説明

液滴吐出ヘッド及び画像形成装置

【課題】ノズル孔におけるメニスカスの壊れを防止でき、液滴吐出特性を安定させることができる。
【解決手段】ドライバICのスイッチをオフした状態で、個別電極に印加する駆動電圧の電圧値を共通電極に印加するバイアス電圧の所定の電圧値まで変化させる。駆動電圧の電圧値がバイアス電圧の所定の電圧値と略同じになったら、ドライバICのスイッチをオンにして駆動電圧を個別電極に印加する。圧電材料層の個別電極の電圧値と共通電極の電圧値はバイアス電圧の電圧値であって両者はほぼ同じなので、圧電材料層における個別電極の共通電極との電位差はほとんどなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、プリンタ、ファックス、複写機、プロッタ、或いはこれらの内の複数の機能を複合した画像形成装置としては、例えばインクの液滴を吐出する液体吐出ヘッドを備え、媒体を搬送しながらインク滴を用紙に付着させて画像形成を行うインクジェット記録装置がある。ここでの媒体は「用紙」ともいうが材質を限定するものではなく、被記録媒体、記録媒体、転写材、記録紙なども同義で使用する。また、画像形成装置は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液体を吐出して画像形成を行う装置を意味する。そして、画像形成とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与する(単に液滴を吐出する)ことをも意味する。また、インクとは、所謂インクに限るものではなく、吐出されるときに液体となるものであれば特に限定されるものではなく、例えばDNA試料、レジスト、パターン材料なども含まれる液体の総称として用いる。
【0003】
画像形成装置の一例であるインクジェット記録装置におけるインクジェット記録ヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する加圧液室と、この加圧液室内を昇圧するエネルギーを発生するアクチュエータ手段と、加圧液室に連通しインクを供給する共通液室とを備えている。そして、アクチュエータ手段を駆動することで加圧液室内を昇圧してノズルからインク滴を吐出させるものであり、記録の必要なときにのみインク滴を吐出するインク・オン・デマンド方式のものが主流である。インク滴を吐出させるためのアクチュエータ手段の種類により、ピエゾ方式、バブル方式、静電方式などの方式に大別される。
【0004】
このピエゾ方式のアクチュエータ手段において、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものが実用化されている。これらのうち、たわみ振動モードの圧電アクチュエータによるインクジェット記録装置は、加圧液室の一部の内壁に形成される振動板に対して圧電素子がたわみ振動することで、振動板を介して加圧液室の内圧を変化させる。これにより、加圧液室内のインクがノズル孔から吐出するものである。
【0005】
このたわみ振動モードの圧電アクチュエータを用いたインクジェット記録ヘッドとして、特許文献1に記載されたものが知られている。この特許文献1のインクジェット記録ヘッドでは、複数のノズル孔を有するノズル板に積層される液室基板を用いて、各ノズル孔に連通する加圧液室がそれぞれ形成され、この各加圧液室の一部の内壁に振動板がそれぞれ設けられている。この各振動板には圧電素子がそれぞれ設けられ、各圧電素子には個別電極がそれぞれ設けられ、全ての圧電素子を電気的に共通に接続する共通電極が設けられている。個別電極は各圧電素子毎に設けられた電極であり、各個別電極には各圧電素子を個別に変位させるパルス電圧波形の駆動電圧がそれぞれ印加される。そして、パルス電圧波形の立上り又は立下りのような電圧変化に応じて圧電素子が変位して振動板が変位する。これにより、加圧液室の内圧が昇圧されて加圧液室内のインクがノズル孔から吐出され、加圧液室の内圧が負圧となって加圧液室内にインクが供給される。
【0006】
この圧電アクチュエータを用いたインクジェット記録ヘッドにおける振動板には、圧電材料層が直接に焼成され、いわゆる薄膜ピエゾと呼ばれる構造をなすものが多い。この薄膜ピエゾの振動板は、焼成条件によって変位−電圧変換の効率に偏りが生じる場合がある。このように変位−電圧変換の効率に偏りが生じている薄膜ピエゾの振動板を備えたインクジェット記録ヘッドでは、インク吐出特性のバラツキがあり、安定した液滴吐出を行うことができなかった。
【0007】
このインク吐出特性のバラツキをなくす方法として、特許文献2に記載されているものがある。インクジェット記録ヘッドのインク吐出特性は、振動板の薄膜ピエゾにおける変位−圧電変換の効率の偏り以外にバイアス印加手段によって共通電極に印加されるバイアス電圧の電圧値によっても変わる。バイアス電圧に対する圧電材料層の変位量特性が圧電材料層毎に異なる。このような特性をバイアス電圧特性と称す。そこで、上記特許文献2の方法では、このバイアス電圧特性に着目してインク吐出特性を最適化している。つまり、上記特許文献2のバイアス電圧設定方法では、バイアス電圧に対する圧電材料層の変位量特性に応じてバイアス電圧の電圧値を設定している。