説明

液滴径予測方法及び液滴径予測シミュレータ

【課題】乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、均質バルブ機構のバルブシートやディスクバルブの形状、乳化前エマルションの特性の影響を加味し、より正確に予測する。
【解決手段】対向壁面間同士が平行な隙間平行部が形成された乳化処理路に、分散相と連続相とを含む乳化前エマルションを通過させ乳化後エマルション中の分散相の液滴径を予測する液滴径予測方法であって、隙間平行部の対向壁面でのせん断応力の代表値である壁面せん断応力の平均値τave、乳化処理路通過時の圧力損失から算出される隙間平行部での対向壁面間の有効間隔δ、乳化前エマルション中の分散相と連続相との界面の界面張力γ、乳化前エマルション中の分散相の液滴径dbeforeに基づいて、乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、液滴径dthe=(kγ/(τaveδ))1/m・dbefore(ただし、k,mは定数)として予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクバルブと、ディスクバルブに対向して設けられるバルブシートとを備えて構成されるとともに、ディスクバルブとバルブシートとの対向壁面間に形成された径方向に放射状に延びる乳化処理路が形成される均質バルブ機構において、この乳化処理路に、分散相と連続相とを含む乳化前エマルションを通過させ、乳化された乳化後エマルション中の分散相の液滴径を予測する液滴径予測方法及び液滴径予測シミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
上記均質バルブ機構は乳化分散装置に設けられ、この乳化分散装置は、例えば、分散相と連続相とを含む乳化前エマルションを一定圧力に昇圧する3連又は5連式プランジャーポンプ機構と、均質バルブ機構とを備えて構成されて、プランジャーポンプ機構により加圧された乳化前エマルションを均質バルブ機構に導入して乳化している。すなわち、均質バルブ機構は、ディスクバルブとバルブシートとの対向壁面間において径方向に放射状に形成された狭隘な乳化処理路に、乳化前エマルションを通過させて乳化するように構成され、乳化前エマルション中の連続相及び分散相にせん断・衝突・キャビテーション等の相乗作用を瞬間的に発生させることにより、連続相中における分散相を微細化し均質的な乳化状態を作り、液分離(浮遊・沈殿等)を防ぐようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の乳化分散装置では、均質バルブ機構に円筒状の凸部を備えたディスクバルブと円形状の凹部を有するバルブシートとを備え、ディスクバルブの凸部がバルブシートの凹部に挿入されることにより形成される隙間を乳化処理路とする構成が開示されている。そして、バルブシートの凹部に形成された乳化前エマルションの導入口の直径、凹部の直径、さらに、ディスクバルブの直径、凸部の直径等を適切に設定することにより、均質バルブ機構(乳化処理路)を通過する乳化前エマルションに対して効率的にせん断力等を付与することが可能となり、乳化前エマルション中に含まれる分散相の微細化及び均質化を促進することができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−190752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記のとおり、乳化分散装置における均質バルブ機構においては、連続相と分散相とを含む高圧となった乳化前エマルションが狭隘な乳化処理路を通過して乳化されることにより、分散相の液滴径が微細化及び均質化された状態の乳化後エマルションが形成される。
この均質バルブ機構における乳化の効果としては、例えば、乳化処理路を通過することにより、乳化前エマルション中に含まれる分散相の液滴径がどれほど微細化(均質化)されて、乳化後エマルション中の分散相の液滴径となっているかを指標とすることができる。
しかしながら、例えば、特許文献1に記載の均質バルブ機構では、当該均質バルブ機構における乳化の効果について上記指標に基づいて検討する際には、乳化前エマルション中の分散相の液滴径と、乳化後エマルション中の分散相の液滴径とを実際に測定し、両者を比較する必要があった。従って、例えば、均質バルブ機構を構成するディスクバルブやバルブシートの形状を変更する場合などには、これら変更後の部材を実際に作成する必要があるとともに、さらに作成した部材を均質バルブ機構にその都度設置して乳化前エマルションを乳化処理路に通過させる必要があり、乳化の効果の検証には手間が非常に掛かるという問題があった。同様に、例えば、乳化前エマルションの種類が変わった場合にも、それぞれの乳化前エマルションを実際に乳化処理路に通過させる必要があり、非常に手間が掛かっていた。
【0006】
一方で、このような均質バルブ機構における乳化処理路内の流れについては種々研究がなされており、例えば、乳化前エマルションが乳化処理路を通過することによる乳化の効果に関しては、乳化処理路の入口圧力と出口圧力との圧力差(圧力損失)を用いて検討がなされ、当該圧力損失に基づいて乳化後エマルション中の分散相の液滴径を予測することが検討されている。しかしながら、この場合には、均質バルブ機構を構成するバルブシートやディスクバルブの形状がどのようなものであっても、また、乳化前エマルションの種類がどのようなものであっても、乳化処理路の圧力損失が同じであれば、乳化の効果も同じであると判断され、結果として、圧力損失に基づいて予測された乳化後エマルション中の分散相の液滴径と、現実に測定された乳化後エマルション中の分散相の液滴径とが整合しないことがあり、改良の余地があった。
【0007】
本発明は、かかる点に着目してなされたものであり、その目的は、均質バルブ機構において乳化された乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、バルブシートやディスクバルブの形状、乳化前エマルションの特性の影響を加味して、より正確で現実に沿う状態で予測可能な液滴径予測方法及び液滴径予測シミュレータを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る液滴径予測方法は、ディスクバルブと、前記ディスクバルブに対向して設けられるバルブシートとを備えて構成されるとともに、前記ディスクバルブと前記バルブシートとの対向壁面間に径方向に放射状に延びる乳化処理路が形成され、前記乳化処理路には前記対向壁面同士が平行な隙間平行部が前記ディスクバルブの中心軸に対して径方向に第1距離の位置から第2距離の位置にまで形成される均質バルブ機構において、前記均質バルブ機構の前記乳化処理路に、分散相と連続相とを含む乳化前エマルションを通過させ、乳化された乳化後エマルション中の分散相の液滴径を予測する液滴径予測方法であって、その特徴構成は、
前記隙間平行部を形成する前記対向壁面におけるせん断応力の代表値である壁面せん断応力の平均値τave、前記乳化処理路通過時の圧力損失から算出される前記隙間平行部における前記対向壁面間の有効間隔δ、前記乳化前エマルション中の分散相と連続相との界面の界面張力γ、前記乳化前エマルション中の分散相の液滴径dbeforeに基づいて、前記乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、
液滴径dthe=(kγ/(τaveδ))1/m・dbefore(ただし、k,mは定数)として予測する点にある。
【0009】
本特徴構成によれば、上記式を用いることにより、均質バルブ機構の乳化処理路において乳化された乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、バルブシートやディスクバルブの形状、乳化前エマルションの特性の影響を加味して、より正確で現実に沿う状態で予測することが可能となる。
以下、本特徴構成による液滴径予測方法について説明する。
【0010】
まず、均質バルブ機構には、ディスクバルブと、ディスクバルブに対向して設けられるバルブシートとを備え、ディスクバルブとバルブシートとの対向壁面間に径方向に放射状に延びる狭隘な乳化処理路が形成される。また、乳化処理路には対向壁面同士が平行な隙間平行部がディスクバルブの中心軸に対して径方向に第1距離の位置から第2距離の位置にまで形成される。これにより、均質バルブ機構の乳化処理路における隙間平行部に、分散相と連続相とを含む乳化前エマルションを通過させて乳化することができ、乳化後エマルション中の分散相の液滴径を微細化及び均質化することが可能となる。
【0011】
上記均質バルブ機構において、隙間平行部を形成する対向壁面におけるせん断応力の代表値である壁面せん断応力の平均値τave、乳化処理路通過時の圧力損失から算出される隙間平行部における対向壁面間の有効間隔δ、乳化前エマルション中の分散相と連続相との界面の界面張力γ、乳化前エマルション中の分散相の液滴径dbeforeに基づいて、乳化処理路を通過した乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、液滴径dtheとして予測する。
具体的には、乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、
液滴径dthe=(kγ/(τaveδ))1/m・dbefore(ただし、k,mは定数)として予測する。
