説明

液滴吐出方法及びカラーフィルターの製造方法

【課題】複数のノズルにおける機能液吐出量のバラツキを減少させ、液滴吐出ヘッドを効率的に使用できる液滴吐出方法及びカラーフィルターの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、複数のノズルNが配置された液滴吐出ヘッド5から機能液の液滴Lを吐出する液滴吐出方法であって、前記液滴吐出ヘッド5の吐出動作中に、前記液滴Lの非吐出ノズルに対応する液溜り部24の前記機能液に対して前記非吐出ノズルから前記液滴Lを吐出させない大きさの微振動を加えるという方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のノズルが配置された液滴吐出ヘッドから機能液の液滴を吐出する液滴吐出方法及び該液滴吐出方法を用いたカラーフィルターの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液滴吐出ヘッドに設けられた複数のノズルからインクの液滴を吐出し、紙等の記録媒体上に配置して描画を行うインクジェットプリンタが知られている。近年、このようなインクジェットプリンタに端を発する液滴吐出装置の技術革新が進み、半導体素子、電子回路基板又はフラットパネル型表示装置(液晶装置やエレクトロルミネッセンス装置等)の製造において上記液滴吐出装置が用いられている。
例えば、フルカラー表示が可能な液晶装置にはカラーフィルターが用いられており、このようなカラーフィルターは、機能液であるフィルターエレメント材料の液滴を液滴吐出装置によりガラスや合成樹脂からなる基材の表面に吐出して配置することで製造される。
【0003】
ところで、一般的に、液滴吐出装置の液滴吐出ヘッドにおける複数のノズルからの機能液吐出量にはバラツキが存在する。そのため、配置されるフィルターエレメント材料の厚みが異なることで、製造されるカラーフィルターに筋ムラが生じる虞があった。
このようなカラーフィルターにおける筋ムラの発生を防止すべく、吐出量のバラツキが大きいノズル列の両端部からの吐出を吐出規制手段により規制する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このような技術を用いることで、カラーフィルターにおける筋ムラの発生を防止若しくは減少させることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−159787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術においては、ノズル列の両端部に位置するノズルが使用されないため、液滴吐出ヘッドを有効活用しているとは言い難かった。すなわち、カラーフィルターの製造における生産効率が低下し、製造の手間やコストが増加してしまうという課題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、複数のノズルにおける機能液吐出量のバラツキを減少させ、液滴吐出ヘッドを効率的に使用できる液滴吐出方法及びカラーフィルターの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、複数のノズルが配置された液滴吐出ヘッドから機能液の液滴を吐出する液滴吐出方法であって、前記液滴吐出ヘッドの吐出動作中に、前記液滴の非吐出ノズルに対応する液溜り部の前記機能液に対して前記非吐出ノズルから前記液滴を吐出させない大きさの微振動を加えるという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、機能液を吐出中の所定のノズルに隣接するノズルが吐出中であるか非吐出ノズルであるかに関わらず、上記所定のノズルが隣接するノズルから受ける振動や圧力等の影響が略均一化する。
【0008】
また、本発明は、前記液滴吐出ヘッドに前記複数のノズルに各々対応する複数の圧電素子を設け、前記非吐出ノズルに対応する前記圧電素子に微振動用駆動信号を印加するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、機能液を吐出中の所定のノズルに隣接するノズルが吐出中であるか非吐出ノズルであるかに関わらず、上記所定のノズルが隣接するノズルから受ける振動、圧力及び熱等の影響が略均一化する。
【0009】