これにより、個別電極の共通電極との電位差を変えることで圧電材料層の変位量を最適化し、インク吐出特性のバラツキをなくし、安定した液滴吐出を可能としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常の画像形成装置では、例えば画像形成開始前、画像形成終了後の所定時間経過後などの画像形成を行っていない時には、個別電極へ電圧印加は行わない。上記特許文献2のように、共通電極にバイアス電圧を印加する装置では、共通電極への電圧印加も切っておくのが通常である。従って、待機状態から再び画像形成を開始するときは、図15の(a)に示すように、バイアス電圧を例えば0[V]から上記所定の電圧値(V[V])まで立ち上げる。画像形成中のバイアス電圧は上記所定の電圧値(V[V])を維持し、画像形成終了後は0[V]に戻す。個別電極に印加される駆動電圧の電圧波形(V[V])は、図15の(b)に示すように、例えば0[V]から基準電位に徐々に変化させて(スローアップ)振動板を所定の安定な位置に変位させた後液滴吐出のパルス電圧波形を出力する。ここで、基準電位までスローアップする理由は、加圧液室の容積を予め縮小しておくことで、加圧液室を膨張(減圧)させてから縮小(加圧)する所謂引き打ちで、液滴の吐出をするためである。画像形成終了後には駆動電圧を基準電位から徐々にスローダウンして0[V]にする。
【0009】
上述したように、画像形成開始前では駆動電圧を例えば0[V]から基準電位へ徐々に変化させることで圧電材料層が徐々に変位して振動板を徐々に変位させる。これにより圧液室内のインクが共通液室側に緩やかに移動するだけであり加圧液室の内圧はほとんど変化しない。ところが、画像形成開始前において、圧電材料層における個別電極の共通電極との電位差ΔV(=V−V)[V]は、図15の(c)に示すように、0[V]から急に減少したり、減少した電圧値から急に増加したりと不連続に変化する。このため、圧電材料層の変位の変位量が急に減少したり、減少した電圧値から急に増加したりと変化したりすることで、加圧液室の内圧も急に減少したり、急に増加したりと変化する。これにより、液滴吐出動作前であるにもかかわらず液滴がノズル孔から吐出してしまったり、ノズル孔に形成されたメニスカスが破壊されたりして、安定した液滴吐出を行うことができないという問題があった。
【0010】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、共通電極にバイアス電圧を印加して個別電極に駆動電圧を印加しても安定した液滴吐出特性で液滴を吐出できる液滴吐出ヘッド及び画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、液体を吐出するノズル孔を有するノズル板と、該ノズル板に積層され前記ノズル孔に連通する加圧液室を形成する液室基板と、前記加圧液室の一部の内壁に形成される振動板を介して前記加圧液室内を昇圧する圧電材料層を有する圧電アクチュエータ部と、前記圧電材料層を挟持するように設けられた共通電極及び個別電極のうち該個別電極に駆動電圧を印加する駆動電圧印加手段と、前記共通電極に所定の電圧値のバイアス電圧を印加するバイアス電圧印加手段と、を備え、前記バイアス電圧印加手段によって所定の電圧値の前記バイアス電圧を前記共通電極に印加し、かつ前記駆動電圧印加手段によって液滴吐出パルス電圧の前記駆動電圧を前記個別電極に印加することにより生じる、前記圧電材料層における個別電極の共通電極との電位差の変化により、前記圧電材料層が変位して前記振動板が変位し、前記加圧液室内の圧力を変化させることで前記ノズル孔から液滴を吐出する液滴吐出ヘッドにおいて、液滴吐出を開始する前の前記駆動電圧の電圧値を、前記バイアス電圧の所定の電圧値と略同じにすることを特徴とするものである。
【0012】
本発明においては、個別電極に印加される駆動電圧の電圧値は、液滴がノズル孔から吐出されずに、かつノズル孔に形成されたメニスカスが壊れないように、共通電極に印加されるバイアス電圧の所定の電圧値と略同じ電圧値とする。液滴吐出を開始する前の、個別電極に印加する駆動電圧の電圧値をバイアス電圧の所定の電圧値と略同じにすることで、液滴がノズル孔から吐出されず、かつノズル孔に形成されたメニスカスが壊れない個別電極の共通電極との電位差の変化に抑えられる。これにより、共通電極にバイアス電圧を印加して個別電極に駆動電圧を印加しても安定した液滴吐出特性で液滴を吐出できる。
【発明の効果】
【0013】
以上、本発明によれば、共通電極にバイアス電圧を印加して個別電極に駆動電圧を印加しても安定した液滴吐出特性で液滴を吐出できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態のインクジェット記録装置の構成を示す斜視図である。
【図2】本実施形態のインクジェット記録装置の機構部の側面図である。
【図3】本実施形態の液滴吐出ヘッドの断面図である。
【図4】本実施形態の液滴吐出ヘッドのアクチュエータ部の部分平面図である。
【図5】本実施形態の液滴吐出ヘッドの製造工程を示す工程断面図である。
【図6】本実施形態の液滴吐出ヘッドの製造工程を示す工程断面図である。
【図7】ドライバICの回路構成の一例を示すブロック図である。
【図8】本実施形態の駆動電圧波形を説明するための波形図である。
【図9】本実施形態の吐出に利用している電界強度の範囲を示す図である。
【図10】本実施形態の第1の変形例の駆動電圧波形を説明するための波形図である。
