説明

液滴形成基板の製造方法及び液滴形成基板の製造装置

【課題】スポットサイズのばらつきを低減させることが可能な液滴形成基板の作成技術を提供する。
【解決手段】液体を収容した分注容器の底部に設けられた吐出口の先端と被吐出対象体のスポット形成部位との垂直方向の距離が吐出口に保持することが可能な液塊の落下方向の長さ以下の所定ギャップとなるように分注容器の位置を設定し、液体を加圧して吐出口に液塊を形成し、当該液塊を基板に接するまで成長させ、液塊が被吐出対象体のスポット形成部位に接した後、液体の加圧を停止し、吐出口と被吐出対象体との間に液塊を保持した状態で液体の移動が停止するまで分注容器を被吐出対象体上で静置し、その後、分注容器を液塊から離間させ、被吐出対象体上にスポットを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料などの多数の液滴(液塊)を基板上に形成した液滴形成基板に関し、特に液滴形成基板の製造方法及び液滴形成基板の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴形成基板は、例えば、DNAチップ、RNAチップ、プロテインチップ、糖鎖チップなどのバイオチップ(マイクロアレイ)として使用されている。バイオチップは、数百から数万種類の生体関連物質や化学物質などを数平方センチメートルのガラススライドなどの基板に高密度に整列させ、固定化させたものである。バイオチップは、チップ上の物質と相互作用する物質の探索や相互作用をする物質のシグナルパターンから情報などを得るのに用いられる。バイオチップは、大量の情報を一度に処理、解析できるため、治療薬の開発ツール、病気の診断、健康のモニター等の様々な分野で期待されている。
【0003】
バイオチップの作成方法は、大まかに分類すると、光リソグラフ方式、表面接着方式、インクジェット方式に分けられる。
【0004】
分注法のうち表面接着方式は、分注針の針先を、例えばDNA断片などの生体関連試料を含む液体に浸した後、基板上に針先を接触させて液体をスポットしていく方法である。分注針は、洗浄液などで洗浄することにより再使用が可能であり、同じ分注針を用いて多種類の生体関連試料をスポッティングすることが可能である。この方式は、コストが安く、独自の配列パターンを作りやすいという利点がある。しかし、その一方で、針先を最初に液体に浸した際に、分注針の先端の周りに付着した余分な液体によって、最初に形成した液体のスポットと後のスポットでスポットサイズのばらつきが生じたり、あるいは、針先と基板の接触時間や接触角度などの接触の具合によって液体のスポットサイズにばらつきが生じる場合があった。
【0005】
このような状況下、上記問題を解決するために、特許第3436741号(特許文献1)には、分注針を液体に浸した後、針先に付着した余剰の液体を捨て打ち操作をすることにより除去する方法が開示されている。また、特開2004−325329号公報(特許文献2)には、分注ピンと分注対象物との距離を位置決めピンにより一定に保ち、分注ピン先端は分注対象物表面に接触させず、分注ピン先端に保持されたタンパク質を含む液滴を分注対象物に接触させ、液滴の表面張力により非接触で分注する方法が開示されている。また、特開2003−172744号公報(特許文献3)には、金属薄膜が成膜されている測定基板上に微量液体(生体試料)を、金属薄膜を傷つけることなく滴下する非接触型微量液滴下方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3436741号
【特許文献2】特開2004−325329号公報
【特許文献3】特開2003−172744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、直接分注針が基板に接触するため、接触によるばらつきが生じる虞がある。また、特許文献2の方法では、分注ピン先端を液体に浸して液体を分取するため、分注ピン先端周囲に付着した余剰の液体により、最初と後の液体スポットでスポットサイズにばらつきが生じる虞がある。また、液滴が保持された状態で分注ピンの移動を行うため、液滴が予定外の場所やタイミングで落下する虞がある。
【0007】
一方、特許文献3の方法では、タンクからポンプによって分注針に液体を補給するので、上記のような液滴が予定外の場所やタイミングで落下することにより生じるという不具合は生じない。また、ミクロンオーダーの光を照射し、その散乱光の広がりをセンサで計測することによって、液滴の大きさ(形状)を測定し、針先に送る液体の量を制御することにより、液滴の定量化を図っている。しかしながら、当該方法では、液滴の大きさの制御を液滴の大きさをセンサで計測しながらポンプ等により直接行っているため、非常に微少量の液量の制御が必要となる。このような微少量の液量を制御するには、高精度の装置が必要となり、装置の価格も高くなるため、液滴形成基板の製造コストも高くなる。
【0008】
よって、本発明はより安価な方法で液体スポットサイズのばらつきを低減させることが可能な液滴形成基板の作成技術を提供することを目的としている。また、本発明は液滴が予定外の場所やタイミングで落下することにより生じる虞のある汚染を回避することが可能な分注技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の液滴形成基板の製造方法は、底部に複数の吐出口を有して液体を収容する分注容器と液滴が供給されるべきスポット形成部位を複数備えた被吐出対象体とを上下に配置する過程と、上記吐出口と上記スポット形成部位との距離が、上記吐出口に形成される液塊を保持する保持限界長さを越えない範囲の所定ギャップとなるように、上記分注容器と上記被吐出対象体との相対的な位置を設定する過程と、上記液体を加圧して上記吐出口に上記液塊を生じさせ、上記液塊が上記被吐出対象体の上記スポット形成部位にそれぞれ接するまで上記液塊を成長させる過程と、上記液塊をそれぞれ上記吐出口と上記スポット形成領域との間に暫時保持する過程と、上記分注容器を上記被吐出対象体から離間させ、上記液塊を上記スポット形成領域上にそれぞれ移すことで上記液滴とする過程と、を含む。
【0010】
