説明

液滴吐出装置

【課題】環境温度が変化しても各記録ヘッドユニットで位置決め固定された状態が維持される液滴吐出装置を得る。
【解決手段】スペーサ部材42の低剛性部132を伸縮させることで、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32の間の熱膨張(収縮)差を吸収することができるため、接着剤Uでは、該熱膨張(収縮)差による残留歪みは低減される。このため、接着剤Uの外れを防止し、各記録ヘッドユニット32を各々高精度に位置決め固定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液滴を吐出し記録媒体に画像を記録する液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドを記録媒体の搬送方向と交差する方向に移動させて逐次印字する走査方式(いわゆるPWA方式)の液滴吐出記録装置において、高速印字のためにノズル数を増加すると、記録ヘッドの質量も増加し記録ヘッドの走査機構への負荷が大きくなるため、多ノズル化に限界があった。また、記録ヘッドの往復走査の反転時に余分な走査距離(アイドルラン)が生じるため、高速化を図る上で不利になる。
【0003】
これらを解決する方法として、記録ヘッドを記録媒体の搬送方向と交差する方向に移動させず、被記録領域以上の幅の記録ヘッドで、1ライン以上を同時印字する走査方式(いわゆるFWA方式)が既に知られている。そして、多数のノズルを備えるラインヘッド(長尺ヘッド)は、一体/単一の記録ヘッドとして製造すると、歩留りが低下したり、高額な製造設備を必要とする(ex.大口径シリコンプロセス装置)等の問題がある。
【0004】
そこで、比較的ノズル数の少ない記録ヘッドユニットをライン状に複数個配設し、長尺化する技術が開示されている。例えば、特許文献1では、金属等のベースプレート上に、圧力発生素子が設けられた複数の素子基板をライン状に並べて接着固定し、この素子基板上にノズル及びインク流路を備えた支持部材を接合して長尺ヘッドを実現している。
【0005】
また、特許文献2では、ベースプレートを用いずに記録ヘッドユニットを並べて接合していく方式を採っている。この他、特許文献3では、フレームに記録ヘッドユニットを千鳥状配列した構造が開示されている。
【0006】
いずれの技術も、構成部品の中で最も歩留まりが低い素子基板をユニット分割して製造する(一括一体製造しない)方式であり、隣接ユニット同士を相互に高精度位置決め固定することが必須となる。
【0007】
このような記録ヘッドユニットを位置決めする方法としては、各記録ヘッドユニットの外形を基準とする方法、特別なアライメントマークを基準とする方法、実際に液滴を噴射するノズルを基準とする方法などを使用し、所定の位置にアライメントした後、接着剤等を使用してベースプレートに接合固定して長尺ヘッドを構成する。
【0008】
一方、こうして作製された長尺ヘッドが装着される液滴吐出記録装置内部では、液滴吐出記録装置の保管環境変化、使用中の周囲環境変化や液滴吐出記録装置内に存在するモーター等の発熱部品により、温度が変化する。
【特許文献1】特開平10−181004号公報
【特許文献2】特開2003−266710号公報
【特許文献3】特開2001−199074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事実を考慮して、環境温度が変化しても各記録ヘッドユニットで位置決め固定された状態が維持される液滴吐出装置を得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、液滴吐出装置において、ノズルから液滴を吐出する複数の液滴吐出ヘッドユニットと、前記複数の液滴吐出ヘッドユニットが配列され、該液滴吐出ヘッドユニットよりも熱膨張係数が小さく、両端部が支持される支持部材と、前記支持部材から前記液滴吐出ヘッドが配列された方向と交差する方向へ両側に張出し、前記液滴吐出ヘッドの両端部が固定される取付部材と、前記取付部材に設けられ、前記液滴吐出ヘッドと前記支持部材との熱膨張差により伸縮する伸縮手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の液滴吐出装置において、前記取付部材が、前記支持部材から張り出すようにして該支持部材に一体形成された取付片であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の液滴吐出装置において、前記取付部材が、前記支持部材から張り出すようにして該支持部材に固定された板材であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載の液滴吐出装置において、前記伸縮手段が、前記支持部材の両側から張り出した前記取付部材のうち、一方の取付部材に設けられたことを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか1項に記載の液滴吐出装置において、前記伸縮手段が、前記取付部材の他の部分よりも剛性が低い低剛性部であることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の液滴吐出装置において、前記低剛性部は、前記取付部材に貫通孔を形成して構成されたことを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載の液滴吐出装置において、前記低剛性部は、前記取付部材に切欠きを形成して構成されたことを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項5〜7の何れか1項に記載の液滴吐出装置において、前記低剛性部は、前記取付部材に形成され、他の部分よりも肉厚が薄い薄肉部であることを特徴とする。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項5〜8の何れか1項に記載の液滴吐出装置において、前記低剛性部は、前記取付部材に形成された蛇腹構造であることを特徴とする。
【0019】
請求項10に記載の発明は、請求項5〜9の何れか1項に記載の液滴吐出装置において、前記液滴吐出ヘッドの剛性に対して前記低剛性部の剛性が5倍以下であることを特徴とする。
【0020】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜4の何れか1項に記載の液滴吐出装置において、前記取付手段が、前記支持部材に固定される基部と、前記記録ヘッドユニットが固定される自由端部と、に分割され、前記伸縮部材が、前記基部と前記自由端部とを連結するバネ手段であることを特徴とする。
【0021】
請求項12に記載の発明は、請求項1〜4の何れか1項に記載の液滴吐出装置において、前記取付手段が、前記支持部材に固定される基部と、前記記録ヘッドユニットが固定される自由端部と、に分割され、前記伸縮部材が、前記基部に対して前記自由端部をスライド可能に係合させる嵌め合い構造であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1〜3に記載の発明では、支持部材と液滴吐出ヘッドの温度変化による伸縮差を伸縮手段で吸収することができ、環境温度が変化しても各記録ヘッドユニットで支持部材に位置決め固定された状態が維持される。
