説明

液滴吐出装置

【課題】ノズルからのインクの吐出性能を阻害することなくサテライト発生の抑制効率を向上させること。
【解決手段】インク室にインクを引き込み加圧するための駆動パルスP11(第1膨張パルス)のオンオフ後に、駆動パルスP11のパルス幅の2/5の長さのインターバルを挟んで、駆動パルスP11のパルス幅の3/5の長さで駆動パルスP12をオンオフする。この駆動パルスP12のオンオフにより、正圧のピークから通常圧力を経て負圧に変化するインク圧の負圧のピークCを増幅させて、インク室へのインク引き込み力を増加させる。インク引き込み力の増加により吐出されたインクにサテライトが発生するのを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク室内のインクの圧力を増減させることでインク室に連通するノズルからインク室内のインクの液滴を吐出させる液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタでは、インクジェットヘッドに設けられたインク室に圧力を付与して、インク室内のインクの液滴をノズルから吐出する(例えば、特許文献1参照)。ノズルから吐出されたインクの液滴は尾を引く形で飛翔し、この飛翔する液滴の先頭部分と後尾部分との間に時間差や速度差が生じる。このため、先行する主たる液滴に付随して、不要な微小液滴(サテライト)が発生することがある。サテライトは、記録媒体上に付着して印刷品質を低下させたり、装置内に付着して装置を汚したりする。
【0003】
このようなサテライトによる印刷品質の低下や装置の汚損を防止する技術として、インクジェットヘッドを駆動する駆動信号中に、インク室を膨張乃至復元させるパルス信号を2つ含めることが提案されている。この駆動信号でインクジェットヘッドを駆動すると、1つ目のパルス信号によって、インク室からインクを吐出させるのに必要な圧力変化がインク室内のインクに発生する。また、2つ目のパルス信号によって、1つ目のパルス信号により発生した圧力変化と同位相の圧力変化がインク室内のインクに発生する。
【0004】
上述した駆動信号によりインクジェットヘッドを駆動すると、2つ目のパルス信号によりインク室内のインクに発生する圧力変化が、インク室内のインクの残響圧力変化を増幅させる。このため、メニスカスからのインク液滴の分離を良好にし、サテライトの発生防止を図ることができる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−55147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した2つのパルス信号を含む駆動信号によりインクジェットヘッドを駆動するのに当たっては、ノズルからのインクの吐出性能を阻害することなく、インク室内のインクの残響圧力変化を増幅させる上で、2つ目のパルス信号の立ち上がりや立ち下がりのタイミングが重要となる。即ち、適切な波形の駆動信号を出力できないと吐出に問題を起こす虞がある。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、ノズルからのインクの吐出性能を阻害することなくサテライト発生の抑制効率を向上させることができる液滴吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載した本発明の液滴吐出装置は、
駆動信号により駆動され、ノズルに連通するインク室の容積を変更させる容積変更手段を備え、該インク室の容積変更により前記インク室内のインクの圧力を増減させることで、前記インクの液滴を前記ノズルから吐出させる液滴吐出装置であって、
前記容積変更手段により前記インク室の容積を一定期間増加させる第1膨張パルスと、該第1膨張パルスの終了後所定のインターバルを挟んで前記容積変更手段により前記インク室の容積を再び一定期間増加させる第2膨張パルスとを含む前記駆動信号を生成して、該生成した駆動信号を前記容積変更手段に供給する駆動手段を備えており、
前記駆動手段は、前記第1膨張パルスのオンオフによる前記インク室の容積の増加及び復元により前記インク室内のインクに生じる圧力増減における圧力増加のピークから、これに連続して前記インク室内のインクに生じる圧力減少のピークまでの期間において、前記第2膨張パルスをオンさせると共に、該第2膨張パルスをオンさせる前記期間中に前記インク室内のインクに生じる圧力減少のピークからこれに連続して前記インク室内のインクに生じる圧力増加のピークまでの期間において、前記第2膨張パルスをオフさせる、
ことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載した本発明の液滴吐出装置は、請求項1に記載した本発明の液滴吐出装置において、前記駆動手段が、前記容積変更手段により前記インク室の容積を一定期間減少させる収縮パルスを前記第2膨張パルスのオフ後に含む前記駆動信号を生成し、オンさせた前記収縮パルスを、前記第2膨張パルスをオフさせる前記期間中に前記インク室内のインクに生じる圧力増加のピークからこれに連続して前記インク室内のインクの圧力が通常圧力に戻るまでの期間において、前記収縮パルスをオフさせることを特徴とする。
【0010】
さらに、請求項3に記載した本発明の液滴吐出装置は、請求項2に記載した本発明の液滴吐出装置において、前記駆動手段が、前記インクの液滴の吐出後に同一のドットに対する前記インクの液滴の吐出が継続されるマルチドロップ動作中に限って、前記収縮パルスを含む前記駆動信号を生成することを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載した本発明の液滴吐出装置は、請求項1、2又は3に記載した本発明の液滴吐出装置において、前記駆動手段が、前記インク室の音響的共振周期の半分の周期であるALに基づいて決定した前記第1膨張パルスのパルス幅の2/5の期間を前記所定のインターバルの期間とした前記駆動信号を生成することを特徴とする。
【0012】
さらに、請求項5に記載した本発明の液滴吐出装置は、請求項4に記載した本発明の液滴吐出装置において、前記駆動手段が、前記第1膨張パルスのパルス幅の3/5のパルス幅とした前記第2膨張パルスを含む前記駆動信号を生成することを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に記載した本発明の液滴吐出装置は、請求項1、2、3、4又は5に記載した本発明の液滴吐出装置において、前記駆動手段が、前記容積変更手段により前記インク室の容積を一定期間減少させる予備パルスを前記第1膨張パルスのオン前に含む前記駆動信号を生成することを特徴とする。