上記方法では、吐出口に形成した液塊を、吐出口と被吐出対象体のスポット形成部位との間に保持して、液体の移動(保持された液体の液量の変動)が停止するまで暫時保持することにより、各スポット形成部位の液塊の液量が同じになるように調整している。各吐出口部の物理的条件は共通であり、各スポット形成部位の物理的条件も共通であるので、分注容器を被吐出対象体から離間した後に被吐出対象体側に付与される各液滴の量は同じになる。上記方法によれば、高価な制御装置を必要とせず、より安価な方法でスポットサイズにばらつきのないマイクロアレイを製造することが可能となる。また、上記方法では、液滴の付与位置を決めてから分注容器に保持した液塊を成長させる(垂れ下がり)するので、液滴が分注容器の移動中に予定外の場所やタイミングで落下することにより生じる汚染を回避することが可能となる。
【0011】
好ましくは、上記被吐出対象体の各スポット形成部位を親液性とし、各スポット形成部位の周囲を撥液性とする。それにより、各スポット形成部位に付着する液滴の底面形状を一定にすることができる。
【0012】
好ましくは、上記分注容器の各吐出口の周囲を撥液性とする。それにより、隣接する吐出口間で液塊が繋がる(まじわる)ことを回避することが可能となる。
【0013】
好ましくは、上記被吐出対象体の各スポット形成部位を親液性とし、各スポット形成部位の周囲を撥液性とし、上記分注容器の各吐出口の周囲を撥液性とする。それにより、吐出口とスポット形成領域との間に保持される各液塊の形状が同じになり、各スポット形成領域に同量の液滴(液塊)を付与することが可能となる。
【0014】
また、本発明の液滴形成基板の製造方法は、スポット形成部位が、当該スポット形成部位の少なくとも周囲の領域より親液性が高い被吐出対象体上の当該スポット形成部位に、液体を分注することにより複数のスポットを形成する液滴形成基板の製造方法であって、液体を保持した分注容器の底部に設けられた吐出口の先端と上記被吐出対象体のスポット形成部位との垂直方向の距離が、上記吐出口に保持することが可能な液塊の落下方向の限界長さ以下の所定ギャップとなるように、上記分注容器の位置を設定する過程と、上記液体を加圧して上記吐出口に液塊を形成し、当該液塊を上記基板に接するまで成長させる過程と、上記液塊が上記被吐出対象体のスポット形成部位に接した後、液体の加圧を停止し、上記吐出口と上記被吐出対象体との間に液塊を保持した状態で液体の移動が停止するまで上記分注容器を上記被吐出対象体上で静置する過程と、上記分注容器を上記液塊から離間させ、上記被吐出対象体上に液体のスポットを形成する過程と、を含む。
【0015】
上記方法では、吐出口に形成した液塊を、吐出口と被吐出対象体のスポット形成部位との間に保持して、液体の移動(保持された液体の液量の変動)が停止するまで静置させることにより、スポットを形成する液量を調整している。したがって、液量を能動的に微調節することなく、吐出口側に液体を引く力と被吐出対象体側に液体を引く力との釣り合いによって定めることが可能となるので、高価な制御装置を必要とせず、より安価な方法でスポットサイズにばらつきのない液滴形成基板を製造することが可能となる。また、上記方法では、分注容器に保持した液塊を滴下するので、液滴が分注容器の移動中に予定外の場所やタイミングで落下することにより生じる汚染を回避することが可能となる。
【0016】
ここで、被吐出対象体は、一般に液滴形成基板の作成に用いられる部材であれば特に限定されないが、例えば、ガラス基板等の基板が挙げられる。
【0017】
本発明の他の態様は、スポット形成部位が、当該スポット形成部位の少なくとも周囲の領域より親液性が高い被吐出対象体上の当該スポット形成部位に、液体を分注することにより複数のスポットを形成する液滴形成基板の製造方法であって、液体を収容する複数の液体収容室及び当該液体収容室の底部にそれぞれ設けられた複数の吐出口を備えた分注容器の当該吐出口先端と上記被吐出対象体のスポット形成部位との垂直方向の距離が、上記吐出口に保持することが可能な液塊の落下方向の限界長さ以下の所定ギャップとなるように、上記分注容器の位置を設定する過程と、上記液体を加圧して上記吐出口に液塊を形成し、上記吐出口から吐出される全ての液塊が上記被吐出対象体に接するまで上記液塊を成長させる過程と、上記全ての液塊が上記被吐出対象体のスポット形成部位に接した後、液体の加圧を停止し、上記吐出口と上記被吐出対象体との間に液塊を保持した状態で液体の移動が停止するまで上記分注ユニットを上記被吐出対象体上で静置する過程と、上記分注ユニットを上記液塊から離間させ、上記被吐出対象体上にスポットを形成する過程と、を含む、液滴形成基板の製造方法を提供するものである。
【0018】
上記方法では、吐出口に形成した液塊を、吐出口と被吐出対象体のスポット形成部位との間に保持して、液体の移動(保持された液体の液量の変動)が停止するまで静置させることにより、スポットを形成する液量を調整している。したがって、液量を別途微調節することなく、吐出口側に液体を引く力と被吐出対象体側に液体を引く力との釣り合いによって定めることが可能となるので、高価な制御装置を必要とせず、より安価な方法で液体のスポットサイズにばらつきのない液滴形成基板を製造することが可能となる。また、上記方法によれば、各液体収容室に収容された液体を各々押圧する加圧力の差により、対応する複数の吐出口で形成される液塊の大きさにばらつきが生じても、最終的に、上記力の釣り合いにより液量の調整が図られるので、形成されるスポットのサイズのばらつきを低減することが可能となる。上記方法では、分注容器に保持した液塊を移動(転写)するので、液滴が分注容器の移動中に予定外の場所やタイミングで落下することにより生じる汚染を回避することが可能となる。
【0019】
上記被吐出対象体のスポット形成部位が親液性であり、上記スポット形成部位の少なくとも周囲が撥液性であることが好ましい。これによれば、スポット形成部位の少なくとも周囲が撥液性となるので、液滴をより確実にスポット形成部位内に形成することが可能となる。したがって、より確実にスポットサイズのばらつきを低減することが可能となる。
【0020】
