説明

液滴吐出装置、制御装置、及び、プログラム

【課題】処理剤の残量が少なくなった場合でも、処理剤を使用し、一定水準以上の記録品質を保証する。
【解決手段】処理液の残量が所定値(第1レベル使用量)未満となった場合(S31:YES)、用紙上に形成される画像の一部(裏抜けや滲み等の防止が重要視される部分)を特定画像部分として抽出する(S33)。制限モード記録の第2レベルが選択された場合(S35)、用紙上の画像形成領域のうち、第1部分(特定画像部分が形成される部分)には通常モード記録時と同じ態様で、且つ、第2部分(非特定画像部分が形成される部分)には通常モード記録時よりも低い所定の密度で、処理液が付与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク滴等の液滴を吐出する液滴吐出装置、これを制御する制御装置、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置の一例であるインクジェット式プリンタにおいて、記録媒体に対し、インク滴を着弾させる前及び/又は後に、処理剤を付与する技術が知られている。ここで、処理剤とは、例えば液体又は固体(例えばフィルム状のもの等)の、所望の性質を有する材料をいう。記録媒体に対してインク滴着弾前に付与される処理剤(前処理剤)は、インクの滲みや裏抜け(記録媒体の表面に着弾したインクが記録媒体の層を貫通して裏面に滲み出す現象)を防止する機能、インクの発色性や速乾性を向上させる機能、インク滴着弾後の記録媒体の皺やカールを抑制する機能等を有する。記録媒体に対してインク滴着弾後に付与される処理剤(後処理剤)は、被膜を形成することで、記録媒体上に形成された画像を保護する(耐擦性、耐水性、耐光性、耐ガス性等を向上させる)機能、光沢性を付与する機能等を有する。
【0003】
また、上記技術を採用した場合において、処理剤の残量が少なくなったときの対処法として、処理剤を使用せずに、インク滴の吐出量を制限し、インクの滲み等を抑制するという技術が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−195823号公報,段落0027
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、処理剤の残量が少なくなったからといって、特許文献1のように処理剤を使用しない場合、たとえインク滴の吐出量を制限したとしても、インクの滲み等によって記録品質の悪化を免れない場合があり、一定水準以上の記録品質を保証することが困難である。
【0006】
本発明の目的は、処理剤の残量が少なくなった場合でも、処理剤を使用し、一定水準以上の記録品質を保証することが可能な、液滴吐出装置、制御装置、及び、プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1観点によると、記録媒体に対して液滴を吐出するヘッドと、前記記録媒体に処理剤を付与する処理剤付与部と、前記ヘッドから吐出される液滴によって前記記録媒体上に形成される画像に係る画像データを記憶する画像データ記憶手段と、前記画像データ記憶手段が記憶した画像データに基づいて、前記画像の一部を特定画像部分として抽出する抽出手段と、前記特定画像部分が形成される前記記録媒体の第1部分、及び、前記画像のうち前記特定画像部分以外の非特定画像部分の少なくとも一部が形成される前記記録媒体の第2部分に、前記処理剤が付与されるよう、前記処理剤付与部を制御する付与制御手段と、前記処理剤の残量を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された残量が第1所定値未満であるか否かを判断する第1判断手段とを備え、前記付与制御手段は、前記第1判断手段により前記残量が前記第1所定値未満であると判断された場合に、前記第2部分に付与される前記処理剤の量が、前記残量が前記第1所定値以上の場合に前記第2部分に付与される前記処理剤の量よりも少なくなるように、前記処理剤付与部を制御し、前記抽出手段は、複数の画素からなる画素領域を単位として、前記画像の縁に対応する画素領域を、前記特定画像部分として抽出することを特徴とする液滴吐出装置が提供される。
【0008】
本発明の第2観点によると、記録媒体に対して液滴を吐出するヘッドと前記記録媒体に処理剤を付与する処理剤付与部とを含む液滴吐出装置を制御する制御装置であって、前記ヘッドから吐出される液滴によって前記記録媒体上に形成される画像に係る画像データを記憶する画像データ記憶手段と、前記画像データ記憶手段が記憶した画像データに基づいて、前記画像の一部を特定画像部分として抽出する抽出手段と、前記特定画像部分が形成される前記記録媒体の第1部分、及び、前記画像のうち前記特定画像部分以外の非特定画像部分の少なくとも一部が形成される前記記録媒体の第2部分に、前記処理剤が付与されるよう、前記処理剤付与部を制御する付与制御手段と、前記処理剤の残量を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された残量が第1所定値未満であるか否かを判断する第1判断手段とを備え、前記付与制御手段は、前記第1判断手段により前記残量が前記第1所定値未満であると判断された場合に、前記第2部分に付与される前記処理剤の量が、前記残量が前記第1所定値以上の場合に前記第2部分に付与される前記処理剤の量よりも少なくなるように、前記処理剤付与部を制御し、前記抽出手段は、複数の画素からなる画素領域を単位として、前記画像の縁に対応する画素領域を、前記特定画像部分として抽出することを特徴とする制御装置が提供される。
【0009】
本発明の第3観点によると、記録媒体に対して液滴を吐出するヘッドと前記記録媒体に処理剤を付与する処理剤付与部とを含む液滴吐出装置を制御する制御装置を、前記ヘッドから吐出される液滴によって前記記録媒体上に形成される画像に係る画像データを記憶する画像データ記憶手段、前記画像データ記憶手段が記憶した画像データに基づいて、前記画像の一部を特定画像部分として抽出する抽出手段、前記特定画像部分が形成される前記記録媒体の第1部分、及び、前記画像のうち前記特定画像部分以外の非特定画像部分の少なくとも一部が形成される前記記録媒体の第2部分に、前記処理剤が付与されるよう、前記処理剤付与部を制御する付与制御手段、前記処理剤の残量を検出する検出手段、及び、前記検出手段により検出された残量が第1所定値未満であるか否かを判断する第1判断手段、として機能させるプログラムであって、前記付与制御手段は、前記第1判断手段により前記残量が前記第1所定値未満であると判断された場合に、前記第2部分に付与される前記処理剤の量が、前記残量が前記第1所定値以上の場合に前記第2部分に付与される前記処理剤の量よりも少なくなるように、前記処理剤付与部を制御し、前記抽出手段は、複数の画素からなる画素領域を単位として、前記画像の縁に対応する画素領域を、前記特定画像部分として抽出することを特徴とするプログラムが提供される。
【0010】