【0014】
さらに、請求項7に記載した本発明の液滴吐出装置は、請求項1、2、3、4、5又は6に記載した本発明の液滴吐出装置において、前記インク室の周辺の環境温度又は前記インク室の温度を検出する温度検出手段と、該温度検出手段の検出結果に基づいて、前記駆動信号のパルス幅又はパルス間隔を補正する波形補正手段とをさらに備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項8に記載した本発明の液滴吐出装置は、請求項1、2、3、4、5、6又は7に記載した本発明の液滴吐出装置において、前記駆動信号の内容に通常パターンと変更パターンとが存在し、前記インク室の周辺の環境温度又は前記インク室の温度と、変更可能な前記ノズルから前記記録紙までの距離と、前記記録紙の種類とのうち少なくとも1つの内容に基づいて、前記駆動信号の内容を前記通常パターンと前記変更パターンとのうちいずれにするかを決定するパターン決定手段をさらに備えており、前記駆動手段が、前記パターン決定手段が前記変更パターンを前記駆動信号の内容とすることを決定したときに、前記第1膨張パルスと前記第2膨張パルスとを含む前記駆動信号を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1に記載した液滴吐出装置によれば、インク吐出後に発生するインクの負圧のピークを第2膨張パルスのオンにより増幅させて、インク室へのインクの引き込み力を増大させ、さらに、その増大が第2膨張パルスのオフにより阻害されないようにして、ノズルからのインクの吐出性能を阻害することなくサテライト発生の抑制効率を向上させることができる。
【0017】
本発明の請求項2に記載した液滴吐出装置によれば、第2膨張パルスのオン後におけるインク圧の減少のピーク(負圧のピーク)から通常圧力に早く戻るようにして、第2膨張パルスのオンオフによるインク圧の変動の振幅増加でインク圧の変動周期が長くなるのを防ぐことができる。これにより、次のインク吐出動作の開始を早めることができる。
【0018】
本発明の請求項3に記載した液滴吐出装置によれば、同一のドットに対する次のインク吐出動作が存在せず、次のインク吐出動作の開始を早める必要がない場合に、収縮パルスのオンオフにより無駄な電力消費が行われるのを防ぐことができる。
【0019】
本発明の請求項4に記載した液滴吐出装置によれば、第1膨張パルスのオンによりインク圧が正圧のピークから通常圧力に戻るタイミングで第2膨張パルスがオンされるようにして、インク吐出後のインク引き込み力の増幅を効率的に実現することができる。
【0020】
本発明の請求項5に記載した液滴吐出装置によれば、第2膨張パルスのオンオフによるインク圧の変動の振幅増加でインク圧の変動周期が長くならないように、第2膨張パルスのオン後におけるインク圧を、減少のピーク(負圧のピーク)から通常圧力に効率良く早く戻すことができる。
【0021】
本発明の請求項6に記載した液滴吐出装置によれば、予備パルスのオンによりインク室のインクを一旦加圧することで、その反動でインク吐出時のインク圧(正圧のピーク)を上げて吐出性能を向上させるようにすることができる。
【0022】
本発明の請求項7に記載した液滴吐出装置によれば、インク又はインク室の温度変化に伴うインクの粘度の変化に応じて、サテライトの発生抑制が効率的に行われるように駆動信号の波形を調整することができる。
【0023】
本発明の請求項8に記載した液滴吐出装置によれば、インクの吐出時に発生するサテライトによる印刷品質の低下に影響を与えることがあるプリンタの使用環境や使用態様の状況に応じて、サテライト発生を抑制する駆動信号によるインクの吐出を実行させるようにして、的確なサテライトの発生抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドの概略構成を一部断面で示す斜視図である。
【図2】図1に示すインクジェットヘッドのインク供給部を示す図1のA−A線断面図である。
【図3】(a)〜(c)は図1に示すインクジェットヘッドのインク吐出動作時におけるインク室内の状態変化を示す図1のB−B線断面図である。
【図4】図1のインクジェットヘッドを備えるインクジェットプリンタの機能構成を示すブロック図である。
【図5】(a)は通常波形の駆動信号とこれにより駆動された図1のインクジェットヘッドのインク室内におけるインクの圧力変化との関係を示す説明図、(b)はインクの液滴形状の変遷を示す説明図である。
【図6】(a)はサテライト対策波形の駆動信号の第1実施形態とこれにより駆動された図1のインクジェットヘッドのインク室内におけるインクの圧力変化との関係を示す説明図、(b)はインクの液滴形状の変遷を示す説明図である。
【図7】第1及び第2膨張パルスのインターバルを固定し第2膨張パルスの幅を変更した場合のインク吐出に関係する特性を比較して示す説明図である。
【図8】インク温度に応じた各駆動パルスやそのインターバルの補正内容を示す説明図である。
【図9】サテライト対策波形の駆動信号の第2実施形態とこれにより駆動された図1のインクジェットヘッドのインク室内におけるインクの圧力変化との関係を示す説明図である。
【図10】サテライト対策波形の駆動信号の第3実施形態とこれにより駆動された図1のインクジェットヘッドのインク室内におけるインクの圧力変化との関係を示す説明図である。
【図11】本実施形態に係るインクジェットプリンタにおける記録時の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
【0026】
図1は本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドの概略構成を一部断面で示す斜視図、図2は図1に示すインクジェットヘッドのインク供給部を示す図1のA−A線断面図、図3(a)〜(c)は図1に示すインクジェットヘッドのインク吐出動作時におけるインク室内の状態変化を示す図1のB−B線断面図である。図1に示すインクジェットヘッドは、シェアモード型のインクジェットヘッドである。
【0027】
なお、本実施形態において、後述のインク室に関する構成は全インク室で共通であるので、個々のインク室を示す符号のアルファベット等の添え字を省略して総括的に表記することがある。
【0028】