【0023】
請求項4に記載の発明では、温度変化による液滴吐出ヘッドの変動方向が一定となる。
【0024】
請求項5〜10に記載の発明では、取付部材に低剛性部を設けることで、該低剛性部を変形させ、伸縮させることができる。
【0025】
請求項11に記載の発明では、バネ手段によって取付部材の自由端部を伸縮させることができる。
【0026】
請求項12に記載の発明では、嵌め合い構造によって取付部材の自由端部をスライドさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る液滴吐出装置としてのインクジェット記録装置について説明する。
【0028】
(第1実施形態)
図1には、本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録装置が示されている。
【0029】
図1に示すように、インクジェット記録装置10は、用紙Pをストックすると共に画像記録時に送り出す用紙供給部12、用紙供給部12から送り込まれた用紙Pの姿勢を制御して記録ヘッド部16に送り出すレジ調整部14、レジ調整部14から送り込まれた用紙Pに対しインク滴を吐出して画像を記録する記録ヘッド部16、及び、記録ヘッド部16のメンテナンスを行なうメンテナンス部18を備えた記録部20、記録部20で画像記録された用紙Pが排出される排出部22によって基本構成されている。
【0030】
用紙供給部12には、複数枚の用紙Pが積層されてストックされるストッカ24と、ストッカ24から1枚ずつ枚葉してレジ調整部14に搬送する搬送装置26とが設けられている。
【0031】
レジ調整部14には、ループ形成部28と、用紙の姿勢を制御するガイド部材29とが設けられており、用紙供給部12から送り込まれた用紙Pは、これらのループ形成部28及びガイド部材29を通過することにより、用紙Pのコシを利用してスキューが矯正されると共に搬送タイミングが制御されて記録部20に送り込まれる。
【0032】
記録部20では、上下に対向する記録ヘッド部16とメンテナンス部18が設けられており、それらの間には、レジ調整部14から送り込まれた用紙Pが搬送される用紙搬送路が構成されている。記録ヘッド部16には、用紙搬送路に沿って所定の間隔で配列された複数のインクジェット記録ヘッド30が設けられており、用紙搬送路における各インクジェット記録ヘッド30の上流側と下流側には、上下に対向するスターホイール17と搬送ロール19が複数対設けられている。
【0033】
用紙Pは、これらのスターホイール17と搬送ロール19に挟持されつつ用紙搬送路を連続的に(停止することなく)搬送され、記録ヘッド部16の各インクジェット記録ヘッド30からインク滴が吐出されることにより画像が記録される。そして、排出部22では、記録部20で画像記録された用紙Pが排紙ベルト23により搬送されてトレイ25に収納される。
【0034】
メンテナンス部18は、インクジェット記録ヘッド30に対して対向配置されるメンテナンス装置21を有しており、インクジェット記録ヘッド30に対するキャッピングや、ワイピング、更には、予備吐出や吸引等の処理を行う。
【0035】
次に、このインクジェット記録装置10に搭載されたインクジェット記録ヘッド30について詳細に説明する。
【0036】
図2及び図3(A)、(B)に示すように(なお、図3(A)、(B)は図2の概念図である)、インクジェット記録ヘッド30は、紙送り方向Xと直交する方向(紙幅方向Y)に沿って配列された、複数の記録ヘッドユニット32を備えている。
【0037】
図3(B)に示すように、記録ヘッドユニット32には、紙幅方向Yに沿ってライン状に複数のノズル74が形成されており、記録ヘッドユニット32は、上記の用紙搬送路を連続的に搬送される用紙Pに対し、ノズル74からインク滴を吐出することで、用紙P上に画像を記録する。
【0038】
なお、インクジェット記録装置10に搭載されたこのインクジェット記録ヘッド30は、例えば、いわゆるフルカラーの画像を記録するために、YMCKの各色に対応して、少なくとも4つ配置されている。
【0039】
そして、図4に示すように、1つのインクジェット記録ヘッド30にライン状に形成されたノズル74による印字領域幅は、このインクジェット記録装置10での画像記録が想定される用紙Pの用紙最大幅PWよりも長くされており、インクジェット記録ヘッド30を紙幅方向Yに移動させることなく用紙Pの全幅にわたる画像記録が可能とされている(いわゆるFull Width Array(FWA))。
【0040】
ここで、印字領域とは、用紙Pの両端から印字しないマージンを引いた記録領域のうち最大のものが基本となるが、一般的には印字対象となる用紙最大幅PWよりも大きくとっている。これは、用紙が搬送方向に対して所定角度傾斜して(スキューして)搬送されるおそれがあること、また縁無し印字の要請が高いためである。
【0041】
このインクジェット記録ヘッド30は、図2及び図3(A)、(B)に示すように、支持部材40と、該支持部材40の長手方向に沿って配列された複数の記録ヘッドユニット32と、を含んで構成されている。
【0042】
支持部材40は、アルミニウムで形成されており(材料は高熱伝導材料であることが好ましく、アルミニウム以外にも、ステンレス、銅、チタン等の金属材料、高熱伝導性樹脂などを用いても良い)、紙幅方向Yに長尺とされている。また、支持部材40の長手方向の両端部には、一対の取付板41が設けられており、この一対の取付板41がインクジェット記録装置10のフレーム(図示省略)に取り付けられる。
【0043】
さらに、支持部材40の幅方向の中央部には、支持部材40の長手方向に沿って所定の間隔で複数の開口部40Aが形成されており、該開口部40A内には、図示しないインクタンクから記録ヘッドユニット32へインクを供給するインク供給ユニット44が配置され、インクタンク中継チューブ(図示省略)を通じてインク供給ユニット44内にインクが供給されるようになっている。
【0044】
また、支持部材40の長手方向に沿った両側壁には、各記録ヘッドユニット32が固定される、断面が略L字状の一対の板状のスペーサ部材(中間部材)42が固定され、支持部材40の幅方向に沿って支持部材40の側壁から張り出している。このスペーサ部材42は、ねじ46により2箇所で支持部材40にねじ止めされ、該支持部材40から取り外し可能とされている。
【0045】
また、各記録ヘッドユニット32と対応する一対のスペーサ部材42は、互いに離間した状態で配置され、スペーサ部材42とスペーサ部材42の間には、インク供給ユニット44が配置される。
【0046】
このように、2個のスペーサ部材42を、互いに離間して配置することにより、スペーサ部材42自体にインク供給用の流路を設ける必要はなく、離間部分にインク供給ユニット44を配置でき、インク供給経路を確保することが可能となる。更には、スペーサ部材42にインク供給経路を形成する必要が無いため、耐インク性を考慮しない材料選定が可能となり、スペーサ部材42に使用する材料選定に自由度が得られる。
【0047】