【0012】
この式の導出過程について説明すると、まず、本願の発明者らは、気泡や液滴が他の液体中を運動する場合に、その境界面に働く慣性力と界面張力γの比を示す無次元数であるウェーバー数Weτに着目した。ここでは、せん断応力τを含む修正ウェーバー数を用いる。ウェーバー数Weτは、気泡や液滴の境界面に働く慣性力としてのせん断応力τ、乳化前エマルション中の分散相と連続相との界面の界面張力γ、乳化前エマルション中の分散相の液滴径d、乳化後エマルション中の分散相の液滴径d、定数k、定数m、代表長さlとすると、一般に、
Weτ=τl/γ
Weτ=k(d/d)
として、それぞれ別個の式として示される。
次に、本願の発明者らは、代表長さlを乳化処理路における隙間平行部の有効間隔δとして、両式を下記式のように仮定した。このような仮定は、本願の発明者らが独自に考案したものである。
τδ/γ=k(dbefore/dthe
なお、乳化前エマルション中の分散相の液滴径dbefore、乳化後エマルション中の分散相の液滴径dthe(予測値)とした。
そして、本願の発明者らは、せん断応力τの代表値として壁面せん断応力の平均値τaveを採用することにより、乳化処理後の乳化後エマルションの分散相の液滴径は、
液滴径dthe=(kγ/(τaveδ))1/m・dbeforeと予測することができることを見出した。このように、せん断応力τの代表値として壁面せん断応力の平均値τaveを採用する点についても、本願の発明者らが独自に考案したものである。
【0013】
従って、当該式中において、予測対象である乳化後エマルション中の分散相の液滴径dthe以外の値は、採用する均質バルブ機構におけるディスクバルブ及びバルブシートの形状、乳化処理路を通過時の圧力損失、乳化前エマルションの特性等により容易に測定或いは計算可能な値であるので、容易に乳化後エマルション中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測することが可能となる。
また、当該式中には、乳化前エマルションの物性、及びバルブシートの形状等により決定される条件(界面張力γ、せん断応力の平均値τave)が含まれていることから、これら条件を加味して、より正確で現実に沿う状態で乳化後エマルション中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測することが可能となる。特に、当該式中には、乳化前エマルションの物性である界面張力γが含まれており、複数種の乳化前エマルションのそれぞれに対応する界面張力γに比例する形態で、乳化後エマルション中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測することが可能となる。
【0014】
よって、本特徴構成に係る液滴径予測方法を用いることにより、均質バルブ機構の乳化処理路において乳化された乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、バルブシートやディスクバルブの形状、乳化前エマルションの特性の影響を加味して、より正確で現実に沿う状態で予測することが可能となる。
【0015】
本発明に係る液滴径予測方法の更なる特徴構成は、前記隙間平行部における流れが層流である場合には、前記壁面せん断応力の平均値τaveが、前記隙間平行部における流れを二次元軸対称のポアズイユ流れとするときの流速分布により算出される壁面せん断応力の平均値であり、前記隙間平行部における流れが乱流である場合には、前記壁面せん断応力の平均値τaveが、前記隙間平行部における流れを円管内の乱流速度分布の1/7乗則に従うとするときの流速分布により算出される壁面せん断応力の平均値である点にある。
【0016】
上記特徴構成によれば、乳化処理路の隙間平行部における流れが、層流の場合でも乱流の場合でも、その流れの状態に正確に対応した流速分布に基づいて算出される壁面せん断応力の平均値τaveを用いて、当該隙間平行部を通流して乳化された乳化後エマルションの分散相の液滴径を、より正確に予測することが可能となる。
【0017】
本発明に係る液滴径予測方法の更なる特徴構成は、前記隙間平行部における流れが層流である場合には、前記隙間平行部が形成される前記第1距離を第1距離y、前記第2距離を第2距離yとするとともに、前記乳化前エマルションの粘度を粘度μ、前記乳化処理路を通流する前記乳化前エマルションの流量を流量Qとし、
前記壁面せん断応力の平均値τaveを、τave=6μQ/(πδ(y+y))として、
前記乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、
液滴径dthe=(kπγδ・(y+y)/(6μQ))1/m・dbefore(ただし、k,mは定数)として予測する点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、隙間平行部における流れが層流である場合において、壁面せん断応力の平均値τaveが、ディスクバルブやバルブシートの形状で決定される乳化処理路の隙間平行部の長さ(ディスクバルブの中心軸からの第1距離y、第2距離y)、乳化前エマルションの粘度μ、乳化処理路を通流する乳化前エマルションの流量Qの条件を含むように構成される。この壁面せん断応力の平均値τaveを採用することにより、乳化後エマルション中の液滴径をバルブシートの形状や乳化前エマルションの物性等に、より正確に対応する状態で、乳化後エマルション中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測することが可能となる。特に、当該壁面せん断応力の平均値τaveには、隙間平行部の長さ(ディスクバルブの中心軸からの第1距離y、第2距離y)が含まれており、隙間平行部を形成する複数種のディスクバルブやバルブシートのそれぞれに対応する形態で、乳化後エマルション中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測することが可能となる。
【0019】
本発明に係る液滴径予測方法の更なる特徴構成は、前記乳化処理路における前記バルブシート側の前記対向壁面が、前記隙間平行部の上流側において、前記径方向に対して前記ディスクバルブ側とは反対側に傾斜する傾斜面を備える点にある。
【0020】
上記特徴構成によれば、乳化処理路におけるバルブシート側の対向壁面が、隙間平行部の上流側において、径方向に対してディスクバルブ側とは反対側に傾斜する傾斜面を備えるので、乳化処理路に導入される乳化前エマルションが隙間平行部に案内され易くなる。また、乳化処理路のバルブシート側の対向壁面に形成された傾斜面の存在により、乳化処理路における隙間平行部が短くなり、例えば、乳化処理路の入口圧力や流量が同じ場合には、隙間平行部における隙間δは狭くなり、隙間平行部における流速も大きく、せん断応力が大きくなるので、乳化処理路に導入するための動力を大きくすることなく、乳化作用を大きくすることが可能となる。
【0021】
上記目的を達成するための本発明に係る液滴径予測シミュレータは、ディスクバルブと、前記ディスクバルブに対向して設けられるバルブシートとを備えて構成されるとともに、前記ディスクバルブと前記バルブシートとの対向壁面間に径方向に放射状に延びる乳化処理路が形成され、前記乳化処理路には前記対向壁面同士が平行な隙間平行部が前記ディスクバルブの中心軸に対して径方向に第1距離の位置から第2距離の位置にまで形成される均質バルブ機構において、前記均質バルブ機構の前記乳化処理路に、分散相と連続相とを含む乳化前エマルションを通過させ、乳化された乳化後エマルション中の分散相の液滴径を予測する液滴径予測方法を実行する制御部を備えた液滴径予測シミュレータであって、その特徴構成は、
前記隙間平行部を形成する前記対向壁面におけるせん断応力の代表値である壁面せん断応力の平均値τave、前記乳化処理路通過時の圧力損失から算出される前記隙間平行部における前記対向壁面間の有効間隔δ、前記乳化前エマルション中の分散相と連続相との界面の界面張力γ、前記乳化前エマルション中の分散相の液滴径dbeforeが前記制御部に入力され、
前記制御部が、前記壁面せん断応力の平均値τave、前記有効間隔δ、前記界面張力γ、前記乳化前エマルション中の分散相の液滴径dbeforeに基づいて、前記乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、
液滴径dthe=(kγ/(τaveδ))1/m・dbefore(ただし、k,mは定数)として予測して出力する点にある。
【0022】
本特徴構成によれば、上記式を用いることにより、制御部にて、均質バルブ機構の乳化処理路において乳化された乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、バルブシートやディスクバルブの形状、乳化前エマルションの特性の影響を加味して、より正確で現実に沿う状態で予測することが可能となる。これにより、本特徴構成による液滴径予測シミュレータでは、制御部が上記液滴径予測方法を実行するので、基本的には上記液滴径予測方法が奏する作用効果と同様の作用効果を奏する。なお、本特徴構成による液滴径予測シミュレータでは、上述された壁面せん断応力の平均値τave、隙間平行部における対向壁面間の有効間隔δ、界面張力γ、乳化前エマルション中の分散相の液滴径dbeforeが制御部に入力され、これら情報に基づいて、制御部が、乳化処理路を通過した乳化後エマルション中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測し、出力するように構成される。