図1〜図3に示すように、インクジェットヘッド1には、セラミック等からなる基板2とカバープレート3との間に、2つの圧電部材4a,4b(請求項中の容積変更手段に相当)からなる複数の隔壁4が配置されている。圧電部材4a,4bは、例えば、PZT(PbZrO3 −PbTiO3 )等の公知の圧電材料からなり、図3中の矢印で示すように互いに異なる方向に分極している。
【0029】
基板2、カバープレート3、および隔壁4の先端には、ノズルプレート5が固定されている。これにより、基板2、カバープレート3、隔壁4、およびノズルプレート5に囲まれた複数のインク室6が並ぶように形成される。ノズルプレート5には、複数のノズル7が設けられており、インク室6の一端側はノズル7に連通されている。インク室6の他端側は、全インク室6に連通するインク流入口8、インク供給口9を経て、インクチューブ10によってインクタンク(図示せず)に接続されている。このインク流入口8、インク供給口9、およびインクチューブ10によりインク供給部が構成される。
【0030】
インク室6の側面を構成する隔壁4および底面を構成する基板2の表面には、電極(可変手段)11が密着形成されている。インク室6内の電極11は、圧電部材4aの後部側表面まで延びている。各電極11には、この後部側表面において異方導電性フィルム(図示せず)を介してフレキシブルケーブル12が接続されており、このフレキシブルケーブル12を介して電極11に駆動電圧が印加されるようになっている。
【0031】
電極11に駆動電圧が印加されると、隔壁4がせん断変形してインク室6の容積およびインク室6内の圧力を変化させる。これにより、ノズル7からインク室6内のインクが吐出される。
【0032】
図4は図1のインクジェットヘッドを備えるインクジェットプリンタの機能構成を示すブロック図である。図4に示すように、本実施形態に係るインクジェットプリンタは、インクジェットヘッド1を駆動させるヘッド駆動部21と、温度検知部22と、加温部23と、駆動波形格納部24と、制御部26とを備える。
【0033】
ヘッド駆動部21は、フレキシブルケーブル12を介してインクジェットヘッド1の電極11に駆動電圧を印加することにより、隔壁4を変形させてインク室6の容積およびインク室6内の圧力を変化させ、ノズル7からインクを吐出させる吐出駆動を行う。
【0034】
温度検知部22は、インクジェットヘッド1に供給されるインクの温度を検知する。インクタンク(図示せず)からインクジェットヘッド1に供給されるインクの温度が検知できれば、温度検知部22はどこに配置されていてもよい。
【0035】
加温部23は、インクジェットヘッド1に供給されるインクを加温する。インクタンクからインクジェットヘッド1に供給されるインクを加温できれば、加温部23はどこに配置されていてもよい。
【0036】
駆動波形格納部24は、インクジェットヘッド1を駆動させる電圧の通常波形およびサテライト対策波形の波形データを格納する。通常波形およびサテライト対策波形については後述する。
【0037】
制御部26は、温度検知部22の検知結果や、操作パネル(図示せず)等から入力される印刷用紙の種類等を用いて、駆動信号の波形として通常波形(請求項中の通常パターンに相当)とサテライト対策波形とのどちらを使用するかを選択する。そして、制御部26は、選択した波形の駆動信号をインクジェットヘッド1の電極11に出力するようにヘッド駆動部21を制御する。この駆動信号は、インクを1ドロップ吐出させる毎にヘッド駆動部21からインク室6Bの電極11Bに出力される。また、制御部26は、加温部23の駆動を制御する。
【0038】
次に、インク吐出の基本的な動作について説明する。なお、以下の説明において、パルス信号のオンを印加開始、オフを印加終了と言う場合がある。
【0039】
図3(a)〜(c)に示すように、圧電部材4a,4bからなる隔壁4A〜4Dで隔てられた3つのインク室6A〜6Cのうちのインク室6Bからインクを吐出させる場合について説明する。図5(a)は通常波形の駆動信号とこれにより駆動された図1のインクジェットヘッドのインク室内におけるインクの圧力変化との関係を示す説明図である。図5(a)において、実線は駆動信号の波形を示し、破線はインク室内におけるインクの圧力を示す。また、図5(b)は、図5(a)の駆動信号によってインクジェットヘッドを駆動した場合に吐出されるインクの液滴形状の変遷を示す説明図である。
【0040】
図3(a)に示す定常状態において、図4のヘッド駆動部21からインクジェットヘッド1に、図5(a)の実線で示す駆動信号が供給されると、図5(a)における時刻t1において、インク室6A,6Cの電極11A,11Cが接地されるとともに、インク室6Bの電極11Bに負電圧(−VA)の駆動パルスP1が印加される。すると、隔壁4B,4Cを構成する圧電部材4a,4bの分極方向に垂直な方向の電界が生じる。これにより、圧電部材4a,4bの接合面にズリ変形が生じ、図3(b)に示すように、隔壁4B,4Cは互いに離反する方向に変形し、インク室6Bの容積が拡大する。この結果、インク室6B内のインクの圧力が減少し、インク流入口8からインク室6Bにインクが流れ込む。
【0041】
駆動パルスP1の印加時間は時刻t1から時刻t2までの1ALである。AL(Acoustic Length )は、容積が拡大したインク室6にインクが流入することによる圧力波が、インク室6の全域を伝播してノズル7に達するまでの時間、即ち、インク室6の音響的共振周期の1/2である。このALは、インクジェットヘッド1の構造や、インクの密度等に依存して決まるものである。
【0042】
続いて、図3(b)の状態から、図5(a)における時刻t2において、インク室6Bの電極11Bに印加する電圧が接地電位に戻される。すると、隔壁4B,4Cは、図3(a)に示した中立位置に戻る。これにより、インク室6B内のインクが加圧され、対応するノズル7からインクが吐出される。
【0043】
インク室6Bの電極11Bに印加する電圧を接地電位に戻してから1.0ALが経過すると、時刻t3から時刻t4までの1.0ALの期間、インク室6Bの電極11Bに正電圧(VA)の駆動パルスP2が印加される。これにより、図3(c)に示すように、隔壁4B,4Cは互いに接近する方向に変形し、インク室6Bの容積が縮小する。
【0044】
駆動パルスP2の印加後、時刻t4から時刻t5の間においてインク室6Bの電極11Bに印加する電圧を接地電位とし、図3(a)の状態に戻す。
【0045】
このように、通常波形は、インク室6の容積を拡大させた後、元の容積に戻し、その後容積を縮小させてから再度元の容積に戻すように隔壁4を変形させるように電極11に印加する電圧の波形である。
【0046】