本発明のさらなる他の態様は、スポット形成部位が、当該スポット形成部位の少なくとも周囲の領域より親液性が高い被吐出対象体上の当該スポット形成部位に、液体を分注することによりスポットを形成するマイクロアレイの製造装置であって、上部が開口した、液体を収容するための複数の液体収容室と、当該複数の液体収容室の底部にそれぞれ設けられた、当該液体収容室に収容された液体を外部に吐出するための複数の吐出口と、上記複数の液体収容室の開口を覆って1つ又は複数の閉空間を形成する1つ又は複数の蓋体とを備えた分注容器と、上記閉空間を加圧して、上記複数の吐出口に液塊を形成する加圧手段と、上記分注容器の吐出口の先端と被吐出対象体との間の、吐出対象面に対して略垂直方向の距離が、上記吐出口に保持することが可能な液塊の落下方向の限界長さ以下の所定ギャップとなるように、上記分注容器を上記略垂直方向に移動させる移動手段と、上記複数の吐出口に形成された全ての液塊が上記被吐出対象体に接触したことを検出する検出手段と、上記検出手段より送られる検出信号に応じて上記加圧手段に加圧を停止するよう停止信号を送信し、当該停止信号送信後の所定時間後に、上記移動手段に上記被吐出対象体から離間するよう移動信号を送信する制御手段と、を備える液滴形成基板の製造装置を提供するものである。
【0021】
これによれば、全ての吐出口に形成された液塊が被吐出対象体に接したことを検出して加圧を停止し、その後の所定時間後に分注容器を被吐出対象体から離間するので、液量を別途に微調節することなく、吐出口側に液体を引く力と被吐出対象体側に液体を引く力との釣り合いによって定めることが可能となる。したがって、高精度の制御機構を必要としないため、より安価な液滴形成基板の製造装置を提供し得る。また、これにより、例えば、スポットサイズにばらつきのないマイクロアレイをより安価に製造することが可能となる。また、各液体収容室に収容された液体を各々押圧する加圧力の差により、対応する複数の吐出口に形成される液塊の大きさにばらつきが生じても、最終的に、上記力の釣り合いにより液量の調整が図られるので、形成されるスポットのサイズのばらつきを低減することが可能となる。また、当該装置では、分注容器の位置決めをした後、分注容器の吐出口に液塊を成長させて液塊を被吐出対象体側に移動(転写)するので、液滴が分注容器の移動中に予定外の場所やタイミングで落下することにより生じる汚染を回避することが可能となる。
【0022】
本発明の液滴形成基板の製造装置は、液体を収容する液体収容室と上記液体を外部に吐出する複数の吐出口とを有する分注容器と、上記液滴が塗布されるべき被吐出対象体と、上記分注容器と上記被吐出対象体とが対向するように相互の位置を設定する移動手段と、上記液体収容室を加圧して、上記複数の吐出口に液塊を形成する加圧手段と、上記移動手段と上記加圧手段とを制御する制御部とを備え、上記制御部は、上記移動手段を制御して上記分注容器と上記被吐出対象体を上下に対向させて上記分注容器の吐出口と上記被吐出対象体との距離が上記吐出口に形成される液滴が落下する液滴の保持限界長さを越えない範囲の所定ギャップとなるように設定し、上記加圧手段を制御して上記分注容器の複数の吐出口と上記被吐出対象体間に液塊を形成した後上記移動手段を制御して上記分注容器と上記被吐出対象体とを離間させる、ことを特徴とする。
【0023】
かかる構成によれば、比較的に簡単な構成で被吐出対象体(基板など)上に略同量の液滴(試料溶液など)を同時に複数付与することができる。
【0024】
好ましくは、更に、上記複数の吐出口に形成された1つ又は複数の液塊が上記被吐出対象体に接触したことを検出する検出部を備え、上記制御部は、上記分注容器の複数の吐出口と上記被吐出対象体間の液塊の形成を上記検出部によって検出した後に上記移動手段を制御して上記分注容器と上記被吐出対象体とを離間させるる。それにより、液塊の付着を実際に確認して分注容器を離間させるので、作業の確実と作業時間の短縮化を図ることが可能となる。
【0025】
好ましくは、上記被吐出対象体の上記液滴(液塊)が塗布されるべきスポット形成部位が親液性であり、上記スポット形成部位の少なくとも周囲の部位が撥液性である。それにより、付与液滴(液塊)の底部形状が一定となる。
【0026】
好ましくは、上記分注容器の吐出口の周囲が撥液性である。それにより、隣接する吐出口間の液塊の繋がり(接触)を回避することが可能となる。また、吐出口の配置間隔を撥液性処理をしない場合に比べて狭く設定することが可能となる。
【0027】
好ましくは、上記制御部は、上記液塊が上記被吐出対象体に接触したことを検出した後、各液塊が略同量となるに要する暫時の時間を経過した後に、上記前記分注容器と上記被吐出対象体とを離間させる。それにより、被吐出対象体に付与される各液滴(液塊)が略同量となる。
【0028】
好ましくは、上記分注容器は吐出口を有する液体収容室を複数含み、各液体収容室がグループ化され、各グループ毎に前記加圧が行われるる。それにより、液体への加圧の均一化、液塊の成長の応答の均一化が図られる。
【0029】
また、本発明のマイクロアレイの製造装置の他の態様は、スポット形成部位が、当該スポット形成部位の少なくとも周囲の領域より親液性が高い被吐出対象体上の当該スポット形成部位に、液体を分注することによりスポットを形成するマイクロアレイの製造装置であって、上部が開口した、液体を収容するための複数の液体収容室と、当該複数の液体収容室の底部にそれぞれ設けられた、当該液体収容室に収容された液体を外部に吐出するための複数の吐出口と、上記複数の液体収容室の全開口を覆って1つの閉空間を形成する蓋体とを備えた分注容器と、上記蓋体に設けられた一つ又は複数の加圧口を介して上記閉空間を加圧して、上記複数の吐出口に液滴を形成する加圧手段と、上記分注容器の吐出口の先端と被吐出対象体との間の、吐出対象面に対して略垂直方向の距離が、上記吐出口に保持することが可能な液塊の落下方向の限界長さ以下の所定ギャップとなるように、上記分注容器を上記略垂直方向に移動させる移動手段と、上記複数の吐出口に形成された全ての液塊が上記被吐出対象体に接触したことを検出する検出手段と、上記検出手段より送られる検出信号に応じて上記加圧手段に加圧を停止するよう停止信号を送信し、当該停止信号送信後の所定時間後に、上記移動手段に上記被吐出対象体から離間するよう移動信号を送信する制御手段と、を備える。