【図11】第1の変形例の吐出に利用している電界強度の範囲を示す図である。
【図12】本実施形態の第2の変形例の駆動電圧波形を説明するための波形図である。
【図13】第2の変形例の吐出に利用している電界強度の範囲を示す図である。
【図14】本実施形態の第3の変形例の駆動電圧波形を説明するための波形図である。
【図15】バイアスを用いて作成した駆動電圧を実際のインクジェット記録ヘッドの圧電材料層に印加するときの駆動電圧波形を説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
はじめに、本発明に係る液滴吐出ヘッドの一例であるインクジェット記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の構成について図面を参照して説明する。図1は本実施形態のインクジェット記録装置の構成を示す斜視図、図2は本実施形態のインクジェット記録装置の機構部の側面図である。
図1及び図2に示す本実施形態のインクジェット記録装置100は、装置本体の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ101、キャリッジ101に搭載した液滴吐出ヘッド1及び液滴吐出ヘッド1に対してインクを供給するインクカートリッジ102等で構成される印字機構部103等を収納し、装置本体の下方部には前方側から多数枚の記録紙30を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい)104を抜き差し自在に装着されている。また、記録紙30を手差しで給紙するために開かれる手差しトレイ105を有し、給紙カセット104あるいは手差しトレイ105から給送される記録紙30を取り込み、印字機構部103によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ106に排紙する。
【0016】
印字機構部103は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド107と従ガイドロッド108とでキャリッジ101を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ101にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する液滴吐出ヘッド1を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と直交する副走査方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ101には液滴吐出ヘッド1に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ102を交換可能に装着している。
【0017】
インクカートリッジ102は上方に大気と連通する大気口、下方には液滴吐出ヘッド1へインクを供給する供給口が設けられ、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により液滴吐出ヘッド1へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、液滴吐出ヘッド1としては各色毎に液滴吐出ヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個の液滴吐出ヘッドでもよい。
【0018】
ここで、キャリッジ101は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド107に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド108に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ101を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ109aで回転駆動される駆動プーリ110と従動プーリ111との間にタイミングベルト112を張装し、このタイミングベルト112をキャリッジ101に固定し、主走査モータ109aの正逆回転によりキャリッジ101が往復に走査される。
【0019】
一方、給紙カセット104にセットした記録紙30を液滴吐出ヘッド1の下方側に搬送するために、給紙カセット104から記録紙30を分離給装する給紙ローラ113及びフリクションパッド114と、記録紙30を案内するガイド部材115と、給紙された記録紙30を反転させて搬送する搬送ローラ116と、この搬送ローラ116の周面に押し付けられる搬送コロ117及び搬送ローラ116からの記録紙30の送り出し角度を規定する先端コロ118とを有する。搬送ローラ116は副走査モータ109bによってギヤ列を介して回転駆動される。
【0020】
そして、キャリッジ101の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ116から送り出された記録紙30を液滴吐出ヘッド1の下方側で案内するため用紙ガイド部材である印写受け部材119を設けている。この印写受け部材119の用紙搬送方向下流側には、記録紙30を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ120と拍車121を設け、さらに記録紙30を排紙トレイ106に送り出す排紙ローラ123と拍車124と、排紙経路を形成するガイド部材125、126とを配設している。