上記第1〜第3観点によれば、処理剤の残量が第1所定値未満となった場合、記録媒体の第2部分(非特定画像部分の少なくとも一部が形成される部分)に付与される処理剤の量を制限しつつ、記録媒体の第1部分(特定画像部分が形成される部分)に付与される処理剤の量は例えば通常どおり(残量が第1所定値以上の場合と同等)とすることができる。このように、処理剤の残量が少なくなった場合でも、記録媒体のうち、画像形成領域全体に対して処理剤を使用しないのではなく、特に第1部分(特定画像部分が形成される部分)に対して処理剤を使用することで、一定水準以上の記録品質を保証することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、処理剤の残量が少なくなった場合でも、処理剤を使用し、一定水準以上の記録品質を保証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る液滴吐出装置の一実施形態としてのインクジェット式プリンタの内部構造を示す概略側面図である。
【図2】図1のプリンタに含まれるインクジェットヘッドの流路ユニット及びアクチュエータユニットを示す平面図である。
【図3】図2の一点鎖線で囲まれた領域IIIを示す拡大図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿った部分断面図である。
【図5】プリンタの電気的構成を示すブロック図である。
【図6】記録動作の制御に係るメインルーチンを示すフロー図である。
【図7】不使用モード記録のサブルーチンを示すフロー図である。
【図8】制限モード記録のサブルーチンを示すフロー図である。
【図9】制限モード記録におけるレベル選択に係るサブルーチンを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1を参照し、本発明の一実施形態に係るインクジェット式プリンタ1の全体構成について説明する。
【0015】
プリンタ1は、直方体形状の筐体1aを有する。筐体1aの天板上部には、排紙部31が設けられている。筐体1aの内部空間は、上から順に空間X,Y,Zに区分できる。空間X及びYには、排紙部31に連なる用紙搬送経路が形成されている。空間Zには、プレコートヘッド40に対する処理液供給源としてのカートリッジ41、4つのインクジェットヘッド10それぞれに対するインク供給源としての4つのカートリッジ39、及び、ポストコートヘッド50に対する処理液供給源としてのカートリッジ51が収容されている。
【0016】
空間Xには、プレコートヘッド40、ポストコートヘッド50、これらヘッド40,50の間に配置された4つのインクジェットヘッド10、用紙Pを搬送する搬送ユニット21、用紙Pをガイドするガイドユニット等が配置されている。空間Xの上部には、プリンタ1各部の動作を制御してプリンタ1全体の動作を司る制御装置1pが配置されている。制御装置1pは、外部装置から供給された画像データ(用紙P上に形成される画像に係る画像データ)に基づいて、記録動作(プリンタ1各部による用紙Pの搬送動作、用紙Pの搬送に同期したインク滴や処理液(前処理液及び後処理液を総じて「処理液」と称す。)の吐出動作等)を制御する。制御装置1pが実行する記録動作の制御については、後に詳述する。
【0017】
搬送ユニット21は、ベルトローラ6,7、両ローラ6,7間に巻回されたエンドレスの搬送ベルト8、搬送ベルト8の外側に配置されたニップローラ4及び剥離プレート5、搬送ベルト8の内側に配置されたプラテン9等を有する。ベルトローラ7は、駆動ローラであって、搬送モータ121(図5参照)の駆動により回転し、図1中時計回りに回転する。ベルトローラ7の回転に伴い、搬送ベルト8が図1中の太矢印方向に走行する。ベルトローラ6は、従動ローラであって、搬送ベルト8が走行するのに伴って、図1中時計回りに回転する。ニップローラ4は、ベルトローラ6に対向配置され、搬送方向上流側から供給されてきた用紙Pを搬送ベルト8の外周面である支持面8aに押さえ付ける。その後用紙Pは、搬送ベルト8の走行に伴い、支持面8a上に支持されつつ、ベルトローラ7に向けて搬送される。剥離プレート5は、ベルトローラ7に対向配置され、用紙Pを支持面8aから剥離し、さらに搬送方向下流側へと導く。プラテン9は、プレコートヘッド40、ポストコートヘッド50、及び4つのインクジェットヘッド10の、計6つのヘッドに対向配置され、搬送ベルト8の上側ループを内側から支える。
【0018】
各ヘッド10,40,50は、主走査方向に長尺な略直方体形状を有するラインヘッドである。各ヘッド10,40,50の下面は、多数の吐出口(図3及び図4に示すインクジェットヘッド10の吐出口14a参照)が開口した吐出面10a,40a,50aである。記録(画像形成)に際して、4つのインクジェットヘッド10の吐出面10aからそれぞれブラック、マゼンタ、シアン、イエローのインク滴が吐出される。また、後に詳述
するように、状況に応じて、プレコートヘッド40の吐出面40aから前処理液がインク滴着弾前の用紙Pに対して、ポストコートヘッド50の吐出面50aから後処理液がインク滴着弾後の用紙Pに対して、吐出される。ヘッド10,40,50は、副走査方向に所定ピッチで並び、ヘッドホルダ3を介して筐体1aに支持されている。ヘッドホルダ3は、吐出面10a,40a,50aが搬送ベルト8の上側ループの支持面8aに対向し、且つ、吐出面10a,40a,50aと支持面8aとの間に記録に適した所定の間隙が形成されるように、ヘッド10,40,50を保持している。ヘッド10,40,50のより具体的な構成については後に詳述する。
【0019】
ガイドユニットは、搬送ユニット21を挟んで配置された、上流側ガイド部及び下流側ガイド部を含む。上流側ガイド部は、2つのガイド27a,27b及び一対の送りローラ26を有する。当該ガイド部は、給紙ユニット1b(後述)と搬送ユニット21とを繋ぐ。下流側ガイド部は、2つのガイド29a,29b及び二対の送りローラ28を有する。当該ガイド部は、搬送ユニット21と排紙部31とを繋ぐ。
【0020】
空間Yには、給紙ユニット1bが筐体1aに対して着脱可能に配置されている。給紙ユニット1bは、給紙トレイ23及び給紙ローラ25を有する。給紙トレイ23は、上方に開口した箱体であり、複数種類のサイズの用紙Pを収納可能である。給紙ローラ25は、給紙トレイ23内で最も上方にある用紙Pを送り出し、上流側ガイド部に供給する。
【0021】
上述したように、空間X及びYに、給紙ユニット1bから搬送ユニット21を介して排紙部31に至る用紙搬送経路が形成されている。外部装置から受信した記録指令に基づいて、制御装置1pは、給紙ローラ25用の給紙モータ125(図5参照)、各ガイド部の送りローラ用の送りモータ127(図5参照)、搬送モータ121(図5参照)等を駆動する。給紙トレイ23から送り出された用紙Pは、送りローラ26によって、搬送ユニット21に供給される。用紙Pが各ヘッド10,40,50の真下を副走査方向に通過する際、ヘッド10から各色のインク滴(また、状況に応じて、プレコートヘッド40から前処理液、ポストコートヘッド50から後処理液)が順に吐出され、用紙P上にカラー画像が形成される。インク滴や処理液の吐出動作は、用紙センサ32からの検出信号に基づき、制御装置1pによる制御の下で行われる。用紙Pは、その後剥離プレート5により剥離され、2つの送りローラ28によって上方に搬送される。さらに用紙Pは、上方の開口30から排紙部31に排出される。