【0030】
これによれば、全ての吐出口に形成された液塊が被吐出対象体に接したことを検出して加圧を停止し、その後の所定時間後に分注容器を被吐出対象体から離間するので、液量を能動的に(積極的な制御によって)微調節することなく、吐出口側に液体を引く力と被吐出対象体側に液体を引く力との釣り合いによって定めることが可能となる。また、蓋体と液体収容室との間に1つの閉空間を形成しているので、この閉空間を押圧するだけで、複数の液体収容室に収容された液体を一括して加圧することが可能となる。したがって、高精度の制御装置を必要とせず、また、分注容器の構造をより単純にすることが可能となる。また、当該装置では、一つの閉空間を加圧することにより全吐出口に形成される液塊の液量を調整するため、各吐出口間で液塊の形成(成長)速度にばらつきが生じやすいが、最終的に、上記力の釣り合いにより液量の調整が図られるので、形成されるスポットのサイズのばらつきを低減することが可能となる。したがって、スポットサイズにばらつきのない液滴形成基板(より具体的には、マイクロアレイ)をより安価に製造することが可能となる。また、当該装置では、分注容器の吐出位置決め後に吐出口に保持した液塊を成長させるので、液滴が分注容器の移動中に予定外の場所やタイミングで落下することにより生じる汚染を回避することが可能となる。
【0031】
上記被吐出対象体のスポット形成部位が親液性であり、上記スポット形成部位の少なくとも周囲が撥液性であることが好ましい。これによれば、スポット形成部位の少なくとも周囲が撥液性となるので、液滴をより確実にスポット形成部位内に形成することが可能となる。したがって、より確実にスポットサイズのばらつきを低減することが可能となる。
【0032】
上記蓋体の形状が断面略逆凹状であることが好ましい。これによれば、蓋体の形状を断面略逆凹状とすることで、蓋体側に加圧するための閉空間を設けることが可能となり、複数の液体収容室を含む分注容器本体側に加圧のための空間を設ける必要がなくなるので、分注容器本体の外壁を低くすることが可能となり、液体収容室への液体の供給が容易となる。
【0033】
また、断面略逆凹状の蓋体の開口を塞ぐように、加圧口からの距離に応じて孔径を変化させた複数の孔を有する仕切り板を設けてもよい。これによれば、各液体収容室に加わる力をより均等化することが可能となる。
【0034】
上記分注容器が上記被吐出対象体上のスポット形成部位上にくるように、上記分注容器を吐出対象面と略水平方向に相対的に移動させる(第2の)移動手段を更に備えることが好ましい。これによれば、分注容器を吐出対象面上の所望の位置に3次元的に移動が可能となる。
【0035】
上記液滴形成基板には、ガラスなどの基板の上に生体関連物質や化学物質の試料液をスポッティングし、固化して形成されるマイクロアレイが含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に、本発明の液滴形成基板の作成技術について、図面を参照しながら説明する。図1及び図2は、本発明の液滴形成基板の製造方法を説明するための工程図である。以下に述べる実施例では液滴形成基板の一例であるマイクロアレイの製造を例にして説明している。
【0037】
本発明の実施の形態では、図1(a)乃至同(c)に示すように、下面に複数の吐出口(ノズル)14が形成された分注容器10を使用する。分注容器10は各吐出口14毎に液体収容室12が形成され、各液体収容室12には同一種類あるいは異なる種類の試料溶液が収容される。分注容器10は密閉され、内部の閉空間の圧力(空気圧)が外部から調整できるように構成されている。各吐出口14の周りには撥水処理が施され、外部からの加圧によって各吐出口14に液塊26が形成される。この分注容器10の下部に被吐出対象体(基板)20が配置されている。被吐出対象体(基板)20には、周囲に撥液処理が施された親液処理領域が各吐出口に対応して形成されている。この分注容器10と被吐出対象体(基板)20とを予め液塊の垂下量(成長量)に対応した所定の距離に配置することによって所定量の試料溶液が被吐出対象体20の複数の被吐出領域に略同時に移される。
【0038】
まず、図1(a)に示すように、分注容器10(図1(b)参照)の分注容器本体10aに吐出する試料溶液を注入する。分注容器本体10aは、液体を収容することが可能な複数の液体収容室12を備えており、各液体収容室12の底壁(底部)にはそれぞれ収容した液体を外部に吐出するための吐出口(ノズル孔)14が設けられている。分注容器本体10aの最外周の外壁は、各液体収容室12を隔てる隔壁(仕切り壁)よりも一段高く設けられ、後述する蓋体を嵌合し得るようにその内周縁を切欠いて段差を形成している。吐出口14が形成された分注容器本体10aの下面16(以下、吐出口形成面ともいう)は、全面的あるいは部分的に撥液処理がなされ、各吐出口14の外周には撥液処理が施されている。この撥液処理によって各吐出口14に形成される試料溶液の液塊26相互が繋がらない(混じらない)ようにしている。
【0039】
なお、図1(a)では、簡略化されているが、いわゆるインクジェットプリンタのインクジェットヘッドの技術を用いて液体収容室12と吐出口14との間に適宜に液体の通路を形成し、試料溶液の自重滴下抑制や後述の各吐出口間の吐出圧力のバランス調整を図ることが可能である。また、各液体収容室12に試料溶液を注入する際には、分注容器本体10aの底部に図示しない下部キャップを被せて吐出口14から試料溶液の漏れを防止することとしてもよい。
【0040】
吐出口形成面16の撥液処理に用いられる撥液処理剤は、特に限定されるものではないが、例えばキシレン系樹脂や含弗素重合体が用いられる。キシレン系樹脂としては、例えば、パリレンC及びパリレンNといったパリレン樹脂等が用いられる。パリレン樹脂は、例えば化学蒸着法によりコーティングすることができる。含弗素重合体としては、特に非晶質含弗素重合体が好ましい。具体的には、ポリジパーフルオロアルキルフマレート、テフロンAF(DuPont社商標)、サイトップ(旭硝子(株)商標)のような含弗素重合体、ジパーフルオロアルキルフマレートとスチレンとの交互共重合体、三弗化塩化エチレンとビニルエーテルとの交互共重合体、四弗化塩化エチレンとビニルエステルとの交互共重合体などの含弗素エチレンと炭化水素系エチレンとの交互共重合体若しくはその類似体ないし誘導体、あるいは、フマライト(日本油脂(株)商標)が好ましい。これら非晶質含弗素重合体は選択的に弗素系有機溶剤に溶解することから、溶媒に任意の濃度で溶解してディッピングコート法や吹付け塗布でコーティングすることができる。