【0023】
従って、当該式中において、予測対象である乳化後エマルション中の分散相の液滴径dthe以外の値は、採用する均質バルブ機構におけるディスクバルブ及びバルブシートの形状、乳化処理路通過時の圧力損失、乳化前エマルションの特性等により容易に測定或いは計算可能な値であるので、これら値を制御部に入力することにより、液滴径予測シミュレータにより容易に乳化後エマルション中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測して、出力することが可能となる。
また、当該式中には、乳化前エマルションの物性、及びバルブシートの形状等により決定される条件(界面張力γ、せん断応力の平均値τave)が含まれていることから、これら条件を加味して、より正確で現実に沿う状態で乳化後エマルション中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測及び出力することが可能となる。特に、当該式中には、乳化前エマルションの物性である界面張力γが含まれており、複数種の乳化前エマルションのそれぞれに対応する界面張力γに比例する形態で、乳化後エマルション中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測及び出力することが可能となる。
【0024】
本発明に係る液滴径予測シミュレータの更なる特徴構成は、前記隙間平行部における流れが層流である場合には、前記隙間平行部が形成される前記第1距離を第1距離y、前記第2距離を第2距離yとするとともに、前記乳化前エマルションの粘度を粘度μ、前記乳化処理路を通流する前記乳化前エマルションの流量を流量Qとし、
前記隙間平行部における流れを二次元軸対称のポアズイユ流れとするときの流速分布により算出される壁面せん断応力の平均値である、前記壁面せん断応力の平均値τave=6μQ/(πδ(y+y))が前記制御部に入力され、
前記制御部が、前記乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、
液滴径dthe=(kπγδ・(y+y)/(6μQ))1/m・dbefore(ただし、k,mは定数)として予測する点にある。
【0025】
上記特徴構成によれば、乳化処理路の隙間平行部における流れが層流の場合に、その流れの状態に正確に対応した流速分布に基づいて算出される壁面せん断応力の平均値τaveを用いて、当該隙間平行部を通流して乳化された乳化後エマルションの分散相の液滴径を、より正確に予測することが可能となる。
すなわち、当該壁面せん断応力の平均値τaveが、ディスクバルブやバルブシートの形状で決定される乳化処理路の隙間平行部の長さ(ディスクバルブの中心軸からの第1距離y、第2距離y)、乳化前エマルションの粘度μ、乳化処理路を通流する乳化前エマルションの流量Qの条件を含むように構成される。この壁面せん断応力の平均値τaveを採用することにより、乳化後エマルション中の液滴径をバルブシートの形状や乳化前エマルションの物性等に、より正確に対応する状態で、乳化後エマルション中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測することが可能となる。特に、当該壁面せん断応力の平均値τaveには、隙間平行部の長さ(ディスクバルブの中心軸からの第1距離y、第2距離y)が含まれており、隙間平行部を形成する複数種のディスクバルブやバルブシートのそれぞれに対応する形態で、乳化後エマルション中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】均質バルブ機構を備えた乳化分散装置の概略斜視図
【図2】シャープ形状のバルブシートを備えた均質バルブ機構の断面視図
【図3】シャープ形状のバルブシートを備えた均質バルブ機構の断面視図
【図4】圧力損失と有効間隔との関係を示すグラフ図
【図5】計測された乳化後エマルション中の分散相の体積基準の液滴径分布のメジアン径(液滴径)dと、本願に係る液滴径予測方法により予測された乳化後エマルション中の分散相の体積基準の液滴径分布のメジアン径(液滴径)dtheとの関係を示すグラフ図
【図6】計測された乳化後エマルション中の分散相の液滴径分布の体面積平均径(液滴径)dと、本願に係る液滴径予測方法により予測された乳化後エマルション中の分散相の液滴径分布の体面積平均径(液滴径)dtheとの関係を示すグラフ図
【図7】フラット形状のバルブシートを備えた均質バルブ機構の断面視図
【図8】計測された乳化後エマルション中の分散相の体積基準の液滴径分布のメジアン径(液滴径)dと、本願に係る液滴径予測方法により予測された乳化後エマルション中の分散相の体積基準の液滴径分布のメジアン径(液滴径)dtheとの関係を示すグラフ図
【図9】計測された乳化後エマルション中の分散相の液滴径分布の体面積平均径(液滴径)dと、本願に係る液滴径予測方法により予測された乳化後エマルション中の分散相の液滴径分布の体面積平均径(液滴径)dtheとの関係を示すグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、乳化分散装置1は、被処理流体である乳化前エマルションBを受け入れる受入部2と、受入部2にて受け入れた乳化前エマルションBを一定圧力に昇圧するプランジャーポンプ機構3と、プランジャーポンプ機構3にて昇圧されて導入される乳化前エマルションBを微細化及び均質化する均質バルブ機構4と、均質バルブ機構4にて均質化された乳化後エマルションAを送出する送出部5とが設けられている。また、乳化分散装置1は、運転を制御する制御部6を備えて構成されており、この制御部6が本願に係る液滴径予測シミュレータ50としての機能を実現するように構成されている。なお、制御部6と液滴径予測シミュレータ50とを別々の構成とすることも当然可能である。さらに、乳化分散装置1は、均質バルブ機構4に導入される前の乳化前エマルションBの圧力及び均質バルブ機構4から送出された後の乳化後エマルションAの圧力を検出可能な圧力検出部7と、均質バルブ機構4における流量を検出可能な流量検出部8とを備える。
従って、乳化分散装置1は、受入部2から導入されプランジャーポンプ機構3により高圧とされた乳化前エマルションBを均質バルブ機構4に通過させ、乳化されて微細化及び均質化された乳化後エマルションAとすることができるように構成されている。なお、液滴径予測シミュレータ50の構成及び機能については後述する。
【0028】
プランジャーポンプ機構3は、例えば、乳化前エマルションBを一定圧力に昇圧して均質バルブ機構4に送り出すプランジャーを3本備えた3連式ポンプ又は5本備えた5連式ポンプで構成されている。プランジャーポンプ機構3は、プランジャーの夫々により乳化前エマルションBを均質バルブ機構4に送り出すタイミングを異なるようにして、高圧状態(例えば、15MPa〜150MPa程度)の乳化前エマルションBを連続的に均質バルブ機構4に送り出すように構成されている。
【0029】
均質バルブ機構4は、図2に示すように、バルブシート9、ディスクバルブ10、インパクトリング11を主要構成として備えている。
バルブシート9は、中心部に開口部9aを備えた円筒状の部材であり、プランジャーポンプ機構3に接続される導入路形成部材12の先端に装着され、ディスクバルブ10と対向するように設けられている。また、バルブシート9は、導入路形成部材12の軸方向端面12aに当接された状態で位置決めされ、導入路形成部材12とは反対側でありディスクバルブ10と対向する表面を乳化処理路形成面9bとしている。なお、導入路形成部材12は、円筒状に形成され、その内側には乳化前エマルションBを通流可能な導入路12bが形成されている。
【0030】
ディスクバルブ10は、概略円筒状部材として構成されており、バルブシート9に対向する表面を乳化処理路形成面10aとしている。従って、バルブシート9とディスクバルブ10との対向壁面(乳化処理路形成面9b及び乳化処理路形成面10a)間に形成された径方向に放射状に延びる狭隘な乳化処理路14が形成される。また、ディスクバルブ10は、バルブシート9とは反対側の端面側を位置決め機構13により保持されており、位置決め機構13に設けられたハンドル(図示せず)を回転させるか、又は油圧位置決め装置(図示せず)を用いてディスクバルブ10の位置を調整することにより、バルブシート9側の乳化処理路形成面9b(後述する隙間平行面9b1)とディスクバルブ10側の乳化処理路形成面10aとの間の有効間隔δ(ディスクバルブ10の軸方向における乳化処理路14(隙間平行部14b)の幅)を調整自在に構成されている。なお、この乳化処理路14(隙間平行部14b)の幅である有効間隔δは、非常に狭い間隔(例えば、数μm〜数百μm程度)に調整可能に構成される。
【0031】
インパクトリング11は、乳化処理路14の出口側(外径側)において、バルブシート9とディスクバルブ10とに亘って配設されており、乳化処理路14を通過した乳化後エマルションAがインパクトリング11に衝突することにより、乳化・分散を促進するように構成されている。また、乳化処理路14の出口側(外径側)に連通し、径方向におけるディスクバルブ10とインパクトリング11との間を連通して、径方向で外径側に延びる吐出路15が形成されている。この吐出路15は、乳化処理路14の出口の下流側に設けられた円筒状の吐出路形成部材16の内側に形成されるとともに、この吐出路形成部材16から径方向に延出する円筒状の部材16aの内側に形成される。従って、乳化処理路14を通過した乳化後エマルションAを吐出路15を介して送出部5に送出可能に構成されている。なお、バルブシート9、ディスクバルブ10、インパクトリング11、導入路形成部材12、及び吐出路形成部材16は、円筒状に形成された部材であり、その中心軸が同じとなるように同心状に設けられている。