また、本発明は、前記機能液を吐出する前記ノズルに対応する前記圧電素子に印加される吐出用駆動信号と同期して、前記微振動用駆動信号を印加するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、非吐出ノズルに対応する圧電素子が振動し始める時期が、所定のノズルが機能液を吐出する時期と同期する。
【0010】
また、本発明は、前記液滴吐出ヘッドの吐出動作中に、前記微振動用駆動信号を連続的に印加するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、液滴吐出ヘッドの吐出動作中に微振動用駆動信号を連続的に印加しており、非吐出ノズルに対応する液溜り部の機能液が効果的に加熱される。
【0011】
また、本発明は、前記微振動用駆動信号の周波数が、前記機能液を吐出する前記ノズルに対応する前記圧電素子に印加される吐出用駆動信号の周波数よりも大きいという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、非吐出ノズルに対応する圧電素子に周波数の大きな微振動用駆動信号を印加することで上記圧電素子の発熱量が増加することから、非吐出ノズルに対応する液溜り部の機能液が効果的に加熱される。
【0012】
また、本発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の液滴吐出方法を用いて、基材上の所定領域に前記機能液を配置してカラーフィルターを製造するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、カラーフィルターを製造するにあたり、機能液を吐出中の所定のノズルに隣接するノズルが吐出中であるか非吐出ノズルであるかに関わらず、上記所定のノズルが隣接するノズルから受ける振動や圧力等の影響が略均一化する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】液滴吐出装置IJの全体構成を示す概略図である。
【図2】液滴吐出ヘッド5の構成を示す概略図である。
【図3】液滴吐出装置IJの制御手段を示す概略図である。
【図4】カラーフィルター基板P上にカラーフィルター層を形成する方法の説明図である。
【図5】液滴吐出ヘッド5の動作を示す説明図である。
【図6】吐出用駆動信号S1及び微振動用駆動信号S4の波形を示す概略図である。
【図7】液滴吐出ヘッド5の一吐出状態を示す概略図である。
【図8】液滴吐出方法を用いた場合の吐出量のバラツキを示す概略図である。
【図9】液滴吐出ヘッド5の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
以下の説明においては、図1中に示されたXYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材について説明する。XYZ直交座標系は、X軸及びY軸がワークステージ2に対して平行となるよう設定され、Z軸がワークステージ2に対して直交する方向に設定されている。図1中のXYZ座標系は、実際にはXY平面が水平面に平行な面に設定され、Z軸が鉛直上方向に設定される。
【0015】
まず、本実施形態における液滴吐出装置IJの構成を、図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態における液滴吐出装置IJの全体構成を示す概略図である。液滴吐出装置IJは、例えばインクジェット方式によりカラーフィルター基板(基材)の所定領域上に機能液(フィルターエレメント材料等)の液滴を吐出してカラーフィルター層を形成する装置である。
【0016】
図1に示すように、液滴吐出装置IJは、装置架台1、ワークステージ2、ステージ移動装置3、キャリッジ4、液滴吐出ヘッド5、キャリッジ移動装置6、チューブ7、第1タンク8、第2タンク9、第3タンク10及び制御装置11を備えている。
【0017】
装置架台1は、ワークステージ2及びステージ移動装置3の支持台である。ワークステージ2は、装置架台1上においてステージ移動装置3によってX軸方向に移動可能に設置されており、上流側の搬送装置(図示せず)から搬送されるカラーフィルター基板(基材)Pを、真空吸着機構によりXY平面上に保持する。ステージ移動装置3は、リニアガイド及びボールネジ等の直動機構を備え、後述する制御装置11から入力される、ワークステージ2の移動先X座標を示すステージ位置制御信号に基づいて、ワークステージ2をX軸方向に移動させる。