なお、ここでは各記録ヘッドユニット32毎に互いに離間した2個のスペーサ部材を使用する場合を記載したが、この形態に限られるものではなく、例えば、1個のスペーサ部材を用い、インク供給ユニット44を配置する部分に貫通孔を形成する形態でも良い。
【0048】
一方、図5及び図6(A)に示すように、スペーサ部材42の自由端側の裏面には、UV(紫外線)硬化型の接着剤Uが接着される接着領域129が設けられている。そして、接着剤Uが塗布された記録ヘッドユニット32が該接着領域129に接着されることで、記録ヘッドユニット32がスペーサ部材42に固定される。
【0049】
ここで、記録ヘッドユニット32とスペーサ部材42との間には、接着剤Uの厚み分のギャップGが構成されるが、このギャップGを調整することにより、複数の記録ヘッドユニット32のノズル面52Aの高さがそろえられる。
【0050】
また、スペーサ部材42の接着領域129の内側(スペーサ部材42の張出し方向の中央部)には、複数の矩形状の貫通孔130がスペーサ部材42の幅方向に沿って互い違いとなるように千鳥状に配置された低剛性部132が設けられており、スペーサ部材42の他の部分(スペーサ部材42の自由端側及び基部側)よりも剛性が低くなっている。
【0051】
ところで、図7(A)、(B)に示すように、記録ヘッドユニット32は、インク供給中継部材50及びヘッド基板(素子基板)52で構成されている。インク供給中継部材50は、スペーサ部材42側に配置され、内部には、インク供給ユニット44と繋がって各ノズル74(図8参照)へインクを供給する個別供給路50Aが形成されている。
【0052】
図8に示すように、ヘッド基板52には、ノズルプレート72が備えられており、該ノズルプレート72にはインク滴を吐出するノズル74が紙幅方向Yに1列に形成されている(図3(B)参照)。そして、このノズル74が形成されているノズルプレート72の表面がノズル面52Aであり、ノズル面52Aには撥液化処理がなされている。
【0053】
なお、ここではヘッド基板52にノズルを紙幅方向Yに1列に形成した例を挙げたが、この形態に限らない。例えば高画質化や高速化の為、ヘッド基板52に紙幅方向Y及び紙送り方向Xの2次元平面にマトリックス配列状となるようにノズルを形成しても良い。
【0054】
ノズルプレート72の上面には、下から順に、連通孔プレート76、ダンパ部材78、プールプレート80,82,84、連通孔プレート86、流路プレート88、90、圧力室プレート92、振動板94が積層されており、連通孔プレート76には、ノズル74と通じる連通孔96が形成され、ダンパ部材78には連通孔98が形成されている。
【0055】
また、プールプレート80,82,84には、連通孔100,102,104がそれぞれ形成され、連通孔プレート86には連通孔106が形成されている。更に、流路プレート88には連通孔108が形成され、流路プレート90には連通孔110が形成されている。これらのノズル74及び連通孔96,98,100,102,104,106,108,110はそれぞれ連通し、圧力室プレート92に形成された圧力室112に繋がっている。
【0056】
一方、連通孔プレート76には、ダンパ部材78の下部に空洞部114が形成されている。プールプレート80,82,84には、それぞれインクプール116,118,120が形成され、図示しないインク供給ユニットからインク供給孔(図示省略)を経て供給されたインクが貯留されている。また、連通孔プレート86には供給孔122が形成され、流路プレート88にはインク流路124、流路プレート90には供給孔126がそれぞれ形成されている。
【0057】
そして、これらのインクプール116,118,120と、供給孔122と、インク流路124と、供給孔126及び圧力室112は互いに連通しており、インクプール116,118,120から圧力室112内へインクが供給される。
【0058】
また、振動板94の上部には、個々のノズル74と連通する各圧力室112の上方にそれぞれ圧電素子128が取り付けられており、圧電素子128の上部に接合されたフレキシブル配線基板(図示省略)から駆動電圧が印加されるように構成されている。
【0059】
そして、圧電素子128に駆動電圧が印加されると、圧電素子128の撓み変形によって振動板94が上下方向に変形し、圧力室112内に充填されたインクが加圧されて、ノズル74からインク滴が吐出する。
【0060】
次に、本発明の実施形態に係る記録ヘッドユニット32の製造方法を説明する。
【0061】
まず、必要な厚さに加工した板状の圧電体(厚さ約30μm)の両面に電極層を成膜する。つぎに、成膜した電極層及び圧電体の断面が露出し各ノズル74(圧力室112)に対応するように、ブラスト法やダイシング法等の手段により圧電体を個別化し、圧電素子128(図8参照)を形成する。
【0062】
そして、接着等の手段により、図8に示すノズルプレート72,連通孔プレート76,ダンパ部材78、プールプレート80,82,84、連通孔プレート86,流路プレート88,90、圧力室プレート92及び振動板94を接合し、該振動板94に圧電素子128を接合する。さらに、圧電素子128の高電位印加面側電極上(図8では上面)に半田接合等の電気接点を介してフレキシブル配線基板を接続する。
【0063】
そして、インクタンクから供給されるインクをインクプール116,118,120に供給する為のインク供給中継部材50及びインク供給ユニット44(図2参照)を取り付ける。以上により、記録ヘッドユニット32が完成する。
【0064】
次に、各記録ヘッドユニット32にUV硬化型接着剤Uを塗布し、支持部材40に設けられたスペーサ部材42に記録ヘッドユニット32を密着させる。この状態で、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32の間にUV光を照射し、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32とで位置精度を保ったまま接着剤Uを硬化させて記録ヘッドユニット32をスペーサ部材42に固定する。なお、必要に応じて、補強用接着剤を塗布し硬化させても良い。
【0065】
次に本実施形態のインクジェット記録装置10の作用について説明する。
【0066】
図1に示すインクジェット記録装置10に印字ジョブが入力されて印字(画像記録)動作が開始されると、ストッカ24から用紙Pが1枚ピックアップされ、搬送装置26により、記録部20へ搬送される。
【0067】
一方、インクジェット記録ヘッド30には、すでにインクタンクからインク供給ポートを介して記録ヘッドユニット32の個別供給路50A(図7(A)参照)にインクが注入(充填)されている。このとき、ノズル74(図8参照)の先端(吐出口)では、インクの表面が僅かに凹んだメニスカスが形成されている。
【0068】
用紙Pを所定の搬送速度で搬送しつつ、記録ヘッドユニット32の複数のノズル74から選択的にインク滴を吐出することにより、用紙Pに、画像データに基づく画像を記録する。
【0069】
ところで、本実施形態では、図5及び図6(A)に示すように、スペーサ部材42に矩形状の貫通孔130を複数形成してスペーサ部材42の他の部分よりも剛性の低い低剛性部132を設けている。
【0070】