なお、シェアモード型のインクジェットヘッド1では、上述のように隔壁4の変形を利用してインク吐出を行うので、隣接したインク室6を同時に吐出駆動することはできない。このため、記録動作時においては、インクジェットヘッド1が有する全インク室6を、互いに隣接しないインク室6からなる複数のグループに分割し、グループごとにインク室6を吐出駆動させる時分割駆動が行われる。
【0047】
上述したインクジェットプリンタでは、通常波形の他に、通常波形を用いた場合よりもサテライトの発生を抑制するように電極11を駆動する電圧の波形であるサテライト対策波形を用意する。このサテライト対策波形の第1実施形態を図6(a)に示す。図6(a)はサテライト対策波形の駆動信号とこれにより駆動された図1のインクジェットヘッドのインク室内におけるインクの圧力変化との関係を示す説明図である。図6(a)において、実線は駆動信号の波形を示し、破線はインク室内におけるインクの圧力を示す。また、図6(b)は、図6(a)の駆動信号によってインクジェットヘッドを駆動した場合に吐出されるインクの液滴形状の変遷を示す説明図である。
【0048】
このサテライト対策波形を用いる場合、図3(a)に示す定常状態において、図4のヘッド駆動部21からインクジェットヘッド1に、図6(a)の実線で示す駆動信号が供給されると、図6(a)における時刻t11において、インク室6A,6Cの電極11A,11Cが接地されるとともに、インク室6Bの電極11Bに正電圧(VA)の駆動パルスP0(請求項中の予備パルスに相当)が印加される。これにより、図3(c)に示すように、隔壁4B,4Cは互いに接近する方向に変形し、インク室6Bの容積が縮小する。
【0049】
続いて、図3(c)の状態から、図6(a)における時刻t12において、インク室6Bの電極11Bに印加する電圧が接地電位に戻される。すると、隔壁4B,4Cは、図3(a)に示した中立位置に戻る。
【0050】
この時刻t12の直後の図6(a)における時刻t13において、インク室6A,6Cの電極11A,11Cが接地されるとともに、インク室6Bの電極11Bに負電圧(−VA)の駆動パルスP11(請求項中の第1膨張パルスに相当)が印加される。これにより、図3(b)に示すように、隔壁4B,4Cは互いに離反する方向に変形し、インク室6Bの容積が拡大する。この結果、インク室6B内のインクの圧力が減少し、インク流入口8からインク室6Bにインクが流れ込む。
【0051】
なお、サテライト対策波形の駆動信号における駆動パルスP11の印加時間は、通常波形の駆動信号における駆動パルスP1の場合と同様に、時刻t13から時刻t14までの1.0ALである。
【0052】
続いて、図3(b)の状態から、図6(a)における時刻t14において、インク室6Bの電極11Bに印加する電圧が接地電位に戻される。すると、隔壁4B,4Cは、図3(a)に示した中立位置に戻る。これにより、インク室6B内のインクが加圧され、対応するノズル7からインクが吐出される。
【0053】
インク室6Bの電極11Bに印加する電圧を接地電位に戻してから0.4ALが経過すると、図6(a)における時刻t15から時刻t16までの0.6ALの期間、インク室6Bの電極11Bに負電圧(−VA)の駆動パルスP12(請求項中の第2膨張パルスに相当)が印加される。これにより、図3(b)に示すように、隔壁4B,4Cは互いに離反する方向に変形し、インク室6Bの容積が拡大する。
【0054】
続いて、図3(b)の状態から、図6(a)における時刻t16において、インク室6Bの電極11Bに印加する電圧が接地電位に戻される。すると、隔壁4B,4Cは、図3(a)に示した中立位置に戻る。
【0055】
インク室6Bの電極11Bに印加する電圧を接地電位に戻した時刻t16からごく短時間後の時刻t17から、0.75AL後の時刻t18までの期間、インク室6Bの電極11Bに正電圧VBの駆動パルスP13が印加される。これにより、図3(c)に示すように、隔壁4B,4Cは互いに接近する方向に変形し、インク室6Bの容積が縮小する。
【0056】
インク室6Bの電極11Bに正電圧VBの駆動パルスP13が印加される前、インク室6B内のインク圧の減少の度合いは、インク室6Bの電極11Bに対する駆動パルスP12の印加によって増幅されている。そこで、駆動パルスP13を印加してインク室6B内の容積を縮小させて加圧力を発生させることで、インク吐出後にサテライトの発生抑制のため減少の度合いが増幅されたインク室6B内の圧力変動の振幅が抑えられ、インク室6B内におけるインクの残留振動が抑制される。これにより、次回の吐出動作を安定して行うことができる。
【0057】
駆動パルスP13の印加後、時刻t18から時刻t19の間においてインク室6Bの電極11Bに印加する電圧を接地電位とし、図3(a)の状態に戻す。
【0058】
このように、サテライト対策波形は、インク室6の容積を拡大させた後、元の容積に戻し、その後容積を再度拡大させてから再度元の容積に戻し、その上で、容積を縮小させてから再び元の容積に戻すように隔壁4を変形させるように電極11に印加する電圧の波形である。
【0059】
上述した通常波形の駆動信号では、図5(a)の破線で示すように、インク室6Bの電極11Bに対する駆動パルスP1の印加開始により負圧となったインク室6B内のインクの圧力が、負圧のピークを越えて増加に転じて通常圧力を越え正圧のピークに達する時刻t2において、駆動パルスP1の印加が終了する。これにより、インクの吐出が開始される。そして、インクが吐出されてインク室6内に生じた減圧によりインク室6B内のインクの圧力が、減少に転じて通常圧力を越え負圧のピークに達する時刻t3において、駆動パルスP2の印加が開始される。これにより、インク吐出後のインク室6内のインクに加圧力が発生してインク圧の減圧が抑えられ、インクの残留振動が抑制される。このように残留振動を抑制させることで、前述のように、次回の吐出動作を安定して行うことができる。
【0060】
一方、上述したサテライト対策波形の駆動信号では、図6(a)の破線に示すように、インク室6Bの電極11Bに対する駆動パルスP0の印加開始により正圧となったインク室6B内のインクの圧力は、インク室6Bに対応するノズル7からインクを吐出させるには不十分な程度のものである。即ち、駆動パルスP0は、次の駆動パルスP11をインク室6Bの電極11Bに対して印加するのに伴いインク室6Bの容積が拡大してインク室6B内のインクに負圧が生じるときに、大きな負圧が生じるよう反動を付けるためのものである。
【0061】