【0041】
分注容器本体10aを構成する材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、アイオノマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、アクリル系樹脂(例:ポリメチルメタクリレート)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイのような各種樹脂材料、各種ガラス材料、各種金属または金属酸化物材料等が挙げられる。
【0042】
実施例で用いられる試料溶液は、マイクロアレイを作成するのに用いられる生体試料成分を含む溶液であれば特に限定されない。当該生体試料としては、特に限定されるものではなく、例えば、タンパク質、核酸等の生体分子の他、人工的に合成されたオリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、PNA(peptide nucleic acid)等の類縁体をも含む。通常、このような生体試料は、水に分散されて用いられる。
【0043】
次に、図1(b)に示すように、分注容器本体10aの上部開口全体を蓋体(上部キャップ)18で覆い、分注容器本体10aを密閉する。各液体収容室12の上部は一つの蓋体18で覆われ、各液体収容室12は一つの閉空間22を共有する。閉空間22はチューブ19を介して後述の外部に設けられた圧力調整手段と繋がっており、収容された試料溶液に対する圧力チャンバとして機能する。蓋体18で分注容器本体10aを覆い、圧力チャンバを機能させて上述した下部キャップを外す。
【0044】
この分注容器10はその下面が平板状の被吐出対象体20の上面と対向するように配置される。分注容器10及び被吐出対象体20相互間の距離(分注容器10の高さ)Dは予め試料溶液の吐出(塗布)量に対応して定められた値に設定される。また、分注容器10の各吐出口14と被吐出対象体20上の各スポット形成部位(スポットを形成する予定位置)との水平方向の位置合せも行われる。
【0045】
ここで、分注容器10の吐出口形成面(下面)16と被吐出対象体20の吐出対象面(上面)との距離Dは、吐出口14に保持することが可能な液塊の落下方向の最大長さ(液塊が落下しない限界の大きさ)以内の所定ギャップとなるように定められる。また、当該限界範囲内で所定ギャップを種々の値に変更することによって当該ギャップで形成される液塊の大きさが設定される。吐出口14に形成される液塊は閉空間22に加えられる圧力によって液体が押し出されることによって成長し、被吐出対象体20の親液処理された吐出対象面20aに触れることによって吐出口14側から被吐出対象体20側に移動する。従って、ギャップDの設定によってスポット形成時の転写(塗布)液量を調節することが可能となる。後述のように、この所定ギャップは、吐出口14の半径に等しいことが望ましい(図4参照)。
【0046】
蓋体(上キャップ)18は、着脱可能で、断面略凹状(コの字状)をしており、分注容器本体10aに嵌合し、これに密着することで、分注容器本体10aと共に複数の液体収容室12を含む1つの閉空間22を形成する。後の図1(c)の工程で、この閉空間22を、チューブ19を介して連設された加圧手段(圧力調整手段)としてのポンプ(図示せず)により加圧することで、複数の液体収容室12に収容された全液体を一括して押圧することが可能となる。また、加圧手段で閉空間22を減圧することで吐出口14からの試料溶液の漏れを防止することが可能となる。
【0047】
蓋体18を構成する材料は、特に限定されるものではないが、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の弾性材料を用いることができる。このように蓋体18を弾性材料で構成することにより、分注容器本体10aの上端部に密着させることが可能となり、閉空間22の気密性を向上させることができる。
【0048】
なお、蓋体18は、弾性材料に代えて硬質部材で構成してもよく、この場合には、蓋体18又は分注容器本体10aの蓋体18と分注容器本体10aとの接合部付近に、シールリング等の密着性を高める部材を設けることで、閉空間22の機密性を高めることができる。
【0049】
また、蓋体18とチューブ19は、本実施形態では一体形成されているが、別体であってもよい。
【0050】
本発明で用いられる被吐出対象体20は、図3に示すように、スポット形成部位20aの親液性がその周囲の部位よりも値相対的に高くなるよう形成されている。スポット形成部位20aには親液処理がなされており、スポット形成部位以外の領域(以下、非スポット形成領域ともいう)20bには撥液処理がなされている。このように、スポット形成部位20aに親液処理を施し、非スポット形成領域20bに撥液処理を施すことで、転写(塗布)された試料溶液の液滴スポットをより確実に所望の形状(大きさ)にすることが可能となる。
【0051】
親液処理及び撥液処理の方法は、特に限定されるものではなく、本発明の技術分野で一般的に用いられる方法を用いることができる。例えば、スポット形成部位20aと非スポット形成領域20bのパターニング方法としては、インクジェット方式による薬剤塗布、フォトリソグラフィによる被膜形成、レーザー照射や電子ビーム照射等による処理などの方法が挙げられる。
【0052】
なお、被吐出対象体20自体が親液性又は撥液性である場合には、各々一方の処理を省略することが可能となる。すなわち、例えば、被吐出対象体20自体が親液性の場合には、非スポット形成領域20bに撥液処理を施せばよい。また、被吐出対象体20自体が撥液性である場合には、スポット形成部位20aに親液処理を施せばよい。
【0053】