【0022】
ここで、副走査方向とは、搬送ユニット21による用紙Pの搬送方向に平行な方向であり、主走査方向とは、水平面に平行且つ副走査方向に直交する方向である。
【0023】
空間Zには、カートリッジユニット1cが筐体1aに対して着脱可能に配置されている。カートリッジユニット1cは、トレイ35、及び、トレイ35内に並んで収納された6つのカートリッジ41,39,51を有する。カートリッジ39はインク、カートリッジ41は前処理液、カートリッジ51は後処理液をそれぞれ貯留しており、これらはチューブ(図示せず)を介して対応するヘッド40,10,50にインク又は処理液を供給する。
【0024】
次に、ヘッド10,40,50の構成について説明する。ヘッド10,40,50は互いに同じ構成を有するため、以下、図2〜図4を参照してヘッド10の構成について説明することとする。なお、図3では、アクチュエータユニット17の下側にあって点線で示すべき圧力室16及びアパーチャ15を実線で示している。
【0025】
ヘッド10は、上下に積層されたリザーバユニット(図示せず)及び流路ユニット12、流路ユニット12の上面12xに固定された8つのアクチュエータユニット17(図2
参照)、各アクチュエータユニット17に接合されたFPC(平型柔軟基板)19(図4参照)等を有する。リザーバユニットには、カートリッジ39(図1参照)から供給されたインクを一時的に貯留するリザーバを含む流路が形成されている。流路ユニット12には、上面12xの開口12y(図2参照)から下面(吐出面10a)の各吐出口14aに至る流路が形成されている。アクチュエータユニット17は、吐出口14a毎の圧電型アクチュエータを有する。
【0026】
リザーバユニットの下面には凹凸が形成されている。凸部は、流路ユニット12の上面12xにおけるアクチュエータユニット17が配置されていない領域(図2に示す開口12yを含む二点鎖線で囲まれた領域)に接着されている。凸部の先端面は、リザーバに接続し且つ流路ユニット12の各開口12yに対向する開口を有する。これにより、上記各開口を介して、リザーバ及び個別流路14が連通している。凹部は、流路ユニット12の上面12x、アクチュエータユニット17の表面、及びFPC19の表面と、若干の隙間を介して対向している。
【0027】
流路ユニット12は、略同一サイズの矩形状の9枚の金属プレート12a,12b,12c,12d,12e,12f,12g,12h,12i(図4参照)を互いに積層し接着することにより形成された積層体である。流路ユニット12の流路は、図2、図3、及び図4に示すように、開口12yを一端に有するマニホールド流路13、マニホールド流路13から分岐した副マニホールド流路13a、及び、副マニホールド流路13aの出口から圧力室16を介して吐出口14aに至る個別流路14を含む。個別流路14は、図4に示すように、吐出口14a毎に形成されており、流路抵抗調整用の絞りとして機能するアパーチャ15を含む。上面12xにおける各アクチュエータユニット17の接着領域には、圧力室16を露出させる略菱形形状の開口がマトリクス状に配置されている。下面(吐出面10a)における各アクチュエータユニット17の接着領域に対向する領域には、圧力室16と同様の配置パターンで、吐出口14aがマトリクス状に配置されている。
【0028】
アクチュエータユニット17は、図2に示すように、それぞれ台形の平面形状を有し、流路ユニット12の上面12xにおいて2列の千鳥状に配置されている。各アクチュエータユニット17は、図3に示すように、当該アクチュエータユニット17の接着領域内に形成された多数の圧力室16の開口を覆っている。図示は省略するが、アクチュエータユニット17は、多数の圧力室16に跨るように延在した複数の圧電層、及び、厚み方向に関して圧電層を挟む電極を含む。電極には、圧力室16毎に設けられた個別電極、及び、圧力室16に共通の共通電極が含まれる。個別電極は、最も上方の圧電層の表面に形成されている。
【0029】
FPC19は、アクチュエータユニット17の各電極に対応する配線を有し、その途中部にドライバIC(図示せず)が実装されている。FPC19は、一端がアクチュエータユニット17、他端がヘッド10の制御基板(リザーバユニットの上方に配置。図示せず)にそれぞれ固定されている。FPC19は、制御装置1p(図1参照)による制御の下、後述の記録データに基づき制御基板から出力された各種駆動信号をドライバICに伝達し、ドライバICが生成した信号をアクチュエータユニット17に伝達する。
【0030】
なお、プレコートヘッド40及びポストコートヘッド50において、リザーバユニットのリザーバには、対応するカートリッジ41,51から適宜処理液が供給される。
【0031】
前処理液は、例えば、インクの滲みや裏抜け(用紙の表面に着弾したインクが用紙の層を貫通して裏面に滲み出す現象)を防止する機能、インクの発色性や速乾性を向上させる機能、インク滴着弾後の用紙の皺やカールを抑制する機能等を有する。後処理液は、例えば、被膜を形成することで、用紙上に形成された画像を保護する(耐擦性、耐水性、耐光
性、耐ガス性等を向上させる)機能、光沢性を付与する機能等を有する。これら処理液の材料は、カチオン系高分子やマグネシウム塩等の多価金属塩を含有する液体等、適宜に選択可能である。
【0032】
次に、図5を参照し、プリンタ1の電気的構成について説明する。
【0033】
制御装置1pは、図5に示すように、演算処理装置であるCPU(Central Processing
Unit)101に加えて、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory:不揮発性RAMを含む)103、ASIC(Application Specific Integrated Circuit )104、I/F(Interface)105、I/O(Input/Output Port)106等
を有する。ROM102には、CPU101が実行するプログラム、各種固定データ(例えば、後述する特定画像部分の抽出に係る抽出条件)等が記憶されている。RAM103には、プログラム実行時に必要なデータ(例えば、画像データ)が一時的に記憶される。ASIC104では、画像データの書き換え、並び替え等(例えば、信号処理や画像処理)が行われる。I/F105は、外部装置とのデータ送受信を行う。I/O106は、各種センサの検出信号の入力/出力を行う。
【0034】
制御装置1pは、各モータ121,125,127、用紙センサ32、各ヘッド10,40,50の制御基板等に加え、センサ42,52と電気的に接続されている。センサ42,52はそれぞれカートリッジ41,51内の処理液の残量を検出し、当該検出信号を制御装置1pに送信する。