そして、インク室6Bの電極11Bに対する駆動パルスP0の印加開始により正圧となったインク室6B内のインクの圧力が、正圧のピークを越えて減少に転じて通常圧力に戻る時刻t12において、駆動パルスP0の印加が終了する。続いて、その直後の時刻t13において、インク室6Bの電極11Bに対する駆動パルスP11の印加が開始される。これにより、駆動パルスP0の印加によって正圧となった反動でインク室6B内のインクの圧力に大きな負圧が生じる。さらに、インク室6Bの電極11Bに対する駆動パルスP11の印加開始により負圧となったインク室6B内のインクの圧力が、負圧のピークAを越えて増加に転じ、通常圧力を越え正圧のピークBに達する時刻t14において、駆動パルスP11の印加が終了する。これにより、インクの吐出が開始される。
【0062】
このように、時刻t13においてインク室6Bの電極11Bに負電圧(−VA)の駆動パルスP11を印加するのに先立って、上述した時刻t11からt12の期間、正電圧(VA)の駆動パルスP0をインク室6Bの電極11Bに印加しておくことで、インク室6B内のインクに生じる負圧のピークAが増大される。したがって、時刻t13以後に、負圧のピークAを越えたインク室6B内のインクの圧力が増加に転じ通常圧力を経て正圧側に変化する際に、負圧のピークAが増大された反動で、駆動パルスP0を前もって印加しない場合に比べて、インク圧の増加の度合いが大きくなる。したがって、時刻t14に到来するインク圧の正圧のピークBが高くなり、インクの吐出性能が向上することになる。
【0063】
その後、インクが吐出されてインク室6内に生じた負圧によりインク室6B内のインクの圧力が、減少に転じて通常圧力に戻る時刻t15において、インク室6Bの電極11Bに対する駆動パルスP12の印加が開始される。これにより、インク室6B内の減圧の度合いが増幅される。
【0064】
減少するインク室6B内のインクの圧力が負圧のピークCとなる時点におけるインクの液滴は、図6(b)の一番左に示すように、先端が僅かに膨らんだ楕円の先頭部分に後尾部分が続く形状となる。この液滴形状を、図5(a)の通常波形による駆動信号でインクを吐出した場合の対応する時点における、図5(b)の一番左に示す液滴形状と比較すると、通常波形に比べてサテライト対策波形の方が先頭部分の膨らみが細くなっている。これは、インクの吐出開始後におけるインク室6B内へのインク引き込み力の増加によるものである。これにより、インク吐出時のサテライトの発生が抑えられ、印刷品質の低下や装置の汚損を抑制することができる。
【0065】
また、駆動パルスP12の印加によりインク圧の減圧の度合いを増幅させても、その前の段階で、駆動パルスP0とそれに続く駆動パルスP11との印加によりインク圧の負圧のピークAとそれに続く正圧のピークBとを増大させておくので、インクを適正に吐出させることができる。
【0066】
そして、インク室6Bの電極11Bに対する駆動パルスP12の印加開始後、インク室6B内のインクの圧力が、負圧のピークCを越えて増加に転じて通常圧力に戻る時刻t16の直後の時刻t17において、インク室6Bの電極11Bに対する駆動パルスP13の印加が開始される。この駆動パルスP13の印加により、インク室6Bに対応するノズル7において、インクのメニスカスの振動が1回発生することになる。即ち、駆動パルスP13の印加によりノズル7からインクが吐出されることはない。
【0067】
増加するインク室6B内のインクの圧力が正圧のピークDとなる時点におけるインクの液滴は、図6(b)の中央に示すような形状となる。この液滴形状を、図5(a)の通常波形による駆動信号でインクを吐出した場合の対応する時点における、図5(b)の中央に示す液滴形状と比較すると、通常波形に比べてサテライト対策波形の方が後尾部分の太さが細くなっている。これは、インクの吐出開始後におけるインク室6B内へのインク引き込み力の増加により細くなったインクの尾が、その後さらに伸びたことによるものである。さらに、駆動パルスP13の印加開始から0.6AL後の時刻t18において駆動パルスP13の印加を終了することで、正圧のピークDを越えて減少に転じたインク室6B内のインクの圧力が通常圧力に戻るタイミングが早まる。これにより、駆動パルスP12の印加による負圧のピークCの増大によって変動の振幅が増したインク圧の変動周期を短縮し、次のインク吐出動作の開始を早めることができる。
【0068】
サテライト対策波形の駆動信号における駆動パルスP13の印加終了後におけるインクの液滴は、図6(b)の一番右に示すような形状となる。この液滴形状を、図5(a)の通常波形による駆動信号でインクを吐出した場合の対応する時点における、図5(b)の中央に示す液滴形状と比較すると、通常波形に比べてサテライト対策波形の方が後尾部分の太さが明らかに細くなっている。これも、インクの吐出開始後におけるインク室6B内へのインク引き込み力の増加によるものである。このようにインクの液滴の後尾部分の太さが細くなることで、その後におけるサテライトの発生が抑制される。具体的には、インクの液滴の後尾部分が細くなることで、サテライトとなるインクの液量が減り、後尾部分が分断されて発生するサテライトの粒径が小さくなる。したがって、記録紙上におけるサテライトの存在が目立たなくなり、視覚的にもサテライトの発生が抑制されたことを実感できるようになる。
【0069】
なお、上述したサテライト対策波形の駆動信号では、駆動パルスP11の幅(時刻t13〜時刻t14)を1.0AL、駆動パルスP12の幅(時刻t15〜時刻t16)を0.6AL、駆動パルスP13の幅(時刻t17〜時刻t18)を0.75AL、駆動パルスP11の印加終了から駆動パルスP12の印加終了までの時間幅(時刻t14〜時刻t16)を1.0ALとした。しかし、駆動パルスP11の幅は0.9AL〜1.2AL、駆動パルスP12の幅は0.5AL〜0.7AL、駆動パルスP13の幅は0.6AL〜0.8AL、駆動パルスP11の印加終了から駆動パルスP12の印加終了までの時間幅は0.8AL〜1.1ALの各範囲から選択することができる。
【0070】
また、駆動パルスP12と駆動パルスP13との中間どうしの時間幅は、0.6AL〜0.8ALの範囲から選択することができる。
【0071】
駆動パルスP12の印加開始が駆動パルスP11の印加終了にあまり近づくと、インクの吐出速度の低下や不吐出といった吐出不良を招いてしまうので好ましくない。また、駆動パルスP13の幅があまり短いと、駆動パルスP11,P12の印加でインク室6Bのインクに発生した残留振動の抑制が不十分となり、次の駆動信号の電圧を高くする必要が生じてしまう。
【0072】