【0032】
均質バルブ機構4に加圧導入される乳化前エマルションBは、水等の連続相に比較的大径の液滴(油・牛乳等の流体で比較的液滴径の大きな分散相)が不均一に混合した混合流体である。この乳化前エマルションBは、均質バルブ機構4を通過することで、乳化処理前の状態よりも液滴径の微細化した分散相が、連続相内において均一に分散した状態の乳化後エマルションAとなる。なお、エマルションとは、例えば、水と油のようにお互いに混じり合わない少なくとも二つの液体に乳化剤を添加し、攪拌等の機械的な操作を加え、油滴を水分散媒(又は水滴を油分散媒)に均一に分散した液/液系の乳濁液をいい、分散している液滴を分散相、これをとりまく外側の液体を連続相と呼ぶ。ただし、必ずしも水相と油相とが存在する訳ではなく、油滴を水以外の連続相へ(又は水滴を油以外の連続相へ)乳化させる場合なども含まれる。エマルションの例としては、例えば、シリコーンオイル及び水に乳化剤を添加したものや流動パラフィン及び水に乳化剤を添加したもの等がある。なお、例えば、シリコーンオイルのエマルションは、消泡剤、繊維処理剤、シリコーン離型剤として用いられ、またヘアケア化粧品(シャンプー・リンス等)、化粧品等に添加されて用いられる。流動パラフィンのエマルションは、化粧クリームの乳化原料、クリーム基材(クレンジングクリーム、ハンドクリーム、ベビーオイル等)、ヘアケア製品基材(ヘアートリートメント等)、化粧品(ファンデーション等)、医薬・医療品原料として用いられるものである。
【0033】
圧力検出部7は、公知の圧力計を採用できるが、均質バルブ機構4における乳化処理路14の入口と出口の圧力を検出し、これら圧力差を検出することにより乳化処理路14を通過時の圧力損失を検出可能に構成され、検出結果を制御部6に出力可能に構成されている。
【0034】
流量検出部8は、公知の流量計を採用できるが、均質バルブ機構4の乳化処理路14を通流する乳化前エマルションB(或いは乳化後エマルションA)の流量を検出し、検出結果を制御部6に出力可能に構成されている。
【0035】
制御部6は、公知の情報処理手段を採用できるが、メモリ等からなる記憶部、CPU、入出力部を備えたマイクロコンピュータで構成されている。そして、このマイクロコンピュータが所定のプログラムを実行することにより、乳化分散装置1の運転等を制御することができる。
【0036】
ここで、均質バルブ機構4に形成される乳化処理路14について、説明を加える。
図3に示すように、乳化処理路14は、バルブシート9とディスクバルブ10との対向壁面間である乳化処理路形成面9bと乳化処理路形成面10aとの間に形成され、バルブシート9やディスクバルブ10の径方向に放射状に形成された概略円板状の流路として形成されている。なお、以下では、図3に示すように、ディスクバルブ10の中心軸をX軸(軸方向)とし、これに直交し、X軸方向において乳化処理路14の幅の中間(有効間隔δの半分)に位置する軸をY軸(径方向)として説明する。
【0037】
図3に示す乳化処理路14は、Y軸方向において、X軸(y=0)からの距離yの位置から第2距離yの位置にまで形成されている(y≦y≦y)。この乳化処理路14は、バルブシート9の乳化処理路形成面9bとディスクバルブ10の乳化処理路形成面10aとが平行(Y軸とも平行)に形成された隙間平行部14bと、両乳化処理路形成面9b、10aのうち、乳化処理路形成面10aがY軸に平行に形成され、乳化処理路形成面9bがY軸及び乳化処理路形成面10aに対して角度θ傾斜する隙間入口部14aとを備えている。
なお、図3では、隙間入口部14aは、X軸(y=0)からの距離yの位置から第1距離yの位置にまで形成され(y≦y≦y)、隙間平行部14bは、X軸(y=0)からの第1距離yの位置から第2距離yの位置にまで形成されている(y≦y≦y)。従って、距離yの位置は隙間入口部14a(及び乳化処理路14)の入口を示し、第1距離yの位置は隙間平行部14bの入口を示し、第2距離yの位置は隙間平行部14b(及び乳化処理路14)の出口をそれぞれ示している。また、第1距離yの位置から第2距離yの位置までの距離を距離Lで示している。
【0038】
乳化処理路14を形成するバルブシート9の乳化処理路形成面9bは、Y軸及びディスクバルブ10の乳化処理路形成面10aに平行な隙間平行面9b1と、Y軸に対してディスクバルブ10側とは反対側に傾斜する傾斜面9b2とを備える。この傾斜面9b2は、乳化処理路14において隙間平行面9b1よりも上流側に形成され、Y軸と平行な軸に対して角度θ傾斜している(以下、このバルブシート9の形状をシャープ形状という場合がある)。なお、図3では、角度θは30度とされている。また、ディスクバルブ10の乳化処理路形成面10aは、X軸(y=0)の位置から第2距離yの位置にまで形成され(0≦y≦y)、Y軸及びバルブシート9の乳化処理路形成面9bの隙間平行面9b1と平行な平坦面とされる。
【0039】
一方、乳化処理路14のX軸方向における間隔hは、隙間入口部14aにおいては(y≦y≦y)、
h=(y−y)tanθ+δとなる。・・(1)式
また、隙間平行部14b(y≦y≦y)においては、h=δとなる。・・(2)式
なお、有効間隔δは、X軸方向における、バルブシート9の乳化処理路形成面9bにおける隙間平行面9b1と、ディスクバルブ10の乳化処理路形成面10aとの間隔である(y≦y≦y)。
【0040】
このように形成された乳化処理路14において、プランジャーポンプ機構3から導入路12bを介して送り出された高圧の乳化前エマルションBが隙間入口部14a、隙間平行部14bの順に通過することにより、乳化前エマルションB中の連続相及び分散相にせん断・衝突・キャビテーション等の相乗作用を瞬間的に発生させることにより、連続相中における分散相を微細化し均質的な乳化状態を作るようにしている。
【0041】
以上が乳化分散装置1の概略構成であるが、以下、本願の特徴構成に関して説明する。
本願の乳化分散装置1においては、制御部6が、乳化された乳化後エマルションA中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測する液滴径予測方法を実行する液滴径予測シミュレータ50として機能する。以下、本願の液滴径予測シミュレータ50により、乳化された乳化後エマルションA中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測可能な点について説明する。
【0042】
液滴径予測シミュレータ50は、バルブシート9の形状が隙間平行部14bを形成可能なシャープ形状である場合において、圧力検出部7により検出された乳化処理路14の入口と出口の圧力差、すなわち、隙間入口部14aの上流側(0≦y<y)の圧力Pと隙間平行部14bの出口の圧力Pとの圧力差ΔP(乳化処理路14を通過時の圧力損失)と、流量検出部8により検出された乳化処理路14を通流する乳化前エマルションBの流量Q(本例では、隙間平行部14bの出口から吐出路15を通流する乳化後エマルションAの流量Q)と、乳化前エマルションB中の粘度μ及び密度ρと、隙間平行部14bにおける平均流速vδとに基づいて、隙間平行部14bの有効間隔δを求める。
【0043】
具体的には、液滴径予測シミュレータ50は、まず、乳化処理路14の間隔hから、当該乳化処理路14を通流する乳化前エマルションBの平均流速vを求める。
乳化処理路14における間隔hは、上記(1)、(2)式に示すように、隙間入口部14a(y≦y≦y)においては、h=(y−y)tanθ+δとなり、隙間平行部14b(y≦y≦y)においては、h=δとなる。従って、乳化処理路14の間隔hにおける(y≦y≦y)、平均流速vは連続の式より、v=Q/(2πyh)となる。・・・(3)式
従って、隙間平行部14bの有効間隔δにおける平均流速vδは、
δ=Q/(2πyδ)となる。・・・(4)式
【0044】
ここで、乳化処理路14の隙間平行部14bは、平行円板のように形成されており、隙間平行部14bでの水力直径2δを用いると、レイノルズ数Reは、
Re=vδ・2δ/(μ/ρ)=ρQ/(πyμ)となる。・・・(5)式
なお、隙間平行部14bでのレイノルズ数Reは、流量QとY軸方向の距離yに依存し、有効間隔δには依存しない。
【0045】
従って、レイノルズ数Reが、Re≦2000のとき、隙間入口部14aの上流側(0≦y<y)の圧力Pと隙間平行部14bの出口の圧力Pとの圧力差ΔPは、
ΔP=P−P
=(ζρ/2)・(Q/(2πyδ))+(6μQ/(πδ))・ln(y/y)+(ρ/2)・(Q/(2πyδ))となる(ここで、ζは、隙間平行部14bへ流入する際の入口損失係数である)。・・(6)式
この(6)式の右辺第一項は隙間平行部14bの入口における入口損失を、第二項は隙間平行部14bにおける摩擦損失を表し、第三項は隙間平行部14bの出口における出口損失を表している。
【0046】
これらより、液滴径予測シミュレータ50は、乳化処理路14の隙間平行部14bの有効間隔δを求めることができる。
【0047】