【0035】
次に、図6〜図9を参照し、制御装置1pが実行する記録動作の制御内容について説明する。以下の各処理は、ROM102に記憶されているプログラムにしたがって、CPU101が実行する。
【0036】
プリンタ1の電源が投入されると、制御装置1pは先ず、図6に示すように、外部装置からの記録指令の受信の有無を確認する(S1)。制御装置1pは、記録指令を受信しなければ(S1:NO)、待機状態を継続する。
【0037】
制御装置1pは、記録指令を受信すると(S1:YES)、当該記録指令に含まれる画像データ等をRAM103に格納した後、前処理液及び後処理液それぞれの通常使用量を演算する(S2)。ここで、通常使用量とは、通常モード記録(S5)で使用されると推定される処理液の量をいう。本実施形態では、前処理液及び後処理液のそれぞれについて、通常モード記録の場合の用紙1枚あたりの平均使用量がROM102に予め記憶されており、当該平均使用量とS1で受信した記録指令から得られる記録枚数との積により、通常使用量が演算される。
【0038】
S2の後、制御装置1pは、センサ42,52から送信されたデータから、前処理液及び後処理液それぞれの残量を検出する(S3)。S3の後、制御装置1pは、前処理液及び後処理液のそれぞれについて、S3で検出された残量がS2で演算された通常使用量未満であるか否かを判断する(S4)。
【0039】
制御装置1pは、前処理液及び後処理液の両方において、残量が通常使用量未満でない場合(S4:NO)、通常モード記録が行われるよう、プリンタ1各部を制御する(S5)。
【0040】
制御装置1pは、前処理液及び後処理液の少なくともいずれかにおいて、残量が通常使用量未満である場合(S4:YES)、その旨をユーザに通知する(S6)。このとき、例えば『(前及び/又は後)処理液が不足しています。処理液不使用モード記録を行いま
すか?』等のメッセージを、プリンタ1又は外部装置のディスプレイに表示する。
【0041】
S6の後、制御装置1pは、ユーザからの入力に応じて、不使用モード記録を行うか否かを判断する(S7)。当該入力は、外部装置のキーボードやマウス等の入力手段を介して、制御装置1pに受信される。制御装置1pは、不使用モード記録を指示する入力を受信すると(S7:YES)、不使用モード記録が行われるよう、プリンタ1各部を制御する(S8)。制御装置1pは、不使用モード記録を指示しない入力を受信すると(S7:NO)、制限モード記録が行われるよう、プリンタ1各部を制御する(S9)。
【0042】
なお、通常モード記録(S5)とは、用紙上の画像形成領域全体に所定密度で各処理液を付与し、記録を行うことをいう。不使用モード記録(S8)とは、S4で残量が通常使用量未満であると判断された処理液を使用せず(用紙に付与することなく)、記録を行うことをいう。制限モード記録(S9)とは、S4で残量が通常使用量未満であると判断された処理液を、用紙毎の総使用量が通常モード記録時よりも制限されるように使用しつつ、記録を行うことをいう。
【0043】
S5、S8、又はS9の後、制御装置1pは当該メインルーチンを終了する。
【0044】
続いて、図7を参照し、不使用モード記録(S8)について説明する。
【0045】
制御装置1pは、先ず、不使用モード記録用の記録データを作成する(S11)。記録データは、S1の記録指令に含まれる画像データをインクジェットヘッド10の吐出口14aの配置に応じて変換することにより得られる、各吐出口14aからの吐出態様を指示するデータである。記録データにしたがって、ヘッド10のアクチュエータが駆動される。S11において、制御装置1pは、通常モード記録用に作成された記録データを基準として、処理液を使用しないことによる不具合(インクの滲み、裏抜け等)を抑制するため、用紙毎に、インクの総吐出量の低減化、画像の縁の小滴化、小滴化幅の拡張等の処理を行う。
【0046】
S11の後、制御装置1pは、用紙搬送速度(搬送ベルト8の走行速度)を設定する(S12)。S12において、制御装置1pは、ROM102に予め記憶されている通常モード記録用の用紙搬送速度を基準として、S11で作成した記録データや処理液を使用しないこと等の、用紙の乾燥時間への影響を考慮し、用紙搬送速度を設定する。
【0047】
S12の後、制御装置1pは、記録制御を行う(S13)。具体的には、制御装置1pは、S12で設定した用紙搬送速度が得られるよう、各モータ121,125,127の駆動を制御し、また、用紙の搬送と同期して、S11で作成した記録データに基づき各色のインク滴が吐出されるよう、各ヘッド10のアクチュエータユニット17の駆動を制御する。このとき、S4で残量が通常使用量未満であると判断された処理液を吐出するプレコートヘッド40及び/又はポストコートヘッド50は駆動されない。一方、S4で残量が通常使用量未満であると判断されなかった処理液があれば、当該処理液を吐出するプレコートヘッド40又はポストコートヘッド50は、通常モード記録時と同様の態様で駆動される。
【0048】
S13の後、制御装置1pは当該サブルーチンを終了する。
【0049】
続いて、図8を参照し、制限モード記録(S9)について説明する。
【0050】
制御装置1pは、先ず、レベルを選択する(S21)。この処理については後に説明する。
【0051】
S21の後、制御装置1pは、S21で選択したレベル対応の記録データを作成する(S22)。S22において、制御装置1pは、通常モード記録用に作成された記録データを基準として、S21で選択したレベルに応じて、用紙毎に、上記S11と同様の各処理を行う。
【0052】
S22の後、制御装置1pは、S21で選択したレベル対応の処理液吐出データを作成する(S23)。処理液吐出データは、S1の記録指令に含まれる画像データ等に基づいて得られる、各ヘッド40,50の吐出口からの吐出態様を指示するデータである。処理液吐出データにしたがって、各ヘッド40,50のアクチュエータが駆動される。S23において、制御装置1pは、通常モード記録用に作成された処理液吐出データを基準として、S21で選択したレベルに応じて、対応する部分の吐出量を低減する等の処理を行う。
【0053】
S23の後、制御装置1pは、用紙搬送速度(搬送ベルト8の走行速度)を設定する(S24)。S24において、制御装置1pは、ROM102に予め記憶されている通常モード記録用の用紙搬送速度を基準として、S22で作成した記録データやS23で作成した処理液吐出データ等の、用紙の乾燥時間への影響を考慮し、用紙搬送速度を設定する。
【0054】
S24の後、制御装置1pは、記録制御を行う(S25)。具体的には、制御装置1pは、S24で設定した用紙搬送速度が得られるよう、各モータ121,125,127の駆動を制御し、また、用紙の搬送と同期して、S22で作成した記録データに基づき各色のインク滴が吐出されるよう、各ヘッド10のアクチュエータユニット17の駆動を制御する。このとき、S4で残量が通常使用量未満であると判断された処理液を吐出するプレコートヘッド40及び/又はポストコートヘッド50は、S23で作成した処理液吐出データに基づき処理液が吐出されるよう、アクチュエータユニットの駆動が制御される。一方、S4で残量が通常使用量未満であると判断されなかった処理液があれば、当該処理液を吐出するプレコートヘッド40又はポストコートヘッド50は、通常モード記録時と同様の態様で駆動される。