【0018】
キャリッジ4は、液滴吐出ヘッド5を保持するものであり、キャリッジ移動装置6によってY軸方向及びZ軸方向に移動可能に設けられている。液滴吐出ヘッド5は、図示略の複数のノズルを備えており、制御装置11から入力される描画データや駆動信号に基づいて、機能液の液滴を吐出する。この液滴吐出ヘッド5は、機能液のR(赤)、G(緑)、B(青)に対応して設けられており、それぞれの液滴吐出ヘッド5はキャリッジ4を介してチューブ7と連結されている。そして、R(赤)に対応する液滴吐出ヘッド5はチューブ7を介して第1タンク8からR(赤)用の機能液の供給を受け、G(緑)に対応する液滴吐出ヘッド5はチューブ7を介して第2タンク9からG(緑)用の機能液の供給を受け、また、B(青)に対応する液滴吐出ヘッド5はチューブ7を介して第3タンク10からB(青)用の機能液の供給を受けるようになっている。
【0019】
キャリッジ移動装置6は、装置架台1を跨ぐ橋梁構造をしており、Y軸方向及びZ軸方向に沿ってリニアガイド及びボールネジ等の直動機構を備え、後述する制御装置11から入力される、キャリッジ4の移動先Y座標及びZ座標を示すキャリッジ位置制御信号に基づいて、キャリッジ4をY軸方向及びZ軸方向に移動させる。
【0020】
チューブ7は、第1タンク8、第2タンク9及び第3タンク10とキャリッジ4(液滴吐出ヘッド5)とを連結する機能液の供給用チューブである。第1タンク8は、R(赤)用の機能液を貯蔵すると共に、チューブ7を介してR(赤)に対応する液滴吐出ヘッド5に機能液を供給する。第2タンク9は、G(緑)用の機能液を貯蔵すると共に、チューブ7を介してG(緑)に対応する液滴吐出ヘッド5に機能液を供給する。第3タンク10は、B(青)用の機能液を貯蔵すると共に、チューブ7を介してB(青)に対応する液滴吐出ヘッド5に機能液を供給する。
【0021】
制御装置11は、ワークステージ2の移動によるカラーフィルター基板Pの位置決め動作、キャリッジ4の移動による液滴吐出ヘッド5の位置決め動作、及び、液滴吐出ヘッド5によるカラーフィルター基板P上の所定の位置に機能液の液滴を吐出する液滴吐出動作を制御する装置である。この制御装置11は、ステージ移動装置3にステージ位置制御信号を出力し、キャリッジ移動装置6にキャリッジ位置制御信号を出力すると共に、液滴吐出ヘッド5の駆動用集積回路60に描画データ及び駆動信号を出力する。
【0022】
次に、本実施形態における液滴吐出ヘッド5の構成を、図2を参照して説明する。
図2は、本実施形態における液滴吐出ヘッド5の構成を示す概略図である。図2(a)は液滴吐出ヘッド5をワークステージ2側から見た平面図、図2(b)は液滴吐出ヘッド5の部分斜視図、図2(c)は液滴吐出ヘッド5の1ノズル分の部分断面図である。
【0023】
図2(a)に示すように、液滴吐出ヘッド5は、Y軸方向に配列された複数(例えば180個)のノズルN〜N180(以下、総称してノズルNと称す場合もある)を備えている。ノズルN〜N180によってノズル列NAが形成されている。図2(a)では1列分のノズルを示したが、液滴吐出ヘッド5に設けるノズル数及びノズル列数は任意に変更可能であり、Y軸方向に配列した1列分ノズルをX軸方向に複数列設けても良い。また、キャリッジ4内に配置する液滴吐出ヘッド5の数も任意に変更可能である。さらに、キャリッジ4をサブキャリッジ単位で複数設ける構成としても良い。
【0024】
図2(b)に示すように、液滴吐出ヘッド5は、チューブ7と連結される材料供給孔20aが設けられた振動板20と、ノズルNが設けられたノズルプレート21と、振動板20とノズルプレート21との間に設けられたリザーバ22と、複数の隔壁23と、複数の液溜り部24とを備えている。振動板20上には、各ノズルN〜N180に対応して圧電素子PZ〜PZ180(以下、総称して圧電素子PZと称す場合もある)が配置されている。圧電素子PZ〜PZ180には、例えばピエゾ素子が用いられる。
【0025】
リザーバ22には、材料供給孔20aを介して供給される液状の機能液(フィルターエレメント材料等)が充填されるようになっている。液溜り部24は、振動板20と、ノズルプレート21と、互いに対向する一対の隔壁23とによって囲まれるようにして形成されおり、ノズルN〜N180に各々対応して複数設けられている。また、各液溜り部24には、一対の隔壁23の間に設けられた供給口24aを介して、リザーバ22から機能液が導入されるようになっている。
【0026】