ここで、支持部材40及びスペーサ部材42は金属で形成されるが、記録ヘッドユニット32は樹脂と金属の複合体で形成される。金属と樹脂とでは、熱膨張係数が異なるため、温度上昇により、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32が熱膨張すると、図9(A)、(B)に示すように、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32との間に生じる熱膨張差により、接着剤Uには、記録ヘッドユニット32を介して外側(矢印方向)へ向かう引張り応力Fが作用する。
【0071】
次に、温度が下降すると(常温に戻るとき)、図9(C)に示すように、スペーサ部材42及び記録ヘッドユニット32は元の状態に戻ろうとするため、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32との間に生じる収縮差により、接着剤Uには、内側(矢印方向)へ向かう応力F’が作用することとなるが、該接着剤Uには、いわゆる残留応力として引張り応力Fが残存しているため、該引張り応力Fと逆方向の応力F’(なお、説明の便宜上、以下、「圧縮応力F’」という)が作用することとなる(いわゆる不可逆的な変形)。
【0072】
このため、温度変化が繰り返されると、図10(A)、(B)に示すように、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32の相対位置関係がずれたり、図10(C)に示すように、接着剤Uが記録ヘッドユニット32から剥離し、記録ヘッドユニット32がスペーサ部材42から外れたりすることが懸念される。
【0073】
したがって、本実施形態では、図5及び図6(A)に示すように、記録ヘッドユニット32を固定するスペーサ部材42に複数の貫通孔130を形成することで、該貫通孔130を形成しない場合と比較してスペーサ部材42の剛性を低くしている。これにより、スペーサ部材42を変形し易くさせる。
【0074】
温度上昇により、図9(A)、(B)に示すように、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32との間で生じる熱膨張差によって、接着剤Uを介して、スペーサ部材42に引張り応力Fが作用すると、図6(A)、(B)に示すように、該接着剤Uを介して、低剛性部132が記録ヘッドユニット32の変形に追従して伸長する。
【0075】
これにより、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32との間で生じた熱膨張差は小さくなり、該引張り応力Fは吸収される(低減される)。ここで、低剛性部132の変形は低剛性部132の弾性変形領域内とする。
【0076】
次に、温度が常温に戻るとき、図9(B)、(C)に示すように、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32との間で生じる収縮差によって、接着剤Uを介して、スペーサ部材42には、圧縮応力F’が作用するが、該接着剤Uを介して、低剛性部132が記録ヘッドユニット32の変形に追従して収縮する。これにより、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32との間で生じた収縮差は小さくなり、該圧縮応力F’は吸収される(低減される)。
【0077】
このように、スペーサ部材42の低剛性部132を伸縮させることで、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32の間の熱膨張(収縮)差を吸収することができるため、接着剤Uでは、該熱膨張(収縮)差による残留歪みは低減される。このため、接着剤Uの外れを防止し、各記録ヘッドユニット32を各々高精度に位置決め固定することができる。
【0078】
ここで、図11(A)、(B)に示すように、異なる材料1、2で構成される2層モデルを考える。なお、式が複雑になるので、長さLの垂直方向の変位は無視する。
【0079】
材料1,2が互いにフリー状態の場合、全体に温度差ΔTを与えると、材料1,2の長さL1’ ,L2’はそれぞれ以下のようになる。
【0080】
L1’=L1+ΔL1・・・(1)
L2’=L2+ΔL2・・・(2)
ここで、材料1,2の熱膨張係数をそれぞれα1,α2とすると、以下のようになる。
【0081】
ΔL1=α1×L1×ΔT=α1×L2×(L1/L2)×ΔT・・・(3)
ΔL2=α2×L2×ΔT・・・(4)
材料1と材料2が接着している状態で、温度差ΔTを与えた場合、
L1’+ΔL1’+(L2−L1)=L2’−ΔL2’ ・・・(5)
となり、(5)式に(1)〜(4)式を代入すると、
ΔL1’+ΔL2’=L2’−L1’−(L2−L1)
=L2+ ΔL2−(L1+ΔL1)−(L2−L1)
=α2×L2×ΔT−α1×L2×(L1/L2)×ΔT
={α2−(L1/L2)α1}×L2×ΔT・・・(6)
となる。この(6)式の両辺をL2で割ると、
(ΔL1’/L2)+(ΔL2’/L2)={α2−(L1/L2)α1}×ΔT・・・(7)
となる。ここで、このときの材料1,2の歪みをε1,ε2とすると、
ε1=ΔL1’/L1=ΔL1’/{L2×(L1/L2)}
従って、
ΔL1’/L2=(L1/L2)×ε1・・・(8)
ε2= ΔL2’/L2 ・・・(9)
であり、(7)〜(9)式から、以下のようになる。
【0082】
(L1/L2)×ε1+ε2={α2−(L1/L2)α1}×ΔT・・・(10)
一方、材料1,2で発生する応力F1,F2は、材料1,2のヤング率をE1,E2、厚さをt1,t2とすると
F1=E1×ε1×t1・・・(11)
F2=E2×ε2×t2 ・・・(12)
となる。
【0083】
F1=F2 ・・・(13)
なので、(11)〜(13)式より、
E1×ε1×t1=E2×ε2×t2 ・・・(14)
となる。ここで(10)式から、
ε2={α2−(L1/L2)α1}×ΔT−(L1/L2)×ε1
となる。これを(14)式に代入すると、
E1×ε1×t1
=E2×ε2×t2
=E2×t2×{α2−(L1/L2)α1}×ΔT−E2×t2×(L1/L2)×ε1
よって、
{E1×t1+E2×t2×(L1/L2)}×ε1
=E2×t2×{α2−(L1/L2)α1}×ΔT
すなわち、
ε1={E2×t2×{α2−(L1/L2)α1}×ΔT}/{E1×t1+E2×t2×(L1/L2)} ・・・(15)
となり、(15)式を(11)式に代入すると、
F=F1=F2=E1×ε1×t1
=E1×t1×{E2×t2×{α2−(L1/L2)α1}×ΔT}/{E1×t1×+ E2×t2×(L1/L2)}
となる。すなわち、
【0084】
【数1】

ここで、スペーサ部材42の幅L1を15mmとし、厚みをt1とする。このスペーサ部材42のヤング率E1は70GPaであり、熱膨張係数α1は24ppmである。また、記録ヘッドユニット32の幅L1を22.5mmとし、厚みt2を10mmとする。この記録ヘッドユニット32のヤング率E2は1.44GPa(=2.25Gpa×体積占有率0.64)であり、熱膨張係数α2は80ppmである。
【0085】