次に液滴径予測シミュレータ50は、隙間平行部14bにおける有効間隔δ、流速vgap、壁面せん断応力の平均値τave、乳化前エマルションB中の分散相と連続相との界面の界面張力γ、乳化前エマルションB中の分散相の液滴径dbeforeに基づいて、乳化後エマルションA中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測する。
【0048】
まず、液滴径予測シミュレータ50は、上記レイノルズ数Reに基づいて、乳化処理路14の隙間平行部14bにおける流れを層流であると仮定し、隙間平行部14bでの二次元軸対称のポアズイユ流れの流速vgap(Y軸方向の速度)を、
gap=(3Q/(4πyδ))・(1−(2x/δ))として求める。・・(7)式
【0049】
次に、せん断応力の代表値として、隙間平行部14bを形成する乳化処理路形成面10a(x=δ/2の箇所)におけるせん断応力τを、
τ=−μ(∂vgap/∂x)x=δ/2=3μQ/(πyδ)として求める。・・(8)式
従って、せん断応力τは、Y軸方向の距離yに反比例し、有効間隔δの二乗に反比例する。
【0050】
隙間平行部14bの壁面で受けるせん断力を求めるために、隙間平行部14bの入口yから出口yまでのせん断応力τを積分し、壁面でのせん断力Fsを、
Fs=∫τ2πydy=(6μQ/δ)・(y−y)とする。・・(9)式
さらに、隙間平行部14bにおける壁面でのせん断応力の平均値τaveを、
τave=Fs/(π(y−y))=6μQ/(πδ(y+y))とする。・・(10)式
【0051】
ここで、気泡や液滴が他の液体中を運動する場合に、その境界面に働く慣性力と界面張力γの比を示す無次元数であるウェーバー数Weτは、気泡や液滴の境界面に働く慣性力としてのせん断応力τ、乳化前エマルション中の分散相と連続相との界面の界面張力γ、乳化前エマルション中の分散相の液滴径d、乳化後エマルション中の分散相の液滴径d、定数k、定数m、代表長さlとすると、
Weτ=τl/γ ・・(11)式
Weτ=k(d/d)・・(12)式
で示される。
これら(11)式と(12)式とを(13)式のように仮定し、代表長さlとして乳化処理路14における隙間平行部14bの有効間隔δを採用し、乳化前エマルションBの分散相の液滴径をdbeforeとして、乳化後エマルションAの分散相の液滴径をdtheとすると、
τδ/γ=k(dbefore/dtheとなる。・・(13)式
【0052】
従って、乳化後エマルションAの分散相の液滴径は、
液滴径dthe=(kγ/(τδ))1/m・dbeforeとなる。・・(14)式
(14)式において、せん断応力τとして隙間平行部14bに作用するτaveを採用すると、乳化後エマルションAの分散相の液滴径は、
液滴径dthe=(kπγδ(y+y)/(6μQ))1/m・dbefore(ただし、k,mは定数)となる。・・(15)式
【0053】
よって、上記(1)式から(15)式を用いることにより、均質バルブ機構4の乳化処理路14において乳化された乳化後エマルションA中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして、実際に乳化分散装置1を運転することなく、バルブシート9やディスクバルブ10の形状、乳化前エマルションBの特性の影響を加味して、より正確で現実に沿う状態で予測することが可能となる。
【0054】
〔実施例〕
実際に、本願に係る液滴径予測シミュレータ50により液滴径予測方法を実行して、2種類の乳化前エマルションB1、B2について、均質バルブ機構4の乳化処理路14を通過させて乳化処理したとした場合における、乳化後エマルションA1、A2中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測した結果を示す。
【0055】
乳化前エマルションB1は、シリコーンオイルの予備乳化液(20℃)で、密度ρは995kg/m、粘度μは1.6mPa・s、界面張力γは14.1mN/m、液滴径dbeforeである体積基準の液滴径分布のメジアン径は約9.1μmであり、水89質量%、シリコーンオイル10質量%、乳化剤1質量%の混合液である。この場合、連続相が水で、分散相がシリコーンオイルである。
乳化前エマルションB2は、流動パラフィンの予備乳化液(20℃)で、密度ρは982kg/m、粘度μは1.5mPa・s、界面張力γは4.4mN/m、液滴径dbeforeである体積基準の液滴径分布のメジアン径は約15.4μmであり、水89質量%、流動パラフィン10質量%、乳化剤1質量%の混合液である。この場合、連続相が水で、分散相が流動パラフィンである。
なお、乳化前エマルションB1、B2であるシリコーンオイルの予備乳化液(乳化処理前液)、流動パラフィンの予備乳化液(乳化処理前液)は、ホモミキサー(T.K.ROBOMICS,PRIMIX製)を使用して作製した。
【0056】
均質バルブ機構4としては、図2及び図3に示すように、上記実施形態で示したシャープ形状のバルブシート9及びディスクバルブ10を用いた。具体的には、ディスクバルブ10の半径(第2距離y)を8mm、ディスクバルブ10とインパクトリング11とのY軸方向(径方向)における間隔Dを1mm、バルブシート9の開口部9aの半径R(距離y)を2.5mmに設定した。また、隙間平行部14bにおける傾斜面9b2の角度θを30度に固定する一方で、隙間平行部14bの隙間平行面9bの長さL(第2距離y−第1距離y)をそれぞれ、L=1mm、2mm、3mm、4mmに変化させた4種類のバルブシート9を用いた。
【0057】
まず、液滴径予測シミュレータ50に入力された上記条件を、上記式(5)に代入して、乳化処理路14の隙間平行部14bでのレイノルズ数Reを求める。この場合、レイノルズ数Reは、Re=ρQ/(πyμ)で示されるが、均質バルブ機構4内においては隙間平行部14bの入口(第1距離yの位置(y=y))におけるレイノルズ数Reが最大となる。例えば、L=4mmのとき、隙間平行部14bの入口におけるレイノルズ数Reは約1000程度となる。なお、流量Qは均質バルブ機構4に通流させる予定の適宜値を設定した(例えば、70l/h)。
【0058】
この場合、レイノルズ数Reは、Re≦2000であるので、隙間平行部14における流れは層流であるとして、上記式(6)を用いて有効間隔δを求めた。ここで、上記(6)式において、有効間隔δ以外は上述の条件により既知となっているので、液滴径予測シミュレータ50は、有効間隔δを求めることができた。なお、圧力差ΔPは、隙間平行部14bの出口が大気開放されているため当該出口を出た後の圧力PがP=0Paであるので、ΔP=P(隙間入口部14aの上流側(0≦y<y)の圧力)とし、例えば、ΔP=Pとして通常運転する際に用いる所定圧力(10,20,40,60,80MPa)を用いた。また、入口損失係数ζは、角度θが比較的緩やかな30度であるのでζ=0.2とした。この角度θは、適宜変更が可能であり、例えば、0度<θ<90度に設定でき、この場合入口損失係数ζは、0.1<ζ<0.5となる。なお、角度θが、0度又は90度の場合は、後述するフラット形状のバルブシート9及びディスクバルブ10となる。
【0059】
そして、液滴径予測シミュレータ50は、上記(7)式から(15)式に上記条件を代入し、乳化後エマルションA1、A2の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測した。なお、定数mは、m=1とし、定数kは、k=13.2としたが、両定数共に適宜の値に設定することが可能である。
【0060】
図5に、液滴径予測シミュレータ50が予測した乳化後エマルションA1、A2の分散相の体積基準の液滴径分布のメジアン径(液滴径)dtheと、実際に実験により測定した乳化後エマルションA1、A2の分散相の体積基準の液滴径分布のメジアン径(液滴径)dとの関係を示す。図5中、黒塗りが乳化前エマルションB1(シリコーンオイルの予備乳化液)を乳化した乳化後エマルションA1、白抜きが乳化前エマルションB2(流動パラフィンの予備乳化液)を乳化した乳化後エマルションA2の結果である。両メジアン径d及びdtheが完全に一致する場合を、d=dtheの直線として示している。
【0061】
なお、実際の実験による体積基準の液滴径分布のメジアン径(液滴径)dの測定は、上記乳化前エマルションB1、B2それぞれを用い、上記乳化分散装置1の均質バルブ機構4において、隙間入口部14aの上流側(0≦y<y)の圧力Pが、所定の圧力になるように有効間隔δを調整・固定し、乳化処理を行った。均質バルブ機構4での流量Qが70l/h、所定圧力(10,20,40,60,80MPa)で乳化処理し、乳化処理路を出た箇所における乳化後エマルションA1、A2を取り出して粒度分布(液滴径分布)を測定した。粒度分布は、レーザ回折式粒度分布測定装置(SALD‐2200,島津製作所製)により測定した。また、流量Qは上記流量検出部8により検出し、所定圧力は上記圧力検出部7により検出した。なお、乳化前エマルションB1、B2の温度が20℃になるようにし、乳化処理後に直ちに20℃まで冷却した。
【0062】
図5に示すように、液滴径予測シミュレータ50が予測したメジアン径dtheと、実際に実験により測定したメジアン径dとは、ほぼ同じ値となっている。従って、本願に係る液滴径予測方法を用いることにより、隙間平行部14bの壁面せん断応力の平均値τaveから、乳化処理後の分散相のメジアン径を、実験により測定したメジアン径dにほぼ一致するメジアン径dtheとして、正確に予測できていることが判る。
また、均質バルブ機構4におけるバルブシート9の形状を変化させ、隙間平行部14bの長さLを変化させているが、この場合でも、その変化に正確に対応した状態で、それぞれ乳化処理後の分散相のメジアン径を、実験により測定したメジアン径dにほぼ一致するメジアン径dtheとして、正確に予測できていることが判る。