さらに、上述したサテライト対策波形の駆動信号では、駆動パルスP11の印加終了によりインク室6B内のインク圧が正圧のピークBとなった後、減少に転じて通常圧力となった時刻t15において、駆動パルスP12の印加を開始するものとした。しかし、正圧のピークBから次の負圧のピークCに達するまでのインク圧の減少中であれば、時刻t15以外のタイミングで駆動パルスP12の印加を開始するようにしてもよい。そうすることで、駆動パルスP11の印加終了後に減少に転じたインク室6B内のインク圧が到達する負圧のピークCを大きくして、インク引き込み力の増大によるサテライト発生の抑制を実現することができる。
【0073】
また、上述したサテライト対策波形の駆動信号では、駆動パルスP12の印加開始後にインク圧が負圧のピークCを越えて通常圧力に戻る時刻t16において、駆動パルスP12の印加を終了し、その直後の時刻t17において、駆動パルスP13の印加を開始するものとした。しかし、駆動パルスP12の印加開始後の負圧のピークCから次の正圧のピークDに達するまでのインク圧の増加中であれば、時刻t16、t17以外のタイミングで駆動パルスP12の印加終了と駆動パルスP13の印加開始とを行うようにしてもよい。そうすることで、駆動パルスP12の印加開始による負圧のインク圧の増幅が駆動パルスP12の印加終了によって阻害されないようにすることができる。
【0074】
ちなみに、駆動パルスP12の印加を開始するサテライト対策波形の駆動信号において、駆動パルスP11と駆動パルスP12とのインターバル(時刻t14〜時刻t15)は、駆動パルスP11の幅の2/5であることが望ましい。したがって、駆動パルスP12の印加を開始するタイミングは、この関係を満たすタイミングとするのが望ましい。また、そのようにした場合、駆動パルスP12の幅は駆動パルスP11の幅の3/5であることが望ましい。このような関係とすることが望ましいことを示すのが、図7の説明図である。
【0075】
図7は第1及び第2膨張パルスのインターバルを固定し第2膨張パルスの幅を変更した場合のインク吐出に関係する特性を比較して示す説明図である。この説明図では、具体的には、第1及び第2膨張パルスのインターバルに相当する、駆動パルスP11と駆動パルスP12とのインターバル(時刻t14〜時刻t15)を、駆動パルスP11の幅の2/5とした場合の、駆動パルスP12の幅と、サテライト発生防止、インク吐出性能、総合評価との対応を示している。
【0076】
図7に示すように、駆動パルスP11の幅を2500nsとし、駆動パルスP11と駆動パルスP12とのインターバルをその2/5の1000nsとした場合、駆動パルスP12の幅を800,1000,1200,1400,1500,1600,1800,2000nsとして、サテライト抑制性能、インク吐出性能のそれぞれについて評価してみた。
【0077】
その結果、サテライト抑制性能については、駆動パルスP12の幅が1400ns以上の場合に良好で、特に1500ns以上の場合は非常に良好であった。また、1000nsの場合もまずまずの結果が得られた。しかし、駆動パルスP12の幅が800〜1200の場合は、インク吐出後のインクの引き込み力不足(インク圧の負圧のピークCが不足)で良好な結果が得られなかった。
【0078】
一方、インク吐出性能については、駆動パルスP12の幅が1500ns以下では良好な結果が得られた。また、1600nsでもまずまずの結果が得られた。しかし、駆動パルスP12の幅が1800ns以上になると、インクの吐出速度不足が発生して良好な結果を得られなかった。また、駆動パルスP12の幅が1800,2000nsの場合は、引き込み力過多(インク圧の負圧のピークCが大き過ぎ)による空気吸い込みの発生で良好な結果が得られなかった。
【0079】
以上のサテライト抑制性能とインク吐出性能とを総合した場合、駆動パルスP12の幅が1500nsの場合が最も好ましい結果が得られることが分かった。
【0080】
なお、インクの粘度はインク温度によって変化する。そこで、インクの温度又はインクジェットヘッド1の環境温度に応じて、各駆動パルスP0,P11,P12,P13の幅や、駆動パルスP11と駆動パルスP12とのインターバル(時刻t14〜時刻t15)を、補正するようにしてもよい。インクの温度又はインクジェットヘッド1の環境温度は、例えば、温度検知部22によって検知される温度とすることができる。
【0081】
即ち、インク温度が低いとインクの粘度が高くなり、インクの流路抵抗が高くなってインクの流動性が低くなる。反対に、インク温度が高いとインクの粘度が低くなり、インクに生じた残留振動が減衰しにくくなる。そこで、具体的には、図8の説明図で示すように、駆動パルスP0については、インク温度が標準よりも低い場合にパルス幅を長めに補正し、標準よりも高い場合にパルス幅を短めに補正するようにしてもよい。反対に、他の駆動パルスP11,P12,P13や駆動パルスP11,P12のインターバルについては、インク温度が標準よりも低い場合にパルス幅やインターバルを短めに補正し、標準よりも高い場合にパルス幅やインターバルを長めに補正するようにしてもよい。これにより、インク温度に応じたインクの流動性やインクの残留振動の減衰度に合わせて、サテライトの発生が適切に抑制されるようにインクの吐出をコントロールすることができる。
【0082】
また、上述した実施形態において、サテライト対策波形の駆動信号から駆動パルスP0,P13のどちらか一方又は両方を省略してもよい。また、駆動パルスP13は、同じドットに対するインクの吐出を以後も繰り返すマルチドロップ動作中に限って用いることとし、そうでない場合は省略するようにしてもよい。
【0083】
ちなみに、上述したサテライト対策波形の駆動信号では、駆動パルスP12を用いてインク吐出直後のインクの負圧のピークCを増幅させ、これにより、インク吐出後のインクの引き込み力を増すことで、サテライトの発生を抑制することとした。しかし、駆動パルスP12を用いる代わりに、通常波形における駆動パルスP1,P2のパルス幅や、駆動パルスP1,P2間のインターバルを変えることで、サテライトの発生を抑制する構成とすることもできる。以下、そのように構成した実施形態について説明する。
【0084】
インクジェットプリンタにおいては、低温環境下では、インクの粘度が高くなる。そこで、所望量のインクを吐出するためにインクジェットヘッドの駆動電圧を大きくすると、ノズルから吐出されるインクの尾が長くなる。長い尾は切れやすく、かつ、長い分だけ多くの滴に分断するため、サテライトが発生しやすくなる。
【0085】