図2(c)に示すように、圧電素子PZは、圧電材料25を一対の電極26で挟持したものであり、一対の電極26に駆動信号を印加すると圧電材料25が収縮するよう構成されたものである。そして、このような圧電素子PZが配置されている振動板20は、圧電素子PZと一体になってノズルプレート21の逆側(紙面上方)へ撓曲するようになっており、これによって液溜り部24の容積が増大するようになっている。
【0027】
液溜り部24の容積が増大すると、液溜り部24内に増大した容積分に相当する機能液が、リザーバ22から供給口24aを介して流入する。また、このような状態から圧電素子PZへの駆動信号の印加を停止すると、圧電素子PZと振動板20はともに元の形状に戻り、液溜り部24も元の容積に戻ることから、液溜り部24内の機能液の圧力が上昇し、ノズルNからカラーフィルター基板Pに向けて機能液の液滴Lが吐出される。
【0028】
次に、本実施形態における液滴吐出装置IJの制御手段を、図3を参照して説明する。
図3は、本実施形態における液滴吐出装置IJの制御手段を示す概略図である。なお、図3において、図1及び図2に示した構成要素に相当するブロックには同一の符号を付している。
図3に示すように、液滴吐出装置IJの制御手段は、制御コンピュータ50、制御装置11及び駆動用集積回路60を有している。
【0029】
制御コンピュータ50は、例えばCPU(中央処理装置)、RAM(RandomAccessMemory)及びROM(ReadOnlyMemory)等の内部記憶装置、ハードディスクやCD−ROM等の外部記憶装置、並びに液晶表示装置又はCRT(CathodeRayTube)等の表示装置を含んで構成され、ROM又はハードディスクに記憶されたプログラムに従って、液滴吐出装置IJの動作を制御する制御信号を制御装置11に出力する。この制御コンピュータ50は、例えばケーブル等を用いて図1に示す液滴吐出装置IJに設けられる制御装置11と接続されている。
【0030】
制御装置11は、演算制御部52、駆動信号生成部54、及びタイマ部56を含んで構成される。演算制御部52は、制御コンピュータ50から入力される制御信号及び内部に予め記憶された制御プログラムに基づいて、ステージ移動装置3及びキャリッジ移動装置6の動作を制御する。
また、演算制御部52は、液滴吐出ヘッド5に設けられる複数の圧電素子PZを駆動する各種駆動信号を生成するための各種データ(駆動信号生成用データ)を駆動信号生成部54に出力する。
【0031】
さらに、演算制御部52は、制御コンピュータ50から入力される制御信号及び内部の制御プログラムに基づいて描画データを生成し、該描画データを駆動用集積回路60に設けられた切替信号生成部62に出力する。この描画データは、駆動信号の印加対象となる圧電素子PZを指定するためのノズル選択データと圧電素子PZに印加する駆動信号を指定するための波形選択データとを備えている。
【0032】
駆動信号生成部54は、上記の駆動信号生成用データに基づいて所定形状の各種駆動信号を生成して駆動用集積回路60に設けられたスイッチ回路64に出力する。駆動信号生成部54が生成する駆動信号は、例えば、後述する吐出用駆動信号S1〜S3、及び微振動用駆動信号S4がある。吐出用駆動信号S1〜S3は、各ノズルNからそれぞれ所定量の機能液を吐出させるための駆動信号である。また、微振動用駆動信号S4は、ノズルNから機能液を吐出させない程度の微小な振動を液溜り部24内の機能液に加えるための駆動信号である。
【0033】
駆動用集積回路60は、液滴吐出ヘッド5内に設けられており、切替信号生成部62及びスイッチ回路64を含んで構成されている。切替信号生成部62は、演算制御部52から入力される描画データに基づいて、各圧電素子PZへの駆動信号の印加又は非印加を指示し印加する駆動信号を指定する切替信号を生成し、スイッチ回路64に出力する。スイッチ回路64は、各圧電素子PZにそれぞれ設けられており、切替信号によって指定された駆動信号を圧電素子PZに出力する。
【0034】
続いて、本実施形態における液滴吐出ヘッド5を用いてカラーフィルター基板P上にカラーフィルター層を形成する方法を、図4を参照して説明する。
図4は、液滴吐出ヘッド5を用いてカラーフィルター基板P上にカラーフィルター層を形成する方法の説明図である。図4(a)は、機能液の吐出対象物であるカラーフィルター基板Pの概略平面図である。図4(b)は、カラーフィルター基板Pの部分拡大平面図である。
【0035】