【0021】
この記録装置100で記録時には、キャリッジ101を移動させながら画像信号に応じて液滴吐出ヘッド1を駆動することにより、停止している記録紙30にインクを吐出して1行分を記録し、その後、記録紙30を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または記録紙30の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ記録紙30を排紙する。
【0022】
また、キャリッジ101の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、液滴吐出ヘッド1の吐出不良を回復するための回復装置127を配置している。回復装置127はそれぞれ図示していないキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ101は印字待機中にはこの回復装置127側に移動されてキャッピング手段で液滴吐出ヘッド1をキャッピングして吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0023】
更に、吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で液滴吐出ヘッド1の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0024】
このように、このインクジェット記録装置100においてはアクチュエータユニットを有するインクジェット記録ヘッドを搭載しているので、安定したインク滴吐出特性が得られ、画像品質を向上することができる。
【0025】
図3は本実施形態の液滴吐出ヘッドの断面図である。図4は本実施形態の液滴吐出ヘッドのアクチュエータ部の部分平面図である。同図に示す液滴吐出ヘッド1は、主として、ノズル基板10、液室基板20、振動板30及び保護基板40を重ねた積層構造となって構成されている。ノズル基板10には、厚さ30〜50[μm]のSUS基板にプレス加工と研磨加工によりノズル孔11が形成されている。このノズル孔11は液室基板の加圧液室と連通している。液室基板20は、シリコン基板上にシリコン酸化膜を介してシリコンが張り合わされたSOI基板を用いている。振動板30はSOI基板のSi層表面にパイロ酸化法を適用してシリコン酸化膜を形成されている。そして、振動板30の上において、共通電極である下部電極51となる白金膜、圧電材料層(PZT)52、個別電極である上部電極53となる白金膜の多層構成からなるアクチュエータ部が、シリコンをエッチングすることで形成された加圧液室12に対向する領域に形成されている。
【0026】
また、保護基板40は下部電極51及び上部電極53に電気的に接続される配線部材54を含めて圧電素子保護空間を形成する基板であり、共通液室としてインク流路となる溝部、圧電素子の保護及び変位を妨げないための空間及び流路隔壁の剛性を高め、液室全体を支えるために柱を形成している。さらに、下部電極51、上部電極53と配線部材54との層間に配置する層間絶縁膜55、及び配線部材54を保護するための耐湿等としてパッシベーション膜56がアクチュエータ部の上面及び側面を覆うように配置されている。また、下部電極パッド部57が下部電極51に電気的に接続される配線部材54に電気的に接続するように設けられ、上部電極パッド部58が上部電極53に電気的に接続される配線部材54に電気的に接続するように設けられている。
【0027】
次に、本実施形態の液滴吐出ヘッドの製造方法について、製造工程を示す工程断面図である図5及び図6に従って説明する。
先ず、図5の(a)に示すように、厚み400[μm]の<100>シリコン基板201の表面にシリコン酸化膜202を0.2[μm]及びシリコンを2.0[μm]を張り合わせたSOI基板を用いる。このSOI基板表面にパイロ(Wet)酸化法によりシリコン酸化膜を0.3[μm]形成し、これを振動板層とする。その後、圧電素子の下部電極となる白金(Pt)層203をスパッタ法により0.2[μm]成膜し、パターニングする。更に、図5の(c)に示すように、ゾルゲル法により圧電材料層204を2[μm]成膜し、さらに上部電極となる白金(Pt)層205を0.1[μm]成膜する。その後、リソエッチ法により上部電極及び圧電材料層をパターニングする。
【0028】
次に、図5の(d)に示すように、プラズマCVD法により層間絶縁膜206を0.3[μm]成膜し、リソエッチ法により配線コンタクトを取るためのビアホール207を形成する。層間絶縁膜206は、次に形成する配線部材と上部電極との導通部208と、バイパス配線部材への導通部209、およびインク供給孔となる貫通部210をパターニングしている。更に、図5の(e)に示すように、アルミ材料により、引き出し電極211を形成する。この引き出し電極211は、圧電体の駆動による振動板の振動による応力を受けるので、振動により断線しないように、やわらかいアルミ材料を使い、1[μm]程度の厚い膜厚で形成されている。