また、スポット形成部位20aを凹部又は凸部に、好ましくは凹部としてもよい。これにより、より確実にスポットの大きさを画定することが可能となる。
【0054】
被吐出対象体20を構成する基板材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス、膜、合成樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなど)等が挙げられる。
【0055】
次に、図1(c)に示すように、図示しない加圧手段としてのポンプによりチューブ19を介して、閉空間22を加圧する。これにより、各吐出口14に液塊26が形成される。
【0056】
ポンプは、特に限定されるものではないが、例えば、シリンジポンプ、チューブポンプ等が好適に用いられる。
【0057】
本実施形態では、閉空間22を加圧する加圧口24が一つであるので、この加圧口24からの距離に応じて各吐出口14に形成される液塊26の成長速度に若干の差が生じる。すなわち、加圧口24から離れるほど、加圧力の伝達に時間がかかるので、液塊26の成長速度(液塊の形成開始時点)が遅くなる。
【0058】
次に、図2(d)に示すように、閉空間22の加圧を継続して各吐出口14に形成された全ての液塊26が被吐出対象体20に接触するまで液塊26を成長させる。全ての液塊26が被吐出対象体20に接触したら、閉空間22の加圧を停止する。全ての液塊26が被吐出対象体20に接触したか否かの検出は、後述するような検出方法が用いられる。なお、接触の検出に代えて実験などで決定した各液塊が接触に要する所定時間の間加圧状態を継続することとしてもよい。
【0059】
その後、吐出口14とスポット形成部位20aとの間に液塊26を保持した状態でそのまましばらく(暫時)静置すると、図2(e)に示すように、液塊26の自重及び液塊26がスポット形成部位20aに広がる際に働く力等により液塊26が下方に引きよせられ、液塊26を下方に引く力と上方に引く力が均衡したところで、液体の移動が停止する。このように、液塊26を下方に引く力と上方に引く力の釣り合いにより、液量を調整するため、最終的には全てのスポット形成部位20a上の液量が略均一になる(暫時経過後)。
【0060】
その後、図2(f)に示すように、分注容器10を基板20から静かに引き離すことにより、液塊26が吐出口形成面(ノズル面)16で切れて、被吐出対象体20上にスポットが形成されることになる。
【0061】
次に、本発明の原理(ギャップ設定)について説明する。図4は、本発明の原理を説明するための説明図である。
【0062】
同図に示すように、例えば、半径rの吐出口(ノズル)から出た液塊26が略半球になるときに、液塊26が平面基板と接する距離(液塊高さh)をギャップDとする。液体とノズルの内壁との接触角θとすると、θ=180°なので、θ1=90°、いわゆる接触角測定θ/2法から、2×θ2=θ1が成り立ち、θ2=45°となる。よって、液塊高さh=ノズル半径r=ギャップDとなる。また、ノズルから出た液体を半球(θ=180°)にすると、加圧力ΔPは、ΔP=2γL/rで表される。ここで、γLは液体とノズルの表面張力である。このときの液量は、半球の体積である(4/3)πr3×(1/2)により求められ、液重量は液体の密度によって算出される。
【0063】
被吐出対象体20の親液面に接触した液塊26は、被吐出対象体20側に移動し、液塊26は撥液処理がなされている下面16に沿って分離される。各ノズル及び各スポット形成部分を同じ条件で形成しているので、ノズルが液体を引っ張る力とスポット形成部分が液体を引っ張る力は各ノズルで同じになり、ノズル面から切れて平板基板上に作られるスポットの液量は各ノズルで同じになる。
【0064】
次に、本発明に用いられるマイクロアレイ製造装置の一例について説明する。図5は、本実施形態のマイクロアレイの製造装置の全体構成を示す概略図であり、図6は、図5に示されたマイクロアレイの製造装置の制御系を説明するためのブロック図である。
【0065】
図5及び図6に示されるように、マイクロアレイの製造装置1は、分注容器10、分注容器10内の閉空間22(図2参照)のを加圧あるは減圧することにより液体(試料溶液)の押し出しや液漏防止を行う加圧手段としてのポンプ106、分注容器10と被吐出対象体20との相対的な位置決めを行う位置決め機構(移動手段に相当する)、位置決め等の検出を行う検出部400、位置決め機構とポンプ106等の制御を行う制御部300、制御プログラムやデータを記憶する記憶部500、装置に対する指令入力や情報表示を行う入力部600等を含んでいる。
【0066】
上述したポンプ106は、例えば、シリンジタイプ(ピストンとシリンダ使用)やダイヤフラムタイプのもので構成されて、微小圧力の設定が可能である。
【0067】
検出部400は、全ての吐出口14に形成される液塊26が被吐出対象体20に接したことを検出し、加圧制御部302に、検出信号を送信する。検出部は、従来公知の検出機構が用いられる。具体的には、例えば、CCD(Charged Coupled Device)カメラ等の光学撮像手段により、全部又は一番遅いと思われる吐出口14に形成される液塊の成長を観察し、得られた画像をコンピュータ処理することにより検出することができる。または、レーザ光源と受光センサとを用い、レーザ光源から発生されたレーザ光源を液塊26が横切る際の受光強度変化により検出してもよい。
【0068】
位置決め機構は、分注容器10をx軸方向に移動するx軸方向移動部204、被吐出対象体20を移動作業台(ステージ)210に載置してy軸方向に移動するy軸方向移動部206、分注容器10をz軸方向に移動するz軸方向移動部202を備えている。
【0069】
制御部300は制御コンピュータによって構成され、制御プログラムによってポンプ106を制御する加圧制御部302、x軸方向移動部204を制御するx軸方向移動制御部306、y軸方向移動部206を制御するy軸方向制御部308、z軸方向移動部206を制御するz軸方向制御部304、ポンプ106を制御する加圧制御部302を構成する。また、制御部300は装置全体の動作を統括的に制御している。z軸方向移動部202が第1の移動手段に相当し、x軸方向移動部204及びy軸方向移動部206が第2の移動手段に相当する。