さらに、異なる種類の乳化前エマルションB1、B2を用いているが、この場合でも、その変化に正確に対応した状態で両者とも、乳化処理後の分散相のメジアン径を、実験により測定したメジアン径dにほぼ一致するメジアン径dtheとして、正確に予測できていることが判る。
【0063】
よって、本願の液滴径予測方法を用いた液滴径予測シミュレータ50により、均質バルブ機構4の乳化処理路14において乳化された乳化後エマルションA中の分散相の液滴径を、バルブシート9やディスクバルブ10の形状、乳化前エマルションBの特性の影響を加味して、より正確で現実に沿う状態で予測することが可能となることが実証された。
【0064】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、上記(6)式に、隙間入口部14aの上流側(0≦y<y)の圧力Pと隙間平行部14bの出口の圧力Pとの圧力差ΔP等の条件を代入して、液滴径dtheを予測する度ごとに有効間隔δを計算したが、当該条件を(6)式に代入した複数の結果を予め計算して、図4に示す圧力差ΔPと有効間隔δとの関係を液滴径予測シミュレータ50内に記憶しておき、これを用いて、圧力差ΔPから有効間隔δを計算する構成としても良い。ここで、図4は、上記均質バルブ機構4におけるシャープ形状のバルブシート9及びディスクバルブ10を用い、流量Qが70l/h、所定圧力(10,20,40,60,80MPa)で乳化処理したとした場合の圧力差ΔPと有効間隔δとの関係である。
【0065】
(2)上記実施形態では、乳化前エマルションBの分散相の液滴径dbefore及び乳化後エマルションAの分散相の液滴径dtheとして、体積基準の液滴径分布のメジアン径(液滴径分布の中央値)を用いて説明したが、これら液滴径は当該メジアン径に限定されるものではなく、液滴径分布の代表値であれば特に制限なく採用することができる。例えば、上記液滴径としてモード径(液滴径分布の最頻値)や、体積平均、面積平均、個数平均などの平均径(液滴径分布の平均値)を採用することができる。具体的に、乳化前エマルションBの分散相の液滴径dbefore及び乳化後エマルションAの分散相の液滴径dtheとして、液滴径分布の平均値としての体面積平均径を用いて、乳化後エマルションの分散相の液滴径を予測した結果を、図6に示す。
図6は、液滴径予測シミュレータ50が予測した乳化後エマルションA1、A2の分散相の液滴径分布の体面積平均径(液滴径)dtheと、実際に実験により測定した乳化後エマルションA1、A2の分散相の液滴径分布の体面積平均径(液滴径)dとの関係を示す。図6中、黒塗りが乳化前エマルションB1(シリコーンオイルの予備乳化液)を乳化した乳化後エマルションA1、白抜きが乳化前エマルションB2(流動パラフィンの予備乳化液)を乳化した乳化後エマルションA2の結果である。両体面積平均径d及びdtheが完全に一致する場合を、d=dtheの直線として示している。
【0066】
この図6の結果は、基本的に上記実施例と同様の条件で乳化処理後の液滴径を体面積平均径dtheとして予測しているが、乳化前エマルションB1の液滴径である液滴径分布の体面積平均径dbeforeは約5.65μmであり、乳化前エマルションB2の液滴径である液滴径分布の体面積平均径dbeforeは約6.64μmであった。なお、図6は、図5に示したメジアン径でのデータを体面積平均径で置き換えたデータに相当する。また、上記定数mは、m=1とし、定数kは、k=18としている。
図6に示すように、液滴径分布の代表値としてのメジアン径の替わりに体面積平均径を用いた場合であっても、上記メジアン径の場合と同様に、隙間平行部14bの壁面せん断応力の平均値τaveから乳化処理後の分散相の体面積平均径を、実験により測定した体面積平均径dにほぼ一致する体面積平均径dtheとして、正確に予測できていることが判る。
また、均質バルブ機構4におけるバルブシート9の形状を変化させ、隙間平行部14bの長さLを変化させているが、この場合でも、その変化に正確に対応した状態で、それぞれ乳化処理後の分散相の体面積平均径を、実験により測定した体面積平均径dにほぼ一致する体面積平均径dtheとして、正確に予測できていることが判る。
さらに、異なる種類の乳化前エマルションB1、B2を用いているが、この場合でも、その変化に正確に対応した状態で両者とも、乳化処理後の分散相の体面積平均径を、実験により測定した体面積平均径dにほぼ一致する体面積平均径dtheとして、正確に予測できていることが判る。
【0067】
(3)上記実施形態では、均質バルブ機構4においてシャープ形状のバルブシート9、すなわち、バルブシート9の乳化処理路形成面9bがY軸及びディスクバルブ10の乳化処理路形成面10aに平行な隙間平行面9b1と、Y軸に対してディスクバルブ10側とは反対側に傾斜する傾斜面9b2とを備えるように構成したが、バルブシート9はこの構成に限定されるものではない。例えば、バルブシート9に替えて、図7に示すように、フラット形状のバルブシート29を採用することもできる。
【0068】
この場合、バルブシート29の乳化処理路形成面29bとディスクバルブ10の乳化処理路形成面10aとの間に乳化処理路14が形成される。この乳化処理路14は、両乳化処理路形成面29b、10aがY軸と平行に形成された隙間平行部14bのみにより構成され、隙間平行部14bのX軸方向における間隔は有効間隔δとされる。すなわち、フラット形状のバルブシート29は、上記実施形態のバルブシート9の乳化処理路形成面9bにおいて、傾斜面9b2を無くし、角度θを0度又は90度とした場合の形状に相当する。
基本的には、上記実施例で示した条件と同様の条件で2種類の乳化前エマルションB1、B2について、均質バルブ機構4の乳化処理路14を通過させて乳化処理したとした場合における乳化後エマルションA1、A2中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして、上記(1)式から(15)式を用いて予測した。なお、隙間平行部14bの隙間平行面29bの長さLは、L=5.5mmとし、角度θが0度又は90度であるので、入口損失係数ζを、ζ=0.5とした。
【0069】
図8に、液滴径予測シミュレータ50が予測した乳化後エマルションA1、A2の分散相の体積基準の液滴径分布のメジアン径(液滴径)dtheと、実際に実験により測定した乳化後エマルションA1,A2の分散相の体積基準の液滴径分布のメジアン径(液滴径)dとの関係を示し、図9に、液滴径予測シミュレータ50が予測した乳化後エマルションA1、A2の分散相の液滴径分布の体面積平均径(液滴径)dtheと、実際に実験により測定した乳化後エマルションA1,A2の分散相の液滴径分布の体面積平均径(液滴径)dとの関係を示す。図8及び図9中、黒塗りが乳化後エマルションA1、白抜きが乳化後エマルションA2の結果である。
図8に示すように、液滴径予測シミュレータ50が予測したメジアン径dtheと、実際に実験により測定したメジアン径dとは、ほぼ同じ値となっており、上記実施例と同様に、本願の液滴径予測方法を用いた液滴径予測シミュレータ50により、フラット形状のバルブシート29とディスクバルブ10を備えた均質バルブ機構4の乳化処理路14において乳化された乳化後エマルションA中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして、バルブシート29やディスクバルブ10の形状、乳化前エマルションBの特性の影響を加味して、より正確で現実に沿う状態で予測することが可能となることが実証された。
同様に、図9に示すように、液滴径予測シミュレータ50が予測した体面積平均径dtheと、実際に実験により測定した体面積平均径dとは、ほぼ同じ値となっており、上記と同様に、乳化後エマルションA中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして、フラット形状のバルブシート29やディスクバルブ10の形状、乳化前エマルションBの特性の影響を加味して、より正確で現実に沿う状態で予測することが可能となることが実証された。
【0070】
なお、上記では、バルブシートの形状をシャープ形状やフラット形状とする構成について説明したが、バルブシートの形状及びディスクバルブの形状を適宜変更して乳化処理路を形成した場合であっても、本願の液滴径予測方法を用いて乳化処理後の分散相の液滴径を液滴径dtheとして、ある程度予測することができるものと考えられ、バルブシート及びディスクバルブの形状を設計する際に役立つものと考えられる。
【0071】
(4)上記実施形態では、上記(5)式により算出されたレイノルズ数Reが、Re≦2000の場合に、隙間平行部14bの流れは層流であるとして、隙間入口部14aの上流側(0≦y<y)の圧力Pと隙間平行部14bの出口の圧力Pとの圧力差ΔPから(6)式により有効間隔δを求め、また、隙間平行部14bでの二次元軸対称のポアズイユ流れの流速vgap(Y軸方向の速度)を(7)式により求めたが、隙間平行部14bの流れが乱流である場合にも、本願の液滴径予測方法を用いて乳化後エマルションA中の分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測することができる。
【0072】
具体的には、上記(5)式により算出されたレイノルズ数Reが、10000≦Reの場合に、隙間平行部14bの流れは乱流であるとして、上記(6)式に替えて、下記(6)´式を採用することもできる。
