。加圧治具の孔及び振動板3の貫通孔205並びに貫通孔206は、凹部204に塗布された仮固定用の接着剤である紫外線硬化型接着剤に紫外線を照射するための孔である。仮固定用の接着剤が紫外線硬化型接着剤以外の接着剤であれば加圧治具の孔及び振動板3の貫通孔205並びに貫通孔206は不要となる。また、貫通孔206が設けられている凹部204の底部にはノズル板1との接合部分を備えていればよく、貫通孔206の径や数は任意で構わない。図8〜図10には複数の貫通孔206を設けた例を示し、貫通孔206の開口部以外の凹部204の底部には少なくとも1つの接着面207が存在している。この接着面207は貫通孔206のアンカー効果によりノズル板1の面との間で強固に接合することができる。また、貫通孔206は微小であるため、接着面207に滴下されたゲル状の紫外線硬化接着剤が貫通孔206内に垂れないことはない。
【0052】
これらの部品の微細接合においては、高い接合精度と接合信頼性が求められるため、通常は図9及び図10に示す加圧治具208を用いてノズル板1、流路板2及び振動板3の各部品のアライメントを行い、その状態で仮接合を行う。この仮接合の工程を図9に従って詳細に説明すると、図9の(a)に示すように、流路板2の振動板3と接合する面を上方にして流路板2の上面に熱硬化型接着剤(図示せず)を塗布しておく。振動板3の仮接合用の各切欠き部208に紫外線硬化型接着剤209をそれぞれ塗布しておく。そして、図9の(b)に示すように、流路板2と振動板3とのアライメント後、これらを当接し、次に外部から紫外線硬化型接着剤209に紫外線を照射して硬化させて流路板2に振動板3を仮接合する。次に、図9の(c)に示すように、流路板2のノズル板1と接合する面を上方にして流路板2の上面に熱硬化型接着剤(図示せず)を塗布しておく。そして、振動板3に設けられた貫通孔205と加圧治具210に設けられた孔とが連通するように一方の加圧治具210上に設置する。ノズル板1の仮接合用の凹部204に紫外線硬化型接着剤209を塗布する。そして、図9の(d)及び図10に示すように、流路板2とノズル板1とのアライメント後、これらを当接し、加圧治具210の孔及び貫通孔205、そして流路板2の貫通孔206を通して、ノズル板1の仮接合用の凹部204内の紫外線硬化型接着剤209に紫外線を照射して硬化させる。以上で仮接合は完了する。その後、他方の加圧治具210をノズル板側に当接した上で、対の加圧治具210を用いて加圧することで振動板、流路板、ノズル板の3部品の本接合を行う。
【0053】
図11はダイシング前の流路板を振動板側から見た平面図である。図12はダイシング中の流路板の部分断面図である。図11に示すように流路板2のノズル板1との当接面の全面に、ダイシングテープ300が貼付されている。そして、図12からわかるように、振動板との接合面側から仮想のダイシングライン301(図11参照)に沿ってダイシングブレード302によってダイシングしていく。この場合、仮接合部の凹部204は、ダイシング溝と接せず、ダイシングテープ300で完全に覆われているため、ダイシング屑がノズル板側から直接に仮接合部の凹部204に侵入することはない。従って、ダイシングした流路板にノズル板を仮接合する時紫外線硬化型接着剤にダイシング屑が付着することはない。このため、高歩留まりでヘッド生産を行うことができる。なお、ダイシング時においては、裏面にダイシングテープを貼りダイシングを行い、ダイシング完了後にテープからチップを分離するが、この時ダイシングテープの粘着材の一部がチップ側へ転写する不具合に注意する必要がある。従って、ダイシングテープを貼る面は該不具合の影響が少なくなるよう流路パターン密度が低いノズル面側の方とすることが有効である。よって、仮接合部はダイシング時にダイシングテープを貼る面側であるノズル面側に形成した。
【0054】
図13はSi基板で流路板を形成する製造工程を示す工程断面図である。各工程断面図の図中左列の分図は図8のA−A’線断面図、右列の分図は図8のB−B’線断面図である。図13の(a)に示すように、結晶方位<110>のSi基板401に熱酸化膜402を形成し、次に減圧化学気相成長法(LPCVD法)により窒化膜403を形成する。この時、熱酸化膜402の膜厚は1.5[μm]、窒化膜403の膜厚は0.2[μm]とした。次に、同図の(b)に示すように、リソグラフィー技術を用いてノズル面レジストパターン404を形成し、このノズル面レジストパターン404をマスクにドライエッチング技術により窒化膜403をエッチングし個別液室のノズル面貫通パターン405、ノズル面ダミーパターン406及び仮接合凹部パターン407を形成する。この時のエッチング条件としては、平行平板型ドライエッチング装置を使用し、RFパワー=200[W]、SF=50[sccm]、He=10[sccm]とした。次に、同図の(c)に示すように、ノズル面レジストパターン404を酸素プラズマで一旦除去後、再度リソグラフィー技術によりノズル面レジストパターン404を形成し、ノズル面レジストパターン404をマスクにドライエッチング技術により熱酸化膜402をエッチングし個別液室のノズル面貫通孔パターン405及び仮接合凹部貫通孔パターン408を形成した。この時のエッチング条件としては、平行平板型ドライエッチング装置を使用し、RFパワー=500[W]、CF=50[sccm]、CHF=10[sccm]とした。