図4(a)において、ガラス、プラスチック等によって形成された大面積のカラーフィルター基板Pの表面には複数のパネル領域CAが設定されている。各パネル領域CAは、個別に分離(切断)されて個々のカラーフィルターとして提供される。各パネル領域CAの内部には、図4(b)に示すように、ドット状に配列された複数の画素PX(所定領域)が設けられている。画素PXは各パネル領域CA内にマトリクス状に配列されており、それぞれの画素PX毎にカラーフィルター層CFが形成される。
【0036】
本実施形態では、図4(b)の矢印A1及び矢印A2で示す方向(紙面上下方向)を主走査方向とし、主走査方向と直交する方向(紙面左右方向)を副走査方向として、液滴吐出ヘッド5をカラーフィルター基板P上に対向して配置する。そして、ワークステージ2及びキャリッジ4の移動により、液滴吐出ヘッド5をカラーフィルター基板P上の主走査方向及び副走査方向で走査させつつ、液滴吐出ヘッド5の複数のノズルNから着色材料を含む機能液(フィルターエレメント材料)を吐出させ、カラーフィルター基板P上の各画素PXにカラーフィルター層CFを形成する。
なお、画素PXは各パネル領域CA内にマトリクス状に配列されているため、液滴吐出ヘッド5における全てのノズルNが同時に機能液を吐出するわけではなく、複数のノズルN内で吐出中のノズルNと非吐出のノズルNとが存在する。また、後述する走査方向の違い等により、吐出中のノズルNと非吐出のノズルNとの位置は様々に変化する。
【0037】
液滴吐出ヘッド5の走査は、1つのパネル領域CAに関して複数回行う。例えば、主走査方向で液滴吐出ヘッド5を走査させた後、副走査方向で液滴吐出ヘッド5を走査させ、再度主走査方向で走査させる。液滴吐出ヘッド5は1つのパネル領域CAの左端から右端まで副走査した後、再びパネル領域CAの左端に戻り、既に吐出を行った位置とは若干異なる位置で主走査方向で走査する。そして、このような走査を複数回行うことによって、パネル領域CA内の全ての画素PXに所望の膜厚のカラーフィルター層CFを形成する。
【0038】
なお、図4(b)において液滴吐出ヘッド5が副走査方向に対して斜めに傾いているのは、液滴吐出ヘッド5のノズルNのピッチを画素PXのピッチに合わせるためである。ノズルNのピッチと画素PXのピッチとが所定の対応関係を満たして設定されていれば、液滴吐出ヘッド5を斜めに傾ける必要はない。
【0039】
カラーフィルター層CFは、R(赤)、G(緑)、B(青)の各色をいわゆるストライプ配列、デルタ配列、モザイク配列等といった適宜の配列形態で配列することによって形成される。したがって、図4(b)に示す機能液の吐出工程においては、R、G、Bの機能液を吐出する液滴吐出ヘッド5を、R、G、Bの3色分だけ予め用意する。
そして、これらの液滴吐出ヘッド5を順次に用いて1つのカラーフィルター基板P上にR、G、Bの3色のカラーフィルター層CFの配列を形成する。
【0040】
続いて、本実施形態における液滴吐出ヘッド5の動作を、図5を参照して説明する。
図5は、本実施形態における駆動信号生成部54で生成される吐出用駆動信号S1の1周期分の波形及びこの駆動信号による液滴吐出ヘッド5の動作を示す説明図である。
なお、図5(a)において、符号Vは待機状態の電位(中間電位)、Vは充電状態の電位(高電位)、Vは放電状態の電位(低電位)をそれぞれ示している。駆動電圧は、高電位Vと低電位Vとの電位差によって規定される。また、符号tは待機状態から充電状態までの時間(駆動電圧の立ち上がり時間)、符号tは充電状態を保持する時間(駆動電圧の保持時間)、符号tは充電状態から放電状態までの時間(駆動電圧の立ち下がり時間)をそれぞれ示している。
【0041】
図5(a)に示されるように、吐出用駆動信号S1は、その電圧値が中間電位Vからスタートした後(ホールドパルスL1)、時間tが経過するまでの間、充電状態の電位まで一定の傾きで上昇し(充電ホールパルスL2)、時間tが経過するまでの間、高電位Vを維持する(ホールドパルスL3)。次に、時間tが経過するまでの間、高電位から低電位まで一定の傾きで下降し(放電パルスL4)、低電位Vを所定時間だけ維持する(ホールドパルスL5)。その後、電圧値は中間電位Vまで一定の傾きで上昇する(充電パルスL6)。
【0042】
以上説明した吐出用駆動信号S1が圧電素子PZに印加されると、圧電素子PZは図5(b)〜(d)に示す動作を行い、これにより対応するノズルNから液状体を液滴として吐出させる。