すなわち、隙間入口部14aの上流側(0≦y<y)の圧力Pと隙間平行部14bの出口の圧力Pとの圧力差ΔP´を、
ΔP´=P−P
=(ζρ/2)・(Q/(2πyδ))+((0.02687・ρ3/4・μ1/4)/δ)・(Q/π)7/4・((1/y3/4)−(1/y3/4))+(ρ/2)・(Q/(2πyδ))とする(ここで、ζは、隙間平行部14bへ流入する際の入口損失係数である)。・・(6)´式
【0073】
さらに、上記(7)式に替えて、下記(7)´式を採用する。
すなわち、隙間平行部14bでの流れを円管内の乱流速度分布の1/7乗則に従うとするときの主流速度vgap´(Y軸方向の速度)は、
gap´=(4Q/(7πyδ))として求める。・・(7)´式
なお、この(7)´式は、境界層厚さをδ/2として、円管内の乱流速度分布の1/7乗則及び管摩擦の式が隙間平行部14bの流れに適用できると仮定した場合に、壁面(x´=0)から隙間平行部14bの中央(x´=δ/2)間での速度分布uを、u/vgap´=(x´/(δ/2))1/7として求め、次に、隙間平行部14bの流量をQとして、Q=2∫u・2πydx´との関係から求められる。なお、x´=0の軸は隙間平行部14bにおける対向壁面に設定されている点で、上記実施形態におけるx=0の位置(対向壁面から±δ/2の位置)とは異なる軸に設定されている。
【0074】
そして、上記(8)式に替えて、下記(8)´式を採用する。
すなわち、隙間平行部14bにおけるせん断応力τ´を、
τ´=((0.0225・21/4・ρ3/4・μ1/4)/δ)・(4Q/(7πy))7/4として求める。・・(8)´式
なお、この(8)´式は、動粘度ν(ν=μ/ρ)として、τ´=(0.0225・ρvgap´7/4)・(ν/(δ/2))1/4、及び上記(7)´式に基づいて求められる。
【0075】
次に、上記(9)式に替えて、下記(9)´式を採用する。
すなわち、隙間平行部14bの壁面で受けるせん断力を求めるために、隙間平行部14bの入口yから出口yまでのせん断応力τ´を積分し、壁面でのせん断力Fs´を、
Fs´=∫τ´2πydy=((0.2141・ρ3/4・μ1/4)/(δ・π3/4))・(4Q/7)7/4・(y1/4−y1/4)とする。・・(9)´式
そして、上記(10)式に替えて、下記(10)´式を採用し、隙間平行部14bにおける壁面でのせん断応力の平均値τave´を、
τave´=Fs´/(π(y−y))とする。・・(10)´式
【0076】
これにより、上記(14)式のせん断応力τに、上記(10)´式で求めたせん断応力の平均値τave´を代入することにより、乳化後エマルションAの分散相の液滴径を、
液滴径dthe=(kγ/(τave´δ))1/m・dbefore(ただし、k,mは定数)として予測することができる。・・(15)´式
【0077】
なお、上記(5)式により算出されたレイノルズ数Reが、2000<Re<10000の場合には、隙間平行部14bの流れは遷移域にあるとして、上記(6)式や(6)´式に替えて、下記(6)´´式を採用することも可能である。
すなわち、隙間入口部14aの上流側(0≦y<y)の圧力Pと隙間平行部14bの出口の圧力Pとの圧力差ΔP´´を、
ΔP´´=P−P
=(ζρ/2)・(Q/(2πyδ))+((5・ρ2/5・μ3/5)/δ)・(Q/(2π))7/5・((1/y2/5)−(1/y2/5))+(ρ/2)・(Q/(2πyδ))とすることもできる(ここで、ζは、隙間平行部14bへ流入する際の入口損失係数である)。・・(6)´´式
この(6)´´式に基づいて有効間隔δを算出し、レイノルズReが層流状態或いは乱流状態の何れに近いかを参考にすることにより、層流の場合の(7)式から(15)式を用いるか若しくは乱流の場合の(7)´式から(15)´式を用いるかを決定したり、又は、層流の場合の式と乱流の場合の式との両方の式群を用い、それら両式群に重みをつけた状態で、乳化後エマルションAの分散相の液滴径を液滴径dtheとして予測することもできる。
【0078】
また、上記(5)式により算出されたレイノルズ数Reに基づいて層流か乱流か等を判断するに際して示した数値は例示であり、ある程度変更することが可能である。例えば、層流であると判断する際には、レイノルズ数Reを2000〜2500を上限とするように設定することもでき、同様に、乱流であると判断する際には、当該層流の上限よりも大きなレイノルズ数Reを下限とするように設定することもできる。なお、この場合には、上記レイノルズ数Reが遷移域を示す場合には、乱流状態であると判断して、上記液滴径予測方法を実行することも可能である。
【0079】
(5)上記実施形態では、隙間平行部14bにおける壁面でのせん断応力の平均値τaveとして、上記(10)式や(10)´式に示す隙間平行部14bの長さLに亘る周方向の全面にかかるせん断力Fsから求めたせん断応力の平均値τaveを採用したが、特にこの構成に限定されるものではなく、例えば、下記(i)〜(vii)の平均値τaveを採用することも可能である。なお、(i)〜(vii)のうち、(vi)以外は層流でも乱流でも採用可能であり、(vi)は層流で採用可能である。
まず、隙間平行部14bの流れが層流の場合と乱流の場合のそれぞれについて、隙間平行部14bの入口(第1距離y)と出口(第2距離y)とにおけるそれぞれのせん断応力τin、τoutを求める。
層流の場合には、上記(8)式により、
τin=3μQ/(πyδ
τout=3μQ/(πyδ)となる。
乱流の場合には、上記(8)´式により、
τin´=((0.0225・21/4・ρ3/4・μ1/4)/δ)・(4Q/(7πy))7/4
τout´=((0.0225・21/4・ρ3/4・μ1/4)/δ)・(4Q/(7πy))7/4となる。
【0080】
(i)上記平均値τaveとして、隙間平行部14bの入口と出口とのせん断応力の重み付け平均を用いる場合には、
τave=(Cin・τin+Cout・τout)/(Cin+Cout)を採用することができる。入口のせん断応力τinは最大のせん断応力となるので、Cin>Cout>0とする方がよい予測となると考えられる。なお、乱流の場合には、τin及びτoutに替えて、τin´及びτout´を代入する。
【0081】
(ii)上記平均値τaveとして、隙間平行部14bの入口と出口とのせん断応力の相加平均を用いる場合には、
τave=(τin+τout)/2を採用することができる。なお、乱流の場合には、τin及びτoutに替えて、τin´及びτout´を代入する。
【0082】
(iii)上記平均値τaveとして、隙間平行部14bの入口と出口とのせん断応力の相乗平均を用いる場合には、
τave=(τin・τout1/2を採用することができる。なお、乱流の場合には、τin及びτoutに替えて、τin´及びτout´を代入する。
【0083】
(iv)上記平均値τaveとして、隙間平行部14bの入口と出口とのせん断応力の二乗平均平方根値(Root mean square value)を用いる場合には、
τave=((τin+τout)/2)1/2を採用することができる。なお、乱流の場合には、τin及びτoutに替えて、τin´及びτout´を代入する。
【0084】
(v)上記平均値τaveとして、隙間平行部14bの入口と出口とのせん断応力の調和平均を用いる場合には、
τave=2/((1/τin)+(1/τout))
=(2τin・τout)/(τin+τout)を採用することができる。なお、乱流の場合には、τin及びτoutに替えて、τin´及びτout´を代入する。
【0085】
(vi)上記平均値τaveとして、壁面せん断応力ではなく、隙間平行部14bにおけるせん断応力分布を直接積分して得られる平均せん断応力を用いる場合には、以下(vi−1)、(vi−2)の平均せん断応力を用いることができる。
この場合、まず、隙間平行部14bのせん断応力分布は、
τ=−μ(∂vgap/∂x)=(6μQ/(πyδ))xとなる。ここで、隙間平行部14bの流速分布は放物線速度分布であり、隙間平行部14bの流れ方向(Y軸)について対称であるため、せん断応力τを隙間平行部14bの幅方向(X軸方向)で0から(δ/2)まで積分し、さらに(δ/2)で割ることにより、当該せん断応力τを幅方向で平均化する。この幅方向平均のせん断応力τは、
τ=∫τdx/(δ/2)=3μQ/(2πyδ)となる。
(vi−1)
この幅方向平均のせん断応力τからせん断力Fsを求めて、平均せん断応力τaveを求める。
この幅方向平均のせん断応力τを、隙間平行部14bの入口yから出口yまで積分し、せん断力Fsを、
Fs=∫τ2πydy=(3μQ/δ)・(y−y)とすると、
平均せん断応力である平均値τaveは、
τave=Fs/(π(y−y))=3μQ/(πδ(y+y))となり、この平均値τaveを採用することができる。
(vi−2)
上記幅方向平均のせん断応力τから平均のせん断応力τin、τoutを求めて、上記(i)〜(v)のそれぞれの方法で平均せん断応力τaveを求めたものを採用することもできる。
すなわち、τin=3μQ/(2πyδ)、τout=3μQ/(2πyδ)の2式から、平均のせん断応力τin、τoutを求め、それを(i)〜(v)のそれぞれの方法へ適用することもできる。
【0086】
(vii)上記平均値τaveとして、壁面でのせん断応力を用いるが、上記実施形態における(9)式及び(10)式、或いは(9)´式及び(10)´式とは積分方法を変えて得られた壁面での平均せん断応力を採用することもできる。この壁面での平均せん断応力は、隙間平行部14bでの放射状の流れを平面流れに変換して求められるものである。