【0070】
x軸方向移動部204では、x軸方向駆動モータ(例えばステッピングモータ等)と分注容器10を運搬する図示しないキャリアとを駆動ベルトを介して接続しており、x軸方向移動制御部304から供給される駆動信号に応じて分注容器10を駆動するように構成されている。x軸方向移動部204が駆動されると、キャリア108はx軸方向に移動する。
【0071】
y軸方向移動部206は、y軸方向駆動モータ(例えばステッピングモータ等)により駆動される送りねじ方式により、被吐出対象体20を載置する移動作業台210をy軸方向に移動可能に構成されている。
【0072】
z軸方向移動部202は、z軸方向駆動モータ(例えばステッピングモータ等)により駆動される送りねじ方式により、分注容器10を運搬するキャリアを固定している固定バー208をz軸方向に移動可能に構成されている。
【0073】
加圧制御部302は、分注容器10から吐出する液量(液塊26の大きさ)を制御する。具体的には、加圧制御部302は、例えば、吐出口形成面16がz軸方向移動部202により所定距離移動され、固定された後に、ポンプ106に駆動信号を送信する。また、後述する検出部400により送信される検出信号に応じて、ポンプ106に加圧を停止するよう停止信号を送信する。
【0074】
上述したように、記憶部500には、例えば、スポットサイズと液塊の落下方向の長さ(距離Dに対応)との関係を実験的に測定若しくは計算により算出して作成した表、又は、スポットサイズと液体の押出し量との関係を実験的に測定若しくは計算により算出して作成した表等のデータベースが構築されている。
【0075】
上記のような構成において、制御部300は、入力部600により入力される、例えば、被吐出対象体20上のスポット形成開始位置、被吐出対象体20のサイズなどのxy方向相対位置決め情報に応じて、x軸方向移動部204及びy軸方向移動部206に駆動信号を送り、分注容器10を被吐出対象体20上のスポット形成部位上に水平移動させ、分注容器10と被吐出対象体20とを対向させる。
【0076】
また、制御部300は、入力部600から入力される試料溶液の種類、試料供給量、被吐出対象体20の種類・数、スポット数、スポットサイズ又は吐出予定液量等の各種のプロセスパラメータに応じて、記憶部500に記憶されたデータベースから当該試料溶液と当該使用分注容器10との表面張力、当該使用分注容器10のノズル半径などの情報を参照し、分注容器10と被吐出対象体20との間に設定すべきギャップD、ポンプ106に設定すべき加圧力ΔPなどを計算する。
【0077】
制御部300は、分注容器10を垂直方向に所定距離移動するよう、z軸方向制御部304を介してz軸方向移動部202に駆動信号を送り、分注容器10のノズルと被吐出対象体20との離間距離をギャップDになるように設定する。
【0078】
また、制御部300は、加圧制御部302を介してポンプ106により分注容器10の閉空間22を加圧し、液塊26を垂下させる。検出部400によって全ての吐出口に形成した液塊(又はサンプルの液塊)が被吐出対象体に接したことを検出して加圧を停止し、静圧状態とする。その後、各ノズルの全液塊が被吐出対象体20側に移動するまでの所定時間を経過すると、あるいは検出部400が全液塊(又はサンプルの液塊)が被吐出対象体に移動したことを検出すると、制御部300は分注容器10を被吐出対象体20から離間させるよう、z軸方向移動部202に移動信号を送り、分注容器10を所定の高さ位置(あるいは元の高さ位置)に戻す。分注容器10の離間の際にはその閉空間22を負圧に設定して吐出口14からの液漏れを防止することができる。
【0079】
なお、検出部400を用いた場合には、動作の確実化と吐出サイクルの短時間化を図れる利点があるが、検出部400は必須のものではない。上記所定時間として、分注容器10の吐出口14と被吐出対象体20との間に保持された液体の移動が終了する(液量が変動しなくなる)のに十分な時間を設定すればよい。
【0080】
制御部300は、このような試料溶液の基板への塗布処理を位置決め機構を制御して各被吐出対象体20に対して繰り返し、全被吐出対象体20への塗布処理を行う。
【0081】
本実施形態によれば、分注容器(のノズル)と被吐出対象体とのギャップ設定によって被吐出対象体への液体の付与量を設定することができるので、多数(複数)のノズルから同時に略同量の液体を被吐出対象体に付与することができて具合がよい。
【0082】
また、全ての吐出口に形成した液塊が被吐出対象体に接したことを検出して加圧を停止し、所定時間経過後に分注容器を被吐出対象体から離間するので、液量を個別に微調節することなく、また、全液塊を被吐出対象体に移動することが可能となる。
【0083】
また、蓋体と液体収容室との間に1つの閉空間を形成し、この閉空間を押圧するだけで、複数の液体収容室に収容された液体を一括して加圧することが可能となる。したがって、高精度の制御装置を必要とせず、また、分注容器の構造をより単純にすることが可能となる。
【0084】
また、本実施形態のマイクロアレイの製造装置では、一つの閉空間を加圧することにより全吐出口から押し出される液量を調整するため、各吐出口間で液塊の形成速度に多少のばらつきが生じることもある得るが、各ノズル及び被吐出対象体の各スポット形成部分を同じ条件で形成しているので、各ノズルにおける液塊に作用する力の釣り合いが同条件となって各液塊の分離の仕方が同じになり、形成されるスポットのサイズのばらつきを低減することが可能となる。したがって、スポットサイズにばらつきのないマイクロアレイをより安価に製造することが可能となる。
また、当該装置では、被吐出対象体との液滴付与の位置決めを行った後で分注容器の吐出口に液塊を形成し、保持した液塊を被吐出対象体側に移動するので、針を用いた場合のように、液滴が分注容器の移動中に予定外の場所やタイミングで落下することにより生じる汚染を回避することが可能となる。
【0085】
以上、本発明を一実施形態を例に採り、具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲又は趣旨を逸脱しない限り、適宜設計の変更を行うことが可能である。