【0029】
次に、図5の(f)に示すように、アルミ配線保護のためのパッシベーション膜としてプラズマCVD法によるシリコン窒化膜212を2[μm]成膜し、パターニングする。その後、図6の(a)に示すように、振動板のインク供給口や共通液室となる部分213を、事前にエッチングする。更に、金をメッキ法により積層して、上部電極パッド部214と下部電極パッド部215とを同時に形成する。上部電極パッド部214及び下部電極パッド部215を金で形成することで、図示しないドライバICとの電気的接続を低温のワイヤボンディングで接続している。また、金は抵抗値が低く、上部電極及び下部電極の抵抗値を下げる効果が大きい。更に、下部電極パッド部215は、上部電極パッド部214と形成工程を分けて形成してもよく、パッド部の材料として銅、アルミなどを使用することもできる。その場合は、外部と保護されていない上部電極パッド部214には腐食から保護する保護層が必要となる場合もある。
【0030】
その後、図6の(b)に示すように別途ガラス基板にブラスト加工で柱を形成した保護基板216を液室基板側に接合し、図6の(c)に示すように液室基板の保護基板接合面とは反対面を、所望の厚さまで研磨する。保護基板216はシリコン基板にリソエッチ法で凹部を加工したものでも良いし、シリコン基板をTMAH、KOHなどのアルカリエッチング液を用いたウェットエッチングにより加工したものでも構わない。また、樹脂モールドやメタルインジェクションモールドなどの成型部品でも構わない。また、ドライバ回路をアクチュエータ基板上に一体形成する際に、パイロ酸化法で形成した酸化膜をLOCOS酸化法で形成し、酸化膜の形成領域を選択することで,駆動回路を同一基板上に形成することもできる。その後、図6の(c)に示すようにシリコン基板である液室基板217の反対面にICPドライエッチングにより加圧液室218、流体抵抗部219及びインク供給部220となる凹部を形成する。最後に、図6の(d)に示すように、別途厚さ30〜50[μm]のSUS基板にプレス加工と研磨加工によりノズル孔221を形成したノズル基板222を液室基板217の流路隔壁形成面に接着、圧電素子の上部電極及び下部電極と接続されたアルミ配線部を駆動回路に接続することで液滴吐出ヘッドが完成する。
【0031】
図7はドライバICの回路構成の一例を示すブロック図である。同図に示すように、2ビットの階調信号をそれぞれシリアルに本体からヘッドへ転送、2つのシフトレジスタ301、302により各ビットをシリアルからパラレルに変換する。印字周期の始めにデータをラッチ回路303、304によってラッチして、セレクタ305によってその階調データに基づいて制御信号MN〜MNのいずれかを選択する。印字周期内のアナログスイッチをオン/オフは、制御信号MN〜MNに基づき選択される。共通電極側にはバイアス電源回路306が接続されており、一定電圧を維持するようにGndとの間に容量の大きいコンデンサを接続している。液滴吐出装置の動作時に、電圧変化が十分小さいように、コンデンサ容量は共通電極に接続されている圧電材料層の容量の合計よりも大きいことが好ましい。図7に示すドライバICは駆動電圧の印加をオンオフする駆動電圧印加切換手段に相当する。また、共通電極側とバイアス電源回路306との間に、バイアス電圧の印加をオンオフするスイッチング回路を設ける。このスイッチング回路をオフにして共通電極側をフロート状態にし圧電素子に対向電極特性が発揮できないようにすることで、液滴が吐出せず、かつノズル孔のメニスカスも破壊されることがない状態にしておく。そして、駆動電圧が後述するようにバイアス電圧の電圧値と略同じになってから当該スイッチング回路をオンにしてバイアス電圧を印加する。これによっても図7のドライバICによる作用効果と同様な作用効果は得られる。
【0032】
図8は本実施形態の駆動電圧波形を説明するための波形図である。図8の(a)は共通電極に印加するバイアス電圧の波形を示し、図8の(b)は個別電極に印加する駆動電圧の波形を示し、図8の(c)は圧電材料層での電位差の変化を示している。また、図9は吐出に利用している電界強度の範囲を示している。
先ず、共通電極に印加するバイアス電圧の電圧値は、図8の(a)に示すように、装置起動後の印字開始前又は印字終了後の待機時の電圧の、例えば0[V]からドライバICのスイッチ回路をオフした状態でVまで先に立ち上げておく。ドライバICのスイッチ回路をオフした状態により個別電極側はフロート状態となって圧電素子に対向電極特性が発揮できない状態になり液滴は吐出せず、かつノズル孔のメニスカスも破壊されることはない。そして、共通電極側の電圧値は、個別電極の共通電極との電位差ΔVの基準になるので、吐出動作ではドライバICのスイッチング動作により電位が変動しないように、容量の大きい電解コンデンサなどを並列に接続する。スイッチング動作の負荷変動によってバイアス電圧が変動しないようにすればこれに限ったものではないが、バイアス電圧の変動を小さくするためには図7に示すコンデンサの例のようにバイアス電圧の応答性は低いものとなる。よって、個別電極の駆動電圧をスローアップする前に、共通電極に印加されるバイアス電圧の電圧値をVに立ち上げる必要がある。
【0033】