【0055】
S25の後、制御装置1pは当該サブルーチンを終了する。
【0056】
続いて、図9を参照し、レベル選択(S21)に係る処理について説明する。
【0057】
本実施形態において、制限モード記録のレベルは第1〜第3レベルまで存在し、処理液の残量に応じてレベルが選択される。第1レベルでは、用紙上の画像形成領域全体に、通常モード記録時の密度よりも低い所定の密度で、処理液が付与される。第2レベルでは、用紙上の画像形成領域のうち、第1部分(後述の特定画像部分が形成される部分)には通常モード記録時と同じ態様(同じ密度)で、且つ、第2部分(後述の非特定画像部分が形成される部分)には通常モード記録時よりも低い所定の密度で、処理液が付与される。第3レベルでは、用紙上の画像形成領域のうち、第4部分(後述の優先特定画像部分が形成される部分)には通常モード記録時と同じ態様(同じ密度)で、且つ、第3部分(後述の非優先特定画像部分が形成される部分)と上記第2部分とには通常モード記録時よりも低い所定の密度で、処理液が付与される。
【0058】
特定画像部分は、用紙上に形成される画像の一部である。非特定画像部分は、用紙上に形成される画像のうち、特定画像部分以外の部分である。優先特定画像部分は、互いに異なる複数の優先度に対応する複数の特定画像部分のうち、優先度が所定の優先度よりも高い部分である。非優先特定画像部分は、上記複数の特定画像部分のうち、優先特定画像部分以外の部分である。また、用紙の第1部分及び第2部分を合わせた領域が画像形成領域
全体であり、用紙の第3部分及び第4部分を合わせた領域が第1部分である。
【0059】
制御装置1pは、先ず、S4で残量が通常使用量未満であると判断された処理液について、S3で検出された残量が第1レベル使用量未満であるか否かを判断する(S31)。ここで、第1レベル使用量とは、第1レベル(S32)で使用されると推定される処理液の量をいう。本実施形態では、前処理液及び後処理液のそれぞれについて、第1レベルの場合の用紙1枚あたりの平均使用量がROM102に予め記憶されており、当該平均使用量とS1で受信した記録指令から得られる記録枚数との積により、第1レベル使用量が演算される。
【0060】
制御装置1pは、残量が第1使用量未満でない場合(S31:NO)、第1レベルを選択し(S32)、当該サブルーチンを終了する。
【0061】
制御装置1pは、残量が第1使用量未満である場合(S31:YES)、S1の記録指令に含まれる画像データ等に基づいて、ROM102に記憶されている抽出条件を参照しつつ、用紙毎に、用紙上に形成される画像の一部を特定画像部分として抽出する(S33)。ROM102には、処理液の種類(前処理液及び後処理液のいずれであるか)、片面記録及び両面記録のいずれであるか、用紙の種類等に応じて、互いに異なる複数の抽出条件及びその優先度が記憶されている。用紙は、種類毎に(厚みや材質によって)、裏抜けし易い用紙と、滲み易い用紙とに区分されている(例えば、厚みが所定値未満の用紙は裏抜けし易い用紙に区分されている)。片面記録及び両面記録のいずれであるか、及び、用紙の種類は、記録指令に含まれるデータから判別される。処理液の種類は、S4で残量が通常使用量未満であると判断された処理液に対応する。
【0062】
本実施形態において、処理液の種類が前処理液である場合の抽出条件は、以下のとおりである。
【0063】
片面記録の場合、裏抜けし易い用紙については、裏抜け防止のための抽出条件(A)、滲み防止のための抽出条件(B)、及び、発色性悪化防止のための抽出条件(C)(優先度は(A)>(B)>(C))が設けられている。滲み易い用紙については、滲み防止のための抽出条件(B)、裏抜け防止のための抽出条件(A)、及び、発色性悪化防止のための抽出条件(C)(優先度は(B)>(A)>(C))が設けられている。両面記録の場合は、用紙の種類によらず、上記片面記録の場合の裏抜けし易い用紙に対する条件と同様の抽出条件が設けられている。
【0064】
裏抜け防止のための抽出条件(A)は、特定画像部分として、1又は複数の画素からなる画素領域を単位として、吐出されるインク滴の量が所定値以上の画素領域を抽出すること(A1)、及び、吐出されるインク滴の明度が所定値未満の画素領域を抽出すること(A2)を含む(優先度は(A1)>(A2))。また、両面記録の場合において、裏抜け防止のための抽出条件(A)は、上記(A1)及び(A2)に加え、特定画像部分として、裏面にキャラクタ(キャラクタは文字及び記号を含む。以下同様)画像がある画素領域を抽出すること(A3)を含む(優先度は(A1)>(A2)>(A3))。なお、上記(A1)及び(A2)の所定値としては、当該画素領域に吐出された場合に裏抜けが生じ得るインク滴の量や明度が用いられる。
【0065】
滲み防止のための抽出条件(B)は、特定画像部分として、用紙上に形成される画像(特に、線画像(一方向の長さに対する他方向(一方向に直交する方向)の長さの比が所定値以上の画像))の縁に対応する画素領域を抽出すること(B1)、及び、キャラクタ画像に含まれる画素領域を抽出すること(B2)を含む(優先度は(B1)>(B2))。(B1)では、特に、白抜き部分(画像の縁間距離が所定値未満であることにより形成さ
れる部分)に接する画素領域を特定画像部分として抽出する。これにより、白抜き部分のつぶれが抑制される。
【0066】
発色性悪化防止のための抽出条件(C)は、特定画像部分として、OD(Optical Density)値が当該処理液の使用を前提として定められている画素領域を抽出すること(C1
)、階調値が当該処理液の使用を前提として定められている画素領域を抽出すること(C2)、及び、濃度変化値が所定値以上である部分を含む画素領域を抽出すること(C3)を含む(優先度は(C1)>(C2)>(C3))。
【0067】
処理液の種類が後処理液である場合の抽出条件(D)は、片面記録及び両面記録のいずれであるかに関わらず、また、用紙の種類に関わらず、吐出されるインク滴の量が所定値以上の画素領域を抽出すること(D1:上記(A1)と同じ)、及び、用紙上に形成される画像の縁に対応する画素領域を抽出すること(D2:上記(B1)と同じ)を含む(優先度は(D1)>(D2))。(D2)では、特に、用紙の縁に近接した画像の縁を特定画像部分として抽出する。
【0068】
上記いずれの場合も、対応する複数の抽出条件のそれぞれにしたがって、特定画像部分が抽出される。
【0069】
S33の後、制御装置1pは、互いに異なる複数の優先度に対応する複数の特定画像部分が抽出されたか否かを判断する(S34)。互いに異なる複数の優先度に対応する複数の特定画像部分が抽出されていない場合(S34:NO)、即ち、単一の優先度に対応する特定画像部分のみが抽出された場合、制御装置1pは、第2レベルを選択し(S35)、当該サブルーチンを終了する。