【0086】
例えば、上記実施形態では、断面略凹状の蓋体18を用いたが、図7に示すように、略板状の蓋体18を用いてもよい。また、加圧口24は一つに限定されず、図8に示すように、複数(2以上)の加圧口24を設けてもよい。また、同図に示すように、板状の蓋体18内に隔壁を設け、加圧口24ごとに閉空間22を複数形成してもよい。これによれば、液体収容室が多数ある場合に、各液体収容室に収容された液体に加わる力をより均等化することが可能となる。また、圧力の伝搬時間をより均等化することが可能となる。また、断面略凹状の蓋体の開口を塞ぐように、加圧口からの距離に応じて孔径を変化させた複数の孔を有する仕切り板を設けてもよい。これによれば、各液体収容室に加わる力をより均等化することが可能となる。
【0087】
また、上記実施形態では、吐出口14は、液体収容室12の底部に設けた微細孔を用いたが、これに限定されず、例えば、(中空の)分注針を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は、本発明のマイクロアレイの製造方法を説明するための工程図である。
【図2】図2は、本発明のマイクロアレイの製造方法を説明するための工程図である。
【図3】図3は、被吐出対象体のスポット形成部位と非スポット形成領域のパターンを説明するための図である。
【図4】図4は、本発明の原理を説明するための説明図である。
【図5】図5は、本実施形態のマイクロアレイの製造装置の全体構成を示す概略図である。
【図6】図6は、本実施形態のマイクロアレイの製造装置の一例を説明するためのブロック図である。
【図7】図7は、分注容器の他の例を示す図である。
【図8】図8は、分注容器の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
1 マイクロアレイの製造装置、10 分注容器、10a 分注容器本体、12 液体収容室、14 吐出口、16 吐出口形成面、18 蓋体、19 チューブ、20 被吐出対象体、20a スポット形成部位、20b 非スポット形成領域、22 閉空間、24 加圧口、26 液塊、106 ポンプ、108 キャリア、202 z軸方向移動部、204 x軸方向移動部、206 y軸方向移動部、208 固定バー、210 移動作業台(ステージ)、302 加圧制御部、304 x軸方向移動制御部、306 y軸方向移動制御部、308 z軸方向移動制御部、400 検出部、500 記憶部、600 入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に複数の吐出口を有して液体を収容する分注容器と液滴が供給されるべきスポット形成部位を複数備えた被吐出対象体とを上下に配置する過程と、
前記吐出口と前記スポット形成部位との距離が、前記吐出口に形成される液塊を保持する保持限界長さを越えない範囲の所定ギャップとなるように、前記分注容器と前記被吐出対象体との相対的な位置を設定する過程と、
前記液体を加圧して前記吐出口に前記液塊を生じさせ、前記液塊が前記被吐出対象体の前記スポット形成部位にそれぞれ接するまで前記液塊を成長させる過程と、
前記液塊をそれぞれ前記吐出口と前記スポット形成領域との間に暫時保持する過程と、
前記分注容器を前記被吐出対象体から離間させ、前記液塊を前記スポット形成領域上にそれぞれ移すことで前記液滴とする過程と、
を含む液滴形成基板の製造方法。
【請求項2】
前記被吐出対象体の前記スポット形成部位を親液性とし、前記スポット形成部位の周囲を撥液性とした、請求項1に記載の液滴形成基板の製造方法。
【請求項3】
前記分注容器の前記吐出口の周囲を撥液性とした、請求項1又は2に記載の液滴形成基板の製造方法。
【請求項4】
液体を収容する液体収容室と前記液体を外部に吐出する複数の吐出口とを有する分注容器と、
前記液体が付与されるべき被吐出対象体と、
前記分注容器と前記被吐出対象体とが対向するように相互の位置を設定する移動手段と、
前記液体収容室を加圧して、前記複数の吐出口に液塊を形成する加圧手段と、
前記移動手段と前記加圧手段とを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記移動手段を制御して前記分注容器と前記被吐出対象体を上下に対向させて前記分注容器の吐出口と前記被吐出対象体との距離が前記吐出口に保持される液塊の保持限界長さを越えない範囲の所定ギャップとなるように設定し、前記加圧手段を制御して前記分注容器の複数の吐出口と前記被吐出対象体間に液塊を形成した後前記移動手段を制御して前記分注容器と前記被吐出対象体とを離間させ、前記液塊を前記被吐出対象体に移す、ことを特徴とする液滴形成基板の製造装置。
【請求項5】
更に、前記複数の吐出口に形成された1つ又は複数の液塊が前記被吐出対象体に接触したことを検出する検出部を備え、
前記制御部は、前記分注容器の複数の吐出口と前記被吐出対象体間の液塊の形成を前記検出部によって検出した後に前記移動手段を制御して前記分注容器と前記被吐出対象体とを離間させる、請求項4に記載の液滴形成基板の製造装置。
【請求項6】
前記被吐出対象体の前記液体が付与されるべきスポット形成部位が親液性であり、前記スポット形成部位の少なくとも周囲の部位が撥液性である、請求項4又は5に記載の液滴形成基板の製造装置。
【請求項7】
前記分注容器の吐出口の周囲が撥液性である、請求項4乃至6のいずれかに記載の液滴形成基板の製造装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記液塊が前記被吐出対象体に接触したことを検出した後、各液塊が略同量となるに要する暫時の時間を経過した後に、前記分注容器と前記被吐出対象体とを離間させる、請求項5に記載の液滴形成基板の製造装置。
【請求項9】
前記分注容器は吐出口を有する液体収容室を複数含み、各液体収容室がグループ化され、各グループ毎に前記加圧が行われる、請求項4乃至8のいずれかに記載の液滴形成基板の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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