図8の(b)に示すように、個別電極に印加する駆動電圧V[V]は、装置起動後の印字開始前の、例えば0[V]から、ドライバICのスイッチをオフした状態で共通電極に印加されるバイアス電圧の所定の電圧値V[V](=V1P、V1Pは液滴吐出パルスのピーク電圧値)まで上昇させる。圧電材料層には電圧がかからないので早く立ち上げても良い。駆動電圧がバイアス電圧の所定の電圧値V[V]と略同じ電圧値に立ち上がったら、各chに対応するドライバICのスイッチをオンする。この段階では、圧電材料層の個別電極の電位と共通電極の電位とはV[V]で略同じなので、図8の(c)に示すように、圧電材料層における個別電極の共通電極との電位差ΔVはほとんどない。その後、駆動電圧の波形はバイアス電圧V[V]と略同じ電圧値から基準電位まで緩やかに変化させる。この緩やかに変化する様子をスローアップ又はスローダウンと呼んでいる。圧電材料層に急激な電界変化をさせずに、緩やかに変化させることで、液滴吐出ヘッドの加圧液室内の圧力変化を抑えて、ノズル孔のメニスカスを壊すことはない。これにより駆動電圧波形の吐出準備は整い、液滴吐出ヘッドは各chへの印字データに基づきドライバICのスイッチ回路で、駆動電圧波形のスイッチングを行い、液滴の吐出を制御して画像を形成する。印字終了後の待機時も同様に駆動電圧を基準電圧からバイアス電圧の所定の電圧値と略同じ電圧値にしてからドライバICのスイッチをオフにする。本実施形態では、駆動電圧V[V]の最大値が共通電極のバイアス電圧の所定の電圧値V[V]と同じなので、圧電材料層における個別電極の共通電極との電位差は、−V〜0[V]で変化する。これは図9のバタフライ特性に矢印で示した範囲の負極の電界での駆動を行っていることになる。また、個別電極に印加する駆動電圧V[V]と共通電極に印加するバイアス電圧の電圧値V[V]が略同じ電圧値であれば、ドライバICのスイッチ動作(オンオフ)に関係なくそれぞれ印加しても圧電材料層における個別電極の共通電極との電位差ΔVはほとんどない。
【0034】
本実施形態によれば、正極の電圧値のバイアス電圧と正極の電圧値の駆動電圧とにより、圧電材料層には負極の電圧の駆動電圧と同じような個別電極の共通電極との電位差が生じる。負極の電圧の駆動電圧の方が正極の電圧の駆動電圧よりも変換効率の良い場合には、ドライバICや電気回路をコストアップせずに、効率の良い駆動が可能になり、省電力、低発熱な記録装置が実現できる。バイアス電圧を使う構成でも圧電材料層における個別電極の共通電極との電位差をほぼ無くし、加圧液室の急激な圧力変動やメニスカスの破壊を防止して、吐出安定性の高い液滴吐出装置が実現できる。本実施形態の薄膜状に形成した圧電材料層に電圧を印加する液滴吐出装置に対しては、負極の電圧側の変換効率が良い場合有効であり、例えばサブフレームの柱がなく、加圧液室を個別には支持していないような薄膜ピエゾヘッドに対しても有効である。
【0035】
図10は本実施形態の第1の変形例の駆動電圧波形を説明するための波形図である。図10の(a)は共通電極に印加するバイアス電圧の波形を示し、図10の(b)が個別電極に印加する駆動電圧の波形を示し、図10の(c)は圧電材料層で個別電極の共通電極との電位差の変化を示している。図11は吐出に利用している電界強度の範囲を示している。図10の(a)に示すように、上記実施形態と同様に、共通電極に印加するバイアス電圧は、ドライバICのスイッチ回路をオフした状態で、0[V]からV[V]まで先に立ち上げておく。この時、図10の(b)に示すように、バイアス電圧の所定の電圧値V[V]は、駆動電圧V[V]における液滴吐出パルスのピーク電圧値(V1P)よりも小さい。図10の(c)に示すように、圧電材料層における個別電極の共通電極との電位差ΔVは、−V〜(V1P−V)まで変化するが、(V1P−V)>0であり、正極の電界がかかるようになっている。これは、電位差ΔVが0[V]付近である応答の変換効率が良いことから、図11に示すように、圧電材料層の抗電圧を超えない(バタフライ特性が反転しない)範囲で正極の電圧を印加するためである。つまり、バイアス電圧と駆動電圧の最大値との差は圧電材料層の抗電圧より小さくする。そして、バイアス電圧の大きさは違うが、駆動電圧波形の立ち上げ方は、上記実施形態と同じである。駆動電圧波形が共通電極に印加されるバイアス電圧V[V]と略同じの電圧値に立ち上がったら、各chに対応するドライバICのスイッチをオンする。この段階では、圧電材料層の個別電極の電位と共通電極の電位とはV[V]で略同じなので、図10の(c)に示すように、圧電材料層における個別電極の共通電極との電位差はほとんどない。そして、駆動電圧は電圧V[V]から基準電位まで緩やかに変化させる。
【0036】
圧電材料層に急激な電界変化をさせずに、緩やかに変化させることで、液滴吐出ヘッドの加圧液室内の圧力変化を抑えて、ノズル孔のメニスカスを壊すことはない。これにより駆動電圧波形の吐出準備は整い、液滴吐出ヘッドは各chへの印字データに基づきドライバICのスイッチ回路で、駆動電圧波形のスイッチングを行い、液滴の吐出を制御して画像を形成する。本実施形態の第1の変形例においても、正極の電圧のバイアス電圧と正極の電圧の駆動電圧とにより、つまり正極電圧用の電源だけで、圧電材料層へは負極の電圧の駆動電圧と同じ電位差を印加している。負極の電圧の駆動電圧の方が正極電圧の駆動よりも変換効率の良い場合には、ドライバICや電気回路をコストアップせずに、効率の良い駆動が可能になり、省電力、低発熱な記録装置が実現できる。また、電圧の立ち上げによりバイアス電圧を使う構成でも圧電材料層への電位差の不連続性を無くし、余計な加圧液室の圧力変動や、メニスカスの破壊を防止して、吐出安定性の高い液滴吐出装置が提供できる。