そして、(16)式から記録ヘッドユニット32の剛性(E2t2)に対するスペーサ部材42の剛性(E1t1)の割合、いわゆる剛性比率(E1t1/E2t2)と、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32の熱膨張差による接着剤Uへの引張り応力Fとの関係を図12に示す。
【0086】
図12に示すように、スペーサ部材42の厚みt1を変え(スペーサ部材42の剛性を変え)、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32の剛性比率(E1t1/E2t2)と該接着剤Uへの引張り応力Fとの関係から、該剛性比率(E1t1/E2t2)が5以下で急激に引張り応力Fが低下し、該引張り応力Fの発生が小さくなることが分かる。
【0087】
つまり、記録ヘッドユニット32の剛性に対してスペーサ部材42の剛性を5倍以下とすることで、接着剤Uを介して、スペーサ部材42が記録ヘッドユニット32の変形に追従して伸長し、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32との間で生じた熱膨張差を小さくすることができ、引張り応力Fは低減されることとなる。
【0088】
なお、スペーサ部材42の低剛性部132の剛性を記録ヘッドユニット32の剛性に近づければ良いため、記録ヘッドユニット32とスペーサ部材42の低剛性部132の剛性比率が約1倍であることが好ましい。
【0089】
また、図13には、スペーサ部材42の厚みt1を0.5mm、1.0mm、2.0mm、3.0mm、5.0mmとし、各スペーサ部材42において、スペーサ部材42の張出し方向に沿った全体面積(S1)に対する貫通孔130が形成されていない部分の面積の割合(なお、貫通孔130が形成されている部分の面積(S2))、いわゆる面積比率((S1−S2)/S1)と、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32の熱膨張差による接着剤Uへの引張り応力Fとの関係が示されている。
【0090】
これによると、スペーサ部材42の厚みt1に応じてスペーサ部材42の貫通孔130の面積を設定することで、引張り応力Fを低下させるに十分なスペーサ部材42の剛性を選択することができる。
【0091】
なお、本実施形態では、図5に示すように、スペーサ部材42の張出し方向の中央部に矩形状の貫通孔130を複数形成してスペーサ部材42の自由端側及び基部側よりも剛性の低い低剛性部132を設けたが、スペーサ部材42に該低剛性部132を設けることができれば良いため、これに限るものではない。
【0092】
例えば、図14及び図15(A)、(B)に示すように、スペーサ部材134の張出し方向(支持部材40の幅方向)の中央部の表面と裏面に、スペーサ部材134の幅方向(支持部材40の長手方向)に沿って延出する凹部136、138を形成し、該凹部136、138をスペーサ部材42の張出し方向に沿って交互に配置する、いわゆる蛇腹構造の低剛性部140を形成しても良い。
【0093】
これによると、図15(A)、(B)に示すように、温度上昇により、スペーサ部材134及び記録ヘッドユニット32が熱膨張すると、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32との熱膨張差によって、接着剤Uを介して、スペーサ部材42には引張り応力Fが作用する。
【0094】
このため、該接着剤Uを介して、記録ヘッドユニット32の変形に追従して低剛性部140の凹部136、138の入口側が広がり、該低剛性部140が伸長する。これにより、スペーサ部材134と記録ヘッドユニット32との間に生じた熱膨張差が小さくなり、該引張り応力Fは低減される。
【0095】
そして、温度が常温に戻るとき、スペーサ部材134及び記録ヘッドユニット32が収縮すると、スペーサ部材134と記録ヘッドユニット32との収縮差によって、接着剤Uを介して、スペーサ部材134には、圧縮応力F’が作用する。
【0096】
このため、該接着剤Uを介して、記録ヘッドユニット32の変形に追従して低剛性部140の凹部136、138の入口側が復元し、該低剛性部140が収縮するため、スペーサ部材42と記録ヘッドユニット32との間に生じた収縮差が小さくなり、該圧縮応力F’は低減される。
【0097】
また、本実施形態では、図2に示すように、支持部材40の長手方向に沿った側壁に記録ヘッドユニット32毎にスペーサ部材42を設け、該スペーサ部材42に各記録ヘッドユニット32を接着固定するようにしたが、このスペーサ部材42は必ずしも必要ではない。
【0098】
例えば、図16及び図17(A)、(B)に示すように、支持部材40の長手方向の側壁下部から薄肉のフランジ142を延出させ、該フランジ142に複数の矩形状の貫通孔144を形成して低剛性部146を設け、フランジ142の自由端側に各記録ヘッドユニット32を接着固定しても良い。
【0099】
図17(A)、(B)に示すように、温度上昇により、フランジ142及び記録ヘッドユニット32が熱膨張すると、フランジ142と記録ヘッドユニット32との熱膨張差によって、接着剤Uを介して、フランジ142には引張り応力Fが作用するため、該接着剤Uを介して、低剛性部146が記録ヘッドユニット32の変形に追従して伸長する。これにより、フランジ142と記録ヘッドユニット32との間に生じた熱膨張差が小さくなり、該引張り応力Fは低減される。
【0100】
また、温度が常温に戻るとき、フランジ142及び記録ヘッドユニット32が収縮すると、フランジ142と記録ヘッドユニット32との収縮差によって、接着剤Uを介して、フランジ142には圧縮応力F’が作用するため、該接着剤Uを介して、低剛性部146が記録ヘッドユニット32の変形に追従して収縮する。これにより、フランジ142と記録ヘッドユニット32との間に生じた収縮差が小さくなり、該圧縮応力F’は低減される。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の要旨について説明する。なお、第1実施形態と略同一の内容については説明を省略する。
【0101】
本実施形態では、図18〜図20(A)、(B)に示すように、スペーサ部材148の接着領域129の内側に、スペーサ部材148の幅方向に沿った両側に切欠き部150が設けられ、切欠き部150と切欠き部150の間には、菱形形状(平行四辺形)の貫通孔152が複数形成された低剛性部154が設けられている。
【0102】
このように、スペーサ部材148の幅方向に切欠き部150を設けることで、該切欠き部150が形成されていない場合と比較して、低剛性部154の剛性をさらに低くすることができる。
【0103】
また、貫通孔152を菱形とすることで、貫通孔152と貫通孔152を繋ぐ桟156は、後述する引張り応力Fに対して、角度を持った状態となる。このため、図5に示すように、貫通孔130を矩形状にした場合と比較して、引張り応力Fに対して突っ張る方向(引張り応力Fに対して直交する方向)への応力が作用しない分、貫通孔152が変形し易くなる。つまり、低剛性部154が伸縮し易くなる。
【0104】