【0070】
互いに異なる複数の優先度に対応する複数の特定画像部分が抽出された場合(S34:YES)、制御装置1pは、S4で残量が通常使用量未満であると判断された処理液について、S3で検出された残量が第2レベル使用量未満であるか否かを判断する(S36)。ここで、第2レベル使用量とは、第2レベルで使用されると推定される処理液の量をいう。ここでは、用紙毎の特定画像部分と非特定画像部分とに基づいて、第2レベル使用量が演算される。
【0071】
制御装置1pは、残量が第2使用量未満でない場合(S36:NO)、第2レベルを選択し(S35)、当該サブルーチンを終了する。
【0072】
制御装置1pは、残量が第2使用量未満である場合(S36:YES)、第3レベルを選択し(S37)、当該サブルーチンを終了する。また、S37において、制御装置1pは、S33で抽出された特定画像部分と、残量とに基づいて、第3レベルに係る優先特定画像部分を決定する。
【0073】
例えば、処理液の種類が前処理液であり、片面記録で且つ裏抜けし易い用紙の場合、上記(A)(B)(C)の条件のうち、残量に応じた優先度の条件(例えば、優先度が最も高い(A)の条件、優先度が1番目及び2番目に高い(A)(B)の各条件、或いは、(A)の中でも優先度が1番目及び2番目に高い(A1)(A2)の各条件等)にしたがって抽出された部分を、優先特定画像部分としてよい。処理液の種類が前処理液であり、片面記録で且つ滲み易い用紙の場合、上記(B)(A)(C)の条件のうち、残量に応じた優先度の条件(例えば、優先度が最も高い(B)の条件、優先度が1番目及び2番目に高い(B)(A)の各条件、或いは、(B)の中でも優先度が1番目に高い(B1)の条件等)にしたがって抽出された部分を、優先特定画像部分としてよい。処理液の種類が後処理液である場合、上記(D1)(D2)の条件のうち、残量に応じた優先度の条件(優先
度が最も高い(D1)の条件)にしたがって抽出された部分を、優先特定画像部分としてよい。
【0074】
以上に述べたように、本実施形態に係るプリンタ1、制御装置1p、及びプログラムによると、処理液の残量が第1所定値(本実施形態では、第1レベル使用量)未満となった場合(図9のS31:YES)、制限モード記録の第2レベル(S35)を選択することで、用紙の第2部分(非特定画像部分が形成される部分)に付与される処理液の量を制限しつつ、用紙の第1部分(特定画像部分が形成される部分)に付与される処理液の量は通常どおり(通常モード記録時と同等)とすることができる。このように、処理液の残量が少なくなった場合でも、用紙のうち、画像形成領域全体に対して処理液を使用しないのではなく、特に第1部分(特定画像部分が形成される部分)に対して処理液を使用することで、一定水準以上の記録品質を保証することができる。
【0075】
また、第1所定値をある程度大きな値とすることで、処理液が完全になくなってしまう前に、制限モード記録の第2レベル(S35)を選択し、処理液補充までの時間を確保することができる。
【0076】
吐出されるインク滴の量が多い画素領域では、特に裏抜けが生じ易い。また、当該領域では、用紙上にインク滴による凸部が形成され、凸部が記録後の摩擦によって削られ易い。そこで、S33において、吐出されるインク滴の量が所定値以上の画素領域を特定画像部分として抽出すること(A1)(D1)により、当該画素領域での裏抜けを抑制したり耐擦性を向上させたりすることができる。
【0077】
複数の抽出条件について予め優先度を決めておき、処理液の残量が第1所定値よりもさらに少なくなった場合(S36:YES)、制限モード記録の第3レベル(S37)を選択することで、用紙の第3部分(非優先特定画像部分が形成される部分)に付与される処理液の量を制限しつつ、用紙の第4部分(優先特定画像部分が形成される部分)に付与される処理液の量は通常どおり(通常モード記録時と同等)とすることができる。このように、処理液の残量が極めて少なくなった場合でも、用紙のうち第4部分に対して処理液を使用することで、一定水準以上の記録品質を保証することができる。
【0078】
用紙上に形成される画像(特に、線画像)の縁では、滲みが生じ易い。また、特に用紙の縁に近接した画像の縁では、人が用紙に触れることにより、摩擦が生じ易い。そこで、S33において、用紙上に形成される画像(特に、線画像)の縁に対応する画素領域を特定画像部分として抽出すること(B1)(D2)により、当該画素領域での滲みを抑制したり耐擦性を向上させたりすることができる。
【0079】
明度が低い画素領域では、特に裏抜けが生じ易い。また、当該領域が摩耗すると、視認性の悪化が顕著になる。そこで、S33において、吐出されるインク滴の明度が所定値未満の画素領域を特定画像部分として抽出すること(A2)により、当該画素領域での裏抜けを抑制したり耐擦性を向上させて視認性悪化を抑制したりすることができる。
【0080】
S33において、OD値が当該処理液の使用を前提として定められている画素領域を特定画像部分として抽出すること(C1)により、処理液の残量が少なくなった場合でも、所望のOD値を得ることができる。
【0081】
S33において、階調値が当該処理液の使用を前提として定められている画素領域を特定画像部分として抽出すること(C2)により、処理液の残量が少なくなった場合でも、所望の階調値を得ることができる。
【0082】
濃度変化値が大きい画素領域において、滲みや発色性の悪化が生じると、コントラストが減少してしまう。そこで、S33において、濃度変化値が所定値以上である部分を含む画素領域を特定画像部分として抽出すること(C3)により、コントラストの減少を抑制し、一定の記録品質を確保することができる。
【0083】
複数種類の用紙に対する互いに異なる複数の抽出条件が設けられており、用紙の種類に応じて抽出される特定画像部分を変更することで、裏抜けや滲み等の問題をより効果的に軽減することができる。
【0084】
吐出されるインク滴の明度や用紙の種類に応じて、裏抜けや滲み等の問題の生じ易さが変わる。そこで、制御装置1pは、吐出されるインク滴の明度及び用紙の種類の少なくとも一方に応じて、第1所定値(第2レベル選択の基準となる値)及び/又は用紙の第1部分(特定画像部分が形成される部分)に付与される処理液の量を、変更することが好ましい。例えば、吐出されるインク滴の明度が所定値未満の場合や、裏抜けや滲み等が生じ易い用紙の場合、第1所定値を、上記各場合以外の場合と比較して下げることで、処理液の残量が比較的多い場合でも第2レベルを選択し、用紙の第1部分に付与される処理液の量を通常どおりとして、裏抜けや滲み等を効果的に抑制することができる。また、吐出されるインク滴の明度が所定値未満の場合や、裏抜けや滲み等が生じ易い用紙の場合、用紙の第1部分に付与される処理液の量を、上記各場合以外の場合と比較して増加させることで、裏抜けや滲み等を効果的に抑制することができる。
【0085】