【0037】
図12は本実施形態の第2の変形例の駆動電圧波形を説明するための波形図である。図12の(a)は個別電極に印加する駆動電圧波形を示し、図12の(b)は圧電材料層での電位差の変化を示している。図13は吐出に利用している電界強度の範囲を示している。
本実施形態の第2の変形例において、駆動電圧の波形は基準電位が0[V]の波形である。共通電極にバイアス電圧を印加するために、立ち上げ時には図12の(a)に示すように、一旦バイアス電圧V[V]まで電圧を上昇させてから、0[V]まで電圧変化させている。一見、基準電位が0[V]なので、スルーアップを必要無いようにみえるが、バイアス電圧により逆極性の電圧で吐出させる場合には、上記実施形態、第1の変形例と同様に、バイアス電圧から基準電位(本変形例では0[V])まで、スルーアップする必要がある。
【0038】
図14は本実施形態の第3の変形例の駆動電圧波形を説明するための波形図である。本変形例はバイアス電圧で逆極性での吐出動作をさせる場合に、電圧を立ち下げる時の動作を示す例である。図14の(a)が個別電極に印加する駆動電圧の波形を示し、図14の(b)は共通電極に印加するバイアス電圧を示し、図14の(c)が圧電材料層における個別電極の共通電極との電位差の変化を示している。
【0039】
先ず、図14の(a)に示すように、ドライバICのスイッチング回路をオンして、基準電位(駆動電圧波形の基準電位)から、バイアス電圧の所定の電圧値V[V]まで電圧を変化させる。これにより、圧電材料層における個別電極の共通電極との電位差が0[V]となる。この段階で、一旦ドライバICのスイッチング回路をオフして、個別電極に印加する駆動電圧の波形は0[V]に立ち下げる。スイッチがオフした後、共通電極に印加していたバイアス電圧の所定の電圧値V[V]も0[V]に立ち下げる。駆動電圧波形及びバイアス電圧を立ち下げた後に、一旦ドライバICのスイッチをオンする。これにより、浮遊容量などの影響で残った電荷を確実に放出したのち、ドライバICのスイッチをオフする。これにより、圧電材料層に電界が生じ続けることを防止して、圧電材料層の特性劣化を防止する。
【0040】
本変形例のように、液滴吐出終了後バイアス電圧を立ち下げる場合も、駆動電圧の波形を一旦バイアス電圧の所定の電圧値と略同じにした後電圧を待機電圧又は0[V]にすることで、急でかつ不連続な圧電材料層への個別電極の共通電極との電位差となることを防止する。これにより、圧電材料層の急激な動作による劣化、加圧液室内の圧力変化によるメニスカス破壊を防止して、安定で、信頼性の高い液滴吐出ヘッドを提供できる。
【0041】
本実施形態によれば、駆動電圧のバイアス電圧の所定の電圧値までの立ち上げ制御により、バイアス電圧を使う構成でも圧電材料層への電位差の急激な変化を無くし、液滴吐出に至るような加圧液室の急激な圧力変動やメニスカスの破壊を防止して、吐出安定性の高い液滴吐出装置が提供できる。
【0042】
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
液滴吐出の開始前の前記駆動電圧の電圧値を、バイアス電圧の所定の電圧値と略同じにする。図8を用いて、上記実施形態について説明したように、駆動電圧の印加がオンになった時、駆動電圧の電圧値はバイアス電圧の所定の電圧値と略同じ電圧値であるので、液滴が吐出されるような個別電極の共通電極との電位差の変化にならないように当該電位差の変化を抑えられる。そのため、液滴吐出の開始前液滴吐出ヘッドの加圧液室内の内圧の変化はほとんど生じず液滴が吐出したり、ノズル孔のメニスカスを壊したりすることもない。よって、共通電極にバイアス電圧を印加して個別電極に駆動電圧を印加しても安定した液滴吐出特性で液滴を吐出できる。
【0043】
(態様B)
(態様A)において、駆動電圧の個別電極への印加をオンオフに切り換える駆動電圧印加切換手段を設ける。図8を用いた上記実施形態について説明したように、液滴吐出を開始する前ではドライバICのスイッチング回路をオフにしておき個別電極をフロート状態にすることで圧電材料層に対向電極特性を発揮させないようにすることで液滴は吐出されず、かつノズル孔におけるメニスカスが破壊されることもない。そして、駆動電圧の電圧値がバイアス電圧の所定の電圧値と略同じになってからドライバICのスイッチング回路をオンにして当該駆動電圧を個別電極に印加する。これにより、個別電極をフロート状態から解除されて個別電極にバイアス電圧の電圧値と略同じ電圧値が印加されることで、個別電極の共通電極との電位差をほぼなくすことができ、滴吐出ヘッドの加圧液室内の圧力変化を抑えてノズル孔のメニスカスを壊すことを防ぎ、安定した液滴吐出を行うことができる。
【0044】
(態様C)