サテライトは、記録媒体上に付着して印刷品質を低下させたり、装置内に付着して装置を汚したりする。このため、従来、サテライトが発生しやすい低温環境下では記録動作を行わずに、インクジェットヘッドを加温するウォームアップ動作を行った後に記録を開始することが行われていた(例えば、特開2000−255055号公報)。
【0086】
上述のように、従来のインクジェット記録装置においては、サテライトが発生しやすい低温環境下では、ウォームアップ動作を行った後で記録を開始するため、画像の記録に長時間を要していた。
【0087】
以下に説明する実施形態は、上記に鑑みてなされたもので、低温環境下でもサテライトの発生を軽減しつつ、短時間で画像の記録を行うことができるインクジェット記録装置を提供することを目的とするものである。この目的を達成するインクジェットプリンタは、図1乃至図4の各図に示す構成を有しており、かつ、図3(a)〜(c)に示す動作をインクジェットヘッドが行う。そして、インクジェットヘッドの駆動の際に、上述した図6(a)に示す通常波形の駆動信号と、以下に説明するサテライト対策波形の駆動信号とを使い分ける。そこで、サテライト対策波形の駆動信号の第2及び第3実施形態を、図9及び図10の説明図を参照して説明する。
【0088】
図9はサテライト対策波形の駆動信号の第2実施形態とこれにより駆動されたインクジェットヘッドのインク室内におけるインクの圧力変化との関係を示す説明図である。この図9に示す駆動波形では、通常波形の駆動信号における駆動パルスP1のパルス幅と、駆動パルスP1,P2間のインターバルとを、通常波形の場合よりも長くしている。具体的には、駆動パルスP1のパルス幅と駆動パルスP1,P2間のインターバルとの合計時間を、通常波形の場合の2.0ALから2.4〜2.5ALに延長している。このようにすることで、インク吐出後にインク圧が負圧となる時間を長くし、これにより、インク吐出後のインク引き込み力を通常波形よりも高めて、サテライトの発生を抑制することができる。
【0089】
また、図10はサテライト対策波形の駆動信号の第3実施形態とこれにより駆動されたインクジェットヘッドのインク室内におけるインクの圧力変化との関係を示す説明図である。この図10に示す駆動波形では、駆動パルスP1のパルス幅を短くすると共に、駆動パルスP1,P2のインターバルを短くし、かつ、駆動パルスP2のパルス幅を長くしている。これにより、駆動パルスP1の印加開始後にインク圧の正圧のピークが2段階で発生するようになる。このようにすれば、駆動パルスP1の印加終了が通常波形よりも早まる分、インク圧が負圧のピークから急激に通常圧力を経て正圧側に変化し、インク吐出時のインク圧の変動周期が短くなる。かつ、駆動パルスP1の印加終了により負圧から正圧に変化した直後の駆動パルスP2の印加開始によって、インク吐出後のインク圧が正圧から通常圧力を経て負圧側に変化する度合いも急激となる。これによって、インクの吐出周期を短くし、かつ、インク吐出後のインク引き込み力を通常波形よりも高めて、サテライトの発生を抑制することができる。
【0090】
なお、図9及び図10の各説明図でも、実線は駆動信号の波形を示し、破線はインク室内におけるインクの圧力を示す。また、図9及び図10にそれぞれ示すサテライト対策波形の駆動信号でも、図6(a)の実線で示すサテライト対策波形の駆動信号と同様の理由から、駆動パルスP1の前に駆動パルスP0を用いるようにしている。
【0091】
以上に説明したサテライト対策波形の駆動信号は、例えば、図11のフローチャートを参照して説明する制御部26の以下の動作によって、画像データの印刷に使用することができる。図11に示す制御部26の動作では、印刷に使用する記録紙の種類やインクの温度によって、通常波形の駆動信号とサテライト対策波形の駆動信号とのどちらを使用するかを決定するようにしている。なお、以下の説明において「ギャップ」とは、インクジェットヘッド1と搬送されて来る記録媒体との距離をいう。
【0092】
記録対象の画像データが入力されると、ステップS10において、制御部26は、入力された画像データの印刷に使用する記録紙として指定された種類が、インクジェットヘッド1と記録紙とのギャップを通常のギャップよりも拡げる設定に該当する種類であるか否かを確認する(ステップS10)。ギャップを通常よりも拡げる設定に該当する記録紙の種類としては、例えば、封筒等の袋状の記録紙がある。なお、記録紙の種類を確認する代わりに、インクジェットヘッド1と記録紙とのギャップを拡げる印刷であるかどうかを、ステップS10において直接確認するようにしてもよい。
【0093】
ギャップを通常よりも拡げる設定に該当する記録紙の種類である場合は(ステップS10:YES)、後述するステップS60に進む。ギャップを通常よりも拡げる設定に該当する記録紙の種類でない場合は(ステップS10:NO)、温度検知部22で検知されるインクの温度Tが、ヘッド使用可能温度T1よりも高いか否かを判断する(ステップS20)。温度Tがヘッド使用可能温度T1以下である場合(ステップS20:NO)、そのままではインクジェットヘッド1による記録動作を行わず、ステップS30において、制御部26は、インクジェットヘッド1に供給されるインクを加温するウォームアップを行うよう加温部23を駆動させる。その後、ステップS20に戻る。ヘッド使用可能温度T1は、例えば20℃程度である。
【0094】
温度Tがヘッド使用可能温度T1より高い場合(ステップS20:YES)、ステップS40において、制御部26は、温度Tが通常使用可能温度T2よりも高いか否かを判断する。通常使用可能温度T2は、ヘッド使用可能温度T1よりも高い温度であり、温度Tが通常使用可能温度T2より高い場合(ステップS40:YES)、ステップS50に進み、温度Tが通常使用可能温度T2以下である場合(ステップS40:NO)、ステップS60に進む。通常使用可能温度T2は、例えば25℃程度である。
【0095】
ステップS50では、制御部26は、駆動波形格納部24から通常波形の波形データ読み出し、入力された画像データおよび通常波形の波形データに基づいて、インクジェットヘッド1の駆動対象となるインク室6を駆動してインク吐出動作を行わせるようにヘッド駆動部21を制御する。画像データには各画素におけるドロップ数が設定されており、このドロップ数に応じて、それぞれのインク室6で前述の図3を用いて説明した吐出動作が行われる。
【0096】