【0055】
次に、図13の(d)に示すように、レジスト409を酸素プラズマで一旦除去後、再度リソグラフィー技術によりノズル面レジストパターン410を形成し、ノズル面レジストパターン410をマスクにドライエッチング技術によりSi基板401をエッチングし個別液室のノズル面貫通孔パターン411及び仮接合凹部底部貫通孔パターン412を形成した。この時のエッチング条件としては、ICPドライエッチング装置を使用し、エッチングステップにおいては、エッチングコイルパワー=2000[W]、プラテンパワー=80[W]、SF=500[sccm]、エッチング時間=8[秒]、デポステップにおいてはエッチングコイルパワー=2000[W]、プラテンパワー=0[W]、C=300[sccm]。エッチング時間=3[秒]の繰り返し処理を行うことで垂直方向に所要のエッチング深さを得るボッシュプロセスを適用した。
【0056】
次に、図13の(e)に示すように、レジスト409を酸素プラズマで除去後、ウェハを反転し、リソグラフィー技術を用いて液室面レジストパターン413を形成し、液室面レジストパターン413をマスクにドライエッチング技術により窒化膜をエッチングし個別液室の液室面パターン414、ノズル面の仮接合用の貫通孔を形成するためのパターン415及び液室面仮接合凹部パターン416を形成した。この時のエッチング条件としては、ノズル面のエッチングと同様に平行平板型ドライエッチング装置を使用し、RFパワー=200[W]、SF=50[sccm]、He=10[sccm]とした。
【0057】
次に、図13の(f)に示すように、液室面レジストパターン413を酸素プラズマで除去後、リソグラフィー技術を用いて液室面レジストパターン417を形成し、液室面レジストパターン417をマスクにドライエッチング技術により酸化膜をエッチングし個別液室の貫通孔パターン418、ノズル面の仮接合用の貫通孔を形成するに必要な貫通孔パターン419を形成した。この時のエッチング条件としては、ノズル面のエッチングと同様に平行平板型ドライエッチング装置を使用し、RFパワー=500[W]、CF=50[sccm]、CHF=10[sccm]とした。
【0058】
次に、図13の(g)に示すように、液室面レジストパターン417を酸素プラズマで除去した。そして、同図の(h)に示すように、液室面及びノズル面の酸化膜パターン420をマスクに35%濃度のKOH液によるウェットエッチングを行い、個別液室の貫通孔421及び仮接合凹部の底部の貫通孔パターン422を形成した。本実施形態では、KOH液を示したがTMAH液を用いてもよい。
【0059】
次に、図13の(i)に示すように、フッ酸を用いて窒化膜423をマスクに酸化膜420をウェットエッチングした。そして、同図の(j)に示すように、酸化膜をマスクに液室面の個別液室424及び仮接合凹部425、ノズル面のダミー液室426及び仮接合凹部427を形成した。これにより、同図の(k)に示すように、ノズル面においては、ウェハエッジに接しない位置に配置された仮接合凹部427の底面に液室面までの貫通孔428が形成された仮接合部429が形成される。
【0060】
以上説明したように、実施形態によれば、図10に示すようにノズル板1及び振動板3で流路板2を挟持して各部材を当接させたときに流路板2の仮固定用の紫外線硬化型接着剤を塗布するための凹部204はノズル板1によって完全に覆われる。このため、凹部204にはノズル板1のノズル面側からの異物が侵入することはない。また、凹部204には流路板2に設けられた貫通孔206が連通し、この貫通孔206は振動板3に設けられた貫通孔205と連通している。つまり、凹部204は流路板2の貫通孔206を介して振動板3の貫通孔205に連通している。そして、ノズル板1を流路板2に当接する前に凹部204に塗布した仮固定用の紫外線硬化型接着剤209に、加圧治具210の孔、振動板3の貫通孔205、そして流路板2の貫通孔206を通して、紫外線を照射して仮固定用の紫外線硬化型接着剤209を硬化させて仮接合を行う。仮接合及び本接合を行った後の液滴吐出ヘッドにおいて、振動板3の貫通孔205の開口部からノズル板1のノズル面までの距離は、ノズル板1及び流路板2並びに振動板3の各厚さを含む。このため、貫通孔205の開口部からノズル板1のノズル面までの距離は、仮接着剤塗布部が流路板の平面と側面との稜線に設けられたときのノズル板のノズル面と仮接着剤塗布部との間の距離より極めて遠い。このため、インクが付着しているノズル板のノズル面をワイパーブレードによってワイピングした時のワイパーブレードに付着した空中に浮遊したインクが貫通孔205の開口部に到達することは難しい。これにより、凹部204に塗布された仮固定用の紫外線硬化型接着剤209に、ワイパーブレードから飛散したインクが付着することが少なくなる。よって、仮固定用の紫外線硬化型接着剤の劣化がなくなり、ノズル板表面に加工された撥水膜の損傷を防止できるとともに、劣化した接着剤がノズルに詰まることもなくノズルの吐出不良を防止することができる。また、図12に示すように、ダイシングを行ったとき、流路板2のノズル板1との当接面側にダイシングテープを貼ってからダイシングを行う。ノズル板1の当接面に設けられた凹部204は仮想線のダイシングラインから離れている。ダイシング時に発生するダイシング屑が凹部204に入ることはない。これにより、ダイシング後の流路板にノズル板を当接して凹部204に仮固定用の紫外線硬化型接着剤を塗布してもダイシング屑が付着することはない。よって、仮固定用の紫外線硬化型接着剤の劣化がなくなり、ノズル板表面に加工された撥水膜の損傷を防止でき、かつ劣化した接着剤がノズルに詰まることもなくノズルの吐出不良を防止することができる。