【0043】
まず、図5(a)に示されるように、吐出用駆動信号S1の電圧値が充電状態の電位まで一定の傾きで上昇する充電ホールパルスL2が圧電素子PZに印加されると、図5(b)に示すように圧電素子PZが液溜り部24の容積を緩やかに膨張させる方に撓み液溜り部24に負圧が発生する。これによって、機能液がリザーバ22から供給口24aを介して液溜り部24に供給される。また、ノズルNの開口近傍に位置する機能液も僅かに液溜り部24内部方向へ引き込まれることで、メニスカスがノズルN内に引き込まれる。
【0044】
次に、時間tの間、吐出用駆動信号S1の電圧値を高電位Vに保持するホールドパルスL3が圧電素子PZ〜PZ180に印加された後、時間tが経過する間に放電パルスL4が印加されると、圧電素子PZが急速に液溜り部24の容積を収縮させる方向に撓み、液溜り部24に正圧が発生する。これにより、図5(c)に示す通り、ノズルN〜N180から所定の液体が液滴Lとして吐出される。
【0045】
液滴Lが吐出されると、所定時間の間、圧電素子PZには低電位Vを維持するホールドパルスL5が印加され、その後、中間電位Vまで一定の傾きで上昇する充電パルスL6が圧電素子PZに印加される。充電パルスL6が圧電素子PZに印加されると、圧電素子PZは図5(d)に示すように変形し、液溜り部24内に負圧が発生する。
【0046】
これにより、液状体がリザーバ22から液溜り部24に供給されるとともに、ノズルNの開口近傍に位置する所定の液体も僅かに液溜り部24内部方向へ引き込まれ、図5(d)に示す通り、メニスカスが一定の状態に維持される。
【0047】
本実施形態では、吐出用駆動信号S1について説明したが吐出用駆動信号S2、S3が印加された圧電素子PZは、図5(b)〜(d)に示した同様の動作を行う。なお、吐出用駆動信号S2、S3は、吐出用駆動信号S1に対し、高電位Vがこの順に低く、また放電パルスL4の傾きがこの順に緩やかになっている。すなわち、吐出用駆動信号S2、S3が印加された場合、吐出用駆動信号S1が印加された場合に比べて、ノズルNから吐出される液滴Lの重量が小さくなる。
すなわち、本実施形態に係る液滴吐出装置IJは、スイッチ回路64が所定の駆動信号(吐出用駆動信号S1〜S3)を圧電素子PZに出力することでノズルNからの液状体の吐出状況を変化させるようになっている。
【0048】
次に、吐出用駆動信号S1と微振動用駆動信号S4とについて比較する。
図6は、吐出用駆動信号S1及び微振動用駆動信号S4の波形を示す概略図であって、図6(a)は吐出用駆動信号S1の波形の一例を示す図であり、(b)は微振動用駆動信号S4の波形の一例を示す図である。本実施形態において、微振動用駆動信号S4の周波数は、吐出用駆動信号S1の周波数と等しく10kHzに設定されている。
【0049】
微振動用駆動信号S4の振幅は、圧電素子PZに前述の通りノズルNから機能液を吐出させない程度の振動を発生させるため、例えば吐出用駆動信号S1の振幅VHL(図5(a)に示す高電位Vと低電位Vとの差)の略半分(45%)に設定されている。
【0050】
続いて、本実施形態における機能液の液滴の非吐出ノズルNの動作を、図7を参照して説明する。
図7は、本実施形態における液滴吐出ヘッド5の一吐出状態を示す概略図である。
前述の通り、液滴吐出ヘッド5の複数のノズルNの内、制御装置11から出力される描画データに基づいて所定のノズルNのみが機能液を吐出する。例えば、図7では、ノズルN、N、Nが機能液を吐出中のノズルであり、ノズルNが非吐出ノズルである状態を示している。
【0051】
ここで、吐出中のノズルNにおいて吐出量のバラツキが発生すると、カラーフィルター基板P上に形成されるカラーフィルター層CFの膜厚にもバラツキが生じる。特に、隣接する吐出中のノズルN間(NとNとの間、NとNとの間等)で吐出量の差が大きい場合には、製造されるカラーフィルターに筋ムラが発生してしまう。
【0052】
吐出量のバラツキが発生する一原因を以下に説明する。
図2(c)に示す吐出中のノズルNに対応する液溜り部24の機能液に対して、振動板20や隔壁23を介して振動、圧力及び熱等の影響を加えると、ノズルNからの機能液の吐出量が変化する。これは、上記振動等の影響が加えられることで、液溜り部24の機能液における吐出特性が変化してしまうためである。例えば、機能液に熱が加えられると、機能液は加熱により粘度が低下するため、圧電素子PZの放電動作(図5(c)参照)で吐出される機能液の量は増加する。