第2レベルが選択された場合、制御装置1pは、制限モード記録制御(S9)において、用紙の第2部分に付与される処理液の量が用紙の第1部分からの離隔距離に応じて漸進的に減少するように、プレコートヘッド40又はポストコートヘッド50を制御する。これにより、特定画像部分と非特定画像部分との境界が明確になるのを抑制することができる。
【0086】
キャラクタ画像の領域に裏抜けが生じると、視認性が特に悪化する。そこで、制御装置1pは、裏面にキャラクタ画像がある用紙の部分に対して、通常モード記録時と同等以上の量の処理液を付与することが好ましい。これにより、用紙の当該部分での裏抜けを防止し、視認性悪化を抑制することができる。
【0087】
本実施形態では、1の記録指令毎に、図6に示すように、1のモード(通常モード記録、不使用モード記録、及び、制限モード記録の第1〜第3レベルのうちの1つ)が選択される。つまり、1の記録指令に基づく記録中にモードの切換が行われることはない。例えば、1の記録指令に基づく冊子の見開きページの記録時等にモードの切換が行われ、一方のページと他方のページとでモードが異なる場合、画像濃度の相違等によって記録品質が悪化し得る。また、1の記録指令に基づく両面記録時に、一方の面に対するモードと他方の面に対するモードとが異なる場合、表裏に対する処理液の付与量の相違等によって、用紙にカールが生じ得る。本実施形態では、上記のような問題を軽減することができる。
【0088】
S3で検出される処理液の残量は、S3の時点の残量でもよいし、S3の時点の残量から見込量を差し引いた値であってもよい。後者の場合、見込量として、例えば、プリンタ1における当該処理液の消費履歴に基づいて、処理液のカートリッジ購入に必要な期間(例えば1週間)に消費されると推定される処理液の量を設定してよい。後者の場合、見込量を考慮することで、制限モード記録中の処理液の枯渇を防止し、余裕をもって制限モード記録を行うことができる。また、前者の場合、例えば、S3の後且つS4の前に、S3の時点の残量から見込量を差し引いた値が通常使用量未満であるか否かを判断し、当該値が通常使用量未満である場合、処理液のカートリッジ購入を促すメッセージをユーザに通知することが好ましい。これにより、上記と同様、制限モード記録中の処理液の枯渇を防
止し、余裕をもって制限モード記録を行うことができる。
【0089】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0090】
制御装置1pは、用紙の第2部分に付与される処理液の量が用紙の第1部分からの離隔距離に応じて漸進的に減少するように、プレコートヘッド40又はポストコートヘッド50を制御しなくてもよい。
【0091】
制御装置1pは、吐出されるインク滴の明度及び用紙の種類の少なくとも一方に応じて、第1所定値(第2レベル選択の基準となる値)及び/又は用紙の第1部分(特定画像部分が形成される部分)に付与される処理液の量を、変更しなくてもよい。
【0092】
抽出条件は、上述の実施形態で挙げたものに限定されず、様々に変更可能である。例えば、制御装置1pは、用紙の種類によらず、同一の抽出条件にしたがって、特定画像部分を抽出してよい。つまり、複数種類の用紙に対する互いに異なる複数の抽出条件を設けなくてよい。制御装置1pは、片面記録及び両面記録のいずれであるかによらず、同一の抽出条件にしたがって、特定画像部分を抽出してよい。また、抽出条件とその優先度について、上述の実施形態で例示したものは単なる一例であって、様々に変更可能である。また、互いに異なる優先度に対応する複数の抽出条件を設けなくてよい。つまり、複数の抽出条件を優劣なし(同一優先度)で、或いは、単一の抽出条件のみを設けてよい。
【0093】
用紙の第2部分について、上述の実施形態では非特定画像部分が形成される部分であるとしているが、非特定画像部分の少なくとも一部が形成される部分であってよい。つまり、制限モード記録の第2レベルでは、非特定画像部分の少なくとも一部が形成される用紙の部分(第2部分)に付与される処理液の量を、制限すればよい。
【0094】
制限モード記録の第2レベルで用紙の第2部分(非特定画像部分の少なくとも一部が形成される部分)に付与される処理液の量、制限モード記録の第3レベルで用紙の第2部分及び第3部分(非優先特定画像部分が形成される部分)に付与される処理液の量は、ゼロであってよい。
【0095】
通常モード記録(S5)における、処理液の付与の仕方は、上述の実施形態のもの(用紙上の画像形成領域全体に所定密度で付与すること)に限定されず、様々に変更可能である。例えば、用紙上の画像形成領域全体に一様に(所定密度で)処理液を付与するのではなく、用紙上の画像形成領域を構成する各画素の形成部に対して、各画素に対するインク滴の吐出量に基づいて決定される量の処理液を、付与してよい。同様に、制限モード記録の第1〜第3レベルにおいて、用紙上の画像形成領域全体や各部分に所定の密度で処理液を付与するのではなく、用紙上の画像形成領域を構成する各画素の形成部に対して、各画素に対するインク滴の吐出量に基づいて決定される量の処理液を、付与してよい。このように、画素形成部毎に、インク滴の吐出量に基づいて処理液の付与量を決定することで、処理液の消費量を抑制することができる。
【0096】
図6のS2における、通常使用量の演算手法は、上述の実施形態のもの(ROM102に予め記憶されている用紙1枚あたりの平均使用量に基づいて演算を行うこと)に限定されず、様々に変更可能である。例えば、S1でRAM103に格納された画像データから得られる、各画素に対するインク滴の吐出量に基づいて、演算を行ってよい。この演算手法は、通常モード記録(S5)において、上記のように、用紙上の各画素形成部に対して各画素に対するインク滴の吐出量に基づいて決定される量の処理液を付与する場合に対応
する。図9のS31,S36における、第1レベル使用量及び第2レベル使用量の演算手法も、同様に、上述の実施形態のものに限定されず、様々に変更可能である。
【0097】
図6のS2を省略し、且つ、S4の通常使用量の値を上記の見込量(例えば、プリンタ1における当該処理液の消費履歴に基づいて、処理液のカートリッジ購入に必要な期間(例えば1週間)に消費されると推定される処理液の量)に置換してもよい。
【0098】
上述の実施形態では、制限モード記録に第1〜第3レベルを設けているが、第1レベル及び第3レベルは適宜省略可能である。
【0099】
本発明において、処理剤は、液体に限定されず、固体(例えばフィルム状のもの)を含む。また、処理剤は、前処理剤及び後処理剤の一方又は両方であってよい。つまり、上述の実施形態において、制御装置1pは、前処理液を吐出するプレコートヘッド40及び後処理液を吐出するポストコートヘッド50のそれぞれについて、制限モード記録等のモード選択に係る処理を行うが、プレコートヘッド40及びポストコートヘッド50のいずれか一方についてのみ、当該処理を行ってもよい。また、プリンタ1にプレコートヘッド40及びポストコートヘッド50のいずれか一方のみを設けてよい。
【0100】
インクジェットヘッド10及び処理剤付与部(プレコートヘッド40及びポストコートヘッド50)は、圧電式の他、静電式、サーマル式等のアクチュエータを有してよい。