ステップS60では、制御部26は、駆動波形格納部24からサテライト対策波形の波形データ読み出し、入力された画像データおよびサテライト対策波形の波形データに基づいて、インクジェットヘッド1の駆動対象となるインク室6を駆動してインク吐出動作を行わせるようにヘッド駆動部21を制御する。このとき、図6(a)のサテライト対策波形の駆動信号以外に、図9や図10のサテライト対策波形の駆動信号を用いることもできる。
【0097】
なお、ステップS10でNOの場合に、無条件にステップS50に進むようにしてもよく、ステップS10を省略してステップS20からの動作を行うようにしてもよい。また、図11のフローチャートに示す動作を一切省略し、画像データが入力される度に無条件に、図11のステップS60に示す動作を一律に行うようにしてもよい。
【0098】
このように、上述した第1実施形態によれば、駆動信号中の駆動パルスP11の印加により発生したインク圧の正圧のピークBとそれに続くインク圧の負圧のピークCとの間で、第2の膨張パルスである駆動パルスP12を印加開始し、この負圧のピークCとこれに続くインク圧の正圧のピークDとの間で、駆動パルスP12の印加を終了する構成の、サテライト対策波形の駆動信号を印刷に用いるようにした。このため、ノズル7からのインクの吐出性能を阻害することなくサテライト発生の抑制効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0099】
1 インクジェットヘッド
2 基板
3 カバープレート
4,4A〜4D 隔壁
4a,4b 圧電部材
5 ノズルプレート
6,6A〜6C インク室
7 ノズル
8 インク流入口
9 インク供給口
10 インクチューブ
11,11A〜11C 電極
12 フレキシブルケーブル
21 ヘッド駆動部
22 温度検知部
23 加温部
24 駆動波形格納部
26 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動信号により駆動され、ノズルに連通するインク室の容積を変更させる容積変更手段を備え、該インク室の容積変更により前記インク室内のインクの圧力を増減させることで、前記インクの液滴を前記ノズルから吐出させる液滴吐出装置であって、
前記容積変更手段により前記インク室の容積を一定期間増加させる第1膨張パルスと、該第1膨張パルスの終了後所定のインターバルを挟んで前記容積変更手段により前記インク室の容積を再び一定期間増加させる第2膨張パルスとを含む前記駆動信号を生成して、該生成した駆動信号を前記容積変更手段に供給する駆動手段を備えており、
前記駆動手段は、前記第1膨張パルスのオンオフによる前記インク室の容積の増加及び復元により前記インク室内のインクに生じる圧力増減における圧力増加のピークから、これに連続して前記インク室内のインクに生じる圧力減少のピークまでの期間において、前記第2膨張パルスをオンさせると共に、該第2膨張パルスをオンさせる前記期間中に前記インク室内のインクに生じる圧力減少のピークからこれに連続して前記インク室内のインクに生じる圧力増加のピークまでの期間において、前記第2膨張パルスをオフさせる、
ことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記容積変更手段により前記インク室の容積を一定期間減少させる収縮パルスを前記第2膨張パルスのオフ後に含む前記駆動信号を生成し、オンさせた前記収縮パルスを、前記第2膨張パルスをオフさせる前記期間中に前記インク室内のインクに生じる圧力増加のピークからこれに連続して前記インク室内のインクの圧力が通常圧力に戻るまでの期間において、前記収縮パルスをオフさせることを特徴とする請求項1記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記駆動手段は、前記インクの液滴の吐出後に同一のドットに対する前記インクの液滴の吐出が継続されるマルチドロップ動作中に限って、前記収縮パルスを含む前記駆動信号を生成することを特徴とする請求項2記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記駆動手段は、前記インク室の音響的共振周期の半分の周期であるALに基づいて決定した前記第1膨張パルスのパルス幅の2/5の期間を前記所定のインターバルの期間とした前記駆動信号を生成することを特徴とする請求項1、2又は3記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記駆動手段は、前記第1膨張パルスのパルス幅の3/5のパルス幅とした前記第2膨張パルスを含む前記駆動信号を生成することを特徴とする請求項4記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記駆動手段は、前記容積変更手段により前記インク室の容積を一定期間減少させる予備パルスを前記第1膨張パルスのオン前に含む前記駆動信号を生成することを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記インク室の周辺の環境温度又は前記インク室の温度を検出する温度検出手段と、該温度検出手段の検出結果に基づいて、前記駆動信号のパルス幅又はパルス間隔を補正する波形補正手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記駆動信号の内容には通常パターンと変更パターンとが存在し、前記インク室の周辺の環境温度又は前記インク室の温度と、変更可能な前記ノズルから前記記録紙までの距離と、前記記録紙の種類とのうち少なくとも1つの内容に基づいて、前記駆動信号の内容を前記通常パターンと前記変更パターンとのうちいずれにするかを決定するパターン決定手段をさらに備えており、前記駆動手段は、前記パターン決定手段が前記変更パターンを前記駆動信号の内容とすることを決定したときに、前記第1膨張パルスと前記第2膨張パルスとを含む前記駆動信号を生成することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の液滴吐出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−177920(P2011−177920A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41785(P2010−41785)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【特許番号】特許第4669568号(P4669568)
【特許公報発行日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】