【0053】
また、吐出中のノズルNに隣接するノズルNが吐出中か否かによって、ノズルNがノズルNから受ける振動等の影響が異なる。
振動板20は全ての液溜り部24に亘って設けられており、また、隔壁23は互いの液溜り部24を区画する壁部であるため、ノズルNにおける圧電素子PZ2が作動することで発生する振動や液溜り部24の圧力変化が、振動板20や隔壁23を介してノズルN側に伝わる。さらに、圧電素子PZ2が作動することで圧電素子PZ2は発熱することから、ノズルNにおける液溜り部24の機能液は加熱され、その熱が隔壁23を介してノズルN側に伝わる。一方、ノズルNが非吐出ノズルであれば、ノズルNがノズルNから受ける影響はほとんどない。
よって、ノズルNが吐出中か否かにより、ノズルNがノズルNから受ける振動等の影響が変化し、結果として、ノズルNから吐出される機能液の吐出量が変化する。
【0054】
なお、所定の吐出中のノズルNに隣接するノズルNが吐出中か否かは、制御装置11から出力される描画データ、すなわちカラーフィルター基板Pにおける描画パターンに従って決定される。そのため、吐出中のノズルNにおいても、その隣接するノズルNが吐出中か否かは様々であることから、上記隣接するノズルNから受ける振動等の影響の有無に違いを生じ、結果として吐出中のノズルNにおける吐出量のバラツキが発生する。
【0055】
本実施形態では、ノズルNの圧電素子PZに対する吐出用駆動信号S1の印加に同期して、非吐出ノズルNの圧電素子PZ2に対して微振動用駆動信号S4を印加する。
そのため、ノズルNの吐出動作に同期してノズルNにおける液溜り部24の機能液も振動し加熱されることから、非吐出ノズルNは、吐出中のノズルNに近い振動や熱等の影響をノズルNに対して与えることができる。
ここで、微振動用駆動信号S4における振幅は吐出用駆動信号S1におけるVHLの45%であり、圧電素子PZ2が発生する振動や熱は通常の吐出動作をする場合に比べ小さいのであるが、ノズルNが吐出中か否かに関わらずノズルNがノズルNから受ける振動等の影響が略均一化される。
【0056】
ここで、液滴吐出ヘッド5の吐出動作中に非吐出ノズルNに対して微振動用駆動信号S4を加えた場合の吐出量のバラツキを、図8を参照して説明する。
図8は、本実施形態に係る液滴吐出方法を用いた場合の吐出量のバラツキを示す概略図である。
【0057】
全ノズルN中、31個のノズルNから機能液を吐出させ、隣接する吐出中のノズルN間における機能液の重量差(全30個のデータ、例えば図7におけるNとNとの重量差1、NとNとの重量差2など)を測定した。なお、図8のグラフは、重量差を絶対値で表示している。白抜きのグラフが非吐出ノズルに対して微振動用駆動信号S4を印加していない場合を示し、網点入りのグラフが非吐出ノズルに対して微振動用駆動信号S4を印加した場合を示す。
【0058】
図8に示すように、非吐出ノズルに対して微振動用駆動信号S4を印加した場合は、印加しない場合に比べ大幅に重量差が減少していることがわかる。したがって、非吐出ノズルに対して微振動用駆動信号S4を印加することで、吐出中のノズルNにおける吐出量のバラツキを減少させることができ、カラーフィルターの製造における筋ムラの発生を低減させることができる。
【0059】
さらに、吐出中のノズルNにおける吐出量のバラツキを減少できるため、ノズル列NAの両端部に配置されたノズルNからの吐出を規制する等の方法を用いる必要が無くなり、全てのノズルNを機能液の吐出に利用することが可能となる。したがって、液滴吐出ヘッド5を効率よく使用することができるため、カラーフィルターの製造における手間やコストを減少させることができる。
【0060】
なお、例えば小さい画素PXを有するカラーフィルター基板Pに機能液を吐出する場合、各ノズルNから吐出される機能液の量を少なくする必要がある。この場合、液滴吐出装置IJは、スイッチ回路64によって圧電素子PZに出力する吐出用駆動信号S1から吐出用駆動信号S2,S3のいずれかに切り替えることができる。このように本実施形態に係る液滴吐出装置IJによれば、圧電素子PZに出力する駆動信号を切り替えることで容易に各ノズルNから吐出される機能液の量を調整することができる。
【0061】
本発明は上述の実施形態に限定されることはない。
例えば、上記実施形態では、微振動用駆動信号S4は吐出用駆動信号S1の印加と同期して印加されているが、本発明はこのような方法に限定されるものではなく、液滴吐出ヘッド5の吐出動作中に非吐出ノズルNに対して微振動用駆動信号S4を連続的に印加してもよい。