なお、ここでは、低剛性部154に切欠き部150を設け、切欠き部150と切欠き部150の間に菱形形状の貫通孔152を複数形成したが、図21に示すように、矩形状の貫通孔130を複数設けても良い。前述したように、菱形形状の貫通孔152と矩形状の貫通孔130とを比較した場合、矩形状の貫通孔130の方が、菱形形状の貫通孔152よりも変形し難いため、貫通孔130を矩形状にする場合は、図22(A)、(B)に示すように、低剛性部155を薄肉にしても良い。これにより、低剛性部155の剛性が低くなり、低剛性部155が変形し易くなる。
【0105】
また、ここでは、図19に示すように、低剛性部154として複数の貫通孔152を形成したが、スペーサ部材148に低剛性部154を設け、該低剛性部154を伸縮させることができれば良いため、必ずしも貫通孔152である必要はない。これは第1実施形態も同様である。
【0106】
例えば、図23及び図24に示すように、スペーサ部材158の表面と裏面に、スペーサ部材158の張出し方向に沿って交互に凹部160、162が形成された低剛性部164を形成する。
【0107】
図24(A)、(B)に示すように、温度上昇により、スペーサ部材158及び記録ヘッドユニット32が熱膨張すると、スペーサ部材158と記録ヘッドユニット32との熱膨張差によって、接着剤Uを介して、スペーサ部材158には矢印方向への引張り応力Fが作用する。
【0108】
これにより、該接着剤Uを介して、記録ヘッドユニット32の変形に追従して低剛性部164の凹部160、162の入口側が広がり、低剛性部164が伸長する。このため、スペーサ部材158と記録ヘッドユニット32との熱膨張差は小さくなり、該引張り応力Fは低減される。
【0109】
そして、温度が常温に戻るとき、スペーサ部材158及び記録ヘッドユニット32が収縮すると、スペーサ部材158と記録ヘッドユニット32との収縮差によって、接着剤Uを介して、スペーサ部材158には圧縮応力F’が作用する。
【0110】
これにより、該接着剤Uを介して、記録ヘッドユニット32の変形に追従して低剛性部164の凹部160、162の入口側が復元して低剛性部164が収縮する。このため、スペーサ部材158と記録ヘッドユニット32との収縮差は小さくなり、該圧縮応力F’は低減される。
【0111】
以上これらの実施形態では、支持部材40の幅方向に沿って記録ヘッドユニット32が配置されたものについて説明したが、図25に示すように、支持部材40の幅方向に対して角度を設けた状態で記録ヘッドユニット166を配置しても良い。
【0112】
この場合、図25及び図26(A)、(B)に示すように、温度上昇により、スペーサ部材158及び記録ヘッドユニット166が熱膨張すると、スペーサ部材158と記録ヘッドユニット166との間に生じる熱膨張差によって、接着剤Uを介して、スペーサ部材158には矢印方向への引張り応力Fが作用する。また、記録ヘッドユニット166は、重心Gを通る直線Pに対して非対称であるため、記録ヘッドユニット166には、重心G周りに、矢印方向へのモーメントMが発生することとなる。
【0113】
つまり、スペーサ部材158と記録ヘッドユニット166との間に生じる熱膨張差によって、接着剤Uには、記録ヘッドユニット166による引張り応力FとモーメントMによってXY方向の応力が作用することとなる。低剛性部154を構成する貫通孔152は菱形形状であるため、該貫通孔152は略同一の応力によってX方向及びY方向への変形が可能である。
【0114】
このため、該接着剤Uを介して、低剛性部154が記録ヘッドユニット166の変形に追従してXY方向に伸長することとなり、スペーサ部材158と記録ヘッドユニット166との間に生じた熱膨張差は小さくなり、該引張り応力F及びモーメントMによるXY方向の応力は低減される。
【0115】
そして、温度が常温に戻るとき、スペーサ部材158及び記録ヘッドユニット166が収縮すると、スペーサ部材158と記録ヘッドユニット166との間に生じる収縮差によって、接着剤Uを介して、スペーサ部材158には、圧縮応力F’及びモーメントMと反対方向のモーメントによりXY方向の応力が作用することとなる。
【0116】
このため、該接着剤Uを介して、低剛性部154が記録ヘッドユニット166の変形に追従してXY方向に収縮するため、スペーサ部材158と記録ヘッドユニット166との間に生じた熱膨張差は小さくなり、該圧縮応力F’ 及びモーメントMと反対方向のモーメントによるXY方向の応力は削減される。
【0117】
つまり、支持部材40の幅方向に対して角度を設けた状態で配置された記録ヘッドユニット166の場合、低剛性部154は一方向(Y方向)の伸縮だけでなく、XY方向に弾性効果を持たせ伸縮させるようにすることで、不可逆的なずれを抑止でき、常温での位置精度が確保される。
【0118】
また、これらの実施形態では、スペーサ部材42、148、158の張出し方向の中央部に貫通孔130、156を設けたり、凹部160、162を設けたり等して低剛性部132、154、164を形成し、貫通孔130、156、凹部160、162を変形させて該低剛性部132、154、164を伸縮させたが、スペーサ部材42、148、158が伸縮可能であれば良いため、これらに限るものではない。
【0119】
例えば、図27及び図28(A)、(B)に示すように、スペーサ部材168を、記録ヘッドユニット32が固定される自由端部168A側と、支持部材40に固定される基部168B側と、に分割し、スペーサ部材168の中央部にバネ部材170を配設する。そして、このバネ部材170によって、スペーサ部材168の自由端部168A側と基部168B側とを連結し、該バネ部材170の伸縮によって、スペーサ部材168を伸縮させるようにしても良い。
【0120】
また、図29及び図30(A)、(B)に示すように、スペーサ部材172の張出し方向に沿って移動するスライド部材174をスペーサ部材172に設け、該スライド部材174に記録ヘッドユニット32を固定させるようにしても良い。
【0121】
図30(C)に示すように、スペーサ部材172には、スペーサ部材172の張出し方向に沿って、断面が逆三角形状の溝部172Aが形成され、スライド部材174には該溝部172A内で摺動可能なスライド突起174Aが突設され、該スライド突起174Aが溝部172A内に装着された状態(嵌め合い構造)で、スライド部材174はスペーサ部材172と一体になり、落下止めされる。
【0122】
ここで、スライド突起174Aと溝部172Aとの嵌め合い状態の変動を防止するため、スライド部材174に作用する応力を一方向にする。つまり、支持部材40の幅方向に沿って記録ヘッドユニット32を配置した方が良い。
【0123】
また、スライド部材174には、一端部が支持部材40に取付けられた引張りバネ176が配設され、スライド部材174を支持部材40側へ付勢する。一方、スペーサ部材172にはストッパ部178が設けられ、スライド部材174の移動を規制する。
【0124】
図30(A)、(B)に示すように、温度上昇により、記録ヘッドユニット32が熱膨張すると、スペーサ部材172と記録ヘッドユニット32との間に生じる熱膨張差によって、接着剤Uを介して、スライド部材174には矢印方向への引張り応力Fが作用する。
【0125】
これにより、該接着剤Uを介して、記録ヘッドユニット32の変形に追従して引張りバネ176の付勢力の抗する方向へスライド部材174が移動する。このため、記録ヘッドユニット32とスライド部材174との間に生じた熱膨張差は小さくなり、該引張り応力Fは低減される。