【0101】
処理剤付与部として、上述の実施形態ではインクジェットヘッド10と同様の構成のヘッド40,50を例示したが、これに限定されない。例えば、処理剤付与部は、ヘッド40,50のように処理液を吐出するものの他、その表面に処理剤を保持しつつ当該表面を記録媒体に接触させることで処理剤を記録媒体に付与するローラ(圧着ローラ、熱転写ローラ等)であってもよい。
【0102】
本発明は、ライン式・シリアル式のいずれにも適用可能であり、また、プリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機等にも適用可能である。ヘッドは、インク滴以外の液滴を吐出してよい。
【0103】
記録媒体は、用紙Pに限定されず、記録可能な様々な媒体であってよい。
【符号の説明】
【0104】
1 インクジェット式プリンタ(液滴吐出装置)
1p 制御装置(画像データ記憶手段,抽出手段,付与制御手段,検出手段,第1判断手段,第2判断手段,第1抽出条件記憶手段,第2抽出条件記憶手段,変更手段)
10 インクジェットヘッド(ヘッド)
40 プレコートヘッド(処理剤付与部)
42,52 センサ(検出手段)
50 ポストコートヘッド(処理剤付与部)
P 用紙(記録媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に対して液滴を吐出するヘッドと、
前記記録媒体に処理剤を付与する処理剤付与部と、
前記ヘッドから吐出される液滴によって前記記録媒体上に形成される画像に係る画像データを記憶する画像データ記憶手段と、
前記画像データ記憶手段が記憶した画像データに基づいて、前記画像の一部を特定画像部分として抽出する抽出手段と、
前記特定画像部分が形成される前記記録媒体の第1部分、及び、前記画像のうち前記特定画像部分以外の非特定画像部分の少なくとも一部が形成される前記記録媒体の第2部分に、前記処理剤が付与されるよう、前記処理剤付与部を制御する付与制御手段と、
前記処理剤の残量を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された残量が第1所定値未満であるか否かを判断する第1判断手段とを備え、
前記付与制御手段は、前記第1判断手段により前記残量が前記第1所定値未満であると判断された場合に、前記第2部分に付与される前記処理剤の量が、前記残量が前記第1所定値以上の場合に前記第2部分に付与される前記処理剤の量よりも少なくなるように、前記処理剤付与部を制御し、
前記抽出手段は、複数の画素からなる画素領域を単位として、前記画像の縁に対応する画素領域を、前記特定画像部分として抽出することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記画像が線画像であることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記抽出手段による抽出条件として、複数種類の記録媒体に対する互いに異なる複数の条件を記憶する第2抽出条件記憶手段をさらに備え、
前記抽出手段は、前記第2抽出条件記憶手段を参照して前記記録媒体の種類に応じて前記特定画像部分を抽出することを特徴とする請求項1又は2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記付与制御手段は、前記第1判断手段により前記残量が前記第1所定値未満であると判断された場合に、前記第2部分に付与される前記処理剤の量が前記第1部分からの離隔距離に応じて漸進的に減少するように、前記処理剤付与部を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
記録媒体に対して液滴を吐出するヘッドと前記記録媒体に処理剤を付与する処理剤付与部とを含む液滴吐出装置を制御する制御装置であって、
前記ヘッドから吐出される液滴によって前記記録媒体上に形成される画像に係る画像データを記憶する画像データ記憶手段と、
前記画像データ記憶手段が記憶した画像データに基づいて、前記画像の一部を特定画像部分として抽出する抽出手段と、
前記特定画像部分が形成される前記記録媒体の第1部分、及び、前記画像のうち前記特定画像部分以外の非特定画像部分の少なくとも一部が形成される前記記録媒体の第2部分に、前記処理剤が付与されるよう、前記処理剤付与部を制御する付与制御手段と、
前記処理剤の残量を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された残量が第1所定値未満であるか否かを判断する第1判断手段とを備え、
前記付与制御手段は、前記第1判断手段により前記残量が前記第1所定値未満であると判断された場合に、前記第2部分に付与される前記処理剤の量が、前記残量が前記第1所定値以上の場合に前記第2部分に付与される前記処理剤の量よりも少なくなるように、前記処理剤付与部を制御し、
前記抽出手段は、複数の画素からなる画素領域を単位として、前記画像の縁に対応する画素領域を、前記特定画像部分として抽出することを特徴とする制御装置。
【請求項6】
記録媒体に対して液滴を吐出するヘッドと前記記録媒体に処理剤を付与する処理剤付与部とを含む液滴吐出装置を制御する制御装置を、
前記ヘッドから吐出される液滴によって前記記録媒体上に形成される画像に係る画像データを記憶する画像データ記憶手段、
前記画像データ記憶手段が記憶した画像データに基づいて、前記画像の一部を特定画像部分として抽出する抽出手段、
前記特定画像部分が形成される前記記録媒体の第1部分、及び、前記画像のうち前記特定画像部分以外の非特定画像部分の少なくとも一部が形成される前記記録媒体の第2部分に、前記処理剤が付与されるよう、前記処理剤付与部を制御する付与制御手段、
前記処理剤の残量を検出する検出手段、及び、
前記検出手段により検出された残量が第1所定値未満であるか否かを判断する第1判断手段、として機能させるプログラムであって、
前記付与制御手段は、前記第1判断手段により前記残量が前記第1所定値未満であると判断された場合に、前記第2部分に付与される前記処理剤の量が、前記残量が前記第1所定値以上の場合に前記第2部分に付与される前記処理剤の量よりも少なくなるように、前記処理剤付与部を制御し、
前記抽出手段は、複数の画素からなる画素領域を単位として、前記画像の縁に対応する画素領域を、前記特定画像部分として抽出することを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−136038(P2012−136038A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−92707(P2012−92707)
【出願日】平成24年4月16日(2012.4.16)
【分割の表示】特願2010−41623(P2010−41623)の分割
【原出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】