隙間平行部14bでの流れが層流の場合には、上記(8)式により、
τ=3μQ/(πyδ)とし、
せん断応力τを隙間平行部14bの入口yから出口yまで積分して、さらに(y−y)で割ることにより得られる壁面での平均せん断応力τave
τave=∫τdy/(y−y)=(3μQ/(πδ(y−y)))・ln(y/y)を採用することができる。
一方で、隙間平行部14bでの流れが乱流の場合には、上記(8)´式により、
τ´=((0.0225・21/4・ρ3/4・μ1/4)/δ)・(4Q/(7πy))7/4とし、動粘度ν(ν=μ/ρ)として、せん断応力τ´を隙間平行部14bの入口yから出口yまで積分して、さらに(y−y)で割ることにより得られる壁面での平均せん断応力τave
τave=∫τdy/(y−y)=((0.02676・ρ3/4・μ1/4)/(δ・π7/4))・(4Q/7)7/4・((4(y−3/4−y−3/4))/(3(y−y)))
【0087】
(6)上記実施形態では、乳化分散装置1においては均質バルブ機構4のみを設けて、乳化前エマルションBを微細化及び均質化する乳化処理を行ったが、均質バルブ機構4を設置する数は特に制限されるものではない。例えば、均質バルブ機構を2つ直列に配置し、第1の均質バルブ機構により乳化処理されたエマルションを、さらに第2の均質バルブ機構に導入する構成として、2回にわたって乳化処理を行うように構成することもできる。
この場合には、本願に係る液滴径予測方法において、第1の均質バルブ機構により乳化されたエマルションにおける分散相の液滴径、及び第2の均質バルブ機構により乳化されたエマルションにおける分散相の液滴径を予測することが可能である。すなわち、第1の均質バルブ機構による乳化処理前後で液滴径予測方法を用い、続いて、予測された分散相の液滴径等の情報を用い、第2の均質バルブ機構による乳化処理前後で液滴径予測方法を用いて、第1及び第2の均質バルブ機構を通過した後のエマルションにおける分散相の液滴径を予測することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、均質バルブ機構において乳化された乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、バルブシートやディスクバルブの形状、乳化前エマルションの特性の影響を加味して、より正確で現実に沿う状態で予測可能な液滴径予測方法及び液滴径予測シミュレータとして有用に利用可能である。
【符号の説明】
【0089】
1 乳化分散装置
4 均質バルブ機構
6 制御部
9 バルブシート
9b 乳化処理路形成面(バルブシート側の対向壁面)
9b1 隙間平行面
9b2 傾斜面
10 ディスクバルブ
10a 乳化処理路形成面(ディスクバルブ側の対向壁面)
14 乳化処理路
14a 隙間入口部
14b 隙間平行部
50 液滴径予測シミュレータ(制御部)
第1距離の位置
第2距離の位置
X ディスクバルブの中心軸(軸方向)
Y 径方向
B 乳化前エマルション
A 乳化後エマルション
before 乳化前エマルション中の分散相の液滴径
the 乳化後エマルション中の分散相の液滴径
τave 壁面せん断応力の平均値
δ 有効間隔
γ 界面張力
k 定数
m 定数
μ 粘度
Q 流量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクバルブと、前記ディスクバルブに対向して設けられるバルブシートとを備えて構成されるとともに、前記ディスクバルブと前記バルブシートとの対向壁面間に径方向に放射状に延びる乳化処理路が形成され、前記乳化処理路には前記対向壁面同士が平行な隙間平行部が前記ディスクバルブの中心軸に対して径方向に第1距離の位置から第2距離の位置にまで形成される均質バルブ機構において、前記均質バルブ機構の前記乳化処理路に、分散相と連続相とを含む乳化前エマルションを通過させ、乳化された乳化後エマルション中の分散相の液滴径を予測する液滴径予測方法であって、
前記隙間平行部を形成する前記対向壁面におけるせん断応力の代表値である壁面せん断応力の平均値τave、前記乳化処理路通過時の圧力損失から算出される前記隙間平行部における前記対向壁面間の有効間隔δ、前記乳化前エマルション中の分散相と連続相との界面の界面張力γ、前記乳化前エマルション中の分散相の液滴径dbeforeに基づいて、前記乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、
液滴径dthe=(kγ/(τaveδ))1/m・dbefore(ただし、k,mは定数)として予測する液滴径予測方法。
【請求項2】
前記隙間平行部における流れが層流である場合には、前記壁面せん断応力の平均値τaveが、前記隙間平行部における流れを二次元軸対称のポアズイユ流れとするときの流速分布により算出される壁面せん断応力の平均値であり、前記隙間平行部における流れが乱流である場合には、前記壁面せん断応力の平均値τaveが、前記隙間平行部における流れを円管内の乱流速度分布の1/7乗則に従うとするときの流速分布により算出される壁面せん断応力の平均値である請求項1に記載の液滴径予測方法。
【請求項3】
前記隙間平行部における流れが層流である場合には、前記隙間平行部が形成される前記第1距離を第1距離y、前記第2距離を第2距離yとするとともに、前記乳化前エマルションの粘度を粘度μ、前記乳化処理路を通流する前記乳化前エマルションの流量を流量Qとし、
前記壁面せん断応力の平均値τaveを、τave=6μQ/(πδ(y+y))として、
前記乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、
液滴径dthe=(kπγδ・(y+y)/(6μQ))1/m・dbefore(ただし、k,mは定数)として予測する請求項2に記載の液滴径予測方法。
【請求項4】
前記乳化処理路における前記バルブシート側の前記対向壁面が、前記隙間平行部の上流側において、前記径方向に対して前記ディスクバルブ側とは反対側に傾斜する傾斜面を備える請求項1から3の何れか一項に記載の液滴径予測方法。
【請求項5】
ディスクバルブと、前記ディスクバルブに対向して設けられるバルブシートとを備えて構成されるとともに、前記ディスクバルブと前記バルブシートとの対向壁面間に径方向に放射状に延びる乳化処理路が形成され、前記乳化処理路には前記対向壁面同士が平行な隙間平行部が前記ディスクバルブの中心軸に対して径方向に第1距離の位置から第2距離の位置にまで形成される均質バルブ機構において、前記均質バルブ機構の前記乳化処理路に、分散相と連続相とを含む乳化前エマルションを通過させ、乳化された乳化後エマルション中の分散相の液滴径を予測する液滴径予測方法を実行する制御部を備えた液滴径予測シミュレータであって、
前記隙間平行部を形成する前記対向壁面におけるせん断応力の代表値である壁面せん断応力の平均値τave、前記乳化処理路通過時の圧力損失から算出される前記隙間平行部における前記対向壁面間の有効間隔δ、前記乳化前エマルション中の分散相と連続相との界面の界面張力γ、前記乳化前エマルション中の分散相の液滴径dbeforeが前記制御部に入力され、
前記制御部が、前記壁面せん断応力の平均値τave、前記有効間隔δ、前記界面張力γ、前記乳化前エマルション中の分散相の液滴径dbeforeに基づいて、前記乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、
液滴径dthe=(kγ/(τaveδ))1/m・dbefore(ただし、k,mは定数)として予測して出力する液滴径予測シミュレータ。
【請求項6】
前記隙間平行部における流れが層流である場合には、前記隙間平行部が形成される前記第1距離を第1距離y、前記第2距離を第2距離yとするとともに、前記乳化前エマルションの粘度を粘度μ、前記乳化処理路を通流する前記乳化前エマルションの流量を流量Qとし、
前記隙間平行部における流れを二次元軸対称のポアズイユ流れとするときの流速分布により算出される壁面せん断応力の平均値である、前記壁面せん断応力の平均値τave=6μQ/(πδ(y+y))が前記制御部に入力され、
前記制御部が、前記乳化後エマルション中の分散相の液滴径を、
液滴径dthe=(kπγδ・(y+y)/(6μQ))1/m・dbefore(ただし、k,mは定数)として予測する請求項5に記載の液滴径予測シミュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−143392(P2011−143392A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8505(P2010−8505)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人日本機械学会 刊行物名 流体工学部門講演会講演論文集 通計番号:No.09−8 発行年月日 平成21年11月6日 〔刊行物等〕 発行者名 社団法人日本機械学会 刊行物名 日本機械学会論文集 2009年11月号(第75巻第759号)B編 発行年月日 平成21年11月25日 〔刊行物等〕 発行者名 日本食品工学会 刊行物名 日本食品工学会誌 第10巻第4号 発行年月日 平成21年12月15日
【出願人】(000127237)株式会社イズミフードマシナリ (53)
【Fターム(参考)】