このような方法によれば、非吐出ノズルNに対応する液溜り部24の機能液をさらに効果的に加熱することができる。
【0062】
また、上記実施形態では、微振動用駆動信号S4の周波数は吐出用駆動信号S1の周波数と同一であるが、微振動用駆動信号S4の周波数として吐出用駆動信号S1の周波数よりも大きな周波数を用いてもよい。例えば、微振動用駆動信号S4の周波数として、100kHz程度の周波数を用いることが考えられる。
この100kHz近傍の周波数は、圧電素子PZを十分に駆動(機械的変形)可能なものであると同時に、圧電素子PZを高速駆動することによって作動熱を応答性良く発生させる周波数となっている。このような方法によっても、非吐出ノズルNに対応する液溜り部24の機能液をさらに効果的に加熱することができる。
【0063】
また、上記実施形態では、非吐出ノズルNにおける圧電素子PZを微振動させたが、例えば図9に示すように圧電素子PZ以外の振動体45を液溜り部24に設けてもよい。振動体45としては、例えば電磁石を用いたものが挙げられる。このような構成によっても、振動体45により非吐出ノズルNの機能液を微振動させることで、非吐出ノズルNの隣接する吐出中のノズルNに対する振動や圧力等の影響を、吐出中のノズルNと略同一にすることができる。
また、図9における振動体45と同様に、液溜り部24にヒータを設けてもよい。非吐出ノズルNに対応するヒータを発熱させることにより、非吐出ノズルNの隣接する吐出中のノズルNに対する熱の影響を、吐出中のノズルNと略同一にすることができる。上記ヒータには、ペルチェ素子を用いてもよい。
【0064】
なお、上記実施形態では、ノズル間の吐出量のばらつきが調整された液滴吐出装置IJを用いてカラーフィルターを製造する方法に用いる場合について説明したが、本発明の液滴吐出装置IJはカラーフィルターの製造だけでなく、均一な膜厚を必要とされ、筋ムラの発生が問題となる成膜工程においても適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
5…液滴吐出ヘッド、24…液溜り部、N…ノズル、PZ…圧電素子、L…液滴、S1、S2、S3…吐出用駆動信号、S4…微振動用駆動信号、P…カラーフィルター基板(基材)、PX…画素(所定領域)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが配置された液滴吐出ヘッドから機能液の液滴を吐出する液滴吐出方法であって、
前記液滴吐出ヘッドの吐出動作中に、前記液滴の非吐出ノズルに対応する液溜り部の前記機能液に対して前記非吐出ノズルから前記液滴を吐出させない大きさの微振動を加えることを特徴とする液滴吐出方法。
【請求項2】
前記液滴吐出ヘッドに前記複数のノズルに各々対応する複数の圧電素子を設け、前記非吐出ノズルに対応する前記圧電素子に微振動用駆動信号を印加することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出方法。
【請求項3】
前記機能液を吐出する前記ノズルに対応する前記圧電素子に印加される吐出用駆動信号と同期して、前記微振動用駆動信号を印加することを特徴とする請求項2に記載の液滴吐出方法。
【請求項4】
前記液滴吐出ヘッドの吐出動作中に、前記微振動用駆動信号を連続的に印加することを特徴とする請求項2に記載の液滴吐出方法。
【請求項5】
前記微振動用駆動信号の周波数は、前記機能液を吐出する前記ノズルに対応する前記圧電素子に印加される吐出用駆動信号の周波数よりも大きいことを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の液滴吐出方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の液滴吐出方法を用いて、基材上の所定領域に前記機能液を配置してカラーフィルターを製造することを特徴とするカラーフィルターの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−210986(P2010−210986A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57513(P2009−57513)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】