【0126】
次に、温度が常温に戻るとき、記録ヘッドユニット32が収縮すると、スペーサ部材172と記録ヘッドユニット32との間に生じる収縮差によって、接着剤Uを介して、スライド部材174には、圧縮応力F’が作用する。
【0127】
これにより、該接着剤Uを介して、記録ヘッドユニット32の変形に追従して引張りバネ176が復元し、スライド部材174が移動する。このため、記録ヘッドユニット32とスライド部材174との間に生じた収縮差は小さくなり、該引張り応力Fは低減される。なお、引張りバネ176は必ずしも必要ではない。
【0128】
また、これ以外にも、図31及び図32(A)、(B)に示すように、一体成形等によりスペーサ部材180の接着領域129に、記録ヘッドユニット32と同じ材質の樹脂部182をスペーサ部材180の裏面側に一体に設ける。
【0129】
温度上昇により、記録ヘッドユニット32が熱膨張しても、該樹脂部182は記録ヘッドユニット32と同じように熱膨張するため、樹脂部182と記録ヘッドユニット32との間に生じる熱膨張差は、スペーサ部材180と記録ヘッドユニット32との間に生じる熱膨張差に比べると小さく、接着剤Uを介して樹脂部182に作用する引張り応力Fは小さくなる。
【0130】
そして、温度が常温に戻るとき、記録ヘッドユニット32が収縮すると、該樹脂部182が記録ヘッドユニット32と同じように収縮するため、樹脂部182と記録ヘッドユニット32との間に生じる収縮差は、スペーサ部材180と記録ヘッドユニット32との間に生じる収縮差に比べると小さく、接着剤Uを介して樹脂部182に作用する圧縮応力F’は小さくなる。
【0131】
なお、これらの実施形態では、各スペーサ部材172に低剛性部132を設けたが、例えば、図33及び図34(A)、(B)に示すように、一対のスペーサ部材184のうち、どちらか一方のスペーサ部材184Aのみに低剛性部186を設けても良い。
【0132】
これにより、該低剛性部186が形成されたスペーサ部材184A側で、温度上昇による該スペーサ部材184と記録ヘッドユニット32との間の熱膨張(収縮)差を吸収するため、記録ヘッドユニット32は、低剛性部186が形成されたスペーサ部材184A側へ移動(変動)することとなり、記録ヘッドユニット32の変動方向が一定となる。
【0133】
以上、本発明を上述した実施形態により詳細に説明したが、本発明はそれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の形態が実施可能である。
【0134】
例えば、上述の実施形態においては、紙幅対応のFWAの例について説明したが、本発明のインクジェット記録ヘッドは、これに限定されず、主走査機構と副走査機構を有するPartial Width Array(PWA)の装置にも適用することができる。
【0135】
その他、上記実施例のインクジェット記録装置10では、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの各色のインクジェット記録ヘッド30から画像データに基づいて選択的にインク滴が吐出されてフルカラーの画像が用紙Pに記録されるようになっているが、本発明におけるインクジェット記録は、用紙P上への文字や画像の記録に限定されるものではない。
【0136】
すなわち、記録媒体は紙に限定されるものでなく、また、吐出する液体もインクに限定されるものではない。例えば、高分子フィルムやガラス上にインクを吐出してディスプレイ用カラーフィルターを作成したり、溶接状態の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成するなど、工業的に用いられる液滴吐出(噴射)装置全般に対して、本発明に係るインクジェット記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの概略斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの概念図であり、(A)は正面図、(B)は下面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドによる印字領域を示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの平面図である。
【図6】(A)、(B)は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの作用を説明する断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドユニットの概念図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図8】本発明の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドユニットを示す部分断面図である。
【図9】(A)〜(C)は、インクジェット記録ヘッドユニットをスペーサ部材に固定する接着剤に作用する引張り応力を説明する断面図である。
【図10】接着剤に作用する引張り応力により懸念される内容を説明する断面図である。
【図11】(A)、(B)は、接着剤に作用する引張り応力の求め方を説明する説明図である。
【図12】接着剤に作用する引張り応力とスペーサ部材の低剛性部との剛性比率との関係を示すグラフである。
【図13】接着剤に作用する引張り応力とスペーサ部材の低剛性部との面積比率との関係を示すグラフである。
【図14】本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第1変形例を示す平面図である。
【図15】(A)、(B)は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第1変形例の作用を説明する断面図である。
【図16】本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第2変形例を示す斜視図である。
【図17】(A)、(B)は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第2変形例の作用を説明する断面図である。
【図18】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの斜視図である。
【図19】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの平面図である。
【図20】(A)、(B)は、本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの作用を説明する断面図である。
【図21】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第1変形例を示す平面図である。
【図22】(A)、(B)は、本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第1変形例の作用を説明する断面図である。
【図23】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第2変形例を示す平面図である。