(態様A)又は(態様B)において、バイアス電圧の共通電極への印加をオンオフに切り換えるバイアス電圧印加切換手段を設ける。図8を用いた上記実施形態について説明したように、液滴吐出を開始する前ではバイアス電圧印加切換手段によって共通電極へのバイアス電圧の印加をオフにしておき共通電極をフロート状態にすることで圧電材料層において対向電極特性を発揮させないようにすることで液滴は吐出されない。そして、駆動電圧の電圧値がバイアス電圧の所定の電圧値と略同じになってからバイアス電圧印加切換手段をオンにして当該バイアス電圧を共通電極に印加する。これにより、共通電極をフロート状態から解除され、かつ個別電極にバイアス電圧の電圧値と略同じ電圧値が印加されて個別電極の共通電極との電位差をほぼなくすことができ、滴吐出ヘッドの加圧液室内の圧力変化を抑えてノズル孔のメニスカスを壊すことを確実に防ぎ、安定した液滴吐出を行うことができる。
【0045】
(態様D)
(態様A)〜(態様C)のいずれかにおいて、バイアス電圧の所定の電圧値と略同じ電圧値の駆動電圧を所定の基準電位まで徐々に変化させる。図8を用いた上記実施形態について説明したように、圧電材料層が焼成されている振動板の変位が所定の安定な変位となってから安定した液滴吐出を行うことができる。
【0046】
(態様E)
(態様A)〜(態様D)のいずれかにおいて、バイアス電圧の所定の電圧値と駆動電圧の最大値との差を圧電材料層の抗電圧より小さくする。図10を用いて上記第1の変形例について説明したように、液滴吐出ヘッドの加圧液室内の圧力変化を抑えて、ノズル孔のメニスカスを壊すことを防ぐことができる。
【0047】
(態様F)
(態様A)〜(態様E)のいずれかの態様の液滴吐出ヘッドのノズル孔から記録液を記録材に吐出して画像を形成する。図1及び図2を用いて本実施形態の画像形成装置について説明したように、安定した記録液の滴吐出特性が得られ、画像品質を向上することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 液滴吐出ヘッド
10 ノズル基板
11 ノズル孔
12 加圧液室
13 流体抵抗部
20 液室基板
30 振動板
40 保護基板
51 下部電極
52 圧電材料層
53 上部電極
54 配線部材
55 層間絶縁膜
56 パッシベーション膜
57 下部電極パッド部
58 上部電極パッド部
59 貫通孔
100 インクジェット記録装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0049】
【特許文献1】特開平10−100401号公報
【特許文献2】特開2006−321200号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズル孔を有するノズル板と、該ノズル板に積層され前記ノズル孔に連通する加圧液室を形成する液室基板と、前記加圧液室の一部の内壁に形成される振動板を介して前記加圧液室内を昇圧する圧電材料層を有する圧電アクチュエータ部と、前記圧電材料層を挟持するように設けられた共通電極及び個別電極のうち該個別電極に駆動電圧を印加する駆動電圧印加手段と、前記共通電極に所定の電圧値のバイアス電圧を印加するバイアス電圧印加手段と、を備え、前記バイアス電圧印加手段によって所定の電圧値の前記バイアス電圧を前記共通電極に印加し、かつ前記駆動電圧印加手段によって液滴吐出パルス電圧の前記駆動電圧を前記個別電極に印加することにより生じる、前記圧電材料層における個別電極の共通電極との電位差の変化により、前記圧電材料層が変位して前記振動板が変位し、前記加圧液室内の圧力を変化させることで前記ノズル孔から液滴を吐出する液滴吐出ヘッドにおいて、
液滴吐出を開始する前の前記駆動電圧の電圧値を、前記バイアス電圧の所定の電圧値と略同じにすることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記駆動電圧の前記個別電極への印加をオンオフに切り換える駆動電圧印加切換手段を設け、前記駆動電圧の電圧値が前記バイアス電圧の所定の電圧値と略同じ電圧値になってから前記駆動電圧印加切換手段によって前記駆動電圧の前記個別電極への印加をオンにすることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記バイアス電圧の前記共通電極への印加をオンオフに切り換えるバイアス電圧印加切換手段を設け、液滴吐出を開始する前に前記駆動電圧の電圧値が前記バイアス電圧の所定の電圧値と略同じ電圧値になってから前記バイアス電圧印加切換手段によって前記バイアス電圧の前記共通電極への印加をオンにすることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記バイアス電圧の所定の電圧値と略同じ電圧値の前記駆動電圧を所定の基準電位まで徐々に変化させることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドにおいて、
前記バイアス電圧の所定の電圧値と前記駆動電圧の最大値との差は、前記圧電材料層の抗電圧より小さいことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドのノズル孔から記録液を記録材に吐出して画像を形成することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−63581(P2013−63581A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203553(P2011−203553)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】