【0061】
また、実施形態によれば、図8〜図10に示すように凹部204には貫通孔206を複数設けることで、貫通孔206の開口以外の凹部204の底面にはノズル板1との接着面207を形成することができる。この接着面207でノズル板1に流路板2を強固に仮固定することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 ノズル板
2 流路板
3 振動板
201 個別液室パターン
202 個別液室貫通孔
203 仮接合部
204 凹部
205 貫通孔
206 貫通孔
207 接着面
208 切欠き部
209 紫外線硬化型接着剤
210 加圧治具
300 ダイシングテープ
301 ダイシングライン
302 ダイシングブレード
303 ダイシング屑
【先行技術文献】
【特許文献】
【0063】
【特許文献1】特開2003−170604号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルが設けられたノズル板と、前記ノズルに対応して設けられ前記ノズルに連通する個別液室を少なくとも構成し、かつ一方の面に前記ノズル板を接合する面に切欠き部を有する流路板と、前記流路板の他方の面に接合されて前記個別液室の一部を構成する振動板と、上位装置からの液滴吐出信号に基づいて前記振動板に圧力振動を付与し前記個室液室内に圧力を発生する圧力発生手段と、を備え、
前記流路板の一方の面に前記ノズル板を当接し、前記流路板の他方の面に前記振動板を当接し、接着剤塗布手段によって前記切欠き部に塗布する仮固定用の接着剤で前記ノズル板及び前記振動板を前記流路板にそれぞれ仮接合した後に本接合した液滴吐出ヘッドにおいて、
前記切欠き部は、前記流路板に前記ノズル板との接合面側に開いている開口部のみを有し、かつ前記流路板に前記ノズル板を当接したときに開口部の全体が前記ノズル板に覆われる位置に設け、
前記ノズル板に覆われる位置に設けられた前記切欠き部に前記接着剤塗布手段によって仮固定用の接着剤を塗布し、前記流路板の一方の面に前記ノズル板を当接して前記切欠き部を前記ノズル板で覆い、前記切欠き部内の仮固定用の前記接着剤によって前記流路板に前記ノズル板を仮接合した後に本接合したことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記接着剤は紫外線硬化型接着剤であり、前記ノズル板に覆われる位置に設けられた前記切欠き部が前記流路板の他方の面に貫通する貫通孔を、前記流路板に設け、
前記流路板の一方の面に前記ノズル板を当接し前記ノズル板に覆われる位置に設けられた前記切欠き部を前記ノズル板で覆い、前記切欠き部に前記接着剤塗布手段によって塗布された前記紫外線硬化型接着剤に、前記貫通孔を通して紫外線を照射し、前記紫外線硬化型接着剤を硬化させ、前記ノズル板を前記流路板に仮接合した後に本接合したことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項2記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記貫通孔を複数設け、前記貫通孔の開口以外の前記切欠き部の底面に前記ノズル板との接着部分を形成し、前記接着部分に前記接着剤塗布手段によって前記紫外線硬化型接着剤を塗布し、当該紫外線硬化型接着剤に前記貫通孔を通して紫外線を照射し、前記紫外線硬化型接着剤を硬化させ、前記ノズル板を前記流路板に仮接合した後に本接合したことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記流路板の前記貫通孔と連通する貫通孔を前記振動板に設け、前記流路板に前記振動板を当接したときに前記流路板の前記貫通孔に前記振動板の前記貫通孔を連通させて、前記紫外線硬化型接着剤に前記各貫通孔を通して紫外線を照射し、前記紫外線硬化型接着剤を硬化させ、前記ノズル板を前記流路板に仮接合した後に本接合したことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッドから液体を媒体に吐出して画像形成を行うことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−196833(P2012−196833A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61605(P2011−61605)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】