【図24】(A)、(B)は、本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第2変形例の作用を説明する断面図である。
【図25】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第3変形例を示す平面図である。
【図26】(A)、(B)は、本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第3変形例の作用を説明する断面図である。
【図27】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第4変形例を示す平面図である。
【図28】(A)、(B)は、本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第4変形例の作用を説明する断面図である。
【図29】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第5変形例を示す平面図である。
【図30】(A)、(B)は、本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第5変形例の作用を説明する断面図であり、(C)は、第5変形例の構成を説明する断面図である。
【図31】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第6変形例を示す平面図である。
【図32】(A)、(B)は、本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第6変形例の作用を説明する断面図である。
【図33】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第7変形例を示す平面図である。
【図34】(A)、(B)は、本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの第7変形例の作用を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0138】
30 インクジェット記録ヘッド(液滴吐出装置)
32 記録ヘッドユニット(液滴吐出ヘッドユニット)
40 支持部材
42 スペーサ部材(板材、取付部材)
130 貫通孔
132 低剛性部(伸縮手段)
134 スペーサ部材(板材、取付部材)
136 凹部(蛇腹構造)
138 凹部(蛇腹構造)
140 低剛性部
142 フランジ(取付片、取付部材)
144 貫通孔
146 低剛性部
148 スペーサ部材(板材、取付部材)
150 切欠き部
152 貫通孔
154 低剛性部
155 低剛性部
158 スペーサ部材(板材、取付部材)
160 凹部
162 凹部
164 低剛性部
166 記録ヘッドユニット(液滴吐出ヘッドユニット)
168 スペーサ部材(板材、取付部材)
168B 基部(スペーサ部材、板材、取付部材)
168A 自由端部(スペーサ部材、板材、取付部材)
170 バネ部材(バネ手段、伸縮手段)
172 スペーサ部材(板材、取付部材)
172A 溝部(嵌め合い構造、伸縮手段)
174A スライド突起(嵌め合い構造、伸縮手段)
174 スライド部材(自由端部、スペーサ部材、板材、取付部材)
180 スペーサ部材(板材、取付部材)
184 スペーサ部材(板材、取付部材)
184A スペーサ部材(板材、取付部材)
186 低剛性部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液滴を吐出する複数の液滴吐出ヘッドユニットと、
前記複数の液滴吐出ヘッドユニットが配列され、該液滴吐出ヘッドユニットよりも熱膨張係数が小さく、両端部が支持される支持部材と、
前記支持部材から前記液滴吐出ヘッドが配列された方向と交差する方向へ両側に張出し、前記液滴吐出ヘッドの両端部が固定される取付部材と、
前記取付部材に設けられ、前記液滴吐出ヘッドと前記支持部材との熱膨張差により伸縮する伸縮手段と、
を有することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記取付部材が、前記支持部材から張り出すようにして該支持部材に一体形成された取付片であることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記取付部材が、前記支持部材から張り出すようにして該支持部材に固定された板材であることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記伸縮手段が、前記支持部材の両側から張り出した前記取付部材のうち、一方の取付部材に設けられたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記伸縮手段が、前記取付部材の他の部分よりも剛性が低い低剛性部であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記低剛性部は、前記取付部材に貫通孔を形成して構成されたことを特徴とする請求項5に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記低剛性部は、前記取付部材に切欠きを形成して構成されたことを特徴とする請求項5又は6に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記低剛性部は、前記取付部材に形成され、他の部分よりも肉厚が薄い薄肉部であることを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項9】
前記低剛性部は、前記取付部材に形成された蛇腹構造であることを特徴とする請求項5〜8の何れか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項10】
前記液滴吐出ヘッドの剛性に対して前記低剛性部の剛性が5倍以下であることを特徴とする請求項5〜9の何れか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項11】
前記取付手段が、前記支持部材に固定される基部と、前記記録ヘッドユニットが固定される自由端部と、に分割され、
前記伸縮部材が、前記基部と前記自由端部とを連結するバネ手段であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項12】
前記取付手段が、前記支持部材に固定される基部と、前記記録ヘッドユニットが固定される自由端部と、に分割され、
前記伸縮部材が、前記基部に対して前記自由端部をスライド可能に係合させる嵌め合い構造であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2008−265191(P2008−265191A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113055(P2